(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
(本発明に至った経緯)
特許文献1の接合体では、接合対象物間の接合の耐熱性を高くするためCu−Sn合金を形成している。本発明者らは、Cu−Sn合金を形成する際に、低融点のSnが溶融して高融点のCuに接触すると、Snの初期配置部分にボイドが発生し、耐衝撃性を低下させるという課題を新たに発見した。そこで、本発明者らは、接合対象物間の接合の耐熱性の向上と耐衝撃性の向上との両立を実現するため、以下の発明に至った。
【0013】
本発明の一態様の接合材は、
2つの接合対象物を接合する接合材であって、
Snを主成分とする第1層と、
Snより高い融点を有する金属を主成分とする第2層と、
を備え、
前記第1層と前記第2層とは積層され、
前記第1層におけるSnの量は、Snと前記金属との間で前記金属間化合物を形成するSnの化学量論量よりも多
く、
前記第2層の前記金属は、粉末であり、
前記第2層の前記金属は、Niの含有量が5〜30重量%であるCuNi又はCu−2Ni−4Coであり、
前記第2層は、2つの前記第1層の間に配置されている。
【0014】
本発明の一態様の接合材は、
2つの接合対象物を接合する接合材であって、
Snを主成分とする第1層と、
Snより高い融点を有する金属を主成分とする第2層と、
を備え、
前記第1層と前記第2層とは積層され、
前記第1層におけるSnの量は、Snと前記金属との間で金属間化合物を形成するSnの化学量論量よりも多く、
前記第2層は、フラックスを含み、
前記第2層の前記金属は、Niの含有量が5〜30重量%であるCuNi又はCu−2Ni−4Coであり、
前記第2層は、2つの前記第1層の間に配置されている。
【0015】
このような構成により、耐熱性を向上させつつ、且つ耐衝撃性を向上させて2つの接合対象物を接合することができる。
【0016】
前記接合材において、前記金属間化合物は、(CuNi)
6Sn
5であり、
(CuNi)
6Sn
5を形成する
SnとCuNiとの割合として、Sn/CuNiの重量の比率は1.6以上であってもよい。
【0017】
このような構成により、2つの接合対象物の間に形成された金属間化合物である(CuNi)
6Sn
5の周囲をSnで覆うように、接合対象物を接合することができるため、耐衝撃性を向上させることができる。
【0018】
前記接合材は、シート状またはテープ状であってもよい。
【0019】
このような構成により、取扱い性を向上させることができる。
【0020】
本発明の一態様の接合方法は、
2つの接合対象物を接合する接合方法であって、
Snを主成分とする第1層と、Snより高い融点を有する金属を主成分とする第2層とを積層した接合材を、2つの前記接合対象物との間に配置するステップ、
Snの融点以上であり、且つ前記金属の融点より低い温度で前記接合材を熱処理することによって金属間化合物を形成するステップ、
を含み、
前記接合材におけるSnの量は、Snと前記金属との間で前記金属間化合物を形成するSnの化学量論量よりも多
く、
前記第2層の前記金属は、粉末であり、
前記第2層の前記金属は、Niの含有量が5〜30重量%であるCuNi又はCu−2Ni−4Coであり、
前記第2層は、2つの前記第1層の間に配置されている。
【0021】
本発明の一態様の接合方法は、
2つの接合対象物を接合する接合方法であって、
Snを主成分とする第1層と、Snより高い融点を有する金属を主成分とする第2層とを積層した接合材を、2つの前記接合対象物との間に配置するステップ、
Snの融点以上であり、且つ前記金属の融点より低い温度で前記接合材を熱処理することによって金属間化合物を形成するステップ、
を含み、
前記接合材におけるSnの量は、Snと前記金属との間で前記金属間化合物を形成するSnの化学量論量よりも多く、
前記第2層は、フラックスを含み、
前記第2層の前記金属は、Niの含有量が5〜30重量%であるCuNi又はCu−2Ni−4Coであり、
前記第2層は、2つの前記第1層の間に配置されている。
【0022】
このような構成により、耐熱性を向上させつつ、且つ耐衝撃性を向上させて2つの接合対象物を接合することができる。即ち、耐熱性の向上と耐衝撃性の向上との両立を実現した接合対象物の接合が可能となる。
