(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記記憶部に記憶される垂直荷重信号は、試験走行パターンのソフトウェアを用いたコンピュータシミュレーションにより算出された、試験時間に対する前輪側、後輪側の垂直力と初期垂直力との第1の偏差垂直力の信号であり、
前記前輪位置制御部及び後輪位置制御部は、前記垂直力測定手段により測定された測定垂直力および初期垂直力の第2の偏差垂直力の信号と、前記垂直指令発生部が出力する前記第1の偏差垂直力を含む信号との差分が0となるように制御指令を演算することを特徴とした請求項1又は2に記載の車両特性計測装置。
【発明を実施するための形態】
【0021】
従来の車両特性計測装置では、単にダイナモメータ制御装置からの制御信号に基づいて路上走行シミュレーションによる試験が行われる。本発明の車両特性計測装置は、予め試験走行パターンでの路上走行時に測定された垂直方向の力若しくは垂直方向の位置の測定データか、又はコンピュータシミュレーションから得られる垂直方向の力若しくは垂直方向の位置のデータを用いて、シャシダイナモメータ上で再現運転を行う。
【0022】
本発明の車両特性計測装置では、車両の前輪前側と後輪後側との前後側で、それぞれの左右輪の中間を結んだ直線上の位置の床面と被試験車両間に、各々アクチュエータを設置している。そして、アクチュエータに対する位置制御、若しくは力制御をする制御手段と、予め試験走行パターンでの路上走行で、モード運転を行った少なくとも走行時間に対する路面と車軸間の垂直方向の変化信号を記憶する記憶部を設けている。
【0023】
この記憶部は、前記走行時間に代えて、モード運転を行った速度又は距離に対する路面と車軸間の垂直方向の変化信号を記憶するものであってもよい。
【0024】
制御手段には垂直指令発生部を設け、垂直指令発生部は、記憶部に記憶されている試験走行パターンに同期した垂直方向の変化信号を読み込み、ダイナモメータの車速指令に同期した信号を生成して各アクチュエータの位置指令として出力する。以下図に基づいて詳述する。
【実施例1】
【0025】
図1は、本発明の第1の実施例を示す構成図を示したもので、
図9と同一部分に同一符号を付してその説明を省略する。5(5F,5R)はアクチュエータであり、被試験車両1の前輪前側(車体前部)と後輪後側(車体後部)で、且つ前輪,後輪のそれぞれ左右輪の略中間を結んだ直線上の任意の設置位置において、試験装置の床面Fと車両1間に配設される。前輪前側のアクチュエータ5Fおよび後輪後側のアクチュエータ5Rに対する各々の垂直方向の位置は、制御手段としての制御部10からの出力によって制御される。
【0026】
6は記憶部であり、実路走行時に計測された例えば走行時間(又は速度又は距離)に対する路面と車軸間の垂直力(垂直荷重)Fzとして、予め走行時間における時刻毎の車速に対応した垂直力として記憶されている。
【0027】
7はダイナモメータ制御装置であり、8は垂直力測定手段の一例としての計測器で、モード運転を行う路上走行時の、例えば走行時間(又は速度又は距離)に対する路面と車軸間の垂直方向の変化信号に基づいて測定垂直力を検出するものである。また、垂直力測定手段の他の例としては、前記アクチュエータ5から検出された検出信号に基づいて測定垂直力を求めるようにしても良い。
【0028】
図2は、垂直方向の変化信号として垂直荷重を例にした制御部10の構成図を示したものである。11は垂直指令発生部で、図示省略されている車速指令発生器に同期した時間信号で、記憶部6に記憶されている車速に対応した前輪側の垂直力F
rz
Fと後輪側の垂直力F
rz
Rを読み出してそれぞれの指令値として発生し、減算部12,13に出力する。
【0029】
なお、ここで言う前輪側の垂直力F
rz
F、後輪側の垂直力F
rz
Rとは、前輪、後輪のそれぞれの左右輪の合計した垂直力で、路上走行時に取得した車速に対応したデータである。
【0030】
減算部12では、前輪側の指令値F
rz
Fと前輪側の計測器8又はアクチュエータ5Fで測定した力信号Fz
Fの合計値との差分を求めて前輪位置制御部14に出力し、この前輪位置制御部14で両者の差が0となるような演算を行って制御信号u
