(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンの温度が所定のフィードバック開始温度以上であるときに、エンジンの空燃比を目標空燃比に設定するための空燃比フィードバック制御を実行し、エンジンの温度が前記フィードバック開始温度未満であるときに、前記空燃比フィードバック制御を停止する空燃比フィードバック制御手段を更に有し、
前記パージ制御手段は、前記所定のパージ条件が成立していないときであっても、前記空燃比フィードバック制御手段によって前記空燃比フィードバック制御が停止されているときには、前記加圧ポンプの予回転を制限する、
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の蒸発燃料処理装置。
前記パージ制御手段は、エンジンの温度が前記フィードバック開始温度未満であり、前記空燃比フィードバック制御手段によって前記空燃比フィードバック制御が停止されている間に、エンジンの温度が上昇して前記フィードバック開始温度よりも低い予回転開始温度に達したときに、前記加圧ポンプの予回転を開始する、
請求項5に記載の蒸発燃料処理装置。
前記パージ制御手段は、エンジンの温度が前記予回転開始温度まで達したときに前記加圧ポンプの予回転を開始して、この後、エンジンの温度の上昇に応じて前記加圧ポンプの回転数を上昇させる、
請求項6に記載の蒸発燃料処理装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のような加圧ポンプを用いた場合、蒸発燃料のパージが実行されないときにも、蒸発燃料のパージが実行されるときと同様に加圧ポンプを駆動すると、消費電力の増加や、加圧ポンプの作動音による騒音が問題となる。これに対処すべく、蒸発燃料のパージが実行されないときには、蒸発燃料のパージが実行されるときよりも、加圧ポンプの回転数を低下させると良いと考えられる。
【0006】
ここで、蒸発燃料のパージが実行されない状況の1つとして、車両停車時にエンジンを自動停止させる場合、つまりアイドリングストップを実行する場合が考えられる。この場合には、エンジンへの燃料噴射やエンジンでの燃料の燃焼が停止されるため、蒸発燃料をパージさせるべきではない。これと似た状況として、アクセル開度がほぼ0となり車両が減速するときにも、エンジンへの燃料供給が停止されるため、つまりフューエルカット(以下では「減速F/C」又は単に「F/C」と表記する)が実行されるため、蒸発燃料のパージが実行されないことが考えられる。
【0007】
上記したように蒸発燃料のパージが実行されないときに加圧ポンプの回転数を低下させることを考えた場合、アイドリングストップ時と減速F/C時とで同じ回転数を適用するのは、以下のような理由から望ましくないと言える。まず、アイドリングストップ時に比較的大きな回転数を加圧ポンプに適用すると、アイドリングストップ時にはエンジンの暗騒音がないことから、加圧ポンプの作動音による騒音が問題となってしまう。他方で、減速F/C時に比較的小さな回転数を加圧ポンプに適用すると、F/Cの終了後に蒸発燃料のパージを実行するときに、パージ時に設定すべき回転数まで上昇させるのに時間がかかり、加圧ポンプの応答性を確保することができなくなる。特に、F/Cは短時間しか行われないので、F/C終了後における加圧ポンプの応答性を優先することが望ましい。
【0008】
以上述べたように、加圧ポンプを適用した蒸発燃料処理装置では、蒸発燃料のパージが実行されないときに、加圧ポンプの回転数をエンジンの運転状態に応じた回転数に設定するのが良いと考えられる。上記した特許文献1には、この点について何ら開示されていない。
【0009】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、パージ通路上に加圧ポンプを備える蒸発燃料処理装置において、蒸発燃料のパージが実行されないときに、加圧ポンプの回転数をエンジンの運転状態に応じた回転数に設定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、蒸発燃料処理装置であって、燃料タンクからエンジンの吸気通路に向けて延び、燃料タンク内の蒸発燃料を吸気通路に放出するためのパージ通路と、パージ通路上に設けられ、燃料タンクからの蒸発燃料を吸着して蓄積するキャニスタと、キャニスタの下流側のパージ通路上に設けられ、パージ通路内の気体を圧送する加圧ポンプと、加圧ポンプの下流側のパージ通路上に設けられ、パージ通路から吸気通路への気体の放出を制御するパージ弁と、蒸発燃料を吸気通路に放出するための所定のパージ条件が成立したときに、加圧ポンプを第1回転数で駆動すると共にパージ弁を開弁して、蒸発燃料を吸気通路に放出するパージ制御手段と、を有し、パージ制御手段は、所定のパージ条件が成立していないときには、パージ弁を閉弁しつつ、加圧ポンプを第1回転数よりも低い第2回転数で駆動して、加圧ポンプを予回転させ、加圧ポンプを予回転させるときに、第2回転数をエンジンの運転状態に応じた回転数に設定する、ことを特徴とする。
