特許第6443275号(P6443275)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6443275単層型電子写真感光体、単層型電子写真感光体の製造方法、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443275
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】単層型電子写真感光体、単層型電子写真感光体の製造方法、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/10 20060101AFI20181217BHJP
   G03G 5/05 20060101ALI20181217BHJP
   G03G 5/06 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   G03G5/10 B
   G03G5/05 101
   G03G5/06 311
【請求項の数】9
【全頁数】36
(21)【出願番号】特願2015-177308(P2015-177308)
(22)【出願日】2015年9月9日
(65)【公開番号】特開2017-53982(P2017-53982A)
(43)【公開日】2017年3月16日
【審査請求日】2017年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】窪嶋 大輔
(72)【発明者】
【氏名】江連 和昭
【審査官】 外川 敬之
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−307274(JP,A)
【文献】 特開2007−213053(JP,A)
【文献】 特開2007−334270(JP,A)
【文献】 特開2014−130236(JP,A)
【文献】 特開2014−109673(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/10
G03G 5/05
G03G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と感光層とを備える単層型電子写真感光体であって、
前記感光層は、バインダー樹脂として、ポリエステル樹脂を少なくとも含有し、
前記感光層は、電子輸送剤を更に含有し、前記電子輸送剤は、下記化学式(ETM−6)で表される化合物であり、
前記感光層の厚さは、25.0μm以下であり、
前記導電性基体は、アルミニウム又はアルミニウムの合金を含有し、
前記導電性基体の表面は、前記アルミニウムの酸化膜又は前記アルミニウムの合金の酸化膜を有し、
下記数式(1)から算出される前記導電性基体の前記表面における酸素原子の存在比率Rは、0.0%より大きく15.0%以下である、単層型電子写真感光体。
R=100×AO/(AO+AAl)・・・(1)
(数式(1)中、
Oは、エネルギー分散型X線分光法を用いて前記導電性基体の前記表面を測定することにより得られる酸素原子濃度であり、
Alは、エネルギー分散型X線分光法を用いて前記導電性基体の前記表面を測定することにより得られるアルミニウム原子濃度である。)
【化1】
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂の含有率は、前記感光層の質量に対して、5質量%以上30質量%以下である、請求項1に記載の単層型電子写真感光体。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂は、フタル酸とアルキルジオールとの重縮合体である、請求項1又は2に記載の単層型電子写真感光体。
【請求項4】
前記感光層の厚さは、10.0μm以上25.0μm以下である、請求項1〜3の何れか一項に記載の単層型電子写真感光体。
【請求項5】
導電性基体と感光層とを備える単層型電子写真感光体の製造方法であって、
前記感光層は、バインダー樹脂として、ポリエステル樹脂を少なくとも含有し、
前記感光層の厚さは、25.0μm以下であり、
前記導電性基体は、アルミニウム又はアルミニウムの合金を含有し、
前記導電性基体の表面は、前記アルミニウムの酸化膜又は前記アルミニウムの合金の酸化膜を有し、
下記数式(1)から算出される前記導電性基体の前記表面における酸素原子の存在比率Rは、0.0%より大きく15.0%以下であり、
前記アルミニウム又は前記アルミニウムの合金を含有する前記導電性基体を準備する準備工程と、
前記アルミニウム又は前記アルミニウムの合金を含有する前記導電性基体を、熱水と接触させることにより、前記導電性基体の前記表面に前記アルミニウムの酸化膜又は前記アルミニウムの合金の酸化膜を形成する酸化膜形成工程と
を含み、
前記熱水の温度は、50℃以上70℃以下であり、
前記導電性基体と前記熱水とを接触させる時間は、1秒以上300秒以下である、単層型電子写真感光体の製造方法。
R=100×AO/(AO+AAl)・・・(1)
(数式(1)中、
Oは、エネルギー分散型X線分光法を用いて前記導電性基体の前記表面を測定することにより得られる酸素原子濃度であり、
Alは、エネルギー分散型X線分光法を用いて前記導電性基体の前記表面を測定することにより得られるアルミニウム原子濃度である。)
【請求項6】
前記熱水の温度は、50℃以上60℃以下であり、前記導電性基体と前記熱水とを接触させる時間は、1秒以上10秒以下であるか、
前記熱水の温度は、60℃より高く70℃以下であり、前記導電性基体と前記熱水とを接触させる時間は、1秒以上5秒以下である、請求項に記載の単層型電子写真感光体の製造方法。
【請求項7】
請求項1〜の何れか一項に記載の単層型電子写真感光体を備える、プロセスカートリッジ。
【請求項8】
請求項1〜の何れか一項に記載の単層型電子写真感光体と、
前記単層型電子写真感光体の表面を帯電する帯電部と、
帯電された前記単層型電子写真感光体の前記表面を露光して、前記単層型電子写真感光体の前記表面に静電潜像を形成する露光部と、
前記静電潜像をトナー像として現像する現像部と、
前記トナー像を前記単層型電子写真感光体から被転写体へ転写する転写部と
を備える、画像形成装置。
【請求項9】
前記帯電部は、前記単層型電子写真感光体の前記表面を正極性に帯電する、請求項に記載の画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単層型電子写真感光体、単層型電子写真感光体の製造方法、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真感光体は、電子写真方式の画像形成装置において用いられる。電子写真感光体は、感光層を備える。感光層は、例えば、電荷発生剤、電荷輸送剤(例えば、正孔輸送剤及び電子輸送剤)、及びこれらを結着させる樹脂(バインダー樹脂)を含有する。電子写真感光体の一例では、電荷発生剤と電荷輸送剤とが同一の層(感光層)に含有され、電荷発生と電荷輸送との両方の機能が同一の層に備えられる。このような電子写真感光体は、単層型電子写真感光体と呼ばれる。
【0003】
特許文献1に記載の正帯電単層型電子写真感光体は、少なくとも導電性基体と感光層とを備える。感光層は、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及び結着樹脂が同一層に含有される層である。結着樹脂の具体例として、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−234001号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の正帯電単層型電子写真感光体は、転写性が十分ではなかった。
【0006】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、転写性に優れる単層型電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置を提供することである。また、本発明の目的は、転写性に優れる単層型電子写真感光体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の単層型電子写真感光体は、導電性基体と感光層とを備える。前記感光層は、バインダー樹脂として、ポリエステル樹脂を少なくとも含有する。前記感光層の厚さは、25.0μm以下である。前記導電性基体は、アルミニウム又はアルミニウムの合金を含有する。前記導電性基体の表面は、前記アルミニウムの酸化膜又は前記アルミニウムの合金の酸化膜を有する。下記数式(1)から算出される前記導電性基体の前記表面における酸素原子の存在比率Rは、0.0%より大きく15.0%以下である。
R=100×AO/(AO+AAl)・・・(1)
(数式(1)中、AOは、エネルギー分散型X線分光法を用いて前記導電性基体の前記表面を測定することにより得られる酸素原子濃度である。AAlは、エネルギー分散型X線分光法を用いて前記導電性基体の前記表面を測定することにより得られるアルミニウム原子濃度である。)
【0008】
本発明の単層型電子写真感光体の製造方法は、上述した単層型電子写真感光体の製造方法である。本発明の単層型電子写真感光体の製造方法は、準備工程と酸化膜形成工程とを含む。前記準備工程では、前記アルミニウム又は前記アルミニウムの合金を含有する導電性基体を準備する。前記酸化膜形成工程では、前記アルミニウム又は前記アルミニウムの合金を含有する前記導電性基体を、熱水と接触させることにより、前記導電性基体の前記表面に前記アルミニウムの酸化膜又は前記アルミニウムの合金の酸化膜を形成する。前記熱水の温度は、50℃以上70℃以下である。前記導電性基体と前記熱水とを接触させる時間は、1秒以上300秒以下である。
【0009】
本発明のプロセスカートリッジは、上述した単層型電子写真感光体を備える。
【0010】
本発明の画像形成装置は、上述した単層型電子写真感光体と、帯電部と、露光部と、現像部と、転写部とを備える。前記帯電部は、前記単層型電子写真感光体の表面を帯電する。前記露光部は、帯電された前記単層型電子写真感光体の前記表面を露光して、前記単層型電子写真感光体の前記表面に静電潜像を形成する。前記現像部は、前記静電潜像をトナー像として現像する。前記転写部は、前記トナー像を前記単層型電子写真感光体から被転写体へ転写する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の単層型電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置によれば、転写性を向上させることができる。また、本発明の単層型電子写真感光体によれば、転写性に優れる単層型電子写真感光体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】転写電流と画像濃度との関係を示すグラフである。
図2】(a)、(b)、及び(c)は、各々、第一実施形態に係る単層型電子写真感光体の構造を示す概略断面図である。
図3】第三実施形態に係る画像形成装置の一態様の構成を示す概略図である。
図4】第三実施形態に係る画像形成装置の別の態様の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。本発明は、本発明の目的の範囲内で、適宜変更を加えて実施できる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の要旨は限定されない。
【0014】
以下、化合物名の後に「系」を付けて、化合物及びその誘導体を包括的に総称する場合がある。また、化合物名の後に「系」を付けて重合体名を表す場合には、重合体の繰返し単位が化合物又はその誘導体に由来することを意味する。
