【文献】
J.Biol.Chem., 2003, Vol. 278, No. 18, pp. 15778-15788
【文献】
Proc.Natl.Acad.Sci.USA, 1994, Vol. 91, pp. 8827-8831
【文献】
TiPS, 2000, Vol. 21, pp. 24-28
【文献】
TiPS, 1999, Vol. 20, pp. 383-389
【文献】
Nature, 2011, Vol. 469, pp. 175-181
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
GPCRは、天然に生じるGPCRの改変体、又は天然に生じるGPCRからトランケーションされた形態である、請求項1〜10のいずれかに記載のキメラポリペプチド。
GPCRは、GPCRグルタメートファミリーのGPCR、GPCRロドプシンファミリーのGPCR、GPCR接着ファミリーのGPCR、GPCRのFrizzled/Taste2ファミリーのGPCR及びGPCRのセクレチンファミリーのGPCRを含む群から選択される、請求項1〜11のいずれかに記載のキメラポリペプチド。
結合ドメインに融合したGPCRを含むキメラポリペプチドを製造するための方法であって、適切な条件で請求項16又は17に記載の宿主細胞を培養する工程と、任意選択により、キメラポリペプチドを単離する工程とを含む、方法。
細胞表面に活性な立体構造又は不活性な立体構造で、又は宿主細胞の特定の細胞膜フラクション中に、GPCRを表出させるための方法であって、請求項16又は17に記載の宿主細胞を提供する工程と、適切な条件で前記細胞を培養し、キメラポリペプチドを発現する工程とを含む、方法。
【発明を実施するための形態】
【0036】
定義
具体的な実施形態の観点で、特定の図を参照しつつ本発明を記載するが、本発明は、これらに限定されず、特許請求の範囲によって限定される。特許請求の範囲の任意の引用符号は、この範囲を限定するものと解釈すべきではない。記載される図面は、単に模式図であり、非限定的である。図面において、幾つかの要素の大きさは、強調されている場合があり、説明の目的のために、縮尺通りに描かれてはいない。「を含む(comprising)」をいう用語が本明細書および特許請求の範囲で使用される場合、他の要素または工程を除外するものではない。不定冠詞または定冠詞を使用する場合に、単数形の名詞(例えば、「1つの(a)」または「1つの(an)」、「前記(the)」)に言及するとき、他の内容が具体的に述べられていない限り、この名詞の複数形も含む。さらに、本明細書および特許請求の範囲における第1、第2、第3などの用語は、同様の要素を区別するために用いられ、必ずしも連続した順序または番号順の順序を記載するためのものではない。このように使用される用語は、適切な状況下で互いに置き換え可能であり、本明細書に記載される本発明の実施形態は、本明細書に記載または説明されている以外の他の順序で操作することができることが理解されるべきである。
【0037】
本明細書で他の意味であると定義されていない限り、本発明と組み合わせて用いられる科学的および技術的な用語および句は、当業者によって一般的に理解される意味を有する。一般的に、本明細書に記載される分子生物学および細胞生物学、構造生物学、生物物理学、薬学、遺伝子学およびタンパク質および核酸の化学の技術と組み合わせて用いられる専門用語は、当該技術分野でよく知られており、一般的に知られている用語である。本発明の方法および技術は、一般的に、特に指示のない限り、当該技術分野でよく知られている従来の方法に従って行われ、本明細書全体で引用され、記述される種々の一般的な参考文献およびもっと具体的な参考文献に記載されるように行われる。例えば、Sambrookら、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第3版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、N.Y.(2001);Ausubelら、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publishing Associates(1992年、2002年に補遺);Rup、Biomolecular crystallography:principles、Practice and Applications to Structural Biology、第1版、Garland Science、Taylor&Francis Group、LLC、an informa Business、N.Y.(2009);Limbird、Cell Surface Receptors、第3版、Springer(2004)を参照。
【0038】
「キメラポリペプチド」、「キメラタンパク質」、「融合ポリペプチド」、「融合タンパク質」という用語は、本明細書で相互に置き換え可能に用いられ、同じタンパク質に由来していてもよく、由来していなくてもよい、少なくとも2つの離された別個のポリペプチド成分を含むタンパク質を指す。ポリペプチド成分は、典型的には、この天然の状態では結合しておらず、ペプチド結合を介し、それぞれのアミノ末端およびカルボキシル末端によって接続しており、単一の連続したポリペプチドを生成する。例えば、抗体に融合する目的のタンパク質は、キメラタンパク質の一例である。2つのポリペプチドを接続または融合するための簡便な手段は、第2のポリペプチドをコードする第2のポリヌクレオチドに作動可能に接続した、第1のポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチドを含む組み換え核酸分子から融合タンパク質としてこれらのポリペプチドを発現することによる。その他、融合タンパク質に含まれるポリペプチドは、インテインが媒介するタンパク質スプライシング(MuralidharanおよびMuir 2006)またはソルターゼ介在ペプチド転移(Poppら、2007)から生じるペプチド結合を介して接続することができるか、または任意の他の手段によって化学的に接続してもよい。典型的には、キメラポリペプチドは、非組み換えゲノム中の遺伝子によってコードされるタンパク質中に連続的なポリペプチドとして存在しないであろう。「キメラポリペプチド」という用語および文法的に等価な用語は、人工であることを意味する、天然には生じない分子を指す。「に融合する」および他の文法的に等価な用語は、キメラポリペプチド(本明細書に定義するような)に言及する場合、2つ以上のポリペプチド成分を接続するための化学機構または組み換え機構を指す。2つ以上のポリペプチド成分の融合は、配列の直接的な融合であってもよく、または、例えば、介在するアミノ酸配列またはリンカー配列を用いた間接的な融合であってもよい。例は、本明細書にさらに与えられるであろう。
【0039】
「膜タンパク質」という用語は、本明細書で使用する場合、細胞または細胞小器官の膜に接続するか、またはこれらと会合するタンパク質を指す。これらは、内在性膜タンパク質、周辺膜タンパク質および脂質修飾タンパク質を含む幾つかのカテゴリーに分けられることが多い。好ましくは、膜タンパク質は、脂質二重層に永久的に結合し、除去するのに洗剤または他の非極性溶媒を必要とする内在性膜タンパク質である。内在性膜タンパク質は、脂質膜に永久的に結合し、膜を1回または数回通過して広がる膜貫通タンパク質を含む。適切な膜タンパク質の例としては、特に、GPCRのような受容体が挙げられる。
【0040】
本明細書で使用する場合、「ポリペプチド」、「タンパク質」、「ペプチド」という用語は、本明細書で相互に置き換え可能に用いられ、任意の長さを有するアミノ酸のポリマー形態を指し、コードされたアミノ酸またはコードされていないアミノ酸、化学的または生化学的に修飾または誘導体化されたアミノ酸、および修飾されたペプチド骨格を有するポリペプチドを含んでいてもよい。本出願全体で、アミノ酸の標準的な1文字表記が使用されるであろう。典型的には、「アミノ酸」という用語は、「タンパク質を構成するアミノ酸」、即ち、タンパク質中に天然に存在するアミノ酸を指すであろう。最も特定的に、アミノ酸は、L異性体形態であるが、Dアミノ酸も想定される。
【0041】
本明細書で使用する場合、「核酸分子」、「ポリヌクレオチド」、「ポリ核酸」、「核酸」という用語は、相互に置き換え可能に用いられ、任意の長さを有するヌクレオチドのポリマー形態を指し、デオキシリボヌクレオチドまたはリボヌクレオチドのいずれか、またはこれらの類似体である。ポリヌクレオチドは、任意の三次元構造を有していてもよく、任意の既知または未知の機能を発揮してもよい。ポリヌクレオチドの非限定例としては、遺伝子、遺伝子フラグメント、エクソン、イントロン、メッセンジャーRNA(mRNA)、転移RNA、リボソームRNA、リボザイム、cDNA、組み換えポリヌクレオチド、分枝鎖ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、任意の配列を有する単離されたDNA、制御領域、任意の配列を有する単離されたRNA、核酸プローブおよびプライマーが挙げられる。核酸分子は、線状または環状であってもよい。
【0042】
本明細書に開示される任意のペプチド、ポリペプチド、核酸などは、「単離され」、または「精製され」てもよい。「単離された」は、言及される材料が、(i)天然に存在する1つ以上の物質から分離され(例えば、少なくとも幾つかの細胞材料から分離され、他のポリペプチドから分離され、この天然配列の背景から分離され)、および/または(ii)人の手が関与する工程、例えば、組み換えDNA技術、化学合成などによって製造され;および/または(iii)天然には見出されない配列、構造または化学組成を有することを示すために本明細書で用いられる。「精製された」は、本明細書で使用する場合、示されている核酸またはポリペプチドが、他の生物学的高分子、例えば、ポリヌクレオチド、タンパク質などが実質的に存在しない状態で存在することを示す。一実施形態において、ポリヌクレオチドまたはポリペプチドが、存在するポリヌクレオチドまたはポリペプチドの少なくとも90重量%、例えば、少なくとも95重量%、例えば、少なくとも99重量%を構成するように精製される(しかし、水、バッファー、イオンおよび他の低分子、特に、分子量が1000ダルトン未満の分子は存在してもよい。)。
【0043】
「配列同一性」という用語は、本明細書で使用する場合、配列が、比較範囲にわたって、ヌクレオチドごとを基準として、またはアミノ酸ごとを基準として同一である程度を指す。従って、「配列同一性の割合」は、比較範囲にわたって2つの最適に並べられた配列を比較し、同一の核酸対(例えば、A、T、C、G、I)または同一のアミノ酸残基(例えば、Ala、Pro、Ser、Thr、Gly、Val、Leu、Ile、Phe、Tyr、Trp、Lys、Arg、His、Asp、Glu、Asn、Gln、CysおよびMet)が両方の配列で発生する位置の数を決定し、マッチした位置の数を得て、このマッチした位置の数を、この比較範囲での位置の合計数(即ち、この範囲の大きさ)で割り算し、この結果に100を掛け算することによって計算され、配列同一性の割合を得る。配列同一性の割合の決定は、手動で行ってもよく、または、当該技術分野で利用可能なコンピュータプログラムを利用することによって行ってもよい。有用なアルゴリズムの例は、PILEUP(Higgins&Sharp、CABIOS 5:151(1989)、BLASTおよびBLAST 2.0(Altschulら、J.Mol.Biol.215:403(1990)である。BLAST分析を行うためのソフトウエアは、National Center for Biotechnology Informationによって公に利用可能である(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)。
【0044】
「類似性」は、同一であるか、または保存的置換を構成するアミノ酸の数の割合を指す。類似性は、配列比較プログラム、例えば、GAPを用いて決定されてもよい(Deverauxら、1984)。この様式で、本明細書に引用される配列と類似の配列、または実質的に異なる長さを有する配列は、このアラインメントに、ギャップ(例えば、GAPによって用いられる比較アルゴリズムによって決定されるギャップ)を挿入することによって比較されてもよい。本明細書で使用する場合、「保存的置換」は、側鎖が類似の生化学特性を有する(例えば、脂肪族である、芳香族である、正に帯電している、などの)他のアミノ酸を用いたアミノ酸の置換であり、当業者にはよく知られている。次いで、非保存的置換は、側鎖が類似の生化学特性を有しない他のアミノ酸を用いたアミノ酸の置換である(例えば、極性残基を用いた疎水基の置き換え)。保存的置換は、典型的には、もはや同一ではないが、非常に類似している配列を与える。保存的置換とは、意図した組み合わせ、例えば、gly、ala;val、ile、leu、met;asp、glu;asn、gln;ser、thr;lys、arg;cys、met;およびphe、tyr、trpである。
【0045】
「欠失」は、元々のポリペプチドまたは核酸のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と比較して、それぞれ1つ以上のアミノ酸またはヌクレオチド残基が存在しない、アミノ酸またはヌクレオチド配列のいずれかの変化であると本明細書で定義される。タンパク質という文脈で、欠失は、約2、約5、約10、約20まで、約30まで、または約50まで、またはこれより多いアミノ酸の欠失を含んでいてもよい。タンパク質またはこのフラグメントは、1つより多い欠失を含んでいてもよい。GPCRという文脈で、欠失は、ループ状の欠失、またはN末端および/またはC末端の欠失、またはこれらの組み合わせであってもよい。当業者には明らかであろうが、GPCRのN末端および/またはC末端の欠失は、GPCRのアミノ酸配列のトランケーション、またはトランケーションされたGPCRとも呼ばれる。
【0046】
「挿入」または「付加」は、元々のタンパク質のアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と比較した場合、それぞれ1つ以上のアミノ酸またはヌクレオチド残基の付加を生じる、アミノ酸またはヌクレオチド配列の変化である。「挿入」は、一般的に、ポリペプチドのアミノ酸配列内の1つ以上のアミノ酸残基への付加を指し、一方、「付加」は、挿入であってもよく、または、N末端またはC末端、または両末端に付加されたアミノ酸残基を指す。タンパク質またはこのフラグメントという文脈で、挿入または付加は、通常は、約1、約3、約5、約10、約20まで、約30まで、または約50まで、またはもっと多くのアミノ酸の挿入または付加である。タンパク質またはこのフラグメントは、1つより多い挿入を含んでいてもよい。
【0047】
「置換」は、本明細書で使用する場合、元々のタンパク質またはこのフラグメントのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列と比較して、1つ以上のアミノ酸またはヌクレオチドを、それぞれ異なるアミノ酸またはヌクレオチドによって置き換えることから生じる。タンパク質またはこのフラグメントは、このタンパク質の活性に実質的に影響を与えない保存的アミノ酸置換を有していてもよいことが理解される。保存的置換とは、意図した組み合わせ、例えば、gly、ala;val、ile、leu、met;asp、glu;asn、gln;ser、thr;lys、arg;cys、met;およびphe、tyr、trpである。
【0048】
「組み換え」という用語は、細胞、核酸、タンパク質またはベクターを参照して用いられる場合、細胞、核酸、タンパク質またはベクターが、異種核酸またはタンパク質の導入、または天然の核酸またはタンパク質の変更によって改変されているか、または、このようにして改変された細胞から、細胞が誘導されることを示す。従って、例えば、組み換え細胞は、細胞の天然の(組み換えされていない)形態内に見出されない核酸またはポリペプチドを発現するか、天然の遺伝子を発現するが、その他の異常な発現をするか、少ない量を発現するか、過剰に発現するか、または全く発現しない。
【0049】
本明細書で使用する場合、「発現」という用語は、遺伝子の核酸配列に基づいてポリペプチドが産生される工程を指す。この工程は、転写および翻訳を含む。
【0050】
「作動可能に接続した」という用語は、本明細書で使用する場合、調節配列が目的の遺伝子と連続し、目的の遺伝子を制御する結合、および目的の遺伝子を制御するためにトランスに、またはある距離で作用する調節配列を指す。例えば、DNA配列は、プロモーターの転写開始部位に対して下流でプロモーターに連結する場合、プロモーターに作動可能に接続し、DNA配列によって転写伸長を進めることができる。シグナル配列のためのDNAは、ポリペプチドの輸送に関与するプレタンパク質として発現する場合、ポリペプチドをコードするDNAに作動可能に接続する。調節配列に対するDNA配列の結合は、典型的には、適切な制限部位で、または、当業者に既知の制限エンドヌクレアーゼを用いて代わりに挿入されたアダプターまたはリンカーに連結することによって達成される。
【0051】
「調節配列」という用語は、本明細書で使用する場合、「制御配列」とも呼ばれ、作動可能に接続したコード配列の発現を行うのに必要なポリヌクレオチド配列を指す。調節配列は、核酸配列の転写、後転写事象および翻訳を制御する配列である。調節配列は、適切な転写開始、停止、プロモーターおよびエンハンサー配列;効率的なRNAプロセシングシグナル、例えば、スプライシングおよびポリアデニル化シグナル;細胞質mRMAを安定化する配列;翻訳効率を高める配列(例えば、リボソーム結合部位);タンパク質の安定性を高める配列;および所望な場合、タンパク質の分泌を高める配列を含む。このような制御配列の性質は、宿主有機体に依存して異なる。「調節配列」という用語は、最低限、この存在が発現に必須であるすべての要素を含むことを意図しており、この存在が有利であるさらなる要素、例えば、リーダー配列および融合パートナー配列も含んでいてもよい。
【0052】
「ベクター」という用語は、本明細書で使用する場合、接続した別の核酸分子を輸送することができる核酸分子を指すことを意図している。ベクターは、限定されないが、ファージ、ウイルス、プラスミド、ファージミド、コスミド、バクミドを含む任意の適切な型を有していてもよく、または人工染色体であってもよい。特定のベクターは、ベクターが中に導入される宿主細胞中で、自律複製をすることができる(例えば、宿主細胞中で機能する複製源を有するベクター)。他のベクターは、宿主細胞に導入すると、宿主細胞のゲノムに組み込むことができ、これによって、宿主ゲノムとともに複製される。さらに、特定の好ましいベクターは、目的となる特定の遺伝子の発現を命令することができる。このようなベクターは、本明細書で「組み換え発現ベクター」(または、単純に、「発現ベクター」)と呼ばれる。適切なベクターは、所望な場合、特定の宿主有機体(例えば、細菌細胞、酵母細胞)に従って、調節配列、例えば、プロモーター、エンハンサー、転写終結配列などを含む。典型的には、本発明の組み換えベクターは、少なくとも1つの「キメラ遺伝子」または「発現カセット」を含む。発現カセットは、一般的に、好ましくは、(転写の方向で5’から3’に)プロモーター領域、ポリヌクレオチド配列、同族体、改変体または転写開始領域に作動可能に接続した本発明のフラグメントおよびRNAポリメラーゼおよびポリアデニル化シグナルのための停止シグナルを含む転写終結配列のDNA構築物である。これらすべての領域が、形質転換される生体細胞(例えば、原核細胞または真核細胞)で働くことができるべきであることが理解される。転写開始領域を含むプロモーター領域は、好ましくは、RNAポリメラーゼ結合部位を含み、ポリアデニル化シグナルは、形質転換される生体細胞に元々備わっていてもよく、代替源に由来してもよく、この領域は、生体細胞において機能性である。
【0053】
「宿主細胞」という用語は、本明細書で使用する場合、組み換えベクターが導入された細胞を指すことを意図している。このような用語が、特定の被検細胞のみを指すのではなく、このような細胞の後代も指すことを意図していると理解すべきである。突然変異または環境の影響のいずれかに起因して、次の世代で特定の改変が起こり得るため、このような後代は、実際には、元々の細胞と同一でない場合もあるが、本明細書で使用する場合、これも「宿主細胞」の用語の範囲内に含まれる。宿主細胞は、単離された細胞または培地で成長した細胞株であってもよく、または生きている組織または有機体中に存在する細胞であってもよい。特に、宿主細胞は、細菌由来または真菌由来であるが、植物由来または哺乳動物由来であってもよい。「宿主細胞」、「組み換え宿主細胞」、「発現宿主細胞」、「発現宿主系」、「発現系」という言葉は、同じ意味を有することを意図しており、本明細書で相互に置き換え可能に用いられる。
【0054】
「エピトープ」は、本明細書で使用する場合、ポリペプチドの抗原性の決定因子を指す。エピトープは、立体構造に3個のアミノ酸を含んでいてもよく、エピトープに固有である。一般的に、エピトープは、少なくとも4個、5個、6個、7個のこのようなアミノ酸からなり、もっと一般的には、少なくとも8個、9個、10個のこのようなアミノ酸からなる。アミノ酸の立体構造を決定する方法は、当該技術分野で知られており、例えば、x線結晶学および多次元核磁気共鳴を含む。
【0055】
「立体的エピトープ」は、本明細書で使用する場合、ポリペプチドの折り畳まれた三次元構造に固有の立体構造でアミノ酸を含むエピトープを指す。一般的に、立体的エピトープは、線形の配列中で非連続的であるが、タンパク質の折り畳まれた構造では一緒になるアミノ酸からなる。しかし、立体的エピトープは、ポリペプチドの折り畳まれた三次元構造に固有の(変性される部位には存在しない)立体構造を採用するアミノ酸の線形配列からなっていてもよい。タンパク質複合体において、立体的エピトープは、異なる折り畳まれたポリペプチドの折り畳みおよび固有の四次構造における会合が起こると一緒になる1つ以上のポリペプチドの線形の配列で非連続的であるアミノ酸からなる。同様に、立体的エピトープは、ここでは、一緒になり、四次構造に固有の立体構造を採用する1つ以上のポリペプチドのアミノ酸の線形の配列からなっていてもよい。
【0056】
タンパク質の「立体構造」または「立体構造状態」は、一般的に、ある時間点でタンパク質が採用し得る構造の範囲を指す。当業者は、立体構造または立体構造状態の決定因子が、タンパク質のアミノ酸配列(改変されたアミノ酸を含む)に反映されるようなタンパク質の一次構造およびアミノ酸周囲の環境を含むことを認識するであろう。タンパク質の立体構造または立体構造状態は、構造的特徴、例えば、タンパク質の二次構造(例えば、特に、αらせん、βシート)、三次構造(例えば、ポリペプチド鎖の三次元折り畳み)および四次構造(例えば、ポリペプチド鎖と他のタンパク質サブユニットとの相互作用)にも関連する。ポリペプチド鎖に対する後翻訳および他の改変、例えば、特に、リガンドの結合、リン酸化、硫酸化、グリコシル化、または疎水性基の接続は、タンパク質の立体構造に影響を与えることがある。さらに、環境的な因子、例えば、特に、pH、塩濃度、塩強度および周囲の溶液のモル浸透圧濃度および他のタンパク質および補因子との相互作用は、タンパク質の立体構造に影響を与えることがある。タンパク質の立体構造状態は、活性または別の分子に対する結合のための機能アッセイによって、または物理的な方法、特に、例えば、X線結晶学、NMR、またはスピン標識によって決定されてもよい。タンパク質の立体構造および立体構造状態の包括的な議論のために、CantorおよびSchimmel、Biophysical Chemistry、Part I:The Conformation of Biological.Macromolecules、W.H.Freeman and Company、1980およびCreighton、Proteins:Structures and molecular Properties、W.H.FreemanおよびCompany、1993を参照する。
【0057】
「機能的な立体構造」または「機能的な立体構造状態」は、タンパク質(特に、GPCR)が、動的な範囲の活性を有する(特に、活性なしから最大活性までの範囲の)異なる立体構造状態を有するという事実を指す。「機能的な立体構造状態」は、本明細書で使用する場合、活性なしを含む任意の活性を有するタンパク質(特に、GPCR)の任意の立体構造状態を包含することを意味し、変性した状態のタンパク質を包含することを意味しないことを明確にすべきである。GPCRの機能的な立体構造の非限定例としては、活性な立体構造、不活性な立体構造または基本立体構造が挙げられる。特定の種類の機能的な立体構造は、「薬となり得る立体構造」であると定義され、一般的に、標的タンパク質の固有の治療に関連する立体構造状態を指す。1つの説明として、β2アドレナリン作動性受容体のアゴニストが結合した活性な立体構造は、平滑筋の弛緩、気管支の拡張(喘息)、筋肉および肝臓の血管拡張、子宮筋の弛緩およびインスリンの放出に関連する、この受容体の薬となり得る立体構造に対応する。従って、薬となり得る可能性は、治療適用に依存して特定の立体構造に限られることが理解されるであろう。さらなる詳細を本明細書でさらに提示する。
【0058】
「安定化する」または「安定化された」という用語は、GPCRの機能的な立体構造状態に関し、本明細書で使用する場合、GPCR部分と、本発明のキメラポリペプチドの結合ドメイン部分との分子内相互作用の影響に起因して、GPCRが、その他の方法で推測され得るような可能な立体構造の部分集合に維持または保持されることを指す。この文脈で、GPCRの特定の立体構造に特異的または選択的に結合する結合ドメインは、GPCRで推測し得る他の立体構造よりも、ある立体構造の部分集合のGPCRに対して高いアフィニティで結合する結合ドメインを指す。当業者は、GPCRの特定の立体構造に特異的または選択的に結合する結合ドメインが、特定の立体構造およびこの関連する活性を安定化させ得ることを認識するであろう。さらなる詳細を本明細書でさらに提示する。
【0059】
「アフィニティ」という用語は、本明細書で使用する場合、一般的に、リガンド(本明細書でさらに定義されるような)が、標的タンパク質とリガンドの平衡状態を、この結合によって生成する複合体が存在する方向に変化させるように標的タンパク質に結合する程度を指す。従って、例えば、キメラポリペプチドとリガンドを相対的に等しい濃度で合わせると、高アフィニティのリガンドは、得られる複合体の濃度が高くなる方向に平衡を変化させるように、キメラポリペプチドに結合するであろう。解離定数Kdは、一般的に、リガンドと標的タンパク質とのアフィニティを記述するために用いられる。典型的には、解離定数は、10
−5Mより小さい値である。好ましくは、解離定数は、10
−6Mより小さく、さらに好ましくは、10
−7Mより小さい。最も好ましくは、解離定数は、10
−8Mより小さい。リガンドとこの標的タンパク質とのアフィニティを記述する他の様式は、会合定数(Ka)、阻害定数(Ki)であるか、または、半数阻害濃度(IC50)または半数効果濃度(EC50)を測定することによってリガンドの効力を評価することによって間接的に記述される。本発明の範囲内で、「アフィニティ」という用語は、標的GPCRの立体的エピトープに結合する結合ドメインの文脈で、本発明のキメラポリペプチドに、さらに特定的には、キメラポリペプチドに含まれる標的GPCRのオルソステリック部位またはアロステリック部位に結合する試験化合物(本明細書でさらに定義されるような)の文脈で使用されることが理解されるであろう。
【0060】
分子内相互作用、例えば、本発明のキメラポリペプチドのGPCR部分に対する結合ドメイン部分の特定の相互作用において、この2つの相互作用する基が、1つの分子内に含まれることを注記すべきである。結合ドメインとこの標的との解離定数は、これらが個々の分子である場合は知られているが、分子内相互作用の場合には、溶液内のそれぞれの濃度は無関係である。この代わりに、分子内相互作用に重要なのは、この高分子内の2つの基の「有効濃度」である。「有効分子内濃度」または「有効モル濃度」(M
eff)という用語は、本明細書で使用する場合、有効な濃度を指し、K
dinter/K
dintraとして計算することができ、ここで、解離定数K
dintraは、無単位であり、標的GPCRと結合ドメインの融合物である分子内反応を記述するために用いられる解離定数であり、K
dinterは、濃度(例えば、モル濃度)の単位を有し、結合ドメインと標的GPCRの共有結合によらない複合体である類似する分子間相互作用の解離定数である。有効モル濃度は、この高分子の構造、特に、2つの反応剤が一緒になるか、または空間的に離れた位置に維持される程度と、2つの基が維持される環境に依存するであろう。この分子内反応の有効モル濃度は、この高分子の構造が、2つの基を離れた位置に保持する場合、つまり、結合ドメインが、標的GPCRに指向しないか、および/または標的GPCRに特異的に結合(本明細書でさらに定義されるような)することができない場合には、本質的にゼロであろう。他の極端な例で、この高分子の構造が、2つの基を反応のために正しい近接度および配置に維持する場合、これらの有効モル濃度は、10
10Mまでの極端に高い値になる場合があり、この濃度は、2つの独立した分子では実現することはできない。本発明によれば、この場合は、結合ドメインが標的GPCRに特異的に結合(本明細書でさらに定義されるような)することができる場合である。このような値は、これらの基が同じ分子上にある場合および別個の分子上にある場合に、同じ反応についての速度の比率または平衡定数から、理論的な考察によって予想され、実験的にも観察される。
【0061】
「特異性」という用語は、本明細書で使用する場合、結合ドメイン、特に、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンフラグメント、例えば、VHHまたはナノボディが、異なる抗原と比較して、ある抗原に優先的に結合する能力を指し、必ずしも高いアフィニティを伴わない。
【0062】
