特許第6443589号(P6443589)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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特許6443589非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443589
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20181217BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20181217BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   H01M4/525
   H01M4/505
   C01G53/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2018-526958(P2018-526958)
(86)(22)【出願日】2017年12月25日
(86)【国際出願番号】JP2017046491
(87)【国際公開番号】WO2018123995
(87)【国際公開日】20180705
【審査請求日】2018年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2016-252080(P2016-252080)
(32)【優先日】2016年12月26日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田代 賢次
(72)【発明者】
【氏名】高木 正徳
【審査官】 小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−181193(JP,A)
【文献】 特開2015−183083(JP,A)
【文献】 特開2016−011225(JP,A)
【文献】 特開2016−219278(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム化合物と混合して、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造に用いる非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体であって、
フローファクターが10以上20以下の複合金属水酸化物である非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体。
【請求項2】
内部摩擦角が30°以上32°以下である請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体。
【請求項3】
ニッケルとコバルトとを含む請求項1または2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体。
【請求項4】
さらに元素M(MはMg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Sr及びWから選択される1種以上)を含む請求項3に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体に関する。

【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話、ノート型パーソナルコンピュータなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な二次電池の開発が要求されている。また、ハイブリット自動車を始めとする電気自動車用の電池として、高出力の二次電池の開発も要求されている。このような要求を満たす非水系電解質二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。
【0003】
リチウムイオン二次電池は、負極、正極、電解液などで構成され、負極および正極の活物質には、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0004】
リチウム複合酸化物、特に合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高エネルギー密度を有する電池として期待され、実用化が進んでいる。リチウムコバルト複合酸化物を用いた電池では、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための開発がこれまで数多く行われてきており、すでにさまざまな成果が得られている。
【0005】
しかしながら、リチウムコバルト複合酸化物は、原料に高価なコバルト化合物を用いるため、このリチウムコバルト複合酸化物を用いる電池の容量あたりの単価は、ニッケル水素電池より大幅に高くなり、適用可能な用途はかなり限定されている。
【0006】
このため、携帯機器用の小型二次電池や、電力貯蔵用や電気自動車用などの大型二次電池について、正極材料のコストを下げ、より安価なリチウムイオン二次電池の製造を可能とすることに対する期待は大きく、その実現は、工業的に大きな意義があるといえる。
【0007】
リチウムイオン二次電池用活物質の新たなる材料としては、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物を挙げることができる。このリチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物よりも低い電気化学ポテンシャルを示すため、電解液の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待でき、コバルト系と同様に高い電池電圧を示すことから、開発が盛んに行われている。
【0008】
しかし、純粋にニッケルのみで合成したリチウムニッケル複合酸化物を正極材料としてリチウムイオン二次電池を作製した場合、コバルト系に比ベてサイクル特性が劣り、また高温環境下での使用や保存により、比較的電池性能を損ないやすいという欠点を有している。このため、ニッケルの一部をコバルトやアルミニウムで置換したリチウムニッケル複合酸化物が一般的に知られている。
【0009】
リチウムコバルト複合酸化物や、リチウムニッケル複合酸化物等の非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法については従来から各種方法が提案されている。例えばニッケル複合酸化物等の非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体と、リチウム化合物とを混合し、得られた混合物を焼成する非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が提案されている。
【0010】
