(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443068
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】アルマイト被膜、アルマイト被膜を備えるアルミニウム合金部材、及び、アルマイト被膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 11/04 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
C25D11/04 308
【請求項の数】5
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-7782(P2015-7782)
(22)【出願日】2015年1月19日
(65)【公開番号】特開2016-132793(P2016-132793A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155767
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 憲志
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 恵美
(72)【発明者】
【氏名】小林 大之
【審査官】
坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭63−190196(JP,A)
【文献】
特開2013−159844(JP,A)
【文献】
特開2007−284784(JP,A)
【文献】
特開2001−192891(JP,A)
【文献】
特開2002−047596(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 11/00−11/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅の含有率が10wt%以上のアルミニウム合金素材を陽極酸化することにより、前記アルミニウム合金素材の表面に形成された、アルマイト被膜。
【請求項2】
請求項1に記載のアルマイト被膜において、
前記アルマイト被膜の空孔率が、35%以上である、アルマイト被膜。
【請求項3】
請求項2に記載のアルマイト被膜において、
前記アルマイト被膜に形成される空孔を、前記アルマイト被膜を構成するセルの内部に形成される第1空孔と、前記アルミニウム合金素材に含有される銅が溶出することにより形成される第2空孔とに分けたとき、
前記アルマイト被膜の体積に対する前記第2空孔の体積の総和の比である第2空孔率が30%以上である、アルマイト被膜。
【請求項4】
銅の含有率が10wt%以上のアルミニウム合金素材と、前記アルミニウム合金素材を陽極酸化することにより前記アルミニウム合金素材の表面に形成されたアルマイト被膜と、を備える、アルミニウム合金部材。
【請求項5】
銅の含有率が10wt%以上のアルミニウム合金素材を陽極酸化することにより、前記アルミニウム合金素材の表面にアルマイト被膜を形成する陽極酸化処理工程を含む、アルマイト被膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルマイト被膜、アルマイト被膜を備えるアルミニウム合金部材、及び、アルマイト被膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金からなる素材(アルミニウム合金素材)を陽極酸化することによって、アルミニウム合金素材の表面にアルマイト被膜を形成することができる。アルマイト被膜の耐熱性及び耐久性は、他の被膜と比較して高い。また、アルマイト被膜は、内部に微細孔が形成された複数のセルを備える多孔質膜であり、その熱伝導率は低い。よって、アルマイト被膜の断熱性は高い。
【0003】
アルマイト被膜は、上述したように高い耐熱性及び断熱性を兼ね備えるので、熱的に苛酷であり且つ断熱性が要求される空間(室)を構成する壁面部分に好ましく形成される。例えば、アルマイト被膜は、内燃機関の燃焼室を構成する壁面に形成される。一例として、内燃機関の燃焼室を構成する壁面としてのピストンの頂面に、アルマイト被膜が好ましく形成される。
