(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。なお、特に断らない限り、本明細書に記載された数値範囲「x〜y」は、下限xおよび上限yをその範囲に含む。そして、これらの上限値および下限値、ならびに実施例中に列記した数値も含めてそれらを任意に組み合わせることで数値範囲を構成し得る。さらに数値範囲内から任意に選択した数値を上限、下限の数値とすることができる。
【0016】
以下、本発明の正極の製造方法に沿って、本発明を説明する。
【0017】
本発明の正極の製造方法は、Li
aM
xMn
yO
4源及び酸素ガスを導入流にて、プラズマ内に導入する工程を含むスピネル型結晶構造のLi
aM
xMn
yO
4(Mは金属、0.8≦a≦1.1、0≦x≦1、1≦y≦2.2、1.8≦x+y≦2.2)粉末の製造工程、前記Li
aM
xMn
yO
4粉末を用いる工程、を含むことを特徴とする。
【0018】
まず、Li
aM
xMn
yO
4源及び酸素ガスを導入流にて、プラズマ内に導入する工程を含むスピネル型結晶構造のLi
aM
xMn
yO
4(Mは金属、0.8≦a≦1.1、0≦x≦1、1≦y≦2.2、1.8≦x+y≦2.2)粉末の製造工程(以下、当該製造工程を単に「粉末製造工程」ということがあり、当該製造工程で製造されたスピネル型結晶構造のLi
aM
xMn
yO
4粉末を「本発明の粉末」ということがある。)について説明する。
【0019】
Li
aM
xMn
yO
4(Mは金属、0.8≦a≦1.1、0≦x≦1、1≦y≦2.2、1.8≦x+y≦2.2)におけるMは、原子価2〜4を取り得る金属元素である。好ましいMとして、Mg、Al、Ti、Cr、Fe、Co、Ni、Cu、Laを例示できる。aは上記の範囲内であればよく、0.9≦a≦1.1の範囲内でもよい。xは上記の範囲内であればよく、0≦x≦0.6の範囲内でもよい。yは上記の範囲内であればよく、1≦y≦2.1の範囲内でもよい。x+yは上記の範囲内であればよく、1.9≦x+y≦2.1の範囲内でもよい。具体的なLi
aM
xMn
yO
4としては、LiMn
2O
4、LiNi
0.5Mn
1.5O
4、LiAl
0.1Mn
1.9O
4、LiCrMnO
4、LiCoMnO
4、LiFe
0.5Mn
1.5O
4、LiLa
0.05Mn
1.95O
4、Li
0.91Mn
2.09O
4((Li
0.91Mn
0.09)Mn
2O
4と同義とする。)を例示できる。
【0020】
Li
aM
xMn
yO
4源としては、本発明の粉末の原料となり得る原料物質又は原料混合物であればよく、例えば、Li
aM
xMn
yO
4そのものでも良いし、また、Li源とM
xMn
y源とを併用してもよい。Li
aM
xMn
yO
4源は粉末状態のものが好ましい。
【0021】
Li源としては、金属リチウムやリチウム化合物であればよい。リチウム化合物としては、炭酸リチウム、水酸化リチウム、硝酸リチウム、酸化リチウム、酢酸リチウム、シュウ酸リチウム、ハロゲン化リチウムを例示できる。Li源は、1種類でもよいし、2種類以上用いてもよい。
【0022】
M
xMn
y源としては、M、Mn、M化合物、Mn化合物を、所望とするM
xMn
yの割合となるように、採用すればよい。M化合物又はMn化合物としては、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン酸塩を例示できる。
【0023】
Li源とM
xMn
y源との割合は、リチウムとM
xMn
yとの元素のモル比がa:x+y及びその近辺となるようにすればよく、具体的な数値で示すと、1:1.5〜1:2.5の範囲内にあるのが好ましく、特にモル比1:2近辺が好ましい。
【0024】
粉末製造工程は、プラズマ発生装置を用いて実施される。プラズマは、アーク放電、高周波電磁誘導、マイクロ波加熱放電などで発生させればよい。
【0025】
高周波電磁誘導式のプラズマ発生装置の場合、その周波数は、例えば0.5〜400MHzの範囲内、好ましくは1〜80MHzの範囲内とすればよい。プラズマ出力は、例えば3〜300kWの範囲内、好ましくは5〜100kWの範囲内とすればよい。プラズマ発生装置内の圧力は適宜設定すればよく、例えば10kPa〜大気圧の範囲内を例示できる。プラズマ出力やプラズマ発生装置内の圧力を変動させることで、本発明の粉末の平均粒子径を変化させることができる。例えば、プラズマ出力を増加することで、本発明の粉末の平均粒子径を小さくすることができる。
