(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1電極又は前記第2電極は、銀、銅、金、鉄、アルミニウム、ニッケル、チタン、クロム、モリブデン及びそれらの合金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属又は導電性酸化物で形成されている、請求項1又は2に記載の蓄電素子。
【発明を実施するための形態】
【0014】
特許文献1〜3に記載された二次電池は、蓄電層に含まれるn型金属酸化物半導体として、二酸化チタン、酸化スズ又は酸化亜鉛を使用している。しかし、特許文献1〜3に記載された二次電池は容量が小さいという課題を有する。そこで、蓄電層に含まれるn型金属酸化物半導体を別の金属酸化物とすることにより、高容量の二次電池(蓄電素子)が実現できると考えられる。
【0015】
本開示は、
第1電極と、
第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間に配置され、絶縁材料とn型半導体粒子との混合物を含む蓄電層と、
前記蓄電層と前記第2電極との間に配置されたp型半導体層と、
を備え、
前記n型半導体粒子は、チタンニオブ複合酸化物と、チタンタンタル複合酸化物との少なくとも一方の材料を含む、蓄電素子を提供する。
【0016】
本開示によれば、蓄電素子の充放電容量が大きくなる。つまり、蓄電層を構成するn型半導体粒子が、チタンニオブ複合酸化物と、チタンタンタル複合酸化物との少なくとも一方を含むことにより、蓄電素子の放電特性を向上させることが可能である。
【0017】
また、前記n型半導体粒子は、チタンニオブ複合酸化物を必須成分として含んでいてもよい。
【0018】
また、チタンニオブ複合酸化物における、チタンの含有率、ニオブの含有率及び酸素の含有率の合計が80原子%以上であってもよい。そのような材料によれば、蓄電素子の放電特性を向上させることが可能である。
【0019】
また、前記n型半導体粒子は、チタンタンタル複合酸化物を必須成分として含んでいてもよい。
【0020】
また、チタンタンタル複合酸化物における、チタンの含有率、タンタルの含有率及び酸素の含有率の合計が80原子%以上であってもよい。そのような材料によれば、蓄電素子の放電特性を向上させることが可能である。
【0021】
また、前記第1電極又は前記第2電極は、銀、銅、金、鉄、アルミニウム、ニッケル、チタン、クロム、モリブデン及びそれらの合金からなる群より選ばれる少なくとも1つの金属又は導電性酸化物で形成されていてもよい。
【0022】
また、前記p型半導体層は、p型酸化物半導体を含んでいてもよい。そのような材料によれば、第2電極から蓄電層への電子の移動を防止する効果を十分に得ることができる。
【0023】
また、前記p型酸化物半導体は、酸化ニッケル又は銅アルミ酸化物であってもよい。そのような材料によれば、第2電極から蓄電層への電子の移動を防止する効果を十分に得ることができる。
【0024】
また、前記絶縁材料は、絶縁性樹脂又は無機絶縁物であってもよい。
【0025】
また、前記絶縁材料がシリコーンであり、前記無機絶縁物が二酸化ケイ素であってもよい。
【0026】
また、本開示は、第1電極、蓄電層、p型半導体層及び第2電極をこの順に積層した蓄電素子の製造方法であって、
有機酸チタン金属塩と、有機酸ニオブ金属塩と、絶縁材料とを、溶媒に溶解して塗布液を作製し、
前記塗布液を前記第1電極に塗布して塗布膜を形成し、
前記塗布膜を焼成し、
焼成された前記塗布膜に光を照射して前記蓄電層を形成し、
前記蓄電層の形成の後、前記p型半導体層及び前記第2電極をこの順番で形成する、蓄電素子の製造方法を提供する。
【0027】
また、本開示は、第1電極、蓄電層、p型半導体層及び第2電極をこの順に積層した蓄電素子の製造方法であって、
有機酸チタン金属塩と、有機酸タンタル金属塩と、絶縁材料とを、溶媒に溶解して塗布液を作製し、
前記塗布液を前記第1電極に塗布して塗布膜を形成し、
前記塗布膜を焼成し、
焼成された前記塗布膜に光を照射して前記蓄電層を形成し、
前記蓄電層の形成の後、前記p型半導体層及び前記第2電極をこの順番で形成する、蓄電素子の製造方法を提供する。
【0028】
本開示の蓄電素子の製造方法によれば、本開示の蓄電素子が効率的に得られる。
【0029】
以下、本開示について、図面を参照しながら説明する。本開示は、以下の実施形態に限定されない。
