(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記飛散防止シールリップが、前記外側シールリングに設けられた外側シールリップと、前記外側シールリングのうちの前記外側シールリップよりも径方向に関して内側に設けられた内側シールリップとを備え、
前記外側シールリップの先端部、及び前記内側シールリップの先端部が、前記回転側フランジの軸方向内側面のうち、前記稜部よりも径方向に関して外側に位置する部分に近接対向している請求項2に記載した車両用の車輪軸受ユニット。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図13に示す従来構造の場合、回転側フランジ9が、径方向内側に設けられた厚肉部(第1部分)19と、厚肉部19よりも径方向外方に設けられた薄肉部(第2部分)20と、厚肉部19と薄肉部20とを径方向に連続的に接続する連続部21とから構成される。厚肉部19の軸方向内側面の径方向外端縁と、連続部21の軸方向内側面の径方向内端縁とを連続的に接続する部分には、微分不可能な稜部(角部)22が存在している。微分不可能な部分とは、第一曲線と第二曲線との接続部分であって、接続部分の第一曲線側の微分係数と、接続部分の第二曲線側の微分係数とが不連続である(互いに異なる)部分をいう。
以下の実施形態は、この様な稜部22が存在していると、内部空間16の軸方向外端開口部からグリースが漏洩した場合に、このグリースが、遠心力により厚肉部19の軸方向内側面に沿う様に移動して、稜部22で厚肉部19の軸方向内側面から離れる(振り切られる)様にして飛散する可能性がある、という新たな知見に基づく。
【0013】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態について、
図1、2により説明する。第1実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1a(車両用の車輪軸受ユニット)は、駆動輪用であり、熱間鍛造により成形された外輪2aと、外輪2aの径方向内側に配置されたハブ3aと、ハブ3aを外輪2aに回転自在に支持する為の複数の転動体4aとを備える。各転動体4aは、外輪2aの内周面に形成された複列の外輪軌道6a、6b(外輪軌道6bは、
図13参照)と、ハブ3aの外周面に形成された複列の内輪軌道10a、10b(内輪軌道10bは、
図13参照)との間に、各列毎に保持器23に保持された状態で転動自在に配置されている。尚、第1実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1aの場合には、各転動体4aとして玉を使用しているが、重量の嵩む車両用の車輪支持用転がり軸受ユニットの場合には、転動体として円すいころを使用する場合もある。又、第1実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1aは、ハブが中実の従動輪用の車輪支持用転がり軸受ユニットにも適用可能である。以上の様な車輪支持用転がり軸受ユニット1aの基本的な構造は、
図13に示した従来構造とほぼ同様である。以下、本発明の特徴部分について説明する。
【0014】
第1実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1aは、ハブ3aを構成するハブ本体7aの外周面の一部で、外輪2aの外端開口から突出した部分に回転側フランジ9aが形成されている。第1実施形態の場合、回転側フランジ9aは、基端寄り部分から基端部まで設けられた厚肉部(第1部分)19aと、厚肉部19aよりも径方向外方に設けられた薄肉部(第2部分)20aと、厚肉部19aとこの薄肉部20aとを径方向に連続的に接続する連続部21aとから構成される。
厚肉部19aは、軸方向外側面が、径方向の全長にわたり、軸方向に関する位置が変わらない平坦面状に形成されている。厚肉部19aの軸方向内側面は、径方向内側に向かうほど軸方向内側に曲線的に傾斜した凹曲面状に形成されている。従って、この様な厚肉部19aの軸方向に関する厚さ寸法W
19aは、径方向内側に向かうほど大きくなる様に変化している。尚、第1実施形態の場合、上述の様な厚肉部19aの形状(断面形状)は、回転側フランジ9aの全周にわたり同形状である。
【0015】
薄肉部20aは、円周方向複数箇所に、その箇所を軸方向に貫通する通孔24が設けられている。各通孔24の内側にそれぞれスタッド25を圧入固定する事により、回転側フランジ9aに、ディスクブレーキを構成するロータ(図示省略)や、車輪を構成するホイール(図示省略)を支持固定できる様にしている。薄肉部20aの軸方向外側面は、径方向外端部に形成された面取り部を除いて、径方向の全長及び円周方向の全周にわたり軸方向に関する位置が変わらない平坦面状に形成されている。尚、薄肉部20aの軸方向外側面と、厚肉部19aの軸方向外側面と、後述する連続部21aの軸方向外側面とは、同一平面上に位置している。又、第1実施形態の場合、薄肉部20aの軸方向内側面は、径方向外端部に形成された面取り部を除いて、径方向の全長及び円周方向の全周にわたり軸方向に関する位置が変わらない平坦面状に形成されている。従って、この様な薄肉部20aの軸方向に関する厚さ寸法W
20aは、径方向外端部を除いて、径方向の全長及び円周方向の全周にわたり一定である。薄肉部20aの軸方向内側面は、厚肉部19aの軸方向内側面よりも軸方向外側に位置している。尚、上述の様に、第1実施形態の場合、薄肉部20aの軸方向に関する厚さ寸法W
20aを、薄肉部20aの円周方向に関する全周にわたり一定に形成している。但し、第1実施形態は、薄肉部20aの軸方向に関する厚さ寸法W
20aを、
図1に示す様なスタッド25が圧入固定される(通孔24が形成された)部分の周囲部分と、円周方向に関して各周囲部分同士の間部分(図示省略)とで異ならせた構造に適用する事もできる。具体的には、各周囲部分の軸方向に関する厚さ寸法W
20aを、円周方向に関してこれら各周囲部分同士の間部分の軸方向に関する厚さ寸法よりも大きくする事により、回転側フランジ9aの軽量化を図った構造(所謂スキャロップフランジ)に適用する事もできる。
【0016】
連続部21aは、厚肉部19aと薄肉部20aとを径方向に連続させている。この様な連続部21aの軸方向外側面は、径方向の全長にわたり軸方向に関する位置が変わらない平坦面状に形成されている。一方、連続部21aの軸方向内側面は、径方向内側に向かうほど軸方向内側に曲線的に傾斜した凹曲面状に形成されている。この様な連続部21aの軸方向内側面は、その径方向外端縁が、薄肉部20aの軸方向内側面の径方向内端縁に滑らかに連続している。一方、連続部21aの軸方向内側面の径方向内端縁は、厚肉部19aの軸方向内側面の径方向外端縁と、微分不可能な部分である稜部(角部)22aにより連続している。微分不可能な部分とは、第一曲線と第二曲線との接続部分であって、その接続部分の第一曲線側の微分係数と、その接続部分の第二曲線側の微分係数とが不連続である(互いに異なる)部分をいう。第1実施形態では、稜部22aは、連続部21aの軸方向内側面(第一曲線)と、厚肉部19aの軸方向内側面(第二曲線)との接続部分である。さらに、連続部21aの軸方向内側面(第一曲線)の、径方向内端縁における(稜部22aの第一曲線側の)微分係数と、厚肉部19aの軸方向内側面(第二曲線)の、径方向外端縁における(稜部22aの第二曲線側の)微分係数とが不連続である(互いに異なる)。このため、稜部22aは、微分不可能な部分である。本例の場合、稜部22aは、外輪2aの軸方向外端面よりも軸方向外側に位置している。又、稜部22aは、外輪2aの軸方向外端部の内周面よりも径方向内側に位置している。
尚、第1実施形態の場合、上述の様な連続部21aの形状(断面形状)は、回転側フランジ9aの全周にわたり同形状である。連続部21aの軸方向内側面のうち、稜部22aに隣接する部分は、円筒面状か、或いは、軸方向内側に向かうほど径方向外側に向かう方向に僅かに傾斜した傾斜面状(部分円錐面状、球面状)に形成することができる。これにより、後述するグリースの振り切り効果を高めることができる。
【0017】
第1実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1aは、外輪2aの外周面の軸方向外端寄り部分から軸方向外端部まで、全周にわたり径方向内方に凹んだ外側周方向段部26が形成されている。外輪2aの内周面のうち、外側周方向段部26と、軸方向に関して整合する(径方向に重畳する)部分には、全周にわたり径方向外方に凹んだ内側周方向段部27が形成されている。
【0018】
第1実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1aは、外輪2aの内周面と、ハブ3aの外周面との間に存在しており、各転動体4aが配置されている実質的円筒状の内部空間16の軸方向外端開口部を塞ぐ為のシール装置17bを備えている。内部空間16には、グリースが封入されている。
シール装置17bは、内側シールリング28と、内側シールリング28とは別体に設けられた外側シールリング29とから構成される。
内側シールリング28は、芯金30と、シール材31とから構成される。
