(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
大腸菌群を検出するために用いられ、前記発色酵素基質がβ−ガラクトシダーゼにより分解される発色酵素基質である、請求項1乃至4のいずれかに記載の微生物培養シート。
黄色ブドウ球菌を検出するために用いられ、前記発色酵素基質がα−グルコシダーゼにより分解される発色酵素基質である、請求項1乃至4のいずれかに記載の微生物培養シート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、基材シートと、前記基材シートの上に形成された培養層と、前記培養層を被覆するカバーシートと、を有する微生物培養シートを対象とする。また、本発明の微生物培養シートにおいて、前記培養層は、ポリビニルピロリドン、ゲル化剤、栄養成分、選択剤、発色酵素基質及び可塑剤を含有する。また、前記発色酵素基質が、β−ガラクトシダーゼにより分解される発色酵素基質又はα−グルコシダーゼにより分解される発色酵素基質である。また、前記可塑剤が、ポリエチレングリコール及び1,3−ブチレングリコールから選択される少なくとも1つである。
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0017】
[微生物培養シート]
以下、微生物培養シートの各構成要素について説明する。
(1)培養層
本発明の微生物培養シートにおいて、基材シートの上に設ける培養層は、ポリビニルピロリドン、ゲル化剤、栄養成分、選択剤、発色酵素基質及び可塑剤を含有する。培養層は、これらの成分を分散又は溶解させる溶媒を含む培地液から形成することができる。
【0018】
(i)ポリビニルピロリドン
ポリビニルピロリドンは、培地液の粘度調整剤としての役割を有する。ポリビニルピロリドンによれば、濃度を調整することで容易に培地液の粘度調整することができるので、ゲル化剤、栄養成分、選択剤、発色酵素基質及び可塑剤を均一に分散させることができる。また、培養層を必要な部分に形成することが可能となり、高価な材料の無駄が生じない。また、培地液を所定のパターンに配置した後に溶媒を除去すると、ポリビニルピロリドンの優れた皮膜性のため、ゲル化剤や栄養成分を取り込んで培養層を成膜することができる。また、基材シートとも良好な密着性を有するので、接着剤を使用しなくても培養層を形成することができる。そのため、接着剤成分による微生物の発育の影響を低減することができる。
【0019】
(ii)ゲル化剤
ゲル化剤を含有する培地液を用いて形成される培養層は、被検液を接種すると増粘若しくはゲル化するため、微生物の育成に良好な粘度を付与することができる。また、増粘後にはカバーシートに密着し得るため、培養時の培養層の乾燥を抑制することができる。
【0020】
ゲル化剤としては、特に制限されるものではなく、公知のゲル化剤を用いることができる。ゲル化剤としては、高分子多糖類が好ましく、カラギーナン、グアーガム、キタンサンガム、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ローカストビーンガム、アルギン酸及びアルギン酸塩等を挙げることができる。これらの高分子多糖類は、被検液中に含まれる水によって増粘又はゲル化するため、微生物の発育が良好となる。また、高分子多糖類は、透明性が高いため、コロニーの視認性に優れる。さらに、高分子多糖類は、増粘してカバーシートに密着し易くなるため、培養時の乾燥を抑制することができる。高分子多糖類の中でも、グアーガムが特に好ましい。グアーガムは、低濃度で極めて高い粘度を呈するため、少量で微生物の発育に適した環境を作ることができるからである。なお、グアーガムは、一年生の豆科植物であるグアーの種子の胚乳部より製造される。
【0021】
ゲル化剤の含有量は、ポリビニルピロリドン100質量部に対して100質量部以上6
00質量部以下であることが好ましい。
【0022】
(iii)栄養成分
栄養成分としては、特に制限されるものではなく、公知の栄養成分を用いることができる。栄養成分としては、例えば、一般生菌検査用の微生物培養シートの場合、栄養成分としては、酵母エキス・ペプトン・ブドウ糖混合物、肉エキス・ペプトン混合物、又はペプトン・大豆ペプトン・ブドウ糖混合物等、あるいはこれらにリン酸二カリウム及び/又は塩化ナトリウムを加えた混合物が好ましく用いられる。大腸菌群検査用の微生物培養シートの場合、栄養成分としては、デソキシコール酸ナトリウム・ペプトン・クエン酸鉄アンモニウム・塩化ナトリウム・リン酸二カリウム・乳糖・ペプトン・乳糖・リン酸二カリウム等が好ましく用いられる。黄色ブドウ球菌検査用の微生物培養シートの場合、栄養成分としては、肉エキス・ペプトン・塩化ナトリウム・マンニット・卵黄混合物、又はペプトン・肉エキス・酵母エキス・ピルビン酸ナトリウム・グリシン・塩化リチウム・亜テルル酸卵黄液混合物等が好ましく用いられる。ビブリオ検査用の微生物培養シートの場合、栄養成分としては、酵母エキス・ペプトン・蔗糖・チオ硫酸ナトリウム・クエン酸ナトリウム・コール酸ナトリウム・クエン酸第2鉄・塩化ナトリウム・牛胆汁等が好ましく用いられる。腸球菌検査用の微生物培養シートの場合、栄養成分としては、牛脳エキス・ハートエキス・ペプトン・ブドウ糖・リン酸二カリウム・窒化ナトリウム等が好ましく用いられる。真菌検査用の微生物培養シートの場合、栄養成分としては、ペプトン・ブドウ糖混合物、酵母エキス・ブドウ糖混合物、又はポテトエキス・ブドウ糖混合物等が好ましく用いられる。これらの中から発育させようとする微生物に応じて一種又はそれ以上の栄養成分を選択して用いることができる。なお、培養層中で栄養成分が不足している場合は、被検液に不足分の栄養成分を加えてもよい。
