(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
転炉等の精錬炉から取鍋への溶鋼の出鋼時にCaOを投入し、前記精錬炉から取鍋への溶鋼の出鋼完了後に取鍋内の溶鋼の上に存在するスラグの表面にFeSi合金粒を投入することを特徴とするFeSi合金粒を用いたスラグの改質方法。
前記FeSi合金粒の粒径が10mm以上、30mm以下のものが90質量%以上であり、C≦0.01質量%の極低炭素鋼を製造する場合に用いることを特徴とする請求項1に記載のFeSi合金粒を用いたスラグの改質方法。
前記FeSi合金粒の粒径が10mm以上、30mm以下のものが95質量%以上、10mm未満のものが5質量%以下、30mm超のものが1質量%以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のFeSi合金粒を用いたスラグの改質方法。
【背景技術】
【0002】
転炉においては、転炉に溶鉄を装入し、転炉精錬によって主に脱りん脱炭精錬を行う。精錬完了後に溶鋼を取鍋に出鋼し、その後、転炉炉内のスラグをスラグ鍋に排滓し、次の精錬のために溶銑を装入するという操業サイクルを繰り返している。
精錬後に転炉から出鋼した取鍋内の溶鋼表面にはスラグが浮遊しており、このスラグ中にはMnO、FeO、Fe
2O
3、等の比較的還元されやすい酸化物を含有している。これらの酸化物は溶鋼中のAlなどと反応し、Al
2O
3などの非金属介在物を生成し、溶鋼清浄性を悪化させ、製品欠陥の原因となるおそれがある。
【0003】
このため、スラグ中の酸素源となるFeOなどを極力還元し、スラグ中の酸素ポテンシャルを下げ、また、生成した非金属介在物を吸着し易いスラグ組成とする必要がある。スラグ中の酸素ポテンシャルが高いままだと後工程の連続鋳造工程まで非金属介在物の生成が継続し、鋼の清浄度をより悪化させる。
その対応として、スラグ中の酸素量を低減することと非金属介在物等を吸着し易いスラグ組成に改善することが重要で、従来、転炉から取鍋への出鋼中にCaO粉体を投入するとともに、出鋼完了後にスラグ表面に還元剤としてアルミニウム材を投入することがなされている。
【0004】
例えば、スラグの還元を十分に行い、溶鋼の再酸化を抑制し、また生成したAl
2O
3などの脱酸生成物を効率良く吸収することができる組成のスラグを得るための技術として、従来、生石灰に加えてホタル石を混合したフラックスをスラグに添加し、出鋼後さらに酸化性スラグを改質するためにアルミ灰などのスラグ還元剤を添加してスラグ組成を調整する技術が知られている(特許文献1参照)。
また、高品質の極低炭素鋼を製造する方法において、精錬炉内のスラグを改質するために、転炉より鋼の脱酸出鋼時にCaOとアルミニウム材を投入し、CaO−Al
2O
3系の低融点改質スラグを2kg/t・s以上存在させ、出鋼完了時に転炉スラグと改質スラグとの混合スラグを低融点とし、出鋼末期にAlとCaOを投入することにより出鋼完了後の酸素ポテンシャルを低減させる技術が知られている(特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、前述の出鋼中にCaO粉体を投入後、スラグ表面にアルミニウム材を投入した場合、アルミニウムの反応によって白煙が多量発生する問題があった。例えば、取鍋をクレーンで吊り上げる際、未反応のアルミニウムが振動によって反応し、急激な発煙を引き起こし、クレーン作業に支障をきたす恐れがあった。
その場合、取鍋を転炉の下に移動し、転炉の集塵機により白煙を吸引していた。しかし、その時間、転炉から炉内スラグを排出する排滓作業ができず、転炉のサイクルタイムが伸び、生産性を著しく低下させ、また、物流も乱していた。
このため、スラグ改質のための還元剤をスラグ表面に投入した場合であっても、発煙を生じさせることのない技術の登場が望まれていた。