【0011】
このように構成された本発明によれば、蒸発燃料処理装置は、所定のパージ条件が成立したときに、加圧ポンプを第1回転数で駆動すると共にパージ弁を開弁して、蒸発燃料を吸気通路に放出(パージ)する一方で、所定のパージ条件が成立していないときには、パージ弁を閉弁しつつ、加圧ポンプを第1回転数よりも低い第2回転数で駆動して、加圧ポンプを予回転させる。これにより、パージ条件が成立していない間において消費電力の増大や加圧ポンプの作動音による騒音を抑制しつつ、パージ条件が成立したときにおける加圧ポンプの応答性を適切に確保することができる。つまり、パージ条件が不成立から成立へと切り替わったときに、加圧ポンプを速やかに第1回転数まで到達させることができる。
特に、本発明によれば、蒸発燃料処理装置は、加圧ポンプを予回転させるときに、第2回転数をエンジンの運転状態に応じた回転数に設定するので、加圧ポンプの作動音による騒音の抑制と、パージ条件が成立したときにおける加圧ポンプの応答性の確保とを、適切に両立させることが可能となる。
【0012】
本発明において、好ましくは、車両停車時にエンジンを自動停止させる自動停止手段を更に有し、パージ制御手段は、自動停止手段によってエンジンが自動停止されたときには、自動停止手段によってエンジンが自動停止されていないときよりも、第2回転数を小さくする。
このように構成された本発明によれば、エンジンが自動停止されたときには、エンジンが自動停止されていないとき(すなわちパージ条件が成立せず且つエンジンが自動停止されていないときで、例えば減速時に燃料供給が停止された場合)よりも、第2回転数を小さくする。これにより、車両停車時にエンジンが自動停止されたときに、加圧ポンプの作動音による騒音を効果的に抑制することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、エンジンへの燃料供給を停止する燃料供給停止手段を更に有し、パージ制御手段は、燃料供給停止手段によって減速時に燃料供給が停止されたときには、燃料供給停止手段によって減速時でないときに燃料供給が停止されたときよりも、第2回転数を大きくする。
このように構成された本発明によれば、減速時に燃料供給が停止されたときには、減速時でないときに燃料供給が停止されたとき(すなわちパージ条件が成立せず且つ減速時以外の状況で燃料供給が停止されたときで、例えばエンジンが自動停止された場合)よりも、第2回転数を大きくする。これにより、減速時においてエンジンへの燃料供給が停止されたときに、その後パージ条件が成立したときにおける加圧ポンプの応答性を効果的に確保することができる。
【0014】
本発明において、好ましくは、車両停車時にエンジンを自動停止させる自動停止手段と、エンジンへの燃料供給を停止する燃料供給停止手段と、を更に有し、パージ制御手段は、燃料供給停止手段によって減速時に燃料供給が停止されたときには、自動停止手段によってエンジンが自動停止されたときよりも、第2回転数を大きくする。
このように構成された本発明によれば、加圧ポンプの作動音による騒音の抑制と、パージ条件が成立したときにおける加圧ポンプの応答性の確保とを、高いレベルで両立させることが可能となる。
【0015】
本発明において、好ましくは、エンジンの温度が所定のフィードバック開始温度以上であるときに、エンジンの空燃比を目標空燃比に設定するための空燃比フィードバック制御を実行し、エンジンの温度がフィードバック開始温度未満であるときに、空燃比フィードバック制御を停止する空燃比フィードバック制御手段を更に有し、パージ制御手段は、所定のパージ条件が成立していないときであっても、空燃比フィードバック制御手段によって空燃比フィードバック制御が停止されているときには、加圧ポンプの予回転を制限する。
