(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のステアリング装置によれば、エンド当てに伴い、衝撃を吸収するための弾性体に強い衝撃荷重が作用する場合には、当該弾性体が圧縮変形することにより、ハウジングの内部空間とラックエンドを覆うブーツの内部空間の連通が遮断されてしまうおそれがある。また、弾性体の圧縮に伴い、ハウジングの内部空間の空気は圧縮されるためにハウジングの内部空間の圧力が増加する一方、ラックエンドの内部空間の空気は膨張するためにラックエンドの内部空間の圧力は減少する。
【0006】
本発明の目的は、衝撃吸収時であってもブーツの内部空間が膨張および収縮することを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成しうるステアリング装置は、軸方向に往復移動する転舵シャフトと、前記転舵シャフトを収容するハウジングと、前記転舵シャフトの両軸端部にそれぞれ装着されて、当該転舵シャフトとタイロッドとを連結するジョイントと、前記ハウジングと前記タイロッドとの間に接続されて、前記ハウジングと前記タイロッドとを封止するブーツと、前記転舵シャフトの移動方向における前記ハウジングと前記ジョイントとの間に設けられて、それらが当接する際の衝撃を吸収する衝撃吸収部材と、を備えている。前記衝撃吸収部材は、弾性を有する弾性部と、前記ジョイントと前記弾性部との間に設けられてそれらが当接する端面となる端面部とを有している。前記ハウジングと前記ジョイントとが衝撃吸収部材を介して当接したとき、前記衝撃吸収部材と前記ジョイントとの間に、前記ブーツの内部空間と前記ハウジングの内部空間とを連通する連通路が形成されている。
【0008】
この構成によれば、ハウジングとジョイントとが衝撃吸収部材を介して当接する場合であっても、連通路が設けられることにより、ブーツの内部空間とハウジングの内部空間は連通可能になる。連通路が設けられていない場合、ハウジングとジョイントとが衝撃吸収部材を介して当接すると、ブーツの内部空間とハウジングの内部空間はそれぞれ遮断される。ハウジングとジョイントとが衝撃吸収部材を介して当接した状態から、さらに衝撃荷重が作用すると、弾性部が変形してブーツの内部空間の圧力は減少し、ハウジングの内部空間の圧力は増加してしまう。このため、連通路を設けることによって、衝撃吸収時であっても、ブーツの内部空間の圧力が減少することを、ハウジングの内部空間の圧力が増加することを抑制することができる。
【0009】
上記のステアリング装置において、前記端面部の前記ジョイントが当接する面には、前記端面部の径方向に沿って延びる溝が設けられ、前記ハウジングと前記ジョイントとが前記衝撃吸収部材を介して当接したとき、前記溝と前記ジョイントとによって前記連通路が形成されることが好ましい。
【0010】
上記のステアリング装置において、前記ジョイントにおける前記端面部が当接する当接面には、前記当接面の径方向に沿って延びる溝が設けられ、前記ハウジングと前記ジョイントとが前記衝撃吸収部材を介して当接したとき、前記溝と前記ジョイントとによって前記連通路が形成されていてもよい。
【0011】
これらの構成によれば、衝撃吸収部材の端面部またはジョイントの当接面に溝が設けられることにより、連通路が形成される。このため、ハウジングとジョイントとが衝撃吸収部材を介して当接した状態であっても、ブーツの内部空間とハウジングの内部空間はそれぞれ連通可能になる。
【0012】
上記目的を達成しうるステアリング装置は、軸方向に往復移動する転舵シャフトと、前記転舵シャフトを収容するハウジングと、前記転舵シャフトの両軸端部にそれぞれ装着されて、当該転舵シャフトと転舵輪とを連結するジョイントと、前記転舵シャフトの両端をそれぞれ覆うように設けられて、一端は前記ハウジングに接続され、他端は前記ジョイントに接続されるブーツと、前記転舵シャフトの移動方向における前記ハウジングと前記ジョイントとの間に設けられて、それらが当接する際の衝撃を吸収する衝撃吸収部材と、を備えている。前記衝撃吸収部材は、弾性を有する弾性部と、前記ジョイントと前記弾性部との間に設けられてそれらが当接する端面となる端面部とを有し、前記ハウジングにおける前記弾性部が当接する当接面には溝が設けられ、当該溝と前記弾性部とにより連通路が形成されている。
