特許第6443118号(P6443118)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443118
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】内歯歯車およびその転造用のダイス
(51)【国際特許分類】
   F16H 55/08 20060101AFI20181217BHJP
   F16H 55/17 20060101ALI20181217BHJP
   B21H 5/02 20060101ALI20181217BHJP
   B21H 5/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   F16H55/08 Z
   F16H55/17 Z
   B21H5/02
   B21H5/00 F
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-32034(P2015-32034)
(22)【出願日】2015年2月20日
(65)【公開番号】特開2016-153679(P2016-153679A)
(43)【公開日】2016年8月25日
【審査請求日】2018年1月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】特許業務法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】永田 英理
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/015845(WO,A1)
【文献】 特許第4029847(JP,B2)
【文献】 特開2011−255214(JP,A)
【文献】 特開2005−083535(JP,A)
【文献】 特開2014−181619(JP,A)
【文献】 仏国特許発明第01203942(FR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0282544(US,A1)
【文献】 国際公開第2008/111270(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/08
B21H 5/00
B21H 5/02
F16H 55/17
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歯車を構成する複数の歯を備え、各歯は、前記歯車の回転軸芯の延出方向視において、
歯先領域と、
歯底領域と、
前記歯先領域および前記歯底領域の間に連続して形成されると共に、表面が隣接する歯の表面に向けて接近するように膨らんだ凸状部と、隣接する歯の表面から離れるように窪んだ凹状部とが連続したトロコイド曲線で形成される中間領域とを備え、
前記中間領域のうち、前記凸状部と前記凹状部との境界位置に対して、当該境界位置から前記歯底領域との境界位置に至る領域の曲率半径の平均である第1平均半径と、
前記凸状部と前記凹状部との境界位置から前記歯先領域との境界位置に至る領域の曲率半径の平均である第2平均半径とを比較したとき、前記第1平均半径が前記第2平均半径よりも小さく、
前記歯先領域においては、歯厚方向の中央位置における曲率半径が最大となるように構成してある内歯歯車。
【請求項2】
前記凸状部と前記凹状部との境界位置において圧力角がゼロとなるように構成してある請求項1に記載の内歯歯車。
【請求項3】
前記歯底領域が有する歯丈方向に沿った寸法、および、前記歯先領域が有する歯丈方向に沿った寸法が、前記中間領域が有する歯丈方向に沿った寸法の5〜10%に構成してある請求項1または2に記載の内歯歯車。
【請求項4】
前記歯先領域において、前記中央位置から前記中間領域との境界位置に近付くほど曲率半径が小さくなるように構成してある請求項1〜3の何れか一項に記載の内歯歯車。
【請求項5】
前記歯先領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径が、
前記歯底領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径よりも大きく構成してある請求項1〜4の何れか一項に記載の内歯歯車。
【請求項6】
ダイスを構成する複数の歯を備え、各歯は、前記ダイスの回転軸芯の延出方向視において、
歯先領域と、
歯底領域と、
前記歯先領域および前記歯底領域の間に連続して形成されると共に、表面が隣接する歯の表面に向けて接近するように膨らんだ凸状部と、隣接する歯の表面から離れるように窪んだ凹状部とが連続したトロコイド曲線で形成される中間領域とを備え、
