特許第6443248号(P6443248)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6443248ワイヤハーネス用の止水具および該止水具を備えた止水構造
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443248
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】ワイヤハーネス用の止水具および該止水具を備えた止水構造
(51)【国際特許分類】
   H02G 15/113 20060101AFI20181217BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20181217BHJP
   B60R 16/02 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   H02G15/113
   H01B7/00 301
   B60R16/02 620Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-141602(P2015-141602)
(22)【出願日】2015年7月15日
(65)【公開番号】特開2016-186930(P2016-186930A)
(43)【公開日】2016年10月27日
【審査請求日】2017年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2015-67477(P2015-67477)
(32)【優先日】2015年3月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】西本 和也
(72)【発明者】
【氏名】徳永 裕明
(72)【発明者】
【氏名】小葉松 和憲
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−214053(JP,A)
【文献】 特開2000−322940(JP,A)
【文献】 特開2004−139874(JP,A)
【文献】 特開2003−009373(JP,A)
【文献】 特開平07−308010(JP,A)
【文献】 特開2010−252430(JP,A)
【文献】 特開2010−231978(JP,A)
【文献】 特開2006−318716(JP,A)
【文献】 米国特許第06108202(US,A)
【文献】 特開2016−162631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 15/113
B60R 16/02
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
本体と蓋とからなり、該本体の内部を仕切壁で仕切って小容積の止水室と該止水室より容積が大きい止水剤溜め室とに仕切り、前記蓋に止水室へ止水剤を注入する止水剤注入口を設ける一方、前記仕切壁の高さ方向の中間位置に芯線挿通用兼止水剤流通用の開口を設けると共に、該仕切壁を挟む前記止水剤溜め室および止水室の両側壁に電線挿通口を設け、前記止水室に注入する止水剤は該止水室内に充満した後に前記開口を挿通する芯線の外周と前記開口の内周の間の空間から止水剤溜め室に押し出される構成としていることを特徴とするワイヤハーネス用の止水具。
【請求項2】
前記止水剤溜め室の内部にスプライス部の位置決め保持手段を設け、前記仕切壁に設ける前記開口に前記位置決め保持手段で保持されるスプライス部に連続する1本の電線の芯線を貫通させると共に該芯線の外周と開口の内周との間の空間を止水剤流通用の空間とし、該空間から前記止水室内に止水剤が充満された後に該止水剤が前記止水剤溜め室内に押し出される構成としている請求項1に記載のワイヤハーネス用の止水具。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネス用の止水具を備えた止水構造であり、複数本のシールド線のドレン線と被覆電線からなるアース線の皮剥端末から露出させた撚線からなる芯線とをジョイントしてスプライス部を形成し、前記アース線を電気接続箱内の回路に前記シールド線のコア線と共にコネクタ接続しており、前記スプライス部を前記止水具の前記止水剤溜め室内に配置すると共に、前記仕切壁の開口に前記スプライス部に連続する前記アース線の芯線を貫通し、前記止水室内に前記アース線の皮剥端を位置させて該アース線の絶縁被覆された部分を前記電線挿通口より引き出して前記電気接続箱に接続している止水具を備えた止水構造。
