特許第6443078号(P6443078)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443078
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】生体情報検出装置
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/0245 20060101AFI20181217BHJP
   A61B 5/11 20060101ALI20181217BHJP
   A61B 5/113 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   A61B5/0245 C
   A61B5/11 100
   A61B5/113
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-12163(P2015-12163)
(22)【出願日】2015年1月26日
(65)【公開番号】特開2016-136989(P2016-136989A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年12月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】小暮 俊介
(72)【発明者】
【氏名】野木森 亘
【審査官】 清水 裕勝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/107091(WO,A1)
【文献】 特開2009−213636(JP,A)
【文献】 特開2005−18655(JP,A)
【文献】 特開2013−75041(JP,A)
【文献】 特表2010−536449(JP,A)
【文献】 特開2013−123524(JP,A)
【文献】 特開2013−85702(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/107092(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/107093(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00−5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体を支持する支持体と、
前記生体の生体情報を検出可能に前記支持体に配設された少なくとも一つの生体情報センサと、
前記支持体に加わる外来振動を検出可能に前記支持体に配設された少なくとも一つの加速度センサと、
前記加速度センサの出力信号が前記生体情報センサにノイズとして伝達する伝達関数に応じて前記生体情報センサの出力信号に含まれるノイズ成分を推定する伝達関数モデルと、
前記推定されたノイズ成分を前記伝達関数モデルにより推定し、当該ノイズ成分を前記生体情報の出力信号から除去してノイズ除去後生体情報を演算するノイズ除去部と、
現在から遡って所定時間間隔で入力された複数の前記ノイズ除去後生体情報に基づいて推定生体情報が演算される推定生体情報演算部と、
前記外来振動の大きさが、設定された閾値以下となったとき、前記推定生体情報演算部が演算する前記推定生体情報を、前記生体情報センサが検出した生体情報に置換するとともに、前記複数のノイズ除去後生体情報をリセットし、ノイズ除去後生体情報の初期値としてセットして新たに複数のノイズ除去後生体情報を順次記憶するノイズ除去後生体情報記憶部と、
を備える生体情報検出装置。
【請求項2】
前記推定生体情報演算部はカルマンフィルタを備える、
請求項1に記載の生体情報検出装置。
【請求項3】
前記支持体は、車両のシートであり、
前記生体情報センサは、前記シートが備えるシートバックのクッションの生体側に設けられ、
前記加速度センサは前記シートのフレームに設けられる、
請求項1または2に記載の生体情報検出装置。
【請求項4】
