特許第6443463号(P6443463)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6443463製鋼スラグの改質方法および製鋼スラグの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443463
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】製鋼スラグの改質方法および製鋼スラグの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/06 20060101AFI20181217BHJP
   C21C 1/02 20060101ALI20181217BHJP
   C21C 5/28 20060101ALI20181217BHJP
   F27D 15/00 20060101ALI20181217BHJP
   C21C 5/54 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   C04B5/06
   C21C1/02 L
   C21C5/28 C
   F27D15/00 B
   C21C5/54
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-10318(P2017-10318)
(22)【出願日】2017年1月24日
(65)【公開番号】特開2017-141148(P2017-141148A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年8月24日
(31)【優先権主張番号】特願2016-14611(P2016-14611)
(32)【優先日】2016年1月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【弁理士】
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【識別番号】100195785
【弁理士】
【氏名又は名称】市枝 信之
(72)【発明者】
【氏名】加藤 裕介
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 克則
【審査官】 浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−183717(JP,A)
【文献】 特公昭57−036963(JP,B2)
【文献】 特開昭56−069315(JP,A)
【文献】 特開昭51−077518(JP,A)
【文献】 特開2003−155511(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C04B 40/00−40/06
C21C 1/00−5/56
F27D 7/00−15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融状態の製鋼スラグに酸素ガス含有気体を吹込むことによって行う製鋼スラグの改質方法において、
前記製鋼スラグの組成を分析する分析工程と、
分析された前記組成から算出される前記式(1)の値が1以下である場合に前記製造スラグを改質対象と判断する判断工程と、
前記判断工程において改質対象とされた製鋼スラグに対して前記酸素ガス含有気体の吹き込みを行う改質工程とを備え、
前記酸素ガス含有気体の吹き込み時間を1.0〜20分間とし、
前記製鋼スラグとして下記式(1)で表される値が1以下となるものを用い、
前記改質後のスラグについて下記式(2)で表される値を1以下とすることを特徴とする製鋼スラグの改質方法。

[T−CaO]−(1.87×[SiO2]+1.43×([T−Fe]−1.55)+1.10×[Al23]+1.18×[P25]) ・・・(1)
[T−CaO]−(1.87×[SiO2]+0.70×[Fe23]+1.10×[Al23]+1.18×[P25]) ・・・(2)
ここで、[ ]は該括弧内の化合物又は元素の含有率(質量%)であり、T−CaOは全CaO、T−Feは全Feである
【請求項2】
溶融状態の製鋼スラグに酸素ガス含有気体を吹込むことによって行う製鋼スラグの改質方法において、
前記酸素ガス含有気体の吹き込み時間を1.0〜20分間とし、
前記製鋼スラグとして下記式(1)で表される値が1以下となるものを用い、
前記改質後のスラグについて下記式(2)で表される値を1以下とし、
