(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施の形態を図面を参照して詳しく説明する。なお、図中同一または相当部分には同一の符号を付しその説明は繰り返さない。
【0035】
〔実施形態1〕
図1は、実施形態1による電力変換装置(10)の構成例を示している。電力変換装置(10)は、入力交流電圧(この例では、単相の交流電源(20)から供給された電源電圧(V
in))を所定の出力交流電圧に変換してモータ(30)に供給するものであり、コンバータ回路(11)と、直流リンク部(12)と、インバータ回路(13)と、制御部(40)とを備えている。例えば、モータ(30)は、IPMモータ(Interior Permanent MagnetMotor)によって構成され、空気調和機の圧縮機(図示を省略)を駆動する。
【0036】
〈コンバータ回路〉
コンバータ回路(11)は、リアクトル(L)を介して交流電源(20)に接続され、交流電源(20)からの電源電圧(V
in)を全波整流する。この例では、コンバータ回路(11)は、ブリッジ状に結線された4個のダイオード(D1,D2,D3,D4)を備えている。すなわち、コンバータ回路(11)は、ダイオードブリッジ回路によって構成されている。
【0037】
〈直流リンク部〉
直流リンク部(12)は、コンバータ回路(11)の一対の出力ノードの間に接続されたコンデンサ(C)を有し、コンバータ回路(11)の出力を入力して直流電圧(V
dc)を生成する。直流電圧(V
dc)は、電源電圧(V
in)の周波数に応じて脈動する。
【0038】
ここで、電源電圧(V
in)の周波数に応じた脈動成分が直流電圧(V
dc)に含まれている理由について説明する。直流リンク部(12)のコンデンサ(C)の容量値は、コンバータ回路(11)の出力をほとんど平滑化することができない一方で、インバータ回路(13)のスイッチング動作に起因するリプル電圧(スイッチング周波数に応じた電圧変動)を抑制することができるように、設定されている。具体的には、コンデンサ(C)は、一般的な電力変換装置においてコンバータ回路(11)の出力の平滑化に用いられる平滑コンデンサ(例えば、電解コンデンサ)の容量値の約0.01倍の容量値(例えば、数十μF程度)を有する小容量コンデンサ(例えば、フィルムコンデンサ)によって構成されている。このようにコンデンサ(C)が構成されているので、直流リンク部(12)においてコンバータ回路(11)の出力がほとんど平滑化されず、その結果、電源電圧(V
in)の周波数に応じた脈動成分(この例では、電源電圧(V
in)の周波数の2倍の周波数を有する脈動成分)が直流電圧(V
dc)に残留することになる。例えば、直流電圧(V
dc)は、その最大値がその最小値の2倍以上になるように脈動している。
【0039】
〈インバータ回路〉
インバータ回路(13)は、その一対の入力ノードが直流リンク部(12)のコンデンサ(C)の両端に接続され、直流リンク部(12)によって生成された直流電圧(V
dc)をスイッチング動作により出力交流電圧に変換してモータ(30)に供給する。この例では、インバータ回路(13)は、三相の出力交流電圧をモータ(30)に供給するために、ブリッジ結線された6つのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)と、6つの還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)とを有している。詳しく説明すると、インバータ回路(13)は、2つのスイッチング素子を互いに直列に接続してなる3つのスイッチングレグを備え、3つのスイッチングレグの各々において、上アームのスイッチング素子(Su,Sv,Sw)と下アームのスイッチング素子(Sx,Sy,Sz)との中点が、モータ(30)の各相のコイル(u相,v相,w相のコイル)にそれぞれ接続されている。また、6つのスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)には、6つの還流ダイオード(Du,Dv,Dw,Dx,Dy,Dz)がそれぞれ逆並列に接続されている。
【0040】
〈各種検出部〉
また、この例では、電力変換装置(10)は、電源位相検出部(51)と、直流電圧検出部(52)と、モータ電流検出部(61)と、モータ角周波数検出部(62)と、モータ位相検出部(63)とをさらに備えている。
【0041】
電源位相検出部(51)は、電源電圧(V
in)の位相角(電源位相(θ
in))を検出する。直流電圧検出部(52)は、直流リンク部(12)の直流電圧(V
dc)を検出する。モータ電流検出部(61)は、モータ(30)の各相に流れるモータ電流(u相電流(i
u),v相電流(i
v),w相電流(i
w))を検出する。モータ角周波数検出部(62)は、モータ(30)の電気角の回転角周波数(モータ角周波数(ω))を検出する。モータ位相検出部(63)は、モータ(30)の回転子(図示を省略)の電気角(モータ位相(θ
m))を検出する。
【0042】
〈制御部〉
制御部(40)は、モータ(30)の電気角の回転角周波数(モータ角周波数(ω))が予め定められたモータ(30)の電気角の回転角周波数の指令値(角周波数指令値(ω
*))となるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御してインバータ回路(13)の出力(出力交流電圧)を制御する。これにより、モータ(30)の駆動が制御される。
【0043】
また、この例では、制御部(40)は、電源電圧(V
in)の周波数に応じてモータ(30)を流れるモータ電流(i
u,i
v,i
w)が脈動し、且つ、予め定められた回生動作期間(P1)においてモータ電流(i
u,i
v,i
w)の電流量が減少してモータ(30)のインダクタンス成分に蓄積された磁気エネルギがインバータ回路(13)を経由して直流リンク部(12)のコンデンサ(C)へ回生されるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御する。具体的には、回生動作期間(P1)が開始すると、モータ電流(i
u,i
v,i
w)が予め定められたモータ制限電流量(本来の電流量よりも小さい電流量またはゼロ)となるようにモータ電流(i
u,i
v,i
w)が制限され、回生動作期間(P1)が終了すると、モータ電流(i
u,i
v,i
w)の制限が解除される。
【0044】
また、この例では、制御部(40)は、電流ベクトル制御(より詳しくは、弱め磁束制御)によりモータ(30)を制御する。具体的には、制御部(40)は、モータ(30)のd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)に基づいて、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御する。また、この例では、制御部(40)は、電源電圧(V
in)の周波数に応じてモータ(30)のq軸電流(i
q)が脈動し、且つ、回生動作期間(P1)においてq軸電流(i
q)の電流量が減少してモータ(30)から直流リンク部(12)への磁気エネルギの回生が行われるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御する。すなわち、この例では、q軸電流(i
q)を脈動させることにより、モータ電流(i
u,i
v,i
w)を脈動させる。また、回生動作期間(P1)において、q軸電流(i
q)を予め定められたq軸制限電流量(本来の電流量よりも小さい電流量またはゼロ)に制限することにより、モータ電流(i
u,i
v,i
w)をモータ制限電流量に制限する。
【0045】
〈制御部の構成〉
図2に示すように、制御部(40)は、d軸電流指令演算部(41)と、q軸電流指令演算部(42)と、座標変換部(43)と、dq軸電流制御部(44)と、PWM演算部(45)と、q軸回生制御部(46)とを備えている。
【0046】
《d軸電流指令演算部》
d軸電流指令演算部(41)は、d軸電流指令値(i
d*)を導出する。例えば、d軸電流指令演算部(41)は、d軸電流指令値(i
d*)が予め定められた電流量となるように、d軸電流指令値(i
d*)を導出する。なお、d軸電流指令演算部(41)は、モータ(30)の運転条件やモータ(30)の磁気的特性など(例えば、直流電圧(V
dc)や後述するq軸電流指令値(i
q*)など)に基づいてd軸電流指令値(i
d*)を導出するように構成されていてもよい。
【0047】
《q軸電流指令演算部》
q軸電流指令演算部(42)は、モータ角周波数検出部(62)の検出値(すなわち、モータ角周波数(ω))と予め定められた角周波数指令値(ω
*)との差が小さくなり、q軸電流指令値(i
q*)が電源電圧(V
in)の周波数に応じて脈動するように、q軸電流指令値(i
q*)を導出する。なお、q軸電流指令値(i