芯金30は、軟鋼板等の金属板を曲げ形成して構成される。芯金30は、嵌合筒部32と、嵌合筒部32の軸方向外端縁から径方向内方に折れ曲がった状態で形成された円輪状部33とから構成される。
【0019】
嵌合筒部32は、外径寸法及び内径寸法が軸方向の全長にわたり変化しない円筒形状に形成されている。
円輪状部33は、外側円錐筒部34と、外側円輪部35と、内側円錐筒部36と、内側円輪部37とから構成される。
外側円錐筒部34は、嵌合筒部32の軸方向外端縁から、軸方向外側且つ径方向内側に折れ曲がった(傾斜した)状態で形成されている。
外側円輪部35は、外側円錐筒部34の径方向内端縁(軸方向外端縁)から径方向内側に折れ曲がった状態で形成されている。
内側円錐筒部36は、外側円輪部35の径方向内端縁から、軸方向内側且つ径方向内側に折れ曲がった(傾斜した)状態で形成されている。
内側円輪部37は、内側円錐筒部36の径方向内端縁(軸方向内端縁)から径方向内側に折れ曲がった状態で形成されている。
この様な構成を有する芯金30は、嵌合筒部32の外周面を、外輪2aの内側周方向段部27に内嵌固定されている。
【0020】
シール材31は、ゴムのようなエラストマー等の弾性材製である。シール材31は、芯金30に接合固定されている。シール材31は、シール基部38と、3本の接触式のシールリップ(内側シールリップ39、中間シールリップ40、外側シールリップ41)とを備えている。
図1、2は、各シールリップ(内側シールリップ39、中間シールリップ40、外側シールリップ41)の自由状態における形状を示している。
【0021】
シール基部38は、実質的円輪状の形状を有する。シール基部38は、芯金30の円輪状部33の軸方向外側面(外側円錐筒部34の外周面)から、円輪状部33の内周面を介して、芯金30(内側円輪部37)の軸方向内側面の径方向内端部までの部分を覆う状態で、芯金30に接合固定されている。
内側シールリップ39は、シール基部38のうち、芯金30の円輪状部33(内側円輪部37)の内周面を覆う部分から、軸方向内側且つ径方向内側に傾斜して延出した状態で形成されている。内側シールリップ39の先端縁は、ハブ本体7aの外周面のうち、回転側フランジ9aの基端部の軸方向内側に隣接する位置に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。
【0022】
中間シールリップ40は、シール基部38の軸方向外側面の径方向内端部から軸方向外側に延出した状態で形成されている。中間シールリップ40の先端縁は、回転側フランジ9aを構成する厚肉部19aの軸方向内側面の径方向内端部に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。
外側シールリップ41は、漏洩防止機能を備えたシールリップ(漏洩防止シールリップ)に相当する部材である。外側シールリップ41は、シール基部38のうち、芯金30の内側円錐筒部36の内周面を覆う部分の径方向外端部から、軸方向外側且つ径方向外方に傾斜して延出した状態で形成されている。外側シールリップ41の先端縁は、厚肉部19aの軸方向内側面の径方向内端寄り部分で、稜部22aよりも径方向内側となる部分に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。従って、第1実施形態の場合、稜部22aが、外側シールリップ41よりも径方向外側に位置している。
【0023】
外側シールリング29は、外側芯金42と、外側シール材43とから構成される。
外側芯金42は、軟鋼板等の金属板を略L字状に曲げ形成して構成される。外側芯金42は、外径寸法及び内径寸法が軸方向の全長にわたり変化しない円筒状の外側嵌合筒部44と、外側嵌合筒部44の軸方向外端縁から径方向内側に直角に折れ曲がった状態で形成された外側円輪部45とから構成される。外側芯金42は、外側嵌合筒部44の内周面を、外輪2aの外側周方向段部26に外嵌固定されている。この状態で、外側円輪部45の軸方向内側面は、外輪2aの軸方向外端面に当接しており、外側円輪部45の内周面の径方向に関する位置は、外輪2aの内側周方向段部27の径方向に関する位置と一致(又は、ほぼ一致)している。
【0024】
外側シール材43は、ゴムのようなエラストマー等の弾性材製である。外側シール材43は、外側芯金42に接合固定されている。外側シール材43は、外側シール基部46と、非接触式の非接触シールリップ47とから構成される。
外側シール基部46の断面形状は、実質的L字状である。外側シール基部46は、外側芯金42の外側嵌合筒部44の軸方向内端縁面から、外側嵌合筒部44の外周面及び外側円輪部45の軸方向外側面を介して、外側円輪部45の内周面までの部分を覆う状態で、外側芯金42に接合固定されている。外側シールリング29が外輪2aに組み付けられた状態で、外側シール基部46のうち、外側嵌合筒部44の軸方向内端面を覆う部分の内周面は、外輪2aの外周面(外側周方向段部26の外周部)と弾性的に(締め代を持って)当接している。この様にして、外側嵌合筒部44の内周面の軸方向内端部と、外輪2aの外周面との間に、水等の異物が侵入する事の防止を図っている。外側シール基部46のうち、外側芯金42の外側円輪部45の内周面を覆う部分の軸方向内端面は、内側シールリング28を構成するシール基部38の軸方向外側面の径方向外端部と弾性的に(締め代を持って)当接している。この様にして、外側円輪部45の軸方向内側面と、外輪2aの軸方向外端面との間に、水等の異物が侵入する事の防止を図っている。
【0025】
非接触シールリップ47は、飛散防止機能を備えたシールリップ(飛散防止シールリップ)に相当する。非接触シールリップ47は、筒部48と、内向凸部49とから構成される。
筒部48は、外側シール基部46の軸方向外側面の径方向外端部から、軸方向外方に、直線状に延出した状態で形成されている。筒部48は、軸方向外方に向かうほど、径方向外方に向かう方向に僅かに傾斜している。
内向凸部49は、筒部48の内周面の軸方向外端部に、全周にわたり筒部48の内周面から径方向内側に突出した状態で形成されている。内向凸部49は、径方向内側に向かうほど軸方向に関する厚さ寸法が小さくなる、実質的に三角形の断面形状に形成されている。
【0026】
以上の様な構成を有する非接触シールリップ47は、非接触シールリップ47の先端縁(軸方向外端縁)を、回転側フランジ9aを構成する薄肉部20aの軸方向内側面の径方向内端寄り部分に、僅かな軸方向の隙間を介した(近接対向した)状態で設けられている。この様にして、非接触シールリップ47の先端縁と薄肉部20aの軸方向内側面との間にラビリンスシール50を形成している。
筒部48の内周面と、外側シール基部46の軸方向外側面のうち筒部48の軸方向内端部に隣接する部分と、内向凸部49の軸方向内側面とにより三方を囲まれる部分を、グリース溜まり部51としている。グリース溜まり部51は、内側シールリップ39と中間シールリップ40とにより画成される第一グリース空間77内に設けられたグリースと、中間シールリップ40と外側シールリップ41とにより画成される第二グリース空間78内に設けられたグリースとの総量(体積)を収容可能な容積を有しているのが好ましい。
【0027】
上述の様に外側シールリング29が、外輪2aに組み付けられた状態で、ラビリンスシール50は、稜部22aよりも径方向に関して外側に設けられている。非接触シールリップ47の先端縁は、稜部22aよりも軸方向に関して外側に位置している。非接触シールリップ47の軸方向中間部は、稜部22aと径方向に重畳している。更に、非接触シールリップ47のグリース溜まり部51は、稜部22aと径方向に重畳する部分に位置している。
【0028】
第1実施形態において、回転側フランジ(フランジ)9aは、使用状態における遠心力によって径方向外方に向けてグリースを飛散させる角部(稜部)22aを有する。シール装置17bは、外輪2aとハブ3aとの間の内部空間(空間)16の開口部を密封する外側シールリップ(漏洩防止シールリップ、第1シールリップ)41と、少なくとも一部が、角部22aよりも径方向外方に配されかつ角部22aと径方向に重畳して配される、非接触シールリップ(飛散防止シールリップ、第2シールリップ)47とを有する。非接触シールリップ47は、軸方向において、先端部(軸方向外端部)と、角部22aと径方向に重畳される重畳位置との間に配されかつ、外輪2aから離れるに従って径方向内方に近づく内周面49sを有する。
【0029】
以上の様な構成を有する第1実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1aは、回転側フランジ9aが厚肉部19aと薄肉部20aとを備えており、厚肉部19aと薄肉部20a(連続部21a)との径方向に関する間部分に微分不可能な部分(稜部(角部)22a)が存在する様な構造を有する。その構造に基づき、内部空間16に封入されたグリースが、外部空間に漏洩する事の防止を図ると共に、内部空間16からこのグリースが漏洩した場合に、このグリースが、遠心力により飛散して、ディスクブレーキを構成するロータに付着する事の防止を図れる構造が実現される。
【0030】
