(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
鋼板の少なくとも一方の表面に、Al:1.0質量%以上5.0質量%未満、Mg:0.2質量%以上5.0質量%未満を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる溶融Zn−Al−Mg系めっき層を有し、該溶融Zn−Al−Mg系めっき層が、Zn−Alの2元共晶と、Al−Zn−MgZn2の3元共晶を含有する溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板を、0.01mol/L以上10mol/L未満の硝酸に、2秒以上60秒未満接触させる酸接触工程と、
前記酸接触工程後の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板を乾燥させる乾燥工程と、
前記乾燥工程後の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板上に、リン酸化合物を50質量%未満含み、平滑な面に形成した際の水の接触角θ0が90°未満である親水性皮膜を形成する皮膜形成工程と、を行うことを特徴とする散水冷却用建材として使用する皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
前記溶融Zn−Al−Mg系めっき層は、さらに、Ni:0.005質量%以上0.1質量%未満、並びに、Ce及び/又はLaの合計:0.005〜0.05質量%、の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載の皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
鋼板の少なくとも一方の表面に、Al:1.0質量%以上5.0質量%未満、Mg:0.2質量%以上5.0質量%未満を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる溶融Zn−Al−Mg系めっき層を有し、該溶融Zn−Al−Mg系めっき層の上にさらに親水性皮膜を有する散水冷却用建材として使用する皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板であって、
前記溶融Zn−Al−Mg系めっき層は、Zn−Alの2元共晶と、Al−Zn−MgZn2の3元共晶を含有し、
前記親水性皮膜は、リン酸化合物を50質量%未満含み、平滑な面に形成した際の水の接触角θ0が90°未満であり、
前記皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の断面において、溶融Zn−Al−Mg系めっき層の最大厚さをhとして、鋼板幅方向に2hの範囲において、親水性皮膜と溶融Zn−Al−Mg系めっき層の界面が形成する曲線の長さをL、この曲線のうち、親水性皮膜とZn−Alの2元共晶が接する界面により形成される曲線の長さの和をLAlとして、下記式(1)および式(2)を満たすことを特徴とする散水冷却用建材として使用する皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板。
1.5≦L/2h<5.5 (1)
0.50≦LAl/L<0.90 (2)
前記溶融Zn−Al−Mg系めっき層は、さらに、Ni:0.005質量%以上0.1質量%未満、並びに、Ce及び/又はLaの合計:0.005〜0.05質量%、の少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項6に記載の皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板。
【背景技術】
【0002】
従来、工場、倉庫及び畜舎など空調設備のない施設において、日中の日射により屋根面が加熱され、輻射熱により建物内が外気温以上に高温となる場合がある。そこで、安価で簡便な冷却方法が求められており、近年、省エネルギー、自然エネルギー活用の観点から、建屋の屋根や外壁に散水を行い、水の蒸発熱により建屋を冷却する、散水冷却システムが検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、散水装置にかかる水圧を低く、かつ略一定に保って水を少量ずつゆっくり流すことで、効率的かつ安価に建物を冷却できる散水装置、並びに当該散水装置を用いた屋根冷却システムが開示されている。
