(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置について説明する。
【0014】
[エンジンの構成]
まず、
図1乃至
図5を参照して、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置が適用されたエンジンの構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置が適用されたエンジンの概略構成図であり、
図2は、本発明の実施形態によるエンジンの1つの気筒を下方から見た概略平面図であり、
図3は、本発明の実施形態によるエンジンにおける一方の排気弁に適用される排気側可変動弁機構の概略側面図(部分的に断面図を示している)であり、
図4は、本発明の実施形態によるエンジンにおける他方の排気弁に適用されるメカニカル動弁機構の概略側面図であり、
図5は、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置に関する電気的構成を示すブロック図である。
【0015】
図1に示すように、エンジン1は、車両に搭載されると共に、少なくともガソリンを含有する燃料が供給されるガソリンエンジンである。エンジン1は、複数の気筒18が設けられたシリンダブロック11(なお、
図1では、1つの気筒のみを図示するが、例えば4つの気筒が直列に設けられる)と、このシリンダブロック11上に配設されたシリンダヘッド12と、シリンダブロック11の下側に配設され、潤滑油が貯留されたオイルパン13とを有している。各気筒18内には、コンロッド142を介してクランクシャフト15と連結されているピストン14が往復動可能に嵌挿されている。ピストン14の頂面には、ディーゼルエンジンでのリエントラント型のようなキャビティ141が形成されている。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するときには、後述するインジェクタ67に相対する。シリンダヘッド12と、気筒18と、キャビティ141を有するピストン14とは、燃焼室19を画定する。なお、燃焼室19の形状は、図示する形状に限定されるものではない。例えばキャビティ141の形状、ピストン14の頂面形状、及び、燃焼室19の天井部の形状等は、適宜変更することが可能である。
【0016】
このエンジン1は、理論熱効率の向上や、後述する圧縮着火燃焼の安定化等を目的として、15以上の比較的高い幾何学的圧縮比に設定されている。なお、幾何学的圧縮比は15以上20以下程度の範囲で、適宜設定すればよい。
【0017】
シリンダヘッド12には、気筒18毎に、吸気ポート16及び排気ポート17が形成されていると共に、これら吸気ポート16及び排気ポート17には、燃焼室19側の開口を開閉する吸気弁21及び排気弁22がそれぞれ配設されている。具体的には、
図2に示すように、気筒18毎に、2つの吸気ポート16が形成され、これら吸気ポート16のそれぞれに吸気弁21(21a、21b)が配設されると共に、2つの排気ポート17が形成され、これら排気ポート17のそれぞれに排気弁22(22a、22b)が配設される。
【0018】
排気弁22においては、一方の排気弁22aに排気側可変動弁機構72が取り付けられており(
図3、
図5参照)、この排気側可変動弁機構72は、少なくとも排気弁22aの開閉時期を変化させて、排気弁22aを動作させる。また、他方の排気弁22bには、メカニカル動弁機構73が取り付けられており(
図4参照)、このメカニカル動弁機構73は、排気弁22bを一定の開閉時期及びクランク角に応じた一定のリフト量の変化形態にて動作させる。他方で、吸気弁21a、21bの一方又は両方には、吸気側可変動弁機構71が取り付けられており(
図5参照)、この吸気側可変動弁機構71は、吸気弁21a、21bの一方又は両方の開閉時期及び/又はリフト量を変化させる。なお、吸気弁21a、21bの一方にのみ吸気側可変動弁機構71を適用した場合には、吸気弁21a、21bの他方には例えばメカニカル動弁機構などを適用すればよい。
【0019】
