(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
発光管と、当該発光管内に互いに対向して配置された陽極および陰極と、を有する放電ランプに電気エネルギーを供給し、当該放電ランプを点灯する放電ランプ点灯方法であって、
前記放電ランプが定常点灯していないときに、当該放電ランプを複数回短時間点灯させる短時間点灯動作を行うに際し、
前記短時間点灯動作の開始直前における前記放電ランプの状態を判定し、
判定した前記放電ランプの状態に応じて、前記短時間点灯動作で前記放電ランプに供給する電気エネルギーに関するパラメータを変化させ、
前記短時間点灯毎に、前記パラメータを徐々に増加させることを特徴とする放電ランプ点灯方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1に記載の技術にあっては、短時間点灯を複数回繰り返す短時間点灯動作において、放電ランプに供給する電力の大きさや当該電力の供給時間は、各点灯について一定である。すなわち、放電ランプ(特に陰極)の状態にかかわらず制御方法は固定であり、放電ランプの状態によっては供給電力に過不足が生じ得る。
このように、短時間点灯において、一定の電力で一定の時間のパルスを繰り返す制御では、効果的に陰極表面を滑らかな形状に修復することができず、適切にフリッカーの発生を抑制できない場合がある。
そこで、本発明は、放電ランプの状態に応じた効果的な短時間点灯制御を行うことができる放電ランプ点灯方
法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る放電ランプ点灯方法の一態様は、発光管と、当該発光管内に互いに対向して配置された陽極および陰極と、を有する放電ランプに電気エネルギーを供給し、当該放電ランプを点灯する放電ランプ点灯方法であって、前記放電ランプが定常点灯していないときに、当該放電ランプを複数回短時間点灯させる短時間点灯動作を行うに際し、前記短時間点灯動作の開始直前における前記放電ランプの状態を判定し、判定した前記放電ランプの状態に応じて、前記短時間点灯動作で前記放電ランプに供給する電気エネルギーに関するパラメータを変化させ
、前記短時間点灯毎に、前記パラメータを徐々に増加させる。
また、本発明に係る放電ランプ点灯方法の一態様は、発光管と、当該発光管内に互いに対向して配置された陽極および陰極と、を有する放電ランプに電気エネルギーを供給し、当該放電ランプを点灯する放電ランプ点灯方法であって、前記放電ランプが定常点灯していないときに、当該放電ランプを複数回短時間点灯させる短時間点灯動作を行うに際し、前記短時間点灯動作の開始直前における前記放電ランプの状態を判定し、判定した前記放電ランプの状態に応じて、前記短時間点灯動作で前記放電ランプに供給する電気エネルギーに関するパラメータを変化させ、前記短時間点灯毎に、前記パラメータを徐々に減少させる。
さらに、本発明に係る放電ランプ点灯方法の一態様は、発光管と、当該発光管内に互いに対向して配置された陽極および陰極と、を有する放電ランプに電気エネルギーを供給し、当該放電ランプを点灯する放電ランプ点灯方法であって、前記放電ランプが定常点灯していないときに、当該放電ランプを複数回短時間点灯させる短時間点灯動作を行うに際し、前記短時間点灯動作の開始直前における前記放電ランプの状態を判定し、判定した前記放電ランプの状態に応じて、前記短時間点灯動作で前記放電ランプに供給する電気エネルギーに関するパラメータを変化させ、前記短時間点灯毎に、前記パラメータの増加と減少とを繰り返す。
【0007】
このように、放電ランプが定常点灯していない休止期間中に短時間点灯動作を行うので、粗く荒れた状態の陰極の表面を滑らかな形状に修復することができ、フリッカーの発生を抑制することができる。このとき、短時間点灯動作の開始直前に判定した放電ランプの状態に応じて、短時間点灯動作中に放電ランプに供給する電気エネルギーに関するパラメータを変化させる。したがって、放電ランプの状態に適した短時間点灯制御が可能となり、陰極の表面形状を適切に修復することができる。その結果、効果的にフリッカーの発生を抑制することができ、長いフリッカー寿命を得ることができる。
