(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両の内燃機関の出力を伝達する流体伝導機構(31)、および該流体伝導機構に接続された入力軸(321)と車輪を駆動する駆動軸に接続される出力軸(322)との間のギヤ比および係合状態を調整する変速歯車機構(32)を備えた自動変速機(3)を制御する自動変速機制御装置(1)において、
前記入力軸の回転数である入力軸回転数を取得する入力軸回転数取得部(S130)と、
前記出力軸の回転数である出力軸回転数を取得する出力軸回転数取得部(S130)と、
シフトレバーの操作状態を取得する操作状態取得部(S110)と、
前記操作状態取得部にて取得された操作状態から、該操作状態の変化が検出されると、変化後の前記操作状態から特定される要求レンジに対応づけられた一ないし複数の前記ギヤ比のそれぞれについて、該ギヤ比および前記出力軸回転数から推定される前記入力軸回転数である同期回転数を求め、該同期回転数の少なくとも一つが前記入力軸回転数より大きい場合に、前記変速歯車機構での係合状態が半係合状態となるように前記変速歯車機構を制御する半係合制御部(S140〜S160)と、
前記要求レンジに応じた出力軸の回転方向を要求方向、前記車両の進行方向に応じた出力軸の回転方向を実方向として、前記半係合制御部による制御の前後での前記入力軸回転数の変化が増加傾向であれば前記要求方向と前記実方向とが一致していることを示す一致判定をし、前記入力軸回転数の変化が減少傾向であれば前記要求方向と前記実方向とが不一致であることを示す不一致判定をする前後進判定部(S170〜S190、S184、S194、S186、S196)と、
前記前後進判定部により一致判定された場合に、前記要求レンジが形成されるように前記変速歯車機構を制御する要求レンジ形成部(S230)と、
を備える自動変速機制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明が適用された実施形態について、図面を用いて説明する。
[1.第1実施形態]
[1.1.構成]
図1に示すように、自動変速機制御装置1が適用される車両は、エンジンシステム2と、自動変速機3と、要求レンジ検出装置4と、入力軸回転数検出装置5と、出力軸回転数検出装置6と、制動装置7とを備える。
【0013】
エンジンシステム2は、図示しないアクセルペダルの操作量や冷却水温度等に応じて内燃機関(エンジン)の回転駆動力、即ちトルクを制御する周知のものである。なお、エンジンシステム2は、エンジンの回転駆動力を伝達するエンジン出力軸21の回転数である内燃機関回転数に相当するエンジン回転数Neを自動変速機制御装置1に供給する。
【0014】
要求レンジ検出装置4は、操作されたシフトレバーの位置に対応した要求レンジPを検出する周知のものである。シフトレバーの位置としては、パーキングレンジ、ニュートラルレンジ、リバースレンジ、ドライブレンジなどを有している。以下では、リバースレンジ、ドライブレンジを総称して、走行レンジともいう。
【0015】
自動変速機3は、流体伝導機構に相当するトルクコンバータ31と変速歯車機構32とを備える。
トルクコンバータ31は、エンジン出力軸21のトルクを、液体を介して、変速歯車機構32の入力軸321に伝達する周知のものである。
【0016】
変速歯車機構32は、入力軸321と車両の車輪を駆動する駆動軸に連結された出力軸322の変速比を切り替える遊星歯車と呼ばれる複数のギヤを有したギヤ列と、ギヤ列を構成する各ギヤに連結された複数のクラッチおよびブレーキと、クラッチおよびブレーキを制御する油圧回路とを備え、油圧回路によりクラッチおよびブレーキを係合および解除することによって変速比を切り替える周知のものである。なお、クラッチおよびブレーキの作動を制御する油圧は、油圧回路に設けられたデューティ制御弁により制御される。具体的には、デューティ制御弁を駆動するために、自動変速機制御装置1から出力されるソレノイド指示に示されたデューティ比に応じて油圧が変化し、その油圧に応じてクラッチおよびブレーキの係合状態が変化する。特にクラッチはデューティ比が大きいほど係合度合も大きくなる。ギヤ列には、ドライブレンジで制御される1〜4段の変速比を実現するギヤ、およびリバースレンジに対応した変速比を実現するギヤが少なくとも含まれている。
