特許第6443501号(P6443501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6443501
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】排気ガス浄化システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/035 20060101AFI20181217BHJP
   B01D 53/94 20060101ALI20181217BHJP
   B01J 23/63 20060101ALI20181217BHJP
   B01J 29/068 20060101ALI20181217BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20181217BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   F01N3/035 AZAB
   B01D53/94 222
   B01D53/94 241
   B01D53/94 400
   B01J23/63 A
   B01J29/068 A
   F01N3/08 B
   F01N3/10 A
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-123666(P2017-123666)
(22)【出願日】2017年6月23日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】滝沢 知也
(72)【発明者】
【氏名】原田 浩一郎
【審査官】 楠永 吉孝
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/087005(WO,A1)
【文献】 特開2005−329318(JP,A)
【文献】 特開2006−289211(JP,A)
【文献】 特開2016−159194(JP,A)
【文献】 特開2013−141650(JP,A)
【文献】 特開2016−079912(JP,A)
【文献】 特開2015−025435(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00〜 3/38
B01D 53/94
B01J 21/00〜38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンの排気ガス通路に配設された排気ガス浄化システムであって、
排気ガス中に含まれるパティキュレートを捕集するためのパティキュレートフィルタと、
前記パティキュレートフィルタの排気ガス流れ方向下流側に設けられ、還元剤の存在下排気ガス中のNOxを還元浄化するためのSCR触媒と、
前記パティキュレートフィルタと前記SCR触媒との間に設けられ、該SCR触媒に対して前記還元剤を供給するべく該還元剤又は該還元剤の前駆体を供給するための注入手段と、
前記SCR触媒の排気ガス流れ方向下流側に設けられ、該SCR触媒を通過した還元剤を浄化するための還元剤酸化触媒と
を備え、
前記パティキュレートフィルタは、触媒貴金属及びCeを含まないZr系複合酸化物と、RhドープCe含有Zr系複合酸化物とを含み、且つ、触媒貴金属としてのPt及びPdを含有せず、
前記還元剤酸化触媒は、Ptを含有する
ことを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記還元剤酸化触媒に含有されるPt量は、前記パティキュレートフィルタ及び前記還元剤酸化触媒の全容量に対して、0.1g/L以上6.0g/L以下である
ことを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項3】
請求項1又は請求項2において、
前記還元剤酸化触媒は、Ce含有酸化物を含有する
ことを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
前記パティキュレートフィルタの排気ガス流れ方向上流側に、酸化触媒が配設されている
ことを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項5】
請求項1乃至請求項3のいずれか一において、
前記パティキュレートフィルタは、
下流端が閉塞された排気ガス流入通路と、上流端が閉塞された排気ガス流出通路が交互に並行に設けられたハニカム構造をなし、排気ガス流入通路に流入した排気ガスが通路隔壁の細孔を通って隣接する排気ガス流出通路に流出するウォールフロータイプのフィルタ本体と、