【請求項4】
前記シールド線と接続する前記電気接続箱として電子制御ユニット(ECU)が用いられ、該ECUはエンジンルームからなる浸水領域に搭載されている請求項に記載の止水具を備えた止水構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワイヤハーネス用の止水具および該止水具を備えた止水構造に関し、特に、車両に搭載するECU(電子制御ユニット)に接続する複数本のシールド線のドレン線と被覆電線とをスプライスしたアース線を設け、該アース線をECU内のアース回路と接続する回路において、前記スプライス部を止水して前記アース線からECUへの浸水防止を図る場合に好適に用いられるものである。
【背景技術】
【0002】
近時、車両に搭載するECUが増加すると共に、該ECUからの制御信号を駆動機器等の補機に送信するためシールド線が用いられる場合が多い。この場合、図8に示すように、ECU100と補機102とを複数本のシールド線105(105A、105B、〜105n)を含むワイヤハーネスで接続している。各シールド線105はECU100および補機102との接続端末でシース106を剥離してコア線(被覆電線)108とドレン線109を露出させ、コア線108の端末に接続した端子TをECU100および補機102のコネクタに接続している。一方、複数本のシールド線105の被覆していない裸線からなるドレン線109と一般の被覆電線112の一端側の芯線113をスプライスし、被覆電線112の他端に接続した端子TをECU100にコネクタ接続している。
【0003】
ドレン線109と被覆電線112の芯線113とのスプライスは中間圧着端子を用いた加締め圧着また溶接で行い、このスプライス部分を止水している。このスプライス部分の止水はブチルテープおよび粘着テープを巻き付け、あるいは樹脂製の止水キャップ内にスプライス部を挿入し、あるいは樹脂モールドして行っている。
【0004】
前記スプライス部分の止水構造として、従来、特開平11−214053号で図9に示す防水保護カバー300が提供されている。該防水保護カバー300はシールド線のドレン線と被覆電線の芯線とのスプライス部の止水ではなく、被覆電線同士のスプライス部の止水を対象とし、被覆電線201の中間皮剥ぎで露出した芯線201aと被覆電線202の端末皮剥ぎで露出した芯線202aとを接続した電線接続部203を防水保護カバー300に挿入して止水している。該防水保護カバー300は上下ケース301と302の中央に電線接続部収容室303を設けると共に、両側に小面積のシール剤の溜め室304と305を設けている。電線接続部203を電線接続部収容室303に配置し、被覆電線201と202の被覆部201c、202cは両側の溜め室304と305に配置している。
該防水保護カバー300内にシール剤330を充填し、電線接続部収容室303内で電線接続部203をシール剤330で防水し、電線接続部収容室303から溢れるシール剤330を両側の溜め室304と305で溜める構成としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−214053号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記防水保護カバー300では、電線接続部収容室303に配置する電線接続部203を確実に防水するために、該電線接続部収容室303内をシール剤330で充満させる必要がある。そのため、両側に溜め室304、305を設け、シール剤330を電線接続部収容室303から溢れでるように供給している。
特許文献1の防水保護カバー300では、両側の溜め室304、305は止水室となる中央の電線接続部収容室303より容積が小さいため、充填するシール剤330の供給量の管理がシビアになる問題がある。
【0007】
