(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
排気通路に設けられたタービン及び吸気通路に設けられたコンプレッサを有するターボ過給機と、前記排気通路において前記タービンをバイパスするバイパス通路に設けられたウェイストゲートバルブとを備えるエンジンの制御装置であって、
前記エンジンの充填効率の目標値である目標充填効率を設定する目標充填効率設定部と、
前記ウェイストゲートバルブの開度を前記目標充填効率に基づいて制御するバルブ制御部とを備え、
前記目標充填効率設定部は、
前記コンプレッサを通過する吸気の流量であるコンプレッサ通過流量の制限値を有し且つ、
前記制限値と、前記コンプレッサの上流圧力に基づいて設定された吸気密度と、を用いて前記エンジンの運転状態に応じた前記目標充填効率の上限値を算出し、前記目標充填効率が前記上限値を超えないように前記目標充填効率を制限する
ことを特徴とするエンジンの制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のようなエンジンにおいてウェイストゲートバルブの開度を制御する方法としては、運転者からの走行要求に応じた充填効率の目標値である目標充填効率を求め、目標充填効率に基づいて過給圧の目標値である目標過給圧を算出し、ウェイストゲートバルブの開度をその目標過給圧を実現するのに必要な開度に設定することが考えられる。
【0005】
しかし、そうした目標充填効率に基づくウェイストゲートバルブの開度制御では、エンジンの運転状態が高負荷高回転であるとき等、コンプレッサを通過する流量が比較的大きい場合には、ウェイストゲートバルブを全閉することで排気の全てがタービンを通過する状態として過給圧をなるべく高めるようにしても実現できない充填効率が目標充填効率に設定されることがある。この場合、実現できない目標充填効率のための目標過給圧を目指してウェイストゲートバルブが全閉し続けることになる。
【0006】
そうなると、タービンの上流側における排圧(一次排圧)が比較的長い時間に亘って上昇するため、排気効率が低下してしまい、失火の発生や燃費の悪化を招くおそれがある。また、コンプレッサに性能以上の仕事率が要求されることになるため、コンプレッサが過回転となるおそれがある。その上、ターボ過給機による過給圧の制御性が著しく悪くなって、ウェイストゲートバルブの開度制御を含むエンジンの運転制御が破綻し兼ねない。
【0007】
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、排圧の上昇による失火の発生や燃費の悪化とコンプレッサの過回転とを抑制し、且つ過給圧の制御性が著しく悪化するのを防止することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、ここに開示された技術では、ウェイストゲートバルブを全閉しても実現できない充填効率が目標充填効率に設定されないように目標充填効率の設定方法を工夫した。
【0009】
具体的には、ここに開示された技術は、排気通路に設けられたタービン及び吸気通路に設けられたコンプレッサを有するターボ過給機と、排気通路においてタービンをバイパスするバイパス通路に設けられたウェイストゲートバルブとを備えるエンジンの制御装置を対象とする。この制御装置は、エンジンの充填効率の目標値である目標充填効率を設定する目標充填効率設定部と、ウェイストゲートバルブの開度を目標充填効率に基づいて制御するバルブ制御部とを備える。そして、目標充填効率設定部は、
前記コンプレッサを通過する吸気の流量であるコンプレッサ通過流量の制限値を有し且つ、前記制限値と、前記コンプレッサの上流圧力に基づいて設定された吸気密度と、を用いてエンジンの運転状態に応じた目標充填効率の上限値を設定し、目標充填効率が上限値を超えないように目標充填効率を制限する。
【0010】
この構成によると、目標充填効率設定部が目標充填効率を設定し、バルブ制御部がその目標充填効率に基づいてウェイストゲートバルブの開度を制御する。これにより、バイパス通路に流通する排気の流量、すなわちタービンをバイパスする排気の流量が調整されて、ターボ過給機の作動による過給圧が調整される。
【0011】
