特許第6443321号(P6443321)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6443321-電線保護部材及びワイヤーハーネス 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443321
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】電線保護部材及びワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H02G 3/04 20060101AFI20181217BHJP
   F16L 58/10 20060101ALI20181217BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20181217BHJP
   H01B 7/18 20060101ALI20181217BHJP
   H01B 7/24 20060101ALI20181217BHJP
   H01B 7/36 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   H02G3/04 081
   F16L58/10
   H01B7/00 301
   H01B7/18 G
   H01B7/24
   H01B7/36 Z
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-252513(P2015-252513)
(22)【出願日】2015年12月24日
(65)【公開番号】特開2017-118712(P2017-118712A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年3月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】良知 宏伸
【審査官】 木村 励
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−513171(JP,A)
【文献】 特開昭60−4054(JP,A)
【文献】 特開2002−294021(JP,A)
【文献】 特開2004−225363(JP,A)
【文献】 特開2014−50267(JP,A)
【文献】 特開2012−178942(JP,A)
【文献】 特開2014−159522(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02G 3/04
H01B 7/00
H01B 7/18
H01B 7/24
H01B 7/36
F16L 58/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電線が挿通される金属パイプと、
該金属パイプの外表面を覆う樹脂塗膜とを有し、
該樹脂塗膜は、
ガラス転移点が40℃以上、及び、水蒸気透過係数が260g・mm/m2・24hr以下のうち少なくとも一方を満たしており、
厚さが30μm以上である、電線保護部材。
【請求項2】
上記樹脂塗膜は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタンアクリル樹脂及びエポキシアクリル樹脂のうちいずれかの樹脂の架橋体を含んでいる、請求項1に記載の電線保護部材。
【請求項3】
上記樹脂塗膜は、上記金属パイプとは異なる色調を有している、請求項1または2に記載の電線保護部材。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載された電線保護部材と、
該電線保護部材の上記金属パイプ内に挿通された電線とを有する、ワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電線保護部材及び電線保護部材を有するワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両に配索されるワイヤーハーネスは、電線と、電線を保護するための電線保護部材とを有している。電線保護部材には、例えば、バッテリーとエンジンとを接続する電線等の高圧電線が挿通されることがある。
【0003】
