特許第6443119号(P6443119)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443119
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】車両特性計測装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/007 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   G01M17/007 A
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-32218(P2015-32218)
(22)【出願日】2015年2月20日
(65)【公開番号】特開2015-172573(P2015-172573A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2017年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-30134(P2014-30134)
(32)【優先日】2014年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(72)【発明者】
【氏名】秋山 岳夫
(72)【発明者】
【氏名】野村 昌克
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利道
【審査官】 本村 眞也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−271025(JP,A)
【文献】 特開平02−184731(JP,A)
【文献】 特表平05−503152(JP,A)
【文献】 実開昭61−003441(JP,U)
【文献】 特開2009−210317(JP,A)
【文献】 米国特許第04798088(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00;17/007
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャシダイナモメータ上で被試験車両を拘束装置によって拘束しつつ車両試験を行う車両特性計測装置において、
前記被試験車両の前輪前側と後輪後側で、それぞれの左右輪の中間を結んだ直線上の位置であって、床面と被試験車両間に各々設置されたアクチュエータと、
前記被試験車両の前輪側、後輪側における路面と被試験車両の車軸間の垂直力を測定する垂直力測定手段によって、予め行った走行試験において取得された信号であり、試験走行パターンでの路上走行でモード運転を行った少なくとも走行時間に対する、路面と被試験車両の車軸間に加わる垂直荷重信号を記憶する記憶部を設け、
前記記憶部に記憶された試験走行パターンに同期した垂直荷重信号を読み込み、ダイナモメータの車速指令に同期した信号を生成して前記各アクチュエータの制御指令として出力する垂直指令発生部と、
前記垂直指令発生部が出力する制御指令と前記垂直力測定手段により測定された測定垂直力との差分が0となるように制御指令を演算する前輪位置制御部及び後輪位置制御部と、
前記前輪位置制御部及び後輪位置制御部により演算された制御指令に対して非干渉化演算を行って、前記各アクチュエータの制御指令を生成する非干渉化演算部とを有し、
前記非干渉化演算部により生成された制御指令に基づいて前記各アクチュエータを制御する制御手段を備えたことを特徴とした車両特性計測装置。
【請求項2】
前記垂直荷重信号は、被試験車両の、前輪側における左右輪の垂直力の合計信号および後輪側における左右輪の垂直力の合計信号を含んでいることを特徴とした請求項1に記載の車両特性計測装置。
【請求項3】
前記記憶部に記憶される垂直荷重信号は、試験走行パターンのソフトウェアを用いたコンピュータシミュレーションにより算出された、試験時間に対する前輪側、後輪側の垂直力と初期垂直力との第1の偏差垂直力の信号であり、
前記前輪位置制御部及び後輪位置制御部は、前記垂直力測定手段により測定された測定垂直力および初期垂直力の第2の偏差垂直力の信号と、前記垂直指令発生部が出力する前記第1の偏差垂直力を含む信号との差分が0となるように制御指令を演算することを特徴とした請求項1又は2に記載の車両特性計測装置。
