(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
《放射線検出器》
図1に本発明に係る放射線検出器を示す。
図2に、
図1のA−A線に沿った放射線検出器の断面を示す。
【0017】
放射線検出器1は、
図1に例示したように外観形状がフラットパネル状に形成されている。また、放射線検出器1は、
図2に例示したように、シンチレータ3と、光電変換素子層14等とを少なくとも有する。なお、放射線検出器1の筐体2には、電源スイッチ10、インジケータ12、コネクタ11、蓋部材等が設けられている(
図1)。
【0018】
(シンチレータ)
本発明に係るシンチレータは、アルカリ金属のヨウ化物を母材とし、賦活剤を含有する無機結晶から形成されている。
【0019】
[無機結晶]
シンチレータ3を構成する無機結晶の蛍光体は、鮮鋭性の高い発光画像が得られるとの観点から、複数の柱状構造を有する結晶(柱状結晶)であることが好ましい。各柱状結晶の柱径は2.0〜20.0μmの範囲内が好ましく、3.0〜15.0μmの範囲内がより好ましい。
【0020】
シンチレータ3の層厚は、100〜1000μmの範囲内であることが好ましく、より好ましくは120〜800μmの範囲内、特に好ましくは140〜600μmの範囲内である。
【0021】
[シンチレータを形成する母材]
シンチレータ3を形成する成分の母材としては、アルカリ金属のヨウ化物が好適に用いられ、アルカリ金属のヨウ化物として、ヨウ化セシウム〔CsI〕、ヨウ化ナトリウム〔NaI〕、ヨウ化カリウム〔KI〕等が挙げられる。2種以上のヨウ化物を混合して母材として用いてもよい。上記ヨウ化物のうち、セシウムハライド系であるヨウ化セシウム(CsI)が特に好ましい。ヨウ化セシウム(CsI)は、X線から可視光への変換率が比較的高く、また、蒸着によって容易にシンチレータ3を構成する複数の結晶のそれぞれを柱状結晶構造に形成できるため、光ガイド効果により結晶内での発光光の散乱が抑えられ、シンチレータ(蛍光体)の厚さを厚くすることが可能であるからである。
【0022】
[賦活剤]
蛍光体層は、発光効率をさらに向上させることを目的として各種の賦活剤を含有している。この賦活剤としては、タリウム〔Tl〕、ユウロピウム〔Eu〕、インジウム〔In〕、リチウム〔Li〕、カリウム〔K〕、ルビジウム〔Rb〕、ナトリウム〔Na〕などのイオンを例示することができる。400〜750nmまでの広い発光波長を有する蛍光体が得られ、受光素子が蛍光体の発光を最も検出しやすいという観点から、母材がヨウ化セシウム〔CsI〕である場合、賦活剤はタリウムのイオンであることが好ましい。
【0023】
上記賦活剤の濃度は、発光強度を増加させるために、シンチレータ3の母材に希土類イオンを多く賦活する際、ドープしすぎると希土類イオン間の距離が接近して、希土類イオン間での発光に関与しないエネルギー伝達の頻度が増えることにより、一定の濃度を境に発光強度が減少する現象(いわゆる濃度消光)が発生する可能性があり、従って、本発明で配合する賦活剤の濃度を調整することが望ましい。本発明においては、シンチレータ3に含まれる賦活剤の濃度は、シンチレータ3の目的・性能等に応じて調節することが望ましく、シンチレータ3を構成する母体(例;CsI)1モルに対して0.05〜20.0モル%であることが好ましく、0.05〜0.5モル%以下であることが特に好ましい。
【0024】
ここで、上記賦活剤の濃度が母体の化合物(例:CsI)1モルに対して0.01モル%未満であると、該シンチレータ3の発光輝度は、母材(例:CsI)だけで形成したシンチレータ3の発光輝度と大差がなく、目的とする発光輝度を得られにくくなる。また、上記賦活剤のモル濃度が母体の化合物(例:CsI)1モルに対して20モル%を超えると柱状結晶構造の形成が困難になり、画質の大幅な劣化が発生し、母材の性質、機能を保持しにくくなる。
【0025】
なお、シンチレータを賦活する方法としては、一種以上の賦活剤を含む化合物をシンチレータ内に含有させる方法などがある。一種以上の賦活剤を含む化合物としては、種々の賦活剤のハロゲン化物などが考えられ、特に真空蒸着法を用いてシンチレータを作成する場合、ハロゲン化物であればその融点の低さから、賦活剤をシンチレータ内に含有させやすく好適である。具体的には、タリウムのハロゲン化物としては、ヨウ化タリウム〔TlI〕、臭化タリウム〔TlBr〕、塩化タリウム〔TlCl〕、フッ化タリウム〔TlF〕または〔TlF
3〕などが挙げられる。特に、シンチレータを構成する母材のハロゲン元素と、賦活剤ハロゲン化物のハロゲン元素が一致している方が、シンチレータ結晶内のハロゲン元素サイトに歪みが生じにくく、結晶成長に問題が起こりにくいため、最も好ましい。
【0026】
本発明において、タリウム化合物の融点は、300〜700℃の範囲内にあることが好ましい。タリウム化合物の融点が700℃以下であれば、柱状結晶内で添加剤が均一に存在し、発光効率が向上するからである。なお、本発明において、融点とは、常温常圧下における融点をいう。
【0027】
(賦活剤の濃度の測定方法)
シンチレータ中の賦活剤の濃度については、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometer:ICP−AES)にて測定することができる。この方法は金属元素等をプラズマ中で励起させたときに発生する光を分光し、各元素特有の波長から定性分析、発光強度から定量分析を行う手法であり、結晶中に含まれる微量無機元素の定量、及び定性ができる。例えば、蒸着によって得られたシンチレータについて柱状結晶の厚さ方向に対し、1層目と2層目の部分で結晶を分割し、分割された各々について少なくとも賦活剤の濃度を測定する。
【0028】
賦活剤の定量には蛍光体を基板から剥がした試料に濃塩酸を加えて加熱乾固し、更に王水を加えて加熱溶解した後、超純水で適宜希釈したものを測定する。賦活財濃度はヨウ化セシウムに対するモル%で表される。このICP−AESにより、シンチレータ中の賦活剤(例;Tl)の濃度のみならず、後述する一価の陽イオンとなりうる原子の濃度も測定することができ、シンチレータ中に存在する賦活剤と一価の陽イオンとなりうる原子とのモル比を算出することができる。
