(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関(200)のバルブ(208,209)と連動するカムシャフト(210,211)の、前記内燃機関のクランクシャフト(201)に対する相対的な位相差を制御する可変バルブタイミング機構(220)、および、前記カムシャフトと連動する加圧機構(231,232,235)により加圧した高圧燃料を前記内燃機関の燃料噴射弁へと圧送する高圧燃料ポンプ(230)それぞれを制御する電子制御装置であって、
前記高圧燃料ポンプは、前記加圧機構から前記燃料噴射弁へと圧送する前記高圧燃料の吐出量と燃圧それぞれを開閉タイミングによって定める電磁弁(233)を有しており、
所定の算出タイミングにおいて、前記高圧燃料の目標とする前記吐出量と前記燃圧、および、前記内燃機関の回転数に基づいて前記開閉タイミングを算出する開閉タイミング算出部(51)と、
前記可変バルブタイミング機構の駆動を制御するための制御信号を生成する制御量算出部(56)および駆動デューティ算出部(57)と、
前記可変バルブタイミング機構の目標とする前記カムシャフトの前記クランクシャフトに対する相対的な位相差である目標位相を算出する目標位相算出部(60)と、
前記目標位相算出部によって算出された、前記算出タイミングの前記目標位相と、前記算出タイミングにおける前記目標位相の収束点である要求目標位相との差分値を算出する差分値算出部(61)と、
前記可変バルブタイミング機構によって、前記算出タイミングの前記目標位相が前記要求目標位相へと変化する応答時間を算出する負荷応答時間算出部(62)と、
前記目標位相の前記差分値と前記応答時間に基づいて、前記制御信号を補正するための補正量を算出する補正量算出部(63)と、
前記補正量によって補正された前記制御信号と、前記可変バルブタイミング機構による実際の前記カムシャフトの前記クランクシャフトに対する相対的な位相差である実位相の前記目標位相へと変化する速度の前記制御信号に対する変化率である変位速度変化率と、に基づいて前記開閉タイミングを補正するタイミング補正部(58,53,54)と、を有する電子制御装置。
前記補正量算出部は、前記差分値算出部によって算出された前記差分値の絶対値が所定値よりも低い場合、前記補正量をゼロにし、前記差分値の絶対値が前記所定値以上の場合、前記差分値および前記応答時間に基づいて前記補正量を算出する請求項3に記載の電子制御装置。
前記可変バルブタイミング機構は、前記カムシャフトを前記クランクシャフトに対して進角させるための進角室、前記カムシャフトを前記クランクシャフトに対して遅角させるための遅角室、および、前記駆動デューティに応じて前記進角室と前記遅角室の油圧を調整することで、前記カムシャフトの前記クランクシャフトに対する前記位相差を制御する油圧制御部を有し、
前記油圧制御部は、前記進角室および前記遅角室それぞれの油圧を一定に保つことで前記位相差を一定に保ち、前記進角室および前記遅角室のいずれか一方の油圧を他方に比べて高めることで前記カムシャフトを前記クランクシャフトに対して進角若しくは遅角させる請求項2〜5いずれか1項に記載の電子制御装置。
前記目標位相算出部は、前記算出タイミングにおける前記内燃機関に実際に吸入される実吸入空気量と前記内燃機関の回転数に基づいて前記算出タイミングの前記目標位相を算出するとともに、前記算出タイミングにおける前記内燃機関の目標とする目標吸入空気量と前記内燃機関の回転数に基づいて前記要求目標位相を算出し、
前記負荷応答時間算出部は、前記算出タイミングにおける、スロットル開度、バルブ開度、前記内燃機関の回転数、および、インテークマニホールドの容積に基づいて、前記目標位相の前記応答時間を算出する請求項1〜6いずれか1項に記載の電子制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図に基づいて説明する。
(第1実施形態)
図1〜
図13に基づいて電子制御装置を説明する。その前に、先ず内燃機関200、可変バルブタイミング機構220、高圧燃料ポンプ230、および、各種センサ241〜248を説明する。
【0011】
図1に示すように内燃機関200は、クランクシャフト201、コンロッド202、ピストン203、シリンダ204、燃料噴射弁205、吸気管206、排気管207、吸気バルブ208、排気バルブ209、吸気カムシャフト210、排気カムシャフト211、および、タイミングチェーン212を有する。クランクシャフト201とピストン203とがコンロッド202を介して連結され、クランクシャフト201の回転によってピストン203がシリンダ204内を上下動する。シリンダ204とピストン203とによって燃焼室が構成され、この燃焼室に燃料噴射弁205から燃料が噴射される。そして図示しないプラグによって火花が生成されることで空気と燃料の混合した混合気体が爆発する。これによってピストン203が上下動し、その上下動が車両を運動する出力としてクランクシャフト201から車両の出力軸へと伝達される。
【0012】
燃焼室を構成するシリンダ204には2つの開口部が形成され、これら2つの開口部の一方に吸気管206が連結され、その他方に排気管207が連結されている。燃焼室と吸気管206との連通は吸気バルブ208によって制御され、燃焼室と排気管207との連通は排気バルブ209によって制御される。
【0013】
