(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
インタークーラと該インタークーラへ冷媒を導出する電動式のポンプとを備える吸気の冷却系と、前記インタークーラよりも下流側の吸気通路に排気を還流させるEGR通路と該EGR通路を介して還流される排気であるEGRガスの量を調節するEGRバルブとを備えるEGR機構と、を有する内燃機関に適用される内燃機関の制御装置であって、
前記インタークーラ内の冷媒の沸騰を予測する沸騰予測部と、
前記EGRバルブの開度を制御して、前記内燃機関の燃焼室へ流入する気体に占める前記EGRガスの割合であるEGR率を調節するEGR制御部と、
前記ポンプを制御して前記インタークーラへ導出する冷媒流量を調節する冷却系制御部と、を備え、
前記冷却系制御部は、前記沸騰予測部によって冷媒が沸騰すると判定されているとき、冷媒が沸騰すると判定されていないときよりも前記冷媒流量を増大させる沸騰回避処理を実行し、
前記EGR制御部は、前記沸騰回避処理が実行されているとき、少なくとも、前記吸気通路に凝縮水が発生する機関運転領域におけるEGR率を、前記沸騰回避処理が実行されていないときよりも低くする内燃機関の制御装置。
前記EGR制御部は、前記吸気通路に凝縮水が発生しない機関運転領域におけるEGR率については、前記沸騰回避処理が実行されているときも前記沸騰回避処理が実行されていないときと同様に調節する
請求項1に記載の内燃機関の制御装置。
前記内燃機関が有する前記EGR機構は、前記EGRガスを冷却するEGRクーラと、該EGRクーラを迂回するバイパス通路と、該バイパス通路に設けられ当該バイパス通路を開閉するバイパスバルブと、を備えており、
前記EGR制御部は、前記EGRバルブの開度と前記バイパスバルブの開閉とを制御するものであり、前記沸騰回避処理が実行されているときに、前記バイパスバルブを開弁する
請求項1又は2に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、過給機を備える内燃機関では、過給機によって過給された空気を冷却するためのインタークーラを吸気通路に備えている。インタークーラもEGRクーラと同様に経路内で冷媒が循環しているため、インタークーラに流入する空気の温度によってはインタークーラ内の冷媒が沸騰する虞がある。そこで、特許文献1に開示されている制御装置と同様に冷媒の流量を増大させることによってインタークーラ内の冷媒が沸騰することを抑制することが考えられる。
【0005】
上記のように冷媒の沸騰を抑制するためにインタークーラの冷媒流量を増大させると、インタークーラを通過する空気が過度に冷却されることがある。ここで、インタークーラを備えている内燃機関がEGR機構をさらに備えている場合、EGRガスは、過度に冷却された空気が流れる吸気通路へ還流される。そして、吸気通路において合流したEGRガスを含む気体の温度が露点よりも低下すると、吸気通路内の気体が含有する水分が液化して、吸気通路内に凝縮水が発生する虞がある。すなわち、EGR機構を備える内燃機関において、インタークーラ内の冷媒の沸騰を抑制するために冷媒の流量を増大させた場合、吸気通路内に凝縮水が発生する虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段及びその作用効果について記載する。
上記課題を解決するための内燃機関の制御装置が適用される内燃機関は、インタークーラと該インタークーラへ冷媒を導出する電動式のポンプとを備える吸気の冷却系と、前記インタークーラよりも下流側の吸気通路に排気を還流させるEGR通路と該EGR通路を介して還流される排気であるEGRガスの量を調節するEGRバルブとを備えるEGR機構と、を有する。上記内燃機関の制御装置は、前記インタークーラ内の冷媒の沸騰を予測する沸騰予測部と、前記EGRバルブの開度を制御して、前記内燃機関の燃焼室へ流入する気体に占める前記EGRガスの割合であるEGR率を調節するEGR制御部と、前記ポンプを制御して前記インタークーラへ導出する冷媒流量を調節する冷却系制御部と、を備える。そして、前記冷却系制御部は、前記沸騰予測部によって冷媒が沸騰すると判定されているとき、冷媒が沸騰すると判定されていないときよりも前記冷媒流量を増大させる沸騰回避処理を実行し、前記EGR制御部は、前記沸騰回避処理が実行されているとき、少なくとも、前記吸気通路に凝縮水が発生する機関運転領域におけるEGR率を、前記沸騰回避処理が実行されていないときよりも低くすることをその要旨とする。
