特許第6443421号(P6443421)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443421
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20181217BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20181217BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20181217BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   H01M4/04 Z
   H01M4/139
   H01M4/13
   H01M4/62 Z
【請求項の数】2
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-201013(P2016-201013)
(22)【出願日】2016年10月12日
(65)【公開番号】特開2018-63828(P2018-63828A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2017年12月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】特許業務法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】召田 智也
【審査官】 小川 知宏
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−131092(JP,A)
【文献】 特開2016−134269(JP,A)
【文献】 特開2016−091850(JP,A)
【文献】 特開2011−181229(JP,A)
【文献】 特開平11−307099(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/04
H01M 4/13
H01M 4/139
H01M 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電部材の表面上に電極活物質層を有する電極、を製造する電極の製造方法において、
電極活物質と導電材と結着材と溶媒とを混合して造粒した湿潤造粒体を作製する湿潤造粒体作製工程と、
前記集電部材の表面上に、前記湿潤造粒体作製工程で作製された前記湿潤造粒体を膜状に付着させる成膜工程と、
前記集電部材の表面上に付着させた膜状の前記湿潤造粒体を乾燥させることで、前記集電部材の表面上に前記電極活物質層を形成する乾燥工程と、を備え、
前記電極活物質及び前記導電材のうち、嵩密度の低い方を物質α、嵩密度の高い方を物質βとすると、
前記湿潤造粒体作製工程は、
前記物質αを前記溶媒で湿潤させた湿潤物質を作製する湿潤工程と、
前記湿潤物質と前記物質βとを混合して、先行混合体を作製する第1混合工程と、
前記先行混合体と前記結着材と前記溶媒とを混合しつつ造粒して、前記湿潤造粒体を作製する第2混合工程と、を有する
電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電極の製造方法であって、
前記物質αが前記導電材であり、前記物質βが前記電極活物質であり、
前記導電材の嵩密度は、0.02〜0.2(g/cc)の範囲内であり、
前記湿潤工程では、前記導電材1g当たりの前記溶媒の添加量を、0.5〜3gの範囲内とする
電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電池を構成する電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、集電部材の表面上に電極活物質層を有する電極を製造する電極の製造方法が開示されている。具体的には、電極活物質と導電材と結着材と溶媒とを混合して造粒した湿潤造粒体を作製する湿潤造粒体作製工程と、前記集電部材の表面上に、前記湿潤造粒体作製工程で作製された前記湿潤造粒体を膜状に付着させる成膜工程と、前記集電部材の表面上に付着させた膜状の前記湿潤造粒体を乾燥させることで、前記集電部材の表面上に前記電極活物質層を形成する乾燥工程とを備えている。
【0003】
このうち、湿潤造粒体作製工程は、電極活物質と導電材とを混合(乾式混合)して、先行混合体を作製する第1混合工程と、前記先行混合体と前記結着材と前記溶媒とを混合しつつ造粒して、前記湿潤造粒体を作製する第2混合工程と、を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−131092号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、電極活物質と導電材とでは、通常、嵩密度に差がある。ここで、電極活物質及び導電材のうち嵩密度の低い方を物質α、嵩密度の高い方を物質βとすると、特許文献1の第1混合工程において、電極活物質と導電材とを混合(乾式混合)したとき、嵩密度の高い物質βが下方に偏在(沈降)し、一方、嵩密度の低い物質αが上方に偏在する傾向となり、両物質を均一に混合(分散)させることが困難であった。このため、第1混合工程で作製された先行混合体において、電極活物質及び導電材の分散性(分散の程度)が低くなり(従って、電極活物質に対する導電材の分散性が低くなり)、先行混合体の電気抵抗率が高くなる(ひいては、電極活物質層の電気抵抗率が高くなる)傾向にあった。
