特許第6443610号(P6443610)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443610
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】ハードコートフィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08J 7/04 20060101AFI20181217BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20181217BHJP
   G02B 1/14 20150101ALI20181217BHJP
【FI】
   C08J7/04 KCER
   C08J7/04CEZ
   B32B27/30 A
   G02B1/14
【請求項の数】7
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2014-108035(P2014-108035)
(22)【出願日】2014年5月26日
(65)【公開番号】特開2015-187241(P2015-187241A)
(43)【公開日】2015年10月29日
【審査請求日】2017年1月6日
(31)【優先権主張番号】特願2013-206576(P2013-206576)
(32)【優先日】2013年10月1日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-48738(P2014-48738)
(32)【優先日】2014年3月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080609
【弁理士】
【氏名又は名称】大島 正孝
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 昌泰
(72)【発明者】
【氏名】太田 上総
(72)【発明者】
【氏名】井上 明久
(72)【発明者】
【氏名】突廻 恵介
【審査官】 深谷 陽子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−149141(JP,A)
【文献】 特開2008−158023(JP,A)
【文献】 特開2007−261140(JP,A)
【文献】 特開平09−239934(JP,A)
【文献】 特開2011−123270(JP,A)
【文献】 特開平09−286090(JP,A)
【文献】 特開2007−056154(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/145875(WO,A1)
【文献】 特開2010−018714(JP,A)
【文献】 特開2007−321143(JP,A)
【文献】 特開2010−077295(JP,A)
【文献】 特開2007−223193(JP,A)
【文献】 特表2008−524402(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 7/04−7/06
B32B 1/00−43/00
B05D 1/00−7/26
C08F 2/00−2/60、283/01
C08F 290/00−290/14、299/00−299/08
C09D 1/00−10/00、101/00−201/10
G02B 1/10−1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
未延伸熱可塑性樹脂フィルムを長手方向に延伸したのち、得られた一軸延伸熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、下記(A)、(B)および(C);
(A)多官能(メタ)アクリレート、
(B)下記式(1)で表される化合物を含む界面活性剤、
X−O−(RO)−R (1)
(上記式(1)中、Xは芳香環を有する基であり、
は炭素数2〜4のアルキレン基であり、
は水素原子、PO(OM)またはSOM(ただしMは水素原子、アンモニウムイオンまたは金属イオンである。)であり、そして
nは5〜150の整数である。)
および
(C)水系媒体
を含有する水系ハードコート剤を塗布し次いで幅方向に延伸するインライン塗布工程を経ることを特徴とする、
熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面にハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方法。
【請求項2】
上記(A)多官能(メタ)アクリレートが、
脂肪族多価アルコールまたはその二量体の(メタ)アクリル酸エステルであって、
分子内に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート化合物である、請求項に記載の方法。
【請求項3】
上記水系ハードコート剤が、
(D)ポリエステルをさらに含むものである、請求項に記載の方法。
【請求項4】
上記水系ハードコート剤が、
(E)架橋剤をさらに含むものである、請求項に記載の方法。
【請求項5】
上記水系ハードコート剤が、(C)水系媒体中に、少なくとも(A)多官能(メタ)アクリレートを含む油滴が分散したエマルジョン状である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
上記水系ハードコート剤が、さらに(F)重合開始剤を含有するものである、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
上記熱可塑性樹脂フィルムが、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリプロピレンナフタレートから選択されるポリエステルフィルムである、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はハードコートフィルムの製造方法に関する。
詳しくは、熱可塑性フィルムの少なくとも片面に、耐擦傷性に優れ、硬度の高いハードコート層を有するハードコートフィルムを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムに代表される熱可塑性フィルムは、寸法安定性、機械的強度、耐熱性、透明性、電気絶縁性などの諸特性に優れることから、幅広い用途の基材フィルムとして使用されている。ここで、熱可塑性フィルムを、例えばフラットパネルディスプレイの表面保護フィルム、太陽電池の保護フィルム用途などに適用する場合には、フィルム表面の耐候性、耐擦傷性などを向上する目的で、フィルム表面に硬化膜を形成したうえで使用されることとなる。
