特許第6443635号(P6443635)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443635
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】トランス及びトランスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 30/10 20060101AFI20181217BHJP
   H01F 27/28 20060101ALI20181217BHJP
   H01F 27/22 20060101ALI20181217BHJP
【FI】
   H01F30/10 S
   H01F30/10 E
   H01F27/28 179
   H01F27/22
   H01F30/10 J
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-25075(P2016-25075)
(22)【出願日】2016年2月12日
(65)【公開番号】特開2017-143223(P2017-143223A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2017年8月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100132241
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 博史
(74)【代理人】
【識別番号】100091524
【弁理士】
【氏名又は名称】和田 充夫
(72)【発明者】
【氏名】前出 正人
(72)【発明者】
【氏名】加藤 桂史
(72)【発明者】
【氏名】小島 俊之
(72)【発明者】
【氏名】五閑 学
【審査官】 森 透
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2011/101976(WO,A1)
【文献】 特開2014−093404(JP,A)
【文献】 特開2008−153293(JP,A)
【文献】 特開昭55−130108(JP,A)
【文献】 特開2006−032558(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 30/10
H01F 27/22
H01F 27/28
H01F 27/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側ボビンに巻回された内側巻線と、前記内側巻線を周回して覆った外側ボビンと、前記外側ボビンに巻回された外側巻線と、前記外側巻線を周回して覆ったカバーとで形成されるコイルユニットと、
前記コイルユニットの前記内側ボビン及び前記外側ボビンの上下から磁性コアを挿入し、前記内側巻線及び前記外側巻線の巻き方向と垂直方向に磁路を形成した磁性コアユニットと、
少なくとも前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の内側の前記内側ボビンと前記内側巻線の間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の外側の前記内側ボビンと前記内側巻線の間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の外側の前記外側巻線と前記カバーの間の空隙とのそれぞれに、放熱樹脂が充填されて放熱樹脂部を形成し、
前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の内側の前記内側巻線と前記外側ボビンの間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の内側の前記外側ボビンと前記外側巻線の間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の内側の前記外側巻線と前記カバーの間の空隙とのそれぞれを、放熱樹脂が未充填である空間部とするトランス。
【請求項2】
前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の外側の前記内側巻線と前記外側ボビンの間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の外側の前記外側ボビンと前記外側巻線の間の空隙とに、それぞれ、放熱樹脂が充填された放熱樹脂部が形成されている請求項1に記載のトランス。
【請求項3】
内側ボビンの巻回部に放熱樹脂を塗布した後、前記内側ボビンに内側巻線を巻回する工程と、
外側ボビンに外側巻線を巻回する工程と、
前記内側ボビンに前記外側ボビンを嵌め込む工程とを備え、