【0023】
(iv)選択剤
培養層は、検出目的以外の微生物の生育を抑える選択剤を含有する。このような選択剤としては、例えば、抗生物質、合成抗菌剤等の抗生剤、色素、界面活性剤、無機塩等が用いられる。抗生物質としては、メチシリン、セフタメタゾール、セフィキシム、セフタジジム、セフスロジン、バシトラシン、ポリミキシンB、リファンピシン、ノボビオシン、コリスチン、リンコマイシン、クロラムフェニコール、テトラサイクリン、又はストレプトマイシン等を挙げることができる。合成抗菌剤としては、例えば、サルファ剤、ナリジクス酸、又はオラキンドックス等を挙げることができる。また、色素としては、例えば、静菌又は殺菌作用のあるクリスタルバイオレット、ブリリアントグリーン、マラカイトグリーン、メチレンブルー等を挙げることができる。また、界面活性剤としては、例えば、Tergitol7、ドデシル硫酸塩、ラウリル硫酸塩等を挙げることができる。また、無機塩としては、例えば、亜セレン酸塩、亜テルル酸塩、亜硫酸塩、窒化ナトリウム、塩化リチウム、シュウ酸塩、又は高濃度の塩化ナトリウム等を挙げることができる。これら以外にも、例えば、タウロコール酸塩、グリシン、胆汁末、胆汁酸塩、又はデオキシコール酸塩等を挙げることができる。
【0024】
大腸菌群検査用の微生物培養シートの場合、選択剤としては、胆汁酸塩、デオキシコール等の胆汁由来物質、タージトール7、ラウリル硫酸ナトリウム(SDS)などの界面活性剤、クリスタルバイオレット等の色素類、又は、セフェキシム若しくはノボビオシン等の抗生物質等が好ましく用いられる。黄色ブドウ球菌検査用の微生物培養シートの場合、選択剤としては、塩化リチウム(LiCl)、アジ化ナトリウム(NaN
3)、コリスチン、ビブリオ菌増殖阻害化合物O/129、アズトレオナム、アンフォテリシン、コリマイシン、塩化ナトリウム(NaCl)、及びデフェロキサミンから選ばれる少なくとも1種が好ましく用いられる。
【0025】
(v)発色酵素基質
本発明の微生物培養シートにおいて、発色酵素基質としては、β−ガラクトシダーゼにより分解される発色酵素基質(β−ガラクトシダーゼ基質)又はα−グルコシダーゼにより分解される発色酵素基質(α−グルコシダーゼ基質)を用いる。発色酵素基質は、天然基質であってもよく、合成基質であってもよい。発色は、吸収、蛍光又は発光の変化のような光学的性質の変異によるものであることが望ましい。β−ガラクトシダーゼ基質は、β−ガラクトシダーゼ活性により加水分解され、発色を呈する任意の化合物を用いることができる。
【0026】
α−グルコシダーゼ基質は、α−グルコシダーゼ活性により加水分解され、発色を呈する任意の化合物を用いることができる。
【0027】
発色酵素基質は、例えば、インドキシル誘導体に基く酵素基質、ウンベリフェロン誘導体に基く酵素基質、フラボン誘導体に基く酵素基質、アリザリン誘導体に基く酵素基質、ナフトールベンゼイン誘導体に基く酵素基質、ニトロフェノール誘導体に基く酵素基質、ナフトール誘導体に基く酵素基質、カテコール誘導体に基く酵素基質、ヒドロキシキノリン誘導体に基く酵素基質、クマリン誘導体に基く酵素基質、レゾルフィン誘導体に基く酵素基質、フェノキサジン誘導体に基く酵素基質、ナフトール誘導体に基く酵素基質、ナフチルアミン誘導体に基く酵素基質を挙げることができる。これらの中でも、インドキシル誘導体に基く酵素基質、又はウンベリフェロン誘導体に基く酵素基質が好ましい。
【0028】
β−ガラクトシダーゼ基質としては、例えば、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド、6−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド及びオルトニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシド等が挙げられる。これらのうち、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド(X−Gal)が特に好ましい。
【0029】
α−グルコシダーゼ基質としては、例えば、4−メチルウンベリフェリル−α−D−グルコピラノシド、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−α−D−グルコピラノシド、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドリル−α−D−グルコピラノシド、5−ブロモ−6−クロロ−3−インドリル−α−D−グルコピラノシド、6−クロロ−3−インドリル−α−D−グルコピラノシド、5−ブロモ−3−インドリル−α−D−グルコピラノシド、o−ニトロフェニル−α−D−グルコピラノシド、フェニル−α−D−グルコピラノシド、3−ニトロフェニル−α−D−グルコピラノシド、4−ニトロフェニル−α−D−グルコピラノシド、3−インドキシル−α−グルコピラノシドトリハイドレート、n−ヘプチル−α−D−グルコピラノシド、5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−2−アセトアミド−2−デオキシ−α−D−グルコピラノシド等が挙げられる。これらのうち、4−メチルウンベリフェリル−α−D−グルコピラノシドが特に好ましい。
【0030】
発色酵素基質の培地液中の含有量は、例えば、0.01〜2.0g/lである。発色酵素基質の培地液中の含有量は、発色のコントラストの観点から、0.02〜0.2g/lであることが好ましい。
【0031】
発色酵素基質は、広いpH範囲で用いることができ、例えば、pH5.5〜10、好ましくはpH6.5〜10で用いることができる。