前記生体情報は呼吸信号および心拍信号の少なくとも一方である、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の生体情報検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シート等の支持体に支持される人体の生体情報を収集する生体情報検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車、電車、航空機などの輸送用機器に用いられる乗物用シート(支持体)等に設けられ、支持される人体の、例えば呼吸や心拍等の生体情報を収集する生体情報検出装置がある。例えば、特許文献1に示す生体情報検出装置では、呼吸や心拍等を取得するための生体情報検出用センサと、乗物自体から発せられる振動を検出するための加速度センサと、を備えている。そして、車両走行中において取得される生体情報の精度を向上させるため、生体情報検出用センサに伝達される車両の各振動を、事前に準備されたマップデータから推定している。そして、生体情報検出用センサで取得した信号から前記推定した振動を除去して、本来の生体情報を導出することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−213636号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、生体情報検出用センサが取得する生体情報の値は、乗員(人体)の個人差や、そのときの姿勢等によって大きく変化する。また、推定される生体情報検出用センサに伝達される車両の各振動はどうしても誤差を含んだ値となってしまう。このため、それらの誤差等を含んだ値を元にして連続的に演算される生体情報は誤差が累積され生体情報の推定精度が低くなる虞がある。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、生体情報検出用のセンサと振動検出用のセンサとを備え、各センサからの検出信号に基づいて生体情報が精度よく推定できる生体情報検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、請求項1に係る生体情報検出装置は、生体を支持する支持体と、前記生体の生体情報を検出可能に前記支持体に配設された少なくとも一つの生体情報センサと、前記支持体に加わる外来振動を検出可能に前記支持体に配設された少なくとも一つの加速度センサと、前記加速度センサの出力信号が前記生体情報センサにノイズとして伝達する伝達関数に応じて前記生体情報センサの出力信号に含まれるノイズ成分を推定する伝達関数モデルと、前記推定されたノイズ成分を前記伝達関数モデルにより推定し、当該ノイズ成分を前記生体情報の出力信号から除去してノイズ除去後生体情報を演算するノイズ除去部と、現在から遡って所定時間間隔で入力された複数の前記ノイズ除去後生体情報に基づいて推定生体情報が演算される推定生体情報演算部と、前記外来振動の大きさが、設定された閾値以下となったとき、前記推定生体情報演算部が演算する前記推定生体情報を、前記生体情報センサが検出した生体情報に置換するとともに、前記複数のノイズ除去後生体情報をリセットし、ノイズ除去後生体情報の初期値としてセットして新たに複数のノイズ除去後生体情報を順次記憶するノイズ除去後生体情報記憶部と、を備える。
これにより、外来振動の大きさが閾値を越える時には、誤差を含む複数のノイズ除去後生体情報に基づいて推定生体情報を推定するので、推定生体情報を演算する度に誤差が累積され、真の値が判り難くなる。しかし、本発明では、外来振動の大きさが閾値以下のときに取得した外来振動の影響を受けない生体情報によって、累積された推定生体情報の誤差分がリセットできる。リセット後は、外来振動の影響を受けない生体情報をノイズ除去後生体情報の初期値としてセットし、新たな推定生体情報の推定が開始できるので、所定の期間においては推定生体情報の推定精度を向上させることができる。
【0007】
請求項2に係る、生体情報検出装置の前記推定生体情報演算部は、カルマンフィルタを備える。これにより、時間領域で誤差推定を行ないながら、推定生体情報を逐次演算していくことができるので、時間領域での生体情報の推定を行なう本発明に適している。
【0008】
請求項3に係る生体情報検出装置の前記支持体は、車両のシートであり、前記生体情報センサは、前記シートが備えるシートバックのクッションの生体側に設けられ、前記加速度センサは前記シートのフレームに設けられる。
