特許第6443604号(P6443604)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6443604
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】細胞濾過フィルタ
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/12 20060101AFI20181217BHJP
   C12M 1/26 20060101ALI20181217BHJP
   C12M 3/06 20060101ALI20181217BHJP
   G01N 1/04 20060101ALI20181217BHJP
   B01D 39/20 20060101ALI20181217BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   C12M1/12
   C12M1/26
   C12M3/06
   G01N1/04
   B01D39/20 A
   B01D71/02
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-546057(P2018-546057)
(86)(22)【出願日】2018年2月16日
(86)【国際出願番号】JP2018005513
【審査請求日】2018年8月31日
(31)【優先権主張番号】特願2017-46432(P2017-46432)
(32)【優先日】2017年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006231
【氏名又は名称】株式会社村田製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(72)【発明者】
【氏名】山本 航
(72)【発明者】
【氏名】萬壽 優
(72)【発明者】
【氏名】近藤 孝志
【審査官】 佐藤 巌
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005-148048(JP,A)
【文献】 国際公開第2017/022810(WO,A1)
【文献】 特許第6249124(JP,B2)
【文献】 国際公開第2018/030061(WO,A1)
【文献】 国際公開第2018/116883(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/070817(WO,A1)
【文献】 広辞苑,1998年,第5版,第563頁,項目「から〔助詞〕」
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00−3/10
B01D 39/20
B01D 71/02
G01N 1/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/CAplus/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞を濾過する細胞濾過フィルタであって、
互いに対向する第1主面と第2主面とを貫通する複数の貫通孔を有する金属性多孔膜を備え、
前記金属製多孔膜は、前記複数の貫通孔が配置された濾過部と、前記濾過部の外周を囲むように配置された枠部と、を有し、
前記濾過部内において、前記濾過部の中心から前記枠部に向かって、前記金属製多孔膜の膜厚が連続的または段階的に増加している、細胞濾過フィルタ。
【請求項2】
前記金属製多孔膜の前記第2主面が平坦面であり、前記第1主面における前記濾過部に相当する面が、前記濾過部の中心側が低くかつ前記枠部側が高くなるような凹面である、請求項に記載の細胞濾過フィルタ。
【請求項3】
前記金属製多孔膜の第2主面沿いの方向において、前記枠部の幅は、前記濾過部における隣接する前記貫通孔間の距離よりも大きい、請求項1または2に記載の細胞濾過フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞を濾過する細胞濾過フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、流体中の細胞を濾過して捕捉する細胞濾過フィルタとして、金属製多孔膜を備えるフィルタが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