【0030】
図1に示すように、本実施形態の蓄電素子100は、第1電極20、蓄電層30、p型半導体層40及び第2電極50を備えている。導電性の第1電極20の上に、蓄電層30、p型半導体層40、第2電極50が順次積層されている。第1電極20は、基板を兼用してもよいし、
図1に示すように、第1電極20とは別に基板10を設けてもよい。以上は、第1電極20から順に積層した例について説明したが、逆に、第2電極50から始めて、p型半導体層40、蓄電層30、第1電極20の順に積層してもよい。
【0031】
基板10は、絶縁性の材料で構成されていてもよいし、導電性の材料で構成されていてもよい。基板10として、例えば、ガラス基板、半導体基板、金属基板、セラミックス基板、プラスチック基板、フィルム、樹脂基板、金属シート、又はこれらの組合せを使用可能である。基板10は、剛直であってもよいし、フレキシブルであってもよい。基板10として、フレキシブルなシートを用いてもよい。その場合には、蓄電素子100を曲面部分に用いたり、折り曲げ可能な用途に用いることもできる。
【0032】
第1電極20及び第2電極50は、導電性の材料を含んでいれば、特に限定されない。そのような導電性の材料としては、金属、導電性酸化物、導電性樹脂、導電性カーボン、又はこれらの組合せを使用可能である。
【0033】
金属としては、銀、銅、金、鉄、アルミニウム、マグネシウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、黄銅、白金、スズ、クロム、鉛、チタン、モリブデン、それらの合金などを使用可能である。合金としては、ステンレス鋼などが挙げられる。
【0034】
導電性酸化物としては、酸化インジウム、酸化スズ、酸化亜鉛、酸化アンチモン、又はこれらの混合物を使用可能である。また、透明な電極を得ることができる導電性酸化物として、スズをドープした酸化インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)を使用可能である。なお、この透明な電極はITOに限定されず、酸化スズ、酸化亜鉛、又はこれらの混合物を使用可能である。
【0035】
導電性樹脂としては、ポリアセチレン、ポリチオフェン、ポリアニリン、ポリピロール、ポリパラフェニレン、ポリパラフェニレンビニレン、ポリフルオレン、ポリチエニレンビニレン、ポリエチレンジオキシチオフェン、ポリアセン、又はこれらの混合物を使用可能である。
【0036】
導電性カーボン材料としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、導電性ダイヤモンド、導電性グラファイト、又はこれらの組合せを使用可能である。
【0037】
尚、基板10に導電性材料を使用する場合は、第1電極20を形成せずに、基板10自身を第1電極20として使用することも可能である。
【0038】
第1電極20の厚さは、例えば、20nm〜1μmの範囲にある。第2電極50の厚さは、例えば、20nm〜1μmの範囲にある。
【0039】
蓄電層30の断面図を
図2に示す。蓄電層30は、絶縁材料31とn型半導体粒子32との混合物で形成されている。言い換えれば、蓄電層30は、絶縁材料31と、絶縁材料31に埋め込まれたn型半導体粒子32とを含む。
【0040】
絶縁材料31は、n型半導体粒子32内に捕獲された電子の障壁として機能するため、n型半導体粒子32よりもバンドギャップの広い材料が望ましい。絶縁材料31としては、例えば、絶縁性樹脂、無機絶縁物、又はこれらの混合物を使用可能である。
【0041】
絶縁性樹脂としては、シリコーン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリイミド、エチルセルロース、酢酸セルロース、フェノール樹脂、アミノ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、アリル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ABS樹脂、ポリウレタン、ネオプレン、セルロイド、ポリビニルホルマール、シリコン樹脂、融解フッ素樹脂、又はこれらの混合物を使用可能である。絶縁性樹脂としては、シリコーンが望ましい。絶縁性樹脂は、熱可塑性樹脂であってもよいし、熱硬化性樹脂であってもよい。
【0042】