一方、両側の溜め室304、305を大きくすると防水保護カバー300自体が大型化し、スペース上で配置しにくくなる場合がある。かつ、シール剤330が低粘度であると、両側の溜め室304、305へ溢れるシール剤の量が一定でなく、電線接続部収容室303内にシール剤が充満せず、電線接続部203の止水が確実になされない恐れがある。
さらに、スプライスする電線がアース回路のドレン電線であると、接地側の電線の端末を切り離し(カットオフ)しておく場合が多い。その場合、該カットオフ側の電線を防水する必要がないが、前記防水保護カバー300では、カットオフ側の電線も溜め室に通しているため、防水保護カバーが大型化する問題がある。
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、特に、スプライスする電線がアース回路の電線である場合に、止水ケースの小型化を図りながら、充填するシール剤の管理精度がシビアにならず作業性が良いワイヤハーネス用の止水具および該止水具を備えた止水構造を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、第1の発明として、本体と蓋とからなり、該本体の内部を仕切壁で仕切って小容積の止水室と該止水室より容積が大きい止水剤溜め室とに仕切り、前記蓋に止水室へ止水剤を注入する止水剤注入口を設ける一方、前記仕切壁の高さ方向の中間位置に芯線挿通用兼止水剤流通用の開口を設けると共に、該仕切壁を挟む前記止水剤溜め室および止水室の両側壁に電線挿通口を設け、
前記止水室に注入する止水剤は該止水室内に充満した後に前記開口を挿通する芯線の外周と前記開口の内周の間の空間から止水剤溜め室に押し出される構成としていることを特徴とするワイヤハーネス用の止水具を提供している。
【0010】
前記のように、本発明の止水具は止水剤を充満させる必要がある止水室は小容積とし、該止水室から止水剤を溢れさせる止水剤溜め室を大きくしているため、止水の必要がある電線の芯線部分を配置する止水室に止水剤を充満する以上に注入でき、止水室内で止水必要部分に止水剤を充填して止水を確実に行うことができる。
かつ、止水室の容積より止水剤溜め室の容積を大きくすると、止水剤の注入量の公差を大きくでき、注入量の管理が容易となり作業性を高めることができる。かつ、止水室を小さくできるため、止水具の小型化を図ることができる。
【0011】
前記止水剤溜め室の内部にスプライス部の位置決め保持手段を設け、前記仕切壁に設ける前記開口に前記位置決め保持手段で保持されるスプライス部に連続する1本の電線の芯線を貫通させると共に該芯線の外周と開口の内周との間の空間を止水剤流通用の空間とし、該空間から前記止水室内に止水剤が充満された後に該止水剤が前記止水剤溜め室内に押し出される構成としている。
【0012】
前記のように、止水室内に止水剤が充満された後に前記仕切壁に設けた開口から止水剤溜め室内へ止水剤を溢れさせるため、言い換えると、止水剤が止水室内に充満する前に止水剤溜め室に流れこまないように、止水剤として用いるシリコーン等は中粘度としていることが好ましい。
【0016】
前記止水室と止水剤溜め室との合計容積からなるケースの全容積に対して、止水室の容積は約20〜30%とすることが好ましい。
【0017】
前記止水室に設ける前記電線挿通口はスプライスされた1本の被覆電線の挿通口とする一方、前記止水剤溜め室に設ける前記電線挿通口はスプライスする複数本の電線の挿通口としていることが好ましい。
【0018】
第2の発明として、前記止水具を備えた止水構造を提供している。即ち、
複数本のシールド線のドレン線と被覆電線からなるアース線の皮剥端末から露出させた撚線からなる芯線とをジョイントしてスプライス部を形成し、前記アース線を電気接続箱内の回路に前記シールド線のコア線と共にコネクタ接続しており、
前記スプライス部を前記止水具の前記止水剤溜め室内に配置すると共に、前記仕切壁の開口に前記スプライス部に連続する前記アース線の芯線を貫通し、前記止水室内に前記アース線の皮剥端を位置させて該アース線の絶縁被覆された部分を前記電線挿通口より引き出して前記電気接続箱に接続している止水具を備えた止水構造を提供している。
【0019】
前記シールド線と接続する前記電気接続箱として電子制御ユニット(ECU)が用いられ、該ECUがエンジンルームからなる浸水領域に搭載される場合、前記本発明の止水具を備えた止水構造は好適に用いられる。
