特許第6443825号(P6443825)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6443825
(24)【登録日】2018年12月7日
(45)【発行日】2018年12月26日
(54)【発明の名称】蒸発燃料処理装置
(51)【国際特許分類】
   F02M 25/08 20060101AFI20181217BHJP
【FI】
   F02M25/08 301H
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-51033(P2017-51033)
(22)【出願日】2017年3月16日
(65)【公開番号】特開2018-155135(P2018-155135A)
(43)【公開日】2018年10月4日
【審査請求日】2018年3月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】本荘 拓也
【審査官】 北村 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−198267(JP,A)
【文献】 特開2007−170221(JP,A)
【文献】 特開2016−164386(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02M 25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸発燃料処理装置であって、
燃料タンクからエンジンの吸気通路に向けて延び、前記燃料タンク内の蒸発燃料を前記吸気通路に放出するためのパージ通路と、
前記パージ通路上に設けられ、燃料タンクからの蒸発燃料を吸着して蓄積するキャニスタと、
前記キャニスタの下流側の前記パージ通路上に設けられ、前記パージ通路内の気体を圧送する加圧ポンプと、
前記加圧ポンプの下流側の前記パージ通路上に設けられ、前記パージ通路から前記吸気通路への気体の放出を制御するパージ弁と、
前記加圧ポンプと前記パージ弁との間の前記パージ通路内の圧力を検出する圧力センサと、
前記加圧ポンプを駆動し、このときに前記圧力センサによって検出された圧力に基づいて、前記パージ通路内の蒸発燃料の濃度を推定する蒸発燃料濃度推定手段と、
前記蒸発燃料濃度推定手段によって推定された前記蒸発燃料の濃度に基づき前記パージ弁を制御して、前記蒸発燃料を前記吸気通路に放出するパージ制御手段と、
を有し、
前記パージ制御手段は、
前記蒸発燃料を前記吸気通路に放出するための所定のパージ条件が成立したときに、前記加圧ポンプを第1回転数で駆動すると共に前記パージ弁を開弁して、前記蒸発燃料を前記吸気通路に放出するようにし、
前記所定のパージ条件が成立していないときには、前記パージ弁を閉弁しつつ、前記加圧ポンプを前記第1回転数よりも低い第2回転数で駆動して、前記加圧ポンプを予回転させ、
前記蒸発燃料濃度推定手段が前記蒸発燃料の濃度を推定するときには、前記パージ弁を閉弁しつつ、前記加圧ポンプを前記第2回転数よりも高い第3回転数で駆動して、前記加圧ポンプの予回転を制限する、
ことを特徴とする蒸発燃料処理装置。
【請求項2】
前記パージ制御手段は、前記エンジンが始動してから前記蒸発燃料濃度推定手段が前記蒸発燃料の濃度を推定するまでの間は、前記所定のパージ条件が成立していないときであっても、前記加圧ポンプを前記第3回転数で駆動して、前記加圧ポンプの予回転を制限する、請求項1に記載の蒸発燃料処理装置。
【請求項3】
前記パージ制御手段は、前記蒸発燃料濃度推定手段が前記蒸発燃料の濃度を推定した後において前記吸気通路への前記蒸発燃料の放出が所定時間行われたときには、前記所定のパージ条件が成立していないときであっても、前記加圧ポンプを前記第3回転数で駆動して、前記加圧ポンプの予回転を制限する、請求項1又は2に記載の蒸発燃料処理装置。
【請求項4】
前記蒸発燃料濃度推定手段は、前記パージ制御手段が前記加圧ポンプを前記第3回転数で駆動して前記加圧ポンプの予回転を制限しているときに、前記蒸発燃料の濃度を推定する、請求項2又は3に記載の蒸発燃料処理装置。
【請求項5】
