(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第2の半導体層は不純物濃度がピークとなる深さ位置を有し、前記第2の側壁部の前記他方端は前記深さ位置よりも深くに位置する、請求項13に記載の炭化珪素半導体装置。
前記第1および第2の絶縁膜のそれぞれは第1および第2の炭素原子濃度を有し、前記第2の炭素原子濃度は前記第1の炭素原子濃度よりも小さい、請求項1〜請求項15のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
前記第2の絶縁膜は、酸化珪素、窒化珪素、およびリン珪酸ガラスの少なくともいずれかから作られている、請求項1〜請求項17のいずれか1項に記載の炭化珪素半導体装置。
【発明を実施するための形態】
【0015】
はじめに、実施の形態の概要について、以下の(i)〜(xiii)に記す。
(i) 炭化珪素半導体装置501〜503は、炭化珪素基板100と、ゲート絶縁膜200と、ゲート電極230とを有する。炭化珪素基板100は、第1の導電型を有する第1の半導体層121と、第1の半導体層121上に設けられ第2の導電型を有する第2の半導体層122と、第2の半導体層122上に設けられ第2の半導体層122によって第1の半導体層121と分離され第1の導電型を有する第3の半導体層123とを含む。炭化珪素基板100にはトレンチTRが設けられている。トレンチTRは、第1の半導体層121からなる底面BTと、第1〜第3の半導体層121〜123のそれぞれからなる第1〜第3の側面SW1〜SW3を有する側壁面SWとを含む。ゲート絶縁膜200はトレンチTR上に設けられている。ゲート絶縁膜200は、側壁面SWおよび底面BTの各々を直接覆う第1の絶縁膜201と、第1の絶縁膜201上に設けられた第2の絶縁膜202とを有する。第1の絶縁膜201は、底面BT上に位置する第1の底部201Bと、側壁面SW上に位置する第1の側壁部201Sとを有する。第1の側壁部201Sは、第1〜第3の側面SW1〜SW3のそれぞれの上に位置する第1〜第3の領域201a〜201cを有する。第2の絶縁膜202は、第1の底部201B上に位置する第2の底部202Bと、第1の側壁部201S上に位置する第2の側壁部202Sとを有する。第2の側壁部202Sは、第2の底部202Bにつながった一方端E1と、第1および第2の領域201a,201bのいずれかの上に位置し第3の領域201cから離れた他方端E2とを有する。ゲート電極230はゲート絶縁膜200を介してトレンチTR上に設けられている。
【0016】
この炭化珪素半導体装置501〜503によれば、第1の絶縁膜201とともにゲート絶縁膜200を構成する第2の絶縁膜202は、第1の絶縁膜201の第1の底部201B上だけでなく、第1の絶縁膜201の第1の側壁部201S上にも設けられる。これによりゲート絶縁膜200は、トレンチTRの底面BT上だけでなく、底面BT近傍で底面BTとともに角部CRを構成する側壁面SW上でも、より大きな厚さを有する。よって、トレンチの底面BT上でのみゲート絶縁膜200が厚くされる場合に比して、ゲート電極容量をより小さくすることができる。
【0017】
(ii) 上記(i)において、第2の側壁部202Sの他方端E2は、第1の領域201aおよび第2の領域201bの境界上に位置してもよい。
【0018】
これにより、第2の側壁部202Sは、チャネル面を構成する第2の領域201b上にかぶさらない範囲内で最大限、延ばされる。よってチャネル特性に影響をほとんど与えない範囲内で、ゲート電極容量を効果的に低減することができる。
【0019】
(iii) 上記(i)において、第2の側壁部202Sの他方端E2は、第2の領域201bから離れて第1の領域201a上に位置してもよい。
【0020】
これにより、第2の側壁部202Sは、チャネル面を構成する第2の領域201bに接近しない範囲内で延ばされる。よって、チャネル特性に影響を与えない範囲内で、ゲート電極容量を低減することができる。
【0021】
(iv) 上記(i)において、第2の側壁部202Sの他方端E2は、第3の領域201cから離れて第2の領域201b上に位置してもよい。
【0022】
これにより、第2の側壁部202Sが第1の領域201a上にのみ設けられる場合に比して、第2の側壁部202Sがより延ばされる。また、第2の側壁部202Sが、チャネル特性に与える影響の大きい、第2の領域201bと第3の領域201cの境界から離れて設けられる。よって、チャネル特性への影響を抑えつつ、ゲート電極容量をより効果的に低減することができる。
【0023】
(v) 上記(iv)において、第2の半導体層122は不純物濃度がピークとなる深さ位置DPを有し、第2の側壁部202Sの他方端E2は深さ位置DPよりも深くに位置してもよい。
【0024】
これにより、第2の側壁部202Sが第1の領域201a上にのみ設けられる場合に比して、第2の側壁部202Sがより延ばされる。また、第2の側壁部202Sが、チャネル特性に与える影響の大きい深さ位置DPから離れて設けられる。よって、チャネル特性への影響をより抑えつつ、ゲート電極容量をより効果的に低減することができる。
【0025】
(vi) 上記(i)〜(v)において、第2の側壁部202Sの他方端E2は、第1の側壁部201Sに対して70度未満の傾斜角度AGを有してもよい。
【0026】
これにより、他方端E2でのゲート絶縁膜200の厚さの変化が緩和される。
(vii) 上記(i)〜(vi)において、第1および第2の絶縁膜201,202のそれぞれは第1および第2の炭素原子濃度を有し、第2の炭素原子濃度は第1の炭素原子濃度よりも小さくてもよい。
【0027】
これにより、第2の絶縁膜202は低い炭素原子濃度によって、高い絶縁破壊耐性を有する。よって炭化珪素半導体装置501〜503は大きい耐圧を有する。
