(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を用いて本発明の実施形態を説明する。以下で説明する形状、材料及び取付位置は、説明のための例示であって、内燃機関の仕様に応じて適宜変更することができる。すべての図面において同等の要素には同一の符号を付して説明する。
【0018】
<第1の実施形態>
図1に、本発明の第1実施形態に係る点火装置10の一例を示す。本実施形態に係る点火装置10は、内燃機関に備えられている。内燃機関は、ピストン12とシリンダ14とを備え、ピストン12は、シリンダ14の内部に往復移動可能に収納されている。燃焼室18は、ピストン12、シリンダ14及びシリンダ14の頂部であるシリンダヘッド16によって形成される。シリンダヘッド16には、第1点火栓20、第2点火栓22、吸気弁(図示しない)及び排気弁(図示しない)が配置されている。燃焼室18は、吸気弁を介して吸気口(図示しない)と接続し、排気弁を介して排気口(図示しない)と接続している。
【0019】
図1(a)は、シリンダヘッド16に設けられている第1点火栓20及び第2点火栓22を含む面における本実施形態に係る点火装置10を示し、
図1(b)は、燃焼室18の頂面側から見たシリンダヘッド16における第1点火栓20及び第2点火栓22の配置を示す。
【0020】
吸気工程においては、吸気弁が開くとともにピストン12が下降することで、吸気口から燃焼室18内に吸気ガスが導入される。これと同時期に、吸気口に配置されている燃料噴射弁(図示せず)から吸気口に燃料が噴射され、吸気ガスと混合することにより、燃焼室18に混合気が導入される。圧縮工程においては、吸気弁が閉じてピストン12の上昇により混合気が圧縮される。
【0021】
内燃機関は、混合気が燃焼室18に導入される際に、燃焼室18において混合気が気流(流動)を形成するように構成されている。
図1において、矢印αは気流の流れる方向を示す。燃焼室18の内部に形成される気流としては、例えば、
図1の矢印αで示すような、ピストン12の運動方向に対して略平行な縦渦の気流(タンブル流とも呼ばれる)が挙げられる。また、燃焼室18の内部に形成される気流は、ピストン12の運動方向に対して略垂直な横渦の気流(スワール流とも呼ばれる)、又は、縦渦の気流と横渦の気流とが合成された気流であってもよい。
【0022】
燃焼室18において気流を形成することにより、燃焼室18内の吸気ガス及び燃料の混合が促進され、内燃機関の燃焼効率の向上が図られる。燃焼室18における気流は、例えば、ピストン12の頂部の形状、吸気口に設けられる吸気制御弁等によって、形成及び制御することができる。このようにして形成された気流は、吸気工程の後、圧縮工程を経て点火時期に達した場合でも、燃焼室18に残存する。
【0023】
燃焼室18において圧縮された混合気は、本実施形態に係る点火装置10によって着火される。燃焼後のガスは、排気工程において排気弁が開くことで、排気口へ排出される。
【0024】
本実施形態に係る点火装置10は、
図1に示すように、燃焼室18の頂面中央部に第1点火栓20及び第2点火栓22を備える。第1点火栓20及び第2点火栓22は、点火栓距離Lをおいて近接して配置されており、第2点火栓22は、第1点火栓20に対して燃焼室18の内部を流れる気流の下流側に位置している。第1点火栓20及び第2点火栓22はいずれも、燃焼室18の頂面において、シリンダヘッド16から燃焼室18の中心に突出するように設けられている。
【0025】
本実施形態に係る点火装置10は、第1点火栓20が放電を開始した後、遅れて第2点火栓22が放電を開始する。
図2に、第1点火栓20及び第2点火栓22に流れる放電電流のグラフを示す。
図2に示すように、本実施形態に係る点火装置10は、第1点火栓20の放電開始から遅れ時間T1を経過して第2点火栓22が放電を開始し、この遅れ時間T1は、燃焼室18の内部を流れる気流の速度に応じて定められている。なお、燃焼室18の内部を流れる気流の速度が0である場合、本実施形態に係る点火装置10は、第1点火栓20と第2点火栓22とが同時に放電を開始するように設定されていてもよい。