【0004】
しかしながら、水圧を低く一定に保って少量ずつ散水しても、屋根材の種類によっては水を弾き、全面を均一に冷却できない。少量の水で全面を薄い水膜で均一に濡らし、効率的に蒸発冷却を促進するためには、屋根材として濡れ性の良い(親水性の高い)材料が必要である。
【0005】
特許文献2には、構造物壁面または屋根面の所定領域に、光励起に応じて親水化する光触媒層を形成しておき、この光触媒層の形成領域に水を供給し、蒸発に伴う潜熱により周辺空気および構造物を冷却することを特徴とする都市空間の冷却方法が開示されている。
【0006】
しかしながら、光触媒は紫外線により励起されることによって親水化するため、天候に左右され、親水性を維持することができない。
【0007】
また、特許文献3には、無機主体の皮膜で平均粒子径が1〜40nmのフュームドシリカと、平均粒子径が0.1〜500μm、見掛け比容積が2〜12cm
3/gである非晶質の無機粉体を含むことにより凹凸を形成し、高い親水性を示すコーティング組成物が開示されている。
【0008】
散水冷却用建材用途としては、常時日光に触れるため、有機樹脂を使用した場合紫外線による劣化が懸念される。そこで、特許文献3のような無機主体の皮膜が好ましい。
【0009】
しかしながら、凹凸を付与する目的で皮膜中に0.1〜500μmの粒子を含むため、加工を伴う用途に使用する場合には摺動、磨耗により皮膜中の粒子が脱落して皮膜が剥離するため、厳しい条件においては耐磨耗性が不十分である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、散水冷却用建材として使用する鋼板であって、安定して、高い親水性を示し、耐候性、耐食性、外観及び耐磨耗性に優れた親水性皮膜を有する皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、鋭意研究を重ねた。その結果、特定のめっき層を有する溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板を特定の酸で処理することによって表面に凹凸形状を作製し、さらに親水性の皮膜を形成することによって上記課題を解決できることを知見した。
【0013】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、その要旨は以下の通りである。
【0014】
[1]鋼板の少なくとも一方の表面に、Al:1.0質量%以上5.0質量%未満、Mg:0.2質量%以上5.0質量%未満を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる溶融Zn−Al−Mg系めっき層を有し、該溶融Zn−Al−Mg系めっき層が、Zn−Alの2元共晶と、Al−Zn−MgZn
2の3元共晶を含有する溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板に、0.01mol/L以上10mol/L未満の硝酸に、2秒以上60秒未満接触させる酸接触工程と、前記酸接触工程後の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板を乾燥させる乾燥工程と、前記乾燥工程後の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板上に親水性皮膜形成用処理液を塗布し、乾燥させて親水性皮膜を形成する皮膜形成工程と、を行うことを特徴とする皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
【0015】
[2]前記溶融Zn−Al−Mg系めっき層は、さらに、Ni:0.005質量%以上0.1質量%未満、並びに、Ce及び/又はLaの合計:0.005〜0.05質量%、の少なくとも一つを含むことを特徴とする[1]に記載の皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
【0016】
[3]溶融Zn−Al−Mg系めっき層が、Al−Zn−MgZn
2の3元共晶を、めっき層断面で10面積%以上30面積%未満含有することを特徴とする[1]または[2]に記載の皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
【0017】