前記製鋼スラグの発生過程である精錬工程において使用されるMgO源の量が10kg/t−steel以下であることを特徴とする製鋼スラグの改質方法。

[T−CaO]−(1.87×[SiO2]+1.43×([T−Fe]−1.55)+1.10×[Al23]+1.18×[P25]) ・・・(1)
[T−CaO]−(1.87×[SiO2]+0.70×[Fe23]+1.10×[Al23]+1.18×[P25]) ・・・(2)
ここで、[ ]は該括弧内の化合物又は元素の含有率(質量%)であり、T−CaOは全CaO、T−Feは全Feである
【請求項3】
前記酸素ガス含有気体の吹込み量が酸素分換算で8〜26Nm3−O2/t−slagであることを特徴とする請求項1または2に記載の製鋼スラグの改質方法。
【請求項4】
前記酸素ガス含有気体が酸素又は空気であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の製鋼スラグの改質方法。
【請求項5】
前記溶融状態の製鋼スラグの温度が1500〜1650℃であることを特徴とする請求項1〜のいずれか一項に記載の製鋼スラグの改質方法。
【請求項6】
転炉または鍋で精錬することによって前記式(1)で表される値が1以下である溶融状態の前記製鋼スラグを出湯し、出湯された前記製鋼スラグ対して、請求項1〜のいずれか一項に記載の製鋼スラグの改質方法により改質を施す、製鋼スラグの製造方法。



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼スラグの改質方法に関し、特に、良好な排滓性を保ちつつ、製鋼スラグを改質して水和膨張を抑制することができる製鋼スラグの改質方法に関するものである。また、本発明は、前記製鋼スラグの改質方法を用いた製鋼スラグの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業では高炉、予備処理プロセス(例:混銑車)、転炉、電気炉等からのスラグが副生される。これらの内、予備処理プロセス、転炉、電気炉から副生されるものを製鋼スラグという。製鋼工程では溶銑中に含まれる燐や珪素などを除去するため、副原料として多量の石灰が投入される。そのため、製鋼スラグ中には未溶解の石灰や冷却時に晶出した石灰が遊離CaO(フリーライムともいう、以下、「f−CaO」と記す)として残留している。
【0003】
このf−CaOは水和反応によってCa(OH)となり、約2倍程度に体積膨張する性質を有している。そのため、f−CaOを多量に含むスラグが水と接触するとf−CaOの水和によって膨張崩壊する。製鋼スラグの用途としては路盤材やコンクリート用細骨材などがあるが、これら用途においてスラグ中f−CaOの水和膨張により路盤の隆起やコンクリートに亀裂が生ずるという問題がある。
【0004】
そこで、従来、膨張崩壊の原因である、製鋼スラグに含まれるf−CaOを低減するための処理が行われており、その方法として主に次の(1)〜(3)の方法が知られている。
(1)エージング処理:
エージング処理とは、スラグに含まれるf−CaOを水和反応によりCa(OH)に変化させて安定化する方法であり、スラグをヤードに野積みして行う大気エージングと水蒸気を用いて前記反応を促進する蒸気エージングとがある。
(2)風砕:
風砕とは、溶融状態のスラグに高圧の空気を吹き付けて急冷することによりスラグを粒状にする処理である。溶融スラグを風砕して冷却固化させる際に、スラグ中のFeO等が空気で酸化されてFeとなり、これとf−CaOとが反応してダイカルシウムフェライト(2CaO・Fe)を形成するため、f−CaOを低減できることが知られている。
(3)改質処理:
改質処理とは、特許文献1、2に記載されているように溶融状態のスラグに酸素ガス含有気体を吹込むとともに、必要に応じてSiOやAlを含む改質材を添加することによってスラグを反応させる方法である。この方法によりf−CaOを水和膨張しない安定鉱物相に変化(改質)させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭53−047206号公報
【特許文献2】特公昭57−036963号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記(1)のうち、大気エージングではスラグ中のf−CaOが安定化するまでに数ヶ月といった長い時間が必要となる。また、蒸気エージングでは大気エージングに比べて処理時間を短縮できるものの、大量の水蒸気を使用するため処理コストが増加するというデメリットがある。さらに、エージング処理は低温で行われるため、完全にf−CaOを無くすことが困難である。