第1実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1aにより内部空間16に封入されたグリースが、外部空間に漏洩する事の防止を図る事ができる理由は、内側シールリング28を構成する内側シールリップ39をハブ本体7aの外周面に、中間シールリップ40を、回転側フランジ9aを構成する厚肉部19aの軸方向内側面の径方向内端部に、それぞれ全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)させると共に、内側シールリング28を構成する外側シールリップ41の先端縁を、厚肉部19aの軸方向内側面の径方向内端寄り部分で、稜部22aよりも径方向内側となる部分に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)させているからである。
【0031】
第1実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1aにより、内部空間16からグリースが漏洩した場合に、このグリースが、遠心力により飛散して、ディスクブレーキを構成するロータに付着する事の防止を図れる理由は、外側シールリング29を構成する非接触シールリップ47を設けているからである。
即ち、内部空間16から漏洩したグリースは、遠心力により回転側フランジ9aの厚肉部19aの軸方向内側面を沿う様に径方向外方に移動して稜部22aに達する。すると、グリースは、遠心力により厚肉部19aの軸方向内側面から振り切られて、径方向外方に移動する。第1実施形態の場合、非接触シールリップ47のうち、稜部22aと径方向に重畳する部分に、グリース溜まり部51を設けている。この為、上述の様に移動したグリースを、グリース溜まり部51に溜めておく事ができる。又、このグリースが、グリース溜まり部51から軸方向外方に漏れ出したとしても、ラビリンスシール50を設けている為、グリースが非接触シールリップ47よりも径方向外方の空間に漏洩する事の防止を図れる。この様にして、内部空間16からグリースが漏洩した場合でも、このグリースが、遠心力により飛散して、ディスクブレーキを構成するロータに付着する事の防止を図る事ができる。
【0032】
[第2実施形態]
図3、4を参照しつつ、本発明の第2実施形態について説明する。第2実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1bも、外輪2aの内周面と、ハブ3aの外周面との間に存在する内部空間16の軸方向外端開口部を塞ぐ為のシール装置17cを備えている。
特に第2実施形態の場合、シール装置17cを構成する外側シールリング29aの構造が、前述した第1実施形態の外側シールリング29の構造と異なっている。尚、シール装置17cを構成する内側シールリング28の構造は、前述した第1実施形態の場合と同様である。
【0033】
外側シールリング29aは、外側芯金42と、外側シール材43aとから構成される。
外側芯金42の構造は、前述した第1実施形態の場合と同様である。
外側シール材43aは、ゴムのようなエラストマー等の弾性材製である。外側シール材43aは、外側芯金42に接合固定されている。外側シール材43aは、外側シール基部46と、非接触式の第一の非接触シールリップ52と、第二の非接触シールリップ53とを備えている。
外側シール基部46の構造は、前述した第1実施形態の場合と同様である。
【0034】
第一の非接触シールリップ52は、飛散防止機能を備えたシールリップ(飛散防止シールリップ、第2シールリップ)に相当する。第一の非接触シールリップ52は、前述した第1実施形態の非接触シールリップ47から、内向凸部49を省略したような構造を有している。具体的には、第一の非接触シールリップ52は、筒状の形状を有する。第一の非接触シールリップ52は、外側シール基部46の軸方向外側面の径方向外端部から、軸方向外方に、直線状に延出した状態で形成されている。第一の非接触シールリップ52は、軸方向外方に向かうほど、径方向外方に向かう方向に僅かに傾斜している。
以上の様な構成を有する第一の非接触シールリップ52は、第一の非接触シールリップ52の先端縁(軸方向外端縁)を、回転側フランジ9aを構成する薄肉部20aの軸方向内側面の径方向内端寄り部分に、僅かな隙間を介した(近接対向した)状態で設けられている。この様にして、第一の非接触シールリップ52の先端縁と薄肉部20aの軸方向内側面との間に第一のラビリンスシール54を形成している。
【0035】
第二の非接触シールリップ53も、飛散防止機能を備えたシールリップ(飛散防止シールリップ、第2シールリップ)に相当する。第二の非接触シールリップ53は、円筒部57と、円錐筒部58とから構成される。
円筒部57は、外側シール基部46の軸方向外側面の径方向内端寄り部分から、軸方向外側に延出した状態で設けられている。
円錐筒部58は、円筒部57の軸方向外端縁から、軸方向外側且つ径方向内側に傾斜して延出した状態で設けられている。
この様な第二の非接触シールリップ53は、第二の非接触シールリップ53の先端縁(軸方向外端縁)を、回転側フランジ9aを構成する連続部21aの軸方向内側面の径方向中間部に、僅かな径方向隙間を介した(近接対向した)状態で設けられている。この様にして、第二の非接触シールリップ53の先端縁と連続部21aの軸方向内側面との間に第二のラビリンスシール59を形成している。
第2実施形態の場合、円筒部57の内周面と、外側シール基部46の軸方向外側面のうち円筒部57の軸方向内端部に隣接する部分と、円錐筒部58の内周面とにより三方を囲まれる部分を、グリース溜まり部60としている。
【0036】
上述の様に外側シールリング29aが、外輪2aに組み付けられた状態で、第一、第二のラビリンスシール54、59はそれぞれ、稜部22aよりも径方向に関して外側に設けられている。第一、第二の非接触シールリップ52、53の先端縁の軸方向に関する位置はそれぞれ、稜部22aの軸方向に関する位置よりも軸方向外側に位置している。第一、第二の非接触シールリップ52、53の軸方向中間部が、稜部22aと径方向に重畳している。更に、第二の非接触シールリップ53のうち、稜部22aと径方向に重畳する部分には、グリース溜まり部60が存在している。
【0037】
以上の様な構成を有する第2実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1bも、回転側フランジ9aが厚肉部(第1部分)19aと薄肉部(第2部分)20aとを備えており、厚肉部19aと薄肉部20aとの径方向に関する間部分に微分不可能な部分(稜部22a)が存在する様な構造を有する。その構造に基づき、内部空間16に封入されたグリースが、外部空間に漏洩する事を防止すると共に、内部空間16からこのグリースが漏洩した場合に、このグリースが、遠心力により飛散して、ディスクブレーキを構成するロータに付着する事の防止を図れる構造が実現される。
【0038】
この様な第2実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1bにより内部空間に封入されたグリースが、外部空間に漏洩する事を防止する事ができる理由は、前述した第1実施形態の場合と同様である。
【0039】
第2実施形態において、回転側フランジ(フランジ)9aは、使用状態における遠心力によって径方向外方に向けてグリースを飛散させる角部(稜部)22aを有する。シール装置17cは、外輪2aとハブ3aとの間の内部空間(空間)16の開口部を密封する外側シールリップ(漏洩防止シールリップ、第1シールリップ)41と、少なくとも一部が、角部22aよりも径方向外方に配されかつ角部22aと径方向に重畳して配される、非接触シールリップ(飛散防止シールリップ、第2シールリップ)53とを有する。非接触シールリップ53は、軸方向において、先端部(軸方向外端部)と、角部22aと径方向に重畳される重畳位置との間に配されかつ、外輪2aから離れるに従って径方向内方に近づく内周面58sを有する。
【0040】
第2実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1bにより、内部空間16からグリースが漏洩した場合に、このグリースが、遠心力により飛散して、ディスクブレーキを構成するロータに付着する事の防止を図れる理由は、外側シールリング29aを構成する第一、第二の非接触シールリップ52、53を設けているからである。
即ち、内部空間16から漏洩したグリースは、遠心力により回転側フランジ9aの厚肉部19aの軸方向内側面を沿う様に径方向外方に移動して稜部22aに達する。すると、グリースは、遠心力により厚肉部19aの軸方向内側面から振り切られて、径方向外方に移動する。第2実施形態の場合、第二の非接触シールリップ53のうち、稜部22aと径方向に重畳する部分に、グリース溜まり部60を設けている。この為、上述の様に移動したグリースを、グリース溜まり部60に溜めておく事ができる。又、このグリースが、グリース溜まり部60から軸方向外方に漏れ出したとしても、第二のラビリンスシール59を設けている為、グリースが第二の非接触シールリップ53よりも径方向外方の空間に漏洩する事の防止を図れる。更に、グリースが、第二の非接触シールリップ53よりも径方向外方の空間に漏洩した場合でも、第一のラビリンスシール54を設けている為、グリースが、第一のラビリンスシール54よりも径方向外方の空間に漏洩する事の防止を図れる。この様に、第2実施形態の場合、内部空間16からグリースが漏洩した場合でも、このグリースが、遠心力により飛散して、ディスクブレーキを構成するロータに付着する事を、より効果的に防止する事ができる。その他の構成及び作用・効果は、前述した第1実施形態の場合と同様である。
