特許第6443361号(P6443361)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443361
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】高炉操業方法
(51)【国際特許分類】
   C21B 5/00 20060101AFI20181217BHJP
   C21B 7/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   C21B5/00 319
   C21B5/00 320
   C21B7/00 309
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-35053(P2016-35053)
(22)【出願日】2016年2月26日
(65)【公開番号】特開2017-150046(P2017-150046A)
(43)【公開日】2017年8月31日
【審査請求日】2017年9月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100158573
【弁理士】
【氏名又は名称】尾崎 大介
(74)【代理人】
【識別番号】100123386
【弁理士】
【氏名又は名称】熊坂 晃
(74)【代理人】
【識別番号】100184859
【弁理士】
【氏名又は名称】磯村 哲朗
(74)【代理人】
【識別番号】100196667
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100130834
【弁理士】
【氏名又は名称】森 和弘
(72)【発明者】
【氏名】山本 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】村尾 明紀
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 功一
(72)【発明者】
【氏名】大山 伸幸
【審査官】 池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】 実開昭58−015826(JP,U)
【文献】 特開2013−019007(JP,A)
【文献】 特開平05−117732(JP,A)
【文献】 特開2005−213591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 5/00
C21B 7/00−7/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
二重管ランスを介して羽口から易燃性還元材および固体還元材を吹き込む高炉操業方法であって、
内管および外管の内壁に螺旋形状の溝が設けられ、前記内管に設けられた螺旋形状の溝の方向は、前記外管に設けられた螺旋形状の溝の方向と逆方向である前記二重管ランスを用いて、前記内管から前記易燃性還元材および前記固体還元材のいずれか一方を吹き込み、前記外管から前記前記易燃性還元材および前記固体還元材のいずれか他方を吹き込むことを特徴とする高炉操業方法。
【請求項2】
二重管ランスを介して羽口から易燃性還元材および固体還元材を吹き込む高炉操業方法であって、
内管および外管の内壁に螺旋形状の溝が設けられた前記二重管ランスを用いて、前記内管から前記易燃性還元材を吹き込み、前記外管から前記固体還元材を吹き込むことを特徴とする高炉操業方法。
【請求項3】
二重管ランスを介して羽口から易燃性還元材および固体還元材を吹き込む高炉操業方法であって、
内管および外管の内壁に螺旋形状の溝が設けられ、前記内管に設けられた螺旋形状の溝の方向は、前記外管に設けられた螺旋形状の溝の方向と逆方向である前記二重管ランスを用いて、前記内管から前記易燃性還元材を吹き込み、前記外管から前記固体還元材を吹き込むことを特徴とする高炉操業方法。
【請求項4】
前記固体還元材は微粉炭であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高炉操業方法。
【請求項5】
前記固体還元材の微粉炭に、廃プラスチック、廃棄物固形燃の少なくとも1種を混合することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高炉操業方法。
【請求項6】
