特許第6443560号(P6443560)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443560
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】分取精製装置及び分取精製方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/80 20060101AFI20181217BHJP
   G01N 30/26 20060101ALI20181217BHJP
   G01N 30/82 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   G01N30/80 F
   G01N30/26 M
   G01N30/26 A
   G01N30/26 E
   G01N30/82
【請求項の数】2
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2017-542774(P2017-542774)
(86)(22)【出願日】2016年5月23日
(86)【国際出願番号】JP2016065218
(87)【国際公開番号】WO2017056547
(87)【国際公開日】20170406
【審査請求日】2018年1月9日
(31)【優先権主張番号】特願2015-196573(P2015-196573)
(32)【優先日】2015年10月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智之
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−164049(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/044427(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0306537(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0258485(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目的成分と捕集用溶媒を含む溶液をトラップカラムに流して該目的成分を該トラップカラム中に捕集し、その後に前記捕集用溶媒とは別の溶媒を前記トラップカラムに流して該トラップカラム中に捕集されている目的成分を回収する分取精製装置において、
a) 前記トラップカラムの入口端が下、出口端が上になるように前記トラップカラムを保持する保持手段と、
b) 前記保持手段に保持された前記トラップカラム中に目的成分が捕集された状態で、該トラップカラム中に残る前記捕集用溶媒に対して相溶性を有し且つ該捕集用溶媒よりも沸点が低い第1溶媒が収容された第1溶媒源、及び前記捕集用溶媒に対して相溶性が低く、前記第1溶媒に対して相溶性が高い溶媒であって該捕集用溶媒及び前記第1溶媒よりも比重が大きく且つ該捕集用溶媒よりも沸点が低い第2溶媒が収容された第2溶媒源に切り替え可能に接続された、前記第1溶媒及び前記第2溶媒のいずれかを前記トラップカラムの入口端に送給する送液手段と、
c) 前記保持手段に保持された前記トラップカラム中に目的成分が捕集され、且つ該トラップカラム中に前記捕集用溶媒が残った状態で、前記送液手段を前記第1溶媒源に所定時間接続して前記第1溶媒を前記トラップカラムに流した後、前記送液手段を前記第2溶媒源に接続して前記第2溶媒を前記トラップカラムに流す送液制御手段と、
d) 前記トラップカラムの出口端を廃液流路と回収流路のいずれかに選択的に接続する流路切替手段と、
e) 前記トラップカラムの出口端から前記捕集用溶媒を含む溶液が排出されているときは該出口端を前記廃液流路に接続し、前記トラップカラムの出口端から前記第2溶媒を含む溶液が排出されているときは該出口端を前記回収流路に接続し、前記トラップカラムの出口端から前記第1溶媒を含む溶液が排出され始めてから前記第2溶媒を含む溶液が排出され始めるまでの間の所定のタイミングで該出口端の接続先を前記廃液流路から前記回収流路に切り替えるように前記流路切替手段を制御する流路制御手段と
を有することを特徴とする分取精製装置。
【請求項2】