図3に示すように、排気弁22aに適用される排気側可変動弁機構72は、外部から供給されたエンジンオイルが通過するオイル供給路72aと、オイル供給路72a上に設けられた三方弁としてのソレノイドバルブ72b(油圧バルブに相当する)と、オイル供給路72aからソレノイドバルブ72bを介して供給されたエンジンオイルが充填される圧力室72cと、を有する。この場合、ソレノイドバルブ72bが開弁しているときに、オイル供給路72aと圧力室72cとが流体連通されて、オイル供給路72aから圧力室72cへとエンジンオイルが供給される(
図3中の矢印A11参照)。ソレノイドバルブ72bは、通電されていない状態では開弁しており、通電されると閉弁する。より詳しくは、ソレノイドバルブ72bは、通電され続けることにより、閉弁状態が維持される。なお、ソレノイドバルブ72bの上流側のオイル供給路72a上には、図示しない逆止弁などが設けられている。
【0020】
また、排気側可変動弁機構72は、タイミングベルトなどを介してクランクシャフト15の回転が伝達される排気カムシャフト23上に設けられたカム72dと、カム72dから伝達された力により揺動するローラーフィンガーフォロア72eと、圧力室72cに連結されており、ローラーフィンガーフォロア72eによって動作されて、圧力室72c内のエンジンオイルの圧力(油圧)を上昇させるポンプユニット72fと、を有する。加えて、排気側可変動弁機構72は、ソレノイドバルブ72bを介して圧力室72cに連結され、圧力室72c内の油圧によって排気弁22aを開弁させるように動作するブレーキユニット72gと、ブレーキユニット72gが動作していないときに排気弁22aの閉状態を維持するための力を付与するバルブスプリング72hと、を有する。この場合、ソレノイドバルブ72bが閉弁しているときに、オイル供給路72aと圧力室72cとの流体連通が遮断されて、圧力室72cとブレーキユニット72gとが流体連通されることで、圧力室72c内の油圧がブレーキユニット72gに作用する(
図3中の矢印A12参照)。
【0021】
排気側可変動弁機構72が排気弁22aを開弁させる動作について具体的に説明する。カム72dが排気カムシャフト23と同期して回転している最中において、カム72dに形成されたカム山(換言するとカムロブ)がローラーフィンガーフォロア72eに接触すると、このカム山がローラーフィンガーフォロア72eを押し込む。これにより、ローラーフィンガーフォロア72eがポンプユニット72fを付勢して、ポンプユニット72fが圧力室72c内のエンジンオイルを圧縮するよう動作する。このときに、ソレノイドバルブ72bを閉弁すると、オイル供給路72aと圧力室72cとの流体連通が遮断されて、圧力室72cとブレーキユニット72gとが流体連通されることで、圧力室72cとブレーキユニット72gとによってほぼ密閉空間が形成されて、この空間内のエンジンオイルの油圧がポンプユニット72fの動作によって上昇する。そして、上昇された油圧によってブレーキユニット72gが動作して排気弁22aを付勢することで、排気弁22aがリフトする、つまり排気弁22aが開弁する。他方で、上記のような状況においてソレノイドバルブ72bを開状態に維持した場合には、オイル供給路72aと圧力室72cとが流体連通しているので、ポンプユニット72fの動作によって圧力室72c内のエンジンオイルがオイル供給路72aへと押し出される(当然、ソレノイドバルブ72bが閉弁しているときには、圧力室72cとブレーキユニット72gとの流体連通が遮断されているため、圧力室72c内の油圧はブレーキユニット72gに作用しない)。
【0022】
基本的には、カム72dに形成されたカム山がローラーフィンガーフォロア72eに作用してポンプユニット72fを押す方向に力が作用している間の何処かのタイミングでソレノイドバルブ72bを閉弁すると(カム72dに形成されたカム山がローラーフィンガーフォロア72eに作用している間の何処かのタイミングでソレノイドバルブ72bを閉弁すると)、排気弁22aを開弁させることができる。したがって、ソレノイドバルブ72bを開状態から閉状態に切り替えるタイミングを変えることで、排気弁22aの開弁時期を変化させることができる。本実施形態では、排気行程において排気弁22aを開弁できるように、カム72d上の所定位置にカム山が形成されていると共に、排気行程に加えて吸気行程においても排気弁22aを開弁できるように、つまり排気の二度開きが行えるように、別のカム山がカム72d上の所定位置に形成されている。本実施形態では、このような2つのカム山のそれぞれがローラーフィンガーフォロア72eに作用している間に、ソレノイドバルブ72bの開閉を切り替える制御を行って、排気弁22aの開閉時期を変化させるようにする。