前記固体還元材の微粉炭の質量割合は、前記固体還元材全質量に対して80質量%以上であることを特徴とする請求項4または請求項5に記載の高炉操業方法。
【請求項7】
前記易燃性還元材を銑鉄1tあたり1〜50kgの範囲内の量で吹き込むことを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の高炉操業方法。
【請求項8】
前記易燃性還元材を銑鉄1tあたり0.1〜50kgの範囲内の量で吹き込むことを特徴とする請求項2に記載の高炉操業方法。
【請求項9】
前記易燃性還元材は、都市ガス、天然ガス、プロパンガス、水素、転炉ガス、高炉ガスおよびコークス炉ガスの少なくとも1種であることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の高炉操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉羽口において微粉炭などの固体燃料や都市ガスなどの易燃性ガスを同時に吹き込み、固体燃料の燃焼温度を向上して燃焼性を改善する高炉操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭酸ガス排出量の増加による地球温暖化が問題となっており、製鉄業においても排出COの抑制は重要な課題である。これを受け、最近の高炉操業では、低還元材比(低RAR:Reduction Agent Ratioの略で、銑鉄1t製造当りの、羽口からの吹き込み還元材と炉頂から装入されるコークスの合計量)操業が推進されている。高炉は、主にコークスおよび羽口から吹き込む微粉炭を還元材として使用しており、低還元材比、ひいては炭酸ガス排出抑制を達成するためにはコークスなどを廃プラ、都市ガス、重油等の水素含有率の高い還元材で置換する方策が有効である。
【0003】
そこで、特許文献1では、羽口から還元材を吹き込むランスを二重管とし、二重管ランスの内管から都市ガスまたは微粉炭を吹き込み、二重管ランスの外管から微粉炭または都市ガスを吹き込んで微粉炭の燃焼性を改善させることを提案している。また、特許文献2では、同一羽口から吹き込む微粉炭の量と気体燃料の量を式により規定して吹き込み、微粉炭の燃焼性を向上させて未燃チャーの発生を抑制することを提案している。
【0004】
また、特許文献3では、微粉炭の周囲を流れる酸素等の酸化剤の流れを旋回流とし、微粉炭と混合することで微粉炭のガス化を向上させることを提案している。さらに、特許文献4では、微粉炭吹込みランスの先端の一部を切り欠くことで、微粉炭と酸素を混合させて微粉炭の燃焼性を向上させることを提案している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2013−19007号公報
【特許文献2】特開2007−100160号公報
【特許文献3】特開2014−137174号公報
【特許文献4】特開2012−188742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載された技術は、微粉炭だけを羽口から吹き込む方法に比べれば微粉炭の燃焼温度の向上や還元材原単位の低減に効果があるものの、更なる改良の余地がある。また、特許文献3および特許文献4に記載された技術は、微粉炭とともに酸素を吹き込むものである。高炉において吹き込む酸素は、常温の酸素であるので、微粉炭と酸素の混合性を向上しても微粉炭と熱風との接触性向上にはならない。このため、微粉炭粒子の昇温が停滞し微粉炭の着火が遅れ、燃焼温度が向上できず、還元材原単位が低減できない、といった課題があった。
【0007】
本発明は、上記のような問題点に着目してなされたものであり、ランスからの吐出直後において固体還元材である微粉炭と易燃性還元材である都市ガスの混合性を改善し、微粉炭の燃焼温度を向上させることで高炉における還元材原単位を低減できる高炉操業方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような課題を解決するための本発明の特徴は、以下の通りである。
(1)二重管ランスを介して羽口から易燃性還元材および固体還元材を吹き込む高炉操業方法であって、内管および外管の内壁に螺旋形状の溝が設けられた前記二重管ランスを用いて、前記内管から前記易燃性還元材および前記固体還元材のいずれか一方を吹き込み、前記外管から前記前記易燃性還元材および前記固体還元材のいずれか他方を吹き込むことを特徴とする高炉操業方法。
