(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光硬化型インクを塗布して形成される複数のインク層を積層した積層構造を有するとともに前記複数のインク層のうちの少なくとも一部が画像層である、積層体を印刷媒体上に形成して画像を印刷する第1工程と、
前記画像が印刷された前記印刷媒体を成形加工する第2工程とを備え、
前記第1工程は、
前記複数のインク層のうち最下層を構成する第1光硬化型インクを前記印刷媒体上に塗布して前記最下層を形成し、少なくとも3秒以上経過した後で前記最下層に光を照射して硬化させる工程と、
前記第1光硬化型インクが硬化された後に前記最下層以外のインク層を塗布する工程と、
前記最下層以外のインク層を硬化させる工程と
を有することを特徴とする印刷物の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第1実施形態および第2実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各図においては、各ライン像や各部材を認識可能な程度の大きさにするため、各ライン像や各部材の尺度を実際とは異ならせて示している。
【0022】
図1は本発明にかかる印刷装置の第1実施形態を装備する印刷物の製造システムを示す図である。この製造システム1は、インクジェット印刷装置1A、保護膜形成装置1B、成形加工装置1C、射出成形装置1Dを有しており、図示を省略する搬送装置によって装置1A〜1Dの間で印刷媒体や印刷物が搬送される。これらの装置のうち印刷装置1Aは、互いに異なる7色の紫外線硬化型インクを含むインクセットと、当該インクセットのインクを液滴として吐出する印刷ヘッドと、紫外線を照射する紫外線照射部を含む装置である。そして、制御ユニットが各種部材を駆動制御することで印刷媒体に画像を印刷して印刷物を製造する。
【0023】
一方、残りの装置1B〜1Dは、インクジェット印刷装置1Aにより印刷された印刷媒体に対して種々の後処理を施す、いわゆる印刷後処理装置である。これらのうち保護膜形成装置1Bは、所望画像が印刷された印刷媒体、つまり印刷物の表面に対してコーティング加工やラミネート加工などの表面加工処理を施して印刷された画像を保護する。また、成形加工装置1Cは表面加工された印刷物を所望形状に成形する。さらに、射出成形装置1Dは成形加工された印刷物に樹脂を射出する。なお、こうして樹脂の射出成形を受けた印刷物を本明細書では「成形物」と称する。これらの印刷後処理装置1B〜1Dとしては、従来より多用されている装置で用いることができる。
【0024】
以下においては、インクジェット印刷装置1Aの構成ならびに製造システム1の動作を中心に説明し、従来から周知の印刷後処理装置1B〜1Dの構成および動作に関する詳細な説明は省略する。
【0025】
図2は印刷装置の第1実施形態であるインクジェット印刷装置を示す図である。また、
図3は
図2に示すインクジェット印刷装置のヘッドユニットおよび電気的構成を示す模式図である。
図2に示すように、インクジェット印刷装置1Aには、直方体形状に形成される基台2が備えられている。本実施形態では、この基台2の長手方向をY軸方向とし、同Y軸方向と直交する方向をX軸方向とする。
【0026】
基台2の上面2aには、Y軸方向に延びる一対の案内レール3a、3bが同Y軸方向全幅にわたり設けられている。その基台2の上側には、一対の案内レール3a、3bによりステージ4がY軸方向に往復移動自在に設けられている。このステージ4には、ステージ移動機構40が連結されている。ステージ移動機構40としては、例えば案内レール3a、3bに沿ってY軸方向に延びるネジ軸(駆動軸)と、ネジ軸を回転させるY軸モーター(図示省略)と、ネジ軸と螺合するボールナットを備えたネジ式直動機構を用いることができる。そして、所定のステップ数に相対する駆動信号が制御ユニット5からY軸モーターに入力されると、Y軸モーターが正転又は逆転して、ステージ4が同ステップ数に相当する分だけ、Y軸方向に沿って所定の速度で往動又は、復動する(Y軸方向に走査する)。
【0027】
そのステージ4の上面には、印刷媒体PMを載置する載置面4aが形成されている。また、載置面4aには、例えば、吸引式のワークチャック機構が設けられ、印刷媒体PMが所定の位置に固定されるように構成されている。なお、印刷媒体PMの材質は特に限定されるものではないが、上記したように成形加工処理および射出成形処理を受けることを考慮した材料、例えばアクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合合成樹脂材で構成されたシートを印刷媒体PMとして用いるのが好適である。
【0028】
基台2のX軸方向両側には、一対の支持台8a、8bが立設されている。そして、その一対の支持台8a、8bには、X軸方向に延びる案内部材9が架設されている。案内部材9は、ステージ4のX軸方向における幅よりも長く形成されている。その案内部材9の下側には、X軸方向に延びる案内レール10がX軸方向全幅にわたり凸設されている。
【0029】
そして、案内レール10に沿って移動可能とするキャリッジ12を含むヘッドユニット20が配置されている。そのヘッドユニット20(キャリッジ12)には、ヘッド移動機構21が連結されている。ヘッド移動機構21としては、ステージ移動機構40と同様の構成を用いることができる。すなわち、案内レール10に沿ってX軸方向に延びるネジ軸(駆動軸)と、ネジ軸を回転させるX軸モーター(図示省略)と、ネジ軸と螺合するボールナットを備えたネジ式直動機構を用いることができる。そして、所定のステップ数に相対する駆動信号が制御ユニット5からX軸モーターに入力されると、X軸モーターが正転又は逆転して、ヘッドユニット20のキャリッジ12が同ステップ数に相当する分だけ、X軸方向に沿って所定の速度で往動又は、復動する(X軸方向に走査する)。なお、本明細書では、(+X)軸方向をヘッドユニット20の「往動方向」とし、後述するようにヘッドユニット20の往動により印刷する動作を「往動印刷」と称する一方、(−X)軸方向をヘッドユニット20の「復動方向」とし、後述するようにヘッドユニット20の復動により印刷する動作を「復動印刷」と称する。
【0030】
このようにX軸方向に移動されるキャリッジ12には、印刷ヘッド14が搭載されている。また、印刷ヘッド14は、配管60を介してインクセット6と接続されており、インク供給を受ける。このインクセット6は、紫外線の照射によって硬化が促進される液体、つまり紫外線硬化型インクの供給源である。ここでは、紫外線硬化型インクとして、色剤としての顔料及び紫外線硬化型の樹脂成分を含むカラーインクと、色剤を含まないクリアインクとが用意されている。これらのインクはそれぞれインク容器61に貯留される。そして、複数のインク容器61は、収納ホルダー62に格納されている。また、各インク容器61と各インク容器61に対応する印刷ヘッド14とは配管60によって接続され、インク容器61内のインクを印刷ヘッド14に供給可能に構成されている。なお、本実施形態では、カラーインクとしてシアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、第1ブラック(K1)、第2ブラック(K2)およびホワイト(W)の合計5色のインクをそれぞれ収容したインク容器61と、クリアインク(CL)を収容したインク容器61とが用いられる。ただし、インクの色数や、色の種類は、種々変形可能である。