[4]前記Zn−Alの2元共晶の平均長径が10μm以下であることを特徴とする[1]〜[3]のいずれかに記載の皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
【0018】
[5]前記親水性皮膜が、無機皮膜であることを特徴とする[1]〜[4]のいずれかに記載の皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法。
【0019】
[6]鋼板の少なくとも一方の表面に、Al:1.0質量%以上5.0質量%未満、Mg:0.2質量%以上5.0質量%未満を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる溶融Zn−Al−Mg系めっき層を有し、該溶融Zn−Al−Mg系めっき層の上にさらに親水性皮膜を有する皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板であって、前記溶融Zn−Al−Mg系めっき層は、Zn−Alの2元共晶と、Al−Zn−MgZn
2の3元共晶を含有し、
前記皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の断面において、溶融Zn−Al−Mg系めっき層の最大厚さがhのとき、鋼板幅方向に2hの範囲において、親水性皮膜と溶融Zn−Al−Mg系めっき層の界面が形成する曲線の長さをL、この曲線のうち、親水性皮膜とZn−Alの2元共晶が接する界面により形成される曲線の長さの和をL
Alとするとき、下記式(1)および式(2)を満たすことを特徴とする皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板。
1.5≦L/2h<5.5 (1)
0.50≦L
Al/L<0.90 (2)
【0020】
[7]前記溶融Zn−Al−Mg系めっき層は、さらに、Ni:0.005質量%以上0.1質量%未満、並びに、Ce及び/又はLaの合計:0.005〜0.05質量%、の少なくとも一つを含むことを特徴とする[6]に記載の皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板。
【0021】
[8]溶融Zn−Al−Mg系めっき層が、Al−Zn−MgZn
2の3元共晶を、めっき層断面で10面積%以上30面積%未満含有することを特徴とする[6]または[7]に記載の皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板。
【0022】
[9]前記Zn−Alの2元共晶の平均長径が10μm以下であることを特徴とする[6]〜[8]のいずれかに記載の皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板。
【0023】
[10]前記親水性皮膜が、無機皮膜であることを特徴とする[6]〜[9]のいずれかに記載の皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、散水冷却用建材として好適な、親水性、耐久性(耐磨耗性)、耐食性、外観及び耐候性に優れた皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明について具体的に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0027】
本発明の皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の製造方法は、特定の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板を、0.01mol/L以上10mol/L未満の硝酸に2秒以上60秒未満接触させる酸接触工程と、めっき鋼板を乾燥させる乾燥工程と、この乾燥工程後に、めっき鋼板上に親水性皮膜形成用処理液を塗布し、乾燥させ、親水性皮膜を形成する皮膜形成工程を有する。
【0028】
上記「特定の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板」とは、鋼板の少なくとも一方の表面に、Al:1.0質量%以上5.0質量%未満、Mg:0.2質量%以上5.0質量%未満を含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる溶融Zn−Al−Mg系めっき層を有し、該溶融Zn−Al−Mg系めっき層が、Zn−Alの2元共晶と、Al−Zn−MgZn