q*)は、ゼロクロス近傍期間(P0)においてゼロとなるように導出される。ゼロクロス近傍期間(P0)は、電源電圧(V
in)がゼロクロスとなる時点を含む期間であり、直流電圧(V
dc)の脈動波形の谷間に相当する期間である。この例では、q軸電流指令演算部(42)は、速度制御部(401)と、脈動指令演算部(402)と、乗算部(403)とを備えている。
【0048】
速度制御部(401)は、モータ角周波数検出部(62)の検出値(すなわち、モータ角周波数(ω))と予め定められた電気角の指令値(すなわち、角周波数指令値(ω
*))とに基づいて、モータ角周波数(ω)と角周波数指令値(ω
*)との偏差を求め、その偏差を比例積分演算(PI演算)してトルク指令値(i
T*)を導出する。
【0049】
脈動指令演算部(402)は、電源位相検出部(51)によって検出された電源位相(θ
in)に基づいて、電源電圧(V
in)の周波数に応じて脈動する脈動指令値(i
P*)を導出する。例えば、脈動指令演算部(402)は、電源位相(θ
in)の正弦値の絶対値(|sinθ
in|)に基づいて脈動指令値(i
P*)を導出する。なお、脈動指令値(i
P*)は、ゼロクロス近傍期間(P0)においてゼロとなるように導出される。
【0050】
乗算部(403)は、速度制御部(401)によって導出されたトルク指令値(i
T*)に、脈動指令演算部(402)によって導出された脈動指令値を乗算してq軸電流指令値(i
q*)を導出する。
【0051】
《座標変換部》
座標変換部(43)は、モータ電流検出部(61)によって検出されたモータ電流(i
u,i
v,i
w)と、モータ位相検出部(63)によって検出されたモータ位相(θ
m)とに基づいて、モータ(30)のd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)を導出する。
【0052】
《dq軸電流制御部》
dq軸電流制御部(44)は、d軸電流指令演算部(41)によって導出されたd軸電流指令値(i
d*)と、q軸電流指令演算部(42)からq軸回生制御部(46)を経由して供給されたq軸電流指令値(i
q*)と、座標変換部(43)によって導出されたd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)とに基づいて、d軸電圧指令値(V
d*)およびq軸電圧指令値(V
q*)を導出する。具体的には、dq軸電流制御部(44)は、d軸電流指令値(i
d*)とd軸電流(i
d)との偏差およびq軸電流指令値(i
q*)とq軸電流(i
q)との偏差がそれぞれ小さくなるように、d軸電圧指令値(V
d*)およびq軸電圧指令値(V
q*)を導出する。
【0053】
《PWM演算部》
PWM演算部(45)は、モータ位相検出部(63)によって検出されたモータ位相(θ
m)と、直流電圧検出部(52)によって検出された直流電圧(V
dc)と、dq軸電流制御部(44)によって導出されたd軸電圧(V
d)およびq軸電圧(V
q)とに基づいて、インバータ回路(13)のスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)のオン/オフを制御するための制御信号(G)を生成する。具体的には、PWM演算部(45)は、これらの値に基づいてスイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)の各々に供給される制御信号(G)のデューティー比を設定する。スイッチング素子(Su,Sv,Sw,Sx,Sy,Sz)は、PWM演算部(45)によって設定されたデューティ比でスイッチング動作(オンオフ動作)を行う。このようにして制御信号(G)が周期的に更新され、インバータ回路(13)のスイッチング動作が制御される。
【0054】
《q軸回生制御部》
q軸回生制御部(46)は、電源位相検出部(51)によって検出された電源位相(θ
in)に基づいて、q軸電流指令値(i
q*)の制限の実行および解除を行う。
【0055】
具体的には、q軸回生制御部(46)は、電源位相検出部(51)によって検出された電源位相(θ
in)が予め定められた開始位相(回生動作期間(P1)の開始時点に対応する位相)となると、q軸電流指令値(i
q*)が予め定められたq軸制限電流量(この例では、ゼロ)となるように、q軸電流指令演算部(42)によって導出されたq軸電流指令値(i
q*)を制限し、その制限されたq軸電流指令値(i
q*)をdq軸電流制御部(44)に供給する。なお、q軸制限電流量は、回生動作期間(P1)においてq軸電流指令演算部(42)によって導出されるq軸電流指令値(すなわち、トルク指令値(i
T*)に脈動指令値(i
P*)を乗算して導出されるq軸電流(i
q)の目標電流量)よりも小さい電流量またはゼロに設定されている。
【0056】
また、q軸回生制御部(46)は、電源位相検出部(51)によって検出された電源位相(θ
in)が予め定められた終了位相(回生動作期間(P1)の終了時点に対応する位相)となると、q軸電流指令値(i
q*)の制限を解除し、q軸電流指令演算部(42)によって導出されたq軸電流指令値(i
q*)をdq軸電流制御部(44)に供給する。
【0057】
《回生動作期間》
なお、回生動作期間(P1)は、直流電圧(V
dc)が最大値となる時点よりも後に開始して直流電圧(V
dc)が次に最大値となる時点よりも前に終了する期間に設定されていることが好ましい。この例では、電源電圧(V
in)が極値(最小値または最大値)となる時点(換言すると、全波整流された電源電圧(V
in)が最大値となる時点)において、直流電源(V
dc)が最大値となるとみなすことができる。すなわち、この例では、回生動作期間(P1)は、電源電圧(V
in)が極値となる時点(換言すると、全波整流された電源電圧(V
in)が最大値となる時点)よりも後に開始して電源電圧(V
in)が次に極値となる時点(換言すると、全波整流された電源電圧(V
in)が次に最大値となる時点)よりも前に終了する期間に設定されていることが好ましい。具体的には、q軸回生制御部(46)において、開始位相は、電源電圧(V
in)が極値となる位相(例えば、90°)よりも後の位相に設定され、終了位相は、電源電圧(V
in)が次に極値となる位相(例えば、270°)よりも前の位相に設定されていることが好ましい。その理由については、後で詳しく説明する。
【0058】
〈電力変換装置による動作〉
次に、
図3を参照して、電力変換装置(10)による動作について説明する。なお、
図3において破線で示された各信号の波形は、q軸回生制御部(46)の動作(すなわち、磁気エネルギを回生させるための回生制御)が行われない場合の各信号の波形に相当する。
【0059】
コンバータ回路(11)は、電源電圧(V
in)を全波整流して直流リンク部(12)へ出力し、直流リンク部(12)は、コンバータ回路(11)の出力を入力して、電源電圧(V
in)の周波数の2倍の周波数で脈動する直流電圧(V
dc)を生成する。なお、直流電圧(V
dc)は、ゼロクロス近傍期間(P0)において一定値となっているとみなすことができる。ゼロクロス近傍期間(P0)は、電源電圧(V
in)がゼロクロスとなる時点(
図3では、時刻(t0))を含む期間であり、直流電圧(V
dc)の脈動波形の谷間に相当する期間である。この例では、ゼロクロス近傍期間(P0)における直流電圧(V
dc)の電圧値(以下、ゼロクロス電圧値(V
dc0)と表記)は、電源電圧(V
in)がゼロクロスとなる時点における直流電圧(V
dc)の電圧値となっているとみなすことができる。
【0060】
また、d軸電流指令演算部(41)は、d軸電流指令値(i
d*)が予め定められた電流量に維持されるようにd軸電流指令値(i
d*)を導出し、q軸電流指令演算部(42)は、電源電圧(V
in)の2倍の周波数でq軸電流指令値(i
q*)が脈動するようにq軸電流指令値(i
q*)を導出する。その結果、d軸電流(i
d)が予め定められた電流量に維持される一方で、q軸電流(i
q)が電源電圧(V
in)の周波数の2倍の周波数で脈動するように、インバータ回路(13)のスイッチング動作が制御される。これにより、インバータ回路(13)の出力を電源電圧(V
in)の周波数の2倍の周波数で脈動させることができる。
【0061】
このように、直流電圧(V
dc)の脈動に応じてインバータ回路(13)の出力を脈動させる(具体的には、インバータ回路(13)の出力の脈動を直流電圧(V
dc)の脈動と同期させる)ことにより、コンバータ回路(11)と直流リンク部(12)との間を流れる入力電流(i
in)の導通幅を広くすることができ、その結果、力率を改善することができる。なお、入力電流(i
in)は、直流電圧(V
dc)がゼロクロス電圧値(V
dc0)となっている期間(すなわち、ゼロクロス近傍期間(P0))においてゼロとなっている。
【0062】
〈回生制御〉
次に、