【0007】
上記(2)の風砕による処理を行った場合には、f−CaOを低減することができるものの、得られるスラグ粒子が球状になってしまう。そのため、得られる粒子の安息角(粒子を積み上げたときに崩れない斜面角度)が極めて小さく、保管や運搬に支障があり、利用が制限されるという問題があった。
【0008】
上記(3)の改質処理では、スラグ中のf−CaOを低減することはできるものの、改質後のスラグの流動性が著しく低く、場合によっては反応容器(スラグ鍋)に固着してしまうなど、容器からの排出性(排滓性)に問題があった。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、粒子形状に問題のある風砕処理によらない溶融スラグの改質処理であって、良好な排滓性を保ちつつ、製鋼スラグを改質して水和膨張を抑制することができる製鋼スラグの改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明の要旨構成は、次のとおりである。
溶融状態の製鋼スラグに酸素ガス含有気体を吹込むことによって行う製鋼スラグの改質方法において、
前記酸素ガス含有気体の吹き込み時間を1.0〜20分間とし、
前記製鋼スラグとして下記式(1)で表される値が1以下となるものを用い、
前記改質後のスラグについて下記式(2)で表される値を1以下とすることを特徴とする製鋼スラグの改質方法。

[T−CaO]−(1.87×[SiO]+1.43×([T−Fe]−1.55)+1.10×[Al]+1.18×[P]) ・・・(1)
[T−CaO]−(1.87×[SiO]+0.70×[Fe]+1.10×[Al]+1.18×[P]) ・・・(2)
ここで、[ ]は該括弧内の化合物又は元素の含有率(質量%)であり、T−CaOは全CaO、T−Feは全Feである。
以上の構成を採ることにより、本発明では改質材を用いることなく製鋼スラグ中のf−CaOを低減することができる。
【0011】
さらに、本発明の他の実施形態では、前記製鋼スラグの改質方法が、製鋼スラグの組成を分析する分析工程と、分析された前記組成から算出される前記式(1)の値が1以下である場合に前記製造スラグを改質対象と判断する判断工程と、前記判断工程において改質対象とされた製鋼スラグに対して前記酸素ガス含有気体の吹き込みを行う改質工程とを備える。
【0012】
さらに、本発明の他の実施形態では、前記製鋼スラグの発生過程である精錬工程において、MgO源の量を10kg/t−steel以下とする。製鋼スラグには、精錬時に使用されるレンガ屑、軽焼ドロマイト、ドロマイト等の副原料に由来するMgOが含まれる。したがって、精錬工程において使用されるMgO源の量を10kg/t−steel以下とすることにより、f−CaOと同様水和膨張の原因となるf−MgOの量を低減し、改質スラグの水和膨張性を低くできる。なお、ここで「t−steel」とは、製鋼スラグ発生過程における鋼(溶銑)の質量(トン)を意味する。
【0013】
さらに、本発明では酸素ガス含有気体の吹込み量を酸素分換算で8〜26Nm−O/t−slagとすることが好ましい。それにより、スラグ中のFeOの酸化反応量を適切な範囲に制御することができる。
なお、「Nm−O」は0℃、1気圧の標準状態に換算した酸素ガスの体積(ノルマルm)を、「t−slag]とは処理対象であるスラグの質量(トン)を、それぞれ意味する。
【0014】
本発明では酸素ガス含有気体として酸素又は空気を使用することが好ましい。従来の改質処理と同様に酸素のみを使用することも可能であるが、空気のように酸素含有率が低い気体を使用することもできる。
【0015】
また、溶融状態の製鋼スラグの温度を1500〜1650℃とすることが好ましい。これにより、改質反応を効果的に進めることができる。
【0016】
さらに、本発明の他の実施形態における製鋼スラグの製造方法は、転炉または鍋で精錬することによって前記式(1)で表される値が1以下である溶融状態の前記製鋼スラグを出湯し、出湯された前記製鋼スラグ対して、上記製鋼スラグの改質方法により改質を施す、製鋼スラグの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、良好な排滓性を保ちつつ、製鋼スラグ中のf−CaOを低減して水和膨張を抑制することができる。また、スラグを溶融状態に保って行う改質であるため、風砕時に改質を行う場合のように、得られるスラグ粒子の形状に制限を受けることもない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】改質装置の概略図である。
