(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加速度推定手段は、前記加速度の注目周波数、前記加速度検出手段によって検出された前記加速度のナイキスト周波数、及び前記選択条件として予め定められた推定精度に基づいて、前記選択条件としての推定精度を満たし、かつ前記ステアリングホイールの予め定められた位置の加速度、角加速度、及び角速度を推定する計算時間が最も短い前記推定方法を選択する
請求項1又は請求項2に記載のステアリング状態推定装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
[第1の実施の形態]
<ステアリング状態推定装置10の構成>
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係るステアリング状態推定装置10は、ステアリング状態推定装置10を搭載した車両のステアリングホイールに作用する力及びトルクを検出する6分力計12と、ステアリングホイールの複数箇所の各々における加速度を検出する加速度センサ14と、コンピュータ20とを備えている。6分力計12は検出手段の一例であり、加速度センサ14は加速度検出手段の一例である。また、本発明の実施の形態に係るステアリング状態推定装置は、ドライバがステアリングホイールに作用させる6分力を推定することに適用可能である。
【0020】
本実施の形態のステアリング状態推定装置10を搭載した車両のステアリングホイールの詳細について説明する。
図2及び
図3にステアリングホイールの一例を示す。
図2に示すように、ステアリング状態推定装置10を搭載した車両のステアリングホイールBは、グリップ部Cを含んで構成される。本実施の形態では、ステアリングホイールB全体を剛体と仮定する。本発明の実施の形態に係るステアリング状態推定装置10は、推定されたステアリングホイールBの加速度を用いて慣性力を推定し、グリップ部Cにかかる力から慣性力を除去することにより、ドライバのステアリング操作力を精度良く推定することができる。
【0021】
ステアリングホイールBには、
図2に示すように、ステアリングホイールBのグリップ部Cに作用する力及びトルクを検出する6分力計12が設置されている。6分力計12によってステアリングホイールBのグリップ部Cに作用する力f
mesを検出する場合には、グリップ部Cを6分力計12に取り付ける必要がある。そのため、グリップ部Cに作用する力f
mesには、グリップ部Cへドライバが作用させた操作力f
extだけでなく、グリップ部Cの質量による慣性力f
intが含まれる。特に、車両上で力を検出する場合には、車両運動に伴う慣性力の影響を受けるため、検出された力の精度が良好でないという問題がある。本実施の形態では、ステアリングホイールの加速度、角加速度、及び角速度を用いた慣性補償を行うことで、精度良くドライバの操作力を推定する。また、車両の姿勢角、車両の加速度、操舵角を検出することなく慣性補償を可能とする。
【0022】
また、ステアリングホイールBには、
図3に示すように、加速度センサ14として、3個の3軸並進加速度計E
i(i=1,2,3)が設置されている。
図4に、加速度センサ14の詳細な構成例を示す。
図4に示すように、本実施の形態の加速度センサ14は、上記3個の3軸並進加速度計E
iを含んで構成される。本実施の形態では、上記
図3に示すように、ステアリングホイールBに固定された3個の3軸並進加速度計E
iを用いて、ステアリングホイールの複数箇所の各々における加速度を計測する。3軸並進加速度計を用いてステアリングホイールの加速度、角加速度、及び角速度を推定するためには、少なくとも3個の加速度計を1直線上に並ばないように取り付ける必要があり、上記
図3における3軸並進加速度計の設置箇所はこの条件を満たす。なお、3軸並進加速度計E
iは重力加速度も検出できるものとする。
【0023】
また、ステアリングホイールB上の点bを原点とするステアリング座標系をΣ
b、6分力計12内部の点dを原点として6分力計12と同じ向きの6分力計座標系をΣ
dとする。ステアリング座標系及び6分力計座標系は、ステアリングホイールとともに移動する。原点bは、予め定められた位置の一例である。
【0024】
6分力計12によるグリップ部Cに作用する力及びトルクの検出によって、6分力計座標系Σ
dで表した6分力
