(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて、本開示における典型的な実施形態を説明する。なお、本実施形態においては、眼科装置1が、被検者眼Eの視野(視野の感度分布)を測定する視野計測機能を備えた眼科装置を説明する。本実施形態の眼科装置1が、視野計またはマイクロペリメーター(局所視野計)と称される場合がある。本実施形態の眼科装置1は、被検者眼Eを観察するための観察手段を有している。本実施形態では、照射光学系20、観察光学系30、および後述する制御部100を用いて、観察手段が形成される。また、本実施形態の眼科装置1は、被検者眼Eに視標を呈示するための呈示手段を有している。本実施形態では、投影光学系10および制御部100を用いて、呈示手段が形成される。
【0010】
<眼科装置の全体構成>
図1を用いて眼科装置1の全体構成を説明する。本実施形態の眼科装置1は、基台1a、移動台2、装置本体3、ジョイスティック4、顔支持ユニット5、モニタ8、コントロール部7a、対物レンズ11、および応答ボタン7bを備える。移動台2は、基台1aに対して左右方向(X方向)および前後方向(Z方向)へ移動可能に設けられている。本実施形態では、ジョイスティック4を用いて、移動台2および装置本体3を移動可能である。装置本体3は、例えば、光学系を収納する。装置本体3は、移動台2に対して左右方向(X方向)、上下方向(Y方向)、および前後方向(Z方向)へ移動可能に設けられている。本実施形態では、駆動部6を用いて装置本体3を移動可能である。顔支持ユニット5は、例えば、被検者の顔を支持する。顔支持ユニット5は、基台1aに固設されている。
【0011】
モニタ8は、例えば、観察画面、視野検査画面等を表示する。モニタ8は、装置本体3の検者側に配置されている。検者は、モニタ8を介して被検者眼Eを観察できる。コントロール部7aは、例えば、設定手段である。コントロール部7aは、眼科装置1を用いた各種検査または各種計測を行う際に、検査条件、各種測定モード(例えば視野計測モード)等を設定するために用いられる。コントロール部7aは、装置本体3の検者側に配置されている。コントロール部7aとして、例えば、マウス、キーボード、またはタッチパネル(モニタ8に取り付けられる)等を用いてもよい。対物レンズ11は、例えば、眼科装置1で各種検査を行う際に、被検者が覗き込む。対物レンズ11は、装置本体3の被検者側に配置されている。応答ボタン7bは、例えば、視野計測の際に、被検者が応答信号を入力する。
【0012】
<光学系および制御系>
次いで、
図2を用いて、眼科装置1の光学系および制御系を説明する。なお、
図2において、ER1〜4で示す丸印を付した位置は、対物レンズ11を介して被検者眼Eの眼底ERと共役となる位置である。以降の説明において、共役位置ER1等として説明する場合がある。なお、共役位置ER1〜4は、眼底ERと厳密に共役でなくてもよい。後述するように、本実施形態の眼科装置1は、視度補正レンズ23および視度補正レンズ13を光軸方向に移動させることで、被検者眼Eの視度の個人差または左右眼の視度差を吸収できる。例えば、視度補正レンズ13を移動させて、眼底ERと液晶パネル54の共役関係を調節できる。
【0013】
本実施形態の眼科装置1は、照射光学系20、観察光学系30、および投影光学系10を備える。照射光学系20は、被検者眼Eに観察光を照射する。観察光学系30は、被検者眼Eで反射した観察光を受光する。投影光学系10は、被検者眼Eに刺激視標Sを呈示する。詳細には、投影光学系10は、被検者眼Eの眼底ERに刺激視標用の光を投光する。本実施形態の眼科装置1は、固視標Fの呈示方法を複数種類有する。例えば、投影光学系10を用いて被検者眼Eに固視標Fを呈示する第1呈示手法と、照射光学系20を用いて被検者眼Eに固視標Fを呈示する第2呈示手法がある。
【0014】
<照射光学系>
本実施形態の照射光学系20は、光源74、ダイクロイックミラー26、コリメートレンズ27、接合プリズム24、視度補正レンズ23、レゾナントスキャナ22、ガルバノミラー21、ダイクロイックミラー12、および対物レンズ11を含む。また、照射光学系20は、光軸L3を有する。
【0015】
光源74は、被検者眼Eを観察するための光源である。本実施形態の光源74は、赤外域(近赤外域も含む)の光コヒーレントな光を発するSLO光源である。例えば、光源74に、λ=780nmのレーザーダイオード光源を用いてもよい。光源74に、他のレーザー光源、LED等を用いてもよい。
【0016】
ダイクロイックミラー26は、光路合成部材である。本実施形態のダイクロイックミラー26は、赤外光を反射して、可視光を透過させる特性を有する部材である。これによって、ダイクロイックミラー26は、光源74から出射されたレーザー光を反射させて、可視光を発するレーザーダイオード72からの光束を透過する。レーザーダイオード72は、固視標Fを呈示する際に用いられる。
【0017】
接合プリズム24は、光路合成部材である。本実施形態の接合プリズム24は、2つの直角プリズムの斜面同士が接合された部材である。接合プリズム24は、その中心領域に光源74およびレーザーダイオード72からの光束を被検者眼Eに向けて反射させるミラーコーティング部24aを有する。また、接合プリズム24は、被検者眼Eからの反射光を、ミラーコーティング部24aの周辺領域にて透過させることにより、照射光束と反射光束を分離させる。
【0018】