【0007】
上記構成によれば、インタークーラ内の冷媒の沸騰を抑制するために冷媒流量を増大させたとしても、吸気通路内の空気と合流するEGRガスの量が少なくされるため、吸気通路内の空気とEGRガスとが合流することに伴って発生する凝縮水を抑制することができる。
【0008】
上記内燃機関の制御装置の一例では、前記EGR制御部は、前記吸気通路に凝縮水が発生しない機関運転領域におけるEGR率については、前記沸騰回避処理が実行されているときも前記沸騰回避処理が実行されていないときと同様に調節する。
【0009】
内燃機関の運転状態に応じて凝縮水の生じやすさは変化する。換言すれば、冷却系制御部によって沸騰回避処理が実行されて冷媒流量が増大されたとしても、凝縮水が発生しにくい機関運転領域も存在する。当該領域においてもEGR率を低くしてしまうと、排気を還流させることによる効果が損なわれる虞がある。上記構成では、凝縮水が発生する機関運転領域であるときにはEGR率を低くする一方で、凝縮水が発生しない機関運転領域であるときにはEGR率を低くしない。そのため、凝縮水の発生を抑制しつつも、排気を還流させることによる効果が損なわれることを抑制することができる。
【0010】
上記内燃機関の制御装置の一例では、前記内燃機関が有する前記EGR機構は、前記EGRガスを冷却するEGRクーラと、該EGRクーラを迂回するバイパス通路と、該バイパス通路に設けられ当該バイパス通路を開閉するバイパスバルブと、を備えており、前記EGR制御部は、前記EGRバルブの開度と前記バイパスバルブの開閉とを制御するものであり、前記沸騰回避処理が実行されているときに、前記バイパスバルブを開弁する。
【0011】
EGRクーラを備えている場合にはEGRガスが冷却されることによって、吸気通路内においてEGRガスと合流した気体の温度が低下しやすく露点に至りやすい。つまり、吸気通路内に凝縮水がより生じやすくなる。上記構成によれば、沸騰回避処理が実行されてインタークーラへ導出される冷媒流量が増大されているときに、EGRガスがEGRクーラを迂回するようになり、EGRガスが冷却されにくくなる。つまり、凝縮水が発生しやすい状況になることを抑制することができる。
【0012】
上記内燃機関の制御装置の一例では、前記EGR制御部は、前記EGRガスの温度が規定温度未満のとき、前記バイパスバルブの開弁を許可する。
バイパスバルブを開弁してバイパス通路を通じてEGRガスを流し、EGRクーラを迂回させる場合、バイパス通路に設けられたバイパスバルブに対して冷却されていないEGRガスが当たると、バイパスバルブの耐久性が低下する虞がある。上記構成によれば、EGRガスの温度が高くないときに、バイパスバルブの開弁を許可するため、バイパスバルブの耐久性を確保しつつ、凝縮水の発生を抑制することができる。
【0013】
上記内燃機関の制御装置の一例では、前記EGR制御部は、前記EGRガスの量が規定量未満のとき、前記バイパスバルブの開弁を許可する。
EGRガスの温度が同等であったとしてもEGRクーラを迂回してバイパス通路を通過するEGRガスの量が多いほど、バイパスバルブの受熱量は多くなり、バイパスバルブの耐久性が低下しやすい。上記構成によれば、EGRガスの量が多くないときに、バイパスバルブの開弁を許可するため、バイパスバルブの耐久性を確保しつつ、凝縮水の発生を抑制することができる。
【0014】
EGRガスの温度が規定温度未満のとき、バイパスバルブの開弁を許可する構成を採用している場合、上記内燃機関の制御装置の一例では、前記EGR制御部は、前記EGRガスの量が多いときほど前記規定温度を低くする。
【0015】
EGRガスの温度が低いときでも、EGRガスの量が多いほどバイパスバルブの耐久性が低下しやすい。上記構成によれば、EGRガスの量が多いときには、より低い温度のときに開弁を許可することになるため、バイパスバルブの耐久性の低下をより確実に抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、内燃機関の制御装置の一実施形態である制御装置10について、
図1〜
図7を参照して説明する。
図1を用いて、制御装置10の制御対象である内燃機関20について説明する。内燃機関20は、複数の気筒を備えている。内燃機関20は、吸気通路30から空気を気筒に導入する。また、内燃機関20は、燃料噴射弁から燃料を噴射し、気筒内にて空気及び燃料を燃焼させる。内燃機関20は、排気通路40から排気を排出する。