フィルム表面に硬化膜を形成するには、フィルム表面上に、被膜形成成分を有機溶媒中に溶解・含有してなる組成物を塗布し、次いで加熱または光照射することによって成膜する方法が知られている(特許文献1および2)。これらは、高い硬度の硬化膜を容易に形成することができる優れた技術であるが、有機溶媒を必須的に使用するものであるため、作業環境管理、廃液処理、環境負荷などの諸問題への対処が不可避であるとの本質的な欠点を有する。
上記の問題を解決するため、水系媒体を用いた硬化性組成物を用いる方法が、いくつか提案されている。例えば特許文献3には、生物由来材料を主成分として含有する水系の硬化性組成物を用いる方法が;
特許文献4には、バインダー成分としての部分ケン化ポリビニルアルコールを含有する水系の硬化性組成物を用いる方法が、それぞれ開示されている。しかし、特許文献3の技術によって形成される硬化膜は耐候性に乏しく、
特許文献4の技術によって形成される硬化膜は硬度に乏しく、
いずれもハードコート剤としての要求性能を満足するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−286925号公報
【特許文献2】特開2010−122267号公報
【特許文献3】特開2009−221457号公報
【特許文献4】特開2004−272190号公報
【特許文献5】特表2008−524402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、上記の現状を改善しようとしてなされたものであり、その目的は、耐候性および耐擦傷性に優れるハードコート層を有する硬度の高いハードコートフィルムを製造する方法であって、簡易単純でありながら環境負荷の低減された前記方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によると、本発明の上記目的および利点は、
未延伸熱可塑性樹脂フィルムを長手方向に延伸したのち、得られた一軸延伸熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に、下記(A)、(B)および(C);
(A)多官能(メタ)アクリレート、
(B)下記式(1)で表される化合物を含む界面活性剤、
X−O−(RO)−R (1)
(上記式(1)中、Xは芳香環を有する基であり、
は炭素数2〜4のアルキレン基であり、
は水素原子、PO(OM)またはSOM(ただしMは水素原子、アンモニウムイオンまたは金属イオンである。)であり、そして
nは5〜150の整数である。)
および
(C)水系媒体
を含有する水系ハードコート剤を塗布し次いで幅方向に延伸するインライン塗布工程を経ることを特徴とする、
熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面にハードコート層を有するハードコートフィルムの製造方によって達成される。
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法によれば、熱可塑性フィルムの少なくとも片面に、耐候性および耐擦傷性に優れたハードコート層を有する硬度の高いハードコートフィルムを、簡易単純な方法によって容易に製造することができる。
本発明の方法は、簡易単純でありながら環境負荷の低減された方法であるから、ハードコートフィルムの製造コスト削減に資するとともに、環境保護の理念にも合致するものである。
本発明によって得られるハードコートフィルムは、ハードコート層の硬度が高く、耐候性、耐擦傷性、耐熱性、透明性、耐薬品性などの諸特性に優れるから、例えばフラットパネルディスプレイの表面保護フィルム用途、太陽電池の保護フィルム用途、反射防止フィルム用途、タッチパネルの保護フィルム用途などのほか、建材、車両などの用途に、好適に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明のハードコートフィルムの製造方法は、熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に水系ハードコート剤をインライン塗布する工程を経る方法である。
<熱可塑性樹脂フィルム>
本発明において、基材フィルムとしては熱可塑性樹脂フィルムが使用される。
この熱可塑性樹脂フィルムを構成する材料としては、例えばポリエステル、ポリオレフィン(例えばポリプロピレンなど)、ポリアミド、ポリフェニレンスルフィド、(メタ)アクリル樹脂(例えばポリメチルメタクリレートなど)などを挙げることができるほか、TACフィルム、PANフィルム、ポリビニルアルコールからなるフィルムなどを使用することができる。これらのうちでポリエステルフィルムを使用することが、寸法安定性、透明性、機械的強度などの観点から好ましい。
本発明において使用される熱可塑性樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンナフタレートおよびポリカーボネート、ならびにこれらのうちのそれぞれを主成分とする共重合体からなるポリエステルフィルムなどを挙げることができ、これらから選択される1種以上を使用することが好ましく;
ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートおよびポリプロピレンナフタレートから選択されるポリエステルフィルムを使用することがより好ましい。
本発明における熱可塑性樹脂フィルムは、複数の層からなる積層体フィルムであってもよい。この積層体フィルムにおける層のそれぞれは、同じ種類の熱可塑性樹脂からなっていてもよく、相異なる種類の熱可塑性樹脂からなっていてもよい。
これらの熱可塑性樹脂は、本発明の効果を阻害しない範囲で、公知の添加剤、例えば光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、易滑剤(微粒子)、結晶化剤、結晶化阻害剤など、を含有していてもよい。
本発明における熱可塑性樹脂フィルムの厚さについては後述する。
【0008】
<ハードコート剤>