【0023】
前記接合方法において、前記金属間化合物は、(CuNi)
6Sn
5であり、
(CuNi)
6Sn
5を形成する
SnとCuNiとの割合として、Sn/CuNiの重量の比率は1.6以上であってもよい。
【0024】
このような構成により、2つの接合対象物の間に形成された金属間化合物である(CuNi)
6Sn
5の周囲がSnで覆われるため、耐衝撃性を向上させることができる。
【0025】
前記接合方法において、前記接合対象物における接合面は、Cuを主成分とする金属面で形成されていてもよい。
【0026】
このような構成により、接合対象物における接合面と接合材とが接触しやすくなり、接合対象物の接合を容易にすることができる。
【0027】
前記接合方法において、前記金属間化合物を形成するステップは、前記接合材を加圧しながら熱処理してもよい。
【0028】
このような構成により、Snの溶融時に、圧力に応じて接合体積が減少し、余剰のSnが露出した金属間化合物の表面に移動し、金属間化合物の露出した表面をSnで覆うことができる。これにより、耐衝撃性を向上させることができる。
【0029】
以下、本発明に係る実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。また、各図においては、説明を容易なものとするため、各要素を誇張して示している。
【0030】
(実施の形態)
[接合材]
本発明に係る実施の形態の接合材について説明する。
【0031】
図1は、本発明に係る実施の形態の接合材10の構成を示す概略図である。
図1に示すように、接合材10は、Snを主成分とする第1層11と、Snより高い融点を有する金属を主成分とする第2層12とを備える。第1層11と第2層12とは、積層されており、第2層12は、対向する2つの第1層11の間に接触して配置されている。また、第2層12は、フラックス13を含む。
【0032】
<第1層>
第1層11は、Snを主成分とする金属の層である。Snを主成分とする金属とは、例えば、Sn−0.7Cu、Sn−3.5Ag−0.7Cu、Sn−Sb等を含む。第1層11は、接合対象物の接合面と接触する金属製の薄膜層である。第1層11の厚さは、例えば、50μm以上200μm以下である。なお、接合対象物の接合面と接触する側の第1層11の表面には、接着性の樹脂又はフラックスが配置されていてもよい。これにより、接合対象物との接合を容易に行うことができる。実施の形態においては、2つの第1層11が、第2層12を挟んで対向して配置されている。
なお、上記の金属の表記において、例えば「Sn−3.5Ag−0.5Cu」の数字3.5は当該成分(この場合はAg)の重量%、数字0.5は当該成分(この場合はCu)の重量%の値を示している。
【0033】
<第2層>
第2層12は、Snより高い融点を有する金属を主成分とする層である。Snより高い融点を有する金属とは、例えば、Cu−Ni合金、Cu−Mn合金等を含む。第2層12の厚さは、例えば、10μm以上50μm以下である。実施の形態において、第2層12は、Cu−10Ni(以下、「CuNi合金」と称する)の粉末層である。Cu−10Niとは、Niが10wt%含まれることを意味している。粉末層とは、金属粉末を含む材料によって形成された層である。第2層12は、対向する2つの第1層11との間に挟み込まれている。
【0034】
<フラックス>
フラックス13は、第2層12内に含まれている。フラックスは、接合対象物又は金属の表面の酸化膜を除去するものである。フラックスは、例えば、ビヒクル、溶剤、チキソ剤、活性剤等の、公知の種々のものを用いることができる。
【0035】
実施の形態において、接合材10をSnの融点、即ち231.93℃以上で熱処理すると、第1層11におけるSnと第2層12におけるCuNi合金とが化学反応して、金属間化合物である(CuNi)
6Sn
5を形成する。第1層11のSnの量は、CuNi合金と金属間化合物を生成する化学量論量よりも多い。具体的には、金属間化合物である(CuNi)
6Sn
5を形成するSnの化学量論量(60wt%)とCuNi合金の化学量論量(40wt%)との合計量を100wt%としたとき、接合材10において、第2層12のCuNi合金の量は40wt%であり、第1層11のSnの量は65wt%以上である。言い換えると、接合材10において、第1層11のSnの量は、第2層12のCuNi合金の量の1.6倍以上である。