無機絶縁物としては、酸化物、窒化物、酸窒化物、鉱油、パラフィン、又はこれらの混合物を使用可能である。酸化物としては、酸化ケイ素(Si−O)、酸化マグネシウム(Mg−O)、酸化アルミニウム(Al−O)、酸化チタン(Ti−O)、酸化ガリウム(Ga−O)、酸化タンタル(Ta−O)、酸化ジルコニウム(Zr−O)、酸化ハフニウム(Hf−О)、酸化クロム(Cr−O)、これらの混合物などの金属酸化物を使用可能である。典型的には、金属酸化物として、二酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、又はこれらの混合物を使用可能である。窒化物としては、窒化ゲルマニウム(Ge−N)、窒化クロム(Cr−N)、窒化ケイ素(Si−N)、窒化アルミニウム(Al−N)、窒化ニオブ(Nb−N)、窒化モリブデン(Mo−N)、窒化チタン(Ti−N)、窒化ジルコニウム(Zr−N)、窒化タンタル(Ta−N)、これらの混合物などの金属窒化物を使用可能である。酸窒化物としては、窒化酸化ゲルマニウム(Ge−O−N)、窒化酸化クロム(Cr−O−N)、窒化酸化ケイ素(Si−O−N)、窒化酸化アルミニウム(Al−O−N)、窒化酸化ニオブ(Nb−O−N)、窒化酸化モリブデン(Mo−O−N)、窒化酸化チタン(Ti−O−N)、窒化酸化ジルコニウム(Zr−O−N)、窒化酸化タンタル(Ta−O−N)、これらの混合物などの金属酸窒化物を使用可能である。無機絶縁物としては、Si及びOを含むケイ素酸化物(例えば、酸化ケイ素(Si−O)、又は窒化酸化ケイ素(Si−O−N))を使用可能である。
【0043】
n型半導体粒子32は、(a)チタン、ニオブ及び酸素を含む材料と、(b)チタン、タンタル及び酸素を含む材料との少なくとも一方の材料を含む。詳細には、n型半導体粒子32は、チタンニオブ複合酸化物と、チタンタンタル複合酸化物との少なくとも一方の材料を含む。蓄電層30が充放電機能を発揮する限り、チタンニオブ複合酸化物における各元素の比率は特に限定されない。同様に、チタンタンタル複合酸化物における各元素の比率も特に限定されない。
【0044】
チタン、ニオブ及び酸素を含む材料(例えば、チタンニオブ複合酸化物)における、チタンの含有率、ニオブの含有率及び酸素の含有率の合計は、80原子%以上であるのが望ましい。チタン、タンタル及び酸素を含む材料(例えば、チタンタンタル複合酸化物)における、チタンの含有率、タンタルの含有率及び酸素の含有率の合計は、80原子%以上であるのが望ましい。
【0045】
チタンニオブ複合酸化物は、チタン、ニオブ及び酸素だけでなく、チタン、ニオブ、酸素及びM
1(M
1はタンタル、スズ及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つの元素)を含む材料であってもよい。チタンタンタル複合酸化物は、チタン、タンタル及び酸素だけでなく、チタン、タンタル、酸素及びM
2(M
2はニオブ、スズ及び亜鉛からなる群より選択される少なくとも1つの元素)を含む材料であってもよい。
【0046】
チタンニオブ複合酸化物は、実質的に、チタン、ニオブ及び酸素からなっていてもよい。言い換えれば、n型半導体粒子32は、実質的に、チタン、ニオブ及び酸素からなっていてもよい。チタンタンタル複合酸化物は、実質的に、チタン、タンタル及び酸素からなっていてもよい。言い換えれば、n型半導体粒子32は、実質的に、チタン、タンタル及び酸素からなっていてもよい。本明細書において、「実質的に・・・からなる」とは、材料の特性に大きな影響を与えない範囲(例えば、5原子%以下、1原子%以下又は0.1%以下)で他の成分が含まれていてもよいことを意味する。
【0047】
n型半導体粒子32にニオブ又はタンタルが少量でも含まれていると、蓄電素子100の充放電容量を高める効果がある。n型半導体粒子32におけるチタンとニオブとの重量比率(Ti:Nb)は、例えば、95:5〜5:95の範囲にある。より望ましい範囲の一つは、50:50〜30:70である。n型半導体粒子32におけるチタンとタンタルとの重量比率(Ti:Ta)は、例えば、95:5〜5:95の範囲にある。より望ましい範囲の一つは、50:50〜30:70である。
【0048】
蓄電層30の厚さは、例えば100nm〜10μmの範囲にある。
【0049】
蓄電層30に含まれたn型半導体粒子32の平均粒径は、1nm以上20nm以下が望ましい。望ましくは10nm以下、より望ましくは6nm以下である。n型半導体粒子32の平均粒径は、以下の方法で算出できる。まず、n型半導体粒子32を電子顕微鏡(SEM又はTEM)で観察する。得られた像における特定のn型半導体粒子32の面積Sを求め、以下の式により、当該n型半導体粒子32の粒径aを算出する(a=2×(S/3.14)
