特許第6443816号(P6443816)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ パナソニックIPマネジメント株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6443816-アルカリ乾電池 図000011
  • 特許6443816-アルカリ乾電池 図000012
  • 特許6443816-アルカリ乾電池 図000013
  • 特許6443816-アルカリ乾電池 図000014
  • 特許6443816-アルカリ乾電池 図000015
  • 特許6443816-アルカリ乾電池 図000016
  • 特許6443816-アルカリ乾電池 図000017
  • 特許6443816-アルカリ乾電池 図000018
  • 特許6443816-アルカリ乾電池 図000019
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443816
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】アルカリ乾電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 6/08 20060101AFI20181217BHJP
   H01M 2/02 20060101ALI20181217BHJP
   H01M 4/06 20060101ALI20181217BHJP
   H01M 4/50 20100101ALI20181217BHJP
【FI】
   H01M6/08 A
   H01M2/02 E
   H01M4/06 E
   H01M4/50
【請求項の数】6
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2017-559945(P2017-559945)
(86)(22)【出願日】2016年10月14日
(86)【国際出願番号】JP2016004580
(87)【国際公開番号】WO2017119018
(87)【国際公開日】20170713
【審査請求日】2018年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2016-3018(P2016-3018)
(32)【優先日】2016年1月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314012076
【氏名又は名称】パナソニックIPマネジメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002745
【氏名又は名称】特許業務法人河崎・橋本特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大和 賢治
【審査官】 立木 林
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−138668(JP,A)
【文献】 特開2013−114978(JP,A)
【文献】 特開2014−127362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 6/08
H01M 4/00−4/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
有底円筒形の電池ケースと、
前記電池ケースに充填され、かつn個の中空円筒形のペレットで構成された正極と、
前記ペレットの中空部内に配された負極と、
前記正極と前記負極との間に配されたセパレータと、
アルカリ電解液と、を備え、
前記正極は、二酸化マンガンおよび導電剤を含み、
nは1以上の整数であり、
前記正極における二酸化マンガンの平均密度は、2.80〜3.00g/cm3であり、
前記正極の高さ方向の中央部における二酸化マンガンの密度dcは、前記正極の高さ方向の両方の端部のそれぞれにおける二酸化マンガンの密度の平均値deの98%以下である、アルカリ乾電池。
【請求項2】
前記密度dcは、前記密度の平均値deの75%以上である、請求項1に記載のアルカリ乾電池。
【請求項3】
有底円筒形の電池ケースと、
前記電池ケースに充填され、かつn個の中空円筒形のペレットで構成された正極と、
前記ペレットの中空部内に配された負極と、
前記正極と前記負極との間に配されたセパレータと、
アルカリ電解液と、を備え、
前記正極は、二酸化マンガンおよび導電剤を含み、
nは1以上の整数であり、
前記正極における二酸化マンガンの平均密度は、2.80〜3.00g/cm3であり、
前記正極の高さ方向の中央部における前記正極の表面硬度Hcは、前記正極の高さ方向の両方の端部のそれぞれにおける前記正極の表面硬度の平均値Heの48%以下である、
アルカリ乾電池。
【請求項4】
前記表面硬度Hcは、前記表面硬度の平均値Heの7%以上である、請求項3に記載のアルカリ乾電池。
【請求項5】
前記電池ケースの胴体部の厚みは、0.08〜0.20mmである、請求項1〜4のいずれか1項に記載のアルカリ乾電池。
【請求項6】
nは、1〜8の整数である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のアルカリ乾電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ乾電池における正極の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
アルカリ乾電池(アルカリマンガン乾電池)は、容量が大きく、大きな電流を取り出すことができるため、広く利用されている。アルカリ乾電池の正極は、正極活物質である二酸化マンガン粉末と導電剤である黒鉛粉末とを含むペレットで構成されている。高容量化の観点からは、正極における二酸化マンガンの密度を高めることが有利であると考えられる。しかし、放電時には、二酸化マンガンが膨張することで、正極全体が膨張する。
【0003】
特許文献1では、高容量を確保しながら、放電後の電池の外径寸法の増大を抑制するために、正極材料中の黒鉛密度を調整することが提案されている。特許文献1では、黒鉛密度を特定の範囲とすることで、二酸化マンガンの膨張による応力を分散させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−158257号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
アルカリ乾電池では、高容量化の観点から、正極における二酸化マンガン密度を高めると、放電時の正極の膨張が顕著になる。電池の高さ方向における中央付近(または高さ方向の両端部以外の領域)では、正極の膨張が特に顕著となり、電池の外径が増大することがある。