このように構成された本発明によれば、エンジンの温度がフィードバック開始温度未満であるときには空燃比フィードバック制御を停止するので、エンジンの始動時などにおいて、目標空燃比(例えば理論空燃比)に設定するための空燃比フィードバック制御を停止してリッチ燃焼させることができ、エンジンを安定して動作させることができると共に、空燃比センサを昇温して早期に活性化することができる。また、パージ条件が成立していないときであっても、上記のように空燃比フィードバック制御が停止されているときには、加圧ポンプの予回転を制限するので、エンジンの始動時における加圧ポンプの作動音による騒音を効果的に抑制することができる。
【0016】
本発明において、好ましくは、パージ制御手段は、エンジンの温度がフィードバック開始温度未満であり、空燃比フィードバック制御手段によって空燃比フィードバック制御が停止されている間に、エンジンの温度が上昇してフィードバック開始温度よりも低い予回転開始温度に達したときに、加圧ポンプの予回転を開始する。
このように構成された本発明によれば、エンジンの温度がフィードバック開始温度に達してパージ条件が成立したときに、加圧ポンプを速やかに第1回転数まで到達させて、蒸発燃料のパージを即座に実行できるようになる。
【0017】
本発明において、好ましくは、パージ制御手段は、エンジンの温度が予回転開始温度まで達したときに加圧ポンプの予回転を開始して、この後、エンジンの温度の上昇に応じて加圧ポンプの回転数を上昇させる。
このように構成された本発明によれば、パージ条件が成立したときに、加圧ポンプをより速やかに第1回転数まで到達させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、パージ通路上に加圧ポンプを備える蒸発燃料処理装置において、蒸発燃料のパージが実行されないときに、加圧ポンプの回転数をエンジンの運転状態に応じた適切な回転数に設定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による蒸発燃料処理装置について説明する。
【0021】
<装置構成>
まず、
図1及び
図2により、本発明の実施形態による蒸発燃料処理装置の構成について説明する。
図1は、本発明の実施形態による蒸発燃料処理装置が適用されたシステムの概略構成図であり、
図2は、本発明の実施形態による蒸発燃料処理装置の電気的構成を示すブロック図である。
【0022】
図1に示すように、蒸発燃料処理装置1は、エンジンに供給する燃料を貯蔵する燃料タンク2からエンジンの吸気通路21に向けて延びるパージ通路3を備える。このパージ通路3は、燃料タンク2内で発生した蒸発燃料(エバポガス)を、スロットルバルブ20の下流側の吸気通路21へとパージ(放出)できるようになっている。
【0023】
パージ通路3上には、上流側から順に、蒸発燃料を吸着する活性炭を内部に備え、蒸発燃料を蓄積するキャニスタ5と、パージ通路3内の気体を圧送する加圧ポンプ7と、開閉することにより、パージ通路3から吸気通路21への気体の放出を制御するパージ弁9と、が設けられている。また、加圧ポンプ7とパージ弁9との間のパージ通路3には、パージ通路3内の圧力を検出する圧力センサ11が設けられている。更に、キャニスタ5には、外部から空気が供給される大気開放口13aを備え、キャニスタ5に空気を供給する大気開放通路13が接続されている。この大気開放通路13上には、キャニスタ5への空気の供給を制御する大気開放弁15が設けられている。
【0024】
また、蒸発燃料処理装置1は、エンジンを含めて、当該蒸発燃料処理装置1全体を制御するECU(Electronic Control Unit)30を更に有する。
図2に示すように、ECU30は、上記した圧力センサ11によって検出された圧力と、エンジンの排気通路上に設けられた空燃比センサ23によって検出された空燃比と、水温センサ24によって検出されたエンジン水温と、外気温センサ25によって検出された外気温と、大気圧センサ26によって検出された大気圧と、を取得する。また、ECU30は、これらセンサによって検出された各種状態値に基づき、上記した加圧ポンプ7、パージ弁9及び大気開放弁15に加えて、エンジンの燃料噴射弁28に対する制御を行う。
【0025】
特に、ECU30は、機能的構成部として、パージ制御部30aと、自動停止部30bと、燃料供給停止部30cと、空燃比フィードバック制御30dと、を有する。パージ制御部30aは、加圧ポンプ7を駆動すると共にパージ弁9を開弁して、蒸発燃料を吸気通路にパージする制御を行う。自動停止部30bは、車両の停車時に、エンジンへの燃料供給や点火などを停止させて、エンジンを自動停止させるアイドリングストップを実行する。燃料供給停止部30cは、アクセル開度がほぼ0となり車両が減速するときに、エンジンへの燃料供給を停止する、つまり減速F/Cを実行する。空燃比フィードバック制御30dは、エンジンの温度(エンジン水温)が所定のフィードバック開始温度(例えば60℃)以上であるときに、エンジンの空燃比を目標空燃比に設定すべく、燃料噴射量や燃料噴射時期や点火時期などを調整する空燃比フィードバック制御を実行する一方で、エンジンの温度がフィードバック開始温度未満であるときに、この空燃比フィードバック制御を停止する。