目的成分と捕集用溶媒を含む溶液をトラップカラムに流して該目的成分を該トラップカラム中に捕集し、その後に前記捕集用溶媒とは別の溶媒を前記トラップカラムに流して該トラップカラム中に捕集されている目的成分を回収する分取精製方法において、
a) 前記トラップカラムの入口端が下、出口端が上になるように保持されたトラップカラム中に目的成分が捕集された状態で、該トラップカラム中に残る前記捕集用溶媒に対して相溶性を有し、且つ該捕集用溶媒よりも沸点が低い第1溶媒を前記トラップカラムの入口端に所定時間送給し、
b) 続いて、前記捕集用溶媒に対して相溶性が低く、前記第1溶媒に対して相溶性が高い溶媒であって該捕集用溶媒及び該第1溶媒よりも比重が大きく且つ該捕集用溶媒よりも沸点が低い第2溶媒を前記トラップカラムの入口端に送給し、
c) 前記トラップカラムの出口端から前記捕集用溶媒を含む溶液が排出されているときは該溶液を廃液流路に流し、前記トラップカラムの出口端から前記第2溶媒を含む溶液が排出されているときは該溶液を回収流路に流し、前記トラップカラムの出口端から前記第1溶媒を含む溶液が排出され始めてから前記第2溶媒を含む溶液が排出され始めるまでの間の所定のタイミングで該出口端から排出される溶液の流路を前記廃液流路から前記回収流路に切り替えることを特徴とする分取精製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液に含まれる1ないし複数の成分を液体クロマトグラフを利用して分離して回収するための分取精製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
製薬分野においては、化学合成により得られた各種の化合物をライブラリとして保管したり或いは詳細に分析したりするためのサンプルを収集することを目的として、液体クロマトグラフを利用した分取精製システムが使用されている。こうした分取精製システムとして、特許文献1、特許文献2に記載のシステムが知られている。
【0003】
特許文献1、2に記載の分取精製システムでは、試料溶液中の目的成分(化合物)を液体クロマトグラフで時間的に分離することにより目的成分毎に別々のトラップカラムに導入して一旦捕集する。その後、各トラップカラムに溶媒(溶出用溶媒)を流して該カラム内に捕集されている目的成分を溶出することにより該目的成分を高い濃度で含有する溶液を容器(回収容器)に採取し、各溶液について蒸発・乾固処理を行って溶媒を除去することにより目的成分を固形物として回収する。
【0004】
蒸発・乾固処理は、回収した溶液を加熱したり、真空遠心分離したりする等の方法により行われるのが一般的である。しかしながら、こうした方法では、蒸発・乾固処理だけで数時間から1日程度の時間が必要になる。製薬分野では、多くの合成化合物の中から薬効のある化合物を探索する必要があり、そのために分析機器の高速化や分析手法の最適化などにより分析時間を短縮する等、様々な効率化が図られている。蒸発・乾固処理の工程は化合物探索の全工程の中で最も時間がかかる工程の一つであるため、この工程の時間を短縮することは効率化を図る上で重要である。
【0005】
蒸発・乾固処理に時間がかかる要因として、回収容器に採取される溶液に水が混入していることが挙げられる。トラップカラムに捕集されている目的成分を溶出させるための溶媒としては通常、有機溶媒が用いられる。有機溶媒は水に比べると沸点が低く、揮発性が高いため、回収容器に採取される溶液が有機溶媒に目的成分が溶解したものであれば、蒸発・乾固処理にかかる時間は短くて済む。ところが、液体クロマトグラフでは、目的成分は水又は水を主成分とする移動相と共にトラップカラムに導入されて捕集されるのが一般的であるため、目的成分の捕集が終了した時点ではトラップカラム内に水が多く保持された状態となる。このような状態でトラップカラムに有機溶媒を導入して該トラップカラムから目的成分を溶出させても、有機溶媒と目的成分のみをトラップカラムから取り出すことは難しく、回収容器に採取された溶液に水が混入してしまう。
【0006】