前記中間領域のうち、前記凸状部と前記凹状部との境界位置に対して、当該境界位置から前記歯底領域との境界位置に至る領域の曲率半径の平均である第1平均半径と、
前記凸状部と前記凹状部との前記境界位置から前記歯先領域との境界位置に至る領域の曲率半径の平均である第2平均半径とを比較したとき、前記第1平均半径が前記第2平均半径よりも大きく、
前記歯先領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径を、前記歯底領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径よりも小さく構成してある転造用のダイス。
【請求項7】
前記歯底領域が有する歯丈方向に沿った寸法、および、前記歯先領域が有する歯丈方向に沿った寸法が、前記中間領域が有する歯丈方向に沿った寸法の5〜10%に構成してある請求項6に記載の転造用のダイス。
【請求項8】
前記歯先領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径が、
前記歯底領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径よりも小さく構成してある請求項6又は7の何れか一項に記載の転造用のダイス。
【請求項9】
前記歯先領域のうち最も歯先の高い位置が前記歯先領域の中央位置に対して何れか一方に偏位している請求項6〜8の何れか一項に記載の転造用のダイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転造によって形成された内歯歯車および当該内歯歯車を転造するダイスに関する。
【背景技術】
【0002】
機械要素に用いる歯車である内歯歯車は、例えば高効率の減速装置などに用いられる。
従来、このような内歯歯車は製造工数軽減のために転造によって製造されるものがあった。例えば、特許文献1に記載の内歯歯車の製造方法は、高い剛性を持つコンテナの内部に筒状のワークを挿入し、その内部でダイスを回転させつつダイスをワークに押し付けるものである。ダイスは回転駆動されワークに押し付けられ、ワーク及びコンテナはダイスの回転に従動するように構成してある。
【0003】
ただし、ダイスに対してワークを同期させるべく、当該特許文献1では、成形しようとする内歯の歯数と同数の凹溝が予めワークの内周面に等分配置されている(〔0006〕段落参照)。
【0004】
これにより、ワークは剛性を有するコンテナの内側に張り付いて真円度が保証され、加工に起因する偏荷重の影響が残らず、大変形を伴う転造が可能となる等の効果が記載されている(〔0009〕段落参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3947204号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、この従来技術では、内歯歯車の全般を対象とした製造手法については記載されてはいるものの、歯の具体的形状や、それらの形状を得るための製造手法については特段の記載はない。
【0007】
内歯歯車としては、使用される箇所によって各種の歯形形状を有するものが存在する。例えば、ハイポサイクロイド減速機構に用いるものなど、大減速が得られ高負荷容量を有する内歯歯車を得るには、歯飛びが生じ難い歯形形状を備える必要がある。また、そのような歯形形状を得るには、所定の要件を満たしたダイス工具を用いる必要もある。
そこで本発明の目的は、歯飛びが生じ難く強度の高い内歯歯車及びそれを転造するダイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る内歯歯車の特徴構成は、歯車を構成する複数の歯を備え、各歯は、前記歯車の回転軸芯の延出方向視において、歯先領域と、歯底領域と、前記歯先領域および前記歯底領域の間に連続して形成されると共に、表面が隣接する歯の表面に向けて接近するように膨らんだ凸状部と、隣接する歯の表面から離れるように窪んだ凹状部とが連続したトロコイド曲線で形成される中間領域とを備え、
前記中間領域のうち、前記凸状部と前記凹状部との境界位置に対して、当該境界位置から前記歯底領域との境界位置に至る領域の曲率半径の平均である第1平均半径と、前記凸状部と前記凹状部との境界位置から前記歯先領域との境界位置に至る領域の曲率半径の平均である第2平均半径とを比較したとき、前記第1平均半径が前記第2平均半径よりも小さく、前記歯先領域においては、歯厚方向の中央位置における曲率半径が最大となるように構成してある点にある。