【0018】
内燃機関20のシリンダヘッドには、吸気通路30内の空気を分配して各気筒に導入する吸気マニホールド31が接続されている。また、内燃機関20のシリンダヘッドには、各気筒から排出した排気を集合させる排気マニホールド41が接続されている。排気マニホールド41を介して集合した排気が排気通路40を通じて排出される。
【0019】
排気通路40の途中には、排気を利用してタービン52を回転させる過給機50が設けられている。過給機50は、タービン52の回転に伴って駆動されるコンプレッサ51を備えている。コンプレッサ51は、吸気通路30に設けられている。
【0020】
吸気通路30におけるコンプレッサ51よりも下流側には、吸気通路30内の空気を冷却するインタークーラ61が設けられている。インタークーラ61には冷媒通路64が接続されており、冷媒通路64によってインタークーラ61に冷媒を循環させる経路が形成されている。冷媒通路64には、インタークーラ61に冷媒を導入する電動式のポンプ62が設けられている。さらに、冷媒通路64には、インタークーラ61を通過した冷媒を冷却するラジエータ63も設けられている。内燃機関20では、これらのインタークーラ61、ポンプ62、ラジエータ63及び冷媒通路64によって、吸気の冷却系60が構成されている。
【0021】
排気通路40には、排気通路40を流れる排気の一部をEGRガスとして吸気通路30に還流させるためのEGR通路71が接続している。EGR通路71の排気通路40側の端部は、排気通路40における排気マニホールド41とタービン52との間に接続している。EGR通路71の吸気通路30側の端部は、吸気通路30におけるインタークーラ61と吸気マニホールド31との間に接続している。EGR通路71には、EGR通路71を通過する排気を冷却するEGRクーラ72が設けられている。EGRクーラ72は、冷却系60とは独立した内燃機関20の冷却系を構成する冷却水通路と接続されている。そして、EGR通路71においてEGRクーラ72よりも下流側には、EGRガスの量を調節するEGRバルブ73が設けられている。また、EGR通路71には、EGRクーラ72を迂回するバイパス通路74が設けられている。バイパス通路74の吸気通路30側の端部には、バイパス通路74を開閉するバイパスバルブ75が設けられている。バイパスバルブ75が閉弁しているときには、EGR通路71を介して吸気通路30に還流されるEGRガスは、EGRクーラ72を通過する。また、バイパス通路74の流路抵抗がEGRクーラ72の流路抵抗よりも小さくなるように構成されているため、バイパスバルブ75が開弁しているときには、EGRガスがEGRクーラ72を迂回してバイパス通路74を通過する。内燃機関20では、これらのEGR通路71、EGRクーラ72、EGRバルブ73、バイパス通路74及びバイパスバルブ75によって、排気を吸気通路30に還流することで内燃機関20の燃焼室に排気を再循環させるEGR機構70が構成されている。
【0022】
また、内燃機関20は、内燃機関20の運転状態を検出する各種センサを備えている。
吸気通路30において、コンプレッサ51よりも上流側には、吸入空気量を検出するエアフロメータ81が設けられている。吸気マニホールド31には、吸気マニホールド31内の圧力を検出する吸気圧センサ86が設けられている。吸気通路30におけるインタークーラ61と吸気マニホールド31との間には、湿度センサ89が設けられている。また内燃機関20は、出力軸の回転数を検出する回転数センサ87を備えている。
【0023】
吸気通路30においてインタークーラ61よりも上流側には、インタークーラ61に流入する空気の温度を検出するI/C入温度センサ82が設けられている。また、インタークーラ61よりも下流側には、インタークーラ61を通過した空気の温度を検出するI/C出温度センサ83が設けられている。ラジエータ63の近傍には、外気温度センサ84が設けられている。また、ポンプ62の回転数を検出するポンプ回転数センサ85が設けられている。
【0024】
EGR通路71においてEGRバルブ73とバイパスバルブ75との間には、EGRガスの温度を検出するためのEGRガス温度センサ88が設けられている。
これらの各種センサは、制御装置10と接続されている。各種センサの検出値は制御装置10に入力される。
【0025】