【0032】
(vi)可塑剤
本発明の微生物培養シートにおいて、可塑剤として、ポリエチレングリコール及び1,3−ブチレングリコールから選択される少なくとも1つを用いる。
【0033】
ポリエチレングリコールの平均分子量は、100以上であることが好ましく、150以上であることがより好ましく、200以上であることがさらに好ましく、300以上であることが特に好ましい。また、ポリエチレングリコールの平均分子量は、10000以下であることが好ましく、5000以下であることがより好ましく、2000以下であることがさらに好ましく、1000以下であることが特に好ましく、800以下であることがより特に好ましい。
【0034】
ポリエチレングリコールの培養層中の含有量は、例えば、ポリビニルピロリドン100質量部に対して、30質量部以上90質量部以下である。ポリエチレングリコールの培養層中の含有量は、反りを抑制する観点から、ポリビニルピロリドン100質量部に対して、40質量部以上80質量部以下であることが好ましい。
【0035】
1,3−ブチレングリコールの培養層中の含有量は、例えば、ポリビニルピロリドン100質量部に対して、30質量部以上90質量部以下である。1,3−ブチレングリコールの培養層中の含有量は、反りを抑制する観点から、ポリビニルピロリドン100質量部に対して、40質量部以上80質量部以下であることが好ましい。
【0036】
(vii)その他
培養層は、β−ガラクトシダーゼ発現誘導物質を含んでもよい。β−ガラクトシダーゼ発現誘導物質としては、例えば、イソプロピル−1−チオ−β−D−ガラクトシド(以下、IPTGとも称す)又はメチル−β−D−チオガラクトシドなどが挙げられる。IPTGについては、0.05〜0.1mM(1.2〜2.4mg/100ml)の濃度で大腸菌のβ−ガラクトシダーゼの合成を強力に誘導することが知られている。
【0037】
培養層は、発色指示薬を含んでもよい。発色指示薬は、培養過程で発育する微生物の代謝により産出される特異物質との反応、pH変化の認識等によって発色してコロニーを着色することができ、コロニー数の計数を極めて容易にする効果を有する。発色指示薬としては、例えば、トリフェニルテトラゾリウムクロライド(以下TTCと表示)、p−トリルテトラゾリウムレッド、テトラゾリウムバイオレット、ベラトリルテトラゾリウムブルー等のテトラゾリム塩、ニュートラルレッド混合物、フェノールレッド、ブロムチモールブルー、又はチモールブルー混合物等のpH指示薬がある。
【0038】
培養層は、1層で構成されてもよく、2層以上で構成されてもよい。例えば、ポリビニルピロリドン溶液(i)にゲル化剤(ii)を含有する培地液で第1培養層を形成し、その上にポリビニルピロリドン溶液(i)にゲル化剤(ii)、栄養成分(iii)、選択剤(iv)及び発色酵素基質(v)を含有する培地液で第2培養層を形成し、本発明で使用する培養層としてもよい。
【0039】
また、培地液中に含まれる成分によっては混合により反応を起こす場合があり、これらを別の層に含有させることで混合反応を防ぐことができる。したがって、例えば栄養成分に混合反応を起こす成分AとBとが含有される場合には、A成分を除去した第1培養層と、B成分を除去した第2培養層との2層を積層して培養層としてもよい。
【0040】
(viii)培養層の形成
培養層は、基材シートの上に培地液を所定のパターンに塗布して乾燥することにより形成することができる。培養層をパターン形成することにより、被検液の滴下後に速やかにカバーシートを被覆することで、被検液が自然に一定範囲に拡がるため、優れた操作性を提供することができる。本発明において、「パターン形成」とは、基材シートの上に、培地液を予め決められた形状に印刷、塗布、塗工、又は噴霧等によって配置することをいう。培地液を基材上に配置する方法は、特に制限されるものではない。したがって、パター
ン形成には、スクリーン印刷、グラビア印刷、凸版印刷、転写印刷、フレキソ印刷、その他の印刷、ディスペンサーやインクジェット等による塗布、バー等を使用してコーティングするバーコートやナイフコート、ダイコート等の塗工、スプレー方式等の噴霧等の方法を使用することができる。
【0041】
培地液中に含まれる成分は、粉末で添加してもよいし、また、これらを溶媒に溶解した後、例えば、前記ポリビニルピロリドンのアルコール溶液に混合し、培地液としてもよい。なお、発色指示薬の種類によっては滅菌処理時に着色が目立つものもあり、培養層に含有させず、被検液に発色指示薬を含んだものを使用して発色させてもよい。
【0042】
(2)微生物培養シートの構成
微生物培養シートの好適な態様の一例を
図1(a)、(b)に示す。
図1(a)は平面図であり、
図1(b)は
図1(a)のA−A’断面図である。
【0043】
図1は、方形の基材シート10の略中央に培養層30が形成され、かつ前記培養層30を被覆するように、方形のカバーシート40が設けられている態様を示す。基材シート10に培養層30がパターン形成されている。
図2(a)の断面図に示すように、基材シート10は、基材シート11と、基材シート13との2層からなる多層シートであってもよく、更に、プラスチック以外の他の層を積層する多層シートであってもよい。また、
図2(b)に示すように、培養層30が2層以上の多層で構成されていてもよい。
【0044】
パターン形成により調製された培養層30の形状は、
図1に示す円形に限定されるものではなく、正方形、長方形、その他の多角形、不定形であってもよい。
【0045】
微生物培養シートは、