【0009】
本構成では、内歯歯車の歯が有する形状のうち、歯丈方向の中間領域である第2領域をトロコイド曲線の形状に構成してある。トロコイド形状を有する歯車どうしが噛み合う場合、歯車の伝達効率を高めるためには歯車どうしの軸間距離を正確に設定する必要がある。しかし、この設定が適切に行われるなら、歯車同士の噛み合い損失が小さくなり、且つ大きな噛み合い率を得ることができる。
【0010】
ここで、噛み合い損失とは、歯車どうしが噛み合ってトルク伝達するときに、互いに滑りが生じることなどによって生じるエネルギーロスのことをいう。また、噛み合い率とは、歯車同士が噛み合う場合に同時に何枚の歯が噛み合っているかを示す値をいう。
【0011】
さらに、トロコイド歯形であれば、歯面どうしのすべり率が歯の噛み合い位置でそれほど変化せず、歯先の面および歯底の面でそれぞれ一定となって、滑らかな駆動伝達が行える。しかも、インボリュート歯車のように凸面どうしの噛み合いではなく、凹面と凸面との噛み合いとなる場合が多く、潤滑油膜の形成も容易である。
【0012】
また、第2領域におけるトロコイド形状が、歯先側と歯底側とで凹凸の歯形が逆転しつつ連続した形状であり、特に、歯先側のトロコイド形状の平均半径が大きく、歯の先端側まで噛み合い領域を確保している。よって、噛み合い時の歯飛びが生じ難い内歯歯車を得ることができる。
【0013】
さらに、前記歯先領域においては、歯厚方向の中央位置における曲率半径が最大となるように構成してあるから、歯先部分の体積を大きく確保でき、相手歯車との噛み合いに際して刃先部分に作用する応力が小さくなる。よって、歯が損傷する可能性が低くなり、内歯歯車の耐久性を向上させることができる。
【0014】
本発明に係る内歯歯車においては、前記凸状部と前記凹状部との境界位置において圧力角がゼロとなるように構成することができる。
【0015】
ここでの圧力角は、回転軸芯の延出方向に沿って見たとき、内歯歯車の回転中心から歯の表面の個々の位置に直線を引いた場合に、当該表面の位置において当該表面の接線と前記直線とのなす角度をいう。よって圧力角ゼロとは、前記直線とその表面における接線とが重なることをいう。つまり、当該境界位置における歯面の延出方向が内歯歯車の径方向に沿うものとなり、所謂歯面が立った形状となる。この場合、互いの歯が接触するとき、当該接触位置において互いに力が作用する方向、即ち、歯面の法線方向と、両歯車の軸芯どうしを結んだ方向とのなす角度がより直角に近いものとなる。この結果、歯面どうしに大きな力が作用した場合でも、双方の歯車どうしが離間するような分力が生じ難い。よって、より歯飛びの少ない内歯歯車を得ることができる。
【0016】
本発明に係る内歯歯車においては、前記歯底領域が有する歯丈方向に沿った寸法、および、前記歯先領域が有する歯丈方向に沿った寸法を、前記中間領域が有する歯丈方向に沿った寸法の5〜10%に構成することができる。
【0017】
本構成であれば、歯丈方向の寸法のうちトロコイド歯形を形成した中間領域の寸法が80〜90%を占めることとなり、噛み合いに有効な領域を広く確保することができる。
また、中間領域の寸法比率を高める結果、必然的に歯先領域のトップランドおよび歯底領域のボトムランドの形状が平坦なものとなり、歯先及び歯底が窄んだものと比較してより矩形状の歯形となるから、特に歯先の強度が高まり、耐久性のある内歯歯車を得ることができる。
【0018】
本発明に係る内歯歯車では、前記歯先領域において、前記中央位置から前記中間領域との境界位置に近付くほど曲率半径が小さくなるように構成することができる。
【0019】
本構成のごとく、歯先の形状が中央位置で曲率半径が大きく、当該中央位置からその両側に離れるほど曲率半径を小さく構成することで、歯先領域の形状が矩形状に近いものとなる。よって、歯先領域のうち中間領域に移行する部位の歯のボリュームを確保することができ、この部分の強度が高まることとなる。その結果、歯の損傷が生じ難く、また、歯の強度向上に伴って歯の剛性も高まるから、より歯飛びの少ない内歯歯車を得ることができる。
【0020】
本発明に係る内歯歯車においては、前記歯先領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径を、前記歯底領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径よりも大きく構成しておくことができる。
【0021】
