【実施例】
【0014】
図1は、本発明の一実施例としてのハイブリッド自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例のハイブリッド自動車20は、
図1に示すように、エンジン22と、プラネタリギヤ30と、ワンウェイクラッチC1と、モータMG1,MG2と、インバータ41,42と、バッテリ50と、充電器60と、ハイブリッド用電子制御ユニット(以下、「HVECU」という)70と、を備える。
【0015】
エンジン22は、ガソリンや軽油などを燃料として動力を出力する内燃機関として構成されている。このエンジン22は、エンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)24によって運転制御されている。
【0016】
エンジンECU24は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM,データを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。エンジンECU24には、エンジン22を運転制御するのに必要な各種センサからの信号、例えば、クランクポジションセンサ23からのクランク角θcrなどが入力ポートを介して入力されている。エンジンECU24からは、エンジン22を運転制御するための各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。エンジンECU24は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。エンジンECU24は、クランクポジションセンサ23からのクランク角θcrに基づいて、クランクシャフト26の回転数、即ち、エンジン22の回転数Neを演算している。
【0017】
プラネタリギヤ30は、シングルピニオン式の遊星歯車機構として構成されており、外歯歯車のサンギヤ31と、内歯歯車のリングギヤ32と、サンギヤ31およびリングギヤ32に噛合する複数のピニオンギヤ33と、複数のピニオンギヤ33を自転かつ公転自在に保持するキャリヤ34と、を有する。サンギヤ31には、モータMG1の回転子が接続されている。リングギヤ32には、駆動輪39a,39bにデファレンシャルギヤ38およびギヤ機構37を介して連結された駆動軸36が接続されている。キャリヤ34には、エンジン22のクランクシャフト26が接続されている。したがって、モータMG1,エンジン22,駆動軸36は、プラネタリギヤ30の共線図において、この順に並ぶように、プラネタリギヤ30の3つの回転要素としてのサンギヤ,キャリヤ,リングギヤに接続されていると言える。
【0018】
ワンウェイクラッチC1は、エンジン22のクランクシャフト26(プラネタリギヤ30のキャリヤ34)と、車体に固定されたケース21と、に取り付けられている。このワンウェイクラッチC1は、ケース21に対するエンジン22の正回転を許容すると共にケース21に対するエンジン22の負回転を規制(禁止)する。
【0019】
モータMG1は、例えば同期発電電動機として構成されており、上述したように、回転子がプラネタリギヤ30のサンギヤ31に接続されている。モータMG2は、例えば同期発電電動機として構成されており、回転子が減速ギヤ35を介して駆動軸36に接続されている。インバータ41,42は、モータMG1,MG2に接続されると共にバッテリ50に電力ライン54を介して接続されている。電力ライン54には、平滑用のコンデンサ57が取り付けられている。モータMG1,MG2は、モータ用電子制御ユニット(以下、「モータECU」という)40によって、インバータ41,42の図示しない複数のスイッチング素子がスイッチング制御されることにより、回転駆動される。
【0020】