前記フィルタ本体に形成された前記Zr系複合酸化物及び前記RhドープCe含有Zr系複合酸化物を含むコーティングと、
を備え、
前記SCR触媒は、Pt及びPdを含有せず、
前記還元剤酸化触媒は、フロースルータイプのハニカム担体と、該ハニカム担体に担持されたPt担持ゼオライトとを備え、
前記パティキュレートフィルタの再生時における、前記パティキュレートフィルタの到達温度は850℃であり、前記還元剤酸化触媒の到達温度は650℃である
ことを特徴とする排気ガス浄化システム。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一において、
前記RhドープCe含有Zr系複合酸化物に含有されるRh量は、0.01質量%以上1質量%以下である
ことを特徴とする排気ガス浄化システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排気ガス浄化システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやリーンバーンガソリンエンジンから排出される排気ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、NOx(窒素酸化物)、パティキュレート等の有害物質が含まれている。
【0003】
このような有害物質を処理するシステムとして、例えば特許文献1には、酸化触媒(DOC)、触媒化燃焼フィルタ(CSF)、還元剤供給源、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒、及びNH酸化触媒の順に排気ガスを通過させるシステムが開示されている。
【0004】
特許文献1によれば、CSFは、排気ガス中のパティキュレートを捕集し燃焼除去するためのフィルタである。CSFには、パティキュレートの燃焼性能を向上させるため、貴金属成分としてPt及びPdが含まれている。また、CSFにPtを含有させることで、排気ガス中のNOを酸化してNO濃度を増加させ、SCR触媒におけるNOx還元浄化性能を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許5937067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、パティキュレートを燃焼除去する場合には、フィルタの温度が高温となるため、触媒貴金属としてPtやPdを担持させておいても、シンタリング等によりPtやPdの触媒活性が低下するという問題があった。
【0007】
そこで、本発明は、排気ガス中のHC、CO、NOx及びパティキュレートを浄化可能な排気ガス浄化システムにおいて、優れたパティキュレート燃焼性能並びにHC及びCO浄化性能を有する排気ガス浄化システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ここに開示する排気ガス浄化システムは、エンジンの排気ガス通路に配設された排気ガス浄化システムであって、排気ガス中に含まれるパティキュレートを捕集するためのパティキュレートフィルタと、前記パティキュレートフィルタの排気ガス流れ方向下流側に設けられ、還元剤の存在下排気ガス中のNOxを還元浄化するためのSCR触媒と、前記パティキュレートフィルタと前記SCR触媒との間に設けられ、該SCR触媒に対して前記還元剤を供給するべく該還元剤又は該還元剤の前駆体を供給するための注入手段と、前記SCR触媒の排気ガス流れ方向下流側に設けられ、該SCR触媒を通過した還元剤を浄化するための還元剤酸化触媒とを備え、前記パティキュレートフィルタは、触媒貴金属及びCeを含まないZr系複合酸化物と、RhドープCe含有Zr系複合酸化物とを含み、且つ、触媒貴金属としてのPt及びPdを含有せず、前記還元剤酸化触媒は、Ptを含有することを特徴とする。
【0009】
パティキュレートフィルタ温度は、通常運転時には250℃程度であるが、フィルタ再生時にはピーク温度が850℃程度まで上がることから、パティキュレートフィルタにHC、CO及びパティキュレート燃焼を促進させるための触媒貴金属であるPtやPdを担持させても、シンタリング等により触媒性能が低下し得る。
【0010】
