(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
樹脂に強化繊維を組み合わせた繊維強化複合材料は、軽量性、剛性、又は耐衝撃性等に優れることから様々な用途に用いられている。
【0003】
繊維強化複合材料の製造方法として、強化繊維にエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂を含浸させたプリプレグを硬化させる方法が知られている。このプリプレグは、例えば、長尺の繊維基材を長手方向に搬送しながら、樹脂が含浸された樹脂含浸ロールによって繊維基材に樹脂を含浸させた後、当該樹脂含浸基材を乾燥させることによって製造される。
【0004】
ところで、プリプレグを製造するに際し、繊維基材に含浸させる樹脂量は、重要な製造パラメータの一つとなっており、下記特許文献1では以下のように樹脂量を制御している。詳細には、繊維基材の搬送速度に応じて、樹脂が含浸された樹脂含浸ロールの表面の樹脂の膜厚を膜厚調整板(ブレード)によって調整している。これにより、繊維基材の移動速度が変動しても、含浸される樹脂量を精度良く制御することができる、とされている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下添付図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0013】
図1は、プリプレグの製造工程の一例を示すフローチャートである。本発明により製造されたプリプレグは、例えば繊維強化複合材料の製造に好適に用いることができる。
【0014】
(ステップS11)
まず、ボビンに巻き取られたカーボン繊維束(以下、繊維束とも称する)を、駆動ロール等を使用して巻き出す(ボビン巻出し工程)。
【0015】
(ステップS12)
次いで、巻き出したカーボン繊維束を、複数のロール(開繊用ロール)を介して開繊し、加熱等前処理を行う(開繊、加熱等前処理工程)。
【0016】
(ステップS13)
次いで、樹脂が含浸された樹脂含浸ロール表面に長尺のカーボン繊維束を接触させることで樹脂をカーボン繊維束に供給する(樹脂含浸工程)。
【0017】
(ステップS14)
次いで、樹脂が含浸されたカーボン繊維束を、複数のローラーにより移動させ、加熱等後処理を行う(加熱等後処理工程)。
【0018】
(ステップS15)
最後に、加熱等後処理されたカーボン繊維束をボビンに巻き取る(巻取り工程)。本実施形態におけるプリプレグの製造方法においては、少なくとも、カーボン繊維束を巻き出すボビン、カーボン繊維束を開繊させるユニット、樹脂をカーボン繊維束に含浸する樹脂含浸部(詳細は後述する)、樹脂が含浸されたカーボン繊維束を加熱するためのユニット、製造されたプリプレグを巻き取るボビンを使用することが好ましい。
【0019】
図1に示した樹脂含浸工程(ステップS13)について更に説明する。
図2は、樹脂含浸工程の一例を示すフローチャートである。
図3は、樹脂含浸部の周辺の構成を説明する説明図である。
図3に示す樹脂含浸部1は、樹脂が均一に塗工された樹脂含浸ロールRと、樹脂含浸ロールR表面に近接配置され、樹脂含浸ロールR表面との間隔を調整可能なブレード30と、未含浸のカーボン繊維束10の幅を測定する測定機40とを備える。
【0020】
(ステップS131)
まず、均一な膜厚で樹脂Eが塗工された樹脂含浸ロールR(ロール)表面に、未含浸のカーボン繊維束10を接触させる。
【0021】
(ステップS132)
次いで、樹脂含浸工程に入る前のカーボン繊維束10の幅を、測定機40により測定する。測定機40としては、例えばレーザセンサが用いられるが、カーボン繊維束の幅を測定する機能を有していれば、その他のセンサを選択可能である。
【0022】
(ステップS133)
次いで、測定値(測定機40で測定されたカーボン繊維束10の幅及び予め測定されたカーボン繊維束10の重量)に応じてブレード30と樹脂含浸ロールRとのギャップDを調整し、カーボン繊維束10に供給する樹脂量を制御する。具体的には、