モータECU40は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM,データを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。モータECU40には、モータMG1,MG2を駆動制御するのに必要な各種センサからの信号、例えば、モータMG1,MG2の回転子の回転位置を検出する回転位置検出センサ43,44からの回転位置θm1,θm2などが入力ポートを介して入力されている。モータECU40からは、インバータ41,42の複数のスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。モータECU40は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。モータECU40は、回転位置検出センサ43,44からのモータMG1,MG2の回転子の回転位置θm1,θm2に基づいて、モータMG1,MG2の回転数Nm1,Nm2を演算している。
【0021】
バッテリ50は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池として構成されており、上述したように、インバータ41,42に電力ライン54を介して接続されている。このバッテリ50は、バッテリ用電子制御ユニット(以下、「バッテリECU」という)52によって管理されている。
【0022】
バッテリECU52は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM,データを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。バッテリECU52には、バッテリ50を管理するのに必要な各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。バッテリECU52に入力される信号としては、以下のものを挙げることができる。
・バッテリ50の端子間に設置された電圧センサ51aからの電池電圧Vb
・バッテリ50の出力端子に取り付けられた電流センサ51bからの電池電流Ib(バッテリ50から放電するときが正の値)
・バッテリ50に取り付けられた温度センサ51cからの電池温度Tb
【0023】
バッテリECU52は、HVECU70と通信ポートを介して接続されている。バッテリECU52は、電流センサ51bからの電池電流Ibの積算値に基づいて蓄電割合SOCを演算している。蓄電割合SOCは、バッテリ50の全容量に対するバッテリ50から放電可能な電力の容量の割合である。また、バッテリECU52は、演算した蓄電割合SOCと、温度センサ51cからの電池温度Tbと、に基づいて入出力制限Win,Woutを演算している。入力制限Winは、バッテリ50を充電してもよい許容充電電力であり、出力制限Woutは、バッテリ50から放電してもよい許容放電電力である。
【0024】
充電器60は、電力ライン54に接続されており、AC/DCコンバータと、DC/DCコンバータと、を備える。AC/DCコンバータは、電源プラグ61を介して供給される外部電源からの交流電力を直流電力に変換する。DC/DCコンバータは、AC/DCコンバータからの直流電力の電圧を変換してバッテリ50側に供給する。この充電器60は、電源プラグ61が家庭用電源などの外部電源に接続されているときに、HVECU70によって、AC/DCコンバータとDC/DCコンバータとが制御されることにより、外部電源からの電力をバッテリ50に供給する。
【0025】
HVECU70は、図示しないが、CPUを中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPUの他に、処理プログラムを記憶するROM,データを一時的に記憶するRAM,入出力ポート,通信ポートを備える。HVECU70には、各種センサからの信号が入力ポートを介して入力されている。HVECU70に入力される信号としては、以下のものを挙げることができる。
・イグニッションスイッチ80からのイグニッション信号
・シフトレバー81の操作位置を検出するシフトポジションセンサ82からのシフトポジションSP
・アクセルペダル83の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ84からのアクセル開度Acc
・ブレーキペダル85の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ86からのブレーキペダルポジションBP
・車速センサ88からの車速V
・モードスイッチ89からのモード信号
【0026】
ここで、モードスイッチ89は、ノーマルモードと、ノーマルモードに比してパワーの出力を優先するパワーモードと、ノーマルモードに比して燃費を優先するエコモードと、の間で走行モードの切替を運転者が指示するためのスイッチである。
