特許第6443414号(P6443414)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443414
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】臭気成分の判定システムおよび判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/00 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   G01N33/00 C
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-175012(P2016-175012)
(22)【出願日】2016年9月7日
(65)【公開番号】特開2018-40694(P2018-40694A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2017年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【弁理士】
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】100144118
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 由美
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩井 幸一郎
(72)【発明者】
【氏名】早川 和美
(72)【発明者】
【氏名】榊原 清美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 和広
(72)【発明者】
【氏名】中島 毅彦
【審査官】 伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】 特開平8−320316(JP,A)
【文献】 特許第5752649(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00
JSTPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭気成分毎に前記臭気成分の濃度に対応する前記臭気成分の快・不快度のデータを含むデータベースを記憶する記憶部と、
判定対象となる試料に含まれる複数の臭気成分を前記快・不快度のデータに基づいて順位付けする判定部と、を含む臭気成分判定システム。
【請求項2】
前記データベースは、臭気成分毎に前記臭気成分の濃度に対応する前記臭気成分の寄与度のデータをさらに含んでおり、
前記判定部は、前記試料が前記快・不快度が同じである該臭気成分を複数含む場合に、該臭気成分の該寄与度のデータに基づいて該前記快・不快度が同じである複数の該臭気成分を順位付けする請求項1に記載の臭気成分判定システム。
【請求項3】
判定対象となる試料に含まれる複数の臭気成分の快・不快度のデータを取得するステップと、
複数の前記臭気成分を前記快・不快度のデータに基づいて順位付けするステップと、を含む臭気成分判定方法。
【請求項4】
前記試料に含まれる複数の前記臭気成分の寄与度のデータを取得するステップをさらに含んでおり、
前記順位付けするステップは、前記試料が前記快・不快度が同じである前記臭気成分を複数含む場合に、該臭気成分の前記寄与度のデータに基づいて該快・不快度が同じである複数の該臭気成分を順位付けする請求項3に記載の臭気成分判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気成分の判定システムおよび判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
臭気を記録、伝送、再生等する目的で、臭気成分を判定する技術が開発されている。特許文献1では、臭気成分を含む試料の定量分析を行い、含有量が多い成分を中心香の成分と判定し、残りを周辺香の成分と判定し、データベース化する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2008−537362号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ヒトが感じる臭気は、複合臭であることが殆どである。ヒトが感じる臭気を調整するためには、試料中に含まれる各臭気成分がヒトが実際に感じる臭気にどの程度寄与しているかを判定する必要がある。分析装置では、ヒトの嗅覚では感じないような物質も検出する場合がある。また、臭気成分によって、ヒトが臭気として感じる濃度(嗅覚閾値)は相違する。特許文献1では、試料中の各成分の含有量に基づいて各成分を判定しているため、試料に含まれる各臭気成分がヒトが実際に感じる臭気に寄与している度合い(寄与度)を判定することはできない。