これに対して特許文献3には、トラップカラムから目的成分を溶出させるに先立って、該カラム内に保持されている水系の溶媒を排除するようにした分取精製装置が開示されている。この分取精製装置では、トラップカラムに含まれる水系の溶媒よりも大きな比重を持ち、かつ水系溶媒と低相溶性である有機溶媒がトラップカラムから目的成分を溶出するための溶媒(溶出用溶媒)として用いられる。そして、トラップカラムに目的成分が捕集された状態で、トラップカラムの下端から溶出用溶媒を導入する。これにより、溶出用溶媒よりも比重の低い水系溶媒がまず溶出用溶媒に押し上げられて最初にトラップカラムから排出され、その後目的成分が溶出用溶媒に溶解してトラップカラムから排出される。この最初に出てくる水系溶媒を廃棄することで、有機溶媒(溶出用溶媒)のみに目的成分が溶解した溶液を回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-149217号公報
【特許文献2】国際公開WO2009/044425号
【特許文献3】国際公開WO2009/044426号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献3に記載の分取精製装置では、水系溶媒に対して相溶性が低い溶出用溶媒で水系溶媒を押し上げるため、両者の境界付近は水系溶媒に溶出用溶媒が懸濁したエマルションとなる。トラップカラムに捕集されていた目的成分はエマルション中の溶出用溶媒にも溶解しているため、目的成分の回収効率を上げるためには該エマルションを回収容器に採取することが望ましいが、そうすると回収容器に採取する溶液に水が含まれてしまうという問題があった。
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、トラップカラム内に多くの水が残留している状態で溶出力の高い溶媒をトラップカラムに流して該カラムに捕集されている目的成分を溶出させて回収する分取精製装置において、回収溶液に水が混入しないようにしつつ目的成分の回収効率を上げることである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために成された本発明は、目的成分と捕集用溶媒を含む溶液をトラップカラムに流して該目的成分を該トラップカラム中に捕集し、その後に前記捕集用溶媒とは別の溶媒を前記トラップカラムに流して該トラップカラム中に捕集されている目的成分を回収する分取精製装置において、
a) 前記トラップカラムの入口端が下、出口端が上になるように前記トラップカラムを保持する保持手段と、
b) 前記保持手段に保持された前記トラップカラム中に目的成分が捕集された状態で、該トラップカラム中に残る前記捕集用溶媒に対して相溶性を有し且つ該捕集用溶媒よりも沸点が低い第1溶媒が収容された第1溶媒源、及び前記捕集用溶媒に対して相溶性が低く、前記第1溶媒に対して相溶性が高い溶媒であって該捕集用溶媒及び前記第1溶媒よりも比重が大きく且つ該捕集用溶媒よりも沸点が低い第2溶媒が収容された第2溶媒源に切り替え可能に接続された、前記第1溶媒及び前記第2溶媒のいずれかを前記トラップカラムの入口端に送給する送液手段と、
c) 前記保持手段に保持された前記トラップカラム中に目的成分が捕集され、且つ該トラップカラム中に前記捕集用溶媒が残った状態で、前記送液手段を前記第1溶媒源に所定時間接続して前記第1溶媒を前記トラップカラムに流した後、前記送液手段を前記第2溶媒源に接続して前記第2溶媒を前記トラップカラムに流す送液制御手段と、
d) 前記トラップカラムの出口端を廃液流路と回収流路のいずれかに選択的に接続する流路切替手段と、
e) 前記トラップカラムの出口端から前記捕集用溶媒を含む溶液が排出されているときは該出口端を前記廃液流路に接続し、前記トラップカラムの出口端から前記第2溶媒を含む溶液が排出されているときは該出口端を前記回収流路に接続し、前記トラップカラムの出口端から前記第1溶媒を含む溶液が排出され始めてから前記第2溶媒を含む溶液が排出され始めるまでの間の所定のタイミングで該出口端の接続先を前記廃液流路から前記回収流路に切り替えるように前記流路切替手段を制御する流路制御手段と
を有する。
【0011】
また、上記課題を解決するために成された本発明の別の態様は、
目的成分と捕集用溶媒を含む溶液をトラップカラムに流して該目的成分を該トラップカラム中に捕集し、その後に前記捕集用溶媒とは別の溶媒を前記トラップカラムに流して該トラップカラム中に捕集されている目的成分を回収する分取精製方法において、
a) 前記トラップカラムの入口端が下、出口端が上になるように保持されたトラップカラム中に目的成分が捕集された状態で、該トラップカラム中に残る前記捕集用溶媒に対して相溶性を有し、且つ該捕集用溶媒よりも沸点が低い第1溶媒を前記トラップカラムの入口端に所定時間送給し、
