【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る内歯歯車の特徴構成は、歯車を構成する複数の歯を備え、各歯は、前記歯車の回転軸芯の延出方向視において、歯先領域と、歯底領域と、前記歯先領域および前記歯底領域の間に連続して形成されると共に、表面が隣接する歯の表面に向けて接近するように膨らんだ凸状部と、隣接する歯の表面から離れるように窪んだ凹状部とが連続したトロコイド曲線で形成される中間領域とを備え、
前記中間領域のうち、前記凸状部と前記凹状部との境界位置に対して、当該境界位置から前記歯底領域との境界位置に至る領域の曲率半径の平均である第1平均半径と、前記凸状部と前記凹状部との境界位置から前記歯先領域との境界位置に至る領域の曲率半径の平均である第2平均半径とを比較したとき、前記第1平均半径が前記第2平均半径よりも小さく、前記歯先領域においては、歯厚方向の中央位置における曲率半径が最大となるように構成してある点にある。
【0009】
本構成では、内歯歯車の歯が有する形状のうち、歯丈方向の中間領域である第2領域をトロコイド曲線の形状に構成してある。トロコイド形状を有する歯車どうしが噛み合う場合、歯車の伝達効率を高めるためには歯車どうしの軸間距離を正確に設定する必要がある。しかし、この設定が適切に行われるなら、歯車同士の噛み合い損失が小さくなり、且つ大きな噛み合い率を得ることができる。
【0010】
ここで、噛み合い損失とは、歯車どうしが噛み合ってトルク伝達するときに、互いに滑りが生じることなどによって生じるエネルギーロスのことをいう。また、噛み合い率とは、歯車同士が噛み合う場合に同時に何枚の歯が噛み合っているかを示す値をいう。
【0011】
さらに、トロコイド歯形であれば、歯面どうしのすべり率が歯の噛み合い位置でそれほど変化せず、歯先の面および歯底の面でそれぞれ一定となって、滑らかな駆動伝達が行える。しかも、インボリュート歯車のように凸面どうしの噛み合いではなく、凹面と凸面との噛み合いとなる場合が多く、潤滑油膜の形成も容易である。
【0012】
また、第2領域におけるトロコイド形状が、歯先側と歯底側とで凹凸の歯形が逆転しつつ連続した形状であり、特に、歯先側のトロコイド形状の平均半径が大きく、歯の先端側まで噛み合い領域を確保している。よって、噛み合い時の歯飛びが生じ難い内歯歯車を得ることができる。
【0013】
さらに、前記歯先領域においては、歯厚方向の中央位置における曲率半径が最大となるように構成してあるから、歯先部分の体積を大きく確保でき、相手歯車との噛み合いに際して刃先部分に作用する応力が小さくなる。よって、歯が損傷する可能性が低くなり、内歯歯車の耐久性を向上させることができる。
【0014】
本発明に係る内歯歯車においては、前記凸状部と前記凹状部との境界位置において圧力角がゼロとなるように構成することができる。
【0015】
ここでの圧力角は、回転軸芯の延出方向に沿って見たとき、内歯歯車の回転中心から歯の表面の個々の位置に直線を引いた場合に、当該表面の位置において当該表面の接線と前記直線とのなす角度をいう。よって圧力角ゼロとは、前記直線とその表面における接線とが重なることをいう。つまり、当該境界位置における歯面の延出方向が内歯歯車の径方向に沿うものとなり、所謂歯面が立った形状となる。この場合、互いの歯が接触するとき、当該接触位置において互いに力が作用する方向、即ち、歯面の法線方向と、両歯車の軸芯どうしを結んだ方向とのなす角度がより直角に近いものとなる。この結果、歯面どうしに大きな力が作用した場合でも、双方の歯車どうしが離間するような分力が生じ難い。よって、より歯飛びの少ない内歯歯車を得ることができる。
【0016】
本発明に係る内歯歯車においては、前記歯底領域が有する歯丈方向に沿った寸法、および、前記歯先領域が有する歯丈方向に沿った寸法を、前記中間領域が有する歯丈方向に沿った寸法の5〜10%に構成することができる。
【0017】
本構成であれば、歯丈方向の寸法のうちトロコイド歯形を形成した中間領域の寸法が80〜90%を占めることとなり、噛み合いに有効な領域を広く確保することができる。
また、中間領域の寸法比率を高める結果、必然的に歯先領域のトップランドおよび歯底領域のボトムランドの形状が平坦なものとなり、歯先及び歯底が窄んだものと比較してより矩形状の歯形となるから、特に歯先の強度が高まり、耐久性のある内歯歯車を得ることができる。
【0018】
本発明に係る内歯歯車では、前記歯先領域において、前記中央位置から前記中間領域との境界位置に近付くほど曲率半径が小さくなるように構成することができる。
【0019】
本構成のごとく、歯先の形状が中央位置で曲率半径が大きく、当該中央位置からその両側に離れるほど曲率半径を小さく構成することで、歯先領域の形状が矩形状に近いものとなる。よって、歯先領域のうち中間領域に移行する部位の歯のボリュームを確保することができ、この部分の強度が高まることとなる。その結果、歯の損傷が生じ難く、また、歯の強度向上に伴って歯の剛性も高まるから、より歯飛びの少ない内歯歯車を得ることができる。
【0020】
本発明に係る内歯歯車においては、前記歯先領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径を、前記歯底領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径よりも大きく構成しておくことができる。
【0021】
本構成の如く、歯先領域に係る曲率半径を、歯底領域に係る曲率半径よりも大きく構成することで、歯底領域の中央位置から中間領域に至る歯底面の形状を、歯先領域のような略矩形状ではなく、より円形に近い形状とすることができる。この結果、歯車どうしの噛み合いに際し内歯に作用する力に起因して歯に曲げ力が作用する場合に、歯底周辺に生じる応力集中を低減することができる。この結果、歯が損傷し難い内歯歯車を得ることができる。
