特許第6443339号(P6443339)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443339
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用正極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/131 20100101AFI20181217BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20181217BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20181217BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20181217BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   H01M4/131
   H01M4/62 Z
   H01M4/525
   H01M4/505
   H01M4/36 A
【請求項の数】11
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2015-550557(P2015-550557)
(86)(22)【出願日】2014年11月20日
(86)【国際出願番号】JP2014005846
(87)【国際公開番号】WO2015079664
(87)【国際公開日】20150604
【審査請求日】2017年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2013-247140(P2013-247140)
(32)【優先日】2013年11月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104732
【弁理士】
【氏名又は名称】徳田 佳昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116078
【弁理士】
【氏名又は名称】西田 浩希
(72)【発明者】
【氏名】國分 貴雄
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 毅
(72)【発明者】
【氏名】新名 史治
【審査官】 青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】 特開平9−139232(JP,A)
【文献】 特開2005−216651(JP,A)
【文献】 特開2011−141989(JP,A)
【文献】 特開平9−306547(JP,A)
【文献】 特開2012−033463(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0119372(US,A1)
【文献】 特開2004−335278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00− 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質粒子と、
ホウ素化合物とを備え、
前記ホウ素化合物は、ホウ酸リチウム、メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウムから選ばれた少なくとも1種であって、
前記正極活物質粒子は、リチウム含有遷移金属酸化物を含み、
前記リチウム含有遷移金属酸化物は、その表面に希土類化合物が付着しており、かつ
前記リチウム含有遷移金属酸化物は、ニッケルとマンガンを含有し、前記ニッケルのモル比率が前記マンガンのモル比率より大きく、かつ前記ニッケルと前記マンガンのモル比率の差が0.25以上である、
非水電解質二次電池用正極。
【請求項2】
前記ニッケルと前記マンガンのモル比率の差が、0.60以下である、請求項1に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項3】
前記リチウム含有遷移金属酸化物は、ニッケルのモル比率が0.5以上である、請求項1又は2に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項4】
前記ホウ素化合物が、前記リチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着している、請求項1〜3の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項5】
前記ホウ素化合物の粒径が前記リチウム含有遷移金属酸化物の粒径の1/10より小さい、請求項1〜4の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項6】
前記希土類化合物が、水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸化合物、リン酸化合物及びフッ素化合物から選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜5の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項7】
前記希土類化合物が、水酸化物及びオキシ水酸化物から選ばれた少なくとも1種である、請求項6に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項8】
前記希土類化合物に含まれる希土類元素が、エルビウム、サマリウム、ネオジムから選ばれた少なくとも1種である、請求項1〜7の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項9】
前記リチウム含有遷移金属酸化物の総質量に対する前記ホウ素化合物の割合が、ホウ素元素換算で、0.005質量%以上5質量%以下である、請求項1〜8の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項10】
前記リチウム含有遷移金属酸化物は、一次粒子が結合した二次粒子の形態である、請求項1〜9に記載の何れか1項に記載の非水電解質二次電池用正極。
【請求項11】
前記リチウム含有遷移金属酸化物の一次粒子の粒子径は100nm以上10μm以下であり、前記リチウム含有遷移金属酸化物の二次粒子の粒子径は2μm以上30μm以下である、請求項10に記載の非水電解質二次電池用正極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用正極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノートパソコン、スマートフォン等の移動情報端末の小型・軽量化が急速に進展しており、その駆動電源としての二次電池にはさらなる高容量化が要求されている。充放電に伴い、リチウムイオンが正、負極間を移動することにより充放電を行う非水電解質二次電池は、高いエネルギー密度を有し、高容量であるので、上記のような移動情報端末の駆動電源として広く利用されている。
【0003】
さらに最近では、非水電解質二次電池は、電動工具、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV、PHEV)等の動力用電源としても注目されており、さらなる用途拡大が見込まれている。こうした動力用電源では、長時間の使用が可能となるような高容量化や、比較的短時間に大電流充放電を繰り返す場合の出力特性の向上が求められる。特に、電動工具、EV、HEV、PHEV等の用途では、大電流充放電での出力特性を維持しつつ高容量化を達成することが必須となっている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、正極活物質母材粒子の表面に周期律表の第3族の元素を存在させることにより、充電電圧を高くする際に正極活物質と電解液の界面で生じる電解液の分解反応に起因する充電保存特性の劣化を抑制できることが示唆されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、リチウムと、ニッケルおよびコバルトのうちの少なくとも一方を含む正極活物質に、ホウ酸化合物を被着させて加熱処理を行なうことにより、高容量化と充放電効率の向上を実現できることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開WO2005/008812号公報