視度補正レンズ23は、被検者眼Eの視度の個人差を吸収するために用いられている。本実施形態の視度補正レンズ23は、駆動手段64によって光軸(光軸L3,L4)の方向に移動可能である。駆動手段64として、モータ等を用いてもよい。レゾナントスキャナ22およびガルバノミラー21は、被検者眼Eの観察領域において、レーザー光を走査させる走査手段となる。レゾナントスキャナ22およびガルバノミラー21の反射面を、対物レンズ11を介して被検者眼Eの瞳孔と略共役な位置に配置してもよい。
【0019】
<観察光学系>
本実施形態の観察光学系30は、対物レンズ11から接合プリズム24までの光路を、前述した照射光学系20と共有する。照射光学系20の光路から分離された観察光学系30の光路上には、集光レンズ32、ピンホール板34、および受光素子78が配置されている。なお、観察光学系30は、光軸L4を有する。本実施形態のピンホール板34は、共焦点絞りとして作用する。集光レンズ32は、被検者眼Eの眼底ERの観察点とピンホール板34とを、光学的に共役な関係にする。受光素子78として、例えば、APD(アバランシェフォトダイオード)を用いてもよい。
【0020】
<投影光学系>
本実施形態の投影光学系10は、対物レンズ11からダイクロイックミラー12までの光路を、前述した照射光学系20および観察光学系30と共有する。共有光路から分離した投影光学系10の光路上には、視度補正レンズ13、リレーレンズ14、およびディスプレイ部50が配置されている。なお、投影光学系10は、光軸L1を有する。本実施形態の視度補正レンズ13は、駆動手段63によって光軸L1の方向に移動可能である。駆動手段63として、モータ等を用いてもよい。
【0021】
本実施形態のディスプレイ部50は、結像レンズ51、投射レンズ52、ダイクロイックプリズム53、ミラー55、液晶パネル54、ダイクロイックミラー56、拡散板57、および光源58を含む。ディスプレイ部50がプロジェクターユニットと称される場合がある。ディスプレイ部50は光軸L2を含む。光軸L2は、ディスプレイ部50の表示面に交差する方向に延びる。液晶パネル54は、ディスプレイ部50の表示面となる。液晶パネル54は表示領域Dを有する。表示領域Dに表示像が表示される。本実施形態では、投影光学系10の光軸L1とディスプレイ部50の光軸L2とが平行となるように、投影光学系10にディスプレイ部50が配置されている。
【0022】
本実施形態では、表示領域Dに、固視標Fまたは刺激視標Sを表示する(詳細は後述する)。本実施形態の呈示手段は、明るさの変化を抑制した視標を呈示できる。詳細には、例えば、本実施形態の呈示手段は、表示領域D内の表示情報を面として被検者眼Eに呈示(投影)する。これによって、例えば、レーザー光を走査して被検者眼Eに視標を呈示する場合(レーザー光を眼底上で走査させて、所定のタイミングでレーザー光を点灯・消灯することで、眼底上に視標像を形成する)に対して、刺激視標Sの明るさの変化を抑制できる。よって、精度の高い視野計測が可能となる。
【0023】
本実施形態のディスプレイ部50は、1024dot(画素)×768dot(画素)の解像度で表示像を表示可能である。本実施形態のディスプレイ部50は、マイクロディスプレイ(超小型ディスプレイ)である。なお、マイクロディスプレイとして、1インチ未満の表示部を有するものが知られている。本実施形態のディスプレイ部50は、マイクロディスプレイの一例として、表示領域Dの対角長さが0.63インチの液晶パネル54を用いている。液晶パネル54の表示領域には、複数の画素(ピクセル)が格子状に並べられている。ディスプレイ部50の態様は、液晶パネル54を用いた構成に限るものではない。例えば、MEMSデバイス(多数のマイクロミラーを平面配列した表示素子)、有機ELディスプレイ等を用いてディスプレイ部を構成してもよい。ディスプレイ部50がマイクロディスプレイであることで、被検者眼Eに精密な視標を呈示でき、また、眼科装置1の大型化を抑制できる。例えば、ディスプレイ部50の表示面の面積が小さいことで、投影光学系10に用いる光学部材を小型化できる。更に、本実施形態のディスプレイ部50は高密度のドット(画素)で構成されているため、眼底ERに投影する刺激視標Sの投影位置を細かく調整できる。これによって、精密な視野計測が可能となる。
【0024】
本実施形態の光源58は、白色LEDである。本実施形態の拡散板57は、光源58から射出された光を拡散する。本実施形態のダイクロイックミラー56は、光源58から射出された白色光を、赤色・緑色・青色の3つの波長帯に分光する。ディスプレイ部50内の光路には、ダイクロイックミラーが2つ配置されている。2つのダイクロイックミラーは、波長の分離特性が異なる。本実施形態の液晶パネル54は、透過型LCDである。ディスプレイ部50内の光路には、透過型LCDが3つ配置されている。3つの透過型LCDは、赤色用、緑色用、および青色用として配置されている。本実施形態のダイクロイックプリズム53は、赤色・緑色・青色の光を合成する。
【0025】
光源58から射出された光は、次の順で結像レンズ51から射出される。先ず、拡散板57で拡散される。続けて、ダイクロイックミラー56で3つの色(赤色、緑色、および青色)に分離される。続けて、ミラー55等で反射される。続けて、液晶パネル54を通過する。続けて、ダイクロイックミラー56で合成される。続けて、投射レンズ52で平行光束に形成される。続けて、結像レンズ51で共役位置ER1に集光される。表示領域Dに表示された表示像は、ディスプレイ部50の光学系を介して、共役位置ER1を含む面に空中像を形成する。
