特許第6443476号(P6443476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443476
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/16 20060101AFI20181217BHJP
   G08G 1/00 20060101ALI20181217BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20181217BHJP
   B60W 50/14 20120101ALI20181217BHJP
   B60W 40/02 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   G08G1/16 C
   G08G1/00 D
   B60R21/00 991
   B60W50/14
   B60W40/02
【請求項の数】5
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-56152(P2017-56152)
(22)【出願日】2017年3月22日
(62)【分割の表示】特願2014-112902(P2014-112902)の分割
【原出願日】2014年5月30日
(65)【公開番号】特開2017-126364(P2017-126364A)
(43)【公開日】2017年7月20日
【審査請求日】2017年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】大岡 政雄
(72)【発明者】
【氏名】成田 隆大
(72)【発明者】
【氏名】能登 紀泰
【審査官】 岩田 玲彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−126888(JP,A)
【文献】 特開2010−000951(JP,A)
【文献】 特開2003−146162(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00−1/16
B60R 21/00
B60W 40/02
B60W 50/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自車両の位置を取得する位置取得手段(104、S400、S420)と、
前記自車両に対する運転支援を実行するための制御目標値と、ドライバの運転操作から推定される制御目標値との差に基づいて、前記自車両が走行する走行領域において前記自車両に対する運転支援を適切に実行できる程度を表わす評価値を設定して記憶装置(60)に記憶する記憶手段(106、S426、S430)と、
前記位置取得手段が取得する前記自車両の位置に基づいて前記自車両が走行すると推定される走行領域における前記評価値を前記記憶装置から取得する評価値取得手段(104、S402)と、
前記評価値が前記運転支援に不適切であることを表わしている場合、前記運転支援を抑制するように、前記自車両に対する前記運転支援の程度を表わす支援度を決定する支援度決定手段(102、S412)と、
前記評価値が前記運転支援に不適切であることを表している前記走行領域から離脱しようとしている場合、前記運転支援の抑制を停止し通常の運転支援に復帰することを報知装置(52、54)に報知させる報知手段(102、S408)と、
を備えることを特徴とする運転支援装置(70)。
【請求項2】
前記報知手段は、前記支援度決定手段が決定する前記支援度を前記自車両が前記走行領域に進入する前に予め前記報知装置に報知させることを特徴とする請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
自車両の位置を取得する位置取得手段(104、S400、S420)と、
前記自車両に対する運転支援を実行するための制御目標値と、ドライバの運転操作から推定される制御目標値との差に基づいて、前記自車両が走行する走行領域において前記自車両に対する運転支援を適切に実行できる程度を表わす評価値を設定して記憶装置(60)に記憶する記憶手段(106、S426、S430)と、
前記位置取得手段が取得する前記自車両の位置に基づいて前記自車両が走行すると推定される走行領域における前記評価値を前記記憶装置から取得する評価値取得手段(104、S402)と、
前記自車両が走行する前記走行領域の走行環境を取得する走行環境取得手段(100、S422)と、
前記自車両の運転状態を取得する運転状態取得手段(100、S422)と、