【特許文献2】特開2009−146739号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1及び2に開示されている技術を用いても、正極活物質や正極を大気暴露した場合には、初期効率の低下を抑制できないことがわかった。
【0008】
本発明の一局面によれば、その目的は、大気暴露した正極活物質や正極を用いた場合でも、初期効率の低下が抑制される非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池用正極活物質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面によれば、非水電解質二次電池用正極は、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に希土類化合物が付着している正極活物質粒子と、ホウ素化合物とを含んでいる。ホウ素化合物としては、ホウ酸リチウム、メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウムから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0010】
また、本発明の一局面によれば、非水電解質二次電池用正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物と、上記リチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着している希土類化合物と、上記リチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着しているホウ素化合物とを含んでいる。ホウ素化合物としては、ホウ酸リチウム、メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウムから選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一局面によれば、大気暴露した正極活物質や正極を用いた場合でも、初期効率の低下が抑制される非水電解質二次電池用正極及び非水電解質二次電池用正極活物質を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一局面の非水電解質二次電池を示す模式的正面図である。
図2図1のA−A線に沿った模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態について以下に説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0014】
<非水電解質二次電池>
本発明の実施形態の一例である非水電解質二次電池は、正極と、負極と、非水電解質とを備える。非水電解質二次電池の一例としては、例えば、正極及び負極がセパレータを介して巻回もしくは積層された電極体と、液状の非水電解質である非水電解液とが電池外装缶に収納された構造が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0015】
ここで、図1及び図2に示すように、上記非水電解質二次電池11の具体的な構造は、正極1と負極2とがセパレータ3を介して対応配置されて巻回されており、これら正負両極1、2とセパレータ3とからなる扁平型の電極体には非水電解液が含浸されている。上記正極1と負極2には、それぞれ、正極集電タブ4と負極集電タブ5が接続され、二次電池として充放電可能な構造となっている。尚、上記電極体は、周縁同士がヒートシールされたヒートシール部7を備えるアルミラミネート外装体6の収納空間内に配置されている。以下に、本実施形態の一例である非水電解質二次電池の各構成部材について説明する。
【0016】
[正極]
本発明の実施形態の一例である非水電解質二次電池用正極は、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に希土類化合物が付着している正極活物質粒子と、ホウ素化合物とを含んでいるものである。正極は、正極集電体と、正極集電体上に形成された正極合剤層とで構成されることが好適である。正極集電体には、例えば、導電性を有する薄膜体、特にアルミニウムなどの正極の電位範囲で安定な金属箔や合金箔、アルミニウムなどの金属表層を有するフィルムが用いられる。正極合剤層には、正極活物質粒子の他に、結着剤、導電剤を含むことが好ましい。
【0017】
リチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着している希土類化合物の存在により、大気暴露による特性劣化の原因であるLiOH生成反応(具体的には、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に存在する水分とリチウム含有遷移金属酸化物とが反応し、リチウム含有遷移金属酸化物の表面層にあるLiと水素の置換反応が起こることにより、リチウム含有遷移金属酸化物からLiが引き抜かれてLiOHが生成する反応)が抑制されるため、大気暴露後に充放電した際に充放電効率が低下するという、大気暴露による初期充放電特性の劣化を低減することができる。
【0018】
加えて、正極に含まれているホウ素化合物の存在により、リチウム含有遷移金属酸化物の表面エネルギーが低下し、リチウム含有遷移金属酸化物への大気中に存在する水分の吸着を抑制することができる。この作用は、ホウ素化合物が希土類化合物と共存している場合に得られる相互作用であって、ホウ素化合物が希土類化合物と共存しない場合には得られないと考えられる。また、上述のリチウム含有遷移金属酸化物への水分吸着が抑制されることに起因して、上記LiOH生成反応に使われる水分量も少なくなるため、大気暴露による特性劣化の原因である上記LiOH生成反応をさらに抑制することができ、これにより大気暴露による初期充放電特性の劣化を一層低減することができる。このような相乗効果が発揮されることによって、大気暴露による特性劣化の原因である上記LiOH生成反応を抑制することができ、この結果、大気暴露による初期充放電特性の劣化を飛躍的に低減することができる。
【0019】
加えて、リチウム遷移金属複合酸化物は、ニッケルとマンガンを含有しており、ニッケルのモル比率が、マンガンのモル比率より大きく、かつニッケルとマンガンのモル比率の差が0.25以上である。このようなリチウム遷移金属複合酸化物として、ニッケルマンガン化合物や、ニッケルコバルトマンガン化合物を用いることができる。特に、ニッケルコバルトマンガン酸リチウムとしては、ニッケルとコバルトとマンガンとのモル比率が、5:3:2、6:2:2、7:1:2、7:2:1、8:1:1のものを用いることが好ましい。特に正極容量をより増大させ得るだけでなく、上記LiOH生成反応がより生じやすいという観点から、ニッケルの割合がマンガンの割合よりも多いものを用い、遷移金属全体のモル量を1としたときの、ニッケルとマンガンのモル比率の差が、0.25以上とする。また、これらは単独で用いてもよいし、混合して用いてもよい。
なお、ニッケルとマンガンのモル比率の差が、0.60より大きくなるとLiOH生成反応が非常に生じやすくなるため、ニッケルとマンガンのモル比率の差は0.60以下であることが好ましい。
【0020】
さらに、本実施形態の一例である非水電解質二次電池用正極において、正極活物質粒子は、さらにリチウム含有遷移金属酸化物の表面にホウ素化合物が付着したものであることが好ましい。これにより、上記希土類化合物とホウ素化合物による相乗効果が一層発揮され、大気暴露による初期充放電特性の低下がより一層改善される。
【0021】
希土類化合物としては、希土類の水酸化物、オキシ水酸化物、酸化物、炭酸化合物、リン酸化合物及びフッ素化合物から選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましい。これらの中でも、特に希土類の水酸化物及びオキシ水酸化物から選ばれた少なくとも1種の化合物であることが好ましく、これらの希土類化合物を用いると、大気暴露による初期効率の低下抑制効果が一層発揮される。これは、希土類の水酸化物及びオキシ水酸化物は、LiOH生成反応の反応活性化エネルギーをより大きくするからである。
【0022】
希土類化合物に含まれる希土類元素としては、スカンジウム、イットリウム、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、サマリウム、ユーロピウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ホルミウム、エルビウム、ツリウム、イッテルビウム、ルテチウムが挙げられる。これらの中でも、特にネオジム、サマリウム、エルビウムが好ましい。ネオジム、サマリウム、エルビウムの化合物は、他の希土類化合物に比べて平均粒径が小さく、リチウム含有遷移金属酸化物粒子の表面全体により均一に分散して析出し易いからである。