これにより、生体情報検出装置は、運転手を含む車両の乗員の生体情報を推定するので、推定された生体情報を用いて乗員の体調管理を行なうことができる。特に生体が運転手である場合には車両の安全運行に寄与できる。また、加速度センサが、生体情報センサが配置された部材(シートバック)とは異なる部材(フレーム)に配置されるので、生体情報は、加速度センサに伝達されにくい。このため、加速度センサは、車両の振動のみを検出するので伝達関数を推定するときに精度よく演算できる。
【0009】
請求項4に係る生体情報検出装置では、前記生体情報は呼吸信号および心拍信号の少なくとも一方である。これにより、生体の体調や覚醒状態を管理するのに適している。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る生体情報検出装置の説明図である。
図2図1における生体情報検出装置の演算処理部のブロック図である。
図3】生体情報センサの説明図である。
図4】本発明に係る推定生体情報のリセットについて説明するグラフである。
図5】生体情報検出装置の作動を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明に係る実施形態の生体情報検出装置10を具体化して説明する。図1に示すように、生体情報検出装置10は、車両用シート30(本発明の支持体に相当する)、生体情報センサ11、加速度センサ12および演算処理部20等を備えている。本実施形態における前後左右上下は、図1に示した通りであり、車両用シート30に着座した図示しない乗員(本発明に係る生体に相当する)が見た方向と一致するものとする。図2に示すように、演算処理部20は、伝達関数モデル21,ノイズ除去部22,推定生体情報演算部23およびノイズ除去後生体情報記憶部24を有している。
【0012】
図1に示すように、車両用シート30は、乗員が着座するシートクッション31と、シートクッション31の後端部において前後方向に回動可能に取り付けられ、乗員の背もたれとなるシートバック41と、を有している。図1に示すように、シートバック41には、生体情報センサ11がシートバッククッション43の乗員側(生体側)表面に貼付されている。生体情報センサ11は、乗員の呼吸信号B(本発明の生体情報に相当する)を取得するセンサである。なお、このとき、生体情報センサ11は呼吸信号Bだけではなく、心拍の信号H(本発明の生体情報に相当する)を含んだ信号も同時に取得している。生体情報センサ11は、演算処理部20に接続され、取得した呼吸信号Bおよび心拍信号Hを含む振動信号を演算処理部20に送信している。また、シートバック41の上端には、乗員の頭部を支持するヘッドレスト35が取り付けられている。
【0013】
シートクッション31は、乗員着座部分であり、図1に示すように、クッションフレーム32,当該クッションフレーム32に支持されるベースクッション材33および表皮34を有している。クッションフレーム32は上面視がコの字状を呈している。そして、左右に配置された一対のプレート部材32a、32aが前部で板状部材32bによって連結されている。本実施形態では、右側のプレート部材32aの内側(左側のプレート部材32aと対向する面)に、加速度センサ12が設けられている。
【0014】
このように、生体情報センサ11をシートバック41に設け、加速度センサ12をシートバック41のシートバッククッション43とは異なる部材であるプレート部材32aに設けた。これにより、加速度センサ12は乗員から発せられる生体情報の影響をあまり受けず、車両の振動(本発明の外来振動に相当する)のみを良好に検出できる。なお、加速度センサ12の取付位置は、図1に示した位置に限らず、左右のプレート部材32aの中であればどこでもよい。加速度センサ12は、好適には、3軸または3D加速度計を用いることが好ましい。
【0015】
ベースクッション材33は、公知の軟質ポリウレタンフォームによって成形されている。そしてベースクッション材33の下面には、クッションフレーム32に嵌合される図示しない嵌合溝が形成されている。嵌合溝とクッションフレーム32とが嵌合してベースクッション材33がクッションフレーム32上に支持されている。一対のプレート部材32a、32aの両下端には図示しないSばねスプリングが複数本装架されクッションフレーム32とともにベースクッション材33を支持している。ただしSばねスプリングはなくてもよい。