【0029】
[一価の陽イオンになり得る原子]
本発明に係るシンチレータには、一価の陽イオンになり得る原子が所定量含有されている。これらの原子としては、少なくともリチウム〔Li〕、ナトリウム〔Na〕、カリウム〔K〕、ルビジウム〔Rb〕の原子のいずれか1種以上であることが好ましい。一価の陽イオンになり得る原子は以下に説明するように、陰イオン空孔の無効化に寄与する。
【0030】
陰イオン空孔とは、シンチレータを構成する結晶から陰イオン(ヨウ化物の場合はヨウ素など)が抜き取られて形成された格子欠陥を意味する。この陰イオン空孔は、負の電荷を有する陰イオンが抜けたことによって正の電荷を有する。一般には、放射線の照射や該結晶の加熱等によって与えられたエネルギーによる原子移動の結果生じる格子欠陥、該結晶の形成の際に原子の余剰または不足による生じる格子欠陥、前記結晶を形成する際に結晶材料である母材に含まれる不純物により形成された格子欠陥、前記結晶に与えられる応力により生じる格子欠陥等が挙げられる。
【0031】
通常、シンチレータに放射線が照射されると、結晶内に電子(負に帯電)と正孔(正に帯電)という、2種類のキャリアが発生し、これらが再結合することによって可視光を発光して消滅する。しかし、発生した電子が正孔と再結合する前に、正の電荷を有する格子欠陥(陰イオン空孔)に捕獲されると、捕獲された電子と陰イオン空孔との電気的な引力により、長期間に亙って該陰イオン空孔の内部に残る(このときの陰イオン空孔は、その外よりもエネルギー準位が若干低くなるため、本明細書では「トラップ準位の浅い陰イオン空孔」と呼ぶこととする)。本明細書に記載のアルカリ金属ヨウ化物等の、ある種の組成を有する母材(例;CsI)から成るシンチレータでは、X線による格子欠陥(陰イオン空孔)生成と、上記の電子捕獲が起こりやすいため、発光に寄与するはずの電子の目減りが大きくなり、正孔との再結合による発光が起きにくくなる。また、格子欠陥は、可視光の一部を吸収して着色を引き起こす効果もあり、着色に伴う光伝播の阻害も起こす。これが、X線照射による発光量低下、すなわちX線耐久性劣化の原因となる。したがって、この陰イオン空孔(トラップ準位が浅い陰イオン空孔)を無効化することができれば、X線耐久性劣化を防止することができる。
【0032】
(トラップ準位の浅い陰イオン空孔を無効化する場合)
トラップ準位の浅い陰イオン空孔を無効化するためには、以下の式(I)に示すように、炭酸イオンを介在させた状態で、一価の陽イオンになり得る原子A(例;ナトリウム原子)を前記陰イオン空孔と会合体を形成させて無帯電化することで無効化することができる。
【0033】
【数1】
なお、上記炭酸イオンは空気中の二酸化炭素が蛍光体の結晶に吸収されて不純物として結晶内に存在するものである。また、炭酸イオンは、結晶成長の段階を含め、空気に接触した時点で結晶内に入り込むものである。
【0034】
まず、一価の陽イオンになり得る原子をシンチレータの各結晶内に導入すると、導入された原子が、蛍光体の柱状結晶を構成しているアルカリ金属原子(例;Cs)と入れ替わる現象が起きる。さらに一価の陽イオンになり得る原子の量を増加させた場合、一価の陽イオンになり得る原子の柱状結晶の母材の化合物(例;CsI)1モルに対する濃度が約0.01モル%以上を超える付近から、アルカリ金属原子(例;Cs)との交換が限界となり、余剰の一価の陽イオンになり得る原子はシンチレータの結晶内で、コロイドと呼ばれる凝集体として存在するようになる。このコロイドは結晶格子をすり抜けられる程度に小さいため、該結晶内を比較的自由に動き回り、陰イオン空孔の近くまで移動し、上記無帯電化を起こすようになる。しがたって、X線耐久性劣化を防止するためには、1価の陽イオンとなりうる原子の、母材の化合物(例;CsI)1モルに対する濃度は、少なくとも約0.01モル%であることが好ましい。
【0035】
また、1価の陽イオンになり得る原子の、母材の化合物(例;CsI)1モルに対する濃度は、同じ線量のX線を照射したときの輝度が変化しにくい(X線による劣化がしにくい)観点から、0.3モル%以下とするのが好ましい。
【0036】
また、X線劣化防止性能を得るために、シンチレータに含まれる賦活剤の原子と1価の陽イオンとなりうる原子とのモル比を1:0.01〜1:1とする必要がある。このようにX線劣化防止性能が賦活剤と1価の陽イオンとなりうる原子とのモル比によるのは、浅いトラップ準位の陰イオン空孔[+1価]の近傍に、アルカリ金属原子(例;セシウム)よりも電気陰性度の高く、かつ価数が可変である賦活剤原子(タリウムなど)が存在すると、陰イオン空孔に捕捉された電子を賦活剤原子が取り込んで、賦活剤原子の価数が変化することがあり(タリウムの場合は、+1価→0価など)、そのため、無機結晶中に含まれる賦活剤の量によって、X線劣化の原因となる「浅いトラップ準位の陰イオン空孔[+1価]」の数が変化し、さらに、これを無帯電化するために必要な1価の陽イオンとなり得る原子の量も変わってくることによる。なお、無機結晶中に含まれる賦活剤の濃度が変化したとしても、上記モル比を満たすことでX線劣化防止性能の効果が得られる。
【0037】
一価の陽イオンになり得る原子とは、母材を構成するアルカリ金属より原子番号の小さいアルカリ金属よりなる群から選ばれる少なくとも一種類の原子であることが好ましい。例えば、母体を構成するアルカリ金属のヨウ化物がCsIである場合、一価の陽イオンになり得る原子は、リチウム原子、ナトリウム原子、カリウム原子、ルビジウム原子であることが好ましい。このうち、その原子のヨウ化物自身がシンチレータ母材になり得るナトリウム原子であることが特に好ましい。
【0038】
(保護層)
保護層19は、シンチレータ3を物理的または化学的に保護するものである。母材の化合物がヨウ化セシウム(CsI)である場合、吸湿性が高く空気中に露出したままにしておくと空気中の水蒸気を吸収して潮解してしまうため、これを防止する役割を果たす。保護層19は、水分を透過しない樹脂等で形成することが望ましく、このような樹脂例としてはポリパラキシリレンなどを挙げることができる。