【0013】
この構成によれば、ハウジングと弾性部が当接する当接面に溝が設けられることにより連通路が形成される。このため、ブーツの内部空間とハウジングの内部空間が遮断されることを抑制することができる。すなわち、衝撃荷重が作用した際には、当接面に設けられた連通路に圧縮された弾性部が入り込むおそれがあるが、弾性部が連通路に入り込むまでは連通可能であるため、ラックブーツの内部空間の圧力が減少することを、ハウジングの内部空間の圧力が増加することを抑制することができる。
【0014】
上記のステアリング装置において、モータと、前記モータの回転を減速する減速機と、減速された前記モータの回転を前記転舵シャフトの往復運動へと変換するボールねじ機構を備え、前記ボールねじ機構は、前記衝撃吸収部材の近傍に設けられていてもよい。
【0015】
この構成によれば、ボールねじ機構が衝撃吸収部材の近傍に設けられる。ボールねじ機構が採用される場合には、ボールねじ機構内部に外部から水や異物が侵入しないように、シール部や密閉構造が設けられる。このため、よりハウジングの内部空間はより密閉状態になりやすく、連通路を設けた際の効果が高い。
【発明の効果】
【0016】
本発明のステアリング装置によれば、衝撃吸収時であってもラックブーツの内部空間が膨張および収縮することを抑制できる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、ステアリング装置の一実施形態について説明する。ここでは、いわゆるラックパラレル型の電動パワーステアリング装置(RP−EPS)を例に挙げる。
図1に示すように、電動パワーステアリング装置(EPS)1は運転者のステアリングホイール10の操作に基づいて転舵輪19を転舵させる操舵機構2、および運転者のステアリング操作を補助するアシスト機構3を備えている。
【0019】
操舵機構2は、ステアリングホイール10およびステアリングホイール10と一体回転するステアリングシャフト11を備えている。ステアリングシャフト11は、ステアリングホイール10と連結されたコラムシャフト12と、コラムシャフト12の下端部に連結されたインターミディエイトシャフト13、およびインターミディエイトシャフト13の下端部に連結されたピニオンシャフト14を有している。ピニオンシャフト14の下端部のピニオン歯14aは、ピニオンシャフト14に交わる方向へ延びるラックシャフト15(正確にはそのラック歯15a)に噛合っている。したがって、ステアリングシャフト11の回転運動は、ピニオンシャフト14およびラックシャフト15からなるラックアンドピニオン機構16を介してラックシャフト15の軸方向の往復直線運動に変換される。当該往復直線運動が、ラックシャフト15の両端にそれぞれ連結されたラックエンド17を介してタイロッド18に伝達され、これらタイロッド18の運動が左右の転舵輪19にそれぞれ伝達されることにより、転舵輪19の転舵角が変化する。
【0020】
アシスト機構3は、ラックシャフト15に設けられている。アシスト機構3は、アシスト力の発生源であるモータ22、ラックシャフト15の周囲に一体的に取り付けられたボールねじ機構23と、モータ22の回転軸22aの回転力をボールねじ機構23に伝達する減速機24からなる。アシスト機構3は、モータ22の回転軸22aの回転力を減速機24およびボールねじ機構23を介してラックシャフト15の軸方向の往復直線運動に変換して、運転者のステアリング操作を補助する。
【0021】
ピニオンシャフト14、ラックシャフト15、およびアシスト機構3はラックハウジング20に収容されている。ラックハウジング20には、減速機24の一部を収容する減速機ハウジング25が設けられている。減速機ハウジング25は、ラックシャフト15の延びる方向に対して、交わる方向(図中の下方)へ突出している。減速機ハウジング25の外壁(図中の右側壁)には、モータ22のフランジ部22bがボルト26によって固定されている。回転軸22aはラックシャフト15の延びる方向に対して平行となるように配置されている。モータ22の回転軸22aは、減速機ハウジング25に形成された貫通孔27を通じて減速機ハウジング25の内部に延びている。
【0022】
