正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、前記正極と前記負極との間に介在するセパレータと、非水電解質とを備え、前記正極活物質が層状リチウム含有遷移金属酸化物であり、且つ前記正極活物質の結晶子サイズが140nm以下であり、前記負極活物質に少なくとも炭素を含み、前記非水電解質にフルオロエチレンカーボネートを2〜30体積%含み、
前記正極活物質において、充放電時のc軸方向の格子変化が0.33Å以下の範囲であることを特徴とする非水電解質二次電池。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、以下に示す実施形態は、本発明の技術思想を具体化するために例示するものであって、本発明をこの実施形態に限定することを意図するものではなく、本発明は特許請求の範囲に示した技術思想を逸脱することなく種々の変更を行ったものにも均しく適用し得るものである。最初に、正極の具体的製造方法について説明する。
【0011】
(実験例1)
[正極活物質の作製]
先ず、反応槽に、硫酸コバルト、硫酸ニッケル、硫酸マンガンから調整したコバルトイオン、ニッケルイオン、マンガンイオンを含有する水溶液を用意し、水溶液中のコバルトと、ニッケルと、マンガンとのモル比(ニッケル:コバルト:マンガン)が、5:2:3となるように調整した。次に、水溶液の温度を30℃、pH=9に保持しつつ、2時間かけて水酸化ナトリウム水溶液を滴下した。これにより、コバルト、ニッケル、及びマンガンを含む沈殿物を得た後、その沈殿物をろ過、水洗後に乾燥することにより、Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3(OH)
2を得た。
【0012】
共沈法によって得たNi
0.5Co
0.2Mn
0.3(OH)
2を酸素濃度23体積%に調整しながら540℃で3時間焼成し、酸化物のNi
0.5Co
0.2Mn
0.3Oxを得た。次いで、前記酸化物にLi
2CO
3を所定の割合で混合し、これらを酸素濃度25体積%に調整しながら880℃で12時間、焼成することにより層状構造を有するLi
1.08Ni
0.50Co
0.20Mn
0.30O
2(リチウム含有遷移金属複合酸化物)を作製した。合成物の状態は、水酸化物の作製条件(共沈時の温度、pH)、焼成時の酸素濃度と焼成温度によって変化するため、目的に応じて適宜調整が必要である。
尚、本実験例1の正極活物質の結晶子サイズは71nmであった。ここで、結晶子サイズは、次のように求めた。
【0013】
はじめに、X線源としてCuKαを用いた粉体X線回折装置(株式会社リガク製)を用いて、上記リチウム含有遷移金属酸化物のXRDパターンを得た。本実験例のリチウム含有遷移金属酸化物は、得られたXRDパターンからすべてのサンプルで結晶系が六方晶系であり、その対称性から空間群R−3mに帰属された。参考として実験例1の正極活物質のXRDパターンを
図1に示す。
【0014】
X線回折用標準資料(National Institute of Standards and Technology(NIST) Standard Reference Materials(SRM) 660b(LaB6))のX線回折パターンから、ミラー指数100、110、111、200、210、211、220、221、310、311の10本のピークを用いてPawley法で分割型擬voigt関数を用いて、積分強度、ピーク高さから積分幅β1を算出した。
【0015】
測定サンプル(リチウム遷移金属複合酸化物)のX線回折パターンの中からミラー指数003、101、006、012、104、015、107、018、110、113の10本のピークを用いてPawley法で分割型擬voigt関数を用いて、フィッティングし、積分強度、ピーク高さから積分幅β2を算出した。
【0016】
上記結果から下記(a)式に基づき測定サンプルに由来する積分幅βを算出した。測定サンプルに由来する積分幅β=β2−β1・・・(a)
【0017】
Halder−wagner法を用いて、β2/tan2θをβ/(tanθsinθ)に対してプロットして近似する直線の傾きから測定サンプルに由来する平均結晶子サイズLを算出した。
【0018】
格子定数計算は、上記の結晶子サイズを算出したリチウム含有遷移金属酸化物のXRDパターンから、上記と同様に10本のピークを用い、NISTSRM 660bLaB6を用いて、100、110、111、200、210、211、220、221、310、311の10本のピークを用いて補正を行い算出した。