【0026】
導入流としては、プラズマの安定性を考慮して、プラズマ下で使用し得る気体を主流とするのが好ましい。上記気体としては、ヘリウム、アルゴンなどの希ガスが好ましい。導入ガス流量としては、20〜120L/min.を例示できる。
【0027】
プラズマ発生装置の種類によるが、粉末製造工程においては、導入流として、Li
aM
xMn
yO
4源を運搬するキャリヤーガス、キャリヤーガスとは別にコイル内に導入されるインナーガス、及び、プラズマ発生部位を不活性雰囲気下にするためのプロセスガスを採用するのが好ましい。
【0028】
キャリヤーガスの流量としては、1〜10L/min.を例示できる。インナーガスの流量としては、1〜10L/min.を例示できる。プロセスガスの流量としては、15〜100L/min.を例示できる。
【0029】
酸素ガスは、キャリヤーガス、インナーガス及び/又はプロセスガスの一部として、例えば、導入ガス全体の0.4〜20体積%で導入されればよい。プラズマ発生装置のガス配管の安定性、Li
aM
xMn
yO
4源及び酸素のプラズマ内での反応均一性などを考慮すると、酸素ガスはプロセスガスの一部として導入されるのが、酸素ガスを最も好適に希釈できる点から好ましい。酸素ガスの導入量は、例えば0.5〜10L/min.を例示できる。酸素ガス量を変動させることで本発明の粉末の平均粒子径を変化させることができ、酸素ガス量を増加することで本発明の粉末の平均粒子径を大きくすることができる。
【0030】
ここで、Li
aM
xMn
yO
4源としてLi源とM
xMn
y源を用いた場合の本発明の粉末の生成機構について考察する。プラズマ内の温度は、8000〜20000℃程度である。Li源とM
xMn
y源はプラズマ内で気化又は分解状態となる。プラズマ内にLi源及びM
xMn
y源とともに酸素ガスを導入することで、Li源はLi
2O等のリチウム酸化物に、M
xMn
y源はMnO等のマンガン酸化物又はマンガン−M複合酸化物に変換され得る。なお、Li
2OはLi単体よりも融点が高く、また、MnOはMn単体及びMnO
2、Mn
2O
3、Mn
3O
4などのマンガン酸化物の中で最も融点が高いため、高温のプラズマ内から放出されて冷却される過程において、Li
2OとMnOは冷却初期段階で核生成しやすい化合物といえる。そして、Li
2OとMnOの融点を比較するとMnOの融点の方が高いため、MnOの核生成が先に生じると考えられる。
【0031】
ここで、例えば、融点が1705Kであり沸点が2873KであるLi
2Oと、融点が2113Kであり沸点が3400KであるMnOとは、融点と沸点の間の温度範囲が、共に2200〜2800K程度の範囲で重複している。したがって、液体状態のLi
2OとMnOは酸素存在下で冷却されて核を生成し、これらが凝集することで、LiMn
2O
4が生成されると推定される。この反応を反応式で示すと、以下のとおりとなる。
2Li
2O(liq.)+ 8MnO(liq.)+ 3O
2(gas)→ 4LiMn
2O
4
【0032】
さらに、生じたLiMn
2O
4結晶核は、さらなる急速冷却により、結晶構造及び結晶成長が制御され、その結果、微細なLiMn
2O
4粒子が得られると推定される。
【0033】
粉末製造工程で得られるLi
aM
xMn
yO
4粒子(以下、本発明の粒子という。)は、高温状態から室温付近にまで、急激に冷却されるため、結晶成長する期間がほとんどない。そのため、本発明の粒子は、一般的な製造方法で得られるような、特定の軸が成長した針状結晶となることが妨げられている。その結果、本発明の粉末に含まれる本発明の粒子は、各軸の結晶成長速度にムラの無い形状となっている。そして、本発明の粒子の一態様として、多数の平面で構成される多面体形状のものが観察された。多面体の具体例として、三角形及び四角形の平面を含むもの、四角形及び六角形の平面を含むもの、又は、三角形、四角形及び六角形の平面を含むものを例示できる。さらに、多面体の具体例として、8つの三角形よりなる八面体から該八面体の頂点を頭頂点とする6つの四角錐を除去した切頂八面体を例示できる。