b) 続いて、前記捕集用溶媒に対して相溶性が低く、前記第1溶媒に対して相溶性が高い溶媒であって該捕集用溶媒及び該第1溶媒よりも比重が大きく且つ該捕集用溶媒よりも沸点が低い第2溶媒を前記トラップカラムの入口端に送給し、
c) 前記トラップカラムの出口端から前記捕集用溶媒を含む溶液が排出されているときは該溶液を廃液流路に流し、前記トラップカラムの出口端から前記第2溶媒を含む溶液が排出されているときは該溶液を回収流路に流し、前記トラップカラムの出口端から前記第1溶媒を含む溶液が排出され始めてから前記第2溶媒を含む溶液が排出され始めるまでの間の所定のタイミングで該出口端から排出される溶液の流路を前記廃液流路から前記回収流路に切り替える。
【0012】
ここで、捕集用溶媒は、主に、液体クロマトグラフにおいて雑多な成分を含む溶液から目的成分を分離するために利用される移動相を指すが、トラップカラムに目的成分を捕集した後に該カラム内を洗浄したり清浄化したりするために利用される洗浄液が含まれていても良い。捕集用溶媒は、一般的には水単体又は水を主成分とする水系の溶媒である。また、第1溶媒は捕集用溶媒及び第2溶媒に対して上述した相溶性、比重、及び沸点の条件を満たす溶媒であり、例えばアセトニトリル(比重:0.71、沸点:81.6℃)やメタノール(比重:0.79、沸点:64.7℃)、あるいはこれらの混合液である有機溶媒である。また、第2溶媒は捕集用溶媒及び第1溶媒に対して上述した相溶性、比重、及び沸点の条件を満たす溶媒であり、例えばジクロロメタン(比重:1.32、沸点:39.6℃)又はこれを含む混合液である有機溶媒である。この混合液とは、溶出力や化合物の溶解度などを調整するために例えばメタノールをジクロロメタンに混ぜたものである。第1溶媒及び第2溶媒はいずれも目的成分を溶出可能な溶媒であるが、第1溶媒よりも第2溶媒の方が溶出力が強いものが用いられる。
【0013】
本発明に係る分取精製装置では、トラップカラム内の吸着剤に目的成分が捕集され、且つ、トラップカラム内に捕集用溶媒が溜まっている状態で送液手段により第1溶媒が送給され、該第1溶媒がトラップカラムの下端からその内部に送り込まれる。トラップカラム内で第1溶媒の液面が上昇するに従い該カラム内の捕集用溶媒が押し上げられるが、第1溶媒は捕集用溶媒に対して相溶性を有するため、捕集用溶媒と第1溶媒の境界付近では両者が互いに溶解した状態となる。トラップカラムへの第1溶媒の導入が開始されてから所定時間が経過すると、送液手段による第1溶媒の送給が停止される。ここで、「所定時間」は第1溶媒の送液速度によるが、トラップカラム内で捕集用溶媒と第2溶媒の間に介在して両溶媒の接触を防止できる程度の量の第1溶媒をトラップカラム内に導入できれば良い。続いて、送液手段により第2溶媒がトラップカラムの下端から該カラム内に送り込まれ、トラップカラム内で第2溶媒の液面が上昇するに従い該カラム内の捕集用溶媒及び第1溶媒が押し上げられる。このとき、第2溶媒は第1溶媒に対して相溶性が高いため、第2溶媒と第1溶媒の境界付近では両者が互いに溶解した状態となる。
【0014】
上記のように、トラップカラムへの第1溶媒及び第2溶媒の導入に伴い、まずは捕集用溶媒がトラップカラムの出口端から排出される。このとき、トラップカラムから排出される溶液は廃液流路に流され、捕集用溶媒が廃棄される。トラップカラム内の捕集用溶媒が全て排出されると、続いて第1溶媒がトラップカラムの出口端から排出される。第1溶媒のトラップカラムからの排出が始まって所定時間が経過すると、流路制御手段は流路切替手段を制御してトラップカラムから排出される溶液を回収流路に流す。これにより、第1溶媒に含まれる目的成分がトラップカラムから取り出され回収される。この後、トラップカラムから排出される溶媒が第1溶媒から第2溶媒に切り替わるが、トラップカラムから排出される溶液は引き続き回収流路に流されるため、トラップカラムに捕集されている目的成分を強い溶出力を有する第2溶媒に溶出させ、該カラムから取り出して回収することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る分取精製装置によれば、目的成分を捕集したトラップカラムから該目的成分を溶出させるのに先立って該カラム内に残留する水や水系溶媒等の捕集用溶媒を排出しつつ、トラップカラムから排出される溶液の回収を開始するタイミングを早めたため、目的成分の回収効率を上げることができ、しかも、回収した目的成分を含む溶液中に補修用溶媒が含まれることを防止できる。また、回収した第1溶媒及び第2溶媒の沸点は補修用溶媒よりも低いため、後の工程において蒸発・乾固処理を短時間で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態による分取精製装置の概略構成図。