【0026】
本実施形態に係る点火装置10につき、第1点火栓20及び第2点火栓22の配置等に関して「気流の下流側」等という場合の「気流」とは、燃焼室18の内部を流れる気流のうち、燃焼室18の頂面の中心近傍を流れる気流を意味している。当該「気流」は、例えば、点火装置10の点火時期、例えば上死点の−40°から10°までの期間において、燃焼室18の頂面の中心を流れる気流の向き及び速度の平均値に基づいて、その向きや速度が規定されていてもよい。
【0027】
本実施形態の点火装置10において、第1点火栓20及び第2点火栓22が配置されている燃焼室18の「頂面中央部」とは、燃焼室18の頂面に含まれる領域であって、吸気弁及び排気弁が設けられておらず、吸気弁の中心及び排気弁の中心よりも内側にある領域である。例えば、内燃機関が燃焼室18の頂面に一対の吸気弁及び一対の排気弁を備える場合、燃焼室18の頂面の、隣り合う吸気弁及び排気弁の中心どうしを結ぶ直線によって囲まれる四角形の内側であって、吸気弁及び排気弁が設けられていない領域が、燃焼室18の頂面中央部に相当する。燃焼室18の頂面中央部は、例えば、燃焼室18の中心から、シリンダ14の内径(ボア径)の6分の1の半径を有する円の内部であってもよい。
【0028】
本実施形態の点火装置10における第1点火栓20及び第2点火栓22としては、例えば
図3に示すような、従来の火花点火方式の点火栓24(スパークプラグ)を使用することができる。また、第1点火栓20及び第2点火栓22として、中心電極と接地電極との間に交流電圧を印加してストリーマ放電を発生させる点火プラグ、或いは、マイクロ波発生装置により発生したマイクロ波パルスを導波管を通して燃焼室内に伝送し、放電電極においてマイクロ波放電を発生させる点火プラグを使用してもよい。
【0029】
図3を参照しながら、従来の火花点火方式の点火栓24について説明する。点火栓24は、外側の筒状に形成された金具ハウジングと、金具ハウジングの内側に保持された絶縁碍子とを有する点火栓本体26を備え、絶縁碍子の先端が、燃焼室18内に突出している。そして突出した絶縁碍子の先端には中心電極28が設けられる。中心電極28の中心軸は、点火栓本体26の中心軸と一致する。
【0030】
点火栓24は、例えば、シリンダヘッド16にねじ結合で取り付けられる。点火栓24は、金具ハウジングの下端部から燃焼室18内に延びた接地電極30を備える。接地電極30は、例えば、金具ハウジングから燃焼室18内に延びて、絶縁碍子の延びる方向において中心電極28と対面するように、先端がL字形に屈曲した形状を有する。点火栓24は、放電により中心電極28と接地電極30の先端部分との間(以下「電極間」ともいう)の空隙において火花を発生させるように構成され、この火花によって、混合気が着火する。点火栓24における電極間の距離は、初期要求電圧等に応じて適宜調整されるが、例えば、0.5mm以上1.5mm以下であり、1mm程度が好ましい。
【0031】
第1点火栓20及び第2点火栓22は、点火栓距離Lをおいて配置されている。点火栓距離Lは、より詳しくは、両者の中心電極28どうしの間の距離である。第1点火栓20及び第2点火栓22の中心軸が略平行である場合は、両者の中心軸どうしの間の距離を点火栓距離Lとすることもできる。
【0032】
図4に、点火栓24の回路図を示し、
図5に、点火栓24を点火する際の充電信号、電極間の2次電圧及び2次電流の変動を示す。電気エネルギを供給する電源34は、イグナイタ36を介してイグニッションコイル38に電気的に接続されている。イグニッションコイル38は1次コイル40と2次コイル42とで構成され、両者のコイル巻数の差によって、2次コイルに高電圧を生じさせることができる。2次コイル42は点火栓24の中心電極28と電気的に接続されている。
【0033】