図3を参照して、q軸回生制御部(46)の動作(すなわち、回生制御)について説明する。なお、この例では、開始位相(回生動作期間(P1)の開始時点に相当する位相)は、時刻(t1)に相当する位相に設定され、終了位相(回生動作期間(P1)の終了時点に相当する位相)は、時刻(t2)に相当する位相に設定されている。
【0063】
時刻(t1)になると、電源位相(θ
in)が開始位相となる。q軸回生制御部(46)は、q軸電流指令値(i
q*)がゼロとなるようにq軸電流指令演算部(42)によって導出されたq軸電流指令値(i
q*)を制限し、その制限されたq軸電流指令値(すなわち、ゼロを示したq軸電流指令値(i
q*))をdq軸電流制御部(44)に供給する。これにより、q軸電流(i
q)の電流量が減少してゼロとなるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作が制御される。その結果、モータ(30)のインダクタンス成分(詳しくは、q軸インダクタンス)に蓄積された磁気エネルギがインバータ回路(13)を経由して直流リンク部(12)のコンデンサ(C)に回生される。この磁気エネルギの回生により、直流リンク部(12)の直流電圧(V
dc)が上昇する。そして、モータ(30)から直流リンク部(12)への磁気エネルギの回生が完了すると(例えば、モータ(30)のq軸インダクタンスに蓄積された磁気エネルギが全て回生されると)、直流電圧(V
dc)の上昇が停止する。このように、磁気エネルギの回生により直流電圧(V
dc)が上昇し、その結果、直流電圧(V
dc)のゼロクロス電圧値(V
dc0)が高くなる。
【0064】
時刻(t2)になると、電源位相(θ
in)が終了位相となる。q軸回生制御部(46)は、q軸電流指令値(i
q*)の制限を解除し、q軸電流指令演算部(42)によって導出されたq軸電流指令値(i
q*)をdq軸電流制御部(44)に供給する。また、q軸電流指令演算部(42)によって導出されるq軸電流指令値(i
q*)は、電源電圧(V
in)の周波数に応じた脈動波形となるように次第に増加していく。したがって、q軸電流(i
q)も、電源電圧(V
in)の周波数に応じた脈動波形となるように次第に増加していく。
【0065】
このように、回生動作期間(P1)の開始時点においてq軸電流指令値(i
q*)をゼロに制限し、その後、回生動作期間(P1)の終了時点においてq軸電流指令値(i
q*)の制限を解除することにより、回生動作期間(P1)においてq軸電流(i
q)をゼロに制限することができる。
【0066】
〈実施形態1による効果〉
以上のように、回生動作期間(P1)においてモータ(30)から直流リンク部(12)への磁気エネルギの回生が行われることにより、モータ(30)のインダクタンス成分(詳しくは、q軸インダクタンス)に蓄積された磁気エネルギを利用して直流電圧(V
dc)を上昇させることができる。これにより、直流電圧(V
dc)の低下を抑制することができる。したがって、直流電圧(V
dc)の低下に起因するインバータ回路(13)の出力不足を抑制することができる。
【0067】
また、回生動作期間(P1)においてq軸電流(i
q)をゼロに制限することにより、回生動作期間(P1)におけるq軸電流(i
q)の電流量の設定(すなわち、磁気エネルギの回生が行われるようにq軸電流(i
q)の電流量を設定すること)を容易にすることができる。これにより、q軸電流(i
q)の制限のための演算処理を容易にすることができる。
【0068】
〈回生動作期間の開始および終了〉
なお、回生動作期間(P1)では、モータ(30)から直流リンク部(12)への磁気エネルギの回生により直流電圧(V
dc)が上昇する。したがって、回生動作期間(P1)が直流電圧(V
dc)が最大値となる時点を含んでいる場合(この例では、回生動作期間(P1)が電源電圧(V
in)が極値となる時点を含んでいる場合)、電源電圧(V
in)の絶対値が直流電圧(V
dc)よりも大きくなる期間(すなわち、入力電流(i
in)の導通幅に相当する期間)が短くなって入力電流(i
in)の高調波成分が増加してしまうおそれがある。
【0069】
そのため、回生動作期間(P1)に直流電圧(V
dc)が最大値となる時点(この例では、電源電圧(V
in)が極値となる時点、換言すると、全波整流された電源電圧(V
in)が最大値となる時点)が含まれていないことが好ましい。具体的には、回生動作期間(P1)は、直流電圧(V
dc)が最大値となる時点よりも後に開始して直流電圧(V
dc)が次に最大値となる時点よりも前に終了する期間に設定されていることが好ましい。
【0070】
以上のように、直流電圧(V
dc)が最大値となる時点(この例では、電源電圧(V
in)が極値となる時点)を避けて磁気エネルギの回生を行うことにより、磁気エネルギの回生に起因して入力電流(i
in)の導通幅が短くなってしまうことを抑制することができる。これにより、磁気エネルギの回生に起因する入力電流(i
in)の高調波成分の増加を抑制することができる。
【0071】
また、この例(
図3)では、回生動作期間(P1)は、電源電圧(V
in)が極値となる時点よりも後であって電源電圧(V
in)がゼロクロスとなる時点よりも前に開始し、電源電圧(V
in)が次に極値となる時点よりも前に終了する期間に設定されていることが好ましい。このように設定することにより、電源電圧(V
in)がゼロクロスとなる時点(
図3では、時刻(t0))よりも前に磁気エネルギを利用して直流電圧(V
dc)を上昇させることができるので、ゼロクロス近傍期間(P0)における直流電圧(V
dc)の電圧値(すなわち、ゼロクロス電圧値(V
dc0))を効果的に上昇させることができる。
【0072】
〔実施形態1の変形例〕
図4は、実施形態1の変形例における制御部(40)の構成例を示している。実施形態1の変形例では、制御部(40)は、電源電圧(V
in)の周波数に応じてモータ(30)のq軸電流(i
q)が脈動し、且つ、回生動作期間(P1)においてq軸電流(i
q)およびd軸電流(i
d)の両方の電流量(絶対値)が減少してモータ(30)から直流リンク部(12)への磁気エネルギの回生が行われるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御するように構成されている。すなわち、この例では、q軸電流(i
q)を脈動させることにより、モータ電流(i
u,i
v,i
w)を脈動させる。また、回生動作期間(P1)において、q軸電流(i
q)を予め定められたq軸制限電流量(本来の電流量よりも小さい電流量またはゼロ)に制限するとともにd軸電流(i
d)を予め定められたd軸制限電流量(本来の電流量よりも小さい電流量またはゼロ)に制限することにより、モータ電流(i
u,i
v,i
w)を予め定められたモータ制限電流量に制限する。
【0073】
図4に示すように、制御部(40)は、
図2に示した制御部(40)の構成に加えて、d軸回生制御部(47)を備えている。d軸回生制御部(47)は、電源位相検出部(51)によって検出された電源位相(θ
in)に基づいて、d軸電流指令値(i
d*)の制限の実行および解除を行う。
【0074】
《d軸回生制御部》
d軸回生制御部(47)は、電源位相検出部(51)によって検出された電源位相(θ
in)が予め定められた開始位相(回生動作期間(P1)の開始時点に対応する位相)となると、d軸電流指令値(i
d*)が予め定められたd軸制限電流量(この例では、ゼロ)となるように、d軸電流指令演算部(41)によって導出されたd軸電流指令値(i
d*)を制限し、その制限されたd軸電流指令値(i
d*)をdq軸電流制御部(44)に供給する。なお、d軸制限電流量は、回生動作期間(P1)においてd軸電流指令演算部(41)によって導出されるd軸電流指令値(i
d*)よりも小さい電流量またはゼロに設定されている。
【0075】
また、d軸回生制御部(47)は、電源位相検出部(51)によって検出された電源位相(θ
in)が予め定められた終了位相(回生動作期間(P1)の終了時点に対応する位相)となると、d軸電流指令値(i
d*)の制限を解除し、d軸電流指令演算部(41)によって導出されたd軸電流指令値(i
d*)をdq軸電流制御部(44)に供給する。
【0076】
〈電力変換装置による動作〉
次に、
図5を参照して、実施形態1の変形例による電力変換装置(10)の動作について説明する。ここでは、d軸回生制御部(47)およびq軸回生制御部(46)に動作(すなわち、回生制御)に着目して説明する。なお、この例では、開始位相(回生動作期間(P1)の開始時点に相当する位相)は、時刻(t1)に相当する位相に設定され、終了位相(回生動作期間(P1)の終了時点に相当する位相)は、時刻(t0)に相当する位相に設定されている。
【0077】
時刻(t1)になると、電源位相(θ
in)が開始位相となる。d軸回生制御部(47)は、d軸電流指令値(i
d*)がゼロとなるようにd軸電流指令演算部(41)によって導出されたd軸電流指令値(i