【0027】
加速度センサ14の3個の3軸並進加速度計E
iは、ステアリングホイールB上の3軸並進加速度計E
iの設置箇所の各々における、複数の軸方向の各々の加速度を検出する。また、上記
図3に示すように、3軸並進加速度計E
i内部の点p
i(i=1,2,3)を原点として、3軸並進加速度計E
iと同じ向きの加速度計座標系をΣ
i(i=1,2,3)とする。
【0028】
3軸並進加速度計E
iの加速度の検出により、加速度計座標系Σ
iで表した加速度
【0031】
コンピュータ20は、CPUと、RAMと、後述する各処理ルーチンを実行するためのプログラムを記憶したROMとを備え、機能的には次に示すように構成されている。コンピュータ20は、上記
図1に示すように、6分力計12によって検出されたグリップ部Cに作用する力及びトルクと、加速度センサ14によって検出されたステアリングホイールBの複数箇所の各々における、複数の軸方向の各々の加速度とを取得する情報取得部22と、取得されたステアリングホイールBの複数箇所の各々における、複数の軸方向の各々の加速度に基づいて、ステアリングホイールBの位置bの加速度、ステアリングホイールBの角加速度、及びステアリングホイールBの角速度を推定する加速度推定部24と、加速度推定部24によって推定されたステアリングホイールBの位置bの加速度、ステアリングホイールBの角加速度、及びステアリングホイールBの角速度に基づいて、グリップ部Cに発生する慣性力を推定する慣性力推定部26と、情報取得部22によって取得された力及びトルクと、慣性力推定部26によって推定された慣性力とに基づいて、ドライバがグリップ部Cに加えた力及びトルクを推定する操作力推定部28とを備えている。
【0032】
情報取得部22は、6分力計12によって検出されたグリップ部Cに作用する力及びトルクと、加速度センサ14によって検出されたステアリングホイールBの複数箇所の各々における加速度とを逐次取得する。
【0033】
加速度推定部24は、情報取得部22によって取得されたステアリングホイールBの複数箇所の各々における加速度a
i(i=1,2,3)から、ステアリングホイールBの位置bの加速度、ステアリングホイールBの角加速度、及びステアリングホイールBの角速度を推定する。
【0034】
具体的には、加速度推定部24は、ステアリングホイールBの加速度の注目周波数、情報取得部22によって検出されたステアリングホイールBの複数箇所の各々における加速度のナイキスト周波数、及び選択条件として予め定められた推定精度に基づいて、予め定められた複数の推定方法から、選択条件としての推定精度を満たす推定方法を選択する。ステアリングホイールBの位置bの加速度の注目周波数は、ステアリングホイールBの加速度に含まれる振動周波数を表すステアリング振動周波数のうち、解析対象として注目したい周波数を表す。第1の実施の形態では、注目周波数は予め定められている。
【0035】
そして、加速度推定部24は、選択された推定方法に従って、情報取得部22によって取得された複数の箇所の各々における、複数の軸方向の各々の加速度a
iから、ステアリングホイールBの位置bの加速度a
b、ステアリングホイールBの角加速度ω
b・、及びステアリングホイールBの角速度ω
bを推定する。
【0036】
ここで、予め定められた複数の推定方法は、ステアリング振動周波数及びナイキスト周波数に対する推定精度が異なる複数の推定方法であり、かつ、ステアリングホイールBの位置bの加速度、ステアリングホイールBの角加速度、及びステアリングホイールBの角速度を推定するためのものである。本実施の形態では、3つの推定方法から、推定精度を満たす推定方法を選択する場合を例に説明する。
【0037】
以下、加速度推定部24の詳細な処理を説明する。
【0038】
(推定方法)
本実施の形態では、加速度センサ14の3個の3軸並進加速度計E
iによって検出された加速度a
iから、ステアリングホイールBの位置bの加速度、ステアリングホイールBの角加速度、及びステアリングホイールBの角速度を推定するアルゴリズムを用いる。まず、ステアリングホイールBの位置bの加速度、ステアリングホイールBの角加速度、及びステアリングホイールBの角速度を推定するための複数の推定方法について説明する。本実施の形態では、上記
図3に示すように、ステアリング座標系Σ
bで表したp
iの位置を
【0040】
とし、ステアリング座標系Σ