【0034】
本発明の粉末は、その平均粒子径が10nm〜400nmの範囲内であるのが好ましく、30nm〜150nmの範囲内がより好ましい。ここでの平均粒子径とは、本発明の粉末を走査型電子顕微鏡や透過型電子顕微鏡などの電子顕微鏡で観察した場合における、観察された粒子像の外接円の直径の算術平均値を意味する。例えば、六角形の粒子像が観察されたら、その外接円を作成し、該外接円の直径を測定する。そのようにして、例えば200個の粒子につき、各外接円の直径を測定して、その算術平均値を算出する。この値が平均粒子径である。
【0035】
粉末製造工程において、Li
aM
xMn
yO
4を含むガス流の冷却速度が増加すれば、Li
aM
xMn
yO
4結晶核の結晶成長が初期段階で中断されるため、より微細であり、かつ形状が均一なLi
aM
xMn
yO
4粒子が得られるといえる。
【0036】
したがって、粉末製造工程において、導入流がプラズマ内を通過した後の通過流を当該通過流に対向する冷却ガス流で冷却する工程を有すると、より微細なLi
aM
xMn
yO
4粒子が得られるため、より好ましい。
【0037】
冷却ガス流のガスとしては、ヘリウム、アルゴンなどの希ガスや、酸素、空気が好ましく、これらを混合して用いてもよい。冷却ガス流の温度は室温でもよいし、室温以下でもよい。冷却ガスの流量としては、導入流よりも小さい流量であればよく、例えば1〜30L/min.の範囲内を例示できる。
【0038】
微細なLi
aM
xMn
yO
4粉末が電池の正極活物質として使用された場合、例えば、電池の反応抵抗を低減できる、高速の充放電でも十分な容量を示すことができるなどの効果が奏される。
【0039】
次に、本発明の粉末を用いる工程について説明する。当該工程は、具体的には、正極活物質として機能するLi
aM
xMn
yO
4粉末を溶剤と混合し正極活物質層用組成物とする工程である。
【0040】
溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトンを例示できる。溶剤の使用量は、正極活物質層用組成物がスラリー状になる程度の量が好ましい。
【0041】
正極活物質層用組成物には、Li
aM
xMn
yO
4粉末及び溶剤以外に、他の公知の正極活物質、結着剤、導電助剤を加えてもよい。
【0042】
結着剤は、活物質を集電体の表面に繋ぎ止め、電極中の導電ネットワークを維持する役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム、カルボキシメチルセルロースを例示することができる。これらの結着剤を単独で又は複数で採用すれば良い。
【0043】
正極活物質層用組成物に対する結着剤の配合割合は、質量比で、正極活物質:結着剤=1:0.001〜1:0.3の範囲内とするのが好ましく、1:0.005〜1:0.2の範囲内とするのがより好ましく、1:0.01〜1:0.15の範囲内とするのがさらに好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下し、また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0044】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて正極活物質層に添加することができる。
【0045】
正極活物質層用組成物に対する導電助剤の配合割合は、質量比で、正極活物質:導電助剤=1:0.005〜1:0.5の範囲内とするのが好ましく、1:0.01〜1:0.2の範囲内とするのがより好ましく、1:0.02〜1:0.1の範囲内とするのがさらに好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると正極活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0046】
正極活物質層用組成物を集電体に塗布する工程、乾燥工程、必要に応じ圧縮工程を経て、本発明の正極が製造される。