【0023】
希土類化合物の具体例としては、水酸化ネオジム、オキシ水酸化ネオジム、水酸化サマリウム、オキシ水酸化サマリウム、水酸化エルビウム、オキシ水酸化エルビウム等の水酸化物やオキシ水酸化物の他、リン酸ネオジム、リン酸サマリウム、リン酸エルビウム、炭酸ネオジム、炭酸サマリウム、炭酸エルビウム等のリン酸化合物や炭酸化合物、酸化ネオジム、酸化サマリウム、酸化エルビウム、フッ化ネオジム、フッ化サマリウム、フッ化エルビウム等の酸化物やフッ素化合物等が挙げられる。これらの中でも、より粒子の表面全体に均一に分散して付着させることができ、かつ粒子表面に選択的に存在させやすい等の観点から、特に上記の水酸化物やオキシ水酸化物が好ましい。
【0024】
希土類化合物の平均粒径としては、1nm以上100nm以下であることが好ましく、10nm以上50nm以下であることがより好ましい。希土類化合物の平均粒径が100nmを超えると、希土類化合物の粒径が大きくなりすぎるために、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面に付着する希土類化合物の粒子数が減少する。その結果、低温出力向上効果が小さくなることがある。一方、希土類化合物の平均粒径が1nm未満になると、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面が希土類化合物によって緻密に覆われるために、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面におけるリチウムイオンの吸蔵又は放出性能が低下して、充放電特性が低下することがある。
【0025】
リチウム含有遷移金属酸化物の総質量に対する希土類化合物の割合(付着量)は、希土類元素換算で、0.005質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.3質量%以下であることがより好ましい。上記割合が0.005質量%未満になると、希土類化合物とホウ素化合物による上述の効果が十分に得られず、極板暴露による初期充放電特性の低下が抑制できないことがある。一方、0.5質量%を超えると、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面を過剰に覆ってしまい、極板暴露の有無に関わらず初期充放電特性が低下することがある。
【0026】
また、上記リチウム含有遷移金属酸化物は、さらに他の添加元素を含んでいてもよい。添加元素の例としては、ホウ素(B)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、タンタル(Ta)、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)、タングステン(W)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、バリウム(Ba)、ストロンチウム(Sr)、カルシウム(Ca)等が挙げられる。
【0027】
上記リチウム含有遷移金属酸化物としては、平均粒径2〜30μmの粒子が挙げられ、この粒子は、100nmから10μmの一次粒子が結合した二次粒子の形態でもよい。
【0028】
ここで、本実施形態の一例である非水電解質二次電池用正極を製造するにあたっては、リチウム含有遷移金属酸化物を含む懸濁液に、希土類元素を含む化合物を溶解した水溶液を加える方法を用いる。
【0029】
上記方法を用いる場合には、希土類元素を含む化合物を溶解した水溶液を上記懸濁液に加える間、懸濁液のpHを6以上10以下の範囲に調製して一定に保持することが望ましい。これは、pHが6未満になると、リチウム含有遷移金属酸化物が溶解してしまうことがあるためである。一方、pHが10を超えると、希土類元素を含む化合物を溶解した水溶液を上記懸濁液に加えた際に、希土類化合物の粒子がリチウム含有遷移金属化合物粒子の表面の一部に偏在して付着した状態となり、希土類化合物の微粒子がリチウム含有遷移金属酸化合物粒子の表面全体に均一に分散して付着しない状態となる。この結果、表面エネルギーを低下させる効果が偏ってしまうだけでなく、上記LiOH生成反応の抑制効果がリチウム含有遷移金属酸化物粒子の表面全体において十分に抑制することができない恐れがあるためである。
【0030】
その他の方法としては、リチウム含有遷移金属複合酸化物を攪拌しながら、リチウム含有遷移金属複合酸化物に希土類元素を含む化合物を溶解した水溶液や溶液を噴霧したり、滴下して加える方法や、希土類元素を含む化合物を、リチウム含有遷移金属複合酸化物に加えて機械的に混合したりする方法が挙げられる。機械的に混合する方法としては、例えば、石川式らいかい器や2軸遊星方式の混合機(プライミクス社製のハイビスミックスなど)などを用いる他ホソカワミクロン社製のノビルタや、メカノヒュージョンなどを用いることができる。
【0031】
しかし、より均一にリチウム含有遷移金属複合酸化物粒子の表面全体に希土類化合物の微粒子を分散させた方が、リチウム含有遷移金属複合酸化物の表面に水分が吸着してしまった際の上記LiOH生成反応の進行をより効果的に抑制できるために、リチウム含有遷移金属複合酸化物を含む懸濁液に、希土類元素を含む化合物を溶解した水溶液を加える方法が特に好ましい。
【0032】
リチウム含有遷移金属酸化物を含む懸濁液に、希土類元素を含む化合物を溶解した水溶液を加える際、単に水中で行った場合には水酸化物として析出し、十分にフッ素源を懸濁液に加えておいた場合にはフッ化物として析出することができる。十分に二酸化炭素を溶解した場合には炭酸化合物として析出し、十分に燐酸イオンを懸濁液に加えた場合には燐酸化合物として析出し、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面に希土類化合物を析出することができる。また、懸濁液の溶解イオンを制御することで、例えば、水酸化物とフッ化物が混じった状態の希土類化合物も得られる。
【0033】
その後、希土類化合物が表面に析出したリチウム含有遷移金属酸化物の粒子をさらに熱処理することができる。熱処理温度としては、80℃から500℃程度であることが好ましく、80℃から400℃程度であることがより好ましい。80℃未満であると、十分に乾燥するのに過剰な時間がかかる恐れがあり、500℃を超えると、表面に付着した希土類化合物の一部がリチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子内部に拡散してしまい、表面エネルギー抑制効果が低下する恐れがある。特に400℃以下である場合には、リチウム含有遷移金属複合酸化物の粒子内部に希土類元素が殆ど拡散せず、粒子表面に選択的に存在するため、表面エネルギーを低くする効果が大きくなる。また、希土類の水酸化物を表面に付着させた場合には、約200℃から約300℃でオキシ水酸化物になり、さらに約450℃から約500℃で酸化物になる。このため、400℃以下で熱処理した場合には、LiOH生成反応の抑制効果が大きい希土類の水酸化物やオキシ水酸化物を粒子表面に選択的に配置することができ、かつ粒子表面全体に均一に分散した状態が得られるため、優れた耐大気暴露性が得られる。
【0034】
水溶液に溶解させる希土類元素を含む化合物としては、希土類の酢酸塩、希土類の硝酸塩、希土類の硫酸塩、希土類の酸化物、又は、希土類の塩化物等を水や有機溶媒に溶解したもの用いることができる。また、希土類の酸化物を硫酸、塩酸、硝酸に溶解して得られた希土類の硫酸塩、希土類の塩化物、希土類の硝酸塩も、上記で水に溶解したものと同様のものになるため用いることができる。
【0035】
ホウ素化合物としては、ホウ酸、ホウ酸リチウム、メタホウ酸リチウム、四ホウ酸リチウムであることが好ましく、これらの中でも、特にメタホウ酸リチウムであることが好ましい。これらのホウ素化合物を用いると、大気暴露による初期充放電効率低下の抑制効果が一層発揮される。
【0036】
リチウム含有遷移金属酸化物の総質量に対するホウ素化合物の割合は、ホウ素元素換算で、0.005質量%以上5質量%以下であることが好ましく、0.01質量%以上0.2質量%以下がより好ましい。上記割合が0.005質量%未満になると、希土類化合物とホウ素化合物による効果が十分に得られず、極板の大気暴露による特性劣化を抑制できないことがある。一方、上記割合が5質量%を超えると、その分だけ正極活物質の量が減るため正極容量が低下する。