【0039】
(光学補償層)
保護層19の表面には、光学補償層13を形成することができる。通常、この光学補償層13は樹脂で形成されており、ここで使用することができる樹脂の例としては熱硬化性の樹脂が挙げられる。熱硬化性の樹脂としては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂およびシリコーン樹脂を挙げることができる。
【0040】
(光電変換素子層)
基板15の上には光電変換素層14が配置されており、上述のように放射線照射方向(
図2において上側)から照射されたX線がシンチレータ3で可視光線に変換され、この可視光線を前記光電変換素層14が検出して電気信号に変換する。
【0041】
上記基板15は、多くの場合、ガラス基板で構成されており、光電変換素子層14が既に形成されているものが用いられる。光電変換素子層14は、
図2に示すように基板15のシンチレータ3に対向する側の光電変換素子層14の面の上に配設され、複数の走査線と複数の信号線とが互いに交差するように配設されている(不図示)。基板15の面の上の複数の走査線と複数の信号線により区画された各小領域には、可視光線検出素子(TFTやCMOS等)がそれぞれ設けられている。
【0042】
(光学結合層)
シンチレータパネル(
図2の例では、支持体(基材)16〜保護層19)と、光電変換素子層14とをカプリングする光学結合層(不図示)を設けることができる。この光学結合層は、シンチレータパネルと光電変換素子アレイを光学的に連続にする機能を有する。光学的に連続するとは、各層の間を光が進む際に損失なく伝搬することであり、シンチレータパネルと光電変換素子アレイの界面の屈折率差を小さくでき、透明性が高い材料を選択することが好ましい。光学結合層に用いられる材料としては、シリコン系のゲルまたはオイルが好ましい。
【0043】
また、光学結合層は、シンチレータパネルと光電変換素子アレイを光学的に連続にする機能(カプリング機能という)と同時に、シンチレータパネルと光電変換素子のアレイを機械的に固定し接着させる機能を有することもできる。接着機能を有する光学結合層としては、例えば、アクリル系、エポキシ系、シリコーン系などの常温硬化型の接着剤が使用できる。特に弾力性を有する接着樹脂としてはゴム系の接着剤が使用できる。
【0044】
光学結合層の形成によって、シンチレータ3と保護層19、光学補償層13、光電変換素層14の間に置ける屈折率の差を小さくすることが可能となり、照射された放射線によりシンチレータ内で発光した光が、保護層19、光学補償層13、光電変換素層14それぞれの境界面において反射される度合が小さくなる。そのため、当該シンチレータ3の発光箇所と、光電変換素層14の受光箇所の、横方向のずれが抑制される。また、反射光がシンチレータ3等で吸収されることも的確に防止される。そのため、当該シンチレータの発光箇所と、光電変換素層の受光箇所が良好に一致する状態になり、高感度でかつ鮮鋭性が高い放射線画像を得ることが可能となる。
【0045】
(下引層)
支持体16とシンチレータ3の接着性向上のため、支持体16とシンチレータ3との間に下引層17を設けることが好ましい。さらに、反射層18を設ける場合は、下引層17と支持体16の間に反射層18を設けることが好ましい。また、1つの層で、前記下引層17と反射層18を兼ねさせてもよい。
【0046】
下引層17を構成する具体的な材料としては、易接着性のポリマー、すなわち高分子結合材(バインダー)であり、例えば、ポリエステル、ポリウレタン、塩化ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、アラミドおよびナイロン、ポリビニルブチラール、ポリエステル、セルロース誘導体(ニトロセルロース等)、スチレン−ブタジエン共重合体、各種の合成ゴム系樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリル樹脂、尿素ホルムアミド樹脂などが挙げられる。なかでもポリウレタン、ポリエステル、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルブチラール、ポリパラキシリレン(商品名:パリレン
TM;日本パリレン合同会社製)が好ましい。また、これらのバインダーは一種単独で用いても、二種以上を併用してもよい。また、下引層17には、シンチレータ3が発光する光の散乱の防止し、鮮鋭性等を向上させるために、顔料や染料を含有させても良い。
【0047】
(反射層)
支持体16の少なくともシンチレータ3が蒸着される面に反射層18を有することが好ましい。反射層を設けることによって、シンチレータの発光を非常に効率よく取り出すことが出来、輝度が飛躍的に向上する。反射層の例としては、アルミニウム等の金属材料を含む膜や、SiO
2やTiO
2等の金属酸化物からなる増反射膜、白色顔料等の光散乱粒子と易接着性のポリマー物質との混合物による塗布膜、更にこれらを組み合わせた膜などが挙げられる。
【0048】
(その他の部材)
基板15の裏面側には鉛の薄板20を介して基台6が配置されている。また、基台6には、センサパネル等に衝撃が加わって筐体2の内部に衝突するのを防止するために、筐体2の内部の側壁との間に緩衝部材9,9等が適宜取り付けられる。この基台6には、シグナルインターフェイス基板、ゲートインターフェイス基板、コントロール基板および電源基板等の電子部品7,・・・が配設されたPCB基板8,8並びに放射線検出器1の各機能部に電力を供給するバッテリ5等が配設されている。
【0049】
《蒸着装置》
まず、本発明に係る放射線検出器の製造方法に使用可能な蒸着装置について、
図3を参照しながら説明する。なお、
図3は抵抗加熱法によって蒸着物質を蒸発させる物理蒸着(PVD)を行う装置であるが、実際の蒸着は、電子線照射装置や高周波誘導加熱手段によって蒸発させる物理蒸着、高電圧印加によりイオン化した気体元素を蒸着物質に衝突させて製膜するスパッタリング、成膜時の基板表面にて化学反応を生ぜしめる気相化学成長(CVD)等の手法を用いて成膜してもよい。