【0028】
(viii) 上記(vii)において、第1の炭素原子濃度は1×10
15cm
-3より大きく、第2の炭素原子濃度は1×10
15cm
-3より小さくてもよい。
【0029】
これにより、第2の絶縁膜202の炭素原子濃度が十分に低くされる。よって炭化珪素半導体装置501〜503の耐圧をより大きくすることができる。
【0030】
(ix) 上記(i)〜(xiii)において、第2の絶縁膜202は、酸化珪素、窒化珪素、およびリン珪酸ガラスの少なくともいずれかから作られていてもよい。
【0031】
これにより炭化珪素半導体装置501〜503の耐圧をより大きくすることができる。
(x) 上記(i)〜(ix)において、第2の絶縁膜202は、シリコンを含み炭素を含まない膜の熱酸化膜であってもよい。
【0032】
これにより炭化珪素半導体装置501〜503の耐圧をより大きくすることができる。
(xi) 炭化珪素半導体装置501〜503の製造方法は、以下の工程を有する。
【0033】
第1の導電型を有する第1の半導体層121と、第1の半導体層121上に設けられ第2の導電型を有する第2の半導体層122と、第2の半導体層122上に設けられ第2の半導体層122によって第1の半導体層121と分離され第1の導電型を有する第3の半導体層123とを含む炭化珪素基板100が準備される。
【0034】
炭化珪素基板100にトレンチTRが形成される。トレンチTRは、第1の半導体層121からなる底面BTと、第1〜第3の半導体層121〜123のそれぞれからなる第1〜第3の側面SW1〜SW3を有する側壁面SWとを含む。
【0035】
側壁面SWおよび底面BTの各々を直接覆う第1の絶縁膜201が形成される。第1の絶縁膜201は、底面BT上に位置する第1の底部201Bと、側壁面SW上に位置する第1の側壁部201Sとを有する。第1の側壁部201Sは、第1〜第3の側面SW1〜SW3のそれぞれの上に位置する第1〜第3の領域201a〜201cとを有する。
【0036】
第1の絶縁膜201上にシリコン膜302が形成される。シリコン膜302は、第1の底部201B上に位置する第2の底部302Bと、第1の側壁部201S上に位置する第2の側壁部302Sとを有する。第2の側壁部302Sは、第2の底部302Bにつながった一方端E1と、第1および第2の領域201a,201bのいずれかの上に位置し第3の領域201cから離れた他方端E2とを有する。
【0037】
シリコン膜302を酸化することによって第2の絶縁膜202が形成される。第1および第2の絶縁膜201,202はゲート絶縁膜200を構成する。
【0038】
ゲート絶縁膜200を介してトレンチTR上にゲート電極230が形成される。
上記の製造方法によれば、第1の絶縁膜201とともにゲート絶縁膜200を構成する第2の絶縁膜202は、第1の絶縁膜201の第1の底部201B上だけでなく、第1の絶縁膜201の第1の側壁部201S上にも設けられる。これによりゲート絶縁膜200は、トレンチの底面BT上だけでなく、底面BT近傍で底面BTとともに角部CRを構成する側壁面SW面上でも、より大きな厚さを有する。よって、トレンチの底面BT上でのみゲート絶縁膜200が厚くされる場合に比して、ゲート電極容量をより小さくすることができる。
【0039】
(xii) 上記(xi)において、シリコン膜302を酸化することによって第2の絶縁膜202を形成する工程は、800℃以上1150℃以下で行われてもよい。
【0040】
シリコン膜302を800℃以上で酸化することにより、シリコン膜302の表面荒れを抑制することができる。またシリコン膜を1150℃以下で酸化することにより、シリコン膜302が酸化されて形成された二酸化珪素からなる第2の絶縁膜202の蒸気圧が上昇することを抑制することができる。結果として、第2の絶縁膜202の形状を維持することができる。
【0041】
(xiii) 上記(xi)において、第2の絶縁膜202を形成する工程は、第1の側壁部201Sに対する、第2の側壁部202Sの他方端E2の角度AGが小さくなるように、第2の側壁部202Sを加熱する工程を含んでもよい。
【0042】
これにより、他方端E2でのゲート絶縁膜200の厚さの変化が緩和される。
(xiv) 上記(xiii)において、第2の側壁部202Sを加熱する工程は1300℃以上1400℃以下で行なわれてもよい。
【0043】
これにより、他方端E2の角度AGを、過度に高い温度を用いることなく、十分に小さくすることができる。
【0044】
次に、本願発明の実施の形態のより詳細な説明として、以下に実施の形態1〜3と、その補足事項とについて説明する。なお本明細書中の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。また結晶学上の指数が負であることは、通常、"−"(バー)を数字の上に付すことによって表現されるが、本明細書中では数字の前に負の符号を付している。
【0045】
(実施の形態1)
図1に示すように、本実施の形態の縦型MOSFET501(炭化珪素半導体装置)は、エピタキシャル基板100(炭化珪素基板)と、ゲート絶縁膜200と、ゲート電極230と、層間絶縁膜203と、ソース電極221と、ドレイン電極211と、ソース配線222と、保護電極212とを有する。
【0046】
エピタキシャル基板100は、炭化珪素から作られており、単結晶基板110およびその上に設けられたエピタキシャル層を有する。単結晶基板110はn型(第1の導電型)を有する。単結晶基板110の一方主面(
図1における上面)の面方位(hklm)は、好ましくは負のmを有し、より好ましくはおおよそ(000−1)面である。エピタキシャル層は、n
-層121(第1の半導体層)と、p型ボディ層122(第2の半導体層)と、n領域123(第3の半導体層)と、コンタクト領域124とを有する。エピタキシャル基板100の炭化珪素は、好ましくは六方晶の結晶構造を有し、より好ましくはポリタイプ4Hを有する。n