図2】ガス吹き込みによるスラグ温度変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
次に、本発明を実施する方法について具体的に説明する。
本発明では溶融スラグに酸素ガス含有気体を1.0〜20分間吹込むことによって改質を行う。ここで、溶融スラグとは液相が70%以上あるスラグのことである。
【0020】
改質に使用される装置の例を図1に示す。図中1はスラグ鍋であり、この内部に製鋼スラグを入れ、溶融状態に維持する。そして、該溶融スラグ2に上方より浸漬した吹込み用ランス3を通じて酸素ガス含有気体4を吹込む。所定量の気体をスラグ内に吹込んだ後、吹込み用ランス3を上方から引き抜き、該スラグ2の入ったスラグ鍋1を傾転して改質された溶融スラグ2を排出する。排出されたスラグは大気中で冷却され、通常のスラグと同様の方法で破砕と篩分けすることによりサイズを選別される。
【0021】
なお、図1に示した例ではスラグ鍋1中で酸素ガス含有気体の吹き込みを行っているが、改質を行うための容器としては、スラグ鍋に限らず、任意の容器を用いることができる。例えば、他の好適な態様としては、転炉などからスラグ鍋に排出されたスラグを、さらに別の容器(改質容器)に移し、該改質容器内で酸素ガス含有気体の吹き込みを行う方法が挙げられる。
【0022】
[式(1)、(2)]
この際、本発明では、改質前のスラグとして上記式(1)で表される値が1以下となるものを用い、改質後のスラグの上記式(2)で表される値が1以下となる処理を行う。この限定理由について、以下説明する。
【0023】
上述した特許文献2には、改質材を用いる改質処理の基準として、スラグの風化膨張性とよい相関を示すlime相(f−CaO)の量を近似するパラメータLを用いることが示されている。特許文献2では、改質材を使用し、かつ改質後スラグのL値を−4以下とすることによって風化膨張を抑制し得る改質処理が達成できるとしている。
【0024】
特許文献2に記載されているような従来の改質方法ではSiOやAlを含む改質材とf−CaOを反応させてシリケートやアルミネートを生成することで安定化させているが、本発明の方法では改質材を用いる場合とは異なる機構によって改質を実現している。すなわち、本発明の方法における改質は、主に次の2つの反応によって進行する:(i)吹込まれた気体に含まれる酸素によりスラグ中のFeやFeOが酸化される反応、(ii)スラグ中に含まれるf−CaOが前記酸化反応によって生成したFeと反応して2CaO・Feとなることで安定化される反応。
【0025】
このように、特許文献2のように改質材を使用する場合の改質反応として想定されているSiOやAl(これらは主に改質材から供給される)によるf−CaOの安定化とは異なり、本発明の方法では、酸素ガス含有気体の吹込みによって鉄分やFeOが酸化されて生成するFeとf−CaOとの反応によって改質が進行する。そのため、本発明の改質方法では、改質材の使用は必須ではなく、改質材を用いずとも良好に改質を行うことができる。
【0026】
そして、所定組成の製鋼スラグにおいては、改質後のスラグのL値(後述する本発明における式(2)の値)が1以下の組成となるように改質すれば、前記反応に基づいて改質材を用いずとも製鋼スラグ中のf−CaOを十分に低減することが可能である。
【0027】
前記式(1)は、改質後のf−CaOをほぼ0まで低減できるかを改質前のスラグより推定するものであり、式中のT−Fe以外の各係数はCaOを含む鉱物相の化学量論的組成に基づいて決定した。T−Feの係数については、スラグ中のFeのすべてが酸化されるわけではなく、おおよそ2%程度のFeOが残留することよりFeO:2%分に相当するT−Fe1.55%を差し引き、残りのT−FeがFeまで酸化されるという前提で決定した。
【0028】
製鋼スラグとして式(1)で表される値が1以下となるものを用いる具体的な方法は特に限定されないが、例えば、改質前のスラグの組成を分析し、当該スラグが、式(1)の値が1以下となる組成を有しているか否かを判別すればよい。このように事前に製鋼スラグの組成を分析することにより、条件を満たす製鋼スラグのみを改質処理の対象とすることができる。
【0029】