このような従来の細胞濾過フィルタは、互いに対向する平坦面である主面を貫通する複数の貫通孔を有する金属性多孔膜を備える。金属製多孔膜の一方の主面側から濾過対象物である細胞を含んだ流体を供給することで、それぞれの貫通孔を通して流体を通過させながら主面上にて細胞を捕捉することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2010−520446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来の細胞濾過フィルタにおいて、金属製多孔膜の一方の主面上に捕捉された細胞を分析しようとする場合、金属製多孔膜を分析装置に移動させて行う必要がある。しかしながら、金属製多孔膜の主面上には培養液等の流体がほとんど残っておらず、捕捉された細胞が乾燥してダメージを受けるおそれがあり、細胞分析を行うことができない場合がある。
【0006】
従って、本発明の目的は、上記従来の課題を解決することにあって、金属製多孔膜にて捕捉された細胞の取り扱い性を向上させることができる細胞濾過フィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一の態様の細胞濾過フィルタは、細胞を濾過する細胞濾過フィルタであって、互いに対向する第1主面と第2主面とを貫通する複数の貫通孔を有する金属性多孔膜を備え、前記金属製多孔膜は、前記複数の貫通孔が配置された濾過部と、前記濾過部の外周を囲むように配置された枠部と、を有し、前記濾過部内において、前記濾過部の中心における前記金属製多孔膜の膜厚は、前記濾過部の中心よりも前記枠部に近い位置における前記金属製多孔膜の膜厚よりも小さい、ものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、金属製多孔膜にて捕捉された細胞の取り扱い性を向上させることができる細胞濾過フィルタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一の実施の形態にかかるフィルタの概略構成図
図2図1のフィルタにおける金属製多孔膜の部分拡大図
図3図1のフィルタの金属製多孔膜の部分拡大図
図4図1のフィルタの金属製多孔膜の構造を示す模式図であり、(A)はフィルタの模式平面図、(B)は模式断面図
図5】本発明の一の実施の形態にかかるフィルタの製造方法のフローチャート
図6図5のフィルタの製造方法における各工程を説明する模式断面図
図7】本発明の変形例にかかるフィルタの製造方法において、複数の金属製多孔膜を同時に製造する場合のレジスト像の平面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一の態様の細胞濾過フィルタは、細胞を濾過する細胞濾過フィルタであって、互いに対向する第1主面と第2主面とを貫通する複数の貫通孔を有する金属性多孔膜を備え、前記金属製多孔膜は、前記複数の貫通孔が配置された濾過部と、前記濾過部の外周を囲むように配置された枠部と、を有し、前記濾過部内において、前記濾過部の中心における前記金属製多孔膜の膜厚は、前記濾過部の中心よりも前記枠部に近い位置における前記金属製多孔膜の膜厚よりも小さい、ものである。
【0011】
このような構成によれば、金属製多孔膜の濾過部において、中心の膜厚が中心よりも枠部に近い位置における膜厚よりも小さく設定されているため、濾過部における第1主面および第2主面の少なくともいずれかの表面の一部に凹面を形成することができる。凹面が形成された側で細胞を捕捉するような場合には、流体の表面張力により凹面に流体溜まりが形成されやすくなることから、捕捉された細胞の乾燥を抑制することができる。よって、金属製多孔膜にて捕捉された細胞の取り扱い性を向上させることができる。
【0012】
また、前記濾過部内において、前記濾過部の中心から前記枠部に向かって、前記金属製多孔膜の膜厚が連続的または段階的に増加している、ようにしてもよい。
【0013】
このような構成によれば、金属製多孔膜の第1主面または第2主面に滑らかな凹面を形成することができる。滑らかな凹面を形成した状態で、凹面上の流体に表面張力を作用させることで、凹面に流体溜まりを形成しやすくでき、金属製多孔膜にて捕捉された細胞の取り扱い性を向上させることができる。なお、表面張力は、流体の粘性に応じて、金属製多孔膜の表面状態、貫通孔の形状、開口面積を変更することによって、制御することができる。
【0014】
また、前記金属製多孔膜の前記第2主面が平坦面であり、前記第1主面における前記濾過部に相当する面が、前記濾過部の中心側が低くかつ前記枠部側が高くなるような凹面である、ようにしてもよい。