【0006】
本開示の目的は、アルカリ乾電池において、高容量を確保しながらも、電池外径の増大を抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一局面は、有底円筒形の電池ケースと、
電池ケースに充填され、かつn個の中空円筒形のペレットで構成された正極と、
ペレットの中空部内に配された負極と、
正極と負極との間に配されたセパレータと、
アルカリ電解液と、を備え、
正極は、二酸化マンガンおよび導電剤を含み、
nは1以上の整数であり、
正極における二酸化マンガンの平均密度は、2.80〜3.00g/cm3であり、
正極の高さ方向の中央部における二酸化マンガンの密度dcは、正極の高さ方向の両方の端部のそれぞれにおける二酸化マンガンの密度の平均値deの98%以下である、アルカリ乾電池に関する。
【0008】
本開示の他の局面は、有底円筒形の電池ケースと、
電池ケースに充填され、かつn個の中空円筒形のペレットで構成された正極と、
ペレットの中空部内に配された負極と、
正極と負極との間に配されたセパレータと、
アルカリ電解液と、を備え、
正極は、二酸化マンガンおよび導電剤を含み、
nは1以上の整数であり、
正極における二酸化マンガンの平均密度は、2.80〜3.00g/cm3であり、
正極の高さ方向の中央部における正極の表面硬度Hcは、正極の高さ方向の両方の端部のそれぞれにおける正極の表面硬度の平均値Heの48%以下である、アルカリ乾電池に関する。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係るアルカリ乾電池では、高容量を確保できるとともに、電池外径の増大を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本発明の第1実施形態に係るアルカリ乾電池を概略的に示す縦断面図である。
図2図2は、図1のアルカリ乾電池に含まれる正極を模式的に示す概略縦断面図である。
図3図3は、表面硬度の測定位置がペレット間の界面に相当する場合の表面硬度の実際の測定位置を説明するための概略縦断面図である。
図4図4は、本発明の第2実施形態に係るアルカリ乾電池に含まれる正極を模式的に示す概略縦断面図である。
図5図5は、本発明の第3実施形態に係るアルカリ乾電池に含まれる正極を模式的に示す概略縦断面図である。
図6図6は、本発明の第4実施形態に係るアルカリ乾電池に含まれる正極を模式的に示す概略縦断面図である。
図7図7は、正極のペレットの作製方法を説明するための断面模式図である。
図8図8は、実施例における成形後のペレットの表面硬度の測定位置を説明するための概略縦断面図である。
図9図9は、正極のペレットにおける表面硬度と二酸化マンガンの密度との相関関係の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[アルカリ乾電池]
本開示に係るアルカリ乾電池は、有底円筒形の電池ケースと、電池ケースに充填され、かつn個の中空円筒形のペレットで構成された正極と、ペレットの中空部内に配された負極と、正極と負極との間に配されたセパレータと、アルカリ電解液と、を備える。正極は、二酸化マンガンおよび導電剤を含み、nは1以上の整数であり、正極における二酸化マンガンの平均密度は、2.80〜3.00g/cm3である。正極は、下記の(1)および/または(2)を充足する。
【0012】
(1)正極の高さ方向の中央部における二酸化マンガンの密度dcは、正極の高さ方向の両方の端部のそれぞれにおける二酸化マンガンの密度の平均値deの98%以下である。
【0013】
(2)正極の高さ方向の中央部における正極の表面硬度Hcは、正極の高さ方向の両方の端部のそれぞれにおける正極の表面硬度の平均値Heの48%以下である。
【0014】
アルカリ乾電池を高容量化するには、一般に、正極活物質である二酸化マンガンの、正極における密度を高めることが有効である。しかし、正極における二酸化マンガン密度を高めると、放電時の正極の膨張が顕著になり、電池の外径が増大する。正極の膨張は、電池の高さ方向の中央部において特に顕著である。この理由として、電池の両端においては缶底および封口により、電池ケースの外周方向への変形に対する拘束力が生じるが、電池中央部へ向かうに従い拘束力が弱まることで電池ケースが外周方向へ変形し易くなるためである。電池の外径が増大すると、機器の電池ホルダーや電池ボックスで電池が詰まったり、電池が外れなくなったりする。
【0015】
本開示は、上記のように、正極における二酸化マンガンの平均密度が2.80〜3.00g/cm3と高密度であるアルカリ乾電池を対象とする。一般に、このようなアルカリ乾電池は、高容量であるが、正極の膨張が大きくなり易い。しかし、本開示では、正極の高さ方向の中央部と両方の端部における二酸化マンガン密度の平均値deを上記(1)のようにする。そのため、この密度の違いにより、正極が高さ方向の中央部において大きく膨張しても、膨張に伴う応力を吸収することができる。また、本開示では、正極の高さ方向の中央部と両方の端部における正極の表面硬度の平均値Heを上記(2)のようにする。正極において、二酸マンガン密度が高い領域の表面硬度は高くなる傾向がある。よって、正極の高さ方向の中央部と両方の端部における表面硬度との違いにより、正極が中央部において膨張しても、膨張に伴う応力を吸収することができる。
【0016】
なお、正極が複数のペレットを含む場合には、意図的にペレット間に隙間を形成せずに電池ケースに充填する。より具体的には、電池内で、隣接するペレット間の対向する端面同士が接触した状態となるように電池ケースにペレットを充填する。
【0017】
このように、本開示では、二酸化マンガン密度や表面硬度の分布状態に違いを設けることで、電池が高容量であるにも拘わらず、正極の外径が大きくなることを抑制できる。正極は、上記(1)および(2)のいずれか一方を充足すればよく、(1)および(2)の双方を充足してもよい。
【0018】
以下に、本開示に係るアルカリ乾電池の構成、ペレットにおける表面硬度の測定手順および二酸化マンガン密度の算出手順について、図面を参照しながら説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。また、本発明の効果を奏する範囲を逸脱しない範囲で、適宜変更が可能である。さらに、他の実施形態との組み合わせも可能である。
【0019】
図1は、本発明に係るアルカリ乾電池(第1実施形態)の横半分を断面とする正面図である。図2は、図1のアルカリ乾電池に含まれる正極2を模式的に示す概略縦断面図である。
【0020】