【0031】
次に、ヘッドユニット20の構成について説明する。
図2および
図3に示すように、ヘッドユニット20は、インクセット6に搭載された各種インクを液滴として吐出する印刷ヘッド14と、紫外線を照射する紫外線照射部11を備えている。本実施形態では、X軸方向における印刷ヘッド14(キャリッジ12)の両側にそれぞれ紫外線照射部11a、11bが配置されている。紫外線照射部11a,11bは紫外線を発する光源を有している。この光源としては、例えば、LED、LD、水銀ランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマランプ等の種々の光源を適用することができる。そして、制御ユニット5の照明制御部51から紫外線照射部11aに点灯指令が与えられると、紫外線照射部11aの光源が点灯し、ステージ4の載置面4a(印刷媒体PM)に向けて紫外線を照射する。一方、照明制御部51からの点灯指令が紫外線照射部11bに与えられると、紫外線照射部11bの光源が点灯し、ステージ4の載置面4a(印刷媒体PM)に向けて紫外線を照射する。このように、本実施形態では、2つの紫外線照射部11a,11bから選択的または同時に紫外線を発生させ、当該紫外線により印刷媒体PM上に塗布された紫外線硬化型インクの硬化を促進させることができる。
【0032】
印刷ヘッド14は、
図3に示すように、ステージ4の載置面4a(印刷媒体PM)に対向する面に、複数のノズル141を有している。複数のノズル141は、印刷媒体PMの搬送方向Yと略平行に並んだノズル列142(クリア用第1ノズル列(CL)、クリア用第2ノズル列、イエロー用ノズル列、マゼンタ用ノズル列、シアン用ノズル列、第1ブラック用ノズル列、ホワイト用ノズル列、第2ブラック用ノズル列)を構成している。なお、各ノズル列のノズル密度は180[dpi]であり、隣接するノズル列同士はノズルピッチの半ピッチの距離だけY軸方向にずれて千鳥配置されている。このため、クリア用第1ノズル列およびクリア用第2ノズル列を用いてクリアインクを塗布する時には360[dpi]の解像度でインクドットを形成し、クリア以外のインクを塗布する時には180[dpi]の解像度でインクドットを形成することが可能となっている。本実施形態では、往動方向(+X)へのヘッドユニット20の移動に伴って印刷ヘッド14が往動印刷を行う一方、復動方向(−X)へのヘッドユニット20の移動に伴って印刷ヘッド14が復動印刷を行う。
【0033】
制御ユニット5は、図示しないCPUや、ROM、RAM、EEPROMがバスで相互に接続されて構成されている。制御ユニット5は、ROMやEEPROMに記憶されたプログラムをRAMに展開して実行することにより、インクジェット印刷装置1Aの各部(例えば、ステージ移動機構40や印刷ヘッド14など)の動作を制御する制御部として機能する。また、制御ユニット5は、上記したように紫外線照射部11を制御する照明制御部51としての機能以外に、画像取得部52、ラスタライズ部53、データ処理部54、待機時間導出部55としても機能する。これらの各機能部が行う処理については後述する。なお、CPUが実現する機能の少なくとも一部は、制御ユニット5が備える電気回路がその回路構成に基づいて動作することによって実現されてもよい。なお、
図3中の符号7は印刷媒体PMに印刷すべき画像に関連する印刷元データ(例えばベクトルデータ)を記憶するメモリーカードである。
【0034】
次に、
図1に示す製造システム1を用いて印刷物(成形物)を製造する製造方法について説明する。
図4は
図1の製造システムによる印刷物の製造方法を示すフローチャートである。この製造システム1では、装置1A〜1Dはシステム全体を制御するホストコンピュータ(図示省略)からの制御指令にしたがって各装置1A〜1Dが動作し、以下に説明するように、インクジェット印刷装置1Aによる印刷処理、保護膜形成装置1Bによる表面加工処理、成形加工装置1Cによる成形加工処理、射出成形装置1Dによる射出成形処理が実行される。
【0035】
この製造システム1において、メモリーカード7に記憶された画像(=下地層+印刷画像)を印刷した印刷物を製造する旨の製造指令がインクジェット印刷装置1Aに与えられると、インクジェット印刷装置1Aの制御ユニット5は装置各部を以下のように制御して印刷処理を行う。印刷前の印刷媒体PMが搬送装置(図示省略)によりインクジェット印刷装置1Aに搬入され、ステージ4の載置面4a上に載置される(ステップS1)。そして、印刷媒体PMの搬入動作と同時あるいは前後して制御ユニット5はメモリーカード7に記憶されている下地層および印刷画像の印刷元データ(ベクトルデータ)を画像取得部52により読み込む(ステップS2)。そして、印刷元データをラスタライズ部53によりラスタライズしてラスタデータを生成する。また、データ処理部54によりRGB形式のラスタデータをEEPROMに備えられた色変換ルックアップテーブル(不図示)を用いてインク量データに変換する。また、印刷動作を実行するために、印刷ヘッド14によってインクドットが形成される順序を考慮した印刷データに並び替えるインターレース処理を行う。こうして、下地層および印刷画像を形成するための印刷データを作成する(ステップS3)。
【0036】
また、上記製造指令に含まれる各種情報に基づいて待機時間を設定する(ステップS4)。この待機時間とは、下地層を印刷媒体PMに塗布してから下地層への紫外線照射を開始するまでの時間と意味しており、本実施形態では次のようにして決定している。制御ユニット5は、待機時間を印刷媒体PMの種類毎に関連付けた待機時間情報を予め求め、それらをテーブル形式でメモリー(図示省略)に記憶している。そして、制御ユニット5の待機時間導出部55は製造指令に含まれる印刷媒体PMの種類に関する媒体情報を取得すると、当該媒体情報に対応する待機時間を待機時間情報のテーブルから読み出し、印刷媒体PMに適合する待機時間を設定する。なお、待機時間が製造指令に含まれている場合には、それを読み出して待機時間を設定してもよい。
【0037】
こうして待機時間および下地層の印刷データが準備されると、データ処理部54は、下地層の印刷データに基づいてX軸モーター、Y軸モーター、印刷ヘッド14等を駆動させ、例えば
図5ないし
図7に示すように合計6個のスキャン動作が実行される。これによって、次に説明するように、印刷媒体PMの印刷領域PR全体にクリアインクが塗布されて下地層が形成される。なお、本実施形態では、Y軸方向(副走査方向)において印刷領域PRはノズル列142の列長の約2倍の幅を有している。
【0038】