【0050】
図3に、本発明に係るシンチレータの製造方法に使用可能な蒸着装置25を示す。
蒸着装置25の真空容器21の内部の底面付近には、支持体16に垂直な中心線を中心とした円の対峙する位置に蒸着源22〜24が配置されている。この場合において、支持体16と蒸着源22〜24との間隔は、例えば100〜1,500mmとするのが好ましく、より好ましくは200〜1,000mmである。また、支持体16に垂直な中心線と蒸着源22〜24との間隔は100〜1,500mmとするのが好ましく、より好ましくは200〜1,000mmである。
【0051】
なお、蒸着源22〜24の代わりに、3個を超える多数(例;8個、16個、24個等)の蒸着源を設けることも可能であり、各々の蒸着源は等間隔に配置してもよく、間隔を変えて配置してもよい。また、支持体16に垂直な中心線を中心とした円の半径は任意に定めることができる。
【0052】
蒸着源22〜24は、例えば加熱手段を有する坩堝であり、例えば、母材化合物、賦活剤化合物及び一価の陽イオンを形成し得る原子を含む化合物をそれぞれ収容して該化合物を抵抗加熱手段により加熱する。従って、各蒸着源22〜24を、ヒータを巻回したアルミナ製の坩堝から構成してもよいし、ボート、或いは高融点金属からなるヒータから構成してもよい。
【0053】
また、前記加熱手段は、抵抗加熱法以外にも、電子線照射装置や高周波誘導加熱手段であってもよいが、比較的簡単な構成で取り扱いが容易、安価、かつ、極めて多くの物質に適用可能である点から、上記抵抗加熱手段が好ましく、該抵抗加熱手段を坩堝の周囲に配置して、該坩堝を間接的に加熱するように構成することが好ましい。
【0054】
蒸着装置25によれば、複数の蒸発器22〜24の蒸気流が重なり合う部分が整流化され、支持体22の表面に蒸着するシンチレータの結晶性を均一にすることができる。このとき、多数の蒸発器を設けるほど多くの箇所で蒸気流が整流化されるため、より広範囲においてシンチレータの結晶性を均一にすることができる。また、蒸発器22〜24を支持体16に垂直な中心線を中心とした円の円周上に配置することによって、蒸気流の整流化によって結晶性が均一になるという作用を、支持体16の表面において等方的に得ることができる。
【0055】
支持体ホルダー26は、支持体16のシンチレータ3を形成する面が真空容器21の底面に対向し、かつ、真空容器21の底面と平行となるように支持体16を保持する構成となっている。
【0056】
また、支持体ホルダー26には、支持体16を加熱する加熱ヒータあるいは冷却装置(不図示)を備えることが好ましい。この加熱ヒータあるいは冷却装置で支持体16の温度を調整することによって、支持体16の支持体ホルダー26に対する密着性の強化や、シンチレータ3の膜質調整を行う。また、支持体16の表面の吸着物を離脱・除去し、支持体16の表面とシンチレータ3との間に不純物層が発生することを防止する。
【0057】
また、加熱手段として温媒または熱媒を循環させるための機構(不図示)を有していてもよい。この機構は、シンチレータ3を蒸着させる際に支持体16の温度を50〜150℃といった比較的低温に保持して蒸着する場合に適している。さらに、加熱手段としてハロゲンランプ(不図示)を有していてもよい。この加熱手段は、シンチレータを蒸着により形成する際に支持体16の温度を150℃以上といった比較的高温に保持して蒸着する場合に適している。
【0058】
支持体ホルダー26には、支持体16を水平方向に回転させる支持体回転機構27が設けられている。支持体回転機構27は、支持体ホルダー26を支持するとともに支持体16を回転させる支持体回転軸28および真空容器21の外部に配置されて支持体回転軸28の駆動源となるモータ(不図示)から構成されている。
【0059】
蒸着装置25には、上記構成の他に、真空容器21に真空ポンプ29が配設されている。真空ポンプ29は、真空容器21の内部に存在する気体の排気を行うもので、高真空領域まで排気するために、作動圧力領域の異なる真空ポンプを二種またはそれ以上配置してもよい。真空ポンプ29としては、例えば、ロータリーポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオポンプ、ディフュージョンポンプ、メカニカルブースタ等を用いることができる。
【0060】
真空容器21には、内部にガスを導入できる機構が設けられており(不図示)、該導入するガスは、一般的には例えばNe、Ar、Kr等の不活性ガスが用いられる。真空容器21内の圧力は、真空容器21内を真空ポンプ29で排気しながら導入するガス量で調整してもよいし、真空容器21内を所望の圧力よりも低い圧力の状態となるまで排気を行った後に該排気を停止して、その後所望の圧力となるまで真空容器21内にガスを導入することにより前記圧力を調整してもよい。また、真空容器21と真空ポンプ29の間に圧力制御弁を設けることにより、真空ポンプ29の排気量を調整して真空容器21内の圧力を制御してもよい。
【0061】
また、蒸着源22〜24と支持体16との間には、蒸着源22〜24から支持体16に至る空間を遮断するシャッター30〜32が配置されており、水平方向に配置及び退避が自在できるように設けられている。このシャッター30〜32によって、蒸着源22〜24においてシンチレータ3の表面に付着した目的物以外の物質が蒸着の初期段階で蒸発し、支持体16に付着するのを防ぐことができるようになっている。
【0062】
≪シンチレータの製造方法≫
本発明に係るシンチレータは、少なくとも以下の蒸着工程により製造できるが、シンチレータの一般的なシンチレータの製造等を考慮すると、通常、例えば、以下の(i)予備加熱工程、(ii)減圧工程、(iii)蒸着工程、(iv)反射層形成工程、(v)下引層形成工程、(vi)冷却工程、および(vii)後処理工程により行われる。以下、
図3の蒸着装置を用いて上記工程(i)〜(vii)を行う場合を例にして、本発明に係るシンチレータの製造方法の実施形態について説明する。
【0063】
(母材化合物)