このとき、目標充填効率は、エンジンの運転状態に応じて設定される目標充填効率の上限値を超えないように設定されるので、目標充填効率がウェイストゲートバルブを全閉しても実現できない程に大きな充填効率に設定されるのを防止し、ウェイストゲートバルブが全閉され続ける期間を短縮できる。それにより、排圧の上昇に起因する失火の発生や燃費の悪化を抑制することができる。また、そうしたウェイストゲートバルブの開度制御によれば、コンプレッサに性能以上の仕事率が要求されることが無くなるので、コンプレッサが過回転となるのを抑制でき、且つ過給圧の制御性が著しく悪化するのを防止できる。
【0012】
上記のエンジンの制御装置において、目標充填効率設定部は、エンジン回転数に応じて可変に目標充填効率の上限値を設定することが好ましい。
【0013】
エンジンの充填効率は、エンジン回転数に応じて変わる。したがって、目標充填効率の上限値を固定値とすると、エンジン回転数如何によっては実現可能な充填効率がその上限値よりも大きいのに目標充填効率がそうした比較的低い上限値を超えないように制限されてしまい、その結果、エンジンの出力性能の低下を招くことが懸念される。
【0014】
これに対し、上記の構成によると、目標充填効率の上限値がエンジン回転数に応じて可変に設定されるので、エンジンの運転状態に合わせて目標充填効率の上限値を変えることができる。それにより、目標充填効率の上限値をエンジンに運転状態に応じて実現可能な充填効率に即して設定できるので、目標充填効率に上限値を設定することに起因してエンジンの出力性能が低下するのを防止できる。
【0015】
ここに開示された技術はまた、排気通路に設けられたタービン及び吸気通路に設けられたコンプレッサを有するターボ過給機と、排気通路においてタービンをバイパスするバイパス通路に設けられたウェイストゲートバルブとを備えるエンジンの制御装置を対象とする。この制御装置は、エンジンの充填効率の目標値である目標充填効率を設定する目標充填効率設定部と、ウェイストゲートバルブの開度を目標充填効率に基づいて制御するバルブ制御部とを備える。前記目標充填効率設定部は、前記エンジンの運転状態に応じた前記目標充填効率の上限値を算出し、前記目標充填効率が前記上限値を超えないように前記目標充填効率を制限し、前記目標充填効率設定部はまた、エンジン回転数に応じて可変に前記目標充填効率の上限値を設定し、目標充填効率設定部は
さらに、コンプレッサを通過する吸気の流量であるコンプレッサ通過流量に設定された一定の制限値を有し、その制限値に基づいて目標充填効率の上限値を設定す
る。
【0016】
エンジンの充填効率はコンプレッサ通過流量に依存し、コンプレッサ通過流量はコンプレッサの運転状態を示すパラメータの1つである。コンプレッサの回転速度に限界があるのと同様にコンプレッサ通過流量にも限界があり、コンプレッサにはコンプレッサ通過流量がチョークする運転領域が存在する。コンプレッサ通過流量がチョークする運転領域では、コンプレッサが過回転となる。
【0017】
上記の構成によると、コンプレッサ通過流量に一定の制限値を設定するだけで目標充填効率の上限値をエンジンの回転数に応じて可変に設定することができる。また、コンプレッサ通過流量の制限値をチョークする流量を考慮してそれ以下に設定することで、コンプレッサ通過流量がチョークする運転領域でコンプレッサが運転されるのを回避することができる。それにより、コンプレッサが過回転とならないようにして、過給圧の制御性が著しく悪化するのを防止できる。
【発明の効果】
【0018】
上記エンジンの制御装置によれば、排圧の上昇による失火の発生や燃費の悪化とコンプレッサの過回転とを抑制し、且つ過給圧の制御性が著しく悪化するのを防止することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、例示的な実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1に、この実施形態に係る制御装置が適用されたエンジン1の概略構成図を示す。
【0022】
エンジン1は、過給機付きの火花点火式直噴エンジンであって、主に、
図1に示すように、吸気(空気)と燃料との混合気を燃焼させるエンジン本体3と、エンジン本体3に導入される吸気が流通する吸気通路5と、エンジン本体3での混合気の燃焼により発生した排気が流通する排気通路7と、排気のエネルギーを利用して吸気を過給するターボ過給機8と、外部EGRを行うための外部EGR機構9と、当該エンジン1の制御に利用される情報を検出するセンサ類と、当該エンジン1の全体を制御するECU(Engine Control Unit)11とを備える。
【0023】
<エンジン本体>
エンジン本体3は、複数の気筒13(例えば4つ、