図5は下地層の形成スケジュールの一例を示す図であり、同図に示すように、待機時間は「12秒」に設定されている。また、
図6および
図7はそれぞれ
図5に示す形成スケジュールにしたがって行われる下地層の形成動作および硬化動作を模式的に示す図である。
図6および
図7(および後で説明する
図9など)において、白抜き矢印はヘッド移動機構21によるヘッドユニット20のX軸方向移動を示し、黒塗矢印はステージ移動機構40による印刷媒体PMのY軸方向移動を示している。第1実施形態では、印刷媒体PMの印刷領域PRをY軸方向に3つの領域R1〜R3に区分けし、
図5および
図6に示すように4回のパス(スキャン動作)によるクリアインクの塗布処理(
図4中のステップS5)と、塗布処理から待機時間だけ待機する待機処理(
図4中のステップS6)と、
図5および
図7に示すように2回のパス(スキャン動作)によるクリアインクの硬化処理(
図4中のステップS7)とを行うことで下地層GL(
図7)を形成する。
【0039】
この下地層の形成動作を開始する前においては、
図2に示すようにヘッドユニット20はステージ4から(−X)軸方向側に離れた待機位置に位置している。そして、制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、ステージ4が(−Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第1領域R1のみがヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これにより、下地層の形成処理における第1番目のスキャン動作の実行準備が完了する。すると、ヘッドユニット20が往動方向、つまり(+X)軸方向に3秒間移動しながら制御ユニット5から与えられる下地層の印刷データに基づいて印刷ヘッド14のクリア用ノズル141からクリアインクが液滴状で第1領域R1に直接塗布される。これによって、第1領域R1においてインクドットが主走査方向Xにおいて720[dpi]、搬送方向(副走査方向)Yにおいて360[dpi]で形成される。このとき、2つの紫外線照射部11a,11bはいずれも消灯されており、各インクドットへの紫外線照射は停止されている。このため、第1領域R1に着弾したクリアインクによる印刷媒体PMの溶解が開始され、後で説明する硬化動作が実行されるまで、上記溶解は進行する。なお、紫外線照射の停止は下地層の形成処理における第2番目〜第4番目のスキャン動作においても同様である。また、
図5に示すように下地層の形成処理および硬化処理におけるヘッドユニット20の一回のスキャンに要する時間および待機時間も同一である。
【0040】
第1番目のスキャン動作の完了に続いて、制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、ステージ4が(+Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第1領域R1および第2領域R2がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これにより、第2番目のスキャン動作の実行準備が完了する。すると、ヘッドユニット20が復動方向、つまり(−X)軸方向に移動しながら制御ユニット5から与えられる下地層の印刷データに基づいて印刷ヘッド14のクリア用ノズル141からクリアインクが液滴状で第1領域R1および第2領域R2の表面に向けて吐出される。これによって、第1領域R1では、第1番目のスキャン動作により形成されたインクドットから1/360[inch]だけY軸方向にずれて720[dpi]×360[dpi]でインクドットが形成され、その結果、720[dpi]×720[dpi]の解像度で下地層が形成される。また、これと同時に、第2領域R2では、720[dpi]×360[dpi]でインクドットが形成される。
【0041】
第2番目のスキャン動作の完了に続いて、制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、ステージ4がさらに(+Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第2領域R2および第3領域R3がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これにより、第3番目のスキャン動作の実行準備が完了する。すると、ヘッドユニット20が往動方向(+X)に移動しながら制御ユニット5から与えられる下地層の印刷データに基づいて印刷ヘッド14のクリア用ノズル141からクリアインクが液滴状で第2領域R2および第3領域R3の表面に向けて吐出される。これにより、第1領域R1に続いて第2領域R2に720[dpi]×720[dpi]の解像度で下地層が形成されるとともに、第3領域R3では、720[dpi]×360[dpi]でインクドットが形成される。
【0042】
さらに、第3番目のスキャン動作の完了に続いて、制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、ステージ4がさらに(+Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第3領域R3のみがヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これにより、第4番目のスキャン動作の実行準備が完了する。すると、ヘッドユニット20が復動方向、つまり(−X)軸方向に移動しながら制御ユニット5から与えられる下地層の印刷データに基づいて印刷ヘッド14のクリア用ノズル141からクリアインクが液滴状で第3領域R3の表面に向けて吐出される。これによって、第1領域R1および第2領域R2に続いて第3領域R3にも720[dpi]×720[dpi]の解像度で下地層が形成される。
【0043】
こうして、4回のスキャン動作(4パス)によって印刷領域PR全体に未硬化状態の下地層が形成され、クリアインクと印刷媒体PMとの間で相溶層の形成が進行する。そして、待機時間だけヘッドユニット20を待機位置に待機させる。待機時間が経過する(ステップS6で「YES」と判定される)と、硬化処理(ステップS7)が実行される。
【0044】
硬化処理では、
図7に示すように、制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、ステージ4が(−Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第1領域R1のみがヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これにより、第5番目のスキャン動作の実行準備が完了する。すると、2つの紫外線照射部11a,11bを点灯した状態でヘッドユニット20が往動方向(+X)に移動して第1領域R1に塗布された下地層を硬化させて相溶層の形成を停止させる。なお、このとき、インク吐出は停止されており、紫外線照射のみが実行される。この点については、次の第6番目のスキャン動作においても同様である。