【0036】
接合材10は、例えば、取扱い性を考慮して、シート状又はテープ状に形成されている。
【0037】
接合対象物14a、14bは、金属の接合面を有する対象物であればよい。接合対象物14a、14bとしては、例えば、電子部品の電極に用いられるCu、Ni、Ag及びAu、Cuのブスバー、Snめっき鋼板等が挙げられる。
【0038】
[接合方法]
本発明の実施の形態の接合材10を用いた接合方法について説明する。
【0039】
図2A〜
図2Cは、本発明に係る実施の形態の接合材10を用いた接合方法の各工程を示す。
【0040】
図2Aに示すように、対向する2つの接合対象物14a、14bとの間に接合材10を配置する。接合材10は、2つの接合対象物14a、14bの間に挟み込まれる。なお、実施の形態において、接合対象物14a、14bにおいて、接合材10と接触する面は、Cuを主成分とする金属で形成されている。
【0041】
図2Bに示すように、接合対象物14aから接合対象物14bへ向かう方向30に接合材10を加圧しながら熱処理を行う。具体的には、対向する2つの接合対象物14a、14b間の距離が小さくなるように、加圧治具によって接合対象物14aの上面を押圧する方向30へ加圧する。また、Sn合金の融点、例えば純Snであれば231℃以上であって、且つCuの融点、即ち1084℃より低い温度で接合材10に対して熱処理を行う。
【0042】
この熱処理によって、第1層11のSnが溶融する。溶融したSnが、第2層12のCuNi合金と接触することによって化学反応が起こり、250℃以上の融点の金属間化合物15である(CuNi)
6Sn
5が形成される。金属間化合物15の形成に伴い、体積が減少することによって金属間化合物15中に隙間が形成される。この隙間に溶融したSnが次々に流入するため、ボイドの発生を抑制することができる。これは、Snの量がCuとの間で(CuNi)
6Sn
5を形成する化学量論量よりも多いためである。
【0043】
実施の形態において、第2層12は2つの第1層11の間に挟まれている。そのため、SnとCuNiとの化学反応は、接合材10の厚み方向において、第2層12の外表面、即ち第2層12と第1層11との接触面から第2層12の中央に向かって徐々に生じていく。言い換えると、金属間化合物15である(CuNi)
6Sn
5は、接合材10の厚み方向において、第2層12の外表面から中央に向かって徐々に形成される。これにより、フラックス13由来のガスが発生しても、接合材10の延在方向において、ガスは第2層12の中央部分から外部へ抜ける。このため、フラックス13由来のガスによるボイドの発生を抑制することができる。
【0044】
図2Cに示すように、SnとCuNiとの化学反応が更に進み、2つの接合対象物14a、14bとの間に、金属間化合物15である(CuNi)
6Sn
5を主成分とする第1接合部16が形成される。第1接合部16が形成された状態から更に方向30へ加圧すると、余剰のSnが(CuNi)
6Sn
5の周囲に移動する。これにより、Snを主成分とする金属が、接合対象物14a、14bを接合している第1接合部16の露出した表面を覆う第2接合部17を形成する。
【0045】
また、接合対象物14a、14bの接合面がCuで形成されている場合、接合対象物14a、14bの接合面のCuと第1層11のSnとが化学反応する。この化学反応により、第1接合部16と接合対象物14a、14bとの間に、SnとCuとの金属間化合物であるCu
3Snを主成分とする第3接合部が形成される。この第3接合部は、接合対象物14a、14bとの接合をより容易にすることができる。第3接合部については、後述する。
【0046】
[接合構造]
本発明の実施の形態の接合構造について説明する。
【0047】
図3は、本発明に係る実施の形態の接合構造20を示す概略図である。
【0048】
図3に示すように、接合構造20は、2つの接合対象物14a、14b間において、第1接合部16と、第1接合部16の周りを覆う第2接合部17と、第1接合部16と接合対象物14a、14bとの間に形成される第3接合部18とを備える。