【0009】
また、上記の放電ランプ点灯方法において、前記短時間点灯毎に、前記パラメータを徐々に増加させる。
これにより、例えば上記パラメータを、放電ランプに供給する電流値、電圧値、電力値のいずれかとした場合、短時間点灯動作において最初に過度なエネルギーを供給すべきでない場合に対応することができる。また、例えば上記パラメータを、放電ランプに供給するエネルギーの供給時間とした場合、短時間点灯動作において最初に瞬間的なエネルギー供給をすべきである場合に対応することができる。このように、放電ランプの状態に応じた適切な制御が可能となる。
【0010】
また、上記の放電ランプ点灯方法において、前記短時間点灯毎に、前記パラメータを徐々に減少させ
る。
これにより、例えば上記パラメータを、放電ランプに供給する電流値、電圧値、電力値のいずれかとした場合、短時間点灯動作において最初に過度なエネルギーを供給すべきである場合に対応することができる。また、例えば上記パラメータを、放電ランプに供給するエネルギーの供給時間とした場合、短時間点灯動作において最初に瞬間的なエネルギー供給をすべきでない場合に対応することができる。このように、放電ランプの状態に応じた適切な制御が可能となる。
【0011】
さらにまた、上記の放電ランプ点灯方法において、前記短時間点灯毎に、前記パラメータの増加と減少とを繰り返
す。
これにより、放電ランプの陰極にランダムな熱振動を与えることが可能となる。このように、陰極に熱振動を与えることで、陰極内部で結晶粒間の粒界に隙間(ずれ)が生じ、放射性物質を放出し易くすることができる。したがって、良好なアーク放電特性を得ることができる。
【0012】
また、上記の放電ランプ点灯方法において、前記パラメータは、前記電気エネルギーの大きさである電流値、電圧値及び電力値、前記電気エネルギーの供給時間、並びに前記電気エネルギーの供給周期のうち、少なくとも1つであってもよい。
このように、放電ランプの状態に応じて、供給するエネルギーの大きさや供給する長さ、供給する周期を変化させるので、供給エネルギーの過不足等を抑制し、短時間点灯の効果を十分に得ることができる。
また、上記の放電ランプ点灯方法において、前記放電ランプの状態は、前記陰極の温度に基づいて判定してもよい。
このように、陰極の温度を判定することで、短時間点灯動作を開始する時点で陰極がすでに持っているエネルギー量を考慮して、供給するエネルギー量を決定することができる。したがって、短時間点灯動作における供給エネルギーの過不足を解消し、適切な制御を行うことができる。
【0013】
さらに、上記の放電ランプ点灯方法において、前記放電ランプの状態は、前記陰極の磨耗度合いに基づいて判定してもよい。
このように、陰極の磨耗度合いを判定することで、陰極の磨耗による当該陰極の形状の変化を考慮して、供給するエネルギー量やエネルギーの供給時間を決定することができる。したがって、短時間点灯動作において適切に陰極の温度を上昇させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、放電ランプの状態に応じた適切な短時間点灯制御を行うことができる。したがって、フリッカーの発生を効果的に抑制し、長いフリッカー寿命を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本実施形態におけるランプ点灯装置の構成例を示す図である。
この
図1に示すように、ランプ点灯装置10は、商用交流電源20に接続される点灯回路30と、点灯回路30を制御する制御部40とを備え、負荷としての放電ランプ50に電力を供給することで当該放電ランプ50を点灯する。このランプ点灯装置10は、例えば、映画館においてデジタル映写機用の光源として用いることができる。