前記走行環境取得手段が取得する前記走行環境と前記運転状態取得手段が取得する前記運転状態とに基づいて前記走行領域における前記評価値を学習する評価値学習手段(106、S424)と、
前記評価値学習手段が学習する前記評価値に基づいて記憶装置(60)に登録する前記走行領域を管理する管理手段(106、S426、S430)と、
を備え、
前記評価値取得手段は前記記憶装置に登録された前記評価値を取得することを特徴とする運転支援装置。
【請求項4】
自車両の位置を取得する位置取得手段(104、S400、S420)と、
前記自車両に対する運転支援を実行するための制御目標値と、ドライバの運転操作から推定される制御目標値との差に基づいて、前記自車両が走行する走行領域において前記自車両に対する運転支援を適切に実行できる程度を表わす評価値を設定して記憶装置(60)に記憶する記憶手段(106、S426、S430)と
前記位置取得手段が取得する前記自車両の位置を含む前記自車両の走行領域において前記評価値を前記記憶装置から取得する評価値取得手段(104、S402)と、
前記評価値取得手段が取得する前記評価値が前記運転支援に不適切であることを表している場合、前記運転支援を抑制するように、前記自車両に対する前記運転支援の程度を表す支援度を決定する支援度決定手段(102、S412)と、
を備え、
ETCのゲートの周辺が前記運転支援に不適切であると設定されている場合、前記支援度決定手段は、前記ゲートを制御対象から除外することにより、前記自車両が前記ゲートに接近しても制動力が働くことを抑制するように前記支援度を決定することを特徴とする運転支援装置。
【請求項5】
自車両の位置を取得する位置取得手段(104、S400、S420)と、
前記位置取得手段が取得する前記自車両の位置を含む前記自車両の走行領域において前記自車両に対する運転支援を適切に実行できる程度を表わす評価値を取得する評価値取得手段(104、S402)と、
前記評価値取得手段が取得する前記評価値が前記運転支援に不適切であることを表している場合、前記運転支援を抑制するように、前記自車両に対する前記運転支援の程度を表す支援度を決定する支援度決定手段(102、S412)と、
を備え、
前記支援度決定手段は、踏切において、遮断機を制御対象から除外することにより、前記踏切の出口で前記遮断機が閉まっても制動力が働くことを抑制するように前記支援度を決定することを特徴とする運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自車両に対する運転支援を制御する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
車両が走行している道路状況として、車載カメラが撮像する画像等に基づいて、車両が走行している道路形状の複雑度を解析する技術が公知である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
また、車両が走行しているときに、ACC(Adaptive Cruise Control)、LKA(Lane Keep Assist)、PCS(Pre-Crash Safety)等の車両に対する運転支援を行うことが
知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】再表2009/107210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
運転支援は、特許文献1に記されているように車載カメラが撮像する画像データ、あるいはレーダを含む各種センサの検出結果に基づいて、車両が走行する道路等の走行領域の走行環境および車両の運転状態を認識し、その認識結果に基づいて行われる。
【0006】
しかしながら、車両が走行する走行領域の走行環境によっては、例えば、路面上のペイントや汚れを人または走行区画線等と誤認識することがある。また、上り坂の路面の一部が金属板で覆われているとレーダ等で車両前方の物体を探査するときに先行車両と誤認識したり、走行車線を区画する白線の一部が消えているために白線がないものと誤認識したりすることがある。
【0007】
また、道路形状が複雑であるか、路面が荒れて凹凸があるか、車両の走行方向に対して横方向の傾斜が大きい道路の場合には、センサの検出結果とドライバによる運転操作とが一致しないことがある。
【0008】
このように、各種センサの検出結果に基づいて車両の走行領域の走行環境および車両の運転状態を認識し、その認識結果に基づいて運転支援を実行すると、適切な運転支援を実行できないことがある。
【0009】