【0019】
[正極の作製]
先ず、正極活物質としての上記Li
1.08Ni
0.50Co
0.20Mn
0.30O
2と、導電剤としてのアセチレンブラックと、結着剤としてのポリフッ化ビニリデンとを、質量比で95:2.5:2.5となるように混合した後、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を適量加えて、正極スラリーを調製した。次に、この正極合剤スラリーを、アルミニウム箔から成る正極集電体の両面に塗布、乾燥した後、圧延ローラにより圧延することにより、正極集電体の両面に正極合剤層が形成された正極を作製した。
尚、正極の充填密度は、3.5g/cm
3とした。
【0020】
[負極の作製]
負極活物質としての人造黒鉛と、分散剤としてのCMC(カルボキシメチルセルロースナトリウム)と、結着剤としてのSBR(スチレン−ブタジエンゴム)とを、98:1:1の質量比で水溶液中において混合し、負極合剤スラリーを調製した。次に、この負極合剤スラリーを銅箔から成る負極集電体の両面に均一に塗布した後、乾燥させ、更に、圧延ローラにより圧延した。これにより、負極集電体の両面に負極合剤層が形成された負極を得た。尚、この負極における負極活物質の充填密度は1.63g/cm
3であった。
【0021】
[非水電解液の調整]
フルオロエチレンカーボネート(FEC)とエチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)とエチルメチルカーボネート(EMC)ジメチルカーボネート(DMC)とを、10:10:5:45:30の体積比で混合した混合溶媒に対し、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1.4モル/リットルの割合で溶解させて、非水電解液を調製した。
【0022】
[非水電解質二次電池の作製]
上記の正極、負極、非水電解液、及びポリエチレン微多孔膜からなるセパレータを用いて、公称容量2300mAhの18650円筒型の非水電解質二次電池を作製した。
図2は、作製した非水電解質二次電池を示す模式的断面図である。
【0023】
図2に示す非水電解質二次電池は、ステンレス鋼製の電池ケース1とその電池ケース1内に収容された極板群を含む。極板群は正極5と負極6とポリエチレン製のセパレータ7とからなり、正極5と負極6がセパレータ7を介して渦巻状に捲回されている。その極板群の上部および下部には上部絶縁板8aおよび下部絶縁板8bが配置されている。電池ケース1の開口端部をガスケット3を介して封口板2をかしめつけることにより、封口されている。また、正極5にはアルミニウム製の正極リード5aの一端がとりつけられており、その正極リード5aの他端が、正極端子を兼ねる封口板2に接続されている。
【0024】
負極6にはニッケル製の負極リード6aの一端が取り付けられており、その負極リード6aの他端は、負極端子を兼ねる電池ケース1に接続されている。
【0025】
まず、所定の正極5と負極6のそれぞれの集電体に、それぞれアルミニウム製正極リード5aおよびニッケル製負極リード6aを取り付けた後、セパレータ7を介して捲回し、極板群を構成した。極板群の上部と下部に絶縁板8aおよび8bを配し、負極リード6aを電池ケース1に溶接すると共に、正極リード5aを内圧作動型の安全弁を有する封口板2に溶接して、電池ケース1の内部に収納した。その後、電池ケース1の内部に非水電解液を減圧方式により注入した。最後に、電池ケース1の開口端部をガスケット3を介して封口板2にかしめることにより18650型の非水電解質二次電池を完成させた。このようにして作製した電池を、以下、電池A1と称する。
【0026】
(実験例2)
前記正極活物質の作製において、Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3(OH)
2を酸素濃度25体積%に調整しながら540℃で5時間焼成し、酸化物のNi
0.5Co
0.2Mn
0.3Oxを得た。次いで、前記酸化物にLi
2CO
3を所定の割合で混合した後、焼成温度を900℃とした以外は、上記実験例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A2と称する。尚、本実験例2の正極活物質の結晶子サイズは93nmであった。
【0027】
(実験例3)
