【実施例】
【0049】
以下に示す実施例および比較例において、シート案内面3に安定的に付与できる電位差を比較した。また、帯電させたシートに薄膜を形成した後に、シートと薄膜の密着力を評価した。
【0050】
[実施例1]
電気絶縁性シートとして、厚さ12μm、幅200mmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東レ株式会社製「ルミラー(登録商標)」)の片面を、
図2に示すプラズマ発生手段を用いた
図1に示す巻取式真空蒸着装置にて、以下に示す条件で帯電させた。
【0051】
(減圧室条件)
(1)減圧室圧力:2Pa。
【0052】
(プラズマ電極条件)
接地した筐体内にマグネトロン電極を内蔵するプラズマ発生手段を用いた。各条件は以下の通り。
(1)プラズマ電極のシート幅方向の長さ:300mm
(2)プラズマ用直流電源の電力出力:100W
(3)プラズマ電極の筐体の荷電粒子放出口:シート走行方向の開口3mm、シート幅方向の開口280mm
(4)シート案内面と荷電粒子放出口との距離:10mm
(5)荷電粒子放出口の向き:プラズマ電極であるマグネトロン電極の中心と、荷電粒子放出口の中心を結んだ直線の延長線が円筒形シート案内面の表面にほぼ垂直に入射する向き。
(6)プラズマ生成用ガス種:アルゴン
(7)プラズマ生成用ガス流量:100cc/分
(8)筐体に接続された抵抗の抵抗値:10Ω。
【0053】
(シート案内面条件)
図1に示すように円筒形のシート案内面を使用した。各条件は以下の通り。
(1)円筒形シート案内面の直径:600mm
(2)シート搬送速度:5m/分。
【0054】
以上の条件下のもとプラズマ放電を発生させながら、シート案内面に直流電源を用いて印加する電圧を上昇させていった結果、アース電位に対してシート案内面の電位が+500[V]になるまで安定して電圧を印加することができた。
【0055】
さらに、シート案内面の電位を+500Vに維持したまま連続的にシートに薄膜を形成した。薄膜形成の条件は以下の通り。
【0056】
(薄膜形成条件)
(1)蒸発源:抵抗加熱ボート
(2)蒸発材料:アルミニウム
(3)蒸着室圧力:2×10
−2Pa
(4)膜厚:30nm。
【0057】
以上の条件で蒸着を完了した電気絶縁性シートの、薄膜が形成された領域を切り出し、はく離接着強さ試験方法(JIS K 6854−3)に準じてシートと薄膜の密着力を評価したところ、密着力は162g/15mmであった。はく離界面は蒸着膜内部であり、蒸着膜とシートとの界面が強固に密着していた。
【0058】
[実施例2]
プラズマ発生手段を
図4aに示すプラズマ発生手段へ変更した以外は、使用した電気絶縁性シート、減圧室条件およびシート案内面条件は実施例1と同じ条件で帯電させた。
【0059】
プラズマ放電を発生させながら、実施例1と同じ条件で薄膜を形成しつつシート案内面に直流電源を用いて印加する電圧を上昇させていった結果、アース電位に対してシート案内面の電位が+250Vになるまで安定して電圧を印加することができた。
【0060】
さらに、アース電位とシート案内面3との電位差を150Vに設定して成膜した薄膜とシートの密着力を評価したところ、密着力は153g/15mmであった。はく離界面は蒸着膜内部であり、蒸着膜とシートとの界面が強固に密着していた。
【0061】
[実施例3]
プラズマ発生手段を
図4bに示すプラズマ発生手段へ変更した以外は、使用した電気絶縁性シート、減圧室条件およびシート案内面条件は実施例1と同じ条件で帯電させた。実施例1で使用したプラズマ発生手段との違いは以下のとおりである。
(1)板状金属部材に接続された抵抗の抵抗値:10Ω。
【0062】
以上の条件下のもとプラズマ放電を発生させながら、実施例1と同じ条件で薄膜を形成しつつシート案内面に直流電源を用いて印加する電圧を上昇させていった結果、アース電位に対してシート案内面の電位が+200Vになるまで安定して電圧を印加することができた。
【0063】
さらに、アース電位とシート案内面3との電位差を150Vに設定して成膜した薄膜とシートの密着力を評価したところ、密着力は163g/15mmであった。はく離界面は蒸着膜内部であり、蒸着膜とシートとの界面が強固に密着していた。
【0064】
[実施例4]
実施例3の、板状金属部材に接続された抵抗の抵抗値のみを変更し、実施例3と同じ条件で帯電させた。
(1)板状金属部材に接続された抵抗の抵抗値:100Ω。
【0065】
以上の条件下のもとプラズマ放電を発生させながら、実施例1と同じ条件で薄膜を形成しつつシート案内面に直流電源を用いて印加する電圧を上昇させていった結果、アース電位に対してシート案内面の電位が+220Vになるまで安定して電圧を印加することができた。
【0066】
さらに、アース電位とシート案内面3との電位差を150Vに設定して成膜した薄膜とシートの密着力を評価したところ、密着力は153g/15mmであった。はく離界面は蒸着膜内部であり、蒸着膜とシートとの界面が強固に密着していた。
【0067】
[実施例5]
実施例3の、板状金属部材に接続された抵抗の抵抗値のみを変更し、実施例3と同じ条件で帯電させた。
(1)板状金属部材に接続された抵抗の抵抗値:1000Ω。
【0068】