この種の電線保護部材は、アルミニウム製のパイプから構成されていることが多い。また、電線保護部材の表面は、ワイヤーハーネスの配索作業や取り外し作業等の際に高圧電線が挿通されていることを視認できるように、特定の色に着色されている。例えば、特許文献1及び特許文献2には、パイプ本体の外表面の一部に、塗料やテープ等の着色剤を用いて識別マークを形成する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−50267号公報
【特許文献2】特開2014−50268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
識別マークは、電線保護部材の外表面に配置されているため、使用中に雨や結露等の水分に曝されることがある。従来の識別マークは、水分に曝されると、識別マークを構成する塗料等と金属パイプとの接着性が低下し、割れや膨れ、あるいは金属パイプからの剥離が比較的短期間に起きるという問題がある。
【0006】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、長期間に亘って樹脂塗膜の割れや膨れ、金属パイプからの剥離の発生を抑制できる電線保護部材及び該電線保護部材を有するワイヤーハーネスを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、電線が挿通される金属パイプと、
該金属パイプの外表面を覆う樹脂塗膜とを有し、
該樹脂塗膜は、
ガラス転移点が40℃以上、及び、水蒸気透過係数が260g・mm/m2・24hr以下のうち少なくとも一方を満たしており、
厚さが30μm以上である、電線保護部材にある。
【発明の効果】
【0008】
上記電線保護部材は、ガラス転移点が40℃以上、及び、水蒸気透過係数が260g・mm/m2・24hr以下のうち少なくとも一方を満たしており、厚さが30μm以上である上記樹脂塗膜を有している。上記樹脂塗膜は、ガラス転移点及び水蒸気透過係数のうち少なくとも一方を上記特定の範囲とした上で、その厚さを上記特定の範囲とすることにより、水分との接触による上記金属パイプへの接着性の低下を抑制することができる。その結果、長期間に亘って樹脂塗膜の割れや膨れ、金属パイプからの剥離の発生を抑制することができる。このような効果は、後述する実験例からも明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例における、電線保護部材の斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
上記電線保護部材において、金属パイプは、ワイヤーハーネスの軽量化の観点から、通常、アルミニウムまたはアルミニウム合金から構成されている。
【0011】
金属パイプの外表面を覆う樹脂塗膜は、ガラス転移点が40℃以上、及び、水蒸気透過係数が260g・mm/m2・24hr以下のうち少なくとも一方を満たしている。樹脂塗膜の表面に付着した水分は、樹脂塗膜の内部に拡散しつつ浸透する。そして、水分が樹脂塗膜と金属パイプとの界面に到達すると、樹脂塗膜と金属パイプとの接着性を低下させる原因となる。
【0012】
これに対し、ガラス転移点が40℃以上である樹脂塗膜は、比較的高い架橋密度を有しているため、樹脂塗膜の内部への水分の浸透を抑制することができる。水分の浸透をより抑制する観点からは、ガラス転移点は、43℃以上であることが好ましく、47℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることが更に好ましい。
【0013】
また、水蒸気透過係数が260g・mm/m2・24hr以下である樹脂塗膜も、上記と同様に、樹脂塗膜の内部への水分の浸透を抑制することができる。水分の浸透をより抑制する観点からは、水蒸気透過係数が、250g・mm/m2・24hr以下であることが好ましく、240g・mm/m2・24hr以下であることがより好ましく、230g・mm/m2・24hr以下であることが更に好ましい。
【0014】
また、樹脂塗膜の厚さは30μm以上とする。樹脂塗膜の厚さを30μm以上とすることにより、樹脂塗膜と金属パイプとの界面に到達する水分の量を低減することができる。界面に到達する水分の量をより低減する観点からは、樹脂塗膜の厚さを35μm以上とすることが好ましく、40μm以上とすることがより好ましく、50μm以上とすることがさらに好ましい。
【0015】
界面に到達する水分の量をより低減する観点からは、樹脂塗膜の厚さが厚い方が好ましい。しかし、樹脂塗膜の厚さが過度に厚くなると、塗料の使用量が多くなり、コストアップを招くおそれがある。塗料の使用量を低減する観点からは、樹脂塗膜の厚さを100μm以下とすることが好ましく、95μm以下とすることがより好ましく、80μm以下とすることがさらに好ましい。