点火栓24の点火は、下記のようにして行う。まず、充電信号を用いてイグナイタ36をオンにし(
図5における(ア))、電源34とイグニッションコイル38とを電気的に接続する。これにより、イグニッションコイル38の1次コイル40に1次電流が流れ、電気エネルギが蓄えられる。1次コイル40に蓄えるエネルギの量は、充電信号の期間で制御される。次いで、イグナイタをオフにして(
図5における(イ))電源34との接続を切り離すことで、2次コイル42に2次電圧が発生し、2次電流が点火栓24に流れる。点火栓24の中心電極28と接地電極30との間の空隙に高電圧が加わり、絶縁が破れると、電気火花が発生して放電路32が形成される。やがて2次電流が流れなくなり(
図5における(ウ))、放電期間が終了する。
【0034】
火花方式の点火栓24において、運転条件等により変わるため特に制限されないが、例えば、放電の期間は1ms〜数ms程度であり、放電電圧(2次電圧)は数kV〜数十kVであり、放電電流のピーク値は数十mA〜数百mAであり、放電のエネルギは数十mJ〜数百mJである。
【0035】
以下、本実施形態に係る点火装置10が有する作用及び効果を、従来技術との比較によって説明する。
【0036】
放電路32は、燃焼室18の内部に気流が存在しない場合、
図3に示すように、中心電極28の中心軸の近傍において、点火栓24の中心電極28と接地電極30との間を最短距離で結ぶように形成される。しかしながら、放電路32の形状は、燃焼室18の内部に気流が存在する場合、両電極間を流れる気流によって時間的に変化する。
【0037】
図6に、燃焼室18の内部に気流が存在する場合における、放電路32の形状の時間的な変化を示す。上述の通り、燃焼室18においては、導入された混合気がタンブル流、スワール流またはこれらの合成気流等の気流を形成し、この気流成分が点火時期においても燃焼室18の内部に残存する。
図6では、点火栓24が形成される燃焼室18の頂面の中心近傍に矢印αの向き(紙面の左側から右側)に気流が生じているため、点火栓24が放電している間、点火栓24の中心電極28及び接地電極30は、点火栓24の中心軸に対して略垂直に流れる気流に曝されている。
【0038】
図6(a)に示すように、燃焼室18内を流れる気流中で点火栓24の放電を開始すると、放電開始直後の放電路32は、中心電極28と接地電極30との間を直線で結ぶ形状となるが、放電路32は、時間が経過して混合気が流されるにつれて、下流側が凸となるU字型に変形しながら伸長する(
図6(b))。
【0039】
やがて、放電路32がある程度伸長すると(
図6(c))、放電路32において短絡が生じ、放電路32の長さが短縮する(
図6(d))。その後、放電路32は再び伸長する(
図6(e))。燃焼室18の内部を流れる気流が存在する場合は、点火栓24が放電を行っている期間中、このような放電路32の伸長及び短絡が繰り返される。
【0040】
点火栓24の放電期間において、点火栓24の中心軸から離れて放電路32が到達した距離の最大値を、最大伸長距離L1という。放電路32の最大伸長距離L1は、例えば、放電電流の大きさ、気流の速度、燃焼室18の雰囲気圧力及び雰囲気温度等により変動する。
【0041】
図7に、燃焼室18の内部に気流が存在する場合の、放電期間における放電電圧波形を示す。
図7に示す通り、放電路32の伸長及び短絡により、両電極間の放電電圧について、鋸状の電圧波形がもたらされる。放電路32が伸びると、その抵抗値が増すために中心電極28と接地電極30との間の放電電圧は増加し、放電路32が短絡すると、放電電圧は低下するためである。
【0042】
図8は、従来の点火栓24を1つ備える内燃機関において、燃焼室18の内部に気流が存在する場合に、初期火炎44(火炎核)が形成されてから、放電路32から離れるまでの過程を示す図面である。
【0043】
放電路32の温度は3000K以上に達するため、放電路32が点火栓24に形成されると、放電路32の周囲に熱が供給されて燃料の酸化反応が起こり、放電路32上に初期火炎44が形成(着火)される(