2の3元共晶を含有する溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板である。
【0029】
溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板においては、初晶Zn中にZn−Alの2元共晶の細粒が粒状に分散しているが、これを硝酸と接触させることで初晶Znが溶解し、Zn−Alの2元共晶が残存することで凹凸形状が得られる。この上にさらに無機皮膜を形成することで、もともと親水性のそれほど高くない無機皮膜であってもその親水性が高められる。さらに、表面に残存するZn−Alの2元共晶はZnより固く、耐食性にも優れるため、得られる表面は耐磨耗性、耐食性にも優れる。
【0030】
先ず、本発明の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の各構成について説明する。
【0031】
<溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板>
本発明で製造される皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板のベースとなる溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板について説明する。この溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板の溶融Zn−Al−Mg系めっき層中にMgを添加する目的は、主として、めっき層中のZn−Alの2元共晶を細粒化し、その後の硝酸溶解処理で表面に微細なZn−Alの2元共晶の凹凸形状を形成できるようにすることにある。
【0032】
溶融Zn−Al−Mg系めっき層(以下、単に「めっき層」という)の成分組成の限定理由について説明する。
【0033】
Al:1.0質量%以上5.0質量%未満
めっき層中のAl含有量が1.0質量%未満では、めっき層−素地(鋼板)界面にFe−Zn系の合金層が厚く形成し、加工性が低下する。一方、Al含有量が5.0質量%以上になるとZnとAlの共晶組織が得られず、Alリッチ層が増加して犠牲防食作用が低下するので、端面部の耐食性が劣る。また、Al含有量が5.0質量%以上のめっき層を得ようとすると、めっき浴中にAlを主体としたトップドロスが発生しやすくなり、めっき外観を損なうという問題も生じる。以上の理由から、めっき層中のAl含有量は1.0質量%以上5.0質量%未満、好ましくは2.0質量%以上4.0質量%未満とする。
【0034】
Mg:0.2質量%以上5.0質量%未満
本発明においてめっき組成中にMgを含む狙いの一つは、細粒状のZn−Alの2元共晶を得ることにある。Mgの添加によりZn−Alの2元共晶が細粒化される理由は明らかではないが次のように考えられる。
【0035】
一般の溶融Zn−Al系めっき鋼板(Al:4.3質量%、残部Zn)のめっき層は、初晶ZnとZn−Alの2元共晶からなり、この2元共晶はめっき層表面とめっき層−素地界面近傍に連続して存在する。これに対し、本発明の組成のめっき層は、初晶Znの間に、Al−Zn−MgZn
2の3元共晶が網の目状に拡がり、さらにこの網の目中にAlを主体としたZn−Alの2元共晶が細粒状に点在する。
【0036】
従って、本発明のめっき鋼板では、Al−Zn−MgZn
2の3元共晶が凝固時に網の目を形成し、Zn−Alの2元共晶を分断して細粒化すると考えられる。なお、上記形状はSEM−EDXによる元素分析により、Znのみが検出される初晶Zn部分と、Zn、Alが検出されるZn−Alの2元共晶の部分と、Zn、Al、Mgが検出されるAl−Zn−MgZn
2の3元共晶の部分をそれぞれ確認できる。
【0037】
めっき層中のMgが0.2質量%未満の場合、Zn−Alの2元共晶の細粒化が不十分となり、硝酸処理後の凹凸が小さくなって、親水皮膜を形成しても十分な親水性が得られない。一方、めっき層中のMgが5.0質量%以上の場合、Zn−Alの2元共晶は微細となるが、Al−Zn−MgZn
2の3元共晶の増加によりめっき層の硬度が増し、曲げ加工で大きな亀裂が発生しやすく、加工性が低下する。また、ドロス付着も増加する。したがって、めっき層中のMg含有量は0.2質量%以上5.0質量%未満とする。
【0038】
Al−Zn−MgZn