本発明は、こうした問題にかんがみてなされたものであり、車両の走行領域に応じて適切に運転支援を制御する運転支援装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の運転支援装置は、位置取得手段と、評価値取得手段と、報知手段と、を備える。
位置取得手段は自車両の位置を取得し、評価値取得手段は、位置取得手段が取得する自車両の位置に基づいて自車両が走行すると推定される走行領域における自車両に対する運転支援を適切に実行できる程度を表わす評価値を取得する。報知手段は、評価値取得手段が取得する評価値を自車両が走行領域に進入する前に予め報知装置に報知させる。
【0011】
この構成によれば、自車両が走行すると推定される走行領域に自車両が進入する前に、走行領域の評価値を予め報知するので、ドライバは、報知された評価値に応じた対処を実行することができる。
【0012】
例えば、報知される評価値が低い場合には、ドライバは低い評価値の走行領域に進入するので不適切な運転支援が実行される可能性があることを予め知ることができるので、適切な対処を行うことができる。例えば、不適切な運転支援が実行されることを防止するために、予め運転支援の実行スイッチをオフにしておくことができる。
【0013】
尚、運転支援を適切に実行できる程度を表わす評価値は、例えば、路面上のペイントや汚れのために人または走行区画線等と誤認識したり、上り坂の路面の一部が金属板で覆われているためにレーダ等で車両前方の物体を探査するときに先行車両と誤認識したり、走行車線を区画する白線の一部が消えているために白線がないものと誤認識したりする走行領域の場合に低くなる。
【0014】
また、路面が荒れて凹凸があるか、車両の走行方向に対して横方向の傾斜が大きいためにセンサの検出結果とドライバによる運転操作とが一致しない走行領域の場合に、評価値は低くなる。
【0015】
本発明の他の運転支援装置は、位置取得手段と、評価値取得手段と、支援決定手段と、を備える。
位置取得手段は自車両の位置を取得し、評価値取得手段は、位置取得手段が取得する自車両の位置を含む自車両の走行領域において自車両に対する運転支援を適切に実行できる程度を表わす評価値を取得する。支援決定手段は、評価値取得手段が取得する評価値に応じて、自車両に対する運転支援の程度を表わす支援程度を決定する。
【0016】
この構成によれば、自車両の走行領域において自車両に対する運転支援を適切に実行できる程度を表わす評価値に応じて、自車両に対して実行される運転支援の程度を表わす支援度を決定するので、評価値に応じた適切な支援度の運転支援を決定できる。
【0017】
例えば、運転支援にとって不適切な走行領域において運転支援としてPCSの実行が指令されている場合、衝突を避けるための制動力を低下させるか、制動力を作動させない等の適切な支援度の運転支援を決定できる。
【0018】
尚、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態の運転支援装置を適用した運転支援システムの概略構成を示すブロック図。
図2】不適切領域DBのデータ構造を示す構成図。
図3】運転支援装置の機能ブロック図。
図4】不適切領域の報知処理を示すフローチャート。
図5】不適切領域の学習処理を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明が適用された実施形態について図面を用いて説明する。
[構成]
図1に示す運転支援システム2は、車両に搭載され、車両に対する運転支援を実行するシステムである。運転支援システム2では、運転支援として、例えばPCS、ACC、LKAを実行する。
【0021】
運転支援システム2は、走行環境検出部10と、運転状態検出部20と、自車位置検出部30と、車両制御部40と、ヒューマンマシンインタフェース(HMI)出力部50と、不適切領域DB60と、運転支援ECU70とを備えている。
【0022】
走行環境検出部10は、自車両が走行する道路等の走行領域の環境を検出する。走行環境検出部10は、レーダセンサ12と撮像装置14とを備えている。
レーダセンサ12は、探査波を送受信した結果に基づいて、探査波を反射した物体の位置を検出する。本実施形態におけるレーダセンサ12は、ミリ波、レーザ光等を探査波として、車両前方へ所定角度の範囲でスキャンして出力するとともに、その反射波を検出するレーダである。レーダセンサ12は、探査波を反射した物体との間を探査波が往復するのに要した時間から、物体までの距離ならびに探査波を反射した物体が存在する方位を表す距離計測データ、角度計測データを物体の位置として検出する。