【0047】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0048】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0049】
正極活物質層用組成物を集電体に塗布するには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いればよい。
【0050】
本発明の正極は、リチウムイオン二次電池の正極として使用し得る。以下、本発明の正極を具備するリチウムイオン二次電池を本発明のリチウムイオン二次電池という。本発明のリチウムイオン二次電池の一態様は、本発明の正極、負極、電解液及びセパレータを具備する。
【0051】
負極は、集電体と、集電体の表面に結着させた負極活物質層を有する。集電体については、正極で説明したものを適宜適切に採用すれば良い。負極活物質層は負極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
【0052】
負極活物質としては、リチウムを吸蔵及び放出可能な炭素系材料、リチウムと合金化可能な元素、リチウムと合金化可能な元素を有する化合物、あるいは高分子材料などを例示することができる。
【0053】
炭素系材料としては、難黒鉛化性炭素、黒鉛、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、炭素繊維、活性炭あるいはカーボンブラック類が例示できる。ここで、有機高分子化合物焼成体とは、フェノール類やフラン類などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいう。
【0054】
リチウムと合金化可能な元素としては、具体的にNa、K、Rb、Cs、Fr、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Ra、Ti、Ag、Zn、Cd、Al、Ga、In、Si、Ge、Sn、Pb、Sb、Biが例示でき、特に、Si又はSnが好ましい。
【0055】
リチウムと合金化可能な元素を有する化合物としては、具体的にZnLiAl、AlSb、SiB
4、SiB
6、Mg
2Si、Mg
2Sn、Ni
2Si、TiSi
2、MoSi
2、 CoSi
2、NiSi
2、CaSi
2、CrSi
2、Cu
5Si、FeSi
2、MnSi
2、NbSi
2、TaSi
2、VSi
2、WSi
2、ZnSi
2、SiC、Si
3N
4、Si
2N
2O、SiO
v(0<v≦2)、SnO
w(0<w≦2)、SnSiO
3、LiSiO あるいはLiSnOを例示でき、特に、SiO
x(0.3≦x≦1.6、又は0.5≦x≦1.5)が好ましい。
【0056】
中でも、負極活物質は、Siを有するSi系材料を含むものがよい。Si系材料は、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な珪素又は/及び珪素化合物からなるとよく、例えば、SiOx(0.5≦x≦1.5)がよい。珪素は理論充放電容量が大きいものの、珪素は充放電時の体積変化が大きい。そこで、負極活物質を珪素を含むSiOxとすることで珪素の体積変化を緩和することができる。
【0057】
また、Si系材料は、Si相と、SiO
2相とをもつことが好ましい。Si相は、珪素単体からなり、Liイオンを吸蔵・放出し得る相であり、Liイオンの吸蔵及び放出に伴って膨張及び収縮する。SiO
2相は、SiO
2からなり、Si相の膨張及び収縮を吸収する緩衝相となる。Si相がSiO
2相により被覆されるSi系材料が好ましい。さらには、微細化された複数のSi相がSiO
2相により被覆されて一体となって粒子を形成しているものがよい。この場合には、Si系材料全体の体積変化を効果的に抑えることができる。
【0058】
Si系材料でのSi相に対するSiO
2相の質量比は、1〜3であることが好ましい。前記質量比が1未満の場合には、Si系材料の膨張及び収縮が大きくなり、Si系材料を含む負極活物質層にクラックが生じるおそれがある。一方、前記質量比が3を超える場合には、負極活物質のLiイオンの吸蔵及び放出量が少なくなり、電池の負極単位質量あたりの電気容量が低くなる。 また、リチウムと合金化反応可能な元素を有する化合物として、スズ合金(Cu−Sn合金、Co−Sn合金等)などの錫化合物を例示できる。