前記ECUにはセンサ等と接続した信号線が接続され、該信号線としてシールド線が好適に用いられる。シールド線にはコア線を囲む金属編組線または金属箔からなるシールド材にドレン線を接触させて配線しており、該ドレン線をECU内のアース回路と接続するために、複数本のシールド線のドレン線を1本の被覆電線からなるアース線とスプライスして、該アース線をECUにコネクタ接続している。
【0020】
この場合、ECUに接続するアース線を伝ったECU内部への浸水防止を図るために、特に、アース線のスプライス側端末で皮剥ぎして露出させた芯線への浸水を防止する必要がある。よって、本発明では、該アース線の皮剥端末および該皮剥端末から露出する芯線を前記止水具の止水室内に配置し、該止水室内に充満させる止水剤を前記アース線の皮剥端末の外周および芯線の隙間と外周に充填して止水している。一方、スプライス部を配置するため比較的大きな容積を必要とする部位は前記止水剤溜め室とし、該止水剤溜め室の容積を止水室の容積より大きくしている。ECUへの浸水防止を図るには、ECUと接続するアース線を確実に止水すれば良いため、スプライス部に止水剤を充填して止水する必要はない。よって、止水剤溜め室に止水剤を充満させる必要はなく、止水室を充満させた後に溢れた止水剤を受け入れることができる容積を有すれば良い。
なお、シールド線の内部を貫通して他端側に位置するドレン線はカットオフして切り離し処理しても良いし、車体パネルに接地処理してもよい。
【0021】
前記シールド線のドレン線は、シールド材とする金属編組線を皮剥ぎ端から撚線としたものであってもよく、該ドレン線をアース線の撚線からなる芯線とスプライスすればよい。スプライスは中間圧着端子を用いて加締め圧着でもよいし、抵抗溶接または超音波溶接からなる溶接でもよい。
【0022】
前記ドレン線とスプライスしたアース線およびシールド線のコア線は、ECU接続側の端末でそれぞれ皮剥ぎして露出させた芯線に端子を圧着し、これら端子に防水ゴム栓を装着してコネクタに挿入係止し、該コネクタをECUに設けたコネクタ装着部に嵌合し、ECU内の回路と導通した端子と接続する構成とすると、シールド線からECUへの浸水防止を確実に図ることができる。
【発明の効果】
【0023】
前記のように、第1の発明の止水具は、止水剤を充満させる必要がある止水室は小容積とし、該止水室から止水剤を溢れさせる止水剤溜め室を大きくしているため、止水の必要がある電線の芯線部分を配置する止水室に止水剤を充満する以上に注入でき、止水室内で止水必要部分に止水剤を充填して止水を確実に行うことができる。かつ、止水室の容積より止水剤溜め室の容積を大きくすると、止水剤の注入量の公差を大きくでき、注入量の管理が容易となり作業性を高めることができる。かつ、止水室を小さくできるため、止水具の小型化を図ることができる。
【0024】
第2の発明のシールド線のドレン線をアース線とスプライスし、該アース線をシールド線のコア線と共にECU等の電気接続箱に接続し、前記ドレン線とアース線とのスプライス部および該スプライス部に連続する前記アース線の皮剥ぎ端末から露出した撚線からなる芯線を前記第1の発明の止水具内に挿通し、該止水具の小容積の止水室内に前記アース線の皮剥ぎ端末から露出した芯線を通して止水剤で止水すると、止水具を小型化しても確実な止水を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態を示す全体構成図である。
図2】(A)はシールド線の断面図、(B)はアース線の断面図、(C)はアース線の端末皮剥ぎ部分を示す一部正面図である。
図3】(A)はスプライス部の斜視図、(B)は(A)のB−B線断面図である。
図4】止水具を用いた止水部分を示し、(A)は蓋を除いた状態の水平方向の概略断面図、(B)は垂直方向の概略断面図である。
図5】止水具内に設ける仕切壁を示す側面図である。
図6】(A)は止水具の斜視図、(B)は該止水具内に設ける支持台と受け板の斜視図である。
図7】本発明の第2実施形態を示し、(A)は止水具の蓋を除いた状態の平面図、(B)は(A)の要部拡大図、(C)は(B)のC−C線の拡大断面図である。
図8】従来例を示す概略図である。