図3(a)の展開図に示すように、基材シート10とカバーシート40との双方に、培養層30と、バインダー成分及び栄養成分等のその他の成分を含有する特定成分層30’と、がそれぞれ形成されていてもよい。例えば、培養層30と、前記特定成分層30’との双方にゲル化剤が含まれている場合には、基材シート10の上の培養層30と、カバーシート40に設けられた特定成分層30’とが対向して配設されるため、例えば、基材シート10の上の培養層30に被検液を接種した後に、カバーシート40で培養層30を被覆すると、前記被検液が培養層30と特定成分層30’とに吸水され、培養層30と特定成分層30’との双方で微生物を観察することができる。また、指示薬によっては、培養層30に含有させると滅菌処理時に着色が目立つものもあり、その場合には、前記指示薬を特定成分層30’に含有させることで、滅菌処理時の着色を防止することができる。なお、
図3(b)は、横断面図である。
【0046】
また、微生物培養シートは、
図4(a)の平面図及び
図4(b)のA−A’線断面図に示すように、基材シート10の略中央に培養層30が形成され、前記培養層の外周に円形の枠層20が形成されたものであってもよい。枠層20によれば、培養層30に接種した被検液の吸水範囲をより確実に限定することができる。なお、枠層20の形状は円形に限定されるものではなく、方形、楕円形、多角形、不定形等いずれであってもよいが、培養層30に接種した被検液の吸水範囲が所定の面積を確保しうるように枠層が形成されていることが好ましい。また、この態様において、
図5の断面図に示すように、更にカバーシート40に、基材シート10の上の培養層30と対向するように特定成分層30’が形成されていてもよい。
【0047】
更に、
図6に示すように、前記枠層20と対向するように、カバーシート40に粘着層50が形成されていてもよい。枠層20と粘着層50とが密着することで、培養層30の乾燥や汚染をより効果的に防止することができる。
【0048】
微生物培養シートでは、
図7(a)の断面図に示すように、疎水性樹脂からなる枠層20が基材シート10の表面に形成されている場合であっても、基材シート10は、基材シート11と、基材シート13との2層からなる多層シートの態様であってもよいし、プラスチック以外の他の層を積層する多層シートであってもよい。また、
図7(b)の断面図に示すように、疎水性樹脂からなる枠層20が基材シート10の表面に形成されている場合であっても、培養層30は2層以上の多層で構成されていてもよい。
【0049】
また、培養層30は、基材シート10の上に複数存在してもよい。複数の培養層30と、それらの外周を囲む凸形状の疎水性樹脂からなる枠層20と、前記培養層30を被覆するカバーシート40とが基材シート10の端部で固設された態様を
図8(a)、(b)に示す。
図8(a)は平面図であり、
図8(b)は、
図8(a)のA−A’断面図である。
図8(b)では、カバーシート40は、培養層30を被覆し、かつ枠層20の上部に密着することができるように、2つの角部(C1,C2)が形成される態様となっている。なお、
図8とは相違するが、前記基材シート10上に形成された培養層30と対向するように、カバーシート40に特定成分層30’が形成されていてもよい。
【0050】
(3)基材シート
本発明の微生物培養シートでは、基材シートの上に培地液をパターン形成するため、基材シートは、耐溶媒性、印刷適性を有する必要がある。また、微生物培養シートとして、耐水性も要求され、培養層を形成する際の乾燥処理に耐える耐熱性を有することも要求される。基材シートは、単層でもよく、2層以上の積層シートであってもよい。
【0051】
(4)カバーシート
本発明の微生物培養シートでは、カバーシートは、基材シートに固設されていることが好ましい。カバーシートは、培養中の落下菌等による汚染を防止すると共に、培養層の水分蒸発を防止する作用を有する。カバーシートは、防水性、水蒸気不透過性を有すると同時に、微生物の培養後、カバーシートを通してコロニーを観察及び計数できるように、透明であることが好ましい。カバーシートとしては、例えば、前記基材シートで挙げたようなポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル等のプラスチックシートを使用することができる。微生物培養シートでは、前記基材シートとカバーフィルムとが透明であれば、微生物培養シートの背面からの投射光で観察することもでき、また、側面からの入射光で観察することもできる。すなわち、カバーシート側からも基材シート側からもコロニーを観察及び計数することができるので、観察方法及び計測方法の選択の幅が広がることとなる。なお、カバーシートの開け閉め等の作業性を考慮すると、ポリエステルフィルム、ポリオレフィンフィルムが特に好ましい。
【0052】
(5)枠層
本発明の微生物培養シートでは、前記培養層の外周に、疎水性樹脂からなる枠層が形成されていることが好ましい。枠層が形成されていると、被検液を培養層に接種し、カバーシートを被覆した場合に、被検液が枠層まで速やかに拡散されるため、培養層による被検液の吸水を待たずにカバーシートを被覆することができ、接種操作を短時間で行うことができる。また、枠層によって被検液の遺漏をより確実に防げ、接種時の作業効率を向上することできる。培養層にゲル化剤が含まれる場合には、被検液が枠層の内側にある培養層に吸水され、ゲル化剤が増粘し、培養層とカバーシートとの密着性により培養層の乾燥を防止することができる。また、培養層にゲル化剤が含まれない場合であっても、ポリビニルピロリドンが溶解し増粘するため、培養層とカバーシートとの密着性により培養層の乾燥を防止することができる。培養層とカバーシートとの密着性が優れると、カバーシートにコロニー形成のための層等を形成する必要がなく、コロニーの優れた視認性を確保することができる。