前記第3回転数は、前記第1回転数よりも高い回転数に設定される、請求項1乃至4のいずれか一項に記載の蒸発燃料処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料タンク内の蒸発燃料をエンジンの吸気通路に放出するための蒸発燃料処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、燃料タンク内に発生した蒸発燃料をキャニスタに一旦吸着させ、キャニスタに吸着された蒸発燃料を、パージ通路を介してエンジンの吸気通路へとパージ(放出)する蒸発燃料処理装置が知られている。一般的な蒸発燃料処理装置では、吸気通路内の負圧を利用して、具体的にはパージ通路と吸気通路との差圧を利用して、蒸発燃料を吸気通路へとパージするようにしている。
【0003】
しかしながら、近年、エンジンのポンピングロスを低減して燃費を向上させる観点から、吸気通路の負圧をできるだけ低下させるようにしている(例えばスロットルバルブを開くことで吸気通路の負圧を低下させている)。そのため、蒸発燃料を吸気通路へと適切にパージできなくなる傾向にある。このような吸気通路の負圧が低下した状態であっても、蒸発燃料を吸気通路へとパージできるようにした技術が開発されている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1には、パージ通路上に加圧ポンプを設け、この加圧ポンプによって、キャニスタから吸気通路へ向けて蒸発燃料を強制的に圧送する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016−217172号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような加圧ポンプを用いた場合、蒸発燃料をパージしないときにも、蒸発燃料をパージするときと同様に加圧ポンプを駆動すると、消費電力の増加や、加圧ポンプの作動音による騒音が問題となる。これに対処すべく、蒸発燃料をパージしないときには、蒸発燃料をパージするときよりも、加圧ポンプの回転数を低下させると良いと考えられる。
【0006】
他方で、一般的には、蒸発燃料のパージ制御は、蒸発燃料の濃度を考慮して行われている。例えば、蒸発燃料をパージしてエンジンに供給したときにも目標空燃比が適切に達成されるように、蒸発燃料の濃度に基づきパージ弁の開度や燃料噴射弁からの燃料噴射量の制御が行われる。このように、パージ制御を行うに当たって蒸発燃料の濃度を把握しておくことが望ましいため、一般的な蒸発燃料処理装置では、蒸発燃料の濃度推定が適宜行われている。特に、上記のような加圧ポンプを適用した蒸発燃料処理装置では、蒸発燃料の濃度を推定するときに、加圧ポンプを比較的高回転で駆動するのがよいと考えられる。これは、加圧ポンプの回転数が高いほど、蒸発燃料の濃度の差に対する加圧ポンプの吐出圧の差が大きくなる(換言すると蒸発燃料の濃度に対する加圧ポンプの吐出圧の感度が高くなる)という特性があるため、加圧ポンプの回転数が高いほど、加圧ポンプの吐出圧から蒸発燃料の濃度を精度良く推定できるからである。
【0007】
以上述べたように、加圧ポンプを適用した蒸発燃料処理装置では、状況に応じて加圧ポンプの回転数を適宜変化させるのが良いと考えられる。上記した特許文献1には、このように加圧ポンプの回転数を変化させる点については何ら開示されていない。
【0008】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、パージ通路上に加圧ポンプを備える蒸発燃料処理装置において、加圧ポンプの回転数を状況に応じて適切に変化させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するために、本発明は、蒸発燃料処理装置であって、燃料タンクからエンジンの吸気通路に向けて延び、燃料タンク内の蒸発燃料を吸気通路に放出するためのパージ通路と、パージ通路上に設けられ、燃料タンクからの蒸発燃料を吸着して蓄積するキャニスタと、キャニスタの下流側のパージ通路上に設けられ、パージ通路内の気体を圧送する加圧ポンプと、加圧ポンプの下流側のパージ通路上に設けられ、パージ通路から吸気通路への気体の放出を制御するパージ弁と、加圧ポンプとパージ弁との間のパージ通路内の圧力を検出する圧力センサと、加圧ポンプを駆動し、このときに圧力センサによって検出された圧力に基づいて、パージ通路内の蒸発燃料の濃度を推定する蒸発燃料濃度推定手段と、蒸発燃料濃度推定手段によって推定された蒸発燃料の濃度に基づきパージ弁を制御して、蒸発燃料を吸気通路に放出するパージ制御手段と、を有し、パージ制御手段は、蒸発燃料を吸気通路に放出するための所定のパージ条件が成立したときに、加圧ポンプを第1回転数で駆動すると共にパージ弁を開弁して、蒸発燃料を吸気通路に放出するようにし、所定のパージ条件が成立していないときには、パージ弁を閉弁しつつ、加圧ポンプを第1回転数よりも低い第2回転数で駆動して、加圧ポンプを予回転させ、蒸発燃料濃度推定手段が蒸発燃料の濃度を推定するときには、パージ弁を閉弁しつつ、加圧ポンプを第2回転数よりも高い第3回転数で駆動して、加圧ポンプの予回転を制限する、ことを特徴とする。