前記正極活物質の作製において、コバルト、ニッケル及びマンガンを含む沈殿物を得る工程で水溶液の温度を40℃、pH=10となるように調整し、Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3(OH)
2を酸素濃度26体積%に調整しながら570℃で5時間焼成し、酸化物のNi
0.5Co
0.2Mn
0.3Oxを得た。次いで、前記酸化物にLi
2CO
3を所定の割合で混合した後、酸素濃度28体積%に調整しながら、焼成温度を920℃とした以外は、上記実験例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A3と称する。尚、本実験例3の正極活物質の結晶子サイズは103nmであった。
【0028】
(実験例4)
前記正極活物質の作製において、Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3(OH)
2を酸素濃度28体積%に調整しながら585℃で5時間焼成し、酸化物のNi
0.5Co
0.2Mn
0.3Oxを得た。次いで、前記酸化物にLi
2CO
3を所定の割合で混合した後、焼成温度を950℃とした以外は、上記実験例3と同様にして非水電解質二次電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池A4と称する。尚、本実験例4の結晶子サイズは125nmであった。
【0029】
(実験例5)
上記実験例4において、負極活物質にSiOを2質量%添加した負極を用いたこと以外は、上記実験例4と同様にして非水電解質二次電池を作製した。このように作製した電池を、以下、電池A5と称する。
【0030】
(実験例6)
前記正極活物質の作製において、水溶液の温度を45℃、Ni
0.5Co
0.2Mn
0.3(OH)
2とLi
2CO
3を所定の割合で混合した後、大気中(酸素濃度約21体積%)で、焼成温度を1000℃とした以外は、上記実験例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Z1と称する。尚、本実験例6の結晶子サイズは142nmであった。
【0031】
(実験例7)
非水電解質溶媒を、エチレンカーボネート(EC)とプロピレンカーボネート(PC)とジメチルカーボネート(DMC)とを、25:5:70の体積比で混合した混合溶媒に対し、六フッ化リン酸リチウム(LiPF
6)を1.2モル/リットルの割合で溶解した電解液を用いたこと以外は、上記実験例4と同様にして非水電解質二次電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Z2と称する。
【0032】
(実験例8)
実験例6の正極活物質と、実験例7の非水電解質溶媒を用いたこと以外は、上記実験例1と同様にして非水電解質二次電池を作製した。このようにして作製した電池を、以下、電池Z3と称する。
【0033】
[電池の評価]
以上のようにして得られた電池A1〜A4、Z1〜Z3を用いて下記に示す方法でDC−IR、サイクル容量維持率を測定し、下記表1にその結果を示す。
【0034】
・充放電条件
1150mA[0.5It]で電池電圧4.10Vとなるまで定電流充電を行いさらに4.10Vの電圧で電流値が46mAとなるまで定電圧充電を行い、10分間休止した後、1150mA[0.5It]で電池電圧3.0Vまで放電し、その後20分間休止した。尚、充放電時の温度は25℃である。
【0035】
・DC−IR測定
上記電池A1〜A4、Z1〜Z3を、上記条件で充放電を2回及び500回繰り返した後に、2回目及び500回目の放電容量(mAh)の50%まで充電させ、20分の休止を行った後、1150mA[0.5It]で10秒間放電を行い、(1)式を用いてDC−IRを各々算出した。
DC−IR=(放電直前の電池電圧−放電10秒後の電池電圧)/1150・・・(1)尚、表1におけるDC−IRの値は、電池A2を100としたときの指数で表している。
【0036】
・サイクル容量維持率
上記充放電条件で500回充放電を繰り返し、下記(2)式を用いて容量維持率を算出した。
容量維持率(%)=(500サイクル目の放電容量/1サイクル目の放電容量)×100・・・(2)
【0038】
上記表1の結果から、2サイクル後のDC−IRの結果において、電解液にFECを含む電池A1〜A4は、FECを含まない電池Z2、Z3と比べてDC−IRの値が高いことがわかる。これは、充放電サイクル初期に電解液中にFECを含むことで、電池A1〜A4では正極活物質表面にFEC由来の皮膜が形成されたからと考えられる。