【0019】
点灯回路30は、入力回路部31と、昇降圧回路部32と、インバータ回路部33と、整流回路部34とを備える。
入力回路部31は、遮断器、EMI(Electromagnetic Interference)フィルター(ノイズフィルター)、突入防止回路等により構成され、商用交流電源20に接続される。
昇降圧回路部32は、整流器、コンデンサ、チョッパ用コイル、スイッチング素子、スイッチング素子ドライブ回路、入力電圧検出回路、出力電圧検出回路などから構成される。この昇降圧回路部32は、整流器によって交流電源20の交流電圧を直流電圧に変換した後、インダクタンスを使用した、所謂チョッパ―回路にて、電圧の昇圧及び降圧を行う。
【0020】
インバータ回路部33は、スイッチング素子からなるブリッジ回路、スイッチングドライバー回路、共振コンデンサ、絶縁トランス等により構成され、直流電源を高周波交流電源に変換する。
整流回路部34は、整流ダイオード、リップル抑制用コイル、スナバー回路等により構成され、インバータ回路部33で変換された高周波交流電源を直流電圧に変換する。
制御部40は、点灯回路30を定電力制御または定電流制御するものであり、制御回路部41と、乗算回路部42と、AC/DC変換部43と、IF部44と、時間計時部45と、タイマ部46とを備える。
【0021】
制御回路部41は、主にCPU、DSPより構成されたデジタル制御素子、その他周辺素子により構成され、昇降圧回路部32やインバータ回路部33のスイッチングドライバー回路を制御する。当該制御には、例えば、位相シフト型同期整流方式を採用する。
乗算回路部42は、電圧検出センサ35で検出したランプ電圧Vと、電流検出センサ36で検出したランプ電流Iとを乗算してランプ電力Wを算出する(W=V*I)。
AC/DC変換部43は、ランプ電圧V、ランプ電流I、及びランプ電圧Wを入力し、これらの入力アナログ信号を、例えば12ビットデジタル信号に変換する。
【0022】
IF部44は、外部機器と通信可能な回路であり、当該外部機器との間で情報の入出力を行う。例えば、IF部は、放電ランプ50の点灯を開始するためのランプ点灯信号(起動信号)や、放電ランプ50を消灯するためのランプ消灯信号等を、外部機器から入力する。このIF部44は、デジタルI/O、通信回路等により構成される。
時間計時部45は、制御回路部41で実施する位相変調制御で用いるパルス信号のON時間及びOFF時間を制御するための基準信号を生成し、これを制御回路部41へ出力する。
【0023】
タイマ部46は、放電ランプ50の総点灯時間や、放電ランプ50が消灯してからの時間などを計測し、これらの計測時間を記憶すると共に制御回路部41へ出力する。
放電ランプ50は、例えば、ショートアーク型キセノン放電ランプである。
この放電ランプ50は、
図2に示すように、石英ガラス等により構成される楕円球形状の発光管51を備える。発光管51の両端には、管軸に沿って外方に伸びる円筒状の電極支持部52a及び52bが連設されている。また、電極支持部52a及び52bの各々の外端には、当該電極支持部52a及び52bよりも大きい外径を有する封止管53a及び53bが連設されている。
【0024】
発光管51の内部には放電空間が形成されており、キセノン(Xe)ガスを含む発光ガスが封入されている。また、発光管51内には、互いに対向する一対の電極(陽極54aと陰極54b)が配置されている。これら電極54a及び54bは、高融点金属、例えばタングステンにより構成されている。
陽極54aから管軸にそって外方に伸びる電極棒55aは、封止管53aの端部から外部に導出されている。この電極棒55aは、封止管53aの端部において、段継ぎガラスなどの手段により封着(ロッドシール)されている。同様に、陰極54bから管軸に沿って外方に伸びる電極棒55bは、封止管53bの端部から外部に導出されている。この電極棒55bは、封止管53bの端部において、段継ぎガラスなどの手段により封着(ロッドシール)されている。
