(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転中心軸となるジャーナル部と、このジャーナル部に対して偏心したピン部と、前記ジャーナル部と前記ピン部をつなぐ複数のクランクアーム部と、を備え、レシプロエンジンに搭載されるクランク軸であって、
前記複数のクランクアーム部の全部又は一部はカウンターウエイト部を一体で有し、
前記カウンターウエイト部を有する前記複数のクランクアーム部のうちの全部又は一部は、前記クランクアーム部の前記ピン部側の表面に肉抜き部を備え、
前記肉抜き部の2つの側部のうちの少なくとも一方に、前記クランクアーム部の輪郭に沿ってリブ部が設けられ、
前記リブ部の前記カウンターウエイト部側の端部は、前記肉抜き部の前記カウンターウエイト部側の端につながっていない、レシプロエンジンのクランク軸。
【背景技術】
【0002】
レシプロエンジンは、シリンダ(気筒)内でのピストンの往復運動を回転運動に変換して動力を取り出すため、クランク軸を必要とする。クランク軸は、型鍛造によって製造されるものと、鋳造によって製造されるものとに大別される。特に、気筒数が2以上の多気筒エンジンには、強度と剛性に優位な前者の型鍛造クランク軸が多用される。
【0003】
図1及び
図2は、一般的な多気筒エンジン用クランク軸の一例を模式的に示す側面図である。
図1及び
図2に示すクランク軸1は、4気筒エンジンに搭載されるものであり、5つのジャーナル部J1〜J5、4つのピン部P1〜P4、フロント部Fr、フランジ部Fl、及びジャーナル部J1〜J5とピン部P1〜P4をそれぞれつなぐ8枚のクランクアーム部(以下、単に「アーム部」ともいう)A1〜A8を備える。
【0004】
図1に示すクランク軸1は、8枚の全てのアーム部A1〜A8にカウンターウエイト部(以下、単に「ウエイト部」ともいう)W1〜W8を一体で有する。このクランク軸1は4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸と称される。
【0005】
以下では、ジャーナル部J1〜J5、ピン部P1〜P4、アーム部A1〜A8及びウエイト部W1〜W8のそれぞれを総称するとき、その符号は、ジャーナル部で「J」、ピン部で「P」、アーム部で「A」、ウエイト部で「W」とも記す。ピン部P及びこのピン部Pにつながる一組のアーム部A(ウエイト部Wを含む)をまとめて「スロー」ともいう。
【0006】
図2に示すクランク軸1は、8枚のアーム部A1〜A8のうち、先頭の第1アーム部A1、最後尾の第8アーム部A8、及び中央の2枚のアーム部A(第4アーム部A4、第5アーム部A5)に、ウエイト部Wを一体で有する。残りの第2、3、6及び7アーム部A2、A3、A6及びA7は、ウエイト部を有しない。このクランク軸1は4気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸と称される。
【0007】
ジャーナル部J、フロント部Fr及びフランジ部Flは、クランク軸1の回転中心と同軸上に配置される。ピン部Pは、クランク軸1の回転中心からピストンストロークの半分の距離だけ偏心して配置される。ジャーナル部Jは、すべり軸受けによってエンジンブロックに支持され、回転中心軸となる。ピン部Pには、すべり軸受けによってコネクティングロッド(以下、「コンロッド」ともいう)の大端部が連結され、このコンロッドの小端部にピストンが連結される。フロント部Frは、クランク軸1の前端部である。フロント部Frには、タイミングベルト、ファンベルト等を駆動するためのダンパプーリ2が取り付けられる。フランジ部Flは、クランク軸1の後端部である。フランジ部Flには、フライホイール3が取り付けられる。
【0008】
エンジンにおいて、各シリンダ内で燃料が爆発する。その爆発による燃焼圧は、ピストン及びコンロッドを介してクランク軸1のピン部Pに作用する。その際、エンジンブロックに固定された軸受けによってジャーナル部Jが支持されている。そのため、ピン部Pとジャーナル部Jをつなぐアーム部Aは、曲げ荷重及びねじり荷重を受ける。これにより、クランク軸1は、各種の荷重に応じた弾性変形を繰り返しながら回転する。