【0007】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みなされたものであって、転炉などの精錬炉から取鍋に出鋼した溶鋼の上に存在するスラグの改質を行う場合に、発煙を生じさせることなくスラグの改質ができる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特徴は以下の通りである。
本発明では、まず出鋼中にCaOを投入し、出鋼完了後に取鍋内スラグにFeSi粒を投入する。
CaOを投入するのは、取鍋内スラグ中の酸素ポテンシャルを低減すると同時に、スラグを非金属介在物を吸着し易い組成に改善するためである。
CaOは単体では融点が高いので早期に溶解するように出鋼中から投入する。
次に出鋼完了後、取鍋内スラグの表面にFeSi合金粒を投入する。
【0009】
従来用いていたアルミニウム材の添加に代えてFeSi合金粒をスラグに投入することで、発煙することなくスラグの還元ができる。出鋼後の発煙が無いため、出鋼完了後、直ちに転炉炉下から取鍋を移動することができ、発煙によるロスタイムを生じないため、転炉の稼動サイクルを短縮することができる。また、白煙による炉下での待機時間のばらつきもなくなるため物流も安定する。
【0010】
以上を本発明の基本とするが、FeSi合金粒は、粒径が10mm以上、30mm以下のものを90質量%以上含むことが望ましい。
粒径10mm未満のFeSi合金粒が大量に含まれていると、FeSi合金粒の投入量のばらつきが大きくなるおそれがある。粒径の小さいFeSi合金粒は秤量機に切り出す際に流れ込みがあり、それが投入量のばらつき要因となっている。また、粒径の小さいFeSi合金はスラグの上で焼結して未溶解のまま溶け残るおそれもある。溶け残ったFeSi合金を有したまま二次精錬を行うと、未溶解のFeSi合金と溶鋼とが反応し、例えば、溶鋼中の必要な酸素までも低減してしまうおそれがある。
一方、30mmを超えるFeSi合金粒では、スラグ表面に投入すると、FeSi合金粒が溶鋼まで到達し、溶鋼中のSiが増加する結果となり、あるいは、C≦0.01%である極低炭素鋼のような、脱炭のために必要な溶鋼中酸素までも低減してしまい、脱炭処理に支障をきたしてしまうおそれがあった。
このように、10〜30mmの適度な粒径のFeSi合金粒であるならば、溶鋼まで到達することを抑制し、溶鋼に悪影響を与えることなく、効率よくスラグの改質を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、溶鋼の出鋼時にCaOを投入し、出鋼完了後にスラグの表面にFeSi合金粒を投入するので、発煙することなくスラグの改質ができる。出鋼後の発煙が無いため、出鋼後直ちに取鍋の移動ができ、発煙によるロスタイムを生じないため、転炉の稼動サイクルを短縮することができる。
取鍋をクレーンで吊り上げる際、従来は未反応のアルミニウムが振動によって反応し、発煙することがあり、取鍋の周囲が発煙で見えなくなり、で問題があったが、発煙を無くすることで取鍋上方の視野が良好となり、取鍋の移動や吊り上げのための作業を問題なくできる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、第1実施形態に係るスラグの改質方法について図面に基づいて説明する。
図1は精錬炉として転炉1を用いた精錬工程の概要を示す。
図1(A)に示すように転炉1に溶銑2を収容するとともに、転炉1の炉頂から転炉1内に挿入したランス3によって溶銑2に酸素ガスを吹き込んで脱炭するとともに、リンなどの不純物の除去を行う。
【0014】
転炉1による精錬が終了したならば、
図1(B)のように転炉1を傾動し、炉壁上側部に形成されている出鋼孔から転炉1の下方に配置されている取鍋5に溶鋼6を出鋼する。取鍋5に溶鋼6を出鋼する際、本発明ではCaO(生石灰)を投入する。例えば、300t規模の転炉1から出鋼する場合、50トン程度出鋼してからCaOの添加を開始することが好ましい。