図8(a))。
【0044】
時間が経過するにつれ、燃焼室18の内部を流れる気流によって放電路32は下流に向かって伸長し、初期火炎44も放電路32に伴って下流に移動する。それとともに、初期火炎44の反応熱によるエネルギと放電路32からのエネルギとを受けて、初期火炎44の周囲の燃料の酸化反応が促進され、初期火炎44はより大きく成長する(
図8(b)、(c))。
【0045】
やがて、放電路32が最大伸長距離L1に達すると、放電路32は短絡する一方、初期火炎44は気流の流れに乗って下流方向に移動し続ける。これにより、初期火炎44は放電路32から離れ、放電路32からのエネルギを受けることができなくなる(
図8(d))。その後、初期火炎44の酸化反応エネルギが周囲の未燃混合気への放熱エネルギを下回ると、初期火炎44は成長が止まり、やがては失火に至ってしまう(
図8(e))。
【0046】
図9に、本実施形態に係る点火装置10を用いて混合気を着火し、その後、初期火炎44が成長する過程を示す。以下、本実施形態の点火装置10における第1点火栓20及び第2点火栓22として、
図3に示す点火栓24(スパークプラグ)を用いる態様を例に、説明する。
【0047】
本実施形態に係る点火装置10においては、第2点火栓22は、第1点火栓20に対して下流側に、第1点火栓20から点火栓距離Lをおいて配置されている(
図9(a))。1つの点火栓24を備える従来の装置と同様に、第1点火栓20が放電を開始すると、時間が経過するにつれて放電路32は下流方向に向かって伸長し、放電路32上で形成された初期火炎44もそれに伴って下流方向に移動するとともに、より大きな初期火炎44へと成長する。やがて、第1点火栓20の放電路32が最大伸長距離L1に達すると、初期火炎44は、第1点火栓の放電路32から離れて下流方向に移動し、第1点火栓の放電路32からエネルギを受けることができなくなる。
【0048】
しかしながら、
図9(b)に示す通り、本実施形態に係る点火装置10においては、第1点火栓20の下流側に第2点火栓22が配置されている。ここで、第1点火栓20の放電路32から離れた初期火炎44が第2点火栓22に到達する時期に、第2点火栓22が放電を開始して放電路32を形成する。これにより、初期火炎44は、第2点火栓22の放電路32からエネルギを受け取り、第1点火栓の放電路32から離れても失火しないのみならず、追加のエネルギを得て更に大きな火炎へと成長することができる(
図9(c))。
【0049】
上述の通り、放電路32、及び放電路32上で形成された初期火炎44(火炎核)は、燃焼室18を流れる気流に伴って移動するため、第1点火栓20が放電を開始してから初期火炎44が第2点火栓22に到達するまでの経過期間は、気流の速度に応じた長さとなる。そこで、第1点火栓20の放電開始から第2点火栓22の放電開始までの遅れ時間T1を気流の速度に応じた長さとすることにより、第1点火栓20の放電路32から離れて第2点火栓22に到達した初期火炎44が、第2点火栓22に形成された放電路32からエネルギを受け取ることが可能となる。
【0050】
燃焼室18の内部を流れる気流は、例えば、ピストン12の頂部の形状等の燃焼室18の形状、並びに、吸気弁、吸気制御弁及びスロットル等の吸気経路に設けられる各吸気機構の開度等によって決定される。これらの情報に基づいて、燃焼室18の頂面の中心近傍を流れる気流の向き及び速度を導出することができる。
【0051】
本実施形態に係る点火装置10において、遅れ時間T1は、初期火炎44が第2点火栓22に到達するより前に第2点火栓22が放電を開始するよう、気流の速度に応じて定められる。気流の速度が遅ければ遅れ時間T1を長くし、気流の速度が速ければ遅れ時間T1を短くすればよい。