【0049】
<第1接合部>
第1接合部16は、SnとCuNiとの金属間化合物15である(CuNi)
6Sn
5を主成分とする部分である。第1接合部16は、対向する2つの接合対象物14a、14bの間に形成されており、接合対象物14a、14bを接合している。なお、第1接合部16は、主成分の(CuNi)
6Sn
5以外に、Sn又はCuNiを含んでいてもよい。
【0050】
<第2接合部>
第2接合部17は、Snを主成分とする部分である。第2接合部17は、2つの接合対象物14a、14bの間より露出した第1接合部16の表面に配置されている。第2接合部17は、第1接合部16よりも靱性が高い。このため、2つの接合対象物14a、14bの間より露出した第1接合部16の表面に第2接合部17を配置することによって、耐衝撃性を向上させることができる。実施の形態においては、第2接合部17は、2つの接合対象物14a、14bの間より露出した第1接合部16表面を完全に覆っている。また、第2接合部17は、主成分のSn以外に、金属間化合物15を含んでいてもよい。
【0051】
<第3接合部>
第3接合部18は、SnとCuとの金属間化合物であるCu
3Snを主成分とする部分である。第3接合部18は、接合対象物14a、14bの接合面がCuで形成されている場合に、接合対象物14a、14bと第1接合部16との間に形成される。第3接合部18は、接合対象物14aと接合対象物14bとの接合の耐熱性及び耐衝撃性を向上させるものである。
【0052】
図4は、接合構造20をSEM(走査型電子顕微鏡)により撮影した写真である。
図5は、
図4の接合構造20のZ1部分の拡大図である。
図4及び
図5において、黒色の部分はボイドを示す。
図4及び
図5に示すように、2つの接合対象物14a、14bの間に形成された第1接合部16において、黒色の部分が少なくボイドの発生が抑制されていることがわかる。また、第1接合部16において、Snと化学反応できなかったCuNiの金属粉末19が一部含まれているが、金属間化合物15の(CuNi)
6Sn
5が大半を占めていることがわかる。
【0053】
図6は、
図4の接合構造20のZ2部分の反射電子像である。
図6において、白色の部分は、Snを主成分とする第2接合部17を示し、灰色の部分は、金属間化合物15を主成分とする第1接合部16を示し、黒色の部分は、CuNiの金属粉末19を示す。
図6に示すように、対向する接合対象物14a、14b間に形成された第1接合部16の露出した部分において、第2接合部17が形成されている。即ち、第1接合部16の主成分である(CuNi)
6Sn
5の露出した表面を、第2接合部17の主成分であるSnが覆っている。
【0054】
[効果]
本発明に係る実施の形態の接合材10、接合方法及び接合構造20によれば、以下の効果を得ることができる。
【0055】
接合材10は、Snを主成分とする第1層11と、Snより高融点のCuNi合金を主成分とする第2層12とを積層して配置している。また、第1層11におけるSnの量は、Snと第2層12のCuNiとの間で金属間化合物15である(CuNi)
6Sn
5を形成するSnの化学量論量よりも多い。接合材10を用いた接合方法では、接合材10を2つの接合対象物14a、14b間に配置して、熱処理することによりSnとCuNiとの金属間化合物15である(CuNi)
6Sn
5を形成している。この接合方法においては、SnとCuNiとの拡散反応により、2つの接合対象物14a、14bを接合する接合部に、Snよりも高い融点を有する金属間化合物15を形成することができる。この金属間化合物15によって、2つの接合対象物14a、14bを、耐熱性を向上させて接合することができる。また、第1層11のSnの量が、金属間化合物15を形成する化学量論量よりも多いため、金属間化合物15の生成により生じる隙間に溶融した余剰のSnが流入する。これにより、ボイドの発生を抑制することができ、接合の耐衝撃性を向上させることができる。
【0056】
接合方法において、接合材10を加圧することによって、金属間化合物15の露出した表面をCuNi合金と化学反応しなかった余剰のSnで覆うことができる。Snは、金属間化合物15よりも靱性が高いため、金属間化合物15を保護することができる。これにより、2つの接合対象物14a、14bを、耐衝撃性を向上させて接合することができる。