(2)前記内管に設けられた螺旋形状の溝の方向は、前記外管に設けられた螺旋形状の溝の方向と逆方向であることを特徴とする(1)に記載の高炉操業方法。
(3)前記内管から前記易燃性還元材を吹き込み、前記外管から前記固体還元材を吹き込むことを特徴とする(1)または(2)に記載の高炉操業方法。
(4)前記固体還元材は微粉炭であることを特徴とする(1)から(3)のいずれか1つに記載の高炉操業方法。
(5)前記固体還元材の微粉炭に、廃プラスチック、廃棄物固形燃料、有機性資源、廃材の少なくとも1種を混合することを特徴とする(1)から(3)のいずれか1つに記載の高炉操業方法。
(6)前記固体還元材の微粉炭の質量割合は、前記固体還元材全質量に対して80質量%以上であることを特徴とする(4)または(5)に記載の高炉操業方法。
(7)前記易燃性還元材を銑鉄1tあたり1〜50kgの範囲内の量で吹き込むことを特徴とする(1)から(6)のいずれか1つに記載の高炉操業方法。
(8)前記易燃性還元材を銑鉄1tあたり0.1〜50kgの範囲内の量で吹き込むことを特徴とする(2)に記載の高炉操業方法。
(9)前記易燃性還元材は、都市ガス、天然ガス、プロパンガス、水素、転炉ガス、高炉ガスおよびコークス炉ガスの少なくとも1種であることを特徴とする(1)から(8)のいずれか1つに記載の高炉操業方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の高炉操業方法を実施することで、固体還元材である微粉炭と易燃性還元材である都市ガスの混合性を改善することができ、微粉炭の燃焼温度を向上させることができる。これにより、高炉の炉熱が確保され、高炉操業における還元材原単位を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本実施形態の高炉操業方法が適用された高炉の断面模式図である。
図2】二重管ランスの断面模式図である。
図3】燃焼実験に用いた燃焼実験装置40の模式図を示す。
図4】燃焼実験に用いた二重管ランスの断面模式図を示す。
図5】燃焼位置を説明する図である。
図6】微粉炭の分散角度を説明する図である。
図7】都市ガス原単位と燃焼温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、本実施形態の高炉操業方法が適用された高炉の断面模式図である。図1に示すように、高炉10の羽口12には、熱風を送風するための送風管14が接続され、この送風管14を貫通して二重管ランス16が設置されている。二重管ランス16からは、易燃性還元材である都市ガスと、固体還元材である微粉炭とが送風管14に吹き込まれる。送風管に吹き込まれた都市ガスと微粉炭は、羽口12から熱風とともに高炉10内に吹き込まれて燃焼してガス化する。羽口12の熱風送風方向先方のコークス堆積層には、レースウエイ18と呼ばれる燃焼空間が存在し、主として、この燃焼空間で微粉炭は、燃焼してガス化する。そして、この燃焼空間で燃焼する微粉炭の燃焼温度を高めることができれば、高炉の炉内温度は高まり、高炉における還元材原単位を低減できる。
【0012】
図2は、二重管ランスの断面模式図である。図2(a)は、本実施形態に係る二重管ランス16の一例を示す断面模式図である。二重管ランス16は、搬送方向に向かうに従って時計回りに回転する螺旋溝20が設けられた内管22と、搬送方向に向かうに従って同じく時計回りに回転する螺旋溝24が設けられた外管26とから構成される。例えば、内管22から都市ガスを吹き込み、外管26から微粉炭を吹き込むと、内管22で都市ガスは時計回りに回転した旋回流になり、また、外管26で微粉炭は、時計回りに回転した旋回流になる。このように、二重管ランス16を用いて吹き込む都市ガスおよび微粉炭の流れを旋回流にすることで、都市ガスと微粉炭との混合性を改善でき、微粉炭の燃焼温度を向上できる。
【0013】
図2(b)は、本実施形態に係る二重管ランスの他の例を示す断面模式図である。二重管ランス30は、搬送方向に向かうに従って反時計回りに回転する螺旋溝32が設けられた内管34と、搬送方向に向かうに従って時計回りに回転する螺旋溝36が設けられた外管38とから構成される。例えば、内管34から都市ガスを吹き込み、外管38から微粉炭を吹き込むと、内管34で都市ガスは反時計回りに回転した旋回流になり、また、外管38で微粉炭は、内管34とは逆方向の時計回りに回転した旋回流になる。このように二重管ランス30を用いて都市ガスおよび微粉炭の流れを旋回流にし、内管34と外管38の旋回流の向きを逆向きにすることで、都市ガスと微粉炭との混合性をさらに改善することができ、微粉炭の燃焼温度をさらに向上できる。