【0045】
第5番目のスキャン動作の完了に続いて、制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、ステージ4が(+Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第2領域R2および第3領域R3がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これにより、第6番目のスキャン動作の実行準備が完了する。すると、2つの紫外線照射部11a,11bを点灯した状態でヘッドユニット20が復動方向(−X)に移動して第2領域R2および第3領域R3に塗布された下地層を硬化させて相溶層の形成を停止させる。こうして、印刷領域PRに対して下地層GLがしっかりと密着した状態で印刷領域PR全体に形成される。
【0046】
図4に戻って説明を続ける。次のステップS8では、データ処理部54が、下地層の印刷データに基づいてX軸モーター、Y軸モーター、印刷ヘッド14等を駆動させ、下地層GL上に印刷画像を印刷する。印刷画像を印刷する方法は特に限定されるものではないが、本実施形態では、光沢ムラを抑制するという観点から、例えば
図8に示すように合計16個のスキャン動作が実行される。これによって、印刷画像を下地層GL上に形成する印刷処理を実行する。
【0047】
本実施形態では、印刷媒体PMを搬送方向Yに間欠移動させながら印刷媒体PMの印刷領域PRに対して往動印刷および復動印刷を行ってライン画像を順次形成することで、下地層GL上に印刷画像を印刷するが、次の2つの技術的特徴を有する点で従来装置と大きく相違している。
【0048】
第1つ目の技術的特徴は、印刷媒体PMの印刷領域PRを、ノズル列142の列長に対応した幅を搬送方向Yに持った2つのエリアAR1、AR2(
図9参照)に区分けし、ヘッドユニット20の印刷ヘッド14によるライン像を形成するエリアをエリアAR1、AR2の間で交互に切り替える点である。ここで、本実施形態では、印刷ヘッド14の印刷画像用、つまりクリア用以外のノズル解像度は180[dpi]であり、当該印刷ヘッド14を用いて印刷解像度が主走査方向(X軸方向)1440[dpi]、副走査方向(Y軸方向)720[dpi]の印刷画像を印刷する。そのために、各エリアAR1、AR2で副走査方向に720[dpi]の画像を形成するために、往動印刷または復動印刷を4回行う、つまり4スキャンが必要となる。
【0049】
また、第2つ目の技術的特徴は、ヘッドユニット20により形成される複数のライン像を搬送方向Yに配列して所望の画像を印刷しているが、第1エリアAR1に形成される第1エリアライン像および第2エリアAR2に形成される第2エリアライン像のいずれもが2回のスキャンで形成される点である。つまり、各エリアライン像は、1回のスキャンで形成されるのではなく、1回目のスキャンで比較的高い吐出Dutyで形成されるライン像の上に、2回目のスキャンで比較的低い吐出Dutyでライン像を積層して形成してなる。ここで、「吐出Duty」とは、エリアライン像を形成するために必要なインクドット数に対してノズル141から実際に吐出されて印刷領域PRに形成されるインクドット数の割合をパーセントで示したものである。また、本実施形態では、1回目の吐出Dutyと、2回目の吐出Dutyとの和が100[%]となるように印刷ヘッド14からのインク吐出を制御している。つまり、ヘッドユニット20は、特許文献1に記載の装置で行われている、いわゆる間引きを行うことなく、印刷元データにしたがって画像を印刷する。
【0050】
このような高解像度の画像を得るために4スキャン、吐出Duty(吐出比率)を分けてエリアライン像を形成するために2スキャン、さらに2つのエリアAR1、AR2に区分けしたことで2スキャンがそれぞれ必要となる。そのため、本実施形態の画像印刷は、16スキャン(=4×2×2)で印刷媒体PMへの画像の印刷が行われる。これによって、次に説明するように、第1エリアAR1に対して各第1エリアライン像が第1エリア側の画像に対応する個数のインクドットで形成され、第2エリアAR2に対して各第2エリアライン像が第2エリア側の画像に対応する個数のインクドットで形成成され、画像が印刷される。
【0051】
図8は
図2に示すインクジェット印刷装置を用いた印刷処理の一例を示す図である。同図中の「エリア」はヘッドユニット20によりライン像を形成するエリアを示し、「ライン像」は各スキャン動作により形成されるライン像を示している。以下、16個のスキャン動作により画像を印刷する動作を
図9ないし
図11を参照しつつ説明する。
【0052】
図9および
図10は
図2に示すインクジェット印刷装置による印刷動作を模式的に示す図である。
図11は
図2に示すインクジェット印刷装置により形成される印刷物の一例を示す図である。印刷画像の印刷動作を開始する前においては、ヘッドユニット20はステージ4から(−X)軸方向側に離れた待機位置に位置している。当該印刷動作の開始時には、まず制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、ステージ4が(−Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第1エリアAR1がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これにより、
図8中のスキャン番号「1」で示される第1番目のスキャン動作の実行準備が完了する。すると、ヘッドユニット20が往動方向(+X)に移動しながら制御ユニット5から与えられる印刷データに基づいて印刷ヘッド14の印刷画像用ノズル(クリア用ノズル以外のノズル)141からインクが液滴状で第1エリアAR1の下地層GLに向けて吐出される。これによって、
図9に示すように、第1エリアAR1の下地層GL上にインクドットが形成される。また、ヘッドユニット20の(+X)軸方向への移動に連動して紫外線照射部11aが往動方向への移動の間だけ点灯され、各インクドットに紫外線を照射する。これにより、各インクドットが硬化してX軸方向のライン像A11が1層目として形成される(往動印刷)。なお、第1番目のスキャン動作では、
図8に示すように「吐出Duty」が60%に設定されているため、40%分のインクドットについては、この段階で形成されていないが、これらのインクドットにより構成されるライン像(
図10中の符号A12)は後で説明するように第9番目のスキャン動作によりライン像A11に積層して形成される。
【0053】
第1番目のスキャン動作の完了時点では、第2エリアAR2の下地層GLには、いずれのライン像も形成されておらず、
