(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。以下の説明において、前後及び左右は、歩行者用エアバッグ装置を搭載した自動車の前後及び左右を表わす。
【0017】
図1は第1の実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置10を搭載した自動車の前部の平面図であり、エアバッグが展開した状態を示している。
図2はこの歩行者用エアバッグ装置のエアバッグの膨張完了時の斜視図であり、
図3〜12はこのエアバッグの折り畳み方法の説明図、
図13〜18はこのエアバッグの膨張状況の説明図である。
【0018】
自動車1はフードパネル2、カウル3、ウィンドシールド4、Aピラー5、ワイパ6、歩行者用エアバッグ装置10等を備えている。この実施の形態では、歩行者用エアバッグ装置10は、カウル3に設置されているが、これに限定されるものではなく、フードパネル2の後部に取り付けられてもよい。
【0019】
この歩行者用エアバッグ装置10は、エアバッグ11と、折り畳まれたエアバッグ11を収容する函状のリテーナ12と、エアバッグ11を膨張させるためのインフレータ13と、リッド14等を備えている。
【0020】
エアバッグ11は、フードパネル2の後部からウィンドシールド4の前部までを覆うように膨張する主部11aと、該主部11aの左右両端側から後方に延出してAピラーの少なくとも前部を被覆するように膨張するピラー被覆部11b,11bと、該主部11aの下面に連なる下方延出部11cとを有している。主部11a、ピラー被覆部11b,11b及び下方延出部11cは連通している。
【0021】
エアバッグ11が膨張した状態において、主部11aは、自動車1の左端から右端まで連続して延在している。
【0022】
下方延出部11cは、エアバッグ11の膨張状態において、主部11aの下面からリテーナ12内にまで延在している。この実施の形態では、下方延出部11c内にインフレータ13が配置されている。
【0023】
インフレータ13はロッド状であり、一端側にガス噴出口が設けられている。インフレータ13は、長手方向を車体左右方向としている。インフレータ13から突設されたスタッドボルト(図示略)が下方延出部11c及びリテーナ12の底面を貫通し、ナット締めされることにより、インフレータ13がリテーナ12に固定されている。
【0024】
エアバッグ11は基布を縫製することにより構成されている。この実施の形態では、主部11aの上面を構成する基布(パネル)15と、主部11aの下面を構成するパネル16とがテザーパネル17によって連結されている。
【0025】
テザーパネル17は、自動車車体の左右方向に延在しており、上縁及び下縁がそれぞれ縫合糸18,19によって上側パネル15及び下側パネル16に縫合されている。
【0026】
テザーパネル17の下端辺の位置(テザーパネル17と下側パネル16との縫合位置)は、エアバッグ11が膨張完了した状態において、停止姿勢のワイパ6に対面する位置である。
【0027】
テザーパネル17の左右方向の端部と主部11aの左右の側辺部との距離は300mm以下特に250mm以下であることが好ましい。テザーパネル17のパネル15,16を結ぶ上下方向の幅員は80〜220mm特に100〜200mm程度が好ましい。なお、テザーパネル17は一枚物である必要はなく、2枚以上に分割されていてもよい。
【0028】
テザーパネル17の左右方向の両端と主部11aの左右両側端との間には、ガスが通過する間隔があいている。この実施の形態では、テザーパネル17に、ガス通過用の開口17aが設けられているが、この開口17aは省略されてもよい。
【0029】
この実施の形態では、主部11aとピラー被覆部11bとが連なる部分付近にサイドテザーパネル20が設けられている。サイドテザーパネル20も、上縁及び下縁が上下のパネル15,16に縫合糸によって縫着されている。サイドテザーパネル20は、自動車の左右幅方向の中央側ほど自動車前方となるように設けられている。サイドテザーパネル20にもガス通過用開口が設けられてもよい。
【0030】
このエアバッグ11が折り畳まれてリテーナ12に収容され、リッド14によって該リテーナ12の上面が閉鎖される。エアバッグ11の折り畳み方法について
図3〜12を参照して次に説明する。
【0031】
まず、
図3の通り、エアバッグ11を平坦な作業台上に平たく広げる。下方延出部11cは主部11aの下面側に配置される。この状態から、
図4の通り、左右のピラー被覆部11bをそれぞれ自動車左側から見て反時計方向にロール折りする。そして、このロール折りを継続して行い、主部11aの後縁側も巻き込んでロール折りし、
図5の通り第1巻回部R
1を形成する。
【0032】
次いで、
図6の通り、主部11aの前後方向の途中を、車体左右方向に延在する折り返し線L
1に沿って、折り返し線L
1よりも後部側が折り返し線L
1よりも前部側の上側となるように折り返す。第1巻回部R
1は、折り返し線L
1よりも前部側の上側に重なる。主部11aの最前縁側は、第1巻回部R
1よりも前方に延出する。