【0057】
接合方法において、2つの接合対象物14a、14bの接合面がCuで形成されている場合、熱処理により第1層11のSnと接合面のCuとが化学反応を起こし、金属間化合物であるCu
3Snを形成する。このCu
3Snにより、2つの接合対象物14a、14bの接合の耐熱性及び耐衝撃性を更に向上させることができる。
【0058】
接合材10において、第2層12をCuNi合金の金属粉末層にすることによって、金属間化合物15を生成しやすくなり、耐熱性及び耐衝撃性を更に向上させることができる。
【0059】
接合材10において、第2層12は、2つの第1層11の間に配置されているため、SnとCuNiとの化学反応が、接合材10の厚み方向において、第1層11と第2層12との接触面から、第2層12の中央部に向かって徐々に生じていく。これにより、熱処理によって発生するフラックス13由来のガスが、接合材10の延在方向において、第2層12の中央部分から外部へ抜けるため、フラックス13由来のガスによるボイドの発生を抑制することができる。
【0060】
接合材10は、シート状またはテープ状にすることによって、取り扱い性を向上させることができる。
【0061】
接合構造20は、接合材10を用いた接合方法によって作ることができる。接合構造20は、2つの接合対象物14a、14bの間に形成された金属間化合物15である(CuNi)
6Sn
5を主成分とする第1接合部16と、第1接合部16の露出した表面を覆うSnを主成分とする第2接合部17と、を備えている。このような構成により、2つの接合対象物14a、14bの接合の耐熱性を向上させつつ、且つ耐衝撃性を向上させることができる。
【0062】
接合構造20において、接合対象物14a、14bと第1接合部16との間にCu
3Snを主成分とする第3接合部18を備えることによって、耐熱性及び耐衝撃性を更に向上させることができる。
【0063】
なお、実施の形態において、第2層12は、CuNi合金の金属粉末層を説明したが、これに限定されない。第2層12は、例えば、CuNi合金の金属板層であってもよい。第2層12を金属板層にすることによって、第1層11と第2層12とを容易に積層することができる。また、第2層12は、CuNi合金に限らず、Snより高い融点を有し、且つSnとの間で金属間化合物を形成することができる金属であればよい。
【0064】
また、CuNi合金は、少なくともCuとNiを含んでいればよい。例えば、Cu−Ni−Co合金のように、CuとNi以外の金属(この場合はCo)を含んでもよい。
【0065】
実施の形態の接合方法において、加圧治具により加圧しながら熱処理することによって金属間化合物を形成する例について説明したが、これに限定されない。接合方法は、例えば、接合対象物14aの自重によって、接合対象物14a、14b間の距離を小さくしてもよい。このように、加圧治具を使用せずに熱処理するだけで接合対象物14a、14bを接合することもできる。
【0066】
実施の形態において、接合対象物14a、14bと第1層11との間にCn
3Snを主成分とする第3接合部18を有する接合構造20について説明したが、これに限定されない。接合構造20は、第3接合部18を備えなくてもよい。これにより、第3接合部18を形成するためのコスト、例えば、接合対象物14a、14bの接合面をCuで形成するコストを低減することができる。
【0067】
実施の形態において、第2層12が2つの第1層11の間に配置される構成について説明したが、これに限定されない。
図7は、実施の形態の変形例の接合材10Aを示す。
図7に示すように、接合材10Aは、1つの第1層11と、1つの第2層12とを備え、第1層11の上に第2層12を積層している。このように、第2層12の片側の面に第1層11が接触する構成であってもよい。このような構成により、接合材10Aが製造しやすくなる。
【0069】
(実施例1)
実施例1において、第1層11におけるSnの量を変化させて耐衝撃性の評価を行った。
【0070】
耐衝撃性の評価において、SnとCuNiとの金属間化合物15である(CuNi)
6Sn