d*)を制限し、その制限されたd軸電流指令値(すなわち、ゼロを示したd軸電流指令値(i
d*))をdq軸電流制御部(44)に供給する。また、q軸回生制御部(46)は、q軸電流指令値(i
q*)がゼロとなるようにq軸電流指令演算部(42)によって導出されたq軸電流指令値(i
q*)を制限し、その制限されたq軸電流指令値(すなわち、ゼロを示したq軸電流指令値(i
q*))をdq軸電流制御部(44)に供給する。これにより、d軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)の両方の電流量が減少してゼロとなるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作が制御される。その結果、モータ(30)のインダクタンス成分(詳しくは、d軸インダクタンスおよびq軸インダクタンスの両方)に蓄積された磁気エネルギがインバータ回路(13)を経由して直流リンク部(12)のコンデンサ(C)に回生される。この磁気エネルギの回生により、直流リンク部(12)の直流電圧(V
dc)が上昇する。そして、モータ(30)から直流リンク部(12)への磁気エネルギの回生が完了すると(例えば、モータ(30)のインダクタンス成分に蓄積された磁気エネルギが全て回生されると)、直流電圧(V
dc)の上昇が停止する。このように、磁気エネルギの回生により直流電圧(V
dc)が上昇し、その結果、直流電圧(V
dc)のゼロクロス電圧値(V
dc0)が高くなる。
【0078】
時刻(t0)になると、電源位相(θ
in)が終了位相となる。d軸回生制御部(47)は、d軸電流指令値(i
d*)の制限を解除し、d軸電流指令演算部(41)によって導出されたd軸電流指令値(i
d*)をdq軸電流制御部(44)に供給する。これにより、d軸電流(i
d)は、その電流量(絶対値)が次第に増加していく。また、q軸回生制御部(46)は、q軸電流指令値(i
q*)の制限を解除し、q軸電流指令演算部(42)によって導出されたq軸電流指令値(i
q*)をdq軸電流制御部(44)に供給する。このとき、q軸電流指令演算部(42)によって導出されるq軸電流指令値(i
q*)は、ゼロを示している。したがって、q軸電流(i
q)は、ゼロのまま維持される。
【0079】
時刻(t2)になると、q軸電流指令演算部(42)によって導出されるq軸電流指令値(i
q*)は、電源電圧(V
in)の周波数に応じた脈動波形となるように次第に増加していく。したがって、q軸電流(i
q)も、電源電圧(V
in)の周波数に応じた脈動波形となるように次第に増加していく。また、d軸電流(i
d)は、その電流量(絶対値)が予め定められた電流量に維持される。
【0080】
このように、回生動作期間(P1)の開始時点においてd軸電流指令値(i
d*)およびq軸電流指令値(i
q*)をゼロに制限し、その後、回生動作期間(P1)の終了時点においてd軸電流指令値(i
d*)およびq軸電流指令値(i
q*)の制限を解除することにより、回生動作期間(P1)においてd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)をゼロに制限することができる。
【0081】
〈実施形態1の変形例による効果〉
以上のように、回生動作期間(P1)においてd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)の両方の電流量を減少させて磁気エネルギの回生を行うことにより、モータ(30)のd軸インダクタンスおよびq軸インダクタンスの両方に蓄積された磁気エネルギを利用して直流電圧(V
dc)を上昇させることができる。これにより、直流電圧(V
dc)の低下をさらに抑制することができる。
【0082】
また、回生動作期間(P1)においてd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)をゼロに制限することにより、回生動作期間(P1)におけるd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)の電流量の設定(すなわち、磁気エネルギの回生が行われるようにd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)の電流量を設定すること)を容易にすることができる。これにより、d軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)の制限のための演算処理を容易にすることができる。
【0083】
〔実施形態2〕
実施形態2による電力変換装置(10)は、実施形態1による電力変換装置(10)とは制御部(40)の構成が異なっている。その他の構成は、実施形態1による電力変換装置(10)の構成(
図1)と同様となっている。
【0084】
〈制御部〉
図6は、実施形態2における制御部(40)の構成例を示している。実施形態2では、制御部(40)は、実施形態1における制御部(40)による制御動作に加えて、下記の式1および式2が成立するように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御する。すなわち、実施形態2では、制御部(40)は、電源電圧(V
in)の周波数に応じてq軸電流(i
q)が脈動し、式1および式2が成立し、回生動作期間(P1)においてq軸電流(i
q)の電流量が減少してモータ(30)から直流リンク部(12)への磁気エネルギの回生が行われるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御する。
【0087】
なお、“i
d”は、モータ(30)のd軸電流に相当し、“V
dc0”は、ゼロクロス近傍期間(P0)における直流電圧(V
dc)の電圧値(すなわち、ゼロクロス電圧値(V
dc0)、この例では、電源電圧(V
in)ゼロクロスとなる時点における直流電圧(V
dc)の電圧値)に相当し、“ω”は、モータ(30)の電気角の回転角周波数(モータ角周波数)に相当し、“Φ
a”は、誘起電圧係数(モータ(30)の回転子の永久磁石による鎖交磁束)に相当し、“L
d”は、モータ(30)のd軸インダクタンスに相当する。
【0088】
〈制御部の構成〉
図6に示すように、実施形態2における制御部(40)は、実施形態1における制御部(40)とはd軸電流指令演算部(41)の構成が異なっている。その他の構成は、実施形態1による制御部(40)の構成(
図2)と同様となっている。
【0089】
《d軸電流指令演算部》
d軸電流指令演算部(41)は、ゼロクロス直流電圧目標値(V
dc0*)と、モータ角周波数(ω)と、誘起電圧係数(Φ
a)と、d軸インダクタンス(L
d)とに基づいて、d軸電流指令値(i
d*)が下記の式3で示される第1制限電流値以下となるとともに下記の式4で示される第2制限電流値よりも高くなるように、d軸電流指令値(i
d*)を導出する。
【0092】
なお、ゼロクロス直流電圧目標値(V
dc0*)は、直流電圧(V
dc)のゼロクロス電圧値(V
dc0)に対して予め定められた目標値(指令値)である。モータ角周波数(ω)は、モータ角周波数検出部(62)の検出値(すなわち、モータ角周波数検出部(62)によって検出されたモータ(30)の電気角の回転角周波数)である。誘起電圧定数(Φ
a)およびd軸インダクタンス(L
d)は、モータ(30)の磁気的特性に基づいて同定された同定値(機器定数)である。
【0093】
〈電力変換装置による動作〉
実施形態2による電力変換装置(10)の動作は、実施形態1による電力変換装置(10)の動作(
図3)と同様である。この例では、d軸電流指令演算部(41)は、d軸電流指令値(i
d*)が予め定められた電流量(具体的には、式3で示される第1制限電流値以下であり式4で示される第2制限電流値よりも高い電流値、好ましくは、第1制限電流値)に維持されるようにd軸電流指令値(i
d*)を導出する。これにより、d軸電流(i
d)が予め定められた電流量(具体的には、式1および式2を成立させることができる電流量、好ましくは、式1の等号が成立するときの電流量)に維持されるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作が制御される。
【0094】
〈モータの制御破綻〉
なお、電力変換装置(10)では、電源電圧(V
in)の周波数に応じて直流リンク部(12)の直流電圧(V
dc)が脈動するので、ゼロクロス近傍期間(P0)においてインバータ回路(13)の出力が不足してモータ(30)を正常に駆動させることが困難となる(すなわち、モータ(30)の制御が破綻してしまう)おそれがある。ここで、インバータ回路(13)の出力不足を抑制するために、モータ(30)のd軸電流(i
d)の電流量(絶対値)を増加させてモータ(30)の誘起電圧(V
o)を低下させることが考えられるが、d軸電流(i
d)の電流量が増加するとモータ電流(i
u,i
v,i
w)が増加して銅損が増加してしまう。