【0004】
特許文献1は、内燃機関の燃焼室を構成する壁面に形成されたアルマイト被膜を開示する。特許文献1によれば、陽極酸化によって形成されたアルマイト被膜に酸エッチングを施すことにより、アルマイト被膜を構成するセル内の微細孔の径、或いは、隣接するセル間の隙間の大きさを拡大し得ることが開示される。セル内の微細孔の径及びセル間の隙間を拡大してアルマイト被膜の空孔率をさらに高めることにより、アルマイト被膜の熱伝導率をさらに低下させることができる。これにより、アルマイト被膜が壁面に形成されている燃焼室内の冷却損失をより一層低減することができ、ひいては、内燃機関の燃費を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012−46784号公報
【発明の概要】
【0006】
上記特許文献1によれば、上記したように、アルマイト被膜を構成するセル内の微細孔の径、或いは、セル間の隙間を大きくすることによって、アルマイト被膜の空孔率を高めている。しかし、セル内の微細孔の径、或いはセル間の隙間の大きさは、数nm〜数百nm程度であり、このようなナノオーダーの空間の大きさを制御しても、アルマイト被膜の空孔率を十分に高めることができない。また、特許文献1によれば、セル内の微細孔の径或いはセル間の隙間の大きさを拡大するために、陽極酸化後に酸エッチングを施さなければならない。そのため、アルマイト被膜を形成するための処理工程数が増加し、その結果、製造工数及び製造コストが増加する。
【0007】
本発明は、酸エッチング等の工程を追加することなく製造することができ、かつ、高い空孔率を有するアルマイト被膜、及び、そのようなアルマイト被膜を備えるアルミニウム合金部材、並びに、工程を追加することなく高い空孔率を有するアルマイト被膜を製造することができるアルマイト被膜の製造方法を提供することを、目的とする。
【0008】
(課題を解決するための手段)
本発明者等は、アルミニウム合金素材の陽極酸化時に、アルミニウム合金素材に含有される銅(Cu)がアルミニウムよりも先に酸化されて電解液中に溶出すること、及び、銅成分の溶出により銅成分が存在していた部分に空孔が形成されること、に着目した。そして、銅の含有率が5wt%を超えるアルミニウム合金素材を陽極酸化することにより、高い空孔率を有するアルマイト被膜がアルミニウム合金素材の表面に形成されることを見出した。
【0009】
本発明は上記した知見に基づきなされたものである。すなわち、本発明は、銅の含有率が
10wt%以上のアルミニウム合金素材を陽極酸化することにより、アルミニウム合金素材の表面に形成された、アルマイト被膜を提供する。また、本発明は、銅の含有率が
10wt%以上のアルミニウム合金素材と、そのアルミニウム合金素材を陽極酸化することによりアルミニウム合金素材の表面に形成されたアルマイト被膜と、を備える、アルミニウム合金部材を提供する。さらに、本発明は、銅の含有率が
10wt%以上のアルミニウム合金素材を陽極酸化することにより、アルミニウム合金素材の表面にアルマイト被膜を形成する陽極酸化処理工程を含む、アルマイト被膜の製造方法を提供する。
【0010】
銅を含むアルミニウム合金素材を陽極酸化した場合、アルミニウム合金素材中の銅がアルミニウムよりも先に溶出することによって、その銅が存在していた部分に空孔が形成される。そして、その後にアルミニウムが酸化されることによってアルマイト被膜がアルミニウム合金素材の表面に形成される。形成されたアルマイト被膜中には、先に溶出した銅の存在位置に空孔が形成される。こうして形成された空孔の大きさは、数μm〜数百μmである。本発明によれば、このようなミクロンオーダーの空孔を形成するための銅成分の含有率が
10wt%以上である。つまり銅の含有率が高い。従って、陽極酸化により形成されたアルマイト被膜中に多くのミクロンオーダーの空孔が形成される。これにより、アルマイト被膜の空孔率を大きく高めることができる。また、このようなミクロンオーダーの空孔は、陽極酸化時に形成される。つまり、本発明によれば、特許文献1に示されるような酸エッチング等の工程を追加することなく、高い空孔率を有するアルマイト被膜をアルミニウム合金素材の表面に形成することができる。