吸気バルブ208は吸気カムシャフト210の吸気カム210aの回転と連動し、排気バルブ209は排気カムシャフト211の排気カム211aの回転と連動して動作する。カム210a,211aの回転によりバルブ208,209が燃焼室から離れるとき、燃焼室の開口部が閉塞される。これによって燃焼室と管206,207との連通が妨げられる。これとは反対に、バルブ208,209が燃焼室に近づくとき、燃焼室の開口部が開口される。これによって燃焼室と管206,207とが連通される。
【0014】
カムシャフト210,211はタイミングチェーン212を介してクランクシャフト201と連結されている。したがってクランクシャフト201が回転するとそれにともなってカムシャフト210,211も回転する。そしてカムシャフト210,211の回転に伴ってバルブ208,209も燃焼室に対して上下動し、それによって燃焼室と管206,207との連通も制御される。
【0015】
本実施形態に係る内燃機関200は吸気、圧縮、膨張、排気の4工程で1サイクルを成す4サイクルエンジンである。吸気工程にてピストン203が上死点側から下死点側へと運動するとともに、吸気バルブ208が燃焼室に近づき燃焼室と吸気管206とが連通される。これにより空気が燃焼室へと流入される。またこの際に燃料噴射弁205から霧状の燃料が燃焼室へと噴射される。圧縮工程にてピストン203が下死点側から上死点側へと運動するとともに、吸気バルブ208が燃焼室から離れて燃焼室と排気管206との連通が阻止される。これにより燃焼室内にて混合気体が圧縮される。膨張工程にてプラグから火花が生成され、混合気体が爆発する。この爆発によってピストン203が上死点側から下死点側へと運動する。最後に、排気工程にてピストン203が下死点側から上死点側へと運動するとともに、排気バルブ209が燃焼室に近づき燃焼室と排気管207とが連通される。これにより燃焼室内の排気ガスが排気管207へと排出される。
【0016】
上記したように吸気、圧縮、膨張、排気の各工程において、バルブ208,209はピストン203の上下動(シャフト201,210,211の回転)に追随して動作する。そして各工程はクランクシャフト201の回転角度(クランク角)によって定まっている。しかしながら車両の運転状況によっては、最適な出力を得るべく、バルブ208,209の運動(カムシャフト210,211の回転角度)を上記の各工程(クランク角)に対して相対的にずらすことが考えられる。
【0017】
これを実現するために、カムシャフト210,211のクランクシャフト201に対する相対的な回転の位相差を制御する可変バルブタイミング機構220がカムシャフト210,211それぞれに設けられている。可変バルブタイミング機構220により上記の位相差を調整することで、バルブ208,209による燃焼室の開口部の開閉タイミング(以下、バルブタイミングと示す)が制御される。
【0018】
図2に示すように可変バルブタイミング機構220は、ハウジング部221とベーン部222を有する。吸気側の可変バルブタイミング機構220のベーン部222は、吸気カムシャフト210に固定され、ハウジング部221には上記のタイミングチェーン212が連結される。そしてベーン部222とハウジング部221とによって油の貯留される進角室と遅角室とが構成されている。進角室と遅角室との油圧が同一である場合、ベーン部222はハウジング部221に対して相対的に回転せず、吸気カムシャフト210のクランクシャフト201に対する回転の位相差は一定に保たれる。しかしながら進角室と遅角室との油圧に差がある場合、ベーン部222はハウジング部221に対して相対的に回転し、吸気カムシャフト210がクランクシャフト201に対して相対的に回転する。進角室を遅角室よりも油圧を大きくすると、吸気カムシャフト210はクランクシャフト201に対して進角する。それとは逆に遅角室を進角室よりも油圧を大きくすると、吸気カムシャフト210がクランクシャフト201に対して遅角する。これによりバルブタイミングが調整される。排気側の可変バルブタイミング機構220についても、排気カムシャフト211に対して同様の構成および動作を行う。したがってその記載を省略する。以下においては説明が煩雑となることを避けるため、2つのカムシャフト210,211の内、吸気カムシャフト210を主として記載する。
【0019】
なお、進角室と遅角室の油圧の調整は、図示しないソレノイドのスプールを移動させることで成される。このスプールの移動は、後述する駆動デューティによって決定される。なお上記のソレノイドが特許請求の範囲に記載の油圧制御部に相当する。
【0020】
上記したように吸気工程において燃料噴射弁205から燃焼室へと燃料が噴射されるが、この燃料は
図1に示す高圧燃料ポンプ230から図示しないコモンレールを介して燃料噴射弁205へと供給される。
図3に示すように高圧燃料ポンプ230は、プランジャ231、シリンダ232、電磁スピル弁233、逆止弁234、および、ばね235を有する。プランジャ231は吸気カムシャフト210の回転と連動してシリンダ232内を上下動する。シリンダ232は電磁スピル弁233を介して図示しない燃料タンクに連結され、逆止弁234を介してコモンレールに連結されている。プランジャ231とシリンダ232とによって燃料を貯留する燃料室が構成され、この燃料室の容積がプランジャ231の上下動によって変動する。この結果、燃料室に貯留される燃料の量も変化する。