【0016】
以上のように、樹脂塗膜におけるガラス転移点及び水蒸気透過係数のうち少なくとも一方を上記特定の範囲とすることにより、樹脂塗膜の内部への水分の浸透を抑制することができる。そして、樹脂塗膜の厚さを上記特定の範囲とすることにより、樹脂塗膜と金属パイプとの界面に到達する水分の量を低減することができる。従って、ガラス転移点及び水蒸気透過係数のうち少なくとも一方を上記特定の範囲とした上で、その厚さを上記特定の範囲とすることにより、水分との接触による樹脂塗膜と金属パイプとの接着性の低下を抑制することができる。
【0017】
上記樹脂塗膜は、例えば、架橋性樹脂を含む塗料を金属パイプの外表面に塗布した後、架橋性樹脂を架橋させることにより形成することができる。架橋性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、エポキシアクリル樹脂、ウレタンアクリル樹脂、ポリアミド樹脂及びシリコーン樹脂等を用いることができる。
【0018】
樹脂塗膜は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ウレタンアクリル樹脂及びエポキシアクリル樹脂のうちいずれかの樹脂の架橋体を含んでいることが好ましい。この場合には、樹脂塗膜のガラス転移点をより容易に上昇させることができる。また、この場合には、樹脂塗膜の耐熱性をより高くすることができるとともに、樹脂塗膜をより剥離しにくくすることができる。
【0019】
また、樹脂塗膜は、紫外線硬化型の塗料から構成されていることが好ましい。この場合には、金属パイプに塗布した塗料を迅速に硬化させることができる。その結果、電線保護部材の生産性をより向上させることができる。
【0020】
樹脂塗膜は、例えばオレンジ色等の、金属パイプの地色とは異なる色を呈していてもよい。この場合には、例えば、ワイヤーハーネスの配索作業や取り外し作業等において、上記電線保護部材内に高圧電線が挿通されていることを容易に視認することができる。
【0021】
ワイヤーハーネスは、上記電線保護部材と、電線保護部材内に挿通された電線とを有している。ワイヤーハーネスは、1個の電線保護部材を有していてもよく、複数個の電線保護部材を有していてもよい。
【0022】
また、電線保護部材内に挿通される電線の本数は特に限定されることは無く、用途に応じて1本あるいは複数本の電線を電線保護部材内に挿通することができる。
【0023】
上記の構成を有するワイヤーハーネスは、例えば電気自動車やハイブリッド自動車における、電力変換装置とバッテリーとの間、あるいは電力変換装置とモータとの間等を接続する用途に好適に用いることができる。
【実施例】
【0024】
(実施例)
上記電線保護部材の実施例について、図1を用いて説明する。電線保護部材1は、電線が挿通される金属パイプ2と、金属パイプ2の外表面を覆う樹脂塗膜3とを有している。樹脂塗膜3は、ガラス転移点が40℃以上、及び、水蒸気透過係数が260g・mm/m2・24hr以下のうち少なくとも一方を満たしており、厚さが30μm以上である。
【0025】
図には示さないが、本例の電線保護部材1は、内部に電線を挿通することにより、ワイヤーハーネスとして構成することができる。ワイヤーハーネスは、例えば電気自動車やハイブリッド自動車における、電力変換装置とバッテリーとの間、あるいは電力変換装置とモータとの間等を接続する用途に好適に用いることができる。
【0026】
本例の金属パイプ2は、アルミニウム合金からなる円筒状の直管である。なお、金属パイプ2は、ワイヤーハーネスの配索形態に応じて適宜屈曲されていてもよい。
【0027】
図1に示すように、金属パイプ2の外表面は、樹脂塗膜3により覆われている。また、樹脂塗膜3は、オレンジ色を呈している。これにより、電線保護部材1が車両に取り付けられた状態において、その内部に高圧電線が挿通されていることを視認することができる。本例の樹脂塗膜3は、例えば、紫外線硬化型の樹脂塗料を金属パイプの外表面に塗布した後、紫外線を照射して硬化させることにより形成することができる。なお、樹脂塗料としては、アクリル樹脂塗料、メタクリル樹脂塗料またはエポキシアクリル樹脂塗料などを用いることができる。
【0028】