【0015】
<第一実施形態:単層型電子写真感光体>
第一実施形態は、単層型電子写真感光体(以下、「感光体」と記載する場合がある)1に関する。感光体1は転写性に優れる。まず始めに、図1を参照して、感光体1の転写性について説明する。
【0016】
図1は、転写電流と画像濃度との関係を示すグラフである。図1中、横軸は、転写電流(単位:−μA)を示す。図1の横軸上で左側に示される値よりも右側に示される値の方が、転写電流の値が小さい、つまり転写電流の絶対値が大きいことを示す。転写電流は、感光体1の表面に形成されたトナー像を感光体1から被転写体38(例えば、図3中の用紙P)へ転写するときに、転写部26(例えば、図3中の転写ローラー41)が感光体1に印加する電流である。図1中、縦軸は、画像濃度を示す。画像濃度は、感光体1を備える画像形成装置6とトナーとを用いて用紙P(図3参照)に画像を形成するときに、用紙Pに形成された画像の画像濃度である。なお、説明の便宜上、図1では感光体1の帯電極性が正極性である場合を例に挙げて説明しているが、感光体1の帯電極性は正極性に限定されない。
【0017】
用紙Pに形成された画像における所望の画像濃度が、D1以上D2以下であるとする。転写部26が感光体1へ印加する転写電流の絶対値が0から大きくなるにつれて、用紙Pに形成される画像の画像濃度は高くなる。そして、転写電流がC1(−μA)となるとき、所望の画像濃度の下限値D1を有する画像が形成される。続いて、転写電流の絶対値がC1よりも大きくなるにつれて、用紙Pに形成される画像の画像濃度は徐々に高くなる。そして、転写電流がC2(−μA)となるとき、所望の画像濃度の上限値D2を有する画像が形成される。しかし、転写電流の絶対値がC2を超えると、形成される画像の画像濃度が急激に低下する。このときの転写電流C2(−μA)を、転写不良発生電流値とする。また、所望のD1以上D2以下の画像濃度を有する画像が形成される転写電流の範囲、即ちC2(−μA)以上C1(−μA)以下の範囲を、画像濃度正常範囲(C1-2)とする。
【0018】
ここで、画像濃度正常範囲を拡大することが望まれる。具体的には、転写不良発生電流値の絶対値(C2)を大きくすることが望まれる。なぜなら、転写不良発生電流値の絶対値(C2)が大きくなると、画像形成時の外的要因(例えば、温度、湿度、又は被転写体38の種類)が変動することにより転写部26から感光体1に印加される転写電流の値が変動した場合であっても、所望の画像濃度を有する画像を安定して形成できるからである。つまり、転写不良発生電流値の絶対値(C2)の大きい感光体1は、感光体1の転写性に優れている。
【0019】
ここで、本実施形態の感光体1は、図2を参照して後述するように、導電性基体2と感光層3とを備える。感光層3は、バインダー樹脂として、ポリエステル樹脂を少なくとも含有する。感光層3にポリエステル樹脂が含有されることにより、転写不良発生電流値の絶対値(C2)が大きくなる傾向がある。
【0020】
また、感光層3の厚さは、25.0μm以下である。感光層3の厚さが25.0μm以下であると、転写不良発生電流値の絶対値(C2)が大きくなる傾向がある。
【0021】
更に、導電性基体2は、アルミニウム又はアルミニウムの合金を含有する。導電性基体2の表面は、アルミニウムの酸化膜又はアルミニウムの合金の酸化膜を有する。導電性基体2の表面における酸素原子の存在比率Rは、0.0%より大きく15.0%以下である。このような導電性基体2は、感光体1に絶対値の大きい転写電流(例えば、強い負極性の転写バイアス)が印加された場合であっても、感光層3中の電荷を所望の量に調整できる傾向がある。
【0022】
従って、感光体1によれば、転写不良発生電流値の絶対値(C2)を大きくすることができる。これにより、画像形成時の外的要因(例えば、温度、湿度、又は被転写体38の種類)が変動することにより転写部26から感光体1に印加される転写電流の値が変動した場合であっても、トナーを用いて所望の画像濃度を有する画像を、安定して形成できると考えられる。従って、感光体1は転写性に優れると考えられる。
【0023】
次に、図2を参照して、感光体1について説明する。図2は、感光体1の構造を示す概略断面図である。感光体1は、導電性基体2と感光層3とを備える。感光層3は、導電性基体2上に直接又は間接に設けられる。例えば、図2(a)に示すように、導電性基体2上に感光層3が直接設けられてもよい。あるいは、例えば、図2(b)に示すように、導電性基体2と感光層3との間に中間層4が設けられてもよい。また、図2(a)及び図2(b)に示すように、感光層3が最外層として露出してもよい。あるいは、図2(c)に示すように、感光層3上に保護層5が備えられてもよい。
【0024】
<1.導電性基体>
導電性基体2は、アルミニウム又はアルミニウムの合金を含有する。導電性基体2がアルミニウム又はアルミニウムの合金を含有することにより、感光層3から導電性基体2への電荷の移動が向上する傾向がある。
【0025】
アルミニウム合金は、アルミニウムとアルミニウム以外の元素との合金である。アルミニウム以外の元素としては、例えば、マンガン(Mn)、ケイ素(Si)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、チタン(Ti)又は亜鉛(Zn)が挙げられる。アルミニウム合金は、アルミニウム以外の元素として、これらの元素のうち1種を単独で含んでもよく、2種以上を組み合わせて含んでもよい。アルミニウム合金としては、例えば、Al−Mn合金(JIS3000番)、Al−Mg合金(JIS5000番)、又はAl−Mg−Si合金(JIS6000番)が挙げられる。
【0026】
導電性基体2の表面は、アルミニウムの酸化膜又はアルミニウムの合金の酸化膜を有する。アルミニウムの酸化膜又はアルミニウムの合金の酸化膜は、例えば、導電性基体2の表面を酸化処理することにより形成される。更に、数式(1)から算出される導電性基体2の表面における酸素原子の存在比率Rは、0.0%より大きく15.0%以下である。これにより、転写不良発生電流値の絶対値(C2)を大きくすることができる。これは、導電性基体2の酸素原子の存在比率Rを制御することにより、導電性基体2の仕事関数が所望の値に調整されるためと推測される。その結果、感光体1の転写性を向上させることができる。感光体1の転写性を更に向上させるためには、導電性基体2の表面における酸素原子の存在比率Rは、4.0%より大きく12.0%以下であることが好ましい。
【0027】
導電性基体2の表面における酸素原子の存在比率Rの測定方法の一例を説明する。まず、導電性基体2の表面を、エネルギー分散型X線分光装置(日本電子(JEOL)株式会社製「JSM−6380LV」)を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDX)により測定する。測定条件を、加速電圧5keVに設定する。これにより、導電性基体2の表面における酸素原子濃度(AO、単位:atomic%)、及びアルミニウム原子濃度(AAl、単位:atomic%)を測定する。測定された酸素原子濃度とアルミニウム原子濃度とに基づき、数式(1)に従って、酸素原子の存在比率Rを算出する。
R=100×AO/(AO+AAl)・・・(1)
【0028】
数式(1)中、AOは、エネルギー分散型X線分光法を用いて導電性基体2の表面を測定することにより得られる酸素原子濃度(単位:atomic%)である。AAlは、エネルギー分散型X線分光法を用いて導電性基体2の表面を測定することにより得られるアルミニウム原子濃度(単位:atomic%)である。
【0029】
導電性基体2の形状は、第三実施形態で後述する画像形成装置6の構造に合わせて適宜選択される。導電性基体2の形状としては、例えば、シート状又はドラム状が挙げられる。また、導電性基体2の厚みは、導電性基体2の形状に応じて、適宜選択される。
【0030】
<2.感光層>
感光層3の厚さは、25.0μm以下である。感光層3の厚さが25.0μm以下であると、転写不良発生電流値の絶対値(C2)が大きくなる傾向がある。その理由は、以下のように推測される。感光層3に注入される電荷(Q)は、電圧(V)に比例し、感光層3の厚さ(d)に反比例する傾向がある。そのため、帯電部27(図3参照)が感光体1に印加する電圧(V)が同じ値である場合、感光層3の厚さ(d)が小さいほど、帯電時に感光層3に注入される電荷(Q)は増加すると考えられる。そのため、感光層3の厚さが25.0μm以下であると、帯電時に感光層3に注入される電荷(Q)が増大し、転写時に感光体1に印加される電流(帯電と逆極性の電流)の影響を受け難くなる。感光体1の転写性をより向上させるためには、感光層3の厚さは、20.0μm以下であることが好ましく、15.0μm以下であることがより好ましい。
【0031】
また、感光層3の厚さは、10.0μm以上であることが好ましい。既に述べたように、感光層3に注入される電荷(Q)は、電圧(V)に比例し、感光層3の厚さ(d)に反比例する傾向がある。帯電部27(図3参照)が感光体1に印加する電圧(V)が同じ値である場合、感光層3の厚さ(d)が大きいほど、感光層3に注入される電荷(Q)は減少すると考えられる。そのため、感光層3の厚さが10μm以上であると、感光層3に注入される電荷(Q)が増大し過ぎず、感光層3からの電荷のリークが抑制されると考えられる。その結果、形成される画像における黒点の発生が抑制されると考えられる。
【0032】
感光層3の厚さは、10.0μm以上25.0μm以下であることが好ましく、10.0μm以上20.0μm以下であることがより好ましく、10.0μm以上15.0μm以下であることが特に好ましい。
【0033】
感光層3の厚さは、例えば、後述する塗布工程で使用される塗布液の粘度を適宜変更することによって調整される。塗布液の粘度は、例えば、ねじれ振動式粘度計(株式会社セコニック製「FVM−80A」)を用いて、日本工業規格(JIS)Z8803に従って測定される。粘度の測定は、例えば、温度23℃、湿度60%RH(相対湿度の単位)の環境下で行われる。また、感光層3の厚さは、例えば、後述する塗布工程における浸漬した導電性基体2を塗布液から引き上げる速度を適宜変更することによっても調整される。感光層3の厚さは、公知の方法を適宜選択することによって調整されてもよい。
【0034】
感光層3は、バインダー樹脂を含有する。感光層3は、必要に応じて、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及び各種添加剤を含有してもよい。
【0035】
<2−1.電荷発生剤>
電荷発生剤は、感光体用の電荷発生剤である限り、特に限定されない。電荷発生剤としては、例えば、フタロシアニン系顔料、ペリレン顔料、ビスアゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、無金属ナフタロシアニン顔料、金属ナフタロシアニン顔料、スクアライン顔料、トリスアゾ顔料、インジゴ顔料、アズレニウム顔料、シアニン顔料、無機光導電材料(例えば、セレン、セレン−テルル、セレン−ヒ素、硫化カドミウム、又はアモルファスシリコン)の粉末、ピリリウム塩、アンサンスロン系顔料、トリフェニルメタン系顔料、スレン系顔料、トルイジン系顔料、ピラゾリン系顔料、又はキナクリドン系顔料が挙げられる。
【0036】
フタロシアニン系顔料としては、例えば、化学式(CGM−1)で表される無金属フタロシアニン、又は金属フタロシアニンが挙げられる。金属フタロシアニンとしては、例えば、化学式(CGM−2)で表されるチタニルフタロシアニン、又は酸化チタン以外の金属が配位したフタロシアニン(例えば、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン)が挙げられる。フタロシアニン系顔料は、結晶であってもよく、非結晶であってもよい。フタロシアニン系顔料の結晶形状(例えば、α型、β型、又はY型)については特に限定されず、種々の結晶形状を有するフタロシアニン系顔料が使用される。