図3では燃料をハッチングによって示している。なお、プランジャ231、シリンダ232、および、ばね235が特許請求の範囲に記載の加圧機構に相当する。そして電磁スピル弁233が特許請求の範囲に記載の電磁弁に相当する。
【0021】
プランジャ231は吸気カムシャフト210のポンプカム236によって、ばね235の復元力に抵抗しながらシリンダ232内を上昇する。電磁スピル弁233が開状態の場合、燃料室と燃料タンクとが連通される。したがってプランジャ231の上昇によって燃料室の容積が減少したとしても燃料タンクへと燃料が戻され、燃料室内の燃料は加圧されない。そのために逆止弁234は閉状態となっており、コモンレールへの燃料の圧送は行われない。
【0022】
図3の(a)欄にて実線矢印で示すように、プランジャ231がシリンダ232内を上昇しきった後にばね235の復元力によって下降し始めると、電磁スピル弁233を介して燃料タンクから燃料室へと燃料が供給される。そしてプランジャ231がシリンダ232内を下降しきると、燃料室の容積が最大となり、燃料室が燃料によって満たされる。
【0023】
図3の(b)欄にて実線矢印で示すように、プランジャ231がシリンダ232内を下降しきった後に上昇し始めると、燃料室の容積が減少するとともに、電磁スピル弁233を介して燃料室から燃料タンクへと燃料が戻される。
【0024】
そして
図3の(c)欄にて実線矢印で示すように、プランジャ231がシリンダ232内を上昇して燃料室の容積(燃料噴射弁205にて噴射される燃料の吐出量)が車両の運転状況に適した目標値に達すると、電磁スピル弁233が閉状態となる。これにより燃料室内の燃料が加圧され、逆止弁234が開状態となる。この結果、燃料室内にて高圧となった燃料(高圧燃料)が逆止弁234を介してコモンレールへと圧送され、燃料噴射弁205から高圧燃料が噴射される。
【0025】
上記したように高圧燃料ポンプ230は吸気カムシャフト210と連動して動作する。そして高圧燃料ポンプ230の噴射タイミングは吸入工程であり、これはクランクシャフト201の回転角度(クランク角)に連動している。したがって上記したように可変バルブタイミング機構220によって吸気カムシャフト210のクランクシャフト201に対する位相差(以下、単に位相差と示す)を制御すると、高圧燃料ポンプ230から吐出される高圧燃料の吐出量と燃圧とが目標値からずれる虞がある。
【0026】
図4に位相差がゼロの場合におけるプランジャ231のシリンダ232内における上下動量(リフト量)を破線で示し、進角した場合のプランジャ231のリフト量を実線で示す。また、高圧燃料の吐出量をハッチングで示す。高圧燃料の吐出量は、電磁スピル弁233が閉状態になったタイミングから、プランジャのリフト量が最大になるタイミングまでによって決定される。
【0027】
可変バルブタイミング機構220による位相差の制御を何ら考慮しない場合、電磁スピル弁233の開閉タイミングは破線で示すプランジャ231のリフト量(吸気カムシャフト210の回転角度)に基づいて決定される。したがって電磁スピル弁233の開閉タイミングを位相差の制御を何ら考慮せずに定めた場合において、実線で示すように吸気カムシャフト210がクランクシャフト201に対して進角すると、高圧燃料ポンプ230の吐出量が減少することとなる。そこで電磁スピル弁233の開閉タイミングを上記の進角に合わせて補正する。そうすると
図4にて一点鎖線で囲んで示す高圧燃料の吐出量の減少が補われ、高圧燃料の吐出量と燃圧とが目標値からずれることが抑制される。このような制御を電子制御装置100が行う。
【0028】
電子制御装置100は、上記の可変バルブタイミング機構220を制御しつつ、高圧燃料の吐出量と燃圧とが目標値からずれることが抑制されるように高圧燃料ポンプ230(電磁スピル弁233)を制御する。このような制御を行なうための値が
図1に示す各種センサ241〜248によって検出される。
【0029】
図1に示すように、車両にはカム角センサ241、クランク角センサ242、燃圧センサ243、温度センサ244、吸入空気量センサ245、スロットル開度センサ246、アクセルセンサ247、および、バルブセンサ248が設けられている。カム角センサ241はカムシャフト210,211の回転角度に応じたカム角信号を生成する。クランク角センサ242はクランクシャフト201の回転角度に応じたクランク角信号を生成する。燃圧センサ243は高圧燃料ポンプ230からコモンレールへと圧送される高圧燃料の燃圧を検出する。温度センサ244は、内燃機関200の冷却水の温度を検出する。吸入空気量センサ245は吸気管206から燃焼室へと実際に吸入される空気量(実吸入空気量)を検出する。スロットル開度センサ246はスロットルバルブ206aの開度を検出する。アクセルセンサ247はアクセルの踏み込み量を検出する。バルブセンサ248は吸気バルブ208の開度を検出する。これらセンサ241〜248の各種センサ信号が電子制御装置100に入力される。
【0030】
なお、吸気管206のインテークマニホールドの容積が可変の場合、インテークマニホールドの容積の可変を検出するセンサも内燃機関200に設けられ、その検出結果が電子制御装置100に入力される。電子制御装置100は可変に応じたインテークマニホールドの容積を記憶しており、上記のセンサの検出結果に応じたインテークマニホールドの容積を読み出す。また、インテークマニホールドの容積が可変ではない場合、電子制御装置100はインテークマニホールドの容積を固定値として記憶している。