【0095】
〈モータの制御安定性〉
次に、モータ(30)の制御安定性について説明する。モータ(30)の制御安定性は、インバータ回路(13)の出力とモータ(30)の誘起電圧(V
o)とに依存している。すなわち、インバータ回路(13)の出力が誘起電圧(V
o)を下回っている場合(すなわち、インバータ回路(13)の出力が不足している場合)、モータ電流(i
u,i
v,i
w)を所望量に制御することが困難となるので、モータ(30)を正常に駆動させることができなくなる(すなわち、モータ(30)の制御が破綻してしまう)おそれがある。そして、モータ(30)の制御が破綻すると、モータ電流(i
u,i
v,i
w)が異常な電流量となって銅損が増加してしまうおそれがある。一方、インバータ回路(13)の出力が誘起電圧(V
o)を下回っていない場合では、モータ電流(i
u,i
v,i
w)を所望量に制御することができ、モータ(30)を正常に駆動させることができる。また、インバータ回路(13)の最大出力は、直流リンク部(12)の直流電圧(V
dc)に依存している。したがって、インバータ回路(13)の出力不足を抑制することができる条件は、次の式11のように表現される。
【0097】
誘起電圧(V
o)は、モータ(30)の電圧方程式から導出することができる。モータ(30)の電圧方程式は、次の式12のように表現される。
【0099】
なお、“V
d”はd軸電圧、“V
q”はq軸電圧、“R
a”は巻線抵抗、“ω”はモータ(30)の電気角の回転角周波数、“Φ
a”は誘起電圧係数(モータ(30)の回転子の永久磁石による鎖交磁束)に相当する。“p”は微分演算子である。
【0100】
ここで、R
a=0,pL
di
d=0,pL
qi
q=0とすると、式12は、次の式13のように表現される。すなわち、式13の右辺には、誘起電圧(V
o)に対応する項が残っている。
【0102】
式13に示されたd軸電圧(Vd)およびq軸電圧(Vq)は、誘起電圧(V
o)のd軸成分およびq軸成分にそれぞれ対応している。したがって、式13より、誘起電圧(V
o)は、次の式14のように表現される。
【0104】
式14を式11に代入すると、次の式15が導出される。
【0106】
なお、直流電圧(V
dc)は、ゼロクロス近傍期間(P0)において一定値となっているとみなすことができる。また、ゼロクロス近傍期間(P0)における直流電圧(V
dc)の電圧値(すなわち、ゼロクロス電圧値(V
dc0))は、ゼロクロス近傍期間(P0)を除いた他の期間(例えば、電源電圧(V
in)が最小値または最大値となる時点を含む極値近傍期間)における直流電圧(V
dc)の電圧値よりも低くなっている。したがって、ゼロクロス近傍期間(P0)では、インバータ回路(13)の出力がモータ(30)の誘起電圧(V
o)を下回る可能性が高くなっている。また、一般的に、q軸電流(i
q)は、ゼロクロス近傍期間(P0)においてゼロとなるように制御される。
【0107】
ここで、式15に、V
dc=V
dc0,i
q=0を代入すると、次の式16が導出される。すなわち、式16は、インバータ回路(13)の出力が誘起電圧(V
o)を下回る可能性が高くなっているゼロクロス近傍期間(P0)において、インバータ回路(13)の出力不足を抑制することができる条件であるといえる。
【0109】
そして、式16を整理すると、式1が導出される。
【0111】
したがって、式1を成立させることにより、インバータ回路(13)の出力不足を抑制することができる条件(式11)を成立させることができる。
【0112】
〈直流リンク部における共振現象〉
なお、ゼロクロス近傍期間(P0)においてモータ(30)の誘起電圧(V
o)が低下してゼロとなると、直流電圧(V
dc)のゼロクロスが発生するようになり、その結果、直流リンク部(12)において共振現象(LC共振)が発生するおそれがある。また、ゼロクロス近傍期間(P0)では、誘起電圧(V
o)は、モータ(30)のd軸電流(i
d)に依存している。したがって、直流リンク部(12)における共振現象の発生を抑制することができる条件は、次の式17のように表現される。
【0114】
そして、式17を整理すると、式2が導出される。
【0116】
したがって、式2を成立させることにより、直流リンク部(12)における共振現象の発生を抑制することができる条件(式17)を成立させることができる。
【0117】
〈実施形態2による効果〉
以上のように、少なくともゼロクロス近傍期間(P0)において式1が成立するようにモータ(30)のd軸電流(i
d)を制限することにより、d軸電流(i
d)の電流量(絶対値)が小さくなり過ぎてモータ(30)の誘起電圧(V
o)が過剰に上昇してしまうこと(具体的には、誘起電圧(V
o)がインバータ回路(13)の出力を上回ってしまうこと)を抑制することができる。すなわち、ゼロクロス近傍期間(P0)において、誘起電圧(V
o)の上昇によるインバータ回路(13)の出力不足を抑制することができるように、d軸電流(i
d)の最小電流量を制限することができる。これにより、モータ(30)の制御破綻を抑制しつつ銅損(具体的には、ゼロクロス近傍期間(P0)における銅損)を低減することができる。例えば、少なくともゼロクロス近傍期間(P0)において式1の等号が成立するようにインバータ回路(13)のスイッチング動作を制御することにより、モータ(30)の制御破綻を抑制しつつ銅損を最小にすることができる。
【0118】
また、少なくともゼロクロス近傍期間(P0)において式2が成立するようにモータ(30)のd軸電流(i
d)を制限することにより、d軸電流(i
d)の電流量(絶対値)が大きくなり過ぎて直流電圧(V
dc)が過剰に低下してしまうこと(具体的には、直流電圧(V
dc)のゼロクロスの発生)を抑制することができる。すなわち、ゼロクロス近傍期間(P0)において、直流電圧(V
dc)のゼロクロスの発生を抑制することができるように、d軸電流(i
d)の最大電流量を制限することができる。これにより、直流リンク部(12)における共振現象の発生を抑制することができる。
【0119】
また、ゼロクロス近傍期間(P0)においてq軸電流(i
q)がゼロとなるようにインバータ回路(13)のスイッチング動作を制御することにより、ゼロクロス近傍期間(P0)において、q軸電流(i
q)の変動に起因するモータの誘起電圧(V
o)の変動(具体的には、誘起電圧(V
o)のq軸成分の変動)を防止することができる。これにより、ゼロクロス近傍期間(P0)において、誘起電圧(V
o)の上昇によるインバータ回路(13)の出力不足を確実に抑制することができるように、d軸電流(i
d)の最小電流量を制限することができる。
【0120】
また、モータ(30)から直流リンク部(12)への磁気エネルギの回生により直流電圧(V
dc)のゼロクロス電圧値(V
dc0)を上昇させることができるので、式1を成立させることができるd軸電流(i
d)の電流量(すなわち、d軸電流(i
d)の最小電流量)をさらにゼロに近づけることができる。例えば、回生制御を行わない場合よりもゼロクロス直流電圧目標値(V
dc0*)を高い値に設定することができるので、式3で示される第1制限電流値(すなわち、d軸電流指令値(i
d*)の最小電流量(最小絶対値))をゼロに近づけることができ、その結果、d軸電流(i
d)の電流量をゼロに近づけることができる。これにより、ゼロクロス近傍期間(P0)における銅損をさらに低減することができる。
【0121】
なお、この例(
図3)では、回生動作期間(P1)の開始時点および回生動作期間(P1)の終了後における直流電圧(V
dc)の電圧値は、ゼロクロス近傍期間(P0)における直流電圧(V
dc)の電圧値(すなわち、ゼロクロス電圧値(V
dc0))よりも低くなっている。しかしながら、回生動作期間(P1)の開始時点では、モータ(30)から直流リンク部(12)のコンデンサ(C)へ磁気エネルギが瞬時的に回生されるので、磁気エネルギの回生が行われている期間は、ゼロクロス近傍期間(P0)よりも非常に短くなっている。したがって、磁気エネルギの回生が行われている期間においてインバータ回路(13)の出力不足が発生していたとしても、その出力不足がモータ(30)の制御に及ぼす影響は非常に少ないので、モータ(30)の制御は破綻しにくい。これと同様に、回生動作期間(P1)の終了後において直流電圧(V
dc)がゼロクロス電圧値(V
dc0)よりも低くなっている期間は、ゼロクロス近傍期間(P0)よりも非常に短くなっているので、この期間においてインバータ回路(13)の出力不足が発生していたとしても、モータ(30)の制御は破綻しにくい。
【0122】
〈直流電圧のゼロクロス電圧値の設定〉
なお、直流電圧(V
dc)のゼロクロス電圧値(V
dc0)が高くなるほど、式1を成立させることができるd軸電流(i
d)の電流量をゼロに近づけることができるので、ゼロクロス近傍期間(P0)における銅損を小さくすることができる。しかしながら、直流電圧(V