【0011】
本発明において、陽極酸化されるアルミニウム合金素材中の銅の含有率は
、10wt%以上である。また、銅の含有率が20wt%以上であると、形成されるアルマイト被膜の強度が低下する虞がある。従って、好ましい銅の含有率の範囲は、10wt%以上であり且つ20wt%以下である。
【0012】
アルミニウム合金は、展伸材(プレス、鍛造、押出加工用の材料)と鋳造材(重力鋳造、ダイカスト鋳造用の材料)に分類されるが、本発明において陽極酸化されるアルミニウム合金素材は鋳造材であるのがよい。さらに、本発明に係るアルミニウム合金素材は、アルミニウム合金鋳造材の中でも、AC8A材(Al−Si−Cu−Ni−Mg系)を改良した合金であるのがよい。具体的には、AC8A材の銅成分を増加し、増加した銅成分と同じ量だけアルミニウム成分を減少させた合金成分を有するアルミニウム合金素材であるのがよい。AC8A材は、耐摩耗性に優れる鋳造用アルミニウム合金であり、内燃機関のピストンの材料に好適に用いられる。従って、AC8A材をベースとしたアルミニウム合金素材から形成されたピストン部材の頂面に本発明に係るアルマイト被膜を形成することで、高い耐熱性、耐久性及び断熱性を有し、加えて耐摩耗性に優れたピストン部材を製造することができる。
【0013】
また、本発明に係るアルマイト被膜の空孔率は、35%以上であるのがよい。この場合、アルマイト被膜に形成される空孔を、アルマイト被膜を構成するセルの内部に形成される第1空孔と、アルミニウム合金素材に含有される銅が溶出することにより形成される第2空孔とに分けたとき、アルマイト被膜の体積に対する第2空孔の体積の総和の比である第2空孔率が30%以上であるのがよい。これによれば、アルマイト被膜の熱伝導率を十分に低下させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例に係るアルミニウム合金素材とAC8A材とを、それぞれ所定の切断面で切断した場合における、切断断面の電子顕微鏡写真である。
【
図2】実施例に係るアルミニウム合金素材の表面に形成されたアルマイト被膜及び、比較例に係るアルミニウム合金素材の表面に形成されたアルマイト被膜を、それぞれ厚さ方向に沿って切断した場合における、切断断面の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施例)
まず、実施例に係るアルミニウム合金素材を、重力鋳造により成形した(鋳造工程)。ここで、実施例に係るアルミニウム合金素材は、AC8A材の改良材である。表1に、実施例に係るアルミニウム合金素材に含有される各成分の含有率(wt%)と、AC8A材に含有される各成分の含有率(wt%)を示す。
【表1】
【0016】
表1からわかるように、実施例に係るアルミニウム合金素材中に含まれる銅の含有率(10wt%)は、AC8A材中に含まれる銅の含有率(1wt%)よりも高い。また、実施例に係るアルミニウム合金素材中に含まれるアルミニウムの含有率(75.55wt%)は、AC8A材中に含まれるアルミニウムの含有率(84.55wt%)よりも低い。また、実施例に係るアルミニウム合金素材中に含まれる成分及びAC8A材中に含まれる成分のうち、銅及びアルミニウム以外の成分の含有率は、等しい。つまり、実施例に係るアルミニウム合金素材は、AC8A材中に含まれるアルミニウムのうち、9wt%に相当する量のアルミニウムを銅に置換した、AC8A材の改良材である。
【0017】
図1は、実施例に係るアルミニウム合金素材とAC8A材とを所定の断面にて切断した場合における、それぞれの切断断面の電子顕微鏡写真である。
図1において、白く示されている部分が銅を表す。
図1に示すように、実施例に係るアルミニウム合金素材中に含有される銅の量は、AC8A材中に含有される銅の量よりも明らかに多いことがわかる。
【0018】
次いで、鋳造成形した実施例に係るアルミニウム合金素材にT6処理(容体化処理後焼き戻し処理)を施した(T6処理工程)。その後、T6処理が施された実施例に係るアルミニウム合金素材を、直径50mm、高さ10mmの円柱形に加工することにより、実施例に係るアルミニウム合金素材からなるテストピースを作製した。そして、実施例に係るテストピースを電解液中に浸漬し、浸漬したテストピースを陽極とした陽極酸化を実施した(陽極酸化処理工程)。ここで、陽極酸化条件は、以下の通りである。