【0037】
ホウ素化合物を含む正極を作製する方法としては、リチウム含有遷移金属酸化物とホウ素化合物をあらかじめ機械的に混合して付着させる方法の他、導電剤や結着剤を混練する工程で導電剤や結着剤とともにホウ素化合物を添加する方法が挙げられる。機械的に混合する方法としては、例えば、石川式らいかい器や2軸遊星方式の混合機(プライミクス社製のハイビスミックスなど)などを用いる他ホソカワミクロン社製のノビルタや、メカノヒュージョンなどを用いることができる。
【0038】
ホウ素化合物粒子の粒径はリチウム含有遷移金属酸化物の粒径より小さいことが好ましく、特に、1/10より小さいことが好ましい。ホウ素化合物がリチウム含有遷移金属複合酸化物より大きいと、リチウム含有遷移金属酸化物との接触面積が小さくなり効果が十分に発揮されない恐れがある。
【0039】
ここで、ホウ素化合物は希土類化合物の近傍に存在していればよく、この場合にも、上記ホウ素化合物と希土類化合物による効果が得られる。すなわち、ホウ素化合物はリチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面に付着していてもよいし、表面に付着することなく正極内において希土類化合物の近傍に存在していてもよい。尚、ホウ素化合物をあらかじめリチウム含有遷移金属酸化物と混合するなどして、より選択的にリチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面に付着させると、ホウ素化合物と希土類化合物の相乗効果が大きくなるため特に好ましい。
【0040】
尚、正極活物質としては、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に希土類化合物が付着した正極活物質粒子、或いは、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に希土類化合物とホウ素化合物が付着した正極活物質粒子を単独で用いる場合に限定されない。上記正極活物質粒子と他の正極活物質とを混合させて使用することも可能である。当該正極活物質としては、可逆的にリチウムイオンを挿入・脱離可能な化合物であれば特に限定されず、例えば、安定した結晶構造を維持したままリチウムイオンの挿入脱離が可能である層状構造や、スピネル構造や、オリビン構造を有するもの等を用いることができる。尚、同種の正極活物質のみを用いる場合や異種の正極活物質を用いる場合において、正極活物質としては、同一の粒径のものを用いても良く、また、異なる粒径のものを用いてもよい。
【0041】
結着剤としては、フッ素系高分子、ゴム系高分子等が挙げられる。例えば、フッ素系高分子としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、またはこれらの変性体等、ゴム系高分子としてエチレンープロピレンーイソプレン共重合体、エチレンープロピレンーブタジエン共重合体等が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。結着剤は、カルボキシルメチルセルロース(CMC)、ポリエチレンオキシド(PEO)等の増粘剤と併用されてもよい。
【0042】
導電剤としては、例えば、炭素材料としてカーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、黒鉛等の炭素材料が挙げられる。これらを単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0043】
本発明の実施形態の一例である非水電解質二次電池用正極活物質は、リチウム含有遷移金属酸化物と、上記リチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着している希土類化合物と、上記リチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着しているホウ素化合物とを含んでいるものである。これにより、上記希土類化合物とホウ素化合物による上記相乗効果が発揮され、大気暴露による初期充放電特性の劣化を低減することができる。
【0044】
[負極]
負極としては、従来から用いられてきた負極を用いることができ、例えば、負極活物質と、結着剤とを水あるいは適当な溶媒で混合し、負極集電体に塗布し、乾燥し、圧延することにより得られる。負極集電体には、導電性を有する薄膜体、特に銅などの負極の電位範囲で安定な金属箔や合金箔、銅などの金属表層を有するフィルム等を用いることが好適である。結着剤としては、正極の場合と同様にPTFE等を用いることもできるが、スチレンーブタジエン共重合体(SBR)又はこの変性体等を用いることが好ましい。結着剤は、CMC等の増粘剤と併用されてもよい。
【0045】
上記負極活物質としては、リチウムイオンを可逆的に吸蔵、放出できるものであれば特に限定されず、例えば、炭素材料や、SiやSn等のリチウムと合金化する金属或いは合金材料や、金属酸化物等を用いることができる。また、これらは単独でも2種以上を混合して用いてもよく、炭素材料やリチウムと合金化する金属或いは合金材料や金属酸化物の中から選ばれた負極活物質を組み合わせたものであってもよい。
【0046】
[非水電解質]
非水電解質の溶媒としては、従来から使用されている、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネートや、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートを用いることができる。特に、高誘電率、低粘度、低融点の観点でリチウムイオン伝導度の高い非水系溶媒として、環状カーボネートと鎖状カーボネートとの混合溶媒を用いることが好ましい。また、この混合溶媒における環状カーボネートと鎖状カーボネートとの体積比は、2:8〜5:5の範囲に規制することが好ましい。
【0047】
また、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステルを含む化合物;プロパンスルトン等のスルホン基を含む化合物;1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテルを含む化合物;ブチロニトリル、バレロニトリル、n−ヘプタンニトリル、スクシノニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、1,2,3−プロパントリカルボニトリル、1,3,5−ペンタントリカルボニトリル等のニトリルを含む化合物;ジメチルホルムアミド等のアミドを含む化合物等を上記の溶媒とともに用いることもでき、また、これらの水素原子Hの一部がフッ素原子Fにより置換されている溶媒も用いることができる。
【0048】
一方、非水電解質の溶質としては、従来から用いられてきた溶質を用いることができ、例えば、フッ素含有リチウム塩であるLiPF、LiBF、LiCFSO、LiN(FSO、LiN(CFSO、LiN(CSO、LiN(CFSO)(CSO)、LiC(CSO、及びLiAsFなどを用いることができる。さらに、フッ素含有リチウム塩に、フッ素含有リチウム塩以外のリチウム塩〔P、B、O、S、N、Clの中の一種類以上の元素を含むリチウム塩(例えば、LiClO等)〕を加えたものを用いても良い。特に、高温環境下においても負極の表面に安定な被膜を形成する点から、フッ素含有リチウム塩とオキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩とを含むことが好ましい。
【0049】
上記のオキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩の例として、LiBOB〔リチウム−ビスオキサレートボレート〕、Li[B(C)F]、Li[P(C)F]、Li[P(C]が挙げられる。中でも特に負極で安定な被膜を形成させるLiBOBを用いることが好ましい。
なお、上記溶質は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0050】
[セパレータ]
セパレータとしては、従来から用いられてきたセパレータを用いることができる。例えば、ポリプロピレン製やポリエチレン製のセパレータ、ポリプロピレン−ポリエチレンの多層セパレータや、セパレータの表面にアラミド系の樹脂等の樹脂が塗布されたものを用いることができる。
【0051】