本構成の如く、歯先領域に係る曲率半径を、歯底領域に係る曲率半径よりも大きく構成することで、歯底領域の中央位置から中間領域に至る歯底面の形状を、歯先領域のような略矩形状ではなく、より円形に近い形状とすることができる。この結果、歯車どうしの噛み合いに際し内歯に作用する力に起因して歯に曲げ力が作用する場合に、歯底周辺に生じる応力集中を低減することができる。この結果、歯が損傷し難い内歯歯車を得ることができる。
【0022】
本発明に係る転造用のダイスの特徴構成は、ダイスを構成する複数の歯を備え、各歯は、前記ダイスの回転軸芯の延出方向視において、歯先領域と、歯底領域と、前記歯先領域および前記歯底領域の間に連続して形成されると共に、表面が隣接する歯の表面に向けて接近するように膨らんだ凸状部と、隣接する歯の表面から離れるように窪んだ凹状部とが連続したトロコイド曲線で形成される中間領域とを備え、
前記中間領域のうち、前記凸状部と前記凹状部との境界位置に対して、当該境界位置から前記歯底領域との境界位置に至る領域の曲率半径の平均である第1平均半径と、前記凸状部と前記凹状部との境界位置から前記歯先領域との境界位置に至る領域の曲率半径の平均である第2平均半径とを比較したとき、前記第1平均半径が前記第2平均半径よりも大きく、前記歯先領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径を、前記歯底領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径よりも小さく構成した点にある。
【0023】
本構成は、内歯歯車を転造する際に用いる工具としてのダイスに関するものである。転造の場合、工具であるダイスの形状と、製品である内歯歯車の形状とは、凹凸が逆になった裏返しの形状に近いものとなる。よって、本構成のダイスが奏する効果は、上記のごとく内歯歯車が奏する効果と類似のものとなる。
【0024】
本構成の如く、ダイスの歯が有する形状のうち、歯丈方向の中間領域である第2領域をトロコイド形状に構成することで、得られる内歯歯車にもトロコイド歯形を形成することができる。トロコイド歯形であれば、ワークを転造形成する際に、インボリュート歯形を形成する場合と比べてダイスと素材との干渉を回避し易くなる。その結果、ダイスの直径に対してダイスの歯数を増やすことができ、歯に作用する負担が軽減されてダイス寿命が延びることとなる。また、ダイス寿命が延びる結果、加工精度の高い内歯車を得ることができる。
【0025】
また、第2領域におけるトロコイド形状が、歯先側と歯底側とで凹凸の歯形が逆転しつつ連続した形状であり、特に、歯底側に設けた凹状部の第1平均半径が、歯先側に設けた凸状部の第2平均半径よりも大きく構成してある。よって、得られた内歯歯車の歯面のうち、噛み合いに供する歯面が歯先の側まで成形され、噛み合い率が高く歯飛びし難い内歯歯車を製造することができる。
【0026】
さらに、歯先領域の中央位置での曲率半径を、歯底領域の中央位置での曲率半径よりも小さく構成しある。つまり、ダイスの歯先は比較的尖った形状となるのに対して、ダイスの歯底は歯先に比べて平面に近い形となる。よって、ダイスの歯をワークに押し付ける際には、ダイスの歯先がワークに良好に押し込まれ、ダイスの歯先に生じる応力の増大が抑えられる。この結果、歯先が損傷し難くなり、寿命の長いダイスを得ることができる。
【0027】
本発明に係るダイスにおいては、前記歯底領域が有する歯丈方向に沿った寸法、および、前記歯先領域が有する歯丈方向に沿った寸法を、前記中間領域が有する歯丈方向に沿った寸法の5〜10%に構成することができる。
【0028】
本構成の如く、歯底領域および歯先領域の寸法を制限することで、製造した内歯歯車の歯丈の寸法の80〜90%を噛み合い領域とすることができ、噛み合い率の高い内歯歯車を得ることができる。
【0029】
本発明に係るダイスにおいては、前記歯先領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径を、前記歯底領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径よりも小さく構成することができる。
【0030】
本構成であれば、歯底領域の中央位置での面形状に対して歯先領域の中央位置での面形状がより尖ったものとなる。本構成のごとく、ダイスの歯先が尖った形状であれば、ワークを押し込む際にダイスの歯先がワークに突入し易くなる。よって、例えば転造初期の段階でダイスの歯先がワークに接触する際にダイスの歯の食い付きが良好となる。その結果、ワークの表面に予め歯溝を形成しておかなくても、当該ダイスの押しつけによって良好な歯の割り付けを行うことも可能となる。
【0031】
本発明に係るダイスにおいては、前記歯先領域のうち最も歯先の高い位置が前記歯先領域の中央位置に対して何れか一方に偏位した状態に構成することができる。