取鍋5に溶鋼6を出鋼する際、転炉炉内の溶鋼6の上に存在しているFeOなどの酸化性スラグ7の一部も取鍋5に流出する。CaOの投入量は、300トン規模の転炉1から溶鋼6を出鋼している場合、0.9kg/t.s.〜1.0kg/t.s.(ton-steel:1tonの溶鋼当たり)の範囲とすることができる。なお、上述のCaO投入量は操業上の一例であり、上述の範囲に限るものではない。転炉からの流出スラグ量等に応じて適宜増減すれば良い。
出鋼が終了した時点において、
図2(A)に示すように取鍋5には溶鋼6が収容され、その上にスラグ7aが浮遊している。本実施形態では、このスラグ7aに対し以下に説明するようにFeSi合金粒を極力均一に散布して、スラグの改質を行う。
取鍋5に流出されるスラグ7aは転炉内のスラグ7の一部であるが、
図2(A)に示すように取鍋5溶鋼6の上に30〜50mm程度の厚さのスラグ7aが形成され、その上、あるいは中に投入したFeSiが存在する。
【0015】
FeSi合金粒8の投入量(散布量)は、300トン規模の転炉1から溶鋼6を出鋼した場合、0.3kg/t.s.〜0.4kg/t.s.の範囲を選択できる。
スラグ7aに投入するFeSi合金粒8は、市販のものは、FeSi合金を粉砕して得た種々の粒径のFeSi合金粒の集合体であるが、本実施形態では10mm〜30mmの粒径のFeSi合金粒を90質量%以上含むFeSi合金粒8を用いる。より好ましくは95質量%以上含むFeSi合金粒8を用いる。
図3に10mm〜30mmの粒径のFeSi合金粒8の一例を示す。
FeSi合金粒8において、10mm未満の粒径のFeSi合金粒を10質量%未満含有していても良い。より好ましくは5質量%未満とする。
また、更に好ましくは30mmを超える粒径のFeSi合金粒を含有する場合、1質量%以下とする。更に好ましくは全くなくする方が良い。
FeSi合金粒8をスラグ7aに投入する場合、スラグ7の表面にできるだけ均一に散布することが好ましい。
【0016】
スラグ7aの上に散布した10〜30mmの粒径のFeSi合金粒8は、スラグ7aの熱により溶融し、スラグ7a中に拡散してスラグ7aの還元を行う。ここで、30mm超の粒径のFeSi合金粒を用いるとスラグ7aで溶融しきれなかったFeSi合金粒の一部が沈降して溶鋼6まで到達するので、溶鋼中のSiが所望以上に増加してしまう。あるいは、未脱酸溶鋼の場合、溶鋼6中の酸素と反応し、鋼中酸素量を低下させてしまう。
特に溶鋼6が極低炭素鋼(C≦0.01%)のような二次精錬で脱炭処理が必要な鋼種の場合、脱炭を促進するために所定量の溶鋼中酸素が必要である。前記のように溶鋼中酸素が低減されると脱炭効率が低下する。
また、FeSi合金の融点が約1000℃で、従来のAlの融点が660℃と高く、FeSi合金粒8をスラグ7aに投入した際に、FeSi合金粒8の一部が
図2(B)に示すように未溶解合金12として残留するおそれがあるので、FeSi合金粒8の粒径はより小さくすることが望ましい。
逆に、10mm未満の粒径でも、スラグ上で焼結してしまう場合があり、有効にスラグ還元に供されない。また、
図2(B)のように二次精錬で浸漬管を溶鋼に浸漬するなどの際に、焼結したFeSiを未溶解合金12として溶鋼中に押し込んでしまい、上記と同様に溶鋼中のSiが所望以上に増加したり、あるいは未脱酸溶鋼の場合、鋼中酸素量を低下させてしまう。
【0017】
このようにスラグ7aに対し改質のために添加する還元剤として、従来投入していたアルミニウム材に替えてFeSi合金粒8とするならば、発煙を生じない。そのため、従来、発煙が終了するまで取鍋5が転炉炉下に待機する必要がなく、取鍋5の移動を従来よりも早く開始できるので、転炉1の操業サイクルタイムを短縮することができる。
【0018】