【0023】
ここで、
図6を参照して、上記のように構成された排気側可変動弁機構72による排気弁22aの基本動作の一例について説明する。
図6は、横軸にクランク角を示し、縦軸に弁のリフト量を示している。具体的には、実線のグラフG11は、クランク角に応じた排気弁22aの動作を示し、破線のグラフG12は、クランク角に応じた吸気弁21の動作を参考のために示している。グラフG11に示すように、排気側可変動弁機構72は、排気行程中に排気弁22aを開弁させると共に、吸気行程中にも排気弁22aを開弁させるように構成されている、つまり排気行程及び吸気行程に渡って排気弁22aを2回開弁して排気の二度開きを行えるように構成されている。
【0024】
他方で、
図4に示すように、メカニカル動弁機構73は、排気カムシャフト23上に設けられたカム73aと、カム73aから伝達された力により揺動し、排気弁22bをリフトさせるように動作するロッカーアーム73bと、ロッカーアーム73bが排気弁22bをリフトさせるように動作していないときに排気弁22bの閉状態を維持するための力を付与するバルブスプリング73cと、を有する。このようなメカニカル動弁機構73は、排気カムシャフト23を介してクランクシャフト15の回転に同期して動作し、一定の開閉時期及びクランク角に応じた一定のリフト量の変化形態(つまり一定のリフト量積分値)にて排気弁22bを動作させる。具体的には、メカニカル動弁機構73は、排気行程にのみ排気弁22bを開弁させるように動作する。換言すると、メカニカル動弁機構73においては、排気行程にのみ排気弁22bが開弁するように、カム73a上の所定位置に1つのカム山が形成されている。
なお、
図4に示したようにメカニカル動弁機構73を構成することに限定はされず、これ以外にも種々の構成をメカニカル動弁機構73に適用可能である。
【0025】
図1を再度参照すると、シリンダヘッド12には、気筒18毎に、気筒18内に燃料を直接噴射する(直噴)インジェクタ67が取り付けられている。インジェクタ67は、その噴口が燃焼室19の天井面の中央部分から、その燃焼室19内に臨むように配設されている。インジェクタ67は、エンジン1の運転状態に応じて設定された噴射タイミングでかつ、エンジン1の運転状態に応じた量の燃料を、燃焼室19内に直接噴射する。この例において、インジェクタ67は、詳細な図示は省略するが、複数の噴口を有する多噴口型のインジェクタである。これによって、インジェクタ67は、燃料噴霧が、燃焼室19の中心位置から放射状に広がるように、燃料を噴射する。ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで、燃焼室19の中央部分から放射状に広がるように噴射された燃料噴霧は、ピストン頂面に形成されたキャビティ141の壁面に沿って流動する。キャビティ141は、ピストン14が圧縮上死点付近に位置するタイミングで噴射された燃料噴霧を、その内部に収めるように形成されている、と言い換えることが可能である。この多噴口型のインジェクタ67とキャビティ141との組み合わせは、燃料の噴射後、混合気形成期間を短くすると共に、燃焼期間を短くする上で有利な構成である。なお、インジェクタ67は、多噴口型のインジェクタに限定されず、外開弁タイプのインジェクタを採用してもよい。
【0026】