【0032】
ダイスをワークに押し付けるとき、ダイスの歯先で押しのけられたワークの母材は当該歯の前後方向に振り分けられて流動する。このとき、ダイスの一つの歯に生じる応力はダイスの回転方向に沿った前方側で大きくなる。つまり、この領域でワークを押し込む外力が大きくなる。この外力が大きくなる位置では、ワークの母材がダイスの歯の前方側に盛り上がる傾向が生じる。また、歯先がワークから受ける反力は、回転方向に沿って歯の前方側から後方側に作用するから、歯が回転方向の後方側に曲げ力を受けることとなる。このため、ダイスの歯が変形したり折れたりする恐れが生じる。
【0033】
その点、本構成では、歯先領域のうち最も歯先の高い位置を歯先の中央位置に対して何れか一方に偏位させてある。これにより、個々の歯における最も歯先の高い位置が先行するようにダイスを回転させることで、歯の前方側における応力の増大を防止することができる。その結果ワーク母材の過度な盛り上がりが解消され、適切な形状の歯形をワークに形成することができ、ダイスの損傷を防止してダイス寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】減速機構の内歯歯車を示す平面図
図2】内歯歯車の歯の形状を示す説明図
図3】内歯歯車を転造する様子を示す平面図
図4】ダイスの歯の形状を示す説明図
図5】転造時のワークの母材の流れを示す説明図
図6】別実施形態に係るダイスの歯の形状を示す説明図
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明に係る実施形態を以下、図1乃至図6を用いて説明する。
このような内歯歯車およびダイスは、例えばハイポサイクロイド減速機構や、遊星歯車機構あるいは波動歯車機構などに用いられる。例えば、図1には、ハイポサイクロイド減速機構を構成する内歯歯車と外歯歯車とを示す。
【0036】
ハイポサイクロイド減速機構の場合、例えば、外歯歯車2の歯数は内歯歯車1の歯数よりも一歯少なく構成される。両歯車は、周方向の一箇所で互いに噛み合い、その反対の位置では互いに非係合となる。外歯歯車2の内部には、円形であって軸芯X2を有する回転板S1が相対回転できる状態に挿入してある。回転板S1には、図外の入力軸から回転駆動力が入力され、内歯歯車1の軸芯X1の周りに回転する。因みに、波動歯車機構の場合には、外歯歯車の歯数は内歯歯車の歯数よりも例えば二歯少なく構成してある。その場合、外歯歯車と内歯歯車との噛み合い位置は内歯歯車の回転中心を対称にして二箇所となる。
【0037】
内歯歯車1が図外の減速装置本体に固定されており、軸芯X1に対して偏心した回転板S1が例えば時計方向に回転するとき、外歯歯車2は内歯歯車1との接触位置を時計方向に変更しながら軸芯X1の周りに公転する。外歯歯車2が一周公転したとき、両歯車の歯数の差によって、外歯歯車2は内歯歯車1に対して反時計方向に一歯分だけ自転する。このようにして回転板S1の回転が大きく減速される。
【0038】
図1からも明らかなように、内歯歯車1は一般に歯車の外径に対して非常に多い歯数を有する。また、外歯歯車との係合位置が全周方向に沿った一部であり、歯(モジュール)が小さいため応力が集中し易くなり、歯の強度が低下する傾向にある。よって、この様な内歯歯車は、歯の強度が高く、外歯歯車との歯飛びが少ないことが求められる。さらに、そのような性能を有する内歯歯車が効率的に製造できることも重要である。
【0039】
〔内歯歯車〕
図2には、本実施形態に係る内歯歯車1を回転軸芯の延出方向に沿って見たときの歯の形状の一例を示す。
当該歯は、歯丈方向に沿って先端側から歯先領域A3と中間領域A2と歯底領域A1とを有する。
特に、中間領域A2は、歯先領域A3および歯底領域A1の間に連続して形成されており、表面が隣接する歯の表面に向けて接近するように膨らんだ凸状部100と、隣接する歯の表面から離れるように窪んだ凹状部101とを有する。これら凸状部100と凹状部101とはトロコイド曲線で形成されている。
【0040】
トロコイド歯形は例えば、流体ポンプのロータの歯形として良く用いられる。それは、ギヤどうしの空間により多くの流体を保持できる利点を有するからであるが、その他にもギヤどうしの噛み合い率が高いことにも起因する。例えばハイポサイクロイド減速機構では円周方向の一部でしか歯が噛み合わないため、確実に回転力を伝達するには、歯の噛み合い率が大きい方が好ましい。トロコイド歯形は、歯車どうしが適切に噛み合うには、歯車どうしの軸間距離を正確に設定する必要があるものの、噛み合い率が高いという点で内歯歯車に好適である。