減速機24は、モータ22の回転軸22aに一体的に取り付けられた駆動プーリ24aと、ボールねじ機構23のナット23aの外周に一体的に取り付けられた従動プーリ24bと、駆動プーリ24aと従動プーリ24bに巻き掛けられるベルト24cとを備えている。ベルト24cはたとえば歯付ベルトが採用される。
【0023】
ラックハウジング20の両端部には、それぞれ蛇腹筒状のラックブーツ21が設けられている。ラックブーツ21の一端はラックハウジング20の端部に接続され、ラックブーツ21の他端はタイロッド18に接続されている。ラックエンド17およびタイロッド18の一部分は、対応するラックブーツ21により覆われている。ラックブーツ21は、埃や水などの異物が、ラックハウジング20の内部およびラックエンド17の内部に進入することを抑制する。
【0024】
次に、ラックシャフト15の端部の構成について説明する。なお、2つの端部の構成は同じであって、左右の向きが異なるだけである。
図2に示すように、一例としてラックエンド17にはボールジョイント30が採用されている。ボールジョイント30は、先端にボール部31aが設けられたボールスタッド31と、そのボール部31aを回動自在に収容するソケット32とを有している。ソケット32の内部には、ボール部31aの球面形状に対応した球面座32aが装着されている。ボールスタッド31は、そのボール部31aが球面座32aに嵌合されることで、ソケット32に対して屈曲自在に連結されている。このボールスタッド31のボール部31aと反対側の端部にタイロッド18の転舵輪19と反対側の端部が固定されることにより、タイロッド18がラックシャフト15に対して屈曲自在に連結される。
【0025】
ボールジョイント30は、ソケット32がラックシャフト15の端部に螺合されることにより、ラックシャフト15に固定されている。ソケット32のラックシャフト15側の端面33にはラックシャフト15側に突出する円柱部34が形成されている。円柱部34の外周面には雄ねじ部35が形成されている。一方、ラックシャフト15の端部にはラックシャフト15と同心の円形孔36が設けられている。円形孔36の内周面には、雄ねじ部35に対応する雌ねじ部37が形成されている。雄ねじ部35が雌ねじ部37に螺合されることにより、ソケット32はラックシャフト15の端部に固定されている。なお、ソケット32の端面33は、ボールジョイント30の端面33でもある。
【0026】
ラックハウジング20には、ラックシャフト15が挿通される挿通部20aが軸方向Xにおいて貫通している。ラックハウジング20の端部には、ソケット32が挿入される拡径部20bが設けられている。拡径部20bの内径は、挿通部20aの内径よりも大きく設定されている。挿通部20aと拡径部20bとは互いに連通している。挿通部20aと拡径部20bとの境界部分には、軸方向Xと直交する規制面20cが形成されている。拡径部20bにおける規制面20c側の端部の内周面には、環状の凹部である嵌合部20dが形成されている。
【0027】
ソケット32の外径は、ラックハウジング20の挿通部20aの内径より大きく、拡径部20bの内径より小さく設定されている。このため、ラックシャフト15の移動に伴い端面33が規制面20cに当接する、いわゆるエンド当てが発生する。エンド当て時の衝撃が何らの緩和もされないまま、EPS1に作用すると、減速機24のたとえばベルトの歯が飛ぶおそれがある。そこで、エンド当て時の衝撃を吸収するために、ラックハウジング20の規制面20cとボールジョイント30の端面33との間には、衝撃吸収部材40が設けられている。
【0028】
図3(a)に示すように、衝撃吸収部材40は、円筒状の弾性部41と、弾性部41の内部に挿入されるエンドダンパー42とを有してなる。
弾性部41はたとえばゴム、合成樹脂等の弾性材料により形成されてなる。弾性部41は円筒状の本体部41aと、本体部41aのエンドダンパー42が挿入される第1の端部(図中の下部)と反対側の第2の端部(図中の上部)の外周面に設けられたフランジ状の嵌合部41bとを有している。嵌合部41bの外径は、ラックハウジング20の嵌合部20dの内径と略同径に設定されている。なお、弾性部41の嵌合部41bを除いた部分である本体部41aの外径は、ラックハウジング20の拡径部20bよりも小さく設定されている。また、弾性部41には、エンド当て時に加わる荷重を基準として設定される一定の荷重が一定回数だけ作用してもEPS1の各部に故障が生じない程度の衝撃吸収性があることが好ましい。この場合、弾性部41は、弾性変形の範囲内で用いられることが理想である。