-層121は、ドナーが添加されていることでn型を有する。n
-層121へのドナーの添加は好ましくは、イオン注入によってではなく、n
-層121のエピタキシャル成長時の不純物添加によって行われていることが好ましい。n
-層121のドナー濃度は、単結晶基板110のドナー濃度よりも低いことが好ましい。n
-層121のドナー濃度は、好ましくは1×10
15cm
-3以上5×10
16cm
-3以下であり、たとえば8×10
15cm
-3である。p型ボディ層122は、n
-層121上に設けられており、アクセプタが添加されていることでp型(第2の導電型)を有する。p型ボディ層122のアクセプタ濃度は、たとえば1×10
18cm
-3である。n領域123はn型を有する。n領域123は、p型ボディ層122上に設けられており、p型ボディ層122によってn
-層121と分離されている。コンタクト領域124はp型を有する。コンタクト領域124は、p型ボディ層122につながるようにp型ボディ層122の一部の上に形成されている。
【0047】
さらに
図2および
図3を参照して、エピタキシャル基板100にはトレンチTRが設けられている。トレンチTRは、n領域123およびp型ボディ層122を貫通してn
-層121に至る側壁面SWと、n
-層121からなる底面BTとを有する。側壁面SWはp型ボディ層122上においてチャネル面CH(
図3)を含む。底面BTは、エピタキシャル基板100の主面とほぼ平行な平坦面である。エピタキシャル基板100がトレンチTRを有するということは、単結晶基板110の上面上においてエピタキシャル層が部分的に除去されていることに対応している。本実施の形態においては、単結晶基板110の上面上において多数のメサ構造が形成されている。具体的には、メサ構造は上面および底部が六角形状となっており、その側壁は単結晶基板110の上面に対して傾斜している。これによりトレンチTRは開口側に向かって拡がっている。好ましくは側壁面SWは、特にp型ボディ層122上において、所定の結晶面(特殊面とも称する)を有する。特殊面の詳細については後述する。
【0048】
さらに
図4を参照して、側壁面SWは、n
-層121、p型ボディ層122およびn領域123のそれぞれからなる第1〜第3の側面SW1〜SW3を有する。
【0049】
ゲート絶縁膜200はトレンチTR上に設けられている。ゲート絶縁膜200はトレンチTR内においてエピタキシャル基板100とゲート電極230とを隔てている。ゲート絶縁膜200は、側壁面SWおよび底面BTの各々を直接覆う第1の絶縁膜201と、第1の絶縁膜201上に設けられた第2の絶縁膜202とを有する。第1および第2の絶縁膜201,202のそれぞれは第1および第2の炭素原子濃度を有する。第2の炭素原子濃度は第1の炭素原子濃度よりも小さくてもよい。第1の炭素原子濃度は1×10
15cm
-3より大きくてもよい。第2の炭素原子濃度は、1×10
15cm
-3より小さくてもよく、実質的に濃度がゼロであってもよい。
【0050】
第1の絶縁膜201は、底面BT上に位置する第1の底部201Bと、側壁面SW上に位置する第1の側壁部201Sとを有する。第1の側壁部201Sは、第1〜第3の側面SW1〜SW3のそれぞれの上に位置する第1〜第3の領域201a〜201cを有する。第1の絶縁膜201は、酸化膜であることが好ましく、エピタキシャル基板100のトレンチTRの表面を熱酸化することによって得られたものあることがより好ましい。
【0051】
さらに
図5を参照して、第2の絶縁膜202は、第1の絶縁膜201を介して、底面BTと側壁面SWとがなす角部CR(
図1)上に位置する部分を有する。具体的には、第2の絶縁膜202は、第1の底部201B上に位置する第2の底部202Bと、第1の側壁部201S上に位置する第2の側壁部202Sとを有する。第2の側壁部202Sは、第2の底部202Bにつながった一方端E1と、第1および第2の領域201a,201b(
図4)のいずれかの上に位置し第3の領域から離れた他方端E2とを有する。本実施の形態においては、他方端E2は、第3の領域201cから離れて第2の領域201b上に位置している。他方端E2は、第1の側壁部201Sに対して傾斜角度AG(
図5)を有する。傾斜角度AGは、他方端E2の表面の先端部分と、第1の側壁部201Sの表面のうち他方端E2が接する部分とがなす角度のことである。傾斜角度AGは70度未満であることが好ましい。第2の半導体層122は不純物濃度がピークとなる深さ位置DP(
図5)を有してもよく、この場合、他方端E2は深さ位置DPよりも深くに位置することが好ましい。第2の絶縁膜202は、酸化珪素、窒化珪素、およびリン珪酸ガラスの少なくともいずれかから作られていてもよい。第2の絶縁膜202は、シリコンを含み炭素を含まない膜の熱酸化膜であってもよく、たとえばSiO
2から作られている。
【0052】
ゲート絶縁膜200は、トレンチTRの底面BT上において第1および第2の絶縁膜201,202を有する部分を含み、この部分は厚さd
0を有する。またゲート絶縁膜200は、トレンチTRの側壁面SW上において第1の絶縁膜201を有しかつ第2の絶縁膜202を有しない部分、すなわち第1の絶縁膜201のみからなる部分を有し、この部分は厚さd
1を有する。またゲート絶縁膜200は、トレンチTRの側壁面SWの第1の側面SW1上において第1および第2の絶縁膜201,202を有する部分を含み、この部分は厚さd
2を有する。好ましくはd
2>d
1×1.5が満たされる。好ましくはd
2<d
1×5が満たされる。好ましくはd
0>d
1が満たされる。好ましくはd
0≧d
2が満たされる。
【0053】