【0026】
以上のようにして、ディスプレイ部50の表示領域Dに表示された表示像は、投影光学系10上の共役位置ER1に一度結像する。共役位置ER1に結像された表示像は、リレーレンズ14、視度補正レンズ13、ダイクロイックミラー12、および対物レンズ11を介して被検者眼Eの眼底ERに結像する。これによって、被検者は、表示領域Dに表示された表示像(刺激視標S、固視標F)を視認できる。なお、以降に説明する
図3〜6では、説明の都合上、明と暗とが逆転している。被検者は、略暗黒背景のなかに明るい視標(固視標F1および刺激視標S1)を視認する。
【0027】
図3〜6を用いて、本実施形態のディスプレイ部50に表示される表示像と被検者眼Eとの関係を説明する。なお、
図3の状態は、制御部100が後述する変位手段62aを制御して、光軸L1と光軸L2が同軸となっている。
図3では、制御部100がディスプレイ部50を制御して、表示領域D(以降の説明では表示領域D1と称する)の所定の位置に、固視標F(以降の説明では固視標F1と称する)および刺激視標S(以降の説明では刺激視標S1と称する)を表示させている。換言するなら、制御部100が、表示領域D1の所定の座標に、固視標F1および刺激視標S1を描画している。
【0028】
次いで、
図4,
図5を用いて、被検者眼Eに呈示する視標を説明する。なお、
図4および
図5は、液晶パネル54の表示領域Dの一部を示している。
図4は、制御部100が、ディスプレイ部50の表示領域Dに表示する刺激視標Sの一例である。
図5は、制御部100がディスプレイ部50の表示領域Dに表示する固視標Fの一例である。本実施形態の眼科装置1は、
図5(a)〜(c)に示す固視標Fの形状のいずれかを選択して被検者眼Eに呈示する。本実施形態では、検者がコントロール部7aを操作して、被検者眼Eに呈示する固視標Fの形状を選択する。制御部100は、検者が選択した固視標Fに対応した図柄を表示領域Dに描画する。
【0029】
本実施形態の眼科装置1は、ディスプレイ部50が有する複数の画素(ドット)を用いて、視標を形成する。これによって、眼科装置1は、形状が精密な刺激視標Sを被検者眼Eに呈示できる。また、眼科装置1は、複雑な形状の固視標Fを被検者眼Eに呈示できる。例えば、検者は、健常な被検者眼Eに対しては、
図5(a)に示す固視標Fを呈示する。一方、黄班部に疾患のある被検者眼Eに対しては、
図5(b)または
図5(c)に示す固視標Fを呈示する。
図5(a)の態様の固視標Fは、例えば、被検者が注視し易い。一方、
図5(b)および図(c)に示す態様の固視標Fは、例えば、中心窩に疾患のある被検者眼Eであっても、固視標Fを注視し易い。なぜなら、
図5(b)および図(c)の固視標Fは、中央部に図柄が形成されていないため、被検者眼Eの中心窩から離れた位置に固視標Fの図柄が投影され易いからである。
【0030】
次いで、
図6を用いて、
図3を用いて説明した表示像が、投影光学系10によって、眼底ERに結像された状態を説明する。
図6においてP1で示す領域は、先に説明した表示領域D1に対応する眼底ER上の投影領域P1である。つまり、表示領域D1に表示した表示像は、投影領域P1で示す領域内に投影される。
図6には、固視標F1の投影像F1’、および刺激視標S1の投影像S1’が示されている。
【0031】
<変位手段>
次いで、本実施形態の眼科装置1が有する変位手段62aについて説明する。本実施形態の変位手段62aは、光軸L1に交差する面上で、ディスプレイ部50の表示面を移動させる。これによって、光軸L1と光軸L2の距離が変化する(
図7の距離U1の箇所を参照)。制御部100は、変位手段62aが有する駆動機構を駆動して、表示面の位置を移動させる。また、本実施形態の変位手段62aは、表示面の移動量を検出する位置検出手段を有している。これによって、制御部100は、位置検出手段の検出結果を用いて、後述する投影領域Pを検知可能(推測可能)である。変位手段62aの駆動機構として、例えば、X−Yステージを用いてもよい。駆動機構を、アクチュエータとしてもよい。例えば、原点検出用のフォトインタラプタと、ステッピングモータとを組み合わせれば、前述した位置検出手段を容易に構成できる。
【0032】
次いで、
図8を用いて、制御部100が、前述した変位手段62aを制御して、表示面の位置を移動させた場合を説明する。
図8は、制御部100が変位手段62aを制御して、光軸L1と光軸L2とが離間するように、ディスプレイ部50の表示面を光軸L1に交差する面上で移動させた状態である。
図8では、制御部100がディスプレイ部50を制御して、表示領域D(以降の説明では表示領域D2と称する)の所定の位置に、固視標F(以降の説明では固視標F2と称する)および刺激視標S(以降の説明では刺激視標S2と称する)を表示させている。固視標F2および刺激視標S2は、前述した
図3とは異なる表示領域内の位置(座標)に表示されている。固視標F2は、表示面上の光軸L1が通過する位置に表示されている。
【0033】
図6に戻り、
図8の態様で表示させた表示像が、眼底ER上でどのように結像されるかを説明する。
図6においてP2で示す領域は、表示領域D2に対応する眼底ER上の投影領域P2である。つまり、変位手段62aによって、投影領域Pが変位されている。
図8の態様で表示領域D2内に表示した表示像は、
図6にて投影領域P2で示す領域内に投影される。