【0014】
本実施形態に係る高炉操業方法に用いられる二重管ランス16および30における微粉炭の燃焼温度向上効果を確認するために、燃焼実験装置40を用いて微粉炭の燃焼実験を行った。図3は、燃焼実験に用いた燃焼実験装置40の模式図を示す。
【0015】
燃焼実験装置40は、実験炉42と、実験炉42の上方に接続されたコークス槽44と、実験炉42の側面下部に接続された送風管46と、実験炉42内に生じた排ガスを排出する排気口54とを備える。また、送風管46の端部には、燃焼バーナ48が設けられ、燃焼バーナ48は、送風管46内の空気を加熱する。送風管46は、燃焼バーナ48で加熱された熱風を所定の送風量で実験炉42内に送風する。
【0016】
送風管46の側面には、二重管ランスが差し込まれるように設けられている。二重間ランスは、微粉炭貯留槽52に貯められた微粉炭と、都市ガス供給口50から供給される都市ガスを、所定の供給量で送風管46内に吹き込む。
【0017】
図4は、燃焼実験に用いた二重管ランスの断面模式図を示す。図4(a)は、螺旋形状の溝が設けられていない二重管ランス60である。図4(b)は、内管の内側のみ螺旋形状の溝が設けられた二重管ランス62である。図4(c)は、外管の内側のみ螺旋形状の溝が設けられた二重管ランス64である。図4(d)は、外管の内側と内管の内側に螺旋の向きが同方向になるような螺旋形状の溝が設けられた二重管ランス16である。図4(e)は、外管の内側と内管の内側に、螺旋の向きが逆方向となるような螺旋形状の溝が設けられた二重管ランス30である。図4(a)から図4(e)に示した二重管ランスを用いて燃焼実験を行なった。
【0018】
燃焼実験に用いた微粉炭の諸元は、固定炭素(FC:Fixed Carbon)77.8(%)、揮発分(VM:Volatile Matter)13.6(%)、灰分(Ash)8.6(%)である。微粉炭の吹き込み速度は、29.8(kg/h)(銑鉄1t当たり100kgに相当)とした。また、都市ガスの吹き込み速度は、13m/sとした。送風条件は、送風温度1200℃、流量300(Nm/h)、流速70(m/s)、O富化+5.5(酸素濃度26.5%、空気中酸素濃度21%に対し、5.5%の酸素富化)とした。微粉炭の搬送ガスにはNを用いた。
【0019】
燃焼実験は、図4(a)〜図4(e)に示した二重管ランスを用いて、微粉炭および都市ガスを実験炉42に吹き込み、吹き込まれた微粉炭を燃焼温度、燃焼位置および微粉炭の分散性として微粉炭の分散角度で評価した。燃焼温度は、2色温度計を用いて飽和温度を測定した。燃焼位置および微粉炭の分散角度は、高速度カメラを用いて測定した。評価結果は、螺旋形状の溝を設置していない二重管ランス60を用いて内管から微粉炭、外管から都市ガスを吹き込んだ場合の微粉炭の燃焼温度、燃焼位置および微粉炭の分散角度を基準とし、当該基準に対する燃焼温度の上昇分、燃焼位置の減少分および微粉炭の分散角度の増加分を測定した。
【0020】
図5は、燃焼位置を説明する図である。燃焼位置とは、二重管ランス60の先端を基準位置として最初に微粉炭流72において輝炎76が観測された燃焼位置74である。なお、矢印70は、送風方向を示す。そして、燃焼位置の減少分とは、基準の燃焼位置に対して実験例に示す条件にすることによって燃焼位置74が二重管ランスの先端に近づいた距離である。
【0021】
図6は、微粉炭の分散角度を説明する図である。微粉炭の分散角度とは、微粉炭主流82を基準として二重管ランス60の先端から50mmの位置で最も主流から外れた微粉炭流と微粉炭主流82との角度84である。なお、矢印80は、送風方向を示す。そして、分散角度の増加分とは、基準の分散角度に対して実験例に示す条件にすることによって広がった分散角度の増加分である。
【0022】
表1は、燃焼実験の評価結果を示す表である。表1に示すように、螺旋形状の溝が無い通常の二重管ランス60を用いた場合(基準)と比較して、内管のみに螺旋形状の溝を設けた二重管ランス62を用いた場合(実験例1)および外管のみ螺旋形状の溝を設けた二重管ランス64を用いた場合(実験例2)は、微粉炭の燃焼温度、燃焼位置および微粉炭の分散性にほとんど差が見られなかった。この結果から、内管および外管のいずれか一方を旋回流としても都市ガスと微粉炭との混合性は、ほとんど改善しないことがわかった。
