【実施例】
【0018】
図1は本発明の一実施形態による分取精製装置の概略構成図である。この分取精製装置は、図示しない分取液体クロマトグラフ装置によって分離されてトラップカラムに充填されている吸着剤に捕集された目的成分を、該トラップカラムから回収するための装置である。
【0019】
カラムラック10(本発明における保持手段)は、入口端を下向きに、出口端を上向きにした状態でトラップカラム20を起立保持している。なお、このトラップカラム20には、予め図示しない分取液体クロマトグラフによって分離された目的成分が捕集されている。
【0020】
回収容器ラック30にはトラップカラム20から溶出された目的成分を回収するための回収容器31が収容されている。
【0021】
カラムラック10及び回収容器ラック30の上方には、トラップカラム20からの溶出液を回収容器31に送るための回収ヘッド40が設けられている。回収ヘッド40は回収流路42と該回収流路42の両端にそれぞれ先端を下に向けた状態で接続された溶出液回収ニードル41及び吐出ノズル43を備えている。また、回収流路42には溶出液回収ニードル41から該回収流路42内に流入した液体を廃液口に至る廃液流路46に送るか吐出ノズル43に送るかを切り替えるための排出/回収切替バルブ45(本発明における流路切替手段)が設けられている。なお、回収ヘッド40はそれぞれ図示しない駆動機構によって上下方向(図中のZ軸方向)、前後方向(図中のY軸方向)、及び左右方向(図中のX軸方向)に移動させることができる。
【0022】
低圧バルブ72は、中心に設けられた一つのポートgとその周囲に設けられた5つのポートh〜lを有しており、ポートgをポートh〜lのいずれかに接続すると共に、ポートh〜lのうち隣接するいずれか二つのポート同士を連通させることができる。ポートgはプランジャーポンプ81(本発明における送液手段)の一端に接続され、ポートhはプランジャーポンプ81の他端に接続される。また、ポートiは溶媒切替バルブ78に接続されている。ポートlはトラップカラム20の入口端に接続されている。
【0023】
第1溶媒リザーバ53(本発明における第1溶媒源)には本発明における第1溶媒としてのアセトニトリルが収容されており、第2溶媒リザーバ56(本発明における第2溶媒源)には本発明における第2溶媒としてのジクロロメタンが収容されている。溶媒切替バルブ78はこれらのうちいずれかをプランジャーポンプ81に流入させるように流路を切り替えるものである。
【0024】
CPU等で構成される制御部64は送液制御部64a(本発明における送液制御手段)及び流路制御部64b(本発明における流路制御手段)を有し、これらは予め設定されたプログラムに従って、プランジャーポンプ81(流量又は流速)と排出/回収切替バルブ45をそれぞれ制御する。また、制御部64は、低圧バルブ72、溶媒切替バルブ78等の各バルブの切替動作や図示しない駆動機構の制御などを実行することで分取精製作業を自動的に遂行する。また、操作部65は分取精製作業のための条件などを入力設定するためのものである。なお、図中の制御部64と各機器との接続は破線で示す。
【0025】
本実施形態に係る分取精製装置を用いた目的成分の回収手順について
図1〜3を参照しつつ説明する。
図2は本実施例におけるトラップカラム20、排出/回収切替バルブ45及び溶媒切替バルブ78に対する処理のタイムテーブルの一例である。
【0026】
まず、ユーザが予め目的成分を捕集させたトラップカラム20をカラムラック10にセットする。このトラップカラム20には、本発明における捕集用溶媒としての水が充満した状態となっている。トラップカラム20をセットした後、操作部65から制御部64に処理の開始を指示する。
【0027】