【0006】
本発明は、かかる現状に鑑みてなされたものであって、電極活物質と導電材とを混合して作製する先行混合体の電気抵抗率を低くすることができる、電極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、集電部材の表面上に電極活物質層を有する電極、を製造する電極の製造方法において、電極活物質と導電材と結着材と溶媒とを混合して造粒した湿潤造粒体を作製する湿潤造粒体作製工程と、前記集電部材の表面上に、前記湿潤造粒体作製工程で作製された前記湿潤造粒体を膜状に付着させる成膜工程と、前記集電部材の表面上に付着させた膜状の前記湿潤造粒体を乾燥させることで、前記集電部材の表面上に前記電極活物質層を形成する乾燥工程と、を備え、前記電極活物質及び前記導電材のうち、嵩密度の低い方を物質α、嵩密度の高い方を物質βとすると、前記湿潤造粒体作製工程は、前記物質αを前記溶媒で湿潤させた湿潤物質を作製する湿潤工程と、前記湿潤物質と前記物質βとを混合して、先行混合体を作製する第1混合工程と、前記先行混合体と前記結着材と前記溶媒とを混合しつつ造粒して、前記湿潤造粒体を作製する第2混合工程と、を有する電極の製造方法である。
【0008】
上述の製造方法では、先行混合体を作製する第1混合工程に先立って、電極活物質及び導電材のうち嵩密度の低い方である物質αを溶媒(湿潤造粒体を作製するために用いる全溶媒の一部)で湿潤させて(表面が濡れる程度に湿らせて)湿潤物質を作製する湿潤工程を備える。その後、第1混合工程において、電極活物質及び導電材のうち嵩密度の高い方である物質βと、先の湿潤工程で作製した湿潤物質とを混合して、先行混合体を作製する。その後、第2混合工程において、先行混合体と結着材と溶媒(湿潤造粒体を作製するために用いる全溶媒のうち、湿潤工程で使用する溶媒を除いた残りの溶媒)とを混合しつつ造粒して、湿潤造粒体を作製する。
【0009】
このように、第1混合工程において、電極活物質及び導電材のうち嵩密度の高い方である物質βと、先の湿潤工程で作製した湿潤物質(電極活物質及び導電材のうち嵩密度の低い物質αを溶媒で湿潤させた物質)とを混合することで、物質βの表面に湿潤物質(溶媒で湿潤した物質α)を付着(溶媒を介して結合)させつつ、物質βと湿潤物質(物質α)とを混合することができる。あるいは、湿潤物質(溶媒で湿潤した物質α)の表面に物質βを付着(溶媒を介して結合)させつつ、物質βと湿潤物質(物質α)とを混合することができる。
【0010】
これにより、第1混合工程で作製された先行混合体において、電極活物質及び導電材の分散性(分散の程度)が良好になる(従って、電極活物質に対する導電材の分散性が良好になる)。換言すれば、先行混合体の全体にわたって、電極活物質と導電材が適切に(良好に)混合された状態になる。これにより、先行混合体の全体にわたって導電材を通じた良好な導電性ネットワークを形成することができるので、先行混合体の電気抵抗率を低くすることができる。
【0011】
なお、湿潤造粒体とは、溶媒が電極活物質の粒子と導電材の粒子と結着材に保持(吸収)された状態で、これらが集合(結合)した物質(粒状体)をいう。
【0012】
さらに、前記の電極の製造方法であって、前記物質αが前記導電材であり、前記物質βが前記電極活物質であり、前記導電材の嵩密度は、0.02〜0.2(g/cc)の範囲内であり、前記湿潤工程では、前記導電材1g(グラム)当たりの前記溶媒の添加量を、0.5〜3gの範囲内とする電極の製造方法とすると良い。
【0013】
上述の製造方法では、物質αが導電材であり、物質βが電極活物質である。すなわち、電極活物質及び導電材のうち嵩密度の低い方が導電材であり、嵩密度の高い方が電極活物質である。従って、湿潤工程では、導電材を溶媒で湿潤させた(表面が濡れる程度に湿らせた)湿潤導電材を作製する。その後、第1混合工程では、電極活物質と湿潤導電材(湿潤物質)とを混合した先行混合体を作製する。
【0014】
これにより、電極活物質の表面に湿潤導電材を付着(溶媒を介して結合)させつつ、電極活物質と湿潤導電材とを混合することができる。このため、第1混合工程で作製された先行混合体において、電極活物質及び導電材の分散性(分散の程度)が良好になる(従って、電極活物質に対する導電材の分散性が良好になる)。
【0015】
特に、上述の製造方法では、導電材として、嵩密度が0.02〜0.2(g/cc)の範囲内である導電材を用いる。さらに、湿潤工程において、導電材1g(グラム)当たりの溶媒の添加量を、0.5〜3g(グラム)の範囲内とする。換言すれば、湿潤工程において、導電材1gに対し、溶媒を0.5〜3gの範囲内の割合で加える。すなわち、湿潤工程において、導電材と溶媒との混合比を、重量比で1:「0.5〜3の範囲内の値」とする。
【0016】
このようにすることで、第1混合工程において、電極活物質及び導電材の分散性(分散の程度)をより一層良好にすることができる(従って、電極活物質に対する導電材の分散性をより一層良好にすることができる)。これにより、第1混合工程で作製された先行混合体において、電極活物質及び導電材の分散の程度がより一層良好になり(従って、電極活物質に対する導電材の分散の程度がより一層良好になり)、先行混合体の電気抵抗率をより一層低くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施形態にかかる湿潤造粒体の作製手順を示す模式図である。