bから加速度計座標系Σ
iへの方向余弦行列を
【0043】
また、時刻tにおける3軸並進加速度計E
iの計測値を
【0045】
とする。また、Σ
bで表したステアリングホイールBの位置bの加速度を
【0047】
とする。また、Σ
bで表したステアリングホイールBの角加速度を
【0049】
とする。また、Σ
bで表したステアリングホイールBの角速度を
【0052】
ステアリングホイールBの運動により3軸並進加速度計E
iの計測値a
i(t)が得られた場合、ステアリングホイールBの位置bの加速度a
b(t)及びステアリングホイールBの角加速度ω
b・(t)は、以下の式(1)の関係を満たすように求められる。
【0054】
ここで、上記式(1)の記号「〜」について説明する。例えば、ベクトル
【0062】
となる。上記チルダマトリクスを用いて、aとbとの外積は
【0065】
上記式(1)に含まれる角速度ω
b(t)は角加速度ω
b・(t)の数値積分により算出される。本実施の形態では、各種の数値積分法のうち、代表的な積分法である(a)オイラー法、(b)後方オイラー法、及び(c)台形法を用いる場合を例に説明する。
【0066】
(a)オイラー法を用いた推定方法
まず、3種類の推定方法のうちオイラー法について説明する。3個の3軸並進加速度計の計測値a
1(t),a
2(t),a
3(t)を考えると、上記式(1)に対し、
【0070】
の関係が成り立つ。ここで、時刻tにおけるステアリングホイールBの角速度ω
b(t)をオイラー法
【0072】
を用いて求める。なお、Δtはサンプリング間隔である。これにより、時刻tにおいてω
b(t−Δt)、ω
b・(t−Δt)が既知であれば、上記式(2)は加速度a
b(t)および角加速度ω
b・(t)に対して線形となる。本実施の形態では、3個の3軸並進加速度計を用いるため、上記式(2)は6個の未知変数に対し9個の方程式となる。そこで、上記式(3)に示した
【0080】
以上、述べられた方法に従えば、時刻t=0から逐次的にステアリングホイールBの位置bの加速度及びステアリングホイールBの角加速度を推定できる。なお、上記式(6)には初期値が必要であるが、静止状態から計測を開始すれば
【0083】
オイラー法は最も簡単な陽解法である。陽解法を用いる場合、上記式(2)を線形化でき、上記式(5)、(6)に示した簡単な計算により高速に推定値を求められる。
【0084】
(b)後方オイラー法を用いた推定方法
次に、3種類の推定方法のうち後方オイラー法について説明する。時刻tにおけるステアリングホイールBの角速度の推定値^ω
b(t)を、後方オイラー法
【0086】
を用いて求める。このとき、上記式(2)は非線形方程式となるため、推定すべきステアリングホイールBの位置bの加速度及びステアリングホイールBの角加速度
【0090】
とした最小化問題により求める。さらに、オイラー法を用いる場合と同様に、時刻t=0から逐次的にステアリングホイールBの位置bの加速度及びステアリングホイールBの角加速度を推定できる。
後方オイラー法は最も簡単な陰解法である。陰解法を用いる場合には収束計算が必要となり、陽解法の場合と比較すると計算量が多い。
【0091】
(c)台形法を用いた推定方法
次に、3種類の推定方法のうち台形法について説明する。時刻tにおけるステアリングホイールBの角速度の推定値^ω
b(t)を、台形法(台形公式)
【0093】
を用いて求める。このとき、後方オイラー法を用いる場合と同様に、推定すべき加速度および角加速度
【0095】
は、目的関数J(t)を上記式(8)とした最小化問題により得られる。さらに、同様に時刻t=0から逐次的にステアリングホイールBの位置bの加速度及びステアリングホイールBの角加速度を推定できる。
【0096】
台形法は後方オイラー法よりも計算量が多い。しかしながら、台形法はオイラー法および後方オイラー法に比較して精度に優れる。
【0097】
以上、3つの数値積分法を一般化すると、
【0101】
は重み係数であり、γ=0でオイラー法、γ=1/2で台形法、γ=1で後方オイラー法となる。γ>0では陰解法となるため、(b)、(c)と同様に、上記式(8)の目的関数を用いた最小化問題により推定を行う。
【0102】
(推定方法の選択)
次に、推定方法の選択について説明する。本実施の形態では、推定対象である、ステアリングホイールBの位置bの加速度a
b、ステアリングホイールBの角加速度ω