【0005】
試料中の臭気成分を分析するために、ガスクロマトグラフ(GC)やガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)などの分析装置を用いた成分分析と併せて、各成分の臭いの質や強度を実際にヒトの嗅覚で判定する官能試験が行われる。各臭気成分の寄与度を評価するために、AEDA法(Aroma Extract Dilution Analysis)等の手法が用いられる。AEDA法では、A倍(Aは任意の数、n=0,1,2,3・・・)に試料を希釈して官能試験を繰り返し行い、分析者の鼻で臭気が感じられなくなる倍率(FDファクター)を求める。FDファクターが高い成分ほど試料の臭気に寄与していると評価される。
【0006】
本発明者は、臭気成分の評価結果に基づき、ヒトが感じる臭気の快適さ(快・不快度)を調整する目的で鋭意研究を行った。その結果、単にFDファクターが高い成分を取り除くことによって必ずしも複合臭の快・不快度が改善されないことを見出した。上記に鑑み、本発明者らは、臭気成分の快・不快度を判定可能な臭気成分の判定システムおよび判定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の臭気成分判定システムは、臭気成分毎に前記臭気成分の濃度に対応する前記臭気成分の快・不快度のデータを含むデータベースを記憶する記憶部と、判定対象となる試料に含まれる複数の臭気成分を前記快・不快度のデータに基づいて順位付けする判定部と、を含む。
【0008】
本発明の臭気成分判定システムでは、試料に含まれる臭気成分を同定し、その濃度を測定したデータの入力を受けて、記憶部に記憶された臭気成分の快・不快度の基づいて、臭気成分を順位付けすることができる。付与された順位に基づいて臭気成分の濃度調整を行うことによって、試料の複合臭の快・不快度を容易に改善することができる。また、記憶部に記憶された臭気成分を含む試料であれば、試料を採取して測定する毎に官能試験を行う必要が無いため、試料の定性分析・定量分析の際に併せて自動的に快・不快度を知ることができる。試料を分析する度に官能試験を行う必要が無いため、臭気成分の評価結果を安定させることができる。判定対象となる試料が人体に有害な臭気成分を含む場合には、試料を分析する度にヒトが吸引する必要がなく、特に好ましい。
【0009】
本発明の臭気成分判定システムでは、前記データベースは、臭気成分毎に前記臭気成分の濃度に対応する前記臭気成分の寄与度のデータをさらに含んでおり、前記判定部は、前記試料が前記快・不快度が同じである該臭気成分を複数含む場合に、該臭気成分の該寄与度のデータに基づいて該快・不快度が同じである複数の該臭気成分を順位付けすることが好ましい。臭気成分によって嗅覚閾値が相違するため、例えば、快・不快度が同程度に不快であれば、寄与度が高い臭気成分を優先的に除去等することによって、より効果的に試料の複合臭の快・不快度を改善することができる。
【0010】
本発明は、臭気成分判定方法として具現化することもできる。本発明の臭気成分判定方法は、判定対象となる試料に含まれる複数の臭気成分の快・不快度のデータを取得するステップと、複数の前記臭気成分を前記快・不快度のデータに基づいて順位付けするステップと、を含む。本発明の臭気成分判定方法は、前記試料に含まれる複数の前記臭気成分の寄与度のデータを取得するステップをさらに含んでいてもよく、前記順位付けするステップは、前記試料が前記快・不快度が同じである前記臭気成分を複数含む場合に、該臭気成分の前記寄与度のデータに基づいて該快・不快度が同じである複数の該臭気成分を順位付けすることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実験例に係る臭気成分の強度、快・不快度、類似度の表示を示す図である。
図2】実験例に係る臭気成分の強度を示す図である。
図3】実験例に係る臭気成分の快・不快度を示す図である。
図4】実験例に係る臭気成分の類似度を示す図である。
図5】実施例に係る臭気成分判定システムを示す図である。
図6】実施例に係る臭気成分判定方法のフローチャートである。
図7】実施例1に係る臭気成分判定方法の結果に基づいて調整された複合臭における臭気成分の強度を示す図である。
図8】実施例1に係る臭気成分判定方法の結果に基づいて調整された複合臭における臭気成分の快・不快度を示す図である。