【0059】
高分子材料としては、具体的にポリアセチレン、ポリピロールを例示できる。
【0060】
負極活物質として、CaSi
2を塩酸やフッ化水素酸などの酸で処理して得られる層状ポリシランを、300〜1000℃で加熱して得られるSi材料を採用しても良い。さらに、上記Si材料を炭素源とともに加熱して、カーボンコートしたものを負極活物質として採用してもよい。
【0061】
負極活物質としては、以上のものの一種以上を使用することができる。
【0062】
負極に用いる導電助剤については、正極で説明したものを同様の配合割合で適宜適切に採用すれば良い。
【0063】
負極に用いる結着剤については、正極で説明したものを同様の配合割合で適宜適切に採用すれば良い。
【0064】
電解液は、非水溶媒と非水溶媒に溶解した電解質とを含んでいる。
【0065】
非水溶媒としては、環状エステル類、鎖状エステル類、エーテル類等が使用できる。環状エステル類としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ガンマブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトン、ガンマバレロラクトンを例示できる。鎖状エステル類としては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステル、酢酸アルキルエステル等を例示できる。エーテル類としては、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタンを例示できる。非水溶媒としては、上記具体的な溶媒の化学構造のうち一部又は全部の水素がフッ素に置換した化合物を採用しても良い。
【0066】
電解質としては、LiClO
4、LiAsF
6、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2等のリチウム塩を例示できる。
【0067】
電解液としては、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネートなどの非水溶媒に、LiClO
4、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3などのリチウム塩を0.5mol/Lから1.7mol/L程度の濃度で溶解させた溶液を例示できる。
【0068】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による電流の短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0069】
次に、本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。本発明のリチウムイオン二次電池の製造方法は、本発明の正極の製造方法で得られた正極を配設する工程を含む。具体的には、以下のとおりである。
【0070】
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。また、本発明のリチウムイオン二次電池は、電極に含まれる活物質の種類に適した電圧範囲で充放電を実行されればよい。
【0071】
本発明のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0072】
本発明のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、本発明のリチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0073】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。なお、本発明の粉末には、不純物が含まれるものもある。
【実施例】
【0074】
以下に、製造例、実施例及び比較例などを示し、本発明をより具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例によって限定されるものではない。
【0075】
(製造例1)