図1および図2に示すように、アルカリ乾電池は、中空円筒形の正極2と、正極2の中空部内に配された負極3と、これらの間に配されたセパレータ4と、アルカリ電解液(図示せず)とを含み、これらが、正極端子を兼ねた有底円筒形の電池ケース1内に収容されている。正極2は、電池ケース1に充填され、正極2の中空部内には、セパレータ4を介して、ゲル状の負極3が充填されている。図示例では、正極2は、中空部11を有する中空円筒形の2つのペレット2aのスタックで構成されている。図2に示すように、2つのペレット2aは、ほぼ同じ大きさ(または高さ)になるように作製されている。
【0021】
セパレータ4は、有底円筒形であり、正極2の中空部の内面に配され、正極2と負極3とを隔離するとともに、負極3と電池ケース1とを隔離している。正極2は、二酸化マンガンおよび導電剤を含む。負極3は、亜鉛を含む負極活物質に加え、通常、アルカリ電解液とゲル化剤とを含む。
【0022】
電池ケース1の開口部は、封口ユニット9により封口されている。封口ユニット9は、ガスケット5、負極端子を兼ねる負極端子板7、および負極集電体6からなる。負極集電体6は負極3内に挿入されている。負極集電体6は、頭部と胴部とを有する釘状の形態を有しており、胴部はガスケット5の中央筒部に設けられた貫通孔に挿入され、負極集電体6の頭部は負極端子板7の中央部の平坦部に溶接されている。電池ケース1の開口端部は、ガスケット5の外周端部を介して負極端子板7の周縁部の鍔部にかしめつけられている。電池ケース1の外表面には外装ラベル8が被覆されている。
【0023】
以下に、正極高さ方向における表面硬度分布および密度分布の測定方法について具体的に説明する。
【0024】
図2に示すように、正極2の上端面および下端面から高さh0の位置を、それぞれ、P1およびP10とし、P1からP10までの高さ(もしくは距離)h1を、P1側からP10側に向かって、P2〜P9の位置で区切り、高さhを有するブロックb1〜b9に9等分する。なお、高さh0は、0.5〜1mmとすることができる。電池の正極端子は、正極2の下端面側に位置する。
【0025】
表面硬度は、P1〜P10の各位置で測定する。正極2の両方の端部e1およびe2における表面硬度He1およびHe2は、それぞれ、P1およびP10の位置で測定した表面硬度H1およびH10とする。そして、表面硬度He1およびHe2を平均化することにより、正極の両方の端部における表面硬度の平均値Heを求めることができる。また、正極2の高さ方向の中央部cにおける表面硬度Hcは、中央部cに位置するブロックb5の高さ方向の両端P5およびP6において、表面硬度H5およびH6を測定し、平均化することにより求めることができる。なお、正極2の表面硬度は、電池から取り出した後、水洗し、乾燥させた円筒状の正極2について測定できる。表面硬度の測定位置は、正極2の高さ方向におけるP1〜P10のそれぞれにおいて、かつ正極2の周面の任意の位置(ポイント)とすることができる。ただし、例えば、図3に示すように、表面硬度を測定する位置(図示例では、P5)が、隣接するペレット間の界面に相当する場合には、この界面から高さ方向で上側と下側へ僅かに(高さh2)ずらした位置の2点(P5-1およびP5-2の位置)で表面硬度を測定し、これらの値の平均値を界面箇所(P5)の表面硬度とすればよい。表面硬度の実際の測定位置と界面との間の距離(高さh2)は、例えば、0.5〜1mmである。
【0026】
なお、本明細書における表面硬度とは、例えば、ビッカーズ硬度(HV)であり、JIS Z2244に準拠して測定することができる。表面硬度は、測定サンプルの二酸化マンガン密度にもよるが、例えば、試験力0.5〜5N、および保持時間10〜20秒の条件下で測定することができる。また、このような方法で測定される表面硬度に特に限定されず、例えば、微小圧縮試験を用いて、微小荷重が加わった際の変位量により求められる表面硬度を採用してもよい。
【0027】
正極2における二酸化マンガン密度は、b1〜b9のブロック毎に、表面硬度から求めることができる。二酸化マンガン密度をより正確に算出するために、各ブロックの両端部で測定した表面硬度を平均化し、この平均値を用いて二酸化マンガン密度を算出する。二酸化マンガン密度の算出に使用される表面硬度の値は、具体的には次のようにして求めることができる。正極2の中央部に位置するブロックb5では、表面硬度H5およびH6の平均値(表面硬度Hc)をブロックb5の二酸化マンガン密度(ρ5)の算出に使用する。ブロックb2〜b4およびb6〜b8の各ブロックについても、ブロックb5の場合に準じて算出した表面硬度の平均値を二酸化マンガン密度(ρ2〜ρ4およびρ6〜ρ8のそれぞれ)の算出に使用できる。正極2の両方の端部については、正極2の上端部e1に位置するブロックb1の高さ方向の両端P1およびP2で測定した表面硬度H1およびH2の平均値Hb1を算出するとともに、下端部e2に位置するブロックb9の高さ方向の両端P9およびP10で測定した表面硬度H9およびH10の平均値Hb9を算出する。そして、Hb1およびHb9の平均値を、両方の端部における二酸化マンガン密度の算出に使用する。
【0028】
以下に、表面硬度の平均値から二酸化マンガン密度を算出する具体的な手順について説明する。
【0029】
前述のように、二酸化マンガン密度が高い領域の表面硬度は高くなる傾向があり、ペレットの各ブロックにおける表面硬度と、各ブロックにおける二酸化マンガンの密度とは線形の相関がある。図9に、正極のペレットにおける表面硬度Hと二酸化マンガン密度dとの相関関係を示す。
【0030】
図9のグラフは、複数のサンプルペレットについて測定した表面硬度と、二酸化マンガン密度との関係をプロットしたものである。複数のサンプルペレットは、所定の原料組成の正極合剤を用い、正極合剤の充填量および/または圧縮条件を変えて作製した。サンプルペレット内の密度ができるだけ均一となるように、体積が小さな(具体的には、円筒形で、高さ3.00mm、外径13.60mm、内径8.89mmのサイズの)サンプルペレットを作製する。二酸化マンガン密度は、サンプルペレットの質量および原料組成からペレットに含まれる二酸化マンガンの質量を求め、この質量をペレットの体積で除することにより求められる。正極合剤としては、二酸化マンガン粉末(二酸化マンガンの純度:92%)と、黒鉛粉末と、結着剤と、所定量の電解液とを含む顆粒を用いた。ここで、二酸化マンガン粉末と黒鉛粉末との質量比は、95:5であり、結着剤は、二酸化マンガン粉末に対して0.2質量%の割合である。
【0031】