dc)のゼロクロス電圧値(V
dc0)が高くなるほど、電源電圧(V
in)の絶対値が直流電圧(V
dc)よりも大きくなる期間(すなわち、入力電流(i
in)の導通幅に相当する期間)が短くなって入力電流(i
in)の高調波成分が増加してしまう傾向にある。このように、入力電流(i
in)の導通幅は、直流電圧(V
dc)のゼロクロス電圧値(V
dc0)に依存している。
【0123】
そのため、直流電圧(V
dc)のゼロクロス電圧値(V
dc0)は、入力電流(i
in)の導通幅が予め定められた許容導通幅(具体的には、入力電流(i
in)に対する高調波規制を満たすことができる導通幅)となるように設定されていることが好ましい。例えば、ゼロクロス直流電圧目標値(V
dc0*)を、入力電流(i
in)の導通幅が許容導通幅となるときの直流電圧(V
dc)のゼロクロス電圧値(V
dc0)に設定することにより、直流電圧(V
dc)のゼロクロス電圧値(V
dc0)を上記のように設定することができる。
【0124】
以上のように、入力電流(i
in)の導通幅の制約に応じて直流電圧(V
dc)のゼロクロス電圧値(V
dc0)を設定することにより、入力電流(i
in)の導通幅を確保することができる。これにより、入力電流(i
in)の高調波成分の増加を抑制することができる。
【0125】
〔実施形態3〕
図7は、実施形態3による電力変換装置(10)の構成例を示している。実施形態3による電力変換装置(10)は、三相の入力交流電圧(具体的には、三相の交流電源(20)から供給された三相の電源電圧(V
in))を所定の出力交流電圧に変換してモータ(30)に供給する。実施形態3による電力変換装置(10)では、コンバータ回路(11)は、6個のダイオード(D1,D2,D3,D4,D5,D6)がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路によって構成されている。また、直流リンク部(12)の直流電圧(V
dc)は、電源電圧(V
in)の周波数の6倍の周波数で脈動する。また、実施形態3による電力変換装置(10)は、実施形態1による電力変換装置(10)とは制御部(40)の構成が異なっている。その他の構成は、実施形態1による電力変換装置(10)の構成(
図1)と同様となっている。
【0126】
〈制御部〉
制御部(40)は、モータ(30)の電気角の回転角周波数(モータ角周波数(ω))が予め定められたモータ(30)の電気角の回転角周波数の指令値(角周波数指令値(ω
*))となるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御してインバータ回路(13)の出力(出力交流電圧)を制御する。これにより、モータ(30)の駆動が制御される。
【0127】
また、この例では、制御部(40)は、直流電圧(V
dc)が全波整流された電源電圧(V
in)に対応する直流電圧指令値(V
dc*)を下回ると回生動作期間(P1)を開始して、回生動作期間(P1)においてモータ電流(i
u,i
v,i
w)の電流量が減少してモータ(30)のインダクタンス成分に蓄積された磁気エネルギがインバータ回路(13)を経由して直流リンク部(12)のコンデンサ(C)へ回生されるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御する。なお、直流電圧指令値(V
dc*)については、後で詳しく説明する。
【0128】
さらに、この例では、制御部(40)は、回生動作期間(P1)において直流電圧(V
dc)と直流電圧指令値(V
dc*)との差(具体的には、直流電圧指令値(V
dc*)から直流電圧(V
dc)を減算して得られる差分値)が大きくなるほどモータ電流(i
u,i
v,i
w)の減少量が多くなるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御する。
【0129】
また、この例では、制御部(40)は、電流ベクトル制御(より詳しくは、弱め磁束制御)によりモータ(30)を制御する。具体的には、制御部(40)は、モータ(30)のd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)に基づいて、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御する。また、制御部(40)は、回生動作期間(P1)においてq軸電流(i
q)の電流量が減少してモータ(30)から直流リンク部(12)への磁気エネルギの回生が行われるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御する。すなわち、この例では、回生動作期間(P1)において、q軸電流(i
q)を予め定められたq軸制限電流量(本来の電流量よりも小さい電流量またはゼロ)に制限することにより、モータ電流(i
u,i
v,i
w)をモータ制限電流量に制限する。
【0130】
〈制御部の構成〉
図8は、実施形態3における制御部(40)の構成例を示している。実施形態3における制御部(40)は、実施形態1における制御部(40)とq軸電流指令演算部(42)およびq軸回生制御部(46)の構成が異なっている。その他の構成は、実施形態1における制御部(40)の構成(
図2)と同様となっている。
【0131】
《q軸電流指令演算部》
q軸電流指令演算部(42)は、モータ角周波数検出部(62)の検出値(すなわち、モータ角周波数(ω))と予め定められた角周波数指令値(ω
*)との差が小さくなるように、q軸電流指令値(i
q*)を導出する。この例では、q軸電流指令演算部(42)は、速度制御部(401)を備えている。速度制御部(401)は、モータ角周波数検出部(62)の検出値(すなわち、モータ角周波数(ω))と予め定められた電気角の指令値(すなわち、角周波数指令値(ω
*))とに基づいて、モータ角周波数(ω)と角周波数指令値(ω
*)との偏差を求め、その偏差を比例積分演算(PI演算)してq軸電流指令値(i
q*)を導出する。
【0132】
《q軸回生制御部》
q軸回生制御部(46)は、直流電圧検出部(52)によって検出された直流電圧(V
dc)と直流電圧指令値(V
dc*)と予め設定された回生動作時間とに基づいて、q軸電流指令値(i
q*)の制限の実行および解除を行う。
【0133】
具体的には、q軸回生制御部(46)は、直流電圧(V
dc)が直流電圧指令値(V
dc*)を下回ると、q軸電流指令値(i
q*)が減少するようにq軸電流指令値(i
q*)を制限し、その制限されたq軸電流指令値(i
q*)をdq軸電流制御部(44)に供給する。
【0134】
また、q軸回生制御部(46)は、q軸電流指令値(i
q*)の制限を開始した時点(すなわち、直流電圧(V
dc)が直流電圧指令値(V
dc*)を下回る時点)から回生動作時間が経過すると、q軸電流指令値(i
q*)の制限を解除する。
【0135】
なお、q軸回生制御部(46)は、直流電圧(V
dc)と直流電圧指令値(V
dc*)との差(具体的には、直流電圧指令値(V
dc*)から直流電圧(V
dc)を減算して得られる差分値)が大きくなるほど、制限後のq軸電流指令値(i
q*)が小さくなる(すなわち、q軸電流指令値(i
q*)の減少量が多くなる)ように、q軸電流指令値(i
q*)を制限する。
【0136】
q軸回生制御部(46)は、直流電圧指令演算部(46a)とq軸電流指令補正部(46b)と比較部(46c)と選択部(46d)とを備えている。
【0137】
−直流電圧指令演算部−
直流電圧指令演算部(46a)は、電源位相検出部(51)によって検出された電源位相(θ
in)に基づいて直流電圧指令値(V
dc*)を導出する。
図9に示すように、直流電圧指令値(V
dc*)は、全波整流された電源電圧(V
in)に対応している。すなわち、電源位相(θ
in)に基づいて全波整流された電源電圧(V
in)を導出でき、その導出値(全波整流された電源電圧(V
in))を直流電圧指令値(V
dc*)に設定することができる。
【0138】
−q軸電流指令補正部−
q軸電流指令補正部(46b)は、直流電圧検出部(52)によって検出された直流電圧(V
dc)と直流電圧指令演算部(46a)によって導出された直流電圧指令値(V
dc*)とに基づいて、q軸電流指令演算部(42)によって導出されたq軸電流指令値(i
q*)を補正して新たなq軸電流指令値(i
q**)を導出する。具体的には、q軸電流指令補正部(46b)は、直流電圧(V
dc)から直流電圧指令値(V
dc*)を減算して差分値を導出し、その差分値を所定倍して補正値を導出し、その補正値をq軸電流指令値(i
q*)に加算して新たなq軸電流指令値(i
q**)を導出する。
【0139】
直流電圧(V
dc)が直流電圧指令値(V
dc*)を下回る場合、新たなq軸電流指令値(i
q**)は、q軸電流指令演算部(42)によって導出されたq軸電流指令値(i