図9】実施例1に係る臭気成分判定方法の結果に基づいて調整された複合臭における臭気成分の類似度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る臭気成分判定システムは、試料に含まれる臭気成分の定性分析および定量分析が可能な分析装置やセンサとともに好適に用いることができ、このような分析装置等に組み込まれていてもよい。分析装置としては、例えば、GC(ガスクロマトグラフ)の出口にMS(質量分析計)、FID(水素炎イオン化型検出器)、TCD(熱伝導度型検出器)、FTD(アルカリ熱イオン化検出器)、PID(光イオン化検出器)、AED(原子発光検出器)等の検出器を直結した分析装置を用いることができる。センサとしては、例えば、半導体式センサ、接触燃焼式センサ、電気化学式センサ等を用いることができる。分析装置またはセンサは、単体で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
本発明の臭気成分判定システムは、記憶部と、判定部とを含む。記憶部は、臭気成分毎に臭気成分の濃度に対応する臭気成分の快・不快度のデータを含むデータベースを記憶する。記憶部は、臭気成分の濃度と快・不快度とをデータテーブルとして記憶していてもよいし、快・不快度を臭気成分の濃度の関数として記憶していてもよい。例えば、不快度は、下記の式(1)によって表すことができる。なお、I:不快度、C:臭気物質の量、K,a:定数 である。
I=KlogC +a (1)
【0014】
上記の定数K,aは、臭気成分を定量分析し、官能試験を行うことによって求めることができる。また、代表的な悪臭原因物質については、ハンドブック悪臭防止法(公益社団法人におい・かおり環境協会)に掲載された定数K,aを参照することもできる。記憶部は、臭気成分毎に臭気成分の濃度に対応する臭気成分の寄与度のデータをデータベースとしてさらに記憶していてもよい。臭気成分の寄与度としては、限定されないが、例えば、AEDA法によって求められたFDファクターを用いることができる。AEDA法では、試料を所定の希釈倍率に希釈して官能試験を繰り返し実行し、臭気を感じる最大の希釈倍率をFDファクターとする。AEDA法で行う官能試験と同時に快・不快度の測定を行うことができる。記憶部が記憶する快・不快度と、FDファクターとは、同じ官能試験で併せて測定することができる。記憶部は、臭気成分の濃度と寄与度とをデータテーブルとして記憶していてもよいし、寄与度を臭気成分の濃度の関数として記憶していてもよい。FDファクターは、臭気成分の濃度に比例し、下記式(2)によって表すことができる。なお、F:FDファクター、C:臭気成分の濃度、L:定数である。
F=C/L (2)
また、AEDA法に替えて、例えば、閾希釈倍数を用いて寄与度を評価することもできる。閾希釈倍数は、下記の方法で求めることができる。まず、多段階の濃度(すなわち、濃度は既知)の臭気成分を含有した試料ガスを準備し、これらの試料ガスに官能試験を行い、においの有無と快・不快度とを測定する。その測定結果から、臭気成分の嗅覚閾値を求めるとともに、臭気成分の濃度と快・不快度との関係を求める。閾希釈倍数は、臭気成分の濃度を嗅覚閾値で除した値であり、閾希釈倍数が高いほど寄与度が高い。
【0015】
判定部は、判定対象となる試料に含まれる複数の臭気成分を快・不快度のデータに基づいて順位付けする。試料が快・不快度が同じである臭気成分を複数含む場合には、判定部は、臭気成分の寄与度のデータに基づいて快・不快度が同じである複数の臭気成分を順位付けすることが好ましい。本発明の臭気成分判定システムによれば、本発明の臭気成分判定方法を実行することができる。判定部は、判定対象となる試料に含まれる複数の臭気成分の成分名と濃度に基づいて記憶部を参照し、その試料に含まれる複数の臭気成分の快・不快度のデータを取得するステップと、複数の臭気成分を快・不快度のデータに基づいて順位付けするステップとを実行することができる。必要に応じて、判定部は、判定対象となる試料に含まれる複数の臭気成分の成分名と濃度に基づいて記憶部を参照し、その試料に含まれる複数の臭気成分の寄与度のデータを取得するステップをさらに実行してもよい。これによって、判定部は、順位付けするステップにおいて、臭気成分の寄与度のデータに基づいて快・不快度が同じである複数の臭気成分を順位付けすることができる。判定部は、快・不快度のデータと同時に寄与度のデータを取得するステップを実行してもよいし、快・不快度のデータを取得した結果、快・不快度が同じである複数の臭気成分が存在している場合にのみ寄与度のデータを取得するステップを実行してもよい。快・不快度と寄与度の双方が同じである複数の臭気成分が存在する場合には、その複数の成分は同じ順位として順位付けしてもよい。また、順位付けは、臭気成分の一部のみに行われてもよい。例えば、複合臭から不快臭を除去したい場合には、複合臭に含まれる不快成分(快・不快度が負の値を示す成分)のみについて順位付けされてもよい。