【0016】
表皮34は、ベースクッション材33とベースクッション材33の着座側表面である上面を覆うように装着される布製(またはビニールレザーや皮革製等)部材である。
【0017】
シートバック41は、図1に示すシートバックフレーム42,前述したシートバッククッション43および表皮45を有している。シートバックフレーム42は、正面視がコの字状を呈している。そして、左右に配置された一対のサイドフレーム部材42a,42aが上端部でパイプ状部材42bによって連結されて構成されている。なお、上述した加速度センサ12の配置位置を、プレート部材32aからサイドフレーム部材42a,42aのいずれかの位置に変更してもよい。
【0018】
シートバッククッション43の後面には、シートバックフレーム42に嵌合される図示しない嵌合溝が形成されている。そして、嵌合溝とシートバックフレーム42とが嵌合してシートバッククッション43がシートバックフレーム42に支持されている。一対のサイドフレーム部材42a、42aの両後端には図示しないSばねスプリングが複数本装架されシートバックフレーム42とともにシートバッククッション43を支持している。ただしSばねスプリングはなくてもよい。
【0019】
表皮45は、シートバッククッション43とシートバッククッション43の背もたれ側表面を覆うように装着される布製(またはビニールレザーや皮革製等)部材である。
【0020】
生体情報センサ11は、歪みセンサの1種である圧電センサである。生体情報センサ11は、図3に示すように、センサ部11a,回路部11b,配線11c,被覆材11dおよび接続コード11eを有している。センサ部11aは感応部である。回路部11bは、センサ部11aからの信号のノイズを除去する機能を有する。配線11cはセンサ部11aと回路部11bとを接続する。被覆材11dは、可撓性を有しセンサ部11aと配線11cとを被覆する。接続コード11eは、回路部11bと演算処理部20とを接続する。
【0021】
センサ部11aは、フィルム状で可撓性を有し長尺形状をなしている。本実施形態において生体情報センサ11は、センサ部11aの長手方向が水平方向に延在するよう配置されている。また、生体情報センサ11が取り付けられる位置は、乗員がシートクッション31上に着座したとき、乗員の胸または腰のあたりに配置されることが好ましい。これによって乗員の呼吸データが精度よく取得できる。
【0022】
生体情報センサ11のセンサ部11aは圧電体(圧電素子)によって構成され、殊に圧電ポリマーを例示できる。具体的には、例えばポリフッ化ビニリデン(以降、PVDFと称す)のフィルム、または、シートとすることができ本実施形態においては前述したようにフィルム状のPVDFを適用した。なお、PVDFについては公知であるので構造について詳細な説明は省略する。
【0023】
圧電ポリマーは広い周波数特性を有しており、他の圧電センサとして例示される例えば圧電セラミックス(Pzt)と比較して、柔軟性を備えている。
【0024】
PVDFは、長尺状のセンサ部11aが屈曲されたり、ねじれて歪んだりすることにより電荷を発生させ、発生された電荷量によって受けた荷重の大きさを演算するものである。このように、電力を供給する必要がないので簡素な構成とすることができる。
【0025】
上述したように、生体情報センサ11は、センサ部11aに荷重が付与され、センサ部11aが所定の方向に屈曲されたときの屈曲量に応じた電圧を出力する。このため、乗員が呼吸をし、乗員の胸郭が膨張、収縮を繰り返すときに、センサ部11aを屈曲させ、屈曲量に応じた電圧を出力する。また、心拍についても、乗員の体が微小に振動する動きをセンサ部11aが捉え、屈曲量に応じた電圧を出力する。
【0026】
また、歪みセンサとしては、ほかにも前述のワイヤ状に形成された圧電セラミックス(Pztが散りばめられたポリエチレン)や、アレイ状に配列された歪みゲージ等によっても構成できる。さらに、エレクトレット材を生体情報センサ11(PVDF)の替わりに用いてもよい。エレクトレットは、電気を通しにくい高分子材料(フッ素系樹脂、ポリプロピレン等)を加熱溶融し、直流の高電圧を加えて帯電させたセンサである。そして荷重がエレクトレットに加わると帯電バランスが崩れ、この崩れた帯電バランスを出力することによって付与された荷重量を検出する。これらを配設することによっても相応の効果が得られる。