1/2)。任意の50個のn型半導体粒子32の粒径aを算出し、その平均値をn型半導体粒子32の1次粒子の平均粒径と定義する。
【0050】
n型半導体粒子32は、望ましくは微粒子である。n型半導体粒子32は、n型半導体の性質を示す。蓄電層30は、望ましくは、絶縁材料31のマトリクスにn型半導体粒子32が分散された構造を有する。
【0051】
蓄電層30における絶縁材料31とn型半導体粒子32との含有比率は特に限定されない。絶縁材料31と金属酸化物32との重量比率は、例えば、1:99〜99:1の範囲にある。
【0052】
p型半導体層40は、第2電極50からの電子の注入を防げる目的で形成されている。p型半導体層40の材料として、例えば、p型酸化物半導体の使用が可能である。p型酸化物半導体としては、ニッケル酸化物、銅酸化物、銅アルミニウム酸化物、スズ酸化物、又はこれらの混合物を含有する材料を使用可能である。p型半導体層40の厚さは、例えば、20nm〜1μmの範囲にある。
【0053】
蓄電層30とp型半導体層40は、第1電極10と第2電極50に挟み込まれていればよく、その積層順序は逆であってもよい。本実施形態では、蓄電層30が第1電極10に接している。p型半導体層40は、蓄電層30に接している。蓄電層30から見て第1電極10の反対側にp型半導体層40が配置されている。第2電極50は、p型半導体層40に接している。p型半導体層40から見て蓄電層30の反対側に第2電極50が配置されている。ただし、充放電動作を著しく損なわない範囲であれば、各層の間に適宜、中間層を介在させてもよい。
【0054】
蓄電素子100の充放電メカニズムは、次のように考えられる。蓄電素子100において、第2電極50を基準として、第1電極20にマイナス電圧を印加すると、第1電極20内から、電子が、n型半導体粒子32に移動する。移動した電子は、型半導体粒子32内に形成された電子捕獲準位に捕獲される。捕獲された電子は、p型半導体層40により、更なる移動が妨げられるため、n型半導体粒子32に捕獲される続けることになり、蓄電状態となる。この状態は、バイアス電圧の印加をやめても維持されることから、蓄電素子としての機能が発揮される。また、第1電極20と第2電極50に負荷を接続した場合、n型半導体粒子32内のエネルギー準位に捕獲されていた電子が負荷に流れる。これが放電状態である。この状態は、n型半導体粒子32内のエネルギー準位に捕獲された電子がなくなり、蓄電前の状態に戻るまで続く。以上が、本開示による蓄電素子の基本的な充放電の原理である。この現象を繰り返し行なうことで、二次電池及びキャパシタとして使用できる。
【0055】
本実施形態の蓄電素子の製造方法を説明する。
図3は、
図1に示す蓄電素子100の製造方法を示す工程図である。
【0056】
工程(a)では、基板10上に第1電極20を形成する。例えば、第1電極20に金属を使用する場合は、その形成方法として、スパッタリング法、真空蒸着法、パルスレーザー堆積法(PLD法)、化学気相蒸着法(CVD法)、電界メッキ法、原子層堆積法(ALD法)、サーマルスプレー法、コールドスプレー法、エアロゾルデポジション法などの方法により第1電極20を作製することができる。また、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法、レベルコート法、スプレーコート法などの塗布法によって第1電極20を形成することもできる。しかし、これらの方法に制限されるものではない。尚、基板10に導電性材料を使用する場合は、第1電極20を形成せずに、基板10自身を電極として使用することも可能である。
【0057】
次に、蓄電層30の形成方法について説明する。工程(b)では、有機酸チタン金属塩と、有機酸ニオブ金属塩と、絶縁材料とを溶媒に溶解し、塗布液を調製する。あるいは、有機酸チタン金属塩と、有機酸タンタル金属塩と、絶縁材料とを溶媒に溶解し、塗布液を調製する。これらの塗布液を混合して使用することも可能である。
【0058】
有機酸チタン金属塩、有機酸ニオブ金属塩又は有機酸タンタル金属塩(以下、「有機酸の金属塩」とも称する)を構成する有機酸としては、有機酸の金属塩を焼成することにより分解又は燃焼し、チタンニオブ複合酸化物、又はチタンタンタル複合酸化物を生成し得るものが挙げられる。有機酸としては、脂肪族酸及び芳香族酸を使用可能である。