例えば、300トン転炉から取鍋に出鋼し、出鋼完了から、取鍋の溶鋼上のスラグにアルミニウム塊を投入し、発煙した場合、発煙終了まで待機する時間は、80秒程度あり、この間、取鍋を移動できない。それに対して、FeSi合金粒8をスラグに投入することで、発煙が無くなるので、取鍋移動開始までの時間を80秒程度短縮できる。この80秒程度の時間は、従来の300トン転炉の操業において、出鋼完了からアルミニウム材の投入、待機、サンプル回収位置までの取鍋移動時間の合計時間に対し、約70%を占めるので、転炉サイクル時間に対し極めて大きなサイクルタイムの短縮となる。また、一般的な転炉サイクルタイムが30〜40分と考えても数%に相当し、短縮の効果は大きい。
【0019】
鋼中酸素量を減少させることなく二次精錬ができるならば、極低炭素鋼などの高品位鋼を効率よく製造でき、且つ、好適な溶鋼6が得られる。
前述の二次精錬は、真空脱ガス装置(RH(Ruhrstahl-Heraeus)による二次精錬について例示したが、二次精錬については、DH (Dortmund-Horde)、LF(Ladle Furnace)あるいは、AOD(Argon Oxygen Decarburization)炉、VOD(Vacuum Oxygen Decarburization)炉などを用いた二次精錬を適用しても良いのは勿論である。
ここで用いるFeSi合金粒8は、Siを70質量%以上含むものが好ましい。
また、FeSi合金粒8は、C含有量の低いものを用いることが好ましい。一例として、C含有量1.0質量%以下のFeSi合金粒8を用いることが好ましい。FeSi合金粒8において、C含有量の多いもの、例えば、C含有量3質量%以上のFeSi合金粒8を用いると、Cが酸化してCOガスを発生し、スラグ7aにふくれを発生する。スラグ7aは粘度が高いため、内部でガスが発生するとスラグ7aがふくれることとなり、結果的に取鍋5からスラグ7aが溢れるおそれがある。スラグ7aのふくれを無くするためにC含有量はできるだけ低いことが望ましく、1.0質量%以下であっても、0.5質量%以下が好ましく、0.2質量%以下がより好ましい。
【0020】
ところで、上述のFeSi合金粒8を投入する際、FeSi合金粒8の投入量に対し、発煙が問題にならない程度少ないようであれば、アルミニウム塊を一部添加しても良い。
取鍋5の内径を4mと仮定し、1回の投入時にCaO投入量300kg、溶鋼6の上にスラグ7aが層厚として30〜50mm流出していると仮定することができ、スラグ比重を3.0〜4.0と仮定すると、スラグボリュームは、1.0〜2.5トンとなる。
この条件に対し、10〜30mmの粒径のFeSi合金粒8ならば80kgを投入し、更に加えてアルミニウム塊を30kg程度投入することができる。この割合では、スラグ7aのスラグに対し、FeSi合金粒:0.032〜0.08kg/kgの割合で投入し、アルミニウム塊:0.012〜0.03kg/kgの割合で投入したこととなる。
スラグにアルミニウム塊を投入する場合、スラグボリューム1.0トンに対し、10〜20kgの範囲で投入することが好ましい。ただし、操業の規模に応じてスラグ量が多いからといってアルミニウム塊を100kgも投入すると当然発煙が多量に発生するので、上述の30kg程度を上限とすることが好ましい。
【0021】
前述のようにCaOとFeSi合金8に加え、アルミニウム材を投入する場合、スラグ7aの酸化性の改質のために、投入した結果においてスラグ7aの中にCaOとAl
2O
3の比率において、CaO/Al
2O
3の比で0.7以上、1.7以下の範囲で含まれていることが好ましく、0.9〜1.35の範囲がより好ましい。
CaO/Al
2O
3の比を上述のように設定することが好ましい理由は、
図5に示すCaO−SiO
2−Al
2O
3の三元系状態図に太い実線で示す1600℃の等温線に示すように、この1600℃等温線の内側であればすべて液相領域となる。溶鋼清浄性の向上、つまり、溶鋼中の介在物を減少させるには、溶鋼表面に浮上してきた介在物をスラグでいかに捕らえて吸着するかが肝心となる。この点、スラグメタルが強攪拌されないRH処理では、特に液相率が重視される。また、スラグメタルが強攪拌される工程ではCaO/Al
2O