【0027】
次に、演算処理部20について説明する。図2に示すように、演算処理部20は、伝達関数モデル21,ノイズ除去部22,推定生体情報演算部23およびノイズ除去後生体情報記憶部24を有している。なお、生体情報センサ11,加速度センサ12,伝達関数モデル21,ノイズ除去部22,および推定生体情報演算部23によって構成される生体情報を推定する技術は、国際公開番号WO2010/107091号公報によって開示されている。つまり、本発明では、WO2010/107091号公報で開示される技術に対して、ノイズ除去後生体情報記憶部24の追加が異なるものである。このため、開示された部分に関しては公報を参照して詳細な説明は省略し、簡単な説明のみ行なう。
【0028】
伝達関数モデル21は、所定の時間計測され記憶された加速度センサ12の複数の出力信号を生体情報センサ11にノイズとして伝達する伝達関数に応じて生体情報センサ11の出力信号に含まれるノイズ成分を推定するためのものである。図2に示すように、伝達関数モデル21は、生体情報センサ11および加速度センサ12と接続されている。通常、伝達関数は、生体情報センサ11および加速度センサ12からそれぞれ出力された出力信号を比較し演算される。しかし、本実施形態においては、加速度センサ12の出力信号に対し、複数のパターンを事前に予測し、各パターンに対応する伝達関数をモデル化して事前に準備しておく。このため、実際の処理内容としては、加速度センサ12の出力信号に応じて、準備された伝達関数モデル21を選択する。なお、伝達関数モデルに関する詳細な説明については、WO2010/107091号公報の段落0066〜0076に説明する通りである。
【0029】
このように伝達関数モデル21は、所定の時間計測され記憶された加速度センサ12の出力信号、即ち、車両振動(本発明の外来振動に相当する)が、生体情報センサ11に、ノイズとして伝達されるノイズ成分の大きさ(ノイズ値)を推定するためのものである。なお、このとき、車両振動とは、エンジン振動や車両走行によって発生するロードノイズ等を含むものである。
【0030】
ノイズ除去部22は、上記推定されたノイズ成分を、生体情報センサ11の出力信号から減算(除去)し、生体情報のみの出力信号(ノイズ除去後生体情報Iwon)を演算する。ただし、ここで出力されたノイズ除去後生体情報Iwonは、あくまで推定値であり、まだ多くのノイズを含んでいる。
【0031】
推定生体情報演算部23は、現在から遡って所定時間間隔で入力された複数のノイズ除去後生体情報Iwonに基づいて推定生体情報Iesを演算する。このとき、所定時間間隔とは、ノイズ除去後生体情報Iwonから、呼吸信号Bおよび心拍信号Hの周期T等を有効に取得できるだけの時間間隔をいい、任意に設定すればよい。
【0032】
推定生体情報演算部23では、まず、直接周波数の観察ができない呼吸信号Bおよび心拍信号Hの抽出が行なわれる。その方法は、WO2010/107091号公報の段落0077〜0087で説明するとおりである。その後、周知のカルマンフィルタによって、現在から遡って所定時間間隔で入力された複数のノイズ除去後生体情報Iwonに基づき統計的に処理された例えば呼吸の周期Tbや心拍の周期Th等の生体情報が推定される。このとき、前述したように所定時間間隔で入力された複数のノイズ除去後生体情報Iwonの数は、任意に設定可能である。例えば、データを2個取得した時点を開始点とし、その後、順次、数を増やしていき、一定の数、例えば5個になったら、1個目のデータを削除し、その後、同様にしてデータ数5個を維持するようにしてもよい。
【0033】
なお、ノイズ除去後生体情報Iwonから推定生体情報演算部23に出力する具体的なパラメータとしては、例えば、呼吸または心拍の周期Tb,Th,呼吸または心拍の周期のばらつき(標準偏差σまたは分散σ)、および呼吸波形または心拍波形の周波数分布等である。これらのデータを拡張カルマンフィルタの観測更新に係る、文献WO2010/107091号公報の段落0091の[数19]等に示す式に与えればよい。
【0034】