b・、及びステアリングホイールBの角速度ω
bに対し要求する推定精度εと、加速度センサ14によって検出された加速度a
iのナイキスト周波数f
Nと、ステアリングホイールBの位置bの加速度a
b、ステアリングホイールBの角加速度ω
b・、及びステアリングホイールBの角速度ω
bの注目周波数f
v’に基づいて、推定方法を選択する。
【0103】
推定方法の選択には、
図5及び
図6に示すようなマップを用いる。
図5は、ステアリング振動周波数f
v及びナイキスト周波数f
Nの比f
v/f
Nと推定誤差εとの関係を表すマップの一例である。また、
図6は、ステアリング振動周波数f
v及びナイキスト周波数f
Nの比f
v/f
Nと計算時間との関係を表すマップの一例である。
図5及び
図6の(a)、(b)、(c)は推定方法の種類を示し、(a)オイラー法を用いた推定方法、(b)後方オイラー法を用いた推定方法、及び(c)台形法を用いた推定方法を表す。
【0104】
上記
図5及び上記
図6に示すような予め生成されたマップに基づいて、例えば
図5に示すように、f
v/f
N=αである場合に、ステアリングホイールBの位置bの加速度a
b、ステアリングホイールBの角加速度ω
b・、及びステアリングホイールBの角速度ω
bを推定誤差ε[%]以内で推定したい場合、(a)、(b)、(c)は全て推定誤差ε[%]以内であるため、加速度推定部24は、
図6に示す計算時間が最も短い推定方法(a)を選択する。
【0105】
一方、
図5に示すように、f
v/f
N=βである場合に、推定誤差ε[%]以内で推定したい場合、条件を満たすのは(c)のみであり、加速度推定部24は、推定方法(c)を選択する。
【0106】
(マップの作成方法)
次に、推定精度ε、ナイキスト周波数f
N、及び注目周波数f
v’に基づいて、推定方法を選択する際に用いるマップの作成方法を説明する。本実施の形態では、以下の手順(1)〜(4)によって、前述の推定アルゴリズムのシミュレーションを行い、マップを事前に作成する。
【0107】
(1)まず、実車走行中におけるステアリングホイールの挙動を模擬したステアリング振動周波数f
vのステアリング振動入力値
【0110】
例えば、ステアリング振動周波数f
vを
図7に示す5条件とする。
【0113】
で振動した際に、サンプリング周波数f
s(またはナイキスト周波数f
N)の3軸並進加速度計により得られるであろう加速度a
i(t)を、上記式(1)により算出する。
【0114】
(3)算出されたa
i(t)を用いて前述の推定アルゴリズムにより推定値
【0117】
例えば、シミュレーションでは、
図8に示す6条件で推定を行う。
【0122】
とを比較した推定誤差と、加速度a
i(t)から、推定値
【0124】
を推定する計算時間を求め、マップを作成する。
【0125】
図9及び
図10にマップの例を示す。
図9及び
図10は、横軸をステアリング振動周波数とナイキスト周波数との比f
v/f
N、縦軸を推定誤差および計算時間としたグラフである。
【0126】
慣性力推定部26は、加速度推定部24によって推定されたステアリングホイールBの位置bの加速度a
b、ステアリングホイールBの角加速度ω
b・、及びステアリングホイールBの角速度ω
bに基づいて、グリップ部Cに発生する慣性力を推定する。
【0127】
具体的には、慣性力推定部26は、まず、加速度推定部24によって推定されたステアリングホイールBの位置bの加速度a
b、ステアリングホイールBの角加速度ω
b・、及びステアリングホイールBの角速度ω
bに基づいて、6分力計質量中心の加速度a
d、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角加速度ω
d・、及び6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角速度ω
dを算出する。次に、慣性力推定部26は、算出した6分力計質量中心の加速度a
d、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角加速度ω
d・、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角速度ω
dを用いて、原点dに作用する6分力計座標系Σ
dで表した慣性力を推定する。
【0128】
(6分力計質量中心の加速度、角加速度、及び角速度の算出)