図6には、固視標F2に対応した投影像F2’、および刺激視標S2に対応した投影像S2’が示されている。ここで、制御部100は、投影像F1’と投影像F2’とが眼底ER上の同じ位置に投影するように、表示領域Dに表示する固視標Fの表示位置を制御している。なお、投影像F2’は、投影領域P1の外側に投影されている。
【0034】
このように、制御部100は、変位手段62aを制御して、表示領域Dに対応した眼底ER上の投影領域Pを変位する。また、制御部100は、変位手段62aによって変位される投影領域Pの位置(眼底ER上の領域)に基づいて、表示領域Dに表示する視標(固視標F,刺激視標S)の表示位置を決定する。また、投影領域Pを変位させる場合に、表示領域Dに表示する固視標Fの表示位置を変更することで、眼底ER上における固視標Fの投影位置を維持させている。つまり、変位手段62aを用いて投影領域Pを変位させることで、刺激視標Sの投影可能な領域を拡大させている。しかも、投影領域Pを変位しても、被検者が視認する、固視標Fの呈示位置は変わらない。これによって、眼科装置1は、精密な視標を、眼底ER上の広い範囲に呈示できるわけである。
【0035】
なお、例えば、本実施形態の眼科装置1は、変位手段62を用いない場合(光軸L1と光軸L2とが同軸)には、40度の範囲にしか刺激視標Sを投影できない。一方で、変位手段62および制御部100を用いた際には、60度の範囲に刺激視標Sを投影できる。例えば、本実施形態の眼科装置1は、画角60度の範囲に、2度の間隔(狭間隔)で刺激視標Sを投影できる。これによって、広い視野範囲に対して、精密な視野測定(例えば、10−2検査と呼ばれる公知の検査方法)が可能になる。刺激視標Sを狭い間隔で呈示できることで、例えば、孤立暗点の見落としを抑制できる。また、本実施形態の制御部100は、観察手段の観察領域の内側に刺激視標Sを投影する(
図6参照)。これによって、検者は、視野計測中に刺激視標Sが投影される部位の状態を観察できる。例えば、検者は、視野欠損によって被検者が応答しないのか、他の要因(一例として固視不良)によって被検者が応答しないのかを、容易に判断できる。なお、本実施形態の観察手段は、画角60°を超える眼底領域を観察できる。
【0036】
なお、制御部100は、
図8を用いて説明したディスプレイ部50の表示制御(描画制御)を、変位手段62aを併用せずに実行してもよい。つまり、制御部100は、ディスプレイ部50の表示面を光軸L1に対して変位させなくてもよい。つまり、表示面の中心(
図8だと光軸L2の位置)から離間した位置に固視標F2を表示すると、表示面の中心(
図8だと光軸L2の位置)に固視標F2を表示するよりも、固視標F2と刺激視標S2との距離を長くすることができる。別の説明方法として、
図3と
図8を用いて説明する。
図3で示される固視標F1と刺激視標S1の距離を第1距離とし、
図8で示される固視標F2と刺激視標S2の距離を第2距離とすると、第1距離よりも第2距離の方が長い。つまり、表示面に表示する固視標Fの表示位置に係わらず、被検者眼Eに固視標Fを注視させるのならば、
図3の状態よりも、
図8の状態の方が、刺激視標Sを、被検者眼Eの視野の周辺位置に提示できる。
図8の表示状態は一例であり、制御部100が、刺激視標Sを呈示する位置に応じて、その都度、固視標Fの表示位置を変更してゆけばよい。
【0037】
例えば、刺激視標Sを呈示する位置(方向)に応じて、固視標Fの表示位置を変化させれば、表示面の表示領域(面積)を有効に活用できる。例えば、固視標Fと刺激視標Sの各々を表示領域の対角位置に配置(表示)すると、最も視野の周辺に刺激視標Sを呈示できる。つまり、光軸L1に対して表示面を変位させなくても、刺激視標Sを広い範囲に提示できる。この場合、固視標Fの呈示位置は、光軸L1に対して変位する。被検者眼Eは、光軸L1に対して変位する固視標Fを注視(追従)する。この態様では、被検者眼Eの眼球の旋回手段(被検者眼Eの筋肉)が変位手段となる。
【0038】
以上説明した変容例の態様では、固視標Fと刺激視標Sの表示位置を変更可能であって、制御部100は、被検者眼Eに投影する刺激視標Sの位置に応じて、固視標Fと刺激視標Sとの表示位置を決定する。例えば、視野角の範囲に関する閾値を設けて、被検者眼Eの眼底の後極部(第1範囲)へ刺激視標Sを投影する際は固視標Fを光軸L1に表示させて、眼底の周辺部(第1範囲の外側の領域)へ刺激視標Sを投影する際は固視標Fを光軸L1から変位したい位置に表示させてもよい。また、この態様では、例えば、本実施形態のように、変位手段62aとしてアクチュエータ等の駆動機構を要しない。したがって、眼科装置を簡素な構成にできる。また、眼科装置の故障を低減できる。眼科装置の動作音が低減できるため、被検者の精神的な負担が低減する効果も考えられる。
【0039】
<制御系>
次いで、