【請求項4】
前記非干渉化演算部により生成される制御指令はアクチュエータの垂直方向の位置を制御する指令であり、
前記前輪位置制御部及び後輪位置制御部はアクチュエータの垂直方向の位置を制御する指令を演算し、
前記非干渉化演算部は、前記演算されたアクチュエータの垂直方向の位置を制御する指令に対して非干渉化演算を行って前記各アクチュエータの垂直方向の位置を制御する指令を生成し、
前記制御手段は、非干渉化演算部によって生成されたアクチュエータの垂直方向の位置を制御する指令に基づいて前記各アクチュエータの垂直方向の位置を制御することを特徴とした請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両特性計測装置。
【請求項5】
前記非干渉化演算部により生成される制御指令はアクチュエータの力指令であり、
前記前輪位置制御部及び後輪位置制御部はアクチュエータの力指令を演算し、
前記非干渉化演算部は、前記演算されたアクチュエータの力指令に対して非干渉化演算を行って前記各アクチュエータの力指令を生成し、
前記制御手段は、非干渉化演算部によって生成されたアクチュエータの力指令に基づいて前記各アクチュエータに対し力制御を行うことを特徴とした請求項1ないし3のいずれか1項に記載の車両特性計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両試験を行う車両特性計測装置に係わり、特に車両の性能試験において、タイヤに加わる垂直荷重を、加減速状態までを含めて走行状態と一致させるようにした車両特性計測装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図9はシャシダイナモメータを用いて車両試験を行う場合の概略構成図を示したもので、被試験機である車両1のタイヤをローラ2上に載置し、一般にはタイヤがローラ2上に載置された状態を維持するために車両1の前後をワイヤ3などの車両拘束装置によって拘束している。試験にあたっては、予め実路走行によって取得したデータをシャシダイナモメータ4に記憶させておく。このシャシダイナモメータ4のローラ2を介して、車両1に対して路上走行を模擬した状態の制御を行い、そのときの車両性能の計測が行われる。
【0003】
したがって、車両1の状態を実路走行時と同じ状態に模擬しながら試験を行うことが、試験精度の向上には重要となる。しかし、図9で示すように車両1はワイヤ3によって拘束されていることから、車両1のピッチングやローリングなどの姿勢変化を抑制してしまい、実路走行時と同じ状態での試験ができない。例えば、路上を走行する車両1では、加減速に応じて車両1の車体の前後方向が垂直方向の動きに変化する向きに重心点回りのモーメントが発生してピッチング運動が起こり、車両1のタイヤに加わる垂直荷重が変化する。
【0004】
このような姿勢変化を再現して制御するために、試験装置に車体姿勢制御装置を設けるものが特許文献1として公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−271025
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、サスペンションの制御のために、車両の前後左右に4個の拘束装置を取り付け、4個の拘束装置はそれぞれ車両の垂直方向と左右方向に伸縮可能に構成され、これらの伸縮量を姿勢制御装置によって制御するように構成したものである。このように、特許文献1は特殊な拘束装置を必要としているものである。
【0007】
本発明が目的とするところは、比較的簡単な構成によって、タイヤに加わる垂直荷重を加減速状態までを含めて走行状態と一致させることのできる車両特性計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の車両特性計測装置は、
シャシダイナモメータ上で被試験車両を拘束装置によって拘束しつつ車両試験を行う車両特性計測装置において、
前記被試験車両の前輪前側と後輪後側で、それぞれの左右輪の中間を結んだ直線上の位置であって、床面と被試験車両間に各々設置されたアクチュエータと、