【0031】
次に、電子制御装置100を説明する。
図1に示すように電子制御装置100は、目標高圧燃料算出部10、目標吸入空気量算出部20、高圧燃料ポンプ制御部30、および、可変バルブタイミング制御部40を有する。
【0032】
目標高圧燃料算出部10は、上記のセンサによって検出されるクランク角信号(エンジン回転数)、燃圧、および、アクセルの踏み込み量や実吸入空気量に基づいて、高圧燃料ポンプ230の目標とする吐出量(目標吐出量)と目標とする燃圧(目標燃圧)を算出する。目標高圧燃料算出部10には図示しないコモンレール内の燃料圧力が入力されており、この燃料圧力が所定値に保たれるように、目標高圧燃料算出部10は目標吐出量と目標燃圧を算出する。
【0033】
目標吸入空気量算出部20は、上記のセンサによって検出されるエンジン回転数、スロットル開度、アクセル踏み込み量、および、バルブ開度に基づいて、燃焼室への目標とする吸入空気量(目標吸入空気量)を算出する。
【0034】
高圧燃料ポンプ制御部30は、高圧燃料ポンプ230の電磁スピル弁233の開閉を制御する。そして可変バルブタイミング制御部40は、実位相が目標位相へ変化されるように可変バルブタイミング機構220の進角室と遅角室の油圧をPD制御する。
図1では機能を明示するために上記の制御部30,40を区別して記載しているが、
図5ではこれらを一体のもとして記載している。
【0035】
図5に制御部30,40の詳細構成を示す。制御部30,40は、合計13個の算出部51〜63を有する。この算出部51〜63は、それぞれがハード的若しくはソフト的に分離しているわけではなく、その機能を区別して示すために分離して示している。そのため
図5では算出部51〜63それぞれを名称ではなく、機能で表記している。なお、敢えて制御部30,40と算出部51〜63との包含関係とを明示すると、高圧燃料ポンプ制御部30は算出部51〜54を有し、可変バルブタイミング制御部40は算出部55〜63を有する。また、高圧燃料ポンプ制御部30が推定変位算出部58を有しても良い。
【0036】
開閉タイミング算出部51は、目標吐出量、目標燃圧、および、エンジン回転数に基づいて電磁スピル弁233の開閉タイミングCang,Oangを算出する。開閉タイミング算出部51は、クランク角が所定の算出タイミングPSCALに達すると、上記の情報に基づいて開閉タイミングCang,Oangを算出する。
図4に示すように、この開閉タイミングCang,Oangは、吸気カムシャフト210のクランクシャフト201に対する位相差を考慮した値とはなっていない。
【0037】
待機時間算出部52は、算出タイミングPSCALから開閉タイミングCang,Oangに至るまでの待機時間Tc,Toを算出する。
図4に示すように、Tc=Cang−PSCALであり、To=Oang−PSCALである。
【0038】
位相変動量算出部53は、後述する推定変位Vteに基づいて、算出タイミングPSCALから開閉タイミングCang,Oangに至るまでの吸気カムシャフト210のクランクシャフト201に対する位相変動量dVTC,dVTOを算出する。推定変位Vteは微小時間Δt当たりに吸気カムシャフト210がクランクシャフト201に対して変位することの期待される推定量である。この推定変位Vteを閉弁待機時間Tcまで積算した値が閉弁位相変動量dVTCであり、推定変位Vteを開弁待機時間Toまで積算した値が開弁位相変動量dVTOである。位相変動量dVTC,dVTOが特許請求の範囲に記載の積算値に相当する。
【0039】
補正タイミング算出部54は、開閉タイミングCang,Oangを位相変動量dVTC,dVTOに基づいて補正する。
図4に示すように、補正された閉タイミング(補正Cang)はCang−dVTCであり、補正された開タイミング(補正Oang)はOang−dVTOである。この開閉タイミングCang,Oangの補正により、高圧燃料の吐出量が目標吸入吐出量からずれることが抑制されるとともに、高圧燃料の燃圧が目標燃圧からずれることが抑制される。
【0040】
実位相算出部55は、クランク角とカム角とに基づいて、吸気カムシャフト210のクランクシャフト201に対する実際の位相差(以下、実位相VTactと示す)を算出する。実位相算出部55は、算出タイミングPSCALにおける実位相VTactを算出する。
【0041】
制御量算出部56は、可変バルブタイミング機構220をPD制御するためのP制御量とD制御量とを算出するものである。制御量算出部56の算出する制御量は、後述の補正量を加味した値となっている。そのためにこの制御量は、特許請求の範囲に記載のP制御量およびD制御量とは異なる。制御量算出部56の算出する制御量は、後述の現在目標位相VTeReqに基づくP制御量およびD制御量を補正量によって補正した値である。これに対して特許請求の範囲に記載の制御量は、現在目標VTeReqに基づくP制御量およびD制御量である。これら制御量に関しては先読み時間Teを説明した後に詳説する。なお、以下においては駆動デューティ、推定変位、および、補正量を記述するが、これらに関しても制御量と同様にして先読み時間Teを説明した後に説明する。
【0042】