【0015】
凹面を利用した流体溜まりを利用したい場合には、凹面である第1主面側にて細胞を捕捉し、一方、流体溜まりを形成せずに流体抜けを良くしたい場合には、平坦面である第2主面側にて細胞を捕捉することができる。このように目的に応じて第1主面と第2主面とを使い分けることにより、細胞濾過フィルタの取り扱い性を向上できる。
【0016】
また、前記金属製多孔膜の第2主面沿いの方向において、前記枠部の幅は、前記濾過部における隣接する前記貫通孔間の距離よりも大きい、ようにしてもよい。
【0017】
このように枠部の幅と、隣接する貫通孔間の距離との大小関係を設けることにより、例えば、レジスト像を用いためっき処理により、濾過部における膜厚の大小を設けることができる。よって、金属製多孔膜にて捕捉された細胞の取り扱い性を向上させることができる細胞濾過フィルタを提供することができる。
【0018】
以下、本発明に係る実施の形態について、添付の図面を参照しながら説明する。また、各図においては、説明を容易なものとするため、各要素を誇張して示している。
【0019】
(実施の形態1)
(フィルタの全体構成)
図1は、本発明に係る実施の形態1の細胞濾過フィルタ1(以降、フィルタ1とする。)の概略図を示す。図2は、フィルタ1の部分拡大図を示す。また、フィルタ1の周縁付近の部分拡大平面図を図3に示す。図2中のX、Y方向は、それぞれフィルタ1の表面沿いの方向であって互いに直交する方向であり、Z方向は、フィルタ1の厚み方向であり、X方向およびY方向に直交する方向である。
【0020】
図1および図3に示すように、フィルタ1は、厚み方向に貫通する複数の貫通孔11を有する金属製多孔膜10を備える。金属製多孔膜10は、複数の貫通孔11が配置されている領域である濾過部R1と、濾過部R1を囲むように配置された領域である枠部R2とを有する。本実施の形態1では、濾過部R1は円形状の領域であり、枠部R2は円環状の領域であり、枠部R2は濾過部R1を周縁側から保持するような領域である。また、枠部R2には貫通孔11が形成されていない。また、フィルタ1において、金属製多孔膜10の枠部R2を挟持するような部材が備えられ、フィルタ1のハンドリング性を高めるようにしてもよい。なお、本実施の形態1では、濾過部R1と枠部R2とが一体に形成されている場合を例とするが、濾過部R1と枠部R2とが互いに別体として形成され、枠部R2が濾過部R1を保持するような場合であってもよい。また、濾過部R1の形状は円形状に限られず、正方形状、長方形状、楕円形状など、他の形状であってもよい。
【0021】
金属製多孔膜10は、濾過対象物を含む流体を貫通孔11にて通過させることにより、流体中から濾過対象物を分離するものである。本明細書において、「濾過対象物」とは、金属製多孔膜10によって濾過する対象物を意味する。濾過対象物の例としては、生物由来物質やPM2.5等が含まれる。「生物由来物質」とは、細胞(真核生物)、細菌(真性細菌)、ウィルス等の生物に由来する物質を意味する。細胞(真核生物)としては、例えば、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、ES細胞、幹細胞、間葉系幹細胞、単核球細胞、単細胞、細胞塊、浮遊性細胞、接着性細胞、神経細胞、白血球、再生医療用細胞、自己細胞、がん細胞、血中循環がん細胞(CTC)、HL−60、HELA、菌類を含む。細菌(真性細菌)としては、例えば、大腸菌、結核菌を含む。
【0022】
図1に示すように、金属製多孔膜10は、円形の金属メッシュである。また、金属製多孔膜10は、図2に示すように、互いに対向する第1主面PS1と第2主面PS2を有し、両主面を貫通する複数の貫通孔11を有する構造体である。複数の貫通孔11は、金属製多孔膜10の濾過部R1において、第1主面PS1および第2主面PS2上に周期的に配置されている。金属製多孔膜10は、例えば、ニッケルを主材料として形成されている。金属製多孔膜10の主材料は金属であればよく、例えば、金、銀、銅、ニッケル、ステンレス鋼、パラジウム、チタン、およびこれらの合金であってもよい。特に、金属製多孔膜10の主材料としては、生物由来物質を捕捉する場合、生物由来物質との生体親和性の観点から、金、ニッケル、ステンレス、チタンが好ましい。
【0023】