例えば特許文献1には、Ni塩とM塩の混合水溶液にアルカリ溶液を加えて、NiとMの水酸化物を共沈させ、得られた沈殿物を濾過、水洗、乾燥して、ニッケル複合水酸化物:Ni1-x(OH)を得る晶析工程と、
得られたニッケル複合水酸化物:Ni1-x(OH)とリチウム化合物とを、NiとMとの合計に対するLiのモル比:Li/(Ni+M)が1.00〜1.15となるように混合し、さらに該混合物を、700℃以上1000℃以下の温度で焼成して、前記リチウムニッケル複合酸化物を得る焼成工程と、
得られたリチウムニッケル複合酸化物を水洗処理する水洗工程と、を有することを特徴とする非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法が開示されている。
【0011】
また、特許文献1には、前記晶析工程の後、前記焼成工程の前に、該晶析工程で得られたニッケル複合水酸化物:Ni1-x(OH)を、大気雰囲気中、800℃未満の温度で、1時間以上の焙焼を行って複合酸化物を得る酸化焙焼工程を有することも開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】日本国特開2012−119093号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体と、リチウム化合物とを計量、混合する際に、非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体と、リチウム化合物とを高精度に計量しても、混合時や、焼成時に両成分が均一に混合されない、または分離する場合があった。このように両成分が均一に混合されなかったり、分離すると、焼成後に得られる非水系電解質二次電池用正極活物質の組成にばらつきが生じる原因となる。ところが、従来は非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体と、リチウム化合物との混合物の状態については十分に検討されていなかった。
【0014】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、リチウム化合物と混合し易く、リチウム化合物との分離を抑制することができる非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
リチウム化合物と混合して、非水系電解質二次電池用正極活物質の製造に用いる非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体であって、
フローファクターが10以上20以下の複合金属水酸化物である非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体を提供する。

【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様によれば、リチウム化合物と混合し易く、リチウム化合物との分離を抑制することができる非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】本発明の実施形態におけるフローファクターの評価方法の説明図。
図1B】本発明の実施形態におけるフローファクターの評価方法の説明図。
図2】本発明に係る実施例1で用いた晶析装置の断面模式図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体]
まず、本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体の一構成例について説明する。
【0019】
本実施形態の非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体(以下、単に「正極活物質前駆体」とも記載する)は、複合金属水酸化物であり、フローファクターを10以上20以下とすることができる。
【0020】
本発明の発明者らは、正極活物質前駆体と、リチウム化合物と混合する際に、均一に混合されなかったり、混合物が分離する原因について鋭意検討を進めた。その結果、正極活物質前駆体の粉体特性がリチウム化合物との混合の容易さや、混合物からの分離の抑制に大きな影響を有することを見出した。
【0021】
そして、本発明の発明者らはさらに検討を進め、適切な流動性を有する正極活物質前駆体、具体的にはフローファクターが所定の範囲の正極活物質前駆体を用いることで、リチウム化合物と混合した際に容易に均一に混合することができ、分離を抑制できることを見出し、発明を完成させた。
【0022】
ここで、フローファクターとは、せん断試験で得られた最大圧密応力と単軸崩壊応力との比(最大圧密応力/単軸崩壊応力)を意味している。フローファクターは、JIS Z 8835(2016)の「一面せん断試験による限界状態線及び壁面崩壊線の測定方法」、もしくはASTM D6128の「Standard Test Method for Shear Testing of Bulk Solids Using the Jenike Shear Tester」により各パラメータを測定し、算出することができる。
【0023】
例えば以下の手順により、測定、算出することができる。図1A図1Bにフローファクターの評価装置のせん断試験を実施する際に圧力を加える方向と平行で、かつ試料室を通る面での断面模式図を示す。なお、図1A図1Bにおいて同じ部材には同じ番号を付け、説明を省略する。
【0024】
図1Aに示すように、サンプル室111を有する下部セル11と、下部セル11の上部に配置することができ、下部セル11と相対移動することで下部セル11内の粉体試料をせん断することができる上部セル12とを用意することができる。なお、上部セル12の下部セル11と対向する面には、サンプル室111内の粉体試料に対してせん断力を加えるための凸部121が設けられている。
【0025】
そして、サンプル室111内に評価試料である正極活物質前駆体13を充填し、上部セル12をブロック矢印Aに沿って、すなわち鉛直方向に沿って降ろし、正極活物質前駆体13を任意の圧力で押圧する。この際の応力が最大圧密応力となる。
【0026】
次いで、図1Bに示したように、上部セル12により正極活物質前駆体13をブロック矢印Aに沿った方向に押圧した状態で、下部セル11をブロック矢印Bに沿って、すなわち水平方向に移動させることで、正極活物質前駆体13の単軸崩壊応力を測定する。
【0027】
以上のようにして、最大圧密応力、及び単軸崩壊応力を測定し、フローファクターを算出することができる。
【0028】
フローファクターは数値が大きい粉体ほど流動性が高いことを示すことから、本実施形態の正極活物質前駆体は、リチウム化合物と混合した場合に容易に均一に混合できるようにフローファクターが大きいことが好ましく、10以上であることが好ましい。
【0029】
ただし、フローファクターが過度に高すぎると、リチウム化合物との混合物が分離する恐れがあることから、本実施形態の正極活物質前駆体のフローファクターは20以下であることが好ましい。
【0030】
本実施形態の正極活物質前駆体のフローファクターは、特に12以上18以下であることがより好ましい。