まず、6分力計質量中心の加速度a
d、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角加速度ω
d・、及び6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角速度ω
dを算出する方法について具体的に説明する。
【0129】
6分力計12の質量中心点をm
cとし、また、ステアリング座標系Σ
bで表した点m
cの位置を
【0131】
とする。また、6分力計座標系Σ
dで表した点m
cの位置を
【0133】
とし、Σ
bからΣ
dへの方向余弦行列を
【0136】
そして、慣性力推定部26は、加速度推定部24によって推定されたステアリングホイールBの位置bの加速度a
b、ステアリングホイールBの角加速度ω
b・、及びステアリングホイールBの角速度ω
bを用いて、6分力計座標系Σ
dで表した6分力計質量中心m
cの加速度
【0138】
、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角加速度
【0140】
、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角速度
【0142】
を、以下の式(12)に従って推定する。
【0144】
なお、6分力計質量中心の加速度a
d、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角加速度ω
d・、及び6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角速度ω
dを算出する手順は、加速度推定部24による推定において、加速度センサ14で検出した加速度から6分力計座標系Σ
dで表した6分力計質量中心点m
cの加速度a
d、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角加速度ω
d・、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角速度ω
dを直接算出する場合には不要となる。しかし、本実施の形態のように、6分力計12が複数存在する場合には、6分力計質量中心の加速度a
d、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角加速度ω
d・、及び6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角速度ω
dを算出する手順が有用となる。
【0145】
(慣性力の算出)
次に、算出された6分力計質量中心の加速度a
d、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角加速度ω
d・、及び6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角速度ω
dに基づいて、慣性力を推定する方法について具体的に説明する。
【0146】
6分力計座標系Σ
dで表した6分力計12の有効質量マトリクスを
【0150】
とする。mは有効質量、I
xx、I
yy、I
zzは慣性モーメント、I
xy、I
yz、I
zxは慣性乗積である。
【0151】
慣性力推定部26は、算出された、6分力計質量中心の加速度a
d、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角加速度ω
d・、6分力計座標系Σ
dで表したステアリングホイールBの角速度ω
dに基づいて、原点dに作用する6分力計座標系Σ
dで表した慣性力
【0153】
を、以下の式(13)に従って推定する。
【0155】
操作力推定部28は、情報取得部22によって取得された力及びトルクと、慣性力推定部26によって推定された慣性力とに基づいて、車両のドライバがグリップ部Cに加えた力及びトルクを推定する。
【0156】
具体的には、操作力推定部28は、情報取得部22によって取得された6分力F
mesから、慣性力推定部26によって推定された慣性力F
intを、以下の式(14)に示すように除去することで、ドライバがグリップ部Cに加えた力及びトルク
【0160】
そして、操作力推定部28は、推定された力及びトルクを、ドライバによるステアリング操作力として出力する。
【0161】