図2および図3に示すように、金属製多孔膜10は、マトリックス状に一定の間隔で複数の貫通孔11が配置された板状構造体(格子状構造体)である。複数の貫通孔11は、金属製多孔膜10の第1主面PS1側から見て、即ちZ方向に見て正方形の形状を有する。複数の貫通孔11は、正方形の各辺と平行な2つの配列方向、即ち図2中のX方向とY方向に等しい間隔で設けられている。なお、貫通孔11は、正方形に限定されず、例えば長方形や円や楕円などでもよい。また、孔の配列も正方格子配列に限定されず、例えば方形配列であれば、2つの配列方向の間隔は等しくない長方形配列でもよく、三角格子配列や準周期配列などでもよい。
【0024】
貫通孔11の形状や寸法は、濾過する濾過対象物の大きさ、形状に応じて適宜設計される。本実施の形態1において、貫通孔11は、例えば、金属製多孔膜10の第1主面PS1側から見て、即ちZ方向から見て正方形であり、縦0.1μm以上50μm以下、横0.1μm以上50μm以下に設計される。貫通孔11間の間隔は、例えば、貫通孔11の1倍より大きく10倍以下であり、より好ましくは貫通孔11の3倍以下である。あるいは、開口率にして10%以上が好ましい。また、金属製多孔膜10の第2主面PS2沿いの方向において、枠部R2の幅は、濾過部R1における隣接する貫通孔11間の距離(貫通孔11の端縁間の距離)よりも大きく設定されている。
【0025】
ここで、本実施の形態1のフィルタ1の構造を示す模式図を図4に示す。図4において、(A)はフィルタ1の模式平面図であり、(B)はフィルタ1の模式断面図である。
【0026】
図4(B)に示すように、フィルタ1の金属製多孔膜10は、均一な膜厚を有しているのではなく、中央側の膜厚が周縁側に比し小さくなるように形成されている。具体的には、金属製多孔膜10の濾過部R1内において、濾過部R1の中心における膜厚が、濾過部R1の中心よりも枠部R2に近い位置における金属製多孔膜10の膜厚よりも小さくなっている。
【0027】
図4(A)に示すように、濾過部R1の全体は、中心をP1とする半径D3の円形状の領域となる。濾過部R1において、中心P1に対して、半径D1、半径D2の仮想円C1、C2を描画する。ここで半径D1は半径D3×1/3であり、半径D2は半径D3×2/3である。濾過部R1において、仮想円C1にて囲まれた円形状の領域を中央側領域R11とし、仮想円C1と仮想円C2とで挟まれた円環状の領域を中間領域R12とし、仮想円C2の外周側の円環状の領域を周縁側領域R13とする。さらに、濾過部R1の平面視において、濾過部R1の中心P1を通る仮想直線Lを描画したとき、仮想直線Lと仮想円C1との交点(第1の位置)をP2、仮想直線Lと仮想円C2との交点(第2の位置)をP3とする。
【0028】
図4(B)は、図4(A)に示す金属製多孔膜10における仮想直線Lの模式断面図である。図4(B)に示すように、金属製多孔膜10の濾過部R1内において、枠部R2から離れた中央側領域R11における膜厚が、中央側領域R11よりも枠部R2に近い周縁側領域R13における膜厚よりも小さく形成されている。さらに、濾過部R1内において、中央側領域R11と周縁側領域R13との間に位置する中間領域R12における膜厚は、中央側領域R11の膜厚よりも大きく、周縁側領域R13の膜厚よりも小さく形成されている。具体的には、中心P1における膜厚をT1、交点P2における膜厚をT2、交点P3における膜厚をT3とした場合、それぞれ膜厚は、T1<T2<T3の関係を満たしている。すなわち、金属製多孔膜10の濾過部R1内において、濾過部R1の中心P1から放射方向(すなわち、枠部R2)に向かって、膜厚が増加するように、膜厚が設定されている。また、膜厚は、連続的または段階的に増加するようにしてもよい。
【0029】
また、図4に示すように、金属製多孔膜10の第2主面PS2は平坦面として形成されており、第1主面PS1における濾過部R1に相当する面が、濾過部R1の中心P1側よりも枠部R2側が高くなるような凹面として形成されている。金属製多孔膜10の枠部R2は膜厚T0が概ね一定の厚さに形成され、膜厚T0は周縁側領域R13における交点P3の膜厚T3以上となっている。
【0030】
このような本実施の形態1の金属製多孔膜10は、例えば、直径8mm(枠部R2の外形)、枠部R2の幅寸法1mm、隣接する貫通孔11の間隔が1μm以上500μm以下に形成される。また、濾過部R1は直径6mmであり、濾過部R1において、枠部R2に近い交点P3おける膜厚T3が1.1μm、中央P1における膜厚T1が0.8μmに形成される。
【0031】
なお、図4(A)および(B)に示す領域R11、R12、R13を用いた説明は、濾過部R1の中心P1から枠部R2に向かって、膜厚が増加していることを説明することを目的とするものである。そのため、仮想円C1の半径D1が半径D3×1/3、仮想円C2の半径D2が半径D3×2/3である場合に限られない。例えば、それぞれの半径がD1<D2<D3の関係を有した仮想円を用いても同様の説明を行うことができる。