【0031】
また、本実施形態の正極活物質前駆体は、内部摩擦角が30°以上32°以下であることが好ましく、30°以上31°以下であることがより好ましい。
【0032】
内部摩擦角は、構成している粉体間の相互の摩擦や、噛み合わせの抵抗を角度で表しており、粉体の滑りやすさを表すパラメータである。内部摩擦角は、例えば市販されている粉体層せん断力測定装置によって測定することが可能である。
【0033】
内部摩擦角は小さいほど該粉体が滑り易く、流動性が高いことを示すことから、本実施形態の正極活物質前駆体は、リチウム化合物と混合した場合に特に容易に均一に混合できるように32°以下であることが好ましい。ただし、流動性が高くなりすぎると、リチウム化合物との混合物が分離する恐れがあることから、分離を特に抑制するため、本実施形態の正極活物質前駆体は、内部摩擦角は30°以上であることが好ましい。
【0034】
本実施形態の正極活物質前駆体は、リチウム化合物と混合し、正極活物質の製造に用いる物であれば、その組成は特に限定されるものではない。
【0035】
ただし、非水系正極活物質として、既述のようにリチウムニッケルコバルト複合酸化物が有用であり、該リチウムニッケルコバルト複合酸化物を製造するための正極活物質前駆体が求められている。このため、本実施形態の正極活物質前駆体は、ニッケルとコバルトとを含むことが好ましい。
【0036】
また、リチウムニッケルコバルト複合酸化物に、リチウム、ニッケル、コバルト以外にさらに添加元素を添加することで、電池特性を高めることが検討されている。
【0037】
このため、本実施形態の正極活物質前駆体についても、添加元素として、さらに元素M(MはMg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Sr及びWから選択される1種以上)を含むことが好ましい。
【0038】
本実施形態の正極活物質前駆体は、既述のように複合金属水酸化物であり、上述のようにリチウム化合物と混合し、正極活物質の製造に用いることができる。また、本実施形態の正極活物質前駆体は、焙焼を行い、一部、または全部を複合金属酸化物としてから、リチウム化合物と混合し、正極活物質の製造に用いることもできる。
【0039】
そして、本発明の発明者らの検討によれば、本実施形態の正極活物質前駆体について焙焼を行い、一部、または全部を複合金属酸化物とした場合、焙焼前の複合金属水酸化物が既述のフローファクターを有していることで、その焙焼物についてもリチウム化合物と混合し易く、リチウム化合物との分離を抑制することができる。これは、焙焼を行った場合でも、粉体特性、すなわちリチウム化合物との混合特性の傾向に大きな変化を生じないためと考えられる。このため、例えば本実施形態の正極活物質前駆体について、リチウム化合物と混合し易く、リチウム化合物との分離を抑制できる場合、その焙焼物についても同様にリチウム化合物と混合し易く、リチウム化合物との分離を抑制できるものといえる。また、本実施形態の正極活物質前駆体の焙焼物について、リチウム化合物と混合し易く、リチウム化合物との分離を抑制できる場合、焙焼前の正極活物質前駆体についても同様にリチウム化合物と混合し易く、リチウム化合物との分離を抑制できるものといえる。
【0040】
上述のように本実施形態の正極活物質前駆体が既述のフローファクターを充足していれば、その焙焼物についてもリチウム化合物と混合し易く、混合後、リチウム化合物との分離を抑制できる。このため、本実施形態の正極活物質前駆体を焙焼する場合、その焙焼物のフローファクターは特に限定されないが、本実施形態の正極活物質前駆体の焙焼物のフローファクターは例えば8.0以上14.0以下であることが好ましい。
【0041】
また、本実施形態の正極活物質前駆体の焙焼物の内部摩擦角は、30°以上32°以下であることが好ましく、30°以上31°以下であることがより好ましい。
【0042】
以上に、本実施形態の正極活物質前駆体の構成例について説明したが、本実施形態の正極活物質前駆体は所定のフローファクターを有することから、リチウム化合物と容易に混合することができ、混合物の分離を抑制することができる。このため、本実施形態の正極活物質前駆体を用いて正極活物質を製造することで、均一な組成の正極活物質を得ることができる。すなわち、本実施形態の正極活物質前駆体を用いることで、例えば複数の箇所で、リチウムと、リチウム以外の金属との物質量比(Li/Me比)を測定した場合、そのばらつきを抑制した正極活物質を得ることができる。
[正極活物質前駆体の製造方法]
本実施形態の正極活物質前駆体の製造方法は特に限定されるものではなく、既述のフローファクターを有するように任意の方法により製造することができる。
【0043】
ここでは、本実施形態の正極活物質前駆体の製造方法の一構成例について説明する。
【0044】
本実施形態の正極活物質前駆体の製造方法は、含有する金属、例えばニッケルと、コバルトと、任意の添加元素Mとを共沈させる晶析工程を有することができる。
【0045】
晶析工程の構成例について以下に説明する。
【0046】
晶析工程では、反応溶液を撹拌しながら、該反応溶液に正極活物質前駆体を構成する金属の塩を含む混合水溶液(a)(以下、単に「混合水溶液(a)」とも記載する)と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)とを供給するとともに、苛性アルカリ水溶液(c)を供給して反応させ、晶析した正極活物質前駆体の粒子を固液分離し、水洗し、乾燥することにより、正極活物質前駆体を得ることができる。
【0047】
なお、晶析工程を開始する際、反応槽内に水と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)と、苛性アルカリ水溶液(c)とを混合した初期水溶液を用意しておくことができる。初期水溶液は、そのアンモニウムイオン濃度、pH値、及び温度が後述する反応溶液での好ましい範囲内となるように、アンモニウム供給体を含む水溶液(b)と、苛性アルカリ水溶液(c)とを添加し、温度を調整することが好ましい。そして、晶析工程開始後、初期水溶液に、上述のように混合水溶液(a)、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)、及び苛性アルカリ水溶液(c)を添加することで反応溶液が形成される。
【0048】
混合水溶液(a)は、正極活物質前駆体を構成する金属の供給源である。例えば正極活物質前駆体がニッケル、及びコバルトを含有する場合は、ニッケル塩、およびコバルト塩を含有することができる。既述のようにさらに添加元素Mの金属塩を含有することもできる。
【0049】
アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)は、錯形成剤として、生成する正極活物質前駆体の粒子の粒径と形状を制御する役割を担う。しかも、アンモニウムイオンは、生成する正極活物質前駆体の粒子内に取り込まれないので、高純度の正極活物質前駆体の粒子を得るために、好ましい錯形成剤である。
【0050】