【0041】
[第3実施形態]
図5、6を参照しつつ、本発明の第3実施形態について説明する。第3実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1cは、駆動輪用であり、外輪2bと、外輪2bの内側に配置されたハブ3aと、ハブ3aを外輪2bに回転自在に支持する為の複数の転動体4aとを備える。各転動体4aは、外輪2bの内周面に形成された複列の外輪軌道6a、6b(外輪軌道6bは、
図13参照)と、ハブ3aの外周面に形成された複列の内輪軌道10a、10b(内輪軌道10bは、
図13参照)との間に、各列毎に保持器23に保持された状態で転動自在に配置されている。
【0042】
第3実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1cは、外輪2bの構造を前述した第1実施形態及び第2実施形態の外輪2aの構造と異ならせている。具体的には、外輪2bの外周面の軸方向外端寄り部分から軸方向外端部までの部分に、前述した第1実施形態及び第2実施形態の外側周方向段部26を形成しておらず、抜き勾配を持つ鍛造肌のままとしている。
外輪2bの内周面の軸方向外端部には、第一凹円筒面部55が形成されている。
外輪2bの内周面の軸方向外端寄り部分で、第一凹円筒面部55の軸方向内側に隣接した位置に、前述した第1実施形態及び第2実施形態の内側周方向段部27に相当する第二凹円筒面部56が形成されている。
外輪2bの軸方向外端面は、回転側フランジ9aを構成する厚肉部19aの軸方向内側面よりも、軸方向外側に位置している。換言すれば、外輪2bの軸方向外端面は、回転側フランジ9aを構成する連続部21aの軸方向内側面の径方向内端縁と、厚肉部19aの軸方向内側面の径方向外端縁とを連続的に接続する、微分不可能な部分に相当する稜部(角部)22aよりも、軸方向外側に位置している。
【0043】
第3実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1cも、外輪2bの内周面と、ハブ3aの外周面との間に存在する内部空間16の軸方向外端開口部を塞ぐ為のシール装置17dを備えている。第3実施形態の場合、シール装置17dは、前述した第1実施形態及び第2実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1a、1bを構成するシール装置17b、17cが備える外側シールリング29、29aに相当する部材を備えていない。
以下、第3実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1cが備えるシール装置17dの構造について説明する。
【0044】
シール装置17dは、芯金30と、シール材31aとから構成される。
芯金30は、軟鋼板等の金属板を曲げ形成して構成される。芯金30は、嵌合筒部32と、嵌合筒部32の軸方向外端縁から径方向内方に折れ曲がった状態で形成された円輪状部33とを備える。
【0045】
嵌合筒部32は、外径寸法及び内径寸法が軸方向の全長にわたり変化しない円筒形状に形成されている。
円輪状部33は、外側円錐筒部34と、外側円輪部35と、内側円錐筒部36と、内側円輪部37とから構成される。
外側円錐筒部34は、嵌合筒部32の軸方向外端縁から、軸方向外側且つ径方向内側に折れ曲がった(傾斜した)状態で形成されている。
外側円輪部35は、外側円錐筒部34の径方向内端縁(軸方向外端縁)から径方向内側に折れ曲がった状態で形成されている。
内側円錐筒部36は、外側円輪部35の径方向内端縁から、軸方向内側且つ径方向内側に折れ曲がった(傾斜した)状態で形成されている。
内側円輪部37は、内側円錐筒部36の径方向内端縁(軸方向内端縁)から径方向内側に折れ曲がった状態で形成されている。
この様な構成を有する芯金30は、嵌合筒部32の外周面を、外輪2bの軸方向外端寄り部分に形成された第二凹円筒面部56に内嵌固定されている。
【0046】
シール材31aは、ゴムのようなエラストマー等の弾性材製である。シール材31は、芯金30に接合固定されている。シール材31は、シール基部38と、3本の接触式のシールリップ(内側シールリップ39a、中間シールリップ40a、外側シールリップ41a)とを備えている。
図5、6は、各シールリップ(内側シールリップ39a、中間シールリップ40a、外側シールリップ41a)の自由状態における形状を示している。
【0047】
シール基部38は、実質的円輪状の形状を有する。シール基部38は、芯金30の円輪状部33の軸方向外側面(外側円錐筒部34の外周面)から、円輪状部33(内側円輪部37)の内周面を介して、円輪状部33(内側円輪部37)の軸方向内側面の径方向内端部までの部分を覆う状態で、芯金30に接合固定されている。
内側シールリップ39aは、シール基部38のうち、芯金30の円輪状部33の内周面を覆う部分から、軸方向内側且つ径方向内側に傾斜して延出した状態で形成されている。内側シールリップ39aの先端縁は、ハブ本体7aの外周面のうち、回転側フランジ9aの基端部の軸方向内側に隣接する位置に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。
【0048】
中間シールリップ40aは、実質的に三角形の断面形状を有する。中間シールリップ40aは、シール基部38の軸方向外側面の径方向内端部から軸方向外側且つ径方向内側に延出した状態で形成されている。中間シールリップ40aの径方向内端縁は、ハブ本体7aの外周面のうち、内側シールリップ39aが当接した位置よりも軸方向外側で、且つ、回転側フランジ9aを構成する厚肉部19aの軸方向内側面の径方向内端縁よりも軸方向内側となる部分に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。
【0049】
外側シールリップ41aは、漏洩防止機能を備えたシールリップ(漏洩防止シールリップ)であると共に、飛散防止機能を備えたシールリップ(飛散防止シールリップ)でもある一本のサイドリップに相当する部材である。外側シールリップ41aは、シール基部38のうち、芯金30の内側円錐筒部36の内周面と、外側円輪部35の軸方向外側面との連続部を覆う部分から、軸方向外側且つ径方向外方に傾斜して延出した状態で形成されている。外側シールリップ41aの先端縁は、回転側フランジ9aを構成する薄肉部20aの軸方向内側面の径方向内端部(連続部21aの軸方向内側面の径方向外端部)付近に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。換言すれば、外側シールリップ41aの先端縁は、回転側フランジ9aの軸方向内側面のうち、連続部21aの軸方向内側面の径方向内端縁と、厚肉部19aの軸方向内側面の径方向外端縁とを連続的に接続する、稜部22aよりも径方向外側となる部分に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。
【0050】
第3実施形態において、回転側フランジ(フランジ)9aは、使用状態における遠心力によって径方向外方に向けてグリースを飛散させる角部(稜部)22aを有する。シール装置17dは、外輪2bとハブ3aとの間の内部空間(空間)16の開口部を密封する中間シールリップ(漏洩防止シールリップ、第1シールリップ)40aと、少なくとも一部が、角部22aよりも径方向外方に配されかつ角部22aと径方向に重畳して配される、外側シールリップ(飛散防止シールリップ、第2シールリップ)41aとを有する。外側シールリップ41aは、飛散防止機能に加え、漏洩防止機能も有する。外側シールリップ41aは、角部22aよりも径方向外方において、ハブ3aの側面(回転側フランジ9aの側面)に摺接する先端部41sを有する。
【0051】
以上の様な構成を有する第3実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1cは、回転側フランジ9aが厚肉部(第1部分)19aと薄肉部(第2部分)20aとを備えており、厚肉部19aと薄肉部20a(連続部21a)との径方向に関する間部分に微分不可能な部分(稜部22a)が存在する様な構造を有する。その構造に基づき、内部空間16に封入されたグリースが、外部空間に漏洩し、更に飛散する事を防止して、ディスクブレーキを構成するロータに付着する事の防止を図れる構造が実現される。
【0052】