・電解液(処理液):硫酸(濃度:250g/L)+シュウ酸(濃度:15g/L)
・電解液温度:0℃
・電解液の撹拌方法:エアーバブリング
・電流制御方式:定電流方式
・電流密度:3.6A/dm
2
・処理時間:50分
なお、陽極酸化処理工程に用いる装置の構成及び処理手順については公知であるため、その具体的な説明は、省略する。
陽極酸化処理工程の実施により、実施例に係るアルミニウム合金素材(テストピース)の表面にアルマイト被膜を形成した。
【0019】
上記した各工程(鋳造工程、T6処理工程、陽極酸化処理工程)を経て、本実施例に係るアルマイト被膜を製造した。また、上記した各工程(鋳造工程、T6処理工程、陽極酸化処理工程)を経て、アルミニウム合金素材と、その表面に形成されたアルマイト被膜とを備えるアルミニウム合金部材を製造した。
【0020】
また、比較例に係るアルミニウム合金素材としてAC8A材を鋳造成形した。鋳造成形した比較例に係るアルミニウム合金素材にT6処理を施し、その後、直径50mm、高さ10mmの円柱形に加工することにより、比較例に係るアルミニウム合金素材からなるテストピースを作製した。そして、比較例に係るテストピースを電解液中に浸漬し、浸漬したテストピースを陽極とした陽極酸化を実施した(陽極酸化処理工程)。陽極酸化条件は、上記した条件と同じである。これにより、比較例に係るアルマイト被膜をアルミニウム合金素材(AC8A材)の表面に形成した。
【0021】
表2に、実施例及び比較例に係るアルミニウム合金素材中の銅の含有率(wt%)、陽極酸化処理工程における到達電圧(V)、陽極酸化によって各アルミニウム合金素材の表面に形成されたアルマイト被膜の膜厚(μm)、アルマイト被膜の空孔率(%)、及び、熱伝導率(W/m・K)を示す。なお、熱伝導率は、レーザーフラッシュ法により測定した。
【表2】
【0022】
表2に示すように、実施例に係るアルマイト被膜の熱伝導率(1.5W/m・K)は、比較例に係るアルマイト被膜の熱伝導率(10W/m・K)よりも低い。このことから、陽極酸化されるアルミニウム合金素材中の銅の含有率を高めることにより、陽極酸化によってそのアルミニウム合金素材の表面に形成されるアルマイト被膜の熱伝導率が低下することがわかる。特に、アルミニウム合金素材中の銅の含有率が10wt%以上である場合、そのアルミニウム合金素材の表面に形成されるアルマイト被膜の熱伝導率を十分に低下させることができる。
【0023】
また、実施例に係るアルマイト被膜の空孔率は、比較例に係るアルマイト被膜の空孔率よりも高い。空孔率が高くされたことで、熱伝導率が低くされたものと推察される。また、表2から、アルマイト被膜の空孔率が35%以上であれば、アルマイト被膜の熱伝導率が2W/m・K以下にまで低下することがわかる。よって、アルマイト被膜の空孔率は、35%以上であるのがよい。
【0024】
図2は、実施例に係るアルミニウム合金素材の表面に形成されたアルマイト被膜及び、比較例に係るアルミニウム合金素材の表面に形成されたアルマイト被膜を、それぞれ厚さ方向に沿って切断した場合における、切断断面の電子顕微鏡写真(倍率:500倍)である。なお、実施例及び比較例においては、1個のテストピースを作製し、その表面にアルマイト被膜を施した。
図2においては、実施例及び比較例において作製した1個のテストピースの表面に形成されたアルマイト被膜の4箇所の断面が示されている。また、
図2において、「素材」として示される部分が、アルミニウム合金素材(テストピース)を表し、「被膜」として示される部分が、アルミニウム合金素材の表面に形成されたアルマイト被膜を表す。また、
図2において、素材(アルミニウム合金素材)中に示される白い部分が銅を表し、被膜(アルマイト被膜)中に示される黒い部分が空孔を表す。
【0025】
図2に示すように、全ての例において、アルミニウム合金素材の表面にアルマイト被膜が形成されている。また、実施例に係る被膜(アルマイト被膜)中に示される黒い部分の面積は、比較例に係る被膜(アルマイト被膜)中に示される黒い部分の面積よりも大きい。よって、