図2】実施形態で使用するロール成膜装置の構成を説明する斜視図である。
図3図2のロール成膜装置の断面図である。
図4】実施形態にかかる電極の製造方法の流れを示すフローチャートである。
図5図4のフローチャートのサブルーチンである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を具体化した実施形態について、添付図面を参照しつつ詳細に説明する。本実施形態は、リチウムイオン二次電池の正極(電極)の製造に、本発明を適用したものである。本実施形態では、正極の正極活物質層(電極活物質層)を形成するための湿潤造粒体の材料として、正極活物質(電極活物質)と導電材と結着材と溶媒とを使用する。
【0019】
なお、本実施形態では、正極活物質13として、粉末状のリチウム遷移金属複合酸化物(具体的には、LiNi1/3Mn1/3Co1/32 )を用いている。また、導電材11として、粉末状のアセチレンブラックを用いている。また、結着材14として、PVdF(ポリフッ化ビニリデン)を用いている。また、溶媒15として、NMP(N−メチルピロリドン)を用いている。
【0020】
本実施形態では、上記の各材料を混練して、湿潤造粒体6を作製する。この湿潤造粒体6を集電箔7(集電部材)の表面上に膜状に付着させ(塗布し)、その後、集電箔7の表面上の湿潤造粒体6を乾燥させることにより、正極19を製造する。つまり、本実施形態では、湿潤造粒体6を作製する湿潤造粒体作製工程と、その湿潤造粒体6を集電箔7の表面に膜状に付着させる成膜工程と、集電箔7の表面上に付着させた膜状の湿潤造粒体6を乾燥させる乾燥工程とを行って、正極19を製造する。
【0021】
ここで、本実施形態にかかる電極(正極19)の製造方法について、詳細に説明する。図1は、実施形態にかかる湿潤造粒体6の作製手順を示す模式図である。図2は、実施形態で使用するロール成膜装置20の構成を説明する斜視図である。図3は、図2のロール成膜装置20の断面図である。図4は、実施形態にかかる電極(正極19)の製造方法の流れを示すフローチャートである。図5は、図4のフローチャートのサブルーチンであり、湿潤造粒体6の製造方法の流れを示すフローチャートである。
【0022】
図4に示すように、まず、ステップS1(湿潤造粒体作製工程)において、正極活物質13(LiNi1/3Mn1/3Co1/32 )と導電材11(アセチレンブラック)と結着材14(PVdF)と溶媒15(NMP)とを混合して造粒した湿潤造粒体6を作製する。
なお、本実施形態で使用する粉末状の正極活物質13(電極活物質)の嵩密度は、1.5g/ccである。また、本実施形態で使用する粉末状の導電材11の嵩密度は、0.01〜0.25g/ccの範囲内である。従って、本実施形態では、正極活物質13及び導電材11のうち、嵩密度の低い方である物質αが導電材11となり、嵩密度の高い方である物質βが正極活物質13となる。
【0023】
ここで、本実施形態の湿潤造粒体6の作製方法について、詳細に説明する。図5に示すように、まず、ステップS11(湿潤工程)において、導電材11(物質α)を溶媒15で湿潤させた湿潤導電材12(湿潤物質)を作製する。具体的には、公知の攪拌造粒機(図示なし)内に、粉末状の導電材11と、溶媒15(湿潤造粒体6を作製するために用いる全溶媒15の一部)とを投入し、攪拌することで、各々の導電材11の粒子を溶媒15で湿潤させて(導電材11の粒子表面が濡れる程度に湿らせて)、湿潤導電材12(湿潤物質)を作製する(図1参照)。
【0024】
次に、ステップS12(第1混合工程)に進み、ステップS11で作製した湿潤導電材12(湿潤物質)と、正極活物質13(物質β)とを混合して、先行混合体16を作製する。具体的には、湿潤導電材12が収容されている前述の攪拌造粒機内に、粉末状の正極活物質13を加え、攪拌することで、正極活物質13と湿潤導電材12とを混合(分散)して、先行混合体16とする(図1参照)。
【0025】
このように、ステップS12(第1混合工程)において、正極活物質13(電極活物質)及び導電材11のうち嵩密度の高い方である正極活物質13(物質β)と、先のステップS11(湿潤工程)で作製した湿潤導電材12(正極活物質13及び導電材11のうち嵩密度の低い物質αである導電材11を溶媒15で湿潤させた湿潤物質)とを混合することで、正極活物質13(物質β)の粒子表面に湿潤導電材12(溶媒15で湿潤した物質α)を付着(溶媒15を介して結合)させつつ、正極活物質13(物質β)と導電材11(物質α)とを混合(分散)することができる。
【0026】
これにより、ステップS12(第1混合工程)で作製された先行混合体16において、正極活物質13(電極活物質)及び導電材11の分散性(分散の程度)が良好になる(従って、正極活物質13に対する導電材11の分散性が良好になる)。換言すれば、先行混合体16の全体にわたって、正極活物質13(電極活物質)と導電材11が適切に(良好に)混合された状態になる。これにより、先行混合体16の全体にわたって導電材11を通じた良好な導電性ネットワークを形成することができるので、先行混合体16の電気抵抗率を低くすることができる。
【0027】