5を形成するSnの化学量論量(60wt%)とCuNiの化学量論量(40wt%)との合計量が100wt%であるとした。実施例1は、接合材10のCuNiの量を40wt%に固定して、Snの量を65wt%、70wt%、75wt%、100wt%、及び200wt%に変化させている。言い換えると、Snの化学量論量をCu
Niの量の1.5倍であるとした場合に、実施例1では、Snの量を、Cu
Niの量の1.6倍、1.7倍、1.8倍、2.5倍、及び5倍に変化させている。
【0071】
実施例1の接合材10の製造方法について説明する。
50μm以上200μm以下の種々の厚みのSn箔(株式会社ニラコ製)に、粒径5μmのCuNi粉末とフラックスとを含むペーストを塗布厚さ20μmとなるようにドクターブレードで印刷した後、ペーストを乾燥させる。次に、ペーストが塗布されたSn箔を5mm角で切り出し、ペーストの上に別のSn箔を配置する。
【0072】
実施例1の接合材10を用いた接合方法について説明する。
縦5mm×横50mm×厚さ2mmの2つのCu板の間に、接合材10を挟み込む。このときの構造は、下からCu板、Sn箔、CuNiペースト、Sn箔、Cu板となる。接合材10を挟んだCu板に、加圧治具によって10MPaの圧力を加える。圧力を加えた状態で、接合材10を挟んだCu板をホットプレートに載せ、270℃になるように加熱する。昇温速度は、約100℃/min、保持時間は2minとする。この条件で、接合材10を挟んだCu板を加圧しながら加熱した後、ホップレートから取り出して空冷する。
【0073】
耐衝撃性の評価について説明する。
耐衝撃性は、実施例1の接合材10を用いて接合された種々のCu板を用いて落下試験を行うことにより評価を行った。落下試験は、接合されたCu板を20cmの高さから落下させ、Cu板が剥離するか否かを確認することによって行った。即ち、Cu板を落下させた衝撃により、Cu板の接合が破壊されるか否かを確認した。耐衝撃性の評価は、20回の落下試験を行い、故障率を算出することによって行った。故障率とは、落下試験でCu板の接合が破壊された割合を意味する。表1は、耐衝撃性の評価の結果を示す。
【0075】
表1において、比較例は、接合材10におけるSnの量を、金属間化合物15を形成する化学量論量である60wt%でCu板を接合した接合構造20を有する。実施例1は、前述したように、接合材10におけるSnの量を、金属間化合物15を形成する化学量論量より多くしてCu板を接合した接合構造20を有する。具体的には、実施例1では、CuNiの量が40wt%であるのに対し、Snの量をそれぞれ65wt%、70wt%、75wt%、100wt%、及び200wt%としている。
【0076】
表1に示すように、比較例1では、落下試験による故障率が100%であった。これに対し、実施例1では、Snの量が65wt%、70wt%、及び75wt%のとき、故障率は、それぞれ25%、20%、及び15%であった。また、Snの量が100wt%及び200wt%のとき、故障率は、両方とも0%であった。
【0077】
実施例1において、Snの量が65wt%、70wt%、及び75wt%の場合、金属間化合物15の露出した表面がSnにより部分的に覆われた状態になると考えられる。そのため、金属間化合物15の一部がSnに覆われずに露出し、落下による衝撃で破壊されたものと考えられる。一方、実施例1において、Snの量が100wt%、及び200wt%の場合、金属間化合物15の露出した表面がSnにより完全に覆われた状態になると考えられる。そのため、金属間化合物15の周囲をSnにより完全に保護することができると考えられる。
【0078】
このように、実施例1において、CuNiに対してSnの量が増大するほど、故障率が低下していることがわかる。したがって、接合材10においては、CuNiの量が40wt%であるのに対し、Snの量を65wt%以上にすることが好ましい。より好ましくは、CuNiの量が40wt%であるのに対し、Snの量は、65wt%以上200wt%以下にすることが好ましい。言い換えると、Snの量は、CuNiの量の1.6倍以上にすることが好ましい。より好ましくは、Snの量は、CuNiの量の1.6倍以上5倍以下であることが好ましい。
【0079】
(実施例2)
実施例2において、第2層12のCuNiにおけるNi含有量を変化させて耐熱接合性の評価を行った。