図2】トラップカラムからの溶出液中の溶媒及び目的成分の変化を説明するための図。
図3】トラップカラム内の溶媒の変化を説明するための模式図。
図4】第1溶媒としてアセトニトリルを使用した場合の溶出時間を示す図。(a)はアセトニトリルを使用しない場合。(b)はアセトニトリル1mLを使用した場合。(c)はアセトニトリル2mLを使用した場合。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【実施例】
【0018】
図1は本発明の一実施形態による分取精製装置の概略構成図である。この分取精製装置は、図示しない分取液体クロマトグラフ装置によって分離されてトラップカラムに充填されている吸着剤に捕集された目的成分を、該トラップカラムから回収するための装置である。
【0019】
カラムラック10(本発明における保持手段)は、入口端を下向きに、出口端を上向きにした状態でトラップカラム20を起立保持している。なお、このトラップカラム20には、予め図示しない分取液体クロマトグラフによって分離された目的成分が捕集されている。
【0020】
回収容器ラック30にはトラップカラム20から溶出された目的成分を回収するための回収容器31が収容されている。
【0021】
カラムラック10及び回収容器ラック30の上方には、トラップカラム20からの溶出液を回収容器31に送るための回収ヘッド40が設けられている。回収ヘッド40は回収流路42と該回収流路42の両端にそれぞれ先端を下に向けた状態で接続された溶出液回収ニードル41及び吐出ノズル43を備えている。また、回収流路42には溶出液回収ニードル41から該回収流路42内に流入した液体を廃液口に至る廃液流路46に送るか吐出ノズル43に送るかを切り替えるための排出/回収切替バルブ45(本発明における流路切替手段)が設けられている。なお、回収ヘッド40はそれぞれ図示しない駆動機構によって上下方向(図中のZ軸方向)、前後方向(図中のY軸方向)、及び左右方向(図中のX軸方向)に移動させることができる。
【0022】
低圧バルブ72は、中心に設けられた一つのポートgとその周囲に設けられた5つのポートh〜lを有しており、ポートgをポートh〜lのいずれかに接続すると共に、ポートh〜lのうち隣接するいずれか二つのポート同士を連通させることができる。ポートgはプランジャーポンプ81(本発明における送液手段)の一端に接続され、ポートhはプランジャーポンプ81の他端に接続される。また、ポートiは溶媒切替バルブ78に接続されている。ポートlはトラップカラム20の入口端に接続されている。
【0023】
第1溶媒リザーバ53(本発明における第1溶媒源)には本発明における第1溶媒としてのアセトニトリルが収容されており、第2溶媒リザーバ56(本発明における第2溶媒源)には本発明における第2溶媒としてのジクロロメタンが収容されている。溶媒切替バルブ78はこれらのうちいずれかをプランジャーポンプ81に流入させるように流路を切り替えるものである。
【0024】
CPU等で構成される制御部64は送液制御部64a(本発明における送液制御手段)及び流路制御部64b(本発明における流路制御手段)を有し、これらは予め設定されたプログラムに従って、プランジャーポンプ81(流量又は流速)と排出/回収切替バルブ45をそれぞれ制御する。また、制御部64は、低圧バルブ72、溶媒切替バルブ78等の各バルブの切替動作や図示しない駆動機構の制御などを実行することで分取精製作業を自動的に遂行する。また、操作部65は分取精製作業のための条件などを入力設定するためのものである。なお、図中の制御部64と各機器との接続は破線で示す。
【0025】
本実施形態に係る分取精製装置を用いた目的成分の回収手順について図1〜3を参照しつつ説明する。図2は本実施例におけるトラップカラム20、排出/回収切替バルブ45及び溶媒切替バルブ78に対する処理のタイムテーブルの一例である。
【0026】