【0025】
さらに、電極棒55a,55bにおける電極支持部52a,52bに位置する部分の周面には、それぞれ円筒状のガラス部材56a,56bが設けられている。電極棒55a,55bは、このガラス部材56a,56bを介して電極支持部52a,52bに支持されている。
図3は、放電ランプ50の点灯時におけるランプ電流I及びランプ電圧Vを示す図である。
放電ランプ50を点灯させる場合には、先ず、放電ランプ50に開放電圧と呼ばれる定格電圧(例えば40V程度)よりも高い電圧(例えば100V程度)を印加した状態で、外部イグナイタよりランプ端子間に高電圧を印加する。これにより、放電空間内に絶縁破壊を発生させて放電路を形成する(時刻t1)。絶縁破壊が発生すると、放電ランプ50に対して突入電流を流し(時刻t2)、グロー放電を経てアーク放電に移行させる。その後は、アーク放電を安定して維持するように制御(一定電流制御)する。これにより、定常点灯が達成される(時刻t3以降)。なお、絶縁破壊が発生してから定常点灯が達成されるまでに要する時間(時刻t1〜時刻t3)は、例えば20m秒程度である。
【0026】
本実施形態では、制御部40は、放電ランプ50の定常点灯制御を行うと共に、放電ランプ50が定常点灯していない休止期間において、放電ランプ50を少なくとも1回以上短時間点灯させる短時間点灯制御を行う。
このように、放電ランプ50が定常点灯していないときに短時間点灯動作を実行することにより、放電ランプ50を長時間点灯させた場合でも、放電ランプ50のフリッカーの発生を抑制し、長いフリッカー寿命が得られる。
【0027】
放電ランプ50を長時間点灯させると、消灯直後において、陰極54bの表面形状は粗く荒れた状態となる。このように、陰極54bの表面が荒れた状態であると、放電ランプ50の点灯時に電極間のアークの揺れが生じ、フリッカーが発生する。ところが、陰極54bの表面が荒れた状態で、放電ランプ50に対して短時間点灯動作を行うと、点灯の熱によって陰極54bの表面が溶融して滑らかな形状となる。そのため、上記のフリッカーの発生を抑制することができる。また、陰極54bの表面が滑らかな形状に修復されると、放電ランプ50の点灯始動時において、円滑で速やかな始動オペレーションが可能となり、点灯始動時における陰極54bの消耗を抑制することができる。
【0028】
ここで、短時間点灯の1回の点灯時間は、例えば0.5秒間〜1.0秒間に設定する。1回の点灯時間が0.1秒間未満であると、陰極54bの温度が十分に上昇せずに先端の活性化がなされない。また、1回の点灯時間が5秒間を超えると、活性化された陰極54bの先端が改めて非活性の方向に進み、十分な短時間点灯の効果を得ることができない。そのため、1回の点灯時間は、0.1秒間〜5.0秒間の範囲内に設定することが好ましい。このように、短時間点灯動作は、数時間にも及び得る定常点灯と比較して十分に短い時間点灯する動作である。
【0029】
また、点灯回数が複数回である場合、一の短時間点灯が終了してから後続の短時間点灯が開始するまでのオフ時間は、例えば1秒間に設定する。オフ時間が1秒間未満であると、陰極54bの温度が十分に下がりきらず、次の短時間点灯時に十分な熱衝撃が得られない。そのため、オフ時間は、少なくとも1秒間に設定することが好ましい。さらに、点灯回数は、例えば5回〜6回に設定する。
【0030】
また、放電ランプ50の短時間点灯動作は、放電ランプ50が定常点灯していない休止期間中であれば、任意のタイミングで実行することができる。例えば、短時間点灯動作は、休止期間中における定常点灯の始動直前に実行されてもよいし、定常点灯の停止直後に実行されてもよい。さらに、短時間点灯動作は、必ずしも休止期間毎に実行される必要はなく、例えば、休止期間2回につき1回の短時間点灯動作が実行されてもよい。
【0031】