上記のように分析を行う場合には、製鋼スラグの組成を分析する分析工程と、分析された前記組成から算出される前記式(1)の値が1以下である場合に前記製造スラグを改質対象と判断する判断工程と、前記判断工程において改質対象とされた製鋼スラグに対して前記酸素ガス含有気体の吹き込みを行う改質工程を、順次実施することが好ましい。
【0030】
上記の分析は、製鋼スラグに対する酸素ガス含有気体の吹き込みを行う前であれば任意のタイミングで行うことができ、オフラインで分析しても、オンラインで分析してもよい。オフラインで分析する場合には、例えば、転炉等の精錬炉から排出された製鋼スラグから分析用試料をサンプリングして分析することができる。また、オンラインで分析する場合には、例えば、実施例に記載するように、転炉内のスラグ、流滓、スラグ鍋内のスラグなど、溶融状態の製鋼スラグにレーザーを照射して分析することができる。
【0031】
なお、スラグ鍋などに付着した改質前の製鋼スラグを改質処理後に分析し、改質対象スラグであったかを判別してもよいが、長期に管理するべきスラグ種が多くなるため、改質前に前記式(1)の値が1以下であるか否かを判別し、1以下となるものだけを改質する方が改質スラグの管理上、好ましい。
【0032】
また、式(2)は特許文献2におけるL値を求める式と同様のものであるが、上述のように本発明では特許文献2における改質とは異なる反応を利用するため、改質後スラグの式(2)値が1以下であれば十分な改質効果が得られる。
【0033】
前記式(1)の値が1以下となるスラグを用い改質し、(2)の値が1以下という条件を満たさない場合、酸素ガス含有気体を吹込んでスラグ中のFeOをすべてFeに酸化してもf−CaOを十分に低減することはできない。
【0034】
[製鋼スラグ]
製鋼スラグとしては、転炉系スラグや電気炉系スラグがあるが、本発明では前記式(1)に関する条件を満たすものであればいずれも使用できる。
【0035】
本発明では、前記製鋼スラグの発生過程である精錬工程において使用されるMgO源の量を、10kg/t−steel以下とすることが好ましい。製鋼スラグには、精錬時に使用されるレンガ屑、軽焼ドロマイト、ドロマイト等の副原料に由来するMgOが含まれる。このMgOが遊離のMgO(f−MgO)として改質スラグに残留すると、f−CaOと同様水和膨張の原因となる。したがって、精錬工程において使用されるMgO源の量を10kg/t−steel以下とすることによってf−MgOの量を低減すれば、改質スラグの水和膨張性をさらに低くすることができる。
【0036】
[酸素ガス含有気体]
本発明における酸素ガス含有気体としては、純酸素ガスや、酸素ガスと他のガスの混合気体を使用することができる。前記酸素ガス含有気体は、溶融状態の製鋼スラグに吹き込んで改質に使用されるが、その際、酸素ガス含有気体を吹き込む時間を1.0〜20分間とすることが重要である。吹き込み時間をこのように限定する理由を以下に説明する。
【0037】
図2は、溶融状態の製鋼スラグに酸素ガス含有気体を吹き込んで改質を行う際の、酸素ガス含有気体吹き込み開始からの時間経過にともなうスラグ温度の変化の一例を示すグラフである。この図2に示したように、酸素ガス含有気体を溶融スラグに吹き込むと、スラグ中のFeやFeOが酸化される際の反応熱によってスラグ温度が上昇する。しかし、このスラグ温度の上昇は吹き込み開始後5分程度までしか続かず、その後、スラグ温度は低下してゆく。これは、溶融スラグや容器からの輻射等による放熱や、未反応ガスによる抜熱による熱ロスが、酸化による発熱量を上回るためである。
【0038】
その結果、吹き込み開始から10〜15分程度で吹き込み開始時と同程度までスラグ温度が低下し、その後もさらに温度低下が続く。このようにスラグ温度が低下する結果、溶融スラグ自体の粘度が上昇して流動性が低下するとともに、スラグの固相率が上昇して容器への固着が生じ、容器からの排滓に支障が生じる。そのため、本発明では酸素ガス含有気体の吹き込み時間を20分間以下とする。一方、吹き込み時間が過度に短いと十分に改質が行えない場合があるため、吹き込み時間は1分以上とする。
【0039】
このように、酸素ガス含有気体を吹き込む時間を1.0〜20分間とすることにより、排滓性を維持しつつ、確実にスラグの改質を行うことが可能となる。なお、吹き込み時間は15分以下とすることがより好ましく、10分以下とすることがさらに好ましい。
【0040】