「特異的に結合する」および「特異的な結合」という用語は、本明細書で使用する場合、一般的に、結合ドメイン、特に、免疫グロブリン、例えば、抗体、または免疫グロブリンフラグメント、例えば、VHHまたはナノボディが、異なる抗原の均一な混合物中に存在する特定の抗原に優先的に結合する能力を指す。特定の実施形態において、特異的な結合相互作用は、ある実施形態において、約10倍より多く、100倍まで、またはこれより大きく(例えば、約1000倍より大きく、または10,000倍より大きく)、サンプル中の望ましい抗原と望ましくない抗原とを区別するであろう。GPCRの立体構造状態の範囲の文脈で、この用語は、特に、結合ドメイン(本明細書に定義されるような)が、別の立体構造状態と比較して、GPCRの特定の立体構造状態を優先的に認識するか、および/またはGPCRの特定の立体構造状態に優先的に結合する能力を指す。従って、本明細書で使用する場合、「立体構造選択的な結合ドメイン」という用語は、本発明の文脈で、立体構造選択的な様式で標的GPCRに結合する結合ドメインを指す。GPCRの特定の立体構造に選択的に結合する結合ドメインは、GPCRに推定され得る他の立体構造に対するよりも、立体構造の部分集合のGPCRに高いアフィニティで結合する結合ドメインを指す。当業者は、GPCRの特定の立体構造に選択的に結合する結合ドメインが、GPCRをこの特定の立体構造に安定化するか、または維持することを認識するであろう。例えば、活性な状態の立体構造選択的な結合ドメインは、活性な立体構造状態でGPCRに優先的に結合し、不活性な立体構造状態では、GPCRに結合しないか、または少ない割合で結合し、前記活性な立体構造状態に対する高いアフィニティを有するか、またはこの逆であろう。「特異的に結合する」、「選択的に結合する」、「優先的に結合する」という用語、および文法的に等価な用語は、本明細書で相互に置き換え可能に用いられる。「立体構造特異的な」または「立体構造選択的な」という用語も、本明細書で相互に置き換え可能に用いられる。
【0063】
「化合物」または「試験化合物」または「候補化合物」または「薬物候補化合物」という用語は、本明細書で使用する場合、同じ意味を有することを意図しており、アッセイ(例えば、薬物開発目的のためのスクリーニングアッセイ)で試験される、天然に生じるか、または合成の任意の分子を記述する。このように、これらの化合物は、有機化合物または無機化合物を含む。化合物は、分子量が低いことを特徴とする、低分子、ポリヌクレオチド、脂質またはホルモン類似体を含む。他のバイオポリマー有機試験化合物は、約2から約40のアミノ酸を含む低分子ペプチドまたはペプチド様分子(ペプチド模倣物)、および約40から約500のアミノ酸を含むもっと大きなポリペプチド、例えば、抗体、抗体フラグメントまたは抗体コンジュゲートを含む。試験化合物は、タンパク質足場または合成足場であってもよい。高スループットの目的のために、試験化合物ライブラリー、例えば、十分な範囲の多様性を与えるコンビナトリアルライブラリーまたは無作為なライブラリーを使用してもよい。例としては、限定されないが、天然化合物ライブラリー、アロステリック化合物ライブラリー、ペプチドライブラリー、抗体フラグメントライブラリー、合成化合物ライブラリー、フラグメントに基づくライブラリー、ファージディスプレイライブラリーなどが挙げられる。もっと詳細な記載は、本明細書中にさらに見出されるであろう。
【0064】
本明細書で使用する場合、「リガンド」という用語は、ポリペプチド(特に、GPCR)に結合する分子を意味する。リガンドは、限定する目的はないが、タンパク質、(ポリ)ペプチド、脂質、低分子、タンパク質足場、核酸、イオン、炭水化物、抗体または抗体フラグメントであってもよい。リガンドは、合成または天然に生じるものであってもよい。リガンドは、天然タンパク質のための内因性の天然リガンドである「天然リガンド」も含む。本発明の文脈で、リガンドは、細胞内の部位または細胞外の部位で、および/または膜貫通ドメインで、GPCRに結合する分子を意味する。通常は、必須ではないが、GPCRは、リガンドが結合すると、特定の立体構造を採用するであろう。従って、リガンドは、「立体構造選択的なリガンド」または「立体構造特異的なリガンド」であってもよい。この用語は、オルソステリック部位またはアロステリック部位で結合するアゴニスト、全アゴニスト、パーシャルアゴニストおよびインバースアゴニストを含む。明確さのために、ニュートラルアンタゴニストは、GPCRの特定の立体構造に選択的に結合しないため、「立体構造選択的なリガンド」または「立体構造特異的なリガンド」という用語は、ニュートラルアンタゴニストを含まない。
【0065】
「オルソステリックリガンド」は、本明細書で使用する場合、受容体(例えば、GPCR)の活性部位に結合するリガンド(天然または合成)を指し、この有効性に従って、言い換えると、特定の経路を経てシグナル伝達する際に有する効果に従って、さらに分類される。本明細書で使用する場合、「アゴニスト」は、受容体タンパク質に結合することによって、受容体のシグナル伝達活性を高めるリガンドを指す。全アゴニストは、最大のタンパク質刺激を可能にし、パーシャルアゴニストは、飽和濃度でさえ、最大活性を誘発することができない。パーシャルアゴニストは、もっと強固なアゴニストの結合を防ぐことによって、「ブロッカー」としても機能することができる。「アンタゴニスト」は、「ニュートラルアンタゴニスト」とも呼ばれ、何らかの活性を刺激することなく受容体に結合するリガンドを指す。「アンタゴニスト」は、他のリガンドの結合を防ぐ能力、従って、アゴニストによって誘発される活性を遮断する能力に起因して、「ブロッカー」としても知られる。さらに、「インバースアゴニスト」は、アンタゴニストを指し、アゴニストの効果の遮断に加え、受容体の基礎活性または恒常的な活性を、リガンドを有しないタンパク質の活性より低く下げる。
【0066】
リガンドは、本明細書で使用する場合、受容体のシグナル伝達活性の部分集合を選択的に刺激する能力を有する「バイアスリガンド」であってもよい(例えば、GPCRの場合、Gタンパク質またはβ−アレスチン機能の選択的な活性化)。このようなリガンドは、「バイアスリガンド」、「バイアスアゴニスト」または「機能的に選択的なアゴニスト」としても知られる。さらに具体的には、リガンドのバイアスは、異なるシグナルのための異なる相対的な有効性を伴う複数の受容体の活性のリガンド刺激を特徴とする不完全なバイアスであってもよく、または、別の既知の受容体タンパク質の活性を刺激することなく、ある受容体のタンパク質活性のリガンド刺激を特徴とする完全なバイアスであってもよい。
【0067】
別の種類のリガンドは、アロステリック制御剤として知られている。「アロステリック制御剤」またはその他の「アロステリック調整剤」、「アロステリックリガンド」または「エフェクター分子」は、本明細書で使用する場合、受容体タンパク質、例えば、GPCRのアロステリック部位(即ち、タンパク質の活性部位とは物理的に別個の制御部位)に結合するリガンドを指す。オルソステリックリガンドとは対照的に、アロステリック調整剤は、異なる部位で受容体タンパク質に結合し、内因性リガンドも結合している場合であってもこの活性を変えるため、非競争的である。タンパク質の活性を高めるアロステリック制御剤は、本明細書では「アロステリック活性化剤」または「正のアロステリック調整剤」(PAM)と呼ばれ、一方、タンパク質の活性を下げるアロステリック制御剤は、本明細書では、「アロステリック阻害剤」またはその他「負のアロステリック調整剤」(NAM)と呼ばれる。
【0068】
本明細書で使用する場合、「を決定する」、「を測定する」、「を評価する」、「を監視する」および「をアッセイする」という用語は、相互に置き換え可能に用いられ、定量的な決定および定性的な決定を両方とも含む。
【0069】
本明細書で使用する場合、抗体の文脈で、「相補性決定領域」または「CDR」という用語は、H(重)鎖またはL(軽)鎖のいずれかの可変領域を指し(それぞれVHおよびVLとも省略される。)、抗原標的に特異的に結合することができるアミノ酸配列を含む。これらのCDR領域は、特定の抗原性の決定因子の構造に対する抗体の基本的な特異性の原因となる。このような領域は、「高度可変領域」とも呼ばれる。CDRは、可変領域内のアミノ酸の非連続的な伸張部分を表すが、種にかかわらず、可変重鎖および可変軽鎖内のこれらの重要なアミノ酸配列の位置的な配置は、可変鎖のアミノ酸配列内の同様の位置を有することがわかっている。すべてのカノニカル抗体の可変重鎖および軽鎖は、それぞれ3つのCDR領域を有し、それぞれ、それぞれの軽(L)鎖および重(H)鎖について、他と非連続的である(L1、L2、L3、H1、H2、H3と呼ばれる。)。免疫グロブリン一本鎖可変ドメイン、特に、VHHまたはナノボディは、一般的に、4個の「フレームワーク配列または領域」、即ち、FRと、3個の「相補性決定領域」、即ち、CDRを含むと考えることができる一本鎖アミノ酸鎖を含む。ナノボディは、3個のCDR領域を含み、それぞれ、互いに非連続的である(CDR1、CDR2、CDR3と呼ばれる。)。FR配列およびCDR配列の表示は、例えば、VドメインおよびV様ドメインのためのIMGTの固有の番号付けに基づいてもよい(Lefrancら、2003)。
【0070】
詳細な記載
キメラポリペプチド
本発明の第1の態様は、結合ドメインに融合したGタンパク質共役受容体(GPCR)を含み、前記結合ドメインが、GPCRに指向するか、および/またはGPCRに特異的に結合するキメラポリペプチドに関する。従って、本発明は、少なくとも2つの部分、特に、少なくともGPCR部分と結合ドメイン部分との融合タンパク質であり、前記結合ドメインが、GPCRに指向するか、および/またはGPCRに特異的に結合するキメラポリペプチドを提供する。
【0071】
一般的に、キメラポリペプチドのGPCR部分を生成する部分の選択は、本発明にとって重要ではなく、典型的には、意図する使用および適用に従って選択されるであろう。結合ドメイン部分の必要条件は、選択したGPCRに特異的に結合する(本明細書で定義されるような)能力である。従って、結合ドメイン部分は、一般的に、任意の望ましいGPCRに指向してもよく、特に、任意のGPCRの任意の立体的エピトープ(本明細書で定義されるような)に指向してもよい。「立体的エピトープ」に特異的に結合する結合ドメインは、折り畳まれたタンパク質の三次(即ち、三次元)構造に特異的に結合し、タンパク質の線形(即ち、折り畳まれておらず、変性した)形態に対するアフィニティがかなり小さい状態で(即ち、少なくとも2倍、5倍、10倍、50倍または100倍小さい状態で)結合する。特に、前記立体的エピトープは、細胞内領域または細胞外領域の一部であってもよく、または膜間領域、または任意の望ましいGPCRのドメインまたはループ構造であってもよい。従って、特定の実施形態によれば、結合ドメイン部分は、望ましいGPCRの細胞外領域、ドメイン、ループまたは他の細胞外の立体的エピトープに指向してもよいが、好ましくは、膜貫通ドメインの細胞外部分、またはさらに好ましくは、膜貫通ドメインに接続する細胞外のループに指向する。または、結合ドメイン部分は、望ましいGPCRの細胞内領域、ドメイン、ループまたは他の細胞内の立体的エピトープに指向してもよいが、好ましくは、膜貫通ドメインの細胞内部分、またはさらに好ましくは、膜貫通ドメインに接続する細胞内のループに指向してもよい。他の特定の実施形態において、結合ドメイン部分は、限定されないが、内因性オルソステリックアゴニストを含め、ニュートラルリガンドの結合部位の一部を生成する立体的エピトープに指向してもよい。さらに他の実施形態において、結合ドメイン部分は、下流のシグナル伝達タンパク質のための結合部位に含まれる立体的エピトープ、特に、細胞内エピトープ(限定されないが、Gタンパク質結合部位、β−アレスチン結合部位)に指向してもよい。
【0072】
好ましい実施形態によれば、本発明のキメラポリペプチドは、結合ドメインに融合したGPCRを含み、分子内反応でGPCRに結合ドメインが結合すると、GPCRは、さらなるリガンドを必要とすることなく、特定の立体構造で安定化される。好ましくは、本発明のキメラポリペプチドは、結合ドメインによって機能的な立体構造(本明細書で定義されるような)に安定化されたGPCRを含む。「安定化された」という用語を用いる場合、本明細書で上記で定義されたように、構造(例えば、立体構造状態)および/または特定の生体活性(例えば、細胞内のシグナル伝達活性、リガンド結合アフィニティなど)に関し、GPCRの安定性が高まることを意味する。構造および/または生体活性に関して安定性が高まることに関連して、物理的な方法、例えば、特に、X線結晶学、NMR、またはスピンラベリングによって、または、特に、活性のための機能アッセイ(例えば、Ca
2+の放出、cAMPの生成または転写活性、β−アレスチンの補充など)またはリガンド結合によって、容易に決定されるであろう。「安定化する」という用語は、変性剤または変性条件によって誘発される非生理学的条件で、GPCRの熱安定性を高めることも含む。「熱安定化する」、「熱安定化すること」、「の熱安定性を高める」という用語は、本明細書で使用する場合、GPCRの熱力学的特性ではなく、限定されないが、加熱、冷却、凍結、化学変性剤、pH、洗剤、塩、添加剤、プロテアーゼまたは温度を含め、熱および/または化学的な手法によって誘発される不可逆的な変性に対するタンパク質の耐性といった機能を指す。不可逆的な変性によって、タンパク質の機能的な立体構造の不可逆的なアンフォールディング、生体活性の消失および変性したタンパク質の凝集が生じる。熱に対する安定性の増加に関連して、リガンドの結合を測定することによって、または分光法、例えば、温度上昇時のアンフォールディングに感受性の蛍光、CDまたは光散乱を用いることによって、簡単に決定することができる。結合ドメイン部分が、機能的な立体構造状態でのGPCRの熱安定性の増加によって測定される場合、少なくとも2℃、少なくとも5℃、少なくとも8℃、さらに好ましくは、少なくとも10℃または15℃または20℃、安定性を高めることができることが好ましい。洗剤またはカオトロピックに対する安定性の増加に関連して、典型的には、GPCRを、試験洗剤または試験カオトロピック剤存在下、所定の時間インキュベートし、例えば、リガンドの結合または分光法を用いて、場合により、上述のような高い温度で、安定性を決定する。その他、結合ドメイン部分は、GPCRの機能的な立体構造状態の極端なpHでの安定性を高めることができる。極端なpHに関連して、典型的な試験pHは、例えば、6から8の範囲、5.5から8.5の範囲、5から9の範囲、4.5から9.5の範囲、さらに具体的には、4.5から5.5の範囲(低pH)または8.5から9.5(高pH)で選択されるであろう。「(熱)安定化する」、「(熱)安定化すること」、「の(熱)安定性を高めること」という用語は、本明細書で使用する場合、脂質粒子または脂質層(例えば、脂質の単一層、脂質二重層など)に包まれたGPCR、および洗剤に溶解したGPCRに適用される。
【0073】
従って、本発明のキメラポリペプチドが、結合ドメイン部分に結合すると、機能的な立体構造で安定化されたGPCR部分を含むことが特に想定される。本発明の好ましい実施形態によれば、GPCR部分は、活性な立体構造に選択的な結合ドメインに結合すると、活性な立体構造で安定化される。「活性な立体構造」という用語は、本明細書で使用する場合、リガンドに結合すると、Gタンパク質に依存するシグナル伝達およびGタンパク質に依存しないシグナル伝達(例えば、β−アレスチンシグナル伝達)を含め、細胞内のエフェクター系に対するシグナル形質導入を可能にする受容体の立体構造の範囲を指す。従って、「活性な立体構造」は、アゴニストが結合した活性な立体構造、パーシャルアゴニストが結合した活性な立体構造または細胞内のエフェクタータンパク質の協働的な結合を誘発するバイアスアゴニスト立体構造を含め、ある範囲のリガンド特異的な立体構造を包含する。別の好ましい実施形態において、GPCR部分は、不活性な立体構造に立体構造選択的な結合ドメインに結合すると、不活性な立体構造で安定化される。「不活性な立体構造」という用語は、本明細書で使用する場合、細胞内エフェクター系に対するシグナル形質導入を可能にしないか、または遮断する受容体の立体構造の範囲を指す。従って、「不活性な立体構造」は、細胞内のエフェクタータンパク質の協働的な結合を妨害するインバースアゴニストが結合した不活性な立体構造を含め、ある範囲のリガンド特異的な立体構造を包含する。活性な立体構造または不活性な立体構造を得るために、リガンドの結合部位が重要ではないことが理解されるであろう。従って、オルソステリックリガンドおよびアロステリック調整剤は、等しく、活性な立体構造または不活性な立体構造でGPCRを安定化することができる。従って、本発明の特定の実施形態によれば、GPCR部分を安定化することができる結合ドメイン部分は、オルソステリック部位またはアロステリック部位に結合してもよい。他の特定の実施形態において、GPCR部分を安定化することができる結合ドメイン部分は、アゴニストが結合した活性な立体構造に選択的な結合ドメイン、またはパーシャルアゴニストが結合した活性な立体構造に選択的な結合ドメイン、またはバイアスアゴニストが結合した機能的な立体構造結合ドメインに選択的な結合ドメイン、またはインバースアゴニストが結合した不活性な立体構造に選択的な結合ドメインであってもよい。
【0074】
従って、本発明のキメラポリペプチドは、つなぎ止められた結合ドメインの局所的な高濃度に起因して、融合物のGPCR部分が、特定の機能的な立体構造で安定化されるため、立体構造が拘束されたタンパク質であると理解されるであろう。これをさらに示すために、限定することを目的とするものではないが、活性な立体構造で安定化されたGPCRを含む本発明のキメラポリペプチドは、対応する融合していないGPCRと比較して、またはモック結合部分に融合したGPCRに対応するキメラポリペプチド(コントロール結合部分または不可逆的な結合部分とも呼ばれ、GPCRに指向しないか、および/またはGPCRに特異的に結合しない。)と比較して、アゴニスト(さらに特定的には、全アゴニスト、パーシャルアゴニスト、またはバイアスアゴニスト)に対するアフィニティが増加または向上しているであろう。さらに、活性な立体構造で安定化されたGPCRを含む本発明のキメラポリペプチドは、対応する融合していないGPCRと比較して、またはモック結合部分に融合した対応するGPCRのキメラポリペプチドと比較して、インバースアゴニストに対するアフィニティが低いであろう。対照的に、不活性な立体構造で安定化されたGPCRを含む本発明のキメラポリペプチドは、対応する融合していないGPCRと比較して、またはモック結合部分に融合した対応するGPCRのキメラポリペプチドと比較して、インバースアゴニストに対し、高いアフィニティを有し、および/またはアゴニストに対するアフィニティが低下しているであろう。リガンドに対するアフィニティの増加または低下は、それぞれ、EC
50、IC
50、K
d、K
iまたは当業者が知っている任意のアフィニティまたは効力の指標の低下または増加によって、直接的に測定されてもよく、および/またはこれらから計算されてもよい。好ましくは、リガンドに対する本発明のキメラポリペプチドのアフィニティは、拘束されたGPCRに結合すると、少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも50倍、さらに好ましくは、少なくとも100倍、少なくとも200倍、少なくとも300倍、少なくとも400倍、少なくとも500倍、さらになお好ましくは、少なくとも1000倍、または2000倍、またはこれ以上、増加または低下する。特定のシグナル伝達経路の引き金となり/阻害する、立体構造選択的なリガンドのアフィニティ測定は、天然リガンド、低分子、および生物学的物質を含む任意の種類のリガンドを用いて、オルソステリックリガンドおよびアロステリック調整剤を用いて、単一の化合物および化合物ライブラリーを用いて、リード化合物またはフラグメントなどを用いて行われてもよいことが理解されるであろう。
【0075】
さらに、上述のキメラポリペプチドの一部を生成する異なる部分を互いに融合する様式は、典型的には、GPCRの種類および結合ドメインの特徴(例えば、結合する立体的エピトープ)の両方に依存するであろう。当業者なら知っているように、GPCRは、細胞外のN末端、その後、3個の細胞内ループおよび3個の細胞外ループによって接続する7回膜貫通するαらせん、最後に、細胞内C末端を特徴とする(本明細書をさらに参照)。結合部位(細胞外または細胞内の膜、または膜貫通する膜)に依存して、結合ドメイン部分は、好ましくは、GPCRのN末端またはこのC末端に融合するであろう。好ましくは、細胞内の部位でGPCRに結合する結合ドメインは、GPCRのC末端に融合するであろう。同様に、細胞外の部位でGPCRに結合する結合ドメインは、GPCRのN末端に融合するであろう。結合ドメイン部分は、GPCRのN末端に、このC末端で融合してもよく、または、結合ドメインは、GPCRのC末端に、このN末端で融合してもよい。さらに、融合は、配列の直接的な融合であってもよく、または、例えば、介在するアミノ酸配列またはリンカー配列(本明細書でさらに記載されるような)を用いて間接的に融合してもよい。当業者は、融合構築物をどのように設計するかを知っているであろう。利用可能な場合、GPCRの原子構造を別個に、および/または結合ドメインの構造を別個に、および/または結合ドメインとの複合体でのGPCRの原子結合を利用するであろう。または、GPCRは、インテインが介在するタンパク質スプライシング(MuralidharanおよびMuir 2006)またはソルターゼが介在するペプチド転移(Poppら、2007)または部位特異的なラベリングのための他の化学酵素方法または低分子、または、例えば、ChenおよびTing(2005)およびRabuka(2010)(本明細書に参照により組み込まれる。)によって記載されるような他のタンパク質を用いたタンパク質の遺伝子設計を用い、結合ドメインに接続することができるであろう。
【0076】
本発明のキメラポリペプチドの一部を生成する異なる部分の特定の実施形態を、本明細書で以下に詳細に記載する。
【0077】
GPCR部分
本発明のキメラポリペプチドは、少なくとも2つのポリペプチド成分を含み、この1つがGPCRである。GPCRとして、目的の任意のGPCRを使用してもよい。当業者は、意図した用途(本明細書にさらに記載されるような)に依存して、適切なGPCRを選択することができる。同じ株において、意図した用途に依存して、例えば、真菌(酵母を含む)、線虫、ウイルス、昆虫、植物、鳥(例えば、ニワトリ、シチメンチョウ)、爬虫類、または哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ウサギ、ハムスター、アレチネズミ、イヌ、ネコ、ヤギ、ブタ、ウシ、ウマ、クジラ、サル、ラクダまたはヒト)のような任意の有機体に由来するGPCRを選択してもよい。
【0078】
「Gタンパク質共役受容体」または「GPCR」は、本明細書で使用する場合、当業者によく知られており、それぞれが膜に広がる7個のαらせんを生成する22から24の疎水性アミノ酸を有する7個の領域を含む共通の構造モチーフを共有するポリペプチドを指す。それぞれの広がりは、数によって特定される(即ち、膜貫通−1(TM1)、膜貫通−2(TM2)などのように)。この膜貫通らせんは、膜貫通−2と膜貫通−3、膜貫通−4と膜貫通−5および膜貫通−6と膜貫通−7の間のアミノ酸領域によって、細胞膜の外側で、または「細胞外」の部位で接続し、それぞれ「細胞外」領域1、2および3(EC1、EC2およびEC3)と呼ばれる。この膜貫通らせんは、膜貫通−1と膜貫通−2、膜貫通−3と膜貫通−4および膜貫通−5と膜貫通−6の間のアミノ酸領域によって、細胞膜の内側で、または「細胞内」の部位でも接続し、それぞれ「細胞内」領域1、2および3(IC1、IC2およびIC3)と呼ばれる。受容体の「カルボキシ」(「C」)末端は、細胞中の細胞内空間にあり、受容体の「アミノ」(「N」)末端は、細胞の外側の細胞外空間にある。これらの任意の領域は、GPCRの主なアミノ酸配列の分析によって簡単に特定可能である。
【0079】
GPCRの構造および分類は、一般的に、当該技術分野でよく知られており、GPCRのさらなる記載は、Probstら、1992;Marcheseら、1994;Lagerstrom&Schioth、2008;Rosenbaumら、2009;および以下の書籍:Wiley−Lissによって出版された、Jurgen Wess(編集)Structure−Function Analysis of G Protein−Coupled Receptors(第1版、1999年10月15日);John Wiley & Sonsによって出版された、Kevin R.Lynch(編集)Identification and Expression of G Protein−Coupled Receptors(1998年3月)およびCRC Pressによって出版された、Tatsuya Haga(編集)、G Protein−Coupled Receptors(1999年9月24日);およびAcademic Pressによって出版された、Steve Watson(編集)G−Protein Linked Receptor Factsbook(第1版、1994年)の中に見出されるであろう。GPCRは、配列の同一性および機能の類似性を基準として、幾つかのファミリーにグループ分けすることができ、それぞれ、本発明のキメラポリペプチドの作製および使用に使用することができる。ほとんどのヒトGPCRは、グルタメート、ロドプシン、付着、Frizzled/Taste2およびセクレチンと呼ばれる5種類の主なファミリー中に見出すことができる(Fredrikssonら、2003)。古い分類系のクラスA(Kolakowski、1994)またはクラス1(Foordら、2005)に対応するロドプシンファミリーのメンバーは、小さな細胞外ループのみを有し、膜貫通の分裂部分内の残基とリガンドの相互作用が起こる。これは、最も大きなグループ(GPCRの90%を超える。)であり、臭気物質、低分子、例えば、カテコールアミンおよびアミン、(ニューロ)ペプチドおよび糖タンパク質ホルモンのための受容体を含む。このファミリーの代表例であるロドプシンは、構造が解明された最初のGPCRである(Palczewskiら、2000)。構造が解明された普及可能なリガンドと相互作用する最初の受容体であるβ2AR(Rosenbaumら、2007)もこのファミリーに属する。系統発生的な分析に基づき、クラスBまたはクラス2のGPCR(Foordら、2005)の受容体は、近年、付着およびセクレチンの2つのファミリーに分けられた(Fredrikssonら、2003)。付着およびセクレチンの受容体は、リガンド結合に関与する比較的長いアミノ末端の細胞外ドメインを特徴とする。膜貫通ドメインの配置についてはほとんど知られていないが、おそらく、ロドプシンの配置とかなり異なる。これらのGPCRのためのリガンドは、ホルモン、例えば、グルカゴン、セクレチン、ゴナドトロピンを放出するホルモンおよび副甲状腺ホルモンである。グルタメートファミリー受容体(クラスCまたはクラス3の受容体)も、大きな細胞外ドメインを有し、アゴニストが内側に結合すると開閉し得るため、「ハエトリグサ」のような機能を有する。ファミリーメンバーは、代謝型グルタメート、Ca
2+を検知するもの、γ−アミノ酪酸(GABA)−B受容体である。
【0080】
従って、本発明の特定の実施形態によれば、本発明のキメラポリペプチドは、GPCRグルタメートファミリーのGPCR、GPCRロドプシンファミリーのGPCR、GPCR接着ファミリーのGPCR、GPCRのFrizzled/Taste2ファミリーのGPCRおよびGPCRのセクレチンファミリーのGPCRを含む群から選択されるGPCRを含む。好ましくは、キメラペプチドに含まれるGPCRは、哺乳動物のタンパク質、または植物のタンパク質、または微生物のタンパク質、またはウイルスのタンパク質、または昆虫のタンパク質である。さらになお好ましくは、GPCRは、ヒトタンパク質である。
【0081】
さらに具体的には、GPCRとしては、限定されないが、5−ヒドロキシトリプタミン受容体、アセチルコリン受容体(ムスカリン性)、アデノシン受容体、アドレナリン受容体、アナフィラトキシン受容体、アンギオテンシン受容体、アペリン受容体、胆汁酸受容体、ボンベシン受容体、ブラジキニン受容体、カンナビノイド受容体、ケモカイン受容体、コレシストキニン受容体、ドーパミン受容体、エンドセリン受容体、エストロゲン(Gタンパク質共役型)受容体、ホルミルペプチド受容体、遊離脂肪酸受容体、ガラニン受容体、グレリン受容体、糖タンパク質ホルモン受容体、ゴナドトロピンを放出するホルモン受容体、ヒスタミン受容体、KiSS1から誘導されるペプチド受容体、ロイコトリエン受容体、リゾリン脂質受容体、メラニンを濃縮するホルモン受容体、メラノコルチン受容体、メラトニン受容体、モチリン受容体、ニューロメジンU受容体、ニューロペプチドFF/ニューロペプチドAF受容体、ニューロペプチドS受容体、ニューロペプチドW/ニューロペプチドB受容体、ニューロペプチドY受容体、ニューロテンシン受容体、ニコチン酸受容体ファミリー、オピオイド受容体、オレキシン受容体、P2Y受容体、ペプチドP518受容体、血小板活性化因子受容体、プロキネチシン受容体、プロラクチンを放出するペプチド受容体、プロスタノイド受容体、プロテアーゼを活性化する受容体、リラキシンファミリーペプチド受容体、ソマトスタチン受容体、タキキニン受容体、チロトロピンを放出するホルモン受容体、微量アミン受容体、ウロテンシン受容体、バソプレシンおよびオキシトシン受容体、A型オーファン、非信号伝達型7TMケモカイン結合タンパク質、カルシトニン受容体、コルチコトロピン放出因子受容体、グルカゴン受容体ファミリー、副甲状腺ホルモン受容体、VIPおよびPACAP受容体、B型オーファン、カルシウム感知受容体、GABA B受容体、GPRC5受容体、代謝型グルタメート受容体、C型オーファン、Frizzled受容体、ロドプシンおよび他のGタンパク質共役型7回膜貫通セグメント受容体が挙げられる。GPCRは、ホモマーまたはヘテロマーのダイマーまたはもっと高次のオリゴマーとしての互いに会合するこれらのGPCR受容体も含む。GPCRのアミノ酸配列(およびこれをコードするcDNAのヌクレオチド配列)は、例えば、GenBank(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/entrez)を参照し、容易に入手可能である。ヒト遺伝子に対するHGNC標準化された命名法、異なる有機体からの異なるイソ型の寄託番号は、Uniprot(www.uniprot.org)から入手可能である。さらに、GPCRに対する受容体命名法、薬理学、機能および病態生理学に関する情報の包括的な総説は、IUPHARデータベース(http://www.iuphar−db.org/)から検索することができる。
【0082】