【0053】
(6)粘着層
本発明の微生物培養シートでは、基材シートやカバーシートに粘着層を形成することができる。このような粘着層は、培養層を被覆したカバーシートを固定し、培養層の水分蒸発や汚染を防止する目的で配設され、基材シートを密封できればいかなる種類の粘着剤を用いてもよい。作業性を考えると基材シートとカバーシートとが再接着できる程度に、弱い粘着力を有する粘着剤が好ましい。例えば、ゴム系粘着剤やアクリル系粘着剤が好ましく、特に再剥離タイプ及び微粘着タイプのアクリル系粘着剤が好ましく用いられる。具体的には、ブチルアクリレートや2−エチルヘキシルアクリレート等のアルキルアクリレート(好ましくはアルキルの炭素数が2〜12)100質量部に対し、カルボキシル基や水酸基、アミノ基等の官能基を含有するモノマーを2〜15質量部共重合させたポリマーに、粘着付与剤としてロジン、キシレン樹脂、フェノール樹脂等を加え、メラミン類、イソシアネート類、エポキシ等で架橋したもの等を使用することができる。また、粘着層はどのような形状でもよいが、基材シートとカバーシートとの接着部分に隙間がなく接着できるように配設されることが好ましい。
【0054】
(7)格子印刷層
本発明の微生物培養シートには、格子印刷層が積層されていてもよい。格子印刷は、着色剤、樹脂、溶剤等の選択範囲が広い点でグラビア印刷等が好ましい。枡目の大きさは1cm角程度が適当である。
【0055】
(8)微生物培養キット
本発明では、前記微生物培養シートと、特定成分を含む被検液とを組み合わせて、微生物培養キットとすることができる。
被検液に、培養層に添加することが望ましい成分(例えば、発色指示薬)を添加して培養することができる。特に、滅菌処理その他の工程で変質、変色、分解等を受けやすい成分を含む場合に、有効である。
【0056】
(9)製造方法
(i)培養層の形成
本発明の微生物培養シートにおける培養層は、上述のように、基材シートの上に培地液を所定のパターンに配置して乾燥することにより形成することができる。また、パターン形成の方法も、培地液を基材シートの予定した形状に塗布できるものであれば、特に制限はなく、印刷、塗布、塗工、噴霧等の任意の方法を用いることができる。好ましくは、ポリビニルピロリドンのアルコール溶液に、ゲル化剤、栄養成分、選択剤、発色酵素基質及び可塑剤を含有させた培地液を調製し、該培地液を基材シートの上にパターン形成した後、前記培地液に含まれるアルコールを除去して培養層を形成する。
【0057】
微生物培養シートの製造方法では、基材シートと培養層との密着性、パターン形成の容易さ等の理由から、ポリビニルピロリドンのアルコール溶液を使用することが好ましい。アルコールとしては、炭素数1〜5のアルコールを好適に使用することができる。例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、及びブタノールから選ばれる少なくとも1種を使用することができる。これらの中でも、メタノール、エタノール、又はイソプロピルアルコールが好ましい。従来は、栄養成分を溶解するために水やトルエン等の高沸点溶媒が使用されていたが、溶媒除去のために高温で加熱する必要があり、培養層に含まれる成分や基材の熱分解を招くおそれがあった。また、溶媒除去に過剰の熱エネルギーを使用する必要があり、コスト上昇の一因となり、また、溶媒除去時間も長くなるため生産効率低下の一因ともなっていた。本実施形態では、ポリビニルピロリドンを使用し、その溶媒として、低沸点である前記アルコールを使用することで、培地液に含まれる成分や基材の熱変性を回避し、並びに生産効率を向上することができる。なお、前記趣旨を損
なわない範囲で、アルコールにクロロホルム等の副溶媒を混合した溶媒を使用することもできる。
【0058】
ポリビニルピロリドンを培地液の必須の成分とした理由は、前記したように濃度を調整することでゲル化剤、栄養成分、選択剤、発色酵素基質及び可塑剤等を均一に分散させることができ、しかも、容易に粘度を調整することができるためである。これにより、培地液を容易にパターン形成できる。なお、ポリビニルピロリドンは、優れた成膜性と基材シートに対する密着性とを有するため、接着剤を使用することなく基材シートに培養層を形成することができ、接着剤による微生物の発育阻害を回避することができる。
【0059】
ポリビニルピロリドンに対するアルコールの量は、ポリビニルピロリドン100質量部に対して、100質量部以上10000質量部以下であることが好ましく、300質量部以上2000質量部以下であることがより好ましく、900質量部以上1400質量部以下であることが特に好ましい。
【0060】
培地液を構成するゲル化剤はパターン形成が可能であれば、ポリビニルピロリドンのアルコール溶液に溶解している必要はない。したがって、微生物培養シートの製造方法では、ゲル化剤を粉末で添加することができる。粉末で添加する場合のゲル化剤の平均粒子径は5〜500μm、より好ましくは10〜200μmである。平均粒子径が前記範囲にあれば、分散性に優れる。500μmを超えると分散性が低下し、パターン形成適性が損なわれる場合がある。ただし、これらを溶媒に溶解し、前記ポリビニルピロリドンのアルコール溶液に混合して培地液としてもよい。
【0061】
培地液におけるゲル化剤の含有量は、ポリビニルピロリドン100質量部に対して、100質量部以上600質量部以下であることが好ましく、250質量部以上400質量部以下であることがより好ましい。ゲル化剤の含有量が前記範囲であれば、被検液滴下の際の水分によって、増粘又はゲル化し、菌の育成に良好な粘度とすることができる。
【0062】