図2に戻り、眼科装置1の制御系を説明する。制御部100は制御手段であり、眼科装置1全体の制御を行う。一例として、制御部100には、光源58、変位手段62a、ジョイスティック4、駆動部6、コントロール部7a、応答ボタン7b、モニタ8、駆動手段63、ガルバノミラー21、レゾナントスキャナ22、駆動手段64、光源74、レーザーダイオード72、受光素子78、および記憶部82が接続される。コントロール部7aには、レーザー光の出力調整等の各種操作スイッチが設けられている。なお、制御部100は、受光素子78で受光した信号を基に被検者眼Eの観察画像を生成する観察画像生成手段、およびモニタ8に表示する表示画像を生成する表示制御手段となる。なお、制御部100は、照射光学系20および観察光学系30と共に、観察手段の一部となる。詳細には、制御部100は、照射光学系20の視度補正レンズ23、レゾナントスキャナ22、ガルバノミラー21、および光源74を制御して被検者眼Eに光を投光(レーザー光を眼底上で走査)し、観察光学系30の受光素子78の出力信号を用いて被検者眼Eの眼底ERの平面画像(2次元画像)を生成する。制御部100は、平面画像を逐次生成し、モニタ8に動画を表示する。制御部100は、被検者眼Eの観察用として、視野計測中にモニタ8へ前述した動画を表示する。記憶部82は記憶手段である。記憶部82には、検査結果、種々の設定情報等が保存される。本実施形態の記憶部82には、制御部100が実行する眼科装置1を制御するためのプログラムが記憶されている。
【0040】
<使用方法>
次いで、以上の構成を備える眼科装置1の動作の一例を説明する。
【0041】
先ず、検者は、眼科装置1に被検者の顔を誘導し、顔支持ユニット5で被検者の顔を支持させる。続けて、検者は、ジョイスティック4を操作して、装置本体3の対物レンズ11を被検者眼Eの前方に位置させる。続けて、検者は、被検者眼Eに装置内部を覗き込ませる。続けて、検者は、モニタ8に表示される被検者眼Eの観察像を観察しながら、被検者眼Eに対する装置本体3の精密なアライメント(位置合わせ)を行う。詳細には、ジョイスティック4を操作して、モニタ8に被検者眼Eの眼底ERの観察像を表示させる。なお、本実施形態では、眼科装置1を暗室に設置している。これによって、被検者からすると、略暗黒背景のなかに視標が呈示される。なお、検者は、散瞳剤を用いて被検者眼Eの瞳孔を散瞳させてもよい。
【0042】
続けて、検者は、モニタ8に表示される眼底ERの観察像を観察しながら、眼底ERへのピント合わせ(合焦操作)を行う。詳細には、検者は、コントロール部7aを操作して、視度補正レンズ23および視度補正レンズ13を各光学系の光軸方向に移動させる。続けて、検者は、コントロール部7aのモードスイッチを操作して、制御部100に実行させる検査モード等を設定する。以降では、眼科装置1が備える検査の一例として、視野計測を説明する。検者は、前述したアライメントを完了させると、コントロール部7aのモードスイッチを操作して、視野計測モードを設定する。
【0043】
<視野計測>
図9を参照して、制御部100が実行する眼科装置1の視野計測処理を説明する。先ず、ステップS101において、制御部100は、初期化処理を行う。初期化処理の一例として、制御部100は、変位手段62aを駆動制御して、投影光学系10の光軸L1とディスプレイ部50の光軸L2とを一致させる(
図2,
図3,
図7参照)。また、制御部100は、ディスプレイ部50を描画制御して、表示面に固視標Fを表示させる(
図3,
図5参照)。これによって、眼科装置1は、被検者眼Eに、前述した固視標Fを呈示する。検者は、被検者が固視標Fを視認できたことを確認した後、コントロール部7aの計測開始スイッチを押す。なお、検者は、以降に続く視野計測の検査中は、前述した固視標Fを固視するように、被検者に説明しておく。換言するなら、検者は、視野計測の検査中に、ランダムな位置に呈示される刺激視標Sを視線で追わないように、被検者に説明しておく。
【0044】
次いで、ステップS102において、制御部100は、ディスプレイ部50の表示面(液晶パネル54)に表示させる視標の描画処理を行う。描画処理の一例として、制御部100は、表示面(液晶パネル54)に、固視標Fおよび刺激視標Sを描画する(一例として
図3,
図4参照)。これによって、眼科装置1は、被検者眼Eへ、前述した固視標Fに加えて刺激視標Sを呈示する。なお、ステップS102の詳細な説明は後述する。
【0045】
次いで、ステップS103において、制御部100は、被検者の応答の有無を判定する。詳細には、制御部100は、応答ボタン7bの出力信号を検出して、被検者が、刺激視標Sを認識して応答ボタン7bを押したか否かを判定する。制御部100は、被検者が刺激視標Sを認識したと判定した場合には、ステップS105の処理を実行する。制御部100は、被検者が刺激視標Sを認識できていないと判定した場合には、ステップS104の処理を実行する。
【0046】
ステップS104において、制御部100は、ステップS102で刺激視標Sを呈示してから所定時間が経過したか否かを判定する。本実施形態では、所定時間の一例として、制御部100は、ステップS102で刺激視標Sを呈示してから1秒以上が経過したか否かを判定する。制御部100は、刺激視標Sの呈示時間が所定時間を超えたと判定すると、ステップS105の処理を実行する。制御部100は、刺激視標Sの呈示時間が所定時間を超えていないと判定すると、ステップS103の処理を実行する(つまり、刺激視標Sの呈示時間が所定時間を超えるまで、処理をループさせる)。
【0047】
次いで、ステップS105において、制御部100は、被検者の応答で得られた応答結果の記憶処理を実行する。詳細には、刺激視標Sの眼底ERへの投影位置に関する情報と、被検者眼Eに投影した刺激視標Sの光量と、被検者の応答結果とを関連付けて、記憶部82にデータを記憶する。
【0048】
次いで、ステップS106において、制御部100は、検査を終了させるか否かを判定する。詳細には、前述したステップS101で検者が設定した検査モードの設定情報に基づいて、眼底ER上の所定の位置(複数位置)に刺激視標Sの投影を行ったか否かを判定する。制御部100は、検査終了と判定した場合には、ステップS107の処理を実行する。制御部100は、検査が終了していないと判定した場合には、ステップS102の処理を実行する(つまり、次回の刺激視標Sの呈示に進む)。