前記被試験車両の前輪側、後輪側における路面と被試験車両の車軸間の垂直力を測定する垂直力測定手段によって、予め行った走行試験において取得された信号であり、試験走行パターンでの路上走行でモード運転を行った少なくとも走行時間に対する、路面と被試験車両の車軸間に加わる垂直荷重信号を記憶する記憶部を設け、
前記記憶部に記憶された試験走行パターンに同期した垂直荷重信号を読み込み、ダイナモメータの車速指令に同期した信号を生成して前記各アクチュエータの制御指令として出力する垂直指令発生部と、
前記垂直指令発生部が出力する制御指令と前記垂直力測定手段により測定された測定垂直力との差分が0となるように制御指令を演算する前輪位置制御部及び後輪位置制御部と、
前記前輪位置制御部及び後輪位置制御部により演算された制御指令に対して非干渉化演算を行って、前記各アクチュエータの制御指令を生成する非干渉化演算部とを有し、
前記非干渉化演算部により生成された制御指令に基づいて前記各アクチュエータを制御する制御手段を備えたことを特徴としている。
【0009】
本発明の請求項2に記載の車両特性計測装置は、請求項1において、前記垂直荷重信号は、被試験車両の、前輪側における左右輪の垂直力の合計信号および後輪側における左右輪の垂直力の合計信号を含んでいることを特徴としている。
【0010】
本発明の請求項3に記載の車両特性計測装置は、請求項1又は2において、前記記憶部に記憶される垂直荷重信号は、試験走行パターンのソフトウェアを用いたコンピュータシミュレーションにより算出された、試験時間に対する前輪側、後輪側の垂直力と初期垂直力との第1の偏差垂直力の信号であり、
前記前輪位置制御部及び後輪位置制御部は、前記垂直力測定手段により測定された測定垂直力および初期垂直力の第2の偏差垂直力の信号と、前記垂直指令発生部が出力する前記第1の偏差垂直力を含む信号との差分が0となるように制御指令を演算することを特徴としている。
【0011】
本発明の請求項4に記載の車両特性計測装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記非干渉化演算部により生成される制御指令はアクチュエータの垂直方向の位置を制御する指令であり、
前記前輪位置制御部及び後輪位置制御部はアクチュエータの垂直方向の位置を制御する指令を演算し、
前記非干渉化演算部は、前記演算されたアクチュエータの垂直方向の位置を制御する指令に対して非干渉化演算を行って前記各アクチュエータの垂直方向の位置を制御する指令を生成し、
前記制御手段は、非干渉化演算部によって生成されたアクチュエータの垂直方向の位置を制御する指令に基づいて前記各アクチュエータの垂直方向の位置を制御することを特徴としている。
【0012】
本発明の請求項5に記載の車両特性計測装置は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記非干渉化演算部により生成される制御指令はアクチュエータの力指令であり、
前記前輪位置制御部及び後輪位置制御部はアクチュエータの力指令を演算し、
前記非干渉化演算部は、前記演算されたアクチュエータの力指令に対して非干渉化演算を行って前記各アクチュエータの力指令を生成し、
前記制御手段は、非干渉化演算部によって生成されたアクチュエータの力指令に基づいて前記各アクチュエータに対し力制御を行うことを特徴としている。
【発明の効果】
【0019】
以上のとおり、請求項1〜5に記載の発明によれば、比較的簡単な構成によって、タイヤに加わる垂直荷重を加減速状態までを含めて走行状態と一致させることのできる車両特性計測装置を提供することができる。また、コンピュータシミュレーションを行った時のデータを用いてシャシダイナモメータ上での再現運転が可能となる。
また、加減速時に発生するピッチングを含めて走行状態との一致が可能となってモード運転による燃費、排ガス試験の精度が向上する。また、その制御も単純なPI制御によって可能となるものである。
また、非干渉化演算部の非干渉化演算によって制御指令を補正することで、アクチュエータを、前輪、後輪のそれぞれ左右輪の中間を結んだ直線上の任意位置での設置を可能とし、車両特性計測装置の簡略化が図れるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態を示す車両特性計測装置の構成図。