【0029】
エンドダンパー42は、たとえば金属材料により形成されてなる。エンドダンパー42は、円筒状の規制部42bを有している。規制部42bの内径はラックシャフト15の外径よりも大きい値、かつ規制部42bの外径は弾性部41の内径と略同径に設定されている。このため、ラックシャフト15と規制部42bとの間には隙間が形成され、この隙間を通って空気が移動できる。エンドダンパー42の規制部42bの軸方向Xにおける長さL2は、弾性部41の長さL3よりも短く設定されている。ただし、長さL3は、エンド当てに伴う荷重が作用していないときの弾性部41の軸方向Xにおける長さである。規制部42bは、弾性部41(正確には嵌合部41b)の第1の端部に挿入されている。規制部42bの外周面は、嵌合部41bの内周面に嵌合している。規制部42bの軸方向Xにおいて、嵌合部41bに挿入される側の端部(図中の上端部)と反対側の端部には、フランジ部42aが形成されている。フランジ部42aの外径は、ラックハウジング20における拡径部20bの内径よりも小さく設定されている。弾性部41およびエンドダンパー42の中心軸線は互いに一致している。
【0030】
図2に示すように、衝撃吸収部材40は、弾性部41の第2の端部側から拡径部20bに挿入されている。拡径部20bの内部において、ラックシャフト15は衝撃吸収部材を貫通している。弾性部41の第2の端部は、ラックハウジング20の規制面20cに当接している。また、弾性部41の嵌合部41bは、ラックハウジング20の嵌合部20dに嵌合されている。嵌合部41bが嵌合部20dに嵌合することにより、衝撃吸収部材40が拡径部20bの内部に固定される。フランジ部42aの外径は拡径部20bの内径よりも小さく設定されているため、フランジ部42aの外周面と拡径部20bの内周面との間には隙間が形成される。また、エンドダンパー42のフランジ部42aのボールジョイント30側の側面は、エンド当て時にボールジョイント30の端面33と当接する当接面42cとして機能する。
【0031】
図3(b)に示すように、正確には、ボールジョイント30の端面33は、当接面42cに描写された点線42dよりも内径側の領域で、当接面42cと当接する。当接面42cには、連通路としての4つの溝42eが周方向に等間隔に設けられている。各溝42eは当接面42cの径方向全長にわたって延びている。このため、エンド当て時には、当接面42cにおける溝42eが設けられた部分は端面33に当接しない。すなわち、溝42eと端面33との間に溝状の隙間が形成された状態で、端面33は当接面42cに当接する。また、エンド当て時には、弾性部41が軸方向Xに圧縮されることで、規制部42bの第2の端部はラックハウジング20の規制面20cと当接する。たとえば低速走行中あるいは車庫入れ時に徐行しながらステアリング操作が行われるとき、ボールジョイント30には通常荷重が作用する。このとき、弾性部41が軸方向Xに沿って圧縮変形することによって、エンド当て時の衝撃が吸収される。弾性部41の圧縮することのできる圧縮代L1は、軸方向Xにおける規制部42bの長さL2と弾性部41の長さL3との差によって規定される。すなわち、弾性部41の軸方向Xに圧縮できる量は規制部42bの長さによって制限される。
【0032】
つぎに、
図2を用いて、各部材の間に形成される空間について説明する。
ラックハウジング20の拡径部20bの内周とラックシャフト15の外周との間、かつエンドダンパー42の当接面42cとボールジョイント30の端面33との間には、空間S1が形成される。また、ラックハウジング20の拡径部20bの内周と弾性部41の外周との間、かつ弾性部41の嵌合部41bとエンドダンパー42のフランジ部42aとの間には、その全周にわたって空間S2が形成される。また、弾性部41の内周とラックシャフト15の外周との間、かつラックハウジング20の規制面20cとエンドダンパー42の規制部42bとの間、および規制部42bの内周とラックシャフト15の外周との間には、空間S3が形成される。なお、ラックシャフト15と規制部42bとの間に形成される隙間、およびラックシャフト15の外周面に形成されるねじ溝のために、空間S3と溝42eは連通している。また、端面33を基準としたときのラックブーツ21側で、かつ拡径部20bとソケット32との間には、空間S0が形成される。空間S0はラックブーツ21内部の空間と連通している。