【0032】
(フィルタの製造方法)
次に、本実施の形態1のフィルタ1の製造方法の一例について説明する。フィルタ1の製造方法のフローチャートを図5に示し、フィルタ1の製造方法におけるそれぞれの製造過程の断面図を図6(A)〜図6(F)に示す。
【0033】
まず、図5のステップS21(銅薄膜の形成)において、金属膜の形成を行う。図6(A)に示すように、シリコンなどの基板31上に金属膜を形成する。金属膜を形成する金属としては、例えば、銅が用いられて、銅薄膜32が基板31上に形成される。銅薄膜32は、例えば蒸着またはスパッタリングにより形成することができる。スパッタリングにて形成した方が、蒸着にて形成される場合と比べて、表面膜質を良好なものとすることができる。この銅薄膜32が、後述するめっき処理の際に給電電極として用いられる。また、基板31と銅薄膜32との間に接着性確保を目的として中間層(例えば、Ti膜)を形成してもよい。
【0034】
次に、図6(B)に示すように、銅薄膜32上にレジスト膜33を形成する(ステップS22:レジスト膜の形成)。具体的には、銅薄膜32上に、例えばスピンコートによりレジストの塗布を行い、乾燥処理を行うことにより、レジスト膜33を形成する。レジスト膜33は、例えば2μm程度の厚さに形成される。
【0035】
次に、図6(C)に示すように、レジスト膜33に対して、露光および現像処理を行い、レジスト膜33から金属製多孔膜10に相当する部分が除去された溝部34、35を有するレジスト像36を形成する(ステップS23:露光・現像(レジスト像形成))。溝部34は、金属製多孔膜10の濾過部R1に形成された溝部分であり、溝部35は、枠部R2に形成された溝部分である。溝部34の開口幅W1が金属製多孔膜10における隣接する貫通孔11間の距離に相当し、溝部35の開口幅W2が枠部R2の幅に相当する。すなわち、溝部34の開口幅W1は、溝部35の開口幅W2に比して小さくなっている。また、溝部34、35の底では、銅薄膜32が露出された状態となっている。
【0036】
次に、図6(D)に示すように、レジスト像36において、溝部34および溝部35内に金属を主材料として析出させて、溝部34、35内に金属製多孔膜10を形成する(ステップS24:めっき処理)。金属製多孔膜10は、例えば、銅薄膜32を給電電極として電解めっき法を行うことにより形成され、析出させる金属としてはニッケルが用いられる。
【0037】
上述したように、レジスト像36において、溝部34の開口幅W1は、溝部35の開口幅W2に比して小さく形成されている。また、レジスト像36において、中央側に溝部34が密集して設けられ、これらの溝部34を囲むように溝部35が円環状に設けられている。このようなレジスト像36に対してめっき処理が行われると、開口幅の大きな溝部35にはめっき液が入り込みやすく、一方、開口幅の小さな溝部34にはめっき液が入り込み難くなる。また、溝部34が配置されている領域であっても、溝部34の周囲が別の溝部34で囲まれた状態にある濾過部R1の中央側領域R11に相当する部分では、枠部R2の近くに位置する周縁側領域R13に相当する部分と比べて、溝部34内にめっき液が入り込み難くなる。これは、溝部34を形成するレジスト像36の凸状部分が、密集していることによって、溝部34内へのめっき液の入り込みを阻害しているものと考えられる。また、めっき速度を大きく設定する程、このようなめっき液の入り込み易さの違いを顕著なものとすることができる。
【0038】
このようにめっき処理が行われると、溝部34、35内に入り込んだめっき液が析出し、めっき液の入り込んだ量に比例した膜厚の析出金属による膜が形成される。図6(D)に示すように、溝部35に形成される金属製多孔膜10の膜厚T0が最も大きくなる。溝部34についても周縁側領域R13と中間領域R12との境界(交点P3)の膜厚T3、中間領域R12と中央側領域R11との境界(交点P2)の膜厚T2、中央側領域R11における中心P1の膜厚T1の順で、膜厚が小さくなる。
【0039】
次に、図6(E)に示すように、溶剤(例えば、アセトン等)への浸漬を行って、レジスト像36を溶解して、銅薄膜32から剥離させる(ステップS25:レジスト像の除去)。
【0040】