【0059】
脂肪族酸としては、脂肪族カルボン酸を使用可能である。脂肪族カルボン酸としては、脂肪族モノカルボン酸及び脂肪族ポリカルボン酸を使用可能である。脂肪族ポリカルボン酸としては、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸、脂肪族テトラカルボン酸、又はこれらの組合せを使用可能である。脂肪族モノカルボン酸としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、ノナン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、バルチミン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、アクリル酸、ブテン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、リノレン酸、オレイン酸、リノール酸、アラキドン酸、ドコサヘキサエン酸、エイコサペンタエン酸、ピルビン酸、乳酸、又はこれらの組合せを使用可能である。これらのうち、高度不飽和脂肪酸が望ましい。高度不飽和脂肪酸は、4つ以上の不飽和結合を有する脂肪酸である。脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、リンゴ酸、又はこれらの組合せを使用可能である。脂肪族トリカルボン酸としては、クエン酸、又はこれらの組合せを使用可能である。脂肪族テトラカルボン酸としては、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸などを使用可能である。これらの脂肪族酸の金属塩を単独で使用してもよいし、複数の種類の脂肪族酸の金属塩の混合物を使用してもよい。
【0060】
芳香族酸としては、芳香族カルボン酸を使用可能である。芳香族カルボン酸としては、芳香族モノカルボン酸、芳香族ポリカルボン酸、又はこれらの混合物を使用可能である。芳香族ポリカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、芳香族トリカルボン酸、芳香族テトラカルボン酸、芳香族ヘキサカルボン酸、又はこれらの混合物を使用可能である。芳香族モノカルボン酸としては、安息香酸、サリチル酸、ケイ皮酸、没食子酸、又はこれらの混合物を使用可能である。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸を使用可能である。芳香族トリカルボン酸としては、トリメリット酸を使用可能である。芳香族テトラカルボン酸としては、ピロメリット酸を使用可能である。芳香族ヘキサカルボン酸としては、メリト酸を使用可能である。これらの芳香族酸の金属塩を単独で使用してもよいし、複数の種類の芳香族酸の金属塩の混合物を使用してもよい。
【0061】
溶媒としては、有機酸の金属塩と絶縁材料31とを溶解できるものを使用可能である。例えば、炭化水素系溶媒、アルコール系溶媒、エステル系溶媒、エーテル系溶媒、ケトン系溶媒、又はこれらの混合物を使用可能である。溶媒として、具体的には、エタノール、キシレン、ブタノール、アセチルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、又はこれらの混合物を使用可能である。
【0062】
工程(c)では、塗布液を、第1電極20上に塗布する。塗布方法としては、スピンコート法、スプレーコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、ダイコート法、ブレードコート法、インクジェット法などを使用可能である。
【0063】
工程(d)では、第1電極20の上に形成された塗布膜から溶媒が適度に除去されるように、塗布膜を乾燥させる。塗布膜は、室温で自然乾燥させてもよいし、室温よりも高い温度に加熱して乾燥させてもよい。なお、塗布膜中の溶媒の揮発性が高い場合には、工程(d)は省略することも可能である。
【0064】
工程(e)では、塗布膜の焼成を行なう。焼成により、塗布膜に含まれた有機酸の金属塩が分解又は燃焼し、絶縁材料31の層とn型半導体粒子32が生成する。詳細には、絶縁材料31と、絶縁材料31中に分散されたn型半導体粒子32の粒子とが形成される。焼成は、例えば300〜500℃の温度で10分〜1時間程度行う。