図9】(A)(B)は従来の止水具を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
図1乃至図6に本発明の第1実施形態を示す。
第1実施形態では、車両のエンジンルーム等の浸水領域に搭載される電子制御ユニット2(以下、ECUと略称する)と補機50に接続する複数本のシールド線3(3A、3B)のドレン線4(4A、4B)を止水具1を用いて止水している。
【0027】
ECU2に接続するシールド線3Aはコア線5が1本で、図2(A)に示すように、1本のドレン線4Aとともに金属編組線または金属箔テープからなるシールド材6で囲み、該シールド材6を絶縁樹脂からなるシース(外皮)7で被覆している。コア線5は芯線5aを絶縁被覆5bで被覆した丸電線からなり、ドレン線4は複数の素線の撚線からなり、絶縁被覆が無い裸線である。
ECU2に接続するシールド線3Bはコア線5が2本であり、該2本のコア線5と1本のドレン線4Bをシールド材6で囲みシース7で被覆している。
【0028】
シールド線3Aと3BはECU2と接続する端末側でシース7とシールド材6とを剥離してコア線5とドレン線4(4A、4B)を露出させ、3本のコア線5は更に端末側で絶縁被覆5bを皮剥ぎして芯線5aを露出させて端子(メス圧着端子)8Aを圧着している。
【0029】
シールド線3Aのドレン線4Aとシールド線3Bのドレン線4Bとは、図2(B)に示す撚線からなる芯線9aを絶縁被覆9bで被覆した丸電線からなるアース線9の一端とスプライスし、アース線9の他端で皮剥ぎして露出した芯線9aに端子(メス圧着端子)8Bを圧着している。
該アース線9の端末の端子8Bとシールド線3A、3Bのコア線5の端末の端子8Aをコネクタ10に挿入係止しておき、ECU2に設けたコネクタ嵌合部2aに嵌合し、ECU2内の回路と接続したオス端子(図示せず)と嵌合して接続している。アース線9と端子8Bを介して接続したECU2内のアース回路12は車体パネル等に接地するアース電線13をコネクタ接続している。
【0030】
図3(A)(B)に示すように、前記シールド線3A、3Bのドレン線4A、4Bと被覆電線からなるアース線9の芯線9aのスプライス部Sは中間圧着端子24で加締め圧着してジョイントしている。なお、該スプライスは圧着端子による加締め圧着に限定されず、抵抗溶接、超音波溶接等の溶接で行っても良い。
【0031】
前記スプライス部Sからアース線9を伝ってECU2への浸水防止を図るために、図4〜6に示す止水具1を用いている。該止水具1は樹脂製の本体15と蓋16とからなるケース14を備え、本体15は蓋16で閉鎖する上面開口を備えるボックス形状で、内部を仕切壁17で止水室18と止水剤溜め室19に仕切っている。かつ、図4(B)に示すように、止水室18の底壁20aを止水剤溜め室19の底壁20bよりも上段として浅くしている。さらに、前記仕切壁17は止水室18側の長さ方向の一端から全長の約20%の位置に設け、止水室18の容積を止水剤溜め室19の容積より小さくし、ケース14の全容積の約20〜30%としている。前記本体15と蓋16にロック部と被ロック部(図示せず)を設け、蓋閉鎖時にロック結合している。
【0032】
前記止水剤溜め室19の長さ方向の一端壁19a(図中右側壁)には、上面開口のドレン線挿通口19bを設ける一方、図4(B)に示すように、止水室18の長さ方向の他端壁18a(図中左側壁)の高さ方向の中心位置Lの位置に1つのアース線挿通口18bを設けている。該アース線挿通口18bは挿通するアース線9の外径と同等とし、隙間なく挿通できるサイズとしている。
【0033】
止水室18と止水剤溜め室19とを仕切る仕切壁17にも、高さ方向の中心位置Lにアース線9の芯線9aより大径の円形の芯線挿通用兼止水剤流通用の開口17aを設けている。該開口17aに芯線9aを貫通させると共に、芯線9aの外周と開口17aの内周の間に空間17cを設け、止水室18に注入する止水剤25を溢れさせて空間17cから止水剤溜め室19に逃すようにしている。
【0034】
また、止水剤溜め室19内には、底壁20bからスプライス部Sの支持台21を突設すると共に、対向位置に蓋16の下面から受け板22を突設している。図6(B)に示すように、支持台21は上面に半円形状の凹部21aを備え、該凹部21aはスプライス部Sの略下半周部の嵌合用としている。上方の受け板22は下面に半円形状の窪み22aを備え、スプライス部Sの先端面に当接するようにし、支持台21と受け板22とでスプライス部Sを位置決め保持できるようにしている。