図2からも、実施例に係る被膜(アルマイト被膜)の空孔率が高められていることがわかる。
【0026】
また、
図2において、素材(アルミニウム合金素材)中に示される白い部分は、素材と被膜(アルマイト被膜)との境界にて、被膜中に示される黒い部分(空孔)とつながっているように見える。このことから、
図2に示す被膜(アルマイト被膜)内の空孔は、素材(アルミニウム合金素材)に含まれていた銅が溶出することによって形成されたと推察される。
【0027】
アルミニウム合金素材中の銅は、アルミニウムと化合して、例えばCuAl
2といった化合物相として存在していると考えられる。そして、陽極酸化時には、アルミニウムの酸化に先立ち、銅が酸化する。酸化した銅は電解液中に溶出する。すると、銅の溶出部分に空孔が形成される。そして、その後にアルミニウムが酸化されることにより、アルミニウム素材表面にアルマイト被膜が形成される。このときアルマイト被膜の内部に、上記した銅の溶出部分が空孔として形成されると考えられる。
【0028】
従って、アルミニウム合金素材中に含まれる銅の含有率を高めることによって、陽極酸化により形成されるアルマイト被膜の空孔率を高めることができる。本実施例では、銅の含有率が10wt%であり、通常のAC8A材における銅の含有率(0.8wt%〜1.3wt%)よりもはるかに高い。このような従来には無い新規なアルミニウム合金素材を陽極酸化することにより、アルマイト被膜の空孔率を十分に高めることができる。
【0029】
アルマイト被膜の空孔率を十分に高めるためには
、アルミニウム合金素材に含まれる銅の含有率は、10wt%以上であるのがよい。また、銅の含有率が20%を超えた場合、形成されるアルマイト被膜の強度が低下する虞がある。従って、アルミニウム合金素材に含まれる銅の含有率は、10wt%以上であり、かつ20wt%以下であるのがよい。
【0030】
ところで、上述したように、アルマイト被膜は多数のセルによって構成されており、このセルの内部には微細孔が形成されている。従って、アルマイト被膜内の空孔の総体積は、セルの内部に形成される微細孔の体積と、
図2に示すようにアルミニウム合金素材中の銅が溶出することにより形成される空孔の体積との総和によって表される。なお、セル内の微細孔の大きさは数nm〜数百nmであるため、
図2において視認することはできない。
【0031】
そこで、アルマイト被膜内に形成された空孔を、アルマイト被膜を構成するセル内の微細孔(以下、第1空孔)と、アルミニウム合金素材中の銅が溶出することにより形成される空孔(以下、第2空孔)とに分け、実施例及び比較例に係るアルマイト被膜内の第1空孔の体積と第2空孔の体積とを別々に測定した。そして、アルマイト被膜の体積に対する第1空孔の体積の総和の比を第1空孔率(%)として計算し、アルマイト被膜の体積に対する第2空孔の体積の総和を第2空孔率(%)として計算した。表3に、実施例に係るアルマイト被膜及び比較例に係るアルマイト被膜の第1空孔率及び第2空孔率をそれぞれ示す。表3において、空孔率(%)は、第1空孔率(%)と第2空孔率(%)の和である。
【表3】
【0032】
表3からわかるように、実施例に係るアルマイト被膜の第1空孔率は、比較例に係るアルマイト被膜の第1空孔率に等しい。これに対し、実施例に係るアルマイト被膜の第2空孔率は、比較例に係るアルマイト被膜の第2空孔率よりも高い。このことから、第2空孔率が増加したことにより、実施例に係るアルマイト被膜の熱伝導率が低減したものと推察される。また、表3から、第2空孔率が30%以上であれば、アルマイト被膜の熱伝導率が2W/m・K以下にまで低下することがわかる。よって、アルマイト被膜の第2空孔率は、30%以上であるのがよい。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるべきものではない。例えば、上記実施形態においては、AC8A材を改良したアルミニウム合金素材を用いてアルマイト被膜を形成する例を示したが、AC8A材以外のアルミニウム合金を改良して、本発明に係るアルミニウム合金素材を形成してもよい。本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、変形可能である。