【0009】
クランク軸1の弾性変形が大きいと、ジャーナル部Jを支持する軸受け内で油膜厚さが大きく変化する。これにより、軸受けで焼き付きが起こるかもしれない。更に、ジャーナル部の回転を阻害する抵抗が上昇し、燃費性能が悪化するかもしれない。そのため、クランク軸1の弾性変形は小さい方がよい。
【0010】
ここで、クランク軸1の弾性変形の大きさは、クランク軸1(特にアーム部A)の剛性によって決まる。弾性変形は小さい方がよいため、剛性は高い方がよい。ただし、一般には、クランク軸1の剛性を高めると、クランク軸1の重量が増加する。
【0011】
クランク軸1のアーム部Aの剛性を高めることと軽量化を図ることは、トレードオフの関係にある。両者の要請を同時に達成するために、従来からアーム部形状に関する技術が様々提案されている。従来技術としては下記のものがある。
【0012】
特開2010−255834号公報(特許文献1)は、アーム部のピン部側の表面に肉抜き部を備えたクランク軸を開示する。
図3A及び
図3Bは、特許文献1に開示されたクランク軸におけるアーム部形状の一例を模式的に示す図である。これらの図のうち、
図3Aは側面図を示し、
図3Bはピン部側からの軸方向視での正面図を示す。肉抜き部10は、アーム部Aの幅方向の全域にわたり設けられる。
【0013】
特開2000−320531号公報(特許文献2)は、アーム部の肉抜き部に補強リブ部を備えたクランク軸を開示する。補強リブ部は、ジャーナル部Jの軸心Jcとピン部Pの軸心Pcとを結ぶ直線Ac(以下、「アーム部中心線」ともいう)上に設けられる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】
図1は、一般的な多気筒エンジン用クランク軸の一例を模式的に示す側面図である。
【
図2】
図2は、一般的な多気筒エンジン用クランク軸の他の一例を模式的に示す側面図である。
【
図3A】
図3Aは、特許文献1に開示されたクランク軸におけるアーム部形状の一例を模式的に示す図であって、側面図を示す。
【
図3B】
図3Bは、特許文献1に開示されたクランク軸におけるアーム部形状の一例を模式的に示す図であって、ピン部側からの軸方向視での正面図を示す。
【
図4】
図4は、アーム部の曲げ剛性の評価法を説明するための模式図である。
【
図5A】
図5Aは、アーム部のねじり剛性の評価法を説明するための模式図であって、1スローの側面図を示す。
【
図5B】
図5Bは、アーム部のねじり剛性の評価法を説明するための模式図であって、1スローの軸方向視での正面図を示す。
【
図6A】
図6Aは、アーム部を単純な円板とみなした場合の典型例を示す図であって、矩形断面円板を示す。
【
図6B】
図6Bは、アーム部を単純な円板とみなした場合の典型例を示す図であって、凸型断面円板を示す。
【
図6C】
図6Cは、アーム部を単純な円板とみなした場合の典型例を示す図であって、凹型断面円板を示す。
【
図7A】
図7Aは、アーム部の断面形状を単純化しアーム部を単純な梁とみなした場合の典型例を示す図であって、矩形断面梁を示す。
【
図7B】
図7Bは、アーム部の断面形状を単純化しアーム部を単純な梁とみなした場合の典型例を示す図であって、凸型断面梁を示す。
【
図7C】
図7Cは、アーム部の断面形状を単純化しアーム部を単純な梁とみなした場合の典型例を示す図であって、凹型断面梁を示す。
【
図8】
図8は、曲げ剛性とねじり剛性に直接関連する断面2次モーメント及び極2次モーメントについて、断面形状に応じて大小関係をまとめた図である。
【
図9A】
図9Aは、第1実施形態のクランク軸におけるアーム部形状の一例を模式的に示す図であって、側面図を示す。
【
図9B】
図9Bは、第1実施形態のクランク軸におけるアーム部形状の一例を模式的に示す図であって、ピン部側からの軸方向視での正面図を示す。
【
図10A】
図10Aは、第1実施形態のクランク軸におけるアーム部形状の一例を模式的に示す図であって、側面図を示す。
【
図10B】
図10Bは、第2実施形態のクランク軸におけるアーム部形状の一例を模式的に示す図であって、ピン部側からの軸方向視での正面図を示す。