【0010】
このように構成された本発明によれば、蒸発燃料処理装置は、所定のパージ条件が成立したときに、加圧ポンプを第1回転数で駆動すると共にパージ弁を開弁して、蒸発燃料を吸気通路に放出(パージ)する一方で、所定のパージ条件が成立していないときには、パージ弁を閉弁しつつ、加圧ポンプを第1回転数よりも低い第2回転数で駆動して、加圧ポンプを予回転させる。これにより、パージ条件が成立していない間において消費電力の増大や加圧ポンプの作動音による騒音を抑制しつつ、パージ条件が成立したときにおける加圧ポンプの応答性を適切に確保することができる。つまり、パージ条件が不成立から成立へと切り替わったときに、加圧ポンプを速やかに第1回転数まで到達させることができる。
また、本実施形態によれば、蒸発燃料処理装置は、蒸発燃料の濃度を推定するときには、加圧ポンプを第2回転数よりも高い第3回転数で駆動して、加圧ポンプの予回転を制限する。これにより、加圧ポンプの回転数が高いほど、蒸発燃料の濃度に対する加圧ポンプの吐出圧の感度が高くなるという特性を利用して、加圧ポンプの吐出圧等から蒸発燃料の濃度を精度良く推定することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、パージ制御手段は、エンジンが始動してから蒸発燃料濃度推定手段が蒸発燃料の濃度を推定するまでの間は、所定のパージ条件が成立していないときであっても、加圧ポンプを第3回転数で駆動して、加圧ポンプの予回転を制限する。
このように構成された本発明によれば、パージ条件の不成立時であっても、エンジンの始動直後のような、蒸発燃料の濃度を取得すべき状況であれば、加圧ポンプの予回転を制限して第3回転数で適切に駆動することができ、蒸発燃料の濃度推定の機会を効果的に確保することができる。
【0012】
本発明において、好ましくは、パージ制御手段は、蒸発燃料濃度推定手段が蒸発燃料の濃度を推定した後において吸気通路への蒸発燃料の放出が所定時間行われたときには、所定のパージ条件が成立していないときであっても、加圧ポンプを第3回転数で駆動して、加圧ポンプの予回転を制限する。
このように構成された本発明によれば、パージ条件の不成立時であっても、蒸発燃料の濃度を推定すべき状況であれば、加圧ポンプの予回転を制限して第3回転数で適切に駆動することができ、蒸発燃料の濃度推定の機会を効果的に確保することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、蒸発燃料濃度推定手段は、パージ制御手段が加圧ポンプを第3回転数で駆動して加圧ポンプの予回転を制限しているときに、蒸発燃料の濃度を推定する。
このように構成された本発明によれば、加圧ポンプが比較的高い回転数で駆動されて、加圧ポンプの吐出圧が高くなるので、蒸発燃料の濃度を精度良く推定することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、第3回転数は、第1回転数よりも高い回転数に設定される。
このように構成された本発明によれば、蒸発燃料の濃度の推定時に、加圧ポンプを第1回転数よりも高い第3回転数で駆動するので、蒸発燃料の濃度推定の精度を大きく向上させることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、パージ通路上に加圧ポンプを備える蒸発燃料処理装置において、加圧ポンプの回転数を状況に応じて適切に変化させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施形態による蒸発燃料処理装置が適用されたシステムの概略構成図である。