ゲート電極230はトレンチTR内に設けられている。具体的にはゲート電極230はゲート絶縁膜200を介してトレンチTR上に設けられている。ゲート電極230は第1の絶縁膜201の第2の領域201bに接している。ゲート電極230の上面は、ゲート絶縁膜200のうちn領域123の上面上に位置する部分の上面とほぼ同じ高さになっている。層間絶縁膜203は、ゲート絶縁膜200のうちn領域123の上面上にまで延在する部分とゲート電極230とを覆うように設けられている。
【0054】
ソース電極221は、層間絶縁膜203を貫通してn領域123およびコンタクト領域124の各々に接している。ソース配線222はソース電極221に接するようにソース電極221および層間絶縁膜203上に設けられている。ドレイン電極211は、エピタキシャル基板100の、トレンチTRが設けられた面と反対の面の上に設けられている。保護電極212はドレイン電極211を被覆している。
【0055】
次にMOSFET501(
図1)の製造方法について説明する。
図6に示すように、単結晶基板110上にn
-層121がエピタキシャル成長により形成される。このエピタキシャル成長は、たとえば原料ガスとしてシラン(SiH
4)とプロパン(C
3H
8)との混合ガスを用い、キャリアガスとしてたとえば水素ガス(H
2)を用いたCVD(Chemical Vapor Deposition)法により行うことができる。また、このときドナーとしてたとえば窒素(N)やリン(P)を導入することが好ましい。次に、n
-層121上のp型ボディ層122と、p型ボディ層122上のn領域123とが形成される。具体的には、n
-層121の上面にイオン注入が行われる。p型ボディ層122を形成するためのイオン注入においては、たとえばアルミニウム(Al)などのアクセプタがイオン注入される。またn領域123を形成するためのイオン注入においては、たとえばリン(P)などのドナーがイオン注入される。これにより、n
-層121と、p型ボディ層122と、n領域123とを有するエピタキシャル基板100が形成される。なおイオン注入に代わり、不純物の添加をともなうにエピタキシャル成長が用いられてもよい。次に、イオン注入によってコンタクト領域124が形成される。次に、イオン注入により添加された不純物を活性化するための活性化熱処理が行われる。この熱処理の温度は、好ましくは1500℃以上1900℃以下であり、たとえば1700℃程度である。熱処理の時間は、たとえば30分程度である。熱処理の雰囲気は、好ましくは不活性ガス雰囲気であり、たとえばAr雰囲気である。以上のように炭化珪素基板100が準備される。
【0056】
図7に示すように、エピタキシャル基板100上に、n領域123を部分的に露出する開口部を有するマスク401が形成される。開口部はトレンチTR(
図1)の位置に対応して形成される。マスク401としては、たとえば、熱酸化によって形成されたシリコン酸化膜を用いることができる。
【0057】
図8に示すように、マスク401の開口部において、n領域123と、p型ボディ層122と、n
-層121の一部とがエッチングにより除去される。エッチングの方法としては、たとえば反応性イオンエッチング(RIE)、特に誘導結合プラズマ(ICP)RIEを用いることができる。具体的には、たとえば反応ガスとしてSF
6またはSF
6とO
2との混合ガスを用いたICP−RIEを用いることができる。このようなエッチングにより、トレンチTR(
図1)が形成されるべき領域に、側壁が単結晶基板110の主表面に対してほぼ垂直な内面SVを有する凹部TQを形成することができる。
【0058】
次に、マスク401を用いてエピタキシャル基板100がエッチングされる。具体的には、エピタキシャル基板100に対して、凹部TQの内面SVにおいて熱エッチングが行われる。熱エッチングは、たとえば、少なくとも1種類以上のハロゲン原子を有する反応性ガスを含む雰囲気中で、エピタキシャル基板100を加熱することによって行い得る。少なくとも1種類以上のハロゲン原子は、塩素(Cl)原子およびフッ素(F)原子の少なくともいずれかを含む。この雰囲気は、たとえば、Cl
2、BCL
3、SF
6、またはCF
4である。たとえば、塩素ガスと酸素ガスとの混合ガスを反応ガスとして用い、熱処理温度を、たとえば700℃以上1000℃以下として、熱エッチングが行われる。なお、反応ガスは、塩素ガスと酸素ガスとに加えてキャリアガスを含んでいてもよい。キャリアガスとしては、たとえば窒素(N
2)ガス、アルゴンガス、ヘリウムガスなどを用いることができる。そして、上述のように熱処理温度を700℃以上1000℃以下とした場合、SiCのエッチング速度はたとえば約70μm/時になる。また、この場合に、酸化珪素から作られたマスク401は、SiCに対する選択比が極めて大きいので、SiCのエッチング中に実質的にエッチングされない。
【0059】
図9に示すように、上記の熱エッチングにより炭化珪素基板100にトレンチTRが形成される。トレンチTRの形成の際、エピタキシャル基板100は、矢印SEで示すようにマスク401の開口部からサイドエッチングされるようにエッチングされる。またこの熱エッチングの際、トレンチTRの側壁面SW上、特にそのp型ボディ層122からなる部分の上に、特殊面が自己形成される。
【0060】
図10に示すように、側壁面SWおよび底面BTの各々を直接覆う第1の絶縁膜201が形成される。言い換えれば、第1の絶縁膜201は、底面BT上に直接位置する部分と、側壁面SW上に直接位置する部分とを有する。第1の絶縁膜201の形成は、トレンチTRの底面BTおよび側壁面SWの熱酸化によって行ない得る。
【0061】
図11に示すように、第1の絶縁膜201上にシリコン膜302が形成される。シリコン膜302の形成は、たとえば化学気相成長(CVD)法により行ない得る。
【0062】