前記3つの工程の後、磁性コアの磁路が形成されている領域の外側となる前記外側巻線の外側又はカバーの内側の少なくとも一方に放熱樹脂を塗布し、
前記内側ボビンに嵌め込まれた前記外側ボビンに前記カバーを嵌めてコイルユニットを形成し、
前記コイルユニットの前記内側ボビン及び前記外側ボビンの上下から前記磁性コアを挿入し、前記内側巻線及び前記外側巻線の巻き方向と垂直方向に磁路を形成して、
少なくとも前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の内側の前記内側ボビンと前記内側巻線の間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の外側の前記内側ボビンと前記内側巻線の間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の外側の前記外側巻線と前記カバーの間の空隙とのそれぞれに、塗布された放熱樹脂で放熱樹脂部が形成されたトランスの製造方法。
【請求項4】
前記内側ボビンに前記外側ボビンを嵌め込む工程の前に、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の外側となる前記内側巻線の外側又は外側ボビンの内側の少なくとも一方に放熱樹脂を塗布する工程と、
前記外側ボビンに前記外側巻線を巻回する工程の前に、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の外側となる前記外側ボビンの巻回部に放熱樹脂を塗布した後、前記外側巻線を巻回する工程を有する請求項3に記載のトランスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放熱性能を確保したトランス及びトランスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
トランスは、直流電圧の変換回路である絶縁型DC‐DCコンバータの主要部品として使用され、1次巻線と2次巻線との巻数比に従って、1次巻線側に入力された電圧を、2次巻線側で別値の電圧に変換する機能を有する。
【0003】
図5に、特許文献1に記載された従来のトランスを示す。図5において、従来のトランス10は、一対の磁性コア14と、内側ボビン11と、外側ボビン12と、カバー13と、ケース17と、放熱樹脂18とを有する。内側ボビン11に内側巻線15を巻回し、外側ボビン12に外側巻線16を巻回することによって製造され、図5に示すように、トランス10の上方部分が露出するように、ケース17の内部に収容される。ケース17の内部には、放熱樹脂18が充填してある。上下一対の磁性コア14は、組み立てられて、巻線15,16により発生する磁束を通過させる磁路を形成する。磁性コア14は、対称な形状を有しており、内側ボビン11及び外側ボビン12を上下方向から挟むようにして互いに連結される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−93404号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、トランス10をケース17に入れて放熱樹脂18で充填することにより、放熱樹脂18を介して巻線15,16の発熱を下方のヒートシンク(図5には図示されていない)に放熱し、放熱性能を確保しているため、多量の放熱樹脂が必要となり、トランス10が重く、価格が高くなる。
【0006】
本発明は、前記従来の課題を解決するもので、底面から一定の高さまでを放熱樹脂で埋めることなく放熱性能を確保した軽量かつ低価格のトランス及びトランスの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の1つの態様にかかるトランスは、
内側ボビンに巻回された内側巻線と、前記内側巻線を周回して覆った外側ボビンと、前記外側ボビンに巻回された外側巻線と、前記外側巻線を周回して覆ったカバーとで形成されるコイルユニットと、
前記コイルユニットの前記内側ボビン及び前記外側ボビンの上下から磁性コアを挿入し、前記内側巻線及び前記外側巻線の巻き方向と垂直方向に磁路を形成した磁性コアユニットと、
少なくとも前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の内側の前記内側ボビンと前記内側巻線の間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の外側の前記内側ボビンと前記内側巻線の間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の外側の前記外側巻線と前記カバーの間の空隙とのそれぞれに、放熱樹脂が充填されて放熱樹脂部を形成し、