次いで、ステップS13(第2混合工程)に進み、湿潤導電材12と正極活物質13とを混合してなる先行混合体16と、結着材14(PVdF)と、溶媒15(NMP)とを混合しつつ造粒して、湿潤造粒体6を作製する。具体的には、先行混合体16が収容されている前述の攪拌造粒機内に、結着材14(PVdF)と溶媒15(湿潤造粒体6を作製するために用いる溶媒15の全量のうち、ステップS11で使用する溶媒15を除いた残りの溶媒15)を加え、攪拌することで、湿潤造粒体6にする(図1参照)。
【0028】
このステップS13(第2混合工程)の混合では、湿潤造粒体6を構成する全成分が混合されることとなる。この全成分混合を行うことにより、湿潤造粒体6が得られる。なお、上述のステップS12(第1混合工程)及びステップS13(第2混合工程)を行うことで、粉末状の正極活物質13が造粒され、もとの粉末のサイズより大きい正極活物質13の粒子(湿潤粒子)となる。湿潤造粒体6は、溶媒15が正極活物質13の粒子と導電材11の粒子と結着材14に保持(吸収)された状態で、これらが集合(結合)した物質(粒状体)である。
【0029】
また、本実施形態では、ステップS11(湿潤工程)、ステップS12(第1混合工程)、及びステップS13(第2混合工程)において混合する各成分の配合比は、次のようにしている。
まず、ステップS11(湿潤工程)では、導電材11(アセチレンブラック)と溶媒15(NMP)との混合比を、重量比で、1:「0.3〜4の範囲内の値」としている。
また、ステップS12(第1混合工程)では、正極活物質13(LiNi1/3Mn1/3Co1/32 )と導電材11との混合比(配合比)が、重量比で96:4となるように、正極活物質13を添加している。
【0030】
また、ステップS13(第2混合工程)では、正極活物質13と導電材11と結着材14(PVdF)とからなる固形分全体に占める結着材14の重量割合が、3%となるように、結着材14を添加している。さらに、湿潤造粒体6のNV(固形分率)が重量比で78%となるように、溶媒15(NMP)を添加している。具体的には、溶媒15以外の成分、すなわち正極活物質13と導電材11と結着材14が固形分(不揮発成分)であり、これらの合計重量が、湿潤造粒体6の全体重量(正極活物質13と導電材11と結着材14と溶媒15の合計重量)に対して、78wt%となるようにする。
【0031】
次に、ステップS2(成膜工程)に進み、集電箔7(集電部材)の表面上に、ステップS1(湿潤造粒体作製工程)で作製された湿潤造粒体6を膜状に付着させる。具体的には、ステップS1(湿潤造粒体作製工程)で作製された湿潤造粒体6を、対向するロール(第1ローラ1と第2ローラ2)の間隙に通すことによって膜状にし、膜状にされた湿潤造粒体6を集電箔7の表面上に付着させる(図2及び図3参照)。なお、本実施形態では、図2及び図3に示すロール成膜装置20を用いて、ステップS2(成膜工程)を行う。
【0032】
ロール成膜装置20は、図2及び図3に示すように、第1ローラ1と第2ローラ2と第3ローラ3の、3つのローラを有している。これら3つのローラ1〜3は、水平に並べて配置され、互いに平行に設けられている。また、第1ローラ1と第2ローラ2とは、わずかに間隔を置いて対面している。同様に、第2ローラ2と第3ローラ3とも、わずかに間隔を置いて対面している。第1ローラ1と第3ローラ3とは対面していない。さらに、第1ローラ1と第2ローラ2との対面箇所の上側には、仕切り板4と5が、ローラの幅方向(軸方向、図3において紙面に直交する方向)に離間して配置されている。
【0033】
また、これら3つのローラ1〜3の回転方向は、図2及び図3において矢印で示すように、隣り合う(対面する)2つのローラの回転方向が互いに逆方向となるように、すなわち、対面する2つのローラが互いに順方向回転となるように設定されている。そして、第1ローラ1と第2ローラ2との対面箇所では、これらのローラの表面が回転により下向きに移動するようになっている。また、第2ローラ2と第3ローラ3との対面箇所では、これらのローラの表面が回転により上向きに移動するようになっている。また、回転速度に関して、回転によるローラの表面の移動速度が、第1ローラ1において最も遅く、第3ローラ3において最も速く、第2ローラ2ではそれらの中間となるように設定されている。
【0034】
このようなロール成膜装置20では、第1ローラ1と第2ローラ2との対面箇所の上に位置する仕切り板4と5の間の収容空間内に、ステップS1において作製した湿潤造粒体6が投入される。また、第3ローラ3には、集電箔7が掛け渡されている。集電箔7は、金属箔(アルミニウム箔)であり、第3ローラ3の回転と共に、第2ローラ2と第3ローラ3との対面箇所を通って、図2及び図3の右下から右上へと搬送されるようになっている。また、第2ローラ2と第3ローラ3との対面箇所には、集電箔7が通されている状態で、さらに第2ローラ2と集電箔7との間に若干の隙間があるようにされている。すなわち、第2ローラ2と第3ローラ3との間の隙間(集電箔7が存在していない状態での隙間)は、集電箔7の厚さより少し広い。
【0035】
ステップS2(成膜工程)では、ロール成膜装置20の仕切り板4と5の間の収容空間内に、ステップS1で作製した湿潤造粒体6を投入する。投入された湿潤造粒体6は、第1ローラ1と第2ローラ2との対面箇所の隙間内に供給され、第1ローラ1及び第2ローラ2の回転により、両ローラの間の隙間を通過して膜状となる(図3参照)。
【0036】