このとき、用いられるカルマンフィルタは、非線形データを処理する拡張カルマンフィルタであることが好ましい。このような非線形処理は、経時的に変化する振動環境で心臓の鼓動および呼吸律動等の非線形モデルに由来するパラメータを抽出および監視するのに適している。なお、この拡張カルマンフィルタによる演算方法についても、文献WO2010/107091号公報の段落0088〜0099に記載されている通りであるので、詳細な説明は省略する。また、カルマンフィルタの拡張型である、パーティクルフィルタを用いても良い。
【0035】
推定生体情報演算部23(拡張カルマンフィルタ)によって推定された例えば、呼吸の周期Tbe−時間tグラフは図4に示すようになる。このとき、拡張カルマンフィルタによる演算では、呼吸の推定周期Tbeが、過去の複数のノイズ除去後生体情報Iwonに基づいて統計的な処理をされながら順次演算されている。このため、図4に示すグラフは、演算の度に、少しずつ発生する誤差が累積されながら演算されているということができる。このため、呼吸の推定周期Tbeが、そのときの実際の呼吸周期Tbr(真値)に対してどれほどズレが発生しているのか不明である。そこで、下記に示す本発明に係るノイズ除去後生体情報記憶部24によってデータを取得し、呼吸の推定周期Tbeの誤差をリセットする処理を行なう。
【0036】
ノイズ除去後生体情報記憶部24は、車両振動(外来振動)の大きさが、設定された閾値P以下となったとき、推定生体情報演算部23が演算する推定生体情報を、生体情報センサ11が検出した生体情報(以後、基本生体情報Ibと称す)に置換する(図4a点参照)。このとき、閾値Pは、振動データの振幅に基づいた数値でよい。
【0037】
つまり、ノイズ除去後生体情報記憶部24は、車両振動の大きさが、設定された閾値P以下となったときに、生体情報センサ11からノイズ成分(ノイズ値)を多く含まない基本生体情報Ibを取得する。このとき、車両振動(外来振動)の大きさが、設定された閾値P以下となる場合とは、例えば、車両が信号待ち等のため、停車したときが想定できる。この場合、設定された閾値Pとは、例えば、車両が停車して、ロードノイズが無くなるとともにエンジン回転数が低下し、それに伴ってエンジン振動が低下して、生体情報センサ11の位置まで、車両振動が到達しない(し難い)ような場合の車両振動の大きさとする。このとき、エンジンが完全に停止している場合を想定してもよい。この設定の方法は任意であり実験等に基づき設定すればよい。よって、車両停車時において、常に上記のような条件を満たすことが判れば、「設定された閾値P以下となったとき」、という条件を、「車両が停車したとき、」という条件に置き換えてもよい。なお、車両振動(外来振動)の大きさが、設定された閾値P以下となる場合として、高速道路を一定速で巡航しているような場合を加えても良い。
【0038】
また、ノイズ除去後生体情報記憶部24は、ノイズ除去後生体情報記憶部24に記憶されていた複数のノイズ除去後生体情報Iwonをリセットし、新たに、順次ノイズ除去後生体情報Iwonを記憶していく。このとき、新たに記憶していくノイズ除去後生体情報Iwonの初めのデータとして基本生体情報Ibを採用するものとする。
【0039】
これにより、これまで、その大きさを特定することが困難であった、推定生体情報Iesが含んでいる誤差分を、リセットすることができ、推定生体情報Iesの精度を向上させることができる。また、記憶されていた複数のノイズ除去後生体情報Iwonをリセット後に、新たに、記憶するノイズ除去後生体情報Iwonの初めのデータとして基本生体情報Ibを採用した。このため、誤差がほとんどない状態を始点として生体情報の推定を再開できるので、推定生体情報Iesの演算結果に基本生体情報Ibの影響が及ぶ所定の期間内においては、誤差分をリセットしない場合と比べてその推定精度を著しく向上させることができる。
【0040】
次に作動について図5に示すフローチャートに基づき説明する。エンジンが停止状態の車両において、運転者がイグニッションキーをONしたとする。これにより、生体情報検出装置10が起動する。まず、ステップS10で、加速度センサ12から、車両振動(外来振動)データを取得する。次に、ステップS12で、生体情報センサ11から生体情報を取得する。そして、ステップS14では、有効に呼吸の周期Tbや心拍の周期Thを取得できるだけの時間ΔTを経過したか否かの判定を行なう。ステップS14で、時間ΔTを経過していなければ、時間ΔTを経過するまでステップS10およびステップS12の処理を繰り返し行なう。時間ΔTを経過すれば、ステップS16に移動する。