本構成によれば、パティキュレートフィルタにパティキュレート燃焼性能の高いRhを含有させることで、PtやPdを含有させなくても、パティキュレート燃焼性能に優れたパティキュレートフィルタを備えた排気ガス浄化システムをもたらすことができる。また、SCR触媒の下流側に設けた還元剤酸化触媒の温度は、フィルタ再生時であっても650℃程度であることから、パティキュレートフィルタではなく還元剤酸化触媒にPtを含有させることで、SCR触媒を通過した還元剤を酸化させるとともに、触媒貴金属のシンタリング等による触媒性能の低下を抑えて排気ガス中に含まれるHC及びCOを効果的に浄化することができる。また、パティキュレートフィルタは、触媒貴金属及びCeを含まないZr系複合酸化物と、RhドープCe含有Zr系複合酸化物とを含む。これにより、パティキュレートフィルタのパティキュレート燃焼性能を向上させることができる。
【0011】
好ましい態様では、前記還元剤酸化触媒に含有されるPt量は、前記パティキュレートフィルタ及び前記還元剤酸化触媒の全容量に対して、0.1g/L以上6.0g/L以下である。
【0012】
本構成によれば、還元剤酸化触媒に含有されるPt量を上記範囲とすることにより、排気ガス中に含まれるHC及びCOを効果的に浄化することができる。
【0013】
好ましい態様では、前記還元剤酸化触媒は、Ce含有酸化物を含有する。
【0014】
好ましい態様では、前記パティキュレートフィルタは、下流端が閉塞された排気ガス流入通路と、上流端が閉塞された排気ガス流出通路が交互に並行に設けられたハニカム構造をなし、排気ガス流入通路に流入した排気ガスが通路隔壁の細孔を通って隣接する排気ガス流出通路に流出するウォールフロータイプのフィルタ本体と、前記フィルタ本体に形成された前記Zr系複合酸化物及び前記RhドープCe含有Zr系複合酸化物を含むコーティングと、を備え、前記SCR触媒は、Pt及びPdを含有せず、前記還元剤酸化触媒は、フロースルータイプのハニカム担体と、該ハニカム担体に担持されたPt担持ゼオライトとを備え、前記パティキュレートフィルタの再生時における、前記パティキュレートフィルタの到達温度は850℃であり、前記還元剤酸化触媒の到達温度は650℃である。また、好ましい態様では、前記RhドープCe含有Zr系複合酸化物に含有されるRh量は、0.01質量%以上1質量%以下である。
【0015】
好ましい態様では、前記パティキュレートフィルタの排気ガス流れ方向上流側に、酸化触媒が配設されている。
【0016】
本構成によれば、排気ガス中に含まれるHC及びCOの浄化性能を向上させるとともに、排気ガス中に含まれるNOを酸化してNOとすることで、パティキュレートフィルタにおけるPMの燃焼が促進される。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように、本発明によると、パティキュレートフィルタにパティキュレート燃焼性能の高いRhを含有させることで、PtやPdを含有させなくても、パティキュレート燃焼性能に優れたパティキュレートフィルタを備えた排気ガス浄化システムをもたらすことができる。また、パティキュレートフィルタではなく還元剤酸化触媒にPtを含有させることで、SCR触媒を通過した還元剤を酸化させるとともに、触媒貴金属のシンタリング等による触媒性能の低下を抑えて排気ガス中に含まれるHC及びCOを効果的に浄化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】エンジンの排気ガス浄化装置の構成図である。
図2】製造例の各DPFのカーボン燃焼速度を示すグラフ図である。
図3】実施例及び比較例のライトオフ温度(T50)を示すグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものでは全くない。
【0020】
(実施形態1)
<排気ガス浄化装置の構成>
図1に示す排気ガス浄化装置1(排気ガス浄化システム)は、図示しないリーンバーンエンジン(エンジン)から排出される排気ガス中のHC、CO、NOx及びパティキュレート(以下、「PM」という。)の処理が可能な装置である。本例のエンジンはディーゼルエンジンであり、その排気ガス通路Wには、排気ガス浄化装置1として、酸化触媒(DOC)2、パティキュレートフィルタとしての触媒付ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)3、還元剤又は還元剤前駆体の注入手段4、ミキサ5、SCR触媒6及び還元剤酸化触媒としてのNH酸化触媒(AMOX)7が排気ガス流れ方向の上流側から順に配置されている。本明細書では、「上流側」及び「下流側」は排気ガス流れ方向について使用している。この排気ガス浄化装置1は、還元剤又は還元剤前駆体を貯留するタンク及び各種センサを備える。それらセンサの信号に基づいてエンジンの燃料噴射制御及び注入手段4の制御がECU(Engine Control Unit)によって実行される。
【0021】