図9のプロットの近似直線の式(1)は、H=71.657d−192.82(式中、Hは表面硬度であり、dは二酸化マンガンの密度である。)で表される。式(1)を利用して、各ブロックまたは両方の端部における表面硬度の平均値から各ブロックの二酸化マンガンの密度または両方の端部における二酸化マンガン密度の平均値を求めることができる。より具体的には、各ブロックの二酸化マンガン密度は、このブロックの表面硬度の平均値を、式(1)の表面硬度Hに代入することにより、密度dとして求めることができる。例えば、中央部のブロックb5における二酸化マンガン密度ρ5(dc)は、表面硬度Hcを、式(1)のHに代入することにより、密度dとして求めることができる。両端部のブロックの二酸化マンガン密度の平均値deは、両端のブロックの表面硬度の平均値Heを、式(1)の表面硬度Hに代入することにより、密度dとして求めることができる。
【0032】
表面硬度と二酸化マンガン密度との関係式は、ペレットの原料組成などに応じて変化するが、各電池の正極について、式(1)の場合の上記手順に準じて関係式を求めれば、式(1)の場合と同様に、表面硬度から二酸化マンガン密度を一義的に求めることができる。
【0033】
ペレットにおける二酸化マンガンの平均密度は、ペレットに含まれる二酸化マンガンの質量を、ペレットの体積で除することにより求めることができる。ペレットに含まれる二酸化マンガンの質量は、電池からペレットを取り出し、ペレットを酸で十分に溶解させた後、不溶分を除去して溶液を回収し、高周波誘導結合プラズマ発光分光法(ICP発光分析法)により、溶液中に含まれるMnの含有量を求め、MnO2量に換算することにより求めることができる。ペレットの体積は、例えば、電池をX線画像において、ペレットの外径、内径、および高さを計測し、これらの値から算出できる。
【0034】
ペレットの体積は、アルカリ電解液をペレットに浸透させたり、電池を放電したりすることで変化する。そのため、電池におけるn個のペレットの二酸化マンガンの平均密度は、例えば、初期状態のアルカリ乾電池について求めればよい。なお、初期状態のアルカリ乾電池とは、例えば、電池の組み立て後(または組み立てた電池をエージングした後)で、かつ初回放電前のアルカリ乾電池である。
【0035】
本発明では、正極の高さ方向における中央部c(ブロックb5)の二酸化マンガン密度dc(ρ5)が、両端部e1およびe2(ブロックb1およびb9)のそれぞれにおける二酸化マンガンの密度の平均値de(ρ1とρ9の平均値)の98%以下になるようにする。もしくは、中央部c(ブロックb5)の表面硬度Hc(H5とH6の平均値)が、両端部(P1およびP10)の表面硬度の平均値He(H1とH10の平均値)の48%以下になるようにする。これにより、正極の中央部の膨張を抑制して、電池の外径が増大するのを抑制できる。
【0036】
正極の高さ方向において、中央部と両端部とで、二酸化マンガン密度や表面硬度を上記のような関係とするためには、ペレットにおける二酸化マンガン密度の分布状態を不均一にすることが好ましい。図2では、ペレット2aにおける二酸化マンガンの密度の分布状態を、模式的に色の濃淡により示している。ペレット2aは、高さ方向(円筒形の軸方向)の一方の端部側で色が濃く(つまり、二酸化マンガンの密度が高く)、他方の端部側で色が薄く(つまり、二酸化マンガンの密度が低く)なっている。2つのペレット2aを、二酸化マンガンの密度が低い側の端部が接触するように配することで、正極の高さ方向の両端部e1およびe2側で二酸化マンガンの密度が高く、中央部cで二酸化マンガンの密度が低くなる。また、両端部e1およびe2側の表面硬度が高く、中央部cで表面硬度が低くなる。
【0037】
図4は、本発明の第2実施形態に係るアルカリ乾電池に含まれる正極を模式的に示す概略縦断面図である。図4は、正極12を構成するペレットの個数が異なり、ペレットにおける二酸化マンガンの密度の分布状態が異なるだけでその他は図2と同じである。
【0038】
図4において、正極12は、1つのペレット12aで構成されている(n=1)。ペレット12aは中空部11を有する中空円筒形である。図4でも、ペレット12aにおける二酸化マンガンの密度分布を色の濃淡で示している。ペレット12aは、高さhを有する中央部c側では色が薄く(つまり、二酸化マンガンの密度が低く)、両端部e1およびe2側では色が濃く(つまり、二酸化マンガンの密度が高く)なっている。
【0039】
図5は、本発明の第3実施形態に係るアルカリ乾電池に含まれる正極を模式的に示す概略縦断面図である。図5は、正極22を構成するペレットの個数が異なり、各ペレットにおける二酸化マンガンの密度の分布状態が異なるだけでその他は図2と同じである。
【0040】
図5では、正極22は、中空部11を有する中空円筒形のペレット22aと、このペレット22aを挟む2つのペレット22bとの合計3個のペレットのスタックで構成されている。ペレット22bも中空部11を有する中空円筒形である。正極22の中央に位置するペレット22aは、高さ方向(円筒形の軸方向)の中心側において色が薄く(二酸化マンガン密度が低く)なっており、両端側において色が濃く(二酸化マンガン密度が高く)なっている。ペレット22aを挟む2つのペレット22bでは、一方の端部側で色が濃く(二酸化マンガン密度が高く)、他方の端部側で色が薄く(二酸化マンガン密度が低く)なっている。そのため、2つのペレット22bの二酸化マンガン密度が低い側の端面が、それぞれペレット22aの端面と接触するように縦方向に並べることで、正極の高さ方向の中央部cにおいて二酸化マンガン密度が低く、両端部e1およびe2において二酸化マンガン密度を高くすることができる。また、それぞれのペレット22bのペレット22a側では、二酸化マンガン密度が低い領域が存在するため、この領域でも、正極の膨張による応力を緩和させることができる。
【0041】
図6は、本発明の第4実施形態に係るアルカリ乾電池に含まれる正極を模式的に示す概略縦断面図である。図6は、正極32を構成するペレットの個数が異なり、正極32における二酸化マンガン密度の分布状態が異なるだけでその他は図2と同じである。
【0042】
図6において、正極32は、4つのペレット32aのスタックで構成されている(n=4)。ペレット32aは、いずれも、中空部11を有する中空円筒形である。各ペレット32aの一方の端部側では色が濃く(二酸化マンガン密度が高く)、他方の端部側では色が薄く(二酸化マンガン密度が低く)なっている。4つのペレット32aは、ペレットの高さ方向(円筒形の軸方向)の端面同士が接するように、縦に並んで正極32を構成している。正極32の高さ方向の中心側に位置する2つのペレット32aは、色が薄い(二酸化マンガン密度が低い)側の端面が互いに接触するように配されており、これらの2つのペレット32a間の境界が、正極32の高さ方向の中心となっている。正極32の高さ方向の端部側に位置する2つのペレット32aは、色が薄い(二酸化マンガン密度が低い)側の端面が、中心側に位置するペレット32aの色が濃い(二酸化マンガン密度が高い)側の端面と接触するように配されている。4つのペレットをこのように並べて配することで、正極32の高さ方向の中央部cにおいて二酸化マンガン密度が低く、両端部e1およびe2において二酸化マンガン密度を高くすることができる。また、正極の両端部側のペレット32aの中心部側では、二酸化マンガン密度が低い領域が存在するため、この領域でも、正極の膨張による応力を緩和させることができる。