なお、ポリビニルピロリドンの皮膜は硬くもろい場合があるため、本発明では可塑剤としてポリエチレングリコール又は1,3−ブチレングリコールを添加する。本発明において、本発明の効果を阻害しない限り、エーテルエステル誘導体系可塑剤、プロピレングリコールやグリコール誘導体系可塑剤、グリコールエーテル誘導体系可塑剤、ポリヒドロキシカルボン酸誘導体系可塑剤、又はフタル酸誘導体系可塑剤等の他の可塑剤を添加してもよい。グリセリンやグリセリン誘導体系可塑剤は含まないことが望ましい。
【0063】
微生物培養シートの製造方法では、前記培地液を使用してパターン形成するが、特に、前記培地液を使用し、ディスペンサーによる塗布等で好適に培養層を形成することができる。
【0064】
前記したように培養層は、2層以上の多層であってもよい。なお、本発明では、培養層が第1培養層と第2培養層とからなる2層である場合に、異なる方法でパターン形成を行ってもよい。例えば、第1培養層をディスペンサーで塗布してパターン形成し、第2培養層のパターン形成に関しては、噴霧等その他の方法を用いてもよい。
【0065】
本実施形態では、培地液を基材シート上にパターン形成した後に、培地液に含まれるアルコールを除去する。ポリビニルピロリドンにゲル化剤等を配合した培養層を使用することで、寒天培地と同様に微生物コロニーを観察及び計数することができ、かつ極めて優れた視認性を得ることができる。なお、ゲル化剤は、水溶性であるため水溶液として調製された後に基材に塗工されることが一般的である。しかし、ゲル化剤は水の除去に高温かつ長時間の加熱処理を行う必要があり、水溶液の調製時に、高い粘度のために気泡等が混入
する場合があった。本実施形態によれば、ゲル化剤等の粉末をポリビニルピロリドンのアルコール溶液に分散させるため、気泡の混入を回避することができ、水を使用していないため、乾燥を低温かつ短時間で行うことができる。また、ゲル化剤等は、ポリビニルピロリドンのアルコール溶液に分散しているだけで溶解していないため、培地液の粘度の上昇を防止することができ、これによって円滑なパターン形成を行うことができる。しかも、得られた培養層では、前記成分がポリビニルピロリドンで被覆されているので、被検液を接種するとポリビニルピロリドンが直ちに溶解し、前記成分が溶解又は吸水する。そのため、被検液の接種後、すぐにカバーシートで被覆することができる。また、ポリビニルピロリドンが溶解したり、ゲル化剤が含まれたりする場合には、それが増粘してカバーシートに密着するため、乾燥を防止しうると共に、極めて優れた視認性を確保することができる。
【0066】
微生物培養シートにおいて、特定成分層は、例えば塗布方法は、全面塗布であっても、パターン形成であってもよい。パターン形成の場合には、培養層の形成と同様に、印刷、塗布、塗工、噴霧等であってもよい。
【0067】
培養層の乾燥は、培地液に含まれる前記アルコールを除去できればよく、温度、圧力等、従来公知の方法に準じて乾燥することができる。
【0068】
基材シートの上に形成する培養層の厚さは、乾燥後において50〜1000μmであることが好ましく、200〜600μmであることがより好ましい。また、塗布量は、乾燥後において5〜400g/m
2であることが好ましく、100〜300g/m
2であることがより好ましい。前記範囲で、菌の発育に最適な粘度の培養層とすることができる。
【0069】
(ii)枠層の形成
本発明の微生物培養シートは、基材シートの表面、かつ培養層の外周に枠層を形成してもよい。枠層は、疎水性樹脂を用いて形成することができる。なお、枠層の製造方法は特に問わない。あらかじめ枠層が形成された基材シートを使用することもできる。
【0070】
枠層が形成された基材シートとしては、少なくとも疎水性樹脂を表面に有する基材シートであって、その疎水性樹脂の部分がエンボス加工されることにより、枠の形状に凸部が形成されたものが挙げられる。そして、前記凸部の内側に培養層を形成すれば、微生物培養シートを製造することができる。また、培養層を形成する箇所を凹状にエンボス加工し、凹部の外周に形成される凸部を枠層とすることもできる。
【0071】
(iii)カバーシートの固設
本発明の微生物培養シートは、培養層に被検液を接種した後にカバーシートで培養層を被覆し、これを培養するため、カバーシートの一部が基材シートに固設されていることが好ましい。ただし、直接スタンプや拭き取り試験等の場合、カバーシートが無いことで作業効率が向上する場合には、カバーシートを取り除いて使用してもよい。
【0072】
カバーシートと基材シートとが同一部材で構成される場合には、別個に作成したカバーシートを基材シートにヒートシールやラミネート接着、その他によって固設してもよいが、カバーシートと基材シートとを同質の材料を使用し、
図9(a)の展開図、
図9(b)の断面図に示すように基材シート10とカバーシート40とを連設したまま基材シート10に枠層20と培養層30とを形成し、カバーシート40を折り曲げて微生物培養シートを形成してもよい。
図9(c)にその断面図を示す。この方法によれば、カバーシートに特定成分層30’や粘着層50を形成する場合でも、基材シート10とカバーシート40が連設されているため、基材シート10の上の培養層30と対向する位置に正確かつ簡便に特定成分層30’を形成することができる。
【0073】
また、
図10及び
図11の横断面図に示すように、カバーシート40と基材シート10とを異なる部材で構成し、カバーシート40と、培養層30を形成した基材シート10とを、両面接着テープ60等で張り合わせてもよい。
【0074】
図12及び
図13に、カバーシート40に格子印刷が形成され、カバーシート40と培養層30を形成した基材シート10とが端部で接着された微生物培養シートの外観斜視図を示す。