本発明において使用されるハードコート剤は、水系のハードコート剤である。つまり、該ハードコート剤に含有される各成分が、水系媒体中に溶解または分散された状態の剤である。水系媒体とは、水のみからなる媒体であるか、あるいは水と水溶性有機媒体との混合物からなる媒体である。
本発明におけるハードコート剤は、(A)多官能(メタ)アクリレート、(B)界面活性剤および(C)水系媒体を含有する。任意的にさらに(D)ポリエステル、(E)架橋剤、(F)重合開始剤などを含有していてもよい。
【0009】
[(A)多官能(メタ)アクリレート]
上記ハードコート剤における(A)多官能(メタ)アクリレートは、
脂肪族多価アルコールまたはその二量体の(メタ)アクリル酸エステルであって、
分子内に(メタ)アクリロイル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート化合物であることがより好ましい。
上記多官能アクリレート化合物の具体例としては、2官能の化合物として、例えばエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレートなどを:
3官能の化合物として、例えばトリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレートなどを:
4官能以上の化合物として、例えばペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートなどを、それぞれ挙げることができるほか;
4官能以上の化合物として、例えば分子内に4個以上の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴエステル(メタ)アクリレート類、
分子内に4個以上の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴエーテル(メタ)アクリレート類、
分子内に4個以上の(メタ)アクリロイル基を有するオリゴエポキシ(メタ)アクリレート類など、および
これらの化合物の水酸基にエチレンオキシドまたはプロピレンオキシドが付加してなる化合物のポリ(メタ)アクリレートなどを使用することができる。
本発明における(A)多官能(メタ)アクリレートとしては、これらのうち、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートおよびジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートから選択される1種以上を使用することが好ましい。
【0010】
上記のような多官能(メタ)アクリレートの市販品としては、例えば、東亞合成(株)製のアロニックスM−208、M−210、M−211B、M−215、M−220、M−225、M−270、M−240、M−309、M−310、M−321、M−350、M−360、M−313、M−315、M−306、M−305、M−303、M−452、M−450、M−408、M−403、M−400、M−402、M−404、M−406、M−405、M−460、M−510、M−520、M−1100、M−1200、M−320、M−233、M−245、M−260、M−1210、M−1310、M−1600、M−221、M−203、TO−924、TO−1270、TO−1231、TO−595、TO−756、TO−1343、TO−902、TO−904、TO−905、TO−1330、TO−1382など;
日本化薬(株)製のKAYARAD R−526、NPGDA、PEG400DA、FM−400、R−167、HX−220、HX−620、R−551、R−712、R−604、R−684、GPO−303、TMPTA、THE−330、TPA−320、TPA−330、PET−30、T−1420、RP−1040、DPHA、MAX−3510、DPEA−12、DPHA−2C、DPHA−40H、D−310、D−330、DPCA−20、DPCA−30、DPCA−60、DPCA−120、DN−0075、DN−2475、TC−120S、SR−295、SR−355、SR−399E、SR−494、SR−9041、SR−368、SR−415、SR−444、SR−454、SR−492、SR−499、SR−502、SR−9020、SR−9035、SR−111、SR−212、SR−213、SR−230、SR−259、SR−268、SR−272、SR−344、SR−349、SR−601、SR−602、SR−610、SR−9003、KS−HDDA、KS−TPGDA、KS−TMPTAなど;
新中村化学(株)製のA−9300、A−TMM−3、A−TMPT、AD−TMP、A−TMMT、A−9550、A−DPHなど;
共栄社化学(株)製のライトアクリレート1,9−ND−A、PE−4A、DPE−6Aなどを挙げることができる。
【0011】
本発明において好ましく使用される多官能(メタ)アクリレートはその(メタ)アクリル当量が、好ましくは1,000g/eq以下であり、より好ましくは50〜600g/eqである。(メタ)アクリル当量が1,000g/eq以下である多官能(メタ)アクリレートを使用することにより、形成されるハードコート層の耐擦傷性および硬度を高めることができる。
本発明において、(メタ)アクリル当量とは、(メタ)アクリロイル基1モル当たりの分子量をいい、数式
(多官能アクリレート化合物の分子量)/(多官能アクリレート化合物1分子量当たりの(メタ)アクリロイル基の数)
で表される値である。
本発明においては、(メタ)アクリル当量が同じである多官能アクリレートのみを使用してもよいし、(メタ)アクリル当量が異なる複数種の多官能アクリレートの混合物を使用してもよい。後者の場合、多官能アクリレートの(メタ)アクリル当量は、混合物全体の平均値として評価すればよい。
【0012】
本発明においては、特に(メタ)アクリル当量が1,000以下の多官能(メタ)アクリレートを使用することにより、極めて高い硬度のハードコート層を得ることができ、好ましい。この場合、(メタ)アクリル当量が1,000以下の多官能(メタ)アクリレートを、(A)多官能(メタ)アクリレートの全量に対して、50質量%以上使用することが好ましい。
本発明で使用されるハードコート剤における(A)多官能(メタ)アクリレートの使用割合は、
(A)多官能(メタ)アクリレートおよび(B)界面活性剤ならびに使用する場合には(F)重合開始剤の合計に対して、好ましくは5〜99質量%であり、より好ましくは10〜97質量%であり、さらに20〜95質量%であることが好ましい。この範囲の使用割合とすることにより、ハードコート剤の塗布性を維持しつつ、ハードコート層の硬度を高くすることができる。