【0033】
次に、エンド当て時の衝撃吸収部材40の作用を説明する。
図4(a)に示すように、ステアリングホイール10が操作限界付近まで操舵されていない場合、ボールジョイント30の端面33とエンドダンパー42の当接面42cとは互いに離れた状態にある。この状態から、ラックシャフト15に対して操舵に伴う正入力や転舵輪19側からの逆入力が加わると、ラックシャフト15の移動方向に応じてボールジョイント30の端面33がラックハウジング20の規制面20cに接近する方向に移動する。端面33が規制面20cに近づくにつれて、空間S1は縮められる。端面33はエンドダンパー42の当接面42cと当接していないため、空間S2,S3は変化しない。
【0034】
図4(b)に示すように、ステアリングホイール10が操作限界付近まで操舵されると、ボールジョイント30の端面33が、エンドダンパー42の当接面42cと当接する。このため、空間S1は消失する。端面33が当接面42cと当接したときには、衝撃吸収部材40には大きな荷重が作用していないため、規制部42bと規制面20cとの間には空間S2,S3が存在している。
【0035】
端面33が当接面42cと当接した状態から、端面33が当接面42cに接近するようにラックシャフト15がさらに移動されると、当該移動に伴い弾性部41が圧縮され始め、空間S2,S3は徐々に縮められる。空間S3が縮められるとき、空間S3内部の空気は溝42eを通って空間S0へ移動する。この点については、後述する。
【0036】
図4(c)に示すように、ステアリングホイール10が操作限界まで操舵されると、規制部42bは規制面20cに当接する、いわゆるエンド当てが生じる。このとき、弾性部41は軸方向Xにおいて、端面33と規制面20cとに挟圧されることによって、規制部42bと等しい長さL2に縮められる。その結果、空間S3は縮められて、圧縮代L1はほぼ零になる。圧縮代L1がほぼ零とは、規制部42bが規制面20cに当接した状態をいう。また、弾性部41は軸方向Xに沿って圧縮変形するのに伴い、軸方向Xに対して垂直な径方向に膨張変形する。弾性部41は空間S2を埋めるかたちで拡がる。
【0037】
つぎに、弾性部41の圧縮に伴う空間S1,S2,S3の空気の移動について詳細に説明する。
弾性部41は、端面33と規制面20cとに挟圧されて軸方向Xに圧縮変形することにより、空間S2を埋めるかたちで拡がる。このとき、空間S2に弾性部41が充填されるのに伴って、元々空間S2に存在した空気はフランジ部42aと拡径部20bとの間の隙間を通って、空間S0へと移動する。このため、空間S2の内部の圧力の増加が抑制される。
【0038】
また、弾性部41が圧縮されることに伴い、エンドダンパー42は軸方向Xに移動し、規制部42bは規制面20cへと近づく。このとき、空間S3へ規制部42bが進入するのに伴い、空間S3内部に存在した空気は溝42eを通って、空間S0へと移動する。このため、空間S3内部の圧力の増加が抑制される。
【0039】
また、端面33が規制面20cへと近づくのに伴って、空間S0に存在した空気は膨張する。このとき、空間S3内部の空気が溝42eを通って、空間S0へ移動することにより、空間S0内部の圧力の減少が抑制される。空間S0内部の圧力の減少が抑制されるので、ラックブーツ21の内部空間の圧力の減少も抑制される。
【0040】
ちなみに、溝42eを設けたことにより、エンドダンパー42の曲げ強度が向上する。
エンドダンパー42の当接面42cは、先の
図3(b)に示される点線42dより内周側の領域でボールジョイント30と当接する。このとき、フランジ部42aはある程度の厚さがなければ、衝撃荷重を受ける際に点線42dの部分で座屈が発生し、折れ曲がってしまうおそれがある。しかし、溝状の溝42eを設けることによって、衝撃荷重を受ける際のフランジ部42aの曲げ強度を高めることができる。