駆動デューティ算出部57は、制御量算出部56によって算出された制御量に基づいて、駆動デューティを算出するものである。この駆動デューティによって可変バルブタイミング機構220の進角室と遅角室の油圧が制御され、位相差が制御(操作)される。駆動デューティが特許請求の範囲に記載の制御信号に相当する。
【0043】
推定変位算出部58は、駆動デューティの入力による位相差の推定変位Vteを算出するものである。上記したように推定変位Vteは、微小時間Δtの間に吸気カムシャフト210がクランクシャフト201に対して変位することの期待される推定量である。算出部53,54,58によって特許請求の範囲に記載のタイミング補正部が構成されている。
【0044】
変位速度算出部59は、算出タイミングPSCALにおける駆動デューティに対する吸気カムシャフト210がクランクシャフト201に対して変位する速さの変化率を算出するものである。変位速度算出部59には、駆動デューティに対する吸気カムシャフト210のクランクシャフト201に対する位相の変位速度の変化率マップの記憶されたメモリ59aが接続されている。上記したようにスプールが移動することで進角室と遅角室の油圧差が決定され、それによって吸気カムシャフト210がクランクシャフト201に対して進角若しくは遅角する。そしてその油圧はオイル温度(オイル圧力)に依存する。
【0045】
図6に実線と破線で示すように、駆動デューティに対する位相の変位速度は、可変バルブタイミング機構220内のオイル温度(オイル圧力)によって変化する。したがって変位速度算出部59は温度センサ244によって検出された内燃機関200の冷却水温度に基づいて上記のオイル温度を検出し、そのオイル温度に基づいてオイル圧力を検出する。そして変位速度算出部59は検出したオイル圧力に対応する変位速度変化率Vsをメモリ59aから取り出す。この変位速度変化率Vsは
図6においてθ1,θ2で示すように、駆動デューティに対して、微小時間Δtにおける位相変化の傾きとして表される。換言すれば、変位速度変化率Vsは、単位駆動デューティ当たりの微小時間Δtにおける位相変位速度として表される。なお
図6に示すように駆動デューティが保持デューティに等しい場合、位相差は変化しない。したがって駆動デューティが保持デューティに等しい場合、変位速度変化率Vsはゼロである。
【0046】
目標位相算出部60は、PSCAL時における、実吸入空気量、目標吸入空気量、および、エンジン回転数に基づいて、可変バルブタイミング機構220の目標とする位相差(以下、目標位相と示す)を算出する。目標位相算出部60には、目標位相の変位マップの記憶されたメモリ60aが接続されている。吸入空気量とエンジン回転数に対する目標位相は予め設定されており、その設定値が上記の位相差の変位マップとして予めメモリ60aに記憶されている。目標位相算出部60は上記した実吸入空気量とエンジン回転数に基づいた算出タイミングPSCAL時の目標位相(現在目標位相VTcReq)と、目標吸入空気量とエンジン回転数に基づいた目標位相の収束点(要求目標位相VTaReq)とをメモリ60aから取り出す。なお、
図4に示すように閉タイミングCangと開タイミングOangとは異なる。そのため厳密に言えば閉タイミングCangにおける要求目標位相と開タイミングOangにおける要求目標位相とは異なる。しかしながら本実施形態では両者を等しいとして、上記の要求目標位相VTaReqを算出する。
【0047】
差分値算出部61は、現在目標位相VTcReqと要求目標位相VTaReqの差分値ΔVTReqを算出する。ΔVTReq=VTaReq−VTcReqである。
【0048】
負荷応答時間算出部62は、スロットル開度、バルブ開度、エンジン回転数、および、インテークマニホールドの容積に基づいて、負荷応答時間Tlsを算出する。負荷応答時間算出部62には、上記した4つの情報によって決定される吸入負荷に対して目標位相がVTcReqから収束点であるVTaReqへと変化するのに要する負荷応答時間Tlsのマップの記憶されたメモリ62aが接続されている。負荷応答時間算出部62は、算出タイミングPSCALにおける上記の4つの情報に基づいて、負荷応答時間Tlsをメモリ62aから取り出す。
【0049】
補正量算出部63は、目標位相がVTeReqからVTaReqへと変化することによる、現在目標位相VTeReqに基づいて生成されたP制御量とD制御量のずれを補正するための補正量を算出する。先ず補正量算出部63は、差分値ΔVTReqの絶対値が所定値VTRよりも大きいか否かを判定する。差分値ΔVTReqの絶対値が所定値VTRよりも大きい場合、補正量算出部63は差分値ΔVTReqと負荷応答時間Tlsとに基づいて補正量を具体的に算出し、その逆の場合に補正量をゼロにする。
【0050】
図7に実線で示すように、要求目標位相VTaReqが現在目標位相VTcReqよりも大きい場合、ΔVTReqは正となり、負荷応答時間Tlsの間に目標位相はVTcReqからVTaReqへと上昇する。このように目標位相が上昇した場合、破線で示すように実位相もそれに追随して上昇する。図示しないが、これとは反対に、要求目標位相VTaReqが現在目標位相VTcReqよりも小さい場合、ΔVTReqは負となり、負荷応答時間Tlsの間に目標位相はVTcReqからVTaReqへと減少する。このように目標位相が減少した場合、実位相もそれに追随して減少する。
【0051】
次に、上記した制御量、駆動デューティ、推定変位、および、補正量を説明するために、先読み時間Teを