【0016】
本発明の臭気成分判定システムによれば、試料に含まれる臭気成分を同定し、その濃度を測定したデータを入力すれば、記憶部に記憶された臭気成分の快・不快度の基づいて、臭気成分を順位付けすることができる。付与された順位に基づいて臭気成分の濃度調整を行うことによって、試料の複合臭の快・不快度を容易に改善することができる。また、記憶部に記憶された臭気成分を含む試料であれば、試料を採取して測定する毎に官能試験を行う必要が無く、試料の定性分析・定量分析の際に併せて自動的に快・不快度を知ることができる。
【0017】
本発明の臭気成分判定方法は、判定対象となる試料に含まれる複数の臭気成分の快・不快度のデータを取得するステップと、複数の臭気成分を快・不快度のデータに基づいて順位付けするステップと、を含む。本発明の臭気成分判定方法は、試料に含まれる複数の臭気成分の寄与度のデータをさらに取得するステップをさらに含んでいてもよい。順位付けするステップは、判定対象となる試料が快・不快度が同じである臭気成分を複数含む場合に、臭気成分の寄与度のデータに基づいて快・不快度が同じである複数臭気成分を順位付けすることが好ましい。本発明の臭気成分判定方法は、判定対象となる試料の成分名の同定および濃度測定を行うと同時に、その試料に含まれる臭気成分の快・不快度や寄与度のデータを取得するものであってもよい。スニッフィング機能付きのGC−MS等を用いることで、試料の定性分析、定量分析と、官能試験とを同時に行うことができる。
【0018】
(予備実験例)
本発明を着想するに先立って、本発明者は、臭気成分の寄与度に基づき、快・不快度を改善する実験を行った。まず、11種の臭気成分を含む複合臭を試料A1として準備し、AEDA法によってFDファクターを求めた。
【0019】
AEDA法では、3倍(n=0,1,2,3・・・)に試料を希釈して、スニッフィング機能付きのGC−MSを用いて官能試験を繰り返し行い、分析者の鼻で臭気が感じられなくなる倍率(FDファクター)を求めた。スニッフィング機能付きのGC−MSでは、キャピラリーカラムでにおい成分を分離後、ラインを質量分析計(MS)とスニッフィングポートに分岐されており、MSでの検出と、ヒトがにおいを嗅ぐ官能試験とを同時に実行することができる。試料A1に含まれる各臭気成分のうち、FDファクターが高い4成分を「主要成分」とし、希釈倍率が9倍の時に臭気を感じた7成分を「準主要成分」とした。
【0020】
試料A1から主要成分である4成分を取り除いた試料A2と、試料A1から主要成分と準主要成分の11成分を取り除いた試料A3を準備し、官能試験を行って、試料A1〜A3の臭気の強度、快・不快度、類似度を調べた。ここにいう類似度とは、試料A1と図4に記載の各試料とを比較した結果である。図1は、臭気の強度、快・不快度、類似度の評価指標を表示している。なお、官能試験の結果は、6名が実施した結果の平均値を示している。図2図4に示すように、臭気成分を除去していない試料A1と比較して、臭気成分を4成分除去した試料A2では、臭気の類似度は低減する一方で、快・不快度はやや不快側に変化していることがわかった。また、臭気成分を11成分除去した試料A3では、臭気の類似度は試料A2よりもさらに低減する一方で、快・不快度は試料A1およびA2よりも大きく不快側に変化していることがわかった。また、臭気の強度は、試料A1〜A3で殆ど変化がなかった。
【0021】
予備実験の結果、FDファクターが高い成分を優先的に取り除くと、臭気の類似度は著しく低減するものの、必ずしも複合臭の快・不快度が改善されず、逆により不快になる場合があることが明らかになった。この知見に基づき、本発明者は、臭気成分の快・不快度に基づいて臭気成分を順位付けすることを着想し、寄与度よりも快・不快度を優先させて臭気成分を順位付けを行い、より不快に順位付けされた臭気成分を優先的に取り除くことが快・不快度の改善に有効であることを見出した。
【0022】
快・不快度を改善するに際して、寄与度よりも快・不快度を優先させて臭気成分を順位付けを行い、より不快に順位付けされた臭気成分を優先的に取り除くことが有効であることは、本発明者が鋭意研究を行い、見出すことができた新規かつ優位な知見であり、本発明は、この知見に基づいて完成されたものである。
【実施例1】
【0023】