3の値が1.6と高い方が望ましいといえる。上述の0.9〜1.35の範囲は上述の液相領域に完全に含まれる範囲にあり、スラグが液相であると介在物吸着能が高いと考えられるため、上述の範囲が好ましい。
【実施例】
【0022】
300トン転炉を用い、転炉から内径4mの取鍋に溶鋼を出鋼している最中にCaO粒体を300kg投入した。この出鋼時、取鍋内の溶鋼の上に厚さ30〜50mmのスラグが生成される。スラグの比重は約3.0〜4.0であり、取鍋内のスラグボリュームは1.0〜2.5トンとなる。
取鍋に対する出鋼完了後に行うスラグ改質試験のために、粒径10〜50mmのFeSi合金粒と粒径10〜30mmのFeSi合金粒を用意した。
用いたFeSi合金粒を構成するFeSi合金は、Si:75.45質量%、C:0.11質量%、P:0.013質量%、S<0.005質量%、Al:1.05質量%、残部Feの組成である。
【0023】
粒径10〜50mmのFeSi合金粒とは、粒度選別を行っていない原料合金粒に対し、10mmの目開きの篩にかけて残留した合金粒を再度50mmの篩にかけて篩を通過したFeSi合金粒の集合体である。
粒径10〜30mmのFeSi合金粒とは、粒度選別を行っていない原料合金粒に対し、10mmの目開きの篩にかけて残留した合金粒を再度30mmの篩にかけて篩を通過したFeSi合金粒の集合体である。
篩にかける前の原料合金粒は、10mm以下のFeSi合金粒が10%、10〜20mmのFeSi合金粒が15%、20〜30mmのFeSi合金粒が15%、30mm以上のFeSi合金粒が60%含まれていると表記されている市販品の原料合金粒である。
【0024】
粒径10〜50mmのFeSi合金粒の一例を
図4(A)の写真に示し、粒径10〜30mmのFeSi合金粒の一例を
図4(B)の写真に示す。
図4(A)の写真から判るように、目開き50mmの篩を通過する粒で側面視略楕円形状の粒は、50mmより若干長い粒が通過するので、
図4(A)に示す粒の中には50mmを若干超える長さの略楕円形状の粒等が含まれている。同様に
図4(B)の写真から判るように、目開き30mmの篩を通過した粒の中には30mmを若干超える長さの粒が含まれ、目開き10mmの篩で選別された粒の中には10mm未満の粒も一部含まれている。
粒径10〜30mmのFeSi合金粒を得る場合に、表1に示すように各重量の合金粒を粒度選別して得たFeSi合金粒の粒度分布測定結果を以下の表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
FeSi合金粒の粒度については、10−30mm粒径のFeSi合金粒1000kgをタンクに投入し、該タンクからコンテナバックに5回に分けて排出した際、排出開始(0kg)〜20kg、200〜220kg、400〜420kg、600〜620kg、800〜820kgの各回で排出した20kgを篩にかけて粒度分布を測定した。
その結果が以下の表2であり、この実績を%に換算した値が表1の%に相当する。
【0027】
【表2】
【0028】
いずれの量の粒径10〜30mmのFeSi合金粒であっても、粒径10〜30mmのFeSi合金粒が95〜98%含まれており、試験目的に合致するFeSi合金粒であると判断できる。
【0029】
従来から、300t転炉から内径4mの取鍋に出鋼した溶鋼に対し、アルミニウム材(アルミニウム滓)を80〜160kg添加してスラグ改質を行っている。この場合、大量の白煙が発生し、転炉設備に常備されている集塵装置により白煙を処理し、発煙が終了するまで、80秒程度要している。
上述のアルミニウム材に替えて、粒径10〜50mmのFeSi合金粒を、必要量に応じて160kg、120kg、80kg投入するケースに分けて実施してみた。
その結果、いずれの場合も、脱Cモデルにより推定した脱炭後C値と実績C値との乖離が大きく、脱Cが推定よりも進行しないケースが多い結果となった。これは、脱C処理中に脱C反応以外の反応(2Al+3O→Al
2O
3あるいはSi+2O→SiO
2の反応)により鋼中酸素濃度が低くなって脱炭速度が低下したためと思われる。