図2】本発明の実施形態による蒸発燃料処理装置の電気的構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態においてパージ実行時とパージ非実行時とに適用する加圧ポンプ回転数を示すタイムチャートである。
図4】加圧ポンプの応答性を説明するためのタイムチャートである。
図5】本発明の実施形態による制御を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施形態による制御を行った場合のタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による蒸発燃料処理装置について説明する。
【0018】
<装置構成>
まず、図1及び図2により、本発明の実施形態による蒸発燃料処理装置の構成について説明する。図1は、本発明の実施形態による蒸発燃料処理装置が適用されたシステムの概略構成図であり、図2は、本発明の実施形態による蒸発燃料処理装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0019】
図1に示すように、蒸発燃料処理装置1は、エンジンに供給する燃料を貯蔵する燃料タンク2からエンジンの吸気通路21に向けて延びるパージ通路3を備える。このパージ通路3は、燃料タンク2内で発生した蒸発燃料(エバポガス)を、スロットルバルブ20の下流側の吸気通路21へとパージ(放出)できるようになっている。
【0020】
パージ通路3上には、上流側から順に、蒸発燃料を吸着する活性炭を内部に備え、蒸発燃料を蓄積するキャニスタ5と、パージ通路3内の気体を圧送する加圧ポンプ7と、開閉することにより、パージ通路3から吸気通路21への気体の放出を制御するパージ弁9と、が設けられている。また、加圧ポンプ7とパージ弁9との間のパージ通路3には、パージ通路3内の圧力を検出する圧力センサ11が設けられている。更に、キャニスタ5には、外部から空気が供給される大気開放口13aを備え、キャニスタ5に空気を供給する大気開放通路13が接続されている。この大気開放通路13上には、キャニスタ5への空気の供給を制御する大気開放弁15が設けられている。
【0021】
また、蒸発燃料処理装置1は、エンジンを含めて、当該蒸発燃料処理装置1全体を制御するECU(Electronic Control Unit)30を更に有する。図2に示すように、ECU30は、上記した圧力センサ11によって検出された圧力と、エンジンの排気通路上に設けられた空燃比センサ23によって検出された空燃比と、水温センサ24によって検出されたエンジン水温と、外気温センサ25によって検出された外気温と、大気圧センサ26によって検出された大気圧と、を取得する。また、ECU30は、これらセンサによって検出された各種状態値に基づき、上記した加圧ポンプ7、パージ弁9及び大気開放弁15に加えて、エンジンの燃料噴射弁28に対する制御を行う。
【0022】
特に、ECU30は、機能的構成部として、蒸発燃料濃度推定部30a及びパージ制御部30bを有する。ECU30の蒸発燃料濃度推定部30aは、パージ弁9を閉弁した状態において、加圧ポンプ7を駆動したときに圧力センサ11によって検出された圧力に基づいて、パージ通路3内の蒸発燃料の濃度を推定する。ECU30のパージ制御部30bは、蒸発燃料濃度推定部30aによって推定された蒸発燃料の濃度に基づきパージ弁9を制御して、蒸発燃料を吸気通路21に放出するようにする。
【0023】
<制御内容>
次に、本発明の実施形態において、ECU30が行う制御内容について具体的に説明する。
【0024】
(基本制御)
最初に、図3及び図4を参照して、本実施形態においてECU30が行う制御内容の基本概念について説明する。
【0025】
図3は、本発明の実施形態において、蒸発燃料のパージを実行するときと蒸発燃料のパージを実行しないときとに適用する加圧ポンプ7の回転数を示すタイムチャートである。図3の上には、蒸発燃料のパージを実行するためのパージ実行フラグのオン/オフを示し、図3の下には、加圧ポンプ7の回転数を示している。
【0026】
パージ実行フラグは、所定の条件(パージ条件)が成立したときにオンにされる。このパージ条件は、例えば以下の条件を含むものであり、これらの条件が全て成立したときにパージ実行フラグがオンにされる。
−エンジン水温が所定温度(例えば60℃)以上であること、つまりエンジンが暖機していること。