【0041】
ステップS16(ノイズ除去後生体情報記憶部24の処理部である)では、車両が停車しているか否かの判定を行なう。つまり、ステップS16では、加速度センサ12で取得した車両振動(外来振動)の大きさが、設定された閾値P以下であるか否かの判定を車両の停車の有無によって行なうものである。
【0042】
車両が停車していると判定されれば、本発明に係るノイズ除去後生体情報記憶部24の処理部であるステップS26〜ステップS32の処理を行なう。また、車両が停車しておらず走行中であると判定されれば、従来の技術と同様のステップS18〜ステップS24の処理を行なう。ここではまず、ステップS18〜ステップS24の処理について説明する。ただし、車両のエンジンが始動され、その後初めて車両が走行を開始する前には、ステップS26〜ステップS32の処理が実行されるものとする。
【0043】
ステップS18では、伝達関数モデル21を選択するとともに、選択された伝達関数モデル21に基づいて、ステップS10で取得されたΔt時間分の加速度データからステップS12で取得した生体情報の出力信号に含まれるノイズ成分の値(ノイズ値)を推定演算する。
【0044】
ステップS20(ノイズ除去部22の処理部)では、Δt時間分の生体情報センサ11の出力信号から、ステップS18で演算されたノイズ値を除去(減算)してノイズ除去後生体情報Iwonを演算し、ノイズ除去後生体情報記憶部24に記憶する。
【0045】
ステップS22(推定生体情報演算部23の処理部)では、現在より遡った過去の複数のノイズ除去後生体情報Iwonに基づいて推定生体情報Iesを演算し、ステップS24(推定生体情報演算部23の処理部)で、演算された推定生体情報Iesを出力する。なお、このとき過去のノイズ除去後生体情報Iwonの数は、一定とは限らない。2つしかないときには2つのデータでよい。そして、次のデータが得られれば順次3、4・・個と、設定された個数まで増やしていけばよい。その後、車両が信号待ち等により停車すると、ステップS16からステップS26に移動する。
【0046】
ステップS26(ノイズ除去後生体情報記憶部24の処理部である)では、生体情報センサ11から基本生体情報Ibを取得する。基本生体情報Ibは、車両が停車していることにより、車両の振動である外来振動の影響をあまり受けていない生体情報である。
【0047】
ステップS28(ノイズ除去後生体情報記憶部24の処理部である)では、ステップS22、ステップS24で演算し出力された推定生体情報Iesを基本生体情報Ibに置き換える。これによって、推定生体情報Iesを、誤差を多く含まない精度の高いデータとすることができる。これを、図4に基づき説明すると、推定生体情報Iesに基づく例えば呼吸の周期Tbeは、基本生体情報Ibに基づく呼吸の周期の真値Tbrにリセットされる(a点参照)。
【0048】
ステップS30(ノイズ除去後生体情報記憶部24の処理部である)では、これまでノイズ除去後生体情報記憶部24に記憶されてきたノイズ除去後生体情報Iwonをリセットする。そして、ステップS30(ノイズ除去後生体情報記憶部24の処理部である)で、基本生体情報Ibを、リセットしたノイズ除去後生体情報Iwonの初期値として設定する。このため、以後、ステップS18〜ステップS24の処理が実行されたときには、ステップS22によって、推定生体情報Iesが、誤差のない基本生体情報Ibを初期値としたノイズ除去後生体情報Iwonによって演算される。これにより、基本生体情報Ibが推定生体情報Iesの演算結果に影響を及ぼす所定の期間内においては、精度の良い推定生体情報Iesが得られる。
【0049】