【0080】
実施例2においては、第2層12のCuNiにおけるNiの含有量を、3wt%、4wt%、5wt%、10wt%、20wt%、30wt%、及び40wt%に変化させている。
【0081】
実施例2の接合材10を用いた接合方法は、実施例1の接合方法と同様であるため、説明を省略する。
【0082】
耐熱接合性の評価について説明する。
耐熱接合性は、前述した接合方法により接合されたCu板の片方を持ち上げた場合に、Cu板が剥離するか否かを確認することによって評価を行った。なお、この評価において、CuNiの量を40wt%、Snの量を60wt%とした。表2に、耐熱整合性の評価の結果を示す。
【0084】
表2に示すように、実施例2において、CuNiにおけるNiの含有量が3wt%、4wt%、及び40wt%のとき、Cu板の片方を持ち上げた場合、Cu板が剥離した。これは、Niの含有量が少なすぎるか、又は多すぎることにより、SnとCuNiとの金属間化合物15である(CuNi)
6Sn
5を形成することができなかったからであると考えられる。一方、実施例2において、CuNiにおけるNiの含有量が5wt%、10wt%、20wt%、及び30wt%のとき、Cu板の剥離が生じなかった。
【0085】
このように、CuNiにおけるNiの含有量が5wt〜30wt%のとき、SnとCuNiとの金属間化合物15である(CuNi)
6Sn
5を形成することができるため、耐熱接合性を向上させることができる。
【0086】
(実施例3)
実施例3において、第1層11をSnペースト、第2層12aをCu−2Ni−4Co箔で形成した接合材10を用いた接合方法について説明する。
【0087】
実施例3の接合材10は、厚み200μmのCu−2Ni−4Co箔の両主面に、それぞれ約40mgのSN100C(日本スペリア製)のソルダーペースト(Snペースト)を塗布することによって形成される。
【0088】
実施例3の接合材10を用いた接合方法について説明する。
接合対象物14a、14bである一辺が2mmの2つのCuの立方体の間に、接合材10を挟み込む。このときの構造は、下からCuの立方体、Snペースト、Cu−2Ni−4Co箔、Snペースト、Cuの立方体となる。接合材10Bを挟んだCuの立方体を260℃のホットプレート上で3秒間加熱し、その後、パルスヒートユニット(日本アビオニクス製)を用いて拡散接合を行った。拡散接合の条件は、温度300℃、加圧力10MPa、接合時間5minとした。このときの昇温時間は50秒とした。
【0089】
実施例3の接合材10を用いた接合方法により接合された接合体の接合構造20Aについて
図8を用いて説明する。
図8は、実施例3の接合材10を用いた接合方法により接合された接合体の接合構造20Aの一部を、SEM(走査型電子顕微鏡)により撮影した写真である。なお、
図8に示す写真は、日立ハイテクノロジーズ製の電界放射型電子顕微鏡(FE−SEM、S−4800)を用いて、加速電圧5kVで撮影した反射電子像である。
図8に示すように、接合構造20Aにおいては、第2層12aであるCu−2Ni−4Co箔の一部が2つの接合対象物14aと14bとの間に残った状態となる。また、接合構造20Aにおいては、接合対象物14aであるCuの立方体と、Cu−2Ni−4Coとの間に金属間化合物15が形成されている。なお、図示されていないが、接合対象物14bであるCuの立方体と、Cu−2Ni−4Coとの間にも金属間化合物15が形成されている。即ち、接合構造20Aは、上から接合対象物14aであるCuの立方体、金属間化合物15、第2層12aであるCu−2Ni−4Co箔、金属間化合物15、接合対象物14bであるCuの立方体で構成されている。
【0090】
図8に示すように、接合構造20Aは、接合対象物14aであるCuの立方体と第2層12aであるCu−2Ni−4Coとの間に形成された金属間化合物15は、界面にボイドの少ない構造となっている。
【0091】
本発明は、添付図面を参照しながら好ましい実施形態に関連して充分に記載されているが、この技術の熟練した人々にとっては種々の変形や修正は明白である。そのような変形や修正は、添付した特許請求の範囲による本発明の範囲から外れない限りにおいて、その中に含まれると理解されるべきである。