図8中のスキャン番号「2」で示される第2番目のスキャン動作の実行によって初めてライン像が形成される。すなわち、制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、ステージ4が(+Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第2エリアAR2がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これにより、第2番目のスキャン動作の実行準備が完了する。すると、ヘッドユニット20が復動方向(−X)に移動しながら制御ユニット5から与えられる印刷データに基づいて印刷ヘッド14のノズル141からインクが液滴状で第2エリアAR2の下地層GLに向けて吐出される。また、ヘッドユニット20の(−X)軸方向への移動に連動して紫外線照射部11bが復動方向への移動の間だけ点灯され、各インクドットに紫外線を照射する。これにより、各インクドットが硬化してX軸方向のライン像A21が、既に第1エリアAR1に形成されているライン像A11とともに1層目として形成され、これらライン像A11、A21で第1層目のライン層LL1(
図11)が構成される。なお、第2番目のスキャン動作においても、第1番目のスキャン動作と同様に、40%分のインクドットについては、この段階で形成せず、これらのインクドットにより構成されるライン像(
図10の符号A22)は後で説明するように第10番目のスキャン動作によりライン像A21に積層して形成される。
【0054】
こうして第2番目のスキャン動作が完了すると、制御ユニット5によりY軸モーターが逆方向に駆動されることで、
図9に示すように、ステージ4が(−Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第1エリアAR1がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方で、かつ第1番目のスキャン動作時よりも1ドット分だけ(+Y)軸方向にずれて位置するように、ステージ4が位置決めされる。こうして、
図8中のスキャン番号「3」で示される第3番目のスキャン動作の実行準備が完了する。すると、ヘッドユニット20が往動方向(+X)に移動しながら制御ユニット5から与えられる印刷画像の印刷データに基づいて印刷ヘッド14の印刷画像用ノズル141からインクが第1エリアAR1の表面に向けて吐出される。これによって、第1エリアAR1の下地層GLにおいて、ライン像A11と一部重なるようにインクドットが形成される。また、ヘッドユニット20の(+X)軸方向への移動に連動して紫外線照射部11aが往動方向への移動の間だけ点灯され、各インクドットに紫外線を照射する。これにより、各インクドットが硬化してX軸方向のライン像B11が2層目として形成される(往動印刷)。なお、第3番目のスキャン動作では、
図8に示すように「吐出Duty」が70%に設定されているため、30%分のインクドットについては、この段階で形成されていないが、これらのインクドットにより構成されるライン像は第11番目のスキャン動作によりライン像B11に積層して形成される。
【0055】
また、第3番目のスキャン動作に続いて、制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、
図9に示すようにステージ4が(+Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第2エリアAR2がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方で、かつ第2番目のスキャン動作時よりも1ドット分だけ(+Y)軸方向にずれて位置するように、ステージ4が位置決めされる。こうして、
図8中のスキャン番号「4」で示される第4番目のスキャン動作の実行準備が完了する。すると、ヘッドユニット20が復動方向(−X)に移動しながら制御ユニット5から与えられる印刷画像の印刷データに基づいて印刷ヘッド14の印刷画像用ノズル141からインクが第2エリアAR2の下地層GLに向けて吐出される。これによって、第2エリアAR2において、ライン像A21と一部重なるようにインクドットが形成される。また、ヘッドユニット20の(+X)軸方向への移動に連動して紫外線照射部11bが復動方向への移動の間だけ点灯され、各インクドットに紫外線を照射する。これにより、各インクドットが硬化してX軸方向のライン像B21が、既に第1エリアAR1に形成されているライン像B11とともに2層目として形成される(復動印刷)。これらライン像B11、B21で第2層目のライン層LL2(
図11)が第1層目のライン層LL1に積層して構成される。なお、第4番目のスキャン動作においても、第3番目のスキャン動作と同様に、30%分のインクドットについては、この段階で形成せず、これらのインクドットにより構成されるライン像は第12番目のスキャン動作によりライン像B21に積層して形成される。
【0056】
このような印刷媒体PMの搬送および
図8中のスキャン番号「5」〜「8」で示されるスキャン動作が繰り返されることで、「吐出Duty」が80%で3層目のライン像C11、C21ならびに「吐出Duty」が90%で4層目のライン像D11、D21が形成される。本実施形態では、こうして比較的高い、つまり「吐出Duty」が60%以上で印刷領域PR全体にライン像を形成して印刷するのに続いて、さらに搬送方向Yにおける印刷媒体PMの往復搬送に対応して
図8中のスキャン番号「9」〜「16」で示されるスキャン動作、つまり第9番目から第16番目までのスキャン動作を実行する。
【0057】
制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、
図10に示すように、ステージ4が(−Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第1エリアAR1がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方で、かつY軸方向において第1番目のスキャン動作時と同じ位置に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これに続いて、ヘッドユニット20が往動方向(+X)に移動しながら制御ユニット5から与えられる印刷画像の印刷データに基づいて印刷ヘッド14の印刷画像用ノズル141からインクが第1エリアAR1の表面に向けて吐出される。これによって、第1エリアAR1において、ライン像A11上にインクドットが形成される。また、ヘッドユニット20の(+X)軸方向への移動に連動して紫外線照射部11aが往動方向への移動の間だけ点灯され、各インクドットに紫外線を照射する。これにより、各インクドットが硬化してX軸方向のライン像A12が5層目として形成される(往動印刷)。ここでは、上記したように第1番目のスキャン動作で形成されなかった40%分のインクドットを形成し、ライン像A11、A12を積層してなる第1エリアライン像A1が形成される。
【0058】
また、第9番目のスキャン動作に続いて、制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、