図外の燃料タンクとインジェクタ67との間は、燃料供給経路によって互いに連結されている。この燃料供給経路上には、燃料ポンプ63とコモンレール64とを含みかつ、インジェクタ67に、比較的高い燃料圧力で燃料を供給することが可能な燃料供給システム62が介設されている。燃料ポンプ63は、燃料タンクからコモンレール64に燃料を圧送し、コモンレール64は圧送された燃料を、比較的高い燃料圧力で蓄えることが可能である。インジェクタ67が開弁することによって、コモンレール64に蓄えられている燃料がインジェクタ67の噴口から噴射される。ここで、燃料ポンプ63は、図示は省略するが、プランジャー式のポンプであり、エンジン1によって駆動される。このエンジン駆動のポンプを含む構成の燃料供給システム62は、30MPa以上の高い燃料圧力の燃料を、インジェクタ67に供給することを可能にする。燃料圧力は、最高で120MPa程度に設定してもよい。インジェクタ67に供給される燃料の圧力は、エンジン1の運転状態に応じて変更される。なお、燃料供給システム62は、この構成に限定されるものではない。
【0027】
シリンダヘッド12にはまた、燃焼室19内の混合気に強制点火(具体的には火花点火)する点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、この例では、エンジン1の排気側から斜め下向きに延びるように、シリンダヘッド12内を貫通して配置されている。点火プラグ25の先端は、圧縮上死点に位置するピストン14のキャビティ141内に臨んで配置される。
【0028】
エンジン1の一側面には、
図1に示すように、各気筒18の吸気ポート16に連通するように吸気通路30が接続されている。一方、エンジン1の他側面には、各気筒18の燃焼室19からの既燃ガス(排気ガス)を排出する排気通路40が接続されている。
【0029】
吸気通路30の上流端部には、吸入空気を濾過するエアクリーナ31が配設され、その下流側には、各気筒18への吸入空気量を調節するスロットル弁36が配設されている。また、吸気通路30における下流端近傍には、サージタンク33が配設されている。このサージタンク33よりも下流側の吸気通路30は、気筒18毎に分岐する独立通路とされ、これら各独立通路の下流端が各気筒18の吸気ポート16にそれぞれ接続されている。
【0030】
排気通路40の上流側の部分は、気筒18毎に分岐して排気ポート17の外側端に接続された独立通路と該各独立通路が集合する集合部とを有する排気マニホールドによって構成されている。この排気通路40における排気マニホールドよりも下流側には、排気ガス中の有害成分を浄化する排気浄化装置として、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42とがそれぞれ接続されている。直キャタリスト41及びアンダーフットキャタリスト42はそれぞれ、筒状ケースと、そのケース内の流路に配置した、例えば三元触媒とを備えて構成されている。
【0031】
吸気通路30におけるサージタンク33とスロットル弁36との間の部分と、排気通路40における直キャタリスト41よりも上流側の部分とは、排気ガスの一部を吸気通路30に還流するためのEGR通路50を介して接続されている。このEGR通路50は、排気ガスをエンジン冷却水によって冷却するためのEGRクーラ52が配設された主通路51を含んで構成されている。主通路51には、排気ガスの吸気通路30への還流量を調整するためのEGR弁511が配設されている。
【0032】
エンジン1は、制御手段としてのパワートレイン・コントロール・モジュール(以下では「PCM」と呼ぶ。)10によって制御される。PCM10は、CPU、メモリ、カウンタタイマ群、インターフェース及びこれらのユニットを接続するパスを有するマイクロプロセッサで構成されている。このPCM10が制御器を構成する。
【0033】
PCM10には、
図1及び
図5に示すように、各種のセンサSW1、SW2、SW4〜SW18の検出信号が入力される。具体的には、PCM10には、エアクリーナ31の下流側で、新気の流量を検出するエアフローセンサSW1の検出信号と、新気の温度を検出する吸気温度センサSW2の検出信号と、EGR通路50における吸気通路30との接続部近傍に配置されかつ、外部EGRガスの温度を検出するEGRガス温センサSW4の検出信号と、吸気ポート16に取り付けられかつ、気筒18内に流入する直前の吸気の温度を検出する吸気ポート温度センサSW5の検出信号と、シリンダヘッド12に取り付けられかつ、気筒18内の圧力を検出する筒内圧センサSW6の検出信号と、排気通路40におけるEGR通路50の接続部近傍に配置されかつ、それぞれ排気温度及び排気圧力を検出する排気温センサSW7及び排気圧センサSW8の検出信号と、直キャタリスト41の上流側に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するリニアO