【0035】
本体15の上面開口を閉鎖する蓋16には、止水室18の上面にあたる部分に止水剤投入口16aを設けると共に止水剤注入後に閉鎖するキャップ16bをヒンジ16hを介して開閉自在に設けている。
【0036】
前記止水剤投入口16aから止水室18内に注入する止水剤25はシリコーン等からなり、該止水剤25の粘度は、押し出された時に移動する程度の流動性を有する中粘度としている。
【0037】
止水剤25を用いたスプライス部Sの止水は、止水具1の止水剤溜め室19内でスプライス部Sを支持台21に搭載し、仕切壁17の開口17aにアース線9の芯線9aを通し、止水室18内にもアース線9を通した後に、本体15に蓋16を被せ、受け板22でスプライス部Sを位置決めセットし、止水剤投入口16aから止水剤25を止水室18内に注入するものとしている。
止水剤25は止水室18内に充満された後に、仕切壁17の開口17aの空間17cに押し出されて止水剤溜め室19内に溢れる。止水具1への止水剤25の注入量は、止水室18が止水剤25で充満された後に止水剤溜め室19へ溢れる量としており、止水剤溜め室19へ溢れる量はスプライス部Sの大きさおよびアース線9のサイズが相違しても、止水剤溜め室19から溢れない量としている。具体的には、止水剤25の注入量は、止水室18の容積以上で、止水室18と止水剤溜め室19との合計容積(止水具1の容積)の約50%以下、好ましくは20〜30%としている。
【0038】
前記のように、ECU2へのシールド線3A、3Bの接続は、シールド線3A、3Bのコア線5をECU2内の信号回路および電源回路と接続し、シールド線3A、3Bのドレン線4A、4Bを被覆電線からなるアース線9とスプライスし、該アース線9をECU2内のアース回路12と接続している。
【0039】
前記ECU2へ接続するシールド線3A、3Bから、ECU2内への浸水を防止する必要がある。コア線5は芯線5aが絶縁被覆5bで被覆されているため、芯線5aの端末に接続する端子8Aにゴム栓29Aを取り付けて止水対策を施している。即ち、ゴム栓29Aを取り付けた端子8Aをコネクタ10に挿入係止し、該コネクタ10をECU2のコネクタ嵌合部2aに嵌合し、端子8AをECU2内の端子と嵌合接続している。シールド線3A、3Bのコア線5の端末にゴム栓29Aを取り付けることで、コネクタ接続部からECU2内への浸水発生を防止している。
【0040】
一方、アース線9とスプライスするシールド線3A、3Bのドレン線4A、4Bは絶縁被覆の無い裸線であり、かつ、ドレン線4A、4Bおよびアース線9の芯線9aが中間圧着端子24で加締められたスプライス部Sには浸水が発生し、スプライス部Sからアース線9の芯線9aの内部に水が浸透してECU2内に浸水する恐れがある。よって、まず、スプライス部Sを止水具1の本体15と蓋16で密閉される止水剤溜め室19内に保持して水がかからないようにしている。該スプライス部SからECU2へ至るアース線9の芯線9aを仕切壁17の開口17aを通して止水室18へ挿入し、該止水室18内にアース線9の皮剥端9cを位置させ、絶縁被覆9bで被覆した被覆電線の状態で止水室18の先端側の他端壁18aに設けたアース線挿通口18bを通してECU2側へと引き出している。
【0041】
止水室18内に止水剤25を充満しているため、アース線9の皮剥ぎされた芯線9aの素線の隙間および外周に止水剤25が充填され、アース線9の内部で芯線9aを伝ってECU2へ水が浸透するのを防止できる。このように、容積を小さくした止水室18内でECU2へ接続するアース線9を確実に止水している。該アース線9のECU接続側端末では、前記コア線と同様に、アース線9の端末に接続した端子8Bにゴム栓29Bを取り付けて、コネクタ10に挿入係止し、該コネクタ10をECU2のコネクタ嵌合部2aに嵌合し、端子8BをECU2内の端子と嵌合接続し、シールド線のドレン線4A、4Bをアース線9を介してECU2内のアース回路と接続している。
【0042】