【0026】
<制御内容>
次に、本発明の実施形態において、ECU30が行う制御内容について具体的に説明する。
【0027】
(基本制御)
最初に、
図3及び
図4を参照して、本実施形態においてECU30が行う制御内容の基本概念について説明する。
【0028】
図3は、本発明の実施形態において、蒸発燃料のパージを実行するときと蒸発燃料のパージを実行しないときとに適用する加圧ポンプ7の回転数を示すタイムチャートである。
図3の上には、蒸発燃料のパージを実行するためのパージ実行フラグのオン/オフを示し、
図3の下には、加圧ポンプ7の回転数を示している。
【0029】
パージ実行フラグは、所定の条件(パージ条件)が成立したときにオンにされる。このパージ条件は、例えば以下の条件を含むものであり、これらの条件が全て成立したときにパージ実行フラグがオンにされる。
−エンジン水温が所定温度(例えば60℃)以上であること、つまりエンジンが暖機していること。
−燃料噴射弁28の噴射量学習が終了していること(この噴射量学習は、空燃比センサ23によって検出された空燃比に基づき、目標空燃比を実現するように燃料噴射弁28の燃料噴射量がF/B制御されるものである)。
−IGオン後において蒸発燃料の濃度推定が終了していること(蒸発燃料の濃度推定を実行している最中でないことを更なる条件としてもよい)。
【0030】
典型的には、上記したパージ条件は、エンジン停止時や停車時(典型的にはエンジンのアイドリングストップ時)などに成立する。ここで、噴射量学習の終了をパージ条件の1つとしているのは、蒸発燃料のパージ中においても燃費やエミッションの観点から目標空燃比を確実に実現すべく、燃料噴射量の制御精度が確保されていることが望ましいからである。また、蒸発燃料の濃度推定の終了をパージ条件の1つとしているのは、パージしたときにエンジンに導入される燃料量(蒸発燃料の濃度に応じた量となる)を把握することで、この燃料量と燃料噴射弁28からの燃料噴射量とを合わせた燃焼により目標空燃比を確実に実現できるようにするためである。
【0031】
図3について具体的に説明すると、時刻t11以前においては、パージ実行フラグがオンになっているため、本実施形態では、ECU30は、蒸発燃料を吸気通路21にパージすべく、パージ弁9を開弁すると共に、加圧ポンプ7を第1回転数N1で駆動する(加圧ポンプ7の回転数を第1回転数N1に維持する)。このときに、ECU30は、圧力センサ11によって検出された圧力などに基づき目標パージ量を設定し、この目標パージ量に応じた開度にパージ弁9を制御する。また、ECU30は、蒸発燃料をパージしたときにも目標空燃比が適切に達成されるように、推定された蒸発燃料の濃度などを考慮して、空燃比センサ23によって検出された空燃比を参照しつつ燃料噴射弁28からの燃料噴射量を制御する。
【0032】
次いで、時刻t11において、パージ実行フラグがオンからオフに切り替わるため、本実施形態では、ECU30は、蒸発燃料のパージを中止すべく、パージ弁9を閉弁すると共に、加圧ポンプ7の回転数を第1回転数N1から第2回転数N2へと低下させる。そして、ECU30は、加圧ポンプ7の回転数を第2回転数N2に維持する。こうすることで、本実施形態では、パージ実行フラグがオフである間、加圧ポンプ7を予回転させておく。つまり、パージ実行フラグがオフからオンに切り替わるまで、加圧ポンプ7を待機させる。次いで、時刻t12において、パージ実行フラグがオフからオンに切り替わるため、ECU30は、蒸発燃料を吸気通路21にパージすべく、パージ弁9を開弁すると共に、加圧ポンプ7の回転数を第2回転数N2から第1回転数N1へと上昇させる。
【0033】
ここで、上記した第1回転数N1は、スロットルバルブ20が開いている状態においてパージ通路3から吸気通路21へと蒸発燃料を適切に導入できるような加圧ポンプ7の回転数が適用される。すなわち、第1回転数N1は、パージ通路3内の蒸発燃料を吸気通路21へと適切に引き込むことができるような、吸気通路21とパージ通路3との圧力差を生成可能な回転数が適用される。例えば、第1回転数N1は3万回転程度に設定される。他方で、上記した第2回転数N2には、好ましくは、パージ実行フラグがオフからオンに切り替わったときに、加圧ポンプ7を速やかに第1回転数N1へと上昇させることが可能で、且つ、加圧ポンプ7の作動音による騒音が問題とならないような加圧ポンプ7の回転数が適用される。