【0027】
HVECU70からは、充電器60への制御信号などが出力ポートを介して出力されている。HVECU70は、上述したように、エンジンECU24,モータECU40,バッテリECU52と通信ポートを介して接続されている。
【0028】
こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20では、CD(ChargeDepleting)モードまたはCS(ChargeSustaining)モードにおいて、ノーマルモード,パワーモード,エコモードの何れかの走行モードで、ハイブリッド走行(HV走行)または電動走行(EV走行)によって、アクセル開度Accと車速Vとに応じた駆動軸36の要求トルクTp*を用いて走行するようにエンジン22とモータMG1,MG2とを制御する。
【0029】
ここで、CDモードは、HV走行とEV走行とのうちEV走行をCSモードよりも優先するモードである。実施例では、システム起動したときにバッテリ50の蓄電割合SOCが閾値Shv1(例えば45%,50%,55%など)よりも大きいときには、バッテリ50の蓄電割合SOCが閾値Shv2(例えば25%,30%,35%など)以下に至るまでは、CDモードで走行し、バッテリ50の蓄電割合SOCが閾値Shv2以下に至った以降は、システム停止するまでCSモードで走行するものとした。また、システム起動したときにバッテリ50の蓄電割合SOCが閾値Shv1以下のときには、システム停止するまでCSモードで走行するものとした。なお、自宅などの充電ポイントでシステムが停止しているときに電源プラグ61が外部電源に接続されると、充電器60を制御することにより、外部電源からの電力を用いてバッテリ50を充電する。
【0030】
また、HV走行は、エンジン22(プラネタリギヤ30のキャリヤ34)を回転状態として、エンジン22を運転しながら走行するモードである。EV走行は、エンジン22(プラネタリギヤ30のキャリヤ34)を回転規制状態として、エンジン22を運転せずに少なくともモータMG2からのトルクによって走行するモードである。EV走行には、モータMG2からのトルクだけによって走行する単駆動と、モータMG1およびモータMG2からのトルクによって走行する両駆動と、がある。
【0031】
HV走行,EV走行(単駆動,両駆動)のときには、HVECU70とエンジンECU24とモータECU40との協調制御によって、エンジン22とモータMG1,MG2とを制御する。以下、EV走行(単駆動,両駆動),HV走行の順に説明する。
【0032】
図2,
図3は、それぞれ、単駆動のとき,両駆動のときのプラネタリギヤ30の共線図の一例を示す説明図である。
図2,
図3中、S軸は、サンギヤ31の回転数であると共にモータMG1の回転数Nm1を示し、C軸は、キャリヤ34の回転数であると共にエンジン22の回転数Neを示し、R軸は、リングギヤ32の回転数であると共に駆動軸36の回転数Npを示し、M軸は、減速ギヤ35の減速前のギヤの回転数であると共にモータMG2の回転数Nm2を示す。「ρ」は、プラネタリギヤ30のギヤ比(サンギヤ31の歯数/リングギヤ32の歯数)を示し、「Gr」は、減速ギヤ35の減速比を示す。
図2中、M軸の太線矢印は、モータMG2から出力しているトルクTm2を示し、R軸の太線矢印は、モータMG2から出力されて駆動軸36に作用するトルク(Tm2・Gr)を示す。
図3中、S軸の太線矢印は、モータMG1から出力しているトルクTm1を示し、M軸の太線矢印は、モータMG2から出力しているトルクTm2を示し、R軸の2つの太線矢印は、モータMG1,MG2からトルクTm1,Tm2を出力しているときに駆動軸36に作用するトルク(−Tm1/ρ+Tm2・Gr)を示す。
【0033】
以下、共線図において、回転数については、
図2,
図3の値0よりも上側を正回転とすると共に
図2,
図3の値0よりも下側を負回転とし、トルクについては、
図2,
図3の上向きを正とすると共に
図2,
図3の下向きを負とする。この場合、モータMG2の回転数Nm2と駆動軸36の回転数Npとの符号は互いに異なるから、減速ギヤ35の減速比Grは、負の値となる。
【0034】