【
図11A】
図11Aは、第3実施形態のクランク軸におけるアーム部形状の一例を模式的に示す図であって、側面図を示す。
【
図11B】
図11Bは、第3実施形態のクランク軸におけるアーム部形状の一例を模式的に示す図であって、ピン部側からの軸方向視での正面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明のレシプロエンジンのクランク軸について、その実施形態を詳述する。
【0021】
本発明の実施形態によるクランク軸は、回転中心軸となるジャーナル部と、このジャーナル部に対して偏心したピン部と、ジャーナル部とピン部をつなぐ複数のクランクアーム部と、を備える。複数のクランクアーム部の全部又は一部はカウンターウエイト部を一体で有する。カウンターウエイト部を有する複数のクランクアーム部のうちの全部又は一部のピン部側の表面に肉抜き部を備える。肉抜き部の2つの側部のうちの少なくとも一方に、アーム部の輪郭に沿ってリブ部が設けられる。
【0022】
本実施形態によれば、カウンターウエイト部を有するクランクアーム部のピン部側の表面に肉抜き部が設けられ、この肉抜き部の2つの側部のうちの少なくとも一方にリブ部が設けられる。そのため、アーム部の側部がリブ部によって厚肉化され、その側部の内側の領域が肉抜き部によって薄肉化される。その結果、クランク軸の軽量化とともに、曲げ剛性及びねじり剛性の向上を実現できる。
【0023】
上記のクランク軸において、リブ部が肉抜き部の2つの側部のそれぞれに設けられることが好ましい。この場合、クランク軸の曲げ剛性及びねじり剛性がより向上する。
【0024】
上記のクランク軸が次の構成を含むことが好ましい。リブ部は、肉抜き部のピン部側の端から、クランク軸の回転中心よりもカウンターウエイト部寄りの位置まで延びる。クランクアーム部を側面から見たとき、リブ部のカウンターウエイト部側の端部は、ジャーナル部の軸心の位置から、ジャーナル部の外周とクランクアーム部との交点のうちでカウンターウエイト部に最も近い点の位置までの範囲に存在する。この場合、リブ部による重量の増加を抑えつつ、曲げ剛性及びねじり剛性の向上を期待できる。
【0025】
上記のクランク軸が次の構成を含むことが好ましい。クランクアーム部を側面から見たとき、リブ部の頂面は、ピン部の外周とクランクアーム部との交点のうちでカウンターウエイト部に最も近い点と、ジャーナル部の外周とクランクアーム部との交点のうちでカウンターウエイト部に最も近い点と、を結ぶ直線と平行である。この場合、高い曲げ剛性を確保しつつ、重量の増加を抑えることができる。
【0026】
1.クランク軸の設計で考えるべき基本技術
1−1.アーム部の曲げ剛性
図4は、アーム部の曲げ剛性の評価法を説明するための模式図である。
図4に示すように、クランク軸の各スローについて、シリンダ内での爆発による燃焼圧の荷重Fは、コンロッドを経由してピン部Pに負荷される。このとき、各スローは両端のジャーナル部Jが軸受けによって支持されているので、荷重Fはピン部Pからアーム部Aを介してジャーナル軸受けに伝わる。これにより、アーム部Aは3点曲げの荷重負荷状態となり、アーム部Aに曲げモーメントMが作用する。これに伴って、アーム部Aには、板厚方向の外側(ジャーナル部J側)で圧縮応力が発生し、それとは反対の内側(ピン部P側)では引張応力が発生する。
【0027】
ピン部P及びジャーナル部Jの各直径が設計諸元として決定されている場合、アーム部Aの曲げ剛性は、各スローのアーム部形状に依存する。ウエイト部Wは曲げ剛性にほとんど寄与しない。このとき、ピン部Pの軸方向中央における燃焼圧負荷方向の変位uは、下記の式(1)に示すように、ピン部Pに負荷される燃焼圧の荷重Fに比例し、曲げ剛性に反比例する関係にある。
u ∝ F/(曲げ剛性) …(1)
【0028】
1−2.アーム部のねじり剛性
図5A及び
図5Bは、アーム部のねじり剛性の評価法を説明するための模式図である。これらの図のうち、
図5Aは1スローの側面図を示し、
図5Bはその1スローの軸方向視での正面図をそれぞれ示す。クランク軸はジャーナル部Jを中心に回転運動をしているので、ねじりトルクTが発生する。