第3実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1cにより内部空間16に封入されたグリースが、外部空間に漏洩し、更に飛散する事の防止を図れる理由は、シール装置17dを構成する内側シールリップ39a及び中間シールリップ40aをハブ本体7aの外周面に、それぞれ全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)させると共に、シール装置17dを構成する外側シールリップ41aの先端縁を、薄肉部20aの軸方向内側面の径方向内端部(連続部21aの軸方向内側面の径方向外端部)付近に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)させているからである。第3実施形態の場合、稜部22aを、外側シールリップ41aよりも径方向内側に位置させている。この為、グリースが、遠心力により、厚肉部19aの軸方向内側面を沿う様に稜部22aにまで移動して、稜部22aで厚肉部19aの軸方向内側面から振り切られたとしても、外側シールリップ41aの内周面の軸方向中間部に付着して、それ以上飛散する事がない。その他の構成及び作用・効果は、前述した第1実施形態の場合と同様である。
【0053】
[第4実施形態]
図7、8を参照しつつ、本発明の第4実施形態について説明する。第4実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1dも、前述した各実施形態と同様に外輪2bの内周面と、ハブ3aの外周面との間に存在する内部空間16の軸方向外端開口部を塞ぐ為のシール装置17eを備えている。第4実施形態の場合、シール装置(シールリング)17eを構成するシール材31aの外側シールリップ41bの形状を前述した第3実施形態の場合と異ならせている。第4実施形態の場合も、外側シールリップ41bが、漏洩防止機能を備えたシールリップ(漏洩防止シールリップ)であると共に、飛散防止機能を備えたシールリップ(飛散防止シールリップ)である一本のサイドリップに相当する部材である。
【0054】
第4実施形態の場合、外側シールリップ41bは、円筒部61と、第一円錐筒部62と、第二円錐筒部63とから構成される。
円筒部61は、シール材31aを構成するシール基部38のうち、芯金30の外側円輪部35の軸方向外側面の径方向内端寄り部分を覆う部分から、軸方向外方に延出した状態で設けられている。
第一円錐筒部62は、円筒部61の軸方向外端縁から、軸方向外側且つ径方向内側に傾斜して延出した状態で設けられている。
第二円錐筒部63は、第一円錐筒部62の軸方向外端縁から、軸方向外側且つ径方向外方に傾斜して延出した状態で設けられている。
【0055】
外側シールリップ41bの先端縁は、回転側フランジ9aを構成する薄肉部(第2部分)20aの軸方向内側面の径方向内端寄り部分に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。
円筒部61の内周面と、外側シール基部38の軸方向外側面のうち円筒部61の軸方向内端部に隣接する部分と、第一円錐筒部62の内周面とにより三方を囲まれる部分を、グリース溜まり部64としている。
シール装置17eが外輪2bに組み付けられた状態で、グリース溜まり部64の軸方向外端部は、稜部(角部)22aと径方向に重畳している。
【0056】
第4実施形態において、回転側フランジ(フランジ)9aは、使用状態における遠心力によって径方向外方に向けてグリースを飛散させる角部(稜部)22aを有する。シール装置17eは、外輪2bとハブ3aとの間の内部空間(空間)16の開口部を密封する中間シールリップ(漏洩防止シールリップ、第1シールリップ)40aと、少なくとも一部が、角部22aよりも径方向外方に配されかつ角部22aと径方向に重畳して配される、外側シールリップ(飛散防止シールリップ、第2シールリップ)41bとを有する。外側シールリップ41bは、飛散防止機能に加え、漏洩防止機能も有する。外側シールリップ41bを構成する第二円錐筒部63の先端部は、角部22aよりも径方向外方において、ハブ3aの側面(回転側フランジ9aの側面)に摺接する。
【0057】
以上の様な構成を有する第4実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1dの場合、グリースが、遠心力により、回転側フランジ9aの厚肉部(第1部分)19aの軸方向内側面を沿う様に稜部22aにまで移動して、稜部22aで厚肉部19aの軸方向内側面から振り切られたとしても、外側シールリップ41bのグリース溜まり部64に溜まる。この為、グリースが、それ以上飛散する事がない。その他の構成及び作用・効果は、前述した第3実施形態の場合と同様である。
【0058】
[第5実施形態]
図9、10を参照しつつ、本発明の第5実施形態について説明する。第5実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1eは、駆動輪用であり、外輪2bと、外輪2bの内側に配置されたハブ3bと、ハブ3bを外輪2bに回転自在に支持する為の複数の転動体4aとを備える。各転動体4aは、外輪2bの内周面に形成された複列の外輪軌道6a、6b(外輪軌道6bは、
図13参照)と、ハブ3bの外周面に形成された複列の内輪軌道10a、10b(内輪軌道10bは、
図13参照)との間に、各列毎に保持器23に保持された状態で転動自在に配置されている。
【0059】
第5実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1eを構成するハブ3bの回転側フランジ9bは、フランジ本体65と、摺動環66(環状部材)とから構成される。
フランジ本体65は、ハブ本体7bの外周面の一部で、外輪2bの外端開口から突出した部分に、径方向外方に延出した状態で形成されている。
フランジ本体65の軸方向外側面は、面取り部が形成された径方向外端部を除いて径方向の全長にわたり軸方向に関する位置が変わらない平坦面状に形成されている。
フランジ本体65の軸方向内側面も、面取り部が形成された径方向外端部を除いて径方向の全長にわたり軸方向に関する位置が変わらない平坦面状に形成されている。
従って、フランジ本体65の軸方向に関する厚さ寸法は、径方向外端部を除いて径方向の全長にわたり一定である。
【0060】
摺動環66は、嵌合円筒部67と、外向鍔部68と、折り返し部69とから構成される。
外向鍔部68は、嵌合円筒部67の軸方向外端縁から、径方向外方に折れ曲がる様に形成されている。嵌合円筒部67と外向鍔部68との連続部は、フランジ本体65の基端部の軸方向内側面とハブ本体7bの外周面との連続部に沿う様な形状に形成されている。
折り返し部69は、外向鍔部68の径方向外端縁から軸方向内側に、断面形状が凸曲線状に折れ曲がる様に形成されている。
【0061】
以上の様な構成を有する摺動環66は、嵌合円筒部67を、ハブ本体7bの外周面のうち、フランジ本体65の基端部の軸方向内側面に隣接する位置に外嵌された状態で、ハブ本体7bに固定されている。この状態で、摺動環66を構成する外向鍔部68の軸方向外側面は、フランジ本体65の基端寄り部分から基端部までの部分の軸方向内側面に隙間なく当接している。
第5実施形態の場合、フランジ本体65に摺動環66を固定した状態で、フランジ本体65と摺動環66とを合わせた部分を、厚肉部19bとしている。
一方、フランジ本体65のうち、摺動環66と軸方向に重畳していない部分(摺動環66よりも径方向外方に位置する部分)を、薄肉部20bとしている。
第5実施形態の場合、フランジ本体65のうちの薄肉部20bに相当する部分の軸方向内側面と、厚肉部19b(摺動環66)の軸方向内側面との間に存在する、摺動環66の折り返し部69の軸方向内端縁を、微分不可能な部分に相当する不連続部70としている。
【0062】
第5実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1eを構成する外輪2bの構造は、前述した第3実施形態の場合と同様である。
第5実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1eは、外輪2bの内周面と、ハブ3bの外周面との間に存在する内部空間16の軸方向外端開口部を塞ぐ為のシール装置17dを備えている。シール装置(シールリング)17dの構造は、前述した第3実施形態の構造と同様である。
【0063】
第5実施形態の場合も、シール装置17dは、芯金30を構成する嵌合筒部32の外周面を、外輪2bの軸方向外端寄り部分に形成された第二凹円筒面部56に内嵌した状態で、外輪2bに固定されている。
この状態で、シール装置17dを構成するシール材31aの内側シールリップ39aの先端縁は、摺動環66の嵌合円筒部67の外周面の軸方向外端部に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。
シール材31aの中間シールリップ40aの径方向内端縁は、摺動環66の嵌合円筒部67の外周面の軸方向中間部に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。
更に、シール材31aの外側シールリップ41aの先端縁は、フランジ本体65の薄肉部20bの軸方向内側面の径方向内端寄り部分で、摺動環66の不連続部70よりも径方向外側となる部分に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。
【0064】