【0034】
次に、
図4を参照して、加圧ポンプ7の応答性について具体的に説明する。
図4は、加圧ポンプ7を第2回転数N2から上昇させたときと加圧ポンプ7をほぼ0から上昇させたときとの第1回転数N1に到達するまでの時間の違いを示すタイムチャートである。
【0035】
図4において、実線は、本実施形態において、加圧ポンプ7の回転数を第2回転数N2から第1回転数N1まで上昇させたときのグラフを示している。この本実施形態では、上述したように、蒸発燃料をパージしないときに(パージ実行フラグがオフ)、加圧ポンプ7の回転数を第2回転数N2で駆動し、加圧ポンプ7を予回転させるものである。一方、破線は、比較例において、加圧ポンプ7の回転数をほぼ0の状態(加圧ポンプ7の駆動が停止されている状態)から第1回転数N1まで上昇させたときのグラフを示している。この比較例では、蒸発燃料をパージしないときに、消費電力の増加や加圧ポンプ7の作動音による騒音を確実に抑制するために、加圧ポンプ7の駆動を停止するものである。なお、ここでは、ブラシレス式のモータを備える加圧ポンプ7を用いることを想定している。
【0036】
本実施形態において、時刻t21において加圧ポンプ7の回転数を第2回転数N2から上昇させると、時刻t22において加圧ポンプ7の回転数が第1回転数N1に到達する。これに対して、比較例において、時刻t21において加圧ポンプ7の回転数をほぼ0から上昇させると、時刻t22よりも後の時刻t23において加圧ポンプ7の回転数が第1回転数N1に到達する。この場合、ブラシレス式のモータを備える加圧ポンプ7では、回転数をほぼ0から上昇させ始めるときに、位置検出を行う必要があるため、回転数を直ぐに大きく上昇させることができない(矢印A1で示す期間参照)。そして、この位置検出後に、回転数を上昇させることとなる。このとき、加圧ポンプ7の回転数を第1回転数N1に速やかに到達させるように、回転数の変化速度を大きくすると(矢印A2参照)、加圧ポンプ7の駆動回路素子への過大な負荷や、高電圧対応等のコスト増加や、体格が大きくなるといった問題が発生する。
【0037】
以上のことから、本実施形態では、ECU30は、蒸発燃料をパージしないときに、加圧ポンプ7の駆動を停止するのではなく、パージ時の第1回転数N1よりも低い第2回転数N2で加圧ポンプ7を駆動することで、加圧ポンプ7を予回転させ、次のパージまで待機させておく。こうすることで、蒸発燃料をパージしないときにおいて、消費電力の増大や加圧ポンプ7の作動音による騒音を抑制しつつ、パージ要求時における加圧ポンプ7の応答性を確保することができるようにする、つまり加圧ポンプ7を速やかに第1回転数N1まで到達させることができるようにする。
【0038】
特に、本実施形態では、ECU30は、加圧ポンプ7を予回転させるときに、第2回転数N2をエンジンの運転状態に応じた回転数に設定する。具体的には、ECU30は、エンジンのアイドリングストップ時及び減速F/C時において、蒸発燃料をパージさせないようにし且つ加圧ポンプ7を予回転させることとし、そして、この予回転に適用する第2回転数N2をアイドリングストップ時と減速F/C時とで異ならせる。詳しくは、ECU30は、アイドリングストップ時には減速F/C時よりも第2回転数N2を小さくする、換言すると減速F/C時にはアイドリングストップ時よりも第2回転数N2を大きくする。以下では、説明の便宜上、アイドリングストップ時に適用する第2回転数N2を「第2回転数N21」と表記し、減速F/C時に適用する第2回転数N2を「第2回転数N22」と表記する。
【0039】
アイドリングストップ時には、エンジンの暗騒音がないことから、加圧ポンプ7の作動音による騒音の抑制を優先すべきであるので、ECU30は、比較的小さな第2回転数N21を適用する。これに対して、減速F/C時には、F/Cの終了後に蒸発燃料のパージを実行するときに加圧ポンプ7の応答性の確保を優先すべきであるので、ECU30は、比較的大きな第2回転数N22を適用する。例えば、第2回転数N21は1万回転程度に設定され、第2回転数N22は2万回転程度に設定される。
【0040】