図1では1つのみ示す)が直列に設けられたシリンダブロック15と、このシリンダブロック15上に配置されたシリンダヘッド17とを備える。これらシリンダブロック15及びシリンダヘッド17の内部には、図示しないが、エンジン冷却水が流れるウォータジャケットが設けられている。
【0024】
各気筒13には、混合気を燃焼させる燃焼室19を区画するピストン21が往復動可能に嵌め入れられている。このピストン21は、コネクティングロッド23を介してクランクシャフト25に連結されている。さらに、エンジン本体3には、インジェクタと呼ばれる燃料噴射装置27が設けられている。燃料噴射装置27は、ECU11からの制御信号に従って、所定のタイミングで燃焼室19に向けて燃料(例えばガソリン)を噴射する。
【0025】
シリンダヘッド17には、気筒13毎に、燃焼室19の天井面にそれぞれ開口した吸気ポート29及び排気ポート31が形成されている。吸気ポート29には、その燃焼室19側の開口を開閉する吸気バルブ33が設けられている。他方、排気ポート31には、その燃焼室19側の開口を開閉する排気バルブ35が設けられている。
【0026】
シリンダヘッド17にはさらに、吸気バルブ33を駆動する吸気カムシャフト34と、排気バルブ35を駆動する排気カムシャフト36とが設けられている。これら吸気カムシャフト34及び排気カムシャフト36は、図示しない動力伝達機構を介してクランクシャフト25に連結されている。
【0027】
吸気カムシャフト34は、クランクシャフト25に連動して回転することにより、吸気バルブ33を開位置と閉位置との間で往復駆動する。この駆動によって、吸気バルブ33は、吸気ポート29を所定のタイミングで開閉する。同様に、排気カムシャフト36は、クランクシャフト25に連動して回転することにより、排気バルブ35を開位置と閉位置との間で往復駆動する。この駆動によって、排気バルブ35は、排気ポート31を所定のタイミングで開閉する。
【0028】
そして、シリンダヘッド17には、吸気カムシャフト34の回転角位相を進角又は遅角させる吸気バルブタイミング可変機構(VVT:Variable Valve Timing、以下「吸気VVT」と称する)37と、排気カムシャフト36の回転角位相を進角又は遅角させる排気バルブタイミング可変機構(以下「排気VVT」と称する)38とが設けられている。
【0029】
吸気VVT37は、例えば電磁バルブを用いて構成されている。吸気バルブ33の開閉時期は、吸気VVT37による進角動作又は遅角動作に応じて連続的に変更される。他方、排気VVT38は、例えば油圧式のソレノイドバルブを用いて構成されている。排気バルブ35の開閉時期は、排気VVT38による進角動作又は遅角動作に応じて連続的に変更される。
【0030】
また、シリンダヘッド17には、気筒13毎に、燃焼室19内の混合気に点火する点火プラグ39が設けられている。点火プラグ39は、ECU11からの制御信号に従って、所定のタイミングで火花を発生し、その火花によって混合気を爆発燃焼させる。この爆発燃焼により、ピストン21が気筒13内を往復運動し、そのピストン21の往復運動がクランクシャフト25の回転運動に変換されてトルク(回転動力)として出力される。
【0031】
<吸気通路>
吸気通路5には、上流側から順に、外部から吸入される空気中に含まれるゴミ等の異物を取り除いて吸気を浄化するエアクリーナ40と、通過する吸気を昇圧させるコンプレッサ41と、通過する吸気を冷却するインタークーラ43と、エンジン本体3に導入される吸気の流量を調節するスロットルバルブ45と、エンジン本体3に供給される吸気を一時的に蓄えるサージタンク47とが設けられている。
【0032】
吸気通路5にはさらに、コンプレッサ41の下流側と上流側とを接続する吸気バイパス通路49が設けられている。この吸気バイパス通路49には、当該吸気バイパス通路49を流通する吸気の流量を調節するバイパスバルブ51が設けられている。バイパスバルブ51は、例えば、吸気バイパス通路49を全閉状態と全開状態とに切り換え可能な、いわゆるオンオフバルブである。
【0033】
これら吸気バイパス通路49及びバイパスバルブ51は、コンプレッサ41によって過給された吸気の一部をコンプレッサ41の上流側に環流するための機構を構成している。バイパスバルブ51は、例えば、サージングと呼ばれるコンプレッサ41での吸気の逆流現象が生じることが予測される場合に、ECU11からの制御信号に応じて開けられる。
【0034】