本例の電線保護部材1は、ガラス転移点が40℃以上、及び、水蒸気透過係数が260g・mm/m2・24hr以下のうち少なくとも一方を満たしており、厚さが30μm以上である樹脂塗膜3を有している。それ故、水分との接触による樹脂塗膜3と金属パイプ2との接着性の低下を抑制することができる。その結果、長期間に亘って樹脂塗膜3の割れや膨れ、金属パイプ2からの剥離の発生を抑制することができる。
【0029】
(実験例)
本例は、種々の樹脂塗料から構成された樹脂塗膜3と金属パイプ2との接着性を評価した例である。本例において用いた樹脂塗料は、以下の通りである。なお、いずれの樹脂塗料も、紫外線硬化型のアクリル樹脂塗料である。
【0030】
<樹脂塗料>
・樹脂塗料A:株式会社スリーボンド製 品番「TB3006D」
・樹脂塗料B:株式会社スリーボンド製 品番「TB3013Q」
・樹脂塗料C:株式会社スリーボンド製 品番「TB3017F」
【0031】
<樹脂塗膜の物性評価>
[ガラス転移点]
各樹脂塗料を平板に塗布した後、紫外線を照射して硬化させ、樹脂塗膜3を形成した。平板から剥離した樹脂塗膜3を測定片として、動的粘弾性測定を行った。そして、動的粘弾性測定により得られたtanδ−温度T曲線のピーク温度をガラス転移点とした。各樹脂塗膜3のガラス転移点は、表1〜表3に示したとおりであった。
【0032】
なお、動的粘弾性測定の詳細な測定条件は、以下の通りであった。
・測定周波数 1Hz
・測定温度 −40〜150℃
・昇温速度 3℃/分
・測定ひずみ 1%
【0033】
[水蒸気透過係数]
上記と同様の方法により形成した樹脂塗膜3を平板から剥離し、試料とした。この試料を用い、JIS Z0208に規定されるカップ法により、水蒸気透過度の測定を行った。そして、得られた水蒸気透過度に試料の厚みを乗じて水蒸気透過係数を算出した。各樹脂塗膜3の水蒸気透過係数は、表1〜表3に示したとおりであった。なお、測定温度は80℃とした。
【0034】
<金属パイプ2との接着性評価>
アルミニウム合金製の金属パイプ2の表面が表1〜表3に示す樹脂塗膜3により覆われた電線保護部材1(試験体1〜9)を作製した。この試験体を100℃の温水中に30時間浸漬し、樹脂塗膜3に水分を浸透させた。30時間後、温水から取り出した試験体を用いて碁盤目試験を行った。
【0035】
碁盤目試験は、具体的には以下の手順により行った。まず、カッターナイフを用いて試験体の樹脂塗膜3に格子状の切込みを入れ、正方形状を呈する樹脂塗膜3の小片を100個作製した。次に、格子状の切込みを入れた部分に粘着テープ(ニチバン株式会社製包装用セロハン粘着テープ No.405)を貼り付けた。そして、粘着テープを試験体から剥離したときに粘着テープに付着した小片の個数を数えた。その結果を表1〜表3に示した。なお、各小片の1辺の長さは1mmとした。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【表3】
【0039】
表1〜表3に示すように、試験体1及び試験体4は、ガラス転移点が40℃以上、及び、水蒸気透過係数が260g・mm/m2・24hr以下のうち少なくとも一方を満たしており、厚さが30μm以上である樹脂塗膜3を有していた。そのため、接着性評価において金属パイプ2から樹脂塗膜3の小片が剥離せず、優れた接着性を示した。
【0040】
一方、試験体2〜3及び5〜6は、樹脂塗膜3の厚さが30μm未満であったため、接着性評価において金属パイプ2から樹脂塗膜3の小片が剥離した。試験体1〜6の比較から、樹脂塗膜3の厚さが薄くなるほど接着性評価において金属パイプ2から剥離する小片の数が多くなり、水分の浸透によって接着性が低下したことが理解できる。
【0041】
試験体7〜9は、ガラス転移点が40℃以上、及び、水蒸気透過係数が260g・mm/m2・24hr以下のいずれも満たしていない樹脂塗膜3を有していたため、いずれの膜厚においても接着性評価において金属パイプ2から樹脂塗膜3の小片が剥離した。
【0042】
以上の結果から、ガラス転移点及び水蒸気透過係数のうち少なくとも一方を上記特定の範囲とした上で、その厚さを上記特定の範囲とすることにより、樹脂塗膜3の内部への水分の浸透を抑制し、長期間に亘って樹脂塗膜3の割れや膨れ、金属パイプ2からの剥離の発生を抑制できることが十分に理解できる。
【0043】
なお、本発明は、上述した実施例及び実験例の態様に限定されることは無く、その趣旨を損なわない範囲で適宜構成を変更することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 電線保護部材
2 金属パイプ
3 樹脂塗膜
図1