【0065】
工程(f)では、蓄電層30内に電子捕獲準位を形成するため、塗布膜に光を照射する。照射光としては、光子エネルギーの高い、紫外線などの使用が可能である。紫外線の照射装置としては、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、又はメタルハライドランプを用いてもよい。紫外線照射により、蓄電層に新たな電子捕獲準位を形成するためには、例えば、照射波長を254nmに設定した場合、照射強度は20mW/cm
2以上、照射時間は5分間以上に設定する。紫外線の照射条件は、照射波長254nm、照射強度100mW/cm
2、照射時間12時間以下であってもよい。工程(f)により、蓄電層30内への電子の捕獲、すなわち、蓄電が可能になる。
【0066】
工程(g)では、蓄電層30上にp型半導体層40を形成する。その形成方法としては、スパッタリング法、イオンプレーティング法、電子ビーム蒸着法、真空蒸着法、化学蒸着法、化学的気相法、又は塗布法を使用可能である。
【0067】
工程(h)では、p型半導体層40上に第2電極50を形成する。第2電極50の形成方法としては、上記の第1電極20の形成方法と同様の方法を使用可能である。
【0068】
以上の工程を経て、
図1及び
図2を参照して説明した蓄電素子100が得られる。また
図1に示す例では、蓄電素子100は、基板10上に、第1電極20、蓄電層30、p型半導体層40、第2電極50が順に積層して配置しているが、その逆の順に積層して配置してもよい。つまり、基板10上に、第2電極50、p型半導体層40、蓄電層30、第1電極20が順に積層して配置してもよい。
【0069】
さらに、本開示の蓄電素子100の形状は、後述の実施例で示すように、例えば、矩形である。ただし、蓄電素子の形状は矩形に限定されるものではなく、円形、楕円形などの他の形状であってもよい。また、基板の表側と裏側の両面に本開示の蓄電素子を形成することもできる。さらには、本開示の蓄電素子を厚み方向に積層した構成にすることで、高容量化することもできる。また、折り畳み式、巻き取り式などにすることで、使用する形状及び用途に応じて様々な形状を選定することができ、外観としては円筒型、角型、ボタン型、コイン型又は扁平型などの所望の形状をとることができる。なお、蓄電素子の形状は、上記の形状に限定されるものではない。
【実施例】
【0070】
本開示を実施例に基づき、具体的に説明する。ただし、本開示は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0071】
<実施例1>
基板として、1辺3cmの正方形の表面を有し、厚さ0.4mmであるステンレス基板を用いて、蓄電素子を作製した。第1電極層は形成せず、ステンレス基板を電極として兼ねた。蓄電層には、絶縁材料としてシリコーンを、n型半導体粒子として、チタンニオブ複合酸化物を用いた。蓄電層の製造方法について、以下に詳細を説明する。まず、ヘプタン酸チタン塩、ヘプタン酸ニオブ塩、及びシリコーンオイルを溶媒であるキシレンに混合して撹拌し、塗布液を作製した。塗布液中のチタンとニオブの重量比は40:60であった。次に、スピンコーターを用意し、基板を回転させながら、塗布液を塗布し、塗布膜を形成した。このときの回転数は1200rpmに設定した。次に、上記塗布膜を50℃で10分間程度放置し、乾燥した。その後、上記塗布膜を420℃で10分間焼成した。これらの工程により、ヘプタン酸チタン塩及びヘプタン酸ニオブ塩が分解し、シリコーン絶縁膜に分散されたチタンニオブ複合酸化物粒子が形成された。尚、上記条件で作製された塗布膜の膜厚は約1μmであった。次に、メタルハライドランプを使用して、塗布膜に紫外線を照射した。紫外線照射波長254nmにおける照射強度は130mW、照射時間は90分間に設定した。以上が、蓄電層の製造方法である。
【0072】
次に、蓄電層の上に、p型半導体層として、酸化ニッケル膜をスパッタリング法により形成した。このときの酸化ニッケル膜の厚みは100nmであった。最後に、第2電極として、アルミニウム膜をスパッタリング法により形成した。アルミニウム膜の膜厚は300nmであった。
【0073】
<実施例2>