2の3元共晶の共晶率(同3元共晶のめっき層断面での面積率。以下同様)は10面積%以上30面積%未満であることが好ましい。3元共晶の共晶率が10面積%未満ではZn−Alの2元共晶の微細化が不十分となり、硝酸処理後の凹凸が小さくなって、親水皮膜を形成しても十分な親水性が得られない場合がある。また、上記共晶率が30面積%以上では加工性が低下する。
【0039】
Zn−Alの2元共晶の平均長径は、10μm以下であることが好ましい。Zn−Alの2元共晶の平均長径は、10μm以下であれば、硝酸処理後に十分な凹凸が形成でき、親水皮膜を形成することで十分な親水性を得ることが可能である。
【0040】
ここで、Al−Zn−MgZn
2の3元共晶の共晶率とZn−Alの2元共晶の粒径(平均長径)は、以下のようにして測定する。鋼板板厚方向断面SEMにおいて、タテ:めっき層厚さ、ヨコ:めっき層厚さの2倍、となる視野において、めっき最表層(表面から板厚方向に10μmまでの領域)を除いためっき層内部の面積を求める。次いで、Al−Zn−MgZn
2の3元共晶の面積を求め、めっき層に占める面積割合を計算する。任意の8視野の平均値を共晶率とする。また、同様の断面SEMについて、個々のZn−Alの2元共晶の最大長さを長径として測定し、その平均値を平均長径とする。これらの測定は酸処理後いずれに測定してもよい。
【0041】
本発明のめっき鋼板では、めっき層中にNiを含有させることができる。Niを含有することで、耐黒変性の効果を得ることができる。Niの含有量は0.005質量%以上、0.1質量%未満であることが好ましい。Niが0.005質量%未満では耐黒変性の改善効果が得られず、0.1質量%以上ではめっき浴にNiを含有するAl−Mg系ドロスが発生し、ドロス付着によるめっき外観を損なうので、好ましくない。
【0042】
本発明めっき鋼板では、めっき層中にCeおよび/またはLaを含むミッシュメタルを含有させることができる。このCeおよび/またはLaを含むミッシュメタルは、めっき浴の流動性を増して、微細な不めっき状ピンホールの発生を防止し、めっきのムラを均一化する作用を有する。
【0043】
ミッシュメタルの含有量が、CeおよびLaの合計量で0.005質量%未満では、ピンホールの抑制効果が十分に得られず、めっきムラの均一化にも効果がなくなる。一方、CeおよびLaの合計量が0.05質量%を超えると、めっき浴中に未溶解浮遊物として存在するようになり、これがめっき面に付着してめっき外観を損なう。すなわち、ミッシュメタルの含有量がCeおよびLaの合計量で0.005質量%以上であれば、ピンホールの抑制効果が十分に得られ、且つ表面平滑化にも効果があり、一方、CeおよびLaの合計量が0.05質量%以下であれば、それらがめっき浴中に未溶解浮遊物として存在することがなく、未溶解浮遊物がめっき面に付着してめっき外観を損なうこともない。このためCeおよび/またはLaを含有するミッシュメタルは、CeおよびLaの合計量で0.005〜0.05質量%とすることが好ましく、より好ましくは0.007〜0.02質量%である。
【0044】
なお、めっき層には上記の通りAl、Mgが含まれ、必要に応じてNiが含まれ、さらに必要に応じてCeおよび/またはLaを含有するミッシュメタルが含まれ、残部はZn及び不可避的不純物である。
【0045】
以上のように、溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板のめっき層に適量のMgを含有させることにより、初晶Zn相中に細粒状のZn−Alの2元共晶が分散しためっき組成を持つ。また、必要に応じてCeおよび/またはLaを含むミッシュメタルを適量含有させることで、微小ピンホールなどの不めっきのない溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板を得ることができる。
【0046】
以上のような溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板および皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板は、例えば、下記のような製造条件で得ることができる。
【0047】
下地鋼板として使用する鋼板は、用途に応じて公知の鋼板から適宜選定すればよく、特に限定する必要はない。例えば、低炭素アルミキルド鋼板や極低炭素鋼板を用いることが、めっき作業の観点から好ましい。この鋼板(下地鋼板)を溶融Zn−Al系めっき浴に浸漬して熱浸(溶融)めっきを行った後、同めっき浴から引き上げて冷却し、鋼板表面に溶融Zn−Al系合金めっき層を形成する。このめっき層は、Al:1.0質量%以上5.0質量%未満、Mg:0.2質量%以上5.0質量%未満を含有し、さらに必要に応じてCeおよび/またはLaを含有するミッシュメタルを、CeおよびLaの合計量で0.005〜0.05質量%含有し、残部がZnおよび不可避的不純物からなる。したがって、溶融Zn−Al系めっき浴の浴組成も、実質的にめっき層の平均組成とほぼ同一となるように調整することが好ましい。