単駆動のときには、HVECU70は、まず、走行モード(ノーマルモード,パワーモード,エコモード)とアクセル開度Accと車速Vとに基づいて走行に要求される要求トルクTp*を設定する。ここで、要求トルクTp*は、実施例では、走行モードとアクセル開度Accと車速Vと要求トルクTp*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとして図示しないROMに記憶しておき、走行モードとアクセル開度Accと車速Vとが与えられると、このマップから対応する要求トルクTp*を導出して設定するものとした。要求トルク設定用マップの一例を
図4に示す。
図4(a)は、ノーマルモードのときのマップを示し、
図4(b)は、パワーモードのときのマップを示し、
図4(c)は、エコモードのときのマップを示す。また、
図4(b)および
図4(c)では、比較のために、ノーマルモードのときのアクセル開度Accと車速Vと要求トルクTp*との関係を破線で示した。図示するように、実施例では、同一のアクセル開度Accに対する要求トルクTp*が、パワーモード,ノーマルモード,エコモードの順に小さくなるように定めるものとした。なお、ノーマルモード,パワーモードがそれぞれ本発明の「第1走行モード」,「第2走行モード」に相当すると考えることもできるし、エコモード,ノーマルモードがそれぞれ本発明の「第1走行モード」,「第2走行モード」に相当すると考えることもできる。
【0035】
続いて、モータMG1のトルク指令Tm1*に値0を設定すると共に、バッテリ50の入出力制限Win,WoutおよびモータMG2の負側(
図2の下向き側)の定格トルクTm2rt1の範囲内で要求トルクTp*が駆動軸36に出力されるようにモータMG2のトルク指令Tm2*を設定する。ここで、モータMG2の負側の定格トルクTm2rt1は、モータMG2の回転数Nm2の絶対値が大きいほど絶対値が小さくなる。そして、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する。モータECU40は、モータMG1,MG2がトルク指令Tm1*,Tm2*で駆動されるようにインバータ41,42の複数のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0036】
これにより、
図2に示すように、モータMG2から負のトルクTm2を出力して駆動軸36に正のトルク(Tm2・Gr)を作用させて走行することができる。なお、単駆動で駆動軸36に出力可能な単駆動最大トルクTpmax1は、モータMG2の負側の定格トルクTm2rt1に減速ギヤ35の減速比Grを乗じた値(Tm2rt1・Gr)に等しい。これは、
図2の共線図から容易に導くことができる。この単駆動最大トルクTpmax1は、駆動軸36の回転数Npが大きいほど小さくなる。
【0037】
両駆動のときには、HVECU70は、まず、単駆動のときと同様に要求トルクTp*を設定する。続いて、バッテリ50の入出力制限Win,WoutおよびモータMG1,MG2の負側(
図3の下向き側)の定格トルクTm1rt1,Tm2rt1の範囲内で要求トルクTp*が駆動軸36に出力されるようにモータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定する。ここで、モータMG1の負側の定格トルクTm1rt1は、モータMG1の回転数Nm1の絶対値が大きいほど絶対値が小さくなる。そして、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する。モータECU40は、上述のようにインバータ41,42の複数のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0038】
これにより、
図3に示すように、モータMG1,MG2から負のトルクTm1,Tm2を出力して駆動軸36に正のトルク(−Tm1/ρ+Tm2・Gr)を作用させて走行することができる。なお、両駆動で駆動軸36に出力可能な両駆動最大トルクTpmax2は、モータMG1の負側の定格トルクTm1rt1にプラネタリギヤ30のギヤ比ρの逆数と値(−1)とを乗じた値と、モータMG2の負側の定格トルクTm2rt1に減速ギヤ35の減速比Grを乗じた値と、の和(−Tm1rt1/ρ+Tm2rt1・Gr)に等しい。これは、