q*)よりも小さな値(すなわち、制限されたq軸電流指令値(i
q*))となる。また、直流電圧(V
dc)と直流電圧指令値(V
dc*)との差が大きくなるほど、新たなq軸電流指令値(i
q**)とq軸電流指令値(i
q*)との差(すなわち、q軸電流指令値(i
q*)の減少量)が大きくなる。
【0140】
−比較部と選択部−
比較部(46c)は、直流電圧検出部(52)によって検出された直流電圧(V
dc)と直流電圧指令演算部(46a)によって導出された直流電圧指令値(V
dc*)とを比較して直流電圧(V
dc)が直流電圧指令値(V
dc*)を下回るか否かを判定する。選択部(46d)は、比較部(46c)における判定結果と予め設定された回生動作時間(回生動作期間(P1)の長さに相当する時間)とに基づいて、q軸電流指令演算部(42)からのq軸電流指令値(i
q*)およびq軸電流指令演算部(42)からのq軸電流指令値(i
q**)のいずれか一方を選択してdq軸電流制御部(44)に供給する。
【0141】
具体的には、選択部(46d)は、比較部(46c)において直流電圧(V
dc)が直流電圧指令値(V
dc*)を下回らないと判定されている期間では、q軸電流指令演算部(42)によって導出されたq軸電流指令値(i
q*)を選択する。そして、選択部(46d)は、比較部(46c)において直流電圧(V
dc)が直流電圧指令値(V
dc*)を下回ると判定されると、q軸電流指令補正部(46b)によって導出されたq軸電流指令値(i
q**)を選択する。
【0142】
また、選択部(46d)は、q軸電流指令値(i
q**)の選択を開始した時点(すなわち、比較部(46c)において直流電圧(V
dc)が直流電圧指令値(V
dc*)を下回ると判定された時点)から回生動作時間が経過すると、q軸電流指令演算部(42)によって導出されたq軸電流指令値(i
q*)を選択する。
【0143】
《回生動作期間の長さ》
この例では、回生動作時間(回生動作期間(P1)の長さ)は、入力交流電圧(V
in)を供給する交流電源(20)からコンバータ回路(11)を経由して直流リンク部(12)に至る電力経路におけるインダクタンス成分およびキャパシタンス成分に応じた共振周期の1/2に対応する時間(期間長さ)に設定されている。すなわち、これらのインダクタンス成分およびキャパシタンス成分に基づいて直流リンク部(12)における共振現象の周期を導出することができ、その共振現象の周期の1/2に対応する時間を回生動作時間(回生動作期間(P1)の長さ)に設定することができる。なお、交流電源(20)からコンバータ回路(11)を経由して直流リンク部(12)に至る電力経路におけるインダクタンス成分およびキャパシタンス成分には、この電力経路に設けられたコンデンサのキャパシタンス成分(例えば、直流リンク部(12)のコンデンサ(C)のキャパシタンス成分)や、この電力経路に設けられたインダクタのキャパシタンス成分(例えば、コンバータ回路(11)のインダクタンス成分)や、この電力経路を構成する配線(例えば、交流電源(20)とコンバータ回路(11)とを接続する配線)の寄生キャパシタンス成分や寄生インダクタンス成分などが含まれている。
【0144】
〈電力変換装置による動作〉
次に、
図10を参照して、実施形態3による電力変換装置(10)の動作について説明する。なお、
図10において破線で示された各信号の波形は、q軸回生制御部(46)の動作(すなわち、磁気エネルギを回生させるための回生制御)が行われない場合の各信号の波形に相当する。
【0145】
コンバータ回路(11)は、電源電圧(V
in)を全波整流して直流リンク部(12)へ出力し、直流リンク部(12)は、コンバータ回路(11)の出力を入力して、電源電圧(V
in)の周波数の6倍の周波数で脈動する直流電圧(V
dc)を生成する。なお、実施形態3における直流電圧(V
dc)の脈動成分の振幅は、実施形態1における直流電圧(V
dc)の脈動成分の振幅よりも小さくなっている。
【0146】
また、d軸電流指令演算部(41)は、d軸電流指令値(i
d*)が予め定められた電流量に維持されるようにd軸電流指令値(i
d*)を導出し、q軸電流指令演算部(42)は、モータ角周波数(ω)と角周波数指令値(ω
*)との差が小さくなるように、q軸電流指令値(i
q*)を導出する。その結果、d軸電流(i
d)が予め定められた電流量に維持される一方で、q軸電流(i
q)がモータ角周波数(ω)と角周波数指令値(ω
*)との差に応じた電流量となるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作が制御される。
【0147】
〈回生動作〉
次に、
図10を参照して、q軸回生制御部(46)の動作(すなわち、回生制御)について説明する。
【0148】
時刻(t1)になると、直流電圧(V
dc)が直流電圧指令値(V
dc*)を下回る。これにより、制御部(40)は、回生動作期間(P1)を開始する。すなわち、q軸回生制御部(46)は、q軸電流指令値(i
q*)の制限を開始する。具体的には、q軸回生制御部(46)では、選択部(46d)は、q軸電流指令補正部(46b)によって導出されたq軸電流指令値(i
q**)を選択してdq軸電流制御部(44)に供給する。これにより、q軸電流(i
q)の電流量が減少するように、インバータ回路(13)のスイッチング動作が制御される。その結果、モータ(30)のインダクタンス成分(この例では、q軸インダクタンス成分)に蓄積された磁気エネルギがインバータ回路(13)を経由して直流リンク部(12)のコンデンサ(C)に回生される。この磁気エネルギの回生により、直流リンク部(12)の直流電圧(V
dc)が上昇して直流電圧(V
dc)が直流電圧指令値(V
dc*)に近づく。
【0149】
時刻(t1)から回生動作時間が経過して時刻(t2)になると、制御部(40)は、回生動作期間(P1)を終了する。すなわち、q軸回生制御部(46)は、q軸電流指令値(i
q*)の制限を解除する。具体的には、q軸回生制御部(46)では、選択部(46d)は、q軸電流指令演算部(42)によって導出されたq軸電流指令値(i
q*)を選択してdq軸電流制御部(44)に供給する。これにより、q軸電流(i
q)の電流量が本来の電流量(具体的には、モータ角周波数(ω)と角周波数指令値(ω
*)との差に応じた電流量)となるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作が制御される。
【0150】
〔実施形態3による効果〕
以上のように、直流電圧(V
dc)が全波整流された電源電圧(V
in)に対応する直流電圧指令値(V
dc*)を下回ると、インバータ回路(13)を経由して直流リンク部(12)へ磁気エネルギが回生され、この磁気エネルギの回生により直流電圧(V
dc)が上昇する。これにより、直流電圧(V
dc)を直流電圧指令値(V
dc*)に近づけることができるので、直流リンク部(12)における共振現象(LC共振)による直流電圧(V
dc)の変動を抑制することができる。
【0151】
なお、直流電圧(V
dc)が全波整流された電源電圧(V
in)を下回って直流リンク部(12)において共振現象(LC共振)が発生すると、その共振現象の周期の前半において直流電圧(V
dc)が低下する傾向にある。したがって、直流電圧(V
dc)が全波整流された電源電圧(V
in)に対応する直流電圧指令値(V
dc*)を下回ってから共振周期の1/2に対応する時間が経過するまでの期間(すなわち、直流リンク部(12)における共振現象の周期の前半に対応する期間)において、インバータ回路(13)を経由して直流リンク部(12)へ磁気エネルギを回生させることにより、直流リンク部(12)における共振現象の周期の前半に対応する期間において直流電圧(V
dc)を上昇させることができる。これにより、直流リンク部(12)における共振現象による直流電圧(V
dc)の変動を効果的に抑制することができる。
【0152】
また、モータ電流(i
u,i
v,i
w)の電流量の減少量を多くすることにより、インバータ回路(13)を経由して直流リンク部(12)へ回生される磁気エネルギを大きくすることができ、その結果、直流電圧(V
dc)の上昇量を多くすることができる。これにより、直流電圧(V
dc)を直流電圧指令値(V
dc*)に適切に近づけることができるので、直流リンク部(12)における共振現象(LC共振)による直流電圧(V
dc)の変動を適切に抑制することができる。
【0153】
〔その他の実施形態〕
実施形態1および実施形態2の説明では、回生動作期間(P1)の一部がゼロクロス近傍期間(P0)の一部または全部と重複している場合を例に挙げたが、回生動作期間(P1)は、その一部または全部がゼロクロス近傍期間(P0)の一部または全部と重複する期間であってもよいし、ゼロクロス近傍期間(P0)と重複しない期間であってもよい。また、電源電圧(V
in)が極値(最小値または最大値)となる時点から電源電圧(V