好ましい実施形態によれば、本発明のキメラポリペプチドの一部を生成するGPCRは、アドレナリン作動性受容体、好ましくは、αアドレナリン作動性受容体、例えば、α1アドレナリン作動性受容体およびα2アドレナリン作動性受容体およびβアドレナリン作動性受容体、例えば、β1アドレナリン作動性受容体、β2アドレナリン作動性受容体およびβ3アドレナリン作動性受容体を含む群から選択されるか、またはムスカリン性受容体、好ましくは、M1ムスカリン性受容体、M2ムスカリン性受容体、M3ムスカリン性受容体、M4ムスカリン性受容体およびM5ムスカリン性受容体を含む群から選択されるか、またはオピオイド受容体ファミリー、好ましくは、μオピオイド受容体(ミューまたはMOPまたはMor1)、δオピオイド受容体(デルタまたはDOP)、κオピオイド受容体(カッパまたはKOP)、NOPオピオイド受容体を含む群から選択され、すべて当該技術分野でよく知られている。
【0083】
この目的および用途に依存して、融合タンパク質に含まれるGPCRは、天然に生じる受容体または天然に生じない(即ち、ヒトによって変更された)受容体であってもよいことが理解されるであろう。「天然に生じる」という用語は、GPCRを参照するとき、天然で産生されるGPCRを意味する。特に、GPCRの野生型多形改変体およびイソ型、および異なる種にわたるオルソログは、天然に生じるタンパク質の例であり、例えば、限定されないが、哺乳動物、さらに具体的には、特に、ヒト、またはウイルス、または植物、または昆虫の中で発見される。このようなGPCRは、天然に見出される。これに加え、この用語は、野生型多形改変体、変異体を含むβ
2アドレナリン作動性受容体の特定の種を含む特定の他の改変体を包含することを意図している。例えば、「ヒトβ
2アドレナリン作動性受容体」は、天然に生じるGenbank寄託番号NP_000015の「ヒトβ
2アドレナリン受容体」と少なくとも95%同一(例えば、少なくとも95%同一または少なくとも98%同一)のアミノ酸配列を有する。またはさらに、「ヒトムスカリン性アセチルコリン受容体M2」は、天然に生じるGenbank寄託番号AAA51570.1の「ヒトムスカリン性アセチルコリン受容体M2」と少なくとも95%同一(例えば、少なくとも95%同一または少なくとも98%同一)のアミノ酸配列を有する。またはさらに、「ヒトミューオピオイド受容体」は、天然に生じるGenbank寄託番号NP_000905の「ヒトミューオピオイド受容体」と少なくとも95%同一(例えば、少なくとも95%同一または少なくとも98%同一)のアミノ酸配列を有する。「天然に生じない」という用語は、GPCRを参照するとき、天然に生じないGPCRを意味する。変異した野生型GPCRおよび天然に生じるGPCRの改変体は、天然に生じないGPCRの例である。天然に生じないGPCRは、天然に生じるGPCRと少なくとも80%同一、少なくとも90%同一、少なくとも95%同一、または少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有していてもよい。特定の状況において、キメラポリペプチドに含まれるGPCRが、天然に生じないタンパク質であることが有利な場合がある。例えば、単なる説明のために、特定の立体構造で安定化されたGPCRを含むキメラポリペプチドの結晶を得る可能性を高めるために、立体構造(例えば、アゴニストに対する高いアフィニティを有する活性な立体構造)に影響を与えないか、または最低限の影響のみを与えつつ、いくらかのタンパク質の遺伝子操作を行うことが望ましい場合がある。または、これに代えて、またはこれに加え、GPCRの細胞発現レベルを高めるため、または、この安定性を高めるために、目的のGPCRに特定の突然変異を導入することを考えてもよい。天然に生じないGPCRの非限定例としては、限定されないが、突然変異によって恒常的に活性になったGPCR、ループを欠失しているGPCR、N末端および/またはC末端を欠失しているGPCR、置換、挿入または付加を有するGPCR、またはこのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列に関して、これらの任意の組み合わせ、または天然に生じるGPCRの他の改変体が挙げられる。キメラGPCRまたはハイブリッドGPCRを含む標的GPCR、例えば、あるGPCRからのN末端および/またはC末端と第2のGPCRのループとを含むキメラGPCR、またはある部分に融合したGPCRを含むもの(例えば、GPCR結晶化における有用性としてのT4リゾチーム、フラボドキシン、キシラナーゼ、ルブレドキシンまたはシトクロムb)も、本発明の範囲に含まれる(Chunら、2012および特許明細書WO2012/158555、WO2012/030735、WO2012/148586にも記載されている。)。
【0084】
本発明の範囲内の特定の実施形態によれば、キメラポリペプチドに含まれるような天然に生じないGPCRは、天然に生じるGPCRと少なくとも80%同一、少なくとも90%同一、少なくとも95%同一、少なくとも97%同一、または少なくとも99%同一のアミノ酸配列を有していてもよい。さらに、本発明は、ループが欠失したGPCR、またはN末端および/またはC末端を欠失したGPCR、またはこのアミノ酸配列またはヌクレオチド配列に関し、置換、または挿入または付加されたもの、またはこれらの任意の組み合わせ(本明細書で上記で定義され、実施例の章も参照)も想定することが理解されるであろう。
【0085】
結合ドメイン部分
本発明のキメラポリペプチドは、少なくとも2つのポリペプチド成分を含み、この1つがGPCRであり(本明細書で上記で定義されるような)、他方が、GPCRに指向し、および/またはGPCRに特異的に結合する結合ドメインである。
【0086】
「結合ドメイン」という用語は、本明細書で使用する場合、GPCRの特定の分子間相互作用を用いて結合することができるタンパク質系(タンパク質、タンパク質様またはタンパク質を含有する。)分子の全体または一部を意味する。特定の実施形態によれば、「結合ドメイン」という用語は、GPCRの天然に生じる結合パートナー、例えば、Gタンパク質、アレスチン、内因性リガンド;またはこの改変体または誘導体(フラグメントを含む)を含まない。さらに具体的には、「結合ドメイン」という用語は、ポリペプチドを指し、さらに特定的には、タンパク質ドメインを指す。タンパク質の結合ドメインは、自己安定化し、タンパク質鎖の残りの部分と独立して折り畳まれることが多い、全タンパク質構造の一要素である。結合ドメインは、約25アミノ酸から500アミノ酸以上の長さで変動する。多くの結合ドメインは、折り畳み部分に分類することができ、認識可能で特定可能な三次元構造である。幾つかの折り畳み部分は、所与の特別な名称を有する多くの異なるタンパク質に共通である。
【0087】
非限定例は、特に、3ヘリックスバンドルまたは4ヘリックスバンドル、アルマジロリピートドメイン、ロイシンリッチリピートドメイン、PDZドメイン、SUMOドメインまたはSUMO様ドメイン、カドヘリンドメイン、免疫グロブリン様ドメイン、ホスホチロシン結合ドメイン、プレクストリン相同ドメイン、src相同2ドメインから選択される結合ドメインである。従って、結合ドメインは、天然に生じる分子、例えば、自然免疫系または獲得免疫系の要素から誘導されてもよく、または完全に人工的に設計されてもよい。
【0088】
一般的に、結合ドメインは、免疫グロブリン由来であってもよく、または、限定されないが、微生物タンパク質、プロテアーゼ阻害剤、毒素、フィブロネクチン、リポカリン、一本鎖逆平行コイルドコイルタンパク質またはリピートモチーフタンパク質を含む、タンパク質に存在するドメイン由来であってもよい。当該技術分野で知られている結合ドメインの特定の例としては、限定されないが、抗体、重鎖抗体(hcAb)、一本鎖ドメイン抗体(sdAb)、ミニボディ、ラクダ重鎖抗体から誘導される可変ドメイン(VHHまたはナノボディ)、サメ抗体から誘導される新しい抗原受容体の可変ドメイン(VNAR)、アルファボディ、タンパク質A、タンパク質G、設計されたアンキリンリピートドメイン(DARPins)、フィブロネクチンIII型リピート、アンチカリン、ノッチン、操作されたCH2ドメイン(ナノ抗体)、操作されたSH3ドメイン、アフィボディ、ペプチドおよびタンパク質、リポペプチド(例えば、ペプデュシン)(例えば、Gebauer&Skerra、2009;Skerra、2000;Starovasnikら、1997;Binzら、2004;Koideら、1998;Dimitrov、2009;Nygrenら、2008;WO2010066740を参照)。頻繁に、選択方法を用いて特定の種類の結合ドメインを作製する場合、ランダム化された潜在的な相互作用の残基を含むコンセンサス配列またはフレームワーク配列を含むコンビナトリアルライブラリーを使用し、目的の分子(例えば、タンパク質)への結合についてスクリーニングすることができる。
【0089】
好ましい実施形態によれば、本発明のキメラポリペプチドの一部を生成する結合ドメインが、自然免疫系または獲得免疫系から誘導されてもよいことが特に想定される。好ましくは、前記結合ドメインは、免疫グロブリンから誘導される。好ましくは、本発明の結合ドメインは、抗体または抗体フラグメントから誘導される。「抗体」(Ab)という用語は、一般的に、抗原に特異的に結合し、抗原を認識する免疫グロブリン遺伝子、またはこの機能性フラグメントによってコードされるポリペプチドを指し、当業者に知られている。抗体は、2つの同一のポリペプチド鎖の対を含み、それぞれの対が、1つの「軽」鎖(約25kDa)および1つの「重」鎖(約50kDa)を有する、従来の4鎖型免疫グロブリンを含むことを意味する。典型的には、従来の免疫グロブリンにおいて、重鎖可変ドメイン(VH)と軽鎖可変ドメイン(VL)が相互作用し、抗原結合部位を生成する。「抗体」という用語は、一本鎖全抗体および抗原結合フラグメントを含め、全抗体を含むことを意味している。ある実施形態において、抗原結合フラグメントは、抗原結合抗体フラグメントであってもよく、限定されないが、Fab、Fab’およびF(ab’)2、Fd、一本鎖Fvs(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィドが接続したFvs(dsFv)、およびVLドメインまたはVHドメインのいずれかを含むか、またはいずれかからなるフラグメント、およびこれらの任意の組み合わせ、または標的抗原に結合することができる免疫グロブリンペプチドの任意の他の機能性部分が挙げられる。「抗体」という用語は、本明細書でさらに定義されるように、免疫グロブリン一本鎖可変ドメインを含め、重鎖のみの抗体、またはこのフラグメントも含むことも意味している。
【0090】
「免疫グロブリン一本鎖可変ドメイン」という用語は、抗原結合部位が、一本鎖免疫グロブリンドメイン上に存在するか、一本鎖免疫グロブリンドメインによって作られる分子を定義している(従来の免疫グロブリンまたはこのフラグメントとは異なり、典型的には、2つの免疫グロブリン改変ドメインが相互作用し、抗原結合部位を生成する。)。しかし、「免疫グロブリン一本鎖可変ドメイン」という用語は、従来の免疫グロブリンのフラグメントを含み、抗原結合部位が一本鎖可変ドメインによって作られることは明確でなければならない。好ましくは、本発明の範囲内にある結合ドメイン部分は、免疫グロブリン一本鎖可変ドメインである。
【0091】
一般的に、免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、4つのフレームワーク領域(FR1からFR4)および3つの相補性決定領域(CDR1からCDR3)を含み、好ましくは、以下の式(1):FR1−CDR1−FR2−CDR2−FR3−CDR3−FR4(1)に従うアミノ酸配列、またはこの任意の適切なフラグメント(通常は、少なくとも1つの相補性決定領域を生成するアミノ酸残基の少なくとも一部を含むであろう。)であろう。4つのFRと3つのCDRを含む免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、当業者に知られており、非限定例として、Wesolowskiら、2009に記載されている。典型的には、非限定的であるが、免疫グロブリン一本鎖可変ドメインの例は、1つの抗原結合単位を作製することができる限り、軽鎖可変ドメイン配列(例えば、VLドメイン配列)またはこの適切なフラグメント、または重鎖可変ドメイン配列(例えば、VHドメイン配列またはVHHドメイン配列)またはこの適切なフラグメントを含む。従って、好ましい実施形態によれば、結合ドメイン部分は、軽鎖可変ドメイン配列(例えば、VLドメイン配列)または重鎖可変ドメイン配列(例えば、VHドメイン配列)である免疫グロブリン一本鎖可変ドメインであり、さらに具体的には、免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、従来の4鎖型抗体から誘導される重鎖可変ドメイン配列、または重鎖抗体から誘導される重鎖可変ドメイン配列である。免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、ドメイン抗体、または一本鎖ドメイン抗体、または「dAB」またはdAb、またはナノボディ(本明細書で定義されるような)、または別の免疫グロブリン一本鎖可変ドメイン、またはいずれかの任意の適切なフラグメントであってもよい。一本鎖ドメイン抗体の一般的な記載のために、以下の本が参照される。「Single domain antibody」、Methods in Molecular Biology、SaerensおよびMuyldermans編集、2012、Vol 911。免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、一般的に、4つの「フレームワーク配列」、つまりFRおよび3つの「相補性決定領域」、つまりCDR(本明細書で上記で定義されるような)を含むと考えることができる1つのアミノ酸鎖を含む。免疫グロブリン一本鎖可変ドメインのフレームワーク領域は、この抗原の結合にも寄与し得ることが明確になるはずである(Desmyterら、2002;Korotkovら、2009)。CDR配列(従って、FR配列も)の表示は、VドメインおよびV様ドメインのためのIMGTの固有の番号付けに基づいてもよい(Lefrancら、2003)。または、FR配列およびCDR配列の表示は、Riechmann and Muyldermans(2000)の文献のラクダ由来のVHHドメインに適用されるKabat番号付けに基づいて行うことができる。
【0092】
結合ドメイン部分としての免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、この最も広い意味で、特定の生体源または特定の調製方法に限定されないことを注記しておくべきである。「免疫グロブリン一本鎖可変ドメイン」という用語は、マウス、ラット、ウサギ、ロバ、ヒト、サメ、ラクダの可変ドメインを含め、異なる起源の可変ドメインを包含する。特定の実施形態によれば、免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、サメ抗体から誘導され(いわゆる免疫グロブリンの新しい抗原受容体またはIgNARs)、もっと特定的には、天然に生じる重鎖サメ抗体から誘導され、軽鎖がなく、VNARドメイン配列として知られている。好ましくは、免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、ラクダ抗体から誘導される。さらに好ましくは、免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、天然に生じるラクダの重鎖のみの抗体から誘導され、軽鎖がなく、VHHドメイン配列またはナノボディとして知られている。
【0093】
特に好ましい実施形態によれば、本発明のキメラポリペプチドに含まれる結合ドメイン部分は、ナノボディである免疫グロブリン一本鎖可変ドメインである(本明細書でさらに定義され、限定されないが、VHHを含む。)。「ナノボディ」(Nb)という用語は、本明細書で使用する場合、一本鎖ドメイン抗原結合フラグメントである。特に、天然に生じる重鎖のみの抗体から誘導される一本鎖可変ドメインを指し、当業者には知られている。ナノボディは、通常は、ラクダ中にみられる重鎖のみの抗体(軽鎖を含まない。)から誘導され(Hamers−Castermanら、1993;Desmyterら、1996)、この結果、VHH抗体またはVHH配列と呼ばれることが多い。ラクダは、旧大陸のラクダ(Camelus bactrianusおよびCamelus dromedarius)および新大陸のラクダ(例えば、Lama paccos、Lama glama、Lama guanicoeおよびLama vicugna)を含む。Nanobody(R)およびNanobodies(R)は、Ablynx NV(ベルギー)の登録商標である。VHHまたはナノボディのさらなる記載のために、「Single domain antibody」、Methods in Molecular Biology、SaerensおよびMuyldermans編集、2012、Vol 911、特に、Chapter by VinckeおよびMuyldermans(2012)、および一般的な背景として述べられている以下の特許明細書の非限定的なリストを参照する。Vrije Universiteit BrusselのWO94/04678、WO95/04079、WO96/34103;UnileverのWO94/25591、WO99/37681、WO00/40968、WO00/43507、WO00/65057、WO01/40310、WO01/44301、EP 1 134 231およびWO02/48193;Vlaams Instituut voor Biotechnologie(VIB)のWO97/49805、WO01/21817、WO03/035694、WO03/054016およびWO03/055527;Ablynx N.V.によるWO04/041867、WO04/041862、WO04/041865、WO04/041863、WO04/062551、WO05/044858、WO06/40153、WO06/079372、WO06/122786、WO06/122787およびWO06/122825およびAblynx N.V.によるさらなる公開された特許明細書。当業者に知られているように、ナノボディは、例えば、本明細書に参照により組み込まれるWO08/020079の75ページ、表A−3に記載されるように、特に、1つ以上のフレームワーク配列に1つ以上のラクダ科の「ホールマーク残基」の存在を特徴とする(Kabat番号付けによる。)。本発明のナノボディは、この最も広い意味で、特定の生体源または特定の調製方法に限定されないことを注記すべきである。例えば、ナノボディは、一般的に、(1)天然に生じる重鎖のみの抗体のVHHドメインを単離することによって、(2)天然に生じるVHHドメインをコードするヌクレオチド配列の発現によって、(3)天然に生じるVHHドメインの「ヒト化」によって、またはこのようなヒト化されたVHHドメインをコードする核酸の発現によって;(4)任意の動物種に由来し、特に、哺乳動物種、例えば、ヒトに由来する天然に生じるVHドメインの「ラクダ化」によって、またはこのようなラクダ化されたVHドメインをコードする核酸の発現によって、(5)当該技術分野で記載されるような「ドメイン抗体」または「Dab」の「ラクダ化」によって、または、このようなラクダ化されたVHドメインをコードする核酸の発現によって、(6)これ自体が知られているタンパク質、ポリペプチドまたは他のアミノ酸配列を調製するための合成技術または半合成技術を用いることによって、(7)これ自体が知られている核酸合成のための技術を用い、ナノボディをコードする核酸を調製し、その後、このようにして得られた核酸の発現によって、および/または(8)上の1つ以上の任意の組み合わせによって得られてもよい。ナノボディのヒト化および/またはラクダ化を含む、ナノボディのさらなる記載は、例えば、WO08/101985およびWO08/142164に見出され、本明細書にさらに記載されるとおりである。天然標的の立体的エピトープと相互作用し、固有の主要ではない立体構造(基本立体構造とは異なる。)で標的を安定化させる特定の種類のナノボディは、Xaperoneと呼ばれ、特に、ここで想定される。Xaperoneは、構造生物学において固有のツールである。Xaperone(商標)は、VIBおよびVUB(ベルギー)の商標である。柔軟な領域を固定し、攻撃的な表面を隠すことによって、Xaperone(商標)複合体は、X線結晶学によるタンパク質構造の決定の鍵となる立体構造的に均一なサンプルを保証する。結晶化の補助としてのラクダ抗体フラグメントの使用の主な利点は、Xaperoneが、(1)潜在性エピトープに結合し、固有の天然の立体構造にタンパク質を固定し、(2)可溶性タンパク質および可溶化した膜タンパク質の安定性を高め、(3)可溶性タンパク質および可溶化した膜タンパク質の立体構造の複雑さを低減し、(4)回折結晶の成長を可能にする極性表面を増やし、(5)攻撃的な表面または重合表面を隔離し、(6)アフィニティによる捕捉活性を有するタンパク質を可能にする。
【0094】
本発明の範囲内で、「免疫グロブリン一本鎖可変ドメイン」という用語は、「ヒト化」または「ラクダ化」された可変ドメイン、特に、「ヒト化」または「ラクダ化」されたナノボディも包含する。例えば、「ヒト化」および「ラクダ化」は、両方とも、天然に生じるV
HHドメインまたはVHドメインをそれぞれコードするヌクレオチド配列を与え、次いで、これ自体既知の様式で、新しいヌクレオチド配列が、それぞれ本発明の「ヒト化」または「ラクダ化」された免疫グロブリン一本鎖可変ドメインをコードするような様式で前記ヌクレオチド配列の1つ以上のコドンを変化させることによって行うことができる。次いで、この核酸を、本発明の免疫グロブリン一本鎖可変ドメインを与えるような、これ自体既知の様式で発現させることができる。または、天然に生じるV
HHドメインまたはVHドメインのアミノ酸配列にそれぞれ基づいて、望ましいヒト化またはラクダ化された本発明の望ましい免疫グロブリン一本鎖可変ドメインのアミノ酸配列をそれぞれ設計し、次いで、これ自体既知のペプチド合成技術を用い、de novoで合成してもよい。また、天然に生じるV
HHドメインまたはVHドメインのアミノ酸配列にそれぞれ基づいて、ヒト化またはラクダ化された本発明の免疫グロブリン一本鎖可変ドメインをコードするヌクレオチド配列を設計し、次いで、これ自体既知の核酸合成技術を用い、de novoで合成してもよく、その後、このようにして得られた核酸を、本発明の望ましい免疫グロブリン一本鎖可変ドメインを得るように、これ自体既知の様式で発現させてもよい。天然に生じるVH配列、好ましくは、VHH配列から出発し、本発明の免疫グロブリン一本鎖可変ドメインおよび/またはこれをコードする核酸を得るための他の適切な方法および技術は、当業者には明らかであり、例えば、本発明のナノボディまたはこれをコードするヌクレオチド配列または核酸を提供するように、適切な様式で、1つ以上の天然に生じるVH配列の1つ以上の部分(例えば、1つ以上のFR配列および/またはCDR配列)、1つ以上の天然に生じるVHH配列の1つ以上の部分(例えば、1つ以上のFR配列またはCDR配列)、および/または1つ以上の合成または半合成の配列を合わせることを含んでいてもよい。
【0095】
さらに、本発明の範囲に含まれるのは、本明細書に定義されるような免疫グロブリン一本鎖可変ドメイン、特にナノボディの天然または合成の類似体、変異体、改変体、対立遺伝子、部分またはフラグメント(本明細書では、まとめて「改変体」と呼ぶ)、特に、配列番号13から20(表1から2を参照)の免疫グロブリン一本鎖可変ドメインの改変体である。従って、本発明の一実施形態によれば、「本発明の免疫グロブリン一本鎖可変ドメイン」または「本発明のナノボディ」という用語は、最も広い意味で、このような改変体も包含する。一般的に、このような改変体において、本明細書に定義されるような本発明の免疫グロブリン一本鎖可変ドメインと比較して、1つ以上のアミノ酸残基が置き換わり、欠失し、および/または付加されていてもよい。配列番号13から20の免疫グロブリン一本鎖可変ドメインの1つ以上のFRおよび/または1つ以上のCDR、特にFRおよびCDRの改変体(表1から2を参照)において、このような置換、挿入または欠失がなされてもよい。改変体は、本明細書で使用する場合、それぞれまたは任意のフレームワーク領域およびそれぞれまたは任意の相補性決定領域が、アルゴリズム、例えば、PILEUPおよびBLASTを利用することによって電子的に測定することができるように、参照配列の対応する領域と少なくとも80%の同一性、好ましくは、少なくとも85%の同一性、さらに好ましくは、90%の同一性、さらになお好ましくは、95%の同一性、またはさらになお好ましくは、99%の同一性を有する配列である(即ち、FR1_改変体 対 FR1_参照、CDR1_改変体 対 CDR1_参照、FR2_改変体 対 FR2_参照、CDR2_改変体 対 CDR2_参照、FR3_改変体 対 FR3_参照、CDR3_改変体 対 CDR3_参照、FR4_改変体 対 FR4_参照)。BLAST分析を行うためのソフトウエアは、National Center for Biotechnology Informationから公に入手可能である(http://www/ncbi.nlm.nih.gov/)。免疫グロブリン一本鎖可変ドメインの1つ以上の配列のCDRのアミノ酸配列のアミノ酸同一性の程度を決定するために、フレームワーク領域を生成するアミノ酸残基を無視することが理解されるであろう。同様に、本発明の免疫グロブリン一本鎖可変ドメインの1つ以上の配列のFRのアミノ酸配列のアミノ酸同一性の程度を決定するために、相補性領域を生成するアミノ酸残基を無視することが理解されるであろう。免疫グロブリン一本鎖可変ドメインのこのような改変体は、改良された効力/アフィニティを有する場合があるため、特に有利であり得る。
【0096】
非限定例として、置換は、例えば、保存的置換(本明細書に記載されるような)であってもよく、および/またはアミノ酸残基は、別のVHHドメインの同じ位置に天然に生じる別のアミノ酸残基と置き換わってもよい。従って、免疫グロブリン一本鎖可変ドメインの望ましい特性、または望ましい特性のバランスまたは組み合わせを悪化させない(即ち、免疫グロブリン一本鎖可変ドメインが、この意図した用途にもはや適していない程度まで)任意の1つ以上の置換、欠失または挿入、またはこれらの任意の組み合わせは、本発明の範囲に含まれる。当業者は、一般的に、本明細書の開示に基づき、適切な置換、欠失または挿入、またはこの適切な組み合わせを、場合により、制限される程度の通常の実験の後、決定し、選択することができ、例えば、多くの可能な置換を導入し、このようにして得られた免疫グロブリン一本鎖可変ドメインの特性に対する影響を決定することを含んでいてもよい。
【0097】
さらに、本発明の範囲に包含されるのは、「多価」形態であり、2つ以上の一価免疫グロブリン一本鎖可変ドメインの結合、化学によって作られるか、または組み換えDNA技術によって作られる、免疫グロブリン一本鎖可変ドメインである。多価構築物の非限定例としては、「二価」構築物、「三価」構築物、「四価」構築物などが挙げられる。多価構築物の中に含まれる免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、同一であってもよく、または異なっていてもよい。別の特定の実施形態において、本発明の免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、「多価」形態であり、2つ以上の免疫グロブリン一本鎖可変ドメインを結合することによって作られ、このうち少なくとも1つが異なる特異性を有する。多重特異性構築物の非限定例としては、「二重特異性」構築物、「三重特異性」構築物、「四重特異性」構築物などが挙げられる。これをさらに示すために、任意の多価または多重特異性(本明細書で定義されるような)の本発明の免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、同じ抗原上の2種類以上の異なるエピトープ、例えば、GPCRの2種類以上の異なるエピトープに適切に指向してもよく、または2種類以上の異なる抗原、例えば、GPCRのエピトープおよびGPCRの天然結合パートナー(例えば、Gタンパク質、β−アレスチン)のエピトープに指向してもよい。特に、本発明の一価免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、500nM未満、好ましくは、200nM未満、さらに好ましくは、10nM未満、例えば、500pM未満のアフィニティで標的GPCRに結合するようなものである。多価または多重特異性の本発明の免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、望ましいGPCRについての結合活性の増加および/または選択性の増加、および/またはこのような多価または多重特異性の免疫グロブリン一本鎖可変ドメインの使用によって得られてもよい任意の他の望ましい特性または望ましい特性の組み合わせを有してもよい(または、このために遺伝子操作されてもよく、および/または選択されてもよい。)。特定の実施形態において、このような多価または多重特異性の本発明の結合ドメインは、GPCRのシグナル伝達活性(本明細書をさらに参照)の調整における有効性の向上も有していてもよい(または、このために遺伝子操作されてもよく、および/または選択されてもよい。)。
【0098】
さらに、本発明のキメラポリペプチドを発現するために使用される宿主有機体に依存して、当業者の能力の範囲内であるが、結合ドメイン部分中の欠失および/または置換を、例えば、後翻訳修飾のための1つ以上の部位(例えば、1つ以上のグリコシル化部位)が除去されるような様式で設計してもよい。または、置換または挿入を、官能基の接続(本明細書にさらに記載されるような)のための1つ以上の部位を導入するように設計してもよい。
【0099】
本発明に適切な結合ドメイン部分のスクリーニングおよび選択