更に、本実施形態では、ECU30は、前述したように、エンジン水温がフィードバック開始温度(例えば60℃)以上であるときに、エンジンの空燃比を目標空燃比に設定すべく、空燃比センサ23によって検出された空燃比に基づき、燃料噴射量や燃料噴射時期や点火時期などを調整する空燃比フィードバック制御を実行する。これに対して、ECU30は、エンジン水温がフィードバック開始温度未満であるときには、空燃比フィードバック制御を停止する。こうすることで、特にエンジンの始動時において、目標空燃比(例えば理論空燃比)に設定するための空燃比フィードバック制御を停止してリッチ燃焼させることで、エンジンを安定して動作させる共に、空燃比センサ23を昇温して早期に活性化させるようにする。
【0041】
そして、本実施形態では、ECU30は、パージ条件が成立していないときであっても、上記のように空燃比フィードバック制御が停止されているときには、加圧ポンプ7の予回転を制限するようにする。特に、ECU30は、エンジン水温がフィードバック開始温度未満であり、空燃比フィードバック制御が停止されている間に、エンジン水温が上昇してフィードバック開始温度よりも低い予回転開始温度(例えば55℃程度)に達したときに、加圧ポンプ7の予回転を開始する。こうするのは、エンジン水温がフィードバック開始温度に達したときにパージ条件が成立する傾向にあるので、エンジン水温がフィードバック開始温度に達する前のタイミングで加圧ポンプ7を予回転させておくことで、この後のパージ条件の成立時に加圧ポンプ7を速やかに第1回転数N1まで到達させて、蒸発燃料のパージを即座に実行できるようにしたものである。
【0042】
(フローチャート)
次に、
図5を参照して、本発明の実施形態による制御を示すフローチャートについて説明する。このフローは、ECU30によって繰り返し実行される。
【0043】
まず、ステップS1において、IG(イグニッション)がオンになると、ECU30は、ステップS2に進み、水温センサ24によって検出されたエンジン水温が予回転開始温度(例えば55℃)以上であるか否かを判定する。その結果、エンジン水温が予回転開始温度以上である場合(ステップS2:Yes)、ECU30は、ステップS3に進む一方で、エンジン水温が予回転開始温度未満である場合(ステップS2:No)、ECU30は、ステップS2に戻り判定を再度行う。
【0044】
次いで、ステップS3において、ECU30は、加圧ポンプ7の起動制御を開始する。例えば、加圧ポンプ7がブラシレス式のモータを備えるものであれば、ECU30は、加圧ポンプ7の起動制御として、当該モータの位置検出制御を最初に行う。そして、ステップS4において、ECU30は、加圧ポンプ7を予回転させて待機させるべく、加圧ポンプ7を第2回転数N21で駆動する。この場合、ECU30は、IGオン直後の始動時であるため、加圧ポンプ7を予回転させるときの回転数として、比較的小さな第2回転数N21を適用する。
【0045】
次いで、ステップS5において、ECU30は、所定のパージ条件が成立したか否かを判定する。このパージ条件は、上記の「基本制御」のセクションで述べた通りである。ステップS5の判定の結果、パージ条件が成立していない場合(ステップS5:No)、ECU30は、ステップS4に戻り、加圧ポンプ7を予回転させて待機させるべく、加圧ポンプ7を第2回転数N21で駆動する。この場合にも、ECU30は、加圧ポンプ7を予回転させるときの回転数として、比較的小さな第2回転数N21を適用する。
【0046】
他方で、パージ条件が成立した場合(ステップS5:Yes)、ECU30は、ステップS6に進み、蒸発燃料のパージを実行するために、加圧ポンプ7を第1回転数N1で駆動する。そして、ステップS7において、ECU30は、圧力センサ11によって検出された圧力を取得する。この場合、ECU30は、加圧ポンプ7の動作によって、加圧ポンプ7下流側のパージ通路3内の圧力が所望の圧力になったかを確認する。次いで、ステップS8において、ECU30は、圧力センサ11によって検出された圧力などに基づき目標パージ量を設定し、この目標パージ量に応じた開度にパージ弁9を制御する。また、ECU30は、蒸発燃料をパージしたときにも目標空燃比が適切に達成されるように、蒸発燃料の濃度(事前に推定される)などを考慮して、空燃比センサ23によって検出された空燃比を参照しつつ燃料噴射弁28からの燃料噴射量を制御する。
【0047】
次いで、ステップS9において、ECU30は、アクセル開度がほぼ0となり、エンジンへの燃料供給を停止する減速F/Cが実行されたか否かを判定する。その結果、減速F/Cが実行されていない場合(ステップS9:No)、ECU30は、ステップS5に戻り、このステップS5の判定(パージ条件の判定)を再度行う。