【0039】
500サイクル後のDC−IRの結果において、電池A1〜A4に対して、電池Z2、Z3のDC−IRの値が大きくなっている。この理由は、電池A1〜A4では、電解液中にFECを含むことで、充放電サイクルの初期に正極活物質表面に良好な皮膜が形成され、500サイクル後の充放電中に電解液との副反応が抑制され、2サイクル後と比較して、DC−IRの変化が小さく抑えられたものと考えられる。
【0040】
一方、電池Z2、Z3においては、電解液にFECが含まれていないために、正極活物質表面に良好な皮膜が形成されず、500サイクル後の充放電中に正極活物質表面での電解液の酸化分解反応が進行し、正極表面の劣化及び分解生成物の堆積によって、500サイクル後のDC−IRの値が大きくなっているものと考えられる。
【0041】
ここで、上記DC−IRの値は、充電量50%(SOC50%ということがある)付近における放電前後の電池電圧の降下量が大きいほど、その値が大きくなることから、この値が小さいほど好ましいことを示す指標である。
【0042】
そして、電池A1〜A4の500サイクル後の容量維持率は94〜96%に対し、電池Z2、Z3の500サイクル後の容量維持率は85〜87%となっており、電池A1〜A4の方が、サイクル特性が向上していることがわかる。
【0043】
一方、電解液にFECを含む電池Z1においては、500サイクル後のDC−IRの値が、電解液にFECを含まない電池Z3に比べて増加していることがわかる。この理由は、結晶子サイズが140nmより大きくなると、正極活物質表面に皮膜が形成されても、充放電時に正極活物質の結晶の特定の方向、特にc軸方向に膨張・収縮することによって、皮膜が破壊されるためである。これによって、FEC由来の分解生成物が、正極活物質の表面に偏在することによって、正極活物質の電子伝導性が低下し、分解生成物の堆積が少なく電子抵抗の低い部分に電流が集中するため、正極活物質が劣化し、サイクル特性が低下するためである。
【0044】
正極活物質の結晶中のc軸方向の格子変化が0.33Å以下の範囲に抑制することが好ましく、0.30Å以下のほうがより好ましく、さらに0.26Å以下の範囲では特に好適である。c軸方向への格子変化が0.33Åを超えると、サイクル特性の向上効果が小さくなるおそれがあるためである。前記格子変化は、放電状態での正極のc軸長と充電状態の正極のc軸長の差である。なお、本実験例1では、正極の2サイクル目での放電状態の正極のc軸長は、14.29Åであり、また充電状態の正極のc軸長は、14.53Åであり、前記格子変化は0.24Åであった。
【0045】
上記の結果から、単に電解液にFECを添加することだけでは、サイクル特性の向上効果は不十分であり、正極活物質の結晶子サイズと密接な相関関係があることがわかる。そして、正極活物質の結晶子サイズと電解液にFECを添加することの組み合せにより、予期できない効果が発現していることがわかる。
【0046】
正極活物質の結晶サイズは140nm以下であることが必要であるが、一方、結晶子サイズが40nmより小さくなると、結晶成長が不十分となり、リチウムの挿入、離脱が困難となって、正極の容量が低下する。このため、正極活物質の結晶子サイズの好適な範囲は、40nm以上140nm以下であり、更に、好適な範囲は、60nm以上140nm以下の範囲である。このような範囲に設定することで、初期充電時の正極活物質の膨張・収縮が均等化され、FEC由来の良好な皮膜が均一に形成され、サイクル特性が更に向上する。
【0047】
また、電解液のFEC量は、2体積%以上30体積%以下であることが好ましく、さらには5体積%以上30体積%以下であることがより好ましい。FECが2体積%未満では、正極活物質表面に十分な皮膜が形成されず、長期サイクル後の正極活物質の抵抗の増大を抑制できないためである。
一方、FECが30体積%を超える場合においては、充放電サイクルを繰り返すと、電解液の分解に伴うガス生成量の増加により電池の安全弁が作動してしまう恐れがあるため望ましくない。
【0048】
上記本発明電池A4及びA5の400サイクル後のDC−IRの測定結果を以下の表2に示す。DC−IRの測定方法は、上記DC−IRの測定方法において、400サイクルとしたこと以外は、同様の方法で測定した。尚、表2におけるDC−IRは、電池A5のDC−IRの値を100としたときの指数で表している。
【0050】