前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の内側の前記内側巻線と前記外側ボビンの間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の内側の前記外側ボビンと前記外側巻線の間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の内側の前記外側巻線と前記カバーの間の空隙とのそれぞれに、放熱樹脂が未充填である空間部とする。
【0008】
また、本発明の別の態様にかかるトランスの製造方法は、内側ボビンの巻回部に放熱樹脂を塗布した後、前記内側ボビンに内側巻線を巻回する工程と、
外側ボビンに外側巻線を巻回する工程と、
前記内側ボビンに前記外側ボビンを嵌め込む工程とを備え、
前記3つの工程の後、磁性コアの磁路が形成されている領域の外側となる前記外側巻線の外側又はカバーの内側の少なくとも一方に放熱樹脂を塗布し、
前記内側ボビンに嵌め込まれた前記外側ボビンに前記カバーを嵌めてコイルユニットを形成し、
前記コイルユニットの前記内側ボビン及び前記外側ボビンの上下から前記磁性コアを挿入し、前記内側巻線及び前記外側巻線の巻き方向と垂直方向に磁路を形成して、
少なくとも前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の内側の前記内側ボビンと前記内側巻線の間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の外側の前記内側ボビンと前記内側巻線の間の空隙と、前記磁性コアの前記磁路が形成されている領域の外側の前記外側巻線と前記カバーの間の空隙とのそれぞれに、塗布された放熱樹脂で放熱樹脂部が形成されている。
【0009】
本トランス及びトランスの製造方法によって、底面から一定の高さまでを放熱樹脂で埋めることなく、放熱性能を確保した軽量かつ低価格のトランスを実現できる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の前記態様にかかるトランス及びトランスの製造方法によれば、底面から一定の高さ(例えば、巻線部より高い高さ)まで放熱樹脂で埋める必要がないため、放熱性能を確保した軽量かつ低価格のトランスを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1実施の形態におけるトランスの斜視図
図2図1に示すトランスの分解斜視図
図3A】本発明の第1実施形態における図1に示すトランスの3A−3A線に沿う断面における切断部端面図
図3B】本発明の第1実施形態における図1に示すトランスの3B−3B線に沿う断面における切断部端面図
図3C】本発明の第1実施形態における図1に示すトランスの3C−3C線に沿う断面図
図4A】本発明の第2実施形態における図1に示すトランスの4A−4A線に沿う断面における切断部端面図
図4B】本発明の第2実施形態における図1に示すトランスの4B−4Bに沿う断面における切断部端面図
図4C】本発明の第2実施形態における図1に示すトランスの4C−4C線に沿う断面図
図5】特許文献1に記載された従来のトランスを示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1に示すように、本発明の第1実施形態にかかるトランス100は、内側ボビン101と、外側ボビン102と、一対のカバー103と、上下左右一対ずつの合計4個の磁性コア104とを有する。
【0014】
さらに、図2に示すように、内側ボビン101は、内側ボビン巻回部101aと、上側と下側の内側ボビン鍔部101bと、内側ボビン中空筒部101cとを備え、各部は射出成形などにより一体成形して製造される。内側ボビン巻回部101aは内側ボビン中空筒部101cの外周に配置されている。上側と下側の内側ボビン鍔部101bは、内側ボビン中空筒部101cの上端と下端とにそれぞれ配置されて、径方向外向きにそれぞれ突出している。下側の内側ボビン鍔部101bの下面には、ヒートシンク108と接触可能な下端接触部101eを長手方向の両端部に配置している。内側ボビン中空筒部101cの内側には貫通穴101pが形成されている。
【0015】
外側ボビン102は、外側ボビン巻回部102aと、上側と下側の外側ボビン鍔部102bと、外側ボビン中空筒部102cとを備え、各部は射出成形などにより一体成形して製造される。外側ボビン巻回部102aは外側ボビン中空筒部102cの外周に配置されている。上側と下側の外側ボビン鍔部102bは、外側ボビン中空筒部102cの上端と下端とにそれぞれ配置されて、径方向外向きにそれぞれ突出している。外側ボビン中空筒部102cの内側には貫通穴102pが形成されている。
【0016】