上記の短時間点灯動作は、パルス状のエネルギーを放電ランプ50に供給することにより実行する。このパルス信号は、点灯回路30及び制御部40の動作によって、放電ランプ50の定常点灯と同様のプロセスで放電ランプ50に供給される。ここで、放電ランプ50に供給されるエネルギーは、ランプ電流、ランプ電圧、及びランプ電力のいずれかによって規定されるものである。
【0032】
本実施形態では、上記フリッカーの発生をより効果的に抑制するために、放電ランプ50の状態に応じて、短時間点灯動作における制御方法を変更する。具体的には、放電ランプ50の状態に応じて、短時間点灯動作において放電ランプ50に供給するエネルギー量(電流値、電圧値、電力値)、エネルギーの供給時間、及びエネルギーの供給周期の要素のうち、少なくとも1つを変化させる。また、放電ランプ50の状態としては、電極(陰極54b)の温度や電極(陰極54b)の磨耗度合いを判定する。
【0033】
短時間点灯動作の制御例としては、例えば
図4に示すように、放電ランプ50に供給するパルス電流(または電圧、電力)を段階的に変化(増加または減少)させる方法がある。
図4(a)に示すように、パルス電流(または電圧、電力)を段階的に増加させる場合、パルス電流が初期電流I1から所定の到達電流I2に達するまで、電流ΔIずつ増加させる。
ΔI=初期電流I1+|到達電流I2−初期電流I1|/N ………(1)
なお、上記(1)において、Nはパルス回数である。
同様に、
図4(b)に示すように、パルス電流(または電圧、電力)を段階的に減少させる場合には、パルス電流が初期電流I1から所定の到達電流I2に達するまで、上記電流ΔIずつ減少させる。
【0034】
短時間点灯動作の別の制御例としては、例えば
図5に示すように、放電ランプ50に供給するパルス電流(または電圧、電力)のパルス幅やパルス周期を段階的に変化(増加または減少)させる方法がある。
図5(a)に示すように、パルス電流(または電圧、電力)のパルス幅を段階的に増加させる場合、パルス幅が初期時間(初期パルス幅)T1から所定の到達時間(到達パルス幅)T2に達するまで、時間ΔTずつ増加させる。
ΔT=初期時間T1+|到達時間T2−初期時間T1|/N ………(2)
同様に、
図5(b)に示すように、パルス電流(または電圧、電力)のパルス幅を段階的に減少させる場合には、パルス幅が初期時間T1から所定の到達時間T2に達するまで、上記時間ΔTずつ減少させる。パルス周期を変化させる場合にも同様である。
【0035】
さらに、短時間点灯動作の別の制御例としては、例えば
図6に示すように、パルス電流(または電圧、電力)を、増加と減少とが繰り返されるように変化させてもよいし、
図7に示すように、パルス幅を、増加と減少とが繰り返されるように変化させてもよい。なお、上記の増加と減少とは、ランダムに組み合わせて変化させてもよい。また、パルス電流(または電圧、電力)の増減とパルス幅の増減とを組み合わせてもよい。このとき、一回の短時間点灯動作において放電ランプ50に供給するトータルエネルギーを考慮して、短時間点灯動作中の各パルスの波高値やパルス幅等の変化方法を決定してもよい。
図8は、放電ランプ50を消灯した後の陰極54bの温度変化を示す温度特性図である。
【0036】
本実施形態における放電ランプ50の陰極50は、タングステン(W)からなる本体部と、タングステン(W)に酸化トリウム(ThO
2)が含有されたトリエーテッドタングステンからなる先端部とにより構成され、放電ランプ50に6kW〜8kWの電力を印加して当該放電ランプ50を点灯したとき、陰極50の温度は3000℃近くに達する。そして、放電ランプ50を消灯した後は、陰極50の温度は1秒程度で2000℃近くまで低下し、その後は数時間かけて室温(20℃程度)まで低下する。このように、放電ランプ50の陰極54bの温度は大きく変動し得る。
【0037】