図12に示すように、第1の絶縁膜201およびシリコン膜302を介してトレンチTRを埋めるように、シリコン膜302上にレジスト層402が形成される。レジスト層402の形成はレジスト液の塗布によって行ない得る。次にレジスト層402およびシリコン膜302の一部がエッチングされる。このエッチングは、エッチングマスクを用いることなく行なわれ得る。すなわち、いわゆるエッチバックによって行なわれ得る。
【0063】
図13に示すように、上記のエッチングにより、トレンチTRの一部のみを埋めるように底面BT上にレジスト層402およびシリコン膜302が残存する。シリコン膜302は、第1の底部201B上に位置する第2の底部302Bと、第1の側壁部201S上に位置する第2の側壁部302Sとを有する。第2の側壁部302Sは、第2の底部302Bにつながった一方端E1と、第2の領域201b上に位置し第3の領域201cから離れた他方端E2とを有する。次にレジスト層402が除去される(
図14)。次に、第1の絶縁膜201のうちシリコン膜302によって覆われておらず露出した部分がエッチングにより除去される(
図15)。
【0064】
次に、第1の絶縁膜201およびシリコン膜302が設けられたトレンチTRが熱酸化される。これにより、シリコン膜302と、トレンチTRの側壁面SWのうち露出された部分とが熱酸化される。シリコン膜302は、たとえば800℃以上1150℃以下で熱酸化される。この熱酸化によりシリコン膜302から第2の絶縁膜202が形成される(
図16)。第1および第2の絶縁膜201,202はゲート絶縁膜200を構成する。
【0065】
好ましくは、シリコン膜302は、たとえば950℃以上1100℃以下で熱酸化される。シリコン膜302を950℃より低い温度で酸化した場合、シリコン膜302が酸化されて形成された二酸化珪素膜の粘性流動による応力緩和が働かないため、粒界付近のシリコンが表面側に移動し、シリコン膜302の表面で結晶粒が成長して突起を生成すると考えられる。そこで、シリコン膜302を950℃以上で酸化することにより、上記突起の生成を抑制することができるので、第2の絶縁膜202の表面荒れを効果的に抑制することができる。一方、シリコン膜302を1100℃より高い温度で酸化すると、二酸化珪素からなる第1の絶縁膜201とシリコン膜302とが化学反応を起こし酸化珪素を形成するため第2の絶縁膜202の形状を維持することが困難となる。そこで、シリコン膜302を1100℃以下で酸化することにより、酸化珪素の蒸気圧の上昇を抑制することで、第2の絶縁膜202の形状を効果的に維持することができる。
【0066】
図17に示すように、第2の絶縁膜202を形成する際に、第2の側壁部202Sが十分な温度で加熱されることで、角度AG(
図5)が小さくされる。この加熱の温度は、1300℃以上1400℃以下が好ましい。この加熱を酸化雰囲気中で行なうことで、第1の絶縁膜201の膜厚をより厚くし得る。
【0067】
図18に示すように、トレンチTR上にゲート絶縁膜200を介してゲート電極230が形成される。ゲート電極230の形成方法は、たとえば、導体またはドープトポリシリコンの成膜とCMP(Chemical Mechanical Polishing)とによって行い得る。
【0068】
再び
図1を参照して、ゲート電極230の露出面を覆うようにゲート電極230およびゲート絶縁膜200上に層間絶縁膜203が形成される。層間絶縁膜203およびゲート絶縁膜200に開口部が形成されるようにエッチングが行われる。この開口部により、メサ構造の上面においてn領域123およびコンタクト領域124の各々が露出される。次に、メサ構造の上面においてn領域123およびコンタクト領域124の各々に接するソース電極221が形成される。ソース配線222、ドレイン電極211および保護電極212が形成される。これにより、MOSFET501が得られる。
【0069】
本実施の形態によれば、
図5に示すように、第1の絶縁膜201とともにゲート絶縁膜200を構成する第2の絶縁膜202は、第1の絶縁膜201の第1の底部201B上だけでなく、第1の絶縁膜201の第1の側壁部201S上にも設けられる。これによりゲート絶縁膜200は、トレンチTRの底面BT上だけでなく、底面BT近傍で底面BTとともに角部CRを構成する側壁面SW上でも、より大きな厚さを有する。よって、トレンチの底面BT上でのみゲート絶縁膜200が厚くされる場合に比して、ゲート電極容量をより小さくすることができる。
【0070】
またMOSFET501に接続されている負荷が短絡した際に、チャネル面CHに大電流が流れることでゲート絶縁膜200の温度が上昇する。この結果、ゲート絶縁膜200の絶縁性が低下することで、リーク電流が流れる。このリーク電流は、チャネル電流が集中し、かつゲート絶縁膜200に対して比較的高い電圧が印加される箇所である、第1および第2の領域201a,201b(
図4)の境界近傍において特に問題となる。本実施の形態によれば、このようなリーク電流が最も流れやすい箇所に、第2の絶縁膜202の第2の側壁部202Sが設けられている。これによりリーク電流を抑制することができる。チャネル面CH(
図3)が特殊面の場合、チャネル面CHの高い移動度に起因して上記の温度上昇が顕著となるので、リーク電流を抑制することは特に重要である。
【0071】
また上記境界近傍では、p型ボディ層122の不純物濃度が、深さ位置DP(
図5)に比して低くされることが多い。この場合に、ドレイン電圧が大きいと短チャンネル効果が起きやすくなる。本実施の形態によれば、このような短チャンネル効果の影響を軽減することができる。またそれにより短絡耐量を改善することができる。
【0072】
d
2>d
1×1.5が満たされるようにd
2が大きくされる場合、上述した効果をより十分に得られる。また過度にd
2が大きくされると、角部CR(
図1)近傍での電流の拡がりが阻害されることでオン抵抗が大きくなってしまうので、d