まず、ユーザが予め目的成分を捕集させたトラップカラム20をカラムラック10にセットする。このトラップカラム20には、本発明における捕集用溶媒としての水が充満した状態となっている。トラップカラム20をセットした後、操作部65から制御部64に処理の開始を指示する。
【0027】
制御部64は図示しない駆動機構を駆動することにより、回収ヘッド40を移動させて溶出液回収ニードル41及び吐出ノズル43をそれぞれトラップカラム20の出口端及び回収容器31に挿入する。このとき、流路制御部64bが排出/回収切替バルブ45を切り替えることにより、溶出液回収ニードル41に流入した液体が廃液流路46を流れるようにしておく。更に、制御部64は低圧バルブ72及び溶媒切替バルブ78を切り替え、送液制御部64aがプランジャーポンプ81を駆動させることにより、第1溶媒リザーバ53内の第1溶媒、ここではアセトニトリル(図中ではCHCNと表記)をトラップカラム20の入口端から供給する。
【0028】
トラップカラム20内では、前記アセトニトリルが送液されることにより下端から徐々にアセトニトリルの液面が上昇する(図3(a))。これによりトラップカラム20内の水も押し上げられるが、アセトニトリルは水との相溶性を有しているため、これらの境界付近では両者が互いに溶解した状態となる。一方、押し上げられた水はトラップカラム20の出口端から溢れ出し、溶出液回収ニードル41及び排出/回収切替バルブ45を経て廃液流路46から外部に排出される。
【0029】
送液制御部64aは、アセトニトリルを所定時間t1だけ送液した後、プランジャーポンプ81による送液を停止し、溶媒切替バルブ78の入口を第2溶媒リザーバ56に切り替える。そして、再びプランジャーポンプ81を駆動させることにより、トラップカラム20へ第2溶媒(ジクロロメタン(図中ではDCMと表記))の送液を開始する。
【0030】
前記ジクロロメタンがトラップカラム20内に送液されると、ジクロロメタンはアセトニトリルと相溶性を有するため、これらの境界付近では両者が互いに溶解した状態となる。また、前記ジクロロメタンがトラップカラム20内に送液されることにより、トラップカラム20内の水及びアセトニトリルがさらに押し上げられ、水が廃液流路46から外部に排出される(図3(b))。また、アセトニトリルは溶出力を有するため、トラップカラム20の吸着剤に捕集されていた目的化合物はアセトニトリルに溶出し始める。
【0031】
流路制御部64bは、トラップカラム20内の空隙容積、つまり第2溶媒(ジクロロメタン)を導入し始める直前にトラップカラム20内に溜まっている水及びアセトニトリルの容量と、プランジャーポンプ81によるジクロロメタンの送液流量とを基に、ジクロロメタンの送液開始からアセトニトリルが排出され始めるまでの時間tを予測し、ジクロロメタンの送液開始からの経過時間が該時間tに達したか否かを判定する。また、アセトニトリルには目的成分が溶出しているため、アセトニトリルがトラップカラム20から排出され始めるようになるとほぼ同時に、排出された溶液中に目的成分が含まれ始める(図3(c))。
【0032】
流路制御部64bはジクロロメタンの送液開始からの経過時間が前記時間tAに達したと判定すると、排出/回収切替バルブ45の出口を廃液流路46側から吐出ノズル43側に切り替えることでトラップカラム20からの溶出液の回収を開始する(図2の一点鎖線の時刻)。
【0033】
その後もジクロロメタンを送液し続けることでトラップカラム20内がジクロロメタンで満たされ、トラップカラム20の出口端からジクロロメタンが排出される(図3(d))。該ジクロロメタンにも目的成分が溶出しているため、回収容器31に回収することで目的成分を回収することができる。
【0034】
そして、送液制御部64aは、トラップカラム20へのジクロロメタンの送液開始からの経過時間が設定時間t2に達したか否かを判定する。設定時間t2は予め設定された値であり、本実施形態では実験や計算で明らかになった、ジクロロメタンの送液開始から、トラップカラム20から目的成分が全て溶出し終えるまでの時間である。制御部64は設定時間t2が経過したと判定すると、プランジャーポンプ81を停止させる。
【0035】
以上のように、本実施形態に係る分取精製装置によれば、トラップカラム20内の水を廃液流路に廃棄しつつ、目的成分を含むアセトニトリル及びジクロロメタンを回収容器に回収することができる。