−燃料噴射弁28の噴射量学習が終了していること(この噴射量学習は、空燃比センサ23によって検出された空燃比に基づき、目標空燃比を実現するように燃料噴射弁28の燃料噴射量がF/B制御されるものである)。
−IGオン後において蒸発燃料の濃度推定が終了していること(蒸発燃料の濃度推定を実行している最中でないことを更なる条件としてもよい)。
【0027】
典型的には、上記したパージ条件は、エンジン停止時や停車時(例えばエンジンのアイドリングストップ時)などに成立する。ここで、噴射量学習の終了をパージ条件の1つとしているのは、蒸発燃料のパージ中においても燃費やエミッションの観点から目標空燃比を確実に実現すべく、燃料噴射量の制御精度が確保されていることが望ましいからである。また、蒸発燃料の濃度推定の終了をパージ条件の1つとしているのは、パージしたときにエンジンに導入される燃料量(蒸発燃料の濃度に応じた量となる)を把握することで、この燃料量と燃料噴射弁28からの燃料噴射量とを合わせた燃焼により目標空燃比を確実に実現できるようにするためである。
【0028】
図3について具体的に説明すると、時刻t11以前においては、パージ実行フラグがオンになっているため、本実施形態では、ECU30は、蒸発燃料を吸気通路21にパージすべく、パージ弁9を開弁すると共に、加圧ポンプ7を第1回転数N1で駆動する(加圧ポンプ7の回転数を第1回転数N1に維持する)。このときに、ECU30は、圧力センサ11によって検出された圧力などに基づき目標パージ量を設定し、この目標パージ量に応じた開度にパージ弁9を制御する。また、ECU30は、蒸発燃料をパージしたときにも目標空燃比が適切に達成されるように、推定された蒸発燃料の濃度などを考慮して、空燃比センサ23によって検出された空燃比を参照しつつ燃料噴射弁28からの燃料噴射量を制御する。
【0029】
次いで、時刻t11において、パージ実行フラグがオンからオフに切り替わるため、本実施形態では、ECU30は、蒸発燃料のパージを中止すべく、パージ弁9を閉弁すると共に、加圧ポンプ7の回転数を第1回転数N1から第2回転数N2へと低下させる。そして、ECU30は、加圧ポンプ7の回転数を第2回転数N2に維持する。こうすることで、本実施形態では、パージ実行フラグがオフである間、加圧ポンプ7を予回転させておく。つまり、パージ実行フラグがオフからオンに切り替わるまで、加圧ポンプ7を待機させる。次いで、時刻t12において、パージ実行フラグがオフからオンに切り替わるため、ECU30は、蒸発燃料を吸気通路21にパージすべく、パージ弁9を開弁すると共に、加圧ポンプ7の回転数を第2回転数N2から第1回転数N1へと上昇させる。
【0030】
ここで、上記した第1回転数N1は、スロットルバルブ20が開いている状態においてパージ通路3から吸気通路21へと蒸発燃料を適切に導入できるような加圧ポンプ7の回転数が適用される。すなわち、第1回転数N1は、パージ通路3内の蒸発燃料を吸気通路21へと適切に引き込むことができるような、吸気通路21とパージ通路3との圧力差を生成可能な回転数が適用される。例えば、第1回転数N1は3万回転程度に設定される。
他方で、上記した第2回転数N2は、パージ実行フラグがオフからオンに切り替わったときに、加圧ポンプ7を速やかに第1回転数N1へと上昇させることが可能で、且つ、エンジン停止時(例えばアイドリングストップ時)などにおいて加圧ポンプ7の作動音による騒音が問題とならないような加圧ポンプ7の回転数が適用される。例えば、第2回転数N2は1万回転程度に設定される。
【0031】
次に、図4を参照して、加圧ポンプ7の応答性について具体的に説明する。図4は、加圧ポンプ7を第2回転数N2から上昇させたときと加圧ポンプ7をほぼ0から上昇させたときとの第1回転数N1に到達するまでの時間の違いを示すタイムチャートである。
【0032】
図4において、実線は、本実施形態において、加圧ポンプ7の回転数を第2回転数N2から第1回転数N1まで上昇させたときのグラフを示している。この本実施形態では、上述したように、蒸発燃料をパージしないときに(パージ実行フラグがオフ)、加圧ポンプ7の回転数を第2回転数N2で駆動し、加圧ポンプ7を予回転させるものである。一方、破線は、比較例において、加圧ポンプ7の回転数をほぼ0の状態(加圧ポンプ7の駆動が停止されている状態)から第1回転数N1まで上昇させたときのグラフを示している。この比較例では、蒸発燃料をパージしないときに、消費電力の増加や加圧ポンプ7の作動音による騒音を抑制するために、加圧ポンプ7の駆動を停止するものである。なお、ここでは、ブラシレス式のモータを備える加圧ポンプ7を用いることを想定している。