−DOCについて−
DOC2は、排気ガス中のHCをトラップするHCトラップ材と、該HCトラップ材にトラップされたHC、排気ガス中のHC、CO、NOを酸化する触媒成分を含有する。例えば、HCトラップ材としてはゼオライトを採用し、酸化触媒成分としては活性アルミナとOSC(Oxygen Storage capacity)材との混合物にPt及び/又はPdを担持させた触媒を採用することが好ましい。OSC材としては、例えばZrなどの遷移金属や、Ndなどの希土類金属により耐熱性を向上させたCe含有酸化物を用いることができる。
【0022】
DOC2は、HCトラップ材を含有するから、排気ガス温度が低いとき(触媒が活性化していないとき)に排気ガス中のHCをトラップしておき、排気ガス温度が高くなったとき(触媒が活性を呈するようになったとき)にHCトラップ材から放出されるHCを酸化浄化することができ、HCが酸化されることなく排出される量を減らすことができる。
【0023】
−DPFについて−
DPF3は、排気ガス中に含まれるPMを捕集・除去するためのものであり、PMを捕集するフィルタ本体に、捕集したPMを燃焼させて除去するフィルタ再生時にPM燃焼を促進させるためのPM燃焼触媒を担持させたものである。フィルタ本体は、下流端が閉塞された排気ガス流入通路と、上流端が閉塞された排気ガス流出通路が交互に並行に設けられたハニカム構造をなし、排気ガス流入通路に流入した排気ガスが通路隔壁の細孔を通って隣接する排気ガス流出通路に流出するウォールフロータイプである。フィルタ本体は、コージェライト、SiC、Si、サイアロン、AlTiOのような無機多孔質材料から形成される。
【0024】
PM燃焼触媒としては、Zr系複合酸化物とRhドープCe含有Zr系複合酸化物(RhがCe含有Zr系複合酸化物の結晶格子点又は格子点間にRhが配置された化合物)との混合物を採用することが好ましく、PtやPdのような酸化触媒機能が強い触媒貴金属は含有しない。
【0025】
Zr系複合酸化物は、Zrを主成分として、Ceを含まず、Ce以外の希土類金属、例えばY、Nd、Pr、La、Ybを、好ましくはY、Nd、Prを、特に好ましくはY又はNdに加えPrを含有する複合酸化物である。
【0026】
Zr系複合酸化物は、酸素イオン交換反応が可能であり、金属イオンの価数変化を伴うことなく活性な酸素を放出する。そうして、活性な酸素の反応性が高いことから、PtやPdのような触媒貴金属が存在しなくても、PM燃焼が促進される。Zr系複合酸化物は、フィルタ1Lあたり10g以上60g以下含まれていることが好ましい。
【0027】
Ce含有Zr系複合酸化物は、Zrを主成分として、Ceを含有する複合酸化物であり、好ましくはさらにCe以外の希土類金属、例えばY、Nd、Pr、La、Ybを、より好ましくはY、Nd、Pr、Laを、特に好ましくはNdを含有する複合酸化物である。
【0028】
Ce含有Zr系複合酸化物は、酸素吸蔵放出材であり、Ceの価数変化を伴う可逆反応に基づく優れた酸素吸蔵放出能を有している。このようなCe含有Zr系複合酸化物にRhをドープさせることにより、燃焼が進むにつれ接触が少なくなるPMの燃焼反応を促進することができる。
【0029】
RhドープCe含有Zr系複合酸化物に含有されるRh量は、PM燃焼性能向上の観点から、好ましくは0.01質量%以上1質量%以下、より好ましくは0.05質量%以上0.5質量%以下である。
【0030】
また、Zr系複合酸化物とRhドープCe含有Zr系複合酸化物の質量比(Zr系複合酸化物/RhドープCe含有Zr系複合酸化物)は、優れたPM燃焼性能をもたらす観点から、好ましくは6/1〜1/6、より好ましくは4/1〜1/4である。
【0031】
また、DPF3よりも上流側に配設されたDOC2によって、排気ガス中のNOが排気ガス中の酸素(O)と反応してNOが生成し、このNOが排気ガス中の酸素(O)と共に酸化剤としてDPF3に供給される。そのため、PMの燃焼が促進される。PMは酸素やNOと反応によってCOとなって排出される。
【0032】
−注入手段及びミキサについて−
注入手段4は、DPF3とSCR触媒6との間に設けられ、SCR触媒6に対して還元剤又は還元剤前駆体を供給するためのものである。具体的には、タンク内の還元剤又は還元剤前駆体をDPF3とミキサ5との間の排気ガス通路Wに供給する噴射弁によって構成することができる。ミキサ5は、還元剤又は還元剤前駆体を排気ガス通路W内において排気ガス中に拡散させるものである。
【0033】
−SCR触媒について−