図10に示すように、ステージ4が(+Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第2エリアAR2がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方で、かつ第2番目のスキャン動作時と同じ位置に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これに続いて、ヘッドユニット20が復動方向(−X)に移動しながら制御ユニット5から与えられる印刷データに基づいて印刷ヘッド14のブラック用ノズル141からインクが第2エリアAR2の表面に向けて吐出される。この第10番目のスキャン動作によって、第2エリアAR2において、ライン像A21上にインクドットが形成される。また、ヘッドユニット20の(+X)軸方向への移動に連動して紫外線照射部11bが復動方向への移動の間だけ点灯され、各インクドットに紫外線を照射する。これにより、各インクドットが硬化してX軸方向のライン像A22が、既に第1エリアAR1に形成されているライン像A21とともに5層目として形成される(復動印刷)。ここでも、上記したように第2番目のスキャン動作で形成されなかった40%分のインクドットを形成し、ライン像A21、A22を積層してなる第2エリアライン像A2が形成される。
【0059】
そして、このような印刷媒体PMの搬送および残りの第11ないし第16番目のスキャン動作が繰り返されることで、第6層目ないし第8層目のライン層LL6〜LL8が形成されるとともに第1エリアライン像および第2エリアライン像がそれぞれ3本ずつ形成される。すなわち、「吐出Duty」が30%で6層目のライン層LL6を構成するライン像B12、B22がそれぞれライン像B11、B21上に積層して形成され、第1エリアライン像(=B11+B12)および第2エリアライン像(=B21+B22)が得られる。また、「吐出Duty」が20%で7層目のライン層LL7を構成するライン像C12、C22がそれぞれライン像C11、C21上に積層して形成され、第1エリアライン像(=C11+C12)および第2エリアライン像(=C21+C22)が得られる。さらに、「吐出Duty」が10%で8層目のライン層LL8を構成するライン像D12、D22がそれぞれライン像D11、D21上に積層して形成され、第1エリアライン像(=D11+D12)および第2エリアライン像(=D21+D22)が得られる。
【0060】
このように印刷媒体PMの印刷領域PRをノズル列142の列長に対応した幅を搬送方向Yに持った2つのエリアAR1、AR2に区分けしている。そして、ヘッドユニット20の印刷ヘッド14によるライン像を形成するエリアをエリアAR1、AR2の間で交互に切り替えながらライン像A11、A21、…、D12、D22の順に形成している。このため、次のような作用効果が得られる。従来装置と同様にエリアAR1に対して全ライン像を形成した後でエリアAR2に対して全ライン像を形成すると、エリアAR1、AR2の間での光沢ムラが大きくなってしまう。また、各エリア内でも硬化タイミングの差に起因して光沢ムラが発生する。これらの要因から画質低下を招いてしまう。これに対し、本実施形態では、エリア間で交互にライン像を形成しているため、エリア間での光沢ムラを大幅に抑制することができる。また、印刷領域PRの全域が同じラスター順に形成され、インクの硬化タイミングの差に起因する光沢ムラを印刷領域PRの全域に分散させることができ、光沢ムラを軽減させることができる。その結果、高品質な画像を印刷することができる。
【0061】
再び
図4に戻って説明を続ける。印刷媒体PMに対する下地層GL、ライン層LL1〜LL8の積層により、
図11に示すように、複数のインク層を積層した積層構造を有する印刷物100が形成されると、下地層GLの形成処理および硬化処理と同様にして、クリアインクを塗布するとともに当該クリアインク層を硬化させて印刷画像を保護するクリア保護膜を形成する(ステップS9)。
【0062】
上記のようにしてインクジェット印刷装置1Aによる印刷媒体PMへの印刷が完了すると、図示を省略する搬送装置によって印刷物がインクジェット印刷装置1Aから保護膜形成装置1Bに搬送される(ステップS10)。そして、保護膜形成装置1Bにより印刷物の最上層、つまり硬化されたクリアインク層上に保護膜が形成される(ステップS11)。すなわち、保護膜形成装置1Bにおいて行われるコーティング加工やラミネート加工などによって保護膜が形成される。
【0063】
保護膜形成装置1Bにより保護層が形成された印刷物、つまり保護層付印刷物は、搬送装置(図示省略)によって保護膜形成装置1Bから成形加工装置1Cに搬送される(ステップS12)。そして、成形加工装置1Cにより保護層付印刷物に対して真空成形加工や圧空成形加工が施されて保護層付印刷物が所望形状、例えば飲料商品容器の半割形状や自動車のインストルメント・パネル(インパネ)の形状に加工される(ステップS13)。
【0064】
成形加工装置1Cにより成形加工された印刷物は搬送装置(図示省略)によって成形加工装置1Cから射出成形装置1Dに搬送される(ステップS14)。そして、印刷物の両主面のうち印刷面と反対側、つまり下地層GLおよびライン層LL1〜LL8が印刷されていない面(
図11中の符号SF)に樹脂材料が射出されて成形される(ステップS15)。ここで、射出成形で使用する材料は任意であり、例えばアクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合合成樹脂材を用いることができる。また、印刷媒体PMが樹脂材料で構成されているときには、これと同じ樹脂材料を用いて射出成形を行うのが望ましい。特に、印刷媒体PMの構成材料および射出成形材料がともにアクリロニトリル、ブタジエン、スチレンの共重合合成樹脂であるのが好適である。
【0065】
最後に、射出成形装置1Dによる射出成形加工を受けた印刷物(成形物)は搬送装置(図示省略)によって射出成形装置1Dから搬出される(ステップS16)。
【0066】
以上のように、本実施形態によれば、下地層GLを形成するためにクリアインクを印刷媒体PMに塗布している間、2つの紫外線照射部11a,11bをいずれも消灯している。そして、待機時間(実施形態では
図5に示すように12秒)の経過後に紫外線照射部11a,11bを点灯しながらヘッドユニット20を主走査方向Xに移動させて下地層GLを硬化させている。このように待機時間を設けたことにより待機時間中にクリアインクにより印刷媒体PMの表面が溶解されて相溶層が形成され、その後で下地層GLが硬化される。このように下地層への紫外線の照射と照射停止を制御することで下地層GLと印刷媒体PMとを密着させるのに十分な相溶層を形成することができる。したがって、印刷媒体PMに対するインクの密着力が高められ、印刷媒体PM上に印刷画像を安定して担持させることができる。その結果、成形加工によって印刷物をフラットなシート形状から複雑な形状に成形したとしても、印刷媒体PMの変形に対して印刷画像が追従して印刷画像が破断するなどの問題が発生するのを防止することができる。