上記表2の結果から、負極活物質にSiOを含む電池A5と負極活物質にSiOを含まない電池A4と比較すると、電池A5の方が400サイクル後のDC−IRの値が小さくなっている。これは、負極活物質にSiOを含むことで、サイクル初期に負極の充放電効率を低くすることができ、正極の格子変化を0.33Å以下に制限することができるものと考えられる。
【0051】
また、負極活物質へのSiOの添加量は、1質量%以上20質量%以下が好ましい。SiOの添加量が1質量%未満では、SiOによる正極の格子変化を制限する効果が小さく、20質量%を超えると、不可逆容量の増大により電池容量が低下するためである。
【0052】
(その他の事項)
本発明の非水電解質二次電池の正極活物質としては、ホウ素(B)、フッ素(F)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、バナジウム(V)、鉄(Fe)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、ジルコニウム(Zr)、錫(Sn)、タングステン(W)、チタン(Ti)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、希土類からなる群から選択される少なくとも一種が含まれていても良い。これらの添加量は、リチウム含有遷移金属複合酸化物中の遷移金属に対して0.1mol%以上5.0mol%以下が好ましく、特に、0.1mol%以上3.0mol%以下であることがより好ましい。これは、添加量が5.0mol%を超えると、容量が低下してエネルギー密度の低下が生じる。一方、添加量が0.1mol%未満になると、添加元素による結晶成長への影響の低下が生じるからである。
【0053】
本発明の非水電解質二次電池に用いる正極活物質としては、上述した正極活物質のみから構成されている必要はなく、可逆的にリチウムを挿入、脱離が可能である層状構造を有する化合物であれば特に限定されない。上記リチウム含有遷移金属複合酸化物として、コバルト酸リチウム、Ni−Mn−Alのリチウム複合酸化物、Ni−Co−Alのリチウム複合酸化物、Co−Mnのリチウム複合酸化物、鉄、マンガンなどを含む遷移金属酸化物が例示される。また、上記活物質と、スピネル型構造を有する化合物、リン酸化合物、ホウ酸化合物、ケイ酸化合物(前記活物質はLi,Ni,Mn,Co,Fe,希土類からなる群から選択される少なくとも一種を示す)を混合して用いてもよい。
【0054】
本発明の非水電解質二次電池に用いる正極の充填密度は2.0g/cm
3以上4.0g/cm
3以下であることが好ましく、特に、2.8g/cm
3以上3.7g/cm
3以下であることがより好ましい。これは、正極の充填密度が4.0g/cm
3を超えると、正極内の電解液量が低下して不均一反応によるサイクル特性の低下が生じる。一方、正極の充填密度が2.0g/cm
3未満になると、エネルギー密度が小さくなるだけでなく、正極内の電子伝導性が低下して、容量低下や不均一反応によるサイクル特性の低下が生じるからである。
【0055】
本発明の非水電解質二次電池の負極活物質としては、例えば各種天然黒鉛、コークス、黒鉛化途上炭素、炭素繊維、球状炭素、各種人造黒鉛、非晶質炭素などの炭素材料と、金属、金属繊維、酸化物、窒化物、錫化合物、ケイ素化合物、各種合金材料等を2種以上組み合わせて用いることができる。炭素材料と共に用いる材料としては、ケイ素(Si)や錫(Sn)などの単体、または合金、化合物、固溶体などの珪素化合物や錫化合物が容量密度の大きい点から好ましい。例えばケイ素化合物としては、SiO
x(0.05<x<1.95)、またはこれらのいずれかにB、Mg、Ni、Ti、Mo、Co、Ca、Cr、Cu、Fe、Mn、Nb、Ta、V、W、Zn、C、N、Snからなる群から選択される少なくとも1つ以上の元素でSiの一部を置換した合金や化合物、または固溶体などを用いることができる。ケイ素酸化物は酸素原子とケイ素原子との比(O/Si)が0.5〜1.5であることがより好ましい。錫化合物としてはNi
2Sn
4、Mg
2Sn、SnO
x(0<x<2)、SnO
2、SnSiO
3などが適用できる。上記の他、エネルギー密度は低下するものの、チタン酸リチウム等の金属リチウムに対する充放電の電位が、炭素材料等より高いものも用いることができる。
【0056】