【0048】
溶融Zn−Al系めっき浴から引き上げためっき鋼板の冷却速度は特に限定しないが、250℃までの冷却速度が1〜15℃/秒、望ましくは2〜10℃/秒とすることが好ましい。めっき浴から引き上げためっき鋼板の250℃までの冷却速度が1℃/秒未満では、Zn−Alの2元共晶が生成しない場合がある。また一方、冷却速度が15℃/秒を超えると、Zn−Alの2元共晶の粒が大きくなりやすい。
【0049】
なお、めっき浴温は、390〜500℃の範囲とするのが好ましい。めっき浴温が390℃未満ではめっき浴の粘性が増してめっき表面がムラになりやすい。一方、めっき浴温が500℃を超えるとめっき浴中のドロスが増加しやすい。すなわち、めっき浴温が390℃以上であれば、めっき浴の粘性が適正に維持されるので、めっき表面がムラになりにくく、一方、500℃以下であれば、めっき浴中のドロスが増加しにくい。
【0050】
酸接触工程
酸接触工程は、溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板を0.01mol/L以上10mol/L未満の硝酸に2秒以上60秒未満接触させる工程である。
【0051】
上記溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板のめっき層を硝酸に接触させることで、めっき表層(めっき層の表面から板厚方向に10μmまでの領域)のうち初晶Znが溶解し、細粒化されたZn−Alの2元共晶が表面に残存し、微細な凹凸が形成される。表面に残存するZn−Alの2元共晶はZnより固く、耐食性にも優れるため、得られる表面は耐磨耗性、耐食性にも優れる。また、網目状のAl−Zn−MgZn
2の3元共晶も硝酸には溶解しないため、Zn−Alの2元共晶の細粒は網目状のAl−Zn−MgZn
2の3元共晶に保持され、凹凸形状は十分な強度を維持できる。
【0052】
以下、硝酸処理方法の限定理由について説明する。
【0053】
硝酸濃度0.01mol/L未満では溶解の効果が小さく、凹凸形状が得られないため、0.01mol/L以上とする。好ましくは0.1mol/L以上である。一方、10mol/L以上の場合には溶解速度が速く、凹凸形状が大きくなり過ぎて外観がムラになるため、硝酸の濃度は10mol/L未満とする。好ましくは1mol/L以下である。
【0054】
硝酸への接触時間は2秒以上60秒未満である。2秒未満では、処理時間が短く、凹凸形状が得られないため、2秒以上とする。一方、60秒以上では、処理時間が長く、生産性が低下するとともに、凹凸形状が大きくなりすぎて外観の低下につながる。
【0055】
酸の温度に特に指定はなく、一般的な範囲として5℃以上70℃未満であればよい。酸を加熱して使うこともできるが、加熱による溶解の促進効果は小さい。
【0056】
鋼板を硝酸に接触させる方法については特に制限はない。ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー塗布法等を使用することができる。鋼板を酸に接触させた後、上記接触時間の範囲内で水により酸を洗い流し、乾燥させる。これが本発明における乾燥工程に相当する。
【0057】
皮膜形成工程
皮膜形成工程とは、上記乾燥工程後の溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板に親水性皮膜形成用処理液を塗布し、これを乾燥させて皮膜を形成する工程である。
【0058】
親水性皮膜としては、上記溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板上に形成して親水性を示すものであればよく、平滑な面に皮膜を形成した際の水の接触角θ
0が90°未満であればよい。好ましくは70°未満、さらに好ましくは55°未満である。親水性の皮膜をZn−Al−Mg系めっき鋼板の凹凸上に皮膜を形成することにより、より低い接触角を得ることができる。
【0059】
親水性皮膜形成用処理液で形成される親水性皮膜の種類としては、無機皮膜が好ましい。有機皮膜では、紫外線により変性するため長期の親水性を確保することが困難である。