SCR触媒6は、還元剤の存在下排気ガス中のNOxを還元浄化するためのものであり、一般的なSCR触媒を用いることができる。なお、SCR触媒6として、本例では、還元剤となるNHの前駆体として尿素を採用した尿素−SCRを採用している。そのため、タンクには尿素水が貯留される。SCR触媒6としては、NHをトラップするゼオライトに、NHを還元剤としてNOxを還元する触媒金属を担持させた触媒成分を採用することが好ましい。NOx還元用の触媒金属としては、Fe、Cu、Ti、V、W等が好ましく、NHをNOxに酸化し易いPtやPdの使用は好ましくない。
【0034】
注入手段4によって尿素水が排気ガス通路Wに注入され、その尿素の熱分解及び加水分解によってNH(還元剤)が生成し、SCR触媒6のゼオライトに吸着される。SCR触媒6に流入するNOx(NO,NO)は、ゼオライトに吸着されたNH、もしくはSCR触媒6に流入するNHによってNに還元浄化され、そのときに生成するHOと共に排出される。
【0035】
−AMOXについて−
AMOX7はNOxと反応することなくSCR触媒を通過する(スリップする)NH及びその誘導体をトラップして酸化(浄化)するものであり、それらNH等のスリップを防止する。AMOX7としては、NHをトラップするゼオライトにPtを担持させたPt担持ゼオライトとOSC材とをハニカム担体のセル壁に担持させた構成とすることが好ましい。なお、Ptは、NHのみならず、排気ガス中に含まれるHC及びCOについても酸化を促進し、浄化することができる。また、AMOX7に含有されるOSC材としては、例えばZrなどの遷移金属や、Ndなどの希土類金属により耐熱性を向上させたCe含有酸化物を用いることができる。
【0036】
ここに、AMOX7に含有されるPt量は、NH及び排気ガス中に含まれるHC及びCOを効果的に浄化する観点から、DPF3及びAMOX7の全容量に対して、好ましくは0.1g/L以上6.0g/L以下、より好ましくは0.2g/L以上1.0g/L以下である。
【0037】
NOxと反応することなくSCR触媒を通過するNH及びその誘導体はAMOX7のゼオライトにトラップされる。よって、NH及びその誘導体が大気中に排出することが防止される。ゼオライトにトラップされたNH及びその誘導体は、ゼオライトの温度が高くなったときに脱離してPt触媒によって酸化されて排出される。
【0038】
なお、DPF3の再生時には、DPF3の温度は約850℃にまで達するのに対し、AMOX7の到達温度は約650℃であることから、DPF3にPtやPdを担持することなく、AMOX7に上述のごとくPtを担持することにより、触媒貴金属のシンタリングを抑制して触媒性能の低下を防ぎ、排気ガス中のHC及びCOについても効果的に浄化することができる。
【0039】
以上述べたように、本実施形態に係る排気ガス浄化装置1は、DPF3、注入手段4、SCR触媒6、及びAMOX7を備えた排気ガス中のHC、CO、NOx及びPMを浄化可能な排気ガス浄化装置1であって、DPF3にPM燃焼性能の高いRhを含有させることで、PtやPdを含有させなくても、PM燃焼性能に優れたDPF3を備えた排気ガス浄化装置1をもたらすことができる。また、DPF3ではなくAMOX7にPt、特に上記範囲量のPtを含有させることで、SCR触媒6を通過する還元剤の酸化を促進させるとともに、触媒貴金属のシンタリングによる触媒性能の低下を抑制し、優れたHC及びCO浄化性能を有する排気ガス浄化装置1をもたらすことができる。
【0040】
(実施形態2)
以下、本発明に係る他の実施形態について説明する。なお、これらの実施形態の説明において、実施形態1と同じ部分については同じ符号を付して詳細な説明を省略する。
【0041】
実施形態1では、DPF3の上流側にDOC2を設ける構成であったが、エンジンの種類等によりDOC2を設けない構成とすることもできる。なお、DPF3によるパティキュレート燃焼性能向上の観点から、DOC2を設ける構成が望ましい。
【0042】
また、DOC2の代わりにNOx吸蔵触媒材料(NSC)を配設する構成としてもよい。さらに、DOC2とNSCとの複合触媒(NSC+DOC)を配設する構成としてもよい。以下、NSC+DOCを配設する構成について説明する。
【0043】
−NSC+DOCについて−
NSC+DOCを配設する方法としては、例えば、実施形態1に記載のDOC2に塗布する触媒材料を、排気ガス中のNOxを一時的にトラップして還元浄化するNSC触媒と排気ガス中のHC、CO及びNOを酸化浄化する酸化触媒(DOC)と含む複合触媒とすることが挙げられる。
【0044】