【0041】
また、トロコイド歯形であれば、互いに当接する歯面どうしのすべり率が歯の噛み合い位置に拘らず一定であるから駆動伝達が滑らかになる。さらに、インボリュート歯車のように凸面どうしの噛み合いではなく、凹面と凸面とが噛み合う場合には両者の間に略平行な空間が生まれて、潤滑油膜の形成も容易となる。
【0042】
中間領域A2のうち、凸状部100と凹状部101とはトロコイド形状の歯形を形成するが、夫々の曲率半径が異ならせてある。凸状部100と凹状部101との境界位置P1に対して、この境界位置P1から歯底領域A1との境界位置P2に至る領域の平均の曲率半径を第1平均半径R1とし、境界位置P1から歯先領域A3との境界位置P3に至る領域の平均の曲率半径を第2平均半径R2とすると、本実施形態では、第1平均半径R1が第2平均半径R2よりも小さくなるように構成してある。
【0043】
図2から明らかなように、第2平均半径R2を大きくすることで、できるだけ歯先の先端部近傍まで圧力角の小さい状態を形成することができる。その結果、歯車どうしの噛み合い率を大きくすると共に、噛み合う歯どうしの噛み合い圧力角が小さくなって、歯飛びし難い内歯車を得ることができる。
尚、ここでの噛み合い圧力角とは、一般の機械要素で定義されたものと同義であり、互いに噛み合う二つの歯車の基礎円の共通接線と、二つの歯車の中心どうしを結ぶ直線とのなす角の余角をいう。
【0044】
さらに、歯先領域A3においては、歯厚方向の中央位置P5における曲率半径R5が最大となる。本構成であれば、歯先部分の形状が、中央で窄んだような形状ではなく、左右に肩を張ったような形状になる。この結果、歯先領域の体積を大きく確保でき、相手歯車との噛み合いに際して歯先部分に作用する応力を小さく抑えることができる。よって、歯が損傷する可能性が低くなり、内歯歯車1の耐久性を向上させることができる。
【0045】
本実施形態の歯車は、中間領域A2のうち境界位置P1において圧力角がゼロになる。本構成であれば、境界位置P1における歯面の延出方向が内歯歯車1の径方向に沿うものとなり、所謂歯面の立った形状となる。つまり、互いの歯が接触するとき、当該接触位置において互いに力が作用する方向、即ち、歯面の法線方向と、両歯車の軸芯どうしを結んだ方向とのなす角度がより直角に近いものとなる。この結果、歯面どうしに大きな力が作用した場合でも、双方の歯車どうしが離間するような分力が生じ難い。よって、より歯飛びの生じ難い内歯歯車1を得ることができる。
【0046】
歯底領域A1が有する歯丈方向に沿った寸法H1、および、歯先領域A3が有する歯丈方向に沿った寸法H3についてみれば、これらの寸法H1,H3は、前記中間領域A2が有する歯丈方向に沿った寸法H2の5〜10%に構成してある。
【0047】
本構成であれば、歯丈方向の寸法のうちトロコイド歯形を形成した中間領域A2の寸法が80〜90%を占めることとなる。つまり、噛み合いに有効な領域を広く確保することができる。また、中間領域A2の寸法比率を高める結果、必然的に歯先領域A3のトップランドおよび歯底領域A1のボトムランドの形状が平坦なものとなり、歯先及び歯底が窄んだものと比較してより矩形状の歯形となるから、特に歯先の強度が高まり、耐久性のある内歯歯車1を得ることができる。
【0048】
このように、歯先領域A3の形状が矩形状に近く形成されるものの、歯先領域A3の個々の位置では、所定の曲率半径を設けてある。本実施形態では、図2に示すように、中央位置P5から中間領域A2との境界位置P3に近付くほど曲率半径が小さくなるように構成してある。
【0049】
本構成であれば、歯先領域A3の形状が矩形状に近いものとなる。よって、歯先領域A3のうち中間領域A2に移行する部位の歯のボリュームを確保することができ、この部分の強度が高まる。その結果、歯の損傷が生じ難く、また、歯の強度向上に伴って歯の剛性も高まるから、より歯飛びの少ない内歯歯車1を得ることができる。
【0050】
また、歯先領域A3のうち歯厚方向の中央位置P5における曲率半径R5は、歯底領域A1のうち歯厚方向の中央位置P4における曲率半径R4よりも大きく構成してある。このように歯底領域A1の曲率半径を中央位置P4においても小さくすることで、歯底領域A1の中央位置P5から中間領域A2に至る歯底面の形状を、歯先領域A3のような略矩形状ではなく、より円形に近い形状とすることができる。この結果、歯車どうしの噛み合いに際し内歯に作用する力に起因して歯に曲げ力が作用する場合に、歯底周辺に生じる応力集中を低減することができ、歯が損傷し難い内歯歯車1を得ることができる。
【0051】