図8に基づいて説明する。
図8に示すように先読み時間Teは微小時間Δtを順次加算した値である。先読み時間をTeiと表記し、添え字iの値が1ずつ増大するごとに微小時間Δtずつ増加すると定義すると、Te1=Δt、Te2=2Δt、…と表すことができる。したがって上記の微小時間Δtと待機時間Tc,Toとは和の記号をΣとすると、閉弁待機時間Tc=ΣcΔt、開弁待機時間To=ΣoΔtと表すことができる。ここでΣcの添え字cは先読み時間Teが閉弁待機時間Tcになるまでを示し、Σoの添え字oは先読み時間Teが開弁待機時間Toになるまでを示す。上記の定義により、待機時間Tc,Toと先読み時間Teとは、次のように表すことができる。すなわち、上記の添え字iがcの時の先読み時間をTecとすると、Tec=Tcと表すことができ、添え字iがoの時の先読み時間をTeoとすると、Teo=Toと表すことができる。
【0052】
補正量算出部63は、先読み時間Teiの添え字iの値が変化するごとに補正量を算出する。すなわち、現在目標位相VTeReqに基づいて生成されたP制御量の補正量(P補正量)として、(ΔVTReq/Tls)×Teiを算出する。そして現在目標位相VTeReqに基づいて生成されたD制御量の補正量(D補正量)として、P制御量の偏差(微分値)を算出する。
図9に概念的に示すように、先読み時間Teiの添え字iが増大するごとにP補正量の絶対値は順次増大する。
【0053】
ただし補正量算出部63は、先読み時間Teが負荷応答時間Tlsに至るまでは上記のように補正量を算出するが、先読み時間Teが負荷応答時間Tls以上となった場合、P補正量=ΔVTReqとする。したがってこの場合、P補正量は固定値となるのでD補正量はゼロとなる。なお
図10に示すように閉弁待機時間Tcが負荷応答時間Tlsよりも短く、図示しないが開弁待機時間Toが負荷応答時間Tlsよりも短い場合、先読み時間Teが負荷応答時間Tlsに至ることはない。そのためにP補正量は上記のように固定値にはならず、D補正量はゼロとはならない。また補正量算出部63は、差分値ΔVTReqが所定値VTRよりも大きい場合は上記のように補正量を算出するが、小さい場合は補正量をゼロにする。
【0054】
制御量算出部56は、上記のP補正量とD補正量を加味したP制御量とD制御量を算出する。P制御量とD制御量は次の様に示される。すなわち、P制御量=((VTcReq−VT)+P補正量)×Pゲイン項であり、D制御量=((VTcReq−VT)偏差+D補正量)×Dゲイン項である。ここで、現在目標位相VTcReq、Pゲイン項、Dゲイン項は算出タイミングPSCAL時に一意に決定される一定値である。これに対して上記したようにP補正量とD補正量は先読み時間Teに依存する値である。
【0055】
補正量がゼロの場合、制御量算出部56の算出するP制御量は(VTcReq−VT)×Pゲイン項、D制御量は(VTcReq−VT)偏差×Dゲイン項となる。これは上記した現在目標位相VTeReqに基づくP制御量およびD制御量であり、特許請求の範囲に記載のP制御量およびD制御量と等しい。
【0056】
上記したように制御量にはVTが含まれている。このVTは、先読み時間Te=Δtの時において、初期値として実位相Vtactが入力される。そしてその後は、後述の積算変位Vtestが順次先読み時間Teの変化に応じて入力される。これにより順次P制御量とD制御量とが更新される。
【0057】
駆動デューティ算出部57は、上記のP制御量とD制御量に基づき、先読み時間Te時の駆動デューティを算出する。
【0058】
推定変位算出部58は、先読み時間Te時の駆動デューティと変位速度変化率Vsとを乗算することで、先読み時間Te時の位相の変位量を推定する。この乗算値が推定変位Vteである。
【0059】
以上に示したように補正量算出部63によって先読み時間Te時における目標位相の変化に基づく補正量が算出される。そして制御量算出部56によって先読み時間Te時の補正量に基づく制御量が算出される。そして駆動デューティ算出部57によって先読み時間Te時の制御量に基づく駆動デューティが算出される。最後に推定変位算出部58によって先読み時間Te時の駆動デューティに基づく推定変位Vteが算出される。
【0060】
この先読み時間Te時の推定変位Vteが位相変動量算出部53に順次入力される。位相変動量算出部53は先読み時間Teが閉弁待機時間Tcとなるまで推定変位Vteを積算することで閉弁位相変動量dVTCを算出する。同様にして位相変動量算出部53は、先読み時間Teが開弁待機時間Toとなるまで推定変位Vteを積算することで開弁位相変動量dVTOを算出する。換言すれば、位相変動量算出部53は、閉弁待機時間Tcまで推定変位Vteを時間積分することで閉弁位相変動量dVTCを算出し、開弁待機時間Toまで推定変位Vteを時間積分することで開弁位相変動量dVTOを算出する。
【0061】
なお、位相変動量算出部53は推定変位Vteを積算するごとに、その積算した積算変位Vtestを制御量算出部56に出力する。これにより随時VTが更新され、先読み時間Te時のP制御量とD制御量が算出される。
【0062】
次に、電子制御装置100による開閉タイミングCang,Oangの補正処理を
図11〜
図13に基づいて説明する。以下においては上記の算出部51〜63を特に区別せずに、一括して電子制御装置100として記載する。
【0063】