2<d
1×5が満たされることが好ましい。
【0073】
また
図4に示すように、第2の側壁部202Sの他方端E2は、第3の領域201cから離れて第2の領域201b上に位置している。これにより、第2の側壁部202Sが第1の領域201a上にのみ設けられる場合に比して、第2の側壁部202Sがより延ばされる。また、第2の側壁部202Sが、チャネル特性に与える影響の大きい、第2の領域201bと第3の領域201cの境界から離れて設けられる。よって、チャネル特性への影響を抑えつつ、ゲート電極容量をより効果的に低減することができる。
【0074】
また第2の半導体層122は不純物濃度がピークとなる深さ位置DP(
図5)を有し、第2の側壁部202Sの他方端E2は深さ位置DPよりも深くに位置することが好ましい。これにより、第2の側壁部202Sが第1の領域201a上にのみ設けられる場合に比して、第2の側壁部202Sがより延ばされる。また、第2の側壁部202Sが、チャネル特性に与える影響の大きい深さ位置DPから離れて設けられる。よって、チャネル特性への影響をより抑えつつ、ゲート電極容量をより効果的に低減することができる。
【0075】
第2の側壁部202Sの他方端E2は、第1の側壁部201Sに対して70度未満の傾斜角度AGを有することが好ましい。これにより、他方端E2でのゲート絶縁膜200の厚さの変化が緩和される。
【0076】
第1および第2の絶縁膜201,202のそれぞれは第1および第2の炭素原子濃度を有し、第2の炭素原子濃度は第1の炭素原子濃度よりも小さいことが好ましい。これにより、第2の絶縁膜202は低い炭素原子濃度によって、高い絶縁破壊耐性を有する。よって炭化珪素半導体装置501は大きい耐圧を有する。なお、第1の絶縁膜201は、炭化珪素からなるトレンチTRの底面BTおよび側壁面SWを熱酸化することにより形成されるため、炭化珪素に由来する炭素を多く含む。一方、第2の絶縁膜202は、シリコン膜302を酸化することにより形成される。そのため、第2の絶縁膜202の炭素原子濃度は、第1の絶縁膜201の炭素原子濃度よりも小さくなる。
【0077】
第1の炭素原子濃度は1×10
15cm
-3より大きく、第2の炭素原子濃度は1×10
15cm
-3より小さいことが好ましい。これにより、第2の絶縁膜202の炭素原子濃度が十分に低くされる。よって炭化珪素半導体装置501の耐圧をより大きくすることができる。
【0078】
第2の絶縁膜202は、酸化珪素、窒化珪素、およびリン珪酸ガラスの少なくともいずれかから作られていることが好ましい。これにより炭化珪素半導体装置501の耐圧をより大きくすることができる。
【0079】
第2の絶縁膜202は、シリコンを含み炭素を含まない膜の熱酸化膜であることが好ましい。これにより炭化珪素半導体装置501の耐圧をより大きくすることができる。
【0080】
シリコン膜302を酸化することによって第2の絶縁膜202を形成する工程は、800℃以上1150℃以下で行われることが好ましい。シリコン膜302を800℃以上で酸化することにより、シリコン膜302の表面荒れを抑制することができる。またシリコン膜を1150℃以下で酸化することにより、シリコン膜302が酸化されて形成された酸化珪素からなる第2の絶縁膜202の蒸気圧が上昇することを抑制することができる。結果として、第2の絶縁膜202の形状を維持することができる。
【0081】
第2の絶縁膜202を形成する工程は、第1の側壁部201Sに対する、第2の側壁部202Sの他方端E2の角度AGが小さくなるように、第2の側壁部202Sを加熱する工程を含むことが好ましい。これにより、他方端E2でのゲート絶縁膜200の厚さの変化が緩和される。この工程は1300℃以上1400℃以下で行なわれることが好ましい。これにより、他方端E2の角度AGを、過度に高い温度を用いることなく、十分に小さくすることができる。
【0082】
なお本実施の形態においては第2の絶縁膜202の形成方法として、シリコン膜の熱酸化を用いる方法について説明したが、第2の絶縁膜202は堆積法によって形成されてもよく、たとえばCVD法によって直接形成されてもよい。また「第1の導電型」がn型であり「第2の導電型」がp型であるが、これらの導電型が入れ替えられもよい。この場合、上記説明におけるドナーおよびアクセプタも入れ替えられる。なお、より高いチャネル移動度を得るためには、「第1の導電型」がn型であることが好ましい。また炭化珪素半導体装置は、MOSFETに限定されるものではなく、たとえばトレンチ型IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)であってもよい。
【0083】
(実施の形態2)
図19に示すように、本実施の形態のMOSFET502(炭化珪素半導体装置)においては、第2の絶縁膜202の第2の側壁部202Sの他方端E2は、第1の領域201aおよび第2の領域201bの境界上に位置している。ここでの「境界上に位置し」とは、ゲート電極容量およびチャネル特性の各々が実質的に同程度に保持される範囲内で、誤差を許容するものである。具体的には±0.1μm程度の誤差は許容される。このような第2の側壁部202Sを得るためには、たとえば、実施の形態1におけるエッチバック工程(
図13)をより進行させ、シリコン膜302の第2の側壁部302Sの他方端E2を、上記境界の近傍に合わせればよい。なお上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0084】
本実施の形態によれば、第2の側壁部202Sは、チャネル面を構成する第2の領域201b上にかぶさらない範囲内で最大限、延ばされる。よってチャネル特性に影響をほとんど与えない範囲内で、ゲート電極容量を効果的に低減することができる。
【0085】
(実施の形態3)