【0060】
無機皮膜としては、チタン化合物、ジルコニウム化合物、シリカ、シランカップリング剤、バナジン酸化合物、リン酸化合物、ニッケル化合物、モリブデン化合物等を複合して用いることができる。
【0061】
特に、リン酸化合物を含む場合、皮膜と水との親和性が高くなり、平滑な面に皮膜を形成した際の水の接触角が50°以下となりやすく好ましい。ただし、リン酸化合物が皮膜中50質量%を超えると皮膜が水に溶解しやすくなり、耐食性が低下するため、リン酸化合物は皮膜中50質量%未満であることが好ましい。
【0062】
リン酸化合物としては、例えば、リン酸、第一リン酸塩、第二リン酸塩、第三リン酸塩、ピロリン酸、ピロリン酸塩、トリポリリン酸、トリポリリン酸塩などの縮合リン酸塩、亜リン酸、亜リン酸塩、次亜リン酸、次亜リン酸塩、ホスホン酸、ホスホン酸塩などが挙げられる。ホスホン酸塩としては、例えば、ニトリロトリスメチレンホスホン酸、ホスフォノブタントリカルボン酸、エチレンジアミンテトラメリレンホスホン酸、メチルジホスホン酸、メチレンホスホン酸などが挙げられる。
【0063】
皮膜中には、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂などの有機樹脂を含むこともできる。ただし、紫外線により変性するため長期の親水性を確保することが困難となるため、皮膜中10質量%以下であることが好ましく、含まないことがさらに好ましい。
【0064】
また、皮膜中に0.1μm以上の粒子を含むと耐磨耗性が低下するため、0.1μm以上の粒子を含有する場合でもその含有量は5質量%以下が好ましい。より好ましくは、皮膜中に0.1μm以上の粒子を含まないことである。
【0065】
親水性皮膜の膜厚は、0.1μm以上3μm未満が好ましい。0.1μm未満では水や酸素が透過しやすくなって耐食性が低下し、3μm以上では皮膜が凹凸を覆ってしまい、凹凸の効果による親水性向上効果が小さくなる。また、親水性皮膜の膜厚は断面をSEMで観察することによって測定される。任意の5視野(10μm×10μm)において任意の5箇所の膜厚をそれぞれ測定し、平均をとることによって算出できる。
【0066】
上記親水性皮膜の形成方法としては、特に限定はされず、例えば、親水性皮膜を形成できる処理液中へ上記亜鉛系めっき鋼板を浸漬させる方法や、上記亜鉛系めっき鋼板に処理液を塗布する方法が挙げられる。処理液の塗布方法は、処理される亜鉛系めっき鋼板の形状等によって適宜最適な方法を選択すればよく、ロールコート法、バーコート法、浸漬法、スプレー塗布法等によって撥水撥油処理液を塗布することが可能である。さらに、塗布後にエアーナイフ法やロール絞り法により塗布量の調整、外観の均一化、膜厚の均一化を行うことも可能である。なお、処理液は従来公知の方法で調製すればよい。
【0067】
なお、上記親水性皮膜を形成できる処理液で処理した後の乾燥方法は、特に限定はされず、室温乾燥でも、加熱乾燥でもよい。加熱乾燥を行う手段としてはドライヤー、熱風炉、高周波誘導加熱炉、赤外線炉などを用いることができる。温度についても特に限定されないが、最高到達板温(Peak Metal Temperature:PMT)で室温〜200℃程度であるのが好ましい。
【0068】
このように形成された皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板は、溶融Zn−Al−Mg系めっき層の最大厚さがhのとき、鋼板幅方向に2hの範囲において、親水性皮膜と溶融Zn−Al−Mg系めっき層の界面が形成する曲線の長さをL、この曲線のうち、親水性皮膜とZn−Alの2元共晶(すなわち、溶融Zn−Al−Mg系めっき層の凸部)が接する界面により形成される曲線の長さの和をL
Alとするとき、以下の式(1)と(2)を満たす。
1.5≦L/2h<5.5 (1)
0.50≦L
Al/L<0.90 (2)
L/2hは表面凹凸の指標であり、式(1)の範囲であれば皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板は高い親水性を示す。L/2hが1.5未満では凹凸の効果が小さく、親水性が低下する。また、L/2hが5.5以上では、凹凸が大き過ぎるため、部分的に面圧が高くなって耐磨耗性が低下するとともに、凹凸による光の吸収により外観が低下する。好ましくは、1.7以上、3.0未満である。L