図1に示すプラズマ発生装置を用いて、製造例1の粉末を製造した。
図1に示すプラズマ発生装置において黒塗り矢印は冷却水を表す。
【0076】
Li源として炭酸リチウム、M
xMn
y源として二酸化マンガンを準備し、これらをモル比1:4で混合して混合粉体とした。そして、混合粉体を粉体供給器に配置した。なお、当該混合粉体におけるリチウムとマンガンの元素モル比は1:2である。
【0077】
プラズマ発生装置内に、プロセスガスとしてアルゴンと酸素の体積比59:1の混合ガスを60L/min.で供給し、インナーガスとしてアルゴンを5L/min.で供給し、キャリヤーガスとしてアルゴンを3L/min.で供給した。電力供給装置から電力を供給し、周波数4MHzの磁場をコイルに印加して、出力20kWのプラズマを発生させた。なお、プラズマ発生装置内の圧力は大気圧とした。
【0078】
プラズマの安定後、粉体供給器を作動させ、混合粉体を400mg/min.の供給量で、キャリヤーガスとともに、プラズマ内へ導入した。プラズマ内を通過した後の通過流とともに放出された粉末を収集し、製造例1の粉末とした。
【0079】
なお、製造例1においては、冷却ガスを使用しなかった。
【0080】
(製造例2)
プロセスガスとしてアルゴンと酸素の体積比57.5:2.5の混合ガスを60L/min.で供給した以外は、製造例1と同様の方法で、製造例2の粉末を製造した。
【0081】
(製造例3)
プロセスガスとしてアルゴンと酸素の体積比55:5の混合ガスを60L/min.で供給した以外は、製造例1と同様の方法で、製造例3の粉末を製造した。
【0082】
(製造例4)
プロセスガスとしてアルゴンと酸素の体積比52.5:7.5の混合ガスを60L/min.で供給した以外は、製造例1と同様の方法で、製造例4の粉末を製造した。
【0083】
(製造例5)
導入流がプラズマ内を通過した後の通過流を当該通過流に対向する冷却ガス流で冷却する工程を実施するために、冷却ガスとして室温のアルゴンを10L/min.で供給した以外は、製造例3と同様の方法で、製造例5の粉末を製造した。
【0084】
(製造例6)
冷却ガスとして室温のアルゴンを20L/min.で供給した以外は、製造例5と同様の方法で、製造例6の粉末を製造した。
【0085】
(製造例7)
プラズマの出力を25kWとした以外は、製造例3と同様の方法で、製造例7の粉末を製造した。
【0086】
(製造例8)
プラズマの出力を30kWとした以外は、製造例3と同様の方法で、製造例8の粉末を製造した。
【0087】
(比較製造例1)
プロセスガスとしてアルゴンを60L/min.で供給した以外は、製造例1と同様の方法で、比較製造例1の粉末を製造した。
【0088】
製造例1〜8、比較製造例1の粉末の製造方法の一覧表を表1に示す。
【0089】
【表1】
【0090】
(評価例1)
粉末X線回折装置にて、製造例1〜8の粉末及び比較例1の粉末のX線回折を測定した。製造例1〜8の粉末から得られたX線回折チャートにおいては、いずれもスピネル型結晶構造のLiMn
2O
4及び(Li
0.91Mn
0.09)Mn
2O
4に特有の回折パターンが観察された。また、製造例1〜8の粉末から得られたX線回折チャートにおいては、不純物であるMn
3O
4に該当する回折ピークも観察された。ここで、各X線回折チャートの比較から、プロセスガスにおける酸素量が増加するに従い、Mn
3O
4が減少することが確認できた。さらに、冷却ガスの存在により、Mn
3O
4が減少することも確認できた。製造例1、製造例3、製造例6の粉末のX線回折チャートを
図2に示し、これらのX線回折チャートから算出された各粉末に含まれる成分の質量%を、表2に示す。
【0091】
【表2】
【0092】
他方、比較製造例1の粉末から得られたX線回折チャートにおいては、主にMn
3O
4とスピネル型結晶構造ではないLiMnO
2に特有の回折パターンが観察された。
【0093】
粉末製造工程においては、酸素ガスの存在に因り、好適にスピネル型結晶構造のLi
aM
xMn
yO
4(Mは金属、0.8≦a≦1.1、0≦x≦1、1≦y≦2.2、1.8≦x+y≦2.2)粉末が製造されることが裏付けられた。
【0094】
(評価例2)