【0041】
本実施形態の効果について説明する。
(1)エンドダンパー42に溝42eが設けられることによって、エンド当て時に、空間S3で圧縮された空気は溝42eを通って空間S0へと移動する。これは、端面33が当接面42cと当接したときであっても、溝42eと端面33との間に溝状の隙間が形成されるためである。このため、エンド当て時であっても、空間S0と空間S3とは溝42eを介して連通する。したがって、空間S3内部の圧力の増加を抑制することができる。また、空間S0内部の圧力の減少も抑制することができ、ひいてはラックブーツ21の内部空間の圧力の減少を抑制することができる。ラックブーツ21の劣化等を抑制することができる。
【0042】
また、ボールねじ機構23を採用する場合、ボールねじ機構23の内部に外部から水や異物が侵入しないように、ラックシャフト15とラックハウジング20との間で、衝撃吸収部材40より軸方向内側の領域にシール部や密閉構造が設けられる。このため、ボールねじ機構23を採用する場合には、空間S3は密閉されやすく、圧縮された際に空気の逃げ道となるような連通する部分もないため、溝42eを設けた際の効果が高い。
【0043】
(2)溝42eを設けることにより、エンドダンパー42のフランジ部42aの曲げ強度を高めることができる。このため、要求される曲げ強度が同じであれば、溝42eを設けないエンドダンパー42に比べて、フランジ部42aの厚みを薄くすることができる。このため、エンドダンパー42をより軽量化することが可能である。
【0044】
なお、本実施形態は次のように変更してもよい。なお、以下の他の実施形態は、技術的に矛盾しない範囲において、互いに組み合わせることができる。
・本実施形態において、嵌合部41b,20dは設けなくてもよい。この場合、弾性部41は、接着剤等を用いてラックハウジング20に固定されることが望ましい。
【0045】
・本実施形態において、衝撃吸収部材40はボールジョイント30の端面33に固定してもよい。
・本実施形態において、弾性部41とエンドダンパー42との位置関係を次のようにしてもよい。すなわち、エンドダンパー42の径方向内側に弾性部41を設けてもよい。
【0046】
・本実施形態において、エンドダンパー42に溝42eを設けたが、
図5(a)に示すように、ボールジョイント30の端面33に溝33aを設けてもよい。また、
図5(b)に示すように、ラックハウジングの拡径部20bの内面および規制面20cにそれぞれ互いに連通する溝20eを設けてもよい。たとえば、溝20eを設けた場合には、弾性部41が、端面33と規制面20cとに挟圧されることにより、弾性部41が膨張して溝20eを塞ぐおそれがある。しかし、弾性部41が膨張して溝20eを塞ぐまでは空間S0と空間S3を連通することができるため、空間S3内部の圧力の増加を抑制でき、空間S0およびラックブーツ21の内部空間の圧力の減少を抑制することができる。
【0047】
・本実施形態において、溝42eはエンドダンパー42に4つ設けられたが、4つに限らない。たとえば、5つ以上であってもよいし、4つより少なく設けられてもよい。また、連通路の形状は溝状に限らず、たとえばフランジ部42aの厚みが十分に確保できる場合、フランジ部42aの径方向に貫通する孔であってもよい。
【0048】
・本実施形態では、エンドダンパー42はフランジ部42aと規制部42bが一体化した部材としたが、これらは別々の部材であってもよい。また、フランジ部42aの外径は拡径部20bの内径よりも小さく設定されたが、略等しく設定されていてもよい。この場合、空間S2が圧縮されて、その内部の圧力の増加を抑制するために、空間S2はほとんどない状態に設定されることが好ましい。
【0049】
・本実施形態では、ステアリング装置として、電動パワーステアリング装置を例に挙げたが、ステアバイワイヤ(SBW)に適用してもよい。なお、ステアバイワイヤに具体化する場合には、前輪操舵装置としてだけでなく、後輪操舵装置あるいは4輪操舵装置(4WS)として具体化することもできる。
【0050】
・本実施形態では、RP−EPSに具体化して示したが、これに限らない。たとえば、コラムアシスト式のEPSであってもよいし、ラックアシスト式のEPSであってもよい。