【0013】
[(B)界面活性剤]
本発明におけるハードコート剤は(B)界面活性剤を含有する。
上記ハードコート剤に含有される(B)界面活性剤は、オキシアルキレン鎖を含むアニオン界面活性剤であ、下記式(1)で表される化合物でる。
X−O−(RO)−R (1)
(上記式(1)中、Xは芳香環を有する基であり、
は炭素数2〜4のアルキレン基であり、
は水素原子、PO(OM)またはSOM(ただしMは水素原子、アンモニウムイオンまたは金属イオンである。)であり、そして
nは5〜150の整数である。)
上記Xにおける芳香環としては、例えばベンゼン環、ナフタレン環などを挙げることができ、ベンゼン環が好ましい。Xとして特に好ましくは下記式(2)で表される基である。
【0014】
【化1】
【0015】
(式(2)中、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子またはアルキル基であり、
mは1〜3の整数であり、そして
「*」は結合手であることを示す。)
式(2)中、RおよびRのアルキル基としては、炭素数1〜3のアルキル基が好ましく、それぞれ独立に例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基などであることができる。RおよびRとしては、それぞれ独立に、メチル基またはエチル基であることが特に好ましい。
のアルキレン基としては、例えば1,2−エチレン基、1,2−プロピレン基、1,3−プロピレン基、1,4−ブチレン基、1,3−ブチレン基などを挙げることができる。R中のMにおける金属イオンとしては、1価のカチオンであることが好ましく、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンなどのアルカリ金属イオンを挙げることができる。
ハードコート剤における(B)界面活性剤としては、上記式(1)で表される化合物のみを使用してもよく、上記式(1)で表される化合物とその他の界面活性剤とを併用してもよい。
【0016】
ここで使用されるその他の界面活性剤としては、公知の乳化剤を好適に例示することができ、例えばノニオン性乳化剤、アニオン性乳化剤、反応性乳化剤などを使用することができる。これらの具体例としては、上記ノニオン性乳化剤として、例えばポリエチレングリコールまたはポリアルキレングリコールのアルキルエステル、脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ソルビトール脂肪酸エステル、アルキルエーテル、アルキルフェニルエーテなどを;
アニオン性乳化剤として、例えばロジン酸カリウム、ロジン酸ナトリウムなどのロジン酸のアルカリ金属塩:オレイン酸カリウム、ラウリン酸カリウム、ラウリン酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カリウムなどの脂肪酸のナトリウム塩またはカリウム塩:ラウリル硫酸ナトリウムなどの脂肪族アルコールの硫酸エステル塩:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩などを、それぞれ挙げることができる。反応性乳化剤としては、商品名で、例えばラテムルS−180A(花王(株)製);エレミノールJS−2(三洋化成工業(株)製);アクアロンKH−10(第一工業製薬(株)製);アデカリアソープSE−10N、SR−10N(以上、(株)ADEKA製);Antox MS−60(日本乳化剤(株)製);サーフマーFP−120(東邦化学工業(株)製)などを挙げることができる。
【0017】
本発明で使用されるハードコート剤における(B)界面活性剤の含有割合は、(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは0.01〜99質量部であり、より好ましくは0.1〜50質量部であり、さらに好ましくは0.5〜25質量部であり、特に好ましくは1〜25質量部であり、とりわけ好ましくは3〜25質量部である。
(B)界面活性剤中の上記式(1)で表される化合物の割合は、(B)界面活性剤の全量に対して、好ましくは20質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上である。
本明細書における(B)界面活性剤の含有割合は、界面活性剤が溶液状または懸濁液状で供給される場合であっても、有効成分の量を基準として計算される値である。
【0018】
[任意成分]
本発明で使用されるハードコート剤は、好ましくは上記のような(A)多官能(メタ)アクリレートおよび(B)界面活性剤が、後述の(C)水系媒体に溶解・分散されてなる水溶液または水系分散体として調製されるが、これら以外の任意成分を含有していてもよい。
ここで任意的に使用されるその他の成分としては、例えば(A)多官能(メタ)アクリレート以外の重合性モノマー成分、(D)ポリエステル、(E)架橋剤、(F)重合開始剤、有機粒子、無機酸化物粒子、レべリング剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、増粘剤、レベリング剤、可塑剤、紫外線吸収剤、顔料などを挙げることができる。
本発明で使用されるハードコート剤は、(D)ポリエステル、(E)架橋剤、(F)重合開始剤および無機酸化物粒子のうちから選択される少なくとも1種を含有することができる。ハードコート剤における(D)ポリエステル、(E)架橋剤、(F)重合開始剤および無機酸化物粒子の好ましい含有割合については後述する。
本発明で使用されるハードコート剤は、公知の水系コート剤においてバインダー成分または分散剤として一般的に使用されている(メタ)アクリル系樹脂、水溶性高分子(ポリビニルアルコールなど)などを実質的に含有する必要がないことが特徴である。ハードコート剤が高分子成分を実質的に含有しない場合、形成されるハードコート層の硬度がより高いものとなり、好ましい。ここで、「高分子成分」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによって測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が概ね1万以上の高分子量体をいう。
【0019】