制御装置10は、内燃機関20の運転状態に基づいて燃料噴射量Qを算出するとともに、燃料噴射量Qに基づく燃料噴射を実行するように内燃機関20を制御する。また、制御装置10は、インタークーラ61内の冷媒の沸騰を予測する沸騰予測部11を備えている。また、制御装置10は、吸気の冷却系60を制御する冷却系制御部12を備えている。また、制御装置10は、EGR機構70を制御するEGR制御部13を備えている。
【0026】
沸騰予測部11は、I/C出温度センサ83によって検出されるインタークーラ61を通過した空気温度THIAと、ポンプ回転数センサ85によって検出されるポンプ回転数NPに基づいて、インタークーラ61を循環する冷媒の沸騰を予測する。
【0027】
図2を用いて、沸騰予測部11が実行する処理について説明する。沸騰予測部11が実行する処理は、所定周期毎に繰り返し実行される
図2に示すルーチンを通じて実行される。このルーチンを開始すると、まずステップS101にて、沸騰予測条件が成立しているか否かを判定する。沸騰予測条件はインタークーラ61を循環する冷媒が沸騰することを予測するための条件であり、沸騰予測部11は沸騰予測条件が成立していることに基づいてインタークーラ61を循環する冷媒が沸騰すると予測する。
【0028】
ここでは、沸騰予測条件が成立しているか否かを次のように判定する。沸騰予測部11には、ポンプ62が正常であることを前提とした、インタークーラ61を通過した空気の温度を目標空気温度TTIとするために必要なポンプ62の目標回転数NPTが、予め行う実験等に基づいて設定されている。なお、目標空気温度TTIは、機関回転数NEと燃料噴射量Qとに基づいて算出される。沸騰予測部11は、ポンプ回転数NPが目標回転数NPTを満たしているにもかかわらず、空気温度THIAが目標空気温度TTIよりも高い状態が規定時間以上継続したときに、沸騰予測条件が成立していると判定する。例えば、空気温度THIAと目標空気温度TTIとの比較を繰り返し行い、空気温度THIAの値が目標空気温度TTIの値よりも大きく、且つポンプ回転数NPと目標回転数NPTとの差が規定値よりも小さいときにカウンタを増加させる。一方、空気温度THIAの値が目標空気温度TTIの値以下である、又はポンプ回転数NPと目標回転数NPTとの差が規定値以上であるときにはカウンタをリセットする。そして、カウンタが閾値以上となったときに沸騰予測条件が成立していると判定する。つまり、沸騰予測部11は、ポンプ62が正常に駆動しているにもかかわらずインタークーラ61を通過する空気の温度が高い状態にあるときに、インタークーラ61を循環する冷媒が沸騰すると予測する。
【0029】
沸騰予測条件が成立していない場合(S101:NO)、ステップS102の処理が実行され、沸騰予測フラグがオフにされる。そして、本ルーチンが終了される。
一方、沸騰予測条件が成立している場合(S101:YES)、ステップS103の処理が実行されて、沸騰予測フラグがオンにされる。そして、本ルーチンが終了される。
【0030】
冷却系制御部12は、ポンプ62を駆動するデューティ比を制御することで、インタークーラ61に導出する冷媒の流量である冷媒流量VFを変更する。なお、冷媒流量VFを決定するために用いられる通常冷媒流量VCは、次のように算出される。
【0031】
まず冷却系制御部12は、インタークーラ61の冷却効率を算出する。冷却効率は、回転数センサ87によって検出される機関回転数NEと、燃料噴射量Qと、I/C入温度センサ82によって検出される空気温度THIBと、に基づいて算出される。冷却系制御部12には、冷却効率と、エアフロメータ81によって検出される吸入空気量GAと、インタークーラ61へ導出する通常冷媒流量VCとの関係が予め設定されている。冷却系制御部12は、当該関係に基づいて、通常冷媒流量VCを算出する。
【0032】
また、冷却系制御部12では、インタークーラ61を循環する冷媒の沸騰を抑制するための沸騰回避処理が実行される。沸騰回避処理は、所定周期毎に繰り返し実行されるルーチンによって実行される。
【0033】
図3を用いて、冷却系制御部12が実行する沸騰回避処理に関するルーチンについて説明する。このルーチンを開始すると、まずステップS201において、沸騰予測フラグがオンにされているか否かを判定する。沸騰予測フラグがオフである場合(S201:NO)、ステップS202の処理が行われる。ステップS202では、通常冷媒流量VCが冷媒流量VFとして設定される。こうして冷媒流量VFが決定されると、冷却系制御部12は、冷媒流量VFを得ることのできるデューティ比にてポンプ62を制御する。つまり、通常冷媒流量VCと等しい冷媒流量VFが導出されるようにポンプ62が駆動される。そして本ルーチンが終了される。