図3に示すように、測定機40で測定された信号が制御部50に送信され、制御部50は、受信した信号に基づきモータ60を駆動して当該モータ60に接続されたブレード30の位置を制御する。ブレード30は、例えばボールネジ90等を介してモータ60に連結された状態で樹脂含浸ロールR表面に近接して配置され、樹脂含浸ロールR表面上の樹脂の一部を掻き取ることができる。このようにブレード30が設けられているため、制御部50によりブレード30の位置が制御されることで、樹脂含浸ロールR表面上の樹脂の一部が掻き取られ、樹脂含浸ロールR表面に塗工された樹脂Eの膜厚が調整される。つまり、ブレード30の位置を調整してギャップDを微調整することにより、樹脂含浸ロールR表面上に塗工された樹脂Eの膜厚が変わり、カーボン繊維束10に供給される樹脂量が調整される。
【0023】
より詳細には、以下のようにカーボン繊維束の幅及び重量に基づき樹脂量が調整される。
図4(A)は、あるタイミングで測定されたカーボン繊維束の幅と当該カーボン繊維束に含浸される樹脂の膜厚を示し、
図4(B)は、別のタイミングで測定されたカーボン繊維束の幅と当該カーボン繊維束に含浸される樹脂の膜厚を示す。
【0024】
図4(A)及び
図4(B)に示すように、あるタイミングで測定されたカーボン繊維束10の幅W1が、別のタイミングで測定されたカーボン繊維束10の幅W2より大きい場合には(W1>W2)、当該カーボン繊維束10の幅及び予め測定したカーボン繊維束10の重量に基づき、カーボン繊維束10に含浸される樹脂Eの膜厚T1が、カーボン繊維束10に含浸される樹脂Eの膜厚T2よりも小さくなるように(T1<T2)、ギャップDを調整する。つまり、カーボン繊維束10の幅がW2からW1に変化した場合には、(カーボン繊維束10の重量を考慮した上で)制御部50はギャップDを狭めるようにブレード30を調整し、カーボン繊維束10の幅がW1からW2に変化した場合には、(カーボン繊維束10の重量を考慮した上で)制御部50はギャップDを広げるようにブレード30を調整する。このように、カーボン繊維束10の幅及び重量に基づき制御部50によりブレード30を制御することで、樹脂供給比率を一定に保つことができる。
【0025】
なお、上述した樹脂含浸工程において、カーボン繊維束10の体積が一定である場合には、カーボン繊維束10の幅及び重量に基づきブレード30を制御することに代えて、カーボン繊維束10の幅に基づきブレード30を制御してギャップDを調整しても良い。
【0026】
また上述した樹脂含浸工程では、ギャップDの精度を向上させるために、
図3に示す樹脂含浸ロールR及びブレード30が熱変動に対して極めて低い材料から成ることが好ましい。好適には、熱膨張係数0.5×10
-6/K〜5.0×10
-6/Kの範囲内の材料を用いて樹脂含浸ロールR及びブレード30を作製することが好ましい。
【0027】
また上述した樹脂含浸工程では、ギャップD精度を向上させるために、樹脂Eの温度、樹脂含浸ロールRの温度、及びブレード30の温度が全て所定の温度に保持されていることが好ましく、例えば40±3℃の範囲内の温度に保持されていることが好ましい。
【0028】
続いて、
図1〜
図4を参照しながら説明したプリプレグの製造工程によって製造されたプリプレグの樹脂量を測定した。
図5は、作製されたプリプレグに含浸された樹脂含有率の結果を示すグラフである。この測定では、以下を条件としてプリプレグの製造を行った。詳細には、含浸する樹脂Eとしてエポキシ性熱硬化樹脂を用いた。樹脂含浸ロールR及びブレード30には快削インバー(熱膨張係数1.0×10
-6/K)を用いた。樹脂含浸部(樹脂含浸ロールR及びブレード30)を加熱して約40℃に保持した。樹脂含浸ロールRとブレード30との間のギャップDを40μmとした。樹脂含浸ロールR及びブレード30を約40℃に加熱した後、開繊を行いつつ、カーボン繊維束10の搬送速度を200m/min、張力は一定(20N)で、樹脂含浸ロールRとブレード30との間のギャップDを測定機40で測定された値に応じて微調整しながら含浸、巻取りを行った。巻き取った1本目のボビンから100m毎にプリプレグを20m切り出し、樹脂量を測定した。2本目のボビンも同様に樹脂量を測定した。
【0029】
なお、
図5のグラフG1は、1本目に巻き取ったボビンから100m毎にプリプレグを20m切り出し、樹脂含有率を測定した結果を示す。
図5のグラフG2は、2本目に巻き取ったボビンから100m毎にプリプレグを20m切り出し、樹脂含有率を測定した結果を示す。
図5の横軸は、作製されたプリプレグの長さ(巻取り開始〜巻取り終了(繊維全長2500m)までの長さ)を示し、
図5の縦軸は樹脂含有率を示す。