第5実施形態において、回転側フランジ(フランジ)9bは、使用状態における遠心力によって径方向外方に向けてグリースを飛散させる不連続部(稜部)70を有する。シール装置17dは、外輪2bとハブ3bとの間の内部空間(空間)16の開口部を密封する中間シールリップ(漏洩防止シールリップ、第1シールリップ)40aと、少なくとも一部が、不連続部70よりも径方向外方に配されかつ不連続部70と径方向に重畳して配される、外側シールリップ(飛散防止シールリップ、第2シールリップ)41aとを有する。外側シールリップ41aは、飛散防止機能に加え、漏洩防止機能も有する。外側シールリップ41aは、不連続部70よりも径方向外方において、ハブ3bの側面(回転側フランジ9bの側面)に摺接する先端部41sを有する。
【0065】
以上の様な構成を有する第5実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1eは、回転側フランジ9bが厚肉部(第1部分)19bと薄肉部(第2部分)20bとを備えており、厚肉部19bと薄肉部20bとの径方向に関する間部分に微分不可能な部分(不連続部70)が存在する様な構造を有する。その構造に基づき、内部空間16に封入されたグリースが、外部空間に漏洩し、更に飛散する事を防止して、ディスクブレーキを構成するロータに付着する事の防止を図れる構造が実現される。
【0066】
第5実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1eにより内部空間16に封入されたグリースが、外部空間に漏洩し、更に飛散する事の防止を図れる理由は、シール装置17dを構成する内側シールリップ39a及び中間シールリップ40aを摺動環66の嵌合円筒部67の外周面に、それぞれ全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)させると共に、シール装置17dを構成する外側シールリップ41aの先端縁を、薄肉部20bの軸方向内側面の径方向内端寄り部分に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)させているからである。第5実施形態の場合、不連続部70を、外側シールリップ41aよりも径方向内側に位置させている。この為、グリースが、遠心力により、摺動環66の外向鍔部68の軸方向内側面を沿う様に不連続部70にまで移動して、不連続部70で厚肉部19bの軸方向内側面から振り切られたとしても、外側シールリップ41aの内周面の軸方向中間部に付着して、それ以上飛散する事がない。
【0067】
特に第5実施形態の場合、摺動環66に折り返し部69を設けている為、摺動環66の外向鍔部68の軸方向内側面を沿う様に移動したグリースが、不連続部70にまで移動し難い様にする事ができる。
第5実施形態を実施する場合には、シール装置17dに替えて、前述した第4実施形態のシール装置17eを採用する事もできる。その他の構成及び作用・効果は、前述した第1実施形態の場合と同様である。
【0068】
[第6実施形態]
図11を参照しつつ、本発明の第6実施形態について説明する。第6実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1fを構成する外輪2cの外周面のうち、軸方向外端寄り部分から軸方向外端部に掛けての部分は鍛造肌のままで、軸方向に関して抜き勾配程度の外径の変化しか持たない実質的円筒面状に形成されている。言い換えれば、第6実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1fを構成する外輪2cは、前述した第1実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1aを構成する外輪2aが有する外側周方向段部26を有していない。一方、外輪2cの内周面のうち、軸方向外端寄り部分から軸方向外端部までの部分には、前述した第1実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1aを構成する外輪2aと同様に、全周にわたり径方向外方に凹んだ内側周方向段部27が形成されている。
【0069】
第6実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1fは、外輪2cの内周面と、ハブ3cの外周面との間に存在しており、各転動体4aが配置されている実質的円筒状の内部空間16の軸方向外端開口部を塞ぐ為のシール装置17fを備えている。内部空間16には、グリースが封入されている。
【0070】
シール装置17fは、芯金30aと、シール材31cとから構成される。
芯金30aは、軟鋼板等の金属板を曲げ形成して構成される。芯金30aは、嵌合筒部32aと、内径側円輪状部71と、外径側円輪状部72とを備える。
嵌合筒部32aは、外径寸法及び内径寸法が軸方向の全長にわたり変化しない円筒状に形成されている。
内径側円輪状部71は、第一円輪状部73と、円錐部74と、第二円輪状部75とから構成される。
第一円輪状部73は、嵌合筒部32aの軸方向内端縁から径方向内側に折れ曲がった状態で形成されている。
円錐部74は、第一円輪状部73の径方向内端縁から、軸方向外側且つ径方向内側に折れ曲がった(傾斜した)状態で形成されている。
第二円輪状部75は、円錐部74の径方向内端縁から径方向内側に折れ曲がった状態で形成されている。
【0071】
外径側円輪状部72は、嵌合筒部32aの軸方向外端縁から径方向外側に折れ曲がった状態で形成されている。
この様な構成を有する芯金30aは、嵌合筒部32aの外周面を、外輪2cの内側周方向段部27に直接内嵌固定されている。この様に固定された状態で、外径側円輪状部72の軸方向内側面は、外輪2cの軸方向外端面よりも僅かに軸方向外側に位置している。外径側円輪状部72の軸方向内側面と、外輪2cの軸方向外端面との間には、後述するシール材31cのシール基部38aの一部が存在している。
【0072】
シール材31cは、ゴムのようなエラストマー等の弾性材製である。シール材31cは、芯金30aに接合固定されている。シール材31cは、シール基部38aと、3本の接触式のシールリップ(内側シールリップ39b、中間シールリップ40b、外側シールリップ41c)と、非接触シールリップ47aとを備えている。
図11は、各シールリップ(内側シールリップ39b、中間シールリップ40b、外側シールリップ41c)の自由状態における形状を示している。
【0073】
シール基部38aは、実質的円輪状の形状を有する。シール基部38aは、芯金30aの内径側円輪状部71の軸方向内側面の径方向内端寄り部分から、芯金30aの軸方向外側面を介して、外径側円輪状部72の軸方向内側面までの部分を覆う状態で、芯金30aに接合固定されている。
内側シールリップ39bは、シール基部38aのうち、芯金30aの内径側円輪状部71の内周面を覆う部分から、軸方向内側且つ径方向内側に傾斜して延出した状態で形成されている。内側シールリップ39bの先端縁は、ハブ本体7cの外周面のうち、回転側フランジ9cの基端部の軸方向内側に隣接する位置に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。
【0074】
中間シールリップ40bは、シール基部38aの軸方向外側面の径方向内端部から軸方向外側に延出した状態で形成されている。中間シールリップ40bの先端縁は、ハブ本体7cの外周面と回転側フランジ9cを構成する厚肉部(第1部分)19aの軸方向内側面との連続部に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。
【0075】
外側シールリップ41cは、漏洩防止機能を備えたシールリップ(漏洩防止シールリップ)に相当する部材である。外側シールリップ41cは、シール基部38aの軸方向外側面の径方向内端寄り部分から、軸方向外側且つ径方向外側に傾斜して延出した状態で形成されている。外側シールリップ41cの先端縁は、回転側フランジ9cを構成する厚肉部19aの軸方向内側面の径方向外端寄り部分付近に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。換言すれば、外側シールリップ41cの先端縁は、厚肉部19aの軸方向内側面の径方向外端縁(稜部22a)よりも径方向内側となる部分に、全周にわたり締め代を持った状態で当接(摺接)している。
【0076】
非接触シールリップ47aは、飛散防止機能を備えたシールリップ(飛散防止シールリップ)に相当する部材である。非接触シールリップ47aは、シール基部38aのうち、芯金30aの外径側円輪状部72の軸方向外側面を覆う部分の径方向外端寄り部分から、軸方向外側に延出した状態で形成されている。第6実施形態の場合、非接触シールリップ47aは、軸方向に関して内径及び外径が変化しない円筒状に形成されている。非接触シールリップ47aは、非接触シールリップ47aの先端縁(軸方向外端縁)を、回転側フランジ9cを構成する薄肉部20aの軸方向内側面の径方向内端寄り部分に、僅かな軸方向の隙間を介した(近接対向した)状態で設けられている。この様にして、非接触シールリップ47aの先端縁と薄肉部(第2部分)20aの軸方向内側面との間にラビリンスシール50aを形成している。
【0077】