このように、本実施形態の内歯歯車1であれば、トロコイド形状を有する歯形であって噛み合い率の大きな歯を得ることができる。また、噛み合い領域となる歯面が歯先の近傍まで形成されていて、圧力角の小さな歯面が形成されているから、所謂噛み合い圧力角も小さな歯車となる。よって、歯飛びし難い歯車となる。さらに、歯先の形状が略矩形形状となるため、歯先領域A3の歯の体積が大きくなり、強度・剛性の高い内歯歯車を得ることができる。
【0052】
〔転造用のダイス〕
図3は、上記内歯歯車1を転造する様子を示している。
この手法は従来の内歯歯車の転造方法と同じである。転造に際しては、内歯歯車1となるワーク1aを保持型4の内部に取り付ける。このワーク1aに対して駆動装置を用いてダイス3を回転させつつ押し付ける。ワーク1aおよび保持型4は、ダイス3と噛み合うことにより、ダイス3の回転に従動する。
ただし、ワーク1aを駆動してもよく、ワーク1aおよび保持型4とダイス3とをそれぞれ歯車としたとき、ワーク1aとダイス3とが噛み合い回転するように同期回転させてもよい。
【0053】
図4には、ダイス3の歯の形状の一例を示す。
ダイス3の歯についても、内歯歯車1と同様に歯の領域を三つに分けて構成してある。
即ち、ダイス3の回転軸芯X3の延出方向視において、歯先領域a3と、歯底領域a1と、歯先領域a3および歯底領域a1の間に連続して形成される中間領域a2とを備えている。歯先領域a3は、図4において、p3点よりも歯先側の領域である。歯底領域a1は、p2点よりも歯底側の領域である。中間領域a2は、上記p2点からp3点に至る領域である。このうち中間領域a2は、表面が歯溝の側に膨らんだ凸状部100と歯溝に対して窪んだ凹状部101とがp1点で連続した状態で形成されている。よって、凸状部100はp1からp3に至る領域であり、凹状部101はp1からp2に至る領域である。
【0054】
中間領域a2のうち、境界位置p1からp2に至る領域の曲率半径の平均である第1平均半径r1と、境界位置p1から境界位置p3に至る領域の曲率半径の平均である第2平均半径r2とは、第1平均半径r1が第2平均半径r2よりも大きくなるように構成してある。
【0055】
本構成であれば、得られた内歯歯車1の歯面のうち、噛み合いに供するトロコイド形状の歯面が歯先の側まで成形される。よって、噛み合い率が高く歯飛びし難い内歯歯車1を製造することができる。
【0056】
また、ダイス3による転造初期には、歯底を安定的に形成することが重要である。そうでないと、ダイス3の歯先がワーク1aをこね回す結果、精度の良い歯形が得られないばかりか、ダイス3の歯先に過大な応力が作用してダイス3が破損することとなる。これを防止するには、ダイス3の歯先をある程度窄んだ形状に構成してワーク1aに対する押し付け開始時に歯先が食い付き易くするのが好ましい。
【0057】
そのため、ダイス3の歯先領域a3のうち歯厚方向の中央位置p4における曲率半径r4は、歯底領域a1のうち歯厚方向の中央位置p5における曲率半径r5よりも小さく構成してある。
【0058】
これにより、ダイス3の歯先領域a3の形状は比較的尖った形状となるのに対して、歯底領域a1の形状は歯先領域a3に比べて平面に近い形となる。このため、特にダイス3の歯をワーク1aに押し付ける際には、歯先に生じる応力の増大が抑えられ、歯先がワーク1aに良好に押し込まれる。この結果、歯先が損傷し難くなり、寿命の長いダイス3を得ることができる。
【0059】
また、この様なダイス3の押し込みを良好にし、ダイス3の歯先の損傷を低下するには、歯先領域a3のうち歯厚方向の中央位置p4における曲率半径r4を、歯底領域a1のうち歯厚方向の中央位置p5における曲率半径r5よりも小さく構成することもできる。
【0060】
本構成であれば、歯底領域a1の中央位置p5での面形状に対して歯先領域a3の中央位置p4での面形状がより尖ったものとなる。ダイス3の歯先が尖った形状であれば、ワーク1aを押し込む際にダイス3の歯先がワーク1aに突入し易くなる。よって、例えば転造初期の段階でダイス3の歯先がワーク1aに接触する際にダイス3の歯の食い付きが良好となり、ワーク1aの表面に予め歯溝を形成しておかなくても、当該ダイス3の押しつけによって良好な歯の割り付けを行うことも可能となる。
【0061】
上記内歯歯車1の形状として、歯底領域A1および歯先領域A3の歯丈方向の高さ寸法が中間領域A2の同寸法の5〜10%である旨を記載したが、それを実現するために、ダイス3の寸法もそのように構成してある。即ち、歯底領域a1が有する歯丈方向に沿った寸法h1、および、歯先領域a3が有する歯丈方向に沿った寸法h3が、中間領域a2が有する歯丈方向に沿った寸法h2の5〜10%に構成してある。