【0037】
【化1】
【0038】
【化2】
【0039】
無金属フタロシアニンの結晶としては、例えば、無金属フタロシアニンのX型結晶(以下「X型無金属フタロシアニン」と記載する場合がある)が挙げられる。チタニルフタロシアニンの結晶としては、例えば、チタニルフタロシアニンのα型結晶、β型結晶、又はY型結晶が挙げられる。
【0040】
所望の領域に吸収波長を有する電荷発生剤を単独で用いてもよいし、2種以上の電荷発生剤を組み合わせて用いてもよい。更に、例えば、デジタル光学式の画像形成装置6(例えば、半導体レーザーのような光源を使用した、レーザービームプリンター又はファクシミリ)には、700nm以上の波長領域に感度を有する感光体1を用いることが好ましい。そのため、例えば、フタロシアニン系顔料が好ましく、無金属フタロシアニン又はチタニルフタロシアニンがより好ましい。電荷発生剤は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
短波長レーザー光源(例えば、350nm以上550nm以下程度の波長を有するレーザー光源)を用いた画像形成装置6に適用される感光体1には、電荷発生剤として、アンサンスロン系顔料、又はペリレン系顔料が好適に用いられる。
【0042】
電荷発生剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上50質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以上30質量部以下であることがより好ましい。
【0043】
<2−2.正孔輸送剤>
正孔輸送剤は、感光体1に適用できる限り、特に限定されない。正孔輸送剤としては、例えば、含窒素環式化合物又は縮合多環式化合物を使用することができる。含窒素環式化合物及び縮合多環式化合物としては、例えば、トリフェニルアミン誘導体;ジアミン誘導体(例えば、N,N,N’,N’−テトラフェニルベンジジン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルフェニレンジアミン誘導体、N,N,N’,N’−テトラフェニルナフチレンジアミン誘導体、又はジ(アミノフェニルエテニル)ベンゼン誘導体、又はN,N,N’,N’−テトラフェニルフェナントリレンジアミン誘導体);オキサジアゾール系化合物(例えば、2,5−ジ(4−メチルアミノフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール);スチリル系化合物(例えば、9−(4−ジエチルアミノスチリル)アントラセン);カルバゾール系化合物(例えば、ポリビニルカルバゾール);有機ポリシラン化合物;ピラゾリン系化合物(例えば、1−フェニル−3−(p−ジメチルアミノフェニル)ピラゾリン);ヒドラゾン系化合物;インドール系化合物;オキサゾール系化合物;イソオキサゾール系化合物;チアゾール系化合物;チアジアゾール系化合物;イミダゾール系化合物;ピラゾール系化合物;又はトリアゾール系化合物が挙げられる。これらの正孔輸送剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
正孔輸送剤の具体例としては、化学式(HTM−1)〜(HTM−9)で表される化合物(以下、化合物(HTM−1)〜(HTM−9)と記載する場合がある)が挙げられる。
【0045】
【化3】
【0046】
【化4】
【0047】
【化5】
【0048】
【化6】
【0049】
【化7】
【0050】
【化8】
【0051】
【化9】
【0052】
【化10】
【0053】
【化11】
【0054】
正孔輸送剤の合計含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上100質量部以下であることがより好ましい。
【0055】
<2−3.電子輸送剤>
電子輸送剤の例としては、キノン系化合物、ジイミド系化合物、ヒドラゾン系化合物、マロノニトリル系化合物、チオピラン系化合物、トリニトロチオキサントン系化合物、3,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン系化合物、ジニトロアントラセン系化合物、ジニトロアクリジン系化合物、テトラシアノエチレン、2,4,8−トリニトロチオキサントン、ジニトロベンゼン、ジニトロアクリジン、無水コハク酸、無水マレイン酸、又はジブロモ無水マレイン酸が挙げられる。キノン系化合物としては、例えば、ジフェノキノン系化合物、アゾキノン系化合物、アントラキノン系化合物、ナフトキノン系化合物、ニトロアントラキノン系化合物、又はジニトロアントラキノン系化合物が挙げられる。これらの電子輸送剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0056】
これらの電子輸送剤のなかでも、一般式(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)で表される化合物(以下「化合物(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)」と記載する場合がある)が好ましい。感光体1に負極性の転写電位が印加される場合に、化合物(1)、(2)、(3)、(4)、(5)又は(6)を含有する感光層3を備える感光体1は、以下の利点を有すると推測される。感光体1に絶対値の大きい転写電流(例えば、強い負極性の転写バイアス)が印加される場合に、露光時に電気的に中性に近づく感光体1の露光領域の電位が、転写時に転写電流の極性(例えば、負極性)に傾くことがある。しかし、化合物(1)、(2)、(3)、(4)、(5)及び(6)は好適な還元電位を有すると考えられる。そのため、感光層3中で電子が移動し易い。その結果、転写時にも感光体1の露光領域の電位が中性付近に維持され易く、感光体1の露光領域に付着したトナー(例えば、正帯電性のトナー)が、転写時に感光体1に残留し難くなる。その結果、感光体1から被転写体38にトナーが良好に転写されると考えられる。
【0057】
【化12】
【0058】
【化13】
【0059】
【化14】
【0060】
【化15】
【0061】
【化16】
【0062】
一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中、R11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R41、R42、R51、R52、及びR53は、各々独立して、水素原子、シアノ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよい複素環基を表す。R33は、ハロゲン原子、水素原子、シアノ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルケニル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有してもよいアラルキル基、置換基を有してもよいアリール基、又は置換基を有してもよい複素環基を表す。
【0063】
一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中のR11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R51、R52、及びR53が表わすアルキル基としては、炭素原子数1以上10以下のアルキル基が挙げられる。炭素原子数1以上10以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、s−ブチル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、又はデシル基が挙げられる。炭素原子数1以上10以下のアルキル基のなかでも、炭素原子数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素原子数1以上5以下のアルキル基がより好ましく、メチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、又は1,1−ジメチルプロピル基が特に好ましい。アルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であってもよい。アルキル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3以下であることが好ましい。
【0064】
一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中のR11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R51、R52、及びR53が表わすアルケニル基としては、例えば、炭素原子数2以上10以下のアルケニル基が挙げられる。炭素原子数2以上10以下のアルケニル基のなかでも、炭素原子数2以上6以下のアルケニル基が好ましく、炭素原子数2以上4以下のアルケニル基がより好ましい。アルケニル基は、直鎖状アルケニル基、分岐鎖状アルケニル基、環状アルケニル基、又はこれらを組み合わせたアルケニル基であってもよい。アルケニル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3以下であることが好ましい。
【0065】
一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中のR11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R51、R52、及びR53が表わすアルコキシ基としては、例えば、炭素原子数1以上10以下のアルコキシ基が挙げられる。炭素原子数1以上10以下のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、又はデシルオキシ基が挙げられる。炭素原子数1以上10以下のアルコキシ基のなかでも、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基が好ましく、メトキシ基がより好ましい。アルコキシ基は、直鎖状アルコキシ基、分岐鎖状アルコキシ基、環状アルコキシ基、又はこれらを組み合わせたアルコキシ基であってもよい。アルコキシ基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、フェニル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3以下であることが好ましい。
【0066】
一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中のR11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R51、R52、及びR53が表わすアルコキシカルボニル基は、例えば、炭素原子数1以上10以下のアルコキシ基が結合したカルボニル基である。アルコキシカルボニル基に含まれる炭素原子数1以上10以下のアルコキシ基は、一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中のR11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R51、R52、及びR53が表わすアルコキシ基と同様である。アルコキシカルボニル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、フェニル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、又はシアノ基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、3以下であることが好ましい。