−(D)ポリエステル−
(D)ポリエステルは、形成されるハードコート層と基板との間の密着性を向上する機能を有する成分である。
本発明における(D)ポリエステルは、例えば多塩基酸と多価アルコールとの縮合反応によって得ることができる。
上記多塩基酸としては、例えば無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、アジピン酸、無水コハク酸などを;
上記多価アルコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、1,6−ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどを、
それぞれ挙げることができる。
(D)ポリエステルにつき、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量は、例えば3,000〜500,000であることができ、5,000〜100,000であることが好ましい。
【0020】
(D)ポリエステルは、少量のカルボキシル基を有していることが好ましい。(D)ポリエステルがカルボキシル基を有することにより、(E)架橋剤によって架橋構造を形成することとなり、より密着性に優れる被膜を得られることとなるため、好ましい。(D)ポリエステルにおけるカルボキシル基の含有割合は、酸価で表すことができ、例えば1〜30KOHmg/gであることができる。
本発明において好適に使用可能な(D)ポリエステルの市販品としては、例えばKA−5071S、KZT−8803、KT−8701、KZT−9204(以上、ユニチカ(株)製);パイロナールMD1200、MD1245、MD1480,MD1930,MD2000(以上、東洋紡(株)製);
ハイテックPEシリーズ(例えばPES−H001など、東邦化学工業(株)製);ニュートラック2010(花王(株)製)、スーパーフレックス210(第一工業製薬(株)製)などを挙げることができる。
本発明で使用されるハードコート剤における(D)ポリエステルは、形成されるハードコート層の硬度を損なわない範囲で使用することが好ましい。その含有割合は、(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは15質量部以下であり、より好ましくは0.1〜10質量部である。
(D)ポリエステルは、水溶液または水分散体(懸濁液)として、本発明における水系ハードコート剤の調製に供されることが好ましい。本明細書における(D)ポリエステルの含有割合は、該ポリエステルが溶液状または懸濁液状で供給される場合であっても、有効成分の量を基準として計算される値である。
【0021】
−(E)架橋剤−
(E)架橋剤は、ハードコート剤が(D)ポリエステルを含有している場合にこれを架橋する機能を有する成分である。
本発明における(E)架橋剤は、カルボキシル基と反応して結合基を生ずる部位を有していることが好ましい。このような部位としては、例えばアミノ基(特にメラミン性のアミノ基)、オキサゾリン、カルボジイミド、エポキシ基、イソシアネートなどを含む部位を挙げることができる。この(E)架橋剤は、低分子量化合物であっても高分子量体であってもよい。
本発明において好ましく使用可能な(E)架橋剤の市販品としては、例えばエポクロスWS−500、WS−700、K−2000(以上、(株)日本触媒製);
カルボジライトV−02、SV−02、V−02−L2、V−04、E−01、E−02(以上、日清紡ケミカル(株)製);
ニカラックMW−30M、MW−30、MW−11、MX−035、MX−45、BX−4000(三和ケミカル(株)製);
エラストロンシリーズ(例えばH−3、MF−9など、第一工業製薬(株)製)などを挙げることができる。
本発明で使用されるハードコート剤における(E)架橋剤の含有割合は、(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは10質量部以下であり、より好ましくは0.1〜5質量部である。(E)架橋剤の含有割合は、該架橋剤が溶液状または懸濁液状で供給される場合であっても、有効成分の量を基準として計算される値である。
【0022】
−(F)重合開始剤−
(F)重合開始剤は、光照射または加熱によって(A)多官能(メタ)アクリレートの重合を開始する活性種を発生する成分である。本発明で使用される(A)多官能(メタ)アクリレートは、好ましくは加熱のみによって自発的に重合を開始することができるから、ハードコート剤が(F)重合開始剤を含有していなくても高品位のハードコート層を得ることができるが、任意的に(F)重合開始剤を含有してしてもよい。
この(F)重合開始剤は、水溶性であっても油溶性であってもよい。
(F)重合開始剤の具体例は、例えば以下のとおりである。
【0023】
光照射によって活性種を発生する(F)重合開始剤としては、例えばアセトフェノン、アセトフェノンベンジルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、4,4’−ジアミノベンゾフェノン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノ−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1,4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキシド、オリゴ(2−ヒドロキシ−2−メチル−1−(4−(1−メチルビニル)フェニル)プロパノン)などを挙げることができる。これらの市販品としては、例えばBASFジャパン(株)製のイルガキュア 127、184、369、379、651、500、819、907、784、2959、OXE01、OXE02、CGI1700、CGI1750、CGI1850、CG24−61、ダロキュア 1116、1173、ルシリンTPO、8893;UCB社製のユベクリルP36;フラテッリ・ランベルティ社製のエザキュアーKIP150、KIP65LT、KIP100F、KT37、KT55、KTO46、KIP75/Bなどを挙げることができる。
【0024】