Fを出力する。減算部13では後輪側の指令値F
rz
Rと後輪側の計測器8又はアクチュエータ5Rで測定した力信号Fz
Rの合計値との差分を求めて後輪位置制御部15に出力し、この後輪位置制御部15で両者の差が0となるような演算を行って制御信号u
Rを出力する。
【0031】
16は非干渉化演算部であり、前輪側の左右輪の中心位置と配設されるアクチュエータ5Fとの距離L
F、および後輪側の左右輪の中心位置と配設されるアクチュエータ5Rとの距離L
Rが、各々車軸間長Hと比較して無視できない長さの場合、前輪位置制御部14および後輪位置制御部15による制御において干渉問題が発生する虞がある。
非干渉化演算部16はこれを防止するための演算を行い、アクチュエータ5F,5Rに対する位置指令X
rF,X
rRを出力してアクチュエータ5F,5Rに対して位置制御を行う。
【0032】
以上のように構成された車両特性計測装置においてその動作を説明する。
被試験車両1は、ダイナモメータ制御装置7からの制御信号に基づいて路上走行シミュレーションによる試験が行われるが、その際、予め試験走行パターンでの路上走行時に測定された垂直力の測定データから前輪側、及び後輪側の垂直力Fzの合計値を算出し、走行時間における時刻毎の車速に対応した垂直力Fzを記憶部6に記憶しておく。
【0033】
シャシダイナモメータ上で試験を行うとき、垂直指令発生部11は試験走行パターンに同期して記憶されている前輪側および後輪側の垂直力Fz(F
rz
F,F
rz
R)を読み込み、計測器8又はアクチュエータ5で測定した力信号Fz
F,Fz
Rとの差分が0となるよう前輪位置制御部14、後輪位置制御部15によって演算する。この演算出力はアクチュエータ5F,5Rの可動部を垂直方向に位置制御し、試験走行パターンに合致した垂直力Fzとなる。
【0034】
ここで、
図1で示す寸法関係を参照して、車両における垂直方向の前輪、後輪とサスペンションの合成した剛性をK
F,K
R、停止状態でアクチュエータ5F、5Rから車両に力を加えていないときのアクチュエータ5F,5Rの垂直方向の位置(床面と車両までの高さ)をX
F0,X
R0、垂直力Fz(Fz
F,Fz
R)の初期値(車重相当+拘束装置によって発生する力)をFz
F0,Fz
R0とし、試験時の床面から車軸までの高さをx
F,x
Rとすると、(1)式の関係から(2)式となる。
【0035】
なお、(2)式は
図1で示す距離関係から(3)式及び
図3のように導きだされる。ただし、
図3は前輪の計算のみを示しており後輪も同様にして計算される。前輪側のアクチュエータ5Fの位置は、後輪の中心を支点として回転した状態から算出できる。
ここで、X
F、X
Rはアクチュエータ5F、5Rが設置されている設置位置の床面から車軸までの高さ。
【0036】
【数1】
【0037】
【数2】
【0038】
【数3】
【0039】
また、(4)式となることから、アクチュエータ5F,5Rの設置点と車両前後の車軸中心点までの距離L
F,L
Rが、車軸間長Hと比較して無視できない大きさとなった場合、アクチュエータ5F,5Rに対する前輪位置制御部14、後輪位置制御部15において干渉問題が生じる可能性がある。なお、(2)〜(4)式におけるX
F0,X
R0及びFz
F0,Fz
R0は試験開始時に予め測定する。
【0040】
【数4】
【0041】
干渉発生を防止するために非干渉化演算部16を設け、この非干渉化演算部16において前輪位置制御部14の出力u
Fと後輪位置制御部15の出力u
Rに対して(5)式の非干渉化演算を行い、アクチュエータ5F,5Rに対する位置指令X
rF,X
rRを生成する。
【0042】
【数5】
【0043】
(5)式に基づく位置指令X
rF,X
rRによって、アクチュエータ5F,5Rの位置が位置指令と等しいとすると(6)式となり、例えば計測器8によって測定した力信号Fz
F,Fz
Rを独立に制御することが可能となる。この制御は単純なPI制御によって可能となる。
【0044】
【数6】
【0045】
なお、距離L
F,L
Rが車軸間長Hと比較して小さく、無視できる範囲内の場合には非干渉化演算は不要となり、その際は前輪位置制御部14、後輪位置制御部15の出力u
F,u
Rが位置制御指令となってアクチュエータ5F,5Rを制御し、非干渉化演算部16は不要となる。