【0017】
入力軸回転数検出装置5は、変速歯車機構32の入力軸321の回転数である入力軸回転数Ntを検出する。出力軸回転数検出装置6は、変速歯車機構32の出力軸322の回転数である出力軸回転数Noを検出する。入力軸回転数検出装置5および出力軸回転数検出装置6は、いずれも回転数のみを検出し回転方向の検出が不能な周知の回転センサにより構成されている。
【0018】
制動装置7は、車両に搭載され、ブレーキペダルを介した制御が行われる周知のものであり、自動変速機制御装置1からのブレーキ指示によっても制御が実行されるように構成されている。
【0019】
自動変速機制御装置1は、CPU11と、RAM、ROM、フラッシュメモリ等の半導体メモリ等の非遷移的実態的記録(以下、メモリ)12とを有する周知のマイクロコンピュータを中心に構成される。但し、マイクロコンピュータの数は一つでも複数でもよい。自動変速機制御装置1の各種機能は、CPU11がメモリ12に格納されているプログラムに基づいて各種処理を実行することにより実現される。なお、自動変速機制御装置1の各種機能がソフトウェアにて実現されることはあくまでも一例であり、その全体または一部を例えばロジック回路等のハードウェアにて実現するようにしてもよい。
【0020】
自動変速機制御装置1は、要求レンジが切り替わった時に行う要求レンジ形成制御、およびドライブレンジの形成後、アクセル開度や車速(即ち、出力軸回転数No)に基づいて変速比の自動切替を行うドライブレンジ制御を少なくとも実行する。なお、ドライブレンジ制御は、周知のものであるため、ここでの説明は省略する。
【0021】
[1.2.要求レンジ形成制御]
CPU11が実行する要求レンジ形成制御について、
図2のフローチャートを用いて説明する。本処理は、図示しないイグニッションスイッチがオンにされている間、繰り返し実行される。
【0022】
本処理が起動するとCPU11は、S110にて要求レンジ検出装置4からの信号に基づき、走行レンジへのシフト操作が検出されたか否かを判断する。なお、走行レンジへのシフト操作とは、パーキングレンジやニュートラルレンジからリバースレンジやドライブレンジへのシフト操作、パーキングレンジからドライブレンジへのシフト操作、ドライブレンジからリバースレンジへのシフト操作のことをいう。そして、走行レンジへのシフト操作が検出されていなければ、本処理を一旦終了する。走行レンジへのシフト操作が検出されていれば、S120に移行する。
【0023】
S120では、予め設定された一定時間の間、即ち、
図3中の時刻T0から時刻T1までの間、変速歯車機構32をニュートラル状態にするソレノイド指示を出力する。具体的には、変速歯車機構32を指定した状態となるように油圧弁を制御するデューティ信号を出力する。以下、ソレノイド指示を出力する場合は同様である。なお、一定時間は、入力軸回転数Ntが十分に安定したものとなるのに必要な長さに設定される。
【0024】
続くS130では、入力軸回転数検出装置5から入力軸回転数Nt、出力軸回転数検出装置6から出力軸回転数Noを取得する。
続くS140では、入力軸回転数Ntに基づいて判定不可上限値Nvを算出すると共に、出力軸回転数Noに基づき、同期回転数Nsを算出する。判定不可上限値Nvとは、
図3に示すように、入力軸回転数Ntにマージンを加えた値である。このマージンは、入力軸回転数検出装置5の測定精度に基づいて設定され、測定誤差の上限値程度に設定される。また、回転数が0〜Nvの領域を、以下では判定不可領域ともいう。同期回転数Nsは、変速歯車機構32にて、あるギヤ段を設定した時に、その時の出力軸回転数Noから求められる入力軸回転数Ntの推定値のことである。例えば、要求レンジがドライブレンジである場合、ドライブレンジ使用される1段〜4段の各ギヤ段に対応し、そのギヤ比を出力軸回転数Noに乗じることで、ギヤ段毎に同期回転数Nsが算出される。