製造例1〜8の粉末を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。得られた各TEM像において、粒子200個につき、各粒子像の外接円の直径を測定し、その算術平均値である平均粒子径を算出した。結果を表3に示す。また、製造例1、製造例3、製造例6の粉末のTEM像を
図3〜5に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
製造例1〜4の結果から、酸素ガス量を増加することで、本発明の粉末の平均粒子径は大きくなる傾向にあるといえる。製造例3、製造例5〜6の結果から、冷却ガス量を増加することで、本発明の粉末の平均粒子径は小さくなるといえる。また、製造例3、製造例7〜8の結果から、プラズマ出力を増加することで、本発明の粉末の平均粒子径は小さくなるといえる。
【0097】
また、製造例1及び製造例6の粉末を走査型電子顕微鏡(SEM)で観察した。製造例1、製造例6の粉末のSEM像を
図6〜7に示す。
図6〜7のSEM像から、本発明の粉末には、針状などではなく、多面体形状の粒子が存在することがわかる。
図6〜7のSEM像には、切頂八面体形状の粒子も観察された。観察された切頂八面体は六角形の{111面}×8面、四角形の{100面}×6面で構成されている。{100面}があることによって、八面体の頂点の応力集中(ヤーン・テラー効果)を緩和することが出来、Liの出入りがしやすくなり、二次電池の入出力特性が向上すると考えられる。切頂八面体形状の粒子につき、四角形と六角形とで共有する辺の長さaと、該六角形と他の六角形とで共有する辺の長さbとを測定した。製造例1及び製造例6の粉末について、切頂八面体形状の粒子の200箇所につき測定したaとbの算術平均値を表4に示す。なお、各六角形それぞれのaとbの関係は、いずれもb≦1.5aを満足していた。
【0098】
【表4】
【0099】
参考として、市販のスピネル型結晶構造のLiMn
2O
4粉末(株式会社豊島製作所)を走査型電子顕微鏡で観察したSEM像を
図8に示す。
【0100】
(製造例9)
図1に示すプラズマ発生装置を用いて、製造例9の粉末を製造した。
【0101】
Li源として炭酸リチウム、M
xMn
y源として二酸化マンガン及びNi粉末を準備し、これらをモル比1:3:1で混合して混合粉体とした。そして、混合粉体を粉体供給器に配置した。なお、当該混合粉体におけるリチウム、マンガン、ニッケルの元素モル比は2:3:1であり、リチウムと、マンガン及びニッケルとの元素モル比は1:2である。
【0102】
プラズマ発生装置内に、プロセスガスとしてアルゴンと酸素の体積比57.5:2.5の混合ガスを60L/min.で供給し、インナーガスとしてアルゴンを5L/min.で供給し、キャリヤーガスとしてアルゴンを3L/min.で供給した。電力供給装置から電力を供給し、周波数4MHzの磁場をコイルに印加して、出力20kWのプラズマを発生させた。なお、プラズマ発生装置内の圧力は大気圧とした。
【0103】
プラズマの安定後、粉体供給器を作動させ、混合粉体を400mg/min.の供給量で、キャリヤーガスとともに、プラズマ内へ導入した。プラズマ内を通過した後の通過流とともに放出された粉末を収集し、製造例9の粉末とした。
【0104】
なお、製造例9においては、冷却ガスを使用しなかった。
【0105】
(製造例10)
プロセスガスとしてアルゴンと酸素の体積比55:5の混合ガスを60L/min.で供給した以外は、製造例9と同様の方法で、製造例10の粉末を製造した。
【0106】
(製造例11)
導入流がプラズマ内を通過した後の通過流を当該通過流に対向する冷却ガス流で冷却する工程を実施するために、冷却ガスとして室温のアルゴンを10L/min.で供給した以外は、製造例9と同様の方法で、製造例11の粉末を製造した。
【0107】
(製造例12)
冷却ガスとして室温のアルゴンを20L/min.で供給した以外は、製造例11と同様の方法で、製造例12の粉末を製造した。
【0108】
(評価例3)
粉末X線回折装置にて、製造例9〜12の粉末のX線回折を測定した。製造例9〜12の粉末から得られたX線回折チャートにおいては、いずれもスピネル型結晶構造のLiNi
0.5Mn
1.5O
4に特有の回折パターンが観察された。
【0109】
(評価例4)