【0049】
次いで、ステップS107において、制御部100は、検査の終了処理を実行する。検査の終了処理の一例として、制御部100は、記憶部82に記憶されたデータを用いて、被検者眼Eの視野マップを生成し、モニタ8に表示する。制御部100が、視野測定の結果データを記憶部82に記憶、用紙に印刷、または通信ケーブルを介して情報管理端末等に出力転送等の処理を行ってもよい。以上のようにして、検者は、眼科装置1を用いて視野計測(視野検査)を行う。つまり、制御部100は、眼底ER上の複数部位に刺激視標Sを投影して、当該投影部位に対する被検者の応答の結果を記憶する。例えば、制御部100は、眼底ER上の100箇所に、刺激視標Sを投影する。なお、制御部100は、刺激視標Sの明るさを変えて同じ投影部位に刺激視標Sを投影する場合がある。視標の明るさを変えて投影することで、被検者眼Eの視野感度を詳細に測定できる。
【0050】
<視標の描画処理>
次いで、
図10に示すフローチャートを用いて、視標の描画処理を説明する。なお、
図10に示す制御部100の制御は、あくまで一例である。
図10に示すフローチャートでは省略しているが、制御部100が、呈示する視標の明るさを調節する場合がある。
【0051】
先ず、ステップS201において、制御部100は、表示面に表示させている指標の表示(描画)をクリアする。換言すると、制御部100がディスプレイ部50を制御して、被検者からみて、視標が何も呈示されていない状態(つまり、ディスプレイ部50に可視光の表示像が表示されていない状態)にする。次いで、ステップS202において、制御部100は、次回の視標呈示位置(視標を眼底ERに投影する位置)を計算する。なお、制御部100が、固視標Fの呈示を維持してもよい。
【0052】
次いで、ステップS203において、制御部100は、表示領域Dに刺激視標Sを描画可能か判定する。詳細には、刺激視標Sを投影させたい眼底上の部位が、現在の投影領域P内に位置しているか否かを判定する。刺激視標Sの投影目標位置が現在の投影領域P内に位置している場合には、制御部100は、ディスプレイ部50に刺激視標Sを描画可能と判定する。制御部100は、刺激視標Sを描画可能と判定すると、ステップS204の処理を実行する。一方、制御部100は、刺激視標Sを描画不可能と判定すると、ステップS205の処理を実行する。
【0053】
ステップS204において、制御部100は、ディスプレイ部50の表示面に視標(固視標Fおよび刺激視標S)を表示する(一例として、
図3〜
図5および
図8参照)。詳細には制御部100は、ディスプレイ部50に対して、固視標Fおよび刺激視標Sの描画命令を実行する。
【0054】
ステップS205において、制御部100は、ディスプレイ部50の変位処理を実行する。詳細には、制御部100は、眼底ER上の刺激目標位置を投影領域Pがカバーするように変位手段62aによって投影領域Pを変位させる。本実施形態では、変位手段62aの制御に用いるパラメータを記憶部82に記憶している。パラメータを、実験またはシミュレーションによって決定してもよい。詳細には、本実施形態では、変位手段62aの駆動量と投影領域Pとを関連付けたパラメータ(データ)を、記憶部82に記憶している。
【0055】
ステップS206において、制御部100は、視標の描画位置を計算する。詳細には、固視標Fの投影目標位置と、刺激視標Sの投影目標位置と、変位させた投影領域Pとの関係から、表示領域Dに表示する視標(固視標Fおよび刺激視標S)の表示位置を算出し、決定する。例えば、制御部100は、投影領域Pを変位させる前後で眼底ER上の同一の位置に固視標Fを呈示する(つまり、眼底ER上における固視標Fの投影位置を固定した状態で、投影領域Pを変位させる)ことができる。この場合、制御部100は、例えば、投影領域Pを変位させる前に眼底ER上において固視標Fが呈示されていた位置を、投影領域Pと、表示領域D内の固視標Fの描画位置とに基づいて算出する。続けて、制御部100は、変位させる前の投影領域Pと、変位後の投影領域Pとの位置関係に基づいて、変位前と同一の眼底ER上の位置に固視標Fが呈示されるように、変位後において表示領域D内に描画する固視標Fの位置を算出する。なお、視標の表示位置を算出する具体的な方法が適宜変更できることは言うまでもない。例えば、眼底ER上における視標の呈示位置を算出する代わりに、投影領域Pを変位させる際の変位ベクトル等を用いて、表示領域Dに表示する視標の表示位置を算出することも可能である。また、表示領域D内に表示させる刺激視標Sの表示位置を算出する場合にも、固視標Fの表示位置を算出する場合と同様に、変位の前後の投影領域Pの位置関係、変位ベクトル等の少なくともいずれかを用いることも可能である。
【0056】
次いで、ステップS207において、制御部100は、ステップS206で算出した指標の表示位置に基づいて、ディスプレイ部50の表示面に、固視標Fおよび刺激視標Sを表示する(一例として
図3,
図8参照)。以上のようにして視標の描画処理が終了する。
【0057】
なお、
図9,
図10のフローチャートには示していないが、制御部100は、レーザーダイオード72(