好ましい種類の結合ドメイン、特に、本発明のキメラポリペプチドの一部を生成する免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、GPCRの機能的な立体構造状態に指向するか、および/またはこれに特異的に結合する(本明細書で上記で記載されるように)。立体構造選択的な結合ドメイン、特に、免疫グロブリン一本鎖可変ドメインは、幾つかの様式で特定することができ、VHHのための非限定的な様式で、本明細書に以下に示す。好ましくは、立体構造選択的な結合ドメインは、機能的な立体構造状態の(場合により、受容体リガンドに結合した)GPCRを用いてラクダを免疫化する工程の後、GPCR(例えば、活性な立体構造状態のGPCRに指向する抗体を高めるようなアゴニストが結合したGPCR)に固有の立体的エピトープを動物の免疫系にさらすために選択されてもよい。場合により、特定のリガンドを、化学的架橋によって目的のGPCRにカップリングしてもよい。従って、本明細書でさらに記載されるように、このようなVHH配列は、好ましくは、ラクダ種をGPCR、好ましくは、機能的な立体構造状態のGPCRで適切に免疫化する(即ち、免疫応答を上げるか、および/または前記GPCRに指向する重鎖のみの抗体を高めるように)ことによって、前記ラクダ由来の適切な生体サンプル(例えば、血液サンプルまたは任意のB細胞のサンプル)を得ることによって、前記サンプルから出発して、前記GPCRに指向するVHH配列を得ることによって、作られるか、または得ることができる。このような技術は、当業者には明確であろう。望ましいVHH配列を得るためのさらに別の技術は、重鎖のみの抗体を発現する(即ち、免疫応答を上げるか、および/または機能的な立体構造状態のGPCRに指向する重鎖のみの抗体を高める。)ことができるトラスジェニック哺乳動物を適切に免疫化し、前記トランスジェニック哺乳動物からの適切な生体サンプル(例えば、血液サンプル、または任意のB細胞のサンプル)を得て、次いで、これ自体既知の任意の適切な技術を用い、前記サンプルから出発し、前記GPCRに指向するVHH配列を作製することを含む。例えば、この目的のために、WO02085945およびWO04049794に記載される重鎖抗体を発現するマウスおよびさらなる方法および技術を使用することができる。
【0100】
GPCRで動物を免疫化するために、宿主細胞においてGPCRの組み換え形態を発現し、アフィニティクロマトグラフィーおよび/または抗体に基づく方法を用いてGPCRを精製することを使用してもよい従来の方法を用い、GPCRを産生し、精製してもよい。具体的な実施形態において、バキュロウイルス/Sf−9系を発現のために使用してもよいが、他の発現系(例えば、細菌、酵母または哺乳動物細胞系)を使用してもよい。GCPRを発現し、精製するための例示的な方法は、例えば、Kobilka(1995)、Erogluら(2002)、Chelikaniら(2006)および多くの他の参考文献の中で、特に、「Identification and Expression of G Protein−Coupled Receptors」(Kevin R. Lynch(Ed.)、1998)という書籍に記載される。GPCRは、リン脂質小胞内で再構築されてもよい。同様に、リン脂質小胞内で活性なGPCRを再構築するための方法が知られており、特に、Lucaら(2003)、Mansoorら(2006)、Niuら.(2005)、Shimadaら.(2002)およびErogluら(2003)に記載される。特定の場合に、GPCRおよびリン脂質は、高リン脂質密度で再構築されてもよい(例えば、リン脂質1mgあたり、1mgの受容体)。具体的な実施形態において、リン脂質小胞を試験し、GPCRが活性であることを確認してもよい。多くの場合に、GPCRは、両方の配置(通常の配置および細胞内ループが小胞の外側にある「内側が外側になった」配置)で、リン脂質小胞内に存在していてもよい。GPCRを用いた他の免疫化方法としては、限定されないが、特に、GPCRを発現する完全細胞またはこのフラクションの使用、GPCRをコードする核酸配列を用いたワクチン化(例えば、DNAワクチン化)、GPCRを発現するウイルスまたはウイルス様粒子を用いた免疫化が挙げられる(例えば、WO2010070145、WO2011083141に記載されるような)。
【0101】
任意の適切な動物、特に、哺乳動物、例えば、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、ヒツジ、ウシ、サメ、ブタ、または鳥類、例えば、ニワトリまたはシチメンチョウを、免疫応答を生成するのに適切な当該技術分野でよく知られている任意の技術を用いて免疫化してもよい。
【0102】
非限定的な例として、前記GPCRの機能的な立体構造状態の立体的エピトープに特異的に結合するナノボディの選択は、例えば、この表面で重鎖のみの抗体を発現する細胞(例えば、適切に免疫化されたラクダから得られるB細胞)のセット、集合またはライブラリー、またはこの表面にgenIIIおよびナノボディの融合物を表出させるバクテリオファージ、または接合因子タンパク質Aga2pの融合物を表出させる酵母細胞のスクリーニングによって、VHH配列またはナノボディ配列の(天然または免疫)ライブラリーのスクリーニングによって、または、VHH配列またはナノボディ配列をコードする核酸配列の(天然または免疫)ライブラリーのスクリーニングによって行われてもよく、すべて、これ自体が既知の様式で行われてもよく、方法は、場合により、1つ以上の他の適切な工程、例えば、限定されないが、アフィニティ成熟の工程、望ましいアミノ酸配列を発現する工程、望ましい抗原(この場合には、GPCR)への結合および/または望ましい抗原に対する活性のためのスクリーニング工程、望ましいアミノ酸配列またはヌクレオチド配列を決定する工程、1以上のヒト化置換を導入する工程、適切な多価および/または多重特異性フォーマットをフォーマットする工程、望ましい生物学的特性および/または生理学的特性をスクリーニングする工程(即ち、当該技術分野で既知の適切なアッセイを用いる。)、および/または1つ以上のこのような工程の任意の適切な順序での組み合わせをさらに含んでいてもよい。
【0103】
種々の方法、例えば、Sambrookら.(2001)、Molecular Cloning、A Laboratory Manual.Third Edition.Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYに記載され、実施例の章にさらに示されるように、例えば、当該技術分野で一般的な実施である酵素免疫吸着測定法(ELISA)、フローサイトメトリー、放射性リガンド結合アッセイ、表面プラズモン共鳴アッセイ、ファージディスプレイなどを使用し、結合ドメインと標的GPCRとの特異的な結合(本明細書で上記で定義されるような)を決定してもよい。この目的のために、本明細書にさらに記載されるように、固有のラベルまたはタグ(例えば、ペプチドラベル、核酸ラベル、化学ラベル、蛍光ラベル、または放射性同位体ラベル)を使用することが多いことが理解されるであろう。
【0104】
立体構造選択的な結合剤を選択する特に好ましい様式は、例えば、WO2012/007593に記載されるとおりである。代替的な好ましい実施形態において、立体構造選択的な結合剤の選択は、例えば、Kruseら.(2013)に記載されるように、両方ではないが、細胞ソーティングを行い、表面に細胞外結合剤がつなぎ止められた細胞、活性な立体構造のGPCRまたは不活性な立体構造のGPCRのいずれかに特異的に結合する細胞のライブラリーを含む細胞集合から選択することによって行うこともできる。限定する目的ではなく、立体構造選択的な結合剤の選択も、実施例の章でさらに説明する。
【0105】
結合ドメインが、一般的に、本発明のキメラポリペプチドに含まれるような特定のGPCRの天然に生じる類似体または合成類似体、改変体、変異体、対立遺伝子、部分、フラグメントおよびイソ型に、または、本発明のドメインが特定のGPCRに結合するときの抗原性の決定因子またはエピトープと本質的に同じ1つ以上の抗原性の決定因子またはエピトープを含む特定のGPCRのこれらの類似体、改変体、変異体、対立遺伝子、部分、フラグメントおよびイソ型に少なくとも結合することができることも予想される。
【0106】
リンカー部分
本発明の文脈で、結合ドメイン部分およびGPCR部分(または本明細書でさらに記載されるように、最終的にはさらに他の部分に)は、互いに直接的または間接的に融合してもよく、これによって、間接的なカップリングは、通常は、介在するアミノ酸配列またはリンカー部分の使用を介して起こる。好ましい「リンカー分子」または「リンカー」は、1から200アミノ酸長のペプチドであり、典型的には、必須ではないが、組織化されておらず、柔軟性を有するように選択されるか、または設計される。例えば、特定の二次構造を生成しないアミノ酸を選択することができる。または、アミノ酸は、安定な三次構造を生成しないように選択することができる。または、アミノ酸リンカーは、ランダムコイルを生成してもよい。このようなリンカーとしては、限定されないが、Gly、Ser、Thr、Gln、Gluまたは天然タンパク質の組織化されていない領域と関係があることが多いさらなるアミノ酸を豊富に含む合成ペプチドが挙げられる(Dosztanyi,Z.、Csizmok,V.、Tompa,P.、&Simon,I.(2005).IUPred:web server for the prediction of intrinsically unstructured regions of proteins based on estimated energy content.Bioinformatics(Oxford、England)、21(16)、3433−4)。非限定例としては、(GS)
5または(GS)
10が挙げられる。適切なリンカー配列の他の非限定例も、実施例の章に記載される。
【0107】
多くの場合、必須ではないが、有効分子内濃度(本明細書で定義されるような)は、GPCR−結合ドメイン融合物のリンカーの長さによって変わるであろう。従って、最適なリンカー長は、有効分子内濃度が最大値に達するように選択されるであろう。好ましくは、アミノ酸リンカー配列は、タンパク質分解開裂の起こりやすさが少なく、キメラポリペプチドの生体活性を妨害しない。
【0108】
従って、特定の実施形態によれば、アミノ酸(AA)リンカー配列は、0から200AA、0から150AA、0から100AA、0から90AA、0から80AA、0から70AA、0から60AA、0から50AA、0から40AA、0から30アミノ酸、0から20AA、0から10アミノ酸、0から5アミノ酸のペプチドである。短いリンカーの配列の例としては、限定されないが、PPP、PPまたはGSが挙げられる。
【0109】
特定の用途のために、1つ以上の特定の配列モチーフを含むか、またはこの配列モチーフからなることが有利であり得る。例えば、タンパク質分解開裂部位が、GPCR部分および結合ドメイン部分を放出することができるようにリンカー分子に導入されてもよい。有用な開裂部位は、当該技術分野で知られており、プロテアーゼ開裂部位、例えば、配列IEGR(配列番号47)を有するFactor Xa開裂部位、配列LVPR(配列番号48)を有するトロンビン開裂部位、配列DDDDK(配列番号49)を有するエンテロキナーゼ開裂部位、またはPreScission(または3C)開裂部位LEVLFQGP(配列番号50)を含む。
【0110】
結合ドメイン部分およびGPCR部分が、タンパク質改変のための化学酵素方法を用いて接続する場合には、リンカー部分は、in vivoまたはin vitroで共有結合によるキメラを生成するために用いられる酵素または合成化学に依存して、異なる化学部分が存在していてもよい(Rabuka 2010)。
【0111】
他の部分および改変
本発明のキメラポリペプチドは、さらに改変されてもよく、および/または本明細書でさらに記載するように、他の部分を含んでいてもよい(またはさらに他の部分に融合していてもよい。)。改変の例、および改変可能な(即ち、タンパク質の骨格のいずれかで、好ましくは側鎖で)本発明のキメラポリペプチド内のアミノ酸残基、このような改変を導入するために使用可能な方法および技術、およびこのような改変の潜在的な用途および利点の例は、当業者には明らかであろう。例えば、このような改変は、1つ以上の官能基、残基または部分を、キメラポリペプチドの内部または表面に、特に、結合ドメイン部分の内部または表面に、またはGPCR部分の内部または表面に、および/または場合によりリンカー部分の内部または表面に(例えば、共有結合または別の適切な様式で)導入することを含んでいてもよい。このような官能基およびこのような官能基を導入する技術の例は、当業者には明らかであると思われ、一般的に、当該技術分野で述べられるすべての官能基および技術、および医薬タンパク質の改変のため、特に、抗体または抗体フラグメント(ScFvおよび一本鎖ドメイン抗体を含む)の改変のためのこれ自体が既知の官能基および技術を含み、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences、第16版、Mack Publishing Co.、Easton、PA(1980)が参照される。このような官能基は、これも当業者に明らかなように、例えば、キメラポリペプチドに直接的に(例えば、共有結合によって)接続してもよく、または場合により、適切なリンカーまたはスペーサーを介して接続してもよい。通常のあまり好ましくない改変は、本発明のキメラポリペプチドを発現するために用いられる宿主細胞に依存して、通常は翻訳と同時および/または翻訳後の改変の一部としてのN接続したグリコシル化またはO接続したグリコシル化である。さらに別の改変は、ラベルが付されたキメラポリペプチドの意図した使用に依存して、1つ以上の検出可能なラベルまたは他のシグナルを生成する基または部分の導入を含んでいてもよい。適切なラベル、およびラベルを接続し、用い、検出するための技術は、当業者に明らかであると思われ、例えば、限定されないが、蛍光ラベル(例えば、フルオレセイン、イソチオシアネート、ローダミン、フィコエリトリン、フィコシアニン、アロフィコシアニン、o−フタルアルデヒドおよびフルオレスカミンおよび蛍光金属、例えば、Euまたはランタノイド族からのその他の金属)、燐光ラベル、化学発光ラベルまたは生物発光ラベル(例えば、ルミナール、イソルミノール、発光性アクリジニウムエステル、イミダゾール、アクリジニウム塩、シュウ酸エステル、ジオキセタンまたはGFPおよびこの類似体)、放射性同位体、金属、金属キレートまたは金属カチオン、またはin vivo、in vitroまたはin situでの検出およびイメージングに使用するのに特に適した他の金属または金属カチオン、および発色団および酵素(例えば、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、ブドウ球菌ヌクレアーゼ、デルタ−V−ステロイドイソメラーゼ、酵母アルコールデヒドロゲナーゼ、アルファ−グリセロリン酸デヒドロゲナーゼ、トリオースホスフェートイソメラーゼ、ビオチンアビジンペルオキシダーゼ、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ、アスパラギナーゼ、グルコースオキシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、リボヌクレアーゼ、ウレアーゼ、カタラーゼ、グルコース−VI−リン酸デヒドロゲナーゼ、グルコアミラーゼおよびアセチルコリンエステラーゼ)が挙げられる。他の適切なラベルは、当業者に明らかであると思われ、例えば、NMRまたはESR分光法を用いて検出可能な部分が挙げられる。特定のラベルの選択肢に依存して、このようなラベルが付された本発明のキメラポリペプチドを、例えば、in vitro、in vivoまたはin situのアッセイ(これ自体が知られているイムノアッセイ、例えば、ELISA、RIA、EIAおよび他の「サンドイッチアッセイ」など)およびin vivoターゲティングおよびイメージングの目的で使用してもよい。当業者には明らかなように、別の改変は、例えば、上記で言及された金属または金属カチオンのいずれかをキレート化するためのキレート化基の導入を含んでいてもよい。適切なキレート化基としては、例えば、限定されないが、ジエチル−エントリアミン五酢酸(DTPA)またはエチレンジアミン四酢酸(EDTA)が挙げられる。さらに別の改変は、特定の結合対(例えば、ビオチン−(ストレプト)アビジン結合対)の一部である官能基の導入を含んでいてもよい。このような官能基を使用し、結合対の片方の半分に結合する(即ち、結合対の生成によって)別のタンパク質、ポリペプチドまたは化学化合物に対し、本発明のキメラポリペプチドを接続してもよい。例えば、本発明のキメラポリペプチドは、ビオチンにコンジュゲート化してもよく、アビジンまたはストレプトアビジンにコンジュゲート化した別のタンパク質、ポリペプチド、化合物または担体に接続してもよい。例えば、このようなコンジュゲート化したキメラポリペプチドを、例えば、検出可能なシグナルを生成する薬剤がアビジンまたはストレプトアビジンにコンジュゲート化される検出可能な系において、レポーターとして使用してもよい。例えば、このような結合対を使用し、本発明のキメラポリペプチドを担体(医薬用途に適切な担体)に結合してもよい。ある非限定的な例は、CaoおよびSuresh、Journal of Drug Targeting、8、4、257(2000)に記載されるリポソーム配合物である。このような結合対を使用し、本発明のキメラポリペプチドに治療に活性な薬剤を接続してもよい。
【0112】
キメラポリペプチドを含む組成物
本発明のキメラポリペプチドは、他の分子(特に、受容体リガンド(例えば、全アゴニスト、パーシャルアゴニスト、アンタゴニスト、インバースアゴニスト、バイアスアゴニスト、天然結合パートナーなど)を含め、リガンド)を含んでいてもよい(または、これらに融合していてもよい。)。従って、一態様によれば、本発明は、本明細書で上記したようなキメラポリペプチドと、受容体リガンドとを含む複合体も想定する。非限定的な例として、安定な複合体をサイズ排除クロマトグラフィーによって精製してもよい。好ましい実施形態において、本発明の複合体は、可溶化した形態、例えば、洗剤に可溶化した形態である。代替的な好ましい実施形態において、本発明の複合体は、固体支持材に固定化される。固体支持材および固定化のための方法および技術の非限定例は、詳細な説明にさらに記載される。さらに別の実施形態において、本発明の複合体は、有機体、組織、細胞、細胞株、または膜組成物、または前記有機体、組織、細胞または細胞株から誘導されるリポソーム組成物を含む、細胞組成物である。膜またはリポソーム組成物の例としては、限定されないが、細胞小器官、膜調製物、ウイルス、ウイルス様の脂質粒子(VLP)などが挙げられる。細胞組成物、または膜またはリポソーム組成物が、天然または合成の脂質を含んでいてもよいことが理解されるであろう。さらに別の好ましい実施形態において、複合体は、結晶性である。このため、複合体の結晶および前記結晶を製造する方法も提供され、以下にもっと詳細に記載される。好ましくは、本発明のキメラポリペプチドと受容体リガンドとを含む複合体の結晶性形態が想定される。
【0113】
従って、本発明は、上述のようなキメラポリペプチドまたは複合体を含む膜またはリポソーム組成物にも関する。膜組成物は、組織、細胞または細胞株から誘導されてもよく、キメラポリペプチドの十分な機能が保持されている限り、細胞小器官、膜抽出物またはこのフラクション、VLP、ウイルスなどが挙げられる。
【0114】
発現系
別の態様において、本発明は、本明細書で上記されるような本発明のキメラポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子に関する。特定の実施形態によれば、本発明は、本発明のキメラポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子に関し、核酸は、5’から3’にかけて、
・シグナルペプチド、
・エピトープタグ、
・プロテアーゼ開裂部位、
・目的のGPCR、
・目的のGPCRを標的とする立体構造選択的な結合ドメイン
をコードする。
【0115】
または、別の特定の実施形態によれば、本発明は、本発明のキメラポリペプチドをコードする核酸配列を含む核酸分子に関し、核酸は、5’から3’にかけて、
・シグナルペプチド、
・エピトープタグ、
・プロテアーゼ開裂部位、
・目的のGPCRを標的とする立体構造選択的な結合ドメイン、
・目的のGPCR
をコードする。
【0116】
このような核酸分子は、実施例の章でさらに例示される。
【0117】
さらに、本発明は、本発明の任意のキメラポリペプチドをコードする核酸配列を含む発現ベクターおよびこのような発現ベクターを発現する宿主細胞も想定する。適切な発現系としては、細菌または酵母、ウイルス発現系、例えば、バキュロウイルス、セムリキ森林ウイルスおよびレンチウイルスにおける恒常的な発現系および誘発可能な発現系、または昆虫または哺乳動物細胞における一時的なトランスフェクションが挙げられる。本発明のキメラポリペプチドのクローニングおよび/または発現は、当業者に知られている技術に従って行うことができる。
【0118】
本発明の「宿主細胞」は、任意の原核有機体または真核有機体であってもよい。好ましい実施形態によれば、宿主細胞は、真核細胞であり、任意の真核有機体であってもよいが、特定の実施形態において、酵母、植物、哺乳動物および昆虫細胞が想定される。使用される細胞の性質は、典型的には、キメラポリペプチドを産生する容易さおよび費用、望ましいグリコシル化特性、キメラポリペプチドの由来、意図した用途、またはこれらの任意の組み合わせによって変わる。哺乳動物細胞は、例えば、複合体のグリコシル化を達成するために使用されてもよいが、哺乳動物細胞系でタンパク質を産生するのは、費用対効果がよくない場合がある。植物および昆虫細胞、および酵母は、典型的には、高い産生レベルを達成し、もっと費用対効果が高いが、哺乳動物タンパク質の複雑なグリコシル化パターンを模倣するために、さらなる改変が必要であり得る。酵母細胞は、経済的に培養することができ、高い収率の(媒体に分泌した)タンパク質を与え、適切に改変された場合、適切なグリコシル化パターンを有するタンパク質を産生することができるため、タンパク質発現のために用いられることが多い。さらに、酵母は、迅速な形質転換、試験されるタンパク質の局在化方法論および容易な遺伝子ノックアウト技術を可能にする確立した遺伝子を与える。昆虫細胞が、哺乳動物のGPCRシグナル伝達を妨害することなく発現系を与えるため、昆虫細胞は、GPCRを発現するために魅力的な系でもある。タンパク質産生のための真核細胞または細胞株は、当該技術分野でよく知られており、改変されたグリコシル化経路を有する細胞を含み、非限定例は、本明細書で以下に与える。
【0119】
その後の単離および/または精製のためのタンパク質の内包、発現および産生に適切な動物または哺乳動物の宿主細胞としては、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、例えば、CHO−K1(ATCC CCL−61)、DG44(Chasinら、1986;Kolkekarら、1997)、CHO−K1 Tet−On細胞株(Clontech)、CHOと命名したECACC 85050302(CAMR、Salisbury、Wiltshire、UK)、CHOクローン13(GEIMG、Genova、IT)、CHOクローンB(GEIMG、Genova、IT)、CHO−K1/SFと命名したECACC 93061607(CAMR、Salisbury、Wiltshire、UK)、RR−CHOK1と命名したECACC 92052129(CAMR、Salisbury、Wiltshire、UK)、ジヒドロ葉酸レダクターゼネガティブCHO細胞(CHO/−DHFR、UrlaubおよびChasin、1980)およびdp12.CHO細胞(米国特許第5,721,121号);SV40によって形質転換されたサル腎臓CV1細胞(COS細胞、COS−7、ATCC CRL−1651);ヒト胎児由来腎臓細胞(例えば、293細胞、または293T細胞、または懸濁培養物中で成長させるためにサブクローン化された293細胞、Grahamら、1977、J.Gen.Virol.、36:59、またはGnTI KO HEK293S細胞、Reevesら、2002);ベビーハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL−10);サル腎臓細胞(CV1、ATCC CCL−70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO−76、ATCC CRL−1587;VERO、ATCC CCL−81);マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、1980、Biol.Reprod.、23:243−251);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL−2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL−34);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL−75);ヒト幹細胞癌細胞(HEP−G2、HB 8065);マウス乳腺腫瘍細胞(MMT 060562、ATCC CCL−51);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL−1442);TRI細胞(Mather、1982);MCR 5細胞;FS4細胞が挙げられる。特定の実施形態によれば、細胞は、Hek293細胞またはCOS細胞から選択される哺乳動物細胞である。
【0120】
例示的な非哺乳動物細胞株としては、限定されないが、昆虫細胞、例えば、Sf9細胞/バキュロウイルス発現系(例えば、Jarvisの総説、Virology Volume 310、Issue 1、2003年5月25日、ページ1−7)、植物細胞、例えば、タバコ細胞、トマト細胞、トウモロコシ細胞、藻類細胞、または酵母、例えば、Saccharomyces種、Schizosaccharomyces種、Hansenula種、Yarrowia種またはPichia種が挙げられる。特定の実施形態によれば、真核細胞は、Saccharomyces種(例えば、Saccharomyces cerevisiae)、Schizosaccharomyces sp.(例えば、Schizosaccharomyces pombe)、Hansenula種(例えば、Hansenula polymorpha)、Yarrowia種(例えば、Yarrowia lipolytica)、Kluyveromyces種(例えば、Kluyveromyces lactis)、Pichia種(例えば、Pichia pastoris)、またはKomagataella種(例えば、Komagataella pastoris)由来の酵母細胞である。特定の実施形態によれば、真核細胞は、Pichia細胞であり、最も特定の実施形態において、Pichia pastoris細胞である。
【0121】
標的細胞(例えば、哺乳動物細胞)のトランスフェクションは、SambrookおよびRussel(Molecular Cloning、A Laboratory Manual、第3版、Volume 3、Chapter 16、Section 16.1−16.54)によって概説される原理に従って行うことができる。これに加え、ウイルス形質導入は、試薬、例えば、アデノウイルスベクターを用いて行うこともできる。適切なウイルスベクター、制御領域および宿主細胞の選択は、当業者のレベルの範囲内の一般的な知識である。得られるトランスフェクションされた細胞は、培地内に維持されるか、または標準的な実施に従うその後の使用のために凍結される。
【0122】
従って、本発明の別の態様は、本発明のキメラポリペプチドを製造するための方法に関し、この方法は、少なくとも、
(a)適切な細胞発現系(本明細書で上記で定義されるような)中、本発明のキメラポリペプチドをコードする核酸を発現する工程と、任意選択により、
(b)前記キメラポリペプチドを単離し、および/または精製する工程と
を含む。
【0123】
従って、上記した立体構造が拘束されたキメラポリペプチドは、スクリーニングおよび薬物開発(この最も広い意味で)のために特に有用な新規の単一のタンパク質ツールと考えることができ、これらをすべて本明細書でさらに詳細に記載する。
【0124】
適用
本明細書に記載するキメラポリペプチドおよびこれをコードする核酸、複合体、細胞およびこれらから誘導される細胞組成物を、種々の文脈および用途で使用することができ、例えば、限定されないが、(1)一本鎖タンパク質としてのキメラポリペプチドの直接的な分離および/または精製、ここで、目的のGPCRは、目的の立体構造で恒常的な様式で安定化される、(2)本発明のキメラポリペプチドを利用することによる、GPCRの結晶化研究および高解像度構造分析のため、(3)リガンドスクリーニングおよび(構造に基づく)薬物開発のため、(4)細胞表面または別の細胞膜フラクション中、目的の立体構造で一本鎖融合タンパク質としてGPCRを安定に恒常的に発現するために使用することができ、これらはすべて、本明細書にさらに詳細に記載される。
【0125】
分離および精製方法
本発明の鍵となる利点の1つは、GPCRを、GPCRと結合ドメインの化学量論量が定義される1:1で、目的の立体構造で分離し、精製することができることである。本発明の特定の利点は、キメラポリペプチド中の結合ドメインを、非常に高い有効分子内濃度で、リガンドが存在しない状態であっても、特定の受容体立体構造で安定化することができることである。これに加え、当業者は、折り畳まれた状態のGPCRに選択的に結合する結合ドメインが、このGPCRを化学物質または熱による変性から保護し、このため、立体構造安定性および/または熱安定性が高まることを認識するであろう。従って、キメラポリペプチドを、混合物から分離し、場合により、一本鎖タンパク質として精製することができ、受容体は、結合ドメインによって安定化される立体構造に適合する。この分離され、精製されたキメラポリペプチドは、非常に有用であり、特に、その後の結晶化、リガンドの特性決定および化合物スクリーニング、免疫化のための直接的なツールである。
【0126】
従って、本発明は、GPCRに特異的に結合する結合ドメインに融合したGPCRを含むキメラポリペプチドを分離および/または精製する方法を想定し、この方法は、任意の適切な手段によって、キメラポリペプチドを分離および/または精製する工程を含む。
【0127】
または、第1に、本明細書で上記されるようなキメラポリペプチドと受容体リガンド(例えば、オルソステリックリガンド、アロステリックリガンド、天然の結合タンパク質、例えば、Gタンパク質など)との複合体を生成することが望ましく、次いで、その後に分離し、最終的に精製してもよい。
【0128】
従って、本発明は、キメラポリペプチドと受容体リガンドとの複合体を分離および/または精製する方法も想定し、この方法は、任意の適切な手段によって、キメラポリペプチドを分離および/または精製する工程を含む。
【0129】