第6実施形態において、回転側フランジ(フランジ)9cは、使用状態における遠心力によって径方向外方に向けてグリースを飛散させる角部(稜部)22aを有する。シール装置17fは、外輪2cとハブ3cとの間の内部空間(空間)16の開口部を密封する外側シールリップ(漏洩防止シールリップ、第1シールリップ)41cと、少なくとも一部が、角部22aよりも径方向外方に配されかつ角部22aと径方向に重畳して配される、非接触シールリップ(飛散防止シールリップ、第2シールリップ)47aとを有する。非接触シールリップ47aは、軸方向において、先端部(軸方向外端部)47zと、角部22aと径方向に重畳される重畳位置との間に配されかつ、軸方向と実質的に平行な内周面47sを有する。
【0078】
第6実施形態の場合、ハブ本体7cを構成する連続部21bの軸方向内側面の径方向内端縁と稜部22aとの間部分(稜部22aの軸方向外側に隣接する部分であって、厚肉部19aの軸方向内端部外周面)に、母線形状がハブ本体7cの中心軸と平行な直線状で、軸方向に関して外径が変化しない円筒面状のハブ側円筒面部76が設けられている。第6実施形態の場合、ハブ側円筒面部76の軸方向外端縁が、非接触シールリップ47aの軸方向外端縁(先端縁)よりも軸方向内側に位置している。換言すれば、ハブ側円筒面部76の軸方向内端縁(稜部22a)から軸方向外端縁までの長さ(このハブ側円筒面部76の軸方向長さ)L
1を、軸方向に関する稜部22aから非接触シールリップ47aの軸方向外端縁(先端縁)までの長さL
2よりも小さくしている(L
1<L
2)。
第6実施形態の場合、ハブ側円筒面部76の軸方向長さL
1を、以下の様に規制している。即ち、
図11に鎖線X
1で示す様な、断面の直径がL
1であるトーラス形状(ドーナツ形状)の外径側半部により構成される仮想空間Y
1の体積が、内側シールリップ39bと中間シールリップ40bとにより画成される第一グリース空間77内に充填されたグリースと、中間シールリップ40bと外側シールリップ41cとにより画成される第二グリース空間78内に充填されたグリースとの総量(体積)よりも大きくなる様に、ハブ側円筒面部76の軸方向長さL
1を規制している。
【0079】
次に、第6実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1fに、上述の様な構成を有するハブ側円筒面部76を形成している理由について説明する。
使用時に、第一グリース空間77及び第二グリース空間78からグリースが漏洩した場合、このグリースは少量のまま稜部22aから飛散するのではなく、一時的に稜部22aに溜まり、ある程度の塊となった後、稜部22aから飛散する。ハブ3cが回転している際、塊となったグリースは、稜部22aでの、このグリースの表面張力の働きにより、ハブ側円筒面部76の外周面の方には流れ難い。一方、ハブ3cの回転が停止すると、塊となったグリースが、稜部22aを越えてハブ側円筒面部76の外周面に流れ易くなる。この様な現象は、稜部22aのうち、組み付け状態において上側となる位置で顕著に現れる。そして、ハブ側円筒面部76の外周面に付着したグリースが増えて、ハブ本体7cの連続部21bの軸方向内側面の軸方向内端縁(ハブ側円筒面部76の軸方向外側に隣接する部分)にまで達すると、ハブ3cが回転を開始した際、連続部21bに付着したグリースが、連続部21b及び薄肉部20aの軸方向内側面を伝って外部に漏洩し易くなる。そこで、第6実施形態の場合、ハブ側円筒面部76の軸方向長さL
1を上述の様に規制する事により、ハブ側円筒面部76の外周面に、グリースが付着した場合に、このグリースが、ハブ本体7cの連続部21bの軸方向内端縁(ハブ側円筒面部76の軸方向外側に隣接する部分)にまで到達し難くい様にしている。
第6実施形態の場合、ハブ側円筒面部76の軸方向外端縁が、非接触シールリップ47aの軸方向外端縁(先端縁)よりも軸方向内側に位置している為、ハブ側円筒面部76の外周面に付着したグリースが飛散した場合でも、非接触シールリップ47aにより、このグリースが外部に飛散する事の防止を図る事ができる。その他の構成及び作用・効果は、前述した第1実施形態の場合と同様である。
【0080】
[第7実施形態]
図12を参照しつつ、本発明の第7実施形態について説明する。第7実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1gが備えるシール装置17gを構成するシール材31dの非接触シールリップ47bは、飛散防止機能を備えたシールリップ(飛散防止シールリップ)に相当する部材である。非接触シールリップ47bは、筒部48aと、内向凸部49aとから構成される。
筒部48aは、シール基部38aのうち、芯金30aの外径側円輪状部72の軸方向外側面を覆う部分の径方向外端寄り部分から、軸方向外側且つ径方向外側に延出した状態で形成されている。
内向凸部49aは、筒部48aの内周面の軸方向外端部に、全周にわたり筒部48aの内周面から径方向内側に突出した状態で形成されている。内向凸部49aは、径方向内側に向かうほど軸方向に関する厚さ寸法が小さくなる、実質的に三角形の断面形状に形成されている。
【0081】
以上の様な構成を有する非接触シールリップ47bは、非接触シールリップ47bの先端縁(軸方向外端縁)を、回転側フランジ9dを構成する薄肉部20aの軸方向内側面の径方向内端寄り部分に、僅かな軸方向の隙間を介した(近接対向した)状態で設けられている。この様にして、非接触シールリップ47bの先端縁と薄肉部20aの軸方向内側面との間にラビリンスシール50を形成している。
筒部48aの内周面と、シール基部38aの軸方向外側面のうち筒部48aの軸方向内端部に隣接する部分と、内向凸部49aの軸方向内側面とにより三方を囲まれる部分を、グリース溜まり部51aとしている。グリース溜まり部51aは、シール装置17gを構成するシール材31dの内側シールリップ39bと中間シールリップ40bとにより画成される第一グリース空間77内に充填されたグリースと、中間シールリップ40bと外側シールリップ41cとにより画成される第二グリース空間78内に充填されたグリースとの総量(体積)を収容可能な容積を有しているのが好ましい。この他のシール装置17gの構造は、前述した第6実施形態のシール装置17fの構造と同様である。
【0082】
第7実施形態において、回転側フランジ(フランジ)9dは、使用状態における遠心力によって径方向外方に向けてグリースを飛散させる角部(稜部)22aを有する。シール装置17gは、外輪2aとハブ3aとの間の内部空間(空間)16の開口部を密封する外側シールリップ(漏洩防止シールリップ、第1シールリップ)41cと、少なくとも一部が、角部22aよりも径方向外方に配されかつ角部22aと径方向に重畳して配される、非接触シールリップ(飛散防止シールリップ、第2シールリップ)47bとを有する。非接触シールリップ47bは、軸方向において、先端部(軸方向外端部)と、角部22aと径方向に重畳される重畳位置との間に配されかつ、外輪2aから離れるに従って径方向内方に近づく内周面49sを有する。
【0083】
第7実施形態の場合、ハブ本体7dを構成する連続部21bの軸方向内側面の径方向内端縁と稜部22aとの間の一部分(稜部22aの軸方向外側に隣接する位置であって、厚肉部(第1部分)19aの軸方向内端部外周面)に、母線形状が、軸方向内側に向かうほど径方向外側に向かう方向に傾斜した直線状で、部分円錐面状のハブ側円錐面部79が設けられている。ハブ側円錐面部79は、上記の一部分に旋削加工を施す事により形成される。第7実施形態の場合、ハブ側円錐面部79の軸方向外端縁が、非接触シールリップ47bの軸方向外端縁(先端縁)よりも軸方向内側に位置している。換言すれば、ハブ側円錐面部79の軸方向内端縁(稜部22a)から軸方向外端縁までの長さ(ハブ側円錐面部79の軸方向長さ)L
3を、軸方向に関する稜部22aから非接触シールリップ47bの軸方向外端縁(先端縁)までの長さL
4よりも小さくしている(L
3<L
4)。
第7実施形態の場合、ハブ側円錐面部79の母線の長さL
5を、以下の様に規制している。即ち、少なくとも、
図12に鎖線X
2で示す様な、断面の直径がL
5であるトーラス形状(ドーナツ形状)の外径側半部(ハブ側円錐面部79よりも径方向外側部分)により構成される仮想空間Y
2の体積が、第一グリース空間77内に設けられたグリースと、第二グリース空間78内に設けられたグリースとの総量(体積)よりも大きくなる様に、ハブ側円筒面部76の母線長さL
5を規制している。尚、ハブ側円錐面部79の母線の、ハブ本体7dの中心軸に対する傾斜角度をθとすると、L
3=L
5・cosθの関係にある。ハブ側円錐面部79の母線の傾斜角度θは、適宜決定する事ができる。
【0084】
以上の様に、第7実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1gに、上述の様な構成を有するハブ側円錐面部79を形成している理由は、前述した第6実施形態の車輪支持用転がり軸受ユニット1fにハブ側円筒面部76を形成している理由と同様である。
特に、第7実施形態の場合には、ハブ側円錐面部79を、軸方向に内側に向かうほど外径が大きくなる部分円錐面状に形成している為、ハブ側円錐面部79の外周面に付着したグリースを、遠心力により稜部22a側に移動させ易くできる。この結果、このグリースが、ハブ本体7dの連続部21b側に移動して、連続面21b及び薄肉部(第2部分)20aの軸方向内側面を伝って外部に漏洩する事の防止を図れる。