<ステアリング状態推定装置の作用>
次に、本発明の実施の形態に係るステアリング状態推定装置10の作用について説明する。ステアリング状態推定装置10を搭載した車両が走行しているときに、ステアリング状態推定装置10の電源(図示せず)がオンされると、6分力計12によってグリップ部Cに作用する力及びトルクが検出され、加速度センサ14によってステアリングホイールBの複数箇所の各々における加速度が検出される。そして、所定時間間隔(例えば、1ミリ秒間隔)毎に、
図11に示すステアリング状態推定処理ルーチンが実行される。
【0162】
まず、ステップS100において、情報取得部22は、6分力計12によって検出されたグリップ部Cに作用する力及びトルクを取得する。
【0163】
次のステップS102において、情報取得部22は、加速度センサ14によって検出されたステアリングホイールBの複数箇所の各々における加速度を逐次取得する。
【0164】
次のステップS104において、加速度推定部24は、ステアリングホイールBの位置bの加速度の注目周波数、上記ステップS102で取得されたステアリングホイールBの複数箇所の各々における加速度のナイキスト周波数、及び選択条件として予め定められた推定精度εに基づいて、(a)オイラー法を用いた推定方法、(b)後方オイラー法を用いた推定方法、及び(c)台形法を用いた推定方法から、選択条件としての推定精度εを満たす推定方法を選択する。そして、加速度推定部24は、選択された推定方法に従って、上記ステップS102で取得された複数の箇所の各々における加速度a
iから、ステアリングホイールBの位置bの加速度a
b、ステアリングホイールBの角加速度ω
b・、及びステアリングホイールBの角速度ω
bを推定する。
【0165】
次のステップS106において、慣性力推定部26は、上記ステップS104で推定されたステアリングホイールBの位置bの加速度a
b、ステアリングホイールBの角加速度ω
b・、及びステアリングホイールBの角速度ω
bに基づいて、グリップ部Cに発生する慣性力を推定する。
【0166】
次のステップS108において、操作力推定部28は、上記ステップS100で取得された力及びトルクと、上記ステップS106で推定された慣性力とに基づいて、車両のドライバがグリップ部Cに加えた力及びトルクを推定する。
【0167】
ステップS110において、操作力推定部28は、上記ステップS108で推定された車両のドライバがグリップ部Cに加えた力及びトルクを、ステアリング操作力として出力して、ステアリング状態推定処理ルーチンを終了する。
【0168】
以上説明したように、第1の実施の形態に係るステアリング状態推定装置によれば、ステアリングホイールの予め定められた位置の加速度の注目周波数、検出されたステアリングホイールの複数箇所の加速度のナイキスト周波数、及び選択条件として予め定められた推定精度に基づいて、注目周波数及びナイキスト周波数に対する推定精度が異なる複数の推定方法から、選択条件としての推定精度を満たす推定方法を選択し、選択された推定方法に従って、検出された複数の箇所の各々における加速度から、ステアリングホイールの予め定められた位置の加速度、角加速度、及び角速度を推定することにより、推定精度及び計算時間を考慮して、ステアリングホイールの予め定められた位置の加速度、角加速度、及び角速度を推定することができる。
【0169】
また、推定されたステアリングホイールの予め定められた位置の加速度、角加速度、及び角速度に基づいて、グリップ部に発生する慣性力を推定し、6分力計によって検出された力及びトルクと、推定された慣性力とに基づいて、ドライバがグリップ部に加えた力及びトルクを推定することにより、ステアリング操作力を精度よく推定することができる。
【0170】
また、車両の姿勢角、車両の加速度、操舵角を検出することなく慣性補償が可能となる。
【0171】
[第2の実施の形態]
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同様の構成となる部分については、同一符号を付して説明を省略する。
【0172】
第2の実施の形態では、加速度センサ14によって検出されたステアリングホイールの複数箇所の加速度に含まれる周波数成分に基づいて、注目周波数を決定する点が、第1の実施の形態と異なっている。
【0173】
<ステアリング状態推定装置210の構成>