また、正極とセパレータとの界面、又は、負極とセパレータとの界面には、従来から用いられてきた無機物のフィラーからなる層を形成することができる。フィラーとしても、従来から用いられてきたチタン、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム等を単独もしくは複数用いた酸化物やリン酸化合物、またその表面が水酸化物等で処理されているものを用いることができる。上記フィラー層の形成方法は、正極、負極、或いはセパレータに、フィラー含有スラリーを直接塗布して形成する方法や、フィラーで形成したシートを、正極、負極、或いはセパレータに貼り付ける方法等を用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施するための形態について実験例を挙げてさらに詳細に説明する。ただし、以下に示す実験例は、本発明の技術思想を具体化するための非水電解質二次電池用正極、非水電解質二次電池、及び非水電解質二次電池用正極活物質の一例を説明するために例示したものであり、本発明は以下の実験例に何ら限定されるものではない。本発明は、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能なものである。
【0053】
〔第1実験例〕
(実験例1)
まず、実験例1の非水電解質二次電池の構成について説明する。
【0054】
[正極活物質の作製]
共沈法により得られた[Ni0.55Mn0.20Co0.25](OH)と、LiCOとを、Liと遷移金属全体とのモル比が1.05:1になるように、石川式らいかい乳鉢にて混合した。その後、この混合物を空気雰囲気中にて950℃で10時間焼成し、粉砕することにより、平均二次粒子径が約14μmのLi1.06[Ni0.55Mn0.20Co0.25]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を得た。
【0055】
このようにして得られたリチウム含有遷移金属酸化物としてのリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物粒子を1000g用意し、この粒子を3.0Lの純水に添加し攪拌して、リチウム含有遷移金属酸化物が分散した懸濁液を調製した。次に、この懸濁液に、硝酸エルビウム5水和物[Er(NO・5HO]5.42gが200mLの純水に溶解された水溶液を加えた。上記懸濁液に硝酸エルビウム5水和物水溶液を加えている間、リチウム含有遷移金属酸化物を分散した溶液のpHを9に調整して一定に保持するため、適宜、10質量%の硝酸水溶液、或いは、10質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えた。
【0056】
次いで、上記硝酸エルビウム5水和物溶液の添加終了後に、吸引濾過し、更に水洗を行った後、得られた粉末を120℃で乾燥し、上記リチウム含有遷移金属酸化物の表面の一部に水酸化エルビウムが付着したものを得た。その後、得られた粉末を空気雰囲気中にて300℃で5時間熱処理することにより正極活物質粒子を作製した。このように300℃で熱処理すると、表面に付着した水酸化エルビウムの全部或いは大部分がオキシ水酸化エルビウムに変化するので、リチウム含有遷移金属酸化物粒子の表面にオキシ水酸化エルビウムが付着した状態となる。但し、一部は水酸化エルビウムの状態で残存する場合があるので、リチウム含有遷移金属酸化物粒子の表面には水酸化エルビウムが付着されている場合もある。
【0057】
得られた正極活物質粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、リチウム含有遷移金属酸化物粒子の表面全体に、平均粒径100nm以下のエルビウム化合物が均一に分散して付着していることが確認された。また、エルビウム化合物の付着量をICPにより測定したところ、エルビウム元素換算で、リチウム含有遷移金属酸化物粒子(リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物)に対して0.20質量%であった。
【0058】
[正極極板の作製]
上記正極活物質粒子に、メタホウ酸リチウムと、導電剤としてのカーボンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンを溶解させたN−メチル−2−ピロリドン溶液とを、正極活物質粒子とメタホウ酸リチウムと導電剤と結着剤との質量比が94.5:2.5:2.5となるように秤量し、これらを混練して正極合剤スラリーを調製した。尚、混練の際には、あらかじめ正極活物質粒子とメタホウ酸リチウムのみをT.K.ハイビスミックス(プライミクス社製)で混合し、メタホウ酸リチウムが正極活物質粒子に接触し、かつ十分に分散した状態になった後に、導電剤と結着剤を添加してT.K.ハイビスミックス(プライミクス社製)で混合した。
【0059】
次いで、上記正極合剤スラリーを、アルミニウム箔からなる正極集電体の両面に塗布し、これを乾燥させた後、圧延ローラーにより圧延し、さらにアルミニウム製の集電タブを取り付けることにより、正極集電体の両面に正極合剤層が形成された正極極板を作製した。
【0060】
得られた正極極板について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、平均粒径500nm以下のメタホウ酸リチウムの粒子が、リチウム含有遷移金属酸化物の表面又はエルビウム化合物の表面に付着していることが確認された。但し、一部は導電剤と結着剤を混合する工程において正極活物質粒子の表面からメタホウ酸リチウムが剥がれる場合があるので、メタホウ酸リチウムが正極活物質粒子に付着することなく、正極内に含まれている場合もある。また、メタホウ酸リチウムは、エルビウム化合物に付着しているかエルビウム化合物の近傍に存在していることが確認された。
【0061】
〔負極の作製〕
負極活物質としての人造黒鉛と、分散剤としてのCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)と、結着剤としてのSBR(スチレン−ブタジエンゴム)とを、98:1:1の質量比で水溶液中において混合し、負極合剤スラリーを調製した。次に、この負極合剤スラリーを銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布した後、乾燥させ、圧延ローラにより圧延し、さらにニッケル製の集電タブを取り付けた。これにより、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された負極極板を作製した。尚、この負極における負極活物質の充填密度は1.70g/cm3であった。
【0062】
〔非水電解液の調製〕
エチレンカーボネート(EC)とメチルエチルカーボネート(MEC)ジメチルカーボネート(DEC)とを、3:6:1の体積比で混合した混合溶媒に対して、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.0モル/リットルの濃度になるように溶解した。さらに、ビニレンカーボネート(VC)を上記混合溶媒に対して2.0質量%溶解させた非水電解液を調製した。
【0063】
〔電池の作製〕
このようにして得た正極および負極を、これら両極間にセパレータを配置して渦巻き状に巻回した後、巻き芯を引き抜いて渦巻状の電極体を作製した。次に、この渦巻状の電極体を押し潰して、扁平型の電極体を得た。この後、この偏平型の電極体と上記非水電解液とを、アルミニウムラミネート製の外装体内に挿入し、非水電解質二次電池を作製した。尚、当該非水電解質二次電池のサイズは、厚み3.6mm×幅35mm×長さ62mmであった。また、当該非水電解質二次電池を4.40Vまで充電し、2.75Vまで放電したときの放電容量は800mAhであった。このようにして作製した電池を、以下、電池A1と称する。
【0064】
[大気暴露した正極極板を用いた電池の作製]
正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、以下の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A1と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B1)を作製した。
・大気暴露条件
温度30℃、湿度50%の恒温恒湿槽に5日静置
【0065】
(実験例2)
正極活物質粒子として、エルビウム化合物を付着させていないLi1.06[Ni0.55Mn0.20Co0.25]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いたことと、正極極板を作製する際に、メタホウ酸リチウムを混合させなかったこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A2と称する。