苛性アルカリ水溶液(c)は、中和反応のpH調整剤である。
【0051】
混合水溶液(a)中の正極活物質前駆体を構成する金属塩の金属塩濃度は、特に限定されるものではないが、0.5mol/L以上2.2mol/L以下とすることが好ましい。0.5mol/L未満では、各工程における液量が多くなり過ぎ、生産性が低下するため好ましくない。一方、2.2mol/Lを超えると、気温が低下した場合に、混合水溶液(a)中で金属塩が再結晶化して配管等を詰まらせるおそれがあるからである。
【0052】
晶析工程において、反応溶液のpHは特に限定されないが、例えば50℃基準で11.0以上13.0以下に保持することが好ましく、11.0以上12.5以下に保持することがより好ましい。反応溶液のpHが11.0を下回ると、反応系内での初期の核生成が抑制され、粒子数が少なくなり過ぎ、正極活物質前駆体を構成する金属の塩の供給量に対して、粒子の成長による正極活物質前駆体を構成する金属の塩の消費量が小さくなり過ぎて、供給される正極活物質前駆体を構成する金属の塩のほとんどが核生成に消費されることになる。その結果、Cycling現象と言われる核の異常発生が起こり、槽内の粒子の粒径は、ほとんど成長しなくなり、粒径の大きな粒子は、得られないおそれがある。一方、pHが13.0を超えると、定常的に多くの核が生成し、系内の粒子数が増加して粒径が大きく成長しないことがある。
【0053】
晶析工程の間、反応溶液の温度は、20℃以上70℃以下に保持することが好ましく、40℃以上70℃以下に保持することがより好ましい。反応溶液の温度が20℃未満の場合、正極活物質を構成する金属の溶解度によっては、微粒子が発生しやすい。また、季節変動による影響を無くすには、チラー等を導入する必要があり、設備コストが高くなるため、工業的に好ましくない。一方、70℃を超えると、アンモニアの揮発が激しくなり、反応系内のアンモニウムイオン濃度の制御が困難になることがある。
【0054】
さらに、反応溶液中のアンモニウムイオン濃度は、晶析工程の間、5g/L以上20g/L以下に保持することが好ましく、10g/L以上16g/L以下に保持することがより好ましい。アンモニウムイオン濃度が5g/L未満の場合、正極活物質を構成する金属の溶解度によっては、微粒子が発生しやすく、粒径が小さくなるおそれがある。また、粒子が成長する際も、粒子内部まで正極活物質前駆体を構成する金属の塩が供給されず粒子表面で析出反応が起きることから、低密度の水酸化物粒子しか得られず、それを原料として得られる正極材料も、また低密度となり、体積あたりのエネルギー密度が低下するおそれがある。一方、アンモニウムイオン濃度が20g/Lを超えると、液中に残留する正極活物質を構成する金属の一部の成分の濃度が高くなる等して、組成のずれにつながるため、好ましくない。
【0055】
正極活物質を構成する金属の金属塩は、硫酸塩、硝酸塩または塩化物の少なくとも1種であることが好ましく、ハロゲンによる汚染のない硫酸塩がより好ましい。例えば、硫酸コバルト、硫酸ニッケル等を用いることができる。
【0056】
また、既述のように正極活物質前駆体には、添加元素Mとして、Mg、Al、Ca、Ti、V、Cr、Mn、Zr、Nb、Mo、Sr及びWから選択される1種以上の元素を添加することができる。M元素を添加する場合、混合水溶液(a)中に、M元素の化合物として、添加することができる。該M元素化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、硫酸マグネシウム、硝酸カルシウム、硝酸ストロンチウム、硫酸チタン、モリブデン酸アンモニウム、タングステン酸ナトリウム、タングステン酸アンモニウム等を用いることができる。
【0057】
添加元素Mの化合物を混合水溶液(a)中に添加する場合であっても、混合水溶液(a)の金属塩濃度は、既述の条件に維持されることが好ましい。また、M元素の添加量は、例えば混合水溶液(a)中に存在する金属イオンの原子数比で目的とする正極活物質前駆体中の金属元素の原子数比と一致するように調整される。
【0058】
なお、添加元素Mは、必ずしも混合水溶液(a)中に添加して、共沈させる必要はなく、例えば、添加元素Mを添加していない状態で共沈させ、得られた共沈物の表面に、M元素の水酸化物あるいは酸化物等の化合物を、湿式中和法により析出させてもよい。さらに、複数の種類のM元素を添加する場合、上記添加方法を組み合わせることにより、目的とする正極活物質前駆体を得てもよい。
【0059】
また、混合水溶液(a)を調整する際に、金属塩は、混合水溶液中に存在する金属イオンの原子数比が、目的とする正極活物質前駆体中の金属元素の原子数比と一致するように、調整することが好ましい。
【0060】
上記アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)は、特に限定されるものではないが、アンモニア水、硫酸アンモニウム又は塩化アンモニウムの水溶液が好ましく、ハロゲンによる汚染のないアンモニア水、硫酸アンモニウム水溶液がより好ましい。また、アンモニウムイオン供給体の濃度は、特に限定されるものではなく、各工程におけるアンモニウムイオンの濃度が維持可能な範囲で調整すればよい。
【0061】
上記苛性アルカリ水溶液(c)は、特に限定されるものではなく、例えば、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物の水溶液を用いることができる。アルカリ金属水酸化物の場合、pH値制御の容易さから、水溶液として各工程の反応系に添加することが好ましい。
【0062】
晶析工程においては、特に限定されるものではないが、混合水溶液(a)と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)とをそれぞれ定量的に連続的に供給して、苛性アルカリ水溶液(c)は、添加量を調整して供給することによって、該反応溶液を所定のpHに保持しながら反応を行い、反応槽から前駆体粒子を含む反応溶液を、連続的にオーバーフローさせて、正極活物質前駆体を回収する方法が好ましい。
【0063】
晶析工程において用いる反応槽は、特に限定されるものではないが、撹拌機、オーバーフロー口、及び温度制御手段を備える容器を用いることが好ましい。
【0064】
なお、所定のフローファクターを有する正極活物質前駆体が得られるように、例えば晶析工程において、混合水溶液(a)の供給速度等に応じて、反応溶液に対して十分な撹拌力を加えながら晶析を行うことが好ましい。
【0065】
晶析工程において、反応溶液に加える撹拌力の好適な範囲については、混合水溶液(a)の供給速度や、反応槽の条件等により変化する。このため、予備試験を行い、得られる正極活物質前駆体のフローファクターと、晶析条件、加えた撹拌力との関係から、好適な撹拌力を選択し、晶析工程を実施することが好ましい。
【0066】
晶析工程終了後、得られた正極活物質前駆体である複合金属水酸化物は、そのまま正極活物質の原料として用いることもできる。
【0067】