図2参照)を用いて被検者眼Eに固視標Fを呈示する場合がある。詳細には、制御部100は、固視標Fを表示させたい表示位置が、投影領域Pの領域外となる場合には、レーザーダイオード72を用いて被検者眼Eに固視標Fを呈示する。これによって、固視標Fの呈示位置と刺激視標Sの呈示位置との関係に縛られることなく、眼底ERの広い範囲に刺激視標Sを投影できる。換言するなら、固視標Fの呈示位置と刺激視標Sの呈示位置が大きく離れていても、被検者眼Eに固視標Fと刺激視標Sの両方を呈示できる。また、この場合、眼底ER上で投影領域Pを変位させる場合でも、眼底ER上の固視標Fの呈示位置が固定された状態で容易に投影領域Pが変位される。なお、ディスプレイ部50を用いて固視標Fを呈示することで、明るさが安定した固視標Fを被検者眼Eに呈示できる。また、レーザーダイオード72は必ずしも必要なく、ディスプレイ部50のみで固視標Fを呈示してもよい。もしくは、固視標Fの呈示を、レーザーダイオード72の光のみで行ってもよい。
【0058】
<変位手段の第1変容例>
次いで、
図11を用いて、変位手段の第1の変容例を説明する。
図11は、第1変容例の変位手段62bを説明する図である。変位手段62bは、投影光学系10の光軸L1上に配置されたミラー(ミラー群)の角度を変化させる。これによって、投影光学系10の光軸L1とディスプレイ部50の光軸L2との距離が変化する。なお、
図11の状態では、光軸L1と光軸L2とは平行であり、且つ、距離U2で離間している。変位手段62bは、第1ミラー201と第2ミラー202を備える。第1ミラー201および第2ミラー202をガルバノミラーとしてもよい。本実施例では、2軸のガルバノミラーを用いている。1つのミラーで変位手段62bを構成してもよい。なお、第1ミラー201および第2ミラー202は制御部100に接続されており、制御部100が第1ミラー201と第2ミラー202の角度を変化させる。なお、変位手段62bが、ミラーの角度を検出する検出手段を有していてもよい。なお、第1変容例の変位手段62bを用いる場合でも、制御部100は、投影領域Pに対応した表示領域D内の位置に固視標Fまたは刺激視標Sを表示させる。
【0059】
<変位手段の第2変容例>
次いで、
図12を用いて、変位手段の第2の第2変容例を説明する。
図12は、第2変容例の変位手段62cを説明する図である。変位手段62cは、投影光学系10に配置されたプリズムを回転させる。これによって、投影光学系10の光軸L1の周りをディスプレイ部50の光軸L2が回転する。なお、光軸L1と光軸L2とは平行であり、且つ、距離U3で離間している。変位手段62cは、プリズム203を備える。プリズム203は、アクチュエータを有する回転機構に組み付けられている。制御部100が前述したアクチュエータを制御することで、光軸L2が光軸L1の周りを回転する。これによって、眼底ER上では、投影領域Pが上下方向を維持したまま、光軸L1を中心として周方向に回転変位する。なお、第2変容例の変位手段62cを用いる場合でも、制御部100は、投影領域Pに対応した表示領域D内の位置に固視標Fまたは刺激視標Sを表示させる。
【0060】
なお、投影領域Pの変位手法は上述した手法に限るものではない。例えば、
図13で示すように、投影領域Pを、光軸L1を中心として周方向に回転変位させる変位手段を用いてもよい。かかる変位をするために、例えば、光軸L1を回転軸として表示面を周方向に回転すればよい。このような場合においても、制御部100は、投影領域Pに対応した位置に視標を表示すればよい。
【0061】
<作用および効果>
本実施形態の眼科装置1は、表示領域Dに視標(一例として刺激視標S)を表示するディスプレイ部50と、表示領域Dに表示される表示像を、レンズを介して被検者眼Eの眼底ERに投影する投影光学系10と、表示領域Dに対応した眼底上の投影領域Pを変位させる変位手段と、眼科装置1の動作を制御する制御手段と、を備えている。制御手段は、変位手段によって変位される眼底上の投影領域Pの位置に基づいて、表示領域Dに表示する視標の表示位置を決定している。これによって、例えば、ディスプレイ部50の表示面のサイズまたは解像度に依存せず、視標を好適に呈示できる。表示面が小さくても、被検者眼Eの視野の広い範囲に視標を投影できる。
【0062】
また、本実施形態の眼科装置1は、眼底ERに固視標Fを投影する固視標投影手段を備えている。制御手段は、眼底上における固視標Fの投影位置が固定された状態で、変位手段62によって投影領域Pを変位させる。これによって、一定の方向を固視させつつ、変位手段62によって眼底上の様々な部位に視標を投影できる。
【0063】
また、本実施形態の眼科装置1のディスプレイ部50は、視標と共に固視標Fを表示領域Dに表示することで固視標投影手段を兼用している。制御手段は、変位手段62によって投影領域Pを変位させる場合に、表示領域Dに表示する固視標Fの表示位置を変更することで、眼底上における固視標Fの投影位置を維持させる。これによって、例えば、多様な形状の固視標Fを容易に呈示できる。また、例えば、眼科装置1を簡素な構成にできる。眼科装置1の大型化を抑制できると共に、眼科装置1を安価に提供できる。
【0064】
また、本実施形態では、制御手段は、変位手段62によって投影領域Pを変位させる際に、表示領域Dに表示されている視標を消去してもよい。これによって、投影領域Pを変位する際に、被検者眼Eの眼底ERの不要な位置に視標を投影してしまう事象を抑制できる。例えば、次に視標を呈示する位置を、被検者に気付かれ難くできる。なお、消去する指標は、刺激視標Sと固視標Fの少なくともいずれかであってもよい。また、指標を完全に消去しなくてもよい。例えば、制御手段は、投影領域Pを変位させる際に、被検者の視認が困難な程度に、指標を小さく呈示(表示)してもよい。また、制御手段は、投影領域Pを変位させる際に、視標の形状を変形させてもよい。