【0048】
他方で、減速F/Cが実行された場合(ステップS9:Yes)、ECU30は、ステップS10に進み、加圧ポンプ7を予回転させて待機させるべく、加圧ポンプ7を第2回転数N22で駆動する。この場合には、ECU30は、加圧ポンプ7を予回転させるときの回転数として、減速F/C用の比較的大きな第2回転数N21を適用する。
【0049】
次いで、ステップS11において、ECU30は、エンジンのアイドリングストップが実行されたか否かを判定する。その結果、アイドリングストップが実行された場合(ステップS11:Yes)、ECU30は、ステップS12に進み、IGがオフになったか否かを更に判定する。IGがオフになった場合(ステップS12:Yes)、ECU30は、ステップS13に進み、加圧ポンプ7の駆動を停止する。他方で、IGがオフになっていない場合(ステップS12:No)、ECU30は、ステップS4に戻り、上記したステップS4以降の処理を再度行う。
【0050】
他方で、アイドリングストップが実行されていない場合(ステップS11:No)、ECU30は、ステップS14に進み、減速F/Cが解除されたか否かを判定する。例えば、ECU30は、アクセルペダルが踏み込まれた場合(つまりアクセル開度が0よりも大きくなった場合)、減速F/Cが解除されたと判定する。こうして減速F/Cが解除された場合(ステップS14:Yes)、ECU30は、ステップS5に戻り、このステップS5の判定(パージ条件の判定)を再度行う。これに対して、減速F/Cが解除されていない場合(ステップS14:No)、ECU30は、ステップS10に戻り、加圧ポンプ7を減速F/C用の第2回転数N22にて継続して駆動する。
【0051】
(タイムチャート)
次に、
図6を参照して、本発明の実施形態による制御を行った場合のタイムチャートについて説明する。
図6は、上から順に、車速、パージ実行フラグのオン/オフ、減速F/Cの指示を示すF/Cフラグのオン/オフ、アイドリングストップの指示を示すアイドリングストップフラグ、加圧ポンプ7のポンプ駆動フラグのオン/オフ、加圧ポンプ7の回転数、圧力センサ11によって検出された圧力(圧力検出値)、パージ弁9の開閉状態、を示している。
【0052】
まず、時刻t30においてIGがオンになり、ECU30は、この直後の時刻t31において、加圧ポンプ7のポンプ駆動フラグをオフからオンに切り替える。この後、エンジン水温が予回転開始温度以上になる時刻t32において、ECU30は、加圧ポンプ7の起動制御を開始する。そして、ECU30は、加圧ポンプ7を予回転させて待機させるべく、加圧ポンプ7を比較的小さな第2回転数N21で駆動する。
【0053】
次いで、時刻t33において、車速が0から上昇することに起因して所定のパージ条件が成立するため、ECU30は、パージ実行フラグをオフからオンに切り替えて、パージ弁9を開弁すると共に、加圧ポンプ7を第2回転数N21から第1回転数N1まで上昇させて、蒸発燃料を吸気通路21にパージする。この後、時刻t34において、アクセル開度がほぼ0となり車両が減速することに起因して、ECU30は、パージ実行フラグをオンからオフに切り替えると共に、減速F/Cを行うためにF/Cフラグをオフからオンに切り替える。このときに、ECU30は、蒸発燃料のパージを停止すべく、パージ弁9を閉弁すると共に、加圧ポンプ7を予回転させるべく、加圧ポンプ7を第1回転数N1から減速F/C用の第2回転数N22まで低下させる。
【0054】
次いで、時刻t35において、アクセル開度が0から上昇して車両が加速することに起因して、ECU30は、パージ実行フラグをオフからオンに切り替えると共に、減速F/Cを解除するためにF/Cフラグをオンからオフに切り替える。このときに、ECU30は、パージ弁9を開弁すると共に、加圧ポンプ7を第2回転数N22から第1回転数N1まで上昇させて、蒸発燃料を吸気通路21にパージする。そして、時刻t36において、アクセル開度がほぼ0となり車両が減速することに起因して、ECU30は、パージ実行フラグをオンからオフに切り替えると共に、減速F/Cを行うためにF/Cフラグをオフからオンに切り替える。このときに、ECU30は、蒸発燃料のパージを停止すべく、パージ弁9を閉弁すると共に、加圧ポンプ7を予回転させるべく、加圧ポンプ7を第1回転数N1から減速F/C用の第2回転数N22まで低下させる。
【0055】