【0029】
ピン部P及びジャーナル部Jの各直径が設計諸元として決定されている場合、アーム部Aのねじり剛性は、各スローのアーム部形状に依存する。ウエイト部Wはねじり剛性にほとんど寄与しない。このとき、ジャーナル部Jのねじれ角γは、下記の式(2)に示すように、ねじりトルクTに比例し、ねじり剛性に反比例する関係にある。
γ ∝ T/(ねじり剛性) …(2)
【0030】
2.本実施形態のクランク軸
2−1.アーム部剛性向上のための考え方
上述のとおり、ウエイト部は曲げ剛性とねじり剛性にほとんど寄与しない。そこで、本実施形態では、軽量で曲げ剛性とねじり剛性が同時に向上するアーム部形状を提示する。
【0031】
2−1−1.ねじり剛性を向上させる形状
ここでは、材料力学の理論に基づいて、ねじり剛性を向上させるための典型的な形状を検討する。アーム部Aについて、重量を維持しつつねじり剛性を向上させるには、極2次モーメントを大きくすることが有効である。
【0032】
図6A〜
図6Cは、材料力学的にねじり剛性の観点からアーム部を単純な円板とみなした場合の典型例を示す図である。これらの図のうち、
図6Aは矩形断面円板を示し、
図6Bは凸型断面円板を示し、
図6Cは凹型断面円板を示す。いずれの図でも、上段が斜視図を示し、下段が断面図を示す。
図6Aに示す矩形断面円板、
図6Bに示す凸型断面円板、及び
図6Cに示す凹型断面円板の各重量は、同一としている。すなわち、これらの円板は、断面形状が矩形、凸型及び凹型と互いに異なっているが、それらの体積は同一である。
【0033】
具体的には、
図6Aに示す矩形断面円板の断面形状は、矩形であり、厚みがH
0で直径がB
0である。
図6Bに示す凸型断面円板の断面形状は、中央部が外周部よりも突出した凸型であり、最外周の直径がB
0である。その中央部は、突出した分の厚みがH
2で直径がB
2であり、その外周部は厚みがH
1である。
図6Cに示す凹型断面円板の断面形状は、中央部が外周部よりも窪んだ凹型であり、最外周の直径がB
0である。その中央部は、厚みがH
1で窪みの深さがH
3であり、窪みの直径がB
3である。
【0034】
これらの円板のねじり剛性の大小関係について、重量を同一とした条件下で調べる。一般に、材料力学の理論によれば、ねじり剛性と極2次モーメントとねじれ角の間には、下記の式(3)〜式(5)で表される関係がある。これらの式の関係より、極2次モーメントを大きくすることが、ねじり剛性の向上に有効である。
【0035】
ねじり剛性:G×J/L …(3)
極2次モーメント:J=(π/32)×d
4 …(4)
ねじれ角:γ=T×L/(G×J) …(5)
式(3)〜式(5)中、L:軸方向長さ、G:横弾性率、d:丸棒の半径、T:ねじりトルクである。
【0036】
図6A〜
図6Cに示す3種の円板において、重量が同一という条件は、体積が同一であるという条件を意味する。このため、それらの3種の円板の各寸法パラメータに関して下記の式(6)の関係がある。
(π/4)×B
0×B
0×H
0=(π/4)×(B
0×B
0×H
1+B
2×B
2×H
2)=(π/4)×{B
0×B
0×(H
1+H
3)−B
3×B
3×H
3)} …(6)
【0037】
そして、3種の円板それぞれの極2次モーメントは、厚みを考慮して、下記の式(7)〜式(9)で表される。
矩形断面円板の極2次モーメント:
J
(A)=(π/32)×H
0×B
04 …(7)
【0038】
凸型断面円板の極2次モーメント:
J
(B)=(π/32)×(H
1×B
04+H
2×B
24) …(8)
【0039】
凹型断面円板の極2次モーメント:
J
(C)=(π/32)×{(H
1+H
3)×B
04−H
3×B
34} …(9)
【0040】
これらの式(7)〜(9)から、矩形断面円板の極2次モーメントJ
(A)、凸型断面円板の極2次モーメントJ
(B)及び凹型断面円板の極2次モーメントJ
(C)の大小関係は、下記の式(10)で示すとおりになる。
J
(B) < J
(A) < J
(C) …(10)
【0041】