図3の共線図から容易に導くことができる。この両駆動最大トルクTpmax2は、駆動軸36の回転数Npが大きいほど小さくなる。
【0039】
実施例では、EV走行のときにおいて、単駆動と両駆動とのうち、要求トルクTp*が単駆動最大トルクTpmax1よりも小さい選択閾値Tpref以下のときには、単駆動を選択し、要求トルクTp*が選択閾値Tprefよりも大きいときには、両駆動を選択するものとした。なお、選択閾値Tprefは、駆動軸36の回転数Npが大きいほど小さくなる。
【0040】
また、実施例では、両駆動のときには、モータMG2からのトルクが単駆動と両駆動との選択閾値Tprefを減速ギヤ35の減速比Grで除した値(Tpref/Gr)または負側の定格トルクTm2rt1付近となるように、駆動軸36に出力するトータルのトルクのうち、モータMG1から出力して駆動軸36に作用させるトルクと、モータMG2から出力して駆動軸36に作用させるトルクと、の分担割合を調節するものとした。
【0041】
HV走行のときには、HVECU70は、まず、上述したのと同様に要求トルクTp*を設定する。続いて、設定した要求トルクTp*に駆動軸36の回転数Npを乗じて走行に要求される要求パワーPp*を計算する。ここで、駆動軸36の回転数Npは、例えば、モータMG2の回転数Nm2を減速ギヤ35の減速比Grで除して得られる回転数,車速Vに換算係数を乗じて得られる回転数などを用いることができる。続いて、要求パワーPp*からバッテリ50の充放電要求パワーPb*(バッテリ50から放電するときが正の値)を減じて車両に要求される要求パワーPe*を計算する。そして、エンジン22から要求パワーPe*が出力されると共に、バッテリ50の入出力制限Win,WoutおよびモータMG1,MG2の負側の定格トルクTm1rt1,Tm2rt1の範囲内で、要求トルクTp*が駆動軸36に出力されるように、エンジン22の目標回転数Ne*および目標トルクTe*,モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*を設定する。そして、エンジン22の目標回転数Ne*および目標トルクTe*をエンジンECU24に送信すると共に、モータMG1,MG2のトルク指令Tm1*,Tm2*をモータECU40に送信する。エンジンECU24は、HVECU70から目標回転数Ne*および目標トルクTe*を受信すると、この目標回転数Ne*および目標トルクTe*に基づいてエンジン22が運転されるようにエンジン22の吸入空気量制御,燃料噴射制御,点火制御などを行なう。モータECU40は、HVECU70からトルク指令Tm1*,Tm2*を受信すると、上述のようにインバータ41,42の複数のスイッチング素子のスイッチング制御を行なう。
【0042】
次に、こうして構成された実施例のハイブリッド自動車20の動作、特に、CDモードでEV走行のときにエンジン22を始動するか否かを判定する際の動作について説明する。
図4は、実施例のHVECU70によって実行される始動判定ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、CDモードでEV走行のとき(エンジン22の始動判定を行なっていないとき)に繰り返し実行される。
【0043】
図5の始動判定ルーチンが実行されると、HVECU70は、まず、アクセル開度Acc,要求トルクTp*,走行モードなどのデータを入力する(ステップS100)。ここで、アクセル開度Accは、アクセルペダルポジションセンサ84によって検出された値を入力するものとした。要求トルクTp*は、上述の制御によって設定された値を入力するものとした。走行モードは、モードスイッチ89からのモード信号に応じたモードを入力するものとした。
【0044】
こうしてデータを入力すると、アクセル開度Accから前回のアクセル開度(前回Acc)を減じた値を本ルーチンの実行間隔Δtで除して、アクセル開度Accの単位時間当たりの増加量としてのアクセル操作速度ΔAccを計算する(ステップS110)。
【0045】