図2】本発明の車両特性計測装置の位置制御部の構成図。
図3】導入式の説明図。
図4】本発明の他(実施例2)の位置制御部の構成図。
図5】本発明の他(実施例3)の位置制御部の構成図。
図6】本発明の他(実施例4)の位置制御部の構成図。
図7】本発明の他(実施例5)の車両特性計測装置の構成図。
図8】本発明の他(実施例5)の位置制御部の構成図。
図9】従来の車両特性計測装置の構成図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
従来の車両特性計測装置では、単にダイナモメータ制御装置からの制御信号に基づいて路上走行シミュレーションによる試験が行われる。本発明の車両特性計測装置は、予め試験走行パターンでの路上走行時に測定された垂直方向の力若しくは垂直方向の位置の測定データか、又はコンピュータシミュレーションから得られる垂直方向の力若しくは垂直方向の位置のデータを用いて、シャシダイナモメータ上で再現運転を行う。
【0022】
本発明の車両特性計測装置では、車両の前輪前側と後輪後側との前後側で、それぞれの左右輪の中間を結んだ直線上の位置の床面と被試験車両間に、各々アクチュエータを設置している。そして、アクチュエータに対する位置制御、若しくは力制御をする制御手段と、予め試験走行パターンでの路上走行で、モード運転を行った少なくとも走行時間に対する路面と車軸間の垂直方向の変化信号を記憶する記憶部を設けている。
【0023】
この記憶部は、前記走行時間に代えて、モード運転を行った速度又は距離に対する路面と車軸間の垂直方向の変化信号を記憶するものであってもよい。
【0024】
制御手段には垂直指令発生部を設け、垂直指令発生部は、記憶部に記憶されている試験走行パターンに同期した垂直方向の変化信号を読み込み、ダイナモメータの車速指令に同期した信号を生成して各アクチュエータの位置指令として出力する。以下図に基づいて詳述する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の第1の実施例を示す構成図を示したもので、図9と同一部分に同一符号を付してその説明を省略する。5(5F,5R)はアクチュエータであり、被試験車両1の前輪前側(車体前部)と後輪後側(車体後部)で、且つ前輪,後輪のそれぞれ左右輪の略中間を結んだ直線上の任意の設置位置において、試験装置の床面Fと車両1間に配設される。前輪前側のアクチュエータ5Fおよび後輪後側のアクチュエータ5Rに対する各々の垂直方向の位置は、制御手段としての制御部10からの出力によって制御される。
【0026】
6は記憶部であり、実路走行時に計測された例えば走行時間(又は速度又は距離)に対する路面と車軸間の垂直力(垂直荷重)Fzとして、予め走行時間における時刻毎の車速に対応した垂直力として記憶されている。
【0027】
7はダイナモメータ制御装置であり、8は垂直力測定手段の一例としての計測器で、モード運転を行う路上走行時の、例えば走行時間(又は速度又は距離)に対する路面と車軸間の垂直方向の変化信号に基づいて測定垂直力を検出するものである。また、垂直力測定手段の他の例としては、前記アクチュエータ5から検出された検出信号に基づいて測定垂直力を求めるようにしても良い。
【0028】
図2は、垂直方向の変化信号として垂直荷重を例にした制御部10の構成図を示したものである。11は垂直指令発生部で、図示省略されている車速指令発生器に同期した時間信号で、記憶部6に記憶されている車速に対応した前輪側の垂直力FrzFと後輪側の垂直力FrzRを読み出してそれぞれの指令値として発生し、減算部12,13に出力する。
【0029】
なお、ここで言う前輪側の垂直力FrzF、後輪側の垂直力FrzRとは、前輪、後輪のそれぞれの左右輪の合計した垂直力で、路上走行時に取得した車速に対応したデータである。
【0030】
減算部12では、前輪側の指令値FrzFと前輪側の計測器8又はアクチュエータ5Fで測定した力信号FzFの合計値との差分を求めて前輪位置制御部14に出力し、この前輪位置制御部14で両者の差が0となるような演算を行って制御信号uFを出力する。減算部13では後輪側の指令値FrzRと後輪側の計測器8又はアクチュエータ5Rで測定した力信号FzRの合計値との差分を求めて後輪位置制御部15に出力し、この後輪位置制御部15で両者の差が0となるような演算を行って制御信号uRを出力する。