【0067】
また、上記したように本実施形態では、待機時間を「12秒」に設定しているが、これは待機時間、つまりクリアインクと印刷媒体PMとが互いに溶け合う相溶時間に応じて印刷媒体PMに対するクリアインクの密着力が変化することを考慮したものである。相溶時間を0.5[秒]から65[秒]の間で変化させながら印刷媒体PM上に下地層および印刷画像を形成した印刷物の密着性を調べる試験として、JISK5400に準拠してクロスカット試験を行った。その試験結果をまとめたものが
図12である。
【0068】
図12は、相溶時間が印刷物の密着性に与える影響の試験結果を示す図である。同図中の「密着性」は、印刷媒体PM上に形成された積層体(=下地層および印刷画像)を格子状にカットしてなるカット片全部を100としたとき、テープの剥取後に印刷媒体PMに残留しているカット片の割合を示している。つまり、100/100に近づくにしたがって密着性は高くなる。また、相溶時間「0.5」とは従来装置と同様にして硬化処理を行った場合を、また相溶時間「1.0」とは従来装置において走査速度を比較的遅く設定した場合を意味している。また、それ以外は本実施形態のように待機時間を設定した場合を意味している。
【0069】
同図から明らかなように、待機時間を設けて相溶時間を3[秒]以上に設けることで良好な密着性が得られる。これは印刷媒体PMとクリアインクとが溶け合うのに3[秒]以上の時間が必要であることを意味しており、相溶時間が長くなるにしたがって密着性が向上し、優れた密着性が得られる。ただし、一定時間を超えると、密着性の低下が始まり、45[秒]を過ぎると、その低下は急峻なものとなる。これは、待機時間の長時間化に伴って相溶層が広がり、相溶層が固まり難くなることに起因するものと考察される。このような試験結果に基づくと、良好な密着性を得るためには、少なくとも印刷ヘッド14を走査させる間において紫外線照射部11a,11bを消灯させて待機時間を3[秒]以上に設けることが重要である。また、紫外線照射により相溶層を硬化させるためには、45[秒]を過ぎないように待機時間を設定するのが望ましい。さらに優れた密着性を得るためには、6.0[秒]ないし20[秒]に設定するのが望ましい。
【0070】
また、相溶時間と密着性の関係は、印刷条件、特に印刷媒体PMの種類やインクの主モノマーの種類などによって変動する。そこで、本実施形態では、待機時間情報を予め記憶しておき、印刷媒体PMの種類に関する媒体情報に基づき待機時間の最適値を導出している。したがって、種々の印刷媒体PMに対して適切な待機時間を設定することができ、いずれの種類の印刷媒体PMに対しても高い密着力で下地層GLを形成することができる。その結果、優れた汎用性が得られる。もちろん、印刷媒体PMの種類のみならず、インクの種類をさらに考慮して待機時間の最適値を導出して下地層GLの硬化タイミングを制御するように構成してもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、照明制御部51からの指令により紫外線照射部11a、11bを点灯および消灯制御している。このため、下地層GLを硬化させるときも、印刷画像を構成するライン層LL1〜LL8を硬化させるときも紫外線照射部11a、11bから射出される紫外線の照度が同一である。ここで、上記のように下地層GLについては、クリアインクを塗布し、さらに待機時間を経過した後で紫外線を照射して硬化させている。このため、ライン層LL1〜LL8を形成する際よりもレベリングが進行する。そのため、レベリングした下地層GLに対して強力な紫外線を照射すると、インク皮膜が形成され、硬化収縮により皺が発生して下地層GLの表面劣化を招く可能性がある。したがって、当該表面劣化が発生しない照度で、上記実施形態のように紫外線の照度を同一に設定するのが望ましい。また、この点を考慮して下地層GLを硬化させる際の紫外線の照度をライン層LL1〜LL8を硬化させるときよりも低い値に設定してもよい。
【0072】
上記したように本実施形態では、下地層GLおよびライン層LL1〜LL8が本発明の「インク層」の一例に相当し、
図11に示すように積層構造を有する印刷物100が本発明の「積層体」の一例に相当する。そして、当該印刷物100においては、下地層GLが本発明の「最下層」に相当し、ライン層LL1〜LL8が本発明の「画像層」に相当している。また、クリアインクが本発明の「第1光硬化型インク」の一例に相当している。また、ヘッドユニット20が本発明の「第1インク層形成部」および「第2インク層形成部」として機能している。紫外線照射部11a,11bが本発明の「光照射部」の一例に相当している。また、ヘッド移動機構21が本発明の「移動部」の一例に相当している。
【0073】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したものに対して種々の変更を加えることが可能である。例えば第1実施形態では、クリアインクで下地層GLを形成しているが、クリアインクの代わりに、例えばホワイトインクを用いてもよい。
【0074】
また、上記第1実施形態では、下地層GLを形成するにあたって、印刷領域PRを3つの領域R1〜R3に区分けてしているが、区分け数についてはこれに限定されるものではなく、ノズル列の列長と印刷領域PRのY軸方向長さとを考慮して適当な区分け数を設定することができる。
【0075】
また、上記第1実施形態では、下地層GLを720[dpi]×720[dpi]の解像度で形成しているが、解像度はこれに限定されるものではなく、任意である。この下地層GLは印刷画像と印刷媒体PMとの間に相溶層を形成して密着性を向上させることが主であるため、より少ないパス数(スキャン動作回数)で下地層GLを形成するように構成することで印刷時間の短縮を図ることができる。
【0076】
また、上記第1実施形態では、下地層GL上にライン層LL1〜LL8を積層して所望の画像を形成しているが、下地層を設けることなく、印刷媒体PMにライン層LL1〜LL8を形成してもよい。この場合、ライン層LL1が最下層となる。そこで、ライン層LL1については、クリアインク以外のインクを塗布してライン層L11を形成し、少なくとも3秒以上経過した後でライン層L11に紫外線を照射して硬化させるように構成することで上記実施形態と同様の作用効果が得られる(第2実施形態)。以下、本発明の第2実施形態について、
図13および
図14を参照しつつ説明する。
【0077】
図13は本発明の第2実施形態における印刷物の製造方法を示すフローチャートである。また、
図14は第2実施形態における最下層の形成処理および硬化処理を模式的に示す図である。第2実施形態を適用可能な印刷システムの構成は第1実施形態と同一であり、下地層を設けない点と、ライン層LL1の形成処理および硬化処理が相違している点とを除き、第1実施形態と同一である。そこで、第2実施形態については、相違点を中心に説明し、同一構成および同一動作については説明を省略する。