本質的に、GPCR(上記を参照)を産生し、精製するために一般的に用いられるのと同じ方法を、本発明のキメラポリペプチドの産生および精製に等しく使用することができる。上述のキメラポリペプチドを単離/精製するための方法としては、限定されないが、アフィニティに基づく方法、例えば、特に、アフィニティクロマトグラフィー、アフィニティ精製、免疫沈降、タンパク質検出、免疫化学、表面ディスプレイ、サイズ排除クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィーが挙げられ、すべて当該技術分野でよく知られている。例えば、キメラポリペプチドは、宿主細胞中に組み換え形態で発現し、その後、アフィニティクロマトグラフィーおよび/または抗体に基づく方法を用いて精製することができる。具体的な実施形態において、バキュロウイルス/Sf−9系を発現に使用してもよいが、他の発現系(例えば、細菌、酵母または哺乳動物細胞系)を使用してもよい(本明細書にさらに記載されるような)。
【0130】
結晶学および構造に基づく薬物設計の適用
本発明の一態様は、GPCRのX線結晶学における本発明のキメラポリペプチドの有用性および構造に基づく薬物設計におけるこの適用に関する。
【0131】
GPCRを含む膜タンパク質の結晶化には、依然として課題がある。発現方法および精製方法は、ミリグラム量の生成は可能なようであるが、これらの分子を用いて安定性を達成することは、特に、これらのタンパク質が複数の立体構造を取り得るという観点で、おそらく克服するのが最も困難な障害である。洗剤で可溶化したGPCRの受容体安定性を高めると、GPCRのタンパク質分解および/または凝集を防ぎ、この精製を促進し、正しく折り畳まれたタンパク質の均質なサンプルの濃縮を促進する。当業者は、このようなサンプルが、回折結晶の生成のために好ましい出発点であることを認識するであろう。
【0132】
結晶化工程自体は、X線結晶学による高分子構造の決定工程において、別の大きな障害である。結晶化の成功には、核の生成およびその後の適切な大きさの結晶への成長を必要とする。結晶の成長は、一般的に、均質な核生成の結果として過飽和溶液中で自然に起こる。タンパク質は、典型的なスパースマトリックススクリーニング実験で結晶化されてもよく、沈殿剤、添加剤およびタンパク質の濃度を広範囲にサンプリングし、特定のタンパク質のための核生成および結晶成長に適切な過飽和状態を特定することができる。これに関連して、スパースマトリックススクリーニング手法は、例えば、タンパク質に結合するリガンドを加えることによって、または、異なる突然変位を作り出すことによって(優先的には、標的タンパク質の表面残基において)、または標的タンパク質の異なる種類のオルソログを結晶化させようと試みることによって、タンパク質自体の構造多様性を作り出すことである。
【0133】
結晶化は、結晶格子内に並べられる分子の立体構造エントロピーの望ましくない低下を含むので、溶液中に存在しながら標的の立体構造エントロピーを下げる方法は、格子形成の正味のエントロピーの損失を下げることによって、結晶化の可能性を高めるべきである。「表面エントロピー低下」手法は、非常に効果的であることがわかっている(Derewenda 2004)。同様に、結合対(例えば、イオン、低分子リガンドおよびペプチド)は、タンパク質の立体構造状態の部分集合に結合し、これを安定化することによって、立体構造の不均一性を減らすことができる。このような結合対は効果的ではあるが、すべてのタンパク質に既知の結合パートナーがあるわけではなく、結合パートナーが知られている場合であっても、このアフィニティ、溶解度および化学安定性が、結晶化の試みに合わない場合もある。
【0134】
高解像度の構造研究のためのGPCRの結晶化は、これらのタンパク質の表面が両親媒性であるため、特に困難である。膜二重層に包まれ、タンパク質とリン脂質のアシル鎖との接触部位は疎水性であり、一方、極性表面が、脂質の極性の頭部基および水相にさらされる。十分に整列した三次元結晶を得るために、高解像度でのX線構造分析に必要な条件は、GPCRが、洗剤の助けを借りて可溶化し、タンパク質−洗剤複合体として精製されることである。洗剤ミセルは、ベルト状の様式で膜タンパク質の疎水性表面を覆う(HunteおよびMichel 2002;Ostermeierら、1995)。GPCR−洗剤複合体は、隣接するタンパク質分子間の接触が、洗剤ミセルから飛び出したタンパク質の極性表面によって作られる、三次元構造を生成する(Dayら、2007)。明らかに、洗剤ミセルは、結晶格子内に空間を必要とする。ミセル間の引力相互作用が、結晶の充填を安定化し得るが(Rasmussenら、2007)、これらの相互作用は、強固な結晶の接触点を生じない。GPCRを含む多くの膜タンパク質は、比較的小さいか、または非常に柔軟性の高い親水性ドメインを含むため、十分に整列した結晶がゲル化する確率を高める戦略は、タンパク質の極性表面を広げ、および/またはこの柔軟性を下げることである。ほとんどの生理学的手法は、Gタンパク質またはアレスチンのような天然のシグナル伝達パートナーを使用することである。残念なことに、GPCRとGタンパク質またはアレスチンとの相互作用は、非常に脂質依存性であり、結晶学のための十分な安定性を有する複合体を生成することは困難であった。
【0135】
従って、結合ドメインが、非常に高い有効分子内濃度でGPCRの立体的エピトープに結合するため、受容体を安定化し、立体構造の自由度を下げ、この極性表面を増加させ、強固な1:1の受容体−結合ドメイン融合物の結晶化を促進することが、本発明のキメラポリペプチドの特定の利点である。本発明のキメラポリペプチドは、リガンドが存在しない状態で結晶化させることができることが特に利点である。
【0136】
驚くべきことに、本発明のキメラポリペプチドを、定義された1:1の化学量論量で立体構造選択的な結合ドメインに融合することによって、選択したGPCRでの立体構造の不均一性を最小限にすることによって、十分に並んだ結晶を得る確率を高めるためのツールとして使用することができることがわかった。従って、一実施形態によれば、結晶化の目的のために本発明のキメラポリペプチドを使用することが想定される。有利には、結晶は、融合タンパク質の一部を生成する立体構造選択的な結合ドメインの選択によって確保されるように、GPCRが特定の受容体立体構造に、さらに特定的には、治療に関連する受容体立体構造(例えば、活性な立体構造)に捕捉された融合タンパク質から作ることができる。結合ドメインは、十分に並んだ結晶を成長させるためにGPCRに結合すると、細胞外領域の自由度も減らすであろう。ナノボディを含む免疫グロブリンの一本鎖可変ドメインは、立体的エピトープに結合し、単一の強固な球状ドメインで構成され、従来の抗体または誘導されたフラグメント(例えば、Fab’)とは異なり、柔軟性の高いリンカー領域がないため、特に、この目的に適している。
【0137】
従って、好ましい実施形態によれば、本発明は、GPCRを結晶化し、最終的に、この構造を解明するための直接的なツールとして有用な、結合ドメインに融合したGPCRを含むキメラポリペプチドを提供する。特定の実施形態によれば、本発明は、キメラポリペプチドと受容体リガンド(本明細書で以下に定義されるような)の複合体を結晶化させることも想定する。上の方法の特に好ましい実施形態において、キメラポリペプチドまたは複合体に含まれるGPCRは、活性な状態の立体構造で、低分子または生物学的物質を用いて標的化するのに適切な新しい構造特徴を示し、活性な立体構造に選択的な化合物の特定が可能になるであろう。特に、これらの新しい構造特徴は、オルソステリック部位またはアロステリック部位で起こってもよく、それぞれ、新しい立体構造特異的なオルソステリック化合物またはアロステリック化合物またはこれらのフラグメントを開発することができる。別の実施形態において、キメラポリペプチドまたは複合体に含まれるGPCRは、不活性な状態の立体構造(インバースアゴニストに対するアフィニティの増加および/または拘束されていないGPCRと比較して、アゴニストに対するアフィニティの減少を特徴とする。)、または、β−アレスチン依存性シグナル伝達を導く機能的な立体構造である(拘束されていないGPCRと比較して、β−アレスチンのバイアスアゴニストに対するアフィニティの増加を特徴とする。)。
【0138】
従って、本発明のキメラポリペプチドは、場合により、受容体リガンドとの複合体の状態であり、膜タンパク質のための任意の種々の専門的な結晶化方法を用いて結晶化してもよく、この多くは、Caffrey(2003および2009)にまとめられている。一般的な観点で、この方法は、結晶化前に複合体に脂質を加えることを含む、脂質に基づく方法である。このような方法は、以前から、他の膜タンパク質を結晶化するために使用されてきた。脂質立方相の結晶化方法およびバイセル結晶化方法を含むこれらの多くの方法は、脂質が自然に自己整列する特性と、小胞としての洗剤(小胞融合方法)、円板状ミセル(バイセル方法)および液晶または中間相(中間相または立法相の方法)を利用する。脂質立方相の結晶化方法は、例えば、Landauら、1996;Gouaux 1998;Rummelら、1998;Nollertら、2004、Rasmussenら、2011a,bに記載され、これらの刊行物は、これらの方法を開示するために参照により組み込まれる。バイセル結晶化方法は、例えば、Fahamら、2005;Fahamら、2002に記載され、これらの刊行物は、これらの方法を開示するために参照により組み込まれる。
【0139】
別の実施形態によれば、本発明は、GPCR−結合ドメイン融合物(場合により、さらに受容体リガンドを含む)の構造を解明するための本明細書に記載するようなキメラポリペプチドの使用に関する。「構造を解明する」とは、本明細書で使用する場合、原子の配置またはタンパク質の原子軌道を決定することを指し、多くは、生物物理学的方法、例えば、X線結晶学によって行われる。
【0140】
多くの場合に、回折品質の結晶を得ることは、この原子解像構造を解明するための鍵となる障害である。従って、特定の実施形態によれば、GPCR−結合ドメイン融合物の結晶構造を解明することができるため、本明細書に記載されるキメラポリペプチドを使用し、結晶の回折品質を高めることができる。
【0141】
さらに、例えば、GPCR薬物開発の助けとなるようにGPCR標的の構造情報を得ることは、非常に望ましい。もっと多くのGPCRの結晶化以外に、特に、受容体の構造を獲得するための方法は、薬理学的活性または生体活性を有するリード化合物に結合し、効力、選択性または薬理学的パラメータを高めるために、この化学構造を、化学的改変の出発点として使用する。当業者は、この結合ドメインは、立体構造選択的な化合物に対するアフィニティを実質的に高めることができるため、本発明のキメラポリペプチドが、結合ドメインによって誘発される、主要なものではない機能的な立体構造(基本立体構造とは異なる。)に選択的なリード化合物を用いた共結晶化に特に適していることを理解するであろう。
【0142】
別の実施形態によれば、本発明は、定義された1:1の化学量論量の受容体と結合ドメインから出発し、リガンドが存在しない状態でキメラポリペプチドを結晶化することができ、非常に高い有効分子内濃度の立体構造選択的な結合ドメインが、結晶格子内の望ましい立体構造で受容体を安定化することができる。当業者は、このようにしてあらかじめ作られた、特定の機能的な立体構造で安定化された、遊離受容体の結晶が、浸漬実験の理想的な出発点であり、結合ドメインによって誘発される立体構造で受容体を結合するフラグメントまたは化合物との複合体で受容体の構造を解明するのに役立つことを認識するであろう。
【0143】
別の実施形態によれば、本発明は、GPCR−結合ドメイン融合物を含むキメラポリペプチドの結晶構造を決定する方法を包含し、この方法は、
(a)本発明のキメラポリペプチドを提供する工程と、
(b)キメラポリペプチドを結晶化する工程と
を含む。
【0144】
結晶構造を決定する上記の方法の特定の実施形態において、GPCR−結合ドメイン融合物を含むキメラポリペプチドは、さらに、受容体リガンド、さらに具体的には、GPCRに結合したアゴニスト、インバースアゴニストなどを含む。
【0145】
上述の結晶構造を決定することは、X線結晶学のような生物物理学的方法を用いて行われてもよい。この方法は、結晶の原子軌道を得るための方法をさらに含んでいてもよい(本明細書で以下に定義されるような)。
【0146】
リガンドスクリーニングおよび薬物開発
他の用途は、特に、本発明のキメラポリペプチドを利用することによって、または、有利には、本発明のキメラポリペプチドを含む宿主細胞または細胞培養物を直接利用することによって、またはこれらから誘導される膜調製物を使用することによって、化合物スクリーニングおよび免疫化を含め、想定され、本明細書にさらに記載される。
【0147】
化合物スクリーニングの工程、リード化合物の最適化および薬物開発(抗体の開発を含む)において、もっと迅速で、もっと効果的で、高価ではなく、特に、情報が豊富に得られる、種々の化合物の特徴および種々の細胞経路に対する影響(即ち、有効性、特異性、毒性および薬物代謝)に関する同時の情報を与えるスクリーニングアッセイの必要性が存在する。従って、潜在的な新しい薬物候補物質となり得る、目的のタンパク質の新しい特異的なリガンド、好ましくは、立体構造特異的なリガンドを特定するために、非常に多くの化合物を迅速に安価にスクリーニングする必要性が存在する。本発明は、1:1の化学量論量で共有結合した立体構造選択的な結合ドメインの非常に高い有効分子内濃度に起因して、薬となり得る主要ではない立体構造で安定化されたGPCR薬物標的を与えることによって、この問題を解決する。これにより、アゴニストプロフィール、インバースアゴニストプロフィール、アンタゴニストプロフィール、バイアスアゴニストプロフィールなどを有するリガンドなどの異なる機能プロフィールを有するリガンドを、単一のアッセイにおいて、迅速に信頼性高く特定し、識別することができ、この結果、望ましい薬理特性を有するリガンドを特定する速度および可能性が高まる。特に、キメラポリペプチドおよびこれを含む宿主細胞、およびこれらから誘導される宿主細胞培養物または膜調製物が提供され、このために、特定の好ましいものが本明細書で上記され、この目的に特に適している。従って、これらのキメラポリペプチド、宿主細胞およびこれらから誘導される宿主細胞培養物または膜調製物を、種々の文脈でのスクリーニングのための免疫原または選択試薬として選択することができる。
【0148】
従って、好ましい実施形態によれば、本発明は、GPCRの立体構造選択的な化合物のスクリーニングおよび/または特定プログラムにおける、本明細書で上記されるような、本発明のキメラポリペプチド、宿主細胞、宿主細胞培養物、またはこれらから誘導される膜調製物の使用を包含し、最終的に、潜在的な新しい薬物候補物質に導かれ得る。
【0149】
一実施形態によれば、本発明は、立体構造選択的な化合物を特定する方法を想定し、この方法は、
(i)本発明のキメラポリペプチドを提供する工程と、
(ii)試験化合物を提供する工程と、
(iii)キメラポリペプチドに含まれるGPCRに対する試験化合物の選択的な結合を評価する工程と、
(iv)立体構造選択的な化合物を選択する工程と
を含む。
【0150】
キメラポリペプチド、宿主細胞、宿主細胞培養物およびこの膜調製物の具体的な好ましいものは、本発明の上記の態様に関し、上記で定義されるとおりである。
【0151】
上記の方法の特定の実施形態において、立体構造選択的な化合物は、キメラポリペプチドに含まれるGPCRの活性な立体構造に選択的な化合物である。上記の方法の別の具体的な実施形態において、立体構造選択的な化合物は、キメラポリペプチドに含まれるGPCRの不活性な立体構造に選択的な化合物である。上記の方法のさらに別の実施形態において、立体構造選択的な化合物は、β−アレスチン依存性シグナル伝達を導く機能的な立体構造、または目的の他の任意の機能的な立体構造に選択的な化合物である。
【0152】
好ましい実施形態において、本明細書にさらに記載される任意のスクリーニング方法で使用されるようなキメラポリペプチドは、全細胞、または細胞(細胞小器官)抽出物、例えば、膜抽出物またはこのフラクションとして与えられ、または、脂質層または小胞(天然および/または合成の脂質を含む)、高密度脂質粒子、または任意のナノ粒子、例えば、ナノディスクに組み込まれてもよく、または、ウイルスまたはウイルス様粒子(VLP)として与えられ、この結果、それぞれのタンパク質の十分な機能性が保持される。膜フラグメントまたは膜−洗剤抽出物からGPCR含有キメラポリペプチドを調製するための方法は、Cooper(2004)に詳細にまとめられており、本明細書に参照により組み込まれる。または、キメラポリペプチドを洗剤で可溶化してもよい。
【0153】
薬物開発のためのスクリーニングは、固体相(例えば、ビーズ、カラム、スライド、チップまたはプレート)または溶液相のアッセイ、例えば、結合アッセイ、例えば、放射性リガンド結合アッセイであってもよい。高スループットアッセイにおいて、96ウェル、384ウェルまたは1536ウェルのフォーマットで、数千までの異なる化合物を1日にスクリーニングすることができる。例えば、マイクロタイタープレートのそれぞれのウェルを使用し、選択された潜在的な調整剤に対し、別個のアッセイを行ってもよく、または、濃度またはインキュベーション時間の影響が観察される場合には、5から10ウェルごとに1種類の調整剤を試験することができる。従って、単一のマイクロタイタープレートは、約96種類の調整剤をアッセイすることができる。1日に多くのプレートをアッセイすることができ、今日、約6.000まで、20.000まで、50.000までまたはもっと多い異なる化合物のアッセイスクリーニングが可能である。
【0154】
例えば、Sambrookら.(2001)、Molecular Cloning、A Laboratory Manual.Third Edition.Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor、NYにおいて、当該技術分野での一般的な実務である、例えば、フローサイトメトリー、放射性リガンド結合アッセイ、酵素免疫吸着測定法(ELISA)、表面プラズモン共鳴アッセイ、チップに基づくアッセイ、イムノサイトフルオレッセンス、酵母ツーハイブリッド技術およびファージディスプレイを含む種々の方法を用い、安定化されたGPCRと試験化合物との結合を決定してもよい。試験化合物と膜タンパク質との結合を検出する他の方法としては、イオンスプレー質量分光法/HPLC方法を伴う限外濾過、または他の(生物)物理学的方法および分析方法が挙げられる。蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)方法(例えば、当業者によく知られているもの)を使用してもよい。化合物に関連する固有のラベルまたはタグ(例えば、本明細書にさらに記載されるようなペプチドラベル、核酸ラベル、化学ラベル、蛍光ラベル、または放射性同位体ラベル)を用い、結合した試験化合物を検出することができることが理解されるであろう。
【0155】
一実施形態において、この化合物が、受容体リガンド(本明細書で定義されるような)に対する、キメラポリペプチドに含まれるようなGPCRの結合を変えるかどうかを決定する。本明細書に記載されるような当該技術分野で知られている標準的なリガンド結合方法を用い、このリガンドに対するGPCRの結合をアッセイすることができる。例えば、リガンドは、放射性標識または蛍光標識されていてもよい。このアッセイは、全細胞で、または細胞から得られる膜で、または洗剤で可溶化された水性受容体で、行われてもよい。この化合物は、標識されたリガンド(実施例の章も参照)の結合を変える能力を特徴とするであろう。この化合物は、GPCRとこのリガンドとの結合を低下させてもよく、または、GPCRとこのリガンドとの結合を、例えば、少なくとも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、30倍、50倍、100倍高めてもよい。
【0156】
特に好ましい実施形態によれば、立体構造選択的な化合物を特定する上述の方法は、リガンド結合アッセイまたは競争アッセイによって行われ、さらになお好ましくは、放射性リガンドの結合アッセイまたは競争アッセイによって行われる。最も好ましくは、立体構造選択的な化合物を特定する上述の方法は、比較アッセイ、さらに具体的には、比較リガンド競争アッセイ、さらになお具体的には、比較放射性リガンド競争アッセイで行われ、実施例の章でさらに説明される。
【0157】
上述の方法が比較アッセイで行われる場合には、この方法が、GPCRが、立体構造選択的な結合ドメイン部分によって、目的の機能的な立体構造(例えば、活性な立体構造または不活性な立体構造)で安定化される、キメラポリペプチドに含まれるGPCRに対する試験化合物の結合を、コントロールに対する試験化合物の結合と比較する工程を含むことが理解されるであろう。本発明の範囲内で、コントロールは、対応する融合していないGPCR、または、対応するGPCRに指向していないか、および/または対応するGPCRに特異的に結合しない結合ドメイン部分であるモック結合ドメインに融合した、対応するGPCRのキメラポリペプチド(コントロール結合部分または無関係な結合部分とも呼ばれる。)であってもよい。
【0158】
特に好ましい実施形態において、上述の任意の方法で、キメラポリペプチドに含まれるGPCRに対する試験化合物の選択的な結合を評価する工程は、実施例の章にもさらに示されるように、キメラポリペプチドに対する試験化合物のアフィニティ(本明細書で定義されるような)を測定および/または計算することによって行われる。
【0159】
立体構造選択的な化合物に対するGPCR標的の高スループットスクリーニングが好ましいことが多い。これは、アッセイまたは多重化が可能な適切な固体表面または支持材にその他の本発明のキメラポリペプチドを固定することによって促進されるであろう。適切な固体支持材の非限定例としては、ビーズ、カラム、スライド、チップまたはプレートが挙げられる。
【0160】
さらに具体的には、固体支持材は、粒状物(例えば、ビーズまたは顆粒、一般的に、抽出カラムで用いられる。)またはシート形態(例えば、膜またはフィルタ、ガラスまたはプラスチックビーズ、マイクロタイターアッセイプレート、ディップスティック、キャピラリー充填デバイスなど)であってもよく、平坦、ひだ状、または中空繊維または管であってもよい。以下のマトリックスが例として与えられ、排他的ではないが、このような例は、シリカ(多孔性アモルファスシリカ)、即ち、Biotage(Dyax Corp.の一部門)によって供給される60Aの不規則なシリカ(32から63umまたは35から70um)を含むFLASHシリーズのカートリッジ、アガロースまたはポリアクリルアミド支持材、例えば、Amersham Pharmacia Biotechによって供給されるSepharose範囲の製品、またはBio−Radによって供給されるAffi−Gel支持材を含んでいてもよい。これに加え、マクロ多孔質ポリマー、例えば、Bio−Radによって供給される圧力に安定なAffi−Prep支持材が存在していてもよい。利用可能な他の支持材としては、デキストラン、コラーゲン、ポリスチレン、メタクリレート、アルギン酸カルシウム、孔径制御されたガラス、アルミニウム、チタンおよび多孔性セラミックスが挙げられる。または、固体表面は、質量依存性のセンサの一部、例えば、表面プラズモン共鳴検出器を含んでいてもよい。市販の支持材のさらなる例は、例えば、Protein Immobilisation、R.F.Taylor編集、Marcel Dekker,Inc.、New York、(1991)に記載される。
【0161】
固定は、非共有結合性または共有結合性のいずれかであってもよい。特に、本発明のキメラポリペプチドの固体表面に対する非共有結合性の固定または吸着は、任意の抗体、またはストレプトアビジンまたはアビジン、または金属イオンを有する表面コーティングを介して行われてもよく、当業者に知られている標準的な技術に従って、キメラポリペプチドに接続した分子タグを認識する(例えば、ストレプトタグ、ヒスチジンタグなど)。
【0162】
特に、キメラポリペプチドは、従来のカップリング化学を用い、共有結合性の架橋によって固体表面に接続してもよい。固体表面は、天然に、共有結合に適した架橋可能な残基を含んでいてもよく、または、当該技術分野でよく知られている方法に従って、適切な架橋可能な基を導入するために、コーティングされてもよく、または誘導体化されてもよい。ある特定の実施形態において、固定されたタンパク質の十分な機能性は、化学スペーサーアーム部を含まない反応性部分を介した望ましいマトリックスへの直接的な共有結合性カップリングの後に、保持される。固体支持材に対する抗体(フラグメント)の固定方法についてのさらなる例およびもっと詳細な情報は、Jungら(2008)に記載され、同様に、膜受容体の固定方法は、Cooper(2004)にまとめられ、両方とも参照により本明細書に組み込まれる。
【0163】
分子生物学における進化、特に、部位特異的突然変異を解する分子生物学における進化によって、タンパク質配列の特定のアミノ酸残基の突然変異が可能である。特定のアミノ酸(既知の構造または推測される構造中)の突然変異、例えば、リジンまたはシステイン(または他のアミノ酸)に対する突然変異によって、共有結合性カップリングに特異的な部位を与えることができる。化学カップリングに含まれる表面で利用可能なアミノ酸の分布を変えるために、特定のタンパク質を遺伝子操作することもできる(Kallwassら、1993)。同様の手法を本発明のキメラポリペプチドに適用してもよく、このため、天然または非天然のアミノ酸を含有する他のペプチドのテール部またはドメインを付加することなく、指向性の固定手段を与える。キメラポリペプチドのGPCR部分および/または結合ドメイン部分に突然変異を導入することができ、立体構造および/または生体活性を妨害しないように、注意深く選択する必要があることが理解されるであろう。例えば、突然変異が、抗体または抗体フラグメントである結合ドメイン部分(例えば、ナノボディ)に導入される場合には、フレームワーク領域への突然変異の導入が好ましく、抗体(フラグメント)の抗原結合活性の崩壊を最小限にする。
【0164】
簡便には、固定されたタンパク質は、当該技術分野で従来の標準的な方法に従って、本発明の固定されたタンパク質と、試験サンプルとを接触させることによって、免疫吸着工程、例えば、イムノアッセイ、例えば、ELISA、またはイムノアフィニティ精製工程で使用されてもよい。または、特に、高スループット目的のためには、固定化されたタンパク質を整列させるか、またはその他の方法で多重化してもよい。好ましくは、本発明の固定されたタンパク質を、GPCRの特定の立体構造に選択的に結合する化合物のスクリーニングおよび選択に使用する。
【0165】
用途の種類、または行われることが必要なスクリーニングの種類に依存して、融合物の一部を生成する結合ドメインまたはGPCR部分のいずれかが固定されてもよいことが理解されるであろう。また、GPCRを安定化する結合ドメイン(GPCRの特定の立体的エピトープを標的とする。)の選択は、GPCRの配置、従って、化合物特定の望ましい結果、例えば、前記立体構造によって安定化されたGPCR部分の細胞外部分、膜内部分または細胞内部分に特異的に結合する化合物を決定する。
【0166】
代替的な実施形態において、試験化合物(または試験化合物のライブラリー)は、固体表面、例えば、チップ表面に固定されてもよく、一方、キメラポリペプチドは、例えば、洗剤溶液または膜状の調製物で与えられる。
【0167】
従って、ある特定の実施形態において、本発明キメラポリペプチドが固定される固体支持材は、上の任意のスクリーニング方法で使用するために与えられる。
【0168】
最も好ましくは、例えば、溶液中のファージディスプレイ選択プロトコルにおいて、または放射性リガンド結合アッセイにおいて、キメラポリペプチドも試験化合物も固定されない。
【0169】
試験される化合物は、任意の小さな化学化合物、または高分子、例えば、タンパク質、糖、核酸または脂質であってもよい。典型的には、試験化合物は、小さな化学化合物、ペプチド、抗体またはこのフラグメントであり得る。ある場合には、試験化合物は、試験化合物のライブラリーであってもよいことが理解されるであろう。特に、治療化合物(例えば、本発明のアゴニスト、アンタゴニストまたはインバースアゴニストおよび/または調整剤の形態)のための高スループットスクリーニングアッセイは、本発明の一部を形成する。高スループットの目的のために、例えば、アロステリック化合物ライブラリー、ペプチドライブラリー、抗体ライブラリー、フラグメントに基づくライブラリー、合成化合物ライブラリー、天然化合物ライブラリー、ファージディスプレイライブラリーなどの化合物ライブラリーまたはコンビナトリアルライブラリーを使用してもよい。このようなライブラリーを作製し、スクリーニングする方法論は、当業者に知られている。
【0170】
試験化合物は、場合により、検出可能なラベルに共有結合または非共有結合によって接続してもよい。適切な検出可能なラベルおよびこれを接続し、使用し、検出するための技術は、当業者に明確であり、限定されないが、分光学的手段、光化学的手段、生化学的手段、免疫化学的手段、電気的手段、光学的手段または化学的手段によって検出可能な任意の組成物が挙げられる。有用なラベルとしては、磁気ビーズ(例えば、ダイナビーズ)、蛍光染料(例えば、すべてのAlexa Fluor染料、フルオレセインイソチオシアネート、Texasレッド、ローダミン、緑色蛍光タンパク質など)、放射性ラベル(例えば、
3H、
125I、
35S、
14C、または
32P)、酵素(例えば、セイヨウワサビペルオキシダーゼ、アルカリホスファターゼ)および比色ラベル、例えば、コロイド状の金または着色したガラスまたはプラスチック(例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、ラテックスなど)ビーズが挙げられる。このようなラベルを検出する手段は、当業者によく知られている。従って、例えば、放射性ラベルは、写真フィルムまたはシンチレーションカウンタによって検出されてもよく、蛍光マーカーは、発光を検出するための光検出器を用いて検出されてもよい。酵素ラベルは、典型的には、基材とともに酵素を与えることによって検出され、基材の上の酵素の活性によって作られる反応生成物を検出し、比色ラベルは、着色したラベルを単純に視覚化することによって検出される。他の適切な検出可能なラベルは、本発明のキメラポリペプチドに関連する本発明の第1の態様の文脈の中ですでに記載した。
【0171】
従って、特定の実施形態によれば、上の任意のスクリーニング方法で使用されるような試験化合物は、本明細書で上記で定義されるように、ポリペプチド、ペプチド、低分子、天然産物、ペプチド模倣物、核酸、脂質、リポペプチド、炭水化物、抗体またはこれらから誘導される任意のフラグメント、例えば、Fab、Fab’およびF(ab’)2、Fd、一本鎖Fvs(scFv)、一本鎖抗体、ジスルフィドが接続したFvs(dsFv)およびVLドメインまたはVHドメインのいずれかを含むフラグメント、重鎖抗体(hcAb)、一本鎖ドメイン抗体(sdAb)、抗体、ラクダ重鎖抗体から誘導される可変ドメイン(VHHまたはナノボディ)、サメ抗体から誘導される新しい抗原受容体の可変ドメイン(VNAR)、アルファボディを含むタンパク質足場、タンパク質A、タンパク質G、設計されたアンキリンリピートドメイン(DARPins)、フィブロネクチンIII型リピート、アンチカリン、ノッチン、操作されたCH2ドメイン(ナノ抗体)を含む群から選択される。