この式(10)が材料力学から理論的に導かれる結論である。この結論は、定性的に言えば、ねじりの中心からの距離が遠いところに多くの部材が配置される断面形状の方が、極2次モーメントが高くなる、という材料力学的な考察から理解できる。
【0042】
したがって、ねじり荷重に対しては、凹型断面円板が最も好ましい形状であると言える。凸型断面円板、矩形断面円板、及び凹型断面円板の順序で、ねじり剛性が高くなるからである。
【0043】
2−1−2.曲げ剛性を向上させる形状
ここでは、材料力学の理論に基づいて、曲げ剛性を向上させるための典型的な形状を検討する。アーム部Aについて、重量を維持しつつ曲げ剛性を向上させるには、曲げに対する断面2次モーメントを大きくすることが効率的である。
【0044】
図7A〜
図7Cは、材料力学的に曲げ剛性の観点からアーム部の断面形状を単純化しアーム部を単純な梁とみなした場合の典型例を示す図である。これらの図のうち、
図7Aは矩形断面梁を示し、
図7Bは凸型断面梁を示し、
図7Cは凹型断面梁を示す。いずれの図でも、上段が斜視図を示し、下段が断面図を示す。
図7Aに示す矩形断面梁、
図7Bに示す凸型断面梁、及び
図7Cに示す凹型断面梁の各重量は、同一としている。すなわち、これらの梁は、断面形状が矩形、凸型及び凹型と互いに異なっているが、それらの断面の面積は同一である。
【0045】
具体的には、
図7Aに示す矩形断面梁の断面形状は、矩形であり、厚みがH
0で幅がB
3である。
図7Bに示す凸型断面梁の断面形状は、中央部が両側部よりも突出した凸型であり、全幅がB
3である。その中央部は、厚みがH
2で幅がB
2であり、その両側部はそれぞれ厚みがH
1で幅がB
1/2である。
図7Cに示す凹型断面梁の断面形状は、中央部が両側部よりも窪んだ凹型であり、全幅がB
3である。その中央部は、厚みがH
1で幅がB
1であり、その両側部はそれぞれ厚みがH
2で幅がB
2/2である。
【0046】
これらの梁の曲げ荷重に対する剛性の大小関係について、重量を同一とした条件下で調べる。一般に、材料力学の理論から、矩形梁の曲げ剛性と断面2次モーメントの関係は下記の式(11)〜式(13)で表される。これらの式の関係より、断面2次モーメントを大きくすることが、曲げ剛性を高めることになる。
【0047】
曲げ剛性:E×I …(11)
断面2次モーメント:I=(1/12)×b×h
3 …(12)
たわみ変位:u=k(M/(E×I)) …(13)
式(11)〜(13)中、b:幅、h:厚み、E:縦弾性率、M:曲げモーメント、k:形状係数である。
【0048】
図7A〜
図7Cに示す3種の梁において、重量が同一という条件は、体積が互いに同一、すなわち断面の面積が互いに同一であるという条件を意味する。このため、それらの3種の梁の各寸法パラメータに関して下記の式(14)の関係がある。
B
3×H
0=(H
2×B
2+B
1×H
1)=(H
2×B
2+B
1×H
1) …(14)
【0049】
そして、3種の梁それぞれの断面2次モーメントは、下記の式(15)〜式(17)で表される。
矩形断面梁の断面2次モーメント:
I
(D)=(1/12)×B
3×H
03 …(15)
【0050】
凸型断面梁の断面2次モーメント:
I
(E)=1/3×(B
3×E
23−B
1×H
33 +B
2×E
13) …(16)
この式中、
E
2は「(B
2×H
22+B
1×H
12)/{2×(B
2×H
2+B
1×H
1)}」、
E
1は「H
2−E
2」、
H
3は「E
2−H
1」である。
【0051】
凹型断面梁の断面2次モーメント:
I
(F)=1/3×(B
3×E
23−B
1×H
33 +B
2×E
13) …(17)
この式中、
E
2は「(B
2×H
22+B
1×H
12)/{2×(B
2×H
2+B
1×H
1)}」、
E
1は「H
2−E
2」、
H
3は「E
2−H
1」である。
【0052】
上記式(16)と上記式(17)は形が同じである。これは、重量が同一という条件下では、凸型断面梁の断面2次モーメントI
(E)と凹型断面梁の断面2次モーメントI
(F)が同じになることを示している。
【0053】
要するに、矩形断面梁の断面2次モーメントI
(D)、凸型断面梁の断面2次モーメントI