次いで、時刻t37において、車速が0となり車両が停車することに起因して、ECU30は、減速F/Cを解除するためにF/Cフラグをオンからオフに切り替えると共に、アイドリングストップを行うためにアイドリングストップフラグをオフからオンに切り替える。このときに、ECU30は、加圧ポンプ7の回転数を、減速F/C用の第2回転数N22からアイドリングストップ用の第2回転数N21まで低下させて、加圧ポンプ7を予回転させる。
【0056】
(変形例)
上記した実施形態では、ECU30は、エンジン水温がフィードバック開始温度(例えば60℃)未満であり、空燃比フィードバック制御が停止されている間に、エンジン水温が上昇してフィードバック開始温度よりも低い予回転開始温度(例えば55℃)に達したときに、加圧ポンプ7の予回転を開始していた。他の例では、このように加圧ポンプ7の予回転を開始した後に、エンジン水温の上昇に応じて加圧ポンプ7の回転数を徐々に上昇させてもよい。この制御内容について、
図7を参照して説明する。
【0057】
図7は、本発明の実施形態の変形例によるエンジン水温に応じた加圧ポンプ7の制御についての説明図である。
図7は、横軸にエンジン水温を示し、縦軸に加圧ポンプ7の回転数を示している。
図7に示すように、ECU30は、エンジン水温が予回転開始温度Tm1未満では、加圧ポンプ7の回転数をほぼ0とする、つまり加圧ポンプ7の駆動を停止する。そして、ECU30は、エンジン水温が予回転開始温度Tm1になると、加圧ポンプ7の回転数を第2回転数N21に設定する。更に、ECU30は、エンジン水温が予回転開始温度Tm1以上になると、エンジン水温が上昇してフィードバック開始温度Tm2に達するまでの間、エンジン水温が高くなるほど、加圧ポンプ7の回転数が大きくなるようにする。こうすることで、エンジン水温がフィードバック開始温度に達してパージ条件が成立したときに、加圧ポンプ7をより速やかに第1回転数N1まで到達させることができるようになる。
【0058】
<作用効果>
次に、本発明の実施形態による蒸発燃料処理装置1の作用効果について説明する。
【0059】
本実施形態では、蒸発燃料処理装置1のECU30は、所定のパージ条件が成立したときに、加圧ポンプ7を第1回転数N1で駆動すると共にパージ弁9を開弁して、蒸発燃料を吸気通路21にパージする一方で、所定のパージ条件が成立していないときには、パージ弁9を閉弁しつつ、加圧ポンプ7を第1回転数N1よりも低い第2回転数N2で駆動して、加圧ポンプ7を予回転させる。これにより、蒸発燃料をパージしないときにおいて、消費電力の増大や加圧ポンプ7の作動音による騒音を抑制しつつ、パージ要求時における加圧ポンプ7の応答性を確保することができる、つまり加圧ポンプ7を速やかに第1回転数N1まで到達させることができる。
【0060】
特に、本実施形態では、ECU30は、加圧ポンプ7を予回転させるときに、第2回転数N2をエンジンの運転状態に応じた回転数に設定する。具体的には、ECU30は、アイドリングストップ時に適用する第2回転数N21を減速F/C時に適用する第2回転数N22よりも小さくする、換言すると減速F/C時に適用する第2回転数N22をアイドリングストップ時に適用する第2回転数N21よりも大きくする。これにより、アイドリングストップ時には、加圧ポンプ7の作動音による騒音を効果的に抑制することができ、また、減速F/C時には、F/C終了後のパージ時における加圧ポンプ7の応答性を効果的に確保することができる。
【0061】
また、本実施形態では、ECU30は、エンジン水温がフィードバック開始温度以上であるときに空燃比フィードバック制御を実行する一方で、エンジン水温がフィードバック開始温度未満であるときには空燃比フィードバック制御を停止する。これにより、エンジンの始動時などにおいて、目標空燃比(例えば理論空燃比)に設定するための空燃比フィードバック制御を停止してリッチ燃焼させることができ、エンジンを安定して動作させることができると共に、空燃比センサ23を昇温して早期に活性化することができる。
加えて、本実施形態では、ECU30は、パージ条件が成立していないときであっても、上記のように空燃比フィードバック制御が停止されているときには、加圧ポンプ7の予回転を制限するようにする。特に、ECU30は、エンジン水温がフィードバック開始温度未満であり、空燃比フィードバック制御が停止されている間に、エンジン水温が上昇してフィードバック開始温度よりも低い予回転開始温度に達したときに、加圧ポンプ7の予回転を開始する。これにより、エンジン水温がフィードバック開始温度に達してパージ条件が成立したときに、加圧ポンプ7を速やかに第1回転数N1まで到達させて、蒸発燃料のパージを即座に実行できるようになる。