また、正極活物質前駆体である複合金属水酸化物を焙焼し、一部または全部を複合金属酸化物としてから、正極活物質の原料として用いることもできる。このように、正極活物質前駆体である複合金属水酸化物を焙焼する場合には、本実施形態の正極活物質前駆体の製造方法の晶析工程終了後、晶析工程で得られた正極活物質前駆体である複合金属水酸化物を焙焼する焙焼工程をさらに実施することができる。
【0068】
晶析工程で得られた正極活物質前駆体である複合金属水酸化物を焙焼する際の条件については特に限定されるものではなく、要求される酸化物への転化の程度等に応じて、焙焼条件を選択することができる。
【0069】
焙焼工程では例えば、晶析工程により得られた正極活物質前駆体である複合金属水酸化物を500℃以上700℃以下で焼成することができる。
【0070】
焙焼工程において、正極活物質前駆体である複合金属水酸化物を焙焼する際の雰囲気は特に制限されるものではなく、非還元性雰囲気であればよいが、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。
【0071】
焙焼に用いる設備は、特に限定されるものではなく、正極活物質前駆体である複合金属水酸化物を非還元性雰囲気中、好ましくは空気気流中で加熱できるものであればよく、ガス発生がない電気炉などが好適に用いられる。
【0072】
なお、焙焼工程は、後述する正極活物質の製造方法の中で、例えば混合工程の前に実施することもできる。
[正極活物質の製造方法]
本実施形態の正極活物質の製造方法は、特に限定されるものではない。本実施形態の正極活物質の製造方法は、例えば以下の工程を有することができる。
【0073】
既述の正極活物質前駆体と、リチウム化合物との混合物を調製する混合工程。
上記混合物を焼成する焼成工程。
【0074】
以下、各工程について説明する。
(混合工程)
混合工程では、正極活物質前駆体と、リチウム化合物とを混合して、混合物(混合粉)を得ることができる。
【0075】
正極活物質前駆体と、リチウム化合物とを混合する際の比は特に限定されるものではなく、製造する正極活物質の組成に応じて選択することができる。
【0076】
後述する焼成工程の前後でLi/Meはほとんど変化しないので、焼成工程に供する混合物中のLi/Meが、得られる正極活物質におけるLi/Meとほぼ同じになる。このため、混合工程で調製する混合物におけるLi/Meが、得ようとする正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合することが好ましい。
【0077】
例えば、混合工程においては、混合物中のリチウム以外の金属の原子数(Me)と、リチウムの原子数(Li)との比(Li/Me)が、1.00以上1.08以下となるように混合することが好ましい。特に、上記混合物中のリチウムの原子数と、リチウム以外の金属の原子数との比(Li/Me)が1.025以上1.045以下となるように混合することがより好ましい。
【0078】
混合工程に供するリチウム化合物としては特に限定されないが、例えば水酸化リチウム、炭酸リチウム等から選択された1種以上を好ましく用いることができる。また、リチウム化合物の粒度は、D50(体積基準のメジアン径)が50μm以上100μm以下のものを好ましく用いることができる。なお、混合工程に供するリチウム化合物は粉砕処理や、篩分け等を行い、粒度を調整してから混合工程に供給することもできる。
【0079】
混合工程において、正極活物質前駆体とリチウム化合物とを混合する際の混合手段としては、一般的な混合機を使用することができ、例えば、シェーカーミキサ、レーディゲミキサ、ジュリアミキサ、Vブレンダなどを用いればよい。
【0080】
なお、既述のように、予め焙焼工程を実施し、混合工程では、複合金属水酸化物の一部または全部を複合金属酸化物とした物と、リチウム化合物との混合物を調製する混合工程とすることもできる。
【0081】
このため、混合工程は、既述の正極活物質前駆体である複合金属水酸化物、及び既述の正極活物質前駆体を焙焼した複合金属酸化物から選択された1種以上と、リチウム化合物との混合物を調製する工程ということもできる。
【0082】
上述のように混合工程の原料の1つとして、複合金属水酸化物の一部または全部を複合金属酸化物とした物を用いる場合、後述する焼成工程では、上記複合金属水酸化物の一部または全部を複合金属酸化物とした物と、リチウム化合物との混合物を焼成することができる。
(焼成工程)
焼成工程は、上記混合工程で得られた混合物を焼成して、正極活物質とする工程である。焼成工程において混合物を焼成すると、正極活物質前駆体に、リチウム化合物中のリチウムが拡散し、正極活物質が形成される。
【0083】
焼成工程において、混合物を焼成する焼成温度は特に限定されないが、例えば600℃以上950℃以下であることが好ましく、700℃以上900℃以下であることがより好ましい。
【0084】
焼成温度を600℃以上とすることで、正極活物質前駆体中へのリチウムの拡散を十分に進行させることができ、得られる正極活物質の結晶構造を均一にすることができる。このため、生成物を正極活物質として用いた場合に電池特性を特に高めることができるため好ましいからである。また、反応を十分に進行させることができるため、余剰のリチウムの残留や、未反応の粒子が残留することを抑制できるからである。
【0085】
焼成温度を950℃以下とすることで、生成する正極活物質の粒子の粒子間で焼結が進行することを抑制することができる。また、異常粒成長の発生を抑制し、得られる正極活物質の粒子が粗大化することを抑制することができる。
【0086】
また、焼成温度まで昇温する過程で、リチウム化合物の融点付近の温度にて1時間以上5時間以下程度保持することで、より反応を均一に行わせることができ、好ましい。
【0087】
焼成工程における焼成時間のうち、所定温度、すなわち上述の焼成温度での保持時間は特に限定されないが、2時間以上とすることが好ましく、より好ましくは4時間以上である。これは焼成温度での保持時間を2時間以上とすることで、正極活物質の生成を十分に促進し、未反応物が残留することをより確実に防止することができるからである。
【0088】
焼成温度での保持時間の上限値は特に限定されないが、生産性等を考慮して24時間以下であることが好ましい。
【0089】
焼成時の雰囲気は特に限定されないが、酸化性雰囲気とすることが好ましい。酸化性雰囲気としては、酸素含有ガス雰囲気を好ましく用いることができ、例えば酸素濃度が18容量%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましい。
【0090】
これは焼成時の雰囲気中の酸素濃度を18容量%以上とすることで、正極活物質の結晶性を特に高めることができるからである。
【0091】
酸素含有ガス雰囲気とする場合、該雰囲気を構成する気体としては、例えば大気や、酸素、酸素と不活性ガスとの混合気体等を用いることができる。
【0092】
なお、酸素含有ガス雰囲気を構成する気体として、例えば上述のように酸素と不活性ガスとの混合気体を用いる場合、該混合気体中の酸素濃度は上述の範囲を満たすことが好ましい。
【0093】