吸気通路5のうちサージタンク47よりも下流側の部分は、詳しくは図示しないが、エンジン本体3の気筒13毎に分岐した複数の独立吸気通路を有する吸気マニホールド52によって構成されている。サージタンク47は、この吸気マニホールド52に含まれている。
【0035】
<排気通路>
排気通路7には、上流側から順に、通過する排気によって回転するタービン53と、排気に含まれるNOx(窒素酸化物)、CO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)等の有害な大気汚染物質を浄化する排気浄化装置55とが設けられている。
【0036】
排気浄化装置55は、例えば、三元触媒などの排気浄化用の触媒を内部に担持した触媒コンバータ61を2つ併用してなる。排気通路7のうち排気バイパス通路57よりも上流側の部分は、詳しくは図示しないが、エンジン本体3の気筒13毎に分岐した複数の独立排気通路を有する排気マニホールド60を含む。
【0037】
排気通路7にはさらに、当該排気通路7に流通する排気を、タービン53をバイパスして流すための排気バイパス通路57が設けられている。この排気バイパス通路57には、当該排気バイパス通路57を流通する排気の流量を調節するウェイストゲートバルブ(以下、「WGバルブ」と称する)59が設けられている。このWGバルブ59は、排気バイパス通路57の開度を全開状態と全閉状態との間で連続的に又は多段階に変化させることが可能な、いわゆるリニアバルブである。
【0038】
<ターボ過給機>
ターボ過給機8は、吸気通路5に設けられた上記コンプレッサ41と、排気通路7に設けられた上記タービン53とを備える。これらコンプレッサ41とタービン53とは、シャフトを介して連結されており、一体に回転するようになっている。このターボ過給機8では、排気の流れを受けてタービン53が回転すると、そのタービン53の回転力を利用してコンプレッサ41が吸気を下流側に送り込み、吸気を圧縮(過給)する。
【0039】
<外部EGR機構>
外部EGR機構9は、排気通路7に排出された排気の一部を吸気通路5へ還流させるEGR通路63と、EGR通路63を通じて還流させる排気を冷却するEGRクーラ65と、EGR通路63を流通する排気の還流量、つまりEGR流量を制御するEGRバルブ67とを備える。
【0040】
EGR通路63は、吸気マニホールド52と排気マニホールド60とを接続し、それら両マニホールド52,60を連通させている。EGRクーラ65及びEGRバルブ67は、EGR通路63に、その上流側(排気通路7側)から順に設けられている。EGRバルブ67は、EGR通路63の開度を全開状態と全閉状態との間で連続的に又は多段階に変化させることが可能なリニアバルブである。
【0041】
<センサ類>
センサ類は、上述したエンジン本体3、吸気通路5、排気通路7及び外部EGR機構9の各所に設けられている。
【0042】
具体的には、エンジン本体3においては、クランクシャフト25の回転角度を検出するクランク角センサ69と、ウォータジャケット内のエンジン冷却水の温度であるエンジン水温を検出する水温センサ70と、吸気カムシャフト34のカム角度を検出する吸気カム角度センサ71と、排気カムシャフト36のカム角度を検出する排気カム角度センサ72とが設けられている。
【0043】
吸気通路5においては、エアクリーナ40とコンプレッサ41との間で吸気流量を検出するエアフローセンサ73が設けられている。このエアフローセンサ73は、吸気温度を検出する温度センサを内蔵している。さらに、コンプレッサ41とスロットルバルブ45との間で且つインタークーラ43の下流側の吸気通路5には、ターボ過給機8により圧縮された吸気の圧力、つまり過給圧を検出する第1吸気圧センサ75が設けられている。
【0044】
吸気通路5にはさらに、スロットルバルブ45の開度を検出するスロットル開度センサ77が設けられている。また、スロットルバルブ45の下流側の吸気通路5、詳しくはサージタンク47には、当該サージタンク47内の圧力であるインマニ圧を検出する第2吸気圧センサ79が設けられている。この第2吸気圧センサ79は、サージタンク47内の温度であるインマニ温を検出する温度センサを内蔵している。
【0045】
排気通路7においては、ウェイストゲートバルブ59の開度を検出するWG開度センサ81が設けられている。さらに、タービン53と排気浄化装置55との間の排気通路7と、2つの触媒コンバータ61の間の排気通路7とには、O
2センサ83,85がそれぞれ設けられている。これら2つのO
2センサ83,85の検出値は、燃焼室19内の空燃比をフィードバック制御するのに利用される。