短時間点灯動作は、上述したように、点灯時の熱によって陰極54bの表面を溶融して滑らかな形状とすることを目的としている。したがって、陰極54bがほぼ室温まで冷えている場合には、短時間点灯動作において、比較的大きなエネルギーを供給して陰極54bの温度を上昇させる必要がある。ところが、陰極54bが比較的高温である場合(例えば800℃である場合)に、短時間点灯動作において、陰極54bが十分に冷えている場合(ほぼ室温である場合)と同じエネルギーを供給すると、陰極54bの温度が上昇しすぎてしまい、表面形状が所望の形状とならないおそれがある。
【0038】
そこで、本実施形態では、短時間点灯動作開始時における陰極54bの温度が高いほど、短時間点灯動作において最初に供給するエネルギー量を小さくする。
例えば、放電ランプ50の陰極54bの温度が高い場合には、短時間点灯動作において、最初に電極(陰極54b)に定常点灯のエネルギーよりも低いエネルギーを供給し、その後、供給するエネルギーを段階的に増加させる。逆に、放電ランプ50の陰極54bが十分に冷えている(ほぼ室温である)場合には、短時間点灯動作において、最初に電極(陰極54b)に定常点灯のエネルギーよりも大きなエネルギーを供給し、その後、供給するエネルギーを段階的に減少させる。
ここで、陰極54bの温度は、タイマ部46に記憶された放電ランプ50を消灯してからの時間に基づいて、予め記憶した
図8に示すような温度特性をもとに判定する。
【0039】
また、放電ランプ50の陰極54bは、点灯時間が長いほど先端部が磨耗する。
図9は、放電ランプ50の電極形状を示す図であり、
図9(a)は磨耗していない新しい放電ランプ50、
図9(b)は長時間点灯して磨耗した古い放電ランプ50の電極の形状をそれぞれ示している。
このように、陰極54bは先端へ向けて細くなるテーパ形状を有し、先端の磨耗度合いが高いほど放電部分の表面積は広くなる。そのため、磨耗した古い放電ランプ50において、短時間点灯動作にて瞬間的にエネルギーを供給しても、一部分の温度しか上昇せず、表面形状が所望の形状とならないおそれがある。
【0040】
そこで、本実施形態では、短時間点灯動作開始時における陰極54bの磨耗度合いが高いほど、短時間点灯動作において最初に供給するエネルギーの供給時間を長くする。
例えば、放電ランプ50の陰極54bの磨耗度合いが高い場合には、短時間点灯動作において、最初に電極(陰極54b)に供給するエネルギーの供給時間を、磨耗が発生していない場合と比較して長くし、その後、供給時間を段階的に減少させる。逆に、磨耗度合いが低い場合には、短時間点灯動作において、短時間で過度のエネルギーを供給しても問題ないため、最初に供給するエネルギーの供給時間を比較的短くする。
【0041】
また、放電ランプ50の陰極54bの磨耗度合いが高い場合には、磨耗度合いが低い場合と比較して、短時間点灯動作において、最初に電極(陰極54b)に供給するエネルギー量を小さくする。すなわち、時間をかけて放電ランプ50に低いエネルギーを供給する。これにより、陰極54bの先端部全体の温度を均一に上昇させることができる。
ここで、陰極54bの磨耗度合いは、タイマ部46に記憶された放電ランプ50の総点灯時間に基づいて判定する。
【0042】
なお、ここでは陰極54bの状態に応じて、短時間点灯動作において放電ランプ50に供給するエネルギー量、エネルギー供給時間を変化させる場合について説明したが、エネルギーの供給回数、即ちパルス回数Nを変化させることもできる。例えば、陰極54bの磨耗度合いが高いほど、陰極54bの表面形状の修復に時間を要するとして、パルス回数Nを大きく設定してもよい。
【0043】
次に、放電ランプ50の点灯処理手順について詳細に説明する。
図10は、放電ランプ50の点灯処理手順を示すフローチャートである。この点灯処理は、例えば制御回路部41で実行される。
先ずステップS1で、制御回路部41は、IF部44から放電ランプ50の起動信号(点灯信号)を取得する処理を行い、ステップS2に移行する。
ステップS2では、制御回路部41は、ステップS1で取得した起動信号が放電ランプ50の点灯を指示するオン状態であるか否かを判定する。そして、起動信号がオフ状態である場合にはステップS1に戻り、起動信号がオン状態である場合にはステップS3に移行する。