特に、焼成工程においては、酸素含有ガス気流中で実施することが好ましく、大気、または酸素気流中で行うことがより好ましい。特に電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことが好ましい。
【0094】
なお、焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、酸素含有ガス雰囲気で混合物を焼成できるものであればよいが、炉内の雰囲気を均一に保つ観点から、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉をいずれも用いることができる。
【0095】
焼成工程によって得られた正極活物質は、凝集もしくは軽度の焼結が生じている場合がある。この場合には、解砕してもよい。
【0096】
ここで、解砕とは、焼成時に二次粒子間の焼結ネッキングなどにより生じた複数の二次粒子からなる凝集体に、機械的エネルギーを投入して、二次粒子自体をほとんど破壊することなく二次粒子を分離させて、凝集体をほぐす操作のことである。
【0097】
また、焼成工程の前に、仮焼成を実施することが好ましい。
【0098】
仮焼成を実施する場合、仮焼成温度は特に限定されないが、焼成工程における焼成温度より低い温度とすることができる。仮焼成温度は、例えば250℃以上600℃以下することが好ましく、350℃以上550℃以下とすることがより好ましい。
【0099】
仮焼成時間、すなわち上記仮焼成温度での保持時間は、例えば1時間以上10時間以下程度とすることが好ましく、3時間以上6時間以下とすることがより好ましい。
【0100】
仮焼成後は、一旦冷却した後焼成工程に供することもできるが、仮焼成温度から、焼成温度まで昇温して連続して焼成工程を実施することもできる。
【0101】
なお、仮焼成を実施する際の雰囲気は特に限定されないが、例えば焼成工程と同様の雰囲気とすることができる。
【0102】
仮焼成を実施することにより、正極活物質前駆体へのリチウムの拡散が十分に行われ、特に均一な正極活物質を得ることができる。
【0103】
本実施形態の正極活物質の製造方法はさらに任意の工程を有することもできる。
【0104】
例えば得られた正極活物質の表面に付着した余剰のリチウム化合物を除去するため、水洗工程を実施することもできる。
【0105】
水洗工程では、例えば焼成工程で得られた正極活物質を純水に投入してスラリーとし、所定時間撹拌した後、水と分離、濾過、乾燥することができる。
【0106】
本実施形態の正極活物質の製造方法によれば、既述の正極活物質前駆体を用いているため、混合工程において、正極活物質前駆体と、リチウム化合物とを容易に均一に混合することができ、焼成工程の間等に該混合物が分離することを抑制できる。このため、組成が均一であり、かつ目的とする組成の正極活物質を安定して製造することができる。すなわち、本実施形態の正極活物質の製造方法によれば、例えば複数の箇所で、リチウムと、リチウム以外の金属との物質量比(Li/Me比)を測定した場合、そのばらつきを抑制した正極活物質を得ることができる。
[非水系電解質二次電池]
次に、本実施形態の非水系電解質二次電池の一構成例について説明する。
【0107】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、既述の正極活物質前駆体を用いて製造された正極活物質を正極材料として用いた正極を有することができる。
【0108】
まず、本実施形態の非水系電解質二次電池の構造の構成例を説明する。
【0109】
本実施形態の非水系電解質二次電池は、正極材料に既述の正極活物質前駆体を用いて製造された正極活物質を用いたこと以外は、一般的な非水系電解質二次電池と実質的に同様の構造を備えることができる。
【0110】
具体的には、本実施形態の非水系電解質二次電池は、ケースと、このケース内に収容された正極、負極、非水系電解液およびセパレータを備えた構造を有することができる。
【0111】
より具体的にいえば、セパレータを介して正極と負極とを積層させて電極体とし、得られた電極体に非水系電解液を含浸させることができる。そして、正極の正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および負極の負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、それぞれ集電用リードなどを用いて接続し、ケースに密閉した構造を有することができる。
【0112】
なお、本実施形態の非水系電解質二次電池の構造は、上記例に限定されないのはいうまでもなく、またその外形も筒形や積層形など、種々の形状を採用することができる。
【0113】
各部材の構成例について以下に説明する。
(正極)
まず正極について説明する。
【0114】
正極は、シート状の部材であり、例えば、既述の正極活物質前駆体を用いて製造された正極活物質を含有する正極合材ペーストを、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布乾燥して形成できる。なお、正極は、使用する電池にあわせて適宜処理される。たとえば、目的とする電池に応じて適当な大きさに形成する裁断処理や、電極密度を高めるためにロールプレスなどによる加圧圧縮処理等を行うこともできる。
【0115】
上述の正極合材ペーストは、正極合材に、溶剤を添加して混練して形成することができる。そして、正極合材は、粉末状になっている既述の正極活物質前駆体を用いて製造された正極活物質と、導電材と、結着剤とを混合して形成できる。
【0116】
導電材は、電極に適当な導電性を与えるために添加されるものである。導電材の材料は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛などの黒鉛や、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック系材料を用いることができる。
【0117】
結着剤は、正極活物質をつなぎ止める役割を果たすものである。係る正極合材に使用される結着剤は特に限定されないが、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸等から選択された1種以上を用いることができる。
【0118】
なお、正極合材には活性炭などを添加することもできる。正極合材に活性炭などを添加することによって、正極の電気二重層容量を増加させることができる。
【0119】
溶剤は、結着剤を溶解して正極活物質、導電材、および活性炭等を結着剤中に分散させる働きを有する。溶剤は特に限定されないが、例えばN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0120】
また、正極合材ペースト中における各物質の混合比は特に限定されるものではなく、例えば一般の非水系電解質二次電池の正極の場合と同様にすることができる。例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分を100質量部とした場合、正極活物質の含有量を60質量部以上95質量部以下、導電材の含有量を1質量部以上20質量部以下、結着剤の含有量を1質量部以上20質量部以下とすることができる。