【0046】
また、外部EGR機構9においては、EGRバルブ67の開度を検出するEGR開度センサ87が設けられている。さらに、EGRクーラ65とEGRバルブ67との間のEGR通路63には、EGRバルブ67の上流側における排気の圧力であるEGRバルブ上流圧力を検出する排圧センサ89が設けられている。
【0047】
その他、エンジン1は、大気圧を検出する大気圧センサ91や、自動車の速度を検出する車速センサ93、アクセルペダルの踏み込み量に応じたアクセル開度を検出するアクセルセンサ95などを備える。
【0048】
自動車の運転中は、これら各種のセンサ69〜95の検出値が、ECU11に出力されるようになっている。
【0049】
<ECU>
ECU11は、CPU(Central Processing Unit)やROM(Read Only Memory)とかRAM(Random Access Memory)といった内部メモリ等のハードウェアと、OS(Operating System)等の基本制御プラグラムやOS上で起動され特定機能を実現するアプリケーションプログラムを含むソフトウェアとで構成されたコンピュータであり、上記センサ類の検出値に基づいてWGバルブ59の開度制御を含むエンジン1の運転を総合的に制御する。なお、ECU11は、エンジン1の制御装置の一例である。
【0050】
図2に、WGバルブ59の開度制御に関わる部分を中心とした、ECU11の機能構成図を示す。ECU11は、
図2に示すように、機能的には、WGバルブ59の開度を制御するWGバルブ制御部101と、吸気ポート29から気筒13に導入される新気のうち排気ポート31に抜ける新気の割合である新気吹き抜け率Ptを算出する新気吹き抜け率算出部103と、エンジン1の運転状態に応じた充填効率の目標値である目標充填効率ηc
tarを設定する目標充填効率設定部105と、各種データを記憶する記憶部107とを備える。
【0051】
WGバルブ制御部101は、エンジン1に要求される出力トルクの目標値(以下、「目標トルク」と称する)を基準とした制御、いわゆるトルクベース制御に従ってWGバルブ59の開度を制御する。トルクベース制御では、WGバルブ59の開度を含め、スロットルバルブ45やバイパスバルブ51、EGRバルブ67の開度、点火プラグ39による点火時期、吸気バルブ33及び排気バルブ35の開閉時期、燃料の噴射量などの制御機器に設定される制御値が、目標トルクを達成するように様々に変更される。
【0052】
そうしたトルクベース制御では、エンジン1の運転状態によって、吸気行程中に吸気バルブ33及び排気バルブ35の両方が開くバルブオーバーラップが設定される場合がある。そのような場合、吸気ポート29を介して気筒13に取り込まれた新気がそのまま排気ポート31から排出される新気の吹き抜けが生じる。バルブオーバーラップは、例えば、気筒13の掃気を促進したいときや、気筒13の温度を低下させたいとき、タービン53を通過する排気の流量を増加させたいとき等に設定される。
【0053】
トルクベース制御の中で特にWGバルブ59の開度制御について、以下に、
図3を参照しながら説明する。
図3は、WGバルブ59の開度制御について示すフローチャートである。
【0054】
WGバルブ制御部101は、
図3に示すように、まず、エンジン1の運転状態を検知する(ステップS1)。具体的には、クランク角センサ69の検出値から求められるエンジン回転数、車速センサ93によって検出される車速、アクセルセンサ95によって検出されるアクセル開度、変速比等が、エンジン1の運転状態に関する情報として、ECU11に読み込まれる。
【0055】
次いで、WGバルブ制御部101は、これら運転状態に関する情報(アクセル開度、車速、変速比)を用い、記憶部107に予め記憶されている加速度マップを参照してアクセル開度に応じた加速度の目標値(以下、「目標加速度」と称する)を取得する(ステップS2)。加速度マップには、アクセル開度及び車速とそれらに応じた加速度とが変速比毎に関連付けて規定されている。目標加速度は、アクセル開度、車速及び変速比をその加速度マップに照らし合わせることにより設定される。
【0056】
続いて、WGバルブ制御部101は、その目標加速度を実現するのに必要な目標トルクを、車速やアクセル開度に基づいて取得する(ステップS3)。そして、WGバルブ制御部101は、目標トルクを実現するのに必要な目標充填効率ηc
tarを取得する(ステップS4)。目標充填効率ηc