2センサSW9の検出信号と、直キャタリスト41とアンダーフットキャタリスト42との間に配置されかつ、排気中の酸素濃度を検出するラムダO
2センサSW10の検出信号と、エンジン冷却水の温度を検出する水温センサSW11の検出信号と、クランクシャフト15の回転角を検出するクランク角センサSW12の検出信号と、車両のアクセルペダル(図示省略)の操作量に対応したアクセル開度を検出するアクセル開度センサSW13の検出信号と、吸気側及び排気側のカム角センサSW14、SW15の検出信号と、燃料供給システム62のコモンレール64に取り付けられかつ、インジェクタ67に供給する燃料圧力を検出する燃圧センサSW16の検出信号と、エンジン1の油圧を検出する油圧センサSW17の検出信号と、エンジン1の油温を検出する油温センサSW18の検出信号と、が入力される。
【0034】
PCM10は、これらの検出信号に基づいて種々の演算を行うことによってエンジン1や車両の状態を判定し、これに応じて、(直噴)インジェクタ67、点火プラグ25、吸気側可変動弁機構71、排気側可変動弁機構72、燃料供給システム62、及び、各種の弁(スロットル弁36、EGR弁511)のアクチュエータに対して制御信号を出力する。こうしてPCM10は、エンジン1を運転する。特に、本実施形態では、PCM10は、排気側可変動弁機構72のソレノイドバルブ72bに対して制御信号を出力して(詳しくはソレノイドバルブ72bに対して電圧又は電流を供給する)、ソレノイドバルブ72bの開閉を切り替えることで、排気弁22aの開閉時期を変化させる制御を実行する。
【0035】
[運転領域]
次に、
図7を参照して、本発明の実施形態によるエンジン1の運転領域について説明する。
図7は、エンジン1の運転制御マップの一例を示している。このエンジン1は、燃費の向上や排気エミッション性能の向上を目的として、エンジン負荷が相対的に低い低負荷域である第1の運転領域R11では、点火プラグ25による点火を行わずに、圧縮自己着火による圧縮着火燃焼を行う。基本的には、圧縮着火燃焼を行う場合には、相対的に温度の高い内部EGRガスを気筒18内に導入するための制御を行って、気筒18内の圧縮端温度を高めて、圧縮着火燃焼の着火性及び安定性を高めるようにしている。
【0036】
しかしながら、エンジン1の負荷が高くなるに従って、上記の圧縮着火燃焼では、燃焼が急峻になりすぎてしまい、燃焼騒音が発生したり、着火時期の制御が困難になったりする(失火などが発生する傾向にある)。そのため、このエンジン1では、エンジン負荷が相対的に高い高負荷域である第2の運転領域R12では、圧縮着火燃焼の代わりに、点火プラグ25を利用した強制点火燃焼(ここでは火花点火燃焼)を行うようにする。このように、本実施形態によるエンジン1は、エンジン1の運転状態、特にエンジン1の負荷に応じて、圧縮着火燃焼による運転を実行するCI(Compression Ignition)運転と、火花点火燃焼による運転を実行するSI(Spark Ignition)運転とを切り替えるように構成されている。
【0037】
[排気弁の動作]
次に、本発明の実施形態による排気弁22の動作について具体的に説明する。
【0038】
本実施形態では、PCM10は、エンジン回転数が所定回転数以下である低回転時に、排気側可変動弁機構72により排気行程及び吸気行程に渡って2回開弁できるように構成された排気弁22aを、排気行程中に閉弁させるように排気側可変動弁機構72を制御する。エンジン1の低回転時には、気筒18において発生する排気量が少ないため、排気側可変動弁機構72が適用された排気弁22aを排気行程中に開弁させなくても、メカニカル動弁機構73が適用された排気弁22bのみを排気行程中に開弁させることで、気筒18から排気を十分に排出することができる。したがって、本実施形態では、PCM10は、エンジン1の低回転時には、排気弁22aを排気行程中に閉弁させるように排気側可変動弁機構72を制御することで、排気行程中に排気弁22aを開弁させるように排気側可変動弁機構72を動作させた場合に発生する損失を低減するようにする。具体的には、排気側可変動弁機構72における油圧制御による損失、及び、排気側可変動弁機構72のソレノイドバルブ72bを閉弁させるための電力に応じた電気的な損失を低減するようにする。