電子制御装置100は算出タイミングPSCALに至ると、開閉タイミングCang,Oangを算出するとともにその補正処理を行う。ステップS100において電子制御装置100は、算出タイミングPSCALにおける開閉タイミングCang,Oangを算出する。上記したように開閉タイミングCang,Oangは目標吐出量、目標燃圧、および、エンジン回転数に基づく値であり、吸気カムシャフト210のクランクシャフト201に対する位相差を考慮した値とはなっていない。開閉タイミングCang,Oangを算出すると、電子制御装置100はステップS200へと進む。
【0064】
ステップS200へ進むと電子制御装置100は、算出タイミングPSCALから開閉タイミングCang,Oangまでに吸気カムシャフト210がクランクシャフト201に対して変位する位相変動量dVTC,dVTOを算出する。この位相変動量dVTC,dVTOの算出処理は後で
図12,13に基づいて詳説する。位相変動量dVTC,dVTOを算出すると、電子制御装置100はステップS300へと進む。
【0065】
ステップS300へ進むと電子制御装置100は、位相変動量dVTC,dVTOに基づいて開閉タイミングCang,Oangを補正する。電子制御装置100はCang−dVTCを計算することで補正Cangを算出し、Oang−dVTOを計算することで補正Oangを算出する。これにより、吐出量と燃圧が目標値からずれることが抑制される。
【0066】
次に、
図12,13に基づいてステップS200を説明する。
図12に示すように、ステップS201において電子制御装置100は、算出タイミングPSCALから開閉タイミングCang,Oangに至るまでの待機時間Tc,Toを算出する。電子制御装置100はCang−PSCALを計算することで閉弁待機時間Tcを算出し、Oang−PSCALを計算することで開弁待機時間Toを算出する。待機時間Tc,Toを算出すると、電子制御装置100はステップS202へと進む。
【0067】
ステップS202へ進むと電子制御装置100は、クランク角とカム角とに基づいて、算出タイミングPSCALにおける実位相VTactを算出する。実位相VTactを算出すると、電子制御装置100はステップS203へと進む。
【0068】
ステップS203へ進むと電子制御装置100は、オイル温度に基づいて、算出タイミングPSCALにおける変位速度変化率Vsを算出する。変位速度変化率Vsを算出すると、電子制御装置100はステップS204へと進む。
【0069】
ステップS204へ進むと電子制御装置100は、実吸入空気量、目標吸入空気量、および、エンジン回転数に基づいて、算出タイミングPSCALにおける現在目標位相VTcReqと要求目標位相VTaReqを算出する。目標位相VTcReq,VTaReqを算出すると、電子制御装置100はステップS205へと進む。
【0070】
ステップS205へ進むと電子制御装置100は、要求目標位相VTaReqから現在目標位相VTcReqを減算して差分値ΔVTReqを算出する。また電子制御装置100は、スロットル開度、バルブ開度、エンジン回転数、および、インテークマニホールドの容積に基づいて、負荷応答時間Tlsを算出する。そして電子制御装置100は、差分値ΔVTReqと負荷応答時間Tlsに基づいて、先読み時間Te時におけるP補正量とD補正量を算出する。補正量を算出すると、電子制御装置100はステップS206へと進む。この補正量の算出については
図13に基づいて後で詳説する。
【0071】
ステップS206へ進むと電子制御装置100は、先読み時間Te時におけるP制御量とD制御量を算出する。上記したように、P制御量は((VTcReq−VT)+P補正量)×Pゲイン項であり、D制御量は((VTcReq−VT)偏差+D補正量)×Dゲイン項である。ただしVTは先読み時間Te=Δtの場合において実位相Vtactであり、それ以降の先読み時間Teでは、後述のステップS209にて算出される積算変位Vtestである。制御量を算出すると、電子制御装置100はステップS207へと進む。
【0072】
ステップS207へ進むと電子制御装置100は、P制御量とD制御量に基づいて、先読み時間Te時における駆動デューティを算出する。駆動デューティを算出すると、電子制御装置100はステップS208へと進む。
【0073】
ステップS208へ進むと電子制御装置100は、駆動デューティと変位速度変化率Vsとに基づいて、先読み時間Te時における推定変位VTeを算出する。推定変位VTeを算出すると、電子制御装置100はステップS209へと進む。
【0074】
ステップS209へ進むと電子制御装置100は、推定変位Vteを積算することで、積算変位Vtestを算出する。積算変位VTestを算出すると、電子制御装置100はステップS210へと進む。
【0075】
ステップS210へ進むと電子制御装置100は、推定変位Vteの積算が待機時間Tc,Toまで行われたか否かを判定する。換言すれば、先読み時間Teが待機時間Tc,Toに至ったか否かを判定する。至っていない場合、電子制御装置100はステップS205へと戻り、至っている場合、電子制御装置100は位相変動量dVTC,dVTOが算出されたと判定し、
図11のステップS300へと進む。
【0076】