【0043】
以下、アルカリ蓄電池の詳細について説明する。
【0044】
(正極)
正極は、n個の中空円筒形のペレットで構成されており、有底円筒形の電池ケース内に充填されている。正極は、正極活物質として二酸化マンガンを含む。本発明では、正極に含まれるn個のペレットにおいて、二酸化マンガンの平均密度は、2.80〜3.00g/cm3であり、2.90〜3.00g/cm3としてもよい。このように高密度であっても、本発明では、正極の高さ方向の中央部における二酸化マンガン密度(および/または表面硬度)を、両端部における二酸化マンガン(および/または表面硬度)の所定割合以下とすることで、正極の膨張を抑制して、電池の外径の増大を抑制できる。
【0045】
nは、1以上の整数であり、1〜8の整数であることが好ましく、1〜6の整数であることがさらに好ましい。nがこのような範囲である場合、二酸化マンガン密度や表面硬度の分布を調節し易い。
【0046】
正極の高さ方向の中央部における二酸化マンガン密度dcは、両端部のそれぞれにおける二酸化マンガン密度の平均値deの98%以下であり、96%以下であってもよい。成形時のペレットの割れや欠けを抑制する観点から、酸化マンガン密度dcは、二酸化マンガン密度の平均値deの、75%以上であることが好ましく、80%以上であってもよい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。酸化マンガン密度dcは、二酸化マンガン密度の平均値deの、75〜98%、80〜98%または75〜96%であってもよい。
【0047】
正極の高さ方向の中央部における正極の表面硬度Hcは、正極の高さ方向の両端部のそれぞれにおける正極の表面硬度の平均値Heの48%以下であり、36%以下であってもよい。成形時のペレットの割れや欠けを抑制する観点から、表面硬度Hcは、表面硬度の平均値Heの、7%以上であることが好ましく、8%以上であってもよい。これらの上限値と下限値とは任意に組み合わせることができる。表面硬度Hcは、表面硬度の平均値Heの、7〜48%、または8〜48%であってもよい。
【0048】
二酸化マンガン密度dcがdeの98%を超えたり、表面硬度HcがHeの48%を超えたりすると、正極の中央部における膨張を十分抑制できなくなる。
【0049】
正極では、少なくとも中央部において、二酸化マンガン密度および/または表面硬度が上記の範囲となっていればよい。例えば、二酸化マンガン密度および/または表面硬度は、両端部側から中央部側に向かって平均的または傾斜的に減少していてもよく、部分的に大きくなる領域があってもよい。また、中央部と両端部以外の領域において、二酸化マンガン密度(および/または表面硬度)が両端部における二酸化マンガン密度の98%以下(および/または表面硬度の48%以下)より低くなっていてもよい。この場合、この領域でも、正極の膨張に伴う応力を緩和することができる。
【0050】
正極において、二酸化マンガン密度および/または表面硬度の分布状態を変化させるには、二酸化マンガン密度および/または表面硬度の分布状態を変化させたペレットを用いることが好ましい。ペレットにおけるこれらの分布状態は、ペレットを作製する際の条件を適宜調節することにより変化させることができる。
【0051】
図7は、ペレットの作製方法を説明するための断面模式図である。ペレットは、二酸化マンガンおよび導電剤などを含む正極合剤を、図7に示される圧縮装置100により、圧縮成形することにより作製される。圧縮装置100は、ペレットの周面を形作る中空円筒状のダイス104と、ダイス104の中空部101の底部に挿入される凸部を有する下型103と、ダイス104の中空部101の上部に挿入される凸部を有する上型102とを備える打錠機を備えている。下型103の凸部の中央には、ペレットの中空部を形作るためのセンターピン105が上方に突出している。上型102の凸部の中央には、センターピン105の上端部を挿入可能な凹部が形成されている。上型102、下型103、ダイス104、およびセンターピン105により、ダイス104内には、ペレット形状に相当する円筒形の空間が形成される。この空間に、正極合剤を予め充填しておき、上型102を下方向に、下型103を上方向に、それぞれ押圧することにより円筒形のペレットが形成される。
【0052】
圧縮装置100は、ダイス104内に充填された正極合剤を圧縮するための上カム110と下カム120とを備えている。上カム110は、打錠機に接する底面が下降するように傾斜している下降部110aと、底面が上昇するように傾斜している上昇部110bと、これらの間に配された打錠ローラ111とを含む。下カム120の上面は、上カム110の底面と対向しており、下降部110aと対向する領域に、下カム120の上面が上昇するように傾斜している上昇部120aと、上昇部110bと対向する領域に、下カム120の上面が上昇するように傾斜している上昇部120bとを有している。そして、下カム120は、上昇部120aと120bとの間の、打錠ローラ111と対向する位置に打錠ローラ121を備えている。
【0053】
そして、下カム120の上昇部120aから上昇部120b側に向かって、打錠機を進行させることで、打錠機の上型102と下型103とが、上カム110および下カム120からそれぞれ押圧されることで、中空部101内の正極合剤が圧縮されていく。そして、正極合剤は、打錠ローラ111と121とにより高圧成形することで、ペレットが完成する。上カム110の上昇部110bの底面が上昇するように傾斜していることで、上型102による押圧が緩む。これと同時に、下カム120の上昇部120bの上面が上昇するように傾斜していることで、下型103の凸部によりペレットが下方から上方に向かって押圧される。これにより、ダイス104内で圧縮成形されたペレットを下から押し上げて、取り出すことができる。
【0054】
ペレットにおける二酸化マンガン密度および/または表面硬度の分布状態には、正極合剤を圧縮する際の、上下方向に加える変位量および/または押圧の速度が大きく影響する。具体的には、変位量が大きくなると、密度が高まり、押圧の速度が大きくなると、押圧の圧力を加えた側の端部においてペレットの密度が高まる。
【0055】