NSC触媒は、排気ガス中のNOを酸化する触媒成分と、排気ガスの空燃比がリーンのときに該排気ガス中のNOxをトラップし、排気ガスの空燃比が理論空燃比ないしリッチになったときにNOxを放出するNOxトラップ材と、該NOxトラップ材にトラップされたNOxを還元する触媒成分を含有する。例えば、NO酸化触媒成分としては、活性アルミナとOSC材としてのCe含有酸化物の混合物にPtを担持させた触媒を採用し、NOxトラップ材としてはBa等のアルカリ土類金属の化合物を採用し、NOx還元触媒成分としては活性アルミナとOSC材(Ce含有酸化物)の混合物にRhを含有させた触媒を採用することが好ましい。
【0045】
NOxトラップ材の原料としてアルカリ土類金属の酢酸塩を採用し、これを担体に担持して焼成すると、アルカリ土類金属は炭酸塩となる。すなわち、このアルカリ土類金属の炭酸塩がNOxトラップ材となる。
【0046】
酸化触媒(DOC)としては、実施形態1のDOC2に採用した触媒成分を用いることができる。
【0047】
NSC+DOCは、比較的排気ガス温度が高い後処理システムの上流側にNOx浄化機能を付与することができることから、DOCによるHCの酸化浄化と併せて、特にエンジン始動(コールドスタート)時において排出されるNOxの量を減らすことができる。
【0048】
(その他の実施形態)
上記実施形態のエンジンはディーゼルエンジンであったが、エンジンとしては、希薄燃焼エンジンであればよく、リーンバーンガソリンエンジン等であってもよい。
【実施例】
【0049】
次に、具体的に実施した実施例について説明する。
【0050】
<DPFのPM燃焼性能について>
−製造例1〜3のDPFの調製−
表1に示す製造例1〜3の各DPFを調製した。
【0051】
【表1】
製造例1〜3におけるZr系複合酸化物としてのZrNdPr複合酸化物(ZrNdPrO)及びZrYPr複合酸化物(ZrYPrO)、並びにRhドープCe含有Zr系複合酸化物としてのRhドープCeZrNd複合酸化物(RhドープCeZrNdO)は、以下の調製方法により調整した。また、製造例3におけるLa含有アルミナ及び純アルミナとしては、それぞれ市販されている粉末を用いた。
【0052】
−ZrYPrO及びZrNdPrOの調製−
硝酸プラセオジウム6水和物とオキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸イットリウム又は硝酸ネオジム6水和物とをイオン交換水に溶かした。この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、共沈物を得た。この共沈物を含む溶液を遠心分離器にかけて上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に必要回数繰り返した。最終的に脱水を行った後の共沈物を、大気中において150℃で一昼夜乾燥させた後、ボールミルにより粉砕した。その後、大気中において500℃で2時間焼成することによりZrYPrO又はZrNdPrOを得た。
【0053】
−RhドープCeZrNdOの調製−
硝酸セリウム6水和物とオキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジム6水和物と硝酸ロジウム溶液をイオン交換水に溶かした。この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、共沈物を得た。この共沈物を含む溶液を遠心分離器にかけて上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に必要回数繰り返した。最終的に脱水を行った後の共沈物を、大気中において150℃で一昼夜乾燥させた後、ボールミルにより粉砕した。その後、大気中において500℃で2時間焼成することによりRhドープCeZrNdOを得た。
【0054】
−製造例1,2の触媒粉末のフィルタ本体へのコーティング−
いずれのDPFも、フィルタ本体としてはSiC製ハニカム状フィルタ(容量:25mL、セル壁厚:16mil、セル数:178cpsi)を用いた。
【0055】
ZrYPrO又はZrNdPrOとRhドープCeZrNdOとを混合し、この混合粉末にジルコニアバインダ溶液及びイオン交換水を加え、混合してスラリー状にした。そして、ボールミルによって個数平均粒径200nm以上400nm以下程度(好ましくは300nm程度)になるまで粉砕し、このスラリーをフィルタ本体にコーティングした。そして、大気中において150℃で乾燥させた後、大気中において500℃で2時間の焼成を行ない、製造例1又は製造例2のDPFを得た。
【0056】
−製造例3の触媒粉末について−