【0067】
一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中のR11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R51、R52、及びR53が表わすアラルキル基としては、例えば、炭素原子数7以上15以下のアラルキル基が挙げられる。炭素原子数7以上15以下のアラルキル基のなかでも、炭素原子数7以上13以下のアラルキル基が好ましく、炭素原子数7以上12以下のアラルキル基がより好ましい。アラルキル基は置換基を有してもよい。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上4以下の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基、又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。置換基の数は、特に限定されないが、5以下であることが好ましく、3以下であることがより好ましい。
【0068】
一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中のR11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R51、R52、及びR53が表わすアリール基としては、例えば、フェニル基、2個又は3個のベンゼン環が縮合されることにより形成される基、又は2個若しくは3個のベンゼン環が単結合により連結されることにより形成される基が挙げられる。アリール基に含まれるベンゼン環の数は、例えば、1以上3以下であり、1又は2であることが好ましい。アリール基としては、フェニル基が好ましい。アリール基が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上4以下の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基、又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。
【0069】
一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中のR11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R51、R52、及びR53が表わす複素環基としては、例えば、N、S、及びOからなる群より選択される1以上のヘテロ原子を含む5員又は6員の単環の複素環基;このような単環同士が縮合した複素環基;又は、このような単環と、5員又は6員の炭化水素環とが縮合した複素環基が挙げられる。複素環基が縮合環である場合、縮合環に含まれる環の数は3以下であることが好ましい。複素環基が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上4以下の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基、又はフェノキシカルボニル基が挙げられる。
【0070】
一般式(3)中のR33において、ハロゲン原子としては、例えば、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、又はヨード基が挙げられ、クロロ基が好ましい。
【0071】
感光体1の転写性を向上させ易いことから、一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中のR11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R51、R52、及びR53が以下の基を表す化合物が好ましい。R11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R41、R42、R51、R52、及びR53は、各々独立して、水素原子、フェニル基を有してもよい炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を有してもよいフェニル基、又は炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表す。R33は、ハロゲン原子を表す。
【0072】
【化17】
【0073】
一般式(6)中、R61は、各々独立して、炭素原子数1以上10以下のアルキル基、炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数7以上12以下のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素原子数6以上12以下のアリール基を表す。R62は、炭素原子数1以上10以下のアルキル基、炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基、炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基、炭素原子数7以上12以下のアラルキル基、又は置換基を有してもよい炭素原子数6以上12以下のアリール基、又は置換基を有してもよい複素環基を表す。
【0074】
一般式(6)のR61及びR62が表わす炭素原子数1以上10以下のアルキル基は、例えば、一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中のR11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R51、R52、及びR53が表わす炭素原子数1以上10以下のアルキル基と同様である。R61及びR62が表わす炭素原子数1以上10以下のアルキル基としては、炭素原子数1以上6以下のアルキル基が好ましく、炭素原子数1以上4以下のアルキル基がより好ましく、tert−ブチル基が特に好ましい。
【0075】
一般式(6)のR61及びR62が表わす炭素原子数3以上10以下のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、又はシクロデシル基が挙げられる。
【0076】
一般式(6)のR61及びR62が表わす炭素原子数1以上6以下のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、又はヘキシルオキシ基が挙げられる。
【0077】
一般式(6)のR61及びR62が表わす炭素原子数7以上12以下のアラルキル基は、炭素原子数6以上10以下のアリール基で置換された炭素原子数1以上6以下のアルキル基のうち、合計炭素原子数が7以上12以下の基である。炭素原子数7以上12以下のアラルキル基に含まれる炭素原子数6以上10以下のアリール基としては、フェニル基、又はナフチル基が挙げられる。炭素原子数7以上12以下のアラルキル基に含まれる炭素原子数1以上6以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、s−ブチル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、又はヘキシル基が挙げられる。
【0078】
一般式(6)のR61及びR62が表わす炭素原子数6以上12以下のアリール基としては、例えば、フェニル基、2個のベンゼン環が縮合されることにより形成される基、又は2個のベンゼン環が単結合により連結されることにより形成される基が挙げられる。炭素原子数6以上12以下のアリール基としては、フェニル基が好ましい。炭素原子数6以上12以下のアリール基が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素原子数1以上4以下のアルキル基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基、ニトロ基、シアノ基、炭素原子数2以上4以下の脂肪族アシル基、ベンゾイル基、フェノキシ基、炭素原子数1以上4以下のアルコキシ基を含むアルコキシカルボニル基が挙げられる。
【0079】
一般式(6)のR62が表わす複素環基は、例えば、一般式(1)、(2)、(3)、(4)及び(5)中のR11、R12、R21、R22、R23、R24、R31、R32、R33、R41、R42、R51、R52、及びR53が表わす複素環基と同様である。
【0080】
感光体1の転写性を向上させ易いことから、一般式(6)中のR61及びR62が以下の基を表す化合物が好ましい。R61は、各々独立して、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を表す。R62は、炭素原子数6以上12以下のアリール基を表す。
【0081】
化合物(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、及び(6)の具体例としては、化学式(ETM−1)〜(ETM−6)で表される化合物が挙げられる。以下、化学式(ETM−1)〜(ETM−6)で表される化合物を、各々、化合物(ETM−1)〜(ETM−6)と記載する場合がある。
【0082】
【化18】
【0083】
【化19】
【0084】
【化20】
【0085】
【化21】
【0086】
【化22】
【0087】
【化23】
【0088】
電子輸送剤の含有量は、バインダー樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下であることが好ましく、10質量部以上80質量部以下であることがより好ましい。
【0089】
<2−4.バインダー樹脂>
感光層3は、バインダー樹脂として、ポリエステル樹脂を少なくとも含有する。感光層3がポリエステル樹脂を含有することにより、転写不良発生電流値の絶対値(C2)が大きくなる傾向がある。その結果、感光体1の転写性を向上させることができる。
【0090】
ポリエステル樹脂は、例えばアルコールとカルボン酸とを縮重合又は共縮重合させることにより得られる。ポリエステル樹脂を合成する際に用いられるアルコールとしては、例えば、2価アルコール、又は3価以上のアルコールが挙げられる。2価アルコールの例としては、ジオール類、又はビスフェノール類が挙げられる。
【0091】
ジオール類の例としては、アルキルジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、又はポリテトラメチレングリコールが挙げられる。アルキルジオールとしては、例えば、炭素原子数1以上6以下のアルキルジオールが挙げられる。炭素原子数1以上6以下のアルキルジオールの具体例としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−ブテンジオール、1,5−ペンタンジオール、又は1,6−ヘキサンジオールが挙げられる。
【0092】
ビスフェノール類の例としては、ビスフェノールA、水素添加ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、又はビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物が挙げられる。
【0093】
3価以上のアルコールの例としては、ソルビトール、1,2,3,6−ヘキサンテトロール、1,4−ソルビタン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、グリセロール、ジグリセロール、2−メチルプロパントリオール、2−メチル−1,2,4−ブタントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、又は1,3,5−トリヒドロキシメチルベンゼンが挙げられる。