図12に示すようにステップS205〜ステップS210はループとなっている。この1ループは上記した微小時間Δtごとに行われる。電子制御装置100は先読み時間Teが待機時間Tc,Toに至るまでステップS205〜ステップS210を順次繰り返す。こうすることで推定変位Vteを待機時間Tc,Toまで積算し、位相変動量dVTC,dVTOを算出する。
【0077】
次に、
図13に基づいてステップS205を説明する。
図13に示すように、ステップS211において電子制御装置100は、現在目標位相VTcReqと要求目標位相VTaReqの差分値ΔVTReqの絶対値が、所定値VTR以上か否かを判定する。差分値ΔVTReqが所定値VTR以上の場合、電子制御装置100はステップS212へと進む。これとは反対に差分値ΔVTReqが所定値VTRよりも小さい場合、電子制御装置100はステップS213へと進む。
【0078】
ステップS212へ進むと電子制御装置100は、先読み時間Teが、負荷応答時間Tls以下か否かを判定する。先読み時間Teが負荷応答時間Tls以下の場合、電子制御装置100はステップS214へと進む。これとは反対に先読み時間Teが負荷応答時間Tlsよりも大きい場合、電子制御装置100はステップS215へと進む。
【0079】
ステップS214へ進むと電子制御装置100は、ΔVTReq×Te/Tlsを計算することでP補正量を算出する。次いで電子制御装置100はP補正量の微小時間Δt当たりの偏差(微分値)を計算することでD補正量を算出する。
【0080】
これとは異なり、
図12のステップS205〜S210を繰り返した結果、ステップS212において先読み時間Teが負荷応答時間Tls以上であると判定してステップS215に進むと電子制御装置100は、P補正量=ΔVTReq、D補正量=0と固定する。
【0081】
またフローを少し遡り、ステップS211において差分値ΔVTReqが所定値VTRよりも小さいと判定してステップS213に進むと電子制御装置100は、P補正量=0、D補正量=0と固定する。
【0082】
以上に示したように差分値ΔVTReqが所定値VTRよりも小さい場合、補正量はゼロになる。しかしながら差分値ΔVTReqが所定値VTR以上の場合、少なくともP補正量は有限の値となる。先読み時間Teが負荷応答時間Tls以下の場合、P補正量はΔVTReq×Te/Tlsで表され、D補正量はその偏差で表される。しかしながら先読み時間Teが負荷応答時間Tlsよりも大きくなると、P補正量=ΔVTReq、D補正量=0と固定される。
【0083】
次に、本実施形態に係る電子制御装置100の作用効果を説明する。上記したように、算出タイミングPSCAL以降における目標位相の変化量(差分値ΔVTReq)と負荷応答時間Tlsに基づいて補正量を算出し、その補正量に基づいて制御量を算出する。そしてその制御量に基づいて微小時間Δtにおける位相の推定変位Vteを算出し、その推定変位Vteを待機時間Tc,Toまで積算して位相変動量dVTC,dVTOを算出する。最後にこの位相変動量dVTC,dVTOに基づいて開閉タイミングCang,Oangを補正する。これによれば、目標位相が時間変化せずに一定とみなして開閉タイミングCang,Oangを補正する構成と比べて、高圧燃料の吐出量と燃圧それぞれが目標値からずれることが抑制される。
【0084】
目標位相の差分値ΔVTReqの絶対値が所定値VTRよりも低い場合、補正量をゼロにし、差分値ΔVTReqの絶対値が所定値VTR以上の場合、差分値ΔVTReqおよび負荷応答時間Tlsに基づいて補正量を算出する。
【0085】
これによれば目標位相の時間変動が安定していない場合に制御量を補正した結果、開閉タイミングCang,Oangの補正精度が低下し、それによって高圧燃料の吐出量と燃圧それぞれが目標値からさらにずれることが抑制される。
【0086】
差分値ΔVTReqの絶対値が所定値以上の場合、VTaReq−VTcReqを計算することで得られた差分値ΔVTReq、および、負荷応答時間Tlsに基づいて補正量を算出する。これによれば目標位相が減少する時間変化をしている場合に制御量を減算補正し、その逆に目標位相が増大する時間変化をしている場合に制御量を増大補正することができる。
【0087】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上記した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0088】
本実施形態において変位速度算出部59は、温度センサ244によって検出された内燃機関200の冷却水温度に基づいて可変バルブタイミング機構220のオイル温度を検出する例を示した。しかしながら可変バルブタイミング機構220のオイル温度若しくはオイル圧力を直接測定するセンサが設けられている場合、変位速度算出部59はそのセンサの出力に基づいて、吸気カムシャフト210のクランクシャフト201に対する変位速度変化率Vsを算出しても良い。
【0089】
本実施形態ではカムシャフト210,211それぞれに可変バルブタイミング機構220が連結された例を示した。しかしながらカムシャフト210,211のいずれか一方のみに可変バルブタイミング機構220が連結された構成を採用することもできる。
【0090】
本実施形態では吸気カムシャフト210と高圧燃料ポンプ230とが連動する構成を示した。しかしながらこれとは異なり、排気カムシャフト211と高圧燃料ポンプ230とが連動する構成を採用することもできる。