【0172】
ある好ましい実施形態において、高スループットスクリーニング方法は、非常に多くの潜在的な治療リガンドを含むコンビナトリアル化合物またはペプチドのライブラリーを与えることを含む。次いで、このような「コンビナトリアルライブラリー」または「化合物ライブラリー」は、本明細書で記載されるように、1つ以上のアッセイでスクリーニングされ、望ましい特徴的な活性を示すライブラリーメンバー(特に、化学種またはサブクラス)を特定する。「化合物ライブラリー」は、通常は、最終的に高スループットスクリーニングに用いられる保存された化学物質の集合である。「コンビナトリアルライブラリー」は、多くの化学「ビルディングブロック」を組み合わせることによって、化学合成または生物学的合成のいずれかによって作られる多様な化学化合物の集合である。コンビナトリアルライブラリーの調製物およびスクリーニングは、当業者によく知られている。このようにして特定された化合物は、従来の「リード化合物」として機能することができ、または、これ自体を潜在的な治療薬または実際の治療薬として使用することができる。従って、あるさらなる実施形態において、本明細書で上記されるようなスクリーニング方法は、さらに、特定の立体構造のGPCRを含むキメラポリペプチドを含むキメラポリペプチドに選択的に結合することが示された試験化合物を改変し、特定の立体構造にある場合に、改変された試験化合物がGPCRに結合するかどうかを決定することとを含む。
【0173】
従って、さらに特定の実施形態によれば、本発明のキメラポリペプチドと受容体リガンドとを含む複合体を上述の任意のスクリーニング方法で使用してもよい。好ましくは、受容体リガンドは、低分子、ポリペプチド、抗体またはこれらから誘導される任意のフラグメント、天然産物などを含む群から選択される。さらに好ましくは、受容体リガンドは、本明細書で上記されるように、全アゴニスト、またはパーシャルアゴニスト、バイアスアゴニスト、アンタゴニスト、またはインバースアゴニストである。
【0174】
標的GPCRの天然リガンドまたは内因性リガンドを特定し、特性決定することが望ましいであろう。特に、天然の活性化リガンドが特定されていないGPCRを「脱オーファン化」する必要がある。このようなリガンドは、生体サンプル(例えば、血液または組織抽出物)から回収されてもよく、またはリガンドのライブラリーから回収されてもよい。従って、特定の実施形態によれば、上記の任意のスクリーニング方法で使用されるような試験化合物は、生体サンプルとして与えられる。特に、サンプルは、個体から採取された任意の適切なサンプルであってもよい。例えば、サンプルは、体液、例えば、血液、血清、血清、髄液であってもよい。
【0175】
上述のようなスクリーニング方法は、化合物の機能性プロフィールを決定するのに十分であるが、標的GPCRの下流のシグナル伝達に対する化合物の機能的影響を、さらに第2のアッセイによって評価してもよい。従って、関与する特定の疾患または障害に依存して、化合物および/またはこの化合物を含む組成物の有効性を、任意の適切なin vitroアッセイ、細胞に基づくアッセイ、in vivoアッセイおよび/またはこれ自体が既知の動物モデル、またはこれらの任意の組み合わせを用いて試験することができる。
【0176】
本発明のキメラポリペプチド、宿主細胞およびこの誘導体をさらに遺伝子操作してもよく、従って、細胞に基づくアッセイの開発または改良のための特に有用なツールであることが理解されるであろう。細胞に基づくアッセイは、新しい生体標的の作用機序および化学化合物の生体活性を評価するために重要である。例えば、限定する目的はないが、現行のGPCRのための細胞に基づくアッセイとしては、経路活性化の測定(Ca
2+放出、cAMP生成または転写活性);GPCRおよび下流の要素をGFPでタグ付けすることによるタンパク質トラフィッキングの測定;および蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、生物発光共鳴エネルギー転移(BRET)または酵母ツーハイブリッド手法を用いた、タンパク質間の相互作用の直接的な測定が挙げられる。
【0177】
さらに、標的GPCRに対する抗体、好ましくは、立体構造選択的な抗体を高めるために、本発明のキメラポリペプチド、またはこのキメラポリペプチドを含む宿主細胞またはこの誘導体を用いて動物を免疫化することが特に有利な場合がある。従って、このような免疫化方法も本明細書で想定される。抗体をin vivoで上げるための方法は、当該技術分野で知られており、本明細書で上記でも記載される。任意の適切な動物、特に、哺乳動物、例えば、ウサギ、マウス、ラット、ラクダ、ヒツジ、ウシ、サメ、ブタ、または鳥類、例えば、ニワトリまたはシチメンチョウを、免疫応答を生成するのに適切な当該技術分野でよく知られている任意の技術を用いて免疫化してもよい。免疫化後、細菌、酵母、繊維状ファージ、リボソームまたはリボソームサブユニットまたは他の表出する系で発現される免疫グロブリン遺伝子またはこの一部をコードする発現ライブラリーを、当該技術分野でよく知られる技術に従って作ることができる。これに加えてさらに、作られる抗体ライブラリーは、本明細書で上記されるような任意のスクリーニング方法で使用するのに適切な試験化合物の集合を含む。本明細書に記載されるように生起された抗体は、特定の立体構造状態でGPCRを特異的に検出するための有用な診断ツールであってもよく、従って、これも本発明の一部を形成する。
【0178】
一実施形態において、固定化されたキメラポリペプチド(本明細書で上記されるような)は、立体構造によって安定化された受容体に結合する抗体または抗体フラグメントまたはペプチドを含む結合ドメインの選択に使用されてもよい。当業者は、このような結合ドメインが、非限定的な例として、特に、この表面で結合ドメインを発現する細胞のセット、集合またはライブラリー、または、この表面にgenIIIとナノボディの融合物を表出させるバクテリオファージ、または、接合因子タンパク質Aga2pの融合物を表出させる酵母細胞をスクリーニングすることによって、またはリボソームディスプレイによって選択することができることを認識するであろう。
【0179】
ある特定の実施形態は、1対1の化学量論量で受容体に共有結合する、非常に高い有効分子内濃度の立体構造選択的な結合ドメインによって誘発される受容体の立体構造に選択的な結合ドメインの単離のためのこのような固定化されたキメラポリペプチドの使用に関する。
【0180】
本発明のさらに別の態様は、本発明のキメラポリペプチド、または本発明の宿主細胞または宿主細胞培養物または膜調製物を含むキットに関する。キットは、さらに、試薬、例えば、バッファー、分子タグ、ベクター構築物、参照サンプル材料および適切な固体支持材などを含んでいてもよい。このようなキットは、本明細書に記載するような本発明の任意の用途に有用であり得る。例えば、キットは、化合物スクリーニング用途に有用名試験化合物(のライブラリー)を含んでいてもよい。
【0181】
以下の実施例は、本発明のさらなる理解を促進することを意図している。本発明を、示した実施形態を参照して本明細書で記載するが、本発明がこれに限定されないことを理解すべきである。当業者は、本明細書の教示を利用し、本発明の範囲内のさらなる改変および実施形態を認識するであろう。従って、本発明は、本明細書に添付する特許請求の範囲によってのみ限定される。
【実施例】
【0182】
[実施例1]
β2AR−ナノボディ融合タンパク質構築物の生成
この実施例に記載するGPCR−ナノボディ融合物は、ペプチドリンカーと接続した2種類の異なるタンパク質を含むキメラポリペプチドであり(GPCR β2AR、リンカーGGGGSGGGS(配列番号51)およびナノボディ)、アミノ酸末端からカルボキシ末端に向けて、すべてがこの順序で融合している。これらのタンパク質をコードする遺伝子は、以下に記載したように融合し(
図2)、pFastBac1ベクター(Invitrogen、カタログ番号10359−016)にクローン化された。
【0183】
このGPCR部分は、インフルエンザウイルス(MKTIIALSYIFCLVFA;配列番号52)、その後、Flagエピトープ(DYKDDDDA;配列番号53)、その後、TEV開裂部位(ENLYFQGF;配列番号54)、その後、Gly2からGly365を包含するヒトβ2アドレナリン作動性受容体のコード配列(配列番号55)から誘導される開裂可能なヘマグルチニン(HA)タンパク質シグナルペプチド(SP)をコードするDNAから増幅された。N187Eの点変異は、この望ましくないグリコシル化部位を破壊するために、この構築物にも導入された(β2AR365N;Rasmussenら、2011b)。β2AR365Nに対するβ2アドレナリン作動性受容体の遺伝子操作が行われ、Sf9細胞における受容体の細胞発現レベルを増加させた。
【0184】
ナノボディ遺伝子セグメントは、それぞれのナノボディをコードするファージミドから増幅された。Nb80(配列番号13)は、全アゴニスト(例えば、BI−167107)に結合するβ2ARの活性な状態を安定化するβ2AR特異的なナノボディである(Rasmussenら、2011b)。Nb71(配列番号14)は、活性な状態を安定化させる別のβ2AR特異的なXaperoneである(WO2012007593)。Nb6969(配列番号15)は、Muscarinic3受容体に特異的であり、β2ARに対する検出可能なアフィニティを有しない。
【0185】
GPCRおよびナノボディは、オーバーラップエクステンションPCRによって、フレーム中で遺伝的に融合された。従って、GPCR cDNAを含有する20ngのプラスミドを、4%のDMSOを含有する50μlのPCR反応のテンプレートとして使用し(Pfuポリメラーゼ、Fermentas、カタログ番号EP0501)、プライマーEP211(5’−GCGGAATTCGAGCTCGCC−3’;配列番号56)およびプライマーEP207(5’−CCTCCGCCGGATCCGCCACCTCCTCCACTCTGCTCCCCTGTG−3’;配列番号57)を用い、β2ARをコードするDNAを増幅させた。プライマーEP211は、コード配列の5’末端にEcoRI制限部位を有している。プライマーEP207は、受容体のC末端にGGGGSGGGS(配列番号51)リンカーの一部が組み込まれている。この反応の増幅条件は、95℃で2分間、94℃で30秒、50℃で30秒間、72℃で1分30秒間を35サイクル、次いで、72℃で10分間であり、この融合物のオープンリーディングフレームのGPCRコード部分を増幅させた。
【0186】
Nb69、Nb71およびNb80は、すべて、N末端およびC末端の配列が同じである。ナノボディのDNAは、5ngのそれぞれの構築物と、プライマーEP206(GGCGGATCCGGCGGAGGTTCGCAGGTGCAGCTGCAGGAGTCTGGGGGAGG;配列番号58)を用い、50μl中、PCR中のPfuポリメラーゼを用いて増幅させ、ナノボディのN末端にGGGGSGGGSリンカーの重複する部分、およびEP202(TGGAATTCTAGATTAGTGATGGTGATGGTGGTGTGAGGAGACGGTGACCTGGGT;配列番号59)を組み込み、この遺伝子の3’末端にXbaIクローニング部位を組み込んだ融合タンパク質のC末端にHis6−タグ配列を付加した。95℃で2分間、94℃で30秒間、50℃で30秒間、72℃で1分間を30サイクル、次いで、72℃で10分間の増幅条件を使用し、ハイブリッドのナノボディコード部分を増幅させた。
【0187】
GPCRまたはナノボディをコードするPCRフラグメントを、PCR精製キット(Promega)を用いて精製し、新しい50μlのPCR反応:20ngのEP211−β2AR−EP207(EP211およびEP207は、PCR増幅に使用されたプライマーを指す。)において、テンプレートとして使用し、増幅されたPCRフラグメントを、約20ngの増幅されたEP206−ナノボディ−EP202フラグメントと混合し、以下のように、オーバーラップエクステンションによって、KapaTaqポリメラーゼ(Sopaghem、カタログ番号BK1002)を用いて融合させた。95℃で2分間での融解、95℃で30秒間、55℃で30秒間、1分45秒間を5サイクルの後、融合したβ2AR−ナノボディのオープンリーディングフレームを、プライマーEP202およびEP211を用い、28サイクル(95℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で1分45秒間)、その後、72℃で10分間かけて増幅させた。異なるβ2AR−ナノボディのオープンリーディングフレームを含むPCRフラグメントを別個に精製し、pFastBac1中で、EcoRI−XbaIフラグメントとしてクローン化し、E.coli Top10中で形質転換した。プラスミドDNAを、1個のコロニーから調製し、オープンリーディングフレームの配列をシークエンシングによって確認した。構築物をpFastBac β2AR365N−Nb80(実験室参照番号CA6836)、pFastBac β2AR365N−Nb69(実験室参照番号CA6833)およびpFastBac β2AR365N−Nb71(実験室参照番号CA6835)と名付けた。異なるβ2AR365N−Nb融合構築物によってコードされるアミノ酸配列は、
図2に与えられる(配列番号1から4)。
【0188】
[実施例2]
バキュロウイルスに感染したSf9細胞におけるβ2AR−ナノボディ融合物の発現
β2AR−ナノボディ融合物をコードするバクミドを産生するために、製造業者の指示に従って、Bac−to−Bac(R)バキュロウイルス発現系(Invitrogen、カタログ番号10359−016)を用い、1ngの各pFastBac β2AR365N−ナノボディ融合物をDH10Bac(商標)細胞内で形質変換し、50μg/mlのカナマイシン、7μg/mlのゲンタマイシン、10μg/mlのテトラサイクリン、100μg/mlのX−galおよび40μg/mlのIPTGを含む新鮮なLB寒天プレートに一晩接種した。白色コロニーを取り出し、バクミドを精製し、β2AR−ナノボディオープンリーディングフレームの配列を確認した。β2ARオープンリーディングフレームをコードし、リンカーおよびナノボディ(pFastBac β2AR365N)を含まないプラスミドも、DH10Bac(商標)細胞内で形質転換し、コントロールとして、融合していない受容体をコードするバクミドを産生した。β2AR−ナノボディバクミドおよびβ2AR365NバクミドをSf9細胞内でトランスフェクションすることによって、組み換えバキュロウイルスを産生した。
【0189】
それぞれのバクミドについて、1mlのGraceの栄養無添加昆虫細胞培地(Sigma、カタログ番号G8142)、15μLのセルフェクチンII(Invitrogen、カタログ番号10362−100)および5μLのバクミドDNA(約3μg)を混合することによって、トランスフェクション混合物を調製した。このトランスフェクション混合物を、RTで20分間あらかじめインキュベーションした。次いで、1×10
7のペレット化されたSf9細胞を、このトランスフェクション混合物に懸濁させ、27℃で振り混ぜた。4時間後、4mlのタンパク質を含まないESF 921 Sf9培地(Expression systems LLC、カタログ番号96−001)を加え、27℃、130rpmで48時間、細胞を成長させた。さらなる5mlのESF 921 Sf9培地を加え、細胞をさらに24時間から40時間インキュベーションした後、遠心分離によってP1組み換えバキュロウイルスストック(P1)を集めた。P1を、3×10
6細胞/mlの密度で、新鮮なSf9培地で100倍に希釈することによって、P2組み換えバキュロウイルスストックを作製し、27℃、130rpmで培養した。インキュベーションして72時間後、遠心分離によってP2ウイルスストックを集めた。異なるβ2AR365N−Nb融合物の組み換え発現は、P2バキュロウイルスストックを用い、400万/mlの密度で(1:100から1:250で)新しく成長させたSf9細胞の感染によって達成された。感染した細胞を27℃(130rpm)で48時間から55時間培養した後、集めた。GPCR−ナノボディハイブリッドの発現は、生きた細胞の蛍光顕微鏡観察によって確認された(実施例3)。この組み換えタンパク質を発現する細胞を、1.5mM EDTAを加えた氷冷PBS(Life technologies、カタログ番号10010−023)で2回洗浄し、ペレット化し、−80℃で保存した。
【0190】
[実施例3]
蛍光顕微鏡によるβ2AR−ナノボディ融合タンパク質の発現の確認
異なるβ2AR365N−Nb融合物の発現を監視するために、感染していないSf9細胞、およびP1組み換えバキュロウイルスストックで感染したSf9細胞(感染72時間後に集めた。)を、蛍光顕微鏡を用い、受容体の発現について分析した。この目的のために、15μlの各細胞培養物を8ウェルのマイクロスライド(Ibidi、カタログ番号80821)中、1μgのマウス抗Flag(M2)モノクローナル抗体(Sigma、カタログ番号F3165)および1μgのFITCにコンジュゲート化したラット抗マウス−IgG(ebioscience、カタログ番号11−4011)を含む200μlのPBSで希釈し、暗状態で15分間インキュベーションした。細胞が表面接着したら、過剰な染色溶液を注意深く除去した。感染した細胞および感染していない細胞の画像を、Eclipse TE2000(Nikon)倒立顕微鏡を用いて撮影した。透過型顕微鏡法を用い、およびFITCフィルタを用いた蛍光透過型顕微鏡法を用い、画像を撮影した。すべての蛍光測定を、同じ露光設定を用いて行った。
【0191】
感染していないSf9細胞の蛍光画像と、β2AR365N−Nb80、β2AR365N−Nb71、β2AR365N−Nb69または融合していないβ2AR365Nを発現する細胞の蛍光画像とを比較し、キメラポリペプチドが、融合していない受容体と同様に(データは示さない。)、昆虫細胞の細胞表面で主に発現することを示す。
【0192】
[実施例4]
β2AR−ナノボディ融合物を発現する昆虫細胞からの膜の調製
組み換えβ2AR−Nb融合物を発現するSf9細胞の新鮮な50ml培養物の遠心分離によって得られる細胞ペレットを、プロテアーゼ阻害剤(10mMのTris/HCl pH7.4、1mMのEDTA、10μg/mlのロイペプチン、0.2mMのPMSF)を含有する8mlの溶解バッファーに懸濁させた。小さなガラスグラインダおよびテフロン乳棒を用い、再び懸濁させたペレットを十分に砕くことによって、細胞を溶解させた。26000gでの遠心分離によって、膜を回収した。膜ペレットを、1.5mlの保存バッファー(10mMのトリス/HCl pH7.4、1mMのEDTA、10%のサッカロース)に再懸濁させ、小分けして80℃で保存した。合計タンパク質濃度を、BCAタンパク質アッセイキット(Thermo Scientific Pierce、カタログ番号23225)を用い、製造業者の指示に従って測定した。バキュロウイルスに感染したSf9細胞におけるGPCR−ナノボディハイブリッドの発現は、ウェスタンブロット分析によってこれらのSf9膜のタンパク質含有量を分析することによって確認した(実施例5)。これらのGPCR−ナノボディハイブリッドの薬理特性を、放射性リガンド競争アッセイによって分析した(実施例6)。
【0193】
[実施例5]
ウェスタンブロットによって確認したβ2AR−ナノボディ融合タンパク質の発現
異なるバキュロウイルスに感染したSf9細胞の膜調製物(合計タンパク質25μg)を12.5%のSDS−PAGEゲルに乗せた。電気泳動の後、タンパク質をニトロセルロースシートに移し、4%の脱脂乳で膜をブロッキングした。この組み換えタンパク質の発現は、抗flag M2(Sigma、カタログ番号F3165)を一次抗体として用い、ブロットを発色させるために抗マウスアルカリホスファターゼコンジュゲート(Sigma、カタログ番号A3562)をNBTおよびBCIPと組み合わせて用いて検出した(
図3)。適切な分子量を有するバンド(それぞれ、ナノボディに融合したβ2ARおよび融合していないβ2ARについて、約57kDaおよび43kDa)の検出によって、生成したすべての構築物の融合タンパク質の発現を確認する。
【0194】
[実施例6]
比較放射性リガンド競争アッセイによる、β2AR−ナノボディ融合物の薬理特性の分析
異なるβ2AR365N−ナノボディ融合物の薬理特性を分析するために、本願発明者らは、天然アゴニストであるエピネフリン(Sigmaカタログ番号E4250)、(−)−イソプロテレノール塩酸塩(全アゴニスト、Sigmaカタログ番号I6504)、サルブタモール(パーシャルアゴニスト、Sigmaカタログ番号S8260)、ICI−118,551塩酸塩(インバースアゴニスト、Sigmaカタログ番号I127)またはアルプレノロール塩酸塩(ニュートラルアンタゴニスト、Sigmaカタログ番号A8676)およびカルベジロール(アンタゴニスト、Sigmaカタログ番号C3993)を競争剤として、ニュートラルアンタゴニスト[
3H]−ジヒドロアルプレノロールを放射性リガンドとして使用し、比較放射性リガンド競争実験を行った。異なるリガンドの薬理効果は、Kahsaiら.(2011)による。
【0195】
放射性リガンド競争結合実験を、β2AR365N(ナノボディが融合していない)、β2AR365N−Nb80、β2AR365N−Nb71またはβ2AR365N−Nb69のいずれかを発現するSf9昆虫細胞膜で行った。異なる組み換えタンパク質を発現するsf9細胞の膜(実施例2および4、合計タンパク質5μg)を、結合バッファー(75mMのTris pH7.5、12.5mMのMgCl2、1mMのEDTA、0.05%のBSA)中、10
−11Mから10
−4Mの範囲の濃度で、(−)−イソプロテレノール、エピネフリン、サルブタモール、ICI118,551またはアルプレノロールのいずれかと混合した。次に、それぞれの希釈物に放射性リガンド[
3H]−ジヒドロアルプレノロールを加え(最終濃度2nM)、振とうプラットフォームでサンプルを室温で2時間インキュベートした(アッセイ点あたりの合計反応容積は250μlであった。)。受容体が結合した放射性リガンドを、96ウェルのFilterMate収集器(Perkin Elmer)を用い、Whatman GF/Cユニフィルタ(Perkin Elmer、カタログ番号6005174)で、遊離した放射性リガンドから濾過によって分離した。濾過の後、フィルタプレートに保持された膜を、氷冷した洗浄バッファー(20mM Tris−HCl pH7.4)で洗浄し、フィルタを50℃で1時間乾燥させた。40μlのシンチレーション液(MicroScint(商標)−O、Perkin Elmer、カタログ番号6013611)を加えた後、フィルタ上に保持された放射活性(cpm)を、Wallac MicroBeta TriLuxシンチレーションカウンタで測定した。データは、3回ずつ行われた各実験の平均±SEM(平均の標準誤差)で表す。IC50値は、Prism(GraphPad Software、サンディエゴ、CA)によって、非線形回帰分析によって決定された。
【0196】
第1のシリーズの実験において、本願発明者らは、β2AR365N−Nb80融合物の薬理特性をβ2AR365N−Nb69キメラの薬理特性と比較した(
図4)。Nb80は、アゴニストが結合したβ2ARに選択的に結合するXaperoneであり、Gタンパク質様の挙動を示し、このため、アゴニスト・β2AR・Nb 80複合体中の受容体の活性な状態の立体構造を安定化する(Rasmussenら、2011b)。Nb69は、ラットムスカリン性受容体M3に特異的に結合するモックナノボディであり、β2ARに対する検出可能なアフィニティを有しない。本願発明者らは、β2AR365N−Nb80キメラの薬理特性が、コントロールであるNb69融合受容体の特性と顕著に異なることを発見した。Nb69キメラと比較して、Gタンパク質様の挙動を有するナノボディ(Nb80)に融合したβ2ARは、アゴニスト(エピネフリン、イソプロテレノール、サルブタモール)に対する増加したアフィニティと、インバースアゴニスト(ICI−118,551)に対する低下したアフィニティを示し、Nb80およびモック融合物に対する試験リガンドの変化したIC50によって例示される(表3)。このことから、β2AR365N−Nb80キメラは、コントロールであるモックβ2AR365N−Nb69キメラとは異なり、アゴニストに対する増加したアフィニティおよびインバースアゴニストに対する低下したアフィニティを特徴とする活性な状態の立体構造を採用していることがわかった。
【0197】
コントロールであるβ2AR365N−Nb69と比較して、天然アゴニストであるエピネフリンに対するβ2AR365N−Nb80キメラの増加したアフィニティは、β2AR365N−Nb69のIC50を、β2AR365N−Nb80のIC50
highで割り算することによって
図4Aに示される競争結合実験のIC50値の比率によって計算することができ、約2080の明らかな効力の変化が得られる。合成アゴニストであるイソプロテレノールに対するβ2AR365N−Nb80キメラの増加したアフィニティは、β2AR365N−Nb69のIC50をβ2AR365N−Nb80のIC50
highで割り算することによって、競争結合実験からのIC50の比率から計算することができ(
図4B)、約670の明らかな効力の変化が得られる。合成パーシャルアゴニストであるサルブタモールに対するβ2AR365N−Nb80キメラの増加したアフィニティは、β2AR365N−Nb69のIC50をβ2AR365N−Nb80のIC50
highで割り算することによって、
図4Dに示される競争結合実験からのIC50の比率から計算することができ、約370の明らかな効力の変化が得られる。
【0198】
同様に、コントロールであるβ2AR365N−Nb69と比較して、インバースアゴニストICI−118,551に対するβ2AR365N−Nb80キメラの低下したアフィニティは、β2AR365N−Nb69のIC50をβ2AR365N−Nb80のIC50で割り算することによって、
図4Eに示される競争結合実験からIC50値の比率から計算することができ、約0.023の明らかな効力の変化が得られる。
【0199】
特に、β2AR−Nb80融合物は、ニュートラルアンタゴニストアルプレノロールに対するアフィニティについて、コントロールであるβ2AR365N−Nb69キメラと比較して、ほとんど影響がない。アルプレノロールに対するβ2AR365N−Nb80およびβ2AR365N−Nb69のIC50(
図4C)は、実際に非常に類似しており、ニュートラルアンタゴニストが、異なる機能的な立体構造に結合する非選択的なリガンドであるという事実と一致する。
【0200】
注目すべきことに、β2AR−Nb80融合物は、アンタゴニストであるカルベジロールに対するアフィニティについて、コントロールであるβ2AR365N−Nb69キメラと比較して、ほとんど影響がない。β2AR365N−Nb80およびβ2AR365N−Nb69で検出されたカルベジロールのIC50(
図4F)は、実際に非常に類似している(2倍未満の差)。
【0201】
第2のシリーズの実験において、本願発明者らは、β2AR365N−Nb80融合物の薬理特性と、融合していないβ2AR365N受容体の薬理特性とを比較した(
図5)。Gタンパク質様の挙動を有するナノボディ(Nb80)に融合したβ2ARは、天然アゴニストのエピネフリンに対し、3桁大きなアフィニティを示し、このことは、β2AR365N−Nb80キメラが、融合していないコントロール受容体とは異なり、アゴニストに対する増加したアフィニティを特徴とする活性な状態の立体構造を採用していることを示している。コントロールの融合していないβ2AR365Nと比較して、天然アゴニストのエピネフリンに対するβ2AR365N−Nb80キメラの増加したアフィニティは、融合していないβ2AR365NのIC50をβ2AR365N−Nb80のIC50
highで割り算することによって、
図5Aに示される競争結合実験から、IC50の比率から計算することができ、約1370の明らかな効力の変化が得られる(表3)。
【0202】
注目すべきことに、β2AR−Nb80融合物は、コントロールである融合していないβ2AR365Nと比較して、アンタゴニストであるカルベジロールに対するアフィニティにほとんど影響がない。カルベジロールに対するβ2AR365N−Nb80および融合していないβ2AR365N−Nb69のIC50(
図5Bおよび表3)は、実際に非常に類似している。
【0203】
第3の実験において、本願発明者らは、β2AR365N−Nb71融合物の薬理特性を、β2AR365N−Nb69キメラの薬理特性と比較した(
図6および表3)。Nb71は、β2ARの活性な立体構造に選択的に結合する別のナノボディである(WO2012007594)。本願発明者らは、次のことを発見した。β2AR365N−Nb71キメラの薬理特性も、アゴニスト(イソプロテレノール、サルブタモール)に対する増加したアフィニティおよびインバースアゴニストICI−118,551に対する減少したアフィニティを示し、このことは、β2AR365N−Nb71キメラが、コントロールであるβ2AR365N−Nb69キメラとは異なり、アゴニストに対する増加したアフィニティおよびインバースアゴニストに対する減少したアフィニティを特徴とする活性な状態の立体構造を採用していることを示している。コントロールであるβ2AR365N−Nb69と比較し、天然アゴニストであるエピネフリンに対するβ2AR365N−Nb71キメラの増加したアフィニティは、β2AR365N−Nb69のIC50をβ2AR365N−Nb71のIC50
highで割り算することによって、
図6Aに示される競争結合実験から、IC50の比率から計算することができ、約2030の明らかな効力の変化が得られる。合成アゴニストであるイソプロテネロールに対するβ2AR365N−Nb71キメラの増加したアフィニティは、β2AR365N−Nb69のIC50をβ2AR365N−Nb71のIC50
highで割り算することによって、
図6Bに示される競争結合実験から、IC50の比率から計算することができ、約80の明らかな効力の変化が得られる。合成パーシャルアゴニストであるサルブタモールに対するβ2AR365N−Nb71キメラの増加したアフィニティは、β2AR365N−Nb69のIC50をβ2AR365N−Nb71のIC50