図12に示すように、本発明の第2の実施の形態に係るステアリング状態推定装置210は、ステアリング状態推定装置210を搭載した車両のステアリングホイールに作用する力及びトルクを検出する6分力計12と、ステアリングホイールの複数箇所の各々における加速度を検出する加速度センサ14と、コンピュータ220とを備えている。
【0174】
コンピュータ220は、CPUと、RAMと、後述する各処理ルーチンを実行するためのプログラムを記憶したROMとを備え、機能的には次に示すように構成されている。コンピュータ220は、上記
図12に示すように、情報取得部22と、取得されたステアリングホイールBの複数箇所の各々における加速度に基づいて、注目周波数を決定する注目周波数決定部223と、取得されたステアリングホイールBの複数箇所の各々における加速度と、注目周波数決定部223によって決定された注目周波数とに基づいて、ステアリングホイールBの位置bの加速度、ステアリングホイールBの角加速度、及びステアリングホイールBの角速度を推定する加速度推定部224と、加速度推定部224によって推定されたステアリングホイールBの位置bの加速度、ステアリングホイールBの角加速度、及びステアリングホイールBの角速度に基づいて、グリップ部Cに発生する慣性力を推定する慣性力推定部26と、操作力推定部28とを備えている。注目周波数決定部223は、決定手段の一例である。
【0175】
注目周波数決定部223は、情報取得部22によって取得されたステアリングホイールの複数箇所の加速度に含まれる周波数成分に基づいて、注目周波数を決定する。
【0176】
具体的には、注目周波数決定部223は、後述する加速度推定部224で用いる注目周波数f
v’を決定するために、情報取得部22によって取得されたステアリングホイールの加速度a
iを用いて、以下に示す手順(1)〜(3)に従って、注目周波数f
v’を決定する。
【0177】
(1)注目周波数決定部223は、加速度センサ14の3軸並進加速度計E
iの計測値a
1x(t),a
1y(t),a
1z(t),a
2x(t),a
2y(t),a
2z(t),a
3x(t),a
3y(t),a
3z(t)[m/sec
2]から、FFT(FFT:Fast Fourier Transform)を用いて、各計測値の周波数fごとのパワースペクトル密度P
1x(f),P
1y(f),P
1z(f),P
2x(f),P
2y(f),P
2z(f),P
3x(f),P
3y(f),P
3z(f)[(m/sec
2)
2/Hz]を求める。
【0178】
(2)次に、注目周波数決定部223は、上記手順(1)で求めたパワースペクトル密度を用いて、以下の式(15)に従って、パワースペクトル密度S(f)[(m/sec
2)
2/Hz]を求める。
【0180】
(3)そして、注目周波数決定部223は、パワースペクトル密度S(f)[(m/sec
2)
2/Hz]が最大となる周波数fを、注目周波数f
v’として決定する。
【0181】
加速度推定部224は、注目周波数決定部223によって決定された注目周波数f
v’、加速度センサ14によって検出された加速度のナイキスト周波数f
N、及び選択条件として予め定められた推定精度εに基づいて、選択条件としての推定精度εを満たす推定方法を選択する。そして、加速度推定部224は、選択された推定方法に従って、情報取得部22によって取得された複数の箇所の各々における、複数の軸方向の各々の加速度a
iから、ステアリングホイールBの位置bのa
b、ステアリングホイールBの角加速度ω
b・、及びステアリングホイールBの角速度ω
bを推定する。
【0182】
<ステアリング状態推定装置の作用>
次に、本発明の実施の形態に係るステアリング状態推定装置210の作用について説明する。ステアリング状態推定装置210を搭載した車両が走行しているときに、ステアリング状態推定装置210の電源(図示せず)がオンされると、6分力計12によってグリップ部Cに作用する力及びトルクが検出され、加速度センサ14によってステアリングホイールBの複数箇所の各々における加速度が検出される。そして、所定時間間隔(例えば、1ミリ秒間隔)で、
図13に示すステアリング状態推定処理ルーチンが実行される。
【0183】
まず、ステップS100で、情報取得部22は、6分力計12によって検出されたグリップ部Cに作用する力及びトルクを取得する。
【0184】