上述の説明から明らかなように、本実施形態によれば、車両振動(外来振動)の大きさが閾値Pを越える時(車両が走行中の時)には、誤差を含む複数のノイズ除去後生体情報Iwonに基づいて推定生体情報Iesを推定するので、推定生体情報をIes演算する度に誤差が累積され、真の値Tbrが判り難くなる。しかし、本発明では、推定生体情報Iesを、車両振動(外来振動)の大きさが閾値P以下のとき(車両が停車した時)に取得した車両振動の影響を受けない生体情報(基本生体情報Ib)によって、累積された推定生体情報Iesの誤差分がリセットできる。リセット後は、真の値Tbrに近い生体情報(基本生体情報Ib)をノイズ除去後生体情報Iwonの初期値としてセットし、新たに複数のノイズ除去後生体情報Iwonを順次記憶しながら再び生体情報の推定が開始できる。これにより、所定の期間においては推定生体情報Iesの推定精度を向上させることができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、生体情報検出装置10の推定生体情報演算部23は、カルマンフィルタを備える。これにより、時間領域で誤差推定を行ないながら、推定生体情報Iesを逐次演算していくことができるので、時間領域での生体情報の推定を行なう本発明に適している。
【0051】
また、本実施形態によれば、生体情報検出装置10は、運転手を含む車両の乗員の生体情報を推定するので、推定された生体情報を用いて乗員の体調管理を行なうことができる。特に生体が運転手である場合には車両の安全運行に寄与できる。また、加速度センサ12が、生体情報センサ11が配置された部材(シートバッククッション43(クッション))とは異なる部材(シートバックフレーム42(フレーム))に配置されるので、生体情報は、加速度センサ12に伝達されにくい。このため、加速度センサ12は、車両の振動のみを検出するので伝達関数を推定するときに精度よく演算できる。
【0052】
また、本実施形態によれば、生体情報は呼吸信号Bおよび心拍信号Hの少なくとも一方である。これにより、生体の体調や覚醒状態を管理するのに適している。
【0053】
また、本実施形態によれば、生体情報センサ11はフィルム状の歪みセンサであるので、広い範囲に亘って振動荷重が測定できるとともに、小さな信号も精度良く取得することができる。
【0054】
また、本実施形態によれば、生体情報センサはフィルム状の歪みセンサであり、歪みセンサは圧電センサであるので、より広い範囲に亘って振動荷重が測定できるとともに、小さな信号も精度良く取得することができる。
【0055】
また、本実施形態によれば、圧電センサは有機系の材料であるポリフッ化ビニリデン(PVDF)によって構成されるので、柔らかく、振動の検出感度もよい。このため自在に配置でき搭載性に優れるとともに小さな振動でも高精度に検出することができる。
【0056】
なお、本実施形態によれば、生体情報センサ11および、加速度センサ12は一つずつ設けたが、この態様に限らずそれぞれいくつ設けてもよい。そして、各センサから取得してデータを平均化処理して使用しても良いし、選択して使用してもよい。データの使い方は任意である。
【0057】
また、上記各実施形態においては、生体情報センサ11は、シートバック41に設けられていた。しかしこの態様に限らず、生体情報センサ11を、乗員が着座するシートクッション31上に設けてもよい。これによって、乗員がシートに着座している時に、大腿部の動脈と常時接触しているので、生体情報のうち心拍情報が精度よく取得できる。また、生体情報センサ11をシートバック41およびシートクッション31の双方に設けてもよい。
【0058】
また、本実施形態においては、車両用シート30を支持体として生体情報検出装置10を構成したが、これに限らず事務用シートを支持体として、事務用シートに着座する作業者の体調管理を行なってもよい。さらに病院や病院に準ずる施設のベッドを支持体として、ベッドに横臥する患者の体調管理を行なってもよい。なお、このようなときには、閾値Pを判定する外来振動として、作業員または患者の体動を適用し、体動が小さいときに、基本生体情報Ibを取得し、外来振動が含まれない状態で推定生体情報Iesをリセットすればよい。
【符号の説明】
【0059】
1・・・支持体(車両用シート)、 10・・・生体情報検出装置、 11・・・生体情報センサ、 12・・・加速度センサ、 20・・・演算処理部、 21・・・伝達関数モデル、 22・・・ノイズ除去部、 23・・・推定生体情報演算部、 24・・・ノイズ除去後生体情報記憶部、 31・・・クッション(シートクッション)、 32・・・フレーム(クッションフレーム)、 41・・・シートバック、 42・・・フレーム(シートバックフレーム) 、43・・・クッション(シートバッククッション)、 B・・・呼吸信号、 H・・・心拍信号。
図1
図2
図3
図4
図5