加熱によって活性種を発生する(F)重合開始剤としては、例えばハイドロパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルバーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類などの有機過酸化物;過硫酸アンモニウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウムなどの過硫酸塩;アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ化合物などを挙げることができる。
本発明で使用されるハードコート剤における(F)重合開始剤の含有割合は、(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは10質量部以下である。(F)重合開始剤は、(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上使用することにより、その有利な効果が有効に発現されることとなる。
【0025】
−無機酸化物粒子−
本発明で使用されるハードコート剤は、ハードコート剤の貯蔵安定性および得られるハードコート層の硬度をより向上する目的で無機酸化物粒子を含有していてもよい。
この無機酸化物粒子としては、例えば酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタニウム、酸化亜鉛、酸化ゲルマニウム、酸化インジウム、酸化スズ、酸化アンチモンおよび酸化セリウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種、好ましくは酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタニウムよりなる群から選ばれる少なくとも1種の酸化物を主成分とする粒子である。これらは、アルコキシ基、カルボキシ基、(メタ)アクリロイル基、エポキシ基などを有する化合物で表面処理されたものであってもよい。
上記無機酸化物粒子の平均粒子径は、好ましくは1〜2,000nmであり、より好ましくは5〜500nmである。
本発明で使用されるハードコート剤における無機酸化物粒子の含有割合は、(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは1,000質量部以下であり、より好ましくは400質量部以下である。無機酸化物粒子は、(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上使用することにより、その有利な効果が有効に発現されることとなる。
【0026】
−レベリング剤−
本発明で使用されるハードコート剤におけるレべリング剤は、該ハードコート剤を塗布する際のハジキを防止し、形成される塗膜の均一性を向上する目的で使用される。上記の(B)界面活性剤とは機能の点で異なる。
このようなレべリング剤としては、ポリオルガノシロキサン系レべリング剤、フッ素系レべリング剤、アクリルポリマー系レべリング剤等を、好ましいものとして例示することができる。
本発明におけるレべリング剤として好適に使用可能な市販品としては、例えばポリフローKL−401、KL−402、KL−403、KL−404(以上、共栄社(株)製);
BYK−302、BYK−307、BYK−325、BYK−331、BYK−333、BYK348、BYK378、BYK−UV−3535、BYK−UV−3530、BYK−UV−3500、BYK−381、BYK−3441(以上、ビックケミー・ジャパン(株)製);
DAW CORNING TORAY8019ADDITIVE、DOW CORNING TORAY 1313 ANTIFORM EMULSION(以上、東レダウコーニング(株)製)等を挙げることができ、これらから選択される1種以上をそのまま、あるいは縮合させたうえで使用することができる。
本発明で使用されるハードコート剤におけるレベリング剤の含有割合は、(A)多官能(メタ)アクリレート100質量部に対して、好ましくは0.01〜10質量部であり、より好ましくは0.01〜5質量部である。
−重合禁止材−
本発明に使用されるハードコート剤における重合禁止材は、該ハードコート剤の貯蔵安定性を向上する目的で使用される。
このような重合禁止材として好適に使用可能な市販品としては、例えばp-メトキシフェノール、フェノチアジン、BHT(以上、和光純薬製)、IRGANOX1010、IRGANOX1035(以上、BASF製)、SumilizerGA−80(以上、住友化学製)、キノパワーQS−30、キノパワーQS−W10(以上、川崎化成工業製)等を挙げることができ、これらから選択される一種以上を使用することができる。
本発明で使用されるハードコート剤における重合禁止材の含有割合は(A)多官能(メタ)アクリレート100重量部に対して、好ましくは1重量部以下であり、より好ましくは0.5重量部以下である。
【0027】
[(C)水系媒体]
本発明で使用されるハードコート剤に含有される水系媒体は、水のみからなる媒体であるか、あるいは水と水溶性有機媒体との混合物からなる媒体である。
上記水溶性有機媒体としては、水に可溶な有機媒体であればその種類は特に限定されないが、好ましいものとして、例えばアルコール類、エーテル類などを挙げることができる。これら水溶性有機媒体の具体例としては、アルコール類として、例えばメタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、t−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ヘキシルアルコール、n−オクチルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジアセトンアルコールなどを;
エーテル類として、例えばエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルなどを、それぞれ挙げることができる。
(C)水系媒体として水と水溶性有機媒体との混合物を使用する場合、水溶性有機媒体の使用割合は、(C)水系媒体の全量に対して、10質量%以下とすることが好ましい。本発明における(C)水系媒体としては、水のみを使用することが最も好ましい。また、本発明におけるハードコート剤は、(C)水系媒体外の媒体を含有しないことが好ましい。
【0028】
[ハードコート剤]
以上のような成分を含有するハードコート剤は、上記の各成分を公知の方法を用いて分散・混合することによって調製することができる。