続いて、走行モード(ノーマルモード,パワーモード,エコモード)に基づいて、アクセルペダル83の早踏みが行なわれたか否かを判定するための早踏み閾値ΔArefを設定する(ステップS120)。実施例では、走行モードがパワーモードのときには、早踏み閾値ΔArefに所定値ΔA1を設定し(ステップS130)、走行モードがノーマルモードのときには、早踏み閾値ΔArefに所定値ΔA1よりも大きい所定値ΔA2を設定し(ステップS140)、走行モードがエコモードのときには、早踏み閾値ΔArefに所定値ΔA2よりも大きい所定値ΔA3を設定する(ステップS150)、ものとした。ここで、所定値ΔA1は、例えば、0.5%/10msec程度の値を用いることができ、所定値ΔA2は、例えば、1.0%/10msec程度の値を用いることができ、所定値ΔA3は、例えば、1.5%/10msec程度の値を用いることができる。
【0046】
こうしてアクセル操作速度ΔAccおよび早踏み閾値ΔArefを設定すると、アクセル操作速度ΔAccを早踏み閾値ΔArefと比較し(ステップS160)、アクセル操作速度ΔAccが早踏み閾値ΔAref以下のときには、アクセルペダル83の早踏みは行なわれていないと判断し、要求トルクTp*についてのエンジン22の始動閾値Tstに値Tst1を設定する(ステップS170)。ここで、値Tst1は、実施例では、両駆動最大トルクTpmax2よりも若干大きい値を用いるものとした。この値Tst1は、駆動軸36の回転数Npが大きいほど小さくなる。
【0047】
そして、要求トルクTp*を始動閾値Tstと比較し(ステップS190)、要求トルクTp*が始動閾値Tst以下のときには、EV走行を継続すると判定して、本ルーチンを終了し、要求トルクTp*が始動閾値Tstよりも大きくなったときには、エンジン22を始動すると判定して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。
【0048】
エンジン22を始動すると判定すると、HVECU70とエンジンECU24とモータECU40との協調制御により、エンジン22を始動する。
図6は、エンジン22を始動する際のプラネタリギヤ30の共線図の一例を示す説明図である。モータMG1によってエンジン22をクランキングするときには、バッテリ50の入出力制限Win,WoutとモータMG1の正側の定格トルクTm1rt2とモータMG2の負側の定格トルクTm2rt1との範囲内で、エンジン22をクランキングするための正のトルクTm1をモータMG1から出力すると共に、モータMG1から出力されて駆動軸36に作用するトルク(−Tm1/ρ)をキャンセルするためのキャンセルトルクTcrと要求トルクTp*との和の正のトルク(Tcr+Tp*)を減速ギヤ35の減速比Grで除したトルクをモータMG2から出力する。こうしてエンジン22がクランキングされてエンジン22の回転数Neが所定回転数(例えば、800rpm,1000rpmなど)よりも大きくなると、エンジン22の運転制御(燃料噴射制御,点火制御など)を開始する。そして、エンジン22の始動を完了すると、HV走行に移行する。
【0049】
いま、始動閾値Tstに値Tst1を設定するときを考えているから、両駆動で要求トルクTp*が始動閾値Tst(=Tst1)よりも大きくなったときに、エンジン22を始動して、HV走行に移行することになる。
【0050】
ステップS160でアクセル操作速度ΔAccが早踏み閾値ΔArefよりも大きいときには、アクセルペダル83の早踏みが行なわれたと判断し、始動閾値Tstに値Tst2を設定し(ステップS180)、ステップS190以降の処理を実行する。ここで、値Tst2は、実施例では、単駆動と両駆動との選択閾値Tprefよりも若干小さい値を用いるものとした。この値Tst2は、値Tst1と同様に、駆動軸36の回転数Npが大きいほど小さくなる。したがって、単駆動で要求トルクTp*が始動閾値Tst(=Tst2)よりも大きくなったときに、エンジン22を始動して、HV走行に移行することになる。
【0051】
ここで、アクセル操作速度ΔAccと早踏み閾値ΔArefとの大小関係に応じて始動閾値Tstを設定する理由について説明する。
図7は、単駆動最大トルクTpmax1,両駆動最大トルクTpmax2,単駆動と両駆動との選択閾値Tpref,始動閾値Tst(値Tst1または値Tst2)の関係の一例を示す説明図である。
図7に示すように、大きい側から順に、値Tst1,両駆動最大トルクTpmax2,単駆動最大トルクTpmax1,選択閾値Tpref,値Tst2となる。
【0052】