【0033】
本実施形態において、時刻t21において加圧ポンプ7の回転数を第2回転数N2から上昇させると、時刻t22において加圧ポンプ7の回転数が第1回転数N1に到達する。これに対して、比較例において、時刻t21において加圧ポンプ7の回転数をほぼ0から上昇させると、時刻t22よりも後の時刻t23において加圧ポンプ7の回転数が第1回転数N1に到達する。この場合、ブラシレス式のモータを備える加圧ポンプ7では、回転数をほぼ0から上昇させ始めるときに、位置検出を行う必要があるため、回転数を直ぐに大きく上昇させることができない(矢印A1で示す期間参照)。そして、この位置検出後に、回転数を上昇させることとなる。このとき、加圧ポンプ7の回転数を第1回転数N1に速やかに到達させるように、回転数の変化速度を大きくすると(矢印A2参照)、加圧ポンプ7の駆動回路素子への過大な負荷や、高電圧対応等のコスト増加や、体格が大きくなるといった問題が発生する。
【0034】
以上のことから、本実施形態では、ECU30は、蒸発燃料をパージしないときに、加圧ポンプ7の駆動を停止するのではなく、パージ時の第1回転数N1よりも低い第2回転数N2で加圧ポンプ7を駆動することで、加圧ポンプ7を予回転させ、次のパージまで待機させておくようにする。こうすることで、蒸発燃料をパージしないときにおいて、消費電力の増大や加圧ポンプ7の作動音による騒音を抑制しつつ、パージ要求時における加圧ポンプ7の応答性を確保することができる、つまり加圧ポンプ7を速やかに第1回転数N1まで到達させることができる。
【0035】
また、本実施形態では、ECU30は、蒸発燃料の濃度を推定している間は(基本的にはパージ実行フラグがオフとなる)、パージ弁9を閉弁しつつ、加圧ポンプ7を第2回転数N2よりも高い第3回転数N3で駆動する。つまり、ECU30は、蒸発燃料の濃度を推定している間は、パージ実行フラグがオフであっても、加圧ポンプ7を第3回転数N3で駆動して、加圧ポンプ7の予回転を制限するようにする。この第3回転数N3には、上記した第1回転数N1よりも更に高い回転数、例えば4万回転が適用される。こうするのは、加圧ポンプ7の回転数が高いほど、蒸発燃料の濃度の差に対する加圧ポンプ7の吐出圧の差が大きくなるという特性、換言すると蒸発燃料の濃度に対する加圧ポンプ7の吐出圧の感度が高くなるという特性があるため、加圧ポンプ7の回転数が高いほど、加圧ポンプ7の吐出圧から蒸発燃料の濃度を精度良く推定できるからである。
【0036】
特に、本実施形態では、ECU30は、エンジンを始動してから蒸発燃料の濃度を推定するまでの間は、パージ条件が成立していないときであっても、加圧ポンプ7を第3回転数N3で駆動し、加圧ポンプ7の予回転を制限する。ECU30は、このように加圧ポンプ7を第3回転数N3で駆動して、圧力センサ11によって検出された圧力に基づき蒸発燃料の濃度を推定するようにする。こうすることで、エンジン始動後において、蒸発燃料の濃度を即座に取得し、蒸発燃料のパージを速やかに実行できるようにする。
【0037】
また、本実施形態では、ECU30は、蒸発燃料の濃度を推定した後において蒸発燃料のパージが所定時間行われたときには、典型的には濃度推定後からの積算パージ量が所定量に達したときには、パージ条件が成立していないときであっても、加圧ポンプ7を第3回転数N3で駆動し、加圧ポンプ7の予回転を制限する。ECU30は、このように加圧ポンプ7を第3回転数N3で駆動して、圧力センサ11によって検出された圧力に基づき蒸発燃料の濃度を推定するようにする。他方で、蒸発燃料の濃度を推定した後において蒸発燃料のパージが所定時間行われていないときには、典型的には濃度推定後からの積算パージ量が所定量に達していないときには、ECU30は、加圧ポンプ7を第3回転数N3で駆動しない。この場合には、蒸発燃料の濃度があまり変化していないので、ECU30は、蒸発燃料の濃度推定を行わない。こうすることで、加圧ポンプ7を第3回転数N3で駆動することによる無駄な電力消費を抑制する。そういった観点より、パージ時間を判定するための所定時間及び積算パージ量を判定するための所定量には、蒸発燃料の濃度がほとんど変化していないとみなせるパージ時間及び積算パージ量が適用される。
【0038】