(E)及び凹型断面梁の断面2次モーメントI
(F)の大小関係は、下記の式(18)で示すとおりになる。
I
(D) < I
(E) = I
(F) …(18)
【0054】
この式(18)が材料力学から理論的に導かれる結論である。この結論は、定性的に言えば、曲げの中立面からの距離が遠いところに、多くの部材が配置される断面形状の方が、断面2次モーメントが高くなる、という材料力学的な考察から理解できる。
【0055】
したがって、曲げ荷重に対しては、凸型断面梁又は凹型断面梁が好ましい形状であると言える。アーム部の一部が厚肉化された凸型断面梁と凹型断面梁は同等の曲げ剛性を有し、それらの曲げ剛性は矩形断面梁の曲げ剛性よりも高いからである。
【0056】
2−1−3.曲げ剛性とねじり剛性を向上させる形状のまとめ
図8は、曲げ剛性とねじり剛性に直接関連する断面2次モーメント及び極2次モーメントについて、断面形状に応じて大小関係をまとめた図である。
図8では、前記
図6A〜
図6C及び
図7A〜
図7Cに示す矩形断面、凸型断面及び凹型断面の断面形状ごとに、極2次モーメント及び断面2次モーメントを、矩形断面を基準「1」とした比率で表示している。
【0057】
図8に示す結果から、アーム部の曲げ剛性とねじり剛性を向上させるための有効な手段として、アーム部の厚みを厚肉化することが効率的であると言える。とりわけ、断面形状が凹型であれば曲げ剛性及びねじり剛性が向上すると言える。
【0058】
2−2.本実施形態のクランク軸の概要
本実施形態によるクランク軸は、アーム部のピン部側の表面に肉抜き部を備える。肉抜き部を備えるアーム部は、ウエイト部を有する複数のアーム部のうちの全部であってもよいし、一部であってもよい。更に、肉抜き部のアーム部中心線上ではなく、肉抜き部の2つの側部に、それぞれリブ部を備える。これにより、アーム部は、2つの側部がリブ部によって厚肉化され、その内側の領域が肉抜き部によって薄肉化される。このようなアーム部の断面形状は凹型となる。したがって、本実施形態によるクランク軸によれば、軽量化とともに、曲げ剛性及びねじり剛性の向上を実現できる。
【0059】
本実施形態によるクランク軸は、肉抜き部の2つの側部のうちの一方にリブ部を備えてもよい。これにより、アーム部は、1つの側部がリブ部によって厚肉化される。このような場合であっても、軽量化とともに、曲げ剛性及びねじり剛性の向上を実現できる。ただし、曲げ剛性及びねじり剛性の向上をより効果的に得るためには、肉抜き部の2つの側部にそれぞれリブ部を備えることが好ましい。
【0060】
2−3.具体例
[第1実施形態]
図9A〜
図9Eは、第1実施形態のクランク軸におけるアーム部形状の一例を模式的に示す図である。これらの図のうち、
図9Aは側面図を示し、
図9Bはピン部側からの軸方向視での正面図を示す。
図9Cは
図9BのIXC−IXC断面図を示し、
図9Dは
図9BのIXD−IXD断面図を示し、
図9Eは
図9BのIXE−IXE断面図を示す。
図9B及び
図9CのIXC−IXC断面は、ジャーナル部Jの軸心Jcとピン部Pの軸心Pcとを結ぶアーム部中心線Acに垂直な断面であって、クランク軸の回転中心(ジャーナル部Jの軸心Jc)を通る断面である。
図9B及び
図9DのIXD−IXD断面は、IXC−IXC断面と平行でクランク軸の回転中心よりもピン部P寄りの断面である。
図9B及び
図9EのIXE−IXE断面は、IXC−IXC断面と平行でクランク軸の回転中心よりもウエイト部W寄りの断面である。第1実施形態のクランク軸は、4気筒−8枚カウンターウエイトのクランク軸であってもよいし、4気筒−4枚カウンターウエイトのクランク軸であってもよい。
【0061】
図9A〜
図9Eに示すように、第1実施形態では、ウエイト部Wを有するアーム部Aのピン部P側の表面に、アーム部Aの幅方向(アーム部中心線Acに垂直な方向)の全域にわたり肉抜き部10が設けられる。ただし、その肉抜き部10の幅方向の2つの側部のそれぞれには、アーム部Aの輪郭に沿ってリブ部11が設けられる。肉抜き部10のウエイト部W側の端部の領域はアーム部Aの側部まで広がっており、この領域にはリブ部11が延びていない(