【0033】
次いで、
図7の通り、車体前後方向に延在する折り返し線L
2,L
3に沿ってエアバッグ11を折り返し、エアバッグ11の折り畳み体の幅Wを小さくする。この幅Wはリテーナ12の車体左右方向の幅員と略同等である。エアバッグ11は、まず折り返し線L
2に沿って左端側及び右端側が中央側に折り返されて幅Wとされ、その後、折り返し線L
3に沿って、左方及び右方に折り返され、エアバッグ11の左端辺及び右端辺が折り返し線L
2に合致した状態とされる。
【0034】
次いで、
図8の通り、主部11aを最前縁側から、車体左方から見て時計方向にロール折りして第2巻回部R
2を形成する。このロール折りにより、主部11aの最前縁と第1巻回部R
1との中間付近までが巻回される。
【0035】
次いで、
図9の通り、主部11aを、第1巻回部R
1に沿う折り返し線L
4に沿って上方に曲げて立ち上げ、第2巻回部R
2を第1巻回部R
1の上側に配置し、巻回部R
1,R
2を並列して並列体とする。
【0036】
次いで、
図10の通り、巻回部R
1,R
2の並列体を車体左方から見て時計方向にロールさせる。そして、
図11の通り、このロールをさらに継続することにより、巻回部R
1,R
2の並列体の外周に、折り返し線L
4よりも前縁側の主部11aを巻き付ける。これにより、巻回部R
1,R
2の並列体の外周を取り巻く取巻部R
3が形成される。
【0037】
図11,12に示される通り、巻回体R
2は巻回体R
1の上側に位置している。
図9から
図11,12の状態にかけて、巻回体R
2は巻回体R
1の周囲を時計方向に1周している。
【0038】
このエアバッグ折り畳み体を保形クロス(図示略)で被包した後、リテーナ12内に収容し、インフレータ又はインフレータホルダ(図示略)に設けられたスタッドボルトをリテーナ12底面の小孔を通してリテーナ12の下方に突出させ、ナット締めし、エアバッグ11の折り畳み体及びインフレータ13をリテーナ12に固定する。次いで、リッド14を装着する。なお、インフレータ又はインフレータホルダは、予めエアバッグ内に収容されていてもよく、折り畳み後にエアバッグ内に配置されてもよい。
【0039】
上記の保形クロスには、エアバッグ11が膨張するときに開裂するようにミシン目状のスリット等の開裂部が設けられている。
【0040】
この歩行者用エアバッグ装置10を搭載した自動車1が歩行者等と接触してインフレータ13が作動すると、
図14の通り、エアバッグ折り畳み体がリッド14を押し上げて解放させ、巻回部R
1,R
2がリテーナ12の上方に押し上げられる。この際、取巻体R
3が巻き戻され、巻回部R
1,R
2の並列体は車体左方より見て反時計方向に回転しながら上昇する。
【0041】
図15の通り、巻回部R
1,R
2の並列体は、この反時計方向への回転を継続しながらさらに上方へ、カウル3よりも高さTだけ高位にまで押し上げられ、取巻体R
3が解消し、巻回部R
2が巻回部R
1の後方に位置した状態となる。
【0042】
その後、巻回部R
2にガスが流入することにより、
図16の通り、巻回部R
2は巻回部R
1の上方側に移動し、巻回部R
1が後方に向って直ちに露呈した状態となる。この巻回部R
1内にガスが流入することにより、巻回部R
1はカウル3から高さTだけ上方の高位置から後方に向って時計方向に回転しながら膨張展開する。
【0043】
エアバッグ11は、
図17の状態を経て
図1,18のように膨張展開し、カウル3、フードパネル2の後部及びウィンドシールド4の前部が主部11aで覆われ、Aピラー5の少なくとも前部及びその近傍がピラー被覆部11bで覆われ、歩行者等が直接にカウル3やAピラー5に当ることが防止される。
【0044】
このエアバッグ装置では、巻回部R
2と取巻体R
3とが
図15の段階まで巻回部R
1を包囲し、巻回部R
1の膨張を拘束している。そのため、巻回部R
1は
図16の通り、カウル3よりも高さT分だけ高位置にまで押し上げられた後に、後方に向って展開を開始するので、巻回部R
1はワイパ6の上方をワイパ6と干渉することなく展開する。このように、膨張展開開始時にエアバッグ11がワイパ6と干渉しないので、ワイパ6が変形することが防止される。なお、上記の高さTは50〜250mm特に100〜200mm程度が好ましい。
【0045】
また、このエアバッグ装置10にあっては、エアバッグ11の上側パネル15と下側パネル16とがテザーパネル17によって連結されており、テザーパネル17の下端縁連結部付近の下側パネル16が上方に引っ張られる。これにより、エアバッグ11は、
図17,18のように、膨張途中から膨張完了状態において、主部11aの下面のうちワイパ6に対面する部分に凹部Hが形成される。
【0046】
即ち、エアバッグ11の主部11aが膨張する場合、主部11aの上側パネル15は、インフレータ13から噴出したガスによって上方に押されることにより、
図17のように、上方に向って凸に湾曲するように膨張しようとする。この上側パネル15に対し下側パネル16がテザーパネル17によって連結されているので、テザーパネル17下縁付近の下側パネル16が上方に引き上げられ、凹部Hが形成される。なお、凹部Hの深さは30〜130mm特に40〜100mm程度が好ましい。