基板には、導電性金属であるステンレス鋼を用いた。この基板は、1辺3cmの正方形の表面を有し、0.4mmの厚さを有していた。ステンレス鋼は、第1電極の機能を代用できるため、第1電極の形成は省いた。蓄電層には、絶縁材料としてシリコーンを、n型半導体粒子として、チタンニオブ複合酸化物を用いた。蓄電層の製造方法について、以下に詳細を説明する。まず、ヘプタン酸チタン塩、ヘプタン酸ニオブ塩及びシリコーンオイルを溶媒であるキシレンに混合して撹拌し、塗布液を作製した。次に、スピンコーターを用意し、基板を回転させながら、塗布液を塗布し、塗布膜を形成した。このときの回転数は1200rpmに設定した。次に、上記塗布膜を50℃で10分間程度放置し、乾燥した。その後、上記塗布膜を500℃で60分間焼成した。これらの工程により、ヘプタン酸チタン塩及びヘプタン酸ニオブ塩が分解し、シリコーン絶縁膜中に分散されたチタンニオブ複合酸化物の粒子(n型半導体粒子)が生成した。尚、上記条件で作製された塗布膜の膜厚は約1μmであった。次に、メタルハライドランプを使用して、塗布膜に紫外線を照射した。このとき、紫外線照射波長254nmにおける照射強度は70mW、照射時間は120分間に設定した。以上が、蓄電層の製造方法である。
【0074】
次に、酸化ニッケルを用いたスパッタ法により、蓄電層上にp型半導体層を形成した。p型半導体層の厚さは300nmであった。最後に、タングステンを用いたスパッタ法により、p型半導体層上に第2電極を形成した。第2電極の厚さは150nmであった。
【0075】
尚、上記塗布液を作製する際、ヘプタン酸チタン塩とヘプタン酸ニオブ塩の重量比が、40:60、60:40、80:20になるように混合比を変化させ、3種類の塗布液を用意した。これらの塗布液を用いて3種類の蓄電素子を作製した。
【0076】
<実施例3>
ヘプタン酸ニオブ塩に代えてヘプタン酸タンタル塩を使用したことを除き、実施例2と同様の材料及び方法で、実施例3の蓄電素子を作製した。塗布液中のチタンとタンタルの重量比は80:20であった。焼成工程を行うことによって、シリコーン絶縁膜中に分散されたチタンタンタル複合酸化物粒子(n型半導体粒子)が生成した。
【0077】
<比較例1>
ヘプタン酸ニオブ塩を使用しないことを除き、実施例1と同様の材料及び方法で、比較例1の蓄電素子を作製した。
【0078】
<比較例2>
ヘプタン酸ニオブ塩を使用しないことを除き、実施例2と同様の材料及び方法で、比較例2の蓄電素子を作製した。
【0079】
[放電容量の測定]
実施例1及び比較例1の蓄電素子について、以下の方法で放電特性を評価した。まず、蓄電素子の第1電極に、あらかじめマイナス2Vの電圧を5分間印加し、蓄電を行なった。その後、50nAの定電流を流すことで放電を行なった。次に、放電時に流れた電流量に、放電時間、すなわち、放電時の電圧がゼロになるまでの時間を掛け合せた値を放電容量(nAh)と定義し、各蓄電素子の放電容量を算出した。また、放電時に流れた電流量と放電時の電圧を掛け合せた値に、放電時間、すなわち、放電時の電圧がゼロになるまでの時間を掛け合せた値を放電容量(μWh)と定義し、各蓄電素子の放電容量を算出した。放電容量が大きいほど、放電特性に優れることを意味する。表1に、放電容量の測定結果を示す。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示すように、実施例1の蓄電素子は、比較例1の蓄電素子よりも大きい放電容量を有していた。すなわち、蓄電層の材料として、チタンニオブ複合酸化物を使用することによって、従来の蓄電素子(蓄電層に二酸化チタンを使用した蓄電素子)と比較して、放電特性を向上させることができた。
【0082】
図4は、実施例1及び比較例1の蓄電素子の放電時の電圧の時間変化を示すグラフである。放電時において、比較例1の蓄電素子の電圧は急速に低下した。これに対し、実施例1の蓄電素子の電圧は、比較例1の蓄電素子よりも緩やかに低下した。
【0083】
実施例2、3及び比較例2の蓄電素子について、以下の方法で放電特性を評価した。まず、形成された蓄電素子の第1電極に、あらかじめマイナス2Vの電圧を5分間印加し、蓄電を行なった。その後、50μAの定電流を流すことで放電を行なった。表2に、放電容量の測定結果を示す。
【0084】
【表2】
【0085】
表2に示すように、実施例2及び3の蓄電素子は、比較例2の蓄電素子よりも大きい放電容量を有していた。すなわち、蓄電層の材料として、チタンニオブ複合酸化物、又はチタンタンタル複合酸化物を使用することによって、従来の蓄電素子(蓄電層に二酸化チタンを使用した蓄電素子)と比較して、放電特性を向上させることができた。