【0066】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A2と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B2)を作製した。
【0067】
(実験例3)
正極活物質粒子として、エルビウム化合物を付着させていないLi1.06[Ni0.55Mn0.20Co0.25]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いたこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A3と称する。
【0068】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A3と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B3)を作製した。
【0069】
(実験例4)
正極極板を作製する際に、メタホウ酸リチウムを混合させなかったこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A4と称する。
【0070】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A4と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B4)を作製した。
【0071】
(実験例5)
正極活物質粒子として、Li1.06[Ni0.50Mn0.30Co0.20]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いたこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A5と称する。
【0072】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A5と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B5)を作製した。
【0073】
(実験例6)
正極活物質粒子として、エルビウム化合物を付着させていないLi1.06[Ni0.50Mn0.30Co0.20]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いたことと、正極極板を作製する際に、メタホウ酸リチウムを混合させなかったこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A6と称する。
【0074】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A6と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B6)を作製した。
【0075】
(実験例7)
正極活物質粒子として、エルビウム化合物を付着させていないLi1.06[Ni0.50Mn0.30Co0.20]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いたこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A7と称する。
【0076】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A7と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B7)を作製した。
【0077】
(実験例8)
正極極板を作製する際に、メタホウ酸リチウムを混合させなかったこと以外は、上記電池A5と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A8と称する。
【0078】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A8と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B8)を作製した。
【0079】
(実験例9)
正極活物質粒子として、Li1.06[Ni0.51Mn0.26Co0.23]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いたこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A9と称する。
【0080】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A9と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B9)を作製した。
【0081】
(実験例10)
正極活物質粒子として、エルビウム化合物を付着させていないLi1.06[Ni0.51Mn0.26Co0.23]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いたことと、正極極板を作製する際に、メタホウ酸リチウムを混合させなかったこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A10と称する。
【0082】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A10と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B10)を作製した。
【0083】
(実験例11)
正極活物質粒子として、エルビウム化合物を付着させていないLi1.06[Ni0.51Mn0.26Co0.23]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いたこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A11と称する。
【0084】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A11と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B11)を作製した。
【0085】
(実験例12)
正極極板を作製する際に、メタホウ酸リチウムを混合させなかったこと以外は、上記電池A9と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A12と称する。
【0086】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A12と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B12)を作製した。
【0087】
(実験例13)
正極活物質粒子として、Li1.06[Ni0.70Mn0.10Co0.20]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いたこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A13と称する。
【0088】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A13と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B13)を作製した。
【0089】
(実験例14)
正極活物質粒子として、エルビウム化合物を付着させていないLi1.06[Ni0.70Mn0.10Co0.20]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いたことと、正極極板を作製する際に、メタホウ酸リチウムを混合させなかったこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A14と称する。
【0090】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A14と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B14)を作製した。
【0091】
(実験例15)
正極活物質粒子として、エルビウム化合物を付着させていないLi1.06[Ni0.70Mn0.10Co0.20]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いたこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A15と称する。