膜状となった湿潤造粒体6(これを湿潤造粒体膜8という)は、その後、第1ローラ1よりも移動速度の速い第2ローラ2の表面に担持されて、第2ローラ2の回転と共に搬送されていく。すると、第2ローラ2と第3ローラ3との対面箇所において、集電箔7と湿潤造粒体膜8とが出会う。これにより、湿潤造粒体膜8が、第2ローラ2から、より移動速度の速い第3ローラ3と共に回転している集電箔7の表面上に転写される(付着する)。これにより、集電箔7上に湿潤造粒体膜8が形成された、湿潤造粒体膜付き集電箔9が得られる。
【0037】
その後、ステップS3(乾燥工程)に進み、湿潤造粒体膜付き集電箔9を乾燥させる(湿潤造粒体膜8を乾燥させる)。これにより、湿潤造粒体膜8(湿潤造粒体6)に吸収(保持)されている溶媒15が除去されて(蒸発して)、湿潤造粒体膜8が正極活物質層18(電極活物質層)になる(図2参照)。これにより、集電箔7の表面上に正極活物質層18を有する正極19が得られる。
なお、湿潤造粒体膜8(正極活物質層18)は、集電箔7の片面のみに形成するようにしても良いし、両面に形成するようにしても良い。
【0038】
作製した正極19は、その後、負極及びセパレータと組み合わされて、電極体を形成する。次いで、この電極体に端子部材を取り付けた後、電池ケース内に電極体及び電解液を収容する。これにより、リチウムイオン二次電池が完成する。
【0039】
(実施例1〜8)
実施例1〜8では、導電材11として嵩密度が異なるアセチレンブラックを用いた点が異なり、その他は同様にして、ステップS11〜S12の処理を行って、先行混合体16を作製した(表1参照)。具体的には、実施例1では、導電材11として、嵩密度が0.01g/ccである粉末状のアセチレンブラックを用いた。実施例2では、導電材11として、嵩密度が0.02g/ccである粉末状のアセチレンブラックを用いた。実施例3では、導電材11として、嵩密度が0.05g/ccである粉末状のアセチレンブラックを用いた。
【0040】
実施例4では、導電材11として、嵩密度が0.08g/ccである粉末状のアセチレンブラックを用いた。実施例5では、導電材11として、嵩密度が0.1g/ccである粉末状のアセチレンブラックを用いた。実施例6では、導電材11として、嵩密度が0.15g/ccである粉末状のアセチレンブラックを用いた。実施例7では、導電材11として、嵩密度が0.2g/ccである粉末状のアセチレンブラックを用いた。実施例8では、導電材11として、嵩密度が0.25g/ccである粉末状のアセチレンブラックを用いた。
【0041】
なお、実施例1〜8では、いずれも、ステップS11(湿潤工程)において、導電材11(アセチレンブラック)と溶媒15(NMP)との混合比を、重量比で1:1として、導電材11を溶媒15で湿潤させた湿潤導電材12を作製している(表1参照)。また、実施例1〜8では、いずれも、ステップS12(第1混合工程)において、攪拌造粒機(図示なし)の回転数を4500rpmとして、正極活物質13と湿潤導電材12とを混合して、先行混合体16を作製している。また、実施例1〜8では、いずれも、正極活物質13と導電材11との混合比を、重量比で96:4としている。
【0042】
【表1】
【0043】
(比較例1〜8)
比較例1〜8では、実施例1〜8と比較して、ステップS11(湿潤工程)の処理を行うことなく、正極活物質13と導電材11とを混合(乾式混合)して、先行混合体を作製した。比較例1〜8で使用した導電材11の嵩密度は、表1に示す通りである。なお、比較例1〜8では、実施例1〜8と同様に、攪拌造粒機(図示なし)の回転数を4500rpmとして、正極活物質13と導電材11とを混合して、先行混合体を作製している。また、比較例1〜8では、いずれも、実施例1〜8と同様に、正極活物質13と導電材11との混合比を、重量比で96:4としている。
【0044】
(先行混合体の電気抵抗率の評価試験)
実施例1〜8及び比較例1〜8の先行混合体について、電気抵抗率を測定した。なお、本試験では、三菱化学アナリテック社製の粉体抵抗測定システムを用いて、12kNの圧力下で(測定対象である先行混合体に12kNの荷重をかけた状態で)、それぞれの先行混合体の電気抵抗率(Ω・cm)を測定している。なお、本試験では、電気抵抗率が、8Ω・cm以下であったものを「◎」、8Ω・cmより大きく12Ω・cm以下であったものを「○」、12Ω・cmより大きく16Ω・cm以下であったものを「△」、16Ω・cmより大きいものを「×」として評価した。これらの結果を表1に示す。
【0045】
表1に示すように、比較例1〜8の先行混合体は、いずれも、電気抵抗率が16Ω・cmより大きくなった。このように電気抵抗率が大きくなった理由は、以下のように考えられる。
【0046】
先行混合体を構成する正極活物質13(LiNi1/3Mn1/3Co1/32 )と導電材11(アセチレンブラック)とでは、嵩密度に差がある。具体的には、正極活物質13の嵩密度は1.5g/ccである。一方、導電材11の嵩密度は、比較例1〜8においてそれぞれ異なっているが、0.01〜0.25g/ccの範囲内であり、正極活物質13の嵩密度よりもかなり低い(正極活物質13の嵩密度の1/6以下の値である)。
【0047】