【0065】
なお、制御部100は、投影領域Pの変位中に、固視標Fを呈示したままとしてもよい。詳細には、制御部100が、投影領域Pの変位中に、投影領域Pの変位量および変位方向に応じて、ディスプレイ部50に表示する固視標Fの表示位置を逐次変更してもよい。制御部100は、被検者眼Eの眼底ERの同一位置に固視標Fを投影するように、ディスプレイ部50に表示する固視標Fの表示位置を逐次決定し、ディスプレイ部50の表示を変更する。これによって、投影領域Pの変位中においても、被検者は同一の位置に固視標Fを視認できる。被検者が、刺激視標Sを固視標Fと誤認してしまう事象を抑制できる。
【0066】
また、本実施形態の眼科装置1は、ディスプレイは、複数の画素を用いて視標を表示する。これによって、例えば、被検者に、解像度の高い指標を呈示できる。また、被検者に、複雑な形状の指標を呈示できる。また、被検者に呈示する指標の形状を、容易に変更できる。
【0067】
また、本実施形態の眼科装置1は、被検者眼Eの眼底ERを観察する観察手段を備えている。制御手段は、観察手段によって観察される観察領域の内側に視標を投影する。これによって、例えば、被検者が視標を視認できない場合に、検者は速やかに対応できる。例えば、検者は、被検者眼Eの疾患状態を観察しながら、呈示した視標に対する、被検者の応答を確認できる。
【0068】
また、本実施形態の眼科装置1のディスプレイ部50の表示面は、投影光学系10の光軸L1に交差する面SR上に配置されている。変位手段は、面SR上で表示面を変位させる。これによって、本実施形態の眼科装置1は、簡素な構成でありながらも、表示面を容易に変位できる。
【0069】
また、本実施形態の眼科装置1は、投影光学系10の光軸L1上に傾斜して配置されたミラーを備えている。変位手段は、ミラーの傾斜角度を変化させる。これによって、例えば、本実施形態の眼科装置1は、指標の投影位置を大きく変える際にも、指標の投影位置を高速に変更できる。
【0070】
また、本実施形態の眼科装置1は、投影光学系10の光軸L1上に配置されたプリズムを備えている。変位手段は、光軸L1を回転軸としてプリズムを回転させる。これによって、例えば、1つの駆動軸で投影領域を変位でき、眼科装置1を簡素な構成にできる。
【0071】
また、本実施形態の眼科装置1のディスプレイ部50は、マイクロディスプレイである。これによって、例えば、眼科装置1の大型化を抑制できる。また、例えば、投影光学系10を構成する光学部材を小型化できる。
【0072】
また、本実施形態の眼科装置1の制御手段は、眼底ER上の複数部位に視標を投影して視野計測を行う。これによって、例えば、眼科装置1の大型化を抑制しつつ、解像度の高い視標を被検者眼Eの眼底ERの広い範囲に投影できる。よって、精度の高い視野計測を広い眼底範囲に対して行える。
【0073】
なお、本実施形態ではレーザー光を走査して被検者眼Eを撮像(観察)する態様としているが、被検者眼Eの撮像手法はこれに限るものではない。例えば、眼底カメラの光学系に投影光学系10を組み込んでもよい。なお、眼底カメラには、イメージセンサを用いて被検者眼Eの眼底ERを撮像する眼科装置が含まれる。この場合、例えば、眼底カメラに含まれる、内部固視灯を呈示する光学系を、本実施形態の投影光学系10に変更すればよい。また、被検者眼Eの前眼部を観察可能な装置(一例として眼屈折力測定装置)に、本実施形態の投影光学系10を含めてもよい。いずれの手法においても、制御部が、投影領域を考慮して、表示領域に表示する視標の表示位置を決定すればよい。
【0074】
また、本実施形態では、顔支持ユニットに被検者の顔を固定して、上下左右前後方向に移動可能な装置本体3を被検者眼Eに位置合わせする態様としているが、眼科装置1の態様は、これに限るものではない。眼科装置1の装置本体3は固定されていてもよい。この場合、検者は、被検者眼Eを対物レンズ11の前方に位置させる。また、本実施形態では、被検者眼Eの眼底ERに視標を投影する態様としているが、ディスプレイ部、変位手段、および制御部を用いて、壁(例えばドーム形状)に視標を投影してもよい。つまり、視標の呈示方法を反射式としてもよい。
【0075】
また、制御部100は、観察手段で取得した眼底像を解析して、指標の表示位置を決定してもよい。つまり、リアルタイム網膜トラッキングを行ってもよい。これによって、被検者眼Eが固視微動した場合であっても、眼底上の所定の位置に視標を投影でき、精度の高い検査等が可能となる。本実施形態の眼科装置1は、刺激視標Sの投影可能範囲より広い範囲を観察可能である。よって、上述したリアルタイム網膜トラッキングを好適に行える。なお、制御部100は、視野測定範囲(視標投影範囲)の大小変更に連動させて、観察領域を大小変化させてもよい。本実施形態では、刺激視標の投影領域(最大)を60度としているが、これに限らない。例えば、刺激視標の投影領域(最大)を90度としてもよい。また、投影光学系の倍率を変更して、より精密な視標を投影してもよい。かかる態様であっても、変位手段62を用いて、広い範囲の視野測定が可能になる。
【0076】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲及びこれと均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。