図5に示す樹脂含有率M1と樹脂含有率M2との差は、約3.0wt%である。
【0030】
図5のグラフG1(1本目のボビン)、G2(2本目のボビン)に示すように、本発明によって製造されたプリプレグでは、いずれも巻取最初から巻取最後まで安定して目標域内(平均値からの変動幅が±0.5wt%以下)に入っている。これは、製造されたプリプレグ全長に亘ってほぼ一定の樹脂供給比率が保たれていることを示している。また、
図5に示されるように、グラフG1、G2を比較して樹脂含有率に大きな差がない、すなわちボビンの変更によっても大きな樹脂含有率の変動がないことが確認された。また、巻取最初から巻取最後まで長期的な上昇又は下降の傾向がなく、安定した製造が可能であることが確認された。
【0031】
比較のために、従来の方法でプリプレグを作製した場合の結果を
図6(A)〜(C)に示す。
図6(A)は、ブレード30の位置調整を行わない以外は、上述した実施形態と同様にプリプレグを作製した場合の樹脂含有率を示すグラフである。
図6(B)は、樹脂含浸ロールR及びブレード30にAl合金(熱膨張係数23×10
-6/K)を用い、ブレード30の位置調整を行わない以外は、上述した実施形態と同様にプリプレグを作製した場合の樹脂含有率を示すグラフである。
図6(C)は、樹脂含浸ロールR及びブレード30にステンレス(熱膨張係数16×10
-6/K)を用い、ブレード30の位置調整を行わない以外は、上述した実施形態と同様にプリプレグを作製した場合の樹脂含有率を示すグラフである。
【0032】
なお、
図6(A)〜(C)の横軸は、作製したプリプレグの長さ(巻取り開始〜巻取り終了(繊維全長2500m)までの長さ)を示す。
図6(A)〜(C)の縦軸は、樹脂含有率を示す。
図6(A)〜(C)に示す樹脂含有率M1と樹脂含有率M2との差は、
図5と同様に、約3.0wt%である。
【0033】
図6(A)に示す樹脂含有率の結果では、樹脂量は狙い範囲内(樹脂含有率の変動幅が約3.0wt%以下)に入っているものの、樹脂含有率のばらつきが大きい。また、1ボビン目(グラフH1)と2ボビン目(グラフH2)とを比較すると樹脂含有率との差が大きい。これは、ボビンが変わったことによってカーボン繊維束の幅が変化した場合に、カーボン繊維束に供給される樹脂量の安定性が確保できていないことを示している。
【0034】
図6(B)に示す樹脂含有率の結果から、樹脂量は狙い範囲内(樹脂含有率の変動幅が約3.0wt%以下)に入っているものの、
図6(B)の点線矢印に示すように、巻取長さが長くなるにつれて樹脂含有率が低下していることが確認できる。このように樹脂含有率が変動すると、樹脂量が狙い範囲内から外れる可能性が非常に高く、連続生産を行った場合には安定性を確保できないおそれがある。
【0035】
図6(C)に示す樹脂含有率の結果から、樹脂量は狙い範囲内(樹脂含有率の変動幅が約3.0wt%以下)に入っているものの、
図6(C)の点線矢印に示すように、巻取り初期に大きく樹脂含有率が低下している(巻取り初期から約2.0wt%下降)。このように樹脂含有率が変動すると、初期の樹脂含有率が狙い範囲内に入っていても最終的に長距離巻き取った時点で樹脂量が狙い範囲内から外れる可能性が非常に高く、連続生産を行った場合に安定化できないおそれがある。
【0036】
以上説明した本実施形態では、樹脂Eが含浸された樹脂含浸ロールR表面に長尺のカーボン繊維束10を接触させることで樹脂Eをカーボン繊維束10に供給する、プリプレグの製造方法において、樹脂Eが含浸される前のカーボン繊維束10の幅を測定する工程と、樹脂Eが含浸された樹脂含浸ロールR表面に近接配置され、樹脂含浸ロールR表面との間隔を調整可能なブレード30を、測定機40により測定されたカーボン繊維束10の幅及び予め測定されたカーボン繊維束10の重量に応じて制御することにより、樹脂含浸ロールR表面の樹脂Eの膜厚を調整する工程と、を備える。
【0037】
以上、具体例を参照しつつ本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。すなわち、これら具体例に、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。前述した各具体例が備える各要素およびその配置、材料、条件、形状、サイズなどは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。