【0094】
ポリエステル樹脂を合成する際に用いられるカルボン酸としては、例えば、2価カルボン酸、又は3価以上のカルボン酸が挙げられる。
【0095】
2価カルボン酸の例としては、フタル酸(例えば、イソフタル酸、テレフタル酸、又はオルトフタル酸)、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、マロン酸、コハク酸、アルキルコハク酸、又はアルケニルコハク酸が挙げられる。アルキルコハク酸の具体例としては、n−ブチルコハク酸、イソブチルコハク酸、n−オクチルコハク酸、n−ドデシルコハク酸、又はイソドデシルコハク酸が挙げられる。アルケニルコハク酸の具体例としては、n−ブテニルコハク酸、イソブテニルコハク酸、n−オクテニルコハク酸、n−ドデセニルコハク酸、又はイソドデセニルコハク酸が挙げられる。
【0096】
3価以上のカルボン酸の例としては、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(トリメリット酸)、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ナフタレントリカルボン酸、1,2,4−ブタントリカルボン酸、1,2,5−ヘキサントリカルボン酸、1,3−ジカルボキシル−2−メチル−2−メチレンカルボキシプロパン、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、テトラ(メチレンカルボキシル)メタン、1,2,7,8−オクタンテトラカルボン酸、ピロメリット酸、又はエンポール三量体酸が挙げられる。
【0097】
アルコール、及びカルボン酸は、各々1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。また、カルボン酸を、エステル形成性の誘導体に誘導体化して使用してもよい。エステル形成性の誘導体は、例えば、酸ハライド、酸無水物、又は低級アルキルエステルである。ここで「低級アルキル」とは、炭素原子数1以上6以下のアルキル基を意味する。更に、これらのポリエステル樹脂は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0098】
感光体1の転写性を向上させ易いことから、ポリエステル樹脂は、フタル酸とアルキルジオールとの重縮合体であることが好ましく、テレフタル酸及びイソフタル酸の一方又は両方とアルキルジオールとの重縮合体であることがより好ましい。
【0099】
ポリエステル樹脂の含有率は、感光層3の質量に対して、5質量%以上30質量%以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の含有率が感光層3の質量に対して5質量%以上であると、感光体1の転写性が向上する傾向がある。ポリエステル樹脂の含有率が感光層3の質量に対して30質量%以下であると、形成される画像における画像ゴーストの発生を抑制し易くなる。
【0100】
ポリエステル樹脂の粘度平均分子量は、40000以上であることが好ましく、40000以上52500以下であることがより好ましい。ポリエステル樹脂の粘度平均分子量が40000以上であると、感光体1の耐摩耗性を向上させ易い。また、ポリエステル樹脂の粘度平均分子量が52500以下であると、感光層3の形成時にポリエステル樹脂が溶剤に溶解し易くなり、感光層3用塗布液の粘度が高くなり過ぎない。その結果、感光層3を形成し易くなる。また、ポリエステル樹脂の数平均分子量(Mn)は、5000以上30000以下であることが好ましく、10000以上20000以下であることがより好ましい。
【0101】
感光層3は、バインダー樹脂としてポリエステル樹脂以外の別のバインダー樹脂を更に含有してもよい。別のバインダー樹脂の例としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、又は光硬化性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、スチレン−アクリロニトリル共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、スチレン−アクリル酸共重合体、アクリル共重合体、ポリエチレン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、塩素化ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリプロピレン樹脂、アイオノマー、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ウレタン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ジアリルフタレート樹脂、ケトン樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、又はポリエーテル樹脂が挙げられる。熱硬化性樹脂の例としては、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、又はその他の架橋性の熱硬化性樹脂が挙げられる。光硬化性樹脂の例としては、エポキシアクリル酸樹脂、又はウレタン−アクリル酸共重合体が挙げられる。これらの別の樹脂は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0102】
これらの別のバインダー樹脂の中では、加工性、機械的特性、光学的特性、及び耐摩耗性のバランスに優れた感光層3が得られ易いことから、ポリカーボネート樹脂が好ましい。感光体1の転写性を向上させ易いことから、ポリカーボネート樹脂のなかでは、ビスフェノールZ型ポリカーボネート樹脂、ビスフェノールCZ型ポリカーボネート樹脂、又はビスフェノールC型ポリカーボネート樹脂が好ましく、下記化学式(Z)、(C)又は(CZ)で表される樹脂がより好ましい。化学式(Z)、(C)及び(CZ)中、繰り返し単位の添え字は、樹脂中の繰り返し単位の総モル数に対する、添え字が付された繰り返し単位のモル比率を示す。
【0103】
【化24】
【0104】
【化25】
【0105】
【化26】
【0106】
ポリエステル樹脂以外の別のバインダー樹脂の分子量は、粘度平均分子量で40000以上であることが好ましく、40000以上52500以下であることがより好ましい。別のバインダー樹脂の粘度平均分子量が40000以上であると、感光体1の耐摩耗性を向上させ易い。また、別のバインダー樹脂の分子量が52500以下であると、感光層3の形成時に別のバインダー樹脂が溶剤に溶解し易くなり、感光層3用塗布液の粘度が高くなり過ぎない。その結果、感光層3を形成し易くなる。
【0107】
感光層3がバインダー樹脂として、ポリエステル樹脂に加えて、更に別のバインダー樹脂を含有する場合、ポリエステル樹脂の含有率は、結着樹脂(ポリエステル樹脂及び別のバインダー樹脂)の合計質量に対して、10質量%以上60質量%以下であることが好ましい。ポリエステル樹脂の含有率が結着樹脂の合計質量に対して10質量%以上であると、感光体1の転写性が向上する傾向がある。ポリエステル樹脂の含有率が結着樹脂の合計質量に対して60質量%以下であると、形成される画像における画像ゴーストの発生を抑制し易くなる。
【0108】
<2−5.添加剤>
添加剤としては、例えば、劣化防止剤(例えば、酸化防止剤、ラジカル捕捉剤、1重項消光剤、又は紫外線吸収剤)、軟化剤、表面改質剤、増量剤、増粘剤、分散安定剤、ワックス、アクセプター、ドナー、界面活性剤、可塑剤、増感剤、又はレベリング剤が挙げられる。酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、パラフェニレンジアミン、アリールアルカン、ハイドロキノン、スピロクロマン、スピロインダノン若しくはこれらの誘導体、有機硫黄化合物、又は有機燐化合物が挙げられる。
【0109】
<3.中間層>
感光体1において、中間層4(特に、下引き層)は、例えば、導電性基体2と感光層3との間に位置する。中間層4は、例えば、無機粒子、及び中間層4に用いられる樹脂(中間層用樹脂)を含有する。中間層4が存在することにより、リーク発生を抑制し得る程度の絶縁状態を維持しつつ、感光体1を露光した時に発生する電流の流れを円滑にして、抵抗の上昇が抑えられると考えられる。
【0110】
無機粒子としては、例えば、金属(例えば、アルミニウム、鉄、又は銅)、金属酸化物(例えば、酸化チタン、アルミナ、酸化ジルコニウム、酸化スズ、又は酸化亜鉛)の粒子、又は非金属酸化物(例えば、シリカ)の粒子が挙げられる。これらの無機粒子は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0111】
中間層用樹脂としては、中間層4を形成する樹脂として用いることができる樹脂である限り、特に限定されない。
【0112】
中間層4は、感光体1の電子写真特性に悪影響を与えない範囲で、各種の添加剤を含有してもよい。添加剤は、感光層3の添加剤と同様である。
【0113】
以上、図2を参照して、第一実施形態に係る感光体1を説明した。第一実施形態に係る感光体1によれば、感光体1の転写性を向上させることができる。第一実施形態に係る感光体1によれば、特に、画像形成時の外的要因が変動することにより転写電流の値が変動した場合であっても、所望の画像濃度を有する画像を安定して形成できると考えられる。
【0114】
<第二実施形態:感光体の製造方法>
第二実施形態は、感光体1の製造方法に関する。感光体1の製造方法は、例えば、準備工程と、酸化膜形成工程とを含む。感光体1の製造方法は、塗布工程と、感光層形成工程とを更に含んでもよい。
【0115】
<1.準備工程>
準備工程では、導電性基体2を準備する。導電性基体2は、アルミニウム又はアルミニウムの合金を含有する。準備工程では、導電性基体2を事前に洗浄してもよい。また、準備工程では、酸化膜形成工程の前に、導電性基体2の表面にある酸化膜を事前に除去してもよい。酸化膜を除去する方法としては、例えば、導電性基体2をアルカリイオン水に浸漬させる方法が挙げられる。アルカリイオン水のpHは、9以上12以下であることが好ましい。導電性基体2をアルカリイオン水に浸漬させる時間は、20秒以上120秒以下であることが好ましい。更に、準備工程では、酸化膜を除去した後に導電性基体2を加熱してもよい。導電性基体2の加熱には、例えばオーブンが使用される。導電性基体2を加熱する場合、加熱時間は5分以上30分以下であることが好ましい。
【0116】
<2.酸化膜形成工程>
酸化膜形成工程では、導電性基体2の表面に酸化処理が行われる。導電性基体2の表面を酸化処理する方法は、特に限定されない。導電性基体2の表面における酸素原子の存在比率Rを所望の値に調整し易いことから、酸化膜形成工程では、導電性基体2を熱水と接触させることにより、導電性基体2の表面にアルミニウムの酸化膜又はアルミニウムの合金の酸化膜を形成することが好ましい。換言すると、熱水を用いて導電性基体2の表面に酸化処理が行われることが好ましい。
【0117】
導電性基体2を熱水と接触させる方法は、導電性基体2の表面が酸化される限り特に限定されない。導電性基体2を熱水と接触させる方法としては、例えば、熱水に導電性基体2を浸漬させる方法、熱水を導電性基体2に噴霧する方法、又は熱水の水流下に導電性基体2を置く方法が挙げられる。導電性基体2の表面における酸素原子の存在比率Rを調整し易いことから、熱水に導電性基体2を浸漬させる方法が好ましい。
【0118】