tarは、目標充填効率設定部105により、エンジン回転数に応じて可変に設定される上限値(上限充填効率ηc
max)を超えないように設定される。この目標充填効率ηc
tarの設定方法は、後に詳述する。
【0057】
次に、WGバルブ制御部101は、その目標充填効率ηc
tarとエンジン回転数とに基づき、記憶部107に予め記憶されている過給圧マップを参照して目標過給圧を取得する(ステップS5)。過給圧マップには、目標充填効率ηc
tar及びエンジン回転数と、それらに対応した目標過給圧とが関連付けて規定されている。目標過給圧は、目標充填効率設定部105によって設定される目標充填効率ηc
tarと、エンジン回転数とを、その過給圧マップに照らし合わせることにより設定される。
【0058】
さらに、WGバルブ制御部101は、その目標過給圧に基づいて、タービン53を通過する排気の流量の目標値(以下、「目標タービン流量」と称する)を取得する(ステップS6)。詳しくは、目標タービン流量は、コンプレッサ41の駆動力の目標値である目標コンプレッサ出力やエンジン回転数などに基づいて取得される。目標コンプレッサ出力は、目標過給圧に基づいて求められる。
【0059】
次いで、WGバルブ制御部101は、目標タービン流量を実現するのに必要なWGバルブ59の開度の目標値である目標WG開度を設定する(ステップS7)。詳しくは、目標WG開度は、目標タービン流量と排気の総流量とに基づいて求められる。そして、WGバルブ制御部101は、WGバルブ59の開度が目標WG開度となるようにWGバルブ59の開度を駆動するための制御信号を出力し、WGバルブ59の開度を制御する(ステップS8)。
【0060】
上記のようなWGバルブ59の開度制御において、目標充填効率設定部105は、エンジン1の運転状態に応じた目標充填効率ηc
tarの上限値である上限充填効率ηc
maxを算出し、目標充填効率ηc
tarが上限充填効率ηc
maxを超えないように目標充填効率ηc
tarを制限する。上限充填効率ηc
maxの算出には、新気吹き抜け率算出部103によって算出される新気吹き抜け率Ptが必要である。
【0061】
新気吹き抜け率算出部103は、記憶部107に予め記憶されている吹き抜け率マップを参照して新気吹き抜け率Ptの基本値を取得する。吹き抜け率マップには、吸気バルブ33及び排気バルブ35のオーバーラップ量(すなわちオーバーラップ期間)及び吸気圧と、それらに対応した新気吹き抜け率Ptの基本値とが関連付けて規定されている。新気吹き抜け率Ptの基本値は、吸気バルブ33及び排気バルブ35のオーバーラップ量と吸気圧とを吹き抜け率マップに照らし合わせることにより取得される。
【0062】
ここで、吸気圧には、第2吸気圧センサ79によって検出されるインマニ圧が用いられる。吸気バルブ33及び排気バルブ35のオーバーラップ量は、吸気バルブ33の開閉時期と、排気バルブ35の開閉時期とから求められる。吸気バルブ33の開閉時期は、吸気カム角度センサ71によって検出される吸気カムシャフト34のカム角度から求められる。排気バルブ35の開閉時期は、排気カム角度センサ72によって検出される排気カムシャフト36のカム角度から求められる。
【0063】
新気吹き抜け率算出部103はさらに、記憶部107に予め記憶されている補正マップを参照して新気吹き抜け率Ptの補正項を取得する。補正マップには、エンジン回転数と、それに対応した新気吹き抜け率Ptの補正項とが関連付けて規定されている。新気吹き抜け率Ptの補正項は、エンジン回転数を補正マップに照らし合わせることにより取得される。
【0064】
そして、新気吹き抜け率算出部103は、そうして取得された補正項を新気吹き抜け率Ptの基本値に乗算することにより、新気吹き抜け率Ptを算出する。
【0065】
目標充填効率設定部105は、運転者からの走行要求に応じた充填効率の要求値である要求充填効率ηc
reqを算出する要求充填効率算出部109と、上限充填効率ηc
maxを算出する上限充填効率算出部111とを備える。
【0066】
要求充填効率算出部109は、目標トルクと、エンジン回転数と、図示平均有効圧力の目標値である目標図示平均有効圧力とに基づいて、要求充填効率を算出する。目標図示平均有効圧力は、目標トルクと、トルク損失となる機械抵抗やポンプ損失(ポンピングロス)とに基づいて算出される。
【0067】
上限充填効率算出部111は、コンプレッサ41を通過する吸気の流量であるコンプレッサ通過流量について予め設定された一定の制限値Q
limを有する。コンプレッサ通過流量は、コンプレッサ41の運転状態を示すパラメータの1つである。このコンプレッサ通過流量の制限値Q