【0030】
次に、上述のアルミニウム材に替えて、粒径10〜30mmのFeSi合金粒を必要量に応じて、160kg、120kg、80kg投入するケースに分けて実施してみたが、いずれの場合も、粒径10〜50mmのFeSi合金粒を使用した場合よりも脱炭モデルで推定したC値と実績C値との乖離は小さかった。
【0031】
前記転炉を用いた試験において脱炭モデルから脱炭後C値と実績C値とが乖離した原因について考察した。
図6は、取鍋に出鋼した溶鋼のスラグに対し、粒径10〜50mmのFeSi合金粒を投入してスラグ改質を行った場合に得られた鋼中酸素濃度と、粒径10〜30mmのFeSi合金粒を投入してスラグ改質を行った場合に得られた鋼中酸素濃度を対比して示すグラフである。
300トン転炉を用いて取鍋に溶鋼を出鋼し、溶鋼の上に積層しているスラグに対し、粒径10〜50mmのFeSi合金粒を160kg投入する試験と、120kg投入する試験と、80kg投入する試験を転炉精錬操業に合わせて出鋼の度に222回繰り返し、投入量に応じて得られた鋼中酸素濃度の出現頻度を
図6に示す。
また、300トン転炉を用いて取鍋に溶鋼を出鋼し、溶鋼の上に生成しているスラグに対し、粒径10〜30mmのFeSi合金粒を160kg投入する試験と、110〜120kg投入する試験を転炉精錬操業に合わせて取鍋に出鋼する度に203回繰り返し、投入量に応じて得られた鋼中酸素濃度の出現頻度を
図6に示す。
【0032】
鋼中酸素濃度(ppm)は粒径10〜50mmのFeSi合金粒の場合、平均459ppm、偏差91であり、粒径10〜30mmのFeSi合金粒の場合、平均507ppm、偏差86である。
図6に示す結果から、粒径10〜50mmのFeSi合金粒の場合、鋼中酸素濃度が280〜420ppmの比較的低濃度領域において頻度が高くなった。これは、粒径10〜50mmのFeSi合金粒を用いてスラグ改質を行った場合、鋼中酸素濃度が低くなる確率が高く、粒径10〜30mmのFeSi合金粒を用いてスラグ改質を行った場合、鋼中酸素濃度が低位とならず、高位のまま保持可能であることを意味する。
【0033】
図6に示す結果から、スラグの改質を行う場合、粒径10〜30mmのFeSi合金粒を用いてスラグ改質を行う方が、粒径10〜50mmのFeSi合金粒を用いてスラグ改質を行う場合よりも鋼中酸素濃度を低下させないという利点があることがわかる。
鋼中酸素濃度を低下させないということは、特に脱炭を要する極低炭素鋼などのように二次精錬処理がなされる鋼種を製造する場合に有利となる。
即ち、FeSi合金粒の粒径差で処理前の溶鋼中酸素濃度の差があるため、二次精錬処理中もFeSi合金粒の粒径が大きいと溶鋼中酸素濃度が消費され易くなるので、脱Cモデルと実績に乖離が生じ易くなる。このため、FeSi合金粒は前述の如く粒径の小さいものが好ましい。
また、上述のアルミニウム材に替えて、Cを4質量%含むFeSi合金粒を140kg投入したところスラグにふくれを生じた。このため、Cを多く含むFeSi合金粒を添加することはスラグ膨れにつながるので適用できないことがわかった。
【0034】
上述の粒径10〜30mmのFeSi合金粒を80kg投入するケースに加え、アルミニウム塊30kgを付加して投入する試験を行った。対スラグ原単位はFeSi:0.032〜0.08kg/kgの割合であり、アルミニウム塊:0.012〜0.03kg/kgの割合である。スラグ改質材としての合計の対スラグ原単位は、0.044〜0.11kg/kgとなる。
アルミニウム塊をFeSi合金粒に対し追加して投入する場合、30kgが転炉サイクルタイムを延長させない程度の発煙(発煙がほとんど無く集塵の必要がない程度の発煙)を前提とした上限であり、アルミニウム塊をこれ以上投入すると発煙することを確認している。
上述の割合でFeSi合金粒に対しアルミニウム塊を添加してスラグに投入した場合、発煙を生じることが無く、鋼中酸素濃度が目標の脱炭モデルから乖離しなかったので、良好な結果が得られた。