図13では、培養層30の周囲に枠層20が形成されている。
【0075】
微生物培養シートは、ガンマ線照射やエチレンオキサイドガス滅菌等の滅菌を施し、微生物培養シートの製品とすることができる。微生物培養シートは、含まれる微生物栄養成分の種類や、使用する基材シート、カバーシートの通気性その他に応じて各種の微生物の培養を行うことできる。
【0076】
また、本発明の微生物培養シートを用いて、試料中に含まれる大腸菌群を効果的に検出することができる。すなわち、本発明の微生物培養シートは、β−ガラクトシダーゼ活性による発色反応において、大腸菌群に対して優れた検出性能を有するため、大腸菌群の検出用ツールとして有用である。また、同様に、本発明の微生物培養シートを用いて、試料中に含まれる黄色ブドウ球菌を効果的に検出することができる。すなわち、本発明の微生物培養シートは、α−グルコシダーゼ活性による発色反応において、黄色ブドウ球菌に対して優れた検出性能を有するため、黄色ブドウ球菌の検出用ツールとして有用である。
【0077】
そこで、本発明の一形態は、少なくとも1種の細菌を含む試料中の大腸菌群を検出するための方法であって、本発明の微生物培養シートの前記培養層に、前記試料の少なくとも1部を接種する工程と、前記培養層上に接種された細菌を培養する工程と、を含む方法である。
【0078】
また、本発明の一形態は、少なくとも1種の細菌を含む試料中の黄色ブドウ球菌を検出するための方法であって、本発明の微生物培養シートの前記培養層に、前記試料の少なくとも1部を接種する工程と、前記培養層上に接種された細菌を培養する工程と、を含む方法である。
【実施例】
【0079】
次に実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は何ら本発明を制限するものではない。
【0080】
(実施例1)
メタノール276gにポリビニルピロリドン24gを溶解し、ポリビニルピロリドンのメタノール溶液を調製した。このポリビニルピロリドンのメタノール溶液に、ゲル化剤としてのグアーガム粉末75.8g、栄養成分としてのトリプトン9.3g、酵母エキス0.9g、ピルビン酸ナトリウム0.35g、L−トリプトファン0.35g、塩化ナトリウム1.7g、リン酸二水素ナトリウム0.18g、リン酸水素二ナトリウム0.95g、硝酸カリウム0.18g、選択剤としてのラウリル硫酸ナトリウム0.04g、発色酵素基質としてのX−gal0.04g、可塑剤としてのポリエチレングリコール10g、β−ガラクトシダーゼ発現誘導物質としてのIPTG0.04gを添加して培地液を調製した。なお、使用した材料の入手先は以下の通りである。
【0081】
・ポリビニルピロリドン(日本触媒社製、商品名「ポリビニルピロリドン K−90」)・グアーガム粉末(三晶社製、商品名「ネオビスコ G」、200メッシュタイプ)
・トリプトン(Becton,Dickinson and Company社製、商品
名「BACT TRYPTONE」)
・酵母エキス(Becton,Dickinson and Company社製、商品名「YEAST EXTRACT」)
・ピルビン酸ナトリウム(和光純薬工業社製)
・L−トリプトファン(和光純薬工業社製)
・塩化ナトリウム(和光純薬工業社製)
・リン酸二水素ナトリウム(和光純薬工業社製)
・リン酸水素二ナトリウム(和光純薬工業社製)
・硝酸カリウム(和光純薬工業社製)
・ラウリル硫酸ナトリウム(和光純薬工業社製)
・X−gal(5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド、BIOSYNTH社製)
・ポリエチレングリコール(和光純薬工業社製、ポリエチレングリコール600、和光一級)
・IPTG(和光純薬工業社製)
【0082】
次に、この培地液をポリエチレンテレフタラートフィルム(帝人デュポン社製、商品名「テイジンテトロンフィルム」)の上に所定のパターンに配置した後、50℃で15分間乾燥させ、培養層を形成した。乾燥後の培養層の厚さは、約250μmであった。次いで、ディスペンサーを用いて、UV硬化インク(十条ケミカル社製、商品名「レイキュアーGA 4100−2」)を幅1.0mm、高さ750μm、直径52mmの円状に塗布した。続いて、水銀ランプを用いて積算光量250mJ/cm
2の紫外線を照射し、UV硬化インクを硬化させ、培養層の周りに疎水性樹脂を用いて枠層を形成した。
【0083】
そして、カバーシート(東セロ社製、OPPフィルム、型番「OP U−1(片面コロナ放電処理)」、厚み:40μm)を、前記ポリエチレンテレフタラートフィルムの上に積層し、端部を接着した後、γ線で滅菌して、微生物培養シート(1)を作製した。
【0084】
(実施例2)
ポリエチレングリコール10gの代わりに、1,3−ブチレングリコール(和光純薬工業社製)10gを用いて培地液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして微生物培養シート(2)を作製した。
【0085】
(比較例1)
ポリエチレングリコール10gの代わりに、グリセリン(阪本薬品工業社製)10gを用いて培地液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして、微生物培養シート(3)を作製した。
【0086】
「評価」
Escherichia coli(ATCC25922)又はKlebsiella
pneumoniae(ATCC13883)(両方とも大腸菌群に含まれる)を液体培地(TRYPTIC SOY BROTH)にて37℃で24時間振盪培養した。そして、得られた被検液のそれぞれを菌数が10