製造例10の粉末をTEMで観察した。製造例10の粉末のTEM像を
図9に示す。TEM像から微細な粒径の粒子が観察された。
【0110】
(実施例1)
以下のとおり、実施例1の正極及びリチウムイオン二次電池を製造した。
【0111】
正極活物質として製造例1の粉末90質量部、導電助剤としてアセチレンブラック5質量部、結着剤としてポリフッ化ビニリデン5質量部を混合した。この混合物を適量のN−メチル−2−ピロリドンに分散させて、スラリー状の正極活物質層用組成物を作製した。
【0112】
集電体として厚み20μmのアルミニウム箔を準備した。上記アルミニウム箔の表面に正極活物質層用組成物をのせ、ドクターブレードを用いて正極活物質層用組成物が膜状になるように塗布した。正極活物質層用組成物を塗布したアルミニウム箔を80℃で20分間乾燥することで、N−メチル−2−ピロリドンを揮発により除去し、アルミニウム箔表面に正極活物質層を形成させた。表面に正極活物質層が形成されたアルミニウム箔を、ロ−ルプレス機を用いて圧縮し、アルミニウム箔と正極活物質層とを強固に密着接合させた。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状に切断して、実施例1の正極とした。
【0113】
上記の手順で作製した実施例1の正極を作用極として用い、リチウムイオン二次電池(ハーフセル)を作製した。対極は金属リチウム箔とした。
【0114】
作用極及び対極、並びに両極の間に介装させるセパレータ(ヘキストセラニーズ社製ガラスフィルター及びCelgard社製「Celgard2400」)を配設して電極体とした。この電極体を電池ケース(CR2032型コイン電池用部材、宝泉株式会社製)に収容した。電池ケースに、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比1:1で混合した混合溶媒にLiPF
6を1Mの濃度で溶解した非水電解液を注入し、電池ケースを密閉して、実施例1のリチウムイオン二次電池を得た。
【0115】
(実施例2)
正極活物質として製造例6の粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の正極及びリチウムイオン二次電池を得た。
【0116】
(比較例1)
正極活物質として、市販のスピネル型結晶構造のLiMn
2O
4粉末(株式会社豊島製作所、平均粒子径6μm(レーザー回折式粒度分布測定におけるD50の値))を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の正極及びリチウムイオン二次電池を得た。
【0117】
(評価例A)
各リチウムイオン二次電池につき、温度25℃、0.1Cレートの定電流にて4.2Vにした後に3.5Vに調整した後、1Cレートで60秒間、定電流放電をさせた。放電前後の電圧変化量及び電流値から、オームの法則により放電時の各リチウムイオン二次電池の直流抵抗を算出した。結果を表5に示す。
【0118】
【表5】
【0119】
実施例1及び実施例2のリチウムイオン二次電池の抵抗が、比較例1のリチウムイオン二次電池の抵抗よりも低いことが確認できた。本発明の粉末を具備する正極及びリチウムイオン二次電池は、従来のLiMn
2O
4粉末を具備する正極及び二次電池よりも、低抵抗を示すことが裏付けられた。
【0120】
(評価例B)
各リチウムイオン二次電池に対し、室温で、3.5Vから4.2Vまでの充電及び4.2Vから3.5Vまでの放電を、0.1C、0.2C、0.5C、1Cレートの順序で行う充放電サイクル試験を行った。0.1Cレートでの放電容量に対する、1Cレートでの放電容量の割合を算出した結果を表6に示す。なお、ここでの記述は、対極を負極、作用極を正極とみなしている。1Cとは一定電流において1時間で電池を完全充電または放電させるために要する電流値を意味する。
【0121】
【表6】
【0122】
表6に示した結果から、実施例1及び実施例2のリチウムイオン二次電池は、比較例1のリチウムイオン二次電池と比較して、高レートにおける放電容量の低下が抑制されており、優れたレート特性を示した。本発明の粉末を具備する正極及びリチウムイオン二次電池は、優れたレート特性を示すことが裏付けられた。