図5に示す通り、放電開始の直後は電流が大きく、初期火炎44に付与可能なエネルギも大きいことから、遅れ時間T1を、第1点火栓20が放電を開始してから初期火炎44が第2点火栓22に到達するまでの時間と略同じになるように調整することが好ましい。遅れ時間T1は、例えば、点火栓距離Lを気流の速度で除した値に基づいて定められる。
【0052】
本実施形態に係る点火装置10は、第1点火栓20及び第2点火栓22を備え、第2点火栓が第1点火栓に対して気流の下流側に配置され、第1点火栓20が放電を開始し、気流の速度に応じた遅れ時間T1を経過してから第2点火栓22が放電を開始することにより、第1点火栓20で形成された初期火炎44が放電路32の短絡によって放電路32から離れても、第2点火栓22により初期火炎44へのエネルギの供給を補うことが可能になる。その結果、第1点火栓20の成長過程にある初期火炎44に追加のエネルギを供給できるため、燃焼室18の内部に気流が存在する場合における、初期火炎44の失火が抑制され、初期火炎44の正常な火炎伝播をもたらすことが可能になる。
【0053】
本実施形態に係る点火装置10は、特に、気流の流速が速い場合、及び、希薄燃焼(リーンA/F、EGR希釈)等の難燃条件の下においても、初期火炎44の失火や消炎を抑制し、混合気の着火の安定化が実現できるため、有用である。
【0054】
本実施形態の点火装置10においては、点火栓距離Lが燃焼室18のボア径の3分の1以下であることが好ましい。なお、燃焼室18のボア径とはシリンダ14の内径である。点火栓距離Lを当該ボア径の3分の1以下とすることで、初期火炎44にエネルギを補い、第2点火栓22に到達する前の失火を更に抑制できるためである。また、点火栓距離Lは、第1点火栓20の放電路32の最大伸長距離L1以上であることが好ましい。点火栓距離Lが最大伸長距離L1未満であると、第1点火栓20と第2点火栓22との間で電極間の短絡が生じることがあるためである。
【0055】
本実施形態の点火装置10は、
図10に示すように、1つの点火栓本体26に、中心電極28及び接地電極30の組合せを2組設け、それぞれを第1点火栓20及び第2点火栓22とする一体構造を有してもよい。
【0056】
また、
図9では、第1点火栓20及び第2点火栓22がいずれも火花点火方式の点火栓24(スパークプラグ)である場合について例示しているが、第2点火栓22としては、上述の通り、初期火炎44にエネルギを付与するものである限り特に制限されることは無く、例えば、ストリーマ放電またはマイクロ波放電を発生させる点火プラグを使用してもよい。
【0057】
第1点火栓20及び第2点火栓22が放電を開始するタイミングは、エンジンコントロールユニット(ECU)を用いて制御される。ECUは、例えば、予め入力された燃焼室18及び各吸気機構の形状等に関する情報、並びに、各吸気機構の開度、ピストン12の角度等の情報に基づいて、燃焼室18の頂面の中心近傍を流れる気流の速度を算出する機能、並びに、第1点火栓20及び第2点火栓22が放電を開始するタイミングを制御し、遅れ時間T1を気流の速度に応じて調整する機能等を有する。
【0058】
<第2の実施形態>
次に、
図11を参照して、本発明の第2実施形態に係る点火装置10を説明する。第2実施形態に係る点火装置10は、第2点火栓22と電気的に接続されているイオン電流検出回路50を更に備える。
図11は、第2実施形態に係る点火装置10が備えるイオン電流検出回路50の構成の一例を示す。イオン電流検出回路50は、第2点火栓22の点火回路において、イグニッションコイル38の2次コイル42から、第2点火栓22につながる回路と並列に設けられる。
【0059】
イオン電流検出回路50は、例えば、スイッチ52と電源54と抵抗56と電圧測定器58から構成される。電圧測定器58は、抵抗56と並列に接続され、イオン電流検出回路50に流れる電流を検出する。イオン電流検出回路50は、上記の構成を有することにより、第2点火栓22に予め付加した電気エネルギの変化から、第2点火栓22の中心電極28及び接地電極30の間を流れるイオン電流を検出する。
【0060】