【0078】
第2実施形態においては、メモリーカード7に記憶された画像(=印刷画像)を印刷した印刷物を製造する旨の製造指令がインクジェット印刷装置1Aに与えられると、インクジェット印刷装置1Aの制御ユニット5が装置1Aの各部を以下のように制御して印刷処理を行う。印刷前の印刷媒体PMが搬送装置(図示省略)によりインクジェット印刷装置1Aに搬入され、ステージ4の載置面4a上に載置される(ステップS1)。そして、印刷媒体PMの搬入動作と同時あるいは前後して制御ユニット5はメモリーカード7に記憶されている印刷画像の印刷元データ(ベクトルデータ)を画像取得部52により読み込む(ステップS2A)。そして、第1実施形態と同様にして、印刷画像を形成するための印刷データを作成する(ステップS3A)。
【0079】
また、上記製造指令に含まれる各種情報に基づいて待機時間を設定した(ステップS4)後で、第1層目のライン像を形成する(ステップS5A)。
【0080】
この第1層目のライン層の形成動作を開始する前においては、ヘッドユニット20はステージ4から(−X)軸方向側に離れた待機位置に位置している。当該形成動作の開始時には、まず制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、ステージ4が(−Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第1エリアAR1がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これにより、印刷画像を形成するための16個のスキャン動作のうち第1番目のスキャン動作の実行準備が完了する。すると、ヘッドユニット20が往動方向(+X)に移動しながら制御ユニット5から与えられる印刷データに基づいて印刷ヘッド14の印刷画像用ノズル(クリア用ノズル以外のノズル)141からインクが液滴状で第1エリアAR1の表面に向けて吐出される。これによって、
図14に示すように、第1エリアAR1上にライン像A11が直接形成される。なお、第2実施形態では、ライン像A11の形成のためにヘッドユニット20を(+X)軸方向に移動させている間も、いずれの紫外線照射部11a,11bも消灯されている。この点については、次の第2番目のスキャン動作においても同様である。
【0081】
第1番目のスキャン動作が完了すると、制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、ステージ4が(+Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第2エリアAR2がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これにより、第2番目のスキャン動作の実行準備が完了する。すると、ヘッドユニット20が復動方向(−X)に移動しながら制御ユニット5から与えられる印刷データに基づいて印刷ヘッド14のノズル141からインクが液滴状で第2エリアAR2の表面に向けて吐出される。これにより、X軸方向のライン像A21が、既に第1エリアAR1に形成されているライン像A11とともに1層目として形成され、これらライン像A11、A21で第1層目のライン層LL1が構成される。
【0082】
こうしてライン層LL1の形成が完了すると、待機時間が経過する(ステップS6で「YES」と判定される)のを待って、今度は印刷ヘッド14からのインク吐出を停止させる一方で紫外線照射部11a,11bを点灯させた状態で、ライン層LL1の形成と同様にヘッドユニット20およびステージ4を動作させる。つまり、制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、ステージ4が(−Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第1エリアAR1がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これに続いて、ヘッドユニット20が往動方向(+X)に移動する。この移動の間、紫外線照射部11a,11bは点灯しており、ライン像A11が硬化される(第1硬化)。この第1硬化が完了すると、制御ユニット5によりY軸モーターが駆動されることで、ステージ4が(+Y)軸方向に移動し、印刷媒体PMの第2エリアAR2がヘッドユニット20の往復移動経路の鉛直下方に位置するように、ステージ4が位置決めされる。これに続いて、ヘッドユニット20が復動方向(−X)に移動し、この移動の間、紫外線照射部11a,11bは点灯しており、ライン像A21が硬化される(第2硬化)。こうして、第1層目のライン層LL1の硬化処理が完了する。
【0083】
それ以降については、第1実施形態と同様にして、残りのライン層LL2〜LL8がライン層LL1に積層して形成されて印刷画像が形成され(ステップS8A)、さらにステップS9〜S16が実行される。
【0084】
以上のように、第2実施形態では、第1層目のライン層LL1が本発明の「最下層」に相当するが、このライン層LL1は、第1実施形態における下地層GLと同様に、待機時間の経過後に硬化処理される。このため、待機時間中に十分な相溶層が形成されて印刷媒体PMとライン層LL1とは優れた密着性を有する。そして、当該ライン層LL1上に残りのライン層LL2〜LL8が積層されて所望の画像が印刷される。したがって、第1実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0085】
なお、上記第2実施形態では、ライン層LL1を本発明の「最下層」としているが、最初に形成される複数のライン像A11で形成される層を本発明の「最下層」として用いてもよい。逆に、ライン像A11、A21のみならず、それらに続いて形成されるライン像B11、B21、…などを含めた層を本発明の「最下層」として用いてもよい。すなわち、最初から数スキャン動作により形成されるライン像で構成されるライン層を本発明の「最下層」として用いてもよい。
【0086】
また、上記第1実施形態および第2実施形態では、最下層を硬化させる際に紫外線照射部11a,11bの両方を点灯しているが、いずれか一方のみを点灯するように構成してもよい。
【0087】
また、上記第1実施形態および第2実施形態では、インクジェット印刷装置1Aにより印刷された印刷物の後処理装置として、保護膜形成装置1B、成形加工装置1Cおよび射出成形装置1Dを用いているが、後処理内容についてはこれに限定されるものではなく、例えばせん断加工装置、穴あけ加工装置や打抜き加工装置を後処理装置として用いてもよい。この場合においても、上記のように構成された印刷装置1Aを用いることでせん断加工、穴あけ加工や打抜き加工時にインク割れなどを防止することができ、優れた加工性が得られる。もちろん、インクジェット印刷装置1Aを単独で用いてもよいことは言うまでもない。