本発明に係るシンチレータの製造に使用可能なシンチレータの母材原料の化合物(以下、母材化合物という)として、少なくともアルカリ金属やアルカリ土類金属のヨウ化物が用いられる。このアルカリ金属のヨウ化物の例としては、ヨウ化セシウム〔CsI〕、ヨウ化ナトリウム〔NaI〕、ヨウ化カリウム〔KI〕等が挙げられる。このアルカリ土類金属のヨウ化物の例としては、ヨウ化銅〔CuI〕、ヨウ化カルシウム〔CaI〕等が挙げられる。これらの母材化合物は、例えば、蒸着用として通常市販されているものを使用することができる。
【0064】
(一価の陽イオンになり得る原子を含む化合物)
一価の陽イオンになり得る原子を含む化合物(以下、陽イオン生成化合物という)は、一価の陽イオンとなりうるアルカリ金属原子を含む化合物であり、例えば、該アルカリ金属のヨウ化物を挙げることができる。陽イオン生成化合物は、好適には、上記母材化合物に含まれる母材形成用のアルカリ金属原子より原子番号の小さいアルカリ金属原子を含むものである。
【0065】
例えば、母材化合物がCsIである場合、セシウムよりも原子番号の小さいアルカリ金属は、リチウム〔Li〕、ナトリウム〔Na〕、カリウム〔K〕、ルビジウム〔Rb〕であるので、これらのヨウ化物(ヨウ化リチウム〔LiI〕、ヨウ化ナトリウム〔NaI〕、ヨウ化カリウム〔KI〕およびヨウ化ルビジウム〔RbI〕を一価の陽イオンを含む化合物として好適に用いることができる。イオン化傾向の大きいアルカリ金属原子である程、1価の陽イオンとして柱状結晶中に供給されやすいため、イオン化傾向の観点から、ヨウ化リチウム〔LiI〕、ヨウ化カリウム〔KI〕あるいはヨウ化ナトリウム〔NaI〕が好ましく、特にヨウ化ナトリウム〔NaI〕が好ましい。
上述した一価の陽イオンを含む化合物は、特級試薬に準ずる純度を有するものを入手してシンチレータの製造に用いることができる。
【0066】
(賦活剤化合物)
上述した賦活剤を含む化合物(以下、賦活剤化合物という)として、ヨウ化タリウム〔Tl〕、ユウロピウム〔Eu〕を含む化合物、セリウム〔Ce〕を含む化合物、サマリウム〔Sm〕を含む化合物、ビスマス〔Bi〕を含む化合物、銅〔Cu〕を含む化合物、テルビウム〔Tb〕を含む化合物などの賦活剤の原子を含むヨウ化物を例示することができる。なお、これらの化合物としては、EuS、EuF
3、Eu
2O
3や、EuCl
3等のハロゲン化物のような酸化物(例:Eu
2O
3)、硫化物(例:EuS)、複酸化物(例:Eu
2O
3−Y
2O
3)、硝酸塩(例:Eu(NO
3)
3)、硫酸塩(例:EuSO
4)、炭酸塩(例:EuCO
3)等の塩を例示することができる。なお、賦活剤化合物が有する原子は、柱状結晶を組成する母材化合物が有する原子とは異なる原子であることは勿論である。
【0067】
(蒸着装置の準備)
図3の蒸着装置の支持体ホルダー26に上述した支持体16を取付け、真空容器21の底面付近において、支持体16に垂直な中心線を中心とした円の円周上に蒸着源22〜24を配置する。ここで、蒸着源22〜24はガス流を均一に混合して蒸着させる観点から、
図3に示すように等間隔に配置することが好ましい。次に、
図3の蒸着装置の蒸着器22〜24に、(A)母材化合物(例:CsI)と、(B)賦活剤化合物(例:TlI)と、(C)陽イオン形成化合物(例;NaI)とをそれぞれ充填する。ここで、蒸着源である坩堝やボートは1個以上であれば数は限定されない。すなわち、上記(A)〜(C)の3成分のうち、2成分以上を一つの蒸着源から蒸発させて蒸着に供しても構わない。例えば、上記3成分(A)〜(C)を混合したものを1つ蒸着器の中に格納して蒸着に供してもよい。
【0068】
(反射層形成工程)
ここで、上述した支持体16の下面(
図3において下側)の適した位置に反射層18を形成する工程(反射層形成工程)を行ってもよい。例えば、支持体16の表面に酸化金属や金属(銀等)をスパッタ法等にてコーティングすることで、反射層(例;0.10μm)を形成することができる。反射層18の厚さは、シンチレータ3やそれを構成する結晶径にもよるが、金属薄膜を用いる場合は0.005〜0.3μm、より好ましくは0.01〜0.2μmであることが、発光光取り出し効率の観点から好ましい。また、白色顔料等の光散乱粒子と易接着性のポリマー物質との混合物による塗布膜を用いる場合は10〜500μmであることが好ましい。反射層の膜厚が10μm以上で充分な輝度が得られ、また500μm以下で、反射層表面の平滑性が向上する。
【0069】
(下引層形成工程)
さらに、支持体16とシンチレータ3の接着性向上のために、必要に応じて、支持体16(又は反射層18)の下面に蒸着して下引層17を形成する工程(下引層形成工程)を行ってもよい。例えば、高分子ポリマー(例;高分子ポリエステル樹脂等)を所定の溶媒(例;メチルエチルケトン、トルエン,シクロヘキサノン)に溶解または分散させ、十数時間(例;15時間)撹拌したのち下引塗設用の塗布液を調製し、この塗布液を上記支持体16の反射層18の側(
図2において下側)に乾燥層厚が1.0μmになるようにスピンコーターで塗布したのち所定温度(例;100℃)で数時間(例;8時間程度)乾燥することで下引層を作製することができる。
【0070】
この下引層17は、ポリエステルを含有する塗布液を塗布してポリエステルからなる膜を形成する方法、CVD法(気相化学成長法)によりポリパラキシリレン膜を成膜する方法、あるいは、ポリウレタン、塩化ビニル共重合体等の高分子結合材(バインダー)による方法があるが、膜付の観点からメタノール、エタノール、n−プロパノール等の溶剤を用いて高分子結合材(バインダー)を反射層18に塗布および乾燥する方法が好ましい。また、下引層17の厚さは3〜10μmが好ましい。
【0071】
(予備加熱工程)
後述する減圧工程の前に、充填した(A)母材化合物、(B)賦活剤化合物、および(C)陽イオン生成化合物の3成分に含まれている不純物を蒸着する前に除去するために予備加熱工程を行ってもよい。この予備加熱工程は、使用する上記(A)〜(C)の各化合物の融点以下であることが望ましい。
【0072】