【0025】
続くS150では、先のS140で算出された判定不可上限値Nvおよび同期回転数Nsに基づき、Ns>Nvとなるギヤ段が存在するか否かを判断する。Ns>Nvとなるギヤ段が存在すればS160に移行する。一方、Ns>Nvとなるギヤ段が存在しなければS230に移行し、要求レンジの形成を引き続き実行するためのソレノイド指示を出力して、本処理を一旦終了する。このとき要求レンジがドライブレンジである場合、ギヤ段は、その時のアクセル開度や車速(出力軸回転数No)に応じて決まる。また、要求レンジがリバースレンジである場合、ギヤ段は予め設定された各レンジ用の一つのギヤ段に決まる。
【0026】
S160では、Ns>Nvとなるギヤ段のうち最も低いギヤ段を選択ギヤ段として、この選択ギヤ段を形成するクラッチを半係合状態にするソレノイド指示を、S120に示された一定時間が経過した時点、即ち、
図3中の時刻T1で出力する。
【0027】
続くS170では、S160でのソレノイド指示が変速歯車機構32に反映されるのに要する時間だけ待機した後、入力軸回転数検出装置5から入力軸回転数Ntを取得して、先のS130での取得値との差分である入力軸回転数変化量ΔNtを算出する。
【0028】
続くS180では、入力軸回転数変化量ΔNtが正、即ち入力軸回転数Ntが増加傾向にあるか否かを判断する。入力軸回転数Ntが増加傾向であれば、要求レンジに応じた出力軸322の回転方向である要求方向は、車両の進行方向に応じた出力軸322の回転方向である実方向と一致するものとしてS230に移行し、要求レンジの形成を継続する。一方、入力軸回転数Ntが増加傾向になければ、S190に移行する。
【0029】
S190では、入力軸回転数変化量ΔNtが負、即ち入力軸回転数Ntが減少傾向にあるか否かを判断する。入力軸回転数Ntが減少傾向になければ、要求方向と実方向との一致,不一致を判断できないものとして、S130に戻る。一方、入力軸回転数Ntが減少傾向にあれば、要求方向と実方向とは不一致であると判断して、S200に進む。
【0030】
S200では、先のS160で行われた選択ギヤ段を形成するクラッチを半係合状態とするソレノイド指示を解除すると共に、制動装置7に対してブレーキ指示を出力する。これにより、車速、ひいては出力軸回転数Noが減少傾向となる。
【0031】
続くS210では、出力軸回転数Noを取得し、その出力軸回転数Noから選択ギヤ段の同期回転数Nsを算出し、Ns<Nvであるか否かを判断する。つまり、同期回転数Nsが判定不可領域内の値となる程度に出力軸回転数No、即ち車速が低下したか否かを判断する。Ns<Nvでなければ、車速は十分に低下していないと判断し、同ステップ(S210)を繰り返すことで待機する。Ns<Nvであれば、車速は十分に低下しているものと判断し、S220に進む。
【0032】
S220では、先のS200で行ったブレーキ指示を解除して、S230に進む。
S230では、要求レンジを形成するソレノイド指示を出力して本処理を終了する。
なお、本実施形態では、S110が操作状態取得部、S130が入力軸回転数取得部および出力軸回転数取得部、S140〜S160が半係合制御部、S170〜S190が前後進判定部、S200〜S220が不一致時制御部、S230が要求レンジ形成部に相当する。
【0033】
[1.3.動作]
シフト操作により、走行レンジへのシフト操作が検出されると、
図4の時刻T1以前に示すように、変速歯車機構32をニュートラル状態に保持して、入力軸回転数Ntを一定にする。なお、
図4では、
図3に示した時刻T0の記述を省略しており、また、走行レンジがドライブレンジの場合を示す。このとき、入力軸回転数Ntから求めた判定不可上限値Nvと、出力軸回転数Noから求めた同期回転数Nsとに基づいて、Ns>Nvとなるギヤ段を選択ギヤ段に設定する。
【0034】