このため、先行混合体を作製するために、正極活物質13と導電材11とを混合(乾式混合)したとき、嵩密度の高い正極活物質13(物質β)が下方に偏在(沈降)し、一方、嵩密度の低い導電材11(物質α)が上方に偏在する傾向となり、正極活物質13と導電材11を均一に混合(分散)させることができない。その結果、作製された先行混合体において、正極活物質13及び導電材11の分散性(分散の程度)が低くなり(従って、正極活物質13に対する導電材11の分散性が低くなり)、導電材11を通じた良好な導電性ネットワークを形成することができず、先行混合体の電気抵抗率が高くなった(ひいては、正極活物質層18の電気抵抗率が高くなる)と考えられる。
【0048】
これに対し、実施例1〜8の先行混合体16は、いずれも、電気抵抗率が12Ω・cm以下(詳細には、10Ω・cm以下)と小さくなった。このように、比較例1〜8に比べて電気抵抗率が小さくなった理由は、以下のように考えられる。
【0049】
実施例1〜8では、先行混合体を作製する第1混合工程に先立って、正極活物質13及び導電材11のうち嵩密度の低い導電材11(物質α)を溶媒15(湿潤造粒体6を作製するために用いる溶媒15の全量の一部)で湿潤させて(導電材11の粒子表面が濡れる程度に湿らせて)湿潤導電材12を作製する湿潤工程を備えている。その後、第1混合工程において、正極活物質13及び導電材11のうち嵩密度の高い正極活物質13(物質β)と、先の湿潤工程で作製した湿潤導電材12とを混合して、先行混合体を作製する。
【0050】
このため、第1混合工程において、正極活物質13及び導電材11のうち嵩密度の高い正極活物質13(物質β)と、先の湿潤工程で作製した湿潤導電材12(正極活物質13及び導電材11のうち嵩密度の低い導電材11を溶媒15で湿潤させた湿潤物質)とを混合したとき、正極活物質13の粒子表面に湿潤導電材12を付着(すなわち、溶媒15を介して導電材11を正極活物質13の粒子表面に結合)させつつ、正極活物質13と導電材11とを混合(分散)することができる。これにより、比較例1〜8とは異なり、第1混合工程において、「嵩密度の高い正極活物質13(物質β)が下方に偏在(沈降)し、一方、嵩密度の低い導電材11(物質α)が上方に偏在する」ことを防止することができる。
【0051】
従って、実施例1〜8では、第1混合工程で作製された先行混合体16において、正極活物質13及び導電材11の分散性(分散の程度)が良好になる(従って、正極活物質13に対する導電材11の分散性が良好になる)。換言すれば、先行混合体16の全体にわたって、正極活物質13(電極活物質)と導電材11が適切に(良好に)混合された状態になる。これにより、先行混合体16の全体にわたって導電材11を通じた良好な導電性ネットワークを形成することができ、先行混合体16の電気抵抗率を低くすることができた(ひいては、正極活物質層18の電気抵抗率を低くすることができる)と考えている。
【0052】
次に、実施例1〜8について、先行混合体16の電気抵抗率を比較する。実施例1〜8のうち、実施例2〜7では、先行混合体16の電気抵抗率が、8Ω・cm以下となった。これに対し、実施例1と8では、先行混合体16の電気抵抗率が、8Ω・cmより大きく12Ω・cm以下の範囲内の値(詳細には、9〜10Ω・cmの範囲内の値)となり、実施例2〜7よりも高くなった。
【0053】
このように、実施例1,8の先行混合体の電気抵抗率が、実施例2〜7の先行混合体の電気抵抗率よりも高い値となった理由は、以下のように考えている。
具体的には、実施例1では、導電材として、嵩密度が0.01g/ccと低い導電材11を用いている。このように嵩密度が低い(従って軽量の)導電材11を用いているため、実施例1では、ステップS11(湿潤工程)において、導電材11を溶媒15で湿潤させて湿潤導電材12を作製した後、ステップS12(第1混合工程)において、湿潤導電材12と正極活物質13とを混合したとき、他の実施例2〜7(実施例1よりも導電材の嵩密度が高い)と比較して、湿潤導電材12の分散性(分散の程度)が低くなった(詳細には、上方に偏在し易くなった)と考えられる。このために、他の実施例2〜7と比較して、先行混合体の電気抵抗率が高くなったと考えられる。
【0054】
また、実施例8では、導電材として、嵩密度が0.25g/ccと高い導電材11を用いている。このため、ステップS11(湿潤工程)において、導電材11を溶媒15で湿潤させて湿潤導電材12を作製するときに、他の実施例2〜7(実施例8よりも導電材の嵩密度が低い)と比較して、溶媒15を介して導電材11の粒子同士が凝集し易くなる(湿潤導電材12が凝集し易い)。このために、ステップS12(第1混合工程)において、湿潤導電材12と正極活物質13とを混合したとき、他の実施例2〜7と比較して、湿潤導電材12の分散性(分散の程度)が低くなり、先行混合体の電気抵抗率が高くなったと考えられる。
【0055】
一方、実施例2〜7では、導電材として、嵩密度が0.02〜0.2(g/cc)の範囲内である導電材11を用いている。この範囲内の嵩密度を有する導電材11を用いたことで、ステップS11(湿潤工程)において、溶媒15を介して導電材11の粒子同士が凝集し難くなり(湿潤導電材12が凝集し難くなり)、且つ、ステップS12(第1混合工程)における湿潤導電材12の分散性(分散の程度)も良好にすることができたと考えられる。その結果、実施例2〜7では、先行混合体16の電気抵抗率が8Ω・cm以下になったと考えられる。
【0056】
以上の結果より、導電材11の嵩密度は、0.02〜0.2(g/cc)の範囲内にするのが好ましいといえる。すなわち、物質α(電極活物質及び導電材のうち嵩密度の低い方)が導電材である場合に、導電材として、嵩密度が0.02〜0.2(g/cc)の範囲内の値である導電材を用いるのが好ましいといえる。