例えば、母体化合物がヨウ化セシウム〔CsI〕である場合、予備加熱の温度は、好ましくは50〜620℃であり、より好ましくは100〜500℃である。また、ヨウ化タリウム〔TlI〕を予備加熱する場合、予備加熱の温度は、50〜440℃が好ましく、100〜400℃がより好ましい。さらに、陽イオン形成化合物がヨウ化ナトリウム〔NaI〕である場合には、予備加熱の温度は、50〜660℃が好ましく、100〜600℃がより好ましい。融点以下の上記3成分(A)〜(C)の共通する温度範囲で予備加熱をすることが好ましい。
【0073】
(減圧工程)
個々の柱状結晶が独立しているシンチレータを形成する観点で、蒸着装置25内の気体を一旦排出し、例えば、Arガスを導入して、蒸着装置25内の気圧を、0.001〜10Pa、好ましくは0.01〜1Paにした後、支持体16を回転させる減圧工程を設けても良い。この回転は、好ましくは2〜15rpmであり、より好ましくは4〜10rpmである。
【0074】
(蒸着工程)
蒸着工程は、無機結晶の母材の原料としてのアルカリ金属のヨウ化物(母材化合物)と、一価の陽イオンになり得る原子を含む化合物と、賦活剤を含む化合物(賦活剤化合物)と、を用いて、支持体16に対して垂直に規則的構造を有する無機結晶を形成させる工程である。なお、形成された無機結晶の層がシンチレータ3である。
【0075】
ここで、前記無機結晶における前記一価の陽イオンになり得る原子の含有量は、前記母材化合物(例;CsI)1モルに対して0.01モル%以上〜0.3モル%以下であることが必要であり、0.05〜0.3モル%とすることが好ましい。さらに、X線劣化防止の効果が得られる観点から、シンチレータに含まれる賦活剤(例;Tl)の原子と1価の陽イオンとなりうる原子(例;Na)とのモル比が1:0.01〜1:1である必要があり、上記モル比が1:0.1〜1:1の範囲内にすることが好ましい。
【0076】
賦活剤と一価の陽イオンになり得る原子の含有量を上記範囲および上記モル比となるように調節する方法については限定されず、以下に例示する方法で行うことができる。具体的には、賦活剤化合物と陽イオン形成化合物について、例えば(i)各蒸着源の加熱温度、(ii)各蒸着源の加熱時間、(iii)各蒸着源の化合物の格納量および格納順序を調節することにより、陽イオン形成化合物の蒸着量を上記濃度範囲およびモル比となるように調節することができる。
【0077】
(冷却工程)
蒸着の際に加熱を行っていた高温の支持体16を取り出すために冷却する必要がある。ここで、シンチレータ3を平均冷却速度0.5℃〜10℃/分の範囲で80℃まで冷却することで、支持体16等にダメージを与えることなく冷却することができる。この効果は、例えば、厚さ50μm以上500μm以下の高分子フィルム等の比較的薄い基板を支持体16に用いた場合に特に有効である。この冷却工程は、真空度1×10
-5Pa〜0.1Paの雰囲気下で行われることが特に好ましい。また、冷却工程時に、蒸着装置25の真空容器21内にArやHe等の不活性ガスを導入してもよい。なお、ここでいう平均冷却速度とは、冷却開始(蒸着終了時)から80℃まで冷却する間の時間と温度を連続的に測定し、この間の1分間あたりの冷却速度を求めたものである。
【0078】
(後処理工程)
蒸着終了後、シンチレータ3を加熱処理してもよい。また、蒸着法においては必要に応じてO
2、H
2などのガスを導入して蒸着する反応性蒸着を行ってもよい。
【0079】
《シンチレータの確認》
(柱状結晶の形成確認)
同一条件で製造したシンチレータ3を支持体16と平行に切除し、切除した断面の走査型電子顕微鏡写真を、画像処理ソフトを使用して柱状結晶の部分とそれらの間の空隙部とを調べることができる。
【0080】
(シンチレータの断裁)
支持体16がガラス製やシリコーン製の場合は、蒸着後のシンチレータ3をレーザダイシング装置で断裁することができる。また、支持体16が樹脂フィルムである場合、レーザ断裁装置を使用することが好ましい。レーザ処理により断裁したシンチレータ3は、支持体16のほぼ全域に柱状結晶が形成されており、断裁した後に支持体16上にシンチレータ3を形成する場合に比較し、画像有効領域が広く好ましいが、その反面、保護層19の形成をはじめとするその後の各プロセスにおけるハンドリングが難しくなる。そこで断裁終了後のシンチレータ3にハンドリング用の保持部材を使用することが好ましい。この保持部材は、真空吸引、静電吸引といった半導体を持ち運ぶために一般的に使用される機器でもよく、また、粘着もしくは接着により固定され、各工程終了後、梱包前に熱、UV、冷却、超音波等の処理により簡単に剥離できるようなシートを用いてもよい。また、剛直で大面積の平板にこのようなシートをシンチレータ3の断裁形状に両面テープで貼り付けておけば、小サイズで数量の多い品種でも断裁後のピックアップや保護層形成といったその後の工程をまとめて行うことができ、生産プロセスの時間短縮につながり、有用である。
【0081】
《放射線検出器の製造方法》
本発明に係る放射線検出器の製造方法は、少なくとも上述した本発明に係るシンチレータの製造方法を工程として含み、さらに、任意に以下の保護層形成工程、光学補償層形成工程、光電変換素子層形成工程、光学結合層形成工程等を経るものである。
【0082】
(保護層形成工程)
保護層は、蛍光体層を物理的または化学的に保護することを主眼とするものである。すなわち、ヨウ化セシウム〔CsI〕等の母材は、吸湿性が高く露出したままにしておくと空気中の水蒸気を吸湿して潮解してしまうため、これを防止することを目的とする。上記蒸着工程終了後、必要に応じて前記シンチレータ3の支持体16側とは反対の側に保護層を設けることが好ましい。
【0083】
例えば、別のCVD装置にてポリパラキシリレンからなる層を形成した後、ホットメルト樹脂を塗設し、ホットメルト樹脂面をシンチレータ3の層面に配置し、120℃に加熱したローラーで加圧しながら張り合わせることで保護層19を形成する。受光素子面との接着に接着剤を使用する場合は保護層と接着剤層の厚みのトータルが30μm以下になるように保護層の厚みを調整する。
【0084】
(光学補償層形成工程)