その後、時刻T1にて選択ギヤ段を形成するクラッチを半係合状態にする。すると、Ns>Ntであるため、出力軸322の要求方向と実方向とが一致していれば、NtはNsに向けて増加する。一方、出力軸322の要求方向と実方向とが不一致であれば、Ntは−Nsに向けて減少する。このため、クラッチを半係合状態にする前後での入力軸回転数変化量ΔNtが正(即ち増加傾向)か、負(即ち減少傾向)かにより、要求方向と実方向の一致,不一致を判断すること、即ち、前後進判定を実施することができる。
【0035】
要求方向と実方向とが一致している場合、即ち一致判定がなされた場合、時刻T2にて、図中実線で示すように、クラッチを半係合状態から全係合状態に変化させて、要求レンジを形成する。このときに形成されるギヤ段は、アクセル開度や出力軸回転数No(つまり車速)に応じたものとなる。
【0036】
要求方向と実方向とが不一致である場合、即ち不一致判定がなされた場合、時刻T2にて、図中一点鎖線で示すように、クラッチの半係合状態を一旦解除して、ブレーキ指示を出力する。これにより、入力軸回転数Ntは、クラッチを半係合状態にする以前の回転数に向けて増加する。但し、ブレーキにより車速が低下するに従って、出力軸回転数Noも低下し、これに伴い同期回転数Nsも低下する。その後、時刻T3に示すように、同期回転数Nsが判定不可上限値Nv以下の値となるまで車速が低下すると、ブレーキ指示を解除して、要求レンジの形成を実行する。
【0037】
なお、時刻T1で選択ギヤ段を形成するクラッチを半係合状態とする際に、一時的にソレノイド指示のデューティ比を大きくし、係合の度合を大きくしているのは、油圧で作動する変速歯車機構32の応答性を良くするためである。
【0038】
[1.4.効果]
以上説明したように、自動変速機制御装置1では、選択ギヤ段を形成するクラッチを半係合状態にした時の入力軸回転数変化量ΔNtから前後進判定を行っており、しかも、選択ギヤ段は、入力軸回転数Ntと出力軸回転数Noから求められる同期回転数Nsとの比較結果に基づいて設定される。従って、自動変速機制御装置1によれば、エンジンシステム2に対してエンジン制御を要求することなく、自動変速機3単体の制御だけで前後進判定を実施することができる。その結果、故障や通信異常等によりエンジンシステム2への制御指示ができない状況であっても、前後進判定を実施すること、ひいてはインヒビット制御を実施することができる。
【0039】
また、自動変速機制御装置1では、前後進判定にて不一致判定がなされた場合、制動装置7を作動させて車速を低下させた後、要求レンジの形成を行っている。このため、不一致判定がなされた場合でも、変速歯車機構32等に過大な負荷を与えることなく要求レンジを形成することができる。
【0040】
[2.第2実施形態]
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0041】
前述した第1実施形態では、エンジンシステム2の状態とは無関係に前後進判定を実施している。これに対し、第2実施形態では、エンジンシステム2の状態を考慮して前後進判定を実施する点で第1実施形態とは相違する。
【0042】
[2.1.要求レンジ形成制御]
次に第2実施形態の自動変速機制御装置1のCPU11が、
図2に示した第1実施形態の要求レンジ形成制御に代えて実行する要求レンジ形成制御について、
図5のフローチャートを用いて説明する。
【0043】
なお、本実施形態では、
図2に示したフローチャートにおいて、S150とS160の間にS152が追加されているだけであるため、この変更部分を中心に説明する。
図5に示すように、CPU11は、S150にてNs>Nvとなるギヤ段が存在すると判断すると、S152に移行する。
【0044】
S152では、エンジンシステム2からエンジン回転数Neを取得して、エンジンがアイドル状態にあるか否かを判断する。エンジンがアイドル状態でなければS130に戻り、エンジンがアイドル状態であれば、S160に移行する。
【0045】
なお、本実施形態では、S152が制御許可部に相当する。
[2.2.効果]
以上詳述した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果に加え、以下の効果が得られる。
【0046】