(負極)
負極は、銅などの金属箔集電体の表面に、負極合材ペーストを塗布し、乾燥して形成されたシート状の部材である。
【0121】
負極は、負極合材ペーストを構成する成分やその配合、集電体の素材等は異なるものの、実質的に上述の正極と同様の方法によって形成され、正極と同様に必要に応じて各種処理が行われる。
【0122】
負極合材ペーストは、負極活物質と結着剤とを混合した負極合材に、適当な溶剤を加えてペースト状にすることができる。
【0123】
負極活物質としては例えば、金属リチウムやリチウム合金などのリチウムを含有する物質や、リチウムイオンを吸蔵および脱離できる吸蔵物質を採用することができる。
【0124】
吸蔵物質は特に限定されないが、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂等の有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体等から選択された1種以上を用いることができる。
【0125】
係る吸蔵物質を負極活物質に採用した場合には、正極同様に、結着剤として、PVDF等の含フッ素樹脂を用いることができ、負極活物質を結着剤中に分散させる溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
セパレータは、正極と負極との間に挟み込んで配置されるものであり、正極と負極とを分離し、電解液を保持する機能を有している。
【0126】
セパレータの材料としては、例えばポリエチレンや、ポリプロピレンなどの薄い膜で、微細な孔を多数有する膜を用いることができるが、上記機能を有するものであれば、特に限定されない。
(非水系電解液)
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。
【0127】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート;また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート;さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物;エチルメチルスルホンやブタンスルトンなどの硫黄化合物;リン酸トリエチルやリン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0128】
支持塩としては、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiAsF6、LiN(CF3SO22、およびそれらの複合塩などを用いることができる。
【0129】
なお、非水系電解液は、電池特性改善のため、ラジカル捕捉剤、界面活性剤、難燃剤などを含んでいてもよい。
【実施例】
【0130】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
(正極活物質前駆体の製造)
以下の手順により晶析工程を実施し、正極活物質前駆体としてNi0.88Co0.12(OH)を製造した。
【0131】
晶析工程で用いた晶析装置の中心軸を通り、中心軸と平行な面での断面模式図を図2に示す。図2に示すように晶析装置20として内部が円筒形状を有する反応槽(撹拌槽)21を用意した。反応槽21の内壁には、4枚の邪魔板22が固定されている。
【0132】
反応槽21内には、6枚の羽根を備えた撹拌翼23が設置されており、反応槽21内の初期水溶液もしくは反応溶液24を、撹拌翼23により撹拌できるように構成されている。また、反応槽21には、図示しないオーバーフロー口が備えられており、連続的にオーバーフローさせて生成した正極活物質を回収できるように構成されている。
【0133】
そして、予備試験を実施したところ、以下の式(1)で表される邪魔板条件と、撹拌回転数との積が35以上100以下となる場合に、反応溶液に対して十分な撹拌力が加えられ、得られる正極活物質前駆体のフローファクターを所望の範囲にでき、好ましいことを確認した。
【0134】
(邪魔板条件)=(B/Dr)1.2×n ・・・ (1)
B:邪魔板の幅(m)、 Dr=反応槽の槽内径(m)、 n:邪魔板の枚数(枚)
そこで、本実施例では、邪魔板条件と、撹拌回転数との積が46.8となるように反応槽、及び撹拌条件を設定した。
【0135】
そして、反応槽21内に純水を6500Lの量まで入れて、槽内温度を49℃に設定した。晶析工程が完了するまで初期水溶液、および反応溶液の液温は49℃に維持した。
【0136】
次いで、初期水溶液のアンモニウムイオン濃度が15.5g/Lとなるように、反応槽21内の水に、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)として、25質量%アンモニア水を加えた。
【0137】
更に苛性アルカリ水溶液(c)として、24質量%の水酸化ナトリウム水溶液を反応槽21内の水に添加し、pHを50℃基準で11.4に調整し、初期水溶液とした。
【0138】
そして、撹拌翼により、初期水溶液を撹拌しながら、ニッケル塩、およびコバルト塩を含む混合水溶液(a)と、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)と、苛性アルカリ水溶液(c)とを初期水溶液の液中に連続的に供給して反応溶液を形成し、正極活物質の晶析を行った。
【0139】
用いたニッケル塩、およびコバルト塩を含む混合水溶液(a)はニッケル塩として硫酸ニッケルを、コバルト塩として硫酸コバルトを含有している。そして、該混合水溶液(a)中のニッケルとコバルトとの物質量比が88:12、金属塩濃度が2.1mol/Lとなるように各金属塩を添加、混合して調製した。
【0140】
アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)、及び苛性アルカリ水溶液(c)としては、それぞれ初期水溶液を調製する際に用いたものと同じ水溶液を用いた。
【0141】
晶析工程の間、ニッケル塩、およびコバルト塩を含む混合水溶液(a)は、11.32L/minの供給速度で、アンモニウムイオン供給体を含む水溶液(b)は1.56L/minの供給速度で、苛性アルカリ水溶液(c)は7.35L/minの供給速度で初期水溶液、反応溶液に供給した。
【0142】
晶析工程の間、反応溶液は、液温は49℃に、pHは50℃基準で11.1以上11.7以下の範囲に、アンモニア濃度は15.5g/Lに維持されていることが確認できた。
【0143】
回収した晶析物は水洗、濾過し、乾燥を行い、正極活物質前駆体である複合金属水酸化物を得た。
【0144】