光学補償層13は、シンチレータ3と光電変換素子層14との間に介在させる層で、両者の境界面での屈折率の差を小さくして、境界面で反射される光の量をより低減するためのものである。光学補償層13は、熱硬化性の樹脂等の樹脂で形成するが、この熱硬化性の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、またはシリコーン樹脂等が好ましく用いられる。シンチレータ3に熱硬化性の樹脂を塗布した後、シンチレータの周囲の温度に塗布した樹脂の硬化温度まで加熱して、熱硬化性の樹脂を硬化させることにより、シンチレータ3の柱状結晶の先端部分と光電変換層14との間に光学補償層13が形成される。
【0085】
(光電変換素子層形成工程)
光電変換素子層14は、少なくとも、透明電極と、該透明電極を透過して入光した電磁波により励起されて電荷を発生する電荷発生層と、前記透明電極に対しての対極となる対電極とから構成されており、
図2の上側からこの順に配置される(不図示)。
【0086】
(光学結合層形成工程)
下引層17、反射層18、支持体16、シンチレータ3、保護層19及び光学補償層13で構成されたシンチレータパネルと、光電変換素子層14の受光素子(不図示)を接着剤で張り合わせる場合、接着にあたっては接着剤が固化するまで10〜500fg/cm
2(0.98〜49kPa)の圧力で加圧する。加圧により接着剤層から気泡が除去される。保護層19としてホットメルト樹脂を使用した場合は10〜500fg/cm
2(0.98〜49kPa)の圧力で加圧しながら、ホットメルト樹脂の溶融開始温度より10℃程度高い温度まで加熱し1〜2時間静置後、徐々に冷却する。急冷するとホットメルト樹脂の収縮応力により受光素子の画素にダメージかあるので、好ましくは20℃/h以下の速度で50℃以下まで冷却する。接着剤としては、例えば、アクリル系、エポキシ系、シリコン系等の常温硬化型の接着剤が使用できる。特に弾力性を有する接着樹脂としてはポリブチレン等のゴム系の接着剤が使用できる。
【0087】
(その他の部材の形成)
また、鉛の薄板20を設けて、放射線検出器1を透過した放射線や、放射線検出器1の構成素材が放射線吸収により発生する2次放射線の装置外への漏洩を防止する。また、基台6、バッテリ5、PCB基板8,緩衝剤9,9,筐体2等を設けて、放射線検出器1が製造される。
【0088】
<シンチレータのX線耐久性能の評価>
シンチレータのX線耐久性能の評価は、所定強度(例;30000R)のX線にシンチレータを曝露する等、促進条件下にシンチレータを置いて曝露前後におけるシンチレータに所定量のX線を当てて発光したときに得られる蛍光輝度を対比し、このときの輝度変化量により評価することができる。
輝度変化量(%)=(曝露前のシンチレータからの可視光量−曝露後のシンチレータからの可視光量)/曝露前のシンチレータからの可視光量×100(%)
【0089】
例えば、後述する実施例の表1に示すように、シンチレータに対して所定量(例;30000R)の放射線を照射し、可視光の輝度が促進処理前後で0.1%以上変化するものを「×」とX線耐久性に優れないものとして評価し、前記可視光の変化量が0.1%未満のものをX線耐久性に優れるものとして「○」と評価することができる。また、1価の陽イオンとなり得る原子(例;Na)を含まない(またはほとんど含まない)系であるシンチレータ(例;比較例1及び比較例5)よりも輝度が低く、輝度測定値の信頼性に支障を来たす程度まで低下しており、実測して評価するに値しないものとして除外して「―」と評価することができる。
【0090】
<シンチレータの総合評価>
シンチレータの総合評価は、シンチレータのX線耐久性能と、輝度測定値の信頼性を含めて総合的に判断することにより行われ、上記X線耐久性能が「○」と評価されたもののみ、シンチレータとして好ましいと判断される。
【実施例】
【0091】
[実施例1]
≪シンチレータの製造≫
(反射層および下引層の作成)
Al−0.35%Crのターゲットを準備し、13.25MHzのRF電力10W/cm
2、Ar雰囲気中0.5Pa、支持体16の温度100℃、ベース圧力0.001Paの条件でスパッタ法を行った。Ar+イオンによりターゲットのAl−0.35%Cr合金が打ち出され、対向電極上に置かれた厚さ125μmのポリイミドフィルム(支持体16)(宇部興産(株)製、ユーピレックス)の上にAl−0.35%Cr合金の膜(反射層18)を形成した。
【0092】
これを
図3のCVD装置にセットし、反射層18に融点290℃のパリレンC(日本パリレン合同会社製)からなる下引層17を形成した。下引層17の厚さは3μmであった。なお、パリレンCは、ベンゼン環が−CH
2−を介して重合した基本構造を有し、このベンゼン環の水素一個が塩素で置換されたものである。
【0093】
(蒸着工程)
図3の蒸着装置を参照して説明する。まず、蛍光体母体化合物としてヨウ化セシウム〔CsI〕、賦活剤〔TlI〕およびヨウ化ナトリウム〔NaI〕を3つの抵抗加熱るつぼ22,23,24にそれぞれ充填し、これを蒸発源とし、支持体ホルダーの金属製の枠(図示せず)に下引層17を有する支持体を設置し、下引層17と上記蒸発源22〜24との間隔を400mmとなるよう調整した。
【0094】
続いて、蒸着装置25内のガスを一旦排気し、Arガスを導入して0.05Paに真空度を調整した後、6rpmの速度で、支持体ホルダー27と上記のように形成した下引層17等とを一体に回転させた。このとき、支持体ホルダー26の加熱ヒーター(図示せず)により、下引層17等の温度を30℃とした。
【0095】
次に、蒸着源22,23,24の抵抗加熱坩堝を加熱して蛍光体の蒸着を開始した。下引層16等の温度を30℃として厚さ10μmの下地層16を形成した。その後、下引層16等の加熱を開始し、その温度を200℃に加熱したところで蛍光体層の形成を開始した。
【0096】