即ち、本実施形態では、エンジンがアイドル状態にある場合に限り前後進判定を実施しているため、アクセルペダルが操作される等して変速歯車機構32の入力軸321に加わる入力トルクが変化し、前後進判定を正しく行うことができない状態の時に、誤った前後進判定の結果が提供されることがなく、前後進判定結果の信頼性を向上させることができる。
【0047】
[3.第3実施形態]
第3実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0048】
前述した第1実施形態では、入力軸回転数変化量ΔNtのみで前後進判定を実施している。これに対し、第3実施形態では、エンジン回転数Neを用いて外乱(入力トルクの変化)の有無を判断し、外乱のない場合に前後進判定を実施する点で第1実施形態とは相違する。
【0049】
[3.1.要求レンジ形成制御]
次に第3実施形態の自動変速機制御装置1のCPU11が、
図2に示した第1実施形態の要求レンジ形成制御に代えて実行する要求レンジ形成制御について、
図6のフローチャートを用いて説明する。
【0050】
なお、本実施形態では、
図2に示したフローチャートにおいて、S180,S190を、S174,S184,S194に代えているだけであるため、この変更部分を中心に説明する。
【0051】
図6に示すように、CPU11は、S170に続けてS174を実行する。
S174では、エンジンシステム2からエンジン回転数Neを取得する。
続くS184では、ΔNt>0、かつ、Nt>Neであるか否かを判断する。つまり、クラッチを半係合状態とする前はNt≒Neであり、エンジン回転数Neの増加に伴ってΔNt>0となったのではなく、クラッチを半係合状態にした結果としてΔNt>0となっているということを判断に加えている。そして、ΔNt>0、かつ、Nt>NeであればS230に移行して要求レンジの形成を行い、ΔNt>0、かつ、Nt>NeでなければS194に移行する。
【0052】
S194では、ΔNt<0、かつ、Nt<Neであるか否かを判断する。つまり、エンジン回転数Neの減少に伴ってΔNt<0となったのではなく、クラッチを半係合状態にした結果としてΔNt<0となっているということを判断に加えている。そして、ΔNt<0、かつ、Nt<NeであればS200に移行し、ΔNt<0、かつ、Nt<NeでなければS130に戻る。
【0053】
なお、本実施形態では、S174が回転数取得部、S170,S184,S194が前後進判定部に相当する。
[3.2.効果]
以上詳述した第3実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果に加え、以下の効果が得られる。
【0054】
即ち、本実施形態では、クラッチを半係合状態にした後のエンジン回転数Neと入力軸回転数Ntとを比較することで、入力軸回転数Ntの変化が入力軸321に加わる入力トルクの変化によるものか、クラッチを半係合状態にしたことによるものかを判断している。このため、入力トルクが変化し、前後進判定を正しく行うことができない状態の時に、誤った前後進判定の結果が提供されることがなく、前後進判定結果の信頼性を向上させることができる。
【0055】
[4.第4実施形態]
第4実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。
【0056】
前述した第1実施形態では、入力軸回転数変化量ΔNtのみで前後進判定を実施している。これに対し、第4実施形態では、入力軸回転数変化量ΔNtの推定値を利用して、外乱の有無を判断し、外乱がない場合に前後進判定を実施する点で第1実施形態とは相違する。
【0057】
[4.1.要求レンジ形成制御]
次に第4実施形態の自動変速機制御装置1のCPU11が、
図2に示した第1実施形態の要求レンジ形成制御に代えて実行する要求レンジ形成制御について、
図7のフローチャートを用いて説明する。
【0058】
なお、本実施形態では、
図2に示したフローチャートにおいて、S160とS170の間にS166を追加し、S180,S190をS186,S196に代えているだけであるため、この変更部分を中心に説明する。