制御部64は図示しない駆動機構を駆動することにより、回収ヘッド40を移動させて溶出液回収ニードル41及び吐出ノズル43をそれぞれトラップカラム20の出口端及び回収容器31に挿入する。このとき、流路制御部64bが排出/回収切替バルブ45を切り替えることにより、溶出液回収ニードル41に流入した液体が廃液流路46を流れるようにしておく。更に、制御部64は低圧バルブ72及び溶媒切替バルブ78を切り替え、送液制御部64aがプランジャーポンプ81を駆動させることにより、第1溶媒リザーバ53内の第1溶媒、ここではアセトニトリル(図中ではCH
3CNと表記)をトラップカラム20の入口端から供給する。
【0028】
トラップカラム20内では、前記アセトニトリルが送液されることにより下端から徐々にアセトニトリルの液面が上昇する(
図3(a))。これによりトラップカラム20内の水も押し上げられるが、アセトニトリルは水との相溶性を有しているため、これらの境界付近では両者が互いに溶解した状態となる。一方、押し上げられた水はトラップカラム20の出口端から溢れ出し、溶出液回収ニードル41及び排出/回収切替バルブ45を経て廃液流路46から外部に排出される。
【0029】
送液制御部64aは、アセトニトリルを所定時間t1だけ送液した後、プランジャーポンプ81による送液を停止し、溶媒切替バルブ78
の入口を第2溶媒リザーバ56に切り替える。そして、再びプランジャーポンプ81を駆動させることにより、トラップカラム20へ第2溶媒(ジクロロメタン(図中ではDCMと表記))の送液を開始する。
【0030】
前記ジクロロメタンがトラップカラム20内に送液されると、ジクロロメタンはアセトニトリルと相溶性を有するため、これらの境界付近では両者が互いに溶解した状態となる。また、前記ジクロロメタンがトラップカラム20内に送液されることにより、トラップカラム20内の水及びアセトニトリルがさらに押し上げられ、水が廃液流路46から外部に排出される(
図3(b))。また、アセトニトリルは溶出力を有するため、トラップカラム20の吸着剤に捕集されていた目的化合物はアセトニトリルに溶出し始める。
【0031】
流路制御部64bは、トラップカラム20内の空隙容積、つまり第2溶媒(ジクロロメタン)を導入し始める直前にトラップカラム20内に溜まっている水及びアセトニトリルの容量と、プランジャーポンプ81によるジクロロメタンの送液流量とを基に、ジクロロメタンの送液開始からアセトニトリルが排出され始めるまでの時間t
Aを予測し、ジクロロメタンの送液開始からの経過時間が該時間t
Aに達したか否かを判定する。また、アセトニトリルには目的成分が溶出しているため、アセトニトリルがトラップカラム20から排出され始めるようになるとほぼ同時に、排出された溶液中に目的成分が含まれ始める(
図3(c))。
【0032】
流路制御部64bはジクロロメタンの送液開始からの経過時間が前記時間tAに達したと判定すると、排出/回収切替バルブ45
の出口を廃液流路46側から吐出ノズル43側に切り替えることでトラップカラム20からの溶出液の回収を開始する(
図2の一点鎖線の時刻)。
【0033】
その後もジクロロメタンを送液し続けることでトラップカラム20内がジクロロメタンで満たされ、トラップカラム20の出口端からジクロロメタンが排出される(
図3(d))。該ジクロロメタンにも目的成分が溶出しているため、回収容器31に回収することで目的成分を回収することができる。
【0034】
そして、送液制御部64aは、トラップカラム20へのジクロロメタンの送液開始からの経過時間が設定時間t2に達したか否かを判定する。設定時間t2は予め設定された値であり、本実施形態では実験や計算で明らかになった、ジクロロメタンの送液開始から、トラップカラム20から目的成分が全て溶出し終えるまでの時間である。制御部64は設定時間t2が経過したと判定すると、プランジャーポンプ81を停止させる。
【0035】
以上のように、本実施形態に係る分取精製装置によれば、トラップカラム20内の水を廃液流路に廃棄しつつ、目的成分を含むアセトニトリル及びジクロロメタンを回収容器に回収することができる。