いま、CDモードにおけるEV走行のときを考えているから、CSモードよりもEV走行を優先することが要求されている。アクセル操作速度ΔAccが早踏み閾値ΔAref以下のときには、始動閾値Tstとして両駆動最大トルクTpmax2よりも大きい値Tst1を設定することにより、エンジン22の始動、即ち、EV走行からHV走行への移行をより抑制することができる。
【0053】
しかし、始動閾値Tstとして値Tst1を用いると、両駆動からエンジン22を始動することになる。
図3と
図6とから分かるように、両駆動からエンジン22を始動する際には、モータMG1からのトルクが負から正に切り替わることから、モータMG1から出力されて駆動軸36に作用するトルクが正から負に切り替わり、駆動軸36に出力されるトータルの正のトルクがある程度大きく減少する可能性がある。アクセルペダル83の早踏みが行なわれたときに、こうした現象が生じると、運転者にもたつき感を感じさせやすくなる。また、両駆動のときには、モータMG2からのトルクが単駆動モードと両駆動との選択閾値Tprefを減速ギヤ35の減速比Grで除した値(Tpref/Gr)または負側の定格トルクTm2rt1付近となっていることから、上述のキャンセルトルクTcrを、モータMG2から駆動軸36に作用させることができない場合がある。この場合、運転者にもたつき感をより感じさせる(長い時間に亘って感じさせる)可能性がある。
【0054】
実施例では、アクセル操作速度ΔAccが早踏み閾値ΔArefよりも大きいときには、アクセルペダル83の早踏みが行なわれたと判断し、始動閾値Tstに値Tst2を設定する。これにより、現在が単駆動のときには、要求トルクTp*が始動閾値Tstよりも大きくなったときに、単駆動からエンジン22を始動することになる。
図2と
図6とから分かるように、単駆動からエンジン22を始動する際には、モータMG1からのトルクが値0から正のトルクに切り替わる。これにより、モータMG1からのトルクが負から正に切り替わるものに比して、エンジン22を始動する際の、駆動軸36に出力されるトータルの正のトルクの減少を抑制することができる。この結果、アクセルペダル83の早踏みが行なわれたときに、運転者にもたつき感を感じさせるのを抑制することができる。また、値Tst2を、モータMG2から駆動軸36にキャンセルトルクTcrを作用させることができる程度に単駆動最大トルクTpmax1よりも小さい値とすれば、駆動軸36に出力されるトータルの正のトルクの減少をより十分に抑制することができ、運転者にもたつき感を感じさせるのをより抑制することができる。
【0055】
しかも、実施例では、早踏み閾値ΔArefを、パワーモード,ノーマルモード,エコモードの順に大きくなるように設定する。上述したように、同一のアクセル開度Accに対する要求トルクTp*をパワーモード,ノーマルモード,エコモードの順に小さくなるように設定するから、同一の要求トルクTp*に対するアクセル開度Accは、パワーモード,ノーマルモード,エコモードの順に大きくなる。したがって、上述の傾向に早踏み閾値ΔArefを設定することにより、早踏み閾値ΔArefをより適切なものとすることができる。
【0056】
以上説明した実施例のハイブリッド自動車20では、CDモードにおけるEV走行のときにおいて、アクセル操作速度ΔAccが早踏み閾値ΔArefよりも大きいときには、始動閾値Tstに単駆動と両駆動との選択閾値Tprefよりも小さい値Tst2を設定する。これにより、現在が単駆動のときには、要求トルクTp*が始動閾値Tstよりも大きくなったときに、単駆動からエンジン22を始動することになる。この結果、アクセルペダル83の早踏みが行なわれたときに、両駆動からエンジン22を始動するものに比して、運転者にもたつき感を感じさせるのを抑制することができる。しかも、早踏み閾値ΔArefを、パワーモード,ノーマルモード,エコモードの順に大きくなるように設定する。これにより、早踏み閾値ΔArefをより適切なものとすることができる。
【0057】
実施例のハイブリッド自動車20では、CDモードにおけるEV走行のときにエンジン22を始動するか否かを判定する際の動作について説明した。エンジン22を始動してHV走行に移行した後には、例えば、要求トルクTp*が値Tst2以下になったときに、エンジン22を停止してEV走行に移行するものとしてもよい。
【0058】