【0034】
一方、沸騰予測フラグがオンである場合(S201:YES)、ステップS203の処理が行われる。ステップS203では、沸騰回避冷媒流量VBが冷媒流量VFとして設定される。そして、冷却系制御部12は、冷媒流量VFを得ることのできるデューティ比にてポンプ62を制御する。つまり、沸騰回避冷媒流量VBと等しい冷媒流量VFが導出されるようにポンプ62が駆動される。そして本ルーチンが終了される。
【0035】
ここで、沸騰回避冷媒流量VBは、インタークーラ61に導出される冷媒の流量が通常冷媒流量VCよりも多くなるように設定されている。つまり、ステップS202の処理が実行されることによって、インタークーラ61に導出される冷媒の流量が増大される。冷媒の流量を増大させるステップS202の処理が沸騰回避処理である。
【0036】
EGR制御部13は、内燃機関20の燃焼室に流入する気体に占めるEGRガスの割合を示すEGR率を設定し、設定したEGR率を実現するようにEGRバルブ73の開度を制御してEGRガスの量を調節する。また、EGR制御部13は、バイパスバルブ75の開閉許可及びバイパスバルブ75の開閉制御を行う。
【0037】
図4を用いて、EGR制御部13が実行する処理について説明する。EGR制御部13が実行する処理は、所定周期毎に繰り返し実行される
図4に示すルーチンを通じて実行される。このルーチンを開始すると、まずステップS301において、沸騰回避冷媒流量VBが冷媒流量VFとして設定されているか否かを判定する。具体的には冷媒流量VFが通常冷媒流量VCよりも大きくなっている場合に、沸騰回避冷媒流量VBが冷媒流量VFとして設定されていると判定する。つまり、このステップS301では、冷媒の流量が増大される沸騰回避処理が実行されているか否かを判定する。
【0038】
ステップS301において、沸騰回避冷媒流量VBが冷媒流量VFとして設定されていないと判定された場合(S301:NO)、ステップS302以降の処理が行われる。ステップS302では、通常EGR率が設定される。そして処理をステップS303に進める。なお、通常EGR率の設定方法については後述する。
【0039】
ステップS303では、ステップS302にて設定された通常EGR率に基づいてEGR制御部13がEGRバルブ73を制御する。そして本ルーチンが終了される。
一方、ステップS301において、沸騰回避冷媒流量VBが冷媒流量VFとして設定されていると判定された場合(S301:YES)、ステップS304以降の処理が行われる。ステップS304では、回避EGR率が設定される。そして処理をステップS305に進める。なお、回避EGR率の設定方法については後述する。
【0040】
ステップS305では、ステップS304にて設定された回避EGR率に基づいてEGR制御部13がEGRバルブ73を制御する。続くステップS306では、バイパスバルブ75の開弁条件が成立しているか否かが判定される。
【0041】
ここで、バイパスバルブ75の開弁条件が成立しているか否かは、吸入空気量GAやEGR率に基づいて算出することのできるEGRガスの量と、EGRガス温度センサ88によって検出されるEGRガスの温度と、によって判定される。EGR制御部13は、
図5に示すような開弁許可領域と開弁禁止領域とに区画されているマップを備えている。EGRガスの量とEGRガスの温度との関係から決まる現在の状態を、このマップ上に示したときに、現在の状態が開弁許可領域に位置するときには、開弁条件が成立していると判定する。一方で、現在の状態が開弁禁止領域に位置するときには、開弁条件が成立していないと判定する。すなわち、EGRガスの量が多いほど、また、EGRガスの温度が高いほど、開弁条件が成立していないと判定されやすくなる。つまり、
図5に示されている開弁許可領域と開弁禁止領域との境界線が規定温度を示しているとすると、EGR制御部13は、EGRガスの温度が規定温度未満のときにバイパスバルブ75の開弁を許可する。そして、当該規定温度は、EGRガスの量が多いほど低くされている。
【0042】