正極または負極の結着剤には、例えばポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、アラミド樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアクリルニトリル、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸メチルエステル、ポリアクリル酸エチルエステル、ポリアクリル酸ヘキシルエステル、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸メチルエステル、ポリメタクリル酸エチルエステル、ポリメタクリル酸ヘキシルエステル、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン、ポリエーテル、ポリエーテルサルフォン、ヘキサフルオロポリプロピレン、スチレンブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースなどが使用可能である。また、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル、フッ化ビニリデン、クロロトリフルオロエチレン、エチレン、プロピレン、ペンタフルオロプロピレン、フルオロメチルビニルエーテル、アクリル酸、ヘキサジエンより選択された2種以上の材料の共重合体を用いてもよい。またこれらのうちから選択された2種以上を混合して用いてもよい。
【0057】
電極に含ませる導電剤には、例えば、天然黒鉛や人造黒鉛のグラファイト類、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラック、カーボンナノチューブ、などのカーボンブラック類、気相成長炭素繊維(VGCF)などの炭素繊維や金属繊維などの導電性繊維類、フッ化カーボン、アルミニウムなどの金属粉末類、酸化亜鉛やチタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー類、酸化チタンなどの導電性金属酸化物、フェニレン誘導体などの有機導電性材料などを用いることができる。
【0058】
正極活物質、導電剤および結着剤の配合割合は、それぞれ、正極活物質80〜99質量%、導電剤0.5〜20質量%、結着剤0.5〜20質量%の範囲とすることが望ましい。正極活物質が80質量%未満になるとエネルギー密度が小さくなり、また99質量%より大きくなると正極内の電子伝導性が低下して、容量低下や不均一反応によるサイクル特性の低下が生じるからである。また 負極活物質および結着剤の配合割合は、それぞれ、負極活物質93〜99質量%、結着剤1〜10質量%の範囲とすることが望ましい。負極活物質が93質量%未満になるとエネルギー密度が小さくなり、また99質量%より大きくなると結着剤が不足し、活物質の崩落が生じるからである。
【0059】
集電体には、長尺の多孔性構造の導電性基板か、あるいは無孔の導電性基板が使用される。導電性基板に用いられる材料としては、正極集電体としては、例えばステンレス鋼、アルミニウム、チタンなどが用いられる。また、負極集電体としては、例えばステンレス鋼、ニッケル、銅などが用いられる。これら集電体の厚さは、特に限定されないが、1〜500μmが好ましく、5〜20μmがより望ましい。集電体の厚さを上記範囲とすることにより、極板の強度を保持しつつ軽量化することができる。
【0060】
正極と負極との間に介在するセパレータとしては、大きなイオン透過度を持ち、所定の機械的強度と、絶縁性とを兼ね備えた微多孔薄膜、織布、不織布などが用いられる。セパレータの材質としては、例えば、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィンが耐久性に優れ、かつシャットダウン機能を有しているため、非水電解質二次電池の安全性の観点から好ましい。セパレータの厚さは、一般的に6〜300μmであるが、40μm以下とすることが望ましい。また、10〜30μmの範囲とするのがより好ましく、さらに好ましいセパレータ厚さの範囲は10〜25μmである。さらに微多孔フィルムは、1種の材料からなる単層膜であってもよく、1種または2種以上の材料からなる複合膜または多層膜であってもよい。また、セパレータの空孔率は、30〜70%の範囲であることが好ましい。ここで空孔率とは、セパレータ体積に占める孔部の体積比を示す。セパレータの空孔率のより好ましい範囲は、35〜60%である。
【0061】
本発明に用いる非水電解質の溶質は限定するものではなく、非水電解質二次電池に従来から用いられてきた溶質を使用することができる。例えば、このようなリチウム塩としては、P、B、F、O、S、N、Clの中の一種類以上の元素を含むリチウム塩を用いることができ、具体的には、LiPF