ZrYPrOとRhドープCeZrNdOとを混合し、これにイオン交換水を加えてスラリー状にし、スターラ等により十分に攪拌した。この攪拌を続けながら、そのスラリーに所定量エタノールアミンPt(ヘキサヒドロキソ白金(IV)酸エタノールアミン溶液)を滴下し、十分に攪拌した。その後、加熱しながらさらに攪拌を続け、水分を完全に蒸発させた。蒸発後、得られた乾固物を粉砕し、大気中において500℃で2時間焼成した。これにより、PtがZrYPrO及びRhドープCeZrNdOに担持されてなる触媒粉末を得た。
【0057】
製造例3の活性アルミナ触媒粉末は以下の手順により調製した。すなわち、複数種の活性アルミナ(純アルミナ及びLa含有アルミナ)を混合し、イオン交換水を加えてスラリー状にし、それをスターラ等により十分に撹拌した。続いて、撹拌しながらそのスラリーに所定量のエタノールアミンPtを滴下し、十分に撹拌した。その後、加熱しながらさらに撹拌を続けて、水分を完全に蒸発させた。蒸発後、得られた乾固物を粉砕し、大気中において500℃で2時間焼成した。これにより、Ptがそれぞれの活性アルミナに担持された触媒粉末を得た。
【0058】
この活性アルミナ(純アルミナ及びLa含有アルミナ)にPtを担持した触媒粉末と上述のZrYPrO及びRhドープCeZrNdOにPtが担持されてなる触媒粉末を混合し、この混合粉末にジルコニアバインダ溶液及びイオン交換水を加え、混合してスラリー状にした。このスラリーをフィルタ本体にコーティングし、大気中において150℃で乾燥させた後、大気中において500℃で2時間の焼成を行ない、製造例3のDPFを得た。
【0059】
−DPFのPM燃焼性能評価−
製造例1〜3の各DPFに、大気中で800℃の温度に24時間保持するエージングを行なった後、以下の手順で各DPFに煤を堆積させ、各DPFのPM燃焼性能を調べた。
【0060】
まず、5g/L相当のカーボンブラックにイオン交換水を加え、スターラを用いて攪拌することによりカーボンブラックを充分に分散させた。得られたスラリーに上記エージング処理したDPFの入口端部を浸漬させるとともに、出口端部からアスピレータによる吸引を行なった。この吸引により除去できない水分は、当該フィルタのスラリーに浸漬させた側の端面からのエアーブローで除去した。そして、150℃の温度で2時間保持することによりDPFを乾燥させた。
【0061】
このようにして煤を堆積させた各DPFを固定床式のモデルガス流通装置に取り付け、NガスをDPFに流しながらDPF入口のガス温度を常温から580℃まで上昇させた。温度が580℃で安定した後、その温度を維持した状態で、ガス組成を「7.5%O+300ppmNO+N(バランスガス)」に切り換え、ガス流量40L/分でDPFに流した。そして、カーボンが燃焼することにより生じるCO及びCOのガス中濃度をフィルタ出口においてリアルタイムで測定し、それらの濃度から、下記の計算式(1)を用いて、所定時間ごとに、カーボン燃焼速度(単位時間当たりのカーボン燃焼量)を計算した。
【0062】
カーボン燃焼速度(g/h)
={ガス流速(L/h)×[(CO+CO)濃度(ppm)/(1×10)]}×12(g/mol)/22.4(L/mol) ・・・(1)
その上で、時間に対するカーボン燃焼量の積算値を求め、煤燃焼率が90%に達するまでに要した時間から煤燃焼速度(フィルタ1Lでの1分間当たりの煤燃焼量(g/分−L))を求めた。結果を図2に示す。
【0063】
Ptを担持した触媒粉末を用いて調製した製造例3のDPFに比べて、Pt及びPdを担持していない触媒粉末を用いて調製した製造例1,2のDPFの方が、煤燃焼速度が高く、PM燃焼性能に優れていることが判った。
【0064】
<DPF+AMOXのHC及びCO浄化性能について>
−AMOXの調製−
表2に示す実施例1,2及び比較例1のDPF+AMOXサンプルを調製した。なお、簡単のため、DOC及びSCR触媒の設置を省略している。
【0065】
【表2】
AMOXの触媒担体として、フロースルータイプのコージェライト製ハニカム担体(容量:13mL、セル壁厚:4.5mil、セル数:400cpsi)を用いた。
【0066】
このハニカム担体に、以下の手順で調製したPtを担持させたゼオライトと、OSC材としてCeZrNd複合酸化物(CeZrNdO)とを担持してAMOXを得た。
【0067】
−Pt担持ゼオライト粉末の調製−
市販のゼオライト粉末にイオン交換水を加えてスラリー状にし、それをスターラ等により十分に撹拌した。続いて、撹拌しながらそのスラリーに所定量のエタノールアミンPtを滴下し、十分に撹拌した。その後、加熱しながらさらに撹拌を続けて、水分を完全に蒸発させた。蒸発後、得られた乾固物を粉砕し、大気中において500℃で2時間焼成した。そうして、Pt担持ゼオライト粉末を得た。