【0031】
16は非干渉化演算部であり、前輪側の左右輪の中心位置と配設されるアクチュエータ5Fとの距離LF、および後輪側の左右輪の中心位置と配設されるアクチュエータ5Rとの距離LRが、各々車軸間長Hと比較して無視できない長さの場合、前輪位置制御部14および後輪位置制御部15による制御において干渉問題が発生する虞がある。
非干渉化演算部16はこれを防止するための演算を行い、アクチュエータ5F,5Rに対する位置指令XrF,XrRを出力してアクチュエータ5F,5Rに対して位置制御を行う。
【0032】
以上のように構成された車両特性計測装置においてその動作を説明する。
被試験車両1は、ダイナモメータ制御装置7からの制御信号に基づいて路上走行シミュレーションによる試験が行われるが、その際、予め試験走行パターンでの路上走行時に測定された垂直力の測定データから前輪側、及び後輪側の垂直力Fzの合計値を算出し、走行時間における時刻毎の車速に対応した垂直力Fzを記憶部6に記憶しておく。
【0033】
シャシダイナモメータ上で試験を行うとき、垂直指令発生部11は試験走行パターンに同期して記憶されている前輪側および後輪側の垂直力Fz(FrzF,FrzR)を読み込み、計測器8又はアクチュエータ5で測定した力信号FzF,FzRとの差分が0となるよう前輪位置制御部14、後輪位置制御部15によって演算する。この演算出力はアクチュエータ5F,5Rの可動部を垂直方向に位置制御し、試験走行パターンに合致した垂直力Fzとなる。
【0034】
ここで、図1で示す寸法関係を参照して、車両における垂直方向の前輪、後輪とサスペンションの合成した剛性をKF,KR、停止状態でアクチュエータ5F、5Rから車両に力を加えていないときのアクチュエータ5F,5Rの垂直方向の位置(床面と車両までの高さ)をXF0,XR0、垂直力Fz(FzF,FzR)の初期値(車重相当+拘束装置によって発生する力)をFzF0,FzR0とし、試験時の床面から車軸までの高さをxF,xRとすると、(1)式の関係から(2)式となる。
【0035】
なお、(2)式は図1で示す距離関係から(3)式及び図3のように導きだされる。ただし、図3は前輪の計算のみを示しており後輪も同様にして計算される。前輪側のアクチュエータ5Fの位置は、後輪の中心を支点として回転した状態から算出できる。
ここで、XF、XRはアクチュエータ5F、5Rが設置されている設置位置の床面から車軸までの高さ。
【0036】
【数1】
【0037】
【数2】
【0038】
【数3】
【0039】
また、(4)式となることから、アクチュエータ5F,5Rの設置点と車両前後の車軸中心点までの距離LF,LRが、車軸間長Hと比較して無視できない大きさとなった場合、アクチュエータ5F,5Rに対する前輪位置制御部14、後輪位置制御部15において干渉問題が生じる可能性がある。なお、(2)〜(4)式におけるXF0,XR0及びFzF0,FzR0は試験開始時に予め測定する。
【0040】
【数4】
【0041】
干渉発生を防止するために非干渉化演算部16を設け、この非干渉化演算部16において前輪位置制御部14の出力uFと後輪位置制御部15の出力uRに対して(5)式の非干渉化演算を行い、アクチュエータ5F,5Rに対する位置指令XrF,XrRを生成する。
【0042】
【数5】
【0043】
(5)式に基づく位置指令XrF,XrRによって、アクチュエータ5F,5Rの位置が位置指令と等しいとすると(6)式となり、例えば計測器8によって測定した力信号FzF,FzRを独立に制御することが可能となる。この制御は単純なPI制御によって可能となる。
【0044】
【数6】
【0045】
なお、距離LF,LRが車軸間長Hと比較して小さく、無視できる範囲内の場合には非干渉化演算は不要となり、その際は前輪位置制御部14、後輪位置制御部15の出力uF,uRが位置制御指令となってアクチュエータ5F,5Rを制御し、非干渉化演算部16は不要となる。
【0046】
以上のように、この実施例によれば次のような効果を有するものである。