【0047】
一般に、ワイパは、ワイパピボットと、該ワイパピボットから延出するワイパアームと、該ワイパアームの先端側に取り付けられたワイパブレード等を備えている。ワイパブレードは、ウィンドシールドに接しているが、ワイパアームはウィンドシールドから若干離間している。そのため、エアバッグによってワイパアームが押されると、該ワイパアームが変形するおそれがある。特に、ワイパ非作動時においては、ワイパがエアバッグに近接するので、その可能性が高くなる。この実施の形態では、上記のようにして形成された凹部Hがワイパ6に対面するため、エアバッグ11がワイパ6を強く押すことがなく、ワイパ6の変形が防止される。また、ワイパブレードがねじれて変形することも防止される。
【0048】
なお、
図1では、ワイパ6はカウル3に沿った停止姿勢となっているが、ワイパ6が作動しているときにエアバッグ11が膨張した場合でも、ワイパ6のワイパアームの基部(ワイパピボット近傍)に凹部Hが対面する。そのため、ワイパ作動中にエアバッグ11が膨張した場合でも、ワイパアームの基部がエアバッグ11によって強く押されることがなく、ワイパアームの変形が防止される。
【0049】
上記実施の形態では、テザーパネル17によって凹部Hを形成しているが、
図19〜21に示す実施の形態に係る歩行者用エアバッグ装置10Aのエアバッグ11Aでは、下側パネル16のうち、停止状態のワイパ6に対面する位置に開口30を設け、この開口30の縁部に小袋31を縫合糸32によって縫着し、この小袋31内を凹部Hとしている。
【0050】
下側パネル16を平たく広げた状態において、開口30の車体左右方向の端部と主部11aの左右の側辺部との距離は300mm以下特に250mm以下であることが好ましく、前後方向の幅は10〜100mm特に40〜50mm程度が好ましい。
【0051】
このエアバッグ11Aは、テザーパネル17が設けられていない。このエアバッグ11Aを備えたエアバッグ装置10Aのその他の構成は上記エアバッグ装置10と同一であり、同一符号は同一部分を示している。
【0052】
図19のように、このエアバッグ11Aが膨張した場合、小袋31は開口30付近で低張力状態となっている。このように低張力状態となっている小袋31を有したエアバッグ11Aが、その後、
図20のようにウィンドシールド4の前部に覆い被さった場合、ワイパ6は、開口30を通って小袋31内に入り込む。このため、エアバッグ11Aがワイパ6を強く押すことがない。
【0053】
なお、小袋31をテザー部材によって上側パネル15に連結し、小袋31を上方に引き上げて凹部Hを形成してもよい。
【0054】
本発明では、
図22〜24に示す歩行者用エアバッグ装置10Bのように、インフレータ13からのガスを左右方向に導く整流筒40をエアバッグ11内に配置してもよい。この実施の形態では、整流筒40は、1枚の基布を二ツ折りして折り返し、端辺同士を縫合糸41で縫着して略筒状としたものである。この整流筒40の左右両端はガス流出口42,43となっている。また、整流筒40の筒軸方向の途中の上面にも、1個又は複数個のガス流出口44が設けられている。この整流筒40の内部にインフレータ13が配置される。
図11の符号13aは、インフレータ13のガス噴出部を示す。なお、左側のガス流出口42は、このガス噴出部13aに近いので、ガス流出口43よりも開口径が小さくなっており、左右にガスが均等に流出するように構成されている。
【0055】
この整流筒40をエアバッグ11内に配置しておくと、インフレータ13から噴出したガスのうち多くのものが流出口42,43から左方及び右方に流出するので、膨張しつつあるエアバッグ11の折り畳み体がリテーナ12から上方に展開するときの速度が小さくなる。このため、エアバッグ11の折り畳み体がフードパネル2の後縁に当ったときに該後縁を押す力が小さくなり、該後縁の変形が防止される。
【0056】
なお、整流筒40は、ガスによって膨満した状態においても、該整流筒40の上部がフードパネル2の後端やワイパ6に達しない大きさとされる。
【0057】
図22〜24では、
図1〜18に示すエアバッグ11内に整流筒40が設置されているが、
図19〜21に示すエアバッグ11Aに整流筒40が設置されてもよい。
【0058】
上記実施の形態は、いずれも本発明の一例であり、本発明は図示の状態に限定されない。本発明では、膨張したエアバッグの下面のうちワイパ対面部分に凹部を形成することができる他の手段を採用してもよい。
【0059】
上記実施の形態では、歩行者用エアバッグ装置10はカウル3に設置されているが、フードパネル2の下側に配置され、エアバッグの膨張時にフードパネル2の後部が押し上げられてエアバッグが膨張するタイプの歩行者用エアバッグ装置などであってもよい。
【0060】
上記実施の形態では、1個のエアバッグによって左側Aピラーから右側Aピラーまでを覆うようにしているが、自動車の左半側を覆うエアバッグを有した歩行者用エアバッグ装置と右半側を覆うエアバッグを有した歩行者用エアバッグ装置であってもよい。