【0023】
尚、レーダセンサ12は、ミリ波、レーザ光を探査波として利用するものに限らず、超音波を探査波として利用するソナーでもよい。
撮像装置14は、自車両の進行方向上の所定角度範囲を撮像するように自車両に搭載された周知のカメラである。ここで言う所定角度範囲は、自車両が走行する走行路上や走行路上に設置された標識が含まれる角度範囲である。
【0024】
運転状態検出部20は、自車両が走行するときの挙動を表す各種情報を検出する。運転状態検出部20は、ヨーレートセンサ22、車輪速センサ24、操舵角センサ26を備えている。
【0025】
ヨーレートセンサ22は、自車両の旋回角速度(ヨーレート)γに応じた信号を出力する。
車輪速センサ24は、左前輪、右前輪、左後輪、および右後輪のそれぞれに取り付けられ、各車輪軸の回転に応じて所定角度ごとにエッジが生じるパルス信号、即ち、車輪軸の回転速度に応じたパルス間隔を有するパルス信号を出力する。
【0026】
操舵角センサ26は、ハンドルの相対的な操舵角として操舵角の変化量、あるいはハンドルの絶対的な操舵角として直進時の操舵位置を基準とした実際の操舵角に応じた信号を出力する。
【0027】
自車位置検出部30は、自車両の位置を検出する。ナビゲーション装置32は、GPS衛星の測位信号から自車両の位置を緯度、経度で検出し、地図DB34から取得する地図上にマッピングする。また、ナビゲーション装置32は、自車両の位置と入力される目的地とに基づいて自車両が走行する経路を探索する。
【0028】
車両制御部40は、自車両に搭載された各種車載装置を制御する電子制御装置(ECU)として、エンジンECU42、ブレーキECU44、ステアリングECU46、メータECU48を備えている。各ECUは、CPU、ROM、RAM等を備えるマイクロコンピュータを中心に構成されている。
【0029】
エンジンECU42は、エンジンの始動および停止、燃料噴射量、点火時期等を制御する。具体的には、エンジンECU42は、吸気管に設けられたスロットルを開閉するアクチュエータを、アクセルペダルの踏込量を検出するセンサの検出値に基づいて制御する。また、エンジンECU42は、運転支援ECU70からの指令に従い、エンジンの駆動力を増減させるようにスロットルアクチュエータを制御する。
【0030】
ブレーキECU44は、自車両の制動を制御する。具体的には、ブレーキECU44は、ブレーキ液圧回路に設けられた増圧制御弁および減圧制御弁を開閉するアクチュエータを、ブレーキペダルの踏込量を検出するセンサの検出値に応じて制御する。また、ブレーキECU44は、運転支援ECU70からの指令に従い、自車両の制動力を増減させるようにブレーキアクチュエータを制御する。
【0031】
ステアリングECU46は、自車両の操舵角を制御する。具体的には、ステアリングECU46は、運転支援ECU70からの指令に従い、ステリングの操舵角を調整するアクチュエータを制御する。このステアリングECU46による制御により、自車両は走行レーンに沿って走行するように制御される。
【0032】
メータECU48は、運転支援ECU70を含む車両各部からの指令に従って、自車両に設けられたメータディスプレイの表示制御を行う。具体的には、メータECU48は、メータディスプレイに、車速やエンジンの回転数、運転支援ECU70が実行する制御の実行状態や運転支援の内容を表示する。
【0033】
HMI出力部50は、ディスプレイ52とスピーカ54とを備えている。ディスプレイ52は、ナビゲーション装置32の指令に基づいて自車位置または自車両の走行予定経路を表示する。また、ディスプレイ52は、運転支援ECU70が自車両に対する運転支援を実行するときに、不適切な走行領域であることを表示することにも使用される。
【0034】
スピーカ54は、音声でナビゲーション装置32の経路案内を行うときに使用される。また、スピーカ54は、運転支援ECU70が自車両に対する運転支援を実行するときに、運転支援に不適切な走行領域(以下、不適切領域とも言う。)であることを音声で報知することに使用される。
【0035】
不適切領域DB60には、運転支援ECU70が適切な運転支援処理を実行できない不適切領域が記憶されて登録されている。図2に示すように、不適切領域DB60に登録された不適切領域の欄には、不適切領域の緯度経度と地図DB34とをリンクさせた不適切領域の位置と、その不適切領域において適切に実行できないPCS、ACC、LKA等の運転支援処理の種別と、運転支援処理を適切に実行できる程度を表わす評価値とが記憶されて登録されている。評価値の値が小さいほど、運転支援に不適切であることを表わしている。