(1)試験装置において、路上走行時の走行パターンに倣って車両をアクチュエータを介して垂直方向に制御することにより、加減速状態までを含めて走行状態との一致が可能となってモード運転による燃費、排ガス試験の精度が向上する。また、その制御も単純なPI制御によって可能となるものである。
【0047】
(2)アクチュエータを用いて被試験車両に対して垂直方向に変動を加える場合、アクチュエータは前輪及び後輪車軸の中間位置に取付けることが望ましいが、実際にはこの位置での取り付けは困難な場合が多い。本実施例では、被試験車両の前後において、前輪、後輪のそれぞれ左右輪の中間を結んだ直線上の任意の設置位置にアクチュエータを設置してタイヤに加わる垂直荷重を制御するものである。これによって、本来、正確に捉えたいのはタイヤに加わる垂直荷重であるが、それに代えて車両の何れかの位置(アクチュエータの設置位置)にかかる力を測定し、非干渉化演算して補正することで、アクチュエータを前輪、後輪のそれぞれ左右輪の中間を結んだ直線上の任意の設置位置での設置を可能として試験装置の簡略化が図れるものである。
【0048】
(3)コンピュータシミュレーションを行った時のデータを用いてシャシダイナモメータ上での再現運転が可能となる。
【実施例2】
【0049】
図4は第2の実施例を示したもので、図2と同一部分、若しくは相当する部分に同一符合を付してその説明を省略する。この実施例では、記憶部6aには、予めモード運転などの試験走行でのソフトウェアを用いたシミュレーションにより前輪左右及び後輪左右の各々合計した垂直力Fzを算出し、試験時間中に計測された各々の垂直力Fzと前輪、後輪の初期値FzF0,FzR0(車重相当+拘束装置によって発生する下向きの力)との偏差垂直値△Fz(△FrzF,△FrzR)が記憶される。
【0050】
シャシダイナモメータ上で走行試験を実施するとき、垂直指令発生部11はモード運転の速度指令に同期して、記憶部6aから前輪及び後輪の偏差垂直値△FrzF,△FrzRを読み込み、減算部12a,13aに出力する。12b,13bは減算部で、各減算部12b,13bは、例えば計測器8によって測定された垂直力FzF,FzRと予め記憶部6aに格納された初期値FzF0,FzR0との差分を算出し、その差分の垂直力△FzF,△FzRを各別に減算部12a,13aに入力して偏差垂直値△FrzF,△FrzRとの差分を算出し、前輪位置制御部14と後輪位置制御部15にそれぞれ出力する。
【0051】
前輪位置制御部14と後輪位置制御部15は、入力された差分が0となるような演算を行って制御信号uF,uRを算出する。非干渉化演算部16は(5)式の演算を行って位置指令XrF,XrRを出力してアクチュエータ5F,5Rに対して位置制御を行う。
【0052】
以上のように、この実施例は記憶部6aに記憶された偏差垂直値△Fz(△FrzF,△FrzR)を基準(指令値)とし、検出された△FzF,△FzRをこの指令値と一致するように位置指令を生成するものである。したがって、この実施例によれば、実施例1と比較して精度の点では落ちる可能性はあるが、初期状態で記憶された垂直荷重と実際の車両の垂直荷重に差がある場合、アクチュエータ5F,5Rが常時力を発生することがないので、アクチュエータ5F,5Rに加わる負荷が軽くなる効果が生じる。
【実施例3】
【0053】
図5は第3の実施例を示した制御部10の構成図を示したものである。
実施例1,2では、アクチュエータの可動部の長さを変化させることで垂直力Fzを制御しているが、この実施例ではアクチュエータの長さは発生する力により長さが変化することを利用して、アクチュエータの力を直接制御するものである。そのため、図2と異なる部分は、アクチュエータ5F,5Rに対する制御を力FF,FRとしたことである。
【0054】
記憶部6には、路上走行シミュレーションにより、試験を行う走行パターンでの前輪側および後輪側の垂直力Fzの合計を算出し、走行時間における時刻毎の車速に対応した垂直力Fz(FrzF,FrzR)が記憶されている。
また、これに伴って非干渉化演算部16における非干渉化演算を、垂直方向のアクチュエータ5F,5Rの力をFF,FRとし、垂直力Fzの前輪左右及び後輪左右それぞれの合計をFzF,FzRとしたとき、(7)式,(8)式となる。他は実施例1と同様である。
【0055】
【数7】
【0056】
【数8】