【0039】
なお、上記のような排気行程中に排気弁22aを閉弁させる制御は、エンジン回転数が所定回転数以下である場合に行われるが、この所定回転数は、例えば、メカニカル動弁機構73が適用された排気弁22bのみを開弁させることで十分に排気を行うことが可能な排気量が生じるエンジン回転数に基づき設定される。
【0040】
次に、
図8及び
図9を参照して、本発明の実施形態による排気弁22の制御について具体的に説明する。
【0041】
図8は、本発明の実施形態において、エンジン回転数が所定回転数以下である場合において、燃料を含む混合気を圧縮自己着火させる場合(つまりCI運転を実行する場合)に行われる制御内容を説明するための図を示している。
図8の上には、排気側可変動弁機構72が適用された排気弁22aのクランク角に応じたリフト量の変化(リフトカーブ)を示している。具体的には、実線のグラフG21は、エンジン回転数が所定回転数以下で且つCI運転を実行する場合に適用される排気弁22aのリフトカーブを示している。他方で、破線のグラフG11は、
図6に示したものと同様のものであり、排気行程及び吸気行程に渡って排気弁22aを2回開弁させた場合(つまり排気の二度開きを行った場合)のリフトカーブを示している。このグラフG11は、グラフG21との比較のために
図8に重ねて示している。また、
図8の下には、メカニカル動弁機構73が適用された排気弁22bのリフトカーブを示している(グラフG22参照)。グラフG22に示すように、排気弁22bはメカニカル動弁機構73によって排気行程にのみ開弁される。
【0042】
本実施形態では、グラフG21に示すように、PCM10は、エンジン回転数が所定回転数以下である場合において、CI運転を実行する場合、つまりエンジン運転状態が低負荷側の第1の運転領域R11にある場合に(
図7参照)、排気行程中に排気弁22aを閉弁させるが、吸気行程中には排気弁22aを開弁させるように、排気側可変動弁機構72を制御する。こうすることで、排気行程中には、排気弁22aを開弁させるよう排気側可変動弁機構72を動作させた場合に発生する損失を低減するようにし、吸気行程中には、排気弁22aを介して相対的に温度の高い内部EGRガスを気筒18内に導入して、気筒18内の圧縮端温度を高めて圧縮着火燃焼の着火性及び安定性を高めるようにしている。上述したように、排気弁22aを開弁させる場合、その開弁期間中、排気側可変動弁機構72のソレノイドバルブ72bを閉弁状態に維持するために通電させ続ける必要があるが、基本的には、排気弁22aを開弁させる吸気行程中の一部分の期間は排気弁22aを閉弁させる排気行程全体の期間よりも短いので、ソレノイドバルブ72bへの通電時間を短くすることができ、ソレノイドバルブ72bによる電気的な損失を十分低減することができる。
【0043】
なお、PCM10は、エンジン回転数が所定回転数よりも高い場合において、CI運転を実行する場合には、グラフG11に示すように、排気行程中に排気弁22aを開弁させると共に吸気行程中にも排気弁22aを開弁させるように、つまり排気行程及び吸気行程に渡って排気弁22aを2回開弁して排気の二度開きを行うように、排気側可変動弁機構72を制御する。
【0044】
図9は、本発明の実施形態において、エンジン回転数が所定回転数以下である場合において、燃料を含む混合気を火花点火させる場合(つまりSI運転を実行する場合)に行われる制御内容を説明するための図を示している。
図9の上には、排気側可変動弁機構72が適用された排気弁22aのクランク角に応じたリフト量の変化(リフトカーブ)を示している。具体的には、実線のグラフG3は、エンジン回転数が所定回転数以下で且つSI運転を実行する場合に適用される排気弁22aのリフトカーブを示している。他方で、破線のグラフG11は、