上記ハードコート剤は、好ましくは、(C)水系媒体中に、少なくとも(A)多官能(メタ)アクリレートおよび使用する場合には(D)ポリエステル、(E)架橋剤、(F)重合開始剤を含む油滴が、(B)界面活性剤の作用によって乳化分散された状態のエマルジョンである。前記油滴は、その体積平均粒径が、好ましくは10nm〜3μm、より好ましくは50nm〜2μm、さらに好ましくは100〜1,500nm、特に好ましくは、200〜1,200nmである。この範囲粒径で油滴が分散していることにより、ハードコート剤が貯蔵安定性に優れ、良好な塗布性を示すことになると同時に、高い硬度の均一なハードコート層が形成できることとなり、好ましい。
ハードコート剤の粘度は、E型粘度計によって25℃において測定した粘度として、好ましくは1〜200mPa・sであり、より好ましくは1.5〜100mPa・sである。
【0029】
<ハードコートフィルムの製造方法>
本発明のハードコートフィルムの製造方法は、上記の熱可塑性樹脂フィルムの少なくとも片面に上記の水系ハードコート剤をインライン塗布する工程を経ることを特徴とする。ここで、インライン塗布とは、フィルムの製造工程中に行われる塗布工程である。
発明のハードコートフィルムの製造方法は、
熱可塑性樹脂をシート状に成形し(成型工程)、該シート状樹脂を、
長手方向(長さ方向)に延伸し(第1の延伸工程)、次いでさらに
横手方向(幅方向)延伸し(第2の延伸工程)、好ましくはこの後さらに
熱処理工程を行う、延伸フィルムの製造において、上記第1の延伸工程後に、
シート状樹脂に上記水系ハードコート剤を塗布する工程(塗布工程)を経る方法である。
以下、本発明のハードコートフィルムの製造方法の各工程について、順に説明する。
【0030】
[成型工程]
先ず、好ましくはペレット状の熱可塑性樹脂を、好ましくは十分に乾燥した後、適当な成形装置を用いてシート状に成形する。熱可塑性樹脂をシート状に成形する方法としては、例えば溶融押出法、溶融流涎法、カレンダー法などを挙げることができる。これらのうち、溶融押出法が好ましく、該溶融押出法に使用される装置としては、例えば一軸押出機、二軸押出機などを挙げることができる。
上記の成形装置を用いて、熱可塑性樹脂を溶融押出しし、好ましくは静電印可法によって冷却固化して未延伸樹脂シートとする。シートは単層であっても複層であってもよい。溶融温度としては例えば200〜300℃を、冷却温度としては例えば0〜50℃を、それぞれ例示することができる。
【0031】
[第1の延伸工程]
上記で得られた未延伸樹脂シートを、長手方向(流れ方向)に延伸する一軸延伸する。
この長手方向への延伸は、例えば80〜120℃、好ましくは80〜100℃程度に加熱したロールによって行うことができる。この流れ方向への延伸倍率を好ましくは2〜5倍程度として延伸フィルムを得る。
[第2の延伸工程]
次いで、上記塗布後のフィルムに対して、横手方向に延伸する第2の延伸工程が行われる。
この横手方向への延伸は、上記長手方向への延伸後のフィルムの端部を例えばクリップ止めなどの適宜の方法によって把持して、熱風ゾーンに導いて延伸することにより、行うことができる。熱風ゾーンの温度は、例えば70〜140℃であり、好ましくは80〜120℃である。横手方向への延伸倍率は、好ましくは2.5〜5倍である。
[熱処理工程]
上記第2の延伸工程を経たフィルムに対して、さらに好ましくは熱処理工程が行われる。この任意的な熱処理工程により、フィルムの結晶配向が促進されて完了する。
この熱処理は、第2の延伸後のフィルムを、例えば160〜240℃程度に調温された熱処理ゾーン中を、例えば1〜60秒間かけて通過させることにより、行うことができる。
【0032】
[塗布工程]
上記のような延伸フィルムの製造工程における第1の延伸工程後に、上記の水系ハードコート剤が塗布(インライン塗布)される。
塗布方法としては適宜の方法を採用することができる。具体的には、例えばグラビアコート法、ダイコート法、スプレーコート法、ワイヤーバーコート法、リバースロールコート法、カーテンコート法、ディップコート法などである。
この塗布工程は、樹脂をシート状に成形した後
1の延伸工程後であって第2の延伸工程前に行われる。
上のようにしてハードコートフィルムを得ることができる。
最終のハードコートフィルムにおける塗膜の厚さは、好ましくは0.1〜30μmであり、より好ましくは1〜15μmである。
上記の方法で得られるハードコートフィルムの用途に応じて適宜に設定することができるが、最終のハードコートフィルムの総厚さとして、例えば10〜500μm、特に20〜300μmの範囲を例示することができる。
本発明のハードコートフィルムが延伸を伴うプロセスによって製造される場合には、上記の塗膜の厚さおよびフィルムの総厚さは、いずれも延伸後の値である。

【0033】
<ハードコートフィルム>
上記のような本発明のハードコート層の製造方法で得られたハードコートフィルムは、少なくとも片面にハードコート層を有する。この面の鉛筆硬度は、通常HB以上、好ましくはF以上、さらに好ましくは2H以上であり、特に好ましくは3H以上である。また、この面の耐擦傷性(耐スチールウール試験)は荷重200kg/cmの条件で傷の発生しないことが好ましく、荷重300kg/cmの条件で傷の発生しないことがより好ましい。
【実施例】
【0034】
<一般的実験方法>
以下の実施例および比較例では、基材フィルムとしてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを用い、該フィルムの方面上にインラインプロセスによって各種のハードコート剤を塗布および熱硬化してハードコート層を形成し、評価した。
一般的な実験方法は以下のとおりである。
PETペレット(ホモポリマー)を十分に乾燥した後、一軸押出機に供給して250℃で溶融してT−ダイからシート状に押し出し、次いで静電印可キャスト法によって45℃の冷却ロールに巻き付けて冷却・固化とすることにより、PETの未延伸フィルムを得た。
この未延伸フィルムを90℃に加熱して、長手方向に3.0倍に延伸して一軸延伸フィルムとした。
上記フィルムの片面上に、各実施例および比較例で調製したハードコート剤をリバースロールコート法によって塗布した。ハードコート剤塗布後のフィルムを予熱ゾーンに導いて130℃において1分間加熱乾燥した後、90℃において横手方向に3.0倍に延伸した(合計の延伸率は、長手方向に3.0倍、横手方向に3.0倍)。そしてさらに該フィルムを熱硬化ゾーンに導き、230℃において30秒間加熱して塗膜の熱硬化を行うことにより、厚さ188μmの基材フィルムの方面上に厚さ2.0μmのハードコート層を有するハードコートフィルムを得た。