【0092】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A15と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B15)を作製した。
【0093】
(実験例16)
正極極板を作製する際に、メタホウ酸リチウムを混合させなかったこと以外は、上記電池A13と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A16と称する。
【0094】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A16と同様にして大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B16)を作製した。
【0095】
<初期充放電効率の測定>
上述の条件で大気暴露をしていない正極極板を用いて作製された電池A1〜A16、及び電池A1〜A16において上述の条件で大気暴露をした正極極板を用いて作製された電池B1〜電池B16を用いて、下記の充放電試験を行い、各々の電池の初期充放電効率を測定した。
・1サイクル目の充電条件
25℃の温度条件下において、800mAの定電流で電池電圧が4.4V(正極電位はリチウム基準で4.5V)となるまで定電流充電を行い、電池電圧が4.4Vに達した後は、4.4Vの定電圧で電流が40mAになるまで定電圧充電を行った。
・1サイクル目の放電条件
25℃の温度条件下において、800mAの定電流で電池電圧3.0Vとなるまで定電流放電を行った。
・休止
上記充電と放電との間の休止間隔は10分間とした。
【0096】
上記の条件での充放電を1サイクルとし、充電容量測定値と放電容量測定値から、下記に示す式(1)に基づき、1サイクル目の初期充放電効率を求めた。
初期充放電効率(%)=放電容量/充電容量×100 ・・・(1)
【0097】
<暴露による特性劣化指標の算出>
上記で求めた初期充放電効率のうち、大気暴露なし(大気暴露していない正極極板使用時)の初期充放電効率を「暴露なし初期効率」とし、大気暴露あり(大気暴露した正極極板使用時)の初期充放電効率を「暴露あり初期効率」とし、下記に示す式(2)に基づき、対応する電池の暴露なし初期効率と暴露あり初期効率の差から暴露による特性劣化指標を算出した。
暴露による特性劣化指標=(暴露なし初期効率)−(暴露あり初期効率) ・・・(2)
その結果を纏めて下記表1に示した。
【0098】
【表1】
【0099】
上記表1の結果からわかるように、リチウム含有遷移金属酸化物の粒子表面にオキシ水酸化エルビウムとメタホウ酸リチウムが付着し、ニッケルとマンガンのモル比率の差が0.25以上である実験例1、9、13の電池は、実験例2〜4、5〜8、10〜12、14〜16の電池に比べ、暴露による特性劣化指標が大きく低減している。加えて、メタホウ酸リチウムのみを付着した実験例3、7、11、15の電池、及びオキシ水酸化エルビウムのみを付着した実験例4、8、12、16の電池は、それらのどちらも備えていない実験例2、6、10、14の電池と比べ、大気暴露による特性劣化指標にほとんど変化が見られなかったが、実験例3、7、11、15と実験例4、8、12、16の電池の両者の構成が兼ね備わった実験例1、9、13の電池は、それら個々の効果をはるかに上回る改善がみられている。このような結果が得られた理由は、下記に述べるとおりのものと考えられる。
【0100】
オキシ水酸化エルビウムとメタホウ酸リチウムがリチウム含有遷移金属酸化物の表面に同時に付着している実験例1の電池の場合、オキシ水酸化エルビウムにより、大気暴露による特性劣化の原因であるLiOH生成反応(具体的には、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に存在する水分とリチウム含有遷移金属酸化物とが反応し、リチウム含有遷移金属酸化物の表面層にあるLiと水素の置換反応が起こることにより、リチウム含有遷移金属酸化物からLiが引き抜かれてLiOHが生成する反応)の進行が抑制されるため、大気暴露後に充放電した際に充放電効率が低下するという、大気暴露による初期充放電特性の劣化を低減することができると考えられる。
【0101】
加えて、リチウム含有遷移金属酸化物の表面エネルギーがメタホウ酸リチウムとオキシ水酸化エルビウムの相互作用によって下げられるために、リチウム含有遷移金属化合物への大気中の水分の吸着が抑制される。この水分吸着量を少なくできることに起因して、大気暴露による特性劣化の原因である上記LiOH生成反応の進行がさらに抑制され、大気暴露による初期充放電特性の劣化を一層低減することができると考えられる。このような相乗効果が発揮されることによって、大気暴露による特性劣化の原因である上記LiOH生成反応を抑制することができ、この結果、大気暴露後に充放電した際に充放電効率が低下するという、大気暴露による初期充放電特性の劣化を飛躍的に低減することができる。
【0102】
尚、上記したホウ素化合物とオキシ水酸化エルビウムの相互作用は、ホウ素化合物と希土類化合物が共存している場合にホウ素化合物によって発揮される作用であって、ホウ素化合物が単独で存在する場合には発揮されないと考えられる。
【0103】
オキシ水酸化エルビウムのみが付着している実験例4、8、12、16の電池の場合、オキシ水酸化エルビウムとメタホウ酸リチウムによる上記相乗効果が得られない。すなわち、オキシ水酸化エルビウムの存在により大気暴露の劣化原因である上記LiOH生成反応が若干抑制できるものの、ホウ素化合物が存在していないことからリチウム含有遷移金属酸化物の表面エネルギーを下げることができず、リチウム含有遷移金属酸化物表面への水分吸着量が多くなる。このため、大気暴露の劣化原因である上記LiOH生成反応の進行が加速され、大気暴露による初期充放電特性の劣化を十分に抑制することができなかったと考えられる。
【0104】
メタホウ酸リチウムのみが付着している実験例3、7、11、15の電池の場合もまた、オキシ水酸化エルビウムとメタホウ酸リチウムによる上記相乗効果が得られない。すなわち、上述のとおりメタホウ酸リチウムが希土類化合物と共存せず単独で存在する場合には、メタホウ酸リチウムによる表面エネルギーの低下が起こらないと考えられる。このため、リチウム含有遷移金属酸化物への大気中の水分吸着を抑制することができず、上記LiOH生成反応の進行が加速されたと考えられる。加えて、実験例3、7、11、15の電池においては希土類化合物が存在しないために、希土類化合物による上記LiOH生成反応の抑制効果も得られなかったと考えられる。即ち、実験例2、6、10、14と実験例3、7、11、15ではほぼ同等の結果となっており、実験例3、7、11、15のようにホウ素化合物を付着させるだけでは、大気暴露による初期充放電特性の劣化を抑制する効果が得られないことがわかる。
【0105】
実験例2、6、10、14の電池の場合は、オキシ水酸化エルビウムとメタホウ酸リチウムの両方がリチウム含有遷移金属化合物の表面に付着していないため、オキシ水酸化エルビウムによる効果もオキシ水酸化エルビウムとメタホウ酸リチウムによる相乗効果も得られないために、上記LiOHが生成する反応が抑制できず、大気暴露による初期充放電特性の劣化が抑制されなかったと考えられる。
【0106】
また、実験例5の電池は、オキシ水酸化エルビウムとメタホウ酸リチウムの両方がリチウム含有遷移金属化合物の表面に付着している。しかしながら、ニッケルとマンガンのモル比率の差が0.20のため、ニッケルとマンガンのモル比率の差が0.25以上である実験例1、9、13に比べて、大気暴露による初期充放電特性の劣化が十分に抑制されていない。これは、ニッケルとマンガンのモル比率の差が0.20以下の場合には、実験例6のようにそもそも表面元素が無い状態でも大気暴露による初期充放電特性の劣化が小さく、オキシ水酸化エルビウムとメタホウ酸リチウムによる改善効果が認められなかったものと考えられる。
【0107】
〔第2実験例〕
(実験例17)
正極活物質粒子を作製する際に、希土類化合物として硝酸エルビウム5水和物の代わりに硝酸サマリウム6水和物を用いたこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A17と称する。
【0108】