その後、図6(F)に示すように、銅薄膜32および基板31の除去を行う(ステップS26:基板・銅薄膜の除去)。具体的には、エッチング液を用いて、銅薄膜32をエッチングにより除去することにより、金属製多孔膜10を基板31から剥離する。
【0041】
このような手順により、複数の貫通孔11が形成された濾過部R1と、濾過部R1の周囲に配置された枠部R2とを有する金属性多孔膜10が形成される。また、金属製多孔膜10における枠部R2の膜厚T0、濾過部R1の交点P3の膜厚T3、交点P2の膜厚T2、中心P1の膜厚T1の順で、膜厚が小さくなるように、第1主面PS1が凹面となる。一方、金属製多孔膜10の第2主面PS2は、銅薄膜32に接していた面であるため、平坦面となる。以上の製造方法により、一方の主面を凹面、他方の主面を平坦面とする金属製多孔膜10を備えるフィルタ1が製造される。
【0042】
このようなフィルタ1の製造方法は、1枚の基板31から1枚の金属製多孔膜10が製造される場合に限られない。例えば、図7に示すように、1枚の基板131上に複数枚の金属製多孔膜10に対応するレジスト像36の集合体であるレジスト像136を形成して、複数の金属製多孔膜10を同時に製造するような場合であってもよい。
【0043】
本実施の形態1のフィルタ1によれば、金属製多孔膜10の濾過部R1において、濾過部R1の中心P1の膜厚T1が、中心P1よりも枠部R2に近い位置における膜厚T2、T3よりも小さくなるように、第1主面PS1が凹面として形成されている。これにより、凹面が形成された第1主面PS1で細胞を捕捉するような場合には、流体の表面張力により凹面に流体溜まりが形成されやすくなる。例えば、培養液を液溜まりとして凹面に溜めた状態にて捕捉された細胞を取り扱うことにより、細胞の乾燥を抑制しながら、分析等の処理を行うことができる。よって、金属製多孔膜10にて捕捉された細胞の取り扱い性を向上させることができる。
【0044】
また、濾過部R1内において、濾過部R1の中心P1から枠部R1に向かって、金属製多孔膜10の膜厚が連続的にまたは段階的に増加しているようにすることで、金属製多孔膜10に滑らかな凹面を形成することができる。これにより、表面張力の作用により凹面に流体溜まりを形成しやすくでき、金属製多孔膜10にて捕捉された細胞の取り扱い性をさらに向上させることができる。
【0045】
また、金属製多孔膜の第2主面PS2が平坦面であり、第1主面PS1が凹面としている。これにより、例えば、凹面を利用した流体溜まりを利用したい場合には、凹面である第1主面PS1側にて細胞を捕捉することができる。一方、流体溜まりを形成せずに流体抜けを良くしたい場合には、平坦面である第2主面PS2側にて細胞を捕捉することができる。このように目的に応じて第1主面PS1と第2主面PS2とを使い分けることにより、細胞濾過フィルタの取り扱い性を向上できる。
【0046】
また、金属製多孔膜10において、枠部R2の幅が、濾過部R1における隣接する貫通孔間11の距離よりも大きく形成されている。このように枠部R2の幅と、隣接する貫通孔11間の距離との大小関係を設けることにより、例えば、レジスト像36を用いためっき処理において、溝部34、35へのめっき液の入り込み易さに差異を設けることができる。よって、濾過部R1が凹面となるように膜厚の大小を設けることができ、金属製多孔膜10にて捕捉された細胞の取り扱い性を向上させることができるフィルタ1を提供することができる。
【0047】
なお、上述の実施の形態の説明では、金属製多孔膜10の濾過部R1内において、濾過部R1の中心P1から枠部R2に向かって、膜厚が連続的にまたは段階的に増加するように凹面を形成する場合を例としている。しかしながら、本発明はこのような場合についてのみに限られない。例えば、濾過部R1内において、枠部R2側から濾過部R1の中心P1に向かって膜厚が増加している箇所が一部に含まれているような場合であっても構わない。そのような場合であっても、濾過部R1全体として、中央側領域R11における平均膜厚が、周縁側領域R13における平均膜厚よりも小さくなっていれば、本発明の効果を奏することができる。
【0048】
以下、本発明のフィルタの製造方法の実施例について説明する。
(実施例)
本実施例では、図5のステップS21からS26のステップを実施することによりフィルタ1を作製した。
【0049】
まず、ステップS21において、シリコン製の基板の上面に銅薄膜を、スパッタリング装置を用いて形成した。スパッタリングガスとしてアルゴンガスを用い、スパッタリング装置における真空度5.0×10−4Pa、印加電力DC500Wにて、銅薄膜を形成した。スパッタリング時間は27分とし、銅薄膜を形成した。