外側ボビン中空筒部102cの内側の貫通穴102p内に内側ボビン101を挿入することにより内側ボビン101の径方向外側に外側ボビン102が配置され、外側ボビン102の径方向外側に一対のカバー103が配置される。なお、各カバー103の下面には、ヒートシンク108と接触可能な下端接触部103eを端部に配置している。
【0017】
このように、内側ボビン101に巻回された内側巻線105と、内側巻線105を周回して覆った外側ボビン102と、外側ボビン102に巻回された外側巻線106と、外側巻線106を周回して覆ったカバー103とでコイルユニット120が形成されている。
【0018】
図3Aは、図1のトランス100の3A−3A線に沿う断面における切断部端面図を示している。外側巻線106を巻回した外側ボビン102の外側ボビン巻回部102aの外周には、トランス100の長手方向の両側から一対のカバー103が装着される。内側ボビン101と外側ボビン102とカバー103とは、それぞれ、絶縁性のある合成樹脂で構成され、磁性コア104と内側巻線105と外側巻線106とを絶縁分離する。また、内側ボビン巻回部101aの外周には、内側巻線105が巻回されるとともに、外側ボビン巻回部102aの外周には、外側巻線106が巻回されたのち、内側ボビン101の上方から、外側ボビン102を嵌め込めるようになっている。
【0019】
また、内側ボビン中空筒部101cの貫通穴101pと外側ボビン中空筒部102cの貫通穴102pとには、磁性コア104の脚104aが、上下方向からそれぞれ入り込み、中央部において脚104aが突き合わされるようになっている。上下左右一対ずつの磁性コア104は、内側巻線105及び外側巻線106により発生する磁束を通過させる磁路を形成する。このように、コイルユニット120の内側ボビン101及び外側ボビン102の上下から磁性コア104を挿入し、内側巻線105及び外側巻線106の巻き方向と垂直方向に磁路を形成して、磁性コアユニット121を構成している。
【0020】
内側巻線105を巻回した内側ボビン101の上方から、外側巻線106を巻回した外側ボビン102を嵌め込むことで、内側巻線105と外側巻線106とを結合しているが、内側巻線105と外側巻線106とが結合できればよく、内側ボビン101と外側ボビン102との嵌め込み方法は、この限りではない。また、外側巻線106を巻回した外側ボビン102の両側から一対のカバー103を装着することで、外側巻線106と磁性コア104とを絶縁分離しているが、外側巻線106と磁性コア104とを絶縁分離できればよく、カバー103の嵌め込み方法はこの限りではない。
【0021】
また、内側巻線105と外側巻線106とは、それぞれ、単線で構成されていてもよく、又は、撚り線で構成されていてもよいとともに、さらに、絶縁被覆導線で構成されることが望ましい。外側巻線106は、内側巻線105と同じ外径であってもよいが、異なっていてもよい。
【0022】
また、磁性コア104は、E型コアを分割した形状になっているが、巻線に対して、閉磁路を形成できるものであればよく、U型、I型、又は、PQ型など任意の形状の磁性コアでもよい。材質は、フェライトの他、金属などの軟磁性材料でもよい。
【0023】
図3Aと、図3Bと、図3Cとを用いて本発明の第1実施形態におけるトランス100について以下に説明する。図3A図1の3A−3A線の断面における切断部端面図、図3B図1の3B−3B線の断面における切断部端面図、図3C図1の3C−3C線の断面図である。図3Aに示すように、本発明の第1実施形態におけるトランス100は、下方に、板状のヒートシンク108を装備し、トランス100の発熱をヒートシンク108に放熱する。
【0024】
図3Cに示すように、本発明の第1実施形態におけるトランス100は、磁性コア104の磁路が形成されている領域の内側(磁路内の内側ボビン101−内側巻線105間の空隙181と、磁性コア104の磁路が形成されている領域の外側(磁路外の内側ボビン101−内側巻線105間の空隙182と、磁性コア104の磁路が形成されている領域の外側(磁路外の外側巻線106−カバー103間の空隙188とにそれぞれ放熱樹脂を充填して、放熱樹脂部107をそれぞれ形成する。一方、磁性コア104の磁路が形成されている領域の内側(磁路内の内側巻線105−外側ボビン102間の空隙183と、磁性コア104の磁路が形成されている領域の内側(磁路内の外側ボビン102−外側巻線106間の空隙185と、磁性コア104の磁路が形成されている領域の内側(磁路内の外側巻線106−カバー103間の空隙187とには、放熱樹脂を充填しないことで空間のままとした空間部109を形成している。空隙181と空隙182と空隙188との放熱樹脂部107では熱伝導が行われる一方、空隙183と空隙185と空隙187との空間部109では熱伝導は行わない。このため、詳しくは後述するが、トランス100の内側巻線105外側巻線106の発熱を、内側ボビン101と外側ボビン102と放熱樹脂部107とを介して、ヒートシンク108へ放熱し、動作時におけるトランス各部の温度を規定値以下とすることを可能にしている。図3Cの磁路形成領域180では、内側ボビン101−内側巻線105間の空隙181が放熱樹脂で充填された放熱樹脂部107が形成されていることを示している。図3Cの磁路形成領域180以外では、内側ボビン101−内側巻線105間の空隙182及び外側巻線106−カバー103間の空隙188が放熱樹脂で充填されて放熱樹脂部107が形成されていることを示している。