熱水の温度は、50℃以上70℃以下であることが好ましい。熱水の温度がこのような範囲内であると、導電性基体2の表面における酸素原子の存在比率Rが0.0%より大きく15.0%以下になる傾向がある。
【0119】
導電性基体2と熱水とを接触させる時間は、1秒以上300秒以下であることが好ましい。熱水の温度がこのような範囲内であると、導電性基体2の表面における酸素原子の存在比率Rが0.0%より大きく15.0%以下になる傾向がある。
【0120】
導電性基体2の表面における酸素原子の存在比率Rを所望の値に調整するための好適な例として、熱水の温度は、50℃以上60℃以下であり、導電性基体2と熱水とを接触させる時間は、1秒以上10秒以下である。導電性基体2の表面における酸素原子の存在比率Rを所望の値に調整するための好適な別の例として、熱水の温度は、60℃より高く70℃以下であり、導電性基体2と熱水とを接触させる時間は、1秒以上5秒以下である。
【0121】
導電性基体2の表面における酸素原子の存在比率Rを所望の値に調整するための更に好適な例として、熱水の温度は、50℃以上60℃以下であり、導電性基体2と熱水とを接触させる時間は、5秒以上10秒以下である。
【0122】
導電性基体2を熱水と接触させた後、導電性基体2を加熱処理してもよい。導電性基体2の加熱処理は、例えば、大気中で120℃以上180℃以下の温度にて15分以上25分以下の時間行われる。
【0123】
<3.塗布工程>
塗布工程では、アルミニウムの酸化膜又はアルミニウムの合金の酸化膜を形成した導電性基体2に塗布液を塗布する。塗布液を塗布する方法は、導電性基体2上に均一に塗布液を塗布できる限り、特に限定されない。塗布液を塗布する方法としては、例えば、ディップコート法、スプレーコート法、スピンコート法、又はバーコート法が挙げられる。
【0124】
感光層3の厚さを所望の値に調整し易いことから、塗布液を塗布する方法としては、ディップコート法が好ましい。塗布工程がディップコート法によって行われる場合、塗布工程では、アルミニウムの酸化膜又はアルミニウムの合金の酸化膜を形成した導電性基体2を、塗布液に浸漬する。続いて、浸漬した導電性基体2を塗布液から引き上げる。これにより、導電性基体2に塗布液が塗布される。
【0125】
塗布液は、バインダー樹脂と溶剤とを少なくとも含有する。塗布液には、バインダー樹脂として、例えば、ポリエステル樹脂が少なくとも含有される。塗布液は、必要に応じて、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、又は各種添加剤を含有してもよい。塗布液は、バインダー樹脂、及び任意成分(例えば、電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、又は各種添加剤)を、溶剤に溶解又は分散させることにより調製される。
【0126】
塗布液に含有される溶剤は、塗布液に含有される各成分を溶解又は分散できる限り、特に限定されない。溶剤としては、例えば、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、又はブタノール)、脂肪族系炭化水素(例えば、n−ヘキサン、オクタン、又はシクロヘキサン)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン、又はキシレン)、ハロゲン化炭化水素(例えば、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、又はクロロベンゼン)、エーテル類(例えば、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、又はジエチレングリコールジメチルエーテル)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、又はシクロヘキサノン)、エステル類(例えば、酢酸エチル、又は酢酸メチル)、ジメチルホルムアルデヒド、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、又はジメチルスルホキシドが挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。これらの溶剤のうち、感光体1の製造時の作業性を向上させるためには、ハロゲン化炭化水素以外の溶剤が好ましい。
【0127】
塗布液は、各成分を溶剤と混合し、各成分を溶剤に分散させることにより調製される。混合又は分散には、例えば、ビーズミル、ロールミル、ボールミル、アトライター、ペイントシェーカー、又は超音波分散器を用いられる。
【0128】
塗布液は、各成分の分散性、及び形成され感光層3の表面の平滑性を向上させるために、例えば、界面活性剤又はレベリング剤を含有してもよい。
【0129】
<4.感光層形成工程>
感光層形成工程では、導電性基体2に塗布された塗布液に含有される溶剤を除去して、感光層3を形成する。
【0130】
塗布液に含有される溶剤を除去する方法は、塗布液中の溶剤を蒸発させ得る限り、特に限定されない。溶剤を除去する方法としては、例えば、加熱、減圧、又は加熱と減圧との併用が挙げられる。より具体的には、高温乾燥機、又は減圧乾燥機を用いて、熱処理(熱風乾燥)する方法が挙げられる。熱処理条件は、例えば、40℃以上150℃以下の温度、かつ3分間以上120分間以下の時間である。
【0131】
なお、感光体1の製造方法は、必要に応じて、中間層4を形成する工程、及び保護層5を形成する工程の一方又は両方を更に含んでいてもよい。中間層4を形成する工程、及び保護層5を形成する工程では、公知の方法が適宜選択される。
【0132】
以上、第二実施形態に係る感光体1の製造方法を説明した。第二実施形態に係る感光体1の製造方法によれば、転写性に優れる感光体1を製造することができる。
【0133】
<第三実施形態:画像形成装置>
第三実施形態は、画像形成装置6に関する。以下、図3及び図4を参照して、本実施形態に係る画像形成装置6について説明する。
【0134】
画像形成装置6は、像担持体として感光体1を備える。感光体1は第一実施形態で述べたように、感光体1の転写性を向上させることができる。そのため、画像形成装置6はこのような感光体1を備えることにより、転写性を向上させることができる。
【0135】
以下、図3を参照して、画像形成装置6が直接転写方式を採用する場合を、例に挙げて説明する。図3は、画像形成装置6の一態様の構成を示す概略図である。
【0136】
画像形成装置6は、第一実施形態で述べた感光体1と、帯電部27と、露光部28と、現像部29と、転写部26とを備える。帯電部27は感光体1の表面を帯電する。露光部28は、帯電された感光体1の表面を露光して、感光体1の表面に静電潜像を形成する。現像部29は、静電潜像をトナー像として現像する。転写部26は、感光体1から被転写体38へトナー像を転写する。画像形成装置6が直接転写方式を採用する場合、転写部26は、転写ローラー41に相当する。被転写体38は、記録媒体(例えば、用紙P)に相当する。
【0137】
画像形成装置6は、電子写真方式の画像形成装置である限り、特に限定されない。画像形成装置6は、例えば、モノクロ画像形成装置であってもよいし、カラー画像形成装置であってもよい。異なる色のトナーによる各色のトナー像を形成するために、画像形成装置6は、タンデム方式のカラー画像形成装置であってもよい。
【0138】
以下、タンデム方式のカラー画像形成装置を例に挙げて、画像形成装置6を説明する。画像形成装置6は、所定方向に並設された複数の感光体1と、複数の現像部29とを備える。複数の現像部29は、各々、感光体1に対向して配置される。複数の現像部29は、各々、現像ローラーを備える。現像ローラーは、トナーを担持して搬送し、対応する感光体1の表面にトナーを供給する。
【0139】
図3に示すように、画像形成装置6は、箱型の機器筺体7を更に備える。機器筺体7内には、給紙部8、画像形成部9、及び定着部10が設けられる。給紙部8は、用紙Pを給紙する。画像形成部9は、給紙部8から給紙された用紙Pを搬送しながら、用紙Pに画像データに基づくトナー像を転写する。定着部10は、画像形成部9で用紙P上に転写された未定着のトナー像を、用紙Pに定着させる。更に、機器筺体7の上面には、排紙部11が設けられる。排紙部11は、定着部10で定着処理された用紙Pを排紙する。
【0140】
給紙部8には、給紙カセット12、第一ピックアップローラー13、複数の給紙ローラー14、及びレジストローラー対17が備えられる。給紙カセット12は、機器筺体7から挿脱可能に設けられる。給紙カセット12には、各種サイズの用紙Pが貯留される。第一ピックアップローラー13は、給紙カセット12の左上方位置に設けられる。第一ピックアップローラー13は、給紙カセット12に貯留されている用紙Pを1枚ずつ取り出す。複数の給紙ローラー14は、第一ピックアップローラー13によって取り出された用紙Pを搬送する。レジストローラー対17は、複数の給紙ローラー14によって搬送された用紙Pを、一時待機させた後に、所定のタイミングで画像形成部9に供給する。
【0141】
また、給紙部8は、手差しトレイ(不図示)と、第二ピックアップローラー18(図4参照)とを更に備えてもよい。手差しトレイは、機器筺体7の左側面に取り付けられる。第二ピックアップローラー18は、手差しトレイに載置された用紙Pを取り出す。第二ピックアップローラー18によって取り出された用紙Pは、複数の給紙ローラー14によって搬送され、レジストローラー対17によって、所定のタイミングで画像形成部9に供給される。
【0142】
画像形成部9には、画像形成ユニット19、及び転写ベルト40が備えられる。画像形成ユニット19には、ブラックトナー供給用ユニット22を基準として転写ベルト40の回転方向の上流側(図3では左側)から下流側に向けて、ブラックトナー供給用ユニット22、シアントナー供給用ユニット23、マゼンタトナー供給用ユニット24、及びイエロートナー供給用ユニット25が順に配設されている。各ユニット22、23、24、及び25の中央位置に、感光体1が配設されている。感光体1は、矢符(時計回り)方向に回転可能に配設されている。そして、各感光体1の周囲には、帯電部27、露光部28、現像部29、及び転写部26が、帯電部27を基準として各感光体1の回転方向の上流側から順に配置されている。
【0143】
感光体1の回転方向における帯電部27の上流側には、クリーニング装置(不図示)及び除電器(不図示)の一方又は両方が設けられてもよい。クリーニング装置、及び除電器は、各々、用紙Pへのトナー像の転写が終了した後、感光体1の周面を清掃、及び除電する。クリーニング装置及び除電器によって清掃及び除電された感光体1の周面は、帯電部27へ送られ、新たに帯電処理される。画像形成装置6がクリーニング装置及び除電器を備える場合、各感光体1の回転方向の上流側から帯電部27を基準として、帯電部27、露光部28、現像部29、転写部26、クリーニング装置、及び除電器の順で配置される。
【0144】
既に述べたように、帯電部27は、感光体1の表面(周面)を帯電する。帯電部27の帯電極性は、特に限定されない。単層型である感光体1の感度特性を向上させるためには、帯電部27は、感光体1の表面を正極性に帯電することが好ましい。つまり、帯電部27の帯電極性は、正極性であることが好ましい。
【0145】
帯電部27は、非接触方式であってもよいし、接触方式であってもよい。非接触方式の帯電部27は、感光体1と接触することなく電圧を印加する。非接触方式の帯電部27としては、例えば、コロナ放電式の帯電装置が挙げられ、より具体的には、コロトロン帯電器、又はスコロトロン帯電器が挙げられる。接触方式の帯電部27は、感光体1と接触して電圧を印加する。接触方式の帯電部27としては、例えば、接触(近接)放電式の帯電器が挙げられ、より具体的には、帯電ローラー又は帯電ブラシが挙げられる。
【0146】