【0046】
以上のように、この実施例によれば次のような効果を有するものである。
(1)試験装置において、路上走行時の走行パターンに倣って車両をアクチュエータを介して垂直方向に制御することにより、加減速状態までを含めて走行状態との一致が可能となってモード運転による燃費、排ガス試験の精度が向上する。また、その制御も単純なPI制御によって可能となるものである。
【0047】
(2)アクチュエータを用いて被試験車両に対して垂直方向に変動を加える場合、アクチュエータは前輪及び後輪車軸の中間位置に取付けることが望ましいが、実際にはこの位置での取り付けは困難な場合が多い。本実施例では、被試験車両の前後において、前輪、後輪のそれぞれ左右輪の中間を結んだ直線上の任意の設置位置にアクチュエータを設置してタイヤに加わる垂直荷重を制御するものである。これによって、本来、正確に捉えたいのはタイヤに加わる垂直荷重であるが、それに代えて車両の何れかの位置(アクチュエータの設置位置)にかかる力を測定し、非干渉化演算して補正することで、アクチュエータを前輪、後輪のそれぞれ左右輪の中間を結んだ直線上の任意の設置位置での設置を可能として試験装置の簡略化が図れるものである。
【0048】
(3)コンピュータシミュレーションを行った時のデータを用いてシャシダイナモメータ上での再現運転が可能となる。
【実施例2】
【0049】
図4は第2の実施例を示したもので、
図2と同一部分、若しくは相当する部分に同一符合を付してその説明を省略する。この実施例では、記憶部6aには、予めモード運転などの試験走行でのソフトウェアを用いたシミュレーションにより前輪左右及び後輪左右の各々合計した垂直力Fzを算出し、試験時間中に計測された各々の垂直力Fzと前輪、後輪の初期値Fz
F0,Fz
R0(車重相当+拘束装置によって発生する下向きの力)との偏差垂直値△Fz(△F
rz
F,△F
rz
R)が記憶される。
【0050】
シャシダイナモメータ上で走行試験を実施するとき、垂直指令発生部11はモード運転の速度指令に同期して、記憶部6aから前輪及び後輪の偏差垂直値△F
rz
F,△F
rz
Rを読み込み、減算部12a,13aに出力する。12b,13bは減算部で、各減算部12b,13bは、例えば計測器8によって測定された垂直力Fz
F,Fz
Rと予め記憶部6aに格納された初期値Fz
F0,Fz
R0との差分を算出し、その差分の垂直力△Fz
F,△Fz
Rを各別に減算部12a,13aに入力して偏差垂直値△F
rz
F,△F
rz
Rとの差分を算出し、前輪位置制御部14と後輪位置制御部15にそれぞれ出力する。
【0051】
前輪位置制御部14と後輪位置制御部15は、入力された差分が0となるような演算を行って制御信号u
F,u
Rを算出する。非干渉化演算部16は(5)式の演算を行って位置指令X
rF,X
rRを出力してアクチュエータ5F,5Rに対して位置制御を行う。
【0052】
以上のように、この実施例は記憶部6aに記憶された偏差垂直値△Fz(△F
rz
F,△F
rz
R)を基準(指令値)とし、検出された△Fz
F,△Fz
Rをこの指令値と一致するように位置指令を生成するものである。したがって、この実施例によれば、実施例1と比較して精度の点では落ちる可能性はあるが、初期状態で記憶された垂直荷重と実際の車両の垂直荷重に差がある場合、アクチュエータ5F,5Rが常時力を発生することがないので、アクチュエータ5F,5Rに加わる負荷が軽くなる効果が生じる。
【実施例3】
【0053】
図5は第3の実施例を示した制御部10の構成図を示したものである。
実施例1,2では、アクチュエータの可動部の長さを変化させることで垂直力Fzを制御しているが、この実施例ではアクチュエータの長さは発生する力により長さが変化することを利用して、アクチュエータの力を直接制御するものである。そのため、
図2と異なる部分は、アクチュエータ5F,5Rに対する制御を力F
F,F
Rとしたことである。
【0054】
記憶部6には、路上走行シミュレーションにより、試験を行う走行パターンでの前輪側および後輪側の垂直力Fzの合計を算出し、走行時間における時刻毎の車速に対応した垂直力Fz(F
rz
F,F
rz
R)が記憶されている。