【0025】
内側ボビン101−内側巻線105間の空隙181及び外側巻線106−カバー103間の空隙188は、内側巻線105及び外側巻線106の発熱の放熱の主経路(放熱経路は後述)であるため、それぞれ、ほぼ全てもしくは90%以上の部分が放熱樹脂で充填されて放熱樹脂部107を形成していることが望ましい。
【0026】
放熱樹脂部107の放熱樹脂は、シリコーン系樹脂、ウレタン系樹脂、又は、エポキシ系樹脂などを使用し、熱伝導率が可能な限り高いほうが望ましく、少なくとも従来の底面から一定の高さ(例えば、巻線部より高い高さ)まで埋めていた従来のトランスの放熱樹脂の熱伝導率よりも、高いほうが望ましい。例えば、熱伝導率が2W/m・K以上、さらに、巻線105,106の発熱量が大きい(例えば、巻線105,106の発熱量が5W以上の)トランスに対しては、3W/m・K以上であることが望ましい。
【0027】
また、図3Bに示すように、内側ボビン101は、ヒートシンク108との接触部101eを持っている。また、カバー103は、ヒートシンク108との接触部103eを持っている。このことから、内側ボビン101及びカバー103は、ヒートシンク108との接触部101e,103eをそれぞれ持っていて、内側巻線105及び外側巻線106の発熱の放熱の主経路(放熱経路は後述)となる。このため、内側ボビン101及びカバー103の材料は、放熱樹脂の熱伝導率以上の熱伝導率を有することが望ましい。例えば、2W/m・K以上、さらに、巻線105,106の発熱量が大きいトランスに対しては、熱伝導率が3W/m・K以上の材料を内側ボビン101及びカバー103として使用することが望ましい。
【0028】
次に、本発明の第1実施形態におけるトランス100の放熱経路を説明する。
【0029】
まず、内側巻線105の放熱経路151を説明するが、基本的に、内側巻線105は、外側ボビン側に放熱するのではなく、内側ボビン101を介して放熱するようにしている。図3A及び図3Bに内側巻線105の放熱経路151で示すように、磁性コア104の磁路内外で、内側巻線105の発熱は、内側ボビン101−内側巻線105間の空隙181に放熱樹脂が充填されて形成された放熱樹脂部107と、内側ボビン巻回部101aと、下側の内側ボビン鍔部101bと、内側巻線105とを伝導する。伝導した熱は、図3Bで示すように、トランス100の長手方向の両側の磁性コア104の磁路外で、内側ボビン101−内側巻線105間の空隙182に放熱樹脂が充填された放熱樹脂部107と内側ボビン101のヒートシンク108との下端接触部101eとを介して、ヒートシンク108へ伝導する。したがって、動作時における内側巻線105の温度を規定値以下にすることができる。
【0030】
次に、外側巻線106の発熱の放熱経路を説明するが、基本的には、外側巻線106は、内側ボビン側に放熱するのではなく、カバー103を介して放熱するようにしている。図3B及び図3Cに外側巻線106の放熱経路152で示すように、磁性コア104の磁路内では、外側巻線106の発熱は、外側巻線106を伝導する。次に、図3Bに示すように、トランス100の長手方向の両側の磁性コア104の磁路外で、外側巻線106−カバー103間の空隙188に充填された放熱樹脂部107とカバー103のヒートシンク108との下端接触部103eとを介して、ヒートシンク108へ伝導する。したがって、動作時における外側巻線106の温度を規定値以下にすることができる。
【0031】
図3Cに示すように、内側巻線105は、トランス100の内側に位置するため、トランス100の全発熱分の熱が篭り、その熱を放熱するための高い放熱能力が必要とされる。したがって、内側ボビン101と内側巻線105の間の空隙181,182のほぼ全てに放熱樹脂を充填して放熱樹脂部107を形成することで、高い放熱能力を得ている。さらに、磁性コア104の磁路内に放熱樹脂があると、磁性コア104へ熱伝導し、磁性コア104の温度を上昇させるため、磁路内の内側巻線105−外側ボビン102間の空隙183と、磁路内の外側ボビン102−外側巻線106間の空隙185と、磁路内の外側巻線106−カバー103間の空隙187とのそれぞれには、放熱樹脂を充填せずに空間部109を形成して放熱しないようにする一方、磁路外の外側巻線106−カバー103間の空隙188には放熱樹脂を充填して放熱樹脂部107を形成して放熱する構造としている。トランス100を組込んだセット機器において、トランス100の最外周に位置する磁性コア104は、周辺部品からの煽り熱の影響で温度が上昇するため、外側巻線106及び内側巻線105から磁性コア104への熱伝導を少なくし、磁性コア104の温度上昇を少なくする必要がある。