酸素ガス含有気体の吹込み速度はスラグ1t当り1〜10Nm/minとすることが好ましい。ガス吹込み速度が上記範囲よりも遅いとランスが閉塞するおそれがあり、一方、上記範囲より速いとスラグの飛散が多くなるからである。
【0041】
吹込み酸素量(吹込む気体中に含まれる酸素ガスの量)は、f−CaO低減という点では8Nm−O/t−slag以上とすることが好ましく、一方、処理時間短縮や気体の吹込み量低減の観点では26Nm−O/t−slag以下が好ましい。また、改質後スラグの膨張性の点からは、10〜16Nm−O/t−slagとすることがより好ましい。
【0042】
上述したように、本発明では必ずしも改質材を使用する必要はない。改質材を使用しない場合や、使用量が少ない場合には、従来技術のように改質材の投入による温度低下を吹込んだ純酸素ガスの反応熱で補う必要がないため、吹込む気体として純酸素以外の酸素含有気体を使用することもできる。
【0043】
吹込む気体の酸素濃度については、吹込み量が多いほどスラグ内が撹拌されるため、低濃度のガスを多量に吹込むことが好ましいが、処理時間短縮や吹込み量低減の観点では高濃度とすることが好ましい。そのため、バランスの面から酸素濃度として好ましい範囲は20〜90体積%である。
【0044】
[改質材]
本発明においては、任意に改質材を用いることができる。改質材を使用する場合、改質材の種類は特に限定されず、従来公知の物を含む任意の改質材を使用することができる。なお、改質材によるスラグ温度の低下防止の観点からは、使用する全改質剤中に含まれるシリカ、酸化鉄、およびアルミナの合計質量を、改質前スラグの質量の5%未満とすることが好ましい。
【0045】
また、本発明の方法では、改質材を用いず、酸素ガス含有気体の吹き込みのみによって改質を行うこともできる。改質材を使用しない場合には、改質材を溶解するための熱源が不要である。さらに、改質材の投入による温度低下を吹込んだ純酸素ガスの反応熱で補う必要がないため、吹込む気体として純酸素以外の酸素含有気体を使用しても好適に改質を行うことができる。
【0046】
さらに、本発明の他の実施形態における製鋼スラグの製造方法では、転炉または鍋で精錬することによって前記式(1)で表される値が1以下である溶融状態の前記製鋼スラグを出湯し、出湯された前記製鋼スラグ対して、上記製鋼スラグの改質方法により改質を施すことにより、改質された製鋼スラグを得ることができる。
【実施例】
【0047】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。以下の実施例は、本発明の好適な一例を示すものであり、本発明は、該実施例によって何ら限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
図1に示した装置を使用して製鋼スラグの改質処理を実施した。まず、酸素ガス含有気体の吹き込みによる改質工程に先立って、分析工程および判断工程を実施した。
【0049】
前記分析工程では、以下の手順で組成を分析した。まず、ガス吹込み前のスラグ組成を確認するために、脱炭精練処理によって生成し、転炉からスラグ鍋に排出さるスラグを少量採取した。次に、採取されたスラグを2.0mmに設定したジョークラッシャーで粗粉砕し、さらに目開きが0.1mmと2.0mmのふるいを用いふるい分けし、0.1mm以上2.0mm以下のスラグ粒子を採取した。採取したスラグ粒子を測定用容器に充填し、分析用試料とした。次いで、エネルギー分散型ハンドベルト蛍光X線分散装置を用い、50kV、0.2mAの出力でX線を前記分析用試料に照射し、Ca、Si、Fe、Al、およびPを定量分析した。
【0050】
次の判断工程では、上記分析工程における定量分析の結果を前記(1)式に代入し、計算される値が1以下であれば、当該試料が採取されたスラグを改質対象スラグと判定した。
【0051】
改質工程においては、上記判断工程において改質対象とされた製鋼スラグに対して、以下の手順で酸素ガス含有気体の吹き込みを行った。まず、転炉からスラグ鍋1に溶融状態のスラグを排出し、溶融スラグ2中に浸漬した吹込み用ランス3から酸素ガス含有気体4を吹込むことにより改質を行った。その際、改質材は使用しなかった。ガス吹込み終了後は、スラグ鍋1を傾転して排滓し、溶融スラグ2を大気中で冷却した。
【0052】
冷却終了後、得られた改質スラグの水和膨張性を水浸膨張試験(JIS A 5015)によって評価した。膨張量が0.2%以下であったものを優、1.5%以下であったものを良とし、1.5%より膨張したものを不可とした。
【0053】