例えば、上側の打錠ローラ111の上カム110の底面から突出している部分(出しろ)111aを、下側の打錠ローラ121の下カム120の上面から突出している部分(出しろ)121aよりも大きくなるように設定すると、上側の変位量が大きくなるため、ペレットの上側の密度が高まる。また、上カム110の下降部110aの傾斜を、下カム120の上昇部120aの傾斜よりも傾きが急となるように設定すると、上側の変位量が大きくなるため、ペレットの上側の密度が高まる。また、上側と下側とで出しろが同じ場合には、上側の打錠ローラ111の直径を、下側の打錠ローラ121の直径よりも小さくすることにより、ペレットの上側の密度を高めることもできる。これは、打錠ローラの直径が小さいことで、上型がローラに乗り上げてから最終的に打錠されるまでの時間が短くなる、つまり上型の打錠速度が速くなるためである。
【0056】
また、上下の打錠ローラによりすばやく圧縮すると、上端部および下端部において密度が高く、中央部において密度が低いペレットが得られ易くなる。中央部において密度が低くなるのは、打錠ローラから付与された圧力が、端部から中央部に至るまでの間に損失するためと考えられる。打錠ローラによる圧縮速度を高めると、端部と中央部とで密度の傾斜が大きくなり、圧縮速度を低くすると、密度の傾斜は緩やかになる。
【0057】
このようにして得られる二酸化マンガン密度の分布状態を変化させたペレットを用いることで、正極における二酸化マンガン密度の分布状態を調節することができる。また、二酸化マンガン密度の分布状態を調節したペレットを複数用い、並べ方を変更したり、二酸化マンガン密度の分布状態が異なるペレットを組み合わせたりすることで、正極における二酸化マンガン密度の分布を制御することができる。正極の表面硬度についても、二酸化マンガン密度の場合と同様にして制御することができる。
【0058】
正極が複数のペレットを含む場合、各ペレットのサイズは、同じであってもよく、異なっていてもよい、3つ以上のペレットでスタックを構成する場合、一部のペレットのサイズを同じにしてもよい。
【0059】
正極活物質である二酸化マンガンとしては、電解二酸化マンガンが好ましい。
【0060】
二酸化マンガンは粉末の形態で用いられる。正極の充填性および正極内での電解液の拡散性などを確保し易い観点からは、二酸化マンガンの平均粒径(D50)は、例えば、25〜60μmである。成形性や正極の膨張抑制の観点から、二酸化マンガンのBET比表面積は、例えば、15〜50m2/gの範囲であってもよい。
【0061】
なお、本明細書中、平均粒径(D50)とは、体積基準の粒度分布におけるメジアン径である。平均粒径は、例えば、レーザ回折/散乱式粒子分布測定装置を用いて求められる。また、BET比表面積とは、多分子層吸着の理論式であるBET式を用いて、表面積を測定および計算したものである。BET比表面積は、例えば、窒素吸着法による比表面積測定装置を用いることにより測定できる。
【0062】
正極は、正極活物質に加え、さらに導電剤を含んでおり、通常、さらにアルカリ電解液を含む。また、正極は、必要に応じて、さらに結着剤を含んでもよい。
【0063】
導電剤としては、例えば、アセチレンブラックなどのカーボンブラックの他、黒鉛などの導電性炭素材料が挙げられる。黒鉛としては、天然黒鉛、人造黒鉛などが使用できる。導電剤は、繊維状などであってもよいが、粉末状であることが好ましい。導電剤の平均粒径(D50)は、例えば、3〜30μmである。
【0064】
正極中の導電剤の含有量は、二酸化マンガン100質量部に対して、例えば、3〜10質量部、好ましくは4〜6質量部である。
【0065】
ペレットは、例えば、正極活物質、導電剤、アルカリ電解液、必要に応じて結着剤を含む正極合剤を、上記のように中空円筒状に加圧成形することにより得られる。正極合剤を、一旦、フレーク状や顆粒状にし、必要により分級した後、加圧成形してもよい。ペレットを電池ケース内に挿入した後、必要に応じて、ペレットを二次加圧してもよい。
【0066】
(負極)
負極は、正極のペレットの中空部内に配される。負極は、ゲル状の形態を有する。負極は、通常、負極活物質としての亜鉛または亜鉛合金の粉末と、アルカリ電解液と、ゲル化剤とを含有する。
【0067】
亜鉛合金は、耐食性の観点から、インジウム、ビスマスおよびアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種を含むのが好ましい。負極活物質は、通常、粉末状の形態で使用される。負極の充填性および負極内でのアルカリ電解液の拡散性の観点から、負極活物質粉末の平均粒径(D50)は、例えば、100〜200μm、好ましくは110〜160μmである。
【0068】
ゲル化剤としては、アルカリ乾電池の分野で使用される公知のゲル化剤が特に制限なく使用され、例えば、増粘剤および/または吸水性ポリマーなどが使用できる。このようなゲル化剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウムが挙げられる。
【0069】
ゲル化剤の添加量は、負極活物質100質量部あたり、例えば、0.5〜2質量部である。
【0070】
亜鉛または亜鉛合金粉末の含有量は、アルカリ電解液100質量部に対して、例えば、170〜220質量部である。
【0071】
負極には、粘度の調整等のために、ポリオキシアルキレン基含有化合物やリン酸エステル等の界面活性剤(例えば、リン酸エステルまたはそのアルカリ金属塩など)を用いてもよい。
【0072】
(負極集電体)
ゲル状の負極には、負極集電体が挿入される。負極集電体の材質は、好ましくは、銅を含み、例えば、真鍮などの銅および亜鉛を含む合金製であってもよい。負極集電体は、必要により、スズメッキなどのメッキ処理がされていてもよい。
【0073】
(セパレータ)
正極と負極との間に配されるセパレータとしては、例えば、不織布や微多孔膜が挙げられる。セパレータの材質としては、例えば、セルロース、ポリビニルアルコールなどが例示できる。不織布としては、例えば、これらの材質の繊維を主体とするものが使用される。微多孔膜としては、セロファンなどが利用される。
【0074】
図1では、有底円筒形のセパレータを示したが、これに限らず、アルカリ乾電池の分野で使用される公知の形状のセパレータが使用できる。例えば、円筒型のセパレータと、底紙(または底部セパレータ)とを併用してもよい。
【0075】
セパレータの厚みは、例えば、200〜300μmである。セパレータは、全体として上記の厚みを有しているのが好ましく、複数のシートを重ねてセパレータを構成する場合には、合計の厚みが上記の範囲となるようにするのが好ましい。
【0076】
(アルカリ電解液)