limの設定方法について、以下に、
図4を参照しながら説明する。
図4は、コンプレッサ性能マップのイメージ図である。
【0068】
ターボ過給機8は、
図4にコンプレッサ性能マップとして示されているようなコンプレッサ性能を有する。
【0069】
コンプレッサ性能マップには、
図4に破線で示すサージラインSLよりもコンプレッサ通過流量が少ない領域に、いわゆるサージ領域(右上がりの斜線を付した領域)が規定されている。サージ領域は、コンプレッサ通過流量とコンプレッサ圧力比との関係で規定される。このサージ領域では、コンプレッサ通過流量に対して、コンプレッサ圧力比が高すぎるため、コンプレッサ41で過給された吸気がコンプレッサ41に逆流する現象、いわゆるサージングが発生し得る。
【0070】
また、コンプレッサ性能マップには、
図4に破線で示すチョークラインCLよりもコンプレッサ通過流量が多い領域に、いわゆるチョーク領域(左上がりの斜線を付した領域)が規定されている。チョーク領域は、コンプレッサ通過流量で規定される。このチョーク領域では、コンプレッサ41が過回転となって、それ以上のコンプレッサ通過流量が制限される、チョークと呼ばれる現象が発生する。
【0071】
コンプレッサ41は、それらサージラインSLとチョークラインCLとの間の運転領域で安定的に運転される。また、エンジン1には、WOT(Wide-Open Throttle)状態で要求される出力性能を満たすために必要なコンプレッサ通過流量が存在する。したがって、コンプレッサ通過流量の制限値Q
limは、WOT状態で必要なコンプレッサ通過流量とチョークラインCLを規定するコンプレッサ通過流量との間に設定される。
【0072】
図5に、目標充填効率設定部105による目標充填効率ηc
tarの設定方法についてのブロック図を示す。上限充填効率算出部111は、コンプレッサ通過流量の制限値Q
limに基づき、エンジン回転数に応じて可変に上限充填効率ηc
maxを設定する。
【0073】
具体的には、
図5に示すように、上限充填効率算出部111は、まず、コンプレッサ41の上流側における吸気の圧力であるコンプレッサ上流圧力と、エアフローセンサ73によって検出される吸気温度とに基づいて、以下の式(1)によりコンプレッサ41の上流側における吸気の密度ρ
iaを算出する。
ρ
ia=(1÷T)×(P÷Ra)・・・(1)
ここで、「T」は、コンプレッサ上流温度(吸気温度)[K]である。「P」は、コンプレッサ上流圧力[Pa]である。コンプレッサ上流圧力は、大気圧に相当する。このため、コンプレッサ上流圧力としては、大気圧センサ91によって検出される大気圧が用いられる。「Ra」は、空気の気体定数[J/K・mоl]である。
【0074】
次いで、上限充填効率算出部111は、そうして算出される吸気の密度ρ
iaを上述したコンプレッサ通過流量の制限値Q
limに乗算することにより、コンプレッサ通過流量の質量流量の最大値である最大質量流量M
compを算出する。
【0075】
さらに、上限充填効率算出部111は、その最大質量流量M
compを、エンジン回転数に基づいて以下の式(2)により気筒13内に導入される吸気の流量であるシリンダ流量に変換することで、シリンダ流量の最大値である最大シリンダ流量M
cylを算出する。
M
cyl=M
comp÷(Rf
eng÷30)・・・(2)
ここで、「Rf
eng」は、エンジン回転数である。
【0076】
そして、上限充填効率算出部111は、そうして算出される最大シリンダ流量M
cylを、新気吹き抜け率Ptや標準状態(所定の温度や圧力などにより規定された状態、以下同じ)における空気の密度、気筒13の容積を考慮して充填効率に変換することにより、上限充填効率ηc
maxを算出する。詳細には、上限充填効率算出部111は、新気吹き抜け率算出部103によって算出される新気吹き抜け率Ptを1から減算することにより、気筒13内に充填される新気の流量である新気充填量V
iaを算出する。そして、上限充填効率算出部111は、その新気充填流量V
iaを、標準状態における空気の密度(約1.2kg[kg/m
3])と、気筒13の容積とでそれぞれ除算することにより、上限充填効率ηc
maxを算出する。
【0077】
目標充填効率設定部105は、要求充填効率算出部109によって算出される要求充填効率ηc
reqと、上限充填効率算出部111によって算出される上限充填効率ηc
maxとを比較し、それらのうち小さい方を目標充填効率ηc