【0023】
【表1】

【0024】
一方、外管と内管に同方向となる螺旋形状の溝をそれぞれ設けた二重管ランス16を用いた場合(実験例3)は、微粉炭の分散角度が8°増加し、分散性が改善した。また、燃焼温度が30℃向上し、燃焼位置が11mmランス先端に近くなった。この結果から、二重管ランス16内に設けられた螺旋形状の溝を用いて、二重管ランス16内において微粉炭および都市ガスに周方向の旋回流を生じさせることにより、微粉炭と都市ガスとの混合性が向上し、燃焼温度および燃焼位置を改善できることがわかる。
【0025】
さらに、外管と内管に逆方向となる螺旋形状の溝をそれぞれ設けた二重管ランス30を用いた場合(実験例4)は、微粉炭の分散角度が16°増加し、分散性がさらに改善した。また、燃焼温度が40℃向上し、燃焼位置が18mmランス先端に近くなった。この結果から、二重管ランス30内に設けられた螺旋形状の溝を用いて、二重管ランス30内において微粉炭および都市ガスに周方向の旋回流を生じさせ、且つ、その旋回流の向きを逆向きにすることで、微粉炭と都市ガスの混合性がより向上し、燃焼温度および燃焼位置をさらに改善できることがわかる。
【0026】
また、二重管ランス30において、内管34から微粉炭を吹き込み、外管38から都市ガスを吹き込む場合(実験例4)と比較して、内管34から都市ガスを吹き込み、外管38から微粉炭を吹き込む場合(実験例5)は、微粉炭の分散角度が20°増加し、分散性がさらに改善した。また、燃焼温度は50℃向上し、燃焼位置が20mmランス先端に近くなった。これは、内管34から吹き込まれた都市ガスが燃焼するとCOとHOが発生するので、これにより外側の微粉炭が分散し、微粉炭の分散性が向上したと考えられる。このように、内管から都市ガスを吹き込み、外管から微粉炭を吹き込むことで、微粉炭と都市ガスの混合性がさらに向上できることがわかる。
【0027】
なお、二重管ランス16を用いた場合においても、内管22から都市ガスを吹き込み、外管26から微粉炭を吹き込むことで、微粉炭と都市ガスの混合性を向上させることができる。したがって、二重管ランス16および30を用いて、内管から都市ガスおよび微粉炭のいずれか一方を吹き込み、外管から都市ガスおよび微粉炭のいずれか他方を吹き込むことで、微粉炭と都市ガスとの混合性を向上できる。都市ガスは微粉炭よりも低い温度で容易に燃焼する。そのため、微粉炭と都市ガスとの混合性を向上させることで、都市ガスの燃焼温度を微粉炭流の内部まで伝えることができ、この結果、微粉炭の燃焼性が向上したものと考えられる。
【0028】
次に、都市ガスの吹き込み条件以外は同条件とし、都市ガスの吹き込み条件を銑鉄1(t)当たり0.0〜6.0(kg)と変化させた場合の燃焼温度について説明する。なお、燃焼温度の測定は、同じ燃焼試験装置40を用いて実施した。燃焼位置はランス先端から350(mm)の位置とした。
【0029】
図7は、都市ガス原単位と燃焼温度との関係を示すグラフである。図7において、縦軸は、燃焼温度(℃)を示し、横軸は、都市ガス原単位(kg/t−銑鉄)を示す。図7に示すように、螺旋形状の溝が設けられていない通常の二重管ランス60(基準)において、燃焼温度が変化しなくなるまで高める(以後の説明において、燃焼温度がこれ以上高くならなくなるまで高めることを「燃焼温度を飽和させる」という)ための最小の都市ガス原単位は5.0(kg/t−銑鉄)であった。
【0030】
内管のみに螺旋形状の溝を設けたランス62(実験例1)において、燃焼温度を飽和させるための最小の都市ガス原単位は4.0(kg/t−銑鉄)であった。また、外管のみに螺旋形状の溝を設けた二重管ランス64(実験例2)において、燃焼温度を飽和させるための都市ガス原単位は、同じく4.0(kg/t−銑鉄)であった。
【0031】
一方、内管および外管に同方向となる螺旋形状の溝をそれぞれ設けた二重管ランス16(実験例3)においては、燃焼温度を飽和させるための最小の都市ガス原単位は1.0(kg/t−銑鉄)であった。さらに、内管および外管に逆方向となる螺旋形状の溝をそれぞれ設けた二重管ランス30(実験例4・実験例5)においては、燃焼温度を飽和させるための最小の都市ガス原単位は0.1(kg/t−銑鉄)であった。
【0032】