【0062】
本構成のごとくトロコイド形状の歯を有するダイス3であれば、転造時にワーク1aに形成する歯溝との干渉が生じ難いため、所定の直径のダイスに対して歯数を多く形成することができる。例えば、内歯歯車1の歯数が100である場合に、60程度の歯数を有するダイス3を用いて転造することができる。よって、転造時に一つの歯に作用する負担が軽減され、ダイス3の寿命を延ばすことができる。また、ダイス3の寿命が延びる結果、精度の良い歯形を有する内歯歯車1を効率的に製造することができる。
【0063】
尚、このようなダイス3の歯形は、研削加工あるいは研磨加工等によって形成することができる。図示は省略するが、例えば、歯の一方面における歯底の中央位置p5から歯先の中央位置p4に至る領域の断面形状を有する回転砥石と、当該歯の反対面における歯先の中央位置p4から歯底の中央位置p5に至る領域の断面形状を有する回転砥石とを準備する。これら二つの回転砥石を交互に用いて夫々の歯を研削加工する。尚、中央位置p4および中央位置p5における表面を滑らかに仕上げるためには、双方の回転砥石の研削領域が共に中央位置p4および中央位置p5でオーバーラップするように幅を僅かに広げておくとよい。
【0064】
〔別実施形態〕
ダイス3の形状がワーク1aに押し込み易いものであっても、ダイス3が回転しながらワーク1aに押し込まれるため、歯の前後において母材の流動状態は異なるものとなる。図5に示す如く、ダイス3の歯の前後面の形状が同じである場合、ダイス3の歯先で押しのけられたワーク1aの母材は、当該歯の前後方向に振り分けられて流動する。このとき、ダイス3の一つの歯に生じる応力はダイス3の回転方向に沿った前方側で大きくなる。つまり、この領域でワーク1aを押し込む外力が大きくなる。ワーク1aのこの位置では、母材がダイス3の歯の前方側に押されて盛上り部5が生じる。また、歯先がワーク1aから受ける反力は、回転方向に沿って歯の前方側から後方側に作用するから、歯が回転方向の後方側に曲げ力を受けることとなる。この曲げ力は、ダイス3の歯の変形や折損の原因となる。
【0065】
そこで、図6に示す如く、本別実施形態に係るダイス3では、歯先領域a3のうち最も歯先の高い最高位置p41が中央位置p4に対して何れか一方に偏位した状態に構成してある。図6では、最高位置p41を中央位置p4に対して右側に偏位させている。この場合、矢印で示すように、ダイス3の回転方向は反時計方向である。
尚、当該ダイス3によって歯溝を深く形成していく際にはダイス3の回転方向は一定とするが、ある程度ワーク1aに歯溝が形成された段階では、ダイス3を逆回転し、歯面を整える工程を入れることは任意である。
【0066】
本構成であれば、個々の歯における歯の最高位置p41が後行するようにダイス3を回転させることで、歯の前方側における応力の増大を防止することができる。その結果ワーク1aの母材の過度な盛り上がりも解消され、適切な形状の歯形をワーク1aに形成することができる。また、歯に作用する曲げ力が軽減され、歯が損傷する可能性も低下させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明の内歯歯車およびダイスは、機械要素の減速機構として用いられる例えばハイポサイクロイド減速機構や遊星歯車機構、あるいは波動歯車減速機構の他、内歯歯車を用いる機械要素に広く用いることができる。
【符号の説明】
【0068】
1 内歯歯車
X1 内歯歯車の回転軸芯
A1 内歯歯車の歯底領域
A2 内歯歯車の中間領域
A3 内歯歯車の歯先領域
P1 内歯歯車の中間領域の境界位置
R1 内歯歯車の第1平均半径
R2 内歯歯車の第2平均半径
R4 内歯歯車の歯底領域の中央位置における曲率半径
R5 内歯歯車の歯先領域の中央位置における曲率半径
H1 内歯歯車の歯底領域が有する歯丈方向に沿った寸法
H2 内歯歯車の中間領域が有する歯丈方向に沿った寸法
H3 内歯歯車の歯先領域が有する歯丈方向に沿った寸法
3 ダイス
X3 ダイスの回転軸芯
a1 ダイスの歯底領域
a2 ダイスの中間領域
a3 ダイスの歯先領域
p1 ダイスの中間領域の境界位置
r1 ダイスの第1平均半径
r2 ダイスの第2平均半径
r4 ダイスの歯先領域の中央位置における曲率半径
r5 ダイスの歯底領域の中央位置における曲率半径
h1 ダイスの歯底領域が有する歯丈方向に沿った寸法
h2 ダイスの中間領域が有する歯丈方向に沿った寸法
h3 ダイスの歯先領域が有する歯丈方向に沿った寸法
p41 ダイスの歯先領域のうち最も歯先の高い位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6