図9E参照)。つまり、リブ部11は、肉抜き部10のピン部P側の端から、クランク軸の回転中心よりもウエイト部W寄りの位置まで延びていればよい。
【0062】
例えば、
図9Aに示すように、アーム部Aを側面から見たとき、リブ部11のウエイト部W側の端部11bは、ジャーナル部Jの軸心Jcの位置から、ジャーナル部Jの外周とアーム部Aとの交点のうちでウエイト部Wに最も近い点JBの位置までの範囲に存在する。リブ部11の端部11bが点JBの位置を超えても、剛性の向上は飽和するからである。リブ部11の頂面11aの形状に特に限定はない。ただし、リブ部11の端部11bは肉抜き部10のウエイト部W側の端につながっていない。つまり、リブ部11は肉抜き部10の領域内で途切れている。
【0063】
このような構成により、アーム部Aの2つの側部がリブ部11によって厚肉化され、その側部の内側の領域が肉抜き部10によって薄肉化される。その結果、クランク軸は軽量化され、これと合わせ、クランク軸の曲げ剛性及びねじり剛性はいずれも向上する。また、クランク軸がエンジン内で回転している際、途切れたリブ部11によって潤滑剤が有効に攪拌される。要するに、リブ部11は、剛性の向上に寄与するだけでなく、潤滑剤の攪拌にも寄与する。
【0065】
図10A〜
図10Eに示す第2実施形態のアーム部Aは、前記
図9A〜
図9Eに示す第1実施形態のアーム部Aの構成を基本とし、その構成の一部を変形したものである。第2実施形態では、
図10Aに示すように、ピン部Pの外周とアーム部Aとの交点のうちでウエイト部Wに最も近い点PBと、ジャーナル部Jの外周とアーム部Aとの交点のうちでウエイト部Wに最も近い点JBと、を結ぶ直線LPJを引く。アーム部Aを側面から見たとき、リブ部11の頂面11aは、その直線LPJと平行である。
【0066】
ここで、アーム部Aに曲げ荷重が負荷された場合、アーム部Aでの曲げ荷重の伝達経路は上記直線LPJに沿う。そのため、リブ部11の頂面11aが上記直線LPJと平行であれば、リブ部11が効率よく曲げ荷重を負担できるようになる。
【0067】
このような構成の第2実施形態のアーム部Aであっても、上記した第1実施形態と同様の効果を奏する。しかも、第2実施形態の場合、リブ部11によって高い曲げ剛性を確保しつつ、リブ部11の大きさを最小限に抑えることができる。このため、第2実施形態は、クランク軸全体の更なる軽量化に有効である。
【0068】
[第3実施形態]
図11A〜
図11Eは、第3実施形態のクランク軸におけるアーム部形状の一例を模式的に示す図である。これらの図のうち、
図11Aは側面図を示し、
図11Bはピン部側からの軸方向視での正面図を示す。
図11Cは
図11BのXIC−XIC断面図を示し、
図11Dは
図11BのXID−XID断面図を示し、
図11Eは
図11BのXIE−XIE断面図を示す。
図11B〜
図11EのXIC−XIC断面、XID−XID断面及びXIE−XIE断面は、それぞれ前記
図9B〜
図9EのIXC−IXC断面、IXD−IXD断面及びIXE−IXE断面の位置に対応する。
【0069】
図11A〜
図11Eに示す第3実施形態のアーム部Aは、前記
図9A〜
図9Eに示す第1実施形態のアーム部Aの構成を基本とし、その構成の一部を変形したものである。第3実施形態では、
図11B〜
図11Dに示すように、肉抜き部10の幅方向の2つの側部のうちの一方に、リブ部11が設けられる。
【0070】
このような構成により、アーム部Aの1つの側部がリブ部11によって厚肉化される。この場合であっても、軽量化とともに、曲げ剛性及びねじり剛性の向上を実現できる。第3実施形態の構成は上記の第2実施形態に適用してもよい。
【0071】
本発明のクランク軸は、あらゆるレシプロエンジンに搭載されるクランク軸を対象とする。すなわち、エンジンの気筒数は、2気筒、3気筒、4気筒、6気筒、8気筒及び10気筒のいずれでもよく、更に多いものであってもよい。エンジン気筒の配列も、直列配置、V型配置、対向配置等を特に問わない。エンジンの燃料も、ガソリン、ディーゼル、バイオ燃料等の種類を問わない。また、エンジンとしては、内燃機関と電気モータを複合してなるハイブリッドエンジンも含む。