【0036】
不適切領域DB60への不適切領域の登録は、運転支援ECU70自体が判断して行ってもよいし、ディーラ等で定期的に行ってもよい。また、運転支援に不適切であることが道路形状、地形等で予め分かっている場合には、そのような不適切領域を予め不適切領域DB60に登録してもよい。また、搭乗者が直接不適切領域を不適切領域DB60に登録してもよい。
【0037】
また、他の車両が不適切領域と判断した走行領域を自車両が車車間通信で取得して不適切領域DB60に登録してもよい。また、路側機に登録された不適切領域を自車両が路車間通信で取得して不適切領域DB60に登録してもよい。
【0038】
尚、走行領域は天候または時間帯によって運転支援に不適切な走行環境になることがあるので、不適切領域DB60に登録する不適切領域の項目に、不適切な走行環境になる天候、時間帯を加えてもよい。
【0039】
運転支援ECU70は、CPU72とROM74とRAM76とを少なくとも備える周知のマイクロコンピュータを中心に構成されている。
CPU72は、ROM74やRAM76に記憶された制御プログラムに従って各種処理を実行する。ROM74には、走行環境検出部10や運転状態検出部20から取得する信号に基づいて、自車両に対して運転支援を実行する運転支援処理を運転支援ECU70が実行するための制御プログラムが格納されている。RAM76は、制御プログラムやデータを一時的に格納する。
【0040】
運転支援ECU70は、上記以外にも、走行環境検出部10や運転状態検出部20からの信号を入力する入出力インターフェース(I/O)、エンジンECU42、ブレーキECU44、ステアリングECU46、メータECU48等の他のECUとの通信を行う通信回路を備えている。
【0041】
[機能ブロック]
図3に、運転支援ECU70が実行する運転支援処理の機能ブロックを示す。運転支援ECU70は、ROM74に記憶された制御プログラムを実行することにより、以下に説明する制御対象選択部100、制御目標値設定部102、不適切領域進入判定部104、制御結果評価部106として機能する。図1と実質的に同一構成部分には同一符号を付している。
【0042】
制御対象選択部100は、走行環境検出部10が検出する自車両の走行領域の走行環境と、運転状態検出部20が検出する自車両の運転状態とに基づいて、PCSであれば自車両の進行方向前方の物体、ACCであれば自車両と同一車線において自車両の進行方向前方を走行している先行車両、LKAであれば車線区画線のいずれを運転支援の制御対象とするかを選択して制御目標値設定部102に出力する。
【0043】
制御目標値設定部102は、制御対象選択部100が選択した制御対象に対する運転支援を実行するための制御目標値を設定し、車両制御部40に指令する。例えば、ACCであれば、先行車両との車間距離を車速に応じた一定距離に保持するために、車両制御部40に対して、スロットル開度、燃料噴射量、ブレーキの制動力の制御目標値を設定する。
【0044】
不適切領域進入判定部104は、自車位置検出部30が検出する自車位置と、不適切領域DB60に登録された不適切領域の位置とに基づいて、自車両が不適切領域に近づいて進入しようとしているか、不適切領域に進入中か、不適切領域から離脱しようとしているかを判定する。
【0045】
そして、不適切領域進入判定部104は、自車両と不適切領域との位置関係と、不適切領域DB60から取得した不適切領域の評価値とを、制御対象選択部100、制御目標値設定部102、および制御結果評価部106に出力する。
【0046】
制御対象選択部100は、不適切領域進入判定部104から不適切領域に進入中であることを通知されると、この走行領域では運転支援処理を適切に実行できないと判断する。そして、制御対象選択部100は、不適切領域の評価値に応じて、運転支援処理の制御対象を絞り込むか、すべての対象物を制御対象から外すかの運転支援の支援度を決定して運転支援を抑制する。
【0047】
例えば運転支援としてPCSを実行するときに制御対象を絞り込む場合、制御対象を人だけにする。また、ETCのゲートの周囲が不適切領域になっている場合には、ゲートを制御対象から除外することにより、自車両がゲートに接近しても急激な制動力が働くことを抑制する。これにより、ETCのゲートを通過するときに後続車との追突を避けることができる。
【0048】
踏切においても同様に、遮断機を制御対象から除外することにより、幅の広い踏切を自車両が通過するときに踏切の出口で遮断機が閉まっても急激な制動力が働くことを抑制する。これにより、遮断機と衝突しても自車両は走行を続け踏切から脱出することができる。