tarに設定する。すなわち、要求充填効率ηc
reqが上限充填効率ηc
max以下である場合には、要求充填効率ηc
reqを目標充填効率ηc
tarに設定し、要求充填効率ηc
reqが上限充填効率ηc
maxよりも大きい場合には、上限充填効率ηc
maxを目標充填効率ηc
tarに設定する。
【0078】
こうした目標充填効率ηc
tarの設定方法に従えば、目標充填効率ηc
tarが、エンジン1の運転状態に応じて実現可能な上限充填効率ηc
maxを超えないように設定されるので、目標充填効率ηc
tarがWGバルブ59を全閉しても実現できない程に大きな充填効率に設定されることがなくなり、WGバルブ59が全閉され続ける期間が短縮される。
【0079】
したがって、この実施形態に係るエンジン1のECU11によると、排圧の上昇に起因する失火の発生や燃費の悪化を抑制することができる。また、コンプレッサ41に性能以上の仕事率が要求されることが無くなるので、コンプレッサ41が過回転となるのを抑制でき、且つ過給圧の制御性が著しく悪化するのを防止できる。その結果、ターボ過給機8の信頼性を確保し、エンジン1の運転制御の安定化を図ると共に、自動車の運転性や燃費の悪化を防止することができる。
【0080】
以上のように、本出願に開示する技術の例示として、好ましい実施形態を説明した。しかし、本開示における技術は、これに限定されず、適宜、変更、置き換え、付加、省略などを行った実施の形態にも適用可能である。また、上記実施形態で説明した各構成要素を組み合わせて新たな実施の形態とすることも可能である。また、添付図面及び詳細な説明に記載された構成要素の中には、課題解決のためには必須でない構成要素も含まれ得る。そのため、それらの必須でない構成要素が添付図面や詳細な説明に記載されていることを以て、直ちにそれらの必須でない構成要素が必須であるとの認定をするべきではない。
【0081】
例えば、上記実施形態について、以下のような構成としてもよい。
【0082】
上記実施形態では、コンプレッサ通過流量に予め設定された一定の制限値Q
limに基づいて上限充填効率ηc
maxを設定するとしたが、これに限らない。当該制限値Q
limは、他のパラメータに依存して変更される可変の値であってもよい。また、上限充填効率ηc
maxは、コンプレッサ通過流量とは別のパラメータを基準としてエンジン1の運転状態に応じて可変に設定してもよい。
【0083】
また、上記実施形態では、コンプレッサ通過流量を、エアフローセンサ73の検出値とする、いわゆるLジェトロニック方式で求める例を説明したが、これに限らない。当該コンプレッサ通過流量は、スロットル開度センサ77によって検出されるスロットルバルブ45の開度と、第1吸気圧センサ75によって検出される過給圧と、第2吸気圧センサ79によって検出されるインマニ圧及びインマニ温とに基づいて算出する、いわゆるDジェトロニック方式で求めてもよい。
【符号の説明】
【0085】
1…エンジン、3…エンジン本体、5…吸気通路、7…排気通路、8…ターボ過給機、
9…外部EGR機構、11…ECU(エンジンの制御装置)、13…気筒、
15…シリンダブロック、17…シリンダヘッド、19…燃焼室、21…ピストン、
23…コネクティングロッド、25…クランクシャフト、27…燃料噴射装置、
29…吸気ポート、31…排気ポート、33…吸気バルブ、34…吸気カムシャフト、
35…排気バルブ、36…排気カムシャフト、37…吸気VVT、38…排気VVT、
39…点火プラグ、40…エアクリーナ、41…コンプレッサ、
43…インタークーラ、45…スロットルバルブ、47…サージタンク、
49…吸気バイパス通路、51…バイパスバルブ、52…吸気マニホールド、
53…タービン、55…排気浄化装置、57…排気バイパス通路、
59…ウェイストゲートバルブ、60…排気マニホールド、61…触媒コンバータ、
63…EGR通路、65…EGRクーラ、67…EGRバルブ、
69…クランク角センサ、70…水温センサ、71…吸気カム角度センサ、
72…排気カム角度センサ、73…エアフローセンサ、75…第1吸気圧センサ、
77…スロットル開度センサ、79…第2吸気圧センサ、81…WG開度センサ、
83,85…O
2センサ、87…EGR開度センサ、89…排圧センサ、
91…大気圧センサ、93…車速センサ、95…アクセルセンサ、
101…WGバルブ制御部、103…新気吹き抜け率算出部、
105…目標充填効率設定部、107…記憶部、109…要求充填効率算出部、
111…上限充填効率算出部