【0059】
図7に示すように、CPU11は、S160に続けてS166を実行する。
S166では、入力軸回転数変化量ΔNtについて、要求方向と実方向とが一致している場合の推定値である一致時推定値ΔNcと、要求方向と実方向とが不一致である場合の推定値である不一致時推定値ΔNnを算出する。具体的には、エンジン回転数Neを取得し、エンジン回転数Neから得られるエンジントルク情報およびトルクコンバータ31の特性に基づき、エンジン側から入力軸321に加わる入力トルク(以下、エンジン側入力トルク)を計算すると共に、ソレノイド指示の内容から算出されるクラッチのトルク容量に基づいて、出力軸322側から変速歯車機構32を介して入力軸321に加わる入力トルク(以下、クラッチ側入力トルク)を計算する。そして、これらエンジン側入力トルク、クラッチ側入力トルク、変速歯車機構32を構成する回転体の慣性重量から、一致時推定値ΔNcおよび不一致時推定値ΔNnを算出する。
【0060】
続くS170では、S160でのソレノイド指示が変速歯車機構32に反映されるのに要する時間だけ待機した後、入力軸回転数検出装置5から入力軸回転数Ntを取得して、先のS130での取得値との差分である入力軸回転数変化量ΔNtを算出する。
【0061】
続くS186では、入力軸回転数変化量の実測値ΔNtが一致時推定値ΔNc以上(ΔNt≧ΔNc)であるか否かを判断する。そして、ΔNt≧ΔNcであり、両者が一致していると見なせる場合は、入力軸回転数Ntは外乱の影響を受けておらず、かつ、要求方向と実方向とが一致していると判断してS230に移行し、要求レンジの形成を行う。一方、ΔNt≧ΔNcでなければS196に移行する。
【0062】
S196では、入力軸回転数変化量の実測値ΔNtが不一致時推定値ΔNn以下(ΔNt≦ΔNn)であるか否かを判断する。そして、ΔNt≦ΔNnであり、両者が一致していると見なせる場合は、入力軸回転数Ntは外乱の影響を受けておらず、かつ、要求方向と実方向とが不一致であると判断してS200に移行する。一方、ΔNt≦ΔNnでなければ、入力軸回転数Ntが外乱の影響を受けていると判断してS130に戻る。
【0063】
なお、本実施形態では、S166が変化量推定部、S170,S186,S196が前後進判定部に相当する。
[4.2.効果]
以上詳述した第4実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果に加え、以下の効果が得られる。
【0064】
即ち、本実施形態では、入力軸回転数変化量の一致時推定値ΔNc,不一致時推定値ΔNnを求め、実測値ΔNtと比較することで、入力軸回転数Ntひいては入力軸回転数変化量の実測値ΔNtが、入力トルクの変化等の外乱の影響を受けているか否かを判断している。このため、外乱の影響を受け、前後進判定を正しく行うことができない状態の時に、誤った前後進判定の結果が提供されることがなく、前後進判定結果の信頼性を向上させることができる。
【0065】
[5.他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を採り得る。
【0066】
(1)上記実施形態における一つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分散させたり、複数の構成要素が有する機能を一つの構成要素に統合させたりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加または置換等してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
【0067】
(2)上述した自動変速機制御装置の他、当該自動変速機制御装置を構成要素とするシステム、当該自動変速機制御装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した非遷移的実態的記録媒体、自動変速機の制御方法など、種々の形態で実現することもできる。