前記のように、ECU2に接続するアース線9はスプライス部Sに連続する皮剥ぎされた芯線9aを止水すれば良いため、該芯線9aおよび皮剥端9cが位置する止水室18内に止水剤25を充満させればよい。この止水室18を小容積としているため、注入する止水剤25を少量とすることができ、止水具1自体を小型化できる。
【0043】
シールド線3A、3Bの他端ではコア線5の端末に、ECU接続側と同様に端子8Aを接続し、ECU2から信号が送信される補機50に接続している。シールド線3A、3B内を挿通するドレン線4A、4Bの補機50側の他端(ECU接続側と反対側)はカットオフ処理としても良いし、車体パネルに接地してもよい。
【0044】
前記止水具1を用いたドレン線とアース線の止水構造とすると、止水具1に注入する止水剤25は、小容積の止水室18内に充満させた後に大容積の止水剤溜め室19内に溢れさせているため、止水剤25の注入量の公差を大きくでき、止水剤の注入量の管理が容易となる。かつ、止水剤溜め室19の容積を大きくしているため、止水剤25の注入量が多くなっても、止水剤溜め室19に溢れた止水剤25が更に止水剤溜め室19に充満して溢れることはない。
【0045】
図7に第2実施形態を示す。
第2実施形態では、止水剤25Bとして流動性が良い低粘度のエポキシ樹脂を用いている点で、シリコーン樹脂等からなる中粘度の止水剤25を用いている前記第1実施形態と相違する。低粘度の止水剤25Bを用いると、止水具1の止水室18への充填速度が早められ作業時間を短縮できる利点を有するが、止水室18内が止水剤25Bで満たされる前に、仕切壁17の開口17aの空間17cから止水剤溜め室19へ止水剤25Bが流れる恐れがある。よって、アース線9の皮剥ぎした芯線9aが開口17aを通過する部位に環状ゴム栓30を外嵌している。
他の構成は第1実施形態と同様であるため、同一符号を付して説明を省略する。
【0046】
止水具1の蓋に設けた止水剤投入口から止水室18内に注入する止水剤25Bは、仕切壁の開口17aが芯線9aを密嵌した環状のゴム栓30を装着しているため、止水室18内が止水剤25Bで満たされるまで、開口17aを通して止水剤溜め室19へ流入するのを抑制する。該止水室18内に充填した止水剤25Bは、アース線9の絶縁被覆を皮剥ぎして露出した芯線9aを構成する複数本の素線9sの隙間9dに流れ込み、芯線9aの内部に止水剤25Bが充填されていない空隙を発生させない。
【0047】
止水室18内に止水剤25Bが満たされると、芯線9aの素線9s間の隙間9dに侵入した止水剤25Bが、仕切壁17の開口17aに装着したゴム栓30内でも隙間9dを通して止水剤溜め室19へ流入する。よって、止水室18内が止水剤25Bで確実に満たされ、芯線9aの外周および素線9sの隙間9dに止水剤25Bが充填され、空隙を発生させない状態にでき、止水室18内でアース線の芯線9aの止水を確実に図ることができる。
【0048】
このように、止水室18と止水剤溜め室19を仕切る仕切壁17に設けた芯線挿通用の開口17aを通して、止水室18に注入する止水剤25Bを溢れさせることができ、止水剤の注入量の管理が容易になる。かつ、作業性の良い低粘度の止水剤25Bを用いても、止水室18から止水剤溜め室19への流入を抑制でき、止水剤25Bの注入量を少量にできる利点がある。
【0049】
本発明は前記実施形態に限定されず、シールド線のドレン線がシールド材として用いる金属編組線を引き出して1本の芯線として撚ったものでもよく、該構成のドレン線を前記と同様にアース線とスプライスし、該スプライス部を止水具の止水剤溜め室に配置し、アース線の皮剥端および露出した芯線を止水室内に配置して、該止水室内に充満する止水剤で止水してもよい。
さらに、3本以上のシールド線のドレン線をアース線とスプライスしてもよい。
さらに、スプライスは圧着端子による加締め圧着ではなく、抵抗溶接または超音波溶接で溶接してもよい。
【符号の説明】
【0050】
1 止水具
2 ECU
3(3A、3B) シールド線
4(4A、4B) ドレン線
5 コア線
9 アース線
9a 芯線
10 コネクタ
14 ケース
15 本体
16 蓋
16a 止水剤投入口
17 仕切壁
17a 開口
18 止水室
19 止水剤溜め室
25 止水剤
30 ゴム栓
50 補機
S スプライス部
図1
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