アルカリ電解液は、正極、負極およびセパレータ中に含まれる。アルカリ電解液としては、例えば、水酸化カリウムを含むアルカリ水溶液が用いられる。アルカリ電解液中の水酸化カリウムの濃度は、30〜50質量%が好ましい。アルカリ水溶液に、さらに酸化亜鉛を含ませてもよい。アルカリ電解液中の酸化亜鉛の濃度は、例えば、1〜5質量%である。
【0077】
(電池ケース)
電池ケースとしては、有底円筒形のケースが使用される。電池ケースには、例えば、ニッケルめっき鋼板が用いられる。正極と電池ケースとの間の密着性を良くするために、電池ケースの内面を炭素被膜で被覆してもよい。
【0078】
電池ケースは、円形の底部と、この底部と一体化し、底部の周縁から底部に対して垂直方向(電池または正極の高さ方向)に延びる円筒状の胴体部とを備える。胴体部の厚みが小さい場合には、電池外径が大きくなり易い一方、厚みが大きくなると高容量化の観点からは不利になる。そのため、胴体部の厚みは、0.08〜0.20mmであることが好ましい。また、0.08〜0.16mm、または0.08〜0.14mmと、胴体部の厚みが薄い場合にも、本発明では、正極における二酸化マンガン密度および/または表面硬度の分布を制御することで、電池外径が大きくなることを抑制できる。さらには、このような小さな厚みである場合にも、正極の膨張に伴う電池ケースの裂けを抑制できる。
【0079】
本発明では、高容量が得られるとともに、電池外径の増大を抑制でき、電池ケースの胴体部の裂けを抑制できるため、特に単3電池や単4電池といった電池に適している。
【実施例】
【0080】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0081】
実施例1〜7および比較例1〜2
下記の(1)〜(3)の手順に従って、図1に示す単3形のアルカリ乾電池(LR6)を作製した。
【0082】
(1)正極の作製
(a)ペレットの作製
式(1)を導いたときに用いたものと同じ正極合剤を次のような手順で調製した。
【0083】
正極活物質である電解二酸化マンガン粉末(二酸化マンガン純度:92%、平均粒径D50:40μm、BET比表面積:26m2/g)と、導電剤である黒鉛粉末と、結着剤としてのポリテトラフルオロエチレンとを混合した。混合物に電解液を加え、充分に攪拌した後、フレーク状に圧縮成形し、さらに顆粒状に粉砕することにより正極合剤を得た。各成分の質量比は、電解二酸化マンガン粉末:黒鉛粉末:電解液=95:5:2とした。結着剤は、電解二酸化マンガンに対して0.2質量%の割合で使用した。電解液には、水酸化カリウム(濃度35質量%)および酸化亜鉛(濃度2質量%)を含むアルカリ水溶液を用いた。
【0084】
図7に示す圧縮装置100を用いて、正極合剤を、中空円筒形に加圧成形することにより、外径13.60mm、内径8.85mm、高さ21.8mmのペレットを2個作製した(実施例1)。このときの打錠ローラの出しろや圧縮速度を調節することにより、各ペレットにおける二酸化マンガン密度および表面硬度の分布状態を図2に示すような状態となるように調節した。
【0085】
また、正極合剤の充填量、打錠ローラの出しろおよび/または圧縮速度を変えて、各実施例および比較例につき、ペレットを2個ずつ作製した。
【0086】
(b)成形後のペレット表面硬度分布の確認
上記(a)で得られたペレットの表面硬度を測定し、表面硬度分布が狙い通りとなっているか確認した。図8は、ペレットにおける表面硬度の測定点を説明するための概略縦断面図である。成形時のペレットの上端が上に、成形時のペレットの下端が下になるように図8に示した。まず、ペレットの上端から高さh3(=0.5mm)の位置をp1とし、ペレットの下端から高さh3(=0.5mm)の位置をp5とし、p1およびp5間を、それぞれ同じ高さとなるように、p1からp5に向かって、p2、p3およびp4で4分割した。そして、ペレットの周面のp1〜p5の各位置において、JIS Z2244に準拠し、試験力1N、保持時間15秒の条件で、表面硬度(ビッカーズ硬度)を測定した。
【0087】
表1Aおよび表1Bに、作製したペレットにおける表面硬度を示す。なお、電池において正極端子側に配するペレットを1段目のペレット、正極端子とは反対側に配するペレットを2段目のペレットとした。各ペレットの向きは、電池内におけるペレットの向きに合わせた。
【0088】
【表1A】
【0089】
【表1B】
【0090】
(2)負極の作製
負極活物質である亜鉛合金粉末(平均粒径D50:130μm)と、上記の電解液と、ゲル化剤とを混合し、ゲル状の負極3を得た。亜鉛合金としては、0.02質量%のインジウムと、0.01質量%のビスマスと、0.005質量%のアルミニウムとを含む亜鉛合金を用いた。ゲル化剤には、架橋分岐型ポリアクリル酸と高架橋鎖状型ポリアクリル酸ナトリウムとを1:2の質量比で含む混合物を用いた。負極活物質と、電解液と、ゲル化剤との質量比は、200:100:2とした。
【0091】
(3)アルカリ電池の組立て
ニッケルめっき鋼板製の有底円筒形で、表1C、表1Dまたは表1Eに示す胴体部の厚みを有する電池ケースの内面に、日本黒鉛(株)製のバニーハイトを塗布して厚み約10μmの炭素被膜を形成し、電池ケース1を得た。電池ケース1内に正極ペレットを縦に2個挿入し、二次加圧することにより電池ケース1内で正極2を完成させた。有底円筒形のセパレータを、正極2の内側に配置した後、上記の電解液を注入し、セパレータ4に含浸させた。この状態で所定時間放置し、電解液をセパレータ4から正極2へ浸透させた。その後、所定量のゲル状負極3を、セパレータ4の内側に充填した。セパレータ4には、質量比が1:1である溶剤紡糸セルロース繊維およびポリビニルアルコール系繊維を主体として混抄した不織布を用いた。
【0092】
負極集電体6は、一般的な真鍮(Cu含有量:約65質量%、Zn含有量:約35質量%)を、釘型にプレス加工した後、表面にスズめっきを施すことにより得た。ニッケルめっき鋼板製の負極端子板7に負極集電体6の頭部を電気溶接した。その後、負極集電体6の胴部を、ポリアミド6,12を主成分とするガスケット5の中心の貫通孔に圧入した。このようにして、ガスケット5、負極端子板7、および負極集電体6からなる封口ユニット9を作製した。
【0093】
次に、封口ユニット9を電池ケース1の開口部に設置した。このとき、負極集電体6の胴部を、負極3内に挿入した。電池ケース1の開口端部を、ガスケット5を介して、負極端子板7の周縁部にかしめつけ、電池ケース1の開口部を封口した。外装ラベル8で電池ケース1の外表面を被覆した。このようにして、アルカリ乾電池(実施例1〜7の電池A1〜A7、および比較例1〜2の電池B1〜B2)を作製した。なお、電池B1と電池B2とは、電池ケースの胴体部の厚みのみが異なり、その他は同じである。
【0094】
(4)評価
得られた電池について、以下の評価を行った。
【0095】
(a)正極の表面硬度の測定および二酸化マンガン密度の算出