このように判定される開弁条件が成立していない場合(S306:NO)、ステップS307の処理が行われ、EGR制御部13はバイパスバルブ75の閉弁制御を行う。そして本ルーチンは終了される。一方、開弁条件が成立している場合(S306:YES)、ステップS308の処理が行われ、EGR制御部13はバイパスバルブ75の開弁制御を行う。そして、本ルーチンが終了される。
【0043】
なお、ステップS302の処理にて行われる通常EGR率の設定と、ステップS304の処理にて行われる回避EGR率の設定とは、演算マップを参照して行われる。制御装置10は、EGR率を算出するための演算マップとして通常時演算マップを備えている。さらに制御装置10は、冷却系制御部12によって沸騰回避処理が実行されているときに参照するための凝縮水回避演算マップを備えている。これらの演算マップは、予め行われる実験等に基づいて設定されている。
【0044】
図6及び
図7を用いて、通常時演算マップ及び凝縮水回避演算マップについて説明する。
図6に示す通常時演算マップは、燃料噴射量Q等に基づいて算出される内燃機関20のトルクと、機関回転数NE、及びEGR率の関係が設定されているマップである。通常時演算マップには、領域Xと領域Xよりもトルク及び機関回転数NEが高い領域Yとが設定されている。領域Xでは、機関回転数NEが高いほど、また、トルクが高いほど、EGR率が低く設定されるような関係が設定されている。一方、領域YではEGR率が「0」に設定されている。
【0045】
また、
図7に示す凝縮水回避演算マップは、
図6に示した通常時演算マップと同様に領域Xと領域Yが設定されているが、領域Xが領域X1と領域X2とに分けられている。領域X2では、通常時演算マップと同じEGR率が設定されているが、領域X1においては通常時演算マップよりも低いEGR率が設定されている。領域X1は、凝縮水回避演算マップにおいてトルクが高い領域としている。内燃機関のトルクが高いときには燃焼室で燃焼される燃料が多いため、排気に含まれる水分が多くEGRガスが冷却されたときに凝縮水が生じることがある。つまり、領域X1は、吸気通路30内に凝縮水が発生する機関運転領域である。なお、凝縮水回避演算マップでも領域YではEGR率が「0」に設定されている。すなわち、通常時演算マップと凝縮水回避演算マップとの違いは、凝縮水回避演算マップの領域X1におけるEGR率が通常時演算マップにおける同等の機関運転領域におけるEGR率よりも低くなっていることである。
【0046】
上記ステップS302では、通常時演算マップを参照してEGR率の値を算出し、通常時演算マップに基づいて算出される値を通常EGR率として設定する。
一方、上記ステップS304では、通常時演算マップと、凝縮水回避演算マップとを参照してEGR率の値を算出する。例えば、EGR制御部13は、湿度センサ89によって検出される吸入空気の湿度や吸気圧センサ86によって検出される吸気圧、等に基づいて補正係数を算出し、当該補正係数を凝縮水回避演算マップに基づいて算出される値に乗じて、その積を仮EGR率とする。なお、補正係数は凝縮水回避演算マップにおいて想定されている条件と実際の条件との乖離に応じた補正を施すためのものである。凝縮水回避演算マップは、凝縮水が特に発生しやすくなる条件(湿度や吸気圧)を想定して設定されており、ここではこの想定されている条件よりも実際の条件が凝縮水が発生しにくい条件であるほど、大きな補正係数が算出されるようになっている。例えば、凝縮水回避演算マップにおいて想定されている条件よりも湿度が低いときほど、補正係数は大きな値になる。また、凝縮水回避演算マップにおいて想定されている条件よりも吸気圧が低いときほど、補正係数は大きな値になる。ただし、補正係数の値は、領域X1におけるEGR率に補正係数を乗じて算出した仮EGR率が、トルク及び機関回転数NEが同じときに通常時演算マップを通じて算出されるEGR率よりも大きくなることがない範囲で、上記のように条件に応じて変動する値である。
【0047】
そして、通常時演算マップに基づいて算出される値と、仮EGR率とを比較し、より小さい方の値を回避EGR率として設定する。
次に本実施形態にかかる制御装置10による作用とともに、その効果について説明する。
【0048】
沸騰予測フラグがオンにされているときには、
図3を参照して説明したルーチンを通じてステップS203の処理が行われる。つまり、冷却系制御部12によって沸騰回避処理が実行されることで冷媒流量が増大される。そして、沸騰回避処理が実行されているときには、