また、これに伴って非干渉化演算部16における非干渉化演算を、垂直方向のアクチュエータ5F,5Rの力をF
F,F
Rとし、垂直力Fzの前輪左右及び後輪左右それぞれの合計をFz
F,Fz
Rとしたとき、(7)式,(8)式となる。他は実施例1と同様である。
【0055】
【数7】
【0056】
【数8】
【0057】
非干渉化演算部16は、実施例1と同様に干渉問題を避けるために前輪位置制御部14の出力u
Fと後輪位置制御部15の出力u
Rに対して(9)式の非干渉化演算を行い、アクチュエータ5F,5Rに対する力指令F
rF,F
rRを生成する。
【0058】
【数9】
【0059】
(9)式に基づく力指令F
rF,F
rRの生成によって、アクチュエータ5F,5Rの力が指令と等しいとすると(10)式となり、例えば計測器8によって測定された力信号Fz
F,Fz
Rを独立に制御することが可能となる。この制御は単純なPI制御によって可能となる。
【0060】
【数10】
【0061】
したがって、この実施例によれば、アクチュエータに対して力の制御を行うことでその制御が直接的となり、タイヤ+サスペンションの合成が不要となることから、非干渉演算が簡単となって制御装置が
図2よりも簡単となる。他は実施例1と同様の効果を奏するものである。
【実施例4】
【0062】
図6は第4の実施例を示したもので、
図4と同一部分、若しくは相当する部分に同一符合を付してその説明を省略する。この実施例では、記憶部6には、路上走行シミュレーションにより、試験走行パターンでの前輪側および後輪側のそれぞれ合計した垂直力Fzを算出し、計測時間毎の各々の垂直力Fzとその初期値Fz
F0,Fz
R0(車重相当+拘束装置によって発生する下向きの力)との各々の偏差垂直値△Fz(△F
rz
F,△F
rz
R)が記憶されている。
【0063】
シャシダイナモメータ上での試験時には、垂直指令発生部11は試験走行パターンに同期して記憶されている前輪用、後輪用の偏差垂直値△F
rz
F,△F
rz
Rを読み込み減算部12a,13aに出力する。12b,13bは減算部であり、各減算部12b,13bは例えば計測器8によって測定された垂直力Fz
F,Fz
Rと初期値Fz
F0,Fz
R0の差分を算出し、その差分の垂直力△Fz
F,△Fz
Rを各別に減算部12a,13bに入力して前記偏差垂直値△F
rz
F,△F
rz
Rとの差分を算出し、前輪位置制御部14と後輪位置制御部15にそれぞれ出力する。
【0064】
前輪位置制御部14と後輪位置制御部15は、入力された差分が0となるような演算を行って制御信号u
F,u
Rを算出する。非干渉化演算部16は(9)式の演算を行って力指令F
rF,F
rRを出力してアクチュエータ5F,5Rに対し力制御を行う。
したがって、この実施例も実施例2と同様な効果を有するものである。
【実施例5】
【0065】
図7は第5の実施例を示したもので、
図1と同一部分、若しくは相当する部分に同一符合を付してその説明を省略する。この実施例では、記憶部6に記憶される垂直方向の変化量信号は高さ信号となっている。この高さ信号は、試験時においてアクチュエータが取付けられる垂直方向の車両位置で、路面と車両までの高さ寸法を実路走行時において非接触測定器を用いて予め測定し、測定信号に基づいてアクチュエータ取付け高さを算出して記憶部6に記憶されている。
【0066】
シャシダイナモメータ上での試験時には、
図8で示すように垂直指令発生部11は試験走行パターンに同期して記憶部6に記憶されている前輪用、後輪用の高さ信号X
rF,X
rRを読み込み、その高さ信号をアクチュエータ5F,5Rに対する位置指令として出力する。したがって、アクチュエータ5F,5Rは路上走行シミュレーションと一致してアクチュエータの垂直方向の動きを制御し、結果的に試験走行パターンに合致した垂直方向の位置(高さ)信号を発生する。
【0067】
この実施例によれば、実施例1〜4に比較して試験精度は劣るが、簡単な構成の試験装置により車両の垂直方向の変動が模擬でき、従来よりもモード運転による燃費、排ガス試験精度が向上するものである。
また、この実施例においても、コンピュータシミュレーションを行った時のデータを用いてシャシダイナモメータ上での再現運転が可能となるものである。