改質対象の製鋼スラグとしては、表1に示す組成の転炉スラグを使用した。改質条件と、改質後のスラグに残存するf−CaO量および水和膨張性の評価結果を表2に示す。また、改質後のスラグの組成についても表3に示す。表1および3に示した改質前後のスラグ組成は、蛍光X線分装置により測定した。なお、比較のために、比較例4では式(1)の値が1より大きいスラグ(No.3)を用いて改質処理を行った。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】
【0057】
表2に示したように、改質前のスラグについて式(1)の値が1以下、改質後のスラグについて式(2)の値が1以下という本発明の条件を満たす発明例1〜11においては、改質後スラグの水和膨張性の評価が優または良であったのに対し、上記条件を満たさない比較例1〜6の膨張性はすべて不可であった。
【0058】
例えば、発明例1〜5において使用したスラグ(スラグNo.1)の改質前におけるf−CaO含有量は5質量%であったが、改質後のスラグにおけるf−CaO含有量は0.2〜0.6質量%にまで低減されており、その結果、水和膨張性が改善されたものといえる。
【0059】
それに対して、同じ改質前スラグを使用した場合であっても、本発明の条件を満たさない比較例1〜3においては、改質後のスラグに残留しているf−CaO含有量が2.6〜3.7質量%と発明例1〜5に比べて高く、その結果、膨張性を十分に低減することができていない。
【0060】
上記発明例1〜5および比較例1〜3の改質後スラグの組成(表3)をさらに詳細にみると、発明例1〜5ではFe含有量がいずれも23質量%以上であるのに対して、比較例1〜3のFe含有量は20質量%以下と低く、反対にFeOの含有量は発明例1〜5の方が比較例1〜3よりも低くなっている。この結果は、発明例においては酸素を含む気体によりスラグ中の鉄分が十分に酸化されていることを表しており、酸化によって生成したFeとf−CaOとが反応して2CaO・Feを形成する結果、f−CaOが減少して水和膨張性が改善される。
【0061】
また、組成の異なるスラグ(スラグNo.2)を用いた場合においても同様に、本発明の条件を満たす場合には膨張性が良好であった(発明例6〜11)。
【0062】
・ 吹込み酸素量、スラグ温度
また、発明例1〜7の結果から分かるように、改質の効果はガス吹込み量や吹込みガスの酸素濃度によらず、吹込んだ気体に含まれる酸素量が8〜26Nm−O/t−slagの範囲であれば、優れた膨張性改善効果が達成できた。したがって、本発明の改質方法では、純酸素に限らず、空気を始めとする様々な酸素濃度の気体を使用できることが分かる。
【0063】
(実施例2)
次に、酸素ガス含有気体の吹き込み時間の影響を評価するために、以下の実験を行った。改質対象の製鋼スラグとして表1のNo.1を使用し、表4に示す条件で改質を行った。なお、他の条件については実施例1と同様とした。表4に示した時間、酸素ガス含有気体の吹き込みを行った後、スラグ鍋からの改質スラグの排出しやすさ(排滓性)を以下の方法で評価した。
【0064】
・ 排滓性
通常の排滓に係る時間は20〜25tのスラグで3分程度である。そこで、通常と同じ排滓操作を行って3.5分以下で排滓できた場合は排滓性◎とした。4.0分以下排滓できた場合は排滓性○とした。また、排滓時間が4.0分より長くかかった場合は排滓性×とした。しかし、何れの排滓時間であっても、排滓後の容器内のスラグ固着量が目視で0.25以上ある場合は排滓性×とした。ここで、「容器内のスラグ固着量」とは、(排滓後の容器内スラグ量/排滓前の容器内スラグ量)で定義される値とする。
【0065】
表4に示したように、本発明の条件を満たす発明例においては、改質後スラグの水和膨張性の評価が優または良であるとともに、改質後スラグの排滓性が良好であった。これに対して、吹き込み時間が短い比較例Aでは改質が十分に行われておらず、反対に吹き込み時間が長すぎる比較例G〜Iでは排滓性に問題があった。
【0066】
また、改質材を用いた場合についても同様の評価を行ったが、表5に示すように改質材を使用しない場合と同様の傾向となった。なお、ここで改質材としては、珪砂を30kg/t−steel使用した。
【0067】
以上のように、本発明の方法によれば、良好な排滓性を保ちつつ、製鋼スラグ中のf−CaOを低減して水和膨張を抑制することができる。
【0068】
【表4】
【0069】
【表5】
【符号の説明】
【0070】
1:スラグ鍋
2:溶融スラグ
3:吹込み用ランス
4:酸素ガス含有気体
図1
図2