図6及び
図8に示したものと同様のものであり、グラフG3との比較のために
図9に重ねて示している。また、
図9の下には、メカニカル動弁機構73が適用された排気弁22bのリフトカーブを示している(グラフG22参照)。
【0045】
本実施形態では、グラフG3に示すように、PCM10は、エンジン回転数が所定回転数以下である場合において、SI運転を実行する場合、つまりエンジン運転状態が高負荷側の第2の運転領域R12にある場合に(
図7参照)、排気行程中に排気弁22aを閉弁させると共に、吸気行程中にも排気弁22aを閉弁させるように、排気側可変動弁機構72を制御する。つまり、PCM10は、燃焼サイクルの全体に渡って、排気弁22aを閉弁させ続けるように排気側可変動弁機構72を制御する。SI運転を実行する場合には、上記したCI運転を実行する場合と異なり、内部EGRガスを再導入しないので、排気行程中に加えて吸気行程中にも排気弁22aを閉弁させる。こうすることで、排気側可変動弁機構72を動作させた場合に発生する損失を抑制するようにする。
【0046】
なお、PCM10は、エンジン回転数が所定回転数よりも高い場合において、SI運転を実行する場合には、
図9のグラフG4に示すように、排気行程中にのみ排気弁22aを開弁させ、吸気行程中には排気弁22aを閉弁させるように、排気側可変動弁機構72を制御する。
【0047】
[作用効果]
次に、本発明の実施形態によるエンジンの制御装置の作用効果について説明する。
【0048】
本実施形態では、一方の排気弁22a(第1排気弁)に対して排気側可変動弁機構72を適用すると共に、他方の排気弁22b(第2排気弁)に対してメカニカル動弁機構73を適用し、エンジン回転数が所定回転数以下である場合に、排気側可変動弁機構72により排気行程及び吸気行程に渡って2回開弁できるように構成された排気弁22aを、排気行程中には閉弁させるように排気側可変動弁機構72を制御する。これにより、排気量が少ない低回転時において、メカニカル動弁機構73によって排気弁22bのみを排気行程中に開弁させて排気を排出することで、排気の排出性能を確保しつつ、排気行程中に排気弁22aを閉弁させるように排気側可変動弁機構72を制御することで、排気行程中に排気弁22aを開弁させるよう排気側可変動弁機構72を動作させた場合に発生する損失を低減することができる。具体的には、排気側可変動弁機構72における油圧制御による損失、及び、排気側可変動弁機構72のソレノイドバルブ72bを閉弁させるための電力に応じた電気的な損失を適切に低減することができる。
【0049】
また、本実施形態では、エンジン回転数が所定回転数以下である場合において、CI運転を実行する場合には、排気行程中に排気弁22aを閉弁させるが、吸気行程中には排気弁22aを開弁させるので、排気側可変動弁機構72を動作させた場合に発生する損失を適切に低減しつつ、内部EGRガスを気筒18内に適切に再導入して、圧縮着火燃焼の着火性及び安定性を確保することができる。
【0050】
また、本実施形態では、エンジン回転数が所定回転数以下である場合において、SI運転を実行する場合には、排気行程中及び吸気行程中の両方において排気弁22aを閉弁させるので、排気側可変動弁機構72を動作させた場合に発生する損失を確実に抑制することができる。
【0051】
[変形例]
上記した実施形態では、本発明をCI運転とSI運転とを切り替えて運転するガソリンエンジンに対して適用した例を示したが、本発明の適用はこれに限定されない。本発明は、通常のガソリンエンジン(つまりSI運転のみを実行するエンジン)や、ディーゼルエンジンにも適用可能である。
【0052】
また、上記した実施形態では、点火プラグ25を用いた火花点火運転(SI運転)を、強制点火運転の一例として示したが、本発明は、そのような火花点火運転だけでなく、レーザ点火プラグによる強制点火運転にも適用可能である。
【0053】
また、本発明は、
図3に示したような構成を有する排気側可変動弁機構72への適用に限定はされず、種々の構成を有する排気側可変動弁機構に適用可能である。例えば、油圧を利用せずに排気弁22を制御するような排気側可変動弁機構にも適用可能である。