第7実施形態の場合も、ハブ側円錐面部79の軸方向外端縁が、非接触シールリップ47bの軸方向外端縁(先端縁)よりも軸方向内側に位置している為、ハブ側円錐面部79の外周面に付着したグリースが飛散した場合でも、非接触シールリップ47bの内周面に形成されたグリース溜まり部51aにより、このグリースが外部に飛散する事の防止を図れる。その他の構成及び作用・効果は、前述した第1実施形態と同様である。
【0085】
なお、薄肉部と厚肉部とを備えた回転側フランジは、前述した第1実施形態〜第4実施形態の様に、一体の部材により構成する事もできるし、前述した第5実施形態の様に別体に設けた部材同士(フランジ本体、摺動環)を組み合わせる事により構成する事もできる。
又、シール装置の構造に関して、漏洩防止機能を備えたシールリップ(漏洩防止シールリップ)、及び飛散防止機能を備えたシールリップ(飛散防止シールリップ)以外のシールリップの構造(位置、形状、個数等)は特に限定されるものではない。漏洩防止機能を備えたシールリップ、及び飛散防止機能を備えたシールリップに関しても、前述した各実施形態の構造に限定されず、適宜採用する事ができる。
又、前述した第1実施形態及び第2実施形態の様に、漏洩防止機能を備えたシールリップと、飛散防止機能を備えたシールリップとを別々のシールリップとして構成する事ができる。一方、前述した第3実施形態〜第5実施形態の様に、漏洩防止機能を備えたシールリップと、飛散防止機能を備えたシールリップとを同一のシールシップとして構成する事もできる。尚、漏洩防止機能を備えたシールリップ、及び飛散防止機能を備えたシールリップは、何れも複数本設ける事もできる。
【0086】
一実施形態に係る車輪支持用転がり軸受ユニットは、外輪と、ハブと、複数の転動体と、シール装置とを備えている。
外輪は、内周面に外輪軌道を有し、使用状態で懸架装置に支持されて回転しない。
ハブは、外周面に内輪軌道を有し、外輪の内側に外輪と同心に配置され、外周面のうちで外輪の軸方向外端部よりも軸方向外方に突出した部分に車輪を支持する為の回転側フランジが形成されている。
各転動体は、外輪軌道と内輪軌道との間に、転動自在に設けられている。
シール装置は、外輪の軸方向外端部に支持固定された状態で、外輪の内周面とハブの外周面との間に存在する内部空間の軸方向外端開口部を塞ぐ状態で設けられている。
回転側フランジは、径方向内側に形成された厚肉部と、厚肉部よりも径方向外側に形成された薄肉部とを有している。厚肉部の軸方向内側面が、薄肉部の軸方向内側面よりも軸方向内側に位置している。
シール装置は、その先端部が、回転側フランジの軸方向内側面に全周にわたり締め代を持った状態で摺接した漏洩防止機能を備えたシールリップと、その軸方向中間部が、厚肉部の軸方向内側面と、薄肉部の軸方向内側面との間に存在する微分不可能な部分よりも径方向外方で、且つこの微分不可能な部分と径方向に重畳した状態で存在する事により、外部空間に内部空間に封入されたグリースが飛散する事を防止する為の飛散防止機能を備えたシールリップとを、別々の又は同一のシールリップとして備えている。
【0087】
上記実施形態では、追加的に、シール装置を、内側シールリングと、内側シールリングよりも径方向に関して外側に設けられた外側シールリングとにより構成する事ができる。
この様な構成を採用した場合には、具体的に、内側シールリングに、漏洩防止機能を備えたシールリップを設ける構成を採用できる。そして、漏洩防止機能を備えたシールリップの先端部を、厚肉部の軸方向内側面に全周にわたり締め代を持った状態で摺接させる構成を採用できる。
又、この様な構成を採用すると共に、外側シールリングに、飛散防止機能を備えたシールリップを設け、飛散防止機能を備えたシールリップの先端部を、回転側フランジの軸方向内側面のうち、微分不可能な部分よりも径方向に関して外側に位置する部分に近接対向させる構成を採用できる。
【0088】
上記実施形態では、追加的に、飛散防止機能を備えたシールリップを、外側シールリングに設けられた外側シールリップと、外側シールリングのうちの外側シールリップよりも径方向内側に設けられた内側シールリップとにより構成する事ができる。
この様な構成を採用した場合には、具体的に、外側シールリップの先端部、及び内側シールリップの先端部を、回転側フランジの軸方向内側面のうち、微分不可能な部分よりも径方向に関して外側に位置する部分に近接対向させる構成を採用できる。
【0089】
上記実施形態では、追加的に、漏洩防止機能を備えたシールリップであると共に、飛散防止機能を備えたシールリップでもある一本のサイドリップを設ける構成を採用できる。
この様な構成を採用した場合には、具体的に、サイドリップの軸方向中間部と、微分不可能な部分とを径方向に重畳させる構成を採用できる。
この様な構成を採用した場合には、具体的に、サイドリップの先端部を、回転側フランジの軸方向内側面のうち、微分不可能な部分よりも径方向に関して外側となる部分に、全周にわたり締め代を持った状態で摺接させる構成を採用できる。
【0090】
上記実施形態では、追加的に、回転側フランジを、フランジ本体と、このフランジ本体の基端部の軸方向内側面に設けられた環状部材とにより構成する事ができる。
この様な構成を採用した場合には、具体的に、厚肉部を、フランジ本体の基端部と環状部材とにより構成する事ができる。又、薄肉部を、フランジ本体のうちの、環状部材よりも径方向外方に位置する部分により構成する事ができる。
更に、微分不可能な部分を、環状部材の径方向外端部により構成する事ができる。
【0091】
上記実施形態では、外輪の内周面とハブの外周面との間に存在する内部空間の軸方向外端開口部を塞ぐシール装置(シールリング)が、その先端部が、回転側フランジの軸方向内側面に、全周にわたり締め代を持った状態で摺接した漏洩防止機能を備えたシールリップと、その軸方向中間部が、厚肉部の軸方向内側面と、薄肉部の軸方向内側面との間に存在する微分不可能な部分よりも径方向外方で、且つ微分不可能な部分と径方向に重畳した状態で存在する事により、内部空間に封入されたグリースが飛散する事を防止する為の飛散防止機能を備えたシールリップとを、別々の又は同一のシールリップとして設けている。この為、転動体が配置された空間の軸方向外端開口部を塞ぐシール装置から、グリースが漏洩してディスクブレーキを構成するロータに付着することを効果的に防止できる。
【実施例】
【0092】
以下に本発明を実施例により説明するが、本発明は実施例に限定されない。
<試験条件>
図14は、実施例の試験用サンプルを示す図である。試験用サンプルの稜部(角部)22aの断面形状は直角とし、稜部22aにR面を設けた。稜部22aのR寸法とハブ側円筒面部76の直径Dとをパラメータとして、
図11に示すハブ本体7cと同じ形状を有するサンプルを製作した。
外側シールリップ41cがハブ本体7cの軸方向内側面に当接(摺接)する位置に、外側シールリップ41cに塗布されるグリースと同量のグリースを塗布した。塗布したグリースは、鉱油−ジウレア系の稠度2番のホイール用グリースであった。塗布したグリースは、内部空間16に封入されるグリースとして、車輪軸受ユニットに広く用いられるグリースであった。
グリースが塗布されたハブ本体7cを所定の回転速度で24時間回転した。その後、グリースが稜部22aで振り切られた(稜部22aからグリースが飛散した)か、グリースがハブ側円筒面部76に移動したかを観察した。サンプルの回転速度として、100km/h、120km/h、140km/hの車両速度に相当する回転速度を検討した。
【0093】
<試験結果>
車両速度100km/hに相当する回転速度では、いずれのサンプルでもグリースの移動量が少なく、グリースは稜部22aに到達しなかった。すなわち、グリースは、ほとんど動かなかった。
車両速度120km/hに相当する回転速度では、
図15Aに示す試験結果が得られた。
車両速度140km/hに相当する回転速度では、
図15Bに示す試験結果が得られた。
ハブ側円筒面部76の直径Dが大きいハブ本体7c、すなわち比較的大型の車両に組み付けられる車輪軸受ユニットの場合、装着されるタイヤの径寸法が大きい為、ハブ本体7cの回転速度は低くなる。一方、ハブ側円筒面部76の直径Dが小さい車輪軸受ユニットは比較的小型の車両に組み付けられる為、装着されるタイヤの径寸法が小さく、ハブ本体7cの回転速度は高くなる。この様に、車両速度が同じであっても、装着されるタイヤ径によりハブ本体7cの回転速度は変化する為、ハブ側円筒面部76の直径Dと、グリースに作用する遠心力(振り切り又は移動)との相関は弱い。
図15A及び
図15Bの試験結果から、グリースが稜部22aで振り切られるか、グリースがハブ側円筒面部76に移動するかは、稜部22aのR寸法に依存することが判った。
回転速度が低いとグリースが移動せず、回転速度が高いとグリースが振り切りやすいことが判った。グリースが動く最小回転速度で、グリースを振り切ることができる稜部22aのR寸法が、0.5mmであることが判った。
なお、上記数値は一例であり、限定されない。稜部22aのR寸法は、条件に応じて変更可能である。また、稜部22aは、実質的にR面を有しない形状を有することも可能である。