得られた正極活物質は、表面に付着した水酸化サマリウムの全部或いは大部分が熱処理によりオキシ水酸化サマリウムに変化したものであり、オキシ水酸化サマリウムが正極活物質粒子の表面に付着した状態であった。但し、一部は水酸化サマリウムの状態で残存する場合があるので、リチウム含有遷移金属酸化物粒子の表面には水酸化サマリウムが付着されている場合もある。この正極活物質粒子について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、リチウム含有遷移金属酸化物粒子の表面全体に、平均粒径100nm以下のサマリウム化合物が均一に分散して付着していることが確認された。また、サマリウム化合物の付着量をICPにより測定したところ、サマリウム元素換算で、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物に対して0.20質量%であった。
【0109】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A17と同様にして、電池A17に対応する大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B17)を作製した。
【0110】
(実験例18)
正極極板を作製する際に、メタホウ酸リチウムを混合させなかったこと以外は、上記電池A17と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A18と称する。
【0111】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A18と同様にして、電池A18に対応する大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B18)を作製した。
【0112】
(実験例19)
正極活物質粒子を作製する際に、希土類化合物として硝酸エルビウム5水和物の代わりに硝酸ネオジム6水和物を用いたこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A19と称する。
【0113】
得られた正極活物質粒子は、表面に付着した水酸化ネオジムの全部或いは大部分が熱処理によりオキシ水酸化ネオジムに変化したものであり、オキシ水酸化ネオジムがリチウム含有遷移金属酸化物の表面に付着した状態であった。但し、一部は水酸化ネオジムの状態で残存する場合があるので、リチウム含有遷移金属酸化物粒子の表面には水酸化ネオジムが付着されている場合もある。この正極活物質について、走査型電子顕微鏡(SEM)にて観察したところ、リチウム含有遷移金属酸化物粒子の表面全体に、平均粒径100nm以下のネオジム化合物が均一に分散して付着していることが確認された。また、ネオジム化合物の付着量をICPにより測定したところ、ネオジム元素換算で、リチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物に対して0.20質量%であった。
【0114】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A19と同様にして、電池A19に対応する大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B19)を作製した。
【0115】
(実験例20)
正極極板を作製する際に、メタホウ酸リチウムを混合させなかったこと以外は、上記電池A19と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A20と称する。
【0116】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A20と同様にして、電池A20に対応する大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B20)を作製した。
【0117】
上述の条件で大気暴露をしていない正極極板を用いて作製された電池A17〜電池A20の電池、及び電池A17〜電池A20において上述の条件で大気暴露をした正極極板を用いて作製された電池B17〜電池B20を用いて、上記第1実験例と同様にして暴露による特性劣化指標を算出した。その結果を実験例1、4の電池の結果とともに纏めて下記表2に示した。
【0118】
【表2】
【0119】
上記表2の結果からわかるように、エルビウム化合物に代えて、サマリウム化合物やネオジウム化合物を表面の一部に付着したリチウム含有遷移金属酸化物を用いた実験例17、19の電池は、実験例17、19の電池にそれぞれ対応するホウ素化合物を加えなかった実験例18、20の電池に比べ、暴露による特性劣化指標が大きく低減している。
【0120】
以上の結果から、サマリウム化合物、ネオジウム化合物であっても、エルビウム化合物の場合と同様の効果が得られることがわかる。このことから、リチウム含有遷移金属酸化物の表面に希土類化合物を付着させると、大気暴露による特性劣化の原因である上記LiOHが生成する反応が抑制され、これによって大気暴露による初期充放電特性劣化を低減することができると考えられ、この作用効果は、希土類化合物に共通する効果と考えられる。
【0121】
尚、実験例1、17、19の電池の結果を比較すると、実験例1の電池は、実験例17や実験例19の電池よりも暴露による特性劣化指標が低減していることが認められる。このことから、希土類元素の中でも、特にエルビウム化合物が好ましいことがわかる。
【0122】
〔第3実験例〕
(実験例21)
正極極板を作製する際に、ホウ素化合物としてメタホウ酸リチウムの代わりに四ホウ酸リチウムを用いたこと以外は、上記電池A1と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A21と称する。
【0123】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A21と同様にして、電池A21に対応する大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B21)を作製した。
【0124】
(実験例22)
正極活物質粒子として、エルビウム化合物を付着させていないLi1.06[Ni0.55Mn0.20Co0.25]Oで表されるリチウムニッケルマンガンコバルト複合酸化物を用いたこと以外は、上記電池A21と同様にして電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A22と称する。
【0125】
また、正極極板を作製する際に、圧延ローラーにより圧延した後、上述の条件で大気暴露を行ったこと以外は、上記電池A22と同様にして、電池A22に対応する大気暴露した正極極板を用いた電池(電池B22)を作製した。
【0126】
上述の条件で大気暴露をしていない正極極板を用いて作製された電池A21〜電池A22の電池、及び電池A21〜電池A22において上述の条件で大気暴露をした正極極板を用いて作製された電池B21〜電池B22を用いて、上記第1実験例と同様にして暴露による特性劣化指標を算出した。その結果を実験例1、3の電池の結果とともに纏めて下記表3に示した。
【0127】
【表3】
【0128】
上記表3の結果からわかるように、メタホウ酸リチウムに代えて、四ホウ酸リチウムを表面の一部に付着したリチウム含有遷移金属酸化物を用いた実験例21の電池は、実験例21の電池に対応するエルビウム化合物を付着していない実験例22の電池に比べ、暴露による特性劣化指標が大きく低減している。
【0129】
以上の結果から、四ホウ酸リチウムであっても、メタホウ酸リチウムと同様の効果が得られることがわかり、この結果はホウ素を含む化合物を用いた場合に得られる共通の効果であると考えられる。尚、実験例1、21の電池の結果を比較すると、実験例1の電池は、実験例21の電池よりも暴露による特性劣化指標が低減していることが認められる。このことから、ホウ素化合物の中でも、特にメタホウ酸リチウムが好ましいことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0130】
本発明の一局面の偏非水電解質二次電池用正極及びこれを用いた非水電解質二次電池は、例えば、携帯電話、ノートパソコン、スマートフォン、タブレット端末等の移動情報端末の駆動電源で、特に高エネルギー密度が必要とされる用途に適用することができる。さらに、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV、PHEV)や電動工具のような高出力用途への展開も期待できる。
【符号の説明】
【0131】
1 正極
2 負極
3 セパレータ
4 正極集電タブ
5 負極集電タブ
6 アルミラミネート外装体
7 ヒートシール部
11 非水電解質二次電池
図1
図2