in)が次に極値(最大値または最小値)となる時点までの期間(すなわち、直流電源(V
dc)が最大値となる時点から直流電圧(V
dc)が次に最大値となる時点までの期間)において、複数の回生動作期間(P1)が含まれていてもよい。例えば、第1回目の回生動作期間(P1)が電源電圧(V
in)が極値となる時点よりも後に開始して電源電圧(V
in)がゼロクロスとなる時点よりも前に終了し、第2回目の回生動作期間(P2)が電源電圧(V
in)がゼロクロスとなる時点よりも後に開始して電源電圧(V
in)が次に極値となる時点よりも前に終了するように構成されていてもよい。
【0154】
なお、実施形態1の変形例(
図4)の説明では、回生動作期間(P1)においてモータ(30)のd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)の両方の電流量が減少してモータ(30)から直流リンク部(12)への磁気エネルギの回生が行われる場合を例に挙げたが、制御部(40)は、回生動作期間(P1)においてd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)のうち少なくとも一方の電流量が減少して(具体的には、d軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)のうち少なくとも一方がゼロとなって)磁気エネルギの回生が行われるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御するように構成されていてもよい。例えば、
図4に示した制御部(40)は、q軸回生制御部(46)を備えていなくてもよい。
【0155】
また、d軸電流(i
d)が予め定められた電流量(実施形態2では、式1および式2を成立させることができる電流量)に維持される場合を例に挙げたが、制御部(40)は、d軸電流(i
d)が変動する(例えば、電源電圧(V
in)の周波数に応じてd軸電流(i
d)が脈動する)ようにインバータ回路(13)のスイッチング動作を制御してもよい。このようにd軸電流(i
d)が変動(例えば、脈動)する場合も、回生動作期間(P1)においてモータ(30)から直流リンク部(12)への磁気エネルギの回生が行われるようにインバータ回路(13)のスイッチング動作を制御することにより、直流リンク部(12)の直流電圧(V
dc)の低下を抑制することができる。また、少なくともゼロクロス近傍期間(P0)において式1が成立するようにインバータ回路(13)のスイッチング動作を制御することにより、モータ(30)の制御破綻を抑制しつつ銅損を低減することができ、少なくともゼロクロス近傍期間(P0)において式2が成立するようにインバータ回路(13)のスイッチング動作を制御することにより、直流リンク部(12)における共振現象の発生を抑制することができる。
【0156】
なお、直流電圧(V
dc)の脈動が安定している場合、ゼロクロス近傍期間(P0)における直流電圧検出部(52)の検出値(直流電圧(V
dc)の電圧値)は、ゼロクロス直流電圧目標値(V
dc0*)と同一であるとみなすことができる。したがって、実施形態2では、d軸電流指令演算部(41)は、ゼロクロス直流電圧目標値(V
dc0*)の代わりに、ゼロクロス近傍期間(P0)における直流電圧検出部(52)の検出値(例えば、電源電圧(V
in)がゼロクロスとなる時点における直流電圧検出部(52)の検出値)に基づいてd軸電流指令値(i
d*)を導出するように構成されていてもよい。このように構成した場合も、式1が成立するようにd軸電流(i
d)を制御することができる。
【0157】
また、モータ(30)の回転速度が安定している場合、角周波数指令値(ω
*)は、モータ角周波数検出部(62)の検出値(モータ角周波数(ω))と同一であるとみなすことができる。したがって、実施形態2では、d軸電流指令演算部(41)は、モータ角周波数検出部(62)の検出値の代わりに、角周波数指令値(ω
*)に基づいてd軸電流指令値(i
d*)を導出するように構成されていてもよい。または、d軸電流指令演算部(41)は、モータ角周波数検出部(62)の検出値の代わりに、直流電圧検出部(52)の検出値やモータ電流検出部(61)の検出値(モータ電流(i
u,i
v,i
w))などに基づいてモータ角周波数(ω)を導出し、そのモータ角周波数(ω)に基づいてd軸電流指令値(i
d*)を導出するように構成されていてもよい。このように構成した場合も、式1が成立するようにd軸電流(i
d)を制御することができる。
【0158】
また、実施形態2の説明では、電源電圧(V
in)がゼロクロスとなる時点における直流電圧(V
dc)の電圧値を、ゼロクロス近傍期間(P0)における直流電圧(V
dc)の電圧値(すなわち、ゼロクロス電圧値(V
dc0))とみなして処理を行う場合を例に挙げたが、ゼロクロス近傍期間(P0)内の任意の時点における直流電圧(V
dc)の電圧値(例えば、ゼロクロス近傍期間(P0)における直流電圧(V
dc)の最小値)を、ゼロクロス電圧値(V
dc0)とみなして処理を行うように構成されていてもよい。
【0159】
なお、実施形態1および実施形態2の説明では、交流電源(20)が単相交流電源によって構成されている場合を例に挙げたが、
図7に示すように、交流電源(20)は、三相交流電源によって構成されていてもよい。この例では、コンバータ回路(11)は、6個のダイオード(D1,D2,D3,D4,D5,D6)がブリッジ状に結線されたダイオードブリッジ回路によって構成されている。そして、この例では、直流リンク部(12)の直流電圧(V
dc)は、電源電圧(V
in)の周波数の6倍の周波数で脈動する。このように構成した場合も、上述の電力変換装置(10)と同様の効果を得ることができる。
【0160】
また、実施形態3の説明では、交流電源(20)が三相交流電源によって構成されている場合を例に挙げたが、交流電源(20)は、単相交流電源によって構成されていてもよい。この場合、制御部(40)は、
図8に示したq軸電流指令演算部(42)に代えて、
図2に示したq軸電流指令演算部(42)を備えていてもよい。また、制御部(40)は、
図8に示したd軸電流指令演算部(41)に代えて、
図2に示したd軸電流指令演算部(41)や
図6に示したd軸電流指令演算部(41)を備えていてもよい。さらに、制御部(40)は、
図4に示したd軸回生制御部(47)をさらに備えていてもよい。
【0161】
また、実施形態3の説明では、回生動作期間(P1)においてモータ(30)のq軸電流(i
q)の電流量が減少してモータ(30)から直流リンク部(12)への磁気エネルギの回生が行われる場合を例に挙げたが、制御部(40)は、回生動作期間(P1)においてd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)の両方の電流量が減少して磁気エネルギの回生が行われるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御してもよいし、回生動作期間(P1)においてd軸電流(i
d)の電流量が減少して磁気エネルギの回生が行われるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御してもよい。すなわち、制御部(40)は、回生動作期間(P1)においてd軸電流(i
d)およびq軸電流(i
q)のうち少なくとも一方の電流量が減少して磁気エネルギの回生が行われるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御するように構成されていてもよい。
【0162】
また、実施形態3の説明では、回生動作期間(P1)において直流電圧(V
dc)と直流電圧指令値(V
dc*)との差(具体的には、直流電圧指令値(V
dc*)から直流電圧(V
dc)を減算して得られる差分値)が大きくなるほど、モータ電流(i
u,i
v,i
w)の減少量が多くなるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作が制御される場合を例に挙げたが、回生動作期間(P1)におけるモータ電流(i
u,i
v,i
w)の減少量は、固定量であってもよい。すなわち、制御部(40)は、回生動作期間(P1)が開始するとモータ電流(i
u,i
v,i
w)が予め定められたモータ制限電流量(本来の電流量よりも小さい電流量またはゼロ)となるようにモータ電流(i
u,i
v,i
w)が制限され、回生動作期間(P1)が終了するとモータ電流(i
u,i
v,i
w)の制限が解除されるように、インバータ回路(13)のスイッチング動作を制御してもよい。
【0163】
また、以上の実施形態および変形例を適宜組み合わせて実施してもよい。以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、この発明、その適用物、あるいは、その用途の範囲を制限することを意図するものではない。