帯電ローラーとしては、例えば、感光体1と接触したまま、感光体1の回転に従動して回転する帯電ローラーが挙げられる。帯電ローラーは、例えば、少なくとも表面部が樹脂で形成される。具体的には、帯電ローラーは、回転可能に軸支された芯金と、芯金上に形成された樹脂層と、芯金に電圧を印加する電圧印加部とを備える。このような帯電ローラーを備えた帯電部27は、電圧印加部が芯金に電圧を印加することによって、樹脂層を介して接触する感光体1の表面を帯電させる。
【0147】
帯電ローラーの樹脂層を形成する樹脂は、感光体1の表面を良好に帯電できる限り特に限定されない。樹脂層を形成する樹脂の具体例としては、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、又はシリコーン変性樹脂が挙げられる。樹脂層には、無機充填材を含有させてもよい。
【0148】
画像形成装置6が接触方式の帯電部27を備える場合、帯電部27から発生する活性ガス(例えば、オゾン、又は窒素酸化物)の排出を抑えることができると考えられる。その結果、活性ガスによる感光層3の劣化が抑制されるとともに、オフィス環境に配慮した設計が達成できると考えられる。
【0149】
帯電部27が印加する電圧は、特に限定されない。帯電部27が印加する電圧の例としては、交流電圧、直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧、又は直流電圧が挙げられる。なかでも、帯電部27は直流電圧のみを印加することが好ましい。直流電圧のみを印加する帯電部27は、交流電圧を印加する帯電部27、又は直流電圧に交流電圧を重畳した重畳電圧を印加する帯電部27と比較して、以下に示す優位性がある。帯電部27が直流電圧のみを印加すると、感光体1に印加される電圧値が一定であるため、感光体1の表面を一様に一定電位まで帯電させ易い。また、帯電部27が直流電圧のみを印加すると、感光層3の磨耗量が減少する傾向がある。その結果、好適な画像を形成することができると考えられる。
【0150】
帯電部27が感光体1に印加する電圧は、1000V以上2000V以下であることが好ましく、1200V以上1800V以下であることがより好ましく、1400V以上1600V以下であることが特に好ましい。
【0151】
露光部28としては、例えば、露光装置が挙げられ、より具体的には、レーザー走査ユニットが挙げられる。露光部28は、帯電された感光体1の表面を露光して、感光体1の表面に静電潜像を形成する。具体的には、露光部28は、帯電部27によって均一に帯電された感光体1の周面に、パーソナルコンピューターのような上位装置から入力された画像データに基づくレーザー光を照射する。これにより、感光体1の周面に、画像データに基づく静電潜像が形成される。
【0152】
現像部29は、静電潜像をトナー像として現像する。具体的には、現像部29は、静電潜像が形成された感光体1の周面にトナーを供給し、画像データに基づくトナー像を形成する。現像部29としては、例えば、現像装置が挙げられる。
【0153】
転写部26(転写ローラー41に相当)は、感光体1の表面に形成されたトナー像を被転写体38(用紙Pに相当)に転写する。具体的には、転写ベルト40は、無端状でベルト状の回転体である。転写ベルト40は、駆動ローラー30、従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の転写ローラー41に架け渡されている。各感光体1の周面が転写ベルト40の表面(接触面)に当接するように、転写ベルト40は配置される。転写ベルト40は、各感光体1に対向して配置される各転写ローラー41によって、感光体1に押圧される。転写ベルト40は押圧された状態で、転写ベルト40は、駆動ローラー30、従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の転写ローラー41の回転によって無端回転する。駆動ローラー30は、ステッピングモーターのような駆動源によって回転駆動し、転写ベルト40を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び転写ローラー41は、回転自在に設けられる。駆動ローラー30による転写ベルト40の無端回転に伴って、従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の転写ローラー41は従動回転する。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の転写ローラー41は従動回転するとともに、転写ベルト40を支持する。レジストローラー対17から供給された用紙Pは、吸着ローラー42によって転写ベルト40上に吸着される。転写ベルト40上に吸着された用紙Pは、転写ベルト40の回転に伴い、各感光体1と対応する転写ローラー41との間を通過する。
【0154】
転写ローラー41は、感光体1から用紙Pへトナー像を転写する。トナー像を転写するときに、感光体1は用紙Pと接触している。具体的には、各転写ローラー41は、転写バイアス(具体的には、トナーの帯電極性と逆極性のバイアス)を、転写ベルト40上に吸着された用紙Pに印加する。これにより、感光体1上に形成されたトナー像は、各感光体1と対応する転写ローラー41との間で、用紙Pに転写される。転写ベルト40は、駆動ローラー30の駆動により矢符(時計回り)方向に周回する。これに伴い、転写ベルト40上に吸着された用紙Pは、各感光体1と対応する転写ローラー41との間を順次通過する。通過する際に、各感光体1上に形成された対応する色のトナー像が、重ね塗り状態で順次用紙Pに転写される。
【0155】
定着部10は、用紙Pに転写された未定着トナー像を定着させる。定着部10は、加熱ローラー34と、加圧ローラー35とを備えている。加熱ローラー34は、通電発熱体により加熱される。加圧ローラー35は、加熱ローラー34に対向配置され、加圧ローラー35の周面が加熱ローラー34の周面に押圧される。
【0156】
トナー像が定着された用紙Pは、排紙部11から排出される。排紙部11は、機器筺体7の頂部が凹没されることによって形成される。凹没した凹部の底部に、排紙された用紙Pを受ける排紙トレイ37が設けられる。以上、図3を参照して、本実施形態の一態様に係る直接転写方式を採用する画像形成装置6について説明した。
【0157】
なお、本実施形態の画像形成装置6は、中間転写方式を採用してもよい。以下、図4を参照して、本実施形態の別の態様の画像形成装置6について説明する。図4に示す画像形成装置6は、中間転写方式を採用する。図4に示す画像形成装置6において、転写部26は、一次転写ローラー33、及び二次転写ローラー21に相当する。被転写体38は、中間転写ベルト20、及び記録媒体(例えば、用紙P)に相当する。なお、図4において、図3に対応する要素には同一の符号を使用し、重複する説明は省略する。
【0158】
中間転写ベルト20は、無端状のベルト回転体である。中間転写ベルト20は、駆動ローラー30、従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の一次転写ローラー33に架け渡されている。複数の感光体1の周面が、各々、中間転写ベルト20の表面(接触面)に当接するように、中間転写ベルト20は配置されている。
【0159】
また、中間転写ベルト20は、各感光体1に対向して配置される一次転写ローラー33によって、感光体1に押圧される。押圧された状態で、中間転写ベルト20は、複数の駆動ローラー30によって矢符(反時計回り)方向に無端回転する。駆動ローラー30は、ステッピングモーターなどの駆動源によって回転駆動し、中間転写ベルト20を無端回転させるための駆動力を与える。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び複数の一次転写ローラー33は、回転自在に設けられる。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び一次転写ローラー33は、駆動ローラー30による中間転写ベルト20の無端回転に伴って、従動回転する。従動ローラー31、バックアップローラー32、及び一次転写ローラー33は、駆動ローラー30の主動回転に応じて中間転写ベルト20を介して従動回転するとともに、中間転写ベルト20を支持する。
【0160】
一次転写ローラー33は、一次転写バイアス(具体的には、トナーの帯電極性と逆極性のバイアス)を中間転写ベルト20に印加する。その結果、各感光体1上に形成されたトナー像は、各感光体1と一次転写ローラー33との間で、周回する中間転写ベルト20に対して、順次転写(一次転写)される。
【0161】
二次転写ローラー21は、二次転写バイアス(具体的には、トナーの帯電極性と逆極性のバイアス)を用紙Pに印加する。その結果、中間転写ベルト20上に一次転写されたトナー像は、二次転写ローラー21とバックアップローラー32との間で用紙Pに転写される。これにより、未定着のトナー像が用紙Pに転写される。
【0162】
二次転写ローラー21により用紙Pに転写された未定着のトナー像は、用紙Pが加熱ローラー34と加圧ローラー35との間を通過する際の加熱による定着処理により用紙Pに定着される。そして、定着処理の施された用紙Pは、排紙部11へ排出される。また、定着部10と排紙部11との間の適所に、複数の搬送ローラー36が配設されている。
【0163】
以上、図4を参照して、本実施形態の別の態様に係る中間転写方式を採用する画像形成装置6について説明した。
【0164】
以上、図3及び図4を参照して説明したように、本実施形態に係る画像形成装置6は、第一実施形態に係る感光体1を備えている。感光体1は転写性に優れている。そのため、本実施形態に係る画像形成装置6は、感光体1の転写性を向上させることができる。
【0165】
<第四実施形態:プロセスカートリッジ>
第四実施形態は、プロセスカートリッジに関する。本実施形態に係るプロセスカートリッジは、例えば、ユニット化された第一実施形態に係る感光体1を備える。プロセスカートリッジは、第三実施形態に係る画像形成装置6に対して着脱自在に設計されてもよい。プロセスカートリッジには、例えば、感光体1以外に、第三実施形態で述べた、帯電部27、露光部28、現像部29、転写部26、クリーニング装置、及び除電器からなる群より選択される少なくとも1つをユニット化した構成が採用される。
【0166】
以上、本実施形態に係るプロセスカートリッジについて説明した。本実施形態に係るプロセスカートリッジは、第一実施形態に係る感光体1を備えている。感光体1は転写性に優れている。そのため、本実施形態に係るプロセスカートリッジは、感光体1の転写性を向上させることができる。更に、このようなプロセスカートリッジは取り扱いが容易であるため、感光体1の感度特性等が劣化した場合に、感光体1を含めて、容易かつ迅速に交換することができる。
【実施例】
【0167】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明する。しかし、本発明は実施例の範囲に何ら限定されない。
【0168】
<1.感光体の材料>
感光体の感光層を形成するための材料として、以下の電荷発生剤、正孔輸送剤、電子輸送剤、及びバインダー樹脂を準備した。
【0169】
電荷発生剤として、化合物(CGM−1X)を準備した。化合物(CGM−1X)は、第一実施形態で述べた化学式(CGM−1)で表される無金属フタロシアニンであった。更に化合物(CGM−1X)の結晶構造はX型であった。
【0170】
正孔輸送剤として、第一実施形態で述べた化合物(HTM−3)を準備した。
【0171】
電子輸送剤として、第一実施形態で述べた化合物(ETM−1)〜(ETM−6)を準備した。
【0172】