【0068】
−CeZrNdOの調製−
硝酸セリウム6水和物とオキシ硝酸ジルコニル溶液と硝酸ネオジム6水和物とをイオン交換水に溶かした。この硝酸塩溶液に28質量%アンモニア水の8倍希釈液を混合して中和させることにより、共沈物を得た。この共沈物を含む溶液を遠心分離器にかけて上澄み液を除去する脱水操作と、イオン交換水を加えて撹拌する水洗操作とを交互に必要回数繰り返した。最終的に脱水を行った後の共沈物を、大気中において150℃で一昼夜乾燥させた後、ボールミルにより粉砕した。その後、大気中において500℃で2時間焼成することによりCeZrNdOを得た。
【0069】
−フィルタ本体へのコーティング−
Pt担持ゼオライト粉末とCeZrNdOを混合し、この混合粉末にジルコニアバインダ溶液及びイオン交換水を加え、混合してスラリー状にした。このスラリーをフィルタ本体にコーティングし、大気中において150℃で乾燥させた後、大気中において500℃で2時間の焼成を行ない、AMOXを得た。なお、AMOXにおけるPt担持量は、実施例1,2では1.0g/L、比較例1では0.50g/Lであった。そして、DPF及びAMOX全容量に対するPt担持量は、実施例1,2及び比較例1のいずれにおいても0.34g/Lであった。
【0070】
−HC及びCO浄化性能について−
製造例1〜3のDPFに対し、エージング処理として、大気雰囲気中熱処理炉において800℃で24時間の熱処理を行った。AMOXに対し、エージング処理として、雰囲気ガス中熱処理炉において650℃で45時間(2%O、10%HO、残N)の熱処理を行った。
【0071】
その後、表2に示すように、製造例1〜3のいずれかのDPFとAMOXとを上流側からこの順にガス流通反応装置に取り付け、HC及びCOの浄化に関する各ライトオフ温度T50(℃)を測定した。T50(℃)は、触媒に流入するモデル排気ガスの温度を常温から漸次上昇させていき、その触媒から流出するガスのHC及びCOの濃度変化を検出し、それらの成分のそれぞれの浄化率が50%に達したときの触媒入口ガス温度である。
【0072】
ガス組成「10%O+1800ppmCO+50ppmNO+50ppmNO+100ppmNH+130ppmC−C+50ppmC−C+720ppmC−C18+10%HO+N(バランスガス)」のモデルガスを、ガス流量40L/分でDPF及びAMOXに流した。昇温速度30℃/分で評価温度100℃から600℃まで昇温させ、T50を測定した。結果を図3に示す。なお、実施例1,2及び比較例1のいずれのDPF+AMOXサンプルにおいても、DPF+AMOXの全容量におけるPt担持量は、上述のごとく0.34g/Lである。
【0073】
PtをDPF及びAMOXのいずれにも担持した比較例1のDPF+AMOXサンプルに比べ、PtをAMOXにのみ担持した実施例1,2のDPF+AMOXサンプルの方が、HC及びCOのいずれにおいても、T50は低く、HC及びCO浄化性能が高くなることが判った。
【0074】
また、図2の結果より、製造例3のDPFを用いた比較例1のDPF+AMOXサンプルに比べて、製造例1,2のDPFを用いた実施例1,2のDPF+AMOXサンプルは、PM燃焼性能も高くなる。
【0075】
以上より、比較例1のDPF+AMOXサンプルに比べて、実施例1,2のDPF+AMOXサンプルは、PM燃焼性能並びにHC及びCO浄化性能に優れていることが判った。
【符号の説明】
【0076】
1 排気ガス浄化装置(排気ガス浄化システム)
2 酸化触媒、DOC
3 触媒付ディーゼルパティキュレートフィルタ、DPF(パティキュレートフィルタ)
4 注入手段
5 ミキサ
6 SCR触媒
7 NH酸化触媒、AMOX(還元剤酸化触媒)
W 排気ガス通路
【要約】
【課題】排気ガス中のHC、CO、NOx及びパティキュレートを浄化可能な排気ガス浄化システムにおいて、優れたパティキュレート燃焼性能並びにHC及びCO浄化性能を有する排気ガス浄化システムを提供する。
【解決手段】排気ガス浄化装置1は、エンジンの排気ガス通路Wに配設され、排気ガス中に含まれるPMを捕集するためのDPF3と、DPF3の排気ガス流れ方向下流側に設けられ、NHの存在下排気ガス中のNOxを還元浄化するためのSCR触媒6と、DPF3とSCR触媒6との間に設けられ、SCR触媒6に対してNHを供給するべく尿素を供給するための注入手段4と、SCR触媒6の排気ガス流れ方向下流側に設けられ、SCR触媒6を通過したNHを浄化するためのAMOX7とを備え、DPF3は、Pt及びPdを含有せず、Rhを含有しており、AMOX7は、Ptを含有する。
【選択図】図1
図1
図2
図3