【0044】
ステップS3では、制御回路部41は、今回の点灯が初めての点灯か否か(点灯履歴があるか否か)を判定する。例えば、タイマ部46に記憶された放電ランプ50の総点灯時間を読み出し、当該総点灯時間が0である場合には初めての点灯であると判断して後述するステップS8に移行する。一方、総点灯時間が0以外である場合には、点灯履歴があるものと判断してステップS4に移行する。
ステップS4では、制御回路部41は、放電ランプ50の状態を判定する。本実施形態では、放電ランプ50の状態として、電極(陰極54b)の状態(温度、磨耗度合い)を判定する。すなわち、このステップS4では、タイマ部46に記憶された放電ランプ50が前回消灯してからの経過時間、及び放電ランプ50の総点灯時間を取得する。そして、消灯してからの経過時間に基づいて陰極54bの温度を判定し、総点灯時間に基づいて陰極54bの磨耗度合いを判定する。
【0045】
次にステップS5では、制御回路部41は、ステップS4で判定した放電ランプ50の状態に基づいて、短時間点灯動作のモード(短時間点灯モード)を決定する。ここで、短時間点灯モードとは、上述した初期電流I1、到達電流I2、初期時間T1、到達時間T2、及びパルス回数Nなどの各種パラメータによって規定されるものである。すなわち、短時間点灯モードの決定処理とは、最初の短時間点灯の電流(または電圧、電力)の値、短時間点灯の繰り返し回数、電流値(または電圧値、電力値)を増加させていくのか、減少させていくのか、増加と減少を複合させるのか、さらに、最初の短時間点灯の時間の幅、時間の幅を増加させていくのか、減少させていくのか、増加と減少を複合させるのかなどの事項を決定する処理である。
【0046】
このステップS5で、陰極54bの温度及び磨耗度合いに応じた短時間点灯モードを決定すると、ステップS6に移行し、制御回路部41は、ステップS5で決定した短時間点灯モードに基づいて、短時間点灯動作を行う。
ステップS7では、制御回路部41は、短時間点灯動作を終了するか否かを判定する。ここでは、例えば、短時間点灯の繰り返し回数が設定したパルス回数Nに達したか否かを判定することで、短時間点灯動作を終了するか否かを判定する。そして、パルス回数Nに達していない場合には、短時間点灯動作を継続すると判断してステップS6に戻り、パルス回数Nに達している場合には、短時間点灯動作を終了すると判断してステップS8に移行する。
【0047】
ステップS8では、制御回路部41は、上述した放電ランプ50の定常点灯動作を行い、ステップS9に移行する。
ステップS9では、制御回路部41は、IF部44から放電ランプ50の消灯信号を受信したか否かを判定する。そして、消灯信号の受信を確認していない場合には、定常点灯動作を継続すると判断してステップS8に戻り、消灯信号の受信を確認した場合には、定常点灯動作を終了すると判断してステップS10に移行する。
【0048】
ステップS10では、制御回路部41は、放電ランプ50を消灯し、当該放電ランプ50が消灯してからの経過時間を計測するための消灯タイマのカウントを開始する。
ステップS11では、制御回路部41は、放電ランプ50の点灯処理を終了するか否かを判定し、点灯処理を継続する場合にはステップS1に戻り、点灯処理を終了すると判断した場合にはそのまま点灯処理を終了する。
なお、この
図10に示す点灯処理は、放電ランプ50の定常点灯動作の直前に短時間点灯動作を行う例である。但し、例えば、放電ランプ50の消灯後(定常点灯動作終了後)に短時間点灯動作を行う場合の点灯処理についても、基本的には
図10と同様である。
【0049】