12種の臭気成分を含む複合臭を試料1として準備した。図5に示す様に、臭気成分判定システム1は、分析装置を制御する測定部10と、記憶部12と、判定部14とを含む。測定部10は、GC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)を制御して、試料の測定を行う。記憶部12は、臭気成分の快・不快度およびFDファクターを臭気成分の濃度の関数として記憶している。
【0024】
記憶部12には、予備実験によって求められたFDファクターおよび快・不快度の関係式が記憶されている。予備実験では、スニッフィング機能付きのGC−MSを用いて、AEDA法によって試料1に含まれる臭気成分のFDファクターを求めると同時に、その希釈倍率における快・不快度の評価を行った。予備実験によって得られた各臭気成分のFDファクターおよび快・不快度を表2に示す。快・不快度は、表2の右6列に希釈倍率ごとに記載された数値であり、各数値の示す快・不快度は、図1の表示に従う。
【0025】
AEDA法では、2倍(n=0,1,2,3・・・)に試料を希釈して官能試験を繰り返し行い、分析者の鼻で臭気が感じられなくなる倍率(FDファクター)を求めた。このため、表2では、FDファクターを求める際に測定した希釈倍率(1,2,4,8,16,32倍)における快・不快度が示されており、FDファクターを超える希釈倍率においては快・不快度の評価結果が得られていない。なお、官能試験の結果は、6名が実施した結果の平均値を示すものである。式(1)の定数K,aおよび式(2)の定数Lは、表2に示す測定結果を用いてパラメータフィッティングを行うことで算出され、記憶部12に記憶されている。
【0026】
【表1】
【0027】
図6に示すように、臭気成分判定システム1は、測定部10によって分析装置(GC−MS)を制御して、試料1の測定を行い、臭気成分の同定と定量を行う(ステップS101,S102)。臭気成分名とその濃度は測定部10から記憶部12に出力され、記憶部12に記憶される。判定部14は、記憶部12を参照し、臭気成分名とその濃度に基づいて、快・不快度とFDファクターとを計算して取得する(ステップS105,S107)。次に、判定部14は、臭気成分を快・不快度に基づいて順位付けする(ステップS109)。試料が快・不快度が同じである臭気成分を複数含む場合には、判定部14は、臭気成分の寄与度に基づいて快・不快度が同じである複数の臭気成分を順位付けする。本実施例では、表2の希釈倍率1倍の列に記載の快・不快度が試料1に含まれる各臭気成分の快・不快度である。快・不快度が負の値を示す不快な臭気成分は、n−酪酸、n−吉草酸、n−ヘキサン、ヘキサナール、ブタナール、p−クレゾール、t−2−ノネナールの7成分であった。判定部14は、臭気成分を快・不快度に基づいて判定し、快・不快度が同じである複数の臭気成分については、そのFDファクターがより高い成分をより不快であると判定して、順位付ける。判定部は、不快な臭気成分である7成分について、より不快なものから順に、1位:n−酪酸、2位:ブタナール、3位:n−吉草酸およびヘキサナール、5位:p−クレゾール、6位n−ヘキサン、7位:t−2−ノネナールと順位付けする。判定部14は、各臭気成分の濃度、FDファクター、寄与度、順位のリストをモニタ、プリンタ等の出力装置に出力する(ステップS111)。
【0028】
臭気成分判定システム1によって1〜3,5,7位に順位付けられた5種の臭気成分のうちの1種類をそれぞれ試料1から除去した試料2〜6を準備し、官能試験を行って、各試料の臭気の強度、快・不快度、類似度を調べた。なお、ここにいう類似度とは、試料1と図9に記載の各試料とを比較した結果である。その結果を図7図9に示す。なお、試料2(n−酪酸除去)、試料3(ブタナール除去)、試料4(n−吉草酸除去)、試料5(p−クレゾール除去)、試料6(t−2−ノネナール除去)であり、臭気の強度、快・不快度、類似度の評価指標の表示は、図1と同様である。
【0029】
図8に示すように、より高順位の不快な臭気成分を除去した試料ほど、快・不快度の絶対値が低く、複合臭の不快度が軽減されていた。また、図9に示すように、臭気成分判定システム1によって付された順位と類似度との相関は認められず、FDファクターが高い臭気成分を除去した試料2,試料5は、その他の試料と比較して、試料1との類似度が低くなっていた。また、図7に示すように、臭気の強度は、試料1〜6で殆ど変化がなかった。すなわち、本実施例の臭気成分の判定システムおよび判定方法付与された順位に基づいて臭気成分の濃度調整を行うことによって、試料の複合臭の快・不快度を容易に改善することができることがわかった。
【符号の説明】
【0030】
1 臭気成分判定システム
10 測定部
12 記憶部
14 判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9