図4を参照して説明したルーチンを通じてステップS304の処理が行われる。つまり、EGR制御部13は、通常時演算マップに加え、凝縮水回避演算マップを用いて回避EGR率を算出してEGRバルブ73を制御する。
【0049】
ここで、凝縮水回避演算マップを用いて設定される回避EGR率は、内燃機関20の機関運転領域が領域X1にあるときには、通常EGR率よりも低く設定される。そのため、吸気通路30に凝縮水が発生する機関運転領域におけるEGR率が、沸騰回避処理が実行されていないときに設定されるEGR率よりも低くされる。これによって、吸気通路30内の空気と合流するEGRガスの量が少なくされる。そのため、インタークーラ61内の冷媒の沸騰を抑制するために冷媒流量を増大させる沸騰回避処理を実行したとしても、吸気通路30内の空気とEGRガスとが合流することに伴って発生する凝縮水を抑制することができる。
【0050】
また、凝縮水回避演算マップでは、領域X1以外においては通常時演算マップと同様の傾向を持ったEGR率が設定されている。そのため、吸気通路30に凝縮水が発生しない機関運転領域におけるEGR率については、沸騰回避処理が実行されているときであっても、沸騰回避処理が実行されていないときと同様のEGR率が設定される。したがって、EGR制御部13は、凝縮水が発生する機関運転領域であるときにはEGR率を低くする一方で、凝縮水が発生しない機関運転領域であるときにはEGR率を低くしない。これによって、凝縮水の発生を抑制しつつも、排気を還流させることによる効果が損なわれることを抑制することができる。
【0051】
さらに、上記沸騰回避処理が実行されているとき、EGRガスの量とEGRガスの温度との関係から決まる現在の状態が開弁許可領域にあり、バイパスバルブ開弁条件が成立していれば、
図4を参照して説明したルーチンを通じてステップS308の処理が行われる。つまり、バイパスバルブ75がEGR制御部13によって開弁される。バイパスバルブ75が開弁されることによってEGRガスがEGRクーラ72を迂回して還流されるようになるため、EGRガスの温度が低下しにくくなる。これによって、凝縮水が発生しやすい状況になることを抑制することができる。
【0052】
一方で、上記沸騰回避処理が実行されていたとしても、EGRガスの量とEGRガスの温度との関係から決まる現在の状態が開弁禁止領域に位置するときには、すなわちEGRガスの温度が規定温度以上であるときには、バイパスバルブ75を閉弁させてEGRガスがEGRクーラ72を迂回しないようにする。これによって、バイパスバルブ75に対して冷却されていないEGRガスが当たることが抑制され、バイパスバルブ75の耐久性を確保することができる。
【0053】
要するに、本実施形態にかかる制御装置10のEGR制御部13は、沸騰回避処理が実行されていたとしても、EGRガスの温度が規定温度以上であるときには、バイパスバルブの開弁を禁止する。一方で、沸騰回避処理が実行されているときに、EGRガスの温度が規定温度未満であるときには、バイパスバルブの開弁を許可するようにしている。
【0054】
さらに、上記規定温度はEGRガスの量が多いほど低くされている。これによって、EGRガスの量が多いときには、EGRガスの温度がより低くなければバイパスバルブ75が開弁されなくなる。そのため、バイパスバルブ75の耐久性の低下をより確実に抑制することができる。
【0055】
なお、本実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・沸騰回避処理を次のように行ってもよい。
冷却系制御部12は、通常冷媒流量VCに基づいてポンプ62を制御する一方で、沸騰回避冷媒流量VBを都度算出する。沸騰予測部11は、沸騰回避冷媒流量VB及び通常冷媒流量VCを参照して両者の値を比較する。そして、沸騰回避冷媒流量VBが通常冷媒流量VCよりも大きくなったとき、冷却系制御部12は沸騰回避冷媒流量VBに基づいてポンプ62を駆動制御する。
【0056】
なお、沸騰回避冷媒流量VBは、次のように算出することができる。制御装置10には、外気温度センサ84によって検出される外気温THOと、インタークーラ61に流入する空気温度THIBと、吸入空気量GAとの関係に基づいて、インタークーラ61を循環する冷媒の沸騰を抑制することのできる冷媒流量である沸騰回避冷媒流量VBを設定する冷媒流量演算マップが予め記憶されている。当該演算マップに基づいて、沸騰回避冷媒流量VBを算出する。このように内燃機関20の運転状態に基づいて算出される沸騰回避冷媒流量VBは、インタークーラ61を循環する冷媒の沸騰を抑制することのできる冷媒流量として算出されるものである。そのため、沸騰回避冷媒流量VBが通常冷媒流量VCよりも大きな値として算出されたことをもって、通常冷媒流量VCと等しい量の冷媒を導出していたのでは冷媒が沸騰すると予測することができる。すなわち、沸騰予測条件が成立しているか否かを、沸騰回避冷媒流量VBと通常冷媒流量VCとを比較することで判定することができる。