【0032】
次に、図2を用いて、本発明の第1実施形態のトランス100の製造方法を説明する。
【0033】
まず、内側ボビン101の内側ボビン巻回部101aに放熱樹脂を塗布する。
【0034】
次に、内側ボビン巻回部101aに内側巻線105を巻回する。この結果、内側ボビン101−内側巻線105間の空隙181と後述する磁性コア104の磁路外の内側ボビン101−内側巻線105間の空隙182とにそれぞれ放熱樹脂部107を形成することになる。
【0035】
次に、内側ボビン101の上方から外側ボビン102を嵌め込む。これにより、後述する磁性コア104の磁路内の内側巻線105と外側ボビン102の間の空隙183に、放熱樹脂が未充填である空間部109形成する。
【0036】
次に、外側ボビン巻回部102aに外側巻線106を巻回する。内側巻線105及び外側巻線106の巻数は、トランス100による変換電圧値によって決定される。
【0037】
次に、磁性コアの磁路外となる外側巻線106の外側又はカバー103の内側の少なくとも一方に放熱樹脂を塗布する。この結果、磁性コア104の磁路外の外側巻線106−カバー103間の空隙188に放熱樹脂部107を形成することになる。
【0038】
次に、一対のカバー103を外側ボビン102に嵌め込む。これにより、磁性コア104の磁路内の外側ボビン102と外側巻線106の間の空隙185と、磁性コア104の磁路内の外側巻線106とカバー103の間の空隙187とのそれぞれに、放熱樹脂が未充填である空間部109を形成する。各放熱樹脂部107の放熱樹脂は、放熱樹脂の硬化方法に従い、常温又は高温で硬化する。高温で硬化する場合は、この段階で加熱硬化を行う。
【0039】
次に、内側ボビン中空筒部101c及び外側ボビン中空筒部102cの上下から、分割された磁性コア104をそれぞれ嵌め込み、磁性コア104の脚104a同士を突き合せる。なお、磁性コア104の脚104a同士を突き合せる際に、脚104a同士間にギャップを持たせてもよい。磁性コア104は、接着剤を用いて接着されるか、外周をテープ状のもので固定されるか、又はバネ状のもので固定される。
【0040】
なお、内側ボビン101と外側ボビン102との嵌め込みは、内側ボビン巻回部101aに内側巻線105を巻回した内側ボビンユニットと、外側ボビン巻回部102aに外側巻線106を巻回した外側ボビンユニットとを予め製造し、内側ボビンユニットの上方から外側ボビンユニットを嵌め込んで製造してもよい。
【0041】
また、外側巻線106−カバー103間の空隙188に充填する放熱樹脂は、外側巻線106を巻回した後、外側巻線106に塗布し、一対のカバー103を外側ボビン102の両側から嵌めこんで、空隙188に放熱樹脂部107を形成するようにしてもよい。
【0042】
以上のような工程により、本発明の第1実施形態のトランス100を製造することができる。
【0043】
次に、図4A図4B図4Cを用いて、本発明の第2実施形態におけるトランス200について以下に説明する。図4A図1の4A−4A線の断面における切断部端面図、図4B図1の4B−4B線の断面における切断部端面図、図4C図1の4C−4C線の断面図である。図4A図4B図4Cにおいて、図3A図3B図3Cと同じ構成要素については同じ符号を用い、説明を省略する。
【0044】
図4Cに示すように、本発明の第2実施形態におけるトランス200は、本発明の第1
実施形態におけるトランス100に対して、磁性コア104の磁路外の内側巻線105−外側ボビン102間の空隙184と、磁性コア104の磁路外の外側ボビン102−外側巻線106間の空隙186とのそれぞれにも、放熱樹脂を充填して放熱樹脂部107を形成することで、トランス100の内側巻線105及び外側巻線106の発熱を、内側ボビン101及びカバー103を介して、ヒートシンク108へ放熱し、動作時におけるトランス各部の温度を規定値以下とすることを可能にしている。
【0045】
図4Aは、磁路形成領域180では、内側ボビン101−内側巻線105間の空隙181に放熱樹脂が充填されて放熱樹脂部107を形成していることを示している。図4Bは、磁路形成領域180以外では、内側ボビン101−内側巻線105間の空隙182と、内側巻線105−外側ボビン102間の空隙184と、外側ボビン102−外側巻線106間の空隙186と、外側巻線106−カバー103間の空隙188とに放熱樹脂が充填されて放熱樹脂部107を形成していることを示している。
【0046】