【0057】
(実施例9〜14)
実施例9〜14では、ステップS11(湿潤工程)において、溶媒15の添加量を異ならせて(すなわち、導電材11の1g当たりの溶媒15の添加量を異ならせて)、湿潤導電材12を作製した点が異なっている。また、実施例9〜14のうち、実施例14だけは、ステップS12(第1混合工程)において、攪拌造粒機(図示なし)の回転数を異ならせて、先行混合体16を作製した点が異なっている。それ以外は、同様にして、ステップS11〜S12の処理を行って、先行混合体16を作製した(表2参照)。
【0058】
なお、実施例9〜14では、いずれも、導電材11として、嵩密度が0.1g/ccである粉末状のアセチレンブラックを用いている。また、実施例9〜13では、ステップS12(第1混合工程)における攪拌造粒機(図示なし)の回転数を4500rpmとしている。一方、実施例14では、ステップS12(第1混合工程)における攪拌造粒機(図示なし)の回転数を2000rpmとしている(表2参照)。また、実施例9〜14では、いずれも、ステップS12(第1混合工程)における正極活物質13と導電材11との混合比を、重量比で96:4としている。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に示すように、実施例9では、ステップS11(湿潤工程)において、導電材11の1g(グラム)当たりの溶媒15の添加量を0.3g(グラム)として(すなわち、導電材11と溶媒15との混合比を、重量比で1:0.3として)、湿潤導電材12を作製した。また、実施例10では、ステップS11(湿潤工程)において、導電材11の1g当たりの溶媒15の添加量を0.5gとして(すなわち、導電材11と溶媒15との混合比を、重量比で1:0.5として)、湿潤導電材12を作製した。
【0061】
また、実施例11では、ステップS11(湿潤工程)において、導電材11の1g当たりの溶媒15の添加量を2gとして(すなわち、導電材11と溶媒15との混合比を、重量比で1:2として)、湿潤導電材12を作製した。また、実施例12では、ステップS11(湿潤工程)において、導電材11の1g当たりの溶媒15の添加量を3gとして(すなわち、導電材11と溶媒15との混合比を、重量比で1:3として)、湿潤導電材12を作製した。
【0062】
また、実施例13では、ステップS11(湿潤工程)において、導電材11の1g当たりの溶媒15の添加量を4gとして(すなわち、導電材11と溶媒15との混合比を、重量比で1:4として)、湿潤導電材12を作製した。また、実施例14では、ステップS11(湿潤工程)において、導電材11の1g当たりの溶媒15の添加量を1gとして(すなわち、導電材11と溶媒15との混合比を、重量比で1:1として)、湿潤導電材12を作製した。
【0063】
実施例9〜14の先行混合体16についても、実施例1〜8の先行混合体16と同様にして、電気抵抗率を測定した。そして、前述した電気抵抗率の評価試験と同様に、電気抵抗率が、8Ω・cm以下であったものを「◎」、8Ω・cmより大きく12Ω・cm以下であったものを「○」、12Ω・cmより大きく16Ω・cm以下であったものを「△」、16Ω・cmより大きいものを「×」として評価した。これらの結果を表2に示す。
【0064】
表2に示すように、実施例9〜13のうち、実施例10〜12では、先行混合体16の電気抵抗率が、8Ω・cm以下となった。これに対し、実施例9と13では、先行混合体16の電気抵抗率が、8Ω・cmより大きく12Ω・cm以下の範囲内の値となり、実施例10〜12よりも高くなった。
【0065】
このように、実施例9,13の先行混合体の電気抵抗率が、実施例10〜12の先行混合体の電気抵抗率よりも高い値となった理由は、以下のように考えている。
【0066】
実施例9では、ステップS11(湿潤工程)において、導電材11の1g当たりの溶媒15の添加量を0.3gと少なくして(すなわち、導電材11と溶媒15との混合比を、重量比で1:0.3として)、湿潤導電材12を作製している。このように、導電材11の1g当たりの溶媒15の添加量を少なくしたことで、実施例9では、他の実施例10〜12(実施例9よりも溶媒15の添加量が多い)に比べて、導電材11の湿潤状態が低下した(添加した導電材11の全体にわたって十分に溶媒15を行き渡らせることができなかった)と考えられる。
【0067】
その結果、実施例9では、ステップS12(第1混合工程)において、湿潤導電材12と正極活物質13とを混合したとき、他の実施例10〜12と比較して、湿潤導電材12が正極活物質13に付着し難くなり、湿潤導電材12の分散性(分散の程度)が低くなったと考えられる。このために、先行混合体の電気抵抗率が高くなったと考えられる。
【0068】
また、実施例13では、ステップS11(湿潤工程)において、導電材11の1g当たりの溶媒15の添加量を4gと多くして(すなわち、導電材11と溶媒15との混合比を、重量比で1:4として)、湿潤導電材12を作製している。このように、導電材11の1g当たりの溶媒15の添加量を多くしたことで、実施例13では、他の実施例10〜12(実施例13よりも溶媒15の添加量が少ない)に比べて、溶媒15を介して導電材11の粒子同士が凝集し易くなった(湿潤導電材12が凝集し易くなった)と考えられる。このために、ステップS12(第1混合工程)において、湿潤導電材12と正極活物質13とを混合したとき、他の実施例10〜12と比較して、湿潤導電材12の分散性(分散の程度)が低くなり、先行混合体の電気抵抗率が高くなったと考えられる。