バインダー樹脂として、ポリエステル樹脂(R1a)を準備した。ポリエステル樹脂(R1a)は、テレフタル酸、イソフタル酸、及びアルキルジオールの重縮合体(東洋紡株式会社製「バイロン(登録商標)200」、数平均分子量(Mn)17,000)であった。
【0173】
バインダー樹脂として、ポリカーボネート樹脂(Za)を準備した。ポリカーボネート樹脂(Za)は、第一実施形態で述べた化学式(Z)で表されるポリカーボネート樹脂であった。
【0174】
<2.感光体の製造>
準備した感光体の感光層を形成するための材料を用いて、感光体(A−1)〜(A−22)及び(B−1)〜(B−6)を製造した。
【0175】
<2−1.感光体(A−1)の製造>
まず、準備工程を行った。詳しくは、直径30mm、長さ254mm、厚さ0.7mmのアルミニウム製の導電性基体を準備した。この導電性基体に、アルカリ処理を行った。詳しくは、導電性基体をpH11のアルカリイオン水に20分間浸漬させた。これにより、導電性基体の表面の酸化膜を除去した。
【0176】
次に、酸化膜形成工程を行った。詳しくは、導電性基体を、60℃の熱水中に10秒間浸漬させた。これにより、導電性基体の表面に、アルミニウムの酸化膜を再度形成した。導電性基体を熱水から取り出して、導電性基体を自然乾燥させた。次いで、導電性基体を、オーブンを用いて120℃で2分間加熱した。これにより、導電性基体の表面にアルミニウムの酸化膜を有する導電性基体を得た。得られた導電性基体の表面における酸素原子の存在比率Rを、後述する方法で測定した。
【0177】
次に、塗布工程を行った。まず、塗布液を調製した。電荷発生剤としての化合物(CGM−1X)5質量部と、正孔輸送剤としての化合物(HTM−3)60質量部と、電子輸送剤としての化合物(ETM−1)35質量部と、バインダー樹脂としてのポリカーボネート樹脂(Za)90質量部と、ポリエステル樹脂(R1a)10質量部と、溶剤としてのテトラヒドロフラン800質量部とを、容器内に投入した。容器の内容物を、ボールミルを用いて50時間混合して分散し、塗布液を得た。
【0178】
次に、ディップコート法を用いて、酸化膜形成工程で得られた導電性基体上に塗布液を塗布し、導電性基体上に塗布膜を形成した。詳しくは、導電性基体を、塗布液に浸漬させた。浸漬した導電性基体を、塗布液から引き上げ、導電性基体に塗布液を塗布した。
【0179】
次に、感光層形成工程を行った。詳しくは、塗布液を塗布した導電性基体を、100℃で40分間、熱風により乾燥させた。これにより、導電性基体に塗布された塗布液に含有される溶剤(テトラヒドロフラン)を除去した。その結果、導電性基体上に、感光層が形成された。これにより、感光体(A−1)が得られた。
【0180】
<2−2.感光体(A−2)〜(A−22)及び(B−1)〜(B−6)の製造>
以下の点を変更した以外は、感光体(A−1)の製造と同様の方法で、感光体(A−2)〜(A−22)及び(B−1)〜(B−6)を製造した。
【0181】
酸化膜形成工程において、熱水の温度及び熱水への浸漬時間(熱水と接触させる時間)を、感光体(A−1)の製造における60℃及び10秒から、表1に示す温度及び浸漬時間に変更した。これにより、導電性基体の表面における酸素原子の存在比率Rを、感光体(A−1)の12.0%から、表1に示す比率に変更した。
【0182】
塗布工程において、塗布液の調製に使用した電子輸送剤を、感光体(A−1)の製造における化合物(ETM−1)から、表1に示す種類の化合物に変更した。
【0183】
塗布工程において、塗布液の調製に使用したバインダー樹脂としてのポリカーボネート樹脂(Za)の添加量を、感光体(A−1)の製造における90質量部から、表1に示す添加量に変更した。更に、バインダー樹脂としてのポリエステル樹脂(R1a)の添加量を、感光体(A−1)の製造における10質量部から、表1に示す添加量に変更した。これにより、感光層の質量に対するポリエステル樹脂の含有率を、感光体(A−1)の5質量%から、表1に示す含有率に変更した。なお、感光層の質量は、電荷発生剤と、正孔輸送剤と、電子輸送剤と、バインダー樹脂としてのポリカーボネート樹脂及びポリエステル樹脂との合計質量であった。
【0184】
塗布工程において使用する塗布液の粘度、及び導電性基体を塗布液から引き上げる速度を適宜変更することにより、感光層の厚さ(膜厚)を、感光体(A−1)の25.0μmから、表1に示す厚さに変更した。
【0185】
<3.導電性基体の表面における酸素原子の存在比率Rの測定>
各感光体の製造において、酸化膜形成工程で得られた導電性基体について、以下の方法で、導電性基体の表面における酸素原子の存在比率Rを測定した。まず、導電性基体の表面を、エネルギー分散型X線分光装置(日本電子(JEOL)株式会社製「分析走査電子顕微鏡 JSM−6380LV」)を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDX)により測定した。測定条件を、加速電圧5keVに設定した。これにより、導電性基体の表面における酸素原子濃度(AO、単位:atomic%)、及びアルミニウム原子濃度(AAl、単位:atomic%)を測定した。測定された酸素原子濃度とアルミニウム原子濃度とに基づき、下記数式(1)に従って、酸素原子の存在比率Rを算出した。算出された酸素原子の存在比率Rを、表1に示す。
R=100×AO/(AO+AAl)・・・(1)
【0186】
<4.感光層の厚さの測定>
各感光体の感光層の厚さを、渦電流式膜厚計(フィッシャーインスツルメンツ株式会社製「フィッシャースコープ(FISCHER SCOPE)MMS 3AM」)を用いて測定した。測定された感光層の厚さ(膜厚)を、表1に示す。
【0187】
<5.転写性の評価>
各感光体を搭載した評価機とトナーとを用いて、転写ローラーが感光体に印加する電流を変更しながら、用紙に画像Aを形成した。画像Aは、30mm×30mmのソリッド画像であった。画像形成条件として、転写ローラーが感光体に印加する電流を、−2μA以上−40μA以下の範囲に設定した。詳しくは、転写ローラーの転写電流を−2μAから−2μAずつ低下させて、各転写電流において用紙に画像Aを形成した。用紙に形成された画像Aの画像濃度(ID)を、マクベス反射濃度計(サカタインクスエンジニアリング株式会社販売「SpectroEye(登録商標)」)を用いて測定した。測定された画像濃度が1.20以下となったときの転写電流を、転写不良発生電流値(C2、単位:−μA)とした。測定された転写不良発生電流値に基づき、下記の評価基準に従って、感光体の転写性の評価を行った。測定された転写不良発生電流値(C2、単位:−μA)と、感光体の転写性の評価結果とを、表2に示す。なお、転写不良発生電流値の絶対値(C2)が大きいほど、感光体の転写性が良好であることを示す。
(転写性の評価基準)
評価A:転写不良発生電流値の絶対値(C2)が20μA以上であった。
評価B:転写不良発生電流値の絶対値(C2)が20μA未満であった。
【0188】
<6.画像評価(画像ゴースト)>
感光体を評価機に搭載し、評価機の感光体の動作を安定化させるために、アルファベットの画像を1時間印刷した。続いて、画像Bを1枚印刷した。画像Bは、ドーナツ型の白抜きパターンから構成される画像であった。ドーナツ型の白抜きパターンは、2つの同心円1組から構成されていた。画像Bの画像部(ドーナツ型の白抜きパターン以外の部分)の画像濃度は100%であった。画像Bは感光体1周分に相当していた。続いて、全面ハーフトーンの画像C(画像濃度12.5%)を1枚印刷し、画像ゴーストの評価用サンプルとした。画像Cは感光体2周目に相当していた。
【0189】
得られた評価用サンプルを目視で観察し、画像Bに由来する画像ゴーストの有無を観察した。観察結果に基づき、下記の評価基準に従って、画像ゴーストに関する画像評価を行った。画像ゴーストに関する評価結果を、表2に示す。
(画像ゴーストに関する画像評価の評価基準)
評価A:画像ゴーストが確認されなかった。
評価B:画像ゴーストが確認された。
【0190】
<7.画像評価(黒点)>
感光体を評価機に搭載した。画像形成を、温度32.5℃、湿度80%の環境下で実施した。評価機の感光体の動作を安定化させるために、アルファベットの画像を1000枚印刷した後、評価機を一晩放置した。画像Dを1枚印刷し、黒点の評価用サンプルとした。画像Dは、全面白紙画像であった。得られた評価用サンプルを目視で観察し、黒点の有無を観察した。観察結果に基づき、下記の評価基準に従って、黒点に関する画像評価を行った。黒点に関する評価結果を表2に示す。
(黒点に関する画像評価の評価基準)
評価A:黒点が確認されなかった。
評価B:黒点が確認された。
【0191】
<8.総合評価>
感光体の転写性の評価、画像ゴーストに関する画像評価、及び黒点に関する画像評価の結果から、下記の評価基準に従って、感光体の総合評価を行った。総合評価の結果を表2に示す。
(総合評価の評価基準)
◎(特に良好):感光体の転写性の評価がAであった。更に、画像ゴーストに関する画像評価、及び黒点に関する画像評価もAであった。
○(良好):感光体の転写性の評価がAであった。ただし、画像ゴーストに関する画像評価、及び黒点に関する画像評価の一方又は両方がBであった。
×(不良):感光体の転写性の評価がBであった。
【0192】
表1中、「R」、「ETM」及び「含有率」は各々、導電性基体の表面における酸素原子の存在比率、電子輸送剤、及び感光層の質量に対するポリエステル樹脂の含有率を示す。感光体(A−1)〜(A−22)は実施例である。感光体(B−1)〜(B−6)は比較例である。
【0193】
【表1】
【0194】
【表2】
【0195】
表1に示すように、感光体(A−1)〜(A−22)では、感光層がバインダー樹脂として、ポリエステル樹脂を少なくとも含有していた。感光層の厚さは、25.0μm以下であった。導電性基体は、アルミニウム又はアルミニウムの合金を含有していた。導電性基体の表面は、アルミニウムの酸化膜又はアルミニウムの合金の酸化膜を有していた。導電性基体の表面における酸素原子の存在比率Rは、0.0%より大きく15.0%以下であった。そのため、表2に示すように、これらの感光体は転写性に優れていた。
【0196】
表1に示すように、感光体(A−1)〜(A−5)、(A−7)〜(A−11)、(A−13)〜(A−17)、及び(A−19)〜(A−22)では、ポリエステル樹脂の含有率が感光層の質量に対して、5質量%以上30質量%以下であった。そのため、表2に示すように、これらの感光体は、転写性に優れ、更に形成される画像における画像ゴーストの発生が抑制されていた。
【0197】
表1に示すように、感光体(A−1)〜(A−18)、及び(A−20)〜(A−22)では、感光層の厚さが10.0μm以上25.0μm以下であった。そのため、表2に示すように、これらの感光体は、転写性に優れ、更に形成される画像における黒点の発生が抑制されていた。
【0198】
表1に示すように、感光体(B−1)〜(B−3)の感光層はポリエステル樹脂を含有していなかった。感光体(B−4)では、導電性基体の表面における酸素原子の存在比率Rが15.0%を超えていた。感光体(B−5)及び(B−6)では、感光層の厚さが25.0μmを超えていた。そのため、表2に示すように、これらの感光体は転写性に劣っていた。
【0199】
以上から、本発明に係る感光体は、転写性に優れることが明らかとなった。また、このような感光体を備える画像形成装置は、転写性に優れることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0200】
本発明に係る感光体は、電子写真方式の画像形成装置において好適に使用できる。
【符号の説明】
【0201】
1 感光体(単層型電子写真感光体)
2 導電性基体
3 感光層
6 画像形成装置
26 転写部
27 帯電部
28 露光部
29 現像部
38 被転写体
図1
図2
図3
図4