以上の条件下のもとプラズマ放電を発生させながら、実施例1と同じ条件で薄膜を形成しつつシート案内面に直流電源を用いて印加する電圧を上昇させていった結果、アース電位に対してシート案内面の電位が+200Vになるまで安定して電圧を印加することができた。
【0069】
さらに、アース電位とシート案内面3との電位差を150Vに設定して成膜した薄膜とシートの密着力を評価したところ、密着力は153g/15mmであった。はく離界面は蒸着膜内部であり、蒸着膜とシートとの界面が強固に密着していた。
【0070】
[実施例6]
プラズマ発生手段を
図4dに示すプラズマ発生手段へ変更した以外は、使用した電気絶縁性シート、減圧室条件およびシート案内面条件は実施例1と同じ条件で帯電させた。実施例1で使用したプラズマ発生手段との違いは以下のとおりである。
(1)板状金属部材に接続された抵抗の抵抗値:100Ω
(2)筐体に接続された抵抗の抵抗値:10Ω。
【0071】
以上の条件下のもとプラズマ放電を発生させながら、実施例1と同じ条件で薄膜を形成しつつシート案内面に直流電源を用いて印加する電圧を上昇させていった結果、アース電位に対してシート案内面の電位が+170Vになるまで安定して電圧を印加することができた。
【0072】
さらに、アース電位とシート案内面3との電位差を150Vに設定して成膜した薄膜とシートの密着力を評価したところ、密着力は163g/15mmであった。はく離界面は蒸着膜内部であり、蒸着膜とシートとの界面が強固に密着していた。
【0073】
[実施例7]
実施例6の各抵抗値を変更した以外は、使用した電気絶縁性シート、減圧室条件およびシート案内面条件は実施例6と同じ条件で帯電させた。実施例6で使用したプラズマ発生手段との違いは以下のとおりである。
(1)板状金属部材に接続された抵抗の抵抗値:100kΩ
(2)筐体に接続された抵抗の抵抗値:100kΩ。
【0074】
以上の条件下のもとプラズマ放電を発生させながら、実施例1と同じ条件で薄膜を形成しつつシート案内面に直流電源を用いて印加する電圧を上昇させていった結果、アース電位に対してシート案内面の電位が+150Vになるまで安定して電圧を印加することができた。
【0075】
さらに、アース電位とシート案内面3との電位差を150Vに設定して成膜した薄膜とシートの密着力を評価したところ、密着力は163g/15mmであり、はく離界面は蒸着膜内部であり、蒸着膜とシートとの界面が強固に密着していた。
【0076】
[実施例8]
実施例7の各抵抗値を変更した以外は、使用した電気絶縁性シート、減圧室条件およびシート案内面条件は実施例7と同じ条件で帯電させた。実施例7で使用したプラズマ発生手段との違いは以下のとおりである。
(1)板状金属部材に接続された抵抗の抵抗値:0.1Ω
(2)筐体に接続された抵抗の抵抗値:0.1Ω。
【0077】
以上の条件下のもとプラズマ放電を発生させながら、実施例1と同じ条件で薄膜を形成しつつシート案内面に直流電源を用いて印加する電圧を上昇させていった結果、アース電位に対してシート案内面の電位が+250Vになるまで安定して電圧を印加することができた。
【0078】
さらに、アース電位とシート案内面3との電位差を150Vに設定して成膜した薄膜とシートの密着力を評価したところ、密着力は163g/15mmであった。はく離界面は蒸着膜内部であり、蒸着膜とシートとの界面が強固に密着していた。
【0079】
[比較例1]
実施例1で用いたプラズマ発生手段のうち、筐体とアース電位との電気的接続を切り離した状態にて、使用した電気絶縁性シート、減圧室条件およびシート案内面条件は実施例1と同じ条件で帯電させた。筐体が浮遊電位となることが実施例1で使用したプラズマ発生手段との違いである。
【0080】
以上の条件下のもとプラズマ放電を発生させながら、シート案内面に直流電源を用いて印加する電圧を上昇させていった結果、アース電位に対してシート案内面の電位が+100Vを超えたところで荷電粒子の放出口25にてグロー放電が発生し、安定的に電位差を与えることができなかった。
【0081】
[比較例2]
実施例3で用いたプラズマ発生手段のうち、板状金属部材をアース接地した状態で放電出力30Wにて、使用した電気絶縁性シート、減圧室条件およびシート案内面条件は実施例3と同じ条件で帯電させた。板状金属部材がアース電位となること、放電出力が30Wであることが実施例3で使用したプラズマ発生手段との違いである。
【0082】
以上の条件下のもとプラズマ放電を発生させながら、シート案内面に直流電源を用いて印加する電圧を上昇させていった結果、アース電位に対してシート案内面の電位が+500Vになるまで安定して電圧を印加することができたが、蒸着を実施したところ熱負けが発生した。
【0083】
[比較例3]
荷電粒子供給源を
図7に示す電子ビーム照射装置へ変更し、シート案内面を接地電位に変更した以外は、使用した電気絶縁性シート、減圧室条件およびシート案内面条件は実施例1と同じ条件で帯電させた。実施例1で使用したプラズマ発生手段との違いは以下のとおりである。
(1)電子ビーム照射装置の放電電圧:9kV
(2)電子ビーム照射装置の放電電流:700mA。
【0084】
さらに、荷電粒子供給源を電子ビーム照射装置に変更し、シート案内面を接地電位に変更した以外は、実施例1と同じ条件で薄膜を形成し、シートと薄膜の密着力を評価したところ、密着力は57g/15mmであった。はく離界面は蒸着膜とシートの界面であり、蒸着膜とシートとの界面の密着が弱かった。