得られた正極活物質前駆体について、パウダーフローテスター(ブルックフィールド社製)により、ASTM D6128に準拠して一面せん断試験を行い、最大圧密応力と単軸崩壊応力とを測定した。得られた結果から、最大圧密応力と単軸崩壊応力との比(最大圧密応力/単軸崩壊応力)であるフローファクターを算出したところ、15.9であることが確認できた。なお、最大圧密応力と、単軸崩壊応力との測定方法については、図1A図1Bを用いて既に説明したため、ここでは説明を省略する。
【0145】
また、内部摩擦角を上記パウダーフローテスターにより測定したところ、31°になることが確認できた。なお、測定条件は、プッシャーとして羽根型リッドを使用し、垂直移動速度1.0mm/秒、回転速度1回転/時間とした。
【0146】
得られた正極活物質前駆体については、空気(酸素:21容量%)気流中にて、700℃で6時間焙焼を行い、全てを複合金属酸化物としてから(焙焼工程)正極活物質の製造工程に供した。なお、焙焼工程後に得られた複合金属酸化物についても、正極活物質前駆体の場合と同様にフローファクター、及び内部摩擦角を測定したところフローファクターは10.5であり、内部摩擦角は30°であった。
(正極活物質の製造)
以下の手順により、リチウム化合物と、上述の焙焼工程後に得られた複合金属酸化物との混合物を調製した(混合工程)。
【0147】
リチウム化合物としては、水酸化リチウム一水和物(LiOH・HO)を真空乾燥による無水化処理に供し、得られた無水水酸化リチウムを用いた。なお、得られた無水水酸化リチウムは、粉砕処理に供し、D50(体積基準のメジアン径)、すなわちレーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での平均粒径を79.93μmとしてから以下の混合工程に供した。
【0148】
混合工程では、リチウム化合物と、複合金属酸化物とを、混合物中の原子数の比がLi/Meが1.035となるように秤量、混合して混合物を調製した。なお、ここでのMeはLi以外の金属の合計の原子数を意味しており、Niと、Coとの合計となる。
【0149】
混合工程で得られた混合物を内寸が280mm(L)×280mm(W)×90mm(H)の焼成容器に装入し、これを連続式の焼成炉であるローラーハースキルンを用いて、酸素濃度80容量%、残部が不活性ガスの雰囲気中で、最高温度を770℃として、最高温度で12時間保持し、焼成を行った(焼成工程)。さらに得られた焼成物を、質量比で水1に対し1.5となるように、純水に投入してスラリーとし、30分間の撹拌後、濾過、乾燥して正極活物質を得た(水洗工程)。
【0150】
得られた正極活物質を任意の10箇所でサンプリングし、各サンプルについてICP発光分光分析装置(アジレント・テクノロジー社製 型番:730−ES)により各金属の含有割合を評価し、各サンプル内のリチウムと、リチウム以外の金属との物質量比(Li/Me)を算出した。なお、MeはLi以外の金属の合計の物質量を意味しており、Niと、Coとの合計となる。
【0151】
その結果、サンプル間のLi/Meのばらつきは±0.15%以内になっていることが確認できた。
【0152】
正極活物質前駆体の製造条件、及び正極活物質前駆体、複合金属酸化物、正極活物質の評価結果を表1に示す。
【0153】
【表1】
[実施例2、3]
正極活物質前駆体を製造する際、晶析工程において、既述の邪魔板条件と、撹拌回転数との積が40.8(実施例2)、または37.7(実施例3)となるように、反応槽、及び撹拌条件を設定した。
【0154】
また、混合工程に供するリチウム化合物として、D50が表1に示した値である無水水酸化リチウムを用いた。
【0155】
以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質前駆体、複合金属酸化物、正極活物質を作製した。
【0156】
正極活物質前駆体の製造条件、及び正極活物質前駆体、複合金属酸化物、正極活物質の評価結果を表1に示す。
[実施例4、5]
正極活物質前駆体を製造する際、晶析工程において、混合水溶液(a)として、ニッケル塩、コバルト塩、およびアルミニウム塩を含む混合水溶液を用いた。なお、ニッケル塩としては硫酸ニッケルを、コバルト塩としては硫酸コバルトを、アルミニウム塩としては硫酸アルミニウムをそれぞれ用いた。そして、該混合水溶液(a)中のニッケルと、コバルトと、アルミニウムとの物質量比が82:15:3(実施例4)、91:4.5:4.5(実施例5)となるように各金属塩を添加、混合して調製したものを用いた。混合水溶液(a)の金属塩濃度は実施例1と同じとなる。
【0157】
また、既述の邪魔板条件と、撹拌回転数との積が37.7(実施例4)、または46.8(実施例5)となるように、反応槽、及び撹拌条件を設定した。
【0158】
混合工程に供するリチウム化合物として、D50が表1に示した値である無水水酸化リチウムを用いた。
【0159】
以上の点以外は実施例1と同様にして正極活物質前駆体、複合金属酸化物、正極活物質を作製した。
【0160】
なお、正極活物質前駆体として、実施例4ではNi0.82Co0.15Al0.03(OH)を、実施例4ではNi0.91Co0.045Al0.045(OH)を、それぞれ作製した。
【0161】
正極活物質前駆体の製造条件、及び正極活物質前駆体、複合金属酸化物、正極活物質の評価結果を表1に示す。
[比較例1、2]
正極活物質前駆体を製造する際、晶析工程において、既述の邪魔板条件と、撹拌回転数との積が31.2(比較例1)、または130.2(比較例2)となるように、反応槽、及び撹拌条件を設定した。
【0162】
また、混合工程に供するリチウム化合物として、D50が表1に示した値である無水水酸化リチウムを用いた。
【0163】
以上の点以外は、実施例1と同様にして正極活物質前駆体、複合金属酸化物、正極活物質を作製した。
【0164】
正極活物質前駆体の製造条件、及び正極活物質前駆体、複合金属酸化物、正極活物質の評価結果を表1に示す。
【0165】
表1に示した結果から、フローファクターが10以上20以下にある正極活物質前駆体を用いた実施例1〜実施例5では、得られた正極活物質におけるリチウムと、リチウム以外の金属との物質量比のばらつき(Li/Me比バラツキ)が小さいことが確認できた。このため、実施例1〜実施例5における正極活物質前駆体は、リチウム化合物と混合し易く、リチウム化合物との分離を抑制することができるものといえる。
【0166】
また、上記実施例、比較例では、正極活物質前駆体を焙焼し、複合金属酸化物としてから用いているが、正極活物質前駆体を焙焼せずに用いた場合であっても、焙焼の前後で粉体特性、すなわちリチウム化合物との混合特性の傾向に大きな変化を生じないことから、リチウム化合物と混合し易く、リチウム化合物との分離を抑制できるものといえる。
【0167】
以上に非水系電解質二次電池用正極活物質前駆体を、実施形態および実施例等で説明したが、本発明は上記実施形態および実施例等に限定されない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0168】
本出願は、2016年12月26日に日本国特許庁に出願された特願2016−252080号に基づく優先権を主張するものであり、特願2016−252080号の全内容を本国際出願に援用する。
図1A
図1B
図2