【0069】
一方、実施例10〜12では、ステップS11(湿潤工程)において、導電材1g当たりの溶媒の添加量を、0.5〜3gの範囲内とする。換言すれば、湿潤工程において、導電材1gに対し、溶媒を0.5〜3gの範囲内の割合で加えている。すなわち、湿潤工程において、導電材11と溶媒15との混合比を、重量比で1:「0.5〜3の範囲内の値」としている。これにより、ステップS11(湿潤工程)において、溶媒15を介して導電材11の粒子同士が凝集するのを防止(湿潤導電材12が凝集するのを防止)しつつも、導電材11の湿潤状態を良好にすることができた(添加した導電材11の全体にわたって十分に溶媒15を行き渡らせることができた)と考えられる。その結果、実施例10〜12では、先行混合体16の電気抵抗率が8Ω・cm以下になったと考えられる。
【0070】
以上の結果より、湿潤工程において、導電材1g当たりの溶媒の添加量は、0.5〜3gの範囲内とするのが好ましいといえる。換言すれば、湿潤工程において、導電材1gに対し、溶媒を0.5〜3gの範囲内の割合で加えるのが好ましいといえる。すなわち、湿潤工程において、導電材と溶媒との混合比を、重量比で1:「0.5〜3の範囲内の値」とするのが好ましいといえる。
【0071】
また、実施例5と実施例14の結果を比較する。実施例5と実施例14とでは、ステップS12(第1混合工程)における攪拌造粒機(図示なし)の回転数のみを異ならせ、その他は同様にして、先行混合体16を作製している。具体的には、実施例5では、ステップS12(第1混合工程)における攪拌造粒機の回転数を4500rpmとし(表1参照)、実施例14では、2000rpmとしている(表2参照)。
【0072】
このように、実施例14では、実施例5に比べて、攪拌造粒機の回転数を低くして(詳細には、実施例5の1/2以下の回転数にして)先行混合体16を作製したにも拘わらず、実施例5と同様に、先行混合体16の電気抵抗率を8Ω・cm以下と低くすることができた。この結果より、ステップS12(第1混合工程)における攪拌造粒機(図示なし)の回転数に拘わらず、ステップS12(第1混合工程)に先立って、正極活物質13及び導電材11のうち嵩密度の低い導電材11(物質α)を溶媒15(湿潤造粒体6を作製するために用いる溶媒15の全量の一部)で湿潤させて(導電材11の粒子表面が濡れる程度に湿らせて)湿潤導電材12を作製し、その後、第1混合工程において、正極活物質13及び導電材11のうち嵩密度の高い正極活物質13(物質β)と、先の湿潤工程で作製した湿潤導電材12とを混合して、先行混合体を作製するようにすることで、先行混合体16の電気抵抗率を低くすることができるといえる。
【0073】
以上において、本発明を実施形態に即して説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【0074】
例えば、実施形態では、本発明にかかる電極の製造方法として、正極を製造する方法を例示した。しかしながら、本発明を、負極の製造方法に適用するようにしても良い。
【0075】
また、実施形態では、電極活物質及び導電材のうち、嵩密度の低い方(物質α)が導電材で、嵩密度の高い方(物質β)が電極活物質である場合を例示した。しかしながら、本発明は、電極活物質及び導電材のうち、嵩密度の低い方(物質α)が電極活物質で、嵩密度の高い方(物質β)が導電材である場合にも適用することができる。この場合は、湿潤工程において、電極活物質(物質α)を溶媒で湿潤させた湿潤電極活物質(湿潤物質)を作製する。その後、第1混合工程において、湿潤電極活物質(湿潤物質)と導電材(物質β)とを混合して先行混合体を作製する。これにより、湿潤電極活物質の粒子表面に導電材を付着(溶媒を介して結合)させつつ、電極活物質と導電材とを混合(分散)することができる。これにより、先行混合体において、電極活物質及び導電材の分散性(分散の程度)が良好になり(従って、電極活物質に対する導電材の分散性が良好になり)、先行混合体の電気抵抗率を低くすることができる。
【0076】
また、実施形態では、ステップS13(第2混合工程)において、湿潤造粒体6のNV(固形分率)が重量比で78%となるように溶媒15(NMP)を添加した。すなわち、湿潤造粒体6の固形分率を78wt%にした。しかしながら、作製する湿潤造粒体の固形分率はこの値に限定されるものではない。但し、湿潤造粒体の固形分率は、70〜84wt%の範囲内とするのが好ましい。このような範囲の固形分率とすることで、後のステップS2(成膜工程)において、集電部材の表面上に湿潤造粒体を適切に成膜することができ、且つ、ステップS3(乾燥工程)において、湿潤造粒体の膜を短時間で乾燥させることができる。
【符号の説明】
【0077】
1 第1ローラ
2 第2ローラ
6 湿潤造粒体
7 集電箔(集電部材)
8 湿潤造粒体膜(膜状の湿潤造粒体)
11 導電材(物質α)
12 湿潤導電材(湿潤物質)
13 正極活物質(電極活物質、物質β)
14 結着材
15 溶媒
16 先行混合体
18 正極活物質層(電極活物質層)
19 正極(電極)
20 ロール成膜装置
S1 湿潤造粒体作製工程
S2 成膜工程
S3 乾燥工程
S11 湿潤工程
S12 第1混合工程
S13 第2混合工程
図1
図2
図3
図4
図5