【0049】
制御目標値設定部102は、不適切領域進入判定部104から不適切領域に進入中であることを通知されると、この走行領域では運転支援処理を適切に実行できないと判断し、不適切領域の評価値に応じて、制御対象に対する運転支援処理の支援度として運転支援を抑制する制御目標値を決定する。
【0050】
例えば、前方の物体との衝突を避けるために制動を開始する距離を、不適切領域ではない通常の走行領域よりも短くする。
また、制御目標値設定部102は、不適切領域進入判定部104から不適切領域に進入しようとしているか、不適切領域から離脱しようとしているかを通知されると、HMI50に指令して、画像および音声の少なくともいずれにより不適切領域に進入しようとしているか、不適切領域から離脱しようとしているかを報知させる。
【0051】
制御結果評価部106は、運転状態検出部20から取得する自車両の運転状態に基づいて推定される制御目標値と、制御目標値設定部102が設定する制御目標値との差が許容範囲内であるか否かを判定し、現在走行中の走行領域が運転支援に適切な領域か不適切な領域であるかを学習する。
【0052】
つまり、制御結果評価部106は、不適切領域DB60に登録されていない走行領域を走行中に、自車両の運転状態から推定される制御目標値と、制御目標値設定部102が設定する制御目標値とに許容範囲を越える差があると、現在走行中の走行領域を不適切領域として不適切領域DB60に新たに登録する。その際、自車両の運転状態から推定される制御目標値と、制御目標値設定部102が設定する制御目標値との差の大きさによって、運転支援を適切に実行できる程度を表わす評価値を適宜設定する。
【0053】
制御結果評価部106が不適切領域として不適切領域DB60に登録する例について以下に説明する。
(1)自車両が走行する上り坂の一部を金属板が覆っているために自車両の前方に先行車両が存在すると誤認識したり、道路上に施されたペイントの形状のために自車両の前方に人が存在すると誤認識したりすることがある。この場合、金属板または道路上のペイントに自車両が接近すると、制御目標値設定部102が設定する制御目標値にしたがい、PCSによる運転支援が作動して制動力が働くことがある。
【0054】
しかし、実際には自車両の前方に他車両または人は存在しないので、ドライバはアクセルを踏み込んでその領域を通過する。
制御結果評価部106は、このような制御目標値設定部102による制御目標値とドライバの運転操作から推定される制御目標値との差に基づいて、上り坂の一部を金属板が覆っていて他車両と誤認識しやすい不適切領域、ならびに道路上に施されたペイントのために人と誤認識しやすい不適切領域として学習し、不適切領域DB60に登録する。
【0055】
(2)車線区画線が剥がれているために剥がれている側に余裕があると判断して剥がれている側に操舵する制御目標値を制御目標値設定部102が設定することがある。これに対し、ドライバは車線区画線が剥がれていることを認識して操舵角を変更しない運転操作を行う。この場合、制御結果評価部106は、制御目標値設定部102による制御目標値
とドライバの運転操作から推定される制御目標値との差に基づいて、車線区画線が剥がれている走行領域を不適切領域として学習し、不適切領域DB60に登録する。
【0056】
(3)レーダセンサ12による探査波を反射する反射物体が道路外に存在する場合、その近くを自車両の前方車両が走行すると、探査波が前方車両から反射物体を経て自車両に反射されることがある。この場合、反射物体の方位に誤検出した物体と前方車両とが誤って結合されることで、前方車両の位置情報を誤ることがある。
【0057】
制御目標値設定部102は前方に他車両が存在しないと判断し他車両に接近しても制動力を作動させる制御目標値を設定しないが、ドライバは前方車両に接近するとブレーキを踏み込む。この場合、制御結果評価部106は、制御目標値設定部102による制御目標値とドライバの運転操作から推定される制御目標値との差に基づいて、反射物体が道路外に存在するために前方に他車両が存在しても検出できないおそれがある不適切領域として学習し、不適切領域DB60に登録する。
【0058】
反射物体とは逆に探査波を乱反射する物体が自車両の周辺に存在する場合は、前方に他車両が存在しないにもかかわらず他車両が存在すると誤認識したり、前方車両を認識できなくなるおそれがある。このような走行領域も、運転支援に不適切な走行領域として学習し、不適切領域DB60に登録する。
【0059】