highで割り算することによって、
図6Dに示される競争結合実験から、IC50の比率から計算することができ、約450の明らかな効力の変化が得られる。
【0204】
同様に、コントロールであるβ2AR365N−Nb69と比較して、インバースアゴニストICI−118,551に対するβ2AR365N−Nb71キメラの減少したアフィニティは、β2AR365N−Nb69のIC50をβ2AR365N−Nb71のIC50で割り算することによって、
図6Eに示される競争結合実験から、IC50の比率から計算することができ、約0.01の明らかな効力の変化が得られる。
【0205】
特に、β2AR−Nb71融合物は、コントロールであるβ2AR365N−Nb69キメラと比較して、ニュートラルアンタゴニストアルプレノロールに対するアフィニティにほとんど影響がない。アルプレノロールに対するβ2AR365N−Nb71およびβ2AR365N−Nb69のIC50(
図6C)は、実際に非常に類似しており、ニュートラルアンタゴニストが、異なる機能的な立体構造に結合する非選択的なリガンドであるという事実と一致する。
【0206】
注目すべきことに、β2AR−Nb71融合物は、コントロールであるβ2AR365N−Nb69キメラと比較して、アンタゴニストであるカルベジロールに対するアフィニティにほとんど影響がない。カルベジロールに対するβ2AR365N−Nb71およびβ2AR365N−Nb69のIC50(
図6F)は、実際に非常に類似している。
【0207】
[実施例7]
β2AR−ナノボディ融合物の立体構造の熱安定性
GPCRの安定化のための1つの戦略は、即ち、改良された熱安定性を有する変異体についてスクリーニングするための、(放射性)リガンド存在下、熱安定性アッセイと組み合わせた全体的な突然変異に基づくGPCRの熱安定化である(Tate 2012)。残念なことに、アゴニスト存在下で熱安定化される受容体は、それぞれのアゴニストに対する顕著なアフィニティの増加を示さず(Serrano−Vegaら、2008、Shibataら、2009、Lebonら、2011)、このことは、これらの熱安定化された受容体が、この受容体の完全に活性な立体構造を採用していないことを示す。
【0208】
活性な状態のβ2AR受容体のすべての特性を有する融合タンパク質であるβ2AR365N−Nb80融合物が、増加した熱安定性を有するかどうかを調べるために、本願発明者らは、β2AR365N−Nb80およびβ2AR365N−Nb69について熱安定性アッセイを行ない、受容体の活性な立体構造を安定化するGタンパク質様の挙動を有するナノボディ(Nb80)もこの熱安定性を高めるかどうかを測定し、真に立体構造が熱安定化された受容体を生じる。
【0209】
受容体を可溶化するために、本願発明者らは、β2AR365N−Nb80またはβ2AR365N−Nb69のいずれかを発現するSf9細胞からの膜(合計膜タンパク質が約1mg)を、1%DDM(20mMのTris HCl、pH7.4、500mMのNaCl、1%のn−ドデシル β−D−マルトシド、10μg/mlのロイペプチド、0.2mMのPMSF)中、氷上で1時間インキュベートした。次に、不溶性の物質を17000gで5分間、遠心分離によって除去した。次いで、可溶化した受容体をバッファー(20mMのTris HCl、pH7.4、500mMのNaCl)で、DDM濃度が0.08%DDMになるまで希釈し、不溶性の物質を再び遠心分離によって除去した(20000g、4℃で20分間)。可溶化した受容体の小分け分20μlをアッセイバッファー(20mMのTris HCl、pH7.4、500mMのNaCl、1%のn−ドデシル β−D−マルトシド)で90μlになるまで希釈し、氷上で30分間放置した。
【0210】
リガンドが存在しない状態で、特定の温度で30分間、希釈した小分け分をインキュベートすることによって、熱安定性を評価した。30分後、過剰な放射性リガンド(最終濃度5nM)を各サンプルに加え、およびサンプルを氷上で45分間放置した。
【0211】
機能的な受容体の残りのフラクションを定量するために、氷冷したアッセイバッファーで平衡化したセファデックスG50カラム2mlを用いたゲル濾過によって、受容体に結合した放射性リガンドを遊離の放射性リガンドから分離した。受容体に結合した放射性リガンドを1mlの容積で集め、6mlのシンチレーション液(Optiphase Hisafe2、PerkinElmer、カタログ番号1200−436)で希釈し、液体シンチレーション分析機Tri−carb2810TR(Perkin Elmer)で、放射活性(cpm)を計測した。この非特異的な結合は、1μMの未標識アルプレノロールの存在下、タンパク質フラクションに残った放射活性を測定することによって概算された。
【0212】
データは、0℃での受容体が結合したリガンドに対し、所与の温度で受容体に特異的に結合する放射性リガンドの平均±SEM(実験は3回ずつ行った。)を表す。これらの実験は、0.08%のDDM中、可溶化されたβ2AR365N−Nb80キメラ(Tm=33℃)が、β2AR365N−Nb69(Tm=29℃)よりも高い熱安定性を有することを示す(
図7)。Nb80は、β2ARの活性な立体構造を安定化するため、本願発明者らは、β2AR365N−Nb80キメラが、立体構造が熱安定化された受容体を表すと結論付ける。
【0213】
[実施例8]
β2AR−ナノボディ融合物の薬理特性と、外から加えられたナノボディとの複合体において、融合していないβ2ARの薬理特性との比較
融合したNb80と、融合していないNb80とが、β2ARの活性な状態を安定化する有効性を比較するために、β2AR365N−Nb80融合物の薬理特性を、外から加えられたNb80との複合体において、融合していないβ2AR365Nと比較した。本願発明者らは、実施例6に記載したのと同様の比較放射性リガンド競争実験を行った。天然アゴニストであるエピネフリン(Sigmaカタログ番号E4250)を競争剤として、[
3H]−ジヒドロアルプレノロールを放射性リガンドとして使用した。β2AR365N−Nb69融合物と、外から加えられたNb69との複合体におけるβ2AR365Nをコントロールとして並行してアッセイした。
【0214】
β2AR365N(ナノボディが融合していない)、β2AR365N−Nb80またはβ2AR365N−Nb69のいずれかを発現するSf9昆虫細胞膜(合計タンパク質5μg)について、放射性リガンド競争結合実験を行った。β2AR365N−Nb80融合物またはβ2AR365N−Nb69融合物のいずれかを発現するSf9細胞の膜を、結合バッファー(75mMのTris pH7.5、12.5mMのMgCl2、1mMのEDTA、0.05%のBSA)中、10
−10Mから10
−4Mの範囲の異なる濃度のエピネフリンと混合した。並行して、50pMから500nMの範囲の異なる濃度の精製されたNb80またはNb69を、結合バッファー中で10
−10Mから10
−4Mの範囲の異なる濃度のエピネフリンと混合する前に、融合していないβ2AR365Nを発現するSf9細胞の膜に加えた。次に、それぞれの条件に、放射性リガンド[
3H]−ジヒドロアルプレノロールを加え(最終濃度が2nM)、振とうプラットフォームでサンプルを室温で2時間インキュベートした(アッセイ点あたりの合計反応容積は250μlであった。)。リガンドが結合した膜を厚め、放射活性を実施例6に記載するように測定した。データは、3回ずつ行った各データ点の平均±SEMを表す。
【0215】
データは、3回ずつ行った各実験の平均±SEMを表す。IC50値は、Prism(GraphPad Software、サンディエゴ、CA)によって、非線形回帰分析によって決定された。
【0216】
図8から観察することができるように、天然アゴニストであるエピネフリンに対する融合していないβ2AR365Nのアフィニティは、Nb80の濃度に依存して変わり、明らかなアフィニティの増加は、外から加えられたNb80の濃度の上昇に伴って起こった。500nMのNb80存在下、β2AR365Nのエピネフリンの効力の変化は、わずか87倍であり、一方、β2AR365N−Nb80融合物(モック融合物のIC50を、外から加えられたNb80存在下、融合していないβ2AR365N、およびβ2AR365N−Nb80のそれぞれのIC50によって割り算することによって計算される。)について534倍であった。5μMの外因性Nb80が存在するだけで、融合していないβ2AR365Nを用いて得られたIC50は、β2AR365N−Nb80融合物を用いて得られたIC50と同じである。天然アゴニストであるエピネフリンに対し、融合していないβ2AR365Nとβ2AR365N−Nb80融合物の匹敵するアフィニティを測定するために、5μMの遊離Nb80を、融合していない受容体に加えなければならない。従って、β2AR365N−Nb80融合物におけるNb80の効果的な分子内濃度は、500nMより高いように思われる。
【0217】
Sf9膜中のB2ARの量は、β2AR365N−Nb80融合物について、全膜タンパク質のmgあたり約20pmolであると決定された。従って、5μgのβ2AR365N−Nb80 Sf9膜は、約0.1pmolのβ2ARを含む。5μMの外から加えられたNb80(反応容積250μl中)は、約1.25nmolのNb80に対応する。受容体をこのエピネフリンが結合した活性な状態に拘束し、試験した条件で、β2AR−Nb80融合物と比較して同じ有効性を有するために、β2ARに12500倍モル過剰の外から加えられたNb80が必要であり、Nb80が融合しているかどうかにかかわらず、同じβ2ARの発現が推定される。
【0218】
活性な状態に拘束されたβ2ARと拘束されていないβ2ARとについて、比較放射性リガンド競争アッセイによって得られる結果(実施例6および8)によって、(パーシャル)アゴニスト(IC50の比率が10より大きい)を、アンタゴニストおよびインバースアゴニスト(IC50の比率が1未満)と区別することができる(表3)。細胞受容体シグナル伝達アッセイを必要とすることなく、nMからμM濃度での試験化合物(アゴニスト、パーシャルアゴニスト、アンタゴニスト、インバースアゴニスト)の作用態様を区別し、予想する能力は、化合物スクリーニングの強みである。
【0219】
[実施例9]
M2R−ナノボディ融合タンパク質構築物の作製
この実施例で記載されるGPCR−ナノボディ融合物は、ペプチドリンカーと接続した2種類の異なるタンパク質を含むキメラポリペプチドであり(GPCR M2ムスカリン性アセチルコリン受容体(M2R)、このリンカーGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGS(配列番号49)およびナノボディ)、すべてがアミノ末端からカルボキシ末端までこの順序で融合した。これらのタンパク質をコードする遺伝子を、以下に記載するように融合し(
図9)、pFastBac1ベクター内でクローン化した。
【0220】
GPCR部分は、合成によって合成され、インフルエンザウイルス(MKTIIALSYIFCLVFA;配列番号52)、その後、Flagエピトープ(DYKDDDD;配列番号50)、その後、TEV開裂部位(ENLYFQG;配列番号51)、その後、ヒトM2ムスカリン性アセチルコリン受容体のコード配列から誘導され、細胞内ループ3が欠失したMet1からArg466を包含し、アミノ酸Pro233からLys374までがThrおよびArgに置き換わった開裂可能なヘマグルチニン(HA)タンパク質シグナルペプチド(SP)をコードする。グリコシル化部位(M2Δi3R;配列番号5)を破壊するために、点変異(N2D、N3D、N6D、N9D)がこの構築物に導入された。Sf9細胞における受容体の細胞発現レベルを増加させるために、このムスカリン性受容体の遺伝子操作が行われた。
【0221】
Nb9−1(配列番号16)は、アゴニストが結合し、Gタンパク質様の挙動を示す(Gタンパク質模倣物とも呼ばれる。)M2Δi3Rに選択的に結合するナノボディであり、これにより、アゴニスト・M2Δi3R・Nb9−1複合体における受容体の活性な状態の立体構造を安定化する。M2Δi3R−Nb9−1融合物は、昆虫細胞の発現について最適化され、Geneartによって合成された(pMK−RQM2Δi3−Nb9−1;実験室参照番号CA7908;Life technologies)。受容体−ナノボディ融合物は、BglII−XbaIフラグメントとしてBamHI−XbaIが開いたpFastBac1ベクター中でクローン化され、pFastBac1−M2Δi3R−Nb9−1(実験室参照番号CA7911)が得られる。M2Δi3Rのオープンリーディングフレームのみをコードし、リンカーおよびナノボディを含まないコントロール構築物(pFastBac1−M2Δi3R;実験室参照番号CA7914)を、pMK−RQM2Δi3RからのBglII−XbaIフラグメント(Geneartによって合成、実験室参照番号7909)をpFastBac1ベクター中でクローン化することによって構築した。すべての構築物をE.coli Top10細胞に移した。M2Δi3Rコントロール構築物およびM2Δi3R−Nb融合構築物によってコードされるアミノ酸配列を
図9BおよびCに示す(配列番号5および6)。M2Δi3R−Nb9−8融合構築物を同様の様式で作製した。Nb9−8(配列番号17)は、Gタンパク質様の挙動を有するM2R特異的なナノボディの別の態様である(Kruse、2013)。
【0222】
[実施例10]
バキュロウイルスに感染したSf9細胞におけるM2Δi3R−ナノボディ融合物およびM2Δi3Rの発現
M2Δi3R−ナノボディ融合物をコードするバクミドを産生するために、1ngのpFastBac1−M2Δi3R−Nb9−1を、Bac−to−Bac(R)バキュロウイルス発現系を用い、製造業者の指示に従って、DH10Bac(商標)細胞内でトランスフェクションし、実施例2に記載するように一晩接種した。白色コロニーを取り出し、バクミドを精製し、オープンリーディングフレームの配列を再確認した。M2Δi3R−ナノボディ9−1バクミドおよびM2Δi3Rバクミドをトランスフェクションすることによって、組み換えバキュロウイルスをSf9細胞中で産生した。
【0223】
P1およびP2バキュロウイルスストックを実施例2に記載したように調製した。新しく成長させたSf9細胞を、4×10
6/mlの密度で、100倍希釈したP2バキュロウイルスストックで感染させることによって、M2Δi3RまたはM2Δi3R−Nb9−1融合物の組み換え発現を達成した。感染した細胞を27℃(130rpm)で48時間から60時間培養した後、集めた。GPCR−ナノボディハイブリッドの発現を、生きた細胞での蛍光顕微鏡観察によって確認した。この組み換えタンパク質を発現する細胞を氷冷PBS(pH7.4、1.5mMのEDTA)で2回洗浄し、ペレット化し、−80℃で保存した。
【0224】
[実施例11]
M2Δi3RまたはM2Δi3R−Nb融合物を発現する昆虫細胞からの膜の調製)
組み換えM2Δi3RまたはM2Δi3R−Nb融合物を発現するSf9細胞の新鮮な50ml培養物の遠心分離によって得られる細胞ペレットを、実施例4に記載するように膜抽出物へと処理し、実際に保存した。合計タンパク質濃度を、BCAタンパク質アッセイキットを用い、製造業者の指示に従って測定した。これらのGPCR−ナノボディハイブリッドの薬理特性を放射性リガンド競争アッセイによって分析した(実施例12)。
【0225】
[実施例12]
比較放射性リガンド競争アッセイによる、M2Δi3R−ナノボディ融合物の薬理特性の分析
M2Δi3R−ナノボディ融合物の薬理特性を分析するために、本願発明者らは、カルバコール(全アゴニスト、Sigmaカタログ番号C4382)およびオキソトレモリンM(アゴニスト、Sigmaカタログ番号O100)を競争剤として、[
3H]−Nメチルスコポラミン(Perkin Elmerカタログ番号NET636001MC)を放射性リガンドとして用い、比較放射性リガンド競争実験を行った。
【0226】
M2Δi3R(ナノボディが融合していない)またはM2Δi3R−Nb9−1のいずれかを発現するSf9昆虫細胞膜について、放射性リガンド競争結合実験を行った。異なる組み換えタンパク質を発現するSf9細胞の膜(実施例10および11、合計タンパク質10μg)を、結合バッファー(75mMのTris pH7.5、12.5mMのMgCl2、1mMのEDTA、0.05%のBSA)中、10
−9Mから10
−2Mの範囲の濃度で、カルバコールまたはオキソトレモリンMのいずれかと混合した。次に、それぞれの希釈物に放射性リガンド[
3H]−Nメチルスコポラミンを加え(最終濃度0.5nM)、振とうプラットフォームでサンプルを室温で2時間インキュベートした(アッセイ点あたりの合計反応容積は250μlであった。)。受容体が結合した放射性リガンドを、96ウェルのFilterMate収集器(Perkin Elmer)を用い、Whatman GF/Cユニフィルタ(Perkin Elmer、カタログ番号6005174)で、遊離した放射性リガンドから濾過によって分離した。濾過の後、フィルタプレートに保持された膜を、氷冷した洗浄バッファー(20mM Tris−HCl pH7.4)で洗浄し、フィルタを50℃で1時間乾燥させた。35μlのシンチレーション液(MicroScint(商標)−O、Perkin Elmer、カタログ番号6013611)を加えた後、フィルタ上に保持された放射活性(cpm)を、Wallac MicroBeta TriLuxシンチレーションカウンタで測定した。
【0227】
本願発明者らは、M2Δi3R−Nb9−1融合物の薬理特性と、M2Δi3Rの薬理特性とを比較した(
図10)。本願発明者らは、M2Δi3R−Nb9−1キメラの薬理特性が、コントロールM2Δi3Rの薬理特性と異なっていることを発見し、M2Δi3R−Nb9−1融合物およびM2Δi3Rに対する試験リガンドのIC50およびIC50の比率によって例示される(表4)。合成アゴニストであるカルバコールに対し、コントロールの融合していないM2Δi3Rと比較して、M2Δi3R−Nb9−1キメラの増加したアフィニティは、IC50
M2Δi3R/IC50
highM2Δi3R−Nb9−1の比率として計算され(
図10A)、約67の明らかな効力の変化が得られる。合成アゴニストオキソトレモリンMに対して得られるこの比率は316であり、M2Δi3R−Nb9−1キメラが、活性な状態の立体構造を採用していることを示す(
図10B)。同様に、M2Δi3R−Nb9−8融合物は、融合していないM2Δi3Rと比較して、合成アゴニストであるカルバコールに対し、高いアフィニティを有する(データは示さない。)。
【0228】
[実施例13]
β1AR−ナノボディ融合タンパク質構築物の生成
この実施例に記載されるGPCR−ナノボディ融合物は、ペプチドリンカーと接続した2種類の異なるタンパク質を含むキメラポリペプチドであり(β1アドレナリン作動性受容体(β1AR)、リンカーGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGS(配列番号60)およびナノボディ)、すべてがアミノ末端からカルボキシ末端までこの順序で融合した。これらのタンパク質をコードする遺伝子(
図F11A)を、以下に記載するように融合した。
【0229】
Geneartによって、合成β1AR遺伝子を合成した(pMK−RQ hbeta1AR;実験室参照番号CA CA7910)。これは、インフルエンザウイルス(MKTIIALSYIFCLVFA;配列番号52)、その後、Flagエピトープ(DYKDDDDA;配列番号53)、その後、TEV開裂部位(ENLYFQG;配列番号51)、その後、Pro50からArg401を包含するヒトβ1アドレナリン作動性受容体のコード配列(hβ1AR、Uniprot P08588)から誘導される開裂可能なヘマグルチニン(HA)タンパク質シグナルペプチド(SP)をコードする。β1ARコード配列は、Sf9細胞における受容体の細胞発現レベルを高めるために、細胞内ループ3(Ser260からGly304まで)の欠失と、2つの点変異C392S、C393Sを含む。β1ARおよびβ2ARのアミノ酸配列のアラインメントは、β2AR・G複合体中のNb80エピトープを構成するアミノ酸側鎖(Rasmussenら、2011a)が、β2AR中、リジンによって置き換わったR318(β1AR番号付け;Uniprot P08588)以外は、β1ARおよびβ2ARと同一であることを示す。この観察に基づき、1つのこれ以外の点変異R318Kが導入され、β1AR中、全Nb80エピトープを作製した。
【0230】
それぞれのナノボディをコードするナノボディ遺伝子セグメントを、実施例1に記載するプラスミドからクローン化した。Nb80(配列番号13)は、全アゴニスト、例えば、BI−167107に結合したβ2ARの活性な状態を安定化するβ2ARナノボディである(Rasmussenら、2011b)。Nb69(配列番号15)は、ムスカリン性3受容体に特異的であり、β2ARについて検出可能なアフィニティを有しない。
【0231】
β1AR受容体を、BamHIの開いたpFastBac β2AR365N−Nb80(CA6836)ベクターから、pMK−RQ hbeta1AR(実験室参照番号CA7910)からBglII−BamHIフラグメントとしてクローン化し、β2AR受容体を置き換え、pFastBac−hβ1AR−Nb80(実験室参照番号CA7923)が得られる。Nb69に接続したβ1ARオープンリーディングフレームをコードするコントロール構築物pFastBac−hβ1AR−Nb69(実験室参照番号CA7924)を、pFastBac β2AR365N−Nb69(CA6833)中、pMK−RQ hbeta1ARからの同じBglII−BamHIフラグメントをクローン化することによって構築し、β2AR受容体を置き換えた。すべての構築物をE.coli Top10細胞中で形質転換した。hbeta1AR−Nb融合構築物をコードするアミノ酸配列を
図11B−Cに示す(配列番号7および8)。
【0232】
[実施例14]
バキュロウイルスに感染したSf9細胞におけるβ1AR−ナノボディ融合物の発現
β1AR−ナノボディ融合物の1つをコードするバクミドを産生するために、1ngのpFastBac−hβ1AR−Nb80またはpFastBac−β1AR−Nb69を、製造業者の指示に従って、Bac−to−Bac(R)バキュロウイルス発現系を用い、DH10Bac(商標)細胞内で形質転換し、実施例2に記載されるように一晩接種した。白色コロニーを取り出し、バクミドを精製しオープンリーディングフレームの配列を再確認した。β1AR−Nb80バクミドおよびβ1AR−Nb69バクミドをトランスフェクションすることによって、組み換えバキュロウイルスをSf9細胞中で産生した。
【0233】
P1およびP2バキュロウイルスストックを実施例2に記載したように調製した。新しく成長させたSf9細胞を、4×10
6/mlの密度で、100倍希釈したP2バキュロウイルスストックで感染させることによって、β1AR−Nb80またはβ1AR−Nb69融合物の組み換え発現を達成した。感染した細胞を27℃(130rpm)で48時間から60時間培養した後、集めた。この組み換えタンパク質を発現する細胞を氷冷PBS(pH7.4、1.5mMのEDTA)で2回洗浄し、ペレット化し、−80℃で保存した。
【0234】
[実施例15]
hβ1AR−Nb80またはhβ1AR−Nb69融合物を発現する昆虫細胞からの膜の調製
組み換えhβ1AR−Nb80またはhβ1AR−Nb69融合物を発現するSf9細胞の新鮮な50ml培養物の遠心分離によって得られる細胞ペレットを、実施例4に記載するように膜抽出物へと処理し、実際に保存した。合計タンパク質濃度を、BCAタンパク質アッセイキットを用い、製造業者の指示に従って測定した。これらのGPCR−ナノボディハイブリッドの薬理特性を放射性リガンド競争アッセイによって分析した(実施例16)。
【0235】
[実施例16]
比較放射性リガンド競争アッセイによる、hβ1AR−ナノボディ融合物の薬理特性の分析
異なるhβ1AR−ナノボディ融合物の薬理特性を分析するために、本願発明者らは、天然アゴニストであるエピネフリン、次いで、インバースアゴニストICI−118,551塩酸塩またはニュートラルアンタゴニストアルプレノロール塩酸塩を競争剤として、ニュートラルアンタゴニスト[
3H]−ジヒドロアルプレノロールを放射性リガンドとして用い、比較放射性リガンド競争実験を行った。異なるリガンドの薬理特性は、Kahsaiら(2011)に従う。
【0236】
異なる組み換えタンパク質を発現するSf9細胞の膜(実施例14および15、合計タンパク質5μg)を、結合バッファー(75mMのTris pH7.5、12.5mMのMgCl2、1mMのEDTA、0.05%のBSA)中、10−
11Mから10
−4Mの範囲の濃度で、エピネフリン、ICI118,551またはアルプレノロールのいずれかと混合した。次に、それぞれの希釈物に放射性リガンド[
3H]−ジヒドロアルプレノロールを加え(最終濃度2nM)、振とうプラットフォームでサンプルを室温で2時間インキュベートした(アッセイ点あたりの合計反応容積は250μlであった。)。受容体が結合した放射性リガンドを、実施例6に記載するように、遊離放射性リガンドから分離した。データは、3回ずつ行われた各実験の平均±SEM(平均の標準誤差)で表す。IC50値は、Prism(GraphPad Software、サンディエゴ、CA)によって、非線形回帰分析によって決定された。
【0237】
このシリーズの実験において、本願発明者らは、hβ1AR−Nb80融合物の薬理特性と、hβ1AR−Nb69融合物の薬理特性とを比較した(
図12A)。本願発明者らは、hβ1AR−Nb80キメラの薬理活性が、コントロールであるNb69融合受容体の薬理特性と顕著に異なることを発見した。Nb69キメラと比較して、Gタンパク質様の挙動を有するナノボディ(Nb80)に融合したhβ1ARは、アゴニストであるエピネフリンに対する増加したアフィニティおよびインバースアゴニスト(ICI−118,551)に対する低下したアフィニティを示し、hβ1AR−Nb80融合物およびhβ1AR−Nb69融合物に対する試験リガンドの調整されたIC50によって例示される(表5)。これにより、hβ1AR−Nb80キメラは、コントロールであるモックβ2AR365N−Nb69キメラとは異なり、アゴニストに対する増加したアフィニティおよびインバースアゴニストに対する低下したアフィニティを特徴とする活性な状態の立体構造を採用していることがわかった。
【0238】
コントロールであるhβ1AR−Nb69と比較して、天然アゴニストであるエピネフリンに対し、hβ1AR−Nb80キメラの増加したアフィニティは、hβ1AR−Nb69のIC50を、hβ1AR−Nb80のIC50
highで割り算することによって
図12Aに示される競争結合実験のIC50値の比率によって計算することができ、約68の明らかな効力の変化が得られる。コントロールであるhβ1AR−Nb69と比較して、インバースアゴニストであるICI−118,551に対し、hβ1AR−Nb80キメラの低下したアフィニティは、hβ1AR−Nb69のIC50を、hβ1AR−Nb80のIC50
highで割り算することによって
図12Bに示される競争結合実験のIC50値の比率によって計算することができ、約0.077の明らかな効力の変化が得られる。
【0239】
特に、hβ1AR−Nb80融合物は、コントロールであるhβ1AR−Nb69キメラと比較して、ニュートラルアンタゴニストであるアルプレノロールに対するアフィニティについて、ほとんど影響がない。アルプレノロールに対するβ2AR365N−Nb80およびβ2AR365N−Nb69のIC50(
図12C)は、実際に非常に類似しており、ニュートラルアンタゴニストが、異なる機能的な立体構造に結合する非選択的なリガンドであるという事実と一致する。
【0240】
[実施例17]
β2AR−Nb60融合構築物の生成
この実施例に記載されるGPCR−ナノボディ融合物は、ペプチドリンカーと接続した2種類の異なるタンパク質を含むキメラポリペプチドであり(GPCR β2AR、リンカーGGGGSGGGS(配列番号51)およびNb60)、すべてがアミノ末端からカルボキシ末端までこの順序で融合した。これらのタンパク質をコードする遺伝子を、最低限調節しつつ実施例1に記載するように融合した。
【0241】
GPCR部分は、インフルエンザウイルス(MKTIIALSYIFCLVFA;配列番号52)、その後、Flagエピトープ(DYKDDDDA;配列番号53)、その後、TEV開裂部位(ENLYFQGF;配列番号54)、その後、Gly2からGly365を包含するヒトβ2アドレナリン作動性受容体のコード配列(配列番号55)によって誘導される開裂可能なヘマグルチニン(HA)タンパク質シグナルペプチド(SP)をコードするDNAから増幅された。N187Eの点変異は、この望ましくないグリコシル化部位を破壊するために、この構築物にも導入された(β2AR365N;Rasmussenら、2011b)。β2AR365Nに対するβ2アドレナリン作動性受容体の遺伝子操作が行われ、Sf9細胞における受容体の細胞発現レベルを増加させた。
【0242】
ナノボディ遺伝子セグメントは、Nb60をコードするファージミドから増幅された。Nb60(配列番号18)は、不活性なβ2ARの立体構造を安定化し、Gタンパク質の活性化およびβ−アレスチンの補充を顕著に阻害するβ2AR特異的なナノボディである(Stausら、2013)。
【0243】
GPCRおよびナノボディは、オーバーラップエクステンションPCRのフレーム内で遺伝的に融合した。従って、GPCR cDNAを含有する2ngのプラスミドを、50μlのPCR反応のテンプレートとして使用し(Phusion polymerase(Biolabs、カタログ番号M0530S)、プライマーEP232(5’−GCAGATCTCGGTCCGAAG−3’;配列番号61)およびプライマーEP207(5’−CCTCCGCCGGATCCGCCACCTCCTCCACTCTGCTCCCCTGTG−3’;配列番号57)を用い、β2ARをコードするDNA(CA6817)を増幅した。プライマーEP232は、コード配列の5’末端で、EcoRI制限部位の5’をアニーリングする。プライマーEP207は、受容体のC末端にGGGGSGGGS(配列番号51)リンカーの一部を組み込む。この反応の増幅条件は、融合物のオープンリーディングフレームをコードするGPCRを増幅させるために、98℃で30秒間、98℃で10秒間、64.5℃で30秒間、72℃で30秒間を25サイクル、その後、72℃で5分間であった。
【0244】