得られたアルカリ乾電池を分解して正極を取り出し、水洗し、乾燥した後、既述の手順により、正極の周面のP1〜P10の位置で表面硬度(ビッカーズ硬度)を測定した。測定条件は、上記(1)(b)と同様にした。両端部の表面硬度He1およびHe2の平均値Heについては、P1およびP10で測定した表面硬度の平均値を用いた。中央部における表面硬度Hcとしては、P5およびP6で測定した表面硬度の平均値を用いた。
【0096】
さらに、算出したHeおよびHcから、比Hc/He(%)を求めた。
【0097】
また、既述の手順により、中央部における二酸化マンガン密度dcおよび両端部における二酸化マンガン密度の平均値deを算出した。二酸化マンガン密度dcについては、P5およびP6で測定した表面硬度の平均値を用いて、式(1)から求めた。二酸化マンガン密度deについては、表面硬度の平均値Heを用いて、式(1)から求めた。
【0098】
さらに、算出したdeおよびdcから、比dc/de(%)を求めた。
【0099】
(b)正極における二酸化マンガンの平均密度
電池から取り出した正極ペレットについて、既述の手順で二酸化マンガンの平均密度を求めた。
【0100】
(c)電池ケースの外径膨れ量および裂け
電池を、40Ωの抵抗で連続放電した後、1週間後に電池ケースの胴体部に裂けを目視で観察した。この作製から1週間後の電池を初期状態の電池とする。10個の電池中、電池ケースの裂けが生じた電池の個数をカウントした。
【0101】
胴体部に裂けが生じていない電池について、胴体部における最大直径をノギスで計測し、初期の胴体部の直径との差を求め、電池ケースの外径膨れ量とした。
【0102】
実施例1〜7および比較例1〜2の結果を表1C、表1Dおよび表1Eに示す。実施例1〜7はA1〜A7であり、比較例1〜2はB1〜B2である。
【0103】
【表1C】
【0104】
【表1D】
【0105】
【表1E】
【0106】
表1Cに示されるように、正極における表面硬度および二酸化マンガン密度の分布が均一な比較例1および比較例2では、電池ケースの外径膨れ量が大きく、比較例2では20%の電池において電池ケースの胴体部に裂けが見られた。それに対して、Hc/Heが48%以下またはdc/deが98%以下である実施例では、電池ケースの膨れは比較例に比べて格段に少なく、電池ケースに裂けが見られた電池は0%であった(表1Dおよび表1E)。
【0107】
実施例8〜12
電池ケースの胴体部の厚みを、表2Aおよび表2Bに示すように変更した以外は、実施例7と同様にしてアルカリ乾電池を作製し、評価を行った。結果を表2Aおよび表2Bに示す。実施例8〜12はA8〜A12である。
【0108】
【表2A】
【0109】
【表2B】
【0110】
表2Aおよび表2Bに示されるように、Hc/Heが48%以下またはdc/deが98%以下である実施例8〜12についても、表1Cの比較例1〜2に比べて電池ケースの外径膨れが抑制されており、電池ケースの胴体部の裂けが見られた電池は0%であった。
【0111】
実施例13
実施例1の(1)において、高さが43.5mmであるペレットを1つ作製し、正極として用いた。正極における二酸化マンガン密度および表面硬度の分布状態を図4に示すような状態となるように、正極合剤の充填量、打錠ローラの出しろおよび圧縮速度を調節した。これら以外は、実施例1と同様にして正極およびマンガン乾電池を作製し、評価を行った。
【0112】
実施例14
実施例1の(1)において、高さが14.5mmであるペレットを3つ作製し、この3つのペレットを用いて図5に示すような正極およびマンガン乾電池を作製した。ペレット作製時には、正極における二酸化マンガン密度および表面硬度の分布状態を図5に示すような状態となるように、正極合剤の充填量、打錠ローラの出しろおよび圧縮速度を調節した。これら以外は、実施例1と同様にして正極およびマンガン乾電池を作製し、評価を行った。
【0113】
実施例15
実施例1の(1)において、高さが10.9mmであるペレットを4つ作製し、この4つのペレットを用いて図6に示すような正極およびマンガン乾電池を作製した。ペレット作製時には、正極における二酸化マンガン密度および表面硬度の分布状態を図6に示すような状態となるように、正極合剤の充填量、打錠ローラの出しろや圧縮速度を調節した。これら以外は、実施例1と同様にして正極およびマンガン乾電池を作製し、評価を行った。
【0114】
実施例13〜15について、作製したペレットにおける表面硬度を表3Aに示す。ペレットの段数は、電池において正極端子側に配するペレットを1段目とし、正極端子とは反対側に向かって段数が増えるように数えた。各ペレットの向きは、電池内におけるペレットの向きに合わせた。また、実施例13〜15の電池および電池内の正極についての評価結果を表3Bに示す。実施例13〜15はA13〜A15である。
【0115】
【表3A】
【0116】
【表3B】
【0117】
表3Bに示されるように、Hc/Heが48%以下またはdc/deが98%以下である実施例13〜15についても、表1Cの比較例1〜2に比べて電池ケースの外径膨れが抑制されており、電池ケースの胴体部の裂けが見られた電池は0%であった。
【産業上の利用可能性】
【0118】
本発明のアルカリ乾電池は、高容量化が可能で、電池外径の増大が抑制されるため、携帯機器等の様々な電子機器の電源として好適に用いられる。
【符号の説明】
【0119】
1:電池ケース
2,12,22,32:正極
2a,12a,22a,22b,32a:ペレット
3:負極
4:セパレータ
5:ガスケット
6:負極集電体
7:負極端子板
8:外装ラベル
9:封口ユニット
c:正極の高さ方向の中央部
e1,e2:正極の高さ方向の端部
11:中空部
P1,P2,P3,P4,P5,P5-1,P5-2,P6,P7,P8,P9,P10:表面硬度測定位置
h:隣接する表面硬度測定位置間の高さ
0:正極端面からP1またはP10までの高さ
1:P1とP10との間の高さ
s:ペレット間の界面
2:ペレット間の界面に相当する測定位置P5と実際の測定位置P5-1およびP5-2のそれぞれとの間の高さ
b1,b2,b3,b4,b5,b6,b7,b8,b9:二酸化マンガン密度を算出するブロック
100:圧縮装置
101:ダイスの中空部
102:上型
103:下型
104:ダイス
105:センターピン
110:上カム
110a:下降部
110b,120a,120b:上昇部
111,121:打錠ローラ
111a,121a:打錠ローラの出しろ
120:下カム
p1,p2,p3,p4,p5:実施例の作製後のペレットにおける表面硬度測定位置
3:ペレット端面からp1またはp5までの高さ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9