(4)凹凸の激しい荒れた道路は、各種センサの検出値が大きく変動し易いので、各種センサの検出値に基づいた運転支援に不適切な領域である。制御結果評価部106は、各種センサの検出値が大きく変動する走行領域を不適切領域として学習し、不適切領域DB60に登録する。
【0060】
(5)自車両の進行方向に対して左右の傾斜角度が大きい曲線道路の場合、ヨーレートセンサ22および操舵角センサ26の検出値は直線走行に近い値を示しているのに対し、自車位置検出部30が検出する自車位置によると自車両の進行方向は曲がっていることがある。制御結果評価部106は、このような走行領域を不適切領域として学習し、不適切領域DB60に登録する。
【0061】
以上説明した不適切領域DB60への不適切領域の登録に対し、不適切領域DB60に登録されている走行領域を走行中に、運転状態検出部20から取得するドライバの運転操作から推定される制御目標値と、制御目標値設定部102が設定する制御目標値との差が許容範囲であれば、制御結果評価部106は、現在走行中の走行領域は運転支援に適切な領域であると判断する。そして、制御結果評価部106は、現在走行中の走行領域を不適切領域DB60から削除する。
【0062】
[運転支援処理]
次に、運転支援ECU70が実行する運転支援処理として、報知処理を図4のフローチャートに示し、不適切領域の学習処理を図5のフローチャートに示す。図4および図5のフローチャートは、予め設定された時間間隔ごとに起動される。図4および図5において「S」はステップを表わしている。
【0063】
[報知処理]
図4において運転支援ECU70は、自車位置検出部30から現在の自車位置を取得し(S400)、不適切領域DB60を検索して不適切領域DB60に登録されているいずれかの不適切領域に進入しようとしているか否かを判定する(S402)。
【0064】
不適切領域に進入しようとしている場合(S402:Yes)、運転支援ECU70は
、S402で不適切領域DB60を検索したときに不適切領域DB60から取得した評価値に応じて運転支援の支援度を決定し、支援度に応じて運転支援を抑制することをディスプレイ52およびスピーカ54の少なくともいずれかを使用して画像および音声の少なくともいずれかでドライバに報知する(S404)。
【0065】
不適切領域に進入しようとしていない場合(S402:No)、運転支援ECU70は、走行中の不適切領域から離脱しようとしているか否かを判定する(S406)。
不適切領域から離脱しようとしている場合(S406:Yes)、運転支援ECU70は、ディスプレイ52およびスピーカ54の少なくともいずれかにより、運転支援の抑制を停止し通常の運転支援に復帰することを画像および音声の少なくともいずれか一方でドライバに報知する(S408)。
【0066】
不適切領域に進入しようとしておらず、不適切領域から離脱しようとしていない場合(S402:No、S408:No)、運転支援ECU70は、自車両が不適切領域を走行中であるか否かを判定する(S410)。
【0067】
自車両が不適切領域を走行中の場合(S410:Yes)、運転支援ECU70はS402で不適切領域DB60を検索したときに不適切領域DB60から取得した評価値に応じて運転支援の支援度を決定し、支援度に応じて運転支援を抑制する(S412)。
【0068】
自車両が不適切領域を走行中ではない場合(S410:No)、運転支援ECU70は通常の運転支援を実行する(S414)。
[学習処理]
図5において運転支援ECU70は、自車位置検出部30から現在の自車位置を取得し(S420)、走行環境検出部10および運転状態検出部20から各種センサの検出値およびドライバの運転操作量を取得し、さらに運転支援ECU70自体で設定する制御目標値を取得する(S422)。
【0069】
S422で取得したセンサ検出値、運転操作量および制御目標値に基づいて、運転支援ECU70は現在走行中の走行領域が不適切領域であるか否かを判定する(S424)。不適切領域であるか否かの判定は、前述した制御結果評価部106での学習結果に基づいて実行する。
【0070】
走行領域が不適切領域である場合(S424:Yes)、運転支援ECU70は不適切領域DB60に現在の走行領域が登録されていない場合、不適切領域として記憶して登録する(S426)。不適切領域の登録は、不適切領域であると所定回数連続して判定されてから行ってもよい。
【0071】
走行領域が不適切領域ではない場合(S424:No)、運転支援ECU70は、現在の走行領域が不適切領域として不適切領域DB60に登録されているか否かを判定する(S428)。
【0072】