これらの結果から、同じ方向および逆方向に限らず、内管および外管に螺旋形状の溝を設けた二重管ランスを用いた場合において、微粉炭の燃焼性を最大にさせるための都市ガス原単位は、1.0(kg/t−銑鉄)以上であればよいことがわかる。さらに、螺旋形状の溝を内管および外管で逆方向にした場合においては、微粉炭の燃焼性を最大にさせるための都市ガス原単位は、0.1(kg/t−銑鉄)以上であればよいことがわかる。
【0033】
また、二重管ランス16および30において、外管の螺旋形状の溝の向きを時計回りにした例を示したが、これに限られず、外管の螺旋形状の溝の向きを反時計回りとしてもよい。この場合に、二重管ランス16においては内管の螺旋形状の溝の向きは外管と同じ反時計回りとなり、二重ランス30においては内管の螺旋形状の溝の向きは、外管と逆方向の時計回りとなる。
【0034】
一方、都市ガスは、コークスと比較して高価なので、微粉炭の燃焼性を改善させコークス装入量を削減するメリットを大きくするためには、微粉炭の燃焼性を改善させつつ、なるべく少ない都市ガス原単位とすることが好ましい。そのため、都市ガス原単位は、50(kg/t−銑鉄)以下にすることが好ましく、可能であれば、10(kg/t−銑鉄)以下にすることがより好ましい。
【0035】
なお、吹き込む固体還元材として微粉炭を用いた例を示したが、微粉炭を主として、その中に廃プラスチック、廃棄物固形燃料、有機性資源、廃材の少なくとも1種を混合して使用してもよい。これらを混合して使用する場合においては、微粉炭の質量割合を全固体還元材に対して80(質量%)以上とすることが好ましい。廃プラスチック、廃棄物固形燃料、有機性資源、廃材などは、反応による熱量が微粉炭と異なるので、互いの使用割合が近くなると、燃焼に偏りが生じ易くなり、高炉操業が不安定になる。また、微粉炭と比較して、廃プラスチック、廃棄物固形燃料、有機性資源、廃材は燃焼反応による燃焼熱が低い。このため、これらを多量に吹き込むと、炉頂より装入される固体還元材(コークス)に対する代替効率が低下するので、微粉炭の質量割合を固体還元材に対して80質量%以上とすることが好ましい。
【0036】
また、吹き込む易燃性還元材として、都市ガスを用いた例を示したが、これに限られず、微粉炭よりも低い温度で燃焼する気体還元材であればよい。易燃性還元材として、例えば、天然ガス、プロパンガス、水素を用いてもよく、製鉄所で副生される転炉ガス、高炉ガスおよびコークス炉ガスを用いてよい。さらに、これらのガスを混合して用いてもよい。
【実施例】
【0037】
内管と外管の内側に互いに逆方向となる螺旋形状の溝を設けた二重管ランス30を用いて本発明に係る高炉操業方法を実施した実施例について説明する。羽口38本を持つ内容積5000mの高炉を用いて、目標11500(t/day)の銑鉄生産量、150(kg/t−銑鉄)の微粉炭比、0.1(kg/t−銑鉄)の都市ガス吹き込み比、送風温度(1200℃)、O富化+5.5(%)、内管と外管の内側に互いに逆方向に螺旋形状の溝を設けた二重管ランス30を用いて、内管から微粉炭、外管から都市ガス吹き込んで高炉の操業を3日間実施した。3日間の平均コークス比(kg/t−銑鉄)は、370(kg/t−銑鉄)であった。
【0038】
一方、比較例として、同じ高炉操業条件下において、二重管ランス30を螺旋形状の溝を設けていない二重管ランス60に代えて高炉の操業を3日間実施した。3日間の平均コークス比は、373(kg/t−銑鉄)であった。
【0039】
このように、本発明の高炉操業方法を実施することで、二重管ランスからの吐出直後における微粉炭と都市ガスの混合性を向上させることができる。これにより、微粉炭の燃焼温度は向上し、高炉の炉熱が確保でき、高炉における還元材原単位を低減できることが確認された。
【符号の説明】
【0040】
10: 高炉
12: 羽口
14: 送風管
16: 二重管ランス
18: レースウエイ
20: 螺旋溝
22: 内管
24: 螺旋溝
26: 外管
30: 二重管ランス
32: 螺旋溝
34: 内管
36: 螺旋溝
38: 外管
40: 燃焼実験装置
42: 実験炉
44: コークス槽
46: 送風管
48: 燃焼バーナ
50: 都市ガス供給口
52: 微粉炭貯留槽
54: 排気口54
60: 二重管ランス
62: 二重管ランス
64: 二重管ランス
70: 矢印
72: 微粉炭流
74: 燃焼位置
76: 輝炎
80: 矢印
82: 微粉炭主流
84: 角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7