(フローチャート)
次に、図5を参照して、本発明の実施形態による制御を示すフローチャートについて説明する。このフローは、ECU30によって繰り返し実行される。
【0039】
まず、ステップS1において、IG(イグニッション)がオンになると、ECU30は、ステップS2に進み、加圧ポンプ7の起動制御を開始する。例えば、加圧ポンプ7がブラシレス式のモータを備えるものであれば、ECU30は、加圧ポンプ7の起動制御として、当該モータの位置検出制御を最初に行う。そして、ステップS3において、ECU30は、加圧ポンプ7を予回転させて待機させるべく、加圧ポンプ7を第2回転数N2で駆動する。
【0040】
次いで、ステップS4において、ECU30は、IGオン後に蒸発燃料の濃度推定を実行していないか、又は前回の濃度推定からの積算パージ量が所定量以上であるかを判定する。その結果、IGオン後に蒸発燃料の濃度推定を実行していない場合、又は前回の濃度推定からの積算パージ量が所定量以上である場合(ステップS4:Yes)、ECU30は、ステップS5に進み、蒸発燃料の濃度推定を行うべく、加圧ポンプ7を第3回転数N3で駆動する。そして、ステップS6において、ECU30は、加圧ポンプ7を第3回転数N3で駆動しているときに圧力センサ11によって検出された圧力に基づき、蒸発燃料の濃度を推定する。この後、ECU30は、ステップS7に進む。一方で、IGオン後に蒸発燃料の濃度推定を実行し、且つ前回の濃度推定からの積算パージ量が所定量未満である場合には(ステップS4:No)、ECU30は、ステップS7に進む。
【0041】
ステップS7において、ECU30は、所定のパージ条件が成立したか否かを判定する。このパージ条件は、上記の「基本制御」のセクションで述べた通りである。ステップS7の判定の結果、パージ条件が成立していない場合(ステップS7:No)、ECU30は、ステップS3に戻り、加圧ポンプ7を予回転させて待機させるべく、加圧ポンプ7を第2回転数N2で駆動する。
【0042】
他方で、パージ条件が成立した場合(ステップS7:Yes)、ECU30は、ステップS8に進み、蒸発燃料のパージを実行するために、加圧ポンプ7を第1回転数N1で駆動する。そして、ステップS9において、ECU30は、圧力センサ11によって検出された圧力を取得する。この場合、ECU30は、加圧ポンプ7の動作によって、加圧ポンプ7下流側のパージ通路3内の圧力が所望の圧力になったかを確認する。次いで、ステップS10において、ECU30は、圧力センサ11によって検出された圧力などに基づき目標パージ量を設定し、この目標パージ量に応じた開度にパージ弁9を制御する。また、ECU30は、蒸発燃料をパージしたときにも目標空燃比が適切に達成されるように、推定された蒸発燃料の濃度などを考慮して、空燃比センサ23によって検出された空燃比を参照しつつ燃料噴射弁28からの燃料噴射量を制御する。
【0043】
次いで、ステップS11において、ECU30は、IGがオフになったか否かを判定する。その結果、IGがオフになった場合(ステップS11:Yes)、ECU30は、ステップS12に進み、加圧ポンプ7の駆動を停止する。他方で、IGがオフになっていない場合(ステップS11:No)、ECU30は、ステップS3に戻り、上記したステップS3以降の処理を再度行う。
【0044】
(タイムチャート)
次に、図6を参照して、本発明の実施形態による制御を行った場合のタイムチャートについて説明する。図6は、上から順に、車速、パージ実行フラグのオン/オフ、蒸発燃料の濃度推定フラグのオン/オフ、加圧ポンプ7のポンプ駆動フラグのオン/オフ、加圧ポンプ7の回転数、圧力センサ11によって検出された圧力(圧力検出値)、パージ弁9の開閉状態、を示している。
【0045】
まず、時刻t30においてIGがオンになり、ECU30は、この直後の時刻t31において、加圧ポンプ7のポンプ駆動フラグをオフからオンに切り替えて、加圧ポンプ7の起動制御を開始する。そして、ECU30は、加圧ポンプ7を予回転させて待機させるべく、加圧ポンプ7を第2回転数N2で駆動する。この後、時刻t32において、蒸発燃料の濃度推定を実行する条件が成立するため、ECU30は、蒸発燃料の濃度推定フラグをオフからオンに切り替えて、蒸発燃料の濃度推定を行うべく、加圧ポンプ7を第2回転数N2から第3回転数N3まで上昇させ、こうして加圧ポンプ7を第3回転数N3で駆動しているときに圧力センサ11によって検出された圧力に基づき、蒸発燃料の濃度を推定する。そして、蒸発燃料の濃度が推定されると、時刻t33において、ECU30は、蒸発燃料の濃度推定フラグをオンからオフに切り替える。また、ECU30は、加圧ポンプ7を第3回転数N3から第2回転数N2まで低下させて、加圧ポンプ7を予回転させる。