実施例のハイブリッド自動車20では、CDモードにおけるEV走行のときにエンジン22を始動するか否かを判定する際の動作について説明した。CSモードにおけるEV走行のときには、例えば、アクセル操作速度ΔAccと早踏み閾値ΔArefとの大小関係に拘わらずに始動閾値Tstに値Tst2を設定し、要求トルクTp*が始動閾値Tstよりも大きくなったときに、エンジン22を始動してHV走行に移行するものとしてもよい。CSモードのときには、CDモードのときよりもバッテリ50の蓄電割合SOCが低いことが多い。したがって、このように始動閾値Tstを設定することにより、バッテリ50の蓄電割合SOCの低下を抑制することができる。
【0059】
実施例のハイブリッド自動車20では、CDモードにおけるEV走行のときにエンジン22を始動するか否かを判定する際の動作について説明した。CDモードとCSモードとを選択しない場合には(例えば、充電器60を備えないハイブリッド自動車など)、EV走行のときに、常時、実施例と同様に、エンジン22を始動するか否かを判定するものとしてもよい。
【0060】
実施例のハイブリッド自動車20では、単駆動と両駆動との選択閾値Tprefは、単駆動最大トルクTpmax1よりも小さい値とした。しかし、この選択閾値Tprefは、単駆動最大トルクTpmax1と同一の値としてもよい。
【0061】
実施例のハイブリッド自動車20では、始動閾値Tstの設定に用いる値Tst1は、両駆動最大トルクTpmax2よりも大きい値を用いるものとした。しかし、値Tst1は、両駆動最大トルクTpmax2と同一の値を用いるものとしてもよいし、両駆動最大トルクTpmax2よりも小さく選択閾値Tprefよりも大きい値を用いるものとしてもよい。
【0062】
実施例のハイブリッド自動車20では、始動閾値Tstの設定に用いる値Tst2は、単駆動と両駆動との選択閾値Tprefよりも小さい値を用いるものとした。しかし、値Tst2は、選択閾値Tprefと同一の値を用いるものとしてもよい。
【0063】
実施例のハイブリッド自動車20では、走行モードとして、ノーマルモードとパワーモードとエコモードとを備えるものとした。しかし、走行モードとして、ノーマルモードに加えて、パワーモードとエコモードとのうち何れか1つを備えるものとしてもよい。ノーマルモードとパワーモードとを備える場合、ノーマルモード,パワーモードがそれぞれ本発明の「第1走行モード」,「第2走行モード」に相当する。また、ノーマルモードとエコモードとを備える場合、エコモード,ノーマルモードがそれぞれ本発明の「第1走行モード」,「第2走行モード」に相当する。
【0064】
実施例のハイブリッド自動車20では、エンジン22のクランクシャフト26(プラネタリギヤ30のキャリヤ34)には、ワンウェイクラッチC1が取り付けられているものとした。しかし、ワンウェイクラッチC1に代えて、エンジン22のクランクシャフト26をケース21に対して回転不能に固定(接続)すると共にエンジン22のクランクシャフト26をケース21に対して回転自在に解放するブレーキを設けるものとしてもよい。この場合、EV走行では、ブレーキを係合状態としてエンジン22を回転規制状態とし、HV走行では、ブレーキを解放状態としてエンジン22を回転状態とすればよい。
【0065】
実施例のハイブリッド自動車20では、モータMG2が減速ギヤ35を介して駆動軸36に接続されているものとした。しかし、モータMG2が駆動軸36に直結されるものとしてもよい。また、モータMG2が変速機を介して駆動軸36に接続されるものとしてもよい。
【0066】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、エンジン22が「エンジン」に相当し、モータMG1が「第1モータ」に相当し、プラネタリギヤ30が「プラネタリギヤ」に相当し、モータMG2が「第2モータ」に相当し、バッテリ50が「バッテリ」に相当し、ワンウェイクラッチC1が「回転規制機構」に相当し、HVECU70とエンジンECU24とモータECU40とが「制御手段」に相当し、
図5の始動判定ルーチンを実行するHVECU70が「始動閾値設定手段」に相当する。
【0067】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0068】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。