Nb60は、実施例1のナノボディと同一のN末端配列およびC末端配列を有する。このナノボディDNAを、50μlの反応中、2ngのテンプレート(CA2760)およびPhusionポリメラーゼを用い、実施例1に記載するように増幅した。以下の増幅条件を使用した。ハイブリッドの一部をコードするナノボディを増幅するために、98℃で30分間、98℃で10秒間および72℃で10秒間を25サイクル、その後、72℃で5分間であった。
【0245】
GPCRまたはナノボディをコードするPCRフラグメントを、新しい50μlのPCR反応中、PCR精製キット(Promega)をテンプレートとして用いて精製し、6ngのEP232−β2AR−EP207(EP232およびEP207は、PCR増幅に使用されたプライマーを指す。)によって増幅したPCRフラグメントを、約2ngの増幅したEP206−ナノボディ−EP202フラグメントと混合し、以下のようなオーバーラップエクステンションによって、Phusionポリメラーゼを用いて融合させた。98℃で30秒間での融解、および98℃で10秒間、72℃で30秒間を5サイクルの後、融合したβ2AR−ナノボディのオープンリーディングフレームを、プライマーEP232およびEP202を用いて25サイクル(98℃で10秒間、67℃で30秒間、72℃で40秒間)、その後、72℃で5分間増幅した。β2AR−Nb60のオープンリーディングフレームを含むPCRフラグメントを精製し、pFastBac1中でEcoRI−XbaIフラグメントとしてクローン化し、E.coli Top10中で形質転換した。プラスミドDNAを、1つのコロニーから調製し、オープンリーディングフレームの配列をシークエンシングによって確認した。構築物は、pFastBac β2AR365N−Nb60(実験室参照番号CA8235)と名付けられた。異なるβ2AR365N−Nb融合構築物によってコードされるアミノ酸配列を
図2Eに与える(配列番号4)。
【0246】
[実施例18]
バキュロウイルスに感染したSf9細胞におけるβ2AR−Nb60の発現およびβ2AR−Nb60融合物を発現する昆虫細胞からの膜の調製
Sf9細胞においてβ2AR365N−Nb60融合物を発現するために、β2AR−Nb60融合物をコードするバクミドを作製し、Sf9細胞を実施例2に記載するように感染させた。β2AR−Nb60融合物を発現する昆虫細胞からの膜を、実施例4に記載するように調製した。これらのGPCR−ナノボディハイブリッドの薬理特性を、放射性リガンド競争アッセイによって分析した(実施例19)。
【0247】
[実施例19]
比較放射性リガンド競争アッセイによるβ2AR−Nb60融合物の薬理特性の分析
β2AR365N−Nb60融合物の薬理特性を分析するために、本願発明者らは、天然アゴニストであるエピネフリン、(−)−イソプロテレノール塩酸塩(全アゴニスト)およびICI−118,551塩酸塩(インバースアゴニスト)を競争剤として、ニュートラルアンタゴニスト[
3H]−ジヒドロアルプレノロールを放射性リガンドとして用い、比較放射性リガンド競争実験を行った。異なるリガンドの薬理特性は、Kahsaiら.(2011)に従う。
【0248】
β2AR365N−Nb80、β2AR365N−Nb60またはβ2AR365N−Nb69のいずれかを発現するSf9昆虫細胞膜について、放射性リガンド競争結合実験を行った。異なる組み換えタンパク質を発現するSf9細胞の膜(実施例2および4、合計タンパク質5μg)を、結合バッファー(75mMのTris pH7.5、12.5mMのMgCl2、1mMのEDTA、0.05%のBSA)中、10
−11Mから10
−2Mの範囲の濃度で、エピネフリン、(−)−イソプロテレノールまたはICI118,551のいずれかと混合した。次に、それぞれの希釈物に放射性リガンド[
3H]−ジヒドロアルプレノロールを加え(最終濃度2nM)、振とうプラットフォームでサンプルを室温で2時間インキュベートした(アッセイ点あたりの合計反応容積は250μlであった。)。受容体が結合した放射性リガンドを、実施例6に記載するように、遊離放射性リガンドから分離した。データは、3回ずつ行われた各実験の平均±SEM(平均の標準誤差)で表す。IC50値は、Prism(GraphPad Software、サンディエゴ、CA)によって、非線形回帰分析によって決定された。
【0249】
これらの実験において、本願発明者らは、β2AR365N−Nb60融合物の薬理特性と、β2AR365N−Nb80およびβ2AR365N−Nb69キメラの薬理特性とを比較した(
図13A)。Nb60は、不活性なβ2AR立体構造を安定化すると主張されているナノボディであり(Stausら、2013)、Nb80は、アゴニストが結合したβ2ARに選択的に結合し、Gタンパク質様の挙動を示すナノボディであり、従って、アゴニスト・β2AR・Nb80複合体において、受容体の活性な状態の立体構造を安定化する(Rasmussenら、2011b)。Nb69は、ラットムスカリン性受容体M3に特異的に結合し、β2ARに対する検出可能なアフィニティを有しないモックナノボディである。本願発明者らは、β2AR365N−Nb60キメラの薬理特性が、コントロールであるNb69融合受容体の薬理特性と顕著に異なることを発見した。Nb69キメラと比較し、Nb60に融合したβ2ARは、アゴニスト(エピネフリン、イソプロテレノール)に対する低下したアフィニティを示し、インバースアゴニストICI−118,551に対するアフィニティにほとんど影響がなく、Nb60およびNb69融合物に対する試験リガンドの調整されたIC50によって例示される(表6)。これによって、β2AR365N−Nb60キメラは、コントロールであるモックβ2AR365N−Nb69キメラと異なり、アゴニストが結合した活性な状態の立体構造とは異なり、受容体の基本立体構造とは異なる立体構造を採用することがわかる。この立体構造は、アゴニストに対する低下したアフィニティを特徴とする。本願発明者らの結果は、異なるナノボディが、受容体の異なる立体構造状態を安定化することができることを明らかに示す。
【0250】
コントロールであるβ2AR365N−Nb69と比較して、天然アゴニストであるエピネフリンに対し、β2AR365N−Nb60キメラの低下したアフィニティ(β2AR365N−Nb80キメラの増加したアフィニティに対する。)は、β2AR365N−Nb69のIC50を、β2AR365N−Nb60のIC50で割り算することによって
図13Aに示される競争結合実験のIC50値の比率によって計算することができ、約0.0046の明らかな効力の変化が得られる(Nb69融合物と比較して、Nb80融合物の場合、約855に対する。)。合成アゴニストであるイソプロテネロールに対するβ2AR365N−Nb60の低下したアフィニティは、β2AR365N−Nb69のIC50を、β2AR365N−Nb60のIC50で割り算することによって競争結合実験のIC50値の比率によって計算することができ(
図13B)、約0.012の明らかな効力の変化が得られる(Nb69融合物と比較して、Nb80融合物の場合、約155に対する。)。
【0251】
[実施例20]
ミューオピオイド受容体−ナノボディ融合構築物の作製
Mor1 AA配列は、異なる哺乳動物種間で高度に保存されている。さらに具体的には、予想される細胞内トポロジカルドメイン(ICL+C末端)についてのマウス、ウシ、ブタおよびヒトMor1の間の交差種の配列同一性は、90%を超える。Nb33が、マウスMor1の細胞内エピトープと相互作用することが知られており、本願発明者らは、ICL2にたった1つの保存された置換(
図14の「:」によって示される。)、C末端に1つの半保存された置換(
図14で「.」によって示される。)が存在する場合、Nb33が、hMor1の活性な立体構造も安定化させることが予測される。
【0252】
この実施例に記載されるGPCR−ナノボディ融合物は、実施例1に記載されるものと類似するキメラポリペプチドをコードする。ここで、本願発明者らは、ナノボディNb33(実験室参照番号XA8633)に遺伝的に融合され、34AA Gly−Serリンカー(GGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGGSGGGS;配列番号62)によって分割されたヒトミューオピオイド受容体(hMor1、NCBI参照配列NM_000914.1)を記載する。hMor1をコードするオープンリーディングフレームを、昆虫細胞発現のために最適化し、GeneArt(Life Technologies)でEcoRI−HindIIIフラグメントとして特注で合成した。合成ハイブリッド遺伝子のイラストを
図15に表す。
図2Aに示されるβ2AR融合物と比較して、オピオイド受容体融合物に対し、(i)TEV開裂部位が除去され、(ii)β2AR365Nが、AA残基1−360をコードするヒトMor1 nt配列と置き換わり、さらなるAA残基2−5(DSSA)の欠失、この直後に、34GSリンカーの前に3C開裂部位挿入(LEVLFQGP)を有する。Nb33(実験室参照番号XA8633;配列番号19)は、G
i/oタンパク質様の挙動を示し(G
i/oタンパク質模倣物とも呼ばれる。)、アゴニスト・Mor1・Nb33複合体においてMor1の活性な状態の立体構造を選択的に安定化する。G
iと同様に、過剰量のNb33を加えると、アゴニストDmt1−Daldaに対するマウスMor1のアフィニティが少なくとも10倍増加する。融合構築物において、Nb33のコード配列を遺伝子操作し、FR1に固有のPstI制限部位を導入した。hMOR1−34GS−Nb33をコードする合成遺伝子を、EcoRI−HindIIIフラグメントとしてpFastBac1中でクローン化し、E.coli TG1に形質転換し、pFastBac1::hMOR1−34GS−Nb33(実験室参照番号XA8901)が得られる。この融合物のコードするAA配列を
図15Aに示す。並行して、無関係のナノボディを含むhMOR1の別の融合物を、主要な立体構造のMor1を発現するコントロール構築物として作製した。従って、pFastBac1::hMOR1−34GS−Nb33中のNb33コード配列を、ナノボディNb10(実験室参照番号CA4910)をコードする遺伝子セグメントによって交換した。Nb10(配列番号20)は、ケモカインGPCRの細胞外エピトープに特異的であり、Mor1に対する検出可能なアフィニティを有しない、十分に特性決定されたナノボディである。融合物のためのNb10コード遺伝子セグメントを調製するために、Nb10を、プライマーA6E(5’−GATGTGCAGCTGCAGGAGTCTGGRGGAGG−3’;配列番号63)を用い、ナノボディのFR1にPstI部位(VをQに変える。)および遺伝子IIIにオリゴハイブリダイズするGIII(5’−CCACAGACAGCCCTCATAG−3’;配列番号64)を導入し、PCRによって再び増幅した。テンプレートとして、Nb10遺伝子III融合物を発現するファージミドpXAP100の5ngのDNA調製物を使用した。この反応の増幅条件は、94℃で3分間、94℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で45秒間を25サイクル、その後、72℃で10分間であった。精製した後、アンプリコンを、PstI(オリゴA6Eによって導入)およびBstEII(FR4中の天然に生じる固有部位)で2回消化し、精製し、pFastBac1::hMOR1−34GS−Nb33から誘導される6.2kbpゲルの精製したPstI−BstEIIフラグメントに連結し、pFastBac1::hMOR1−34GS−Nb10が得られる。融合物hMOR1−34GS−Nb10のコードするAA配列(配列番号20)を
図15Cに示す。クローニング後、両融合構築物のプラスミドDNAを、1つのコロニーから調製し、ハイブリッド遺伝子の配列をシークエンシングによって確認した。
【0253】
[実施例21]
バキュロウイルスに感染したSf9細胞におけるミューオピオイド受容体−ナノボディ融合物の発現
Mor1−ナノボディ融合物をコードするバクミドを産生するために、5ngのpFastBac1::hMOR1−34GS−Nb33またはpFastBac1::hMOR1−34GS−Nb10を、DH10Bac(商標)細胞内で形質転換した。Sf9細胞中、Mor1−ナノボディバクミドをトランスフェクションすることによって、組み換えバキュロウイルスを産生した。P1組み換えバキュロウイルスを、Nb10融合物についてはトランスフェクションから72時間後、Nb33融合物については48時間後に集める以外は、実施例2に記載するように、セルフェクチンIIが介在するSf9トランスフェクションのために各バクミドを使用した。P1ウイルスストックを、液体窒素で凍結させた5%(最終濃度)のウシ胎児血清(FCS)を加えた培地上澄みを小分け分として−80℃で保存した。P1を新しいSf9培地で、1×10
6細胞/mlの密度で50から1000倍に希釈し、27℃、130rpmで培養することによって、P2組み換えバキュロウイルスストックを作製した。P2ウイルスストックを感染から48時間後および72時間後に遠心分離によって集め、さらに使用するまで、上述のように−80℃で保存した。細胞ペレットを、1.5mM EDTAを追加した氷冷PBS(Life Technologies、カタログ番号10010−023)で2回洗浄し、−80℃で保存し、膜を調製した。異なるMor1−Nb融合物の組み換え発現は、新しく成長させたSf9細胞を、2e6細胞/mlの密度で、50倍、200倍および1000倍に希釈したP2バキュロウイルスストックで感染させることによって達成した。ネガティブコントロール発現として、Sf9細胞を、Flagタグ付けした無関係なM2RのP2と並行して感染させた。感染した細胞を27℃(130rpm)で48時間培養した後、集めた。細胞ペレットを、氷冷PBS(pH7.4、1.5mMのEDTA)で2回洗浄し、膜を調製するまで−80℃で保存した。GPCR−ナノボディキメラの過剰発現は、フローサイトメトリーによって確認された(データは示さない。)。
【0254】
[実施例22]
比較放射性リガンド競争アッセイによる、hMOR1−Nb融合物の薬理特性の分析
天然のMor1の折り畳みおよびNb33による活性な立体構造異性体の安定化を確認するために、Sf9細胞におけるhMOR1−34GS−Nb33またはhMOR1−34GS−Nb10の過剰発現を、膜(P2)に対する放射性リガンドアッセイによって評価した。膜を調製するために、1E7 hMor1 Sf9細胞を小分けしたものを、プロテアーゼ阻害剤を含む氷冷却した溶解バッファー1mlに再懸濁させた(実施例4)。細胞懸濁物を、低容積Ultraturrax細胞混合機(IKA)を用い、6回の10秒のパルスを加え、氷上で均質化した。あらかじめ冷却しておいた遠心分離機において、細胞均質物を15000×gで35分間遠心分離処理した。上澄みを捨て、膜ペレットを75mMのTris HCl pH7.4、1mMのEDTA、5mMのMgCl2、10%のスクロースで再び懸濁させ、さらなる使用まで−80℃で保存した。膜調製物の合計タンパク質含有量は、BCAタンパク質アッセイキットを用い、製造業者の指示に従って決定された。
【0255】
ナノボディ融合物の組み換えMor1の過剰発現(hMOR1−34GS−Nb33およびhMOR1−34GS−Nb10膜;P2、72時間インキュベーション)を、合計(TB)および[3H]−ジプレノルフィンアンタゴニスト放射性リガンドの非特異的な(NS)結合を測定することによって、放射性リガンドアッセイで確認した(Perkin Elmer、cat nr NET1121)。
【0256】
組み換えMor1の薬理特性を、hMOR1−34GS−Nb33またはhMOR1−34GS−Nb10膜について(P2、発現72時間)、放射性リガンド競争アッセイで評価する(Manglikら、2012)。結合バッファーとして1%BSAを含有するTBB(75mMのTris−HCl pH7.4、1mMのEDTA、5mMのMgCl2、100mMのNaCl)中、15μgのhMor1−34GS−Nb33またはhMor1−34GS−Nb10 Sf9膜を96ウェルプレートに移す。その後、未標識アゴニスト競争剤(Dmt1−DaldaまたはKGOP01)またはアンタゴニスト(ナロキソン)の順次希釈物を加える。1nMの[
3H]−ジプレノルフィン(最終濃度)を加えた後、反応混合物(合計容積が125μl)を室温で1時間インキュベーションする。膜に結合した[3H]−ジプレノルフィンを、1%BSAを含むTBB中にあらかじめ浸しておいたWhatman GF/Cフィルタを通過させ、96ウェルのFilterMate収集器によって、結合していない放射性リガンドから分離し、氷冷したTBB中にあらかじめで洗浄した。フィルタを50℃で1時間乾燥させた。35μlのシンチレーション液(MicroScint(商標)−O)を加えた後、フィルタに保持された放射活性(cpm)を、Wallac MicroBeta TriLuxシンチレーションカウンタで測定した。残った放射性リガンド結合の割合を計算し、代表的な実験の曲線を
図16に表す。このグラフのそれぞれの値は、3回のデータ点の平均を表す。Prism(GraphPad Software、サンディエゴ、CA)を用い、1サイトフィットlogIC50式を用い、IC50を非線形回帰分析によって決定した。試験したすべてのリガンドについて得られたIC50を表xに示す。hMor1−34GS−Nb33およびhMor1−34GS−Nb10 Sf9膜に対するアゴニストDmt−DALDAのIC50は、それぞれ、655および18である。試験したそれぞれのアゴニストリガンド(Dmt1−DaldaまたはKGOP01)について、最も高いアフィニティ(最小IC50)は、hMor1−34GS−Nb10膜で得られる値と比較して、hMor1−34GS−Nb33膜で示される。それぞれのアゴニストについて、IC50比率が20以上であること(表7)は、活性な状態の拘束されたMor1受容体のために好ましいことを示す。アンタゴニストであるナロキソンの場合、IC50は、hMor1−34GS−Nb33で決定するか、またはhMor1−34GS−Nb10膜で決定するかによらず、顕著に異ならない。このデータは、Nb33融合物が、活性な立体構造異性体としてMor1を発現し、アンタゴニストであるナロキソンに対するアゴニストのアフィニティが高いことを裏付けている。
【0257】
[実施例23]
β2AR−Nb融合物に対する比較放射性リガンド置き換えアッセイを用いたフラグメントライブラリースクリーニング)
実施例6は、2AR365N−Nb80融合物の薬理特性が、β2AR365N−Nb69融合物と比較して、基本的に異なっていることを示し、Nb80融合物は、天然アゴニストおよび合成アゴニストに優先的に結合し、一方、インバースアゴニストに対する低いアフィニティを示す。実施例12、16、19は、さらに、特定のGPCR−Nb融合物の改変された薬理特性を示す。この知識に基づいて、本願発明者らは、これらの薬理学的違いを薬物開発に活用することができるか否かを試験した。
【0258】
一例として、本願発明者らは、β2AR365N−Nb69と比較して、β2AR365N−Nb80に対して異なるアフィニティで結合するフラグメントを特定するために、フラグメントライブラリーをスクリーニングした。
【0259】
β2AR365N−Nb69と比較して、β2AR365N−Nb80に対して異なるアフィニティで結合するフラグメントを特定するために、本願発明者らは、立体構造選択的なフラグメントのために、分子量が80から300Daの範囲のフラグメントを含むMaybridge RO3フラグメントライブラリーの1000フラグメントをスクリーニングした。すべてのフラグメントを、濃度200mMで100%DMSOに溶解した。第1に、1000種類の異なるMaybridgeフラグメントを100%DMSOで20mMまで希釈し、次いで、これを結合バッファー(75mMのTris pH7.5、12.5mMのMgCl2、1mMのEDTA、0.05%のBSA)で40倍に希釈した。比較放射性リガンド競争結合実験において、β2AR365N−Nb80融合物を発現するSf9細胞の膜(100μlの結合バッファー中、合計タンパク質5μg)を、12個の96ウェルプレート中、100μlのそれぞれの1000種類の希釈したフラグメントと混合した。並行して、β2AR365N−Nb69融合物を発現するSf9細胞の膜(100μlの結合バッファー中、合計タンパク質5μg)を、別個のシリーズの96ウェルプレート中、100μlのそれぞれの同じ1000種類の希釈したフラグメントと混合した。次に、それぞれのサンプル(合計で2000サンプル)に、放射性リガンド[
3H]−ジヒドロアルプレノロールを加え(50μl、最終濃度2nM)、振とうプラットフォームですべてを室温で2時間インキュベートした(アッセイ点あたりの合計反応容積は250μlであった。)。それぞれのフラグメントの最終的なスクリーニング濃度は、200μMであった。各96ウェルプレートには、コントロールとしてのエピネフリン(1E−7M)およびアルプレノロール(1E−6M、1E−8M)とともにインキュベートした膜も含まれていた。膜を集め、残った[
3H]−ジヒドロアルプレノロール放射活性を実施例6に記載するように測定した。ほとんどのフラグメントが、放射性リガンドを示さないという推論から、本願発明者らは、各96ウェルプレートについて、(コントロールを除き)ウェルあたりの平均計測数を計算し、この平均値を使用し、このプレートでのすべてのデータ点を正規化した(%で表される。)。これらの正規化したデータを使用し、β2AR365N−Nb69について得られた正規化した値を、β2AR365N−Nb80について得られた正規化した値で割り算することによって、β2AR365N−Nb69と比較して、β2AR365N−Nb80に対する各フラグメントの結合を比較した。1より大きな比率は、フラグメントがβ2AR365N−Nb80に選択的である(高いアフィニティを有する。)ことを示す。1より低い比率は、フラグメントが、β2AR365N−Nb69に選択的であることを示す。
【0260】
このアッセイの再現性を測定するために、β2AR365N−Nb80に最も選択的な44フラグメント、β2AR365N−Nb69に最も選択的な44フラグメントおよびβ2AR365N−Nb80およびβ2AR365N−Nb69に対し同様の程度まで放射性リガンドを示す44フラグメントを、2個ずつ再びアッセイし、3つの独立したアッセイのデータを用い、もう1回ランク分けした。この比較アッセイによって、以下の3つの別個の機能性プロフィールにヒットするβ2ARフラグメントを分類することができる。
【0261】
・それぞれ、天然および合成のβ2ARアゴニストであるエピネフリンおよびイソプロテレノールと同様に(アゴニストプロフィール)、β2AR365N−Nb69と比較して、β2AR365N−Nb80の方に選択的なフラグメント。
【0262】
・アルプレノロールと同様に(アンタゴニストプロフィール)、β2AR365N−Nb80およびβ2AR365N−Nb69について同様の程度に放射性リガンドを示すフラグメント。
【0263】
・ICI118551と同様に(インバースアゴニストプロフィール)、β2AR365N−Nb80と比較して、β2AR365N−Nb69の方に選択的なフラグメント。
【0264】
代表的な例として、6フラグメントの[
3H]−ジヒドロアルプレノロール結合%を
図17に示し、本願発明者らは、この有効性に従って、異なるフラグメントのプロフィールを描くことができることを示す。アゴニストプロフィールを有する12の最も高いランクのフラグメントから、AC23506、CC56213によって表される2フラグメントは、β2ARの活性な立体構造に優先的に結合し、インバースアゴニストプロフィールを有する最も高いランクのフラグメントから、2フラグメント(KM08985、AW00189)は、主要な立体構造に優先的に結合し(インバースアゴニストプロフィール)、2フラグメント(CC46746、CC44914)は、同じアフィニティで両方の立体構造に結合する(アンタゴニストプロフィール)。注目すべきことに、アゴニストプロフィールを有する上位12ヒットのうち、1つのフラグメントのみが、内因性の幾つかの合成β2ARアゴニストに特徴的なカテコールアミン構造を有する。
【0265】
[実施例24]
比較放射性リガンド競争アッセイによって選択されたフラグメントの活性プロフィールの分析
12がアゴニスト活性プロフィールを有し、3がアンタゴニスト活性プロフィールを有し、3がインバースアゴニスト活性プロフィールを有する、選択された18フラグメントヒットのプロフィールを、その後、実施例6に記載するように、β2AR365N−Nb69融合物に対するβ2AR365N−Nb80融合物の用量応答曲線を比較することによって確認した。簡単に説明すると、異なる組み換え融合タンパク質を発現するSf9細胞の膜を、結合バッファー中、4×10
−7Mから4×10
−4Mの範囲の濃度でそれぞれの18フラグメントヒットと混合し、放射性リガンド[
3H]−ジヒドロアルプレノロールをそれぞれの混合物に加え、振とうプラットフォームでサンプルを室温で2時間インキュベートした。実施例6に記載するように、受容体が結合した放射性リガンドを遊離の放射性リガンドから分離した。データは、3回ずつ行われた各実験の平均±SD(平均の標準偏差)で表す。グラフは、Prism(GraphPad Software、サンディエゴ、CA)を用い、非線形回帰分析によって作成された。β2AR365N−Nb69融合物(受容体の主要な立体構造)に対し、活性な状態で安定化されたβ2AR365N−Nb80融合物の用量応答曲線は、実施例23で選択された18フラグメントの活性プロフィールを確認する。驚くべきことに、アゴニストプロフィールに属する12の特定されたフラグメントのうち、11が、アゴニスト活性を有するβ2ARリガンドに全く関係がなかった。(それぞれの活性プロフィール(アゴニスト、アンタゴニスト、インバースアゴニスト)についての2フラグメントの用量応答曲線の代表例を
図18に示す。)フラグメントAC23506、CC56213は、明らかに、β2AR365N−Nb69融合物よりも、活性な状態で安定化されたβ2AR365N−Nb80融合物に高いアフィニティで結合する(
図18A)。フラグメントKM08985、AW00189について、本願発明者らは、この反対であることがわかり(
図18C)、一方、アンタゴニストプロフィールを有するフラグメントCC46746、CC44914は、同じアフィニティで両方の立体構造に結合する(
図18B)。
【0266】
[実施例25]
比較放射性リガンドアッセイによる精巧なフラグメントの薬理特性の分析
比較放射性リガンドアッセイが、アゴニストプロフィールを有するフラグメントの精巧さを導くことができることを示すために、フラグメントCC56213は、精巧にするために用量応答曲線に基づいて選択された。その後、実施例6に記載するように、(
図19)のように、複数の化学改変体を比較放射性リガンドアッセイで試験した。簡単に説明すると、β2AR365N−Nb80融合物またはβ2AR365N−Nb69融合タンパク質を発現するSf9細胞の膜を、それぞれの精巧なフラグメント(化合物8、9、10と呼ばれる。)および元々のフラグメントCC56213と、結合バッファー中、10
−9Mから10
−3Mの範囲の濃度で混合し、放射性リガンド[
3H]−ジヒドロアルプレノロールをそれぞれの混合物に加え、振とうプラットフォームでサンプルを室温で2時間インキュベートした。受容体が結合した放射性リガンドを実施例6に記載するように遊離放射性リガンドから分離した。データは、3回ずつ行われた各実験の平均±SEM(平均の標準誤差)で表す。グラフは、Prism(GraphPad Software、サンディエゴ、CA)を用い、非線形回帰分析によって作成された。
【0267】
化合物8は、元々のフラグメントと比較して、アフィニティが低下しており(データは示さず)、一方、化合物9および10は、元々のフラグメントCC56213と比較して、効力が増加していた。元々の化合物と比較して、精巧に作られたフラグメント(化合物9、10)の向上したアフィニティは、それぞれのβ2AR立体構造異性体についてIC50を計算することによって示された。コントロールであるβ2AR365N−Nb69と比較して、精巧に作られた化合物9および10および元々のフラグメントCC56213に対するβ2AR365N−Nb80キメラの増加したアフィニティは、
図19に示される競争結合実験から、β2AR365N−Nb69のIC50を、β2AR365N−Nb80のIC50で割り算することによって、IC50値の比率から計算することができ、それぞれ化合物9、10、CC56213について、約71、94、22の明らかな効力の変化が得られる。特に、化合物10は、この元々のフラグメントCC56213より強力なだけではなく、活性な状態で安定化されたβ2ARに対する選択性が5倍大きい。
【0268】
[実施例26]
ADRB2 cAMP Biosensor Assays(HitHunter−DiscoveRx)を用いたアゴニズムのためのプロフィール
「アゴニストプロフィール」を有するフラグメント(実施例23および24に記載される12フラグメント)が、β2ARシグナル伝達を誘発することができるか否かを試験するために、実施例23からの18フラグメントを、細胞アッセイにおいて2種類の濃度(2mMおよび100μM)で、DiscoveRx装置で試験し、Gタンパク質が介在するβ2ARの活性化を測定する。HitHunterアッセイ中のDMSO%は1%以下であり、この濃度は、使用したβ2AR細胞では毒性でないことが示された。コントロールとして、エピネフリン(1μMおよび50nM)およびアルプレノロール(0.1μMおよび5nM)がこのアッセイに含まれていた。HitHunter(R)cAMPアッセイ(DiscoveRx)は、セカンドメッセンジャーcAMP蓄積によるGPCRの活性化を監視する。コントロールアゴニストイソプロテレノールによって生じるcAMPの最大合成を100%に設定し、試験した化合物のアゴニスト挙動を、イソプロテレノールアゴニズムに対して表した(データは示さない。)。顕著なことに、試験した濃度で、HitHunterバイオアッセイは、CC56213を含む3種類のフラグメントのみを特定し、検出可能で用量依存性のβ2ARシグナル伝達活性を生じる。多くのフラグメントが、mM濃度で細胞にとって毒性であり、細胞アッセイで特定されないことは、フラグメントライブラリーのよく知られた特徴である。従って、本願発明者らは、現時点でフラグメントスクリーニングおよびHTSに使用される細胞アッセイで特定することができない特定の生体活性プロフィールを有する複数のフラグメントを特定することができるようである。
【0269】
【表1】
【0270】
【表2】
【0271】
【表3】
【0272】
【表4】
【0273】
【表5】
【0274】
【表6】
【0275】
【表7】
【0276】
【表8】