【0046】
次いで、時刻t34において、車速が0から上昇することに起因して所定のパージ条件が成立するため、ECU30は、パージ実行フラグをオフからオンに切り替えて、パージ弁9を開弁すると共に、加圧ポンプ7を第2回転数N2から第1回転数N1まで上昇させて、蒸発燃料を吸気通路21にパージする。この後、時刻t35において、車速が0になること(典型的にはエンジンのアイドリングストップが実行される)に起因してパージ条件が不成立となる。この時刻t35において、ECU30は、パージ実行フラグをオンからオフに切り替えて、蒸発燃料のパージを停止すべく、パージ弁9を閉弁すると共に、加圧ポンプ7を予回転させるべく、加圧ポンプ7を第1回転数N1から第2回転数N2まで低下させる。この後、同様の手順にて、時刻t36から時刻t39までの間、蒸発燃料のパージの実行と停止とが適宜行われる。
【0047】
次いで、時刻t40において、蒸発燃料の濃度推定を実行する条件が成立する、詳しくは前回の濃度推定からの積算パージ量が所定量に達する。この時刻t40において、ECU30は、蒸発燃料の濃度推定フラグをオフからオンに切り替えて、蒸発燃料の濃度推定を行うべく、加圧ポンプ7を第2回転数N2から第3回転数N3まで上昇させ、こうして加圧ポンプ7を第3回転数N3で駆動しているときに圧力センサ11によって検出された圧力に基づき、蒸発燃料の濃度を推定する。そして、蒸発燃料の濃度が推定されると、時刻t41において、ECU30は、蒸発燃料の濃度推定フラグをオンからオフに切り替える。また、ECU30は、加圧ポンプ7を第3回転数N3から第2回転数N2まで低下させて、加圧ポンプ7を予回転させる。
【0048】
<作用効果>
次に、本発明の実施形態による蒸発燃料処理装置1の作用効果について説明する。
【0049】
本実施形態によれば、蒸発燃料処理装置1のECU30は、所定のパージ条件が成立したときに、加圧ポンプ7を第1回転数N1で駆動すると共にパージ弁9を開弁して、蒸発燃料を吸気通路21にパージする一方で、所定のパージ条件が成立していないときには、パージ弁9を閉弁しつつ、加圧ポンプ7を第1回転数N1よりも低い第2回転数N2で駆動して、加圧ポンプ7を予回転させる。これにより、蒸発燃料をパージしないときにおいて、消費電力の増大や加圧ポンプ7の作動音による騒音を抑制しつつ、パージ要求時における加圧ポンプ7の応答性を確保することができる、つまり加圧ポンプ7を速やかに第1回転数N1まで到達させることができる。
【0050】
また、本実施形態によれば、ECU30は、蒸発燃料の濃度を推定するときには、パージ弁9を閉弁しつつ、加圧ポンプ7を第2回転数N2よりも高い第3回転数N3で駆動して、加圧ポンプ7の予回転を制限する。これにより、加圧ポンプ7の回転数が高いほど、蒸発燃料の濃度に対する加圧ポンプ7の吐出圧の感度が高くなるという特性を利用して、加圧ポンプ7の吐出圧等から蒸発燃料の濃度を精度良く推定することができる。特に、本実施形態によれば、蒸発燃料の濃度を推定するときに、加圧ポンプ7を第1回転数N1よりも高い第3回転数N3で駆動するので、蒸発燃料の濃度推定の精度を大きく向上させることができる。
【0051】
また、本実施形態によれば、エンジンが始動してから蒸発燃料の濃度を推定するまでの間、及び、蒸発燃料の濃度を推定した後において蒸発燃料のパージが所定時間行われたときには、所定のパージ条件が成立していないときであっても、加圧ポンプ7を第3回転数N3で駆動して、加圧ポンプ7の予回転を制限する。これにより、パージ条件の不成立時においても、加圧ポンプ7の予回転を制限して第3回転数N3で適切に駆動することができ、蒸発燃料の濃度推定の機会を効果的に確保することができる。
【符号の説明】
【0052】
1 蒸発燃料処理装置
2 燃料タンク
3 パージ通路
5 キャニスタ
7 加圧ポンプ
9 パージ弁
11 圧力センサ
20 スロットルバルブ
21 吸気通路
28 燃料噴射弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6