図20に示すように、本実施の形態のMOSFET503(炭化珪素半導体装置)においては、第2の絶縁膜202の第2の側壁部202Sの他方端E2は、第2の領域201bから離れて第1の領域201a上に位置している。好ましくは、他方端E2は第2の領域201bから0.1μmよりも大きく離される。このような第2の側壁部202Sを得るためには、たとえば、実施の形態1におけるエッチバック工程(
図13)をより進行させ、シリコン膜302の第2の側壁部302Sの他方端E2を、第2の領域201bから離して第1の領域201a上に位置させればよい。なお上記以外の構成については、上述した実施の形態1の構成とほぼ同じであるため、同一または対応する要素について同一の符号を付し、その説明を繰り返さない。
【0086】
本実施の形態によれば、第2の側壁部202Sは、チャネル面を構成する第2の領域201bに接近しない範囲内で延ばされる。よって、チャネル特性に影響を与えない範囲内で、ゲート電極容量を低減することができる。
【0087】
(特殊面を有する表面)
上述したように、トレンチTRの側壁面SW(
図1)は好ましくは、特にp型ボディ層122上において、所定の結晶面(特殊面とも称する)を有する。このような側壁面SWは、
図21に示すように、面方位{0−33−8}を有する面S1(第1の面)を含む。面S1は好ましくは面方位(0−33−8)を有する。
【0088】
より好ましくは、側壁面SWは面S1を微視的に含み、側壁面SWはさらに、面方位{0−11−1}を有する面S2(第2の面)を微視的に含む。ここで「微視的」とは、原子間隔の2倍程度の寸法を少なくとも考慮する程度に詳細に、ということを意味する。このように微視的な構造の観察方法としては、たとえばTEM(Transmission Electron Microscope)を用いることができる。面S2は好ましくは面方位(0−11−1)を有する。
【0089】
好ましくは、側壁面SWの面S1および面S2は、面方位{0−11−2}を有する複合面SRを構成している。すなわち複合面SRは、面S1およびS2が周期的に繰り返されることによって構成されている。このような周期的構造は、たとえば、TEMまたはAFM(Atomic Force Microscopy)により観察し得る。この場合、複合面SRは{000−1}面に対して巨視的に62°のオフ角を有する。ここで「巨視的」とは、原子間隔程度の寸法を有する微細構造を無視することを意味する。このように巨視的なオフ角の測定としては、たとえば、一般的なX線回折を用いた方法を用い得る。好ましくは複合面SRは面方位(0−11−2)を有する。この場合、複合面SRは(000−1)面に対して巨視的に62°のオフ角を有する。
【0090】
好ましくは、チャネル面上においてキャリアが流れる方向であるチャネル方向CDは、上述した周期的繰り返しが行われる方向に沿っている。
【0091】
次に、複合面SRの詳細な構造について説明する。
一般に、ポリタイプ4Hの炭化珪素単結晶を(000−1)面から見ると、
図22に示すように、Si原子(またはC原子)は、A層の原子(図中の実線)と、この下に位置するB層の原子(図中の破線)と、この下に位置するC層の原子(図中の一点鎖線)と、この下に位置するB層の原子(図示せず)とが繰り返し設けられている。つまり4つの層ABCBを1周期としてABCBABCBABCB・・・のような周期的な積層構造が設けられている。
【0092】
図23に示すように、(11−20)面(
図22の線XXIII−XXIIIの断面)において、上述した1周期を構成する4つの層ABCBの各層の原子は、(0−11−2)面に完全に沿うようには配列されていない。
図23においてはB層の原子の位置を通るように(0−11−2)面が示されており、この場合、A層およびC層の各々の原子は(0−11−2)面からずれていることがわかる。このため、炭化珪素単結晶の表面の巨視的な面方位、すなわち原子レベルの構造を無視した場合の面方位が(0−11−2)に限定されたとしても、この表面は、微視的には様々な構造をとり得る。
【0093】
図24に示すように、複合面SRは、面方位(0−33−8)を有する面S1と、面S1につながりかつ面S1の面方位と異なる面方位を有する面S2とが交互に設けられることによって構成されている。面S1および面S2の各々の長さは、Si原子(またはC原子)の原子間隔の2倍である。なお面S1および面S2が平均化された面は、(0−11−2)面(
図23)に対応する。
【0094】
図25に示すように、複合面SRを(01−10)面から見て単結晶構造は、部分的に見て立方晶と等価な構造(面S1の部分)を周期的に含んでいる。具体的には複合面SRは、上述した立方晶と等価な構造における面方位(001)を有する面S1と、面S1につながりかつ面S1の面方位と異なる面方位を有する面S2とが交互に設けられることによって構成されている。このように、立方晶と等価な構造における面方位(001)を有する面(
図25においては面S1)と、この面につながりかつこの面方位と異なる面方位を有する面(
図25においては面S2)とによって表面を構成することは4H以外のポリタイプにおいても可能である。ポリタイプは、たとえば6Hまたは15Rであってもよい。
【0095】
次に
図26を参照して、側壁面SWの結晶面と、チャネル面の移動度MBとの関係について説明する。
図26のグラフにおいて、横軸は、チャネル面を有する側壁面SWの巨視的な面方位と(000−1)面とのなす角度D1を示し、縦軸は移動度MBを示す。プロット群CMは側壁面SWが熱エッチングによる特殊面として仕上げられた場合に対応し、プロット群MCはそのような熱エッチングがなされない場合に対応する。
【0096】