なお、蒸着源22〜24に、それぞれヨウ化タリウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化ナトリウムを格納した後、各化合物の蒸着源22〜24の加熱温度、格納量、加熱時間を適宜制御することで、下記表1の組成となるようにシンチレータを製造した。そして、シンチレータ3の蛍光体層の厚さが400μmとなったところ(蛍光体柱状結晶の高さが400μmとなったところ)で蒸着を終了し、下引層16等およびシンチレータ3を有するシンチレータプレートが得られた。
【0097】
(シンチレータの断裁)
断裁条件をYAG−UV(イットリウム・アルミニウム・ガーネット結晶:波長266nm)、周波数5000Hzでビーム径20μmのパルスレーザ光、出力300mWに設定したレーザ断裁装置を用いて、得られたシンチレータを所定サイズに断裁した。なお、製造したシンチレータ3中のセシウム、タリウム、ナトリウムの組成比率は、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometer:ICP−AES)にて測定した。
【0098】
《放射線検出器の製造》
上記製造したシンチレータを用いて、以下の各工程を経て放射線検出器を製造した。
(保護層形成工程)
断裁したシンチレータプレートを、
図3のCVD装置にセットして、シンチレータ3の蛍光体層の表面にポリパラキシリレンからなる保護層19を形成した(
図2参照)。保護層の厚さは3μmであった。
【0099】
(光学補償層形成工程)
上記形成した蛍光体保護層19の上(
図2において蛍光体保護層19の下側)にさらに光学補償層13を形成した。光学補償層13は、熱硬化型のエポキシ樹脂透明接着をディスペンサー塗布方式で厚さ15μmとなるように保護層上に塗布し、その後加熱して硬化させて形成した。
【0100】
なお、予め、ガラス製の基板15に回路基板と光電変換素子アレイとをこの順に形成した後(光電変換素子層14)、さらに、この光電変換素子アレイ表面にアクリル樹脂を塗布して平坦化層(不図示)を形成した。シンチレータ3に対向する前記平坦化層の面の表面平均粗さ〔Ra〕を0.003μmとなるように形成した。光学補償層13を形成するエポキシ樹脂の屈折率nは約1.55であり、蛍光体柱状結晶であるCsI:Tlの屈折率nは約1.8であり、平坦化層を形成するアクリル樹脂の屈折率nが約1.5である。
【0101】
(発光輝度の測定)
保護層19と光学補償層13とをさらに形成したシンチレータプレートのシンチレータ3の蛍光体層側(
図2において下側)の面に、10cm×10cmの大きさのCMOSフラットパネル(テレダイン ラドアイコン社製のX線CMOSカメラシステム「Shad−o−Box 4KEV」)等をセットして
図2に示す放射線検出器を製造した。
【0102】
管電圧80kVpのX線を各放射線パネルに内蔵されているシンチレータプレートの基板側の面から照射し(
図2の上側から照射し)、測定カウント値を発光輝度(感度)と表す。
【0103】
<シンチレータ物性値(シンチレータのX線耐久性の評価)>
シンチレータのX線耐久性能の評価は、以下のように行った。
まず、シンチレータに対して30000R(300シーベルト)の強度に至るまでX線(照射中の最大電圧80kVp)を照射する促進処理を行った。次に、上記促進前後の各シンチレータに対して、1mRの強度のX線を当てて発光したときに得られる可視光の蛍光輝度を対比し、このときの輝度変化量(下記式参照)によりX線耐久性能を評価した。表1に示すように、上記輝度変化量(%)が0.1%以上のものをX線耐久性能に劣るものとして「×」と表示し、0.1%未満のものをX線耐久性能に優れるものとして「○」と表示した。また、Naを含まない(またはほとんど含まない)系であるもの(比較例1及び比較例5参照)よりも輝度が低く、輝度測定値の信頼性に支障を来たす程度まで低下しているものは「―」とした。
【0104】
輝度変化量(%)=(促進前のシンチレータから通常のX線照射により得られる可視光量−促進後のシンチレータからのX線照射により得られる可視光量)/促進前のシンチレータから通常のX線照射により得られる可視光量×100(%)
【0105】
[実施例2〜3、比較例1〜8]
実施例1の蒸着工程において、加熱条件を適宜調節することで、表1の各実施例2〜5および比較例1〜8に記載された組成になるようにしたこと以外は、実施例1と同様の蒸着工程等を行ってシンチレータを製造した(表1参照)。
【0106】
【表1】
【0107】
(結果・考察)
実施例で製造したシンチレータおよび放射線検出器によれば、アルカリ金属のヨウ化物であるCsIを母材とする無機結晶からなるシンチレータについて、該CsIの無機結晶中に、母材(CsI)1モルに対して、一価の陽イオンとなりうる原子であるヨウ化ナトリウム〔NaI〕を母材(CsI)1モルに対して0.01モル%以上〜0.3モル%以下含有させ、且つ、賦活剤の原子(Tl):一価の陽イオンとなりうる原子とのモル比が1:0.05〜1:1である範囲とすることにより、X線(30000R)により促進処理をしたとしても輝度変化量が0.1%未満であり非常に低く抑えられ、X線劣化防止効果が得られた(実施例1〜3)。
【0108】
一方、上記無機結晶中のヨウ化ナトリウム〔NaI〕の濃度が該無機結晶中の母材(CsI)1モルに対して0.01モル%未満であるシンチレータ(比較例1,2および5)では、促進処理による輝度変化率(%)が1.1%以上となり、X線劣化防止効果は得られなかった。これは、陰イオン空孔に捕捉された電子の無帯電化がなされなかったためと考えられる。
【0109】
また、比較例3〜4,6〜8は、ヨウ化ナトリウム〔NaI〕の濃度が無機結晶中の母材(CsI)1モルに対して0.01モル%以上であるシンチレータであるが、賦活剤原子(Tl)と一価の陽イオンとなりうる原子(Na)とのモル比が1:1を上回り、可視光が確認できないか、または、輝度変化率が1%を超えるものであり、X線劣化防止効果は得られなかった。
【0110】
以上、本発明に係るシンチレータおよび放射線検出器、これらの製造方法について実施の形態および実施例に基づいて詳細に説明してきたが、本発明はこれらの実施の形態および実施例に限定されず、特許請求の範囲に規定されている本発明の要旨を逸脱しない限り設計変更は許容される。