次のステップS102では、情報取得部22は、加速度センサ14によって検出されたステアリングホイールBの複数箇所の各々における加速度を逐次取得する。
【0185】
ステップS203において、注目周波数決定部223は、上記ステップS102で取得されたステアリングホイールBの複数箇所の各々における加速度に含まれる周波数成分に基づいて、注目周波数を決定する。
【0186】
次のステップS204では、加速度推定部224は、上記ステップS203で決定された注目周波数、上記ステップS102で取得されたステアリングホイールBの複数箇所の各々における加速度のナイキスト周波数、及び選択条件として予め定められた推定精度εに基づいて、予め定められた複数の推定方法から、選択条件としての推定精度εを満たす推定方法を選択する。そして、加速度推定部224は、選択された推定方法に従って、上記ステップS102で取得された複数の箇所の各々における、複数の軸方向の各々の加速度a
iから、ステアリングホイールBの位置bの加速度a
b、ステアリングホイールBの角加速度ω
b・、及びステアリングホイールBの角速度ω
bを推定する。
【0187】
次のステップS106では、慣性力推定部26は、上記ステップS204で推定されたステアリングホイールBの位置bの加速度a
b、ステアリングホイールBの角加速度ω
b・、及びステアリングホイールBの角速度ω
bに基づいて、グリップ部Cに発生する慣性力を推定する。
【0188】
次のステップS108では、操作力推定部28は、上記ステップS100で取得された力及びトルクと、上記ステップS106で推定された慣性力とに基づいて、車両のドライバがグリップ部Cに加えた力及びトルクを推定する。
【0189】
ステップS110では、操作力推定部28は、推定された車両のドライバがグリップ部Cに加えた力及びトルクを、ステアリング操作力として出力して、ステアリング状態推定処理ルーチンを終了する。
【0190】
以上説明したように、第2の実施の形態に係るステアリング状態推定装置によれば、検出されたステアリングホイールの複数箇所の加速度に含まれる周波数成分に基づいて、注目周波数を決定し、決定された注目周波数、検出された加速度のナイキスト周波数、及び選択条件として予め定められた推定精度に基づいて、注目周波数及びナイキスト周波数に対する推定精度が異なる複数の推定方法から、選択条件としての推定精度を満たす推定方法を選択し、選択された推定方法に従って、検出されたステアリングホイールの複数の箇所の各々における加速度から、ステアリングホイールの予め定められた位置の加速度、角加速度、及び角速度を推定することにより、推定精度及び計算時間を考慮して、ステアリングホイールの予め定められた位置の加速度、角加速度、及び角速度を推定することができる。
【0191】
また、推定されたステアリングホイールの予め定められた位置の加速度、角加速度、及び角速度に基づいて、グリップ部に発生する慣性力を推定し、6分力計によって検出された力及びトルクと、推定された慣性力とに基づいて、ドライバがグリップ部に加えた力及びトルクを推定することにより、ステアリング操作力を精度よく推定することができる。
【0192】
なお、上記実施の形態では、推定されたステアリングホイールの予め定められた位置の加速度、角加速度、及び角速度に基づいて、グリップ部に発生する慣性力を推定し、6分力計によって検出された力及びトルクと推定された慣性力とに基づいて、ドライバがグリップ部に加えた力及びトルクを推定する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、ステアリングホイールの予め定められた位置の加速度、角加速度、及び角速度を推定する処理のみを行ってもよい。
【0193】
また、上記実施の形態では、上記
図2に示す位置に6分力計12を配置した例について説明したが、上記
図2に示す位置に配置しなくともよい。
【0194】
また、上記実施の形態では、グリップ部Cが、それぞれ、いわゆる3時、9時の位置に配置された例について説明したが、本発明はこれに限られず、どのような位置であってもよい。
【0195】
また、上記実施の形態では、上記
図3に示す位置に3個の3軸並進加速度計E
iを設置する場合を例に説明したが、3個の3軸並進加速度計E
iの設置位置は、上記
図3に示す位置に限定されない。
【0196】
本発明のプログラムは、記憶媒体に格納して提供するようにしてもよい。