【0057】
この場合、沸騰予測部11は
図2に示すステップS101にて、沸騰予測条件が成立しているか否かの判定を沸騰回避冷媒流量VBと通常冷媒流量VCとを比較することによって行う。具体的には、沸騰回避冷媒流量VBが通常冷媒流量VCよりも大きな値であるときに沸騰予測条件が成立していると判定する。
【0058】
通常冷媒流量VCが沸騰回避冷媒流量VB以上である場合、すなわち沸騰予測条件が成立していない場合、沸騰予測フラグをオフにする。一方、沸騰回避冷媒流量VBが通常冷媒流量VCよりも大きい場合、すなわち沸騰予測判定が成立している場合、沸騰予測フラグをオンにする。沸騰予測フラグがオンであるときには、ここで算出した沸騰回避冷媒流量VBを、
図3に示すステップS203にて冷媒流量VFとして設定することによって、冷媒流量を増加させる沸騰回避処理を実行する。
【0059】
・上記実施形態では、沸騰予測部11と冷却系制御部12とEGR制御部13を備える制御装置10を例示した。沸騰予測部11、冷却系制御部12及びEGR制御部13が各別の、又はいくつかの制御装置として構成されており、そうした各別の制御装置を統括するメイン制御装置を含む制御装置群によって内燃機関の制御装置が構成されていてもよい。
【0060】
・上記実施形態では、演算マップを参照してEGR率を設定した。
図4に示すステップS304の処理において、通常EGR率よりも低くなる値を回避EGR率として設定すればよく、演算マップを用いなくてもよい。例えば、通常EGR率に「1.0」よりも小さな正の値を乗算して、その積を回避EGR率とすることもできる。
【0061】
・上記実施形態では、バイパスバルブ75の開弁条件が成立しているか否かを、EGRガスの量及びEGRガスの温度の両者を用いて判定した。必ずしもEGRガスの量及びEGRガスの温度の両者を用いた判定を行わなくてもよい。例えば、EGRガスの量が規定量以上であることをもって開弁条件が成立していると判定してもよい。また、EGRガスの温度が規定温度以上であることをもって開弁条件が成立していると判定してもよい。
【0062】
・上記実施形態では、沸騰回避処理が実行されているときにバイパスバルブ開弁条件が成立していれば、バイパスバルブ75の開弁制御を行った。こうした処理を実行しなくてもよい。つまり、
図4に示すステップS306以降の処理を行わなくてもよい。こうした構成においても上記実施形態と同様に、凝縮水の発生を抑制する効果を奏することができる。
【0063】
・沸騰回避処理が実行されているときに、内燃機関20の機関運転領域に係わらずEGR率を低下させるようにすることもできる。こうした構成においても上記実施形態と同様に、凝縮水の発生を抑制する効果を奏することができる。
【0064】
・沸騰回避処理が実行されているときに、EGRガスの量を「0」にしてもよい。例えば、
図4を参照して説明したルーチンに代わり
図8に示すルーチンに従った処理を実行してもよい。この処理を開始すると、まずステップS301において、沸騰回避冷媒流量VBが冷媒流量VFとして設定されているか否かを判定する。沸騰回避冷媒流量VBが冷媒流量VFとして設定されていない場合(S301:NO)、ステップS302の処理に続いてステップS303の処理が行われて本ルーチンが終了される。一方、沸騰回避冷媒流量VBが冷媒流量VFとして設定されている場合(S301:YES)、ステップS314以降の処理が行われる。ステップS314では、還流されるEGRガスの流量を「0」にするべくEGRバルブ73の開度が設定される。そして、ステップS303にて、EGRバルブ73が制御される。つまり、ステップS314に続くステップS303の処理によって、EGRバルブ73が閉弁される。すなわち、沸騰回避処理が実行されているときに、EGRガスの流量を「0」にすることができる。このように、沸騰回避処理が実行されているときにEGR機構70による排気の還流を停止することによっても、上記実施形態と同様に凝縮水の発生を抑制する効果を奏することができる。