なお上記において、(F)重合開始剤として光重合開始剤を用いた場合には、ハードコート剤塗布後のフィルムを熱硬化ゾーンへ導入する前に、高圧水銀灯を用いて3,000J/mの照射量にて紫外線を照射する処理を行った。
【0035】
このハードコートフィルムについて以下の評価を行った。
(1)塗布外観の評価
形成直後のハードコート層を目視で観察し、以下の基準によって評価した。
表面が平滑であり、且つ白化が見られない場合:塗布外観優良
表面状態がわずかに荒れている、またはわずかに白化している場合:塗布外観良好
表面状態が極めて悪い場合:塗布外観不良
(2)鉛筆硬度の評価
上記で得られたハードコートフィルムのハードコート層形成面について、JIS K 5600−5−4に準拠して鉛筆硬度を測定した。本発明が想定する用途に対しては、この鉛筆硬度がH以上であるときハードコートフィルムの硬度は高いと評価することができ、2H以上であるときハードコートフィルムの硬度は十分に高いと評価することができる。
(3)耐擦傷性(耐スチールウール試験)
スチールウール(ボンスターNo.0000、日本スチールウール(株)製)を学振型摩擦堅牢度試験機(「AB−301」、テスター産業(株)製)に取り付け、硬化膜の表面を荷重300g/cmの条件で10回繰り返し擦過し、擦過後の膜表面における傷の発生の有無を目視で確認し、下記評価基準に従って評価した。
硬化膜に傷が発生しない(無傷):優良
硬化膜に数本の傷が発生する:良好
硬化膜に多数の傷が発生する、または硬化膜が剥離する:不良
【0036】
実施例1〜14
ハードコート剤として、第1表に記載した種類および量の成分を水と混合し、氷冷下で超音波分散機を用いて分散・混合することにより、固形分濃度25質量%の水系分散体をそれぞれ調製して使用したほかは、上記の「一般的実験方法」の手順に従ってハードコート層を形成し、各種の評価を行った。
評価結果は、第1表に合わせて示した。
【0037】
比較例1〜4
コート剤として、第1表に記載したものをそれぞれ使用したほかは、上記の「一般的実験方法」の手順に従ってハードコート層を形成し、各種の評価を行った。
評価結果は、第2表に示した。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
第1表および第2表において、ハードコート剤またはその成分の略称は、それぞれ以下の意味である。
[実施例のハードコート剤の成分]
−ポリエステル−
PE1:商品名「KA5071S」、ユニチカ(株)製のポリエステル樹脂エマルション(ガラス転移温度=66℃、数平均分子量=8,000)、固形分濃度=30質量%、第1表に記載した使用量は有効成分量。
PE2:商品名「パイロナールMD1245」、東洋紡(株)製の水分散ポリエステル樹脂、固形分濃度=34質量%、第1表に記載した使用量は有効成分量。
−架橋剤−
オキサゾリン基含有水溶性ポリマー:商品名「エポクロスWS−500」、(株)日本触媒製、固形分濃度=35質量%、第1表に記載した使用量は有効成分量。
メチル化メラミン樹脂:商品名「MW−30M」、(株)三和ケミカル製
カルボジイミド:商品名「V−02」、日清紡ケミカル(株)製、固形分濃度=40質量%、第1表に記載した使用量は有効成分量。
−その他−
SF1:日本乳化剤(株)製のアニオン系界面活性剤、品名「ニューコール707SF」、固形分濃度10質量%の水溶液、有効成分ポリオキシアルキレン多環フェニルエーテル・サルフェート・アンモニウム塩、第1表に記載した使用量は有効成分量。
CSi:扶桑化学工業(株)製のコロイダルシリカ分散液を3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで変性した体積平均粒子径35nmのコロイダルシリカ、固形分濃度20質量%の水分散液、第1表に記載した使用量は有効成分量。
CZr:堺化学工業(株)製のジルコニア分散液を3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランで変性した、粒度分布(動的光散乱法)D50=5nmのジルコニア分散液、固形分濃度30%の水分散液、第1表に記載した使用量は有効成分量
シリコーン化合物:商品名「8019ADDITIVE」、東レ・ダウコーニング(株)製のポリエーテル変性シリコーン
重合禁止材:和光純薬(株)製のp−メトキシフェノール
【0042】
[比較例のコート剤]
比較例においては、以下のものを以下に記載の濃度でそのままコート剤として使用した。
アクリルエマルジョン:(株)イーテック製のアクリルエマルジョン、品名「AE373D」、固形分濃度50質量%のラテックス。
SiO:信越化学工業(株)製のシロキサン樹脂、品名「KR-500」(アルコキシオリゴマー)をプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートにより固形分濃度30質量%に希釈したもの。
coP1:以下の比較合成例1のようにして得られた共重合体溶液の希釈溶液。
アクリルウレタン:特許文献5(特表2008−524402号)の実験例1に準拠して調製したアクリルウレタンオリゴマー/過酸化物開始剤/メラミン架橋剤系硬化性組成物。
【0043】
比較合成例1
冷却管および攪拌機を備えたフラスコに、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)5質量部およびジエチレングリコールエチルメチルエーテル200質量部を仕込んだ。引き続きスチレン25質量部、メタクリル酸20質量部、メタクリル酸グリシジル45質量部およびメタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−8−イル10質量部を仕込んで窒素置換した後、ゆるやかに撹拌を始めた。溶液の温度を70℃に上昇し、この温度を5時間保持して重合を行うことにより、共重合体を含有する重合体溶液を得た。
得られた重合体溶液の固形分濃度は33.0質量%であった。この共重合体溶液に含有される共重合体のポリスチレン換算重量平均分子量(Mw)は4,000であった。
上記で得られた重合体溶液にプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートを加えて固形分濃度15質量%に調整した希釈溶液をコート剤(coP1)として使用した。