Al/Lは表面のAl量の指標であり、式(2)の範囲であれば皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板は高い耐摩耗性と良好な外観を示す。L
Al/Lが0.50未満ではやわらかいZnが表面に多く存在するため、耐摩耗性が不十分となる。L
Al/Lが0.90以上では表面の溶解が進み凹凸が大き過ぎるため、外観が低下する。好ましくは、0.6以上、0.8未満である。
【0069】
なお、
図1に示すようなh、L、L
Alについては、タテ:めっき層厚さ、ヨコ:鋼板幅方向にめっき層厚さの2倍、となる任意の5視野の鋼板板厚方向断面SEMを観察し、めっき層の最大膜厚の5視野の平均値をhとし、親水性皮膜と溶融Zn−Al−Mg系めっき層の界面が形成する曲線の長さの5視野の平均値をLとし、親水性皮膜とZn−Alの2元共晶が接する界面により形成される曲線の長さの和の5視野の平均値をL
Alとすることにより、それぞれ算出することができる。
【0070】
次に、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、あくまで本発明を説明する一例に過ぎず、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0071】
表面処理めっき鋼板(皮膜付溶融Zn−Al−Mg系めっき鋼板に相当)のベース鋼板として使用した各めっき鋼板を、めっき組成(平均組成)、めっき処理条件(めっき浴温、浴浸漬時間、めっき後の250℃までの冷却速度)とともに表1に示す。
【0072】
ここで、Al−Zn−MgZn
2の3元共晶の共晶率(同3元共晶のめっき層断面での面積率(表1中のX%))とZn−Alの2元共晶の粒径(平均長径(表1中のYμm))は、さきに説明した方法で測定した。
【0073】
めっき鋼板に硝酸を所定の時間スプレーし、次に水をスプレーして水洗した後、ブロワーで乾燥させ、さらに表2に示す親水性表面処理組成物(親水性皮膜形成用処理液)をめっき鋼板表面に塗布し、5〜20秒間で最高到達板温が80℃になるように乾燥して供試材とした。L/2h、L
Al/Lは、さきに説明した方法で測定した。これら供試材について、下記の試験方法により親水性、耐食性、耐候性、耐磨耗性を評価した。その結果を、各供試材に適用した硝酸濃度、表面処理組成物の組成及びその塗装条件とともに、表3に示す。
【0074】
(1)耐食性
端部と裏面をテープシールした供試材に対してJIS−Z−2371−2000の塩水噴霧試験を行い、白錆発生面積率が5%となる試験時間を測定した。その評価基準は以下のとおりである。
【0075】
◎:240時間以上
○:192時間以上、240時間未満
○-:120時間以上、192時間未満
△:120時間未満
また、上記塩水噴霧試験後に外観を目視観察して評価した。評価基準は以下の通りである。
◎:白色味、ムラなし
○:灰色味、ムラなし
○-:灰色味、ムラあり
△:灰黒色味
(2)耐磨耗性
試験条件;フェルト接触面幅20mm×10mm、荷重:3.8kg/cm
2(0.4MPa)、被膜表面を100回単純往復。試験前後および皮膜なしのサンプルのZnの蛍光FXカウントから、皮膜の残存率を求めた。その評価基準は以下の通りである。
【0076】
◎:皮膜残存率90%以上
○:皮膜残存率75%以上90%未満
○-:皮膜残存率50%以上75%未満
△:皮膜残存率50%未満
(3)親水性(みかけの接触角)
得られた各サンプルを、30mm×50mmに加工し、室温にて2μLの蒸留水を表面に3滴滴下し、滴下後30秒後の各接触角を、固液界面解析装置Drop Master 500(協和界面科学(株)製)を使用して測定し、3滴の平均を水接触角として算出した。水接触角の良否は以下の基準に従って行い、結果を表3に示す。
【0077】
◎:10°未満
○:30°未満10°以上
○-:40°未満30°以上
△:40°以上
(4)耐候性
JIS D0205(1987)に基づき、サンシャインウェザーテストを1000時間行った場合の親水性の低下を評価した。その評価基準は以下の通りである。
【0078】
◎:+2°未満
○:+2°以上 +5°未満
○-:+5°以上 +10°未満
△:+10°以上
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
表3の結果より、本発明例のサンプルは、いずれも、親水性、耐磨耗性及び耐候性に優れることがわかった。これに対し、いずれかの要件が不足した比較例のサンプルは、いずれかの性能に対して満足いく結果が得られないことがわかった。