次に、本発明の第2実施形態にかかるトランス200の放熱経路を説明する。トランス100の放熱経路に対して、図4B及び図4Cに示すように、放熱経路153が追加されている。トランス100に対して、内側巻線105−外側ボビン102間の空隙184及び外側ボビン102−外側巻線106間の空隙186にも放熱樹脂を充填して放熱樹脂部107を形成している。内側巻線105及び外側巻線106の発熱は、温度の高い側から低い側へ熱が伝導し、内側ボビン101若しくはカバー103のヒートシンク108との接触部101e若しくは103eを介して、ヒートシンク108へ伝導する。図4B及び図4Cでは、内側巻線105の温度が外側巻線106より高い場合を示しており、内側巻線105の発熱が、放熱経路153により、外側巻線106、カバー103へ伝導していることを示している。このとき、内側巻線105−外側ボビン102間の空隙184及び外側ボビン102−外側巻線106間の空隙186は、磁性コア104が形成する磁路外にあるため、磁性コア104へ熱伝導し、コア104の温度を上昇させることはない。トランス200は、トランス100に対して、放熱経路153が追加されているため、トランス200は、磁性コア104の温度を上昇させることなしに、放熱性能をより高くすることができ、さらに電力の大きいトランスの放熱に有効である。
【0047】
次に、図2を用いて、本発明の第2実施形態のトランス200の製造方法を説明する。
【0048】
トランス100の製造工程に対して、以下の点が異なっている。
【0049】
内側ボビン101の上方から外側ボビン102を嵌め込む前に、内側巻線105に放熱樹脂を塗布する。あるいは、外側ボビン102の内側に放熱樹脂を塗布する。その後、内側ボビン101の上方から外側ボビン102を嵌め込むことにより、磁性コア104の磁路外の内側巻線105と外側ボビン102の間の空隙184に放熱樹脂が充填された放熱樹脂部107を形成することになる。
【0050】
さらに、外側ボビン巻回部102aに外側巻線106を巻回する前に、外側ボビン巻回部102aに放熱樹脂を塗布する。その後、外側ボビン巻回部102aに外側巻線106を巻回することにより、磁性コア104の磁路外の外側ボビン102と外側巻線106の間の空隙186に、放熱樹脂が充填された放熱樹脂部107を形成することになる。
【0051】
以上のような工程により、本発明の第2実施形態のトランス200を製造することができる。
【0052】
前記した第1及び第2実施形態にかかるトランス100,200によれば、底面から一定の高さ(例えば巻線部より高い高さ)までを放熱樹脂で埋める必要がないため、放熱樹脂の量を大幅に削減することができて、放熱性能を確保した軽量かつ低価格のトランスを提供することができる。また、第2実施形態にかかるトランス200によれば、トランス100に対して放熱経路153が追加されているため、磁性コア104の温度を上昇させること無しに、放熱性能をより高くすることができ、さらに電力の大きいトランスの放熱に有効である。
【0053】
なお、前記様々な実施形態又は変形例のうちの任意の実施形態又は変形例を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。また、実施形態同士の組み合わせ又は実施例同士の組み合わせ又は実施形態と実施例との組み合わせが可能であると共に、異なる実施形態又は実施例の中の特徴同士の組み合わせも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の前記態様にかかるトランス及びトランスの製造方法は、高変換効率かつ大電流容量を有し、自動車、環境、住宅、インフラストラクチャーなど、広範囲の分野における電源システムのDC/DCコンバータ、AC/DCコンバータなどの用途にも適用できるトランスとして有用である。
【符号の説明】
【0055】
100、200 トランス
101 内側ボビン
101a 内側ボビン巻回部
101b 内側ボビン鍔部
101c 内側ボビン中空筒部
101e 下端接触部
102 外側ボビン
102a 外側ボビン巻回部
102b 外側ボビン鍔部
102c 外側ボビン中空筒部
103 カバー
103e 下端接触部
104 磁性コア
105 内側巻線
106 外側巻線
107 放熱樹脂部
108 ヒートシンク
109 空間部
120 コイルユニット
121 磁性コアユニット
151、152、153 放熱経路
180 磁路形成領域
181、182 内側ボビン−内側巻線間の空隙
183、184 内側巻線−外側ボビン間の空隙
185、186 外側ボビン−外側巻線間の空隙
187、188 外側巻線−カバー間の空隙
10 トランス
11 内側ボビン
12 外側ボビン
13 カバー
14 磁性コア
15 内側巻線
16 外側巻線
17 ケース
18 放熱樹脂
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C
図5