2/mlとなるように滅菌生理食塩水で希釈し、TTCを添加して、2つの培養試験用被検液をそれぞれ調製した。これらの培養試験用被検液を、微生物培養シート(1)〜(3)の培養層の上に1mlずつそれぞれ接種し、それらの上にカバーシートを乗せて、被検液を培養層全体に広げた。その後、約1分間静置してゲルを形成させ、6つの培養試験用サンプルを得た。得られた培養試験用サンプルを37℃で48時間培養した。そして、培養後に発生したコロニーについて発色の有無を確認した。培養後の培養試験用サンプルの写真を
図14〜16にそれぞれ示す。なお、
図14は実施例1で作製した微生物培養シート(1)を用いた培養試験用サンプルを示し
、
図14(A)はE.coliの被検液を接種した培養試験用サンプル、
図14(B)はK.pneumoniaeの被検液を接種した培養試験用サンプルを示す。
図15は実施例2で作製した微生物培養シート(2)を用いた培養試験用サンプルを示し、
図15(A)はE.coliの被検液を接種した培養試験用サンプル、
図15(B)はK.pneumoniaeの被検液を接種した培養試験用サンプルを示す。
図16は比較例1で作製した微生物培養シート(3)を用いた培養試験用サンプルを示し、
図16(A)はE.coliの被検液を接種した培養試験用サンプル、
図16(B)はK.pneumoniaeの被検液を接種した培養試験用サンプルを示す。
【0087】
可塑剤としてポリエチレングリコール又は1,3−ブチレングリコールが含まれている微生物培養シート(1)又は(2)(実施例1及び2)では、
図14又は15に示されるように、E.coli(ATCC25922)及びK.pneumoniae(ATCC13883)の両方でX−Galによる発色が確認された。しかし、可塑剤としてグリセリンが含まれている微生物培養シート(3)(比較例1)では、
図16に示されるように、E.coli(ATCC25922)では発色が確認されるものの、K.pneumoniae(ATCC13883)では発色が確認されなかった。比較例1の結果より、グリセリンを用いると、大腸菌群の中でもβ−ガラクトシダーゼ基質による発色反応を確認できない菌がいることがわかる。そして、意外にも、グリセリンの代わりにポリエチレングリコール又は1,3−ブチレングリコールを可塑剤として用いることにより、グリセリンを用いた場合では発色が確認できない菌であっても、β−ガラクトシダーゼ基質による発色反応を確認できることがわかる。
【0088】
以下の試験例では、α−グルコシダーゼ活性又はホスファターゼ活性を利用した発色反応試験において、グリセリンを含む培養層を用いた場合に発色反応が得られない菌がいるかどうか、また、グリセリンの代わりにポリエチレングリコールを用いた場合に発色反応が得られるかどうかについて、寒天培地にて簡易的に調べた。
【0089】
(参考例1)
トリプトンを4.0g/l、ポリエチレングリコールを18.7g/l、4−メチルウンベリフェリル−α−D−グルコピラノシドを0.1g/l、及び寒天を15.0g/l含む培地液を調製した。この培地液をオートクレーブで滅菌した後、シャーレに広げて固め、寒天培地(1)を作製した。
【0090】
(参考例2)
ポリエチレングリコールを寒天培地液に添加しなかったこと以外は、参考例1と同様にして、寒天培地(2)を作製した。
【0091】
(参考例3)
4−メチルウンベリフェリル−α−D−グルコピラノシド0.1g/lの代わりに、ホスファターゼの発色酵素基質である5−ブロモ−4−クロロ−3−インドキシル−ホスフェイトを0.1g/lの濃度で寒天培地液に添加し、かつポリエチレングリコール18.7g/lの代わりにグリセリンを18.7g/lの濃度で寒天培地液に添加したこと以外は、参考例1と同様にして、寒天培地(3)を作製した。
【0092】
(比較例2)
ポリエチレングリコール18.7g/lの代わりにグリセリンを18.7g/lの濃度で寒天培地液に添加したこと以外は、参考例1と同様にして、寒天培地(4)を作製した。
【0093】
「評価」
α−グルコシダーゼ活性を有する菌として、S.aureus(ATCC25923)、S.aureus(ATCC25904)、及びS.aureus(ATCC13276)を使用した。これらの3種の菌を液体培地(TRYPTIC SOY BROTH)にて37℃で24時間振盪培養した。そして、得られた被検液を菌数が10
2/mlとなるように滅菌生理食塩水で希釈し、3つの培養試験用被検液をそれぞれ調製した。この培養試験用被検液を、寒天培地(1)〜(4)の上に0.1mlずつそれぞれ接種し、コンラージ棒を用いて塗抹後、培養試験用サンプルを得た。得られた培養試験用サンプルを35℃で48時間培養した。表1に発色反応の結果を示す。なお、表1において、○はα−グルコシダーゼ基質又はホスファターゼ基質による発色反応が確認されたことを示す。×はα−グルコシダーゼ基質による発色反応が確認されなかったことを示す。
【0094】
【表1】
【0095】
比較例2では、可塑剤としてグリセリンを含む場合、α−グルコシダーゼ基質による発色反応は確認されなかった。また、可塑剤を添加しなかった参考例2では、α−グルコシダーゼ基質による発色反応が確認された。これにより、通常ではα−グルコシダーゼ基質による発色反応により検出できる菌において、グリセリンの存在により、発色反応が確認できなくなる菌が存在することがわかる。また、可塑剤としてポリエチレングリコールを用いた参考例1では、試験したすべての菌についてα−グルコシダーゼ基質による発色反応を確認できた。なお、参考例3より、可塑剤としてグリセリンを用いた場合であっても、ホスファターゼ基質による発色反応は確認された。