【0022】
本発明に係る転造用のダイスの特徴構成は、ダイスを構成する複数の歯を備え、各歯は、前記ダイスの回転軸芯の延出方向視において、歯先領域と、歯底領域と、前記歯先領域および前記歯底領域の間に連続して形成されると共に、表面が隣接する歯の表面に向けて接近するように膨らんだ凸状部と、隣接する歯の表面から離れるように窪んだ凹状部とが連続したトロコイド曲線で形成される中間領域とを備え、
前記中間領域のうち、前記凸状部と前記凹状部との境界位置に対して、当該境界位置から前記歯底領域との境界位置に至る領域の曲率半径の平均である第1平均半径と、前記凸状部と前記凹状部との境界位置から前記歯先領域との境界位置に至る領域の曲率半径の平均である第2平均半径とを比較したとき、前記第1平均半径が前記第2平均半径よりも大きく、前記歯先領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径を、前記歯底領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径よりも小さく構成した点にある。
【0023】
本構成は、内歯歯車を転造する際に用いる工具としてのダイスに関するものである。転造の場合、工具であるダイスの形状と、製品である内歯歯車の形状とは、凹凸が逆になった裏返しの形状に近いものとなる。よって、本構成のダイスが奏する効果は、上記のごとく内歯歯車が奏する効果と類似のものとなる。
【0024】
本構成の如く、ダイスの歯が有する形状のうち、歯丈方向の中間領域である第2領域をトロコイド形状に構成することで、得られる内歯歯車にもトロコイド歯形を形成することができる。トロコイド歯形であれば、ワークを転造形成する際に、インボリュート歯形を形成する場合と比べてダイスと素材との干渉を回避し易くなる。その結果、ダイスの直径に対してダイスの歯数を増やすことができ、歯に作用する負担が軽減されてダイス寿命が延びることとなる。また、ダイス寿命が延びる結果、加工精度の高い内歯車を得ることができる。
【0025】
また、第2領域におけるトロコイド形状が、歯先側と歯底側とで凹凸の歯形が逆転しつつ連続した形状であり、特に、歯底側に設けた凹状部の第1平均半径が、歯先側に設けた凸状部の第2平均半径よりも大きく構成してある。よって、得られた内歯歯車の歯面のうち、噛み合いに供する歯面が歯先の側まで成形され、噛み合い率が高く歯飛びし難い内歯歯車を製造することができる。
【0026】
さらに、歯先領域の中央位置での曲率半径を、歯底領域の中央位置での曲率半径よりも小さく構成しある。つまり、ダイスの歯先は比較的尖った形状となるのに対して、ダイスの歯底は歯先に比べて平面に近い形となる。よって、ダイスの歯をワークに押し付ける際には、ダイスの歯先がワークに良好に押し込まれ、ダイスの歯先に生じる応力の増大が抑えられる。この結果、歯先が損傷し難くなり、寿命の長いダイスを得ることができる。
【0027】
本発明に係るダイスにおいては、前記歯底領域が有する歯丈方向に沿った寸法、および、前記歯先領域が有する歯丈方向に沿った寸法を、前記中間領域が有する歯丈方向に沿った寸法の5〜10%に構成することができる。
【0028】
本構成の如く、歯底領域および歯先領域の寸法を制限することで、製造した内歯歯車の歯丈の寸法の80〜90%を噛み合い領域とすることができ、噛み合い率の高い内歯歯車を得ることができる。
【0029】
本発明に係るダイスにおいては、前記歯先領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径を、前記歯底領域のうち歯厚方向の中央位置における曲率半径よりも小さく構成することができる。
【0030】
本構成であれば、歯底領域の中央位置での面形状に対して歯先領域の中央位置での面形状がより尖ったものとなる。本構成のごとく、ダイスの歯先が尖った形状であれば、ワークを押し込む際にダイスの歯先がワークに突入し易くなる。よって、例えば転造初期の段階でダイスの歯先がワークに接触する際にダイスの歯の食い付きが良好となる。その結果、ワークの表面に予め歯溝を形成しておかなくても、当該ダイスの押しつけによって良好な歯の割り付けを行うことも可能となる。
【0031】
本発明に係るダイスにおいては、前記歯先領域のうち最も歯先の高い位置が前記歯先領域の中央位置に対して何れか一方に偏位した状態に構成することができる。
【0032】
ダイスをワークに押し付けるとき、ダイスの歯先で押しのけられたワークの母材は当該歯の前後方向に振り分けられて流動する。このとき、ダイスの一つの歯に生じる応力はダイスの回転方向に沿った前方側で大きくなる。つまり、この領域でワークを押し込む外力が大きくなる。この外力が大きくなる位置では、ワークの母材がダイスの歯の前方側に盛り上がる傾向が生じる。また、歯先がワークから受ける反力は、回転方向に沿って歯の前方側から後方側に作用するから、歯が回転方向の後方側に曲げ力を受けることとなる。このため、ダイスの歯が変形したり折れたりする恐れが生じる。
【0033】
その点、本構成では、歯先領域のうち最も歯先の高い位置を歯先の中央位置に対して何れか一方に偏位させてある。これにより、個々の歯における最も歯先の高い位置が先行するようにダイスを回転させることで、歯の前方側における応力の増大を防止することができる。その結果ワーク母材の過度な盛り上がりが解消され、適切な形状の歯形をワークに形成することができ、ダイスの損傷を防止してダイス寿命を延ばすことができる。