現在の走行領域が不適切領域ではないと判定されたにも関わらず不適切領域として不適切領域DB60に登録されている場合(S428:Yes)、運転支援ECU70は現在の走行領域を不適切領域DB60から削除する(S430)。不適切領域の削除は、不適切領域ではないと所定回数連続して判定されてから行ってもよい。
【0073】
[効果]
以上説明した本実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)自車両の走行領域において自車両に対する運転支援を適切に実行できる程度を表わす評価値に応じて、自車両に対して実行される運転支援の支援度を決定するので、評価値に応じた適切な支援度の運転支援を決定できる。
【0074】
(2)不適切領域に進入する前に予め運転支援を抑制することを報知するので、ドライバは不適切領域に進入することに備えて、運転支援スイッチをオフにするなどの適切な対処を取ることができる。
【0075】
(3)自車両が取得する走行領域の走行環境と運転状態とに基づいて走行領域が運転支援に適している程度を表わす評価値を学習し、不適切領域DB60に不適切領域を登録したり、不適切領域DB60に登録されている不適切領域を削除したりする。
【0076】
これにより、他車両にとっては不適切領域ではなくても自車両にとって不適切領域であれば不適切領域DB60に登録できる。
また、不適切領域DB60に登録されている不適切領域であっても、例えば道路工事によって走行環境が変化して不適切領域ではなくなることがある。この場合も、自車両が取得する走行領域の走行環境と運転状態とに基づいて不適切領域DB60に登録されている不適切領域を削除できる。
【0077】
[他の実施形態]
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されることなく、種々の形態を取り得る。
【0078】
上記実施形態では、自車両が不適切領域に進入しようとすること、ならびに不適切領域から離脱しようとすることを、ディスプレイ52およびスピーカ54によりドライバに報知し、自車両が不適切領域を走行中は運転支援を抑制した。
【0079】
これに対し、本発明では、不適切領域への進入および不適切領域からの離脱の報知、ならびに不適切領域を走行中の運転支援の抑制のいずれか一方だけを実行してもよい。
また、不適切領域への進入および不適切領域からの離脱の報知のうち少なくとも不適切領域への進入だけを報知してもよい。
【0080】
上記実施形態では、運転支援ECU70は、図4のS404において不適切領域に進入する前に運転支援を抑制することを予め報知し、自車両が不適切領域に進入すると図4のS412において車両制御部40に指令して運転支援を抑制した。これに対し、図4のS404において、不適切領域に進入する前に運転支援の抑制を予め報知することに代えて不適切領域の評価値を予め報知し、自車両が不適切領域に進入しても車両制御部40に運転支援の抑制を指令しない処理を行ってもよい。
【0081】
また、上記実施形態では不適切領域において運転支援を抑制する処理について説明した。これに対し、通常よりも運転支援に適切な走行領域を適切領域としてDBに登録し、適切領域において運転支援の程度を通常よりも高めてもよい。
【0082】
また、不適切領域DB60は、車両に搭載するのではなく、車両のユーザが自由にアクセスできるクラウドDBとして設定してもよい。
上記実施形態における一つの構成要素が有する機能を複数の構成要素として分散させたり、複数の構成要素が有する機能を一つの構成要素に統合させたりしてもよい。
【0083】
また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、同様の機能を有する公知の構成に置き換えてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略してもよい。
【0084】
尚、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本発明の実施形態である。
上述した運転支援ECU70の他、当該運転支援装置を構成要素とするシステム、当該運転支援装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した記録媒体、運転支援方法など、種々の形態で本発明を実現することもできる。
【符号の説明】
【0085】
2:運転支援システム、10:走行環境検出部、20:運転状態検出部、30:自車位置検出部、40:車両制御部、50:HMI出力部、52:ディスプレイ(報知装置)、54:スピーカ(報知装置)、60:不適切領域DB(記憶装置)、70:運転支援ECU(運転支援装置)
図1
図2
図3
図4
図5