【0036】
次に、本実施形態に係る分取精製装置を用いて目的成分の溶出プロファイルを調べるために行った実験について説明する。実験は、多孔質ポリマー、具体的には粒子径が20〜30μmのスチレンジビニルベンゼン系ポリマーからなる吸着剤をトラップカラム20に充填し、該吸着剤に目的成分としてのカフェイン100mgを捕集させると共に前記トラップカラム20に捕集用溶媒としての水を満たした状態で行った。この状態で、第1溶媒としてのアセトニトリル、第2溶媒としてのジクロロメタンをそれぞれ0.5mL/minで送液し、溶出液回収ニードルから排出された溶液中の目的成分濃度を検出器で測定した。
【0037】
測定結果を
図4(a)〜(c)に示す。
図4(a)はジクロロメタンのみで溶出した比較実験の測定結果を、
図4(b)、(c)はそれぞれアセトニトリルを1mL、2mLとジクロロメタンを用いて溶出した結果を示す。いずれの図も横軸は経過時間、縦軸は検出器の信号強度を示す。波形に乱れがあるが、これはジクロロメタンを送液した際に吸着剤から発生する気泡によるものである。
図4(a)に示すようにアセトニトリルを使用せずに溶出を行った場合の溶出時間は約80分であるのに対し、
図4(b)に示すように第1溶媒としてアセトニトリルを1mLを使用した場合の溶出時間は約30分、
図4(c)に示すように第1溶媒として2mLのアセトニトリルを使用した場合の溶出時間は約25分であり、溶出時間が大幅に短縮された。これらの測定結果よりアセトニトリルが目的成分の溶出を促進させる効果があることが分かった。
スチレンジビニルベンゼン系ポリマーがアセトニトリルによって膨潤することにより、該ポリマーに捕集されていた目的成分が取れやすい状態になり、この状態で強い溶出力を有するジクロロメタンを流すことにより溶出時間が短縮されたものと思われる。
【0038】
なお、上記実施形態は一例にすぎないから、本発明の趣旨の範囲で適宜変更、修正、追加を行っても本願請求の範囲に包含されることは明らかである。例えば、本実施形態では第2溶媒を送液している状態で回収容器への回収を開始したが、第1溶媒を送液している状態で回収容器への回収を開始してもよい。上記実施形態では第1溶媒の送液時間が短いため、第1溶媒がトラップカラムの出口端から排出される前に第2溶媒の送液を開始しているが、第1溶媒の送液時間が長い場合やトラップカラムの容量が小さい場合には、第1溶媒を送液している状態でトラップカラムから第1溶媒が排出されることがある。このような場合には第1溶媒を送液している状態でも排出/回収切替バルブの切替を行い、第1溶媒を回収容器に回収する。
【0039】
上記実施形態では第1溶媒であるアセトニトリルがトラップカラムの出口端から排出され始めてから回収容器への溶液の回収を開始したが、ジクロロメタンが排出され始めてから溶液の回収を開始してもよい。
捕集用溶媒と第1溶媒は相溶性を有するため、これらの境界付近では互いに溶解した状態となる。第1溶媒の送液量が少ない場合や、第1溶媒に多量の捕集用溶媒が溶解した場合、第1溶媒のほとんどが捕集用溶媒と溶解することになる。この状態で、第1溶媒を回収容器に送液すると回収した溶液中の捕集用溶媒が多くなってしまう。一方で、捕集用溶媒と第2溶媒は相溶性が低いためこれらが溶解することはほとんどない。従って、第1溶媒に多量の捕集用溶媒が溶解している場合には、第2溶媒のみを回収することで、回収した溶液中に捕集用溶媒が含まれることを防ぐことができる。
【0040】
また、上記実施形態では、捕集用溶媒(水)と第1溶媒の境界付近の溶媒つまり、捕集用溶媒と第1溶媒が溶解した溶液を回収していないが、これら溶液がトラップカラムの出口端を通過したときに回収容器への回収を開始してもよい。第1溶媒は目的成分を溶出するため上記の境界付近の溶媒にも目的成分が溶出している。従って、この溶媒を回収することにより目的成分の回収効率をさらに上げることができる。