6、LiBF
4、LiN(SO
2F)
2、LiN(SO
2CF
3)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiPF
6−x(C
nF
2n−1)
x(ただし、1<x<6、n=1または2)、LiPO
2F
2等の他に、オキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩を用いることもできる。このオキサラト錯体をアニオンとするリチウム塩としては、LiBOB〔リチウム−ビスオキサレートボレート〕の他、中心原子にC
2O
42−が配位したアニオンを有するリチウム塩、例えば、Li[M(C
2O
4)
xR
y](式中、Mは遷移金属,周期律表のIIIb族,IVb族,Vb族から選択される元素、Rはハロゲン、アルキル基、ハロゲン置換アルキル基から選択される基、xは正の整数、yは0又は正の整数である。)で表わされるものを用いることができる。具体的には、Li[B(C
2O
4)F
2]、Li[P(C
2O
4)F
4]、Li[P(C
2O
4)
2F
2]等がある。
尚、上記溶質は、単独で用いるのみならず、2種以上を混合して用いても良い。また、溶質の濃度は特に限定されないが、電解液1リットル当り0.8〜1.7モルであることが望ましい。
【0062】
本発明に用いる非水電解質の溶媒はFECと、以下に示す溶媒を混合して使用することができる。例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネートや、ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等の鎖状カーボネートや、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン等のエステルを含む化合物や、プロパンスルトン等のスルホン基を含む化合物や、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,2−ジオキサン、1,4−ジオキサン、2−メチルテトラヒドロフラン等のエーテルを含む化合物や、ブチロニトリル、バレロニトリル、n−ヘプタンニトリル、スクシノニトリル、グルタルニトリル、アジポニトリル、ピメロニトリル、1,2,3−プロパントリカルボニトリル、1,3,5−ペンタントリカルボニトリル等のニトリルを含む化合物や、ジメチルホルムアミド等のアミドを含む化合物等を用いることができる。特に、これらのHの一部もしくは全てがFにより置換されている溶媒を用いることができる。また、これらを単独又は複数組み合わせて使用することができ、特に環状カーボネートと鎖状カーボネートとを組み合わせた溶媒や、さらにこれらに少量のニトリルを含む化合物やエーテルを含む化合物が組み合わされた溶媒が好ましい。
【0063】
また、非水電解液には、過充電時に分解して電極上に被膜を形成し、電池を不活性化する公知のベンゼン誘導体を含有させてもよい。前記ベンゼン誘導体としては、フェニル基および前記フェニル基に隣接する環状化合物基を有するものが好ましい。前記環状化合物基としては、フェニル基、環状エーテル基、環状エステル基、シクロアルキル基、フェノキシ基などが好ましい。ベンゼン誘導体の具体例としては、シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル、ジフェニルエーテル、ターシャルアミルベンゼンなどが挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ただし、ベンゼン誘導体の含有量は、非水溶媒全体の10体積%以下であることが好ましい。
【0064】
正極とセパレータとの界面、又は、負極とセパレータとの界面には、従来から用いられてきた無機物のフィラーからなる層を形成することができる。フィラーとしても、従来から用いられてきたチタン、アルミニウム、ケイ素、マグネシウム等を単独もしくは複数用いた酸化物やリン酸化合物、またその表面が水酸化物等で処理されているものを用いることができる。
上記フィラー層の形成は、正極、負極、或いはセパレータに、フィラー含有スラリーを直接塗布して形成する方法や、フィラーで形成したシートを、正極、負極、或いはセパレータに貼り付ける方法等を用いることができる。
【0065】
本発明に用いる外装体としては、円筒型電池はアルミニウムの缶、ステンレスの缶などの他、アルミラミネートなど容易に変形するものを用いることができる。