また、ここでは、放電ランプ50の総点灯時間や、前回消灯してからの経過時間に基づいて、制御回路部41が短時間点灯モードを設定する場合について説明したが、これに限定されるものではない。例えば、短時間点灯モードとして、放電ランプ50の総点灯時間や、前回消灯してからの経過時間に基づいた種々のパターンを実験により求めておき、予め制御回路部41が記憶しておいてもよい。この場合、制御回路部41は、放電ランプ50の総点灯時間や前回消灯してからの経過時間に対応した短時間点灯モードを読み出すだけでよく、処理工数を削減することができる。
【0050】
以上のように、本実施形態では、短時間点灯動作の開始直前に放電ランプ50の状態を判定し、判定した放電ランプ50の状態に応じて、短時間点灯動作中に放電ランプ50に供給する電気エネルギーに関するパラメータ(エネルギー供給量、エネルギー供給時間、エネルギー供給回数等)を変化させる。したがって、放電ランプ50の状態に適した短時間点灯制御が可能となり、陰極の表面形状を適切に修復することができる。その結果、適切にフリッカーの発生を抑制し、長いフリッカー寿命を得ることができる。
【0051】
このとき、短時間点灯動作中に上記のパラメータを徐々に増加させれば、例えば、短時間点灯動作において最初に過度なエネルギーを供給すべきでない場合や、最初に瞬間的なエネルギー供給をすべきである場合に対応することができる。逆に、上記のパラメータを徐々に減少させれば、例えば、短時間点灯動作において最初に過度なエネルギーを供給すべきである場合や、最初に瞬間的なエネルギー供給をすべきでない場合に対応することができる。
【0052】
また、短時間点灯動作の開始直前に、陰極54bの温度に基づいて放電ランプ50の状態を判定するので、短時間点灯動作を開始する時点で陰極54bがすでに持っているエネルギー量を考慮して、供給するエネルギー量を決定することができる。したがって、短時間点灯動作における供給エネルギーの過不足を解消し、適切な制御を行うことができる。
さらに、陰極54bの温度は、放電ランプ50を消灯してからの経過時間をもとに推定するので、温度センサ等を設置する必要がない。このように、比較的簡易に放電ランプ50の状態を判定することができる。
【0053】
また、短時間点灯動作の開始直前に、陰極54bの磨耗度合いに基づいて放電ランプ50の状態を判定するので、陰極54bの磨耗による当該陰極54bの形状の変化を考慮して、供給するエネルギー量やエネルギーの供給時間を決定することができる。したがって、短時間点灯動作において適切に陰極54bの温度を上昇させることができる。
さらに、陰極54bの磨耗度合いは、放電ランプ50の総点灯時間をもとに推定するので、比較的簡易に放電ランプ50の状態を判定することができる。
【0054】
(変形例)
本実施形態における放電ランプ50の陰極54bは、上述したようにタングステンからなる本体部と、トリエーテッドタングステンからなる先端部により構成されている。陰極54bの先端部に含有された酸化トリウムは、ランプ点灯中、陰極54bが高温になることで還元され、トリウム原子となる。陰極54bの内部で還元されて生成されたトリウム原子は、タングステン結晶粒間の粒界拡散によって陰極54b表面に運ばれ、陰極54bの中でも更に温度が高い先端側に移動して蒸発する。このとき大きなエミッションが得られ、良好なアーク放電特性が得られる。
【0055】
トリエーテッドタングステン電極は多結晶構造であり、互いに隣接する単結晶間に結晶粒界が存在するが、温度を上昇させると2次結晶が起こり(場合によっては融合し)、この結晶粒界が減少する。結晶粒界が減少すると、トリエーテッドタングステンの仕事関数の低下が阻害され、電極表面から原子が放出しにくくなる。
短時間点灯動作において、
図6及び
図7に示すように、陰極54bにランダムな熱振動を与えると、陰極54b内部で上記の結晶粒界の減少が抑制され、放射性物質が放出し易くなる。したがって、より良好なアーク放電特性を得ることを目的として、短時間点灯動作を実施してもよい。
短時間点灯動作において放電ランプ50に供給するエネルギーを調整することで、上述した陰極54bの表面修復によるフリッカーの抑制と、上記の良好なアーク放電特性の実現とを両立することも可能である。