【0057】
非干渉化演算部16は、実施例1と同様に干渉問題を避けるために前輪位置制御部14の出力uFと後輪位置制御部15の出力uRに対して(9)式の非干渉化演算を行い、アクチュエータ5F,5Rに対する力指令FrF,FrRを生成する。
【0058】
【数9】
【0059】
(9)式に基づく力指令FrF,FrRの生成によって、アクチュエータ5F,5Rの力が指令と等しいとすると(10)式となり、例えば計測器8によって測定された力信号FzF,FzRを独立に制御することが可能となる。この制御は単純なPI制御によって可能となる。
【0060】
【数10】
【0061】
したがって、この実施例によれば、アクチュエータに対して力の制御を行うことでその制御が直接的となり、タイヤ+サスペンションの合成が不要となることから、非干渉演算が簡単となって制御装置が図2よりも簡単となる。他は実施例1と同様の効果を奏するものである。
【実施例4】
【0062】
図6は第4の実施例を示したもので、図4と同一部分、若しくは相当する部分に同一符合を付してその説明を省略する。この実施例では、記憶部6には、路上走行シミュレーションにより、試験走行パターンでの前輪側および後輪側のそれぞれ合計した垂直力Fzを算出し、計測時間毎の各々の垂直力Fzとその初期値FzF0,FzR0(車重相当+拘束装置によって発生する下向きの力)との各々の偏差垂直値△Fz(△FrzF,△FrzR)が記憶されている。
【0063】
シャシダイナモメータ上での試験時には、垂直指令発生部11は試験走行パターンに同期して記憶されている前輪用、後輪用の偏差垂直値△FrzF,△FrzRを読み込み減算部12a,13aに出力する。12b,13bは減算部であり、各減算部12b,13bは例えば計測器8によって測定された垂直力FzF,FzRと初期値FzF0,FzR0の差分を算出し、その差分の垂直力△FzF,△FzRを各別に減算部12a,13bに入力して前記偏差垂直値△FrzF,△FrzRとの差分を算出し、前輪位置制御部14と後輪位置制御部15にそれぞれ出力する。
【0064】
前輪位置制御部14と後輪位置制御部15は、入力された差分が0となるような演算を行って制御信号uF,uRを算出する。非干渉化演算部16は(9)式の演算を行って力指令FrF,FrRを出力してアクチュエータ5F,5Rに対し力制御を行う。
したがって、この実施例も実施例2と同様な効果を有するものである。
【実施例5】
【0065】
図7は第5の実施例を示したもので、図1と同一部分、若しくは相当する部分に同一符合を付してその説明を省略する。この実施例では、記憶部6に記憶される垂直方向の変化量信号は高さ信号となっている。この高さ信号は、試験時においてアクチュエータが取付けられる垂直方向の車両位置で、路面と車両までの高さ寸法を実路走行時において非接触測定器を用いて予め測定し、測定信号に基づいてアクチュエータ取付け高さを算出して記憶部6に記憶されている。
【0066】
シャシダイナモメータ上での試験時には、図8で示すように垂直指令発生部11は試験走行パターンに同期して記憶部6に記憶されている前輪用、後輪用の高さ信号XrF,XrRを読み込み、その高さ信号をアクチュエータ5F,5Rに対する位置指令として出力する。したがって、アクチュエータ5F,5Rは路上走行シミュレーションと一致してアクチュエータの垂直方向の動きを制御し、結果的に試験走行パターンに合致した垂直方向の位置(高さ)信号を発生する。
【0067】
この実施例によれば、実施例1〜4に比較して試験精度は劣るが、簡単な構成の試験装置により車両の垂直方向の変動が模擬でき、従来よりもモード運転による燃費、排ガス試験精度が向上するものである。
また、この実施例においても、コンピュータシミュレーションを行った時のデータを用いてシャシダイナモメータ上での再現運転が可能となるものである。
【符号の説明】
【0068】
1… 被試験車両
2… ローラ
3… 拘束装置
4… ダイナモメータ
5… アクチュエータ
6… 記憶部
7… ダイナモメータの制御装置
8… 計測器
10… 制御部
11… 垂直指令発生部
14… 前輪位置制御部
15… 後輪位置制御部
16… 非干渉化演算部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9