【0036】
次に、本実施形態に係る分取精製装置を用いて目的成分の溶出プロファイルを調べるために行った実験について説明する。実験は、多孔質ポリマー、具体的には粒子径が20〜30μmのスチレンジビニルベンゼン系ポリマーからなる吸着剤をトラップカラム20に充填し、該吸着剤に目的成分としてのカフェイン100mgを捕集させると共に前記トラップカラム20に捕集用溶媒としての水を満たした状態で行った。この状態で、第1溶媒としてのアセトニトリル、第2溶媒としてのジクロロメタンをそれぞれ0.5mL/minで送液し、溶出液回収ニードルから排出された溶液中の目的成分濃度を検出器で測定した。
【0037】
測定結果を図4(a)〜(c)に示す。図4(a)はジクロロメタンのみで溶出した比較実験の測定結果を、図4(b)、(c)はそれぞれアセトニトリルを1mL、2mLとジクロロメタンを用いて溶出した結果を示す。いずれの図も横軸は経過時間、縦軸は検出器の信号強度を示す。波形に乱れがあるが、これはジクロロメタンを送液した際に吸着剤から発生する気泡によるものである。図4(a)に示すようにアセトニトリルを使用せずに溶出を行った場合の溶出時間は約80分であるのに対し、図4(b)に示すように第1溶媒としてアセトニトリルを1mLを使用した場合の溶出時間は約30分、図4(c)に示すように第1溶媒として2mLのアセトニトリルを使用した場合の溶出時間は約25分であり、溶出時間が大幅に短縮された。これらの測定結果よりアセトニトリルが目的成分の溶出を促進させる効果があることが分かった。
スチレンジビニルベンゼン系ポリマーがアセトニトリルによって膨潤することにより、該ポリマーに捕集されていた目的成分が取れやすい状態になり、この状態で強い溶出力を有するジクロロメタンを流すことにより溶出時間が短縮されたものと思われる。
【0038】
なお、上記実施形態は一例にすぎないから、本発明の趣旨の範囲で適宜変更、修正、追加を行っても本願請求の範囲に包含されることは明らかである。例えば、本実施形態では第2溶媒を送液している状態で回収容器への回収を開始したが、第1溶媒を送液している状態で回収容器への回収を開始してもよい。上記実施形態では第1溶媒の送液時間が短いため、第1溶媒がトラップカラムの出口端から排出される前に第2溶媒の送液を開始しているが、第1溶媒の送液時間が長い場合やトラップカラムの容量が小さい場合には、第1溶媒を送液している状態でトラップカラムから第1溶媒が排出されることがある。このような場合には第1溶媒を送液している状態でも排出/回収切替バルブの切替を行い、第1溶媒を回収容器に回収する。
【0039】
上記実施形態では第1溶媒であるアセトニトリルがトラップカラムの出口端から排出され始めてから回収容器への溶液の回収を開始したが、ジクロロメタンが排出され始めてから溶液の回収を開始してもよい。
捕集用溶媒と第1溶媒は相溶性を有するため、これらの境界付近では互いに溶解した状態となる。第1溶媒の送液量が少ない場合や、第1溶媒に多量の捕集用溶媒が溶解した場合、第1溶媒のほとんどが捕集用溶媒と溶解することになる。この状態で、第1溶媒を回収容器に送液すると回収した溶液中の捕集用溶媒が多くなってしまう。一方で、捕集用溶媒と第2溶媒は相溶性が低いためこれらが溶解することはほとんどない。従って、第1溶媒に多量の捕集用溶媒が溶解している場合には、第2溶媒のみを回収することで、回収した溶液中に捕集用溶媒が含まれることを防ぐことができる。
【0040】
また、上記実施形態では、捕集用溶媒(水)と第1溶媒の境界付近の溶媒つまり、捕集用溶媒と第1溶媒が溶解した溶液を回収していないが、これら溶液がトラップカラムの出口端を通過したときに回収容器への回収を開始してもよい。第1溶媒は目的成分を溶出するため上記の境界付近の溶媒にも目的成分が溶出している。従って、この溶媒を回収することにより目的成分の回収効率をさらに上げることができる。
【符号の説明】
【0041】
10…カラムラック
20…トラップカラム
30…回収容器ラック
31…回収容器
40…回収ヘッド
41…溶出液回収ニードル
42…回収流路
43…吐出ノズル
45…排出/回収切替バルブ
46…廃液流路
53…第1溶媒リザーバ
56…第2溶媒リザーバ
64…制御部
64a…送液制御部
64b…流路制御部
65…操作部
72…低圧バルブ
78…溶媒切替バルブ
81…プランジャーポンプ
図1
図2
図3
図4