プロット群MCにおける移動度MBは、チャネル面の表面の巨視的な面方位が(0−33−8)のときに最大となった。この理由は、熱エッチングが行われない場合、すなわち、チャネル表面の微視的な構造が特に制御されない場合においては、巨視的な面方位が(0−33−8)とされることによって、微視的な面方位(0−33−8)、つまり原子レベルまで考慮した場合の面方位(0−33−8)が形成される割合が確率的に高くなったためと考えられる。
【0097】
一方、プロット群CMにおける移動度MBは、チャネル面の表面の巨視的な面方位が(0−11−2)のとき(矢印EX)に最大となった。この理由は、
図24および
図25に示すように、面方位(0−33−8)を有する多数の面S1が面S2を介して規則正しく稠密に配置されることで、チャネル面の表面において微視的な面方位(0−33−8)が占める割合が高くなったためと考えられる。
【0098】
なお移動度MBは複合面SR上において方位依存性を有する。
図27に示すグラフにおいて、横軸はチャネル方向と<0−11−2>方向との間の角度D2を示し、縦軸はチャネル面の移動度MB(任意単位)を示す。破線はグラフを見やすくするために補助的に付してある。このグラフから、チャネル移動度MBを大きくするには、チャネル方向CD(
図21)が有する角度D2は、0°以上60°以下であることが好ましく、ほぼ0°であることがより好ましいことがわかった。
【0099】
図28に示すように、側壁面SWは複合面SRに加えてさらに面S3(第3の面)を含んでもよい。より具体的には、面S3および複合面SRが周期的に繰り返されることによって構成された複合面SQを側壁面SWが含んでもよい。この場合、側壁面SWの{000−1}面に対するオフ角は、理想的な複合面SRのオフ角である62°からずれる。このずれは小さいことが好ましく、±10°の範囲内であることが好ましい。このような角度範囲に含まれる表面としては、たとえば、巨視的な面方位が{0−33−8}面となる表面がある。より好ましくは、側壁面SWの(000−1)面に対するオフ角は、理想的な複合面SRのオフ角である62°からずれる。このずれは小さいことが好ましく、±10°の範囲内であることが好ましい。このような角度範囲に含まれる表面としては、たとえば、巨視的な面方位が(0−33−8)面となる表面がある。
【0100】
このような周期的構造は、たとえば、TEMまたはAFMにより観察し得る。
【実施例】
【0101】
まず、実施例および比較例に係るMOSFETを準備した。実施例に係るMOSFETとして、上記
図20に記載の構造を有するMOSFETを準備した。具体的には、実施例に係るMOSFETのゲート絶縁膜200は、第1の絶縁膜201と、第1の絶縁膜201の一部上に設けられた第2の絶縁膜202とを含んでいる。言い換えれば、実施例に係るMOSFETは、トレンチTRの側壁面SWに対向するゲート絶縁膜200を厚膜化した構造を有している。第2の絶縁膜202の第2の側壁部202Sの他方端E2は、第2の領域201bから離れて第1の領域201a上に位置している。トレンチTRの底面BTの法線方向に沿った第1の絶縁膜201の底部から第2の絶縁膜202の第2の側壁部202Sの他方端E2までの距離は0.67μmであった。第2の絶縁膜202の厚みは200nmであった。第2の絶縁膜202の他方端E2の角度AG(
図5参照)は、チャネル部分で67°であり、斜面平均で62°程度であった。実施例に係るMOSFETは、第1の絶縁膜301およびシリコン膜302を1100℃で95分間酸化した後、1350℃で3分間酸化することにより、第1の絶縁膜201および第2の絶縁膜202からなるゲート絶縁膜200を形成した。その後、第1の絶縁膜201および第2の絶縁膜202を含むゲート絶縁膜200が形成された炭化珪素基板100をNO雰囲気中1350℃の温度で28分間熱処理した。その後、第1の絶縁膜201および第2の絶縁膜202を含むゲート絶縁膜200が形成された炭化珪素基板100をAr雰囲気中1350℃の温度で40分間熱処理した。
【0102】
比較例に係るMOSFETのゲート絶縁膜200は、第1の絶縁膜201のみから形成されており、第2の絶縁膜202を有していない。言い換えれば、比較例に係るMOSFETは、トレンチTRの側壁面SWに対向するゲート絶縁膜200を厚膜化していない構造を有している。比較例に係るMOSFETは、炭化珪素基板100を1100℃で95分間酸化した後、1350℃で6分間酸化することによりゲート絶縁膜200を形成した。その後、ゲート絶縁膜200が形成された炭化珪素基板100をNO雰囲気中1350℃の温度で7分間熱処理した。その後、ゲート絶縁膜200が形成された炭化珪素基板100をAr雰囲気中1350℃の温度で10分間熱処理した。
【0103】
図29を参照して、ゲート電極230およびドレイン電極211間の静電容量C
gdと、ドレイン電極211およびソース電極221間の電圧V
DSとの関係について説明する。
図29において、実施例に係るMOSFETの静電容量を実線101で示し、比較例に係るMOSFETの静電容量を破線102で示している。
【0104】
図29を参照して、ドレイン電極211およびソース電極221間の電圧V
DSが0V以上600V以下の全範囲において、実施例に係るMOSFETの静電容量C
gdは、比較例に係るMOSFETの静電容量C
gdよりも小さくなった。ドレイン電極211およびソース電極221間の電圧V
DSが600Vにおける実施例に係るMOSFETの静電容量C
gdは32pFであり、比較例に係るMOSFETの静電容量C
gdは27pFであった。以上のように、トレンチTRの側壁面SWに対向するゲート絶縁膜200を厚膜化(言い換えれば、第1の絶縁膜201上に第2の絶縁膜202を形成)することによって、ゲート電極230およびドレイン電極211間の静電容量C
gdを効果的に低減可能であることが確認された。
【0105】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。