燃焼室18において形成される初期火炎44の火炎面には多くのイオンが存在するため、第1点火栓20で形成された初期火炎44が第2点火栓22に到達すると、第2点火栓22の中心電極28及び接地電極30間をイオン電流が流れることになる。イオン電流検出回路50は、第2点火栓22の電極間を流れるイオン電流を測定することにより、第1点火栓20で形成された初期火炎44の第2点火栓22への到達を正確に検出することができる。
【0061】
第2実施形態に係る点火装置10は、イオン電流検出回路50が、第2点火栓の電極間を流れるイオン電流を測定することにより、第1点火栓20で形成された初期火炎44の第2点火栓22への到達を検出した時点で、第2点火栓22が放電を開始する。
【0062】
図12は、第2実施形態に係る点火装置10の実施態様の具体例を示す。
図12には、第1点火栓20の放電電流、第2点火栓の放電電流、イオン電流検出回路50による検出用電圧、及び、電圧測定器58で測定される第2点火栓22の電圧の経時変化が示されている。
【0063】
第2実施形態に係る点火装置10において、予め決められた時点で第1点火栓20が放電を開始し(ア)、初期火炎44が形成される。その直後、第2点火栓22と並列に接続されたイオン電流検出回路50のスイッチ52が入れられ(イ)、第2点火栓22の電極間に電源54で誘起した規定電圧を印加する。第1点火栓20で形成された初期火炎44が第2点火栓22の電極間に到達するまでは、イオン電流検出回路50に電流は流れない(ウ)。初期火炎44が第2点火栓22の電極間に到達すると、初期火炎44に含まれる導電性のイオンや電子によってイオン電流検出回路50に電流が流れる(エ)。イオン電流検出回路50が初期火炎44の第2点火栓22への到達を検出したことを受けて、第2点火栓22は放電を開始する。
【0064】
第2実施形態に係る点火装置10は、初期火炎44の第2点火栓22への到達をイオン電流検出回路50が検出した時点で第2点火栓22が放電を開始する。このように、第2点火栓22の放電開始のタイミングを適切に制御することによって、初期火炎44が第2点火栓22の近傍にあるときに、第2点火栓22において高エネルギである放電直後の容量放電を発生させる。これにより、更に効率よく、第2点火栓22から初期火炎44にエネルギを付与することができ、失火の発生をより抑制できるとともに、初期火炎44の成長を一層促進させることができると考えられる。
【0065】
<第3の実施形態>
次に、本発明の第3実施形態に係る点火装置10を説明する。本発明の第3実施形態に係る点火装置10において、第2点火栓22は、第1点火栓20が供給する放電エネルギよりも大きい放電エネルギを供給する。これにより、第3実施形態に係る点火装置10では、初期火炎44が周囲の未燃混合気に放出する熱量を上回るエネルギを、第2点火栓22において初期火炎44に付与することができるため、当該初期火炎44の成長を促進し、燃焼をより一層安定化できると考えられる。
【0066】
第3実施形態に係る点火装置10において、第1点火栓20よりも大きい放電エネルギを第2点火栓22が供給する場合の具体的な態様としては、例えば、第2点火栓22の電極間を第1点火栓20の電極間よりも広げて初期要求電圧を高くすることにより、第2点火栓22の電極間に供給される電気エネルギを増大させる態様、及び、2次コイル42を流れる2次電流を調整すること等により、第2点火栓22に第1点火栓20よりも大きい電気エネルギが供給されるように予め設定する態様等が挙げられる。
【0067】
また、第3実施形態に係る点火装置10として、第2点火栓22に対して燃焼室18の内部を流れる気流の下流側に電磁場を印加する、電磁場印加手段60を備える態様が挙げられる。
図13〜
図16のそれぞれは、第3実施形態に係る点火装置10であって電磁場印加手段60を備えるものの具体例を示す。なお
図13〜
図16では、簡略化のため第1点火栓20を記載していない。
【0068】