【0050】
次に、ステップ22において、スピンコータを用いて、銅薄膜上に所定の膜厚のレジスト膜を形成した。具体的には、レジスト剤を銅薄膜上に塗布した後、窒素雰囲気下において130℃にて溶剤を揮発させた後に冷却することで、レジスト膜を形成した。レジスト剤としては、ノボラック系樹脂と有機溶剤とを用い、スピンコータの回転数1130rpmにて、2μmの膜厚のレジスト膜を形成した。
【0051】
次に、ステップS23において、レジスト膜に対して露光および現像処理を行い、金属製多孔膜に対応する溝部がレジスト膜に形成されたレジスト像を形成した。波長365nmを含んだエネルギ密度2500J/mの光線を、レジスト膜に対して0.25秒間照射することにより露光を行った。その後、レジスト膜における露光部分をアルカリ性溶液に接触させることにより、露光部分を除去して溝部を形成した。レジスト像において、金属製多孔膜の枠部に相当する部分における溝部の開口幅を0.8mmとし、濾過部に相当する部分における溝部の開口幅を0.8μmとした。
【0052】
次に、ステップS24において、先に形成した銅薄膜を給電電極として、電解めっき法を用いて、ニッケル材料を主材料とするめっき膜からなる金属製多孔膜を、レジスト像の溝部内に形成した。まず、前処理として、銅薄膜およびレジスト像が形成された基板を、希硫酸に60秒浸漬させて、レジスト像の溝部の底において露出している銅薄膜の表面の活性化を行った。その後、スルファミン酸ニッケルめっき液(液温55℃、pH4.0)中にて基板を揺動させながら、銅薄膜を給電電極として電圧を印加して電解めっき処理を行った。めっき速度は0.5μm/minであった。
【0053】
次に、ステップS25において、溶剤への浸漬を行って、レジスト像を溶解して、銅薄膜から剥離させた。溶剤としてアセトン溶液を用い、アセトン溶液中で15分間超音波をかけることにより、レジスト像の溶解・剥離を促進させた。
【0054】
次に、ステップS26において、銅薄膜および基板の除去を行った。具体的には、エッチング液として、60%過酸化水素水と酢酸と純水とを1:1:20の体積比で混合作製した水溶液に、25℃の環境下にて48時間浸漬することで銅薄膜に対するエッチングを行った。これにより、銅薄膜および基板が除去されて、実施例にかかる金属製多孔膜を備えるフィルタが完成した。
【0055】
本実施例にかかる金属製多孔膜を測定したところ、枠部R2の外形(すなわち、金属製多孔膜の直径)が8mm、濾過部R1の直径が6mm、濾過部R1の中心P1の膜厚が0.7μm、周縁側領域R13と中間領域R12との境界(交点P3)の膜厚が1.2μmであった。
【0056】
なお、上記様々な実施の形態のうちの任意の実施の形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、フィルタの濾過部における第1主面および第2主面の少なくともいずれかの表面の一部に凹面を形成しており、凹面が形成された側で細胞を捕捉するような場合には、流体の表面張力により凹面に流体溜まりが形成されやすくすることができる。これにより、捕捉された細胞の乾燥を抑制することができ金属製多孔膜にて捕捉された細胞の取り扱い性、および金属製多孔膜の取り扱い性を向上させることができる。よって、このようなフィルタが利用される種々の技術分野、例えば、化学分析、創薬・製薬、臨床検査、公衆衛生管理、環境計測等の分野への適用が有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 フィルタ
10 金属製多孔膜
11 貫通孔
31 基板
32 銅薄膜
33 レジスト膜
34、35 溝部
36 レジスト像
PS1 第1主面
PS2 第2主面
R1 濾過部
R2 枠部
R11 中央側領域
R12 中間領域
R13 周縁側領域
C1、C2 仮想円
D1、D2、D3 半径
L 仮想直線
P1 中心
P2、P3 交点
T0、T1、T2、T3 膜厚
W1、W2 開口幅
【要約】
細胞を濾過する細胞濾過フィルタが、互いに対向する第1主面と第2主面とを貫通する複数の貫通孔を有する金属性多孔膜を備え、金属製多孔膜は、複数の貫通孔が配置された濾過部と、濾過部の外周を囲むように配置された枠部と、を有し、濾過部内において、前記濾過部の中心における前記金属製多孔膜の膜厚は、前記濾過部の中心よりも前記枠部に近い位置における前記金属製多孔膜の膜厚よりも小さくなるように形成されている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7