電磁場印加手段60としては、電界、磁界又はその両者(これらを「電磁場」と総称する)を、第2点火栓22の下流側に印加する機能を有する装置又は部材であれば、特に制限されない。第2点火栓22で形成された放電路32は、上述の通り、気流によって下流側に流されてU字型に伸長する。第2点火栓22の下流側に電磁場が存在する場合、U字型の放電路32は電磁場の作用によって更に伸長する。放電路32が伸長するにつれて放電路32の抵抗値が上昇し、電極間の放電に要するエネルギが増大するため、第2点火栓22が供給する放電エネルギが増大し、初期火炎44の成長が更に促進されると考えられる。
【0069】
図13に、電磁場印加手段60の第1の具体例を示す。
図13に示す電磁場印加手段60は、一対の電極62a及び62bと、絶縁体64と、電源66とを備える。一対の電極62a及び62bは、シリンダヘッド16に設けられており、第2点火栓22の下流側において、伸長する放電路32を挟むように対向して配置されている。電極62aはシリンダヘッド16に直接設けられて電気的に接している一方、電源66と接続されている電極62bは、絶縁体64を介してシリンダヘッド16上に設けられており、シリンダヘッド16と電気的に接していない。
【0070】
図13に示す電磁場印加手段60は、上記の構成により、第2点火栓22の下流側に広域の電界を形成することができる。第2点火栓22により形成され、気流によって伸長した放電路32を電界の作用で更に伸ばすことにより、第2点火栓22が供給する放電エネルギを増大させ、初期火炎44の成長を更に促進させることができる。
【0071】
図14に、電磁場印加手段60の第2の具体例を示す。
図14に示す電磁場印加手段60は、1つの電極62と、絶縁体64と、電源66と、ピストン12の頂面とで構成されている。電極62は、絶縁体64を介してシリンダヘッド16に設けられ、電源66に接続されている。また、電極62は、第2点火栓22の下流側において、ピストン12の頂面と対向するように配置されている。
図14に示す電磁場印加手段60においては、ピストン12は電気伝導体で形成され、ピストン12の頂面が接地側電極として用いられる。
【0072】
図14に示す電磁場印加手段60は、上記の構成により、第2点火栓22の下流側に広域の電界を形成することができる。第2点火栓22により形成され、気流によって伸長した放電路32を電界の作用で更に伸ばすことにより、第2点火栓22が供給する放電エネルギを増大させ、初期火炎44の成長を更に促進させることができる。
【0073】
図15に、電磁場印加手段60の第3の具体例を示す。
図15に示す電磁場印加手段60は、電源66と、コイル68と、スイッチ(図示しない)とを備える。コイル68は、シリンダヘッド16に設けられ、第2点火栓22の下流側において、コイル68の中心軸と気流の流れる方向とが略同じになるように配置されている。コイル68は電源66と接続しており、スイッチの操作により流れる電流によって磁界(磁束)が形成される。
【0074】
図15に示す電磁場印加手段60は、上記の構成により第2点火栓22の下流側に磁界を形成することができる。気流によって伸長した放電路32を磁界の作用で更に伸ばすことにより、第2点火栓22が供給する放電エネルギを増大させ、初期火炎44の成長を更に促進させることができる。
【0075】
図16に、電磁場印加手段60の第4の具体例を示す。
図16に示す電磁場印加手段60は、永久磁石70を備える。永久磁石70は、第2点火栓22の接地電極30に設けられ、永久磁石70が形成する磁束の向きと気流の流れる方向とが略同じになるように配置されている。この場合、第2点火栓22の接地電極30は磁性体で構成されている。
【0076】
図16に示す電磁場印加手段60は、上記の構成により第2点火栓22の下流側に磁界を形成することができる。気流によって伸長した放電路32を磁界の作用で更